説明

乾燥装置、膜の乾燥方法及び溶液製膜方法

【課題】面状に優れたフィルムを効率よく製造する。
【解決手段】ケーシングには流延バンド26が設けられる。流延バンド26はX方向に循環移動する。ケーシング内は、シール部材により、流延室、乾燥室及び剥取室に仕切られる。乾燥室には、第1乾燥ユニット51と第2乾燥ユニット52とがX方向上流側から下流側に向かって順次設けられる。第1乾燥ユニット51は、流延バンド26上の流延膜43に向けて第1乾燥風61をあてる。第2乾燥ユニット52は、流延膜43に向けて第2乾燥風75をあてる。第1乾燥ユニット51における第1乾燥風61の動圧が第2乾燥ユニット52における第2乾燥風75の動圧よりも小さくなるように、第1乾燥風61及び第2乾燥風75の風速を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥装置、膜の乾燥方法及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有するポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である光学フィルム(例えば、位相差フィルムや偏光板保護フィルム等)に用いられている。
【0003】
このようなフィルムは、溶液製膜方法により製造される。溶液製膜方法の概要は次の通りである。第1に、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、移動支持体上に流延膜を形成する。第2に、流延膜が自立して搬送可能な状態となるまで、流延膜から溶剤を蒸発させる。第3に、流延膜を移動支持体から剥がして湿潤フィルムとする。その後、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させることにより、湿潤フィルムからフィルムを得ることができる。
【0004】
溶液製膜方法において生産効率の向上を図るためには、流延膜における溶剤の蒸発を効率よく行うことが必要となる。このためには、流延膜に対して垂直の乾燥風をあてること(以下、本乾燥処理と称する)が必要となる。しかしながら、形成直後の流延膜に対して、垂直の乾燥風を当ててしまうと、流延膜の表面にシワが生じてしまう。このようなシワが生じた流延膜をそのまま支持体から剥ぎ取っても、最終的に得られるフィルムにはシワが残ってしまう。
【0005】
そこで、シワの生成を防止しながら流延膜を効率よく乾燥する方法が、提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の乾燥方法では、形成直後の流延膜に対しては、流延膜の表面を覆うように乾燥ダクトを設け、乾燥ダクトと流延膜との隙間に向けて、流延膜に対して追い風となるプレ乾燥風を送る(以下、プレ乾燥処理と称する)。このプレ乾燥処理を一定時間行うことにより、表面が平滑な乾燥層を流延膜の表面側に形成することができる。そして、プレ乾燥処理及び本乾燥処理を順次行うことにより、表面が平滑なフィルムを効率よく製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−290375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の乾燥方法において、更なる生産効率の向上を図るためには、移動支持体の移動速度を増大しなければならない。しかしながら、移動支持体の移動速度の増大を行えば、乾燥層の生成時間を確保するために、プレ乾燥処理が行われるゾーン(以下、プレ乾燥ゾーン)の長さを増大しなければならない。そこで、移動支持体の移動速度の増大と供にプレ乾燥風の風速を増大させることにより、乾燥層の生成時間の確保及びプレ乾燥ゾーンの長大化の回避を両立することができる。
【0008】
ところが、プレ乾燥風の風速を増大させた場合、流延膜を支持体からの剥ぎ取ろうとする際、一部の流延膜が支持体に残ってしまう、或いは、剥ぎ取った流延膜がちぎれてしまうなどの故障が発生した。
【0009】
発明者の鋭意検討の結果、上記の問題は、本乾燥処理における乾燥効率の低下に起因することを突き止めた。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するものであり、流延膜の表面を平滑にしながら流延膜を効率よく乾燥する乾燥装置及び膜の乾燥方法、並びに、表面が平滑なフィルムを効率よく製造することができる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1の乾燥装置は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、前記膜の表面への前記第2乾燥風の衝突が保たれるように、前記第1乾燥風の風速V1及び前記第2乾燥風の風速V2の少なくともいずれか一方を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0012】
V1/V2の値が0.6以下であることが好ましい。また、前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1乾燥風を排気する第1排気手段を有することが好ましい。
【0013】
本発明に係る第2の乾燥装置は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1乾燥風を排気する第1排気手段とを有することを特徴とする。
【0014】
前記第1吸気口から前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風板を備えることが好ましい。
【0015】
本発明に係る第3の乾燥装置は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1吸気口から前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風板とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る第1の膜の乾燥方法は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、前記膜の表面への前記第2乾燥風の衝突が保たれるように、前記第1乾燥風の風速V1及び前記第2乾燥風の風速V2の少なくともいずれか一方を制御する制御工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る第2の膜の乾燥方法は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、前記第1乾燥工程及び前記第2乾燥工程の間に行われ、前記第1乾燥風を排気する第1排気工程とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る第3の膜の乾燥方法は、移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、前記第1乾燥工程及び前記第2乾燥工程の間に行われ、前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の溶液製膜方法は、上記の膜の乾燥方法によって得られた前記膜を前記移動支持体から剥ぎ取ってフィルムとする剥取工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流延膜に向けて第2乾燥風を送り出す第2給気口と流延膜との間に第1乾燥風が流入することを防ぐことができるため、流延膜を効率よく乾燥することができる。従って、本発明によれば、流延膜の乾燥不足に起因する故障を防ぎつつ、表面が平滑なフィルムを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】流延装置の概要を示す説明図である。
【図3】第1乾燥ユニット及び第2乾燥ユニットの概要を示す斜視図である。
【図4】第1乾燥ユニット及び第2乾燥ユニットの概要を示す説明図である。
【図5】第1乾燥ユニットの概要を示すV−V線断面図である。
【図6】第1乾燥ユニットの概要を示すVI−VI線断面図である。
【図7】第2給気ダクト及び第2給気ノズルの概要を示す斜視図である。
【図8】第2乾燥ユニットの概要を示す側面図である。
【図9】形成直後の流延膜の概要を示す断面図である。
【図10】乾燥層を有するものとなった流延膜の概要を示す断面図である。
【図11】第1乾燥風により第2乾燥風が押し出される様子を示す模式的に示した説明図である。
【図12】第1乾燥ユニット及び第2乾燥ユニットの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(溶液製膜設備)
本発明に係る第1実施形態について説明する。図1に示すように、溶液製膜設備10は、ドープ12から湿潤フィルム13をつくる流延装置15と、湿潤フィルム13の乾燥によりフィルム16を得るクリップテンタ17と、湿潤フィルム13の乾燥を行う乾燥装置18と、フィルム16を巻き芯に巻き取る巻取装置19とを有する。
【0023】
(流延装置)
図1及び図2に示すように、流延装置15は、ケーシング23と、ケーシング23内に略水平に並べられた水平ロール24、25とを有する。水平ロール24は、駆動軸24aと、駆動軸24aに軸着されたロール本体24bとからなる。水平ロール25は、軸25aと、軸25aに軸着されたロール本体25bとからなる。水平ロール24、25には環状の流延バンド26が巻きかけられる。流延バンド26は、帯状のシート材の両端を連結することにより得られる。
【0024】
駆動軸24aは、ロール駆動用モータ(図示しない)と接続する。制御部(図示しない)は、ロール駆動用モータを制御して、水平ロール24を所定の速度で回転させる。流延バンド26は、水平ロール24の回転に伴い所定の方向へ循環移動し、水平ロール25は、流延バンド26の移動に従って回転する。以下、流延バンド26の移動方向をX方向と称し、流延バンド26の幅方向をY方向と、垂直方向をZ方向と称する。
【0025】
流延バンド26の表面(以下、流延面と称する)26aの移動速度V26aは以上200m/分以下であることが好ましい。移動速度V26aが200m/分を超えると、ビードを安定して形成することが困難となる。移動速度V26aの下限値は、目標とするフィルムの生産性を考慮すればよい。移動速度V26aの下限値は、例えば、10m/分以上である。
【0026】
流延バンド26は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。流延バンド26の幅は、例えば、ドープ12の流延幅の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。流延バンド26の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、流延バンド26の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、流延バンド26の厚みムラは、全体の厚みに対して0.5%以下のものを用いることが好ましい。流延面26aは、研磨されていることが好ましく、流延面26aの表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。
【0027】
また、流延バンド26の流延面26aの温度を所定の値にするために、水平ロール24、25に温調装置(図示しない)が取り付けられていることが好ましい。流延バンド26の表面温度が10℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。温調装置は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、ロール本体24b、25b内に設けられる流路中で循環させる。この伝熱媒体の循環により、ロール本体24b、25bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0028】
また、ケーシング23内には、X方向上流側から下流側に向かって、第1〜第3シール部材31〜33が順次配される。第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内は、X方向上流側から下流側に向かって、流延室23a、乾燥室23b、及び剥取室23cに仕切られる。そして、流延室23aの気密性は、第1〜第2シール部材31〜32により維持される。また、乾燥室23bの気密性は、第2〜第3シール部材32〜33により維持される。
【0029】
第1シール部材31は、ケーシング23に取り付けられた遮風板31aと、遮風板31aに取り付けられたラビリンスシール31bとからなる。遮風板31aは、ケーシング23内の気体の流れを遮る遮風面を有する。遮風面は、X方向と直交するものでもよいし、X方向と斜めに交差するものでもよい。遮風板31aは、ケーシング23の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。なお、天井から突出するように遮風板31aを設けても良い。
【0030】
ラビリンスシール31bは、流延面26aと近接するように、遮風板31aの先端に設けられる。ラビリンスシール31bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。ラビリンスシール31bと流延面26aとの間隔は、例えば、1.5mm以上2.0mm以下である。
【0031】
第2シール部材32は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板32aと、遮風板32aに取り付けられたラビリンスシール32bとからなる。遮風板32aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の天井から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール31bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板32aの先端に設けられる。ラビリンスシール32bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。ラビリンスシール32bと流延面26aとの間隔は、例えば、1.0mm以上1.5mm以下である。
【0032】
第3シール部材33は、ケーシング23に取り付けられた遮風板33aと、遮風板33aに取り付けられたラビリンスシール33bとからなる。遮風板33aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール33bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板33aの先端に設けられる。ラビリンスシール33bと流延面26aとの間隔は、例えば、1.5mm以上2.0mm以下である。
【0033】
(流延室)
流延室23aには、流延ダイ40と減圧ユニット41とが設けられる。流延ダイ40は、ドープ12を流出するドープ流出口40aを有し、ドープ流出口40aが流延バンド26と近接するように、水平ロール24の上方に配される。
【0034】
流延ダイ40は、ドープ流出口40aから流延バンド26に向けてドープ12を流出する。ドープ流出口40aから流出し流延面26aに到達するまでのドープ12は、ビードを形成する。流延面26aに到達したドープ12は、X方向にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜43を形成する。
【0035】
減圧ユニット41は、ビードのX方向の上流側を減圧するためのものであり、流延ダイ40のドープ流出口40aよりもX方向の上流側に配置される減圧チャンバ41aと、減圧チャンバ41a内の気体を吸引するための減圧ファン41bと、減圧ファン41b及び減圧チャンバ41aとを接続する吸引管41cとを有する。
【0036】
(乾燥室)
乾燥室23bには、流延膜43に所定の乾燥風を供給する第1乾燥ユニット51〜第3乾燥ユニット53が、X方向上流側から下流側に向かって、順次設けられる。第1乾燥ユニット51及び第2乾燥ユニット52は、水平ローラ24,25に掛け渡された流延バンド26の上方に配される。第3乾燥ユニット53は、水平ローラ24,25に掛け渡された流延バンド26の下方に配される。
【0037】
(第1乾燥ユニット)
図3及び図4に示すように、第1乾燥ユニット51は、第1給気ダクト57と、カバー58と、第1排気ダクト59と、第1給気ノズル60とからなる。第1給気ダクト57と、カバー58と、第1排気ダクト59とは、X方向上流側から下流側に向けて順次設けられる。第1給気ノズル60は第1給気ダクト57に設けられる。
【0038】
(第1給気ダクト)
図4及び図5に示すように、第1給気ダクト57は、第1乾燥風61を流通させるものであり、X方向においては第2シール部材32に近接し、Z方向においては流延膜43から離隔して配される。第1給気ノズル60は、第1給気ダクト57の下面57aに設けられ、第1乾燥風61が送り出される第1給気口60aを備える。第1給気ノズル60は、第1乾燥風61の送り方向に向かってX方向下流側に向かって延びる。第1給気ダクト57の下面57aに開口する第1給気口60aは、流延膜43の一の端から他の端まで延設される。
【0039】
(第1排気ダクト)
第1排気ダクト59は、第1乾燥風61を流通させるものであり、Z方向においては流延膜43から離隔して配される。第1排気ダクト59の下面には、第1乾燥風61を排気する第1排気口59aが、流延膜43と正対するように開口する。第1排気口59aは、流延膜43の一の端から他の端まで延設される。
【0040】
(カバー)
カバー58は、第1給気口60aから送り出された第1乾燥風61を第1排気口59aへ案内するものであり、Z方向においては流延膜43から離れた状態で、流延膜43を覆う。カバー58は、板状に形成され、X方向においては第1給気ダクト57から第1排気ダクト59まで、Y方向においては流延膜43の一の端から他の端まで延設される。カバー58の下面には、流延膜43と略平行となるガイド面58aを有する。ガイド面58aは、第1給気ダクト57の下面57aと第1排気ダクト59の下面と面一であることが好ましい。
【0041】
図4及び図6に示すように、Y方向に並べられたサイド遮風板65は、第1給気ダクト57から第1排気ダクト59にかけて延びる。サイド遮風板65は、下面57aやガイド面58aから流延膜43に向けて延びる。サイド遮風板65のY方向内側の面65bは、第1給気ノズル60の内面60bと面一であることが好ましい。第1給気口60aから第1排気口59aにかけて、ガイド面58a及び下面57aと流延膜43とサイド遮風板65とにより囲まれる部分には、第1給気口60aから送り出された第1乾燥風61の第1乾燥風路66が形成される。Z方向における第1乾燥風路66の幅は、流延膜34の幅W34に応じて決定すればよく、例えば、(W34−60)mm以上(W34−20)mm以下であることが好ましい。X方向における第1乾燥風路66の長さは、製造条件(流延バンド26の流延面26aの移動速度V26a等)に応じて決定すればよく、例えば、2000mm以上3000mm以下であることが好ましい。
【0042】
(第2乾燥ユニット)
図2に示すように、複数の第2乾燥ユニット52はX方向に並べられる。図3に示すように、第2乾燥ユニット52は、第2給気ダクト71と、第2排気ダクト72と、第2給気ノズル73とからなる。図4及び図7に示すように、第2給気ダクト71は、第2乾燥風75を流通させるものであり、流延膜43から離隔して配される。第2給気ダクト71に設けられた第2給気ノズル73は、第2給気ダクト71の下面から、流延膜43に向かって略垂直に延びる。図4及び図8に示すように、流延膜43に近接する第2給気ノズル73の先端には、第2乾燥風75が送り出される第2給気口73aが設けられる。第2給気口73aと流延膜43との間隔は、例えば、100mm以上200mm以下であることが好ましい。第2給気口73aは、流延膜43の一の端から他の端まで延設される。
【0043】
第2排気ダクト72は、第2乾燥風75を排気する第2排気口72aを有し、第2給気ノズル73よりもX方向下流側に配される。第2排気口72aは、第2給気口73aよりも上方にて、第2給気口73aのY方向両外側に配される。第2給気口73aと第2排気口72aとはX方向にて交互に配されることが好ましい。
【0044】
(第3乾燥ユニット)
図2に示すように、第3乾燥ユニット53は、X方向上流側から下流側に向かって順次設けられる、第3排気ダクト81と第3給気ダクト82とからなる。第3排気ダクト81及び第3給気ダクト82は、それぞれ流延バンド26から離隔して配される。第3排気ダクト81には、第3乾燥風84を排気する第3排気口81aが設けられる。X方向下流側に向かって開口する第3排気口81aは、流延膜43の一の端から他の端まで延設される。第3給気ダクト82には、第3乾燥風84が送り出される第3給気口82aが設けられる。X方向上流側に向かって開口する第3給気口82aは、流延膜43の一の端から他の端まで延設される。
【0045】
第1乾燥ユニット51〜第3乾燥ユニット53には、それぞれ、第1〜第3送風ファン(図示しない)及び第1〜第3温調機(図示しない)が設けられる。制御部85は、第1〜第3送風ファン及び第1〜第3温調機と接続する。制御部85は、第1乾燥風61、第2乾燥風75及び第3乾燥風84についての温度や風速を独立して調節する。
【0046】
(剥取室)
剥取室23cには、剥取ローラ86が設けられる。剥取ローラ86は、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43を流延バンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とし、剥取室23cに設けられた出口23oから湿潤フィルム13を送り出す。
【0047】
ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を、流延装置15に設けてもよい。これにより、ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つことができる。
【0048】
図1に戻って、流延装置15とクリップテンタ17との間の渡り部には、湿潤フィルム35を支持する支持ローラ87が複数並べられている。支持ローラ87は、図示しないモータにより、軸を中心に回転する。支持ローラ87は、流延装置15から送り出された湿潤フィルム35を支持して、クリップテンタ17へ案内する。なお、図1では、渡り部に2つの支持ローラ87を並べた場合を示しているが、本発明はこれに限られず、渡り部に1つ、または3つ以上の支持ローラ87を並べてもよい。また、支持ローラ87は、フリーローラでもよい。
【0049】
クリップテンタ17は、湿潤フィルム13の幅方向両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を移動する。クリップにより把持された湿潤フィルム13に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム13には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0050】
クリップテンタ17と乾燥装置18との間には耳切装置88が設けられている。耳切装置88に送り出されたフィルム16の幅方向の両端は、クリップによって形成された把持跡が形成されている。耳切装置88は、この把持跡を有する両端部分を切り離す。この切り離された部分は、送風によりカットブロワ(図示しない)及びクラッシャ(図示しない)へ順次に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0051】
乾燥装置18は、フィルム16の搬送路を備えるケーシングと、フィルム16の搬送路を形成する複数のローラ18aと、ケーシング内の雰囲気の温度や湿度を調節する空調機(図示しない)とからなる。ケーシング内に導入されたフィルム16は、複数のローラ18aに巻き掛けられながら搬送される。この雰囲気の温度や湿度の調節により、ケーシング内を搬送されるフィルム16から残留した溶剤が蒸発する。更に、乾燥装置18に、フィルム16から蒸発した溶剤を吸着により回収する吸着回収装置が接続される。
【0052】
乾燥装置18及び巻取装置19の間には、上流側から順に、冷却室89、除電バー(図示しない)、ナーリング付与ローラ90、及び耳切装置(図示しない)が設けられる。冷却室89は、フィルム16の温度が略室温となるまで、フィルム16を冷却する。除電バーは、冷却室89から送り出され、帯電したフィルム16から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ90は、フィルム16の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置は、切断後のフィルム16の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム16の幅方向両端を切断する。
【0053】
巻取装置19は、プレスローラ19aと巻き芯19bを有する。巻取装置19に送られたフィルム16は、プレスローラ19aによって押し付けられながら巻き芯19bに巻き取られ、ロール状となる。
【0054】
次に、本発明の作用を説明する。図2に示すように、第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内には、気密性を有する各室23a〜23bが形成される。流延バンド26は、各室23a〜23cを順次通過する。
【0055】
(流延工程)
流延室23aでは、流延バンド26上にドープ12からなる流延膜43を形成する流延工程が行われる。流延ダイ40は、ドープ流出口40aからドープ12を連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビードを形成し、流延バンド26上にて流れ延ばされる。こうして、流延バンド26上には、ドープ12からなる流延膜43が形成される(図9参照)。
【0056】
図2に戻って、減圧ユニット41は、ビードのX方向上流側の圧力がビードのX方向下流側の圧力よりも低い状態をつくることができる。ビードのX方向上流側及びX方向下流側の圧力差ΔPは、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0057】
(乾燥工程)
乾燥室23bでは、所定の乾燥風を流延膜43にあてて、流延膜43から溶剤を蒸発させる乾燥工程が行われる。乾燥工程は、流延膜43は、自立して搬送可能な状態となるまで行われる。乾燥工程では、第1乾燥工程、第2乾燥工程、第3乾燥工程が順次行われる。
【0058】
(第1乾燥工程)
第1乾燥工程では、流延膜43の表層に乾燥層43a(図10参照)が形成するまで、流延膜43から溶剤を蒸発させる。図5に示すように、第1乾燥ユニット51は、第1乾燥風61を第1吸気口60aから送り出す。第1吸気口60aから送り出された第1乾燥風61の方向とZ1方向とがなす各の角度θ1は、30°以上60°以下であることが好ましく、45°であることがより好ましい。カバー58により、第1吸気口60aから送り出された第1乾燥風61は第1排気口59aへ案内される。そして、第1乾燥風61は、第1排気口59aから排気される。
【0059】
流延膜43に近接するカバー58により、流延膜43の表面近傍の風速を高くすることができ、流延膜43の表面からの溶剤の蒸発が促進される。また、ガイド面58aは第1乾燥風61を整流し、これにより流延膜43の乾燥斑を抑える効果がある。この第1乾燥工程により、流延膜43は、乾燥層43aと湿潤層43bとを有するものとなる(図10参照)。乾燥層43aは、流延膜43の表面側に生成され、乾燥層43aよりも流延バンド26側に位置する湿潤層43bに比べて乾燥が進んだ部分である。したがって、乾燥層43aの溶剤の含有量は湿潤層43bに比べて低い。また、乾燥層43aの表面は平滑に形成される。乾燥層43aを有するものとなった流延膜43について所定の乾燥工程を行った場合には、乾燥層43aの表面が、得られた流延膜43の表面となる。したがって、形成直後の流延膜43において乾燥層43aを形成することにより、表面が平滑な流延膜43を得ることができる。
【0060】
ここで、溶剤の含有量は、流延膜や各フィルム中に含まれる溶剤の量を乾量基準で示したものであり、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100と表される。
【0061】
第1乾燥工程は、溶剤の含有量が250質量%以上400質量%以下の流延膜43に対して行うことが好ましく、溶剤の含有量が300質量%以上350質量%以下の流延膜43に対して行うことがより好ましい。第1乾燥風61の温度は30℃以上80℃以下であることが好ましい。また、第1乾燥風61の風速は5m/秒以上25m/秒以下であることが好ましい。
【0062】
(第2乾燥工程)
第2乾燥工程では、図8に示すように、第2乾燥風75を用いて流延膜43から溶剤を蒸発させる。第2給気ノズル73は、第2乾燥風75を流延膜43に対し垂直にあてる。この結果、第2乾燥風75が流延膜43の表面にあたると、第2乾燥風75の分岐により、よどみ点P1が流延膜43の表面側近傍に生成される。
【0063】
流延膜43の表面側近傍によどみ点P1が生成しているか否かを判断する方法として、流延膜43の表面側近傍に配された吹流しにより観察された風向きが枝分かれする場合には、よどみ点P1が生成していると判断してもよい。
【0064】
よどみ点P1では、第2乾燥風75の熱エネルギーが流延膜43に伝わりやすい。こうして、第2乾燥風75との接触により、流延膜43では溶剤が蒸発する。第2膜乾燥工程は、溶剤の含有量が150質量%以上300質量%以下の流延膜43に対して行うことが好ましい。第2乾燥風75の温度は30℃以上80℃以下であることが好ましい。また、第2乾燥風75の風速は5m/秒以上25m/秒以下であることが好ましい。
【0065】
(第3乾燥工程)
第3乾燥工程は、第3乾燥風84を用いて、自立して搬送可能な状態となるまで流延膜43から溶剤を蒸発させる(図2参照)。第3乾燥ユニット53は、流延膜43の表面に沿って、X方向下流側から上流側に向かって第3乾燥風84を流す。このように、第3乾燥風84をX方向と逆向きに流すことにより、X方向に流す場合に比べて溶剤の蒸発が促進される。第3膜乾燥工程は、溶剤の含有量が20質量%以上150質量%以下の流延膜43に対して行うことが好ましい。第3乾燥風84の温度は40℃以上80℃以下であることが好ましい。また、第3乾燥風84の風速は5m/秒以上20m/秒以下であることが好ましい。
【0066】
(剥取工程)
剥取室23cでは、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43を流延バンド26から剥ぎ取る剥ぎ取り工程が行われる。剥取ローラ86は、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43を流延バンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とし、剥取室23cに設けられた出口23oから湿潤フィルム13を送り出す。剥取工程は、溶剤の含有量が20質量%以上80質量%以下の流延膜43に対して行うことが好ましい。
【0067】
第1乾燥工程に戻って、第1乾燥風61の速度を増大した場合には、第2給気ノズル73と流延膜43との間に、第1乾燥風61が流れ込む。第1乾燥風61により、第2乾燥風75はX方向下流側へ押し出される。この結果、第2乾燥工程では、流延膜43に第2乾燥風75があたらない。したがって、第2乾燥風75についてのよどみ点P1(図11参照)が生成しない。更に、第2乾燥工程にて流延膜43にあたる第1乾燥風61は、第2乾燥風75に比べて乾燥能力が低いものとなっている。係る場合には、第2乾燥工程における乾燥効率が低下してしまう。
【0068】
本発明では、第1乾燥ユニット51が第1乾燥風61を第1排気口59aから排気するため、第2給気ノズル73と流延膜43との間に、第1乾燥風61が流れ込むことを抑える。したがって、本発明によれば、流延膜43の表面をより平滑にすることと、流延膜43の乾燥を効率よく行うこととを両立することができる。また、このような乾燥工程を行う溶液製膜方法によれば、表面が平滑なフィルム16(図1参照)を効率よく製造することができる。
【0069】
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図12に示すように、第1乾燥ユニット51は、X方向上流側から下流側に向けて順次設けられる、第1給気ダクト57と、カバー58と、第1整流板94とからなる。
【0070】
流延膜43の一の端から他の端まで延設される第1整流板94は、流延膜43に対し起立するように配される。第1整流板94の下端94bは流延膜43に近接し、第1整流板94の上端94aは、第2給気口73aよりも上方に延びる。この第1整流板94により、第2給気ノズル73と流延膜43との間に、第1乾燥風61が流れ込むことを抑えることができる。
【0071】
なお、第1整流板94の上方に設けられた上方排気ダクト95を第1乾燥ユニット51に加えても良い。上方排気ダクト95は、第1乾燥風61を排気する上方排気口95aを備える。第1整流板94の上端94aは、上方排気口95aに向かって延設されることが好ましい。更に、第1シール部材31と同様の構造の第1遮風シール部材96を、第1乾燥ユニット51と第2乾燥ユニット52との間に設けても良い。
【0072】
なお、第1整流板94の下端94bは、第1乾燥風路66のX方向下流部まで延びることが好ましい。第1整流板94は、図示したように、湾曲した板の他、平板でもよいし、湾曲した板と平板との組み合わせ、複数の湾曲した板の組み合わせ、複数の平板の組み合わせのいずれでもよい。複数の平板の組み合わせや平板と湾曲した板との組み合わせでも良い。また、第1整流板94は、流延停止時の保全性を確保するために、ケーシング23の外部からの操作により、流延バンド26から遠ざかる向きに移動可能となっていることが好ましい。
【0073】
また、次のようにして、第1乾燥ユニット51、第2乾燥ユニット52にそれぞれ各乾燥風の風速計を設け、第1乾燥ユニット51における第1乾燥風61の動圧が第2乾燥ユニット52における第2乾燥風75の動圧よりも小さくなるように、第1乾燥風61や第2乾燥風75のバランスを調節してもよい。ここで、「第1乾燥ユニット51における第1乾燥風61の動圧」とは、カバー58と流延膜43との間における第1乾燥風61(図中の第1乾燥風61x)の動圧である。なお、サイド遮風板65を設ける場合には、「第1乾燥ユニット51における第1乾燥風61の動圧」を第1給気ノズル60における第1乾燥風61の動圧としてもよい。「第2乾燥ユニット52における第2乾燥風75の動圧」とは、第2給気ノズル73と流延膜43との間における第2乾燥風75の動圧である。
【0074】
第1乾燥風61の動圧と第2乾燥風75の動圧との大小関係を調節するためには、第1風速計101(図5参照)と、第2風速計102(図8参照)とを設ければよい。第1乾燥風61の速度V61を測定する第1風速計101は、ピトー管などを図5に示すように第1給気ノズル60に設けてもよいし、第一給気ダクト57の内圧から風速に変換してもよいし、第1給気ダクト57と第1送風ファンの間に配置されたダクト内に風量計を設けて測定した風量から換算しても良い。第2乾燥風75の速度V75の測定は、第2給気ノズル73の内圧を測定し風速に変換してもよいし、第2給気ダクト71と第2送風ファンの間に配置されたダクト内に風量計を設けて測定した風量から換算しても良い(図8参照)。制御部85は、第1風速計101及び第2風速計102から速度V61、V75をそれぞれ読み取る。次に、制御部85は、読み取った速度V61、V75に基づいて、(V61/V75)の値が0.6以下となるように、第1〜第2送風ファンのうち少なくとも一方の回転数を制御する。こうして、第2乾燥風75が第1乾燥風61によりX方向下流側へ押し流される状態(図11参照)を回避することができる。
【0075】
また、第1乾燥風61がX方向に対し逆流しないようにするために、制御部85が、第1〜第2送風ファンのうち少なくとも一方の回転数を制御しても良い。第1乾燥風61の逆流を防ぐためには、速度V61は20m/秒以下、且つ、(V61/V75)の値が0.2以上0.85であることが好ましい。
【0076】
上述のような第1〜第2送風ファンの回転数の制御を行う場合には、第1実施形態における第1排気ダクト59(図5参照)や、第2実施形態における整流板90、上方排気ダクト95、遮風シール92(図12参照)を省略しても良い。
【0077】
なお、第1給気ダクト57と第2シール部材32との間に、遮風板105(図5参照)を設けても良い。遮風板105は、流延膜43に対して起立する姿勢で配される。遮風板105の下端105aは、第1給気ダクト57の下面57aよりも流延膜43側に突出する。遮風板105により、第1乾燥風61の逆流を防ぐことができる。
【0078】
流延ダイ40の設置位置を水平ロール24の上方としたが、本発明はこれに限られない。シール部材31〜32を水平ロール25に巻き掛けられた流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置を水平ロール24の上方としてもよい。また、流延バンド26を支持するサポートロールを水平ロール24、25の間に設け、シール部材31〜32をサポートロールに支持された流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置をサポートロールの上方としても良い。
【0079】
本発明により得られるフィルム16は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0080】
フィルム16の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム16の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。またフィルム16の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0081】
また、フィルム16の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム16の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0082】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0083】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0084】
(ポリマー)
上記実施形態では、ポリマーフィルムの原料となるポリマーは、特に限定されず、例えば、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等がある。
【0085】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、トリアセチルセルロース(TAC)の90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0086】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。
【0087】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0088】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0089】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0090】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。ポリマーの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0091】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0092】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0093】
上記実施形態では、本発明を用いて流延膜を形成したが、本発明はこれに限られず、支持体に塗布液を塗布し、支持体上に塗布膜を形成する場合にも適用可能である。すなわち、本発明によれば、表面が平滑な塗布膜を効率よく形成することが可能となる。
【実施例】
【0094】
(実験1)
図1に示す溶液製膜設備10において、フィルム16をつくった。流延装置15では、流延工程、乾燥工程、剥取工程を順次行った。乾燥工程では、第1乾燥工程、第2乾燥工程及び第3乾燥工程を順次行った。第1乾燥工程では、第1乾燥風61を風速V61で、流延膜43にあてた。第2乾燥工程では、第2乾燥風75を風速V75で、流延膜43にあてた。
(実験2〜25)
風速V61、風速V75を表1に示す値に調節したこと以外は実験1と同様にしてフィルム16をつくった。
【0095】
(評価)
実験1〜25で得られたフィルム16について、以下の項目について評価を行った。
【0096】
1.剥取性評価
流延膜の剥取性について、以下基準に基づいて行った。
○:流延膜全体を流延バンドから剥ぎ取ることができた。
×:一部の流延膜が支持体に残ってしまった。
【0097】
2.面状評価
目視により、流延膜の面状を観察し、以下基準に基づいて行った。
○:フィルム表面は平滑である。
×:フィルムの表面に弱い凹凸が見られる。
【0098】
3.第1乾燥風の逆流の評価
圧力計を用いて、遮風板105(図5参照)及び流延膜43の間における圧力P1と、流延室23a内の圧力P2とを測定した。圧力P2は、圧力計に接続されたチューブの開口端を遮風板105(図5参照)と流延膜43との間に配することによって測定したものである。また、そして、圧力P2から圧力P1を減じたものを動圧とした。
○:求めた動圧が1.0Pa未満であった。
×:求めた動圧が1.0Pa以上であった。
【0099】
実験1〜25におけるV61、V75、及び(V61/V75)の値、上記の評価結果を表1に示す。なお、表1の評価結果に付した数字は、上記の評価項目に付した数字を表す。
【0100】
【表1】

【符号の説明】
【0101】
10 溶液製膜設備
26 流延バンド
43 流延膜
51 第1乾燥ユニット
52 第2乾燥ユニット
85 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、
前記膜の表面への前記第2乾燥風の衝突が保たれるように、前記第1乾燥風の風速V1及び前記第2乾燥風の風速V2の少なくともいずれか一方を制御する制御手段とを有することを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
V1/V2の値が0.6以下であることを特徴とする請求項1記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1乾燥風を排気する第1排気手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の乾燥装置。
【請求項4】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、
前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1乾燥風を排気する第1排気手段とを有することを特徴とする乾燥装置。
【請求項5】
前記第1吸気口から前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風板を備えることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の乾燥装置。
【請求項6】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備え、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1吸気口から前記第1乾燥風を送り出す第1乾燥手段と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側に設けられ前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備え、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥手段と、
前記カバー及び前記第2給気口の間に設けられ、前記第1吸気口から前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風板とを有することを特徴とする乾燥装置。
【請求項7】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、
前記膜の表面への前記第2乾燥風の衝突が保たれるように、前記第1乾燥風の風速V1及び前記第2乾燥風の風速V2の少なくともいずれか一方を制御する制御工程を有することを特徴とする膜の乾燥方法。
【請求項8】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、
前記第1乾燥工程及び前記第2乾燥工程の間に行われ、前記第1乾燥風を排気する第1排気工程とを有することを特徴とする膜の乾燥方法。
【請求項9】
移動支持体上に形成されたポリマー及び溶剤を含む膜であって、この膜を覆うカバーと、前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向の上流側に設けられ、前記カバー及び前記膜の間に向けて第1乾燥風を送り出す第1給気口とを備えた第1乾燥手段を用いて、前記溶剤の蒸発により前記膜の表面側に乾燥層が形成するまで、前記第1乾燥風を前記第1吸気口から送り出す第1乾燥工程と、
前記カバーよりも前記移動支持体の移動方向下流側にて前記膜の表面に向けて略垂直の第2乾燥風を送り出す第2給気口を備えた第2乾燥手段を用いて、前記膜の表面に前記第2乾燥風を衝突させることで前記溶剤の蒸発を促進させる第2乾燥工程と、
前記第1乾燥工程及び前記第2乾燥工程の間に行われ、前記第2給気口に向かって流れる前記第1乾燥風を遮る遮風工程とを有することを特徴とする膜の乾燥方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のうちいずれか1項の膜の乾燥方法によって得られた前記膜を前記移動支持体から剥ぎ取ってフィルムとする剥取工程を有することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−206311(P2012−206311A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72197(P2011−72197)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】