説明

乾燥野菜およびその製造方法

【課題】 即席食品の具材等に用いられる乾燥野菜において、熱湯を注加して復元する際の復元時間を短縮する。あるいは、より分厚い食材でも復元可能とする。
【解決手段】 野菜の種類や厚み等に応じて適宜サイズに調製した原料野菜に、蒸煮工程を付した後、乾燥する。この蒸煮工程において、過熱蒸気による加熱処理と、水分を液体で供給する水分供給処理の両処理を行なう。特に、過熱蒸気による加熱処理と水分供給処理を複数回繰り返すことで、乾燥野菜の復元性はさらに向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
即席食品の具材等に用いられる乾燥野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱湯を注加することで湯戻しして喫食する即席麺や即席味噌汁には、それぞれ乾燥麺塊や粉末味噌と一緒に、熱湯によって湯戻し可能な乾燥野菜が具材(かやく)として添付されているものが多い。これら乾燥野菜は、原料を適宜サイズにカットし、ブランチングした後、必要に応じて調味して、これを熱風乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥等の乾燥手段によって乾燥したものが一般的である。しかし、喫食時に熱湯注加して数分程度で内部まで充分に熱湯が行き渡らないと、湯戻りが不充分な状態となり、食味食感が悪いものとなる。また、熱湯での湯戻しを可能とするためには、どうしても一つ一つのサイズを小さくするか、薄くする必要があり、ボリューム感に欠けるといった問題があった。
【0003】
そこで、熱湯による復元性を改良し、短時間で湯戻りできるようにする技術、及び具材のボリュームが大きくても湯戻りを可能とする技術、すなわち、復元性を改良する技術が求められていた。このように、即席食品の乾燥野菜において、復元性を改良するという課題に答えるための技術は幾つかの先行技術があるが、その中で、過熱蒸気を用いて野菜を処理することで復元性が改良される旨の記載のある技術としては、以下の特許文献1〜3が知られている。
【0004】
特許文献1の技術は、未乾燥の野菜を120〜220℃の高温のドライ蒸気(過熱蒸気)で比較的短時間乾燥させ、その後、熱風乾燥装置で仕上げ乾燥をするものであり、過熱蒸気による乾燥によって、野菜組織に無数の水分蒸発孔を形成され、この孔に湯が急速に浸透することで復元性が良くなる旨記載されている。
【0005】
また、特許文献2の技術は、熱風乾燥や凍結乾燥によって予め野菜の水分含量を20%以下にした後、これを過熱蒸気で乾燥するものであり、過熱蒸気での乾燥前の水分を20%以下にした後に過熱蒸気で乾燥すると、野菜の組織を膨化させ、熱湯にて短時間で復元できる旨の記載がある。
【0006】
さらに、特許文献3は、その請求項7、8において、野菜類やコンニャクに200〜250℃の過熱蒸気を当てることで表面に気孔を形成し、野菜やコンニャクを調味する際の調味液の内部への浸透が速やかになる旨の記載がある。
【0007】
いずれの先行技術も、過熱蒸気を用いることで野菜の表面に多孔質の構造を形成し、この孔に湯や調味液が浸透することで復元性が改良されることを記載しているが、実際に本発明者らの実験によれば、野菜においては過熱蒸気を当てただけでは、思ったほど復元性は改善されなかった。それどころか、復元性を向上させようとして、過熱蒸気での処理条件を厳しくすると、とりわけ、原料野菜を乾燥させてしまうような条件で過熱蒸気を処理すると、反って復元性が悪くなる場合も見受けられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭51−121547号公報
【特許文献2】特公昭57−44297号公報
【特許文献3】特開2001−46005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、本発明は、即席食品の具材等に用いられる乾燥野菜において、熱湯を注加して復元する時の復元時間を短縮する、あるいは、より分厚い食材でも復元可能とする等、復元性の改良を発明の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、乾燥野菜の復元性改良のために、前記先行文献の技術では不充分であった過熱蒸気の利用について鋭意研究した。その結果、野菜を乾燥する工程よりも前に蒸煮すること(蒸煮とは蒸して加熱することをいう)、しかもその蒸煮工程において、過熱蒸気を用いること、具体的には過熱蒸気での加熱と水分付与の処理を組み合わせて蒸煮することで、復元性が格段に向上し、食味食感も良い乾燥野菜が製造できることを見出し、本発明とした。
【0011】
すなわち、本発明は、原料野菜(野菜の種類や厚み等に応じて適宜サイズに調製しておく)を、蒸煮工程に付した後乾燥する乾燥野菜の製造方法であって、前記蒸煮工程が、過熱蒸気による加熱処理と、水分を液体で供給する水分供給処理を含むことを特徴とする乾燥野菜の製造方法である。
【0012】
ここで、具体的な蒸煮工程としては、過熱蒸気による加熱処理の間に水分供給処理を行なうのがよく、より具体的には、過熱蒸気による加熱処理、水分を液体で供給する水分供給処理、再び過熱蒸気による加熱処理の各処理を、当該順に含む蒸煮工程を行なうのが良い。また、好ましくはこの2回目の過熱蒸気による加熱処理の後、さらに、水分を液体で供給する水分供給処理と過熱蒸気による加熱処理を、当該順でさらに1回以上繰り返すことで、より一層復元性が向上する。
【0013】
また、蒸煮工程としては、過熱蒸気による加熱処理を中断して水分供給を行なうだけでなく、過熱蒸気による加熱処理を行いつつ、その処理中に水分を液体で供給する水分供給処理も可能である。この場合も水分供給処理は、過熱蒸気での加熱処理中に1回以上、好ましくは複数回行なうことで、より復元性が向上する。ここで、過熱蒸気による加熱は、野菜に過熱蒸気を吹き付けて処理するのが良く、また、水分付与は野菜に水分を充分与えるために、溶液をシャワー等によって野菜に噴霧するか、又は野菜を溶液に浸漬して供給するのがよい。
【0014】
このように、本発明は、先の特許文献1〜3のように過熱蒸気を用いて野菜を乾燥させるのではなく、逆に乾燥しないように水分を付与して、いわば過熱蒸気を用いて原料を「蒸煮する工程」を加えることで、乾燥野菜の復元性を格段に向上させるというものであり、過熱蒸気を用いて乾燥させることを主眼とする各先行技術とは、技術思想が根本的に異なるものである。
【0015】
本発明において、復元性を向上させるために重要な点は、過熱蒸気によって高い熱量を野菜に供給すると共に、その際に乾燥状態にならないように、すなわち乾燥させるのではなく蒸煮するように処理することである。好ましくは、前記蒸煮工程の間において、野菜の水分量(野菜表面に付着している水分を含む)が野菜原料時の水分含量をできるだけ下回らないように、過熱蒸気の処理と水分付与を併用して調節し、好ましくはこれを交互に行なう。具体的には、過熱蒸気による加熱処理を中断して、その間に湯又は調味液に過熱蒸気処理した野菜を浸漬する方法が、野菜に水分を吸収させる効果が高く、しかも均一に満遍なく水分を吸収させることができるため、特に好ましい。
【0016】
また、本発明の蒸煮工程における過熱蒸気での加熱条件としては、野菜表面がさらされる温度として好ましくは125〜220℃、特に好ましくは150〜190℃、さらに好ましくは170〜190℃が推奨される。125℃以下では野菜に付与される熱量が充分でない場合があり、場合によっては復元性改良の効果が充分でない場合がある。一方、220℃以上では、表面が乾燥しないよう頻繁に水分を付与する必要がある。乾燥しないように行なう1回の加熱処理時間としては、温度、水分付与量によって大きく異なるが、10秒〜20分程度、好ましくは30秒〜5分程度である。
【0017】
また、蒸煮工程後の乾燥方法としては、熱風乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥のいずれかの乾燥方法が好ましい。
以上のような、本発明の製造方法によって製造された乾燥野菜は、熱湯を注加し、湯戻しして喫食するのに適し、即席麺や即席味噌汁等、即席食品の具材として特に好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、復元性が良く、熱湯注加によって短時間で湯戻りする乾燥野菜が製造できる。特に、厚みの薄い野菜の場合は極めて短時間で復元可能であり、また、かなり分厚いイモ類等の塊状物であっても、従来方法では復元不可能だった厚さのものまで復元可能とすることができる。また、従来の方法で製造された乾燥野菜よりも、野菜特有の風味が残り、食味、食感に優れ、さらに色調変化も少ない。
【0019】
本発明者らは、本発明の乾燥野菜の製造方法によって、このような優れた復元性改善の効果が得られるのは、次のような理由を推測している。すなわち、過熱蒸気は100℃以上の高温で極めて高い熱量を有するため、過熱蒸気で加熱すると野菜表面付近の水が急速に沸騰した状態となる。この現象は、飽和蒸気による蒸煮やボイルの時にはない現象である。
【0020】
このように野菜の表面が沸騰した状態となることで、乾燥野菜の復元性の向上に繋がる何らかの構造変化が起きると予想されるが(先行技術では多孔質構造となることが記載されているが未確認)、過熱蒸気はその高熱量のために、そのままでは急速に水分を蒸発させて乾いた状態となってしまう。水分が奪われて乾燥状態になってしまうと、反って表面を硬化させ復元性の向上に繋がらない。そこで、乾燥状態とならないように水分を断続的に付与しながら過熱蒸気で加熱することで、復元性向上に繋がる変化が進むものと思われる。要するに、本発明の効果を得るためには、高い熱量と共に水分を高く保つことが必要で、そのための水分付与の工程が必須であり、従って、本発明は水分付与の工程を有さない先行の特許文献1〜3とは本質的に異なる技術である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、製造工程に従って本発明を詳細に説明する。
<前処理>
本発明における野菜とは、商店等で野菜売り場に売られている可食性の植物であり、葉菜、果菜、根菜、花菜類等の狭義の野菜の他、海藻類や果実類を含めた概念とする。また、これらのものを加工処理したものも含む(例えば漬物等)。
【0022】
まず、これら野菜を水洗、トリミング等した後、食べ易さや野菜の種類、厚み等に応じて、適宜のサイズにカットする。冷凍されている野菜の場合には、解凍して用いる。
カットは短冊状、ブロック状、粒状、繊維状等の形状で適切なサイズにカットするが、本発明によって製造される乾燥野菜は従来のものよりも復元性が向上するので、従来の即席食品の具材に使われている乾燥野菜よりも大きな形状でのカットが可能である。例えば、ジャガイモの場合1辺25mm角のブロック状でも充分復元可能とすることができる。なお、一つ一つのサイズの小さい野菜については、必ずしもカットする必要はない。
【0023】
続いて、このように適宜サイズとした原料野菜をそのまま過熱蒸気で加熱処理することもできるが、必要に応じて前処理としてブランチング処理や調味を行ってもよい。ブランチング処理は、主として色調の変化等を起す野菜中の酵素を失活させるために、80℃以上の熱水に数分程度浸漬するか又はボイルする処理であるが、本発明の方法の場合には、100℃を越える過熱蒸気での処理を行うので、酵素失活のためのブランチングをあえて行わなくても良い。
【0024】
また、乾燥野菜においては、保型性向上や歩留まり向上等のために、糖液に浸漬したり、糖類やデキストリン等をまぶしたりする工程を加えることもあるが、本発明においてもこのような処理を行なっても良く、また、調味液で味付けする等しておくこともできる。このように前処理をしたものも本発明の原料野菜とすることができる。
なお、上記各前処理は、必ずしも上記記載の順に行う必要はない。例えば、ブランチングや糖液浸漬後や調味後に適宜サイズにカットすることもできるし、冷凍品においては、冷凍前にカットしておき、解凍と兼ねてブランチング処理を行なうこともできる。
【0025】
<1回目過熱蒸気処理>
このように、必要に応じて前処理を施した又は施していない、適宜サイズの原料野菜に、過熱蒸気を用いて加熱処理を行う。この過熱蒸気による処理は、野菜に高い熱量を与えるために、野菜に触れる温度が好ましくは125〜220℃程度、特に好ましくは150〜190℃程度の過熱蒸気を吹き付けるように処理するのが好ましい。また、蒸気流量としては、蒸気庫のサイズや形状、野菜の量にもよるが、100kg/h〜1000kg/h、好ましくは150〜250kg/h程度が例示できる。
【0026】
このように、野菜に過熱蒸気が吹き付けられると、過熱蒸気と野菜との温度差によって、いわゆる結露に類する作用を起こし、野菜表面に過熱蒸気中の水分が凝集して一旦水分が付与され、高い熱量によってこれが沸騰した状態となる。飽和蒸気での蒸しや茹で処理では、通常、野菜表面の水分が沸騰する状態とはならないので、このような沸騰状態は過熱蒸気に特有の状態である。
【0027】
しかし、過熱蒸気は100℃以上の高温であるので、そのまま長時間過熱蒸気に曝し続けると、水分が急速に蒸発して蒸煮状態から乾燥、焼成へと移行してしまう。野菜の水分(表面に付着している水分を含む)が生の野菜原料時の水分値よりも大きく下がるような乾燥状態になると、本発明の効果の達成が困難になってくるので、好ましくは生の野菜原料の水分値を下回らないうちに、次の水分供給処理に付すのがよい。このように、乾燥に至らないように蒸煮するための1回目の過熱蒸気による処理時間は、過熱蒸気の温度や蒸気の流量にもよるが、通常10秒〜20分程度、好ましくは30秒〜5分、特に好ましくは1〜3分程度である。
【0028】
なお、過熱蒸気での加熱処理は必須であるが、その際に、同時に飽和蒸気を併用することもできる。具体的には、野菜が通過する蒸気庫内に過熱蒸気噴射孔と共に飽和蒸気の噴出孔を別に設け、庫内に飽和蒸気噴出孔から噴出させた飽和蒸気を充満させると共に、過熱蒸気噴射孔から野菜に向けて過熱蒸気を吹き付ける等によって、処理することもできる。
【0029】
<1回目水分供給処理>
水分供給処理は、1回目の過熱蒸気による加熱処理後にシャワー又は浸漬等によって水分を液体で供給する。ここで、水は冷水でも温水でも熱湯でもかまわないが、温度が低いと、野菜の温度が下がり、熱効率が悪くなるため、好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上とするのが良い。
【0030】
また、水分の付与は、付与前の重量に対して、水分が好ましくは0.5〜5%、特に好ましくは1〜3%程度重量が増すように供給するのがよく、用いる水分としては、水に少量の調味料や乳化剤、結着防止剤等を添加、溶解させておいても良い。水分を多く、均一に吸収させるためには浸漬が好ましく、この場合、過熱蒸気による加熱処理を中断し、すなわち過熱蒸気庫から系外に一旦出して、浸漬して付与するのが特に好ましい。水分供給処理を浸漬で行う場合の時間としては、5秒〜1分程度が好ましい。
【0031】
なお、水分供給処理は、前記のように過熱蒸気での加熱処理を中断せずに、過熱蒸気で加熱しながら行なうこともできる。例えば、過熱蒸気処理を、一つの蒸気庫内で連続して行いつつ、その間に断続的に水シャワー等を行なって水分供給してもかまわない。この場合は、この水分供給前の過熱蒸気処理が1回目の過熱蒸気による加熱処理、水分供給後の過熱蒸気処理が2回目の過熱蒸気による加熱処理となる。
【0032】
<2回目過熱蒸気処理>
上記工程により水分供給処理し、水分含量を高めた野菜において、厚みが薄い、サイズが小さい等、上記工程だけで復元性改良の効果が充分に得られる場合には、次にこれを乾燥工程に付す、または飽和蒸気による蒸煮や茹で等の処理を加えた後、乾燥工程に付しても良い。しかし、充分な高い効果を得ることを目的とする場合、あるいは原料野菜の厚みが厚い等の場合には、さらに2回目の過熱蒸気による加熱処理を行う。諸条件等は基本的に1回目の過熱蒸気処理と同様に行なうことができる。
【0033】
具体的には、野菜の原料時(生)の水分含量に対して、過熱蒸気での処理中の野菜の水分(野菜表面に付着している水分を含む)ができるだけ下回らないようにしながら、要するに野菜が乾燥しないような条件で処理するのが良い。1回目同様、野菜表面が触れる過熱蒸気の温度として好ましくは125〜220℃程度、特に好ましくは150〜190℃程度の過熱蒸気とし、蒸気の温度にもよるが10秒〜20分程度、野菜表面の水分が沸騰するように行なうのがよい。
【0034】
なお2回目の過熱蒸気による加熱処理は、1回目と同じ温度、同じ時間、同じ蒸気流量としてもよいが、条件を変えて行なうこともでき、1回目は過熱蒸気だけを用い、2回目は過熱蒸気と同時に飽和蒸気を併用して処理することもできる。
このように、1回目の過熱蒸気による加熱処理、水分供給、2回目の過熱蒸気による加熱処理の工程を経た野菜は、既に2回の過熱蒸気による処理で充分な場合には、乾燥工程に移行する。しかし、より高い復元性が望まれるといった場合には、再び2回目の水分供給、3回目の過熱蒸気による加熱処理を行う。
【0035】
<2回目水分供給以降>
2回目の水分供給と3回目の過熱蒸気による加熱処理を行う場合は、2回目過熱蒸気処理を行った野菜に水分を付与して、1回目2回目同様野菜が乾燥状態とならないようにしながら、再び過熱蒸気による加熱処理を行う。また、さらに、必要な場合には、3回目過熱蒸気による加熱処理を行った野菜に、3回目の水分供給をし、続いて4回目の過熱蒸気処理を行ってもよい。さらに必要な場合には、4回目水分供給と5回目過熱蒸気処理というように、水分供給と過熱蒸気による加熱処理を交互に繰り返し追加する。具体的な条件等は、上述した1回目水分供給と2回目過熱蒸気処理に準じて行えば良い。
【0036】
ただし、イモ類等澱粉質野菜の場合は、あまり何度も繰り返すと表面が煮崩れした状態となってしまったり、エキス分を多く含む野菜の場合にはエキス分が流失する等の場合があり、繰り返しの回数は、対象とする野菜の種類と大きさに応じて適宜設定する。
【0037】
<乾燥工程>
上記のような手順で蒸煮処理を行った野菜は、必要に応じて、水冷等によって冷却後、好ましくは水切りをし、または、必要に応じて味付け等を行なった後、乾燥野菜とするために乾燥処理を行う。また、この時、個々の野菜のブロックを天ぷらのバッターや、結着剤を用いて複数集合させた状態とした後乾燥に処すこともできる。また、逆に、個々の野菜の結着を防止するために、乳化剤や油脂を表面処理しておくこともできる。また、必要に応じて、乾燥前に飽和蒸気による蒸煮や、茹でを追加することもできる。
【0038】
乾燥処理は、即席食品の具材において通常使用される乾燥技術、すなわち、熱風乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥等各種の乾燥方法が用いられる。熱風乾燥としては、棚型又はコンベア移送型等の乾燥庫で50〜120℃程度の熱風を当てて乾燥する。フライ乾燥としては、130℃以上のフライ油に浸漬して野菜内部の水分を一気に蒸発させる。あるいは、減圧フライ装置によって、100mgHg以下の減圧下で低温でフライしても良く、この場合対象物を凍結状態にしてフライすることもできる。凍結乾燥は、対象物を予備凍結させた後、真空下で昇華させて乾燥する。その他、マイクロ波乾燥、過熱蒸気による乾燥等、食品加工における各種の乾燥方法が使用できる。また、複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させても良い。
【0039】
以上によって、充分な保存性を付与できるように、水分含量を概ね10%以下まで低減して、即席食品の乾燥具材とし、即席麺塊等の即席食品と共に、又は即席食品に別添して、あるいは乾燥野菜のみで包装されて商品とされる。具体的には、即席麺、即席味噌汁、即席スープ、即席茶漬け等の即席食品の具材(かやく)として用いられるが、即席食品に限らず、家庭や料理店で料理したスープ等の浮き身としても使用することもできる。
【0040】
対象とする野菜としては、澱粉質野菜であるジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ等が、過熱蒸気による高い熱量によって内部まで澱粉質をα化できる効果と併せて、特に適応が良いが、前述したように植物質のものであれば何でも使用可能である。従って、本発明では、根菜類、葉菜類、果菜類、花菜類等狭義の野菜に加えて、果実類、海藻類、等にも適用可能である。以上のようにして製造した本発明の乾燥野菜は、熱湯注加によって10秒〜5分程度待つだけで、湯戻りして、喫食できる。
【実施例】
【0041】
実験例1(ジャガイモでの実験例)
ジャガイモの表皮をむき、約25×25×25mm角のサイコロ状に切断したものを野菜原料とした。
【0042】
<比較例1・ボイル> 従来方法1として、この野菜原料を10分間熱湯でボイルして、ボイル後60秒間水に浸けて水冷、水切りし、これを急速冷凍して凍結し、次いで減圧フライ装置で(真空度30torr以下、油温70〜100℃、50〜80分)フライして、比較例1の乾燥ジャガイモを製造した。
【0043】
<比較例2・飽和蒸気> 従来方法2として、比較例1のボイルに換えて7分間飽和蒸気で連続的に蒸した後、比較例1同様に、60秒間水冷、水切りし、これを急速冷凍して凍結し、次いで減圧フライ装置で(真空度30torr以下、油温70〜100℃、50〜80分)フライして、比較例2の乾燥ジャガイモを製造した。
【0044】
<実施例1> 本発明の方法として、下記の過熱蒸気による加熱処理(a)と、水分供給処理(b)を、(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理4回)、比較例1と同様に60秒間水冷、水切りし、これを急速冷凍して凍結し、次いで減圧フライ装置で(真空度30torr以下、油温80〜100℃、60〜90分)フライして、実施例1の乾燥ジャガイモを製造した。
【0045】
<実施例2> 同様に、さらに本発明の方法として、(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理7回)、比較例1及び実施例1と同様に60秒間水冷、水切りし、これを急速冷凍して凍結し、次いで減圧フライ装置で(真空度30torr以下、油温80〜100℃、60〜90分)フライして、実施例2の乾燥ジャガイモを製造した。
【0046】
<比較例3・水分供給なし> 水分供給処理を行なわずに過熱蒸気で処理する方法として、実施例2における(b)の水分供給処理を行なわずに(先行の特許文献に類するもの)、過熱蒸気処理だけを断続的に7回行なった後(a)(a)(a)(a)(a)(a)(a)、その後冷えてから実施例と同様に60秒間水冷、水切りし、これを−40℃の冷凍庫で急速冷凍して凍結し、次いで減圧フライ装置で(真空度30torr以下、油温80〜100℃、60〜90分)フライして、比較例3の乾燥ジャガイモを製造した。
【0047】
(a)野菜原料を蒸気庫内で野菜表面がさらされる温度として170℃蒸気流量210kg/hで吹き付けるように1分間加熱処理する
(b)過熱蒸気庫から出して、60℃の水に10秒間浸漬する
以上のようにして製造した比較例1,2,3、実施例1,2のそれぞれの乾燥ジャガイモの重量を測定した後カップ容器に入れ、沸騰水を注いで、10秒、30秒後の重量を測定し、乾燥ジャガイモがどれだけの水分を吸収したか、すなわち、ジャガイモの復元率(倍)を測定した。また、比較例1を除き、飽和蒸気又は過熱蒸気での処理後の水冷前の状態で、各野菜の水分含量を測定した。なお、生の状態のジャガイモの水分含量は76%であった。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1のように、過熱蒸気処理と水分供給を繰り返したもの熱湯の吸収速度が速く、わずかの時間で復元した(過熱蒸気7回の実施例2は10秒以下、4回の実施例1でも30秒以下)。一方、従来方法のボイル(比較例1)や飽和蒸気での蒸煮(比較例2)、および過熱蒸気処理だけで水分供給しなかったもの(比較例3)は、復元性が劣る結果となった。
また、実施例のものは、蒸煮工程終了後の野菜水分が、水分供給を行なわずに過熱蒸気で処理した比較例3に対しては当然のこと、飽和蒸気で蒸煮した比較例2や、生のジャガイモの水分含量よりも高かった。
【0050】
上記各サンプルに沸騰水を注加後30秒後に喫食したが、復元率のデータ以上に食感には大きな差が見られた。すなわち、比較例1,2,3のジャガイモはいずれも熱湯が浸透していないと思われる白い部分が存在し、芯のある食感であったが、実施例1,2のジャガイモは全体的に透明感があり、中心部まで湯戻りしていてホクホクしたおいしいものであった。
【0051】
実験例2(にんじんの実験例)
にんじんの皮をむき、概ね2cm角程度に乱切りしたものを野菜原料とした。
【0052】
<比較例4> この野菜原料を飽和蒸気で1分間蒸煮して、蒸気庫から出して60℃の湯に10秒間浸漬し、再び飽和蒸気で1分間蒸煮し、この操作を繰り返して、合計で飽和蒸気による蒸煮を4回、60℃の湯浸漬を蒸煮の間に3回行い、この操作後冷水に浸漬して30秒間水冷した。これを5重量%の重曹溶液で3分間ボイルし、水冷した後、さらにマルトース20%の溶液で沸騰直前までボイルし、冷却、液切りした後、軽く油脂を噴霧し、冷凍庫で凍結させた後真空乾燥(FD)し、比較例4の乾燥にんじんを製造した。
【0053】
<実施例3> 本発明の方法として、下記の過熱蒸気処理(a)と、水分供給処理(b)を、(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理2回)、以降、比較例4と同様に30秒間水冷し、重曹溶液でのボイル、糖液でのボイル、油脂噴霧、凍結、真空凍結乾燥を行ない、実施例3の乾燥にんじんを製造した。
【0054】
<実施例4> さらに本発明の方法として、(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理4回)、比較例4及び実施例3と同様に30秒間水冷し、重曹溶液でのボイル、糖液でのボイル、油脂噴霧、凍結、真空凍結乾燥を行ない、実施例4の乾燥にんじんを製造した。
【0055】
<比較例5> さらに、水分供給を行なわずに過熱蒸気で処理する方法として(先行の特許文献に類するもの)、実施例4における(b)の水分供給処理を行なわずに(a)(a)(a)(a)、過熱蒸気処理だけを断続的に4回行なった後、水冷を行わず、冷えてから重曹溶液でのボイル、糖液でのボイル、油脂噴霧、凍結、真空凍結乾燥を行ない、比較例5の乾燥にんじんを製造した。
【0056】
(a)野菜原料を蒸気庫内で野菜表面がさらされる温度として170℃蒸気流量210kg/hで吹き付けるように1分間加熱処理する
(b)過熱蒸気庫から出して、60℃の湯に10秒間浸漬する
以上のようにして製造した比較例4,5、実施例3,4のそれぞれの乾燥にんじんの重量を測定後カップ容器に入れ、沸騰水を注いで、10秒、30秒、60秒後の重量を測定し、乾燥にんじんがどれだけの水分を吸収したか、すなわち、にんじんの復元率を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
上記各サンプルに沸騰水を注加し、1分間放置して喫食したところ、比較例4,5は吸水が悪い感じでネチャついたような食感であったが、実施例3,4のものは、吸水がよくネチャついた感がなく、にんじんを茹でた時そのものに近い食感であった。
【0059】
実験例3(タマネギの実験例)
タマネギをくし切りにし、概ね長さ40mm、幅5〜20mm程度の切片としたものを野菜原料とした。
【0060】
<比較例6> この野菜原料を5%重曹溶液で5分間ボイルし、飽和蒸気で1分間蒸煮して、蒸気庫から出して60℃の湯に10秒間浸漬し、再び飽和蒸気で1分間蒸煮し、この操作を繰り返して、合計で飽和蒸気による蒸煮を4回、60℃の湯浸漬を蒸煮の間に3回行い、この操作後冷水に浸漬して3分間水冷した。これをグルコースと乳化剤各3%の溶液に30分浸漬し、液切りした後、冷凍庫で凍結させた後真空乾燥(FD)し、比較例6の乾燥タマネギを製造した。
【0061】
<実施例5> 本発明の方法として、比較例6同様に重曹溶液でボイルし、これを下記の過熱蒸気処理(a)と、水分供給処理(b)を、(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理2回)、以降、比較例6と同様に3分間水冷、糖と乳化剤の溶液への浸漬、真空凍結乾燥を行い、実施例5の乾燥タマネギを製造した。
【0062】
<実施例6> さらに本発明の方法として、(a)(b)(a)(b)(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理4回)、比較例6及び実施例5と同様に3分間水冷、糖と乳化剤の溶液への浸漬、真空凍結乾燥を行い、実施例6の乾燥タマネギを製造した。
【0063】
<比較例7> さらに、水分供給処理を行なわずに過熱蒸気で処理する方法として、実施例6における(b)の水分供給処理を行なわずに(先行の特許文献に類するもの)、過熱蒸気処理だけを断続的に4回行なった後(a)(a)(a)(a)、3分間の水冷を行わず、冷えてから、比較例6及び実施例5,6と同様に、糖と乳化剤の溶液への浸漬、真空凍結乾燥を行い、比較例7の乾燥タマネギを製造した。
【0064】
(a)野菜原料を蒸気庫内で野菜表面がさらされる温度として170℃蒸気流量210kg/hで吹き付けるように1分間加熱処理する
(b)過熱蒸気庫から出して、60℃の湯に10秒間浸漬する
以上のようにして製造した比較例6,7、実施例5,6のそれぞれの乾燥タマネギの重量を測定後カップ容器に入れ、沸騰水を注いで、10秒、30秒、60秒後の重量を測定し、乾燥タマネギがどれだけの水分を吸収したか、すなわち、タマネギの復元率を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
上記各サンプルに沸騰水を注加し、1分間放置して喫食したところ、比較例6,7は生っぽい感じがあったのに対し、実施例5,6のものは、タマネギを加熱したときそのものの食感、風味に近く、甘味にも優れていた。
【0067】
実験例4 (過熱蒸気条件の異なる実施例)
ジャガイモの表皮をむき、約25×25×25mm角のサイコロ状に切断したものを野菜原料とした。
【0068】
<実施例7> 本発明の方法として、下記の過熱蒸気処理(a)において庫内温度(野菜表面のさらされる温度)を150℃とし、水分供給処理(b)を、(a)(b)(a)(b)(a)の順で行なった後(過熱蒸気処理3回)、以降実施例1と同様にして、フライし、実施例7の乾燥ジャガイモを製造した。
【0069】
<実施例8> 上記実施例7の過熱蒸気処理を170℃とし、その他については実施例7と同様にして実施例8の乾燥ジャガイモを製造した。
【0070】
<実施例9> 上記実施例7の過熱蒸気処理を190℃とし、その他については実施例7と同様にして実施例9の乾燥ジャガイモを製造した。
【0071】
(a)野菜原料を蒸気庫内で野菜表面がさらされる温度として170℃蒸気流量210kg/hで吹き付けるように1分間加熱処理する
(b)過熱蒸気庫から出して、60℃の水に10秒間浸漬する
以上のようにして製造した実施例7,8,9それぞれの乾燥ジャガイモと、比較のために実験1で作成した比較例2の乾燥ジャガイモをそれぞれカップ状容器に入れ、熱湯を注加して30秒間放置して喫食した。
その結果、実施例7,8,9の乾燥ジャガイモは、比較例2の乾燥ジャガイモに見られたような中心部の白い部分が無く透明な感じで、中まで湯が通って湯戻りし、ホクホクしたおいしいものであった。
【0072】
<実施例10>
ジャガイモの表皮をむき、約25×25×25mm角のサイコロ状に切断し、先の比較例1と同様に10分間熱湯でボイルして、水冷、水切りし、急速凍結して冷凍した。
ボイルしただけの上記ジャガイモは、実験例1によって満足する復元性を有さないものであったので、ボイルしたジャガイモに過熱蒸気による加熱処理を施した。
【0073】
すなわち、当該ボイルしたジャガイモを解凍後、これを蒸気庫内で野菜表面がさらされる温度として170℃蒸気流量210kg/hで吹き付けるように過熱蒸気で1分間加熱処理した。次いで、すぐに蒸気庫から出して60℃の水に10秒間浸漬した。以降、比較例例1と同様にしてフライし、実施例10の乾燥ジャガイモを製造した。
【0074】
以上のようにして製造した実施例10の乾燥ジャガイモの重量を測定した後カップ容器に入れ、沸騰水を注いで、10秒、30秒後の重量を測定し、乾燥ジャガイモがどれだけの水分を吸収したか、すなわち、ジャガイモの復元率(倍)を測定した。結果を実験1の比較例1(ボイル10分)との比較データとして表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4の通り10分間ボイルしただけの比較例1に比べて、実施例10の復元率はかなり良いものであった。また熱湯注加30秒後の食感も、比較例1のような湯戻りしていない芯のある食感ではなく、好ましいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料野菜を、蒸煮工程に付した後、乾燥する乾燥野菜の製造方法であって、
前記蒸煮工程が、過熱蒸気による加熱処理と、水分を液体で供給する水分供給処理を含むことを特徴とする乾燥野菜の製造方法。
【請求項2】
前記蒸煮工程が、過熱蒸気による加熱処理、水分を液体で供給する水分供給処理、過熱蒸気による加熱処理、の順で含むことを特徴とする請求項1に記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項3】
前記蒸煮工程が、前記2回目の過熱蒸気による加熱処理の後に、水分を液体で供給する水分供給処理及び過熱蒸気による加熱処理を、当該順でさらに1回以上繰り返し行なうことを特徴とする請求項2に記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項4】
前記蒸煮工程が、過熱蒸気による加熱処理中に、少なくとも1回以上水分を液体で供給して水分供給処理を行なうことを特徴とする請求項1に記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項5】
前記蒸煮工程中の過熱蒸気による加熱処理が、野菜表面がさらされる温度として125〜220℃であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項6】
前記蒸煮工程中において、野菜の水分が前記原料野菜の水分含量を下回らないことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項7】
前記蒸煮工程後の乾燥方法が、熱風乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥のいずれかの乾燥方法である請求項1から6のいずれかに記載の乾燥野菜の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1から7のいずれかに記載の製造方法によって製造された乾燥野菜であって、当該乾燥野菜が、即席食品の具材であることを特徴とする乾燥野菜。

【公開番号】特開2012−50413(P2012−50413A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197978(P2010−197978)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】