説明

二機能性ポリマーに結合させたインフルエンザウイルス阻害剤

ポリマーに結合した2種類以上の抗ウイルス剤を含む抗菌組成物、並びに該組成物を製造する方法及び使用する方法を本明細書に記載する。一実施形態においては、2種類以上の抗ウイルス剤がポリマーに共有結合している。適切な抗ウイルス剤としては、シアル酸、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジン、リマンタジン及びそれらの組合せが挙げられるが、それだけに限定されない。ポリマーは、好ましくは水溶性生体適合性ポリマーである。適切なポリマーとしては、ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(PIBMA)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(l−グルタミン酸)、ポリリシン、ポリ(アクリル酸)、プリアギニック酸、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ポリエチレンイミン並びにそれらのブレンド及びそれらの共重合体が挙げられるが、それだけに限定されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般に、殺ウイルス性および/またはウイルス抑止性の活性を示す、ポリマー組成物の分野にある。
【0002】
(関連出願の引用)
本願は、2007年8月27日に出願した米国出願第60/968,213号の利益およびそれに対する優先権を主張する。
【0003】
政府支援
米国政府は、Army Research Officeとの契約DAAD−19−02−D−0002の下でMITのInstitute for Soldier Nanotechnologiesを介した米国陸軍による財政支援、並びにJianzhu ChenへのNIH助成金AI56267(6895481)及びAI074443(6915739)に基づいて、この技術における一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0004】
A型インフルエンザウイルスは、人間集団において流行及び汎発流行を引き起こし、膨大な苦痛及び経済的損失を与える。現在、2つの異なる戦略、すなわちワクチン及び小分子治療薬を使用して、ウイルスの蔓延を抑制することが試みられている。しかし、ワクチン接種は、防御が限られており、将来広まる系統を正確に予測すること、大集団に十分な量のワクチンを短期間で製造すること、リスクがある集団にワクチンを投与することなどの幾つかの物流の問題が足かせになっている。
【0005】
小分子治療薬に関しては、現在、インフルエンザの治療及び/又は防御のために4種類の抗ウイルス薬、すなわちアマンタジン、リマンタジン、ザナミビル及びオセルタミビルがある。これらの薬剤は、インフルエンザ感染症の重症度及び期間を減少させ得るが、有効であるためには、発症後24〜48時間以内に投与されなければならない。さらに、安定な伝染性薬剤耐性インフルエンザ系統の出現は、これらの薬剤を無効にするおそれがある。
【0006】
薬剤耐性に打ち勝つために、微生物の異なる生命維持プロセスを同時に妨げる2種類以上の薬剤を含む併用療法を使用しなければならない。アマンタジン及びリマンタジンはM2イオンチャネルタンパク質を阻害するのに対して、ザナミビル及びオセルタミビルはノイラミニダーゼ酵素(NA)を阻害する。残念ながら、広まっているインフルエンザウイルスの大部分は、M2阻害剤に対して既に抵抗性であるので、これら4種類の薬剤を含む伝統的併用療法は、インフルエンザ抑制に対してほとんど付加価値がない。微生物の耐性の発生を阻止又は防止しつつ、ウイルス感染症を治療するのに有効である抗ウイルス組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、ウイルスの耐性の発生を阻止又は防止しつつ、インフルエンザなどのウイルス感染症を治療するのに有効である抗ウイルス組成物、並びにその製造方法及び使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ポリマーに結合した1種類以上の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス組成物、並びに該組成物の製造方法及び使用方法を本明細書に記載する。1種類以上の抗ウイルス剤がポリマーに共有結合し、それによって薬剤耐性の発生を防止又は減少させる。適切な抗ウイルス剤としては、シアル酸、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジン、リマンタジン及びそれらの組合せが挙げられるが、それだけに限定されない。ポリマーは、好ましくは水溶性生体適合性ポリマーである。適切なポリマーとしては、ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(PIBMA)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリリシン、ポリ(アクリル酸)、プリアギニック酸(plyaginic acid)、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ポリエチレンイミン、並びにそれらのブレンド及びそれらの共重合体が挙げられるが、それだけに限定されない。別の一実施形態においては、組成物は、1種類の抗ウイルス剤を含むポリマーと第2の抗ウイルス剤を含むポリマーとの物理的混合物を含む。一実施形態においては、組成物は、PIBMAに結合したシアル酸、ザナミビルなどの2種類の抗菌剤を含む。別の一実施形態においては、組成物は、PIBMAに結合したシアル酸などの第1の抗菌剤とPIBMAに結合したザナミビルなどの第2の抗菌剤との物理的混合物を含む。
【0009】
抗ウイルス剤(単数又は複数)の濃度は、ポリマーの約5重量%から約25重量%である。一実施形態においては、各抗ウイルス剤の濃度は独立にポリマーの5重量%、ポリマーの8重量%、ポリマーの10重量%、ポリマーの15重量%、ポリマーの18重量%、ポリマーの20重量%又はポリマーの25重量%である。
【0010】
組成物は、経腸投与又は非経口投与用に調合することができる。適切な経口剤形としては、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤及びロゼンジが挙げられるが、それだけに限定されない。鼻腔内に適した剤形としては、液剤、懸濁剤、散剤及び乳剤が挙げられるが、それだけに限定されない。非経口投与に適した剤形としては、液剤、懸濁剤及び乳剤が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0011】
本明細書に記載の組成物は、耐性の発生を阻止又は防止しつつ、インフルエンザ、呼吸器合胞体(respiratory syncythial)ウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどの種々のウイルス感染症及び他の呼吸器疾患を治療するのに有効である。例えば、ポリ(イソブイレン(isobuylene)−alt−無水マレイン酸)、10%ザナミビル及び10%シアル酸を含む複合体は、IC50値が7nMであり、これは単量体ザナミビルと比較して90倍の増加である。別の例においては、単機能性薬剤の等モル濃度の組合せ(PIBMA−SA+PIBMA−ZA)は、野生型系統であろうと変異体系統であろうと、単機能性多価薬剤よりも少なくとも1桁強力なA型インフルエンザウイルス阻害剤であった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】図1は、シアル酸をザナミビルの活性化誘導体に変換する反応スキームを示す。
【図1−2】図1は、シアル酸をザナミビルの活性化誘導体に変換する反応スキームを示す。
【図1−3】図1は、シアル酸をザナミビルの活性化誘導体に変換する反応スキームを示す。
【図2】図2は、ザナミビルの活性化誘導体をポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)に結合させる反応スキームを示す。
【図3】図3は、シアル酸のO−グリコシドの合成のための反応スキームを示す。
【図4】図4は、シアル酸のO−グリコシドをポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)に結合させる反応スキームを示す。
【図5】図5は、ザナミビルの活性化誘導体とシアル酸のO−グリコシドの両方をポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)に結合させる反応スキームを示す。
【図6】図6は、マウス肺におけるインフルエンザウイルス産生のPIMBA−ZA−SAによる阻害を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
I.定義
本明細書で用いる「殺ウイルス性」(virucidal)とは、ウイルスを中和するか又は破壊する能力のあることを意味する。
【0014】
本明細書で用いる「ウイルス抑止性」(virustatic)とは、ウイルスの複製を阻害することを意味する。
【0015】
本明細書で用いる「生体適合性」とは、材料が生組織に対して傷害反応も毒性反応も免疫反応も生じないことを意味する。
【0016】
本明細書で用いる「水溶性ポリマー」とは、水又は単相の水性−有機混合物に少なくとも幾らかの測定可能な溶解性、例えば、室温で1mg/リットルを超える溶解性を有するポリマーを意味する。
【0017】
本明細書で用いる「IC50」とは、共に同一条件下のプラーク減少アッセイで測定して、ポリマー結合薬剤(rug)の非存在下で観察されたプラーク数と比較してプラーク数を50%減少させるポリマー結合薬剤の濃度を意味する。IC50は、感染症防止の尺度になる。
【0018】
本明細書で用いる「薬剤耐性を阻害又は減少させる」とは、耐性ウイルスの発生率を低下させること、又はザナミビルなどの抗ウイルス薬に対して既に抵抗性であるインフルエンザウイルスを阻害することを指す。
【0019】
II.組成物
水溶性ポリマーに共有結合した1種類以上の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス組成物を本明細書に記載する。一実施形態においては、2種類以上の抗ウイルス剤が水溶性ポリマーに結合している。別の一実施形態においては、組成物は、第1の抗ウイルス剤に結合した第1の水溶性ポリマーと第2の抗ウイルス剤に結合した第2の水溶性ポリマーとのブレンドを含む。
【0020】
抗ウイルス剤
抗ウイルス剤は、ポリマーに結合後もその活性の一部を保持するのであれば、いずれの抗ウイルス剤も使用することができる。例示的クラスの抗ウイルス薬としては、ノイラミニダーゼ阻害剤、M2阻害剤、プロテイナーゼ阻害剤、イノシン5’−一リン酸塩(IMP)デヒドロゲナーゼ(細胞酵素)阻害剤、ウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤及びsiRNAが挙げられるが、それだけに限定されない。適切な薬剤としては、シアル酸、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジン、リマンタジン及びそれらの組合せが挙げられるが、それだけに限定されない。ザナミビル及びオセルタミビルはノイラミンダーゼ(neuramindase)酵素(NA)を阻害し、アマンタジン及びリマンタジンはM2イオンチャネルタンパク質を阻害する。
【0021】
ザナミビルは、ウイルスNAの触媒作用部位に結合してその活性を阻害する比較的小さい分子(MW1,000Da)である。共有結合性リンカーを介してザナミビルに結合したポリマーは、ポリマー中のザナミビル部分が依然として触媒作用部位に結合してNA活性を阻害することができるように、調製することができる。かかるポリマー結合抗ウイルス剤は、インフルエンザなどのウイルス感染症の阻止と薬剤耐性ウイルスの出現の防止の両方に有効であるはずである。
【0022】
特定の理論に拘泥するものではないが、ポリマー結合抗ウイルス剤は、多価結合のために単量体抗ウイルス剤よりも強力な阻害剤であると仮定される。インフルエンザビリオンは、30〜50個のNA分子と300〜500個のHA分子を含む。したがって、同一ポリマー骨格に結合した複数のザナミビル及び複数のシアル(SA)部分が存在すると、同一ビリオン上の複数のNA及びヘマグルチニン(HA)に同時に結合することができる。ポリマー結合抗ウイルス部分とNA/HAとのアビディティのこのかなりの増加によって、ポリマー−抗ウイルス剤複合体はより強力な競合的阻害剤になるはずである。第二に、NA/HAの変化が酵素の活性部位への単量体抗ウイルス剤の結合をかなり弱める場合でも、多価結合のために、ポリマー結合抗ウイルス剤はNA/HAの強力な阻害剤のままであるはずである。例えば、ザナミビルは、NAの活性部位に親和定数10−10Mから10−9M(0.1nM〜1.0nM)で結合する。結合親和性が1/10から1/10に低下した場合でも、同一ポリマー骨格に結合した3個を超えるザナミビル部分が同一ビリオン上のNAに同時に結合するのであれば、複合体は、依然として強力な阻害剤であるはずである。これは、ザナミビルが大部分のザナミビル耐性ウイルスのNAの触媒作用部位に依然として結合するという事実(IC50 15nMから645nM)によって裏付けられる。最後に、複数のNA分子に大きいポリマーが結合すると、感染細胞からのウイルス放出の妨害に加えてウイルスの感染を妨害する立体障害又はウイルス凝集体を生成することができる。
【0023】
異なる標的を介してインフルエンザウイルスを阻害する2種類以上の別の阻害剤を同一ポリマー骨格に結合させること、及び/又は単機能性ポリマー結合リガンドの組合せは、ウイルスの耐性をより有効に抑制するはずである。例えば、インフルエンザウイルス感染中に、細胞表面の糖タンパク質のシアル酸(SA)残基へのヘマグルチニン(HA)の結合は、細胞へのウイルス侵入に極めて重要である。SAはインフルエンザウイルスに対する細胞受容体であるので、SA自体の使用は、ウイルスの耐性を抑制するのに役立ち得る。というのは、シアル酸に結合しないウイルスHAは、宿主細胞に感染する能力の低下である可能性があるからである。
【0024】
ザナミビルとシアル酸の両方は、ビリオン上の特定の標的(それぞれNA及びHA)に結合することによってその効果を発揮する。したがって、これらの薬剤が同一ポリマー骨格に結合すると、その阻害効果を発揮するために細胞に取り込まれる必要がない組成物が得られるはずである。同一ポリマー骨格に共有結合したザナミビルとシアル酸の両方を含むか又はザナミビルを含むポリマーとシアル酸を含むポリマーとの物理的混合物を含むかの二機能性ポリマーは、薬剤耐性ウイルスの出現を防止するのに特に有効であることが判明し得る。ザナミビルとシアル酸は、異なる標的を介してインフルエンザウイルスを阻害し、したがって併用療法の利点があるはずである。さらに、多価結合のために、重合体阻害剤は、単量体阻害剤に対して抵抗性であるウイルスに対して有効なままであり得る。
【0025】
抗ウイルス剤の濃度は、ポリマーの約5重量%から約25重量%である。一実施形態においては、各抗ウイルス剤の濃度は独立にポリマーの5重量%、ポリマーの8重量%、ポリマーの10重量%、ポリマーの15重量%、ポリマーの18重量%、ポリマーの20重量%又はポリマーの25重量%である。
【0026】
B.ポリマー
2種類以上の抗菌剤が任意の水溶性生体適合性ポリマーに結合することができる。一実施形態においては、2種類以上の抗菌剤が同一ポリマーに結合する。別の一実施形態においては、組成物は、第1の水溶性生体適合性ポリマーに結合した第1の抗菌剤と第2の水溶性生体適合性ポリマーに結合した第2の抗菌剤との物理的混合物を含む。ポリマーは、同じポリマー(すなわち、同じ化学組成及び分子量を有する。)でも異なるポリマー(すなわち、異なる化学組成及び/又は分子量)でもよい。
【0027】
ポリマーは、好ましくは無毒で非免疫原性であり、生きている生物体から容易に排出される。一実施形態においては、ポリマーは生分解性である。好ましくは、抗ウイルス剤(単数又は複数)は、抗ウイルス剤とウイルスの結合に関与しないことが示された官能基を介してポリマーに結合する。例えば、インフルエンザNAに結合したザナミビルのX線結晶構造によれば、糖の7−ヒドロキシル基はNAと直接接触せず、したがって7位を介したポリマーへの薬剤の結合は結合相互作用を損なわないはずである。7−ヒドロキシル基をアミノ基、またはスルフヒドリル基などの別の反応性官能基に変換することもできる。したがって、ヒドロキシ基、アミノ基若しくはスルフヒドリル基と反応する官能基、又はヒドロキシ基、アミノ基若しくはスルフヒドリル基と反応する官能基に変換可能である基を含むポリマーを使用して、本明細書に記載の組成物を調製することができる。あるいは、ポリマーは、抗菌剤上の求電子基と反応するヒドロキシ基、アミノ基、またはチオール基などの求核基を含むことができる。
【0028】
適切なポリマーとしては、ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(PIBMA)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリリシン、ポリ(アクリル酸)、プリアギニック酸、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ポリエチレンイミン並びにそれらのブレンド及びそれらの共重合体が挙げられるが、それだけに限定されない。ポリマーは、典型的には、1,000から1,000,000ダルトン、好ましくは10,000から1,000,000ダルトンの分子量を有する。一実施形態においては、組成物は、PIBMAに結合したシアル酸、ザナミビルなどの2種類の抗菌剤を含む。別の一実施形態においては、組成物は、PIBMAに結合したシアル酸などの第1の抗菌剤とPIBMAに結合したザナミビルなどの第2の抗菌剤との物理的混合物を含む。
【0029】
III.製造方法
本明細書に記載の組成物は、抗ウイルス剤又はその誘導体を水溶性生体適合性ポリマーに共有結合することによって調製することができる。例えば、ポリマーに結合させる抗ウイルス剤を、当技術分野で公知の種々の化学反応によって活性化して、反応性誘導体を形成する。抗菌剤の反応性誘導体は、ポリマーと反応して、抗ウイルス剤をポリマーに共有結合的に連結させる。反応性誘導体は、ポリマー上の求電子基又は求核基と反応する求核基又は求電子基を含むことができる。
【0030】
一実施形態においては、シアル酸を抗ウイルス剤ザナミビルの活性化誘導体に変換する。図1は、シアル酸をザナミビルの活性化誘導体に変換する反応スキームである。図2は、ザナミビル中の糖の7−ヒドロキシル基を介して活性化ザナミビルをPIBMAに結合させる反応スキームである。インフルエンザNAに結合したザナミビルのX線結晶構造によれば、糖の7−ヒドロキシル基はNAと直接接触せず、したがって7位を介したポリマーへの薬剤の結合は結合相互作用を損なわないはずである。図3は、シアル酸のO−グリコシドの合成のための反応スキームである。シアル酸のO−グリコシドは、図4に示すようにPIBMAに結合する。図5は、活性化ザナミビル誘導体とシアル酸のO−グリコシドの両方をPIBMAに同時に結合させる反応スキームである。
【0031】
投与すべき投与量は、当業者が容易に決定することができ、患者の年齢及び体重並びに治療すべき感染症に応じて決まる。ポリマーに結合される抗ウイルス剤分子の量は、ポリマー上の反応基数に依存する。例えば、重量平均分子量165kDaのPIBMAは、約1,070個の繰り返し単位を有する。ポリマー鎖1本当たりの平均シアル酸残基数は、5%、10%、12%、16%及び33%占有率であり、それぞれ53、106、128、171及び353である。同様に、5〜25%ザナミビルを含むPIBMA(165kDa)は、ポリマー鎖1本当たり53〜267個のザナミビル部分を含む。10%シアル酸と10%ザナミビルを有するPIBMA重合体鎖は、2個の糖部分の各々ほぼ106単位を含む。
【0032】
IV.使用方法及び投与方法
本明細書に記載の組成物は、ヒトなどのほ乳動物における感染症の治療及び/又は防止に使用することができる。治療すべき感染症としては、インフルエンザなどのウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、又はそれらの組合せが挙げられるが、それだけに限定されない。本明細書に記載の組成物は、非経口投与用又は経腸投与用に調合することができる。一実施形態においては、感染症は、トリ又はヒトインフルエンザA型又はB型などのウイルス感染症である。組成物は、野生型又は変異型のトリ及びヒトインフルエンザウイルスに対して有効である。
【0033】
A.剤形
本明細書に記載の組成物は、経腸製剤、非経口製剤又は局所製剤用に調合することができる。一実施形態においては、組成物を経腸投与用又は非経口投与用に調合する。製剤は、1種類以上の薬学的に許容される賦形剤、担体及び/又は添加剤を含むことができる。経腸剤形及び非経口剤形を調製する方法は、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,6th Ed.,Ansel et al.,Williams and Wilkins(1995)に記載されている。
【0034】
a.経腸剤形
適切な経口剤形としては、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びロゼンジが挙げられる。錠剤は、当技術分野で周知である圧縮技術又は成形技術によって製造することができる。ゼラチンカプセル剤又は非ゼラチンカプセル剤は、当技術分野で周知である技術によって、液体、固体及び半固体充填材料を封入することができる硬カプセルシェル又は軟カプセルシェルとして調製することができる。
【0035】
製剤は、安全で有効と考えられる材料で構成される薬学的に許容される担体を用いて調製することができ、望ましくない生物学的副作用も不必要な相互作用も起こさずに個体に投与することができる。担体は、医薬製剤中に存在する、活性成分又は複数の活性成分以外の全成分である。本明細書において一般に使用する「担体」としては、希釈剤、pH調節剤、防腐剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、充填剤及びコーティング組成物が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0036】
担体は、可塑剤、色素、着色剤、安定剤及び流動化剤を含み得るコーティング組成物の全成分も含む。放出遅延製剤は、”Pharmaceutical dosage form tablets”,eds.Liberman et.al.(New York,Marcel Dekker,Inc.,1989)、”Remington−The science and practice of pharmacy”,20th ed.,Lippincott Williams&Wilkins,Baltimore,MD,2000、および”Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems”,6th Edition,Ansel et al.,(Media,PA:Williams and Wilkins,1995)などの標準的参考文献に記載のように調製することができる。これらの参考文献は、錠剤及びカプセル剤並びに錠剤、カプセル剤及び顆粒剤の放出遅延剤形を調製するための担体、材料、装置及びプロセスに関する情報を提供する。
【0037】
適切なコーティング材料の例としては、セルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナートなどのセルロースポリマー;ポリビニルアセタートフタラート、アクリル酸ポリマー及びコポリマー、商品名EUDRAGIT(登録商標)(Roth Pharma,Westerstadt,Germany)で市販されているメタクリル樹脂、ゼイン、シェラック、並びに多糖が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0038】
さらに、コーティング材料は、可塑剤、色素、着色剤、流動化剤、安定剤、ポア形成剤、界面活性剤などの従来の担体を含むことができる。
【0039】
任意選択の薬学的に許容される賦形剤としては、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定剤及び界面活性剤が挙げられるが、それだけに限定されない。希釈剤は、「充填剤」とも称され、典型的には、錠剤の圧縮又はビーズ及び顆粒の形成のために実用的なサイズを用意するように固体剤形の体積を増加させるのに必要である。適切な希釈剤としては、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解デンプン、アルファ化デンプン、二酸化ケイ素、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム及び粉糖が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0040】
結合剤を使用して固体投与製剤に凝集性を付与し、かくして錠剤、ビーズ又は顆粒剤が剤形調合後に確実に完全なままであるようにする。適切な結合剤材料としては、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース及びソルビトールを含めた)糖、ポリエチレングリコール、ワックス、アラビアゴム、トラガカントなどの天然ゴム及び合成ゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース及びVeegumを含めたセルロース、並びにアクリル酸とメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸アミノアルキル共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドンなどの合成ポリマーが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0041】
滑沢剤は、錠剤製造を容易にするのに使用される。適切な滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、グリセロールベヘナート、ポリエチレングリコール、タルク及び鉱油が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0042】
崩壊剤は、投与後に剤形の崩壊又は「分解」を容易にするのに使用され、一般に、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、クレイ、セルロース、アルギニン(alginine)、ゴム、又は架橋PVP(GAF Chemical Corp製Polyplasdone(登録商標)XL)などの架橋ポリマーが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0043】
安定剤は、薬物分解反応を阻害又は遅延させるのに使用される。薬物分解反応としては、例として、酸化反応が挙げられる。
【0044】
界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤とすることができる。適切な陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン及び硫酸イオンを含むものが挙げられるが、それだけに限定されない。陰イオン性界面活性剤の例としては、長鎖スルホン酸アルキル及びスルホン酸アルキルアリール(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ビス−(2−エチルチオキシル)−スルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、並びにラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸アルキルのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウムなどの第四級アンモニウム化合物、ポリオキシエチレン及びココナツアミンが挙げられるが、それだけに限定されない。非イオン性界面活性剤の例としては、エチレングリコールモノステアラート、プロピレングリコールミリスタート、グリセリルモノステアラート、グリセリルステアラート、ポリグリセリル−4−オレアート、ソルビタンアシラート(acylate)、スクロースアシラート、PEG−150ラウラート、PEG−400モノラウラート、ポリオキシエチレンモノラウラート、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer(登録商標)401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド及びポリオキシエチレン水素化獣脂アミドが挙げられる。両性界面活性剤の例としては、N−ドデシル−β−アラニンナトリウム、N−ラウリル−β−イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンホアセタート(myristoamphoacetate)、ラウリルベタイン及びラウリルスルホベタインが挙げられる。
【0045】
b.非経口剤形
適切な非経口剤形としては、液剤、懸濁剤及び乳剤が挙げられるが、それだけに限定されない。非経口投与用製剤は、界面活性剤、塩、緩衝剤、pH調節剤、乳化剤、防腐剤、抗酸化剤、重量オスモル濃度/張性調節剤及び水溶性ポリマーを含めて、ただしそれだけに限定されない1種類以上の薬学的に許容される賦形剤を含むことができる。
【0046】
乳剤は、典型的には、再構成後の非経口投与のためにpH3〜8に緩衝化されている。適切な緩衝剤としては、リン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤及びクエン酸塩緩衝剤が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0047】
水溶性ポリマーは、非経口投与用製剤に使用されることが多い。適切な水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレングリコールが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0048】
防腐剤は、真菌及び微生物の増殖を防止するのに使用することができる。適切な抗真菌剤及び抗菌剤としては、安息香酸、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチピリジニウム(cetypyridinium chloride)、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール及びチメロサールが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0049】
別の剤形としては、液剤、懸濁剤、散剤及び乳剤を含めて、ただしそれだけに限定されない鼻腔内剤形が挙げられる。剤形は、1種類以上の薬学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含むことができる。適切な賦形剤及び担体は上述されている。
【実施例】
【0050】
(実施例1:ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)−ザナミビル(PIMBA−ZA)複合体の合成)
ザナミビル誘導体の合成
以下の公表手順を一部変更して使用して単量体ザナミビル類似体を合成した:a)Chandler,M.,MJ.Bamford,R.Conroy,B.Lamont,B.Patel,V.K.Patel,I.P.Steeples,R.Storer,N.G.Weir,M.Wright,and C.Williamson.1995.Synthesis of the potent influenza neuraminidase inhibitor 4−guanidino Neu5Ac2en.X−Ray molecular structure of 5−acetamido−4−amino−2,6−anhydro−3,4,5−trideoxy−D−erytro−L−gluco−nononic acid.J.Chem.Soc.Perkin Trans.1:1173−1180。b)Andrews,D.M.,P.C.Cherry,D.C.Humber,P.S.Jones,S.P.Keeling,P.F.Martin,C.D.Shaw,and S.Swanson.1999.Synthesis and influenza virus sialidase inhibitory activity of analogues of 4−Guanidino−Neu5Ac2en(Zanamivir)modified in the glycerol side−chain.Eur.J.Med.Chem.34:563−574。合成を図1に示す。
【0051】
PIMBA含有ザナミビル誘導体の合成
上で調製した単量体ザナミビル誘導体28mg(0.04mmol)をPIMBA(100mg、単量体基準で0.65mmol)の無水ジメチルホルムアミド(DMF、10mL)とピリジン(0.5mL)の溶液に添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌し、次いでNHOH(28%、10mL)溶液を用いて室温で24時間クエンチした。生成した混合物を蒸留水で48時間透析し(分子量カットオフ3,500ダルトン)、次いで凍結乾燥させて、白色粉末を得た。ポリマーは5%ZAを含んだ。8%ZA、18%ZA及び25%ZAを含む各ポリマーも調製した。PIMBA−ZAの形成の反応スキームを図2に示す。ポリマー骨格に結合したザナミビル誘導体の量をH−NMRによって定量化した。収率は80%を超えた。
【化1】

【0052】
(実施例2:PIMBA−ZA複合体の抗ウイルス活性)
PIMBA−ZAの抗ウイルス活性を測定するために、プラーク減少アッセイを実施した。阻害剤の10倍連続希釈物125μlを等体積のインフルエンザA/Victoria/3/75(H3N2)のリン酸塩緩衝化溶液(「PBS」)(800プラーク形成単位(pfu)/mL)と混合することによってアッセイを実施した。室温で1時間インキュベーション後、反応混合物200μlを6ウェル細胞培養プレート中のコンフルエントなMadin−Darbyイヌ腎臓(「MDCK」)細胞に添加し、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、溶液を吸引除去した。次いで、細胞にF12プラーク培地2mlを載せ、37℃で3日間インキュベートした。培養物を1%ホルムアルデヒドを用いて室温で1時間固定し、細胞を1%クリスタルバイオレット色素溶液で染色し、プラークを数えた。対照として、阻害剤なし、単量体ザナミビル誘導体、又は裸のPIMBAを使用した。プラーク数を対照実験(阻害剤なし)で観察されたプラーク数と比較することによって、ウイルスプラーク数を50%低減させるのに必要な阻害剤濃度(IC50)を計算した。比較を容易にするために、IC50値をポリマー又はザナミビル誘導体の濃度として計算した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、PIBMA自体は、検出可能な抗ウイルス活性をほとんど持たない。ザナミビル誘導体のIC50は約630nMである。対照的に、PIBMA−ZAのIC50値は、(ザナミビル複合化の百分率に応じて)約5nMであり、ほぼ100倍の効力向上である。さらに、ポリマーに複合化されたザナミビルの割合の変動は、IC50値に対しわずかな効果しか有さない。これらの結果は、水溶性PIBMAがザナミビル誘導体と容易に複合化することができ、ザナミビルは有効なままであることを示唆している。ザナミビル含有量5〜25%は、ポリマー鎖1本当たりに平均53から267個のザナミビル部分に相当することに注意されたい。ビリオン1個当たり35〜50個のNA分子しか存在しないので、これはかなり過剰のザナミビル部分である。ザナミビル含有量を減少させることによって凝集体形成を促進することができ、したがってより強力なPIBMA−ZA阻害剤を生成することができる。
【0055】
(実施例3:ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)−シアル酸(PIBMA−SA)複合体の合成)
シアル酸のO−グリコシドの合成
シアル酸を以下の公表手順によってリンカーに結合させた:a)Baumberger,F.,A.Vasella,and R.Schauer.1986.4−methylumbelliferyl 5−acetamido−3,4,5−trideoxy−−D−manno−2−nonulopyranosidonic Acid:Synthesis and Resistance to Bacterial Sialidases.Helvetica Chimica Acta 69:1927−1935。b)Warner,T.G.,and L.Laura.1988.An azidoaryl thioglycoside of sialic acid.A potential photoaffinity probe of sialidases and sialic acid−binding proteins.Carbohydrate Research 176:211−218。c)Byramova,N.E.,L.V.Mochalova,I.M.Belyanchikov,M.N.Matrosovich,and N.V.Bovin.1991.Synthesis of sialic acid pseudopolysaccharides by coupling of spacer−connected Neu5Ac with activated polymer.J.Carbohydr.Chem.10:691−700。合成を図3に示す。
【0056】
芳香族、ポリマー
シアル酸のO−グリコシドのポリマーの合成
上で調製したシアル酸のO−グリコシドの複合化は、ザナミビル誘導体とPIBMAの複合化の場合の上記同じ方法論に従う。ポリマーは5%SAを含んだ。10%SA、12%SA、16%SA及び33%SAを含む各ポリマーも調製した。PIMBA−SAの形成の反応スキームを図4に示す。ポリマー骨格に結合したシアル酸誘導体の量をH−NMRによって定量化した。収率は80%を超えた。
【化2】

【0057】
(実施例4:PIMBA−SA複合体の抗ウイルス活性)
PIBMA−SA複合体の抗ウイルス活性を測定するために、PIBMA−ZA複合体の場合に上述したようにプラーク減少アッセイを実施した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、リンカーで改変されたシアル酸は、検出可能な抗ウイルス活性を持たなかった。PIBMA−SAのIC50値は、ポリマーと複合化されたSAの割合に応じて114nMから3nMの範囲である。ポリマー中の利用可能な部位の5%又は10%がシアル酸誘導体と複合化された状態で、IC50値は約100nMである。占有率12%では、IC50値はほぼ1/5の22nMに低下した。占有率16%では、IC50値はさらに1/7に低下して3nMになった。しかし、占有率33%では、IC50値は17nMに上昇した。シアル酸含有量の関数としてのIC50値のこれらの変動は、SA複合化の最適量が存在することを示唆している。
【0060】
PIBMA骨格の重量平均分子量は165kDaであり、これは1,070個の繰り返し単位に対応する。占有率5%、10%、12%、16%及び33%におけるポリマー鎖1本当たりの平均シアル酸残基数は、それぞれ53、106、128、171及び353である。各インフルエンザビリオンは350〜500個のHA分子を有するので、IC50値とポリマー鎖と複合化されたシアル酸の数との間に単純な相関があるようには見えない。
【0061】
(実施例5:ザナミビルとシアル酸の両方を有するPIBMAの合成)
シアル酸とザナミビル誘導体の両方の同一PIBMAポリマーへの複合化は、ザナミビルとPIBMAの複合化の場合の上記同じ方法論によって実施することができる。シアル酸のO−グリコシドを、無水DMFとピリジン中のPIBMA溶液に添加した。ザナミビル類似体を添加し、反応混合物をNHOHでクエンチした。得られた溶液を蒸留水で透析し、凍結乾燥させて白色粉末を得た。PIBMA−ZA−SAの形成の反応スキームを図5に示す。ポリマー骨格に結合したシアル酸及びザナミビルの量をH−NMRによって定量化した。収率は80%を超えた。
【化3】

【0062】
(実施例6:PIMBA−ZA−SA複合体の抗ウイルス活性)
パイロット研究では、10%シアル酸と10%ザナミビルを含む二機能性ポリマーを調製し、そのIC50値をプラーク減少アッセイによって測定した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すように、PIBMA−ZA−SAのIC50値は7nMであり、これは単量体ザナミビル誘導体と比較して90倍の増加である。プラーク減少アッセイは、PBS(対照)に比較して、500ng/mlから0.05ng/mlまでの漸減濃度のPIBMA−ZA−SAを含むMDCK細胞培養物においてPIMBA−ZA−SAによるインフルエンザウイルス(Victoria)感染の阻害を示した。
【0065】
PIBMA−SA、PIBMA−ZA、PIBMA−SA−ZA、及びPIBMA−SAとPIBMA−ZAの組合せをヒトインフルエンザA型(A/Wuhan/359/95(H3N2)及びオセルタミビルに抵抗性であるその変異体バージョン)及びインフルエンザB型(ザナミビルとオセルタミビルの両方に抵抗性であるB/Hong−Kong/36/05変異体系統)に対しても試験した。表4に示すように、PIBMA−SAは、インフルエンザA型とインフルエンザB型の両方に対してシアル酸誘導体(単量体)よりも>10〜10倍活性である。PIBMA−ZAのIC50値は、A型インフルエンザウイルスの野生型及び変異体系統に対してそれぞれ77nM及び250nMであり、ザナミビル誘導体のIC50値13μM及び120μMよりもはるかに低い。
【0066】
単機能性薬剤の等モル濃度の組合せ(PIBMA−SA+PIBMA−ZA)は、最良の単機能性多価薬剤、すなわちPIBMA−ZA単体(PIBMA−SA単体と比較してはなおさら)よりも少なくとも1桁強力な(野生型であろうと変異体系統であろうと)A型インフルエンザウイルスの阻害剤であり、効果が相加的であるよりも大きいことを示している。抗ウイルス効力の同様に顕著な増強は、PIBMA−ZA(10%)−SA(10%)、すなわち、同一ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)鎖に共有結合した等モル濃度のシアル酸誘導体とザナミビル誘導体でも得ることができた。二機能性ポリマー結合リガンド(PIBMA−SA+PIBMA−ZA)とPIBMA−ZA−SAの両方は、インフルエンザA型(Wuhan系統)に対してPIBMA−ZAよりも更に約10倍強力であることは注目すべきである(表4)。一方、インフルエンザB型の場合、PIBMA−ZAが最高の抗ウイルス活性(IC50=41nM)を示した。
【0067】
【表4】

【0068】
PIBMA−SA、PIBMA−ZA及びPIBMA−SA−ZAをトリインフルエンザウイルスA型(A/シチメンチョウ/MN/833/80(H4N2)、及びザナミビルに対して抵抗性であるその変異体バージョン)に対しても試験した。表5に示すように、シアル酸誘導体は、何ら抗ウイルス活性を示さなかった(10nM濃度でも対照と比較してプラーク数の認めうるほどの減少がない)が、PIBMA−SAのIC50値は野生型及び変異体系統に対してそれぞれ32μM及び89μMであった。PIBMA−ZAのIC50値は、野生型及び変異体系統に対してそれぞれ3μM及び31μMであった。これは、ザナミビル誘導体のIC50値よりも4倍及び17倍低い。PIBMA−ZAは、PIBMA誘導体中で最も有効な抗ウイルス活性を示した。
【0069】
【表5】

【0070】
インフルエンザウイルス感染をin vivoで阻害するPIBMA−ZA−SAの効力を測定するために、インフルエンザウイルス感染のマウスモデルを開発した。結果を図6に示す。8〜12週齢のマウスにPIBMA−ZA−SA 25μg、75μg又は200μgを含むPBS 50μlを鼻腔内投与した。対照として、マウスにPBSのみを投与した。4時間後、マウスにインフルエンザウイルスA/Victoria/3/75 12,000pfuを鼻腔内感染させた。感染24時間後、マウスを屠殺し、肺ホモジネートのウイルス力価(titters)をプラーク形成アッセイによって測定した。PBS処置マウスでは、肺におけるウイルス力価は2.7×10pfu/マウスであった。対照的に、肺ウイルス力価は、PIBMA−ZA−SAを1回投与したマウスにおいて用量依存的様式で約1/7から1/20に低下した。これらの結果は、PIBMA−ZA−SAがインフルエンザウイルス感染をin vivoで阻害するのに有効であることを示唆している。
【0071】
別段の記載がない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。
【0072】
当業者は、本明細書に記載した本発明の具体的実施形態の多数の均等形態を、せいぜい定常的な実験法によって、認識するか、又は確認することができる。かかる均等形態も以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の水溶性生体適合性ポリマーに結合した2種類以上の抗ウイルス剤を含む、殺ウイルス性組成物。
【請求項2】
前記2種類以上のウイルス剤がザナミビル、シアル酸、オセルタミビル、アマンタジン、リマンタジン及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記2種類以上の抗ウイルス剤が同一の生体適合性ポリマーに共有結合した、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記水溶性生体適合性ポリマーがポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリリシン、ポリ(アクリル酸)、プリアギニック酸、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ポリエチレンイミン並びにそれらのブレンド及びそれらの共重合体からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記水溶性生体適合性ポリマーがポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマーの分子量が1,000ダルトンから1,000,000ダルトン、好ましくは10,000ダルトンから1,000,000ダルトンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記2種類以上の抗ウイルス剤がシアル酸及びザナミビルであり、前記水溶性生体適合性ポリマーがポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記2種類以上の抗ウイルス剤の各々の濃度が前記ポリマーの約5重量%から約25重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
シアル酸とザナミビルの濃度が、前記ポリマーの5重量%、前記ポリマーの8重量%、前記ポリマーの10重量%、前記ポリマーの18重量%及び前記ポリマーの25重量%からなる群から独立に選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
シアル酸の濃度が前記ポリマーの10重量%であり、ザナミビルの濃度が前記ポリマーの10重量%である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、第1の抗ウイルス剤に結合した第1の水溶性生体適合性ポリマーと第2の抗ウイルス剤に結合した第2の水溶性生体適合性ポリマーとの物理的混合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとが同じ化学組成を有するか又は異なる化学組成を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとが同じ化学組成を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
第1の抗ウイルス剤及び第2の抗ウイルス剤がシアル酸及びザナミビルであり、前記ポリマーがポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
混合物中の機能性ポリマーの濃度が等モル濃度である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
シアル酸及びザナミビルの濃度が前記ポリマーの10重量%である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
2種類以上の抗ウイルス剤又はその誘導体を水溶性生体適合性ポリマーに結合させる工程を含む、請求項1から請求項10のいずれかに記載の組成物を製造する方法。
【請求項18】
第1の抗ウイルス剤を第1の水溶性生体適合性ポリマーに結合させる工程、第2の抗ウイルス剤を第2の水溶性生体適合性ポリマーに結合させる工程、及びそれらのポリマーを混合して一緒にする工程を含む、請求項11から請求項16のいずれかに記載の組成物を製造する方法。
【請求項19】
ウイルス感染症の治療または防止を必要とする患者に有効量の請求項1から請求項16のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含む、ウイルス感染症を治療又は防止する方法。
【請求項20】
前記ウイルス感染症が、野生型ヒトインフルエンザ又は野生型トリインフルエンザ、変異型ヒトインフルエンザ又は変異型トリインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から請求項16のいずれかに記載の組成物を薬学的に許容される担体中に含む、医薬組成物。
【請求項22】
前記担体が経腸投与に適する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記担体が非経口投与に適する、請求項21に記載の組成物。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−537997(P2010−537997A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523076(P2010−523076)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/074244
【国際公開番号】WO2009/032605
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】