説明

二次電子検出器、及び荷電粒子ビーム装置

【課題】簡単な構成で放電を防止し、良好な画像を高い検出効率で得る。
【解決手段】シンチレーター21をフォトマルチプライヤー23の入射側面23aに、電子をシンチレーター21に引き込むシンチレーターキャップ22をシンチレーター21の周囲に配置する。フォトマルチプライヤー23はその周囲に真空シールを設け、試料室に配置する。シンチレーターキャップ22とフォトマルチプライヤー23との間には不透明素材からなる絶縁部材25を配置し、絶縁部材25はシンチレーターキャップ22とフォトマルチプライヤー23を絶縁すると共に、フォトマルチプライヤー23の側周部23bを覆いフォトマルチプライヤー23への光の入射を防止する。シンチレーター21とフォトマルチプライヤー23の入射側面23aとの間には、光学顕微鏡の照明光を遮断するバンドフィルター27を配置し、光学顕微鏡との同時観察を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電子検出器及び荷電粒子ビーム装置に係り、特に電子を吸収して光を発生するシンチレーター、このシンチレーターからの光を増服する光電子増倍管を備えた二次電子検出器、及びこの二次電子検出器を備えた荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、集束イオンビーム装置(FIB)、あるいは電子線薄膜トランジスタ(TFT)アレイ検査装置等の荷電粒子ビーム装置では、一次荷電粒子を試料に照射して、試料表面から放出される二次電子を二次電子検出器で検出する。このような荷電粒子ビーム装置である走査電子顕微鏡は、電子銃から一次電子線としての電子ビームを対物レンズ等の収束手段によって試料上に集束しつつ、走査手段で2次元的に走査して試料に照射し、この電子ビームの照射によって発生した二次電子を二次電子検出器で検出し、検出信号を前記電子ビームの走査に同期した表示手段に供給し、試料の走査像を得る。
【0003】
このような二次電子検出器として、以下のものがある。図3は従来の二次電子検出器を示す断面図である。この二次電子検出器40は、前記試料からの二次電子を受け、光を発生するシンチレーター41、シンチレーター41からの光を導くライトガイド42、シンチレーター41の周囲に配置されシンチレーターに二次電子を吸引するため高電圧(例えば10KV)が印加されるシンチレーターキャップ43、シンチレーターが発生した光を増幅するフォトマルチプライヤー(光電子増倍管:PMT)44、フォトマルチプライヤー44が挿入されるソケット45を備えて構成される(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2004−14251号公報
【特許文献2】特開2009−043594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、二次電子検出器40は、ライトガイド42の部分を取付部材47に取り付けて、真空チャンバーである試料室に取り付けられる。これにより、シンチレーター41を真空側に、ソケット45を大気圧である試料室外に配置する。このため、ライトガイド42と取付部材47との間で真空シールが施されている。ここで、ライトガイド42はガラスなどで構成され、真空シールは、ライトガイド42の周囲と取付部材47との間を接着剤46で充填することによってなされる。ここで、図中符号46a、46bは接着剤46の盛り上げ部、符号48はシンチレーターキャップ43に高電圧を印加するためのケーブルを示している。なお、真空シールはOリングで行うこともできる。
【0006】
しかし、従来の二次電子検出器40では、シンチレーター41からの微弱な光は、ライトガイド42を通過してフォトマルチプライヤー44に入射するため、ライトガイド42の素材よって光が減衰したり、ライトガイド42の両端面での反射によっても光の減衰があったりするため、シンチレーター41からの光を効率良くフォトマルチプライヤー44へ導くことができないという問題がある。
【0007】
また、近年同一試料室内に光学顕微鏡を配置して電子顕微鏡と同一試料の観察を行う走査電子顕微鏡が提供され、このような走査電子顕微鏡にあっては、光学顕微鏡の照明光がシンチレーター41側から入射してしまうこととなる。この照明光はシンチレーター41の入射側に照明光の波長領域の光を遮断する波長フィルターを配置して遮光できるが、ライトガイド42側面等から入射するものはフォトマルチプライヤー44に入射して検出されてしまうため、電子顕微鏡像と光学顕微鏡像とを同時に観察することができないという問題がある。
【0008】
さらに、シンチレーターキャップ43には、数千ボルトの高電圧が印加されている一方、フォトマルチプライヤー44には、電子を光電陰極からの電子をダイノード電極に当てるために数百ボルトの電圧を印加しており、この印加電圧がフォトマルチプライヤー44表面に電位が発生している。これに対処し検出効率を上げるためにライトガイドを廃止して直接接触させると上記2つの間の電位差により両部材管に放電が発生し、これが雑音源となり良好な画像を得ることができないという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、簡単な構成で、放電を防止しつつ良好な画像を高い検出効率で得ることができる二次電子検出器、及び荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための請求項1の発明は、電子を吸収して光を発生するシンチレーターと、このシンチレーターからの光を増服する光電子増倍管とを備えた二次電子検出器であって、前記シンチレーターを前記光電子増倍管の入射側端部に配置し、電子を前記シンチレーターに向け加速する電極部材を前記シンチレーターの周囲を覆うように配置し、前記電極部材と前記光電倍増管との間に前記電極部材及び前記光電子倍増管に接触して両者を絶縁する絶縁部材を配置したことを特徴とする二次電子検出器である。
【0011】
同じく請求項2の発明は、請求項1に記載の二次電子検出器において、前記光電倍増管は、その周面に二次電子検出器が取り付けられる機器の取り付け部との間で真空シール部を形成することを特徴とする。
【0012】
同じく請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の二次電子検出器において、前記シンチレーターと光電倍増管の入射側端部との間であって、前記絶縁部材の厚みで形成される空間部に特定の波長領域の光を遮断し前記光電倍増管への進入を遮断するパスフィルターを配置したことを特徴とする。
【0013】
同じく請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の二次電子検出器において、前記絶縁部材は、光の進入を防止する不透明の素材で、前記光電倍増管の周面を覆うように構成したことを特徴とする。
【0014】
同じく請求項5の発明は、試料に電子ビームを照射する電子ビーム照射手段と、請求項1から請求項4のいずれかに記載の二次電子検出器を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置である。
【0015】
同じく請求項6の発明は、請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置において、光学顕微鏡と試料の照明装置とを備え、前記電子ビームでの観察と光学顕微鏡での観察を同時に行うことが可能なことを特徴とする。
【0016】
同じく請求項7の発明は、請求項5又は請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置において、装置本体に請求項1から請求項4のいずれかに記載の二次電子検出器が、前記光電子倍増管の側面で真空シールされて取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二次電子検出器及び荷電粒子ビーム装置によれば、簡単な構成で、良好な画像を、放電を防止しつつ、高い検出効率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態例に係る荷電粒子ビーム装置を示す模式図である。
【図2】実施形態例に係る二次電子検出器を示す断面図である。
【図3】従来の二次電子検出器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る荷電粒子ビーム装置として走査電子顕微鏡を図面に基づいて説明する。図1は実施形態例に係る荷電粒子ビーム装置を示す模式図、図2は実施形態例に係る二次電子検出器を示す断面図である。以下、実施の形態として走査電子顕微鏡を例として説明するが、本発明は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、集束イオンビーム装置(FIB)、あるいは電子線薄膜トランジスタ(TFT)アレイ検査装置等の荷電粒子ビーム装置に適用できる。
【0020】
走査電子顕微鏡10は、鏡筒11内上部の荷電ビーム源である電子線源12から発生した荷電ビームとしての電子線13を、コンデンサレンズ14で収束し、偏向コイル15で偏向走査して、対物レンズ16で収束及びフォーカスを調整し、試料室17内の試料18上を2次元走査する。電子線で走査された試料18からは二次電子19が放出され、この二次電子19は、二次電子検出器20で検出される。
【0021】
また、走査電子顕微鏡10には、制御装置100、入力装置110、画像表示装置120が配置されている。制御装置100は、前記偏向コイル15の走査信号、対物レンズ16の制御信号を発生する他、二次電子検出器20からの信号と前記走査信号とを同期して走査電子顕微鏡像(SEM像)を画像表示装置120に表示させる。
【0022】
さらに、走査電子顕微鏡10には、光学顕微鏡30が配置され、この光学顕微鏡30は、所定の波長の照明光により試料18の拡大像を撮像素子で撮像し、制御装置100を介して画像表示装置120で前記SEM像と同時に表示することができる。なお、試料18は、図示していない試料台に配置されており、任意の位置に移動できる他、観察に適した任意の角度に傾斜させることができる。
【0023】
次に二次電子検出器20について説明する。図2は実施形態例に係る二次電子検出器を示す断面図である。この二次電子検出器20は、前記試料18からの二次電子を受け、光を発生するシンチレーター21、シンチレーター21の周囲に配置されシンチレーターに二次電子を吸引するため高電圧が印加される電極部材としてのシンチレーターキャップ22、シンチレーターが発生した光を増幅するフォトマルチプライヤー(光電増倍管:PMT)23、フォトマルチプライヤー23が挿入されるソケット24を備えている。なお、シンチレーター21は口径約10mm、厚さ約1mm、フォトマルチプライヤー23は口径約14mm、全長85mmである。
【0024】
ここで、シンチレーター21はフォトマルチプライヤー23の入射側面23aに近接して配置されている。また、シンチレーターキャップ22は、略円筒形の金属部材であり、シンチレーター21及びフォトマルチプライヤー23の入射側端部の周囲に配置され、ケーブル29から高電圧(例えば10KV)が印加され、電子をシンチレーター21に向け加速する。シンチレーターキャップ22の外径は約23mm、内径は約16mm、全長約10mmである。
【0025】
一般に、フォトマルチプライヤー23の入射側面23a側に高電圧が印加されるシンチレーターキャップ22を取り付けると、フォトマルチプライヤー23で発生する光電子に影響を与え、シンチレーション光の増幅に影響を与えると考えられてきた。このため、フォトマルチプライヤーにライトガイドを設け、このライトガイドにシンチレーターキャップを取り付けてきた。しかし、発明者らは、フォトマルチプライヤー23の入射側面23a側にシンチレーターキャップ22を配置しても、光電子への影響は取得される画像に影響を与える程のものではないことを実験で確認した、なお、シンチレーターキャップ22の形状、寸法等は、使用するフォトマルチプライヤーやその他の条件により異なる。
【0026】
二次電子検出器20は、フォトマルチプライヤー23を取付部材28にはめ込んで、この取付部材28を試料室17に取り付けることにより走査電子顕微鏡10に取り付けられる。これにより、シンチレーター21を真空側に、ソケット24を大気圧である試料室外に配置する。このため、フォトマルチプライヤー23と取付部材28との間で真空シールがなされている。真空シールは、フォトマルチプライヤー23の周囲と取付部材28との間に接着剤26を充填することによってなされる。ここで、図中符号26a、26bは接着剤26の盛り上げ部を示している。なお、真空シールはOリングで行うこともできる。
【0027】
さらに、フォトマルチプライヤー23の周囲から入射側端部にかけてその周囲には、絶縁部材25を配置している。この絶縁部材25は、例えば不透明なフッ素ゴムを素材として、フォトマルチプライヤー23の側周部23bを覆う円筒部25aと、フォトマルチプライヤー23の入射側面23aにまで回り込む回り込み部25bとを備えて構成される。なお、回り込み部25bは、シンチレーター21の光がフォトマルチプライヤー23に入射するのを妨げない程度の寸法が入射側面23aの周縁から飛び出す。
【0028】
これにより、絶縁部材25は、円筒部25aで、透明ガラスで構成されたフォトマルチプライヤー23の側周部23bからの光を遮る。これにより、光学顕微鏡の照明光がフォトマルチプライヤー23に進入するのを防止する。なお、絶縁部材はフッ素ゴムの他、絶縁性を備え、真空中で使用できるものであれば他の素材のものでもよい。また、絶縁部材は、弾性に富む素材が好ましい。シンチレーターキャップ22をその側方からねじ込まれる小ねじをフォトマルチプライヤー23に当接させて固定する構造とした場合、絶縁部材25を弾性に富む素材にしておくと、小ねじの先端が絶縁部材25に当たって反発されるので、シンチレーターキャップ22とフォトマルチプライヤー23との固定が確実なものとなる。
【0029】
また絶縁部材25の絶縁部材25は、フォトマルチプライヤー23の入射側面23aとシンチレーターキャップ22とに接触して、両者の間を絶縁する。本実施形態例では、これにより、絶縁部材25とシンチレーターキャップ22との間の放電を防止して、雑音の発生を抑制し良好な走査顕微鏡による拡大像の取得を可能としている。
【0030】
また、二次電子検出器20において、シンチレーター21とフォトマルチプライヤー23の入射側面23aとの間には、絶縁部材25の回り込み部25bの厚みにより隙間部が形成される。二次電子検出器20は、この隙間部にバンドフィルター27を配置している。このバンドフィルター27は、光学顕微鏡30の照明光中の波長領域の光を遮断する光学フィルターである。本実施形態では、これにより、光学顕微鏡の照明光がフォトマルチプライヤー23の入射面に進入するのを防止して、前記絶縁部材25と相まって光学顕微鏡30との同時観察を可能とする。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る走査電子顕微鏡によれば、二次電子検出器は、ライトガイドを備えない構造としたから、ライトガイドに起因するシンチレーター光の劣化を防止できる。このとき、二次電子検出器はフォトマルチプライヤーにおいて確実に真空シールされて、走査電子顕微鏡の試料室に配置される。
【0032】
また、二次電子検出器のフォトマルチプライヤーには絶縁体を配置したので、高電圧が印加されるシンチレーターキャップとフォトマルチプライヤーとの間の放電を防止でき、取得する画像を良好なものとできる他、絶縁体でフォトマルチプライヤー側面部からの不要な光の進入を防止できる。
【0033】
さらに、シンチレーターとフォトマルチプライヤーとの間にバンドフィルターを配置して、光学顕微鏡の照明光がフォトマルチプライヤーに進入するのを防止でき、フォトマルチプライヤーの側面からの光進入を防止する絶縁体と相まって、光学顕微鏡の照明下で良好なSEM像を取得でき、同一観察領域を光学顕微鏡と走査電子顕微鏡で同時に観察できる。
【符号の説明】
【0034】
10 走査電子顕微鏡
11 鏡筒
12 電子線源
13 電子線
14 コンデンサレンズ
15 偏向コイル
16 対物レンズ
17 試料室
18 試料
19 二次電子
20 二次電子検出器
21 シンチレーター
22 シンチレーターキャップ
23 フォトマルチプライヤー(光電子増倍管)
23a 入射側面
23b 側周部
24 ソケット
25 絶縁部材
25a 円筒部
25b 回り込み部
26 接着剤
26a、26b 回り込み部
27 バンドフィルター
28 取付部材
29 ケーブル
30 光学顕微鏡
100 制御装置
110 入力装置
120 画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を吸収して光を発生するシンチレーターと、このシンチレーターからの光を増服する光電子増倍管とを備えた二次電子検出器であって、
前記シンチレーターを前記光電子増倍管の入射側端部に配置し、
電子を前記シンチレーターに向け加速する電極部材を前記シンチレーターの周囲を覆うように配置し、
前記電極部材と前記光電子増倍管との間に前記電極部材及び前記光電子増倍管に接触して両者を絶縁する絶縁部材を配置した、
ことを特徴とする二次電子検出器。
【請求項2】
前記光電子増倍管は、その周面に二次電子検出器が取り付けられる機器の取り付け部との間で真空シール部を形成することを特徴とする請求項1に記載の二次電子検出器。
【請求項3】
前記シンチレーターと光電倍増管の入射側端部との間であって、前記絶縁部材の厚みで形成される空間部に特定の波長領域の光を遮断し前記光電子増倍管への進入を遮断するパスフィルターを配置したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二次電子検出器。
【請求項4】
前記絶縁部材は、光の進入を防止する不透明の素材で、前記光電倍増管の周面を覆うように構成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の二次電子検出器。
【請求項5】
試料に電子ビームを照射する電子ビーム照射手段と、請求項1から請求項4のいずれかに記載の二次電子検出器を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
光学顕微鏡と試料の照明装置とを備え、前記電子ビームでの観察と光学顕微鏡での観察を行うことを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
装置本体に請求項1から請求項4のいずれかに記載の二次電子検出器が、前記光電子増倍管の側面で真空シールされて取り付けられていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138324(P2012−138324A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291579(P2010−291579)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】