説明

二媒体プリンタ及び二媒体印刷方法

【課題】通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを印刷する。
【解決手段】二媒体プリンタ100は、第1媒体トレイ120及び第2媒体トレイ125のうちの一方から通常の媒体シート及び一時的な再使用可能な媒体シートを選択的に給紙する駆動ロール130と、給紙経路上に配設された往復動作するキャリッジアセンブリ140と、キャリッジアセンブリ140に搭載され通常の媒体シートに対してマーキング材料を付着させることで当該媒体シート上に画像を形成する第1プリントヘッド150と、キャリッジアセンブリ140に搭載され一時的な再使用可能な媒体シートの表面に照射を行うことで当該媒体シート上に一時的な画像を形成する第2プリントヘッド160と、キャリッジアセンブリ140の上流に配設され一時的な再使用可能な媒体シートを加熱することで当該シートを印刷のために調整する事前調整ステーション135とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概略的には、従来(通常)の媒体にマーキング材料を付加する従来の印刷技術と、フォトクロミック(光互変性)ペーパーなどの画像が再書き込み可能且つ再使用可能な一時的な媒体に関するインク無し・トナー無し印刷技術との両方の印刷が可能な、二媒体タイプのプリンタ及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式及びインクジェット方式による伝統的な印刷技術が知られている。インクジェット印刷は、うまく構築された市場を有し、比較的低コストのプロセスを用いる。このプロセスでは、インクの小滴を画像に合わせる形で記録媒体上へと噴出することにより画像が形成される。インクジェットプリンタは家庭やビジネス環境で、特に家庭環境ではインクジェットプリンタが低コストであることから、広く利用されている。インクジェットプリンタは、一般的には、白黒テキストから写真のカラー画像までにわたって、標準的なオフィス用紙、透明シート及び写真用紙などの広範囲の記録媒体に対して、高品質な画像を生成することができる。
【0003】
しかし、このプリンタコストの低さにもかかわらず、交換インクジェットカートリッジのコストは高くなることがあり、場合によっては装置の寿命期間の間ではプリンタ自体のコストよりも高くなってしまう。これらカートリッジは頻繁に交換しなければならず、インクカートリッジの交換コストは、インクジェット印刷に関する顧客不満の主たるものである。インクカートリッジ交換コストを低減することは、インクジェット印刷のユーザにとってめざましい改善となるであろう。
【0004】
更に、多くの紙文書は読まれた後すぐに捨てられる。紙は比較的安価であるが、捨てられる紙文書の量は膨大であり、捨てられた紙文書の処理には大きなコストを要し、環境問題を引き起こす。したがって、画像を一時的に表示することができる新たな媒体と、そのような媒体を用意して利用する方法を求める要望が根強くある。
【0005】
この問題に対処するために、一時的な画像の形成及び保存のための一時的媒体への取り組みが数多く展開されてきた。これら媒体は、いくつかの応用分野では伝統的な紙に置き換わるように設計されている。しかし、一時的媒体の多くの形態は、紙の置き換えに要求される結果よりも低いものしか出せていない。例えば、一時的画像を用いる代替技術には、液晶ディスプレイ、エレクトロフォレティクス(electrophoretics)、ジリコン(gyricon)画像媒体などがある。これらの技術は、要求される画像再書き込み性能(reimageability)を持つものの、伝統的な紙のような見た目や感触、携帯性は持たず、シートを時折なくしてもユーザが気にならないような低コストでもない。最近は、フォトクロミック(光互変性)ペーパーなどの、より紙に似た形態を持つ一時的な文書媒体が開発されている。フォトクロミック媒体は、紫外(UV)光を用いて書き込まれ、一般には光及び/又は熱により消去される。この媒体すなわち紙は、いくつかの応用分野で紙の印刷に置き換えるために、異なる画像が繰り返し描画されるよう再使用可能なように設計されている。
【0006】
フォトクロミック材料、すなわち光に誘起される可逆又は不可逆の色変化を起こす材料、を用いたイメージング(画像形成)技術、が知られている。例えば特許文献1(米国特許第3961948号明細書)には、有機フィルム形成バインダー内に分散した少なくとも1つのフォトクロミック材料を含んだフォトクロミックイメージング層において可視光により誘起される変化に基づいたイメージング方法が記載されている。別の公知のフォトクロミック材料が、Iftimeらによる特許文献2(米国特許出願公開第2005/0244742号明細書)、Iftimeらによる特許文献3(米国特許出願公開第2005/0244743号明細書)Kazmaierらによる特許文献4(米国特許出願公開第2005/0244744号明細書)などに示されている。
【0007】
このような、又は他の、フォトクロミック(すなわち画像を再書き込み可能な)用紙が望まれる。このような用紙は、一時的に画像や文字を表示するために何回も再利用可能なイメージング(画像形成・表示)媒体であるからである。例えば、フォトクロミックに基づく媒体の応用としては、例えば電子文書の紙バージョンなどといった、リイメージャブル(画像の再書き込み・再表示が可能な)文書がある。リイメージャブル文書により、ユーザは自分に必要な間だけ情報を持っていることができ、その後はその情報を消し、イメージング(画像書き込み)システムを用いて異なる情報を媒体に再書き込みすることができる。
【0008】
一時的文書プリンタは、例えばIftimeらによる特許文献5(米国特許出願公開第2008/0310869号明細書)、Shraderらによる特許文献6(米国特許出願公開第2008/0191136号明細書)などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3961948号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0244742号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0244743号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0244744号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0310869号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2008/0191136号明細書
【特許文献7】米国特許第6293668号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/0140775号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、一時的媒体システムは、レーザープリンタやインクジェットプリンタで印刷される用紙のような伝統的な印刷媒体なら直面することのない問題にしばしば苦しむ。一時的媒体、特にフォトクロミック用紙は、画像が褪せる、すなわち自動的に消えるまでの文書画像寿命が限られている。典型的には、条件や媒体にもよるが数時間から2,3日程度である。また、いったん印刷された後強い光や高い温度などの条件にさらされると、見た目で見劣りしてしまう可能性がある。したがって、一時的文書プリンタ及びフォトクロミック用紙は、ときには保管に適した質が必要とされるような従来の印刷を完全に置き換わるものとはなり得ない。更には、一時的媒体システムは、標準的な用紙や標準的な印刷技術では動作不能である。すなわち、従来(通常)の用紙はフォトクロミック材料を含んでいないので、一時的文書プリンタは従来の用紙に印刷できない。同様に。従来のプリンタで一時的媒体に印刷すると、一時的媒体上に永久的なマーキング(書き込み/印刷)材料(インクなど)を付着させることで一時的媒体の再利用性を損なってしまう。したがって、顧客がそれら両方のタイプの媒体を利用したいと望んだ場合、それぞれのタイプの印刷技術を用いた別々のスタンドアローン・システムを利用していた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では、1つの共通のスタンドアローン型のシステムで、従来の印刷と再利用可能印刷媒体の機能性とを組み合わせた印刷システム及び方法の様々な側面を説明する。このようなシステムは、一時的な文書か、保管用の永久的な文書か、又はそれらの組み合わせかのいずれを印刷するかを決めるという柔軟性をユーザに与えることができる。
【0012】
例示的な態様では、製造及び操作のコストとともに装置の占有スペースを低減するために、システム及び方法に可能な限り多くの機能を統合し共有する。
【0013】
他の側面では、二媒体印刷システム及び方法が、媒体タイプに応じて複数の別々の給紙トレイから媒体を給紙し、両方のタイプの媒体が提供され得るようにする。
【0014】
低コストを維持するために、この明細書に示す諸側面では、両方の媒体タイプのための各プリントヘッドを同じ機構により移動させる往復運動機構すなわちキャリッジを用い、両方の媒体タイプのために画像経路の電子回路を再利用する。
【0015】
この明細書に記載する態様のうちのある側面では、共通のプリントヘッド往復運動機構(横断動作するキャリッジ)、複数の給紙パス(経路)部分、及び駆動機構を含んだ、共通の機能を共用する二媒体タイプのプリンタが提供される。
【0016】
他の側面では、二媒体タイププリンタが、更に、印刷前又は印刷中の媒体シートの消去及び/又は媒体シート(の状態)の事前(印刷前)調整のための加熱を実行するための、事前調整・印刷ゾーン調整テーション(装置)を共用する。これは、従来のインクジェット印刷でも、インクの乾燥を促進する方法として、用紙を加熱することが有益だからである。
【0017】
この明細書の1つの側面では、通常(従来)の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを用いる二媒体(デュアルメディア)プリンタが、通常の媒体シートを収容するように構成された第1媒体トレイと、一時的な再使用可能な媒体シートを収容するように構成された第2媒体トレイと、印刷出力部と、前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのそれぞれを前記印刷出力部に接続する給紙経路であって共通給紙経路部分を含んだ給紙経路と、通常の媒体シート及び一時的な再使用可能な媒体シートを、前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのうちの一方から選択的に前記印刷出力部へと前記給紙経路に沿って給紙方向に給紙する駆動アセンブリ(機構)と、前記共通の給紙経路部分上に配設された往復動作キャリッジアセンブリ(機構)と、前記キャリッジアセンブリに搭載され当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動する第1プリントヘッドであって通常の媒体シートに対してマーキング材料を付着させることで当該媒体シート上に画像を形成する第1プリントヘッドと、前記キャリッジアセンブリに搭載され当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動する第2プリントヘッドであって一時的な再使用可能な媒体シートの表面に(可視光、紫外光、赤外光などの光、熱、超音波などといったエネルギーの)照射を行うことで当該媒体シート上に一時的な画像を形成する第2プリントヘッドと、前記共通の給紙経路部分上の前記往復動作キャリッジアセンブリの上流に配設され少なくとも一時的な再使用可能な媒体シートを加熱することで当該シート(の状態)を印刷のために調整する事前調整(事前コンディショニング)ステーションと、を備える。
【0018】
他の側面では、二媒体プリンタを用いて通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを用いる二媒体印刷方法は、通常の媒体シート及び一時的な再使用可能な媒体シートから選ばれた媒体シートを共通給紙経路上に事前調整ステーションを通過するように給紙し、前記事前調整ステーションにて所定の温度まで加熱することにより、給紙された前記媒体シートの状態を調整し、共通の往復動作キャリッジアセンブリを操作することで、前記媒体シートが通常の媒体シートである場合にマーキング材料を前記媒体シート上に付加する第1プリントヘッドと、前記媒体シートが一時的な再使用可能な媒体シートである場合に前記媒体シートの表面を照射する第2プリントヘッドと、の一方を用いて、前記給紙された媒体シートに画像を形成し、画像が形成された前記媒体シート上を出力する。
【0019】
更に別の側面では、電子写真方式で用いられる定着ロールに似た従来の「インスタント・オン(瞬時起動)」加熱ロールを、製造コスト低減のために事前調整ステーションとして用いる。
【0020】
いくつかの態様では、二媒体タイププリンタは、インクジェット式のプリントヘッドと、異なるタイプの一時的媒体用のプリントヘッドとである。しかし、例えば、異なるインクマーキング材料を溶解させて用いるソリッド(個体)インクプリンタや、媒体シートにトナーマーキング材料を付加する電子写真方式すなわち静電写真方式のイメージングシステムなどといった、他のマーキング技術を用いてもよい。
【0021】
いくつかの態様では、二媒体タイププリンタは、一時的媒体用のプリントヘッドとしてLEDプリントヘッドのようなUVプリントヘッドを備え、これとは異なるタイプのプリントヘッドとしてインクやトナーなどのマーキング材料を媒体シート上へ付加するための従来のプリントヘッドを備えていてもよい。しかし、この代わりに、他のインク不使用、トナー不使用の印刷技術を用いてもよい。
【0022】
いくつかの態様では、印刷ゾーン調整ステーション、印刷中に媒体シートの温度を制御する能動型又は受動型のプラテンであってもよい。
【0023】
いくつかの例示的な態様では、一時的媒体の場合に、事前調整ステーションはその印刷媒体を約120℃以上の温度、例えば約120℃から約160℃までの温度、まで加熱することで残存画像を消去し、印刷ゾーン調整ステーションがその媒体シートの温度を環境の温度より上、例えば70℃、に維持する。
【0024】
いくつかの例示的な態様では、事前調整ステーションは、印刷媒体の上及び/又はしたに設けられる1以上の加熱プラテン又はストリップ(帯状)ヒーターの形態であってもよい。
【0025】
いくつかの例示的な態様では、前記媒体シートは、駆動ロール、ピンチ(つまみ)ロール又は真空押さえベルト(vacuum hold-down belt)などの形態の、共通の駆動機構により駆動されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】共用のプラットフォーム及び構成要素群を用いて従来の印刷機能と一時的な再使用可能な方式の印刷機能とを組み合わせた二媒体タイププリンタの第1の実施形態を表す図であり、通常(従来)の媒体のための用紙搬送経路を示す図である。
【図2】共用のプラットフォーム及び構成要素群を用いて従来の印刷機能と一時的な再使用可能な方式の印刷機能とを組み合わせた二媒体タイププリンタの第1の実施形態を表す図であり、一時的媒体のための用紙搬送経路を示す図である。
【図3】図1及び図2のプリンタ筐体内の主駆動部及び印刷用の構成要素群を表す部分的な斜視図である。
【図4】上側及び下側の加熱プラテンを加熱ロールの代わりに用いピンチロールタイプの駆動機構を用いる、二媒体タイププリンタの第2の実施形態を表す図である。
【図5】下側の加熱プラテンを真空押さえ駆動機構と共に用いる、二媒体タイププリンタの第3の実施形態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1〜図3を参照して、第1の実施形態を説明する。二媒体プリンタ100は、筐体を備え、共通・共用のプラットフォーム及び構成要素群を用いて、従来の印刷機能を一時的な再使用可能印刷機能と組み合わせている。このプリンタは印刷コントローラ110を備え、このコントローラは入力画像ファイルの受信とプリンタによるその画像ファイルの印刷とを制御する。第1タイプ媒体トレイ120は、第1のタイプの媒体シート群、例えば従来(通常)のインクジェット用紙シートなどのシート群を収容する。第2タイプ媒体トレイ125は、第2の、すなわち第1タイプとは異なるタイプの媒体シート群、例えば消去及び再使用(繰り返し利用)が可能な一時的媒体シートなどのシート群を収容する。一時的媒体シートは、例えばフォトクロミック用紙などである。給紙経路(パス)Pは、各トレイから延びており、各トレイから共通の給紙経路領域へと媒体シートを給紙する。この共通の給紙経路では、媒体シートは途中でいくつかの印刷用の構成要素を通過して出力と例180へと送られる。図1は、第1トレイ120から共通の給紙経路領域への媒体シートを給紙する処理を、図2は、第2トレイ125から共通の給紙経路領域への媒体シートを給紙する処理を、それぞれ示す。
【0028】
この実施形態では、駆動ロール130と加熱ロール135の組み合わせにより駆動機構が形成されており、それら2つのロール同士の間にニップ領域が形成される。駆動機構は、媒体シートを下流の共通のプリントヘッド往復動作機構へと進める。この往復動作機構は、横断運動キャリッジアセンブリ140の形態であり、2つの異なる印刷技術の各々について1つずつプリントヘッドを備えている。この実施形態では、第1プリントヘッドは、画像を形成するためにインクの小滴を供給するインクジェットプリントヘッド150であり、第2プリントヘッドは、UVプリントヘッド160などの、一時的媒体への書き込み装置である。UVプリントヘッド160は、複数のLEDから形成されており、フォトクロミック用紙など一時的媒体シートと反応するUV光を発して、その媒体シート上に一時的画像を形成する。また、加熱ロール135は、印刷の前に媒体シートの状態を調整するための事前調整ステーションとして機能する。
【0029】
事前調整ステーション135は、以前に使用され既に画像が存在している一時的媒体シートを事前に調整するのに特に有益である。事前調整ステーション135は、その媒体シートから前の画像を消去するのに十分な、あるドゥエル時間(用紙が滞在する時間)の間にわたって、あらかじめ定められた温度で熱を加えることで、そのシートが再利用され、新たな画像が形成されることができるようにする。あらかじめ定められた温度は使用される媒体シートの種類によって異なるものの、媒体シートとしてフォトクロミック用紙を用いる場合は、その温度は概略的には、例えば約120℃から約160℃の範囲のような、約120度以上の範囲である。処理スピードすなわち搬送速度を増大させると、媒体シートを要求される加熱温度にするのにより高い温度が必要となる。毎分約5ページの処理スピードの場合、約160℃の温度で十分であると分かった。
【0030】
この実施形態では、ローエンドのレーザープリンタに見られる従来の「瞬時オン」定着ロールが、消去用の加熱を実行するための、低コスト且つ効率的な機構であることが分かった。瞬時オン定着ロールは、当該ロールの中央に内部石英加熱部を有し、当該定着ロールの外表面を急速に加熱する。しかし、他の従来の又はこれから開発される加熱機構をこの代わりに用いてもよい。
【0031】
駆動ロール130は媒体シートを帯状印刷範囲同士の間の間隔ずつ段階的に前進させ、新たな領域が横断運動キャリッジアセンブリ140の下に来るようにする。媒体シートを消去のために必要な所望の温度にまで上げられた状態とするために、またスループット(処理速度)の改善のために用紙が前進する間の駆動スピードは望ましい敏速さを持っているとすると、媒体シートは、事前調整ステーションを形成する加熱定着ロール135のうちの相対的に狭いニップの前の部分に巻き付くか、又は定着ロール135は媒体シートの前進量と同等又はこれより長いニップを持つ必要があるか、のいずれかである。一時的媒体シートが事前調整から多くの利益を得るので、これを実現するための1つの方法は、一時的媒体シートが下側トレイ125から給紙されるようにすることである。この媒体の給紙経路は、加熱ロール135の円弧部分を通過するようになっており、接触面積を増大させることができ、ひいては熱の伝達をよくし、ドゥエル時間(その部分に用紙が滞在する時間)を増大させる(図2参照)。また、定着ロールの代わりに、他の実施形態で説明されるような媒体シートの上及び/又は下に設けたプラテンヒータなどの別の事前調整ステーション要素を用いてもよい。また、更に他の加熱方法を用いることもできる。
【0032】
図3に更にわかりやすく示されているとおり、同じキャリッジアセンブリ140に2つのプリントヘッド150,160が搭載可能であり、それらプリントヘッドは媒体の給紙経路方向Pを横切る(例えば直交する)キャリッジ移動方向Cに沿って並べて配置することができる。コントローラ110内の画像経路電子回路は、この技術分野で知られているように、キャリッジアセンブリ140が媒体シートを横切って行ったり来たり往復動作するのにつれて、ソースデータに基づく各プリントヘッドによる画像形成を制御する。
【0033】
行ったり来たりの往復動作は、例えば、インクジェットプリントヘッド150とUVプリントヘッド160を固定的に収容するカートリッジ筐体140を備えたキャリッジアセンブリ140により実行してもよい。ハウジング142は、ガイドバー144により横方向に案内されており、この分野で知られているようなモータ(図示省略)によるケーブル駆動、又は送りねじ(図示省略)による駆動などのような駆動機構146により動かされる。
【0034】
一般的には、インクジェットプリントヘッドは、様々なインクジェットノズルの動作を保守するための保守ステーション(保守機構)を有する。保守ステーションは、通常、インクが過度に乾燥するのを防ぐために、不使用時にノズルを覆うインクジェットプリントヘッドキャップを備える。これらステーションは、キャリッジアセンブリのパーク(駐機)位置にしばしば来る。このパーク位置は、キャリッジアセンブリの移動範囲の一方端に近く、媒体シートに向かい合った印刷ゾーンの領域からは外れている。しかし、インクジェットプリントヘッド150を用いない時のUVプリントヘッド160の動作により、パーク位置へと戻ることが、通常より長い期間の間、妨げられることになるので、インクジェットプリントヘッド150に対し、位置決め可能(位置変更可能)な保守キャップを直接付加することが望ましいかもしれない。これにより、移動中でもインクジェットプリントヘッド150に蓋をすることができる。この代わりに、インクジェットプリントヘッド及び/又はUVプリントヘッドが、使用されないときに選択的にキャリッジアセンブリから取り外され、キャリッジアセンブリと共に移動するのは一度に1つのプリントヘッドだけとなるようにしてもよい。例えば、これにより、インクジェットプリントヘッドは、UVプリントヘッドの動作中には、保守ステーションのところにとどまることとなる。
【0035】
プリントヘッド150,160を通り過ぎ、出力トレイ180などの印刷出力へと向かう媒体シートの搬送は、プリントヘッドの下流の、モータ115により駆動されるピンチロール175などのような、他の駆動機構により補助されるようにしてもよい。
【0036】
いくつかの例では、キャリッジアセンブリ140及びプリントヘッド150,160により横切られる印刷ゾーンの領域に、媒体シートを書き込みに適した温度まで上がった状態に維持する印刷ゾーン調整ステーション170を設ける。これは、本願と共に出願した米国特許出願に示されたフォトクロミック用紙の組成などのような、画像形成のためにUV照射と熱の組み合わせに依存する一時的媒体にとって特に好適である。
【0037】
いくつかの実施形態では、上述の温度は環境温度(室温)より高く、例えば40〜90℃の範囲など、又は約70℃などに維持される。また、いくつかの例では、印刷ゾーン調整ステーション170は能動型でも受動型でもよい。能動型の場合、印刷ゾーン調整ステーション170は、加熱プラテンとして形成される。この加熱プラテンは、図示のように、プリントヘッド150,160の下に位置するとともに、概略的には給紙方向に沿ったプリントヘッド150/160の幅にわたって延びており、出力トレイ180そのものの一部であってもよい。能動型の場合の調整ステーション170は、印刷ゾーンを越えるまで延びてはいけない。受動型の場合、印刷ゾーン調整ステーション170は、熱伝導性の低い断熱プラテンとして構成してもよい。断熱プラテンは、媒体シートの冷却速度を制御することで、印刷中に所望の温度が維持されるようにする。インクジェット印刷などの水性インク印刷システムも、媒体が加熱された場合に画質が向上するので、印刷ゾーン調整ステーション170は、どちらの印刷技術でも、媒体シートを、画像形成プロセスにおいて必要な品質及び濃度を実現するのに要求される温度になるよう制御するのに用いることができる、共用の構成要素の例となる。
【0038】
二媒体プリンタ100を用いることで、ユーザは、2つの異なる画像形成技術を用いて、2つの媒体シートタイプのいずれかに対して容易に印刷を行うことができる。いくつかの例では、媒体シートのタイプは、処理モードの設定によりユーザに選択されるか、又は、入力画像ファイルの一部分として指定される。後者の場合、媒体シートのタイプの選択は、画像内容に基づいて自動的に行われる。原稿の査読などのように一時的な文書が望まれる場合、ユーザは一時的文書モードを選択する。この場合、プリンタ100は媒体シートを一時的媒体トレイ125から給紙し、事前調整ステーション135を起動して加熱する(図2)。それから、媒体シートが加熱されたニップを通過し、一時的媒体シート上に既に画像が存在していたとしても、それはこのニップにて消去される。次に、加熱された媒体シートは、印刷ゾーンへと進められる。この印刷ゾーンで、共通のキャリッジアセンブリ上で往復動作するUV LEDプリントヘッド160を用いて、受信した入力画像ファイルに基づいて、その媒体シート上に書き込みが行われる。印刷ゾーン調整ステーション170は、この印刷の間、その媒体シートの温度を所望の温度に維持する。同様に、保管用の文書が要求される場合、ユーザは保管用文書モードを選択する。この場合、プリンタ100は通常(従来)媒体トレイ120から、ニップを通って印刷ゾーンへと給紙する。この印刷ゾーンでは、共通のキャリッジアセンブリ上で往復動作するインクジェットプリントヘッド150を用いて、媒体シートに書き込みが行われる(図1)。一時的文書の場合と同様に、事前調整ステーション135及び印刷ゾーン調整ステーション170のうちの一方又は両方が起動され、画質を向上させるために媒体シートが高い温度に保たれるようにしてもよい。適切に動作するようにするために、本願と共に出願した米国特許出願に記載されるように、センサを設けて、各トレイに適切な媒体シートタイプが入っていることを検知するようにしてもよい。この代わりに、フォトクロミック用紙などの一時的媒体シートは、コーティングプロセスのために色が白くないことが多いので、色でも見分けることができる。
【0039】
図4に示す第2の実施形態は、図1、図2の実施形態に似ており、共通の筐体を持つ二媒体タイププリンタ200を提供する。この筐体内には、コントローラ(CNT)210と、(従来の通常の用紙などの)第1タイプの媒体シートを収容した第1媒体トレイ220と、(一時的なフォトクロミック媒体などの)第2タイプの媒体シートを収容した第2媒体トレイ225と、インクジェットプリントヘッド250とUVプリントヘッド260を移動のために搭載した往復動作キャリッジアセンブリ240と、印刷ゾーン調整ステーション270と、出力トレイ280と、が収容されている。この第2の実施形態は、駆動ロールの代わりにピンチロール型の駆動機構295を用い、事前調整ステーションとして定着ロールの代わりに上側及び下側の加熱プラテン230及び290を用いるという点で、図1及び図2の実施形態と異なる。ピンチロール型の駆動機構は周知であり、図3に要素175として示されるような媒体の外側の辺の近くに位置するピンチロールを供えるものとして構成することができ、図3と同様モータより駆動される。上側及び下側の加熱プラテン230,290を用いることにより、給紙中に媒体シートに面する表面積が増大するため、(用紙の)滞在時間を低減し、媒体給紙速度を速めるという結果をもたらすことができる。このように表面積を増大させることで、加熱効率が向上し、これにより媒体シートが所望の消去温度すなわち事前調整温度条件まで素早く到達できるようになる。この実施形態では、図示のように、第1ゾーンで画像形成前に媒体シートの事前調整が実行され、第2ゾーンで印刷中の媒体シートの調整が実行される。
【0040】
図5の第3の実施形態は、図4の実施形態に似ており、共通の筐体を持つ二媒体タイププリンタ300を提供する。この筐体内には、コントローラ(CNT)310と、(従来の通常の用紙などの)第1タイプの媒体シートを収容した第1媒体トレイ320と、(一時的なフォトクロミック媒体などの)第2タイプの媒体シートを収容した第2媒体トレイ325と、インクジェットプリントヘッド350とUVプリントヘッド360を移動のために搭載した往復動作キャリッジアセンブリ340と、印刷ゾーン調整ステーション370と、出力トレイ380と、が収容されている。この第2の実施形態でも、事前調整ステーションとして加熱ロールの代わりに下側の加熱プラテン330を用いる。しかし、駆動力の供給と熱効率の改善のために、この実施形態では真空押さえ390を用いる。真空押さえ390は、媒体シートを給紙経路に沿って前進させる役目を果たすと共に、その媒体シートを加熱された下側プラテン330に押しつけて熱効率を向上させ、媒体シートが所望の消去温度状態すなわち事前調整温度状態により素早く到達できるようにする。図4の実施形態と同様、この実施形態でも、図示のように、第1ゾーンで媒体シートに対して印刷に先立って事前調整が行われ、第2ゾーンで印刷中の媒体シートの調整が実行される。
【0041】
例示した各実施形態では、横運動するキャリッジと往復動作する第1及び第2のプリントヘッドを利用する例を示したが、他の実施形態では、例えば位置が固定された全幅プリントバー又は半幅プリントバーを用いてもよい。この場合、プリンタの専有面積と用紙供給経路を小さくするために。第1のプリントヘッドと第2のプリント辺土とは互いに非常に近づけて配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
100 二媒体プリンタ、110 印刷コントローラ、120 第1タイプ媒体トレイ、125 第2タイプ媒体トレイ、130 駆動ロール、135 加熱ロール、140 キャリッジアセンブリ、150 インクジェットプリントヘッド、160 UVプリントヘッド、170 印刷ゾーン調整ステーション。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを用いる二媒体プリンタであって、
通常の媒体シートを収容するように構成された第1媒体トレイと、
一時的な再使用可能な媒体シートを収容するように構成された第2媒体トレイと、
印刷出力部と、
前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのそれぞれを前記印刷出力部に接続する給紙経路であって共通給紙経路部分を含んだ給紙経路と、
前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのうちの一方から通常の媒体シート及び一時的な再使用可能な媒体シートを選択的に前記印刷出力部へと前記給紙経路に沿って給紙方向に給紙する駆動アセンブリと、
前記共通の給紙経路部分上に配設された往復動作キャリッジアセンブリと、
前記キャリッジアセンブリに搭載され、当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動する第1プリントヘッドであって、通常の媒体シートに対してマーキング材料を付着させることで当該媒体シート上に画像を形成する第1プリントヘッドと、
前記キャリッジアセンブリに搭載され、当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動する第2プリントヘッドであって、一時的な再使用可能な媒体シートの表面に照射を行うことで当該媒体シート上に一時的な画像を形成する第2プリントヘッドと、
前記共通の給紙経路部分上の前記往復動作キャリッジアセンブリの上流に配設され、少なくとも一時的な再使用可能な媒体シートを加熱することで当該シートを印刷のために調整する事前調整ステーションと、
を備える二媒体プリンタ。
【請求項2】
二媒体プリンタを用いて通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを用いる二媒体印刷方法であって、
通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとのうちから選ばれた媒体シートを共通給紙経路上に事前調整ステーションを通過するように給紙し、
給紙された前記媒体シートの状態を、前記事前調整ステーションにて所定の温度まで加熱することにより調整し、
共通の往復動作キャリッジアセンブリを操作することで、前記媒体シートが通常の媒体シートである場合にマーキング材料を前記媒体シート上に付加する第1プリントヘッドと、前記媒体シートが一時的な再使用可能な媒体シートである場合に前記媒体シートの表面を照射する第2プリントヘッドと、の一方を用いて、前記給紙された媒体シートに画像を形成し、
画像が形成された前記媒体シート上を出力する、
二媒体印刷方法。
【請求項3】
通常の媒体シートと一時的な再使用可能な媒体シートとを用いる二媒体プリンタであって、
通常の媒体シートを収容するように構成された第1媒体トレイと、
一時的な再使用可能な媒体シートを収容するように構成された第2媒体トレイと、
印刷出力部と、
前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのそれぞれを前記印刷出力部に接続する給紙経路であって共通給紙経路部分を含んだ給紙経路と、
前記第1媒体トレイ及び前記第2媒体トレイのうちの一方から通常の媒体シート及び一時的な再使用可能な媒体シートを選択的に前記印刷出力部へと前記給紙経路に沿って給紙方向に給紙する駆動アセンブリと、
前記共通の給紙経路部分上に配設された往復動作キャリッジアセンブリと、
前記キャリッジアセンブリに搭載され、当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動するインクジェットプリントヘッドであって、通常の媒体シートに対してマーキング材料を付着させることで当該媒体シート上に画像を形成するインクジェットプリントヘッドと、
前記キャリッジアセンブリに搭載され、当該キャリッジアセンブリと共に前記給紙方向を横切る方向に移動するUVプリントヘッドであって、一時的な再使用可能な媒体シートの表面に照射を行うことで当該媒体シート上に一時的な画像を形成するUVプリントヘッドと、
前記共通の給紙経路部分上の前記往復動作キャリッジアセンブリの上流に配設され、少なくとも一時的な再使用可能な媒体シートを、約120℃から約160℃までの範囲の温度に、あるドゥエル時間の間加熱することで、前記一時的な再使用可能な媒体シート上の以前からある画像を、前記UVプリントヘッドによる印刷の前に、消去する事前調整ステーションと、
前記共通の給紙経路部分上の前記往復動作キャリッジアセンブリの下流に配設され、環境内での印刷の間、前記通常の媒体シート又は前記一時的な再使用可能な媒体シートの一方を、前記環境の温度より高いある温度に維持する印刷ゾーン調整ステーションと、
を備える二媒体プリンタ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208325(P2010−208325A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48498(P2010−48498)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】