説明

二機能性表面変性剤を含むポリビニルブチラールシート

シートの表面に堆積された二機能性表面変性剤を有するポリマーシート、シートの表面に二機能性表面変性剤を有するポリマーシートの製造方法。ポリマーシートには、好ましくは、ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラールの中に含有された可塑剤及び可塑化されたポリビニルブチラール上の皮膜として配置された二機能性表面変性剤が含まれ、この二機能性表面変性剤には、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれ、このブロッキング防止セグメントには、線状炭化水素鎖、環式基又は線状炭化水素鎖と環式基との組合せを含む炭化水素基が含まれ、この相溶性セグメントには、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基が含まれる。ポリマーシートの製造方法には、二機能性表面変性剤を、該ポリマーシート表面の上に配置することが含まれ、この二機能性表面変性剤には、ブロッキング防止セグメント及びスルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基を含む相溶性セグメントが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、ポリマーシート、より詳しくは、ポリビニルブチラールシートの表面に配置された二機能性表面変性剤によって与えられる、増強された耐ブロッキング性を有するポリビニルブチラールを含むポリマーシートに関する。
【背景技術】
【0002】
可塑化したポリビニルブチラール(以下、「PVB」)は、一般的に、光透過積層板、例えば、安全ガラス又はポリマー積層板に於ける中間層として使用するためのポリマーシートの製造で使用されている。安全ガラスは、典型的に、2枚の窓ガラスの間にサンドイッチされたポリビニルブチラールシートから構成された透明積層板を指す。安全ガラスは、しばしば、建築物及び自動車開口部に於いて透明なバリヤーを提供するために使用される。この主な機能は、開口部を貫通させることなく、物体による打撃のようなエネルギーを吸収して、こうして閉じられた領域内の物体又は人への損傷又は障害を最小にすることである。シート配合物への添加剤には、一般的に、ガラスへのシートの接着を変性して、ガラスが小片に砕けることを防止し、なお衝撃でのエネルギー吸収を与えるために、適切なレベルの接着を維持できるようにするための、接着調節剤(「ACA」)が含まれる。この中間層シートは、また、安全ガラスに、追加の有利な効果、例えば、音響騒音を減衰させるため、UV及び/又はIR光透過を減少させるため及び/又は窓開口の美的外観を向上させるための効果を与えるように変性することができる。
【0003】
安全ガラスは、典型的に、ガラス及びプラスチック中間層、例えばPVBの2個の層を、予備プレスの中に組み立て、予備積層板にくっつけ、及び光学的に透明な積層板に仕上げるプロセスによって形成される。この組み立て段階には、ガラスの片を横たえること、PVBシートをこの上に置くこと、ガラスの第二の片を横たえること、次いでガラス層の縁まで過剰のPVBをトリミングすることが含まれる。
【0004】
プラスチック中間層は、一般的に、PVBポリマーを、1種又は2種以上の可塑剤及び場合により1種又は2種以上の他の成分と混合し、この混合物をシートに溶融加工し、このシートを典型的に、貯蔵及び輸送のために集め、ロールに巻くことによって製造される。自動車前面ガラスのための積層プロセスに於いて、典型的に、PVBシートの部分をロールから切断し、これらの切断した部分を、組み立てのために造形し及び/又は積み重ねる。次いで、切断した部分を、積み重ねたものから取り、硬質支持体(例えば、特別の光学的品質を有するガラスシート)の面と、切断した部分の面とが緊密に接触した状態で配置されるように、硬質支持体と共に層状に重ねた配置に組み立て、及びプリプレス積層板アセンブリを形成する。代わりに、この積層板アセンブリは、複数の切断部分(群)に、複数の硬質シートを交互に挟み込むことによって形成することができる。
【0005】
ロール形状又は積み重ねた形状にある、可塑化したPVBシートは、本来、積層プロセスの前及び間に典型的に遭遇する環境温度で、これ自体に固着する(「ブロッキングする」)傾向がある。シート表面の機械的粗加工(例えば、エンボス加工)、シート表面に重炭酸ナトリウムのような粉末を適用すること及びPVBシートの表面を化学的に又は物理的に処理することを含む、PVBの耐ブロッキング性を増強するための多数の試みがなされてきた。このような表面処理は、残念ながら、しばしば、望ましくない取扱い問題又はガラス接着問題をもたらす。このようなブロッキングを回避するための他の一般的な実施に於いて、PVBシートを、他のシート材料、例えばポリエチレンで交互に挟むことができ又は例えば、約5から約15℃の温度で、冷蔵下で貯蔵し、輸送することができる。しかしながら、増強された騒音減少(音響的)機能を達成するための、高い可塑剤含有量を含有するPVBシートのような、標準的PVBの変形については、冷蔵条件下でもブロッキングが起こり得る。
【0006】
更に、種々の耐ブロッキング材料をPVBの中に含有させることが提案された。しかしながら、このような材料をPVBの中に含有させることは、得られる積層板の光学的特性又はPVBシートのガラスへの接着特性に悪影響を与えるであろう。
【0007】
従って、積層板の光学的透明度及び得られるPVBシートのガラス接着特性に悪影響を与えることなく、PVBシートの耐ブロッキング性を増強するための、更に改良された方法が要求されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、本発明に従って、ポリマーシート表面の上に配置された二機能性表面変性剤を含むポリマーシートが、悪い光学的及び接着影響無しに、増強されたブロッキング防止特性になることが見出された。また、該ポリマーシートの表面に二機能性表面変性剤を配置することを含む製造方法によって、ブロッキング防止特性がポリマーシートの表面に与えられることが見出された。更に、本発明には、これらの間に配置された中間層ポリマーシートを有する2枚のガラスのシートを含む積層安全ガラスであって、このポリマーシートが、該ポリマーシートの表面の上に配置された二機能性表面変性剤を有する積層安全ガラスが含まれる。
【0009】
本明細書中に、表面に配置された二機能性表面変性剤を有するポリマーシート、表面に配置された二機能性表面変性剤を有するポリマーシートの製造方法及びポリマーシートの耐ブロッキング性の増強方法の代表的実施態様が開示されている。一つの実施態様に於いて、ポリマーシートには、ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラールの中に含有された可塑剤及び可塑化されたポリビニルブチラール表面の上に配置された二機能性表面変性剤が含まれる。この二機能性表面変性剤には、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる。このブロッキング防止セグメントには、線状炭化水素鎖のような炭化水素基が含まれる。この相溶性セグメントには、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基のような極性基が含まれる。従って、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントは、それぞれポリマーシートにブロッキング防止と相溶性との二機能を与える。
【0010】
ポリマーシートの製造方法には、ポリマーをシートに溶融加工すること及び二機能性表面変性剤を、ポリマーシート表面の上に配置することが含まれ、この二機能性表面変性剤には、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる。このブロッキング防止セグメントには、線状炭化水素鎖のような炭化水素基が含まれる。この相溶性セグメントには、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基のような極性基が含まれる。
【0011】
積層安全ガラスには、これらの間に配置された中間層ポリマーシートを有する2枚のガラスのシートが含まれ、ここで、このポリマーシートは、該ポリマーシート表面の上に配置された二機能性表面変性剤を有し、該二機能性表面変性剤には、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に従った、シート状の可塑化したポリマーは、ポリマーシートの表面に配置された二機能性表面変性剤を有する。以下に説明する実施態様は、ポリマーをPVBであるとして参照するけれども、このポリマーは、適切なガラス転移温度を有するどのようなポリマーであってもよいことが理解されるべきである。典型的なこのようなポリマーには、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ(エチレン−共−酢酸ビニル)、上記のものの組合せなどが含まれる。二機能性表面変性剤は、ポリマーシートの耐ブロッキング性を増強させ、これには、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる。このブロッキング防止セグメントには、線状炭化水素鎖のような炭化水素基が含まれる。この相溶性セグメントには、ポリマーシートに対する適切な親和性を与える、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基のような極性基が含まれる。
【0013】
PVBは、一般的に、PVOHをブチルアルデヒドと、酸触媒の存在下で反応させ、続いて触媒を中和し、樹脂を分離し、安定化し及び乾燥させることを含む、公知のアセタール化プロセスによって製造される。このポリマーには、典型的に、約13から約30重量パーセント(重量%)の、PVOHとして計算されたヒドロキシル基、好ましくは約15から約22重量%の、PVOHとして計算されたヒドロキシル基が含まれる。このポリマーには、更に、ポリ酢酸ビニルとして計算された、約10重量%以下の残留エステル基、好ましくは約3重量%以下の残留エステル基が含まれ、残りは、好ましくはブチルアルデヒドであるが、場合により他のアセタール基、例えば2−エチルヘキサナール基を含むアセタールである。典型的に、製品PVBは、約70,000グラム/モル(g/モル)よりも大きい分子量を有する。本明細書で使用されるとき、用語「分子量」は、平均分子量として解釈されるべきである。PVBを製造するための適切な方法の詳細は、当業者に公知である。PVBは、ソルチア社(Solutia Inc.)、ミズーリ州、セントルイス(St.Louis)から、ブトバル(Butvar)(商標)樹脂として市販されている。
【0014】
最終製品中のこの性能を増強するために、添加物をPVBポリマーに添加することができる。このような添加物には、これらに限定されないが、染料、顔料、安定剤(例えば、紫外線安定剤)、酸化防止剤、上記の添加物の組合せなどが含まれる。
【0015】
PVBシートには、典型的に、樹脂の100部当たり(「phr」)、約20から80部、更に一般的に25から60部の可塑剤が含まれる。可塑剤の量は、PVBシートのTに影響を与える。通常、可塑剤の量を増加させると、Tが低下する。一般的に、PVBシートは、約30℃以下のTを有する。約20℃よりも低いTを有するPVBシートが、しばしば、音響PVBシートとして使用される。一般的に使用される可塑剤は、多塩基酸又は多価アルコールのエステルである。適切な可塑剤には、例えば、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペートとノニルアジペートとの混合物、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート、ジブチルセバケート、ポリマー可塑剤、例えば、油変性セバシン酸アルキド及び米国特許第3,841,890号明細書に開示されているようなホスフェートとアジペートとの混合物及び米国特許第4,144,217号明細書に開示されているようなアジペートが含まれる。また、一般的に使用される可塑剤は、米国特許第5,013,779号明細書に開示されているような、C−Cアルキルアルコール及びシクロC−C10アルコールから製造された混合アジペートである。ジヘキシルアジペートのようなC−Cアジペートエステルが、好ましい可塑剤である。
【0016】
PVBポリマー及び可塑剤添加物を熱加工し、及びシート形に造形する。PVBシートを成形する一つの代表的方法には、溶融したPVB樹脂+可塑剤+添加物(以下、「溶融体」)を、シートダイ(例えば、一方の寸法が、その直交寸法よりも十分に大きい開口を有するダイ)を通して溶融体を押し進めることによって、押し出すことが含まれる。PVBシートを成形する他の代表的方法には、溶融した樹脂又は半溶融した樹脂を、ダイからローラの上に流延し、樹脂を固化させ、続いて固化した樹脂をシートとして除くことが含まれる。何れの実施態様に於いても、シートの何れか又は両方の側面で表面テキスチャーは、ダイ開口の表面を調節することにより又はローラ表面でテキスチャーを与えることにより、制御することができる。シートテキスチャーを制御するための他の技術には、反応材料のパラメーター(例えば、樹脂及び/若しくは可塑剤の水含有量、溶融温度又は上記のパラメーターの組合せ)を変化させることが含まれる。更に、このシートは、積層プロセスの間のシートの脱気を容易に実施するための一時的表面不規則性を規定する、空間を空けた突起(後で、積層プロセスの上昇した温度及び圧力によって、この突起は、シートの中に溶融され、これによって平滑な仕上げになる)を含むように造形することができる。何れの実施態様に於いても、押し出されたシートは、典型的に、約0.3から約2.5ミリメートル(mm)の厚さを有する。
【0017】
二機能性表面変性剤は、好ましくは、PVBシートの表面に皮膜として配置され、これには、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる。変性剤の代表的実施態様には、アルキルベンゼンスルホネート(RCSOM)、アルキルスルホネート(RSOM)、アルキルスルフェート(ROSOM)、アルキルカルボキシレート(RCOOM)、ポリアルコキシカルボキシレート(R(OCHCHOCHCOOM)及びアルキルホスフェートエステル(ROPO)[式中、Mは、水素又は金属カチオン(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)若しくはアンモニウムイオンであり、Rはアルキル基であり、及び繰り返し単位の数であるnは>1である]が含まれる。好ましくは、変成剤には、少なくとも1個のスルホネート基が含まれる。好ましい代表的実施態様に於いて、下記に示すように、ブロッキング防止セグメントはXであり、及び相溶性セグメントは、スルホネート基(−SO−Y)で配置された正に帯電した対イオンYを有するスルホネート基である。得られる構造は、式
【0018】
【化1】

(式中、Xは炭化水素基であり、及びYは水素、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンである)
のものである。特に、炭化水素基は、少なくとも約8個の炭素原子、更に好ましくは約8から約50個の炭素原子を有する、脂肪族基、芳香族基又は脂肪族基と芳香族基との組合せ(例えば、線状炭化水素鎖、環式基(例えば、ベンジル基)又はこれらの組合せ)である。好ましくは、ブロッキング防止セグメントXは、ポリマーシートに適切なブロッキング防止特性を与える分子構造を有する脂肪族−芳香族化合物であり、式
【0019】
【化2】

(式中、Rは、約2から約44個の炭素原子を有する線状炭化水素鎖である)
のものである。
【0020】
他方、この変性剤の相溶性セグメント(例えば、−SOY)は、PVBシートの耐ブロッキング性を有効に増強しながら、変性剤にPVBシートとの相溶度を与えて、PVBシートの光学的特性への悪影響を回避するか又は少なくとも最小にするために十分なPVBシートとの親和度を有する。特に、適切な極性基は、変性剤が、PVBを通過する光散乱傾向が最小になるように均一な薄い皮膜をPVBシートの上に形成できるために十分な、PVBシートとの親和性を示す。
【0021】
二機能性表面変性剤として使用するための好ましい化合物は、脂肪族−芳香族スルホネートである。特に好ましいものは、ドデシルベンゼンスルホン酸(以下、「DSH」として参照する)[これは、式
【0022】
【化3】

のものである]及びドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩又はマグネシウム塩(以下、「DSNa」又は「DSMg」として参照する)[この一つの代表的実施態様は、式
【0023】
【化4】

のものであり、DSHと組み合わせて使用することができる]である。
【0024】
PVBシート表面に二機能性表面変性剤を配置する代表的技術には、これらに限定されないが、シート表面への変成剤の物理的適用が含まれる。変成剤の物理的適用には、これらに限定されないが、スプレー被覆技術、浸漬(イマージョン・ディッピング)技術、グラビア被覆技術、溶融押出技術などが含まれる。一つの代表的スプレー被覆技術に於いて、変成剤を液体担体中に配置し(例えば、分散又は溶解し)、霧化し、及びPVBシートの表面の少なくとも一方の側の少なくとも一部分に噴出させる。担体は、水性又は溶媒系(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、上記のものの組合せなど)であってよい。PVBシートに堆積させたあと、担体を揮発除去し、これによってPVBシートの表面上に堆積された変性剤を残す。担体中の変性剤の濃度は、シートの表面での変成剤の所望の濃度を達成するために十分でなくてはならない。典型的なスプレー技術に於いて、担体中の二機能性表面変性剤の濃度は、液体の全重量基準で約0.1から約40重量%である。
【0025】
浸漬技術の一つの代表的実施態様に於いて、PVBシートを、変性剤を含有する水性又は溶媒系液体中に浸漬させて、シートを回収し及び担体を揮発させたとき、シート表面が変成剤で被覆されるようにする。浸漬技術に於いて、担体中の変成剤の濃度は、好ましくは約0.01から約20重量%、更に好ましくは約0.05から約5重量%、なお更に好ましくは約0.1から約2重量%である。
【0026】
グラビア被覆技術の一つの代表的実施態様に於いて、二機能性表面変性剤を液体担体中に配置し(例えば、分散又は溶解し)、及びこの液体担体を、グラビア被覆装置を使用して該ポリマーシートの上に輸送する。続いてこの担体をポリマーシートの表面から、例えば、蒸発によって除去する。
【0027】
得られた、この上に堆積された二機能性表面変性剤を有するPVBシートは、二機能性表面変性剤を含有していないPVB樹脂を含むポリマーシートのブロッキング値よりも、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70%、更に好ましくは少なくとも約90%小さいブロッキング値を有する。この上に堆積された二機能性表面変性剤を有するPVBシートの透明性は、ヘイズ値を測定することによって決定することができ、このヘイズ値は、その方向が、入射ビームの方向から特定の角度よりも多く偏向するように散乱される透過光のパーセンテージであり、ASTM D1003に従って決定することができる。好ましくは、このヘイズ値は、約3%未満、更に好ましくは約2%未満、最も好ましくは約1%未満である。
【0028】
この表面上に堆積された二機能性表面変性剤を有するPVBシートの接着は、二機能性表面変性剤の存在によって実質的に影響を受けない。好ましくは、接着値(PVBシートのガラス接着傾向の定量化)は、表面上に堆積された二機能性表面変性剤を有しないPVBシートの接着値の、約20%以内、更に好ましくは約10%以内、最も好ましくは約5%以内である。接着は、例えば、連打(pummel)接着試験(PVBシートとガラスとの間の結合強度を測定する)によって測定することができる。
【0029】
(実施例)
実施例に於いて下記の試験を使用した。
【0030】
1.連打接着
二層ガラス積層板サンプルを、標準的オートクレーブ積層条件で製造する。この積層板を−17.8℃まで冷却し、及びハンマーを使用して手で連打して、ガラスを破壊する。次いで、PVBシートに接着しなかった全ての破壊されたガラスを取り除き、及びPVBシートに接着して残っているガラスの量を、基準のセットと目視で比較する。この基準は、PVBシートに接着したまま残るガラスの量の変化をある目盛りに対応させる。特に、連打基準ゼロは、PVBシートに接着して残るガラスはない。連打基準10では、ガラスの100%がPVBシートに接着したままである。
【0031】
2.ブロッキング
この試験は、PVBシートの、これ自体に接着する傾向を測定する。この試験に於いて、2枚の長方形フィルム試験片を切断し、完全に重ねた対にして一緒に置く。それぞれの対の上のシートを、対応するサイズのテープの片に接着させる。このフィルム対を、2枚のスチール板の間の中心に置き、この組立体を、7℃での温度で24時間、69kPa圧力に付す。次いで、この片を、剥離試験装置を使用する90度剥離試験に於いて、84インチ/分(約2m/分)の剥離速度で引き剥がす。ブロッキング力を、ポンド/直線インチ(PLI)で定量する。
【0032】
3.ヘイズ%(透明性)
この試験は、PVBシートで製造した積層板の透明性を測定するもので、ASTM D1003−61(再承認1977年)−手順A−光源C、2度の観察者角度を使用−に従って実施し、ヘイズの量を測定するための装置は、ハンターラブ(Hunterlab)から入手できるヘイズメーター、モデルD25である。
【実施例1】
【0033】
PVBシートの製造
PVOHとして計算されたヒドロキシル含有量16.3重量%のPVB樹脂を100重量部、並びに52部のトリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、接着調節剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びこの他の成分を含む他の添加物を含む、PVBシートを製造するための可塑化したPVB配合物を、高強力ミキサーを使用して予備混合した。次いで、この可塑化した配合物を、押出機内で溶融し、一対の対面するダイリップによって境界が定められたこの前方端に長方形ダイ開口を有するシート押出ダイを通して、溶融体状で押し進めた。溶融体の温度は約180℃である。押し出されたシートの厚さは、約30ミル(0.76mm)である。シートのそれぞれの側は、粗い表面を有し、この粗い表面によって、積層プロセスの間にシートとガラスとの界面から空気を除去することが可能になる。
【実施例2】
【0034】
PVBシートの浸漬被覆
未処理PVBシートを、このそれぞれの二機能性表面変性剤を含有するこのそれぞれの水溶液の中に、室温で一定の時間、例えば20秒間浸漬し、続いて乾燥させることによってPVBシートの浸漬被覆を実施した。幾つかのサンプルは、浸漬被覆後に上水浴中に浸漬し、幾つかのサンプルは、上昇させた温度で浸漬被覆した。浸漬被覆したサンプル及び対照サンプルを、コンディショニングキャビネット内で0.35%の湿分レベルでコンディショニングした。二機能性表面変性剤(表面変性剤)の種類、溶液の濃度、浸漬時間などを含む浸漬被覆条件の例を、これらの浸漬被覆したサンプルについての、連打、ブロッキング及びヘイズ試験の結果と共に、それぞれ表1から4に示す。
【0035】
表1に、ポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩(PSSNa)、DSH又はDSNaの水溶液で浸漬被覆し、続いて、記載した浸漬時間に同等の期間、水中で第二の浸漬を行ったサンプルについての、連打、ブロッキング及びヘイズ試験の結果を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表2に、室温で種々の浸漬時間の間、種々の濃度を有するDSHの水溶液で浸漬被覆したサンプルについての、連打、ブロッキング及びヘイズ試験の結果を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表3に、室温で種々の浸漬時間の間、種々のDSH/DSNa重量比を有するDSH/DSNa混合物の1重量%水溶液で浸漬被覆したサンプルについての、連打、ブロッキング及びヘイズ試験の結果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表4に、室温で20秒間の間、種々のDSH/DSNa(又はDSMg)重量比を有するDSH/DSNa(又はDSMg)混合物の1重量%水溶液で浸漬被覆したサンプルについての、連打、ブロッキング及びヘイズ試験の結果を示す。
【0042】
【表4】


【0043】
その表面に配置した二機能性表面変性剤を有するPVBシートの上記の実施態様は、積層安全ガラスのための典型的なPVB中間層応用で使用するために適している。更に、上記の実施態様は、シート表面の変性により与えられた、増強された耐ブロッキング性のために、非差し込み音響PVB中間層製品の製造に於いて特に有用である。
【0044】
前記のようなPVBシートは、また、これらの表面上に配置された二機能性表面変性剤を有しないPVBシートに対し、幾つかの利点を有する。第一に、この表面上に配置された二機能性表面変性剤を有するPVBシートは、このPVBシートを積層安全ガラスの中に含有させたとき、十分な光学的品質及びガラスに対する最適の接着特性を維持しながら、顕著に減少したブロッキングする傾向を有する。減少したブロッキングする傾向を有することによって、PVBシートを、減少した冷蔵又は差し込みのための必要性で、貯蔵し、輸送することができる。第二に、前記に開示された二機能性表面変性剤は、少なくとも部分的にPVBと相溶性であり、粉末を除去するためにシートを洗浄することのような追加の処理工程を、実施する必要がない。他の利点は、当業者に容易に明らかであろう。
【0045】
本発明を、代表的実施態様を参照して説明したけれども、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができ、均等物をこの要素のために置き換えることができることが、当業者によって理解されるであろう。更に、特別の状況又は材料を、この必須の範囲から逸脱することなく本発明の教示に適合させるため多くの修正を行うことができる。従って、本発明は、本発明を実施するために意図される最良の形態として開示された特定の実施態様に限定されず、本発明には、特許請求の範囲の範囲内に入る全ての実施態様が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーシートの上に配置された二機能性表面変性剤を含むポリマーシートであって、前記二機能性表面変性剤が、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントを含む、前記ポリマーシート。
【請求項2】
前記相溶性セグメントに、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基が含まれる、請求項1に記載のポリマーシート。
【請求項3】
前記ブロッキング防止セグメントに、線状炭化水素鎖、環式基又は線状炭化水素鎖及び環式基の組合せを含む炭化水素基が含まれる、請求項1に記載のポリマーシート。
【請求項4】
前記炭化水素基に約8から約50個の炭素原子が含まれる、請求項3に記載のポリマーシート。
【請求項5】
前記環式基にベンジル基が含まれる、請求項3に記載のポリマーシート。
【請求項6】
前記相溶性セグメントに、更に、正に帯電した対イオンが含まれる、請求項2に記載のポリマーシート。
【請求項7】
前記正に帯電した対イオンがアルカリ金属である、請求項6に記載のポリマーシート。
【請求項8】
前記アルカリ金属がナトリウムである、請求項7に記載のポリマーシート。
【請求項9】
前記アルカリ金属がマグネシウムである、請求項7に記載のポリマーシート。
【請求項10】
前記正に帯電した対イオンが水素である、請求項6に記載のポリマーシート。
【請求項11】
ポリマーが、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ(エチレン−共−酢酸ビニル)、これらの組合せなどからなる群から選択される、請求項1に記載のポリマーシート。
【請求項12】
ポリマーがポリビニルブチラールである、請求項11に記載のポリマーシート。
【請求項13】
ポリマーが、約13から約30重量パーセントの、PVOHとして計算されたヒドロキシル基を含むポリビニルブチラール樹脂である、請求項12に記載のポリマーシート。
【請求項14】
ポリマーが可塑化されたポリビニルブチラールであり、可塑剤が、樹脂100部当たり約20から80部の可塑剤を含む、請求項12に記載のポリマーシート。
【請求項15】
ポリマーが可塑化されたポリビニルブチラールであり、可塑剤が、樹脂100部当たり約25から60部の可塑剤を含む、請求項14に記載のポリマーシート。
【請求項16】
ポリマーが可塑化されたポリビニルブチラールであり、可塑剤が、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペートとノニルアジペートとの混合物、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート、ジブチルセバケート及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載のポリマーシート。
【請求項17】
前記二機能性表面変性剤に、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩若しくはマグネシウム塩又はこれらの組合せが含まれる、請求項1に記載のポリマーシート。
【請求項18】
ポリマーをシートに溶融加工すること及び二機能性表面変性剤を、前記ポリマーシートの表面の上に配置することが含まれ、前記二機能性表面変性剤に、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる、ポリマーシートの製造方法。
【請求項19】
前記ポリマーシート表面の上への前記二機能性表面変性剤の前記配置を、スプレー被覆技術、浸漬技術、グラビア被覆技術及び上記の技術の組合せからなる群から選択された技術によって実施する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スプレー被覆技術に、前記変性剤を液体担体中に配置すること、前記変性剤と前記液体担体との混合物を霧化すること、前記霧化した混合物を前記ポリマーシートに噴出させること及び前記液体担体を前記ポリマーシートの表面から揮発させることが含まれる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記浸漬技術に、前記ポリマーシートを、前記二機能性表面変性剤を含有する液体中に浸漬させること、前記ポリマーシートを回収すること及び前記液体担体を前記ポリマーシートの表面から揮発させることが含まれる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記グラビア被覆技術に、前記二機能性表面変性剤を液体担体中に配置すること、前記二機能性表面変性剤を含有する液体担体を、グラビア被覆装置を使用して前記ポリマーシートの上に輸送すること及び前記担体を前記ポリマーシートの表面から除去することが含まれる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリマーにポリビニルブチラールが含まれる、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記ブロッキング防止セグメントに、線状炭化水素鎖、環式基又は線状炭化水素鎖及び環式基の組合せを含む炭化水素基が含まれる、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記相溶性セグメントに、スルホネート、スルフェート、カルボキシレート又はホスフェート基が含まれる、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記二機能性表面変性剤に、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩若しくはマグネシウム塩又はこれらの組合せが含まれる、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
これらの間に配置された中間層ポリマーシートを有する2枚のガラスのシートを含む積層安全ガラスであって、このポリマーシートが、前記ポリマーシートの上に配置された二機能性表面変性剤を有し、前記二機能性表面変性剤に、ブロッキング防止セグメント及び相溶性セグメントが含まれる、前記積層安全ガラス。

【公表番号】特表2007−505207(P2007−505207A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533577(P2006−533577)
【出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/017953
【国際公開番号】WO2004/111116
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(500276390)ソリユテイア・インコーポレイテツド (43)
【Fターム(参考)】