説明

二次イオン質量分析装置に於ける試料ステージの傾斜角度較正方法及び二次イオン質量分析方法

【課題】二次イオン質量分析方法で実施される、信頼性の高い、試料ステージの傾斜角度の較正方法を提供することである。また、信頼性の高い、二次イオン質量分析方法を提供することである。
【解決手段】本発明では、過去に含有元素の濃度を測定した試料(濃度標準試料)を再度測定し(S2)、過去に算出した濃度と同じ値が得られる傾斜位置を特定する(S3)。この特定された傾斜位置が、過去に濃度を測定した時の傾斜位置に一致することを利用して、試料ステージ8の傾斜角度を較正する(S4)。ここで、濃度標準試料に含有される元素(例えば、N)の濃度は、感度係数(S1)に基づいて算出する。感度係数に基づいて導出される元素濃度は、二次イオン検出器の検出感度には左右されないので、信頼性の高い傾斜角度の較正が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析装置に於ける試料ステージの傾斜角度較正方法及びこの較正方法を利用した二次イオン質量分析方法に関し、特に、真空度回復のために行うベークアウトや経時変化した試料ステージの傾斜角度を較正する方法及びこの較正方法を利用した二次イオン質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)は、試料(固体)表面にビーム状のイオン( 一次イオンと呼ばれる)を照射し、スパッタ現象によって放出されるイオン( 二次イオンと呼ばれる)を、例えば四重極型の質量分析計で検出する 表面計測法である。二次イオン質量分析法は試料の表面をスパッタによって削るので、それを利用して試料表面から深さ方向に元素の濃度変化を高感度に測定することが可能である(特許文献1)。
【0003】
すなわち、二次イオン質量分析法は、試料に含まれる微量成分の分布を、非常に高感度に分析する方法である。このため装置内は、常に、高真空に保たれていなければならない。
【0004】
従って、補修等のために装置内部を大気に曝した場合や装置内部の真空度が低下して来た場合には、装置全体を数百度に加熱して、内壁等に吸着した残留ガス(水分等)を排気する必要がある。このような残留ガスの排気作業は、ベークアウトと呼ばれている。
【0005】
二次イオン質量分析法の感度や深さ分解能は、試料2に照射される1次イオン4の入射角度6に大きく影響される(図10参照)。そこで、試料2は傾斜可能な試料ステージ8に装着され、毎回試料ステージ8の傾斜角度10が同じ値になるよう、図示されていない傾斜装置を調整してから測定が行われる。尚、図10は、測定試料2に一次イオン4が照射され二次イオン12が発生する様子を真横から見た状態を表している。
【0006】
しかし、装置内を高真空に保つためにベークアウトを行うと、傾斜装置を、その表示する傾斜角度10がベークアウト前と同じなるように操作しても、実際の傾斜角度はベークアウト前とは同じにはならない。これは、ベークアウトのために加えられた熱によって、傾斜装置を含む二次イオン質量分析装置全体が僅かに変形するからである。このような試料ステージ8の実際の傾斜角度10と傾斜装置の表示する値のズレは、経時変化によっても起こる。
【0007】
この傾斜角度のズレを較正するためには、まず、例えばシリコン(Si)基板をSIMSで測定して、Si+二次イオンの計数率(単位時間当たりの二次イオンの計数)が、以前にSi基板を測定した時の計数率と同じになる傾斜位置42を探す。次に、このようにして探し当てた傾斜位置42に対して傾斜装置16が傾斜角度10として表示する値が、以前にSi基板を測定した時に傾斜装置16が表示していた値と異なる場合には、傾斜装置が現在表示する値が以前の表示に一致するように傾斜装置が表示する値を較正する。
【特許文献1】特許第2728049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二次イオン質量分析法によって測定される二次イオンの計数率は、試料ステージ8の傾斜角度10だけではなく、二次イオン検出器の検出感度にも大きく依存する。従って、試料ステージの傾斜角度を較正する際には、この感度が最大になるように調整してから、例えばSi基板を測定する。
【0009】
しかし、二次イオン検出器の感度調整の再現性は良好ではない。たとえベークアウトを行わなくても、Si基板を測定して得られる二次イオンの計数率は、測定日によって変化してしまう。このため、傾斜角度較正の信頼性は低かった。
【0010】
そこで、発明の第1の目的は、二次イオン質量分析装置に於ける試料ステージの傾斜角度を高い信頼性をもって較正する、試料ステージの傾斜角度較正法を提供することである。
【0011】
また、本発明の第2の目的は、このような較正方法を利用して、信頼性の高い二次イオン質量分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法において、複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、 前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程とからなることを特徴とする。
【0013】
第1の側面によれば、二次イオン検出器の検出感度には左右されない感度係数に基づいて、傾斜角度を較正するので、信頼性の高い傾斜角度の較正が可能になる。
【0014】
(第2の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第2の側面は、第1の側面の試料ステージの傾斜角度較正方法において、前記第1の工程が、複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、 第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、前記第2の工程が、前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする。
【0015】
第2の側面によれば、下地の上に形成する薄膜の構造(膜厚等)を標準試料と濃度標準試料の間で変えるだけで、簡単に試料ステージの傾斜角度を較正することができる。
【0016】
(第3の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第3の側面は、第2の側面の試料ステージの傾斜角度較正方法において、前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする。
【0017】
(第4の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第4の側面は、二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正した後に、測定されるべき前記試料を測定する二次イオン質量分析方法において、複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着された前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程からなり、第4の工程の後、測定すべき前記試料を前記試料ステージに装着し、前記傾斜装置が表示する前記値を、前記第2の値に一致させ、その後、測定すべき前記試料に含有される前記元素の濃度を測定する第5の工程からなることを特徴とする。
【0018】
第4の側面によれば、イオン検出器の検出感度には左右されない感度係数に基づいて、傾斜角度を較正するので、信頼性の二次イオン質量分析が可能になる。
【0019】
(第5の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第5の側面は、第4の側面の二次イオン質量分析方法において、前記第1の工程が、複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、前記第2の工程が、前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする。
【0020】
第5の側面によれば、下地の上に形成する薄膜の構造(膜厚等)を標準試料と濃度標準試料の間で変えるだけで、信頼性の高い二次イオン質量分析が可能になる。
【0021】
(第6の側面)
上記の目的を達成するために、本発明の第6の側面は、第5の側面の二次イオン質量分析方法において、前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、過去に含有元素の濃度を測定した試料(濃度標準試料)を再度測定し、過去に算出した濃度と同じ値が得られる傾斜位置42を特定する。この特定された傾斜位置42が、過去に濃度を測定した時の傾斜位置42に一致することを利用して、試料ステージ8の傾斜角度を較正する。
【0023】
ところで、濃度標準試料に含有される元素(例えば、N)の濃度は、感度係数に基づいて算出される。従って、濃度標準試料に含有される元素の濃度として算出される値は、二次イオン検出器の検出感度には左右されない。
このように、本発明は、二次イオン検出器の検出感度に影響されない感度係数に基づいて傾斜角度10を較正する。故に、本発明は、信頼性の高い傾斜角度の較正方法を提供することができる。
【0024】
本発明によれば、このように信頼性の高い傾斜角度の較正方法が利用可能になる。従って、本発明によれば、信頼性の高い二次イオン質量分析方法も提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。なお、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0026】
(実施の形態例1)
本実施の形態例に係る試料ステージの傾斜角度較正法は、試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法である。
【0027】
(1)二次イオン質量分析装置
図1は、本実施の形態例に係る試料ステージの傾斜角度較正法が実施される二次イオン質量分析装置14の概略図である。図1(a)は、二次イオン質量分析装置14の内部を真上から見た図である。図1(b)は、図1(a)のA−A´線における断面を矢印の方向から見た断面図である。
【0028】
図1に示すように、二次イオン質量分析装置14は、二次イオン質量分析方法によって測定される試料2が装着される試料ステージ8を備えている。
【0029】
また、二次イオン質量分析装置14は、試料2に対する一次イオン4の入射角6が変化するように、試料ステージ8を傾斜する傾斜装置16を備えている。ここで、一次イオン4の入射角6とは、試料2の表面に対する法線18と一次イオン4の入射方向と間の角度である(図1(b)参照)。
【0030】
また、二次イオン質量分析装置14は、一次イオンを発生するイオンガン20と二次イオンを検出する四重極型の質量分析器22(二次イオン検出器)を備えている。
【0031】
イオンガンは一つでもよいが、図1のように複数設けて、異なったイオン種(例えば、O2+及びCs+)を試料に照射できるようにしてもよい。
【0032】
また、本実施の形態例では、試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として傾斜装置16が表示する値が、一次イオン4の入射角度6に等しくなるように、傾斜装置16の表示する上記値の原点が設定されている。尚、試料ステージ8の傾斜角度10と1次イオン4の入射角度6の関係は、図8に示す例と同じである。
【0033】
(2)工程
図2は、本実施の形態例に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【0034】
(i)第1の工程(S1)
本実施の形態例では、まず、複数の、試料ステージ8の傾斜位置42(例えば、傾斜角度10として、66°、67°、68°、69°、及び70°が表示される傾斜位置42)それぞれで、構造が同一の複数(例えば、3つ)の標準試料を、上記二次イオン質量分析装置14によって測定(二次イオン質量分析)する。次に、その結果に基づいて、標準試料が含有する元素(例えば、窒素)の感度係数を決定する。
【0035】
尚、試料の構造が同一とは、上記元素(例えば、N)の濃度を除く他の構成が、二次イオン質量分析装置によって識別困難な程度に一致していることをいう。
【0036】
(ii)第1の工程(S2)
次に、上記感度係数が決定された、前記傾斜位置(例えば、傾斜角度10として、66°、67°、68°、69°、及び70°が表示される傾斜位置42)それぞれで、上記二次イオン質量分析装置14によって下記濃度標準試料を測定(二次イオン質量分析)した結果と、第1の工程で決定した感度係数に基づいて、濃度標準試料に含有される上記元素(例えば、N)の濃度を算出する。
【0037】
ここで、濃度標準試料とは、上記元素(例えば、N)を含有する濃度として既知の数値(例えば、3.9%)が記録されて、上記標準試料とは構造が異なる試料のことをいう。
【0038】
尚、標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を利用する理由については、下記実施の形態例2の「(iii)第3の工程(S3)」で説明する。
【0039】
(iii)第3の工程(S3)
図9は、第2の工程で算出した濃度(例えば、窒素濃度)と傾斜装置16が傾斜角度10として表示する値の関係を表したものである。縦軸は、例えば、第2の工程で算出した濃度(例えば、窒素濃度)である。横軸は、傾斜装置16が表示する値である。
【0040】
すなわち、図9は、第2の工程で算出した濃度(例えば、4.06%、3.76%、3.19%、3.22%、及び2.05%)と、これらの濃度が算出された濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して、傾斜角度10として傾斜装置16が表示する値(例えば、66°、67°、68°、69°、及び70°)の間の関係を示している。
【0041】
本工程では、このような関係に於いて、上記既知の数値(例えば、3.9%)に対応する、試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として傾斜装置16によって表示される第1の値(例えば、66.6°)を求める(図9参照)。この第1の値で表示される傾斜位置42は、以前(例えば、ベークアウト前)に測定(二次イオン質量分析)を行った傾斜位置42に相当する。
【0042】
(iv)第4の工程(S4)
次に、上記既知の数値(例えば、3.9%)を算出するために、二次イオン質量分析装置14で上記濃度標準試料を以前に測定(二次イオン質量分析)した時に、濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として傾斜装置16が表示していた第2の値(例えば、67.0°)によって、上記第1の値(例えば、66.6°)によって表示されている傾斜位置42が表示されるように、傾斜装置16によって表示される値を較正する。
【0043】
すなわち、図9に示した例では、傾斜装置16によって66.6°と表示される傾斜位置が、67.0°(以前に濃度標準試料の濃度を測定した傾斜位置42に対して傾斜装置が表示する値)と表示されるように、傾斜装置16に設けられた表示装置の原点を調整する。この時、原点調整は、1°以下の高精度で行われる。
【0044】
(v)効果
以上説明したように、本実施の形態例では、過去に含有元素の濃度を測定した試料(濃度標準試料)を再度測定し、過去に算出した濃度と同じ値が得られる傾斜位置を特定する。この特定された傾斜位置が、過去に濃度標準試料の濃度を測定した時の傾斜位置に一致することを利用して、試料ステージ8の傾斜角度を較正する。
【0045】
本実施の形態例では、濃度標準試料に含有される元素(例えば、N)の濃度を感度係数に基づいて算出し、傾斜角度較正の指標にする。下記実施の形態例2の「(i)第1の工程(S1)」で説明するように、感度係数に基づく元素濃度の導出は、二次イオン検出器(質量分析器22)の検出感度には左右されない。従って、本実施の形態例によれば、信頼性の高い傾斜角度の較正が可能になる。
【0046】
また、本実施の形態例では、複数の標準試料を用いて感度係数を高精度に導出するので、1°以下という高精度で傾斜角度の較正が可能になる。
【0047】
(実施の形態例2)
本実施の形態例は、実施の形態例1に係る試料ステージの傾斜角度較正法に於いて、標準試料及び濃度標準試料として好ましい一例を明示したものである。
【0048】
(1)二次イオン質量分析装置
本実施の形態例で使用される二次イオン質量分析装置14は、実施の形態例1で説明した二次イオン質量分析装置と同じでものある。
【0049】
(2)標準試料
図3は、本実施の形態例で使用する標準試料24の断面図である。
【0050】
本実施の形態例で使用する標準試料24は、第1の下地26と、第1の下地26の上に形成された第1の薄膜28とから構成されている。そして、標準試料24は、濃度が既知の第1の元素を含有し、組成比が既知の第2の元素(第1の元素とは異なる元素)によって構成されている。
【0051】
例えば、標準試料24は、Si単結晶からなる第1の下地26と、第1の下地26の上に形成された、SiO2膜からなる第1の薄膜28とから構成されている。そして、標準試料24は、濃度が既知の第1の元素(例えばN)を含有している。
【0052】
ここで、標準試料24を構成する第1の下地(例えば、Si単結晶)及び第1の薄膜(例えば、SiO2膜)は、第1の元素(例えば、N)とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素(例えば、Si)で構成されている(Siの組成比は、Si単結晶中では1;SiO2膜中では1/3である。)。
(3)濃度標準試料
図4は、本実施の形態例で使用する濃度標準試料30の断面図である。
【0053】
本実施の形態例で使用する濃度標準試料30は、第1の下地26と組成が同じ第2の下地32と、第2の下地32の上に形成され、第1の薄膜28とは構造の異なる第2の薄膜34とから構成されている。そして、濃度標準試料30は、第1の元素を含有し、その濃度として既知の数値が記録されている。更に、濃度標準試料30は、組成比が既知の第2の元素によって構成されている。ここで、薄膜28の構造とは、薄膜28の膜厚、及び組成等のことである。
【0054】
例えば、濃度標準試料30は、Si単結晶からなる第2の下地32(Si単結晶からなる第1の下地26と同一組成)と、第2の下地32の上に形成され第1の薄膜28とは膜厚が異なる、SiO2膜からなる第2の薄膜34とから構成されている。
【0055】
そして、濃度標準試料30は、第1の元素(例えば、N)を含有し、その濃度として既知の数値(例えば、3.9%)が記録されている。更に、濃度標準試料30は、組成比が既知の第2の元素(例えば、Si)によって構成されている(Siの組成比は、Si単結晶中では1;SiO2膜中では1/3である。)。
【0056】
(4)工程
図5は、本実施の形態例に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【0057】
(i)第1の工程(S1)
本実施の形態例では、まず、複数の、試料ステージの傾斜位置8(例えば、傾斜角度として66°、67°、68°、69°、及び70°が表示される傾斜位置)それぞれで、構造が同一の複数(例えば、3つ)の標準試料2を、順次、試料ステージ8に装着し、二次イオン質量分析装置14によって、標準試料2から発生する2次イオン12を測定する(S11)。
【0058】
ここで、「構造が同一の複数(例えば、3つ)の標準試料」とは、例えば、含有する窒素濃度のみが異なり、他の構成(例えば、下地26の組成、下地26の上に形成された薄膜28の組成及び膜厚等)が二次イオン質量分析装置14では識別困難な程度に一致していることをいう。
【0059】
次に、上記工程(S11)によって得られる結果に基づいて、標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素(例えば、Si)に対する、第1の元素(例えば、窒素)の感度係数を決定する(S12)。
【0060】
ここで、上記工程(S12)で決定される<第1の元素の感度係数>について、少し説明する。
【0061】
例えば、標準試料が、Si単結晶基板からなる下地と、この下地の上に形成されたSiO2膜から構成され、窒素(N)を不純物として含有しているとする。
【0062】
窒素(第1の元素)の感度係数SNは、N(第1の元素)を含む2次イオン12(例えば、Si2+)の強度IN+と、Si(第2の元素)を含む2次イオン12(例えば、Si2+)の強度に対するIsi+によって、次式で定義される。
【0063】
【数1】

【0064】
但し、DNは前記標準試料に於けるNの濃度を表す。
【0065】
このように感度係数は2次イオンの相対的強度比として定義される。
【0066】
従って、第2の元素(例えば、Si)に対する第1の元素(例えば、N)の相対な感度すなわち感度係数は、二次イオン検出器(質量分析器22)の検出感度が変動しても変動しない。従って、感度係数の信頼性は高い。また、複数の標準試料を用いて感度係数を決定するので、その精度も高い。但し、第2の元素としては、通常、組成が既知のものを選択する。これは、第2の元素の二次イオン計数率によって、第1の元素の二次イオン計数率を規格するからだある。
【0067】
(ii)第2の工程(S2)
次に、上記第1の工程により感度係数の決定された、傾斜位置それぞれで(例えば、傾斜角度10として、66°、67°、68°、69°、及び70°と表示される傾斜位置)、以下の工程を繰り返す。
【0068】
まず、上記濃度標準試料30を、試料ステージ8に装着する。
【0069】
次に、二次イオン質量分析装置14によって、濃度標準試料の発生する二次イオンを測定した結果と、第1の工程によって決定された感度係数に基づいて、濃度標準試料30に含有される第1の元素(例えば、N)の濃度を算出する。
【0070】
以上の工程によって、濃度標準試料に含有される第1の元素(例えば、N)の濃度と傾斜装置16が傾斜角度10として表示する値との関係が明らかになる。
【0071】
(iii)第3の工程(S3)
本工程は、実施の形態例1の第3の工程(S3)と同じである。但し、本実施の形態例では、上述した下地26,32と薄膜28,34からなる標準試料24及び濃度標準試料30を用いた場合について説明する。
【0072】
図9は、第2の工程で算出した濃度(例えば、4.06%、3.76%、3.19%、3.22%、及び2.05%)と、この濃度が算出された傾斜位置に対して傾斜角度10として傾斜装置16が表示する値(例えば、66°、67°、68°、69°、及び70°)の間の関係を表す図である。縦軸は、第2の工程で算出した濃度(例えば、窒素濃度)である。横軸は、試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として傾斜装置16が表示する値である。
【0073】
本工程では、このような関係に於いて、濃度標準試料30に含有される元素(第1の元素;例えば、N)の濃度として既知の数値(例えば、3.9%)に対応する、(試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16によって表示される第1の値(例えば、66.6°)を求める(図9参照)。
【0074】
第2の工程では、傾斜位置毎に決定された感度係数に基づいて濃度標準試料30に含有される元素(第1の元素)の濃度を算出する。従って、本来は、この濃度は、試料ステージ8の傾斜位置42には依存しないはずである。しかし、実際には、例えば、図9に示すように、第2の工程で算出される第1の元素(例えば、N)の濃度(縦軸)は、一定ではなく、傾斜装置16が表示する値(横軸)の変化に伴って変化する(図9の詳細は、下記実施例1で説明する。)。
【0075】
このような算出濃度の傾斜角度依存性は、標準試料と濃度標準試料の構造が異なる場合に発現する。
【0076】
上述したように標準試料24及び濃度標準試料30は、下地26,32とこの下地の上に形成された薄膜28,34によって構成されている。この薄膜の構造(膜厚、及び組成等)が標準試料と濃度標準試料の間で異なると、濃度標準試料に含有される元素(第1の元素;例えば、N)の濃度として算出される値が、試料ステージの傾斜位置42に依存するようになる。
【0077】
本工程では、例えば、図9のように、(第2の工程で算出した)第1の元素(例えば、N)の濃度と、(この濃度を算出した濃度標準試料30が装着さえていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた値の関係を明らかする(図9参照)。そして、この関係に於いて、濃度標準試料30が含有する第1の元素(例えば、N)の濃度として既知の値(例えば、3.9%)に対応する、(試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16によって表示される第1の値(例えば、66.6°)を求める(図9参照)。
【0078】
(iv)第4の工程(S4)
本工程は、実施の形態例1の第4の工程(S4)と同じである。
【0079】
上記既知の数値(例えば、3.9%)を算出するために、二次イオン質量分析装置14で上記濃度標準試料を以前に測定(二次イオン質量分析)した時に、(濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた第2の値(例えば、67°)によって、上記第1の値(例えば、66.6°)によって表示されている傾斜位置42が表示されるように、傾斜装置16によって表示される値を較正する。
【0080】
すなわち、図9に示した例では、傾斜装置16によって66.6°と表示されている傾斜位置42が、67.0°(以前に濃度標準試料の濃度を測定した傾斜位置42)と表示されるように、傾斜装置16に設けられた表示装置の原点を調整する。この時、原点調整は、1°以下の高精度で行われる。
【0081】
(5)効果
本実施の形態例は、上記実施の形態例1の効果と同じ効果を奏する。
更に、本実施の形態例によれば、下地の上に形成する薄膜の構造(膜厚等)を標準試料と濃度標準試料の間で変えるだけで、簡単に試料ステージ8の傾斜角度を較正することができる。
【0082】
(実施の形態例3)
本実施の形態例は、実施の形態例1に係る較正方法を利用して行われる、信頼性の高い二次イオン質量分析方法に係るものである。すなわち、本実施の形態例は、試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として傾斜装置16によって表示される値を較正した後に、測定されるべき試料を測定する二次イオン質量分析方法に係るものである。
【0083】
(1)二次イオン質量分析装置
本実施の形態例で使用される二次イオン質量分析装置14は、実施の形態例1で説明した二次イオン質量分析装置と同じでものある。
【0084】
(2)工程
図6は、本実施の形態例の工程を説明する図である。
【0085】
(i)第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)
第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)は、実施の形態例1に於ける第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)と同じである。
【0086】
(ii)第5の工程
本工程では、まず、第4の工程(S4)の後、測定すべき試料を試料ステージに装着8する。
【0087】
次に、傾斜装置16が表示する値(傾斜角度)を、以前から二次イオン質量分析に使用していた傾斜角度に一致させる。すなわち、濃度標準試料が含有する元素(例えば、N)の濃度として記録された既知の数値(例えば、3.9%)を算出するために、二次イオン質量分析装置14で上記濃度標準試料を以前に測定(二次イオン質量分析)した時に、(濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた上記第2の値(例えば、70°)に、傾斜装置16が表示する値(傾斜角度)を一致させる。
【0088】
その後に、測定すべき上記試料に含有される元素(例えば、N)の濃度を測定する(S5)。
【0089】
(3)効果
本実施の形態例では、S1〜S4の工程によって、試料ステージ8の傾斜角度が正しく較正されている。このような状態で、傾斜装置16が(傾斜角度10として)表示する値を以前から使用いていた値(例えば、70°)に設定するので、測定すべき試料への一次イオンの入射角度は従前の測定時と同じになる。従って、信頼性の高い測定を行うことができる。
【0090】
(実施の形態例4)
本実施の形態例は、実施の形態例2に係る較正方法を利用して行われる、信頼性の高い二次イオン質量分析方法に係るものである。
【0091】
(1)二次イオン質量分析装置
本実施例で使用される二次イオン質量分析装置14は、実施の形態例1で説明した二次イオン質量分析装置と同じでものある。
【0092】
(2)標準試料及び濃度標準試料
本実施例で使用される標準試料及び濃度標準試料は、実施の形態例2で説明したものと同じある。
【0093】
(3)工程
図7は、本実施の形態例の工程を説明する図である。
【0094】
(i)第1の工程〜第4の工程(S1〜S4)
第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)は、実施の形態例2の工程(図5;S1〜S4)と同じである。
【0095】
(ii)第5の工程(S5)
本工程は、実施の形態例3に於ける第5の工程(図6;S5)と略同じである。
【0096】
(3)効果
本実施の形態例は、上記実施の形態例3の効果と同じ効果を奏する。
【0097】
更に、本実施の形態例によれば、下地の上に形成する薄膜の構造(膜厚等)を標準試料と濃度標準試料の間で変えるだけで、簡単に試料ステージ8の傾斜角度を較正する工程(S1〜S4)を行うことができる。
【実施例1】
【0098】
本実施例に係る傾斜角度較正法は、試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法である。
【0099】
(1)二次イオン質量分析装置
本実施例で使用される二次イオン質量分析装置は、実施の形態例1で説明した二次イオン質量分析装置と同じである(実施の形態例1の「(1)二次イオン質量分析装置」参照)。
【0100】
(2)標準試料
図3は、本実施例で使用する標準試料24の断面図である。
【0101】
本実施例で使用する標準試料24は、Si基板(第1の下地26)と、Si基板26の上に形成された、厚さ2nmのSiO2膜(第1の薄膜28)とから構成されている。そして、標準試料24は、濃度が既知の窒素(N;第1の元素)を、SiO2膜28とSi基板26の界面近傍に集中的に含有している。
【0102】
すなわち、標準試料24は、窒素(N;第1の元素)とは異なり且つ組成比は既知のSiで構成されている(Si組成比は、Si単結晶中では1であり、SiO2膜中では1/3である。)。
【0103】
このような標準試料を、界面近傍の窒素濃度だけを変えて、3種類用意する(すなわち、第1の薄膜28の膜厚及び組成、並びに第1の下地26の組成は、同一である。)。尚、3種類の標準試料の窒素濃度は、1.6%、3.3%、及び3.6%である。
【0104】
(3)濃度標準試料
図4は、本実施例で使用する濃度標準試料30の断面図である。
【0105】
本実施例で使用する濃度標準試料30は、Si基板(第2の下地32)と、Si基板32の上に形成された膜厚1nmのSiO2膜(第2の薄膜34)とから構成されている。そして、濃度標準試料30は、窒素(第1の元素)をSiO2膜28とSi基板26の界面近傍に集中的に含有している。この界面近傍の窒素濃度として、3.9%(既知の数値)が記録されている。この窒素濃度は、以前、上記濃度標準試料30を試料ステージ8に装着し、傾斜装置16の表示を67.0°に設定した状態で、濃度標準試料30を二次イオン質量分析した結果に基づいて得られたものである。
【0106】
ここで、濃度標準試料30を構成するSi基板(第2の下地32)は、標準試料を構成するSi基板(第1の下地26)の組成と同じである。
【0107】
また、濃度標準試料30を構成するSi(第2の元素)の組成比が、Si基板(第2の下地32)では1であり、SiO2膜中(第2の薄膜34)では1/3であることは、当然、既知である。
【0108】
(4)工程
本実施例の工程は、基本的には、実施の形態例2の工程と同じである(図5参照)。
【0109】
(i)第1の工程(S1)
本工程では、傾斜装置16によって、傾斜角度10として66°、67°、68°、69°、及び70°と表示される、試料ステージ8の複数の傾斜位置42それぞれで以下の工程を行う。
【0110】
まず、3種類の上記標準試料を、順次、試料ステージ8に装着し、上記二次イオン質量分析装置14で、標準試料24にO2+(一次イオン4)を照射して、N(第1の元素)からなるSi2+イオン(第1の二次イオン)の第1の計数率IN+と、Si(第2の元素)からなるSi2+イオン(第2の二次イオン)の第2の計数率ISi+を測定する(S11)。
【0111】
次に、次式で定義される感度係数SNを、決定する(S12)。
【0112】
【数1】

【0113】
但し、DNは標準試料に於ける窒素(第1の元素)の濃度を表す。
【0114】
図8は、標準試料24で生成される二次イオンの一秒当たりの計数(計数率)と、一次イオンの照射を始めてからの経過時間の関係を表したものである。縦軸(対数表示)は、計数率である。横軸(線形表示)は、一次イオンの照射を始めてからの経過時間であり、標準試料24の表面からの深さに対応する。
【0115】
図8には、Si2+イオンの計数率36とSi2+イオンの計数率38が示されている。図8には、参考として、Si+イオンの計数率40も示されている。また、図8の上部には、SiO2膜28とSi基板26の存在位置が示されている。
【0116】
Si2+イオンの計数率38から明らかように、窒素(N)は、SiO2膜28とSi基板26の界面44の近傍に集中的に存在している。
【0117】
従って、感度係数Sは、窒素濃度が最大になる領域すなわち界面近傍に於ける2次イオンの計数率に基づいて決定される。
【0118】
(ii)第2の工程(S2)
次に、感度係数Sの決定された、上記傾斜位置(傾斜角度として、66°、67°、68°、69°、及び70°が表示される傾斜位置)夫々で以下の工程を行う。
【0119】
まず、上記濃度標準試料30を、前記試料ステージ8に装着する。
【0120】
次に、二次イオン質量分析装置14で、濃度標準試料30にO2+(一次イオン)を照射して、Si2+(第1の二次イオン)の第3の計数率I*N+とSi2+(第2の二次イオン)の第4の計数率I*si+を測定する。
【0121】
次に、第3の計数率I*N+と第4の計数率I*si+の比I*N+/I*si+に、感度係数SNが決定された夫々の傾斜位置(66°、67°、68°、69°、及び70°で表示される傾斜位置42)に於ける感度係数SNを乗じて、濃度標準試料30に於ける窒素(第1の元素)の濃度を算出する。
【0122】
ここで、上記濃度の算出も、S21に於ける感度係数の決定と同様に、SiO2膜28とSi基板26の界面近傍に於ける2次イオンの計数率に基づいて算出される。
【0123】
(iii)第3の工程(S3)
本工程は、実施の形態例1の第3の工程と同じである。但し、本実施の形態例では、Si基板とSiO2薄膜からなる標準試料及び濃度標準試料を用いた例について説明する。
【0124】
図9は、第2の工程で算出した濃度(4.06%、3.76%、3.19%、3.22%、及び2.05%)と、(この濃度が算出された標準試料30が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示する値(66°、67°、68°、69°、及び70°)の間の関係を表す図である。
【0125】
縦軸は、第2の工程で算出した窒素濃度である。横軸は、それぞれの窒素濃度を算出する基礎となった二次イオンの計数率を測定した時に、(濃度標準試料30が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた傾斜角度10である。
【0126】
本工程では、このような関係に於いて、濃度標準試料30に含有される窒素(第1の元素)の濃度として既知の数値(3.9%)に対応する、(試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示する第1の値(66.6°)を求める。
【0127】
(iv)第4の工程(S4)
次に、上記既知の数値(3.9%)を算出するために、二次イオン質量分析装置14で上記濃度標準試料を以前に測定した時に、(濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた第2の値(67.0°)によって、上記第1の値(66.6°)によって表示されている傾斜位置42が表示されるように、傾斜装置16によって表示される値を較正する。
【0128】
すなわち、傾斜装置16によって66.6°と表示される位置が、67.0°と表示されるように、傾斜装置16に設けられた表示装置の原点を調整する。
【0129】
(5)効果
以上のようにして、試料ステージ8の傾斜角度10を較正すると、二次イオン質量分析装置14によって測定される、Si基板とSiO2膜界面近傍のN濃度の誤差率(=誤差/測定値)は、±5%と小さな値であった。この誤差率は、ベークアウト前後で変化しない。
【0130】
すなわち、本実施例に拠れば、ベークアウト(又は、経時変化)の影響を受けることなく、N濃度の測定(二次イオン質量分析)を行うことができた。すなわち、本実施例による、傾斜角度の較正方法の信頼性は極めて高い。
【実施例2】
【0131】
本実施例は、実施例1に係る傾斜角度の較正方法を利用して行われる、再現性の高い二次イオン質量分析方法である。
【0132】
(1)二次イオン質量分析装置
本実施例で使用される二次イオン質量分析装置は、実施の形態例1で説明した二次イオン質量分析装置と同じである。
【0133】
(2)標準試料及び濃度標準試料
本実施例で使用される標準試料及び濃度標準試料は、実施例1で説明したものと同じある。
【0134】
(3)工程
本実施例の工程は、基本的には、実施の形態例4の工程と同じである(図7参照)。
【0135】
(i)第1の工程〜第4の工程(S1〜S4)
第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)は、実施の形態例4の第1の工程(S1)〜第4の工程(S4)と同じである(図7)。
【0136】
(ii)第5の工程(S5)
本工程は、実施の形態例4の第5の工程と略同じである。
【0137】
本工程では、まず、第4の工程(S4)の後、Si基板とSiO2膜からなり界面近傍にNが集中的に含有された試料(測定すべき試料)を試料ステージに装着8する。
【0138】
次に、傾斜装置16が表示する値(傾斜角度)を、以前から二次イオン質量分析に使用していた傾斜角度(70.0°)に一致させる。すなわち、二次イオン質量分析装置14で上記濃度標準試料を以前に測定(二次イオン質量分析)した時に、(濃度標準試料が装着されていた試料ステージ8の傾斜位置42に対して傾斜角度10として)傾斜装置16が表示していた値70°(上記第2の値)に、傾斜装置16が表示する値(傾斜角度)を一致させる。
【0139】
その後に、測定すべき上記試料に含有されるN(第1の元素)の濃度を測定する。
【0140】
(5)効果
以上のようにして、試料ステージ8の傾斜角度を較正すると、二次イオン質量分析装置14によって測定される、Si基板とSiO2膜界面近傍のN濃度の誤差率(=誤差/測定値)は、±5%と小さな値であった。この誤差率は、ベークアウト前後で変化しない。
【0141】
すなわち、本実施例に拠れば、ベークアウト(又は、経時変化)の影響を受けることなく、窒素濃度の測定(二次イオン質量分析)を行うことができた。すなわち、本実施例による、二次イオン質量分析方法の信頼性は極めて高い。
【0142】
以上の例は、Si基板とその上に形成されたSiO2膜からなり、その界面近傍の領域にNが集中的に含有された試料について二次イオン質量分析する場合を説明した。しかし、本発明は、他の構造の試料にも当然適用できる。また、窒素(N)以外の元素の分析にも、本発明は適用可能である。
【0143】
以上の実施の形態をまとめると,次の付記のとおりである。
【0144】
(付記1)
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法において、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、
前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、
前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、
前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程とからなる、
試料ステージの傾斜角度較正方法。
【0145】
(付記2)
付記1に記載の、試料ステージの傾斜角度較正方法において、
前記第1の工程が、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、
前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、
前記第2の工程が、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする、
試料ステージの傾斜角度較正方法。
【0146】
(付記3)
付記1に記載の試料ステージの傾斜角度較正方法において、
前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする試料ステージの傾斜角度較正方法。
【0147】
(付記4)
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正した後に、測定されるべき前記試料を測定する二次イオン質量分析方法において、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、
前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、
前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、
前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程からなり、
第4の工程の後、測定すべき前記試料を前記試料ステージに装着し、
前記傾斜装置が表示する前記値を、前記第2の値に一致させ、
その後、測定すべき前記試料に含有される前記元素の濃度を測定する第5の工程からなる、
二次イオン質量分析方法。
【0148】
(付記5)
付記4に記載の二次イオン質量分析方法において、
前記第1の工程が、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、
前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、
前記第2の工程が、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする二次イオン質量分析方法法。
【0149】
(付記6)
付記5に記載の二次イオン質量分析方法において、
前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする二次イオン質量分析方法。
【0150】
(付記7)
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法において、
複数の、前記試料ステージの傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、前記第1の薄膜の膜厚及び組成並びに前記第1の下地の組成が同一で、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置で、前記標準試料に一次イオンを照射して、前記第1の元素からなる第1の二次イオンの第1の計数率I1と、第2の元素からなる第2の二次イオンの第2の計数率I2を測定し、

【0151】
【数2】

【0152】
但し、Dは前記標準試料に於ける前記第1の元素の濃度を表す、
で定義される感度係数Sを決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは膜厚の異なる第2の薄膜からなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置で、前記濃度標準試料に前記一次イオンを照射して、前記第1の二次イオンの第3の計数率I3と前記第2の二次イオンの第4の計数率I4を測定し、
前記第3の計数率I3と前記第4の計数率I4の比I3/I4に、前記感度係数が決定された夫々の前記傾斜位置に於ける前記感度係数Sを乗じて、前記濃度標準試料に於ける前記第1の元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、前記濃度が算出された前記濃度標準が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される値を較正する第4の工程からなる、
試料ステージの傾斜角度較正方法。
【0153】
(付記8)
付記1乃至3及び付記7付記に記載の試料ステージの傾斜角度較正方法において、
前記第1及び第2の下地が珪素からなり、
前記第1及び第2の薄膜が二酸化珪素からなり、
前記第1の元素が窒素からなり、
前記第2の元素が珪素からなり、
前記標準試料及び前記濃度標準試料の双方に於いて、前記第1の元素が、前記第1の下地と前記第1の薄膜の界面近傍に存在することを特徴とする試料ステージの傾斜角度較正方法。
【0154】
(付記9)
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正した後に、測定されるべき前記試料を測定する二次イオン質量分析方法において、
複数の、前記試料ステージの傾斜位置それぞれで、
複数の、前記試料ステージの傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、前記第1の薄膜の膜厚及び組成並びに前記第1の下地の組成が同一で、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置で、前記標準試料に一次イオンを照射して、前記第1の元素からなる第1の二次イオンの第1の計数率I1と、第2の元素からなる第2の二次イオンの第2の計数率I2を測定し、

【0155】
【数2】

【0156】
但し、Dは前記標準試料に於ける前記第1の元素の濃度を表す、
で定義される感度係数Sを決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは膜厚の異なる第2の薄膜からなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置で、前記濃度標準試料に前記一次イオンを照射して、前記第1の二次イオンの第3の計数率I3と前記第2の二次イオンの第4の計数率I4を測定し、
前記第3の計数率I3と前記第4の計数率I4の比I3/I4に、前記感度係数が決定された夫々の前記傾斜位置に於ける前記感度係数Sを乗じて、前記濃度標準試料に於ける前記第1の元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、前記濃度が算出された前記濃度標準が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される値を較正する第4の工程と、
第4の工程の後、測定すべき前記試料を前記試料ステージに装着し、
前記傾斜装置が表示する前記値を、前記第2の値に一致させ、
その後、測定すべき前記試料に含有される前記元素の濃度を測定する第5の工程からなる、
二次イオン質量分析方法。
【0157】
(付記10)
付記4乃至6及び付記9に記載の二次イオン質量分析方法において、
前記第1及び第2の下地が珪素からなり、
前記第1及び第2の薄膜が二酸化珪素からなり、
前記第1の元素が窒素からなり、
前記第2の元素が珪素からなり、
前記標準試料及び前記濃度標準試料の双方に於いて、前記第1の元素が、前記第1の下地と前記第1の薄膜の界面近傍に存在することを特徴とする二次イオン質量分析方法。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、半導体装置等の製造業又は材料の分析産業で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】実施の形態例1に係る試料ステージの傾斜角度較正法が実施される二次イオン質量分析装置の概略図である。
【図2】実施の形態1に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【図3】実施の形態例1で使用する標準試料の断面図である。
【図4】実施の形態例1で使用する濃度標準試料の断面図である。
【図5】実施の形態2に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【図6】実施の形態3に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【図7】実施の形態4に係る試料ステージの傾斜角度較正法の工程を説明する図である。
【図8】標準試料を二次イオン質量分析方法で測定して得られた一次イオンの照射時間と二次イオンの計数率の関係を説明する図である。
【図9】傾斜装置が傾斜角度として表示する値と、濃度標準試料の窒素濃度として算出された値の関係を示す図である。
【図10】二次イオン質量分析装置に於いて、試料に一次イオンが照射され二次イオンが発生する様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0160】
2・・・試料 4・・・1次イオン 6・・・1次イオンの入射角度
8・・・試料ステージ 10・・・傾斜角度 12・・・二次イオン
14・・・二次イオン質量分析装置 16・・・傾斜装置 18・・・法線
20・・・イオンガン 22・・・質量分析器 24・・・標準試料
26・・・第1の下地 28・・・第1の薄膜 30・・・濃度標準試料
32・・・第2の下地 34・・・第2の薄膜 36・・・Si2+イオンの計数率
38・・・Si2+イオンの計数率 40・・・Si+イオンの計数率
42・・・傾斜位置 44・・・SiO2膜とSi基板の界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜させる傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正する、試料ステージの傾斜角度較正方法において、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、
前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、
前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、
前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程とからなる、
試料ステージの傾斜角度較正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、試料ステージの傾斜角度較正方法において、
前記第1の工程が、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、
前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、
前記第2の工程が、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする、
試料ステージの傾斜角度較正方法。
【請求項3】
請求項2に記載の試料ステージの傾斜角度較正方法において、
前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする試料ステージの傾斜角度較正方法。
【請求項4】
二次イオン質量分析方法によって測定される試料が装着される試料ステージと、
前記試料に対する一次イオンの入射角が変化するように、前記試料ステージを傾斜する傾斜装置を具備した二次イオン質量分析装置で実施され、
前記試料ステージの傾斜位置に対して傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される値を較正した後に、測定されるべき前記試料を測定する二次イオン質量分析方法において、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
構造が同一の複数の標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果に基づいて、
前記標準試料が含有する元素の感度係数を決定する第1の工程と、
前記感度係数が決定された、前記傾斜位置それぞれで、
前記元素を含有する濃度として既知の数値が記録されている、前記標準試料とは構造が異なる濃度標準試料を、前記二次イオン質量分析装置によって測定した結果と、前記第1の工程で決定した感度係数に基づいて、
前記濃度標準試料に含有される前記元素の濃度を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出した前記濃度と、当該濃度が算出された前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して、前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示する前記値の間の関係に於いて、
前記既知の数値に対応する、前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置によって表示される第1の値を求める第3の工程と、
前記既知の数値を算出するために、前記二次イオン質量分析装置で前記濃度標準試料を以前に測定した時に、前記濃度標準試料が装着されていた前記試料ステージの前記傾斜位置に対して前記傾斜角度として前記傾斜装置が表示していた第2の値によって、
前記第1の値によって表示されている前記傾斜位置が表示されるように、
前記傾斜装置によって表示される前記値を較正する第4の工程からなり、
第4の工程の後、測定すべき前記試料を前記試料ステージに装着し、
前記傾斜装置が表示する前記値を、前記第2の値に一致させ、
その後、測定すべき前記試料に含有される前記元素の濃度を測定する第5の工程からなる、
二次イオン質量分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の二次イオン質量分析方法において、
前記第1の工程が、
複数の、前記試料ステージの前記傾斜位置それぞれで、
第1の下地と、前記第1の下地の上に形成された第1の薄膜によって構成され、濃度が既知の第1の元素を含有し、前記第1の元素とは異なり且つ組成比が既知の第2の元素からなる、構造が同一の複数の標準試料を、順次、
前記試料ステージに装着し、前記二次イオン質量分析装置によって測定する工程と、
前記工程によって得られる結果に基づいて、前記標準試料を構成し組成比が既知の第2の元素に対する、前記第1の元素の感度係数を決定する工程からなり、
前記第2の工程が、
前記感度係数が決定された前記傾斜位置それぞれで、
前記第1の下地と組成が同じ第2の下地と、前記第2の下地の上に形成され前記第1の薄膜とは構造が異なる第2の薄膜とからなり、前記第1の元素を含有する濃度として既知の数値が記録され、組成比が既知の前記第2の元素で構成される濃度標準試料を、前記試料ステージに装着し、
前記二次イオン質量分析装置によって前記濃度標準試料を測定した結果と、前記第1の工程によって決定された前記感度係数に基づいて、前記濃度標準試料に含有される前記第1の元素の濃度を算出する工程であることを特徴とする二次イオン質量分析方法法。
【請求項6】
請求項5に記載の二次イオン質量分析方法において、
前記第2の薄膜の膜厚が、前記第1の薄膜の膜厚と異なることを特徴とする二次イオン質量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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