二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極
【課題】従来に比して、二次電子発生効率を向上することができ、且つ、二次電子発生効率の経時劣化を低減することができる二次電子発生電極の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法は、表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、基板10上に、二次電子発生層40を形成するための触媒金属が基板10へ拡散することを防止するための拡散防止層20を形成する拡散防止層形成工程と、拡散防止層20上に触媒金属からなる触媒層30を形成する第1触媒層形成工程と、基板10の温度を上昇して、触媒金属を拡散防止層20上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、触媒金属を触媒として拡散防止層20上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成する二次電子発生層形成工程と、を含む。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法は、表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、基板10上に、二次電子発生層40を形成するための触媒金属が基板10へ拡散することを防止するための拡散防止層20を形成する拡散防止層形成工程と、拡散防止層20上に触媒金属からなる触媒層30を形成する第1触媒層形成工程と、基板10の温度を上昇して、触媒金属を拡散防止層20上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、触媒金属を触媒として拡散防止層20上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成する二次電子発生層形成工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管、電子増倍管、プラズマディスプレイパネル等に用いられる二次電子発生電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電子増倍管や電子増倍管等に用いられる二次電子発生電極として、金属基板上に二次電子発生膜を形成するものが広く知られている。この種の二次電子発生電極は、プラズマディスプレイパネル等においても、誘電体をプラズマから保護するための保護膜として用いられている。プラズマディスプレイパネルでは、二次電子発生電極は、二次電子を放出することによってプラズマを発生すると共に、プラズマを維持する役割を果たしている。
【0003】
この種の二次電子発生電極では、二次電子発生効率が高いことが重要であり、二次電子発生膜の材料として二次電子増幅率δが大きい酸化マグネシウム(MgO)を用いると、二次電子発生効率を高めることが可能である。特許文献1及び2には、この種の二次電子発生電極が開示されている。この特許文献1及び2に記載の二次電子発生電極では、製造の簡易化や低価格化を目的として、電子線蒸着法やスパッタ法ではなく、塗布法を用いて二次電子発生膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−156153号公報
【特許文献2】特開2004−200174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二次電子発生電極では、更なる二次電子発生効率の向上が求められており、酸化マグネシウムからなる二次電子発生膜でもまだ二次電子発生効率が十分であるとは考えられていない。
【0006】
また、二次電子発生電極を光電子増倍管や電子増倍管等に用いた場合、表面に付着して光電陰極を活性化するように作用するアルカリ金属が減少したことによると考えられる二次電子発生効率の経時劣化が生じてしまい、寿命が短くなってしまう。
【0007】
一方、二次電子発生電極をプラズマディスプレイパネルに用いた場合、プラズマ発生電圧が比較的高いことにより、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷が大きい。これにより、二次電子発生効率の経時劣化が生じてしまい、寿命が短くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、従来に比して、二次電子発生効率を向上することができ、且つ、二次電子発生効率の経時劣化を低減することができる二次電子発生電極の製造方法、及び、二次電子発生電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、二次電子発生層における酸化マグネシウムを細線状、すなわちナノワイヤ状、又は、微粒子状、すなわちナノ粒子状に形成することによって、二次電子発生効率を向上することができることを見出した。更に、細線状又は微粒子状の酸化マグネシウムは、二次電子発生層を形成するための触媒金属をアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属上に形成することで得られることを見出した。
【0010】
そこで、本発明の一側面に係る二次電子発生電極の製造方法は、表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、(a)基板上に、二次電子発生層を形成するための触媒金属が基板へ拡散することを防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程と、(b)拡散防止層上に触媒金属からなる触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、(c)基板の温度を上昇して、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、(d)触媒金属を触媒として拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成する二次電子発生層形成工程と、を含む。
【0011】
また、本発明の別の一側面に係る二次電子発生電極は、この二次電子発生電極の製造方法によって製造される。
【0012】
本発明によれば、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属を触媒として拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成するので、酸化マグネシウムは細線状又は微粒子状に形成されることとなる。したがって、本発明によれば、上記したように、二次電子発生電極の二次電子発生効率を向上することができる。
【0013】
また、本発明によれば、二次電子発生電極の表面積を大きくすることができる。その結果、この二次電子発生電極を光電子増倍管や電子増倍管等に用いると、光電陰極を活性化する際に用いられるアルカリ金属であって、ガラスバルブ中に組み込まれた二次電子電極の表面に吸着して物理的及び化学的に結合するアルカリ金属の量を増加することができ、二次電子発生層の表面のアルカリ金属の減少を低減することができる。一方、この二次電子発生電極をプラズマディスプレイパネルに用いると、プラズマ発生電圧を低くすることができ、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷を軽減することができる。したがって、本発明によれば、二次電子発生電極の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができる。
【0014】
また、上記した拡散防止層形成工程では、基板上に、ニッケルからなる拡散防止層を形成し、少なくとも拡散防止層における基板と反対側の表面を酸化することが好ましい。光電子増倍管や電子増倍管等の二次電子発生電極の材料として用いられるニッケルは、例えば触媒金属として用いられる金に対して融点が比較的に近いので、金をニッケル上に形成する際に金の融点付近まで温度を上げると、金がニッケルと合金化してしまい、金をニッケル上にアイランド状に分布することができない。しかしながら、本発明によれば、拡散防止層の表面を酸化するので、金の融点付近まで温度を上げても、金がニッケルからなる拡散防止層へ拡散することを防止することができ、金が表面張力により微粒子状の球状になり、拡散防止層上にアイランド状に分布することとなる。
【0015】
また、上記した拡散防止層形成工程では、基板上に、タンタルからなる拡散防止層を形成し、少なくとも拡散防止層における基板と反対側の表面を窒化することが好ましい。これによれば、タンタル、特に窒化タンタルの融点が非常に高いので、触媒層を形成する際に触媒金属の融点付近まで温度を上げても、触媒金属の拡散を防止することができ、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布することができる。
【0016】
また、二次電子発生層形成工程では、マグネシウムを酸素雰囲気中で成膜することが好ましい。例えば、レーザアブレーション等により酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成するためには、酸化マグネシウムをターゲット材料に用いることも考えられる。しかしながら、酸化マグネシウムでは、比較的に融点が高く、光吸収波長範囲の長波長側境界が真空紫外域にある。一方、マグネシウムでは、酸化マグネシウムより融点が低く、光吸収波長範囲の長波長側境界が酸化マグネシウムより長波長側にある。したがって、ターゲット材料としてマグネシウムを用いる方が、比較的に小さい出力強度の長波長レーザ光を用いることができるという利点を有する。
【0017】
また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを細線状に形成することが好ましい。また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下であり、長さが直径の1.5倍以上である細線状に形成することが好ましい。
【0018】
また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを微粒子状に形成することが好ましい。また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下である微粒子状に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比して、二次電子発生電極の二次電子発生効率を向上することができる。更に、本発明によれば、従来に比して、二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生効率の長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図3】図1に示す第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における触媒層を積層方向から拡大して示す。
【図4】第1の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す第2の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図7】第2の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す第3の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】図10に示す第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図13】図12に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図14】図12に示す第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における二次電子発生層を積層方向から示す図である。
【図15】第5の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図2は、図1に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0023】
まず、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法において用いるレーザアブレーション法のためのレーザアブレーション成膜装置について説明する。
【0024】
レーザアブレーション成膜装置は、ステンレス製の筐体と、レーザ光源と、排気機構と、活性ガス発生機構とを備えている。筐体内部の中心部には、二次電子発生電極における各層の材料ターゲットを搭載するための回転子が設けられており、回転子の直上には、二次電子発生電極における基板を配置するためのホルダが設けられている。また、筐体には、レーザ光源からのレーザ光をターゲットに照射するためのレーザ窓が設けられている。レーザ光源には、波長193mmのフッ化アルゴンエキシマレーザが用いられ、このレーザ光はレンズによって集光されてターゲットに照射される。排気機構は、筐体内部を真空にするための排気用のターボポンプ及びクライオスタットポンプから構成されている。また、活性ガス発生機構は、筐体内部に供給する活性ガスを発生する。
【0025】
次に、このレーザアブレーション成膜装置によるレーザアブレーション法を用いた二次電子発生電極の製造方法を説明する。
(基板整形工程S01)
【0026】
まず、金属塊を整形し、約10mm×約10mm、厚さ約0.5mmの基板10を形成する。基板10の材料には、例えば、ステンレス、鉄、ニッケルなど、又は、これらの金属のうちの何れかを含む合金が適用可能である。なお、この第1の実施形態では、ステンレス鋼であるSUS304からなる基板10を例示する。
(第1拡散防止層形成工程S02)
【0027】
次に、基板10上に拡散防止層20の素地を形成する。拡散防止層20とは、後述する二次電子発生層40を形成するために用いられる触媒金属原子が基板10へ拡散することを防止するためのものである。この第1の実施形態では、拡散防止層20の材料としてニッケルが用いられる。
【0028】
具体的には、上記したレーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約100mmの線状のニッケルターゲットを配置し、その直上のホルダに基板10を配置する。その後、排気機構によって、約1.6×10−7Paまで真空に引く。その後、回転子によって、ニッケルターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、ニッケルターゲットに強度約10J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、基板10上に、厚さ約100nmのニッケル膜を成膜することによって、拡散防止層20の素地を形成する(図2(a))。
(第2拡散防止層形成工程S03)
【0029】
次に、このニッケル膜における基板10と反対側の表面を酸化する。すなわち、ニッケル層21上に、酸化ニッケル層22を有する拡散防止層20を形成する。
【0030】
具体的には、排気機構によって、筐体内を約1Paの酸素雰囲気とし、基板10を約800℃で約10分間加熱し続ける。このようにして、ニッケル膜の表面を酸化させることによって、ニッケル層21上に酸化ニッケル層22を有する拡散防止層20を形成する(図2(a))。
【0031】
なお、拡散防止層は、全体が酸化ニッケルからなっていてもよい。この場合、第1拡散防止層形成工程において、酸素雰囲気中にてレーザアブレーションを行ってもよいし、ターゲットとして酸化ニッケルを用いてもよい。この場合には、第2拡散防止層形成工程を省略する。また、拡散防止層の構成としては、他にも様々な態様が適用可能であり、後述する第2〜第4の実施形態において説明することとする。
(第1触媒層形成工程S04)
【0032】
次に、拡散防止層20上に、二次電子発生層40を形成するための触媒金属からなる触媒層30の素地を形成する。触媒金属には、例えば、金、アルミニウム、錫などのうちの少なくとも1つ以上の金属が適用可能である。この第1の実施形態では、触媒金属として金が用いられる。
【0033】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径50mmの線状の金ターゲットを配置し、排気機構によって、約2×10−7Paまで真空に引く。その後、回転子によって、金ターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、金ターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、拡散防止層20上に、厚さ約2nmの金膜を成膜することによって、触媒層30の素地を形成する(図2(a))。
(第2触媒層形成工程S05)
【0034】
その後、触媒層30における触媒金属を拡散防止層20上にアイランド状に分布し、触媒層30を形成する。図3に、触媒層を積層方向から拡大して示す。
【0035】
具体的には、基板10の温度を触媒金属である金の融点付近まで、例えば約900℃に上昇する。これにより、図3に示すように、拡散防止層20上に、金を約10nmの微粒子状に配置して、アイランド状の触媒層30を形成する。
(二次電子発生層形成工程S06)
【0036】
次に、アイランド状の触媒層30における触媒金属を触媒として、拡散防止層20上に細線状の酸化マグネシウム(MgO)からなる二次電子発生層40を形成する。
【0037】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約50mmの線状のマグネシウムターゲットを配置し、排気機構によって、約1×10−7Paまで排気する。その後、排気機構によって、筐体内を約1×10−4Paの酸素雰囲気とする。その後、回転子によって、マグネシウムターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、マグネシウムターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、アイランド状に分布した触媒層30の金を触媒として、拡散防止層20上に、細線状構造の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40が形成される(図2(b))。
【0038】
詳説すれば、二次電子発生層40では、細線状、すなわちナノワイヤ状の酸化マグネシウムが、縦横に不規則に配置されて、立体的に積層される。細線状の酸化マグネシウムの直径は1nm以上1μm以下であり、長さは直径の1.5倍以上である。なお、細線状の酸化マグネシウムの直径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、更には、1nm以上100nm以下であることが好ましい。本願発明者らの実験では、直径約5nm、長さ約100nmの細線状の酸化マグネシウムが多く観測された。
【0039】
なお、触媒金属の金は細線状の酸化マグネシウム形成の触媒として作用するので、図2(b)に示すように、本製造方法によって製造される二次電子発生電極1では、触媒金属の金はもはや拡散防止層20上には存在しないものと考えられる。触媒金属の金は、細線状の酸化マグネシウムの先端部に付着するものと考えられる。
【0040】
なお、二次電子発生層形成工程では、ターゲットとして酸化マグネシウムが用いられてもよい。しかしながら、酸化マグネシウムでは、比較的に融点が高く、光吸収波長範囲の長波長側境界が真空紫外域にある。一方、マグネシウムでは、酸化マグネシウムより融点が低く、光吸収波長範囲の長波長側境界が酸化マグネシウムより長波長側にある。したがって、ターゲットとしてマグネシウムを用いる方が、比較的に小さい出力強度の長波長レーザ光を用いることができるという利点を有する。
【0041】
次に、本願発明者らが本願発明に至った経緯について説明する。
(レーザアブレーション法の試み)
【0042】
本願発明者らは、特許文献1及び2に記載の塗布法に代えてレーザアブレーション法を用いて、金属基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム層を形成することを試みた。そして、複数の試作品を、走査電子顕微鏡(以下、SEMという。)を用いて観察していたところ、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜が形成された場合には、従来の平坦な酸化マグネシウム膜に比べて、SEM画像が非常に明るくなることを発見した。
【0043】
SEMでは、被観測物体に走査電子線を照射し、被観測物体から放出される二次電子線の強度を検知して、画像化している。このことから、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜は、高効率な二次電子発生電極として使用できる可能性があると考え、二次電子増幅率δを計測したところ、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜は、従来の電子線蒸着法やスパッタ法などによる平坦な酸化マグネシウム膜に比べて、二次電子増幅率δが非常に大きいことを確認した。
【0044】
このように、本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、レーザアブレーション法を用いて、二次電子発生層における酸化マグネシウムを細線状、すなわちナノワイヤ状に形成することによって、二次電子発生効率を向上することができることを見出した。
(触媒金属のアイランド状分布の発見)
【0045】
本願発明者らは、触媒金属として金を用い、種々の材料の基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜の形成を試みた。そして、表面が自然に酸化されたニッケル基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができることを発見した。
【0046】
一方、表面が酸化されていないニッケル基板上には、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができなかった。これは、ニッケルの融点が触媒金属である金の融点に比較的近いので、金をニッケル基板上に形成する際に金の融点付近まで温度を上げると、金がニッケルと合金化してしまうことによるものと考えられる。
【0047】
しかしながら、ニッケル基板の表面に酸化物が存在すると、金の融点付近まで温度を上げても、ニッケル基板上に形成された薄い金蒸着膜における金原子がニッケル基板へ拡散することを防止することができ、金が表面張力により微粒子状の球状になり、ニッケル基板上にアイランド状に分布するものと考えられる。これにより、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができるものと考えられる。
【0048】
なお、本願発明者らの実験では、タンタルなどの融点が高い材料からなる基板では、表面を酸化処理しなくともナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができた。この詳細は、後述する第2〜第4の実施形態において説明することとする。
【0049】
また、本願発明者らの実験では、ステンレス、鉄及びSUS304からなる基板では、表面を酸化しても、その直上にはナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができなかった。
【0050】
このように、本願発明者らは、細線状の酸化マグネシウムは、二次電子発生層を形成するための触媒金属を酸化ニッケル膜上にアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属上にレーザアブレーション法を用いて形成することで得られることを見出した。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、触媒金属(触媒層30)を拡散防止層20上にアイランド状に分布し、レーザアブレーション法を用いて、このアイランド状の触媒金属を触媒として拡散防止層20上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成するので、酸化マグネシウムは細線状、すなわちナノワイヤ状に形成されることとなる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、上記したように、二次電子発生電極1の二次電子発生効率を向上することができる。
【0052】
また、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、二次電子発生電極1の表面積を大きくすることができる。例えば、1cm2の領域に厚さ100nmの緻密な酸化マグネシウム膜に相当するだけの体積を持つナノワイヤ膜を形成したとする。1本のナノワイヤの表面積Scm2、本数Nは、それぞれ、下記式より求められる。
S=π×5×100×10−14
N=(104/0.005)2=4×1012
よって、総表面積SNは、約60cm2となり、約60倍に増加することとなる。
【0053】
その結果、この二次電子発生電極1を光電子増倍管や電子増倍管等に用いると、光電陰極を活性化する際に用いられるアルカリ金属であって、ガラスバルブ中に組み込まれた二次電子電極の表面に吸着して物理的及び化学的に結合するアルカリ金属の量を増加することができ、二次電子発生層の表面のアルカリ金属の減少を低減することができる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、二次電子発生電極1の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生電極1の長寿命化が可能となる。
【0054】
また、電子増倍段数を少なくすることができ、光電子増倍管や電子増倍管等の小型化、低コスト化が可能である。また、増倍段数が同一である場合には、加速電圧を低減することができ、二次電子増倍電極のダメージを軽減することができ、光電子増倍管や電子増倍管等の長寿命化が可能となる。
【0055】
一方、この二次電子発生電極1をプラズマディスプレイパネルに用いると、プラズマ発生電圧を低くすることができ、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷を軽減することができる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、プラズマディスプレイパネル、すなわち二次電子発生電極1の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生電極1の長寿命化が可能となる。更には、プラズマ発生電圧を生成するための電気回路の負担を軽減することができると共に、プラズマディスプレイパネルの低コスト化をも可能とする。
【0056】
次に、上記した第1の実施形態の作用効果を検証した結果を示す。図4は、一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図4には、第1の実施形態の二次電子発生電極1の特性Aに加えて、比較例の二次電子発生電極の特性Bが示されている。なお、比較例の二次電子発生電極は、従来の電子線加熱蒸着法によりSUS304基板上に直接酸化マグネシウム膜を形成したもの、すなわち、従来の平坦な酸化マグネシウム膜を有する二次電子発生電極である。
【0057】
図4に示すように、第1の実施形態の二次電子発生電極1では、比較例の二次電子発生電極と比較して、運動エネルギー100eV以上の一次電子に対して二次電子増幅率δが向上していることがわかる。
[第2の実施形態]
【0058】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図6は、図5に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0059】
第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において基板整形工程S01に代えて基板整形工程S01Aを有し、第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて拡散防止層形成工程S02Aを有する点で第1の実施形態と異なっている。第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの製造方法におけるその他の製造工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0060】
基板整形工程S01Aでは、基板整形工程S01において材料が異なる基板を用いている。すなわち、基板整形工程S01Aでは、ステンレス鋼であるSUS304からなる基板10に代えてニッケルからなる基板10Aを用いる。
【0061】
拡散防止層形成工程S02Aでは、基板10Aの表面を酸化し、この酸化ニッケル層を拡散防止層20Aとする。なお、基板10Aの表面の酸化方法は、第2拡散防止層形成工程S03における拡散防止層の酸化方法と同様であればよい。
【0062】
この第2の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Aでも、拡散防止層20A上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
【0063】
図7は、第2の実施形態による二次電子発生電極1Aの一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図7には、第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの特性Aに加えて、比較例の二次電子発生電極の特性Bが示されている。なお、比較例の二次電子発生電極は、従来の電子線加熱蒸着法によりニッケル基板上に直接酸化マグネシウム膜を形成したもの、すなわち、従来の平坦な酸化マグネシウム膜を有する二次電子発生電極である。
【0064】
図7に示すように、第2の実施形態の二次電子発生電極1Aでも、比較例の二次電子発生電極と比較して、運動エネルギー100eV以上の一次電子に対して二次電子増幅率δが向上していることがわかる。なお、図7に示す特性Aを得る第2の実施形態の二次電子発生電極1Aでは、酸化ニッケル層、すなわち拡散防止層20Aの厚さが約1nm〜1μmであり、二次電子発生層40における細線状の酸化マグネシウムの直径が約10nmであり、長さが約100nmであった。
[第3の実施形態]
【0065】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図9は、図8に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0066】
第3の実施形態の二次電子発生電極1Bの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて第1拡散防止層形成工程S02B及び第2拡散防止層形成工程S03Bを有する点で第1の実施形態と異なっている。第3の実施形態の二次電子発生電極1Bの製造方法におけるその他の工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0067】
第1拡散防止層形成工程S02Bでは、第1拡散防止層形成工程S02において、拡散防止層の素地の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、第1拡散防止層形成工程S02Bでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Bの素地を形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0068】
第2拡散防止層形成工程S03Bでは、このタンタル膜における基板10と反対側の表面を窒化する。すなわち、タンタル層21B上に、窒化タンタル層22Bを有する拡散防止層20Bを形成する。
【0069】
具体的には、活性ガス発生機構によって、レーザアブレーション成膜装置の筐体内を窒素雰囲気とし、基板10を約800℃で約10分間加熱し続ける。このようにして、タンタル膜の表面を窒化させることによって、タンタル層21B上に窒化タンタル層22Bを有する拡散防止層20Bを形成する。
【0070】
なお、拡散防止層は、全体が窒化タンタルからなっていてもよい。この場合、第1拡散防止層形成工程において、窒素雰囲気中にてレーザアブレーションを行ってもよいし、ターゲットとして窒化ニッケルを用いてもよい。この場合には、第2拡散防止層形成工程を省略する。
【0071】
この第3の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Bでも、拡散防止層20B上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
[第4の実施形態]
【0072】
図10は、本発明の第4の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図11は、図10に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0073】
第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて拡散防止層形成工程S02Cを有する点で第1の実施形態と異なっている。第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法におけるその他の工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0074】
拡散防止層形成工程S02Cでは、第1拡散防止層形成工程S02において、拡散防止層の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、拡散防止層形成工程S02Cでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Cを形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0075】
タンタルは、触媒層30の触媒金属である金に比べて融点が非常に高いので、表面を酸化したり、窒化したりしなくとも、金の融点付近まで温度を上げる際に、金と合金化することがなく、金をアイランド状に分布することができる。
【0076】
なお、拡散防止層20Cの材料には、タンタルの他にも、金に比べて融点が非常に高いモリブデン、タングステン、チタンなどが適用可能である。
【0077】
この第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Cでも、拡散防止層20C上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
[第5の実施形態]
【0078】
第1〜第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法では、触媒層の触媒金属として金、アルミニウム、錫などのうちでも最も好ましい金を例示したが、触媒金属としては銀も好ましい。また、第1〜第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法では、二次電子発生層として酸化マグネシウムを細線状に形成したが、酸化マグネシウムを微粒子状に形成しても同様の効果が得られる。以下に、その実施形態の一例を示す。
【0079】
図12は、本発明の第5の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図13は、図12に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0080】
第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法は、第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法において拡散防止層形成工程S02C、第1触媒層形成工程S04、第2触媒層形成工程S05及び二次電子発生層形成工程S06に代えて拡散防止層形成工程S02D、第1触媒層形成工程S04D、第2触媒層形成工程S05D及び二次電子発生層形成工程S06Dを有する点で第4の実施形態と異なっている。第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法におけるその他の工程は、第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法と同一である。
【0081】
なお、第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法でもレーザアブレーション法を用いることとするが、レーザ光源には、波長193mmのフッ化アルゴンエキシマレーザに代えて波長248nmのフッ化クリプトンエキシマレーザを用いた。
【0082】
拡散防止層形成工程S02Dでは、拡散防止層形成工程S02と同様に、拡散防止層の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、拡散防止層形成工程S02Dでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Dを形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0083】
第1触媒層形成工程S04Dでは、第1触媒層形成工程S04において、触媒層の材料として金に代えて銀が用いられる。すなわち、第1触媒層形成工程S04Dでは、拡散防止層20D上に、二次電子発生層を形成するための触媒金属として銀からなる触媒層30Dの素地を形成する。具体的な形成方法は、第1触媒層形成工程S04の方法と同様である。このようにして、拡散防止層20D上に、厚さ約2nmの銀膜を成膜することによって、触媒層30Dの素地を形成する(図13(a))。
【0084】
第2触媒層形成工程S05Dでは、触媒層30Dにおける触媒金属を拡散防止層20D上にアイランド状に分布し、触媒層30Dを形成する。具体的には、排気機構及び活性ガス発生機構によって、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部を約10Paのアルゴンガス雰囲気とし、基板10の温度を触媒金属である銀の融点付近まで、例えば約350℃に上昇する。これにより、拡散防止層20D上に、銀を約10nmの微粒子状に配置して、アイランド状の触媒層30Dを形成する。
【0085】
二次電子発生層形成工程S06Dでは、アイランド状の触媒層30Dにおける触媒金属を触媒として、拡散防止層20上に微粒子状の酸化マグネシウム(MgO)からなる二次電子発生層40Dを形成する。
【0086】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約50mmの線状のマグネシウムターゲットを配置し、排気機構によって、約1×10−7Paまで排気する。その後、排気機構によって、筐体内を約1×10−2Paの酸素及び約1Paのアルゴンガスからなる混合ガス雰囲気とする。その後、回転子によって、マグネシウムターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、マグネシウムターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。その後、同一の雰囲気及び基板温度にて約1時間保って、酸化を促進させると共に、膜の結晶構造を安定化させる。このようにして、アイランド状に分布した触媒層30Dの銀を触媒として、拡散防止層20D上に、微粒子状構造の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40Dが形成される(図13(b))。
【0087】
詳説すれば、二次電子発生層40では、微粒子状、すなわちナノ粒子状の酸化マグネシウムが、縦横に不規則に配置されて、立体的に積層される。微粒子状の酸化マグネシウムの直径は1nm以上1μm以下である。なお、微粒子状の酸化マグネシウムの直径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、更には、10nm以上100nm以下であることが好ましい。本願発明者らの実験では、直径約10nm〜100の微粒子状の酸化マグネシウムが多く観測された。
【0088】
なお、触媒金属の銀は微粒子状の酸化マグネシウム形成の触媒として作用するので、図13(b)に示すように、本製造方法によって製造される二次電子発生電極1Dでは、触媒金属の銀はもはや拡散防止層20D上には存在しないものと考えられる。触媒金属の銀は、微粒子状の酸化マグネシウムの表面に付着するものと考えられる。
【0089】
なお、二次電子発生層形成工程では、第1の実施形態において説明したように、ターゲットとして酸化マグネシウムが用いられてもよい。
【0090】
図14は、図12に示す第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における二次電子発生層を積層方向から示す図である。図14(a)〜(c)には、それぞれ、二次電子発生層、すなわち酸化マグネシウムの成膜時間約7.5分、約15分、約60分の二次電子発生層が示されている。
【0091】
図14によれば、酸化マグネシウムの成膜時間を約7.5分から約15分へ約2倍に増加すると、粒子径が約15nmから約20nmに大きくなった。また、粒子の個数が数十%減少して、粒子間の隙間が小さくなった。更に、酸化マグネシウムの成膜時間を約60分と約4倍に増加すると、直径が約10nm以下の細線状の酸化マグネシウム膜が基板表面全体を覆うように形成された。
【0092】
図15は、第5の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図15には、二次電子発生層、すなわち酸化マグネシウムの成膜時間が約7.5分のときの特性A、約15分のときの特性B、及び、約60分のときの特性Cが示されている。
【0093】
図15によれば、酸化マグネシウムの成膜時間が約15分であるときに、二次電子増幅率δが最も大きい。これは、粒子間の隙間を保ちつつ、粒子径を極力大きくすることによって、実質的な表面積が大きくなり、一次電子が衝突する確率が大きくなることによるものと考えられる。更に、酸化マグネシウムの成膜時間を長くすると、二次電子効率が減少する。これは、絶縁体である酸化マグネシウムが基板表面に隙間の無い程度まで成膜してしまい、持続的に電子線を照射した場合に荷電効果が生じてしまい、その結果、酸化マグネシウム表面から二次電子がでることができず、実効的に二次電子効率が減少してしまうと考えられる。
【0094】
このように、酸化マグネシウムの成膜時間を適切な長さにすることで、二次電子効率が高いことが知られている絶縁性の酸化マグネシウム微粒子で基板表面全体を覆う構造とすることができる。これにより、二次電子効率が1以上の二次電子放出によって生じる表面の電子欠損を基板から容易に補う構造とすることができ、帯電効果による二次電子放出の減少を抑えることができる。その結果、実効的な二次電子放出効率を上げることができる。
【0095】
以上説明したように、第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Dでも、拡散防止層20D上にアイランド状の触媒層30Dを形成することができ、微粒子状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40Dを形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
【0096】
また、第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Dによれば、触媒金属として銀を用いているので、微粒子成長温度を金の約900℃に対して、約350℃と低温にすることができる。これにより、基板からの鉄成分が酸化マグネシウム粒子内へ拡散することによる二次電子増幅率δの減少を防止することが容易になる。その結果、成膜装置への負担が低減されるなどの利点を得ることができる。
【0097】
なお、第3の実施形態では、拡散防止膜の性能を向上させるためにタンタルの窒化処理を行ったが、触媒金属として銀を用いる場合には、基板温度が低いために、ステンレスからの鉄の拡散が減少する。そのため、タンタルの窒化処理を行う必要はない。
【0098】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、レーザアブレーション法を用いた二次電子発生電極の製造方法を例示したが、レーザアブレーション法に代えて、電子線加熱蒸着法、抵抗加熱法、スパッタ法などの様々な成膜手法が適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,1A,1B,1C,1D…二次電子発生電極、10,10A…基板、20,20A,20B,20C,20D…拡散防止層、21…ニッケル層、22…酸化ニッケル層、21B…タンタル層、22B…窒化タンタル層、30,30D…触媒層、40,40D…二次電子発生層、S01,S01A…基板整形工程、S02,S02A,S02B,S02C,S02D…第1拡散防止層形成工程(拡散防止層形成工程)、S03,S03B…第2拡散防止層形成工程(拡散防止層形成工程)、S04,S04D…第1触媒層形成工程、S05,S05D…第2触媒層形成工程、S06,S06D…二次電子発生層形成工程。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管、電子増倍管、プラズマディスプレイパネル等に用いられる二次電子発生電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電子増倍管や電子増倍管等に用いられる二次電子発生電極として、金属基板上に二次電子発生膜を形成するものが広く知られている。この種の二次電子発生電極は、プラズマディスプレイパネル等においても、誘電体をプラズマから保護するための保護膜として用いられている。プラズマディスプレイパネルでは、二次電子発生電極は、二次電子を放出することによってプラズマを発生すると共に、プラズマを維持する役割を果たしている。
【0003】
この種の二次電子発生電極では、二次電子発生効率が高いことが重要であり、二次電子発生膜の材料として二次電子増幅率δが大きい酸化マグネシウム(MgO)を用いると、二次電子発生効率を高めることが可能である。特許文献1及び2には、この種の二次電子発生電極が開示されている。この特許文献1及び2に記載の二次電子発生電極では、製造の簡易化や低価格化を目的として、電子線蒸着法やスパッタ法ではなく、塗布法を用いて二次電子発生膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−156153号公報
【特許文献2】特開2004−200174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二次電子発生電極では、更なる二次電子発生効率の向上が求められており、酸化マグネシウムからなる二次電子発生膜でもまだ二次電子発生効率が十分であるとは考えられていない。
【0006】
また、二次電子発生電極を光電子増倍管や電子増倍管等に用いた場合、表面に付着して光電陰極を活性化するように作用するアルカリ金属が減少したことによると考えられる二次電子発生効率の経時劣化が生じてしまい、寿命が短くなってしまう。
【0007】
一方、二次電子発生電極をプラズマディスプレイパネルに用いた場合、プラズマ発生電圧が比較的高いことにより、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷が大きい。これにより、二次電子発生効率の経時劣化が生じてしまい、寿命が短くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、従来に比して、二次電子発生効率を向上することができ、且つ、二次電子発生効率の経時劣化を低減することができる二次電子発生電極の製造方法、及び、二次電子発生電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、二次電子発生層における酸化マグネシウムを細線状、すなわちナノワイヤ状、又は、微粒子状、すなわちナノ粒子状に形成することによって、二次電子発生効率を向上することができることを見出した。更に、細線状又は微粒子状の酸化マグネシウムは、二次電子発生層を形成するための触媒金属をアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属上に形成することで得られることを見出した。
【0010】
そこで、本発明の一側面に係る二次電子発生電極の製造方法は、表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、(a)基板上に、二次電子発生層を形成するための触媒金属が基板へ拡散することを防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程と、(b)拡散防止層上に触媒金属からなる触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、(c)基板の温度を上昇して、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、(d)触媒金属を触媒として拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成する二次電子発生層形成工程と、を含む。
【0011】
また、本発明の別の一側面に係る二次電子発生電極は、この二次電子発生電極の製造方法によって製造される。
【0012】
本発明によれば、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属を触媒として拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成するので、酸化マグネシウムは細線状又は微粒子状に形成されることとなる。したがって、本発明によれば、上記したように、二次電子発生電極の二次電子発生効率を向上することができる。
【0013】
また、本発明によれば、二次電子発生電極の表面積を大きくすることができる。その結果、この二次電子発生電極を光電子増倍管や電子増倍管等に用いると、光電陰極を活性化する際に用いられるアルカリ金属であって、ガラスバルブ中に組み込まれた二次電子電極の表面に吸着して物理的及び化学的に結合するアルカリ金属の量を増加することができ、二次電子発生層の表面のアルカリ金属の減少を低減することができる。一方、この二次電子発生電極をプラズマディスプレイパネルに用いると、プラズマ発生電圧を低くすることができ、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷を軽減することができる。したがって、本発明によれば、二次電子発生電極の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができる。
【0014】
また、上記した拡散防止層形成工程では、基板上に、ニッケルからなる拡散防止層を形成し、少なくとも拡散防止層における基板と反対側の表面を酸化することが好ましい。光電子増倍管や電子増倍管等の二次電子発生電極の材料として用いられるニッケルは、例えば触媒金属として用いられる金に対して融点が比較的に近いので、金をニッケル上に形成する際に金の融点付近まで温度を上げると、金がニッケルと合金化してしまい、金をニッケル上にアイランド状に分布することができない。しかしながら、本発明によれば、拡散防止層の表面を酸化するので、金の融点付近まで温度を上げても、金がニッケルからなる拡散防止層へ拡散することを防止することができ、金が表面張力により微粒子状の球状になり、拡散防止層上にアイランド状に分布することとなる。
【0015】
また、上記した拡散防止層形成工程では、基板上に、タンタルからなる拡散防止層を形成し、少なくとも拡散防止層における基板と反対側の表面を窒化することが好ましい。これによれば、タンタル、特に窒化タンタルの融点が非常に高いので、触媒層を形成する際に触媒金属の融点付近まで温度を上げても、触媒金属の拡散を防止することができ、触媒金属を拡散防止層上にアイランド状に分布することができる。
【0016】
また、二次電子発生層形成工程では、マグネシウムを酸素雰囲気中で成膜することが好ましい。例えば、レーザアブレーション等により酸化マグネシウムからなる二次電子発生層を形成するためには、酸化マグネシウムをターゲット材料に用いることも考えられる。しかしながら、酸化マグネシウムでは、比較的に融点が高く、光吸収波長範囲の長波長側境界が真空紫外域にある。一方、マグネシウムでは、酸化マグネシウムより融点が低く、光吸収波長範囲の長波長側境界が酸化マグネシウムより長波長側にある。したがって、ターゲット材料としてマグネシウムを用いる方が、比較的に小さい出力強度の長波長レーザ光を用いることができるという利点を有する。
【0017】
また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを細線状に形成することが好ましい。また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下であり、長さが直径の1.5倍以上である細線状に形成することが好ましい。
【0018】
また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを微粒子状に形成することが好ましい。また、二次電子発生層形成工程では、酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下である微粒子状に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比して、二次電子発生電極の二次電子発生効率を向上することができる。更に、本発明によれば、従来に比して、二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生効率の長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図3】図1に示す第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における触媒層を積層方向から拡大して示す。
【図4】第1の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す第2の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図7】第2の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す第3の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】図10に示す第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図13】図12に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【図14】図12に示す第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における二次電子発生層を積層方向から示す図である。
【図15】第5の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図2は、図1に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0023】
まず、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法において用いるレーザアブレーション法のためのレーザアブレーション成膜装置について説明する。
【0024】
レーザアブレーション成膜装置は、ステンレス製の筐体と、レーザ光源と、排気機構と、活性ガス発生機構とを備えている。筐体内部の中心部には、二次電子発生電極における各層の材料ターゲットを搭載するための回転子が設けられており、回転子の直上には、二次電子発生電極における基板を配置するためのホルダが設けられている。また、筐体には、レーザ光源からのレーザ光をターゲットに照射するためのレーザ窓が設けられている。レーザ光源には、波長193mmのフッ化アルゴンエキシマレーザが用いられ、このレーザ光はレンズによって集光されてターゲットに照射される。排気機構は、筐体内部を真空にするための排気用のターボポンプ及びクライオスタットポンプから構成されている。また、活性ガス発生機構は、筐体内部に供給する活性ガスを発生する。
【0025】
次に、このレーザアブレーション成膜装置によるレーザアブレーション法を用いた二次電子発生電極の製造方法を説明する。
(基板整形工程S01)
【0026】
まず、金属塊を整形し、約10mm×約10mm、厚さ約0.5mmの基板10を形成する。基板10の材料には、例えば、ステンレス、鉄、ニッケルなど、又は、これらの金属のうちの何れかを含む合金が適用可能である。なお、この第1の実施形態では、ステンレス鋼であるSUS304からなる基板10を例示する。
(第1拡散防止層形成工程S02)
【0027】
次に、基板10上に拡散防止層20の素地を形成する。拡散防止層20とは、後述する二次電子発生層40を形成するために用いられる触媒金属原子が基板10へ拡散することを防止するためのものである。この第1の実施形態では、拡散防止層20の材料としてニッケルが用いられる。
【0028】
具体的には、上記したレーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約100mmの線状のニッケルターゲットを配置し、その直上のホルダに基板10を配置する。その後、排気機構によって、約1.6×10−7Paまで真空に引く。その後、回転子によって、ニッケルターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、ニッケルターゲットに強度約10J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、基板10上に、厚さ約100nmのニッケル膜を成膜することによって、拡散防止層20の素地を形成する(図2(a))。
(第2拡散防止層形成工程S03)
【0029】
次に、このニッケル膜における基板10と反対側の表面を酸化する。すなわち、ニッケル層21上に、酸化ニッケル層22を有する拡散防止層20を形成する。
【0030】
具体的には、排気機構によって、筐体内を約1Paの酸素雰囲気とし、基板10を約800℃で約10分間加熱し続ける。このようにして、ニッケル膜の表面を酸化させることによって、ニッケル層21上に酸化ニッケル層22を有する拡散防止層20を形成する(図2(a))。
【0031】
なお、拡散防止層は、全体が酸化ニッケルからなっていてもよい。この場合、第1拡散防止層形成工程において、酸素雰囲気中にてレーザアブレーションを行ってもよいし、ターゲットとして酸化ニッケルを用いてもよい。この場合には、第2拡散防止層形成工程を省略する。また、拡散防止層の構成としては、他にも様々な態様が適用可能であり、後述する第2〜第4の実施形態において説明することとする。
(第1触媒層形成工程S04)
【0032】
次に、拡散防止層20上に、二次電子発生層40を形成するための触媒金属からなる触媒層30の素地を形成する。触媒金属には、例えば、金、アルミニウム、錫などのうちの少なくとも1つ以上の金属が適用可能である。この第1の実施形態では、触媒金属として金が用いられる。
【0033】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径50mmの線状の金ターゲットを配置し、排気機構によって、約2×10−7Paまで真空に引く。その後、回転子によって、金ターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、金ターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、拡散防止層20上に、厚さ約2nmの金膜を成膜することによって、触媒層30の素地を形成する(図2(a))。
(第2触媒層形成工程S05)
【0034】
その後、触媒層30における触媒金属を拡散防止層20上にアイランド状に分布し、触媒層30を形成する。図3に、触媒層を積層方向から拡大して示す。
【0035】
具体的には、基板10の温度を触媒金属である金の融点付近まで、例えば約900℃に上昇する。これにより、図3に示すように、拡散防止層20上に、金を約10nmの微粒子状に配置して、アイランド状の触媒層30を形成する。
(二次電子発生層形成工程S06)
【0036】
次に、アイランド状の触媒層30における触媒金属を触媒として、拡散防止層20上に細線状の酸化マグネシウム(MgO)からなる二次電子発生層40を形成する。
【0037】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約50mmの線状のマグネシウムターゲットを配置し、排気機構によって、約1×10−7Paまで排気する。その後、排気機構によって、筐体内を約1×10−4Paの酸素雰囲気とする。その後、回転子によって、マグネシウムターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、マグネシウムターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。このようにして、アイランド状に分布した触媒層30の金を触媒として、拡散防止層20上に、細線状構造の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40が形成される(図2(b))。
【0038】
詳説すれば、二次電子発生層40では、細線状、すなわちナノワイヤ状の酸化マグネシウムが、縦横に不規則に配置されて、立体的に積層される。細線状の酸化マグネシウムの直径は1nm以上1μm以下であり、長さは直径の1.5倍以上である。なお、細線状の酸化マグネシウムの直径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、更には、1nm以上100nm以下であることが好ましい。本願発明者らの実験では、直径約5nm、長さ約100nmの細線状の酸化マグネシウムが多く観測された。
【0039】
なお、触媒金属の金は細線状の酸化マグネシウム形成の触媒として作用するので、図2(b)に示すように、本製造方法によって製造される二次電子発生電極1では、触媒金属の金はもはや拡散防止層20上には存在しないものと考えられる。触媒金属の金は、細線状の酸化マグネシウムの先端部に付着するものと考えられる。
【0040】
なお、二次電子発生層形成工程では、ターゲットとして酸化マグネシウムが用いられてもよい。しかしながら、酸化マグネシウムでは、比較的に融点が高く、光吸収波長範囲の長波長側境界が真空紫外域にある。一方、マグネシウムでは、酸化マグネシウムより融点が低く、光吸収波長範囲の長波長側境界が酸化マグネシウムより長波長側にある。したがって、ターゲットとしてマグネシウムを用いる方が、比較的に小さい出力強度の長波長レーザ光を用いることができるという利点を有する。
【0041】
次に、本願発明者らが本願発明に至った経緯について説明する。
(レーザアブレーション法の試み)
【0042】
本願発明者らは、特許文献1及び2に記載の塗布法に代えてレーザアブレーション法を用いて、金属基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム層を形成することを試みた。そして、複数の試作品を、走査電子顕微鏡(以下、SEMという。)を用いて観察していたところ、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜が形成された場合には、従来の平坦な酸化マグネシウム膜に比べて、SEM画像が非常に明るくなることを発見した。
【0043】
SEMでは、被観測物体に走査電子線を照射し、被観測物体から放出される二次電子線の強度を検知して、画像化している。このことから、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜は、高効率な二次電子発生電極として使用できる可能性があると考え、二次電子増幅率δを計測したところ、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜は、従来の電子線蒸着法やスパッタ法などによる平坦な酸化マグネシウム膜に比べて、二次電子増幅率δが非常に大きいことを確認した。
【0044】
このように、本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、レーザアブレーション法を用いて、二次電子発生層における酸化マグネシウムを細線状、すなわちナノワイヤ状に形成することによって、二次電子発生効率を向上することができることを見出した。
(触媒金属のアイランド状分布の発見)
【0045】
本願発明者らは、触媒金属として金を用い、種々の材料の基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜の形成を試みた。そして、表面が自然に酸化されたニッケル基板上にナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができることを発見した。
【0046】
一方、表面が酸化されていないニッケル基板上には、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができなかった。これは、ニッケルの融点が触媒金属である金の融点に比較的近いので、金をニッケル基板上に形成する際に金の融点付近まで温度を上げると、金がニッケルと合金化してしまうことによるものと考えられる。
【0047】
しかしながら、ニッケル基板の表面に酸化物が存在すると、金の融点付近まで温度を上げても、ニッケル基板上に形成された薄い金蒸着膜における金原子がニッケル基板へ拡散することを防止することができ、金が表面張力により微粒子状の球状になり、ニッケル基板上にアイランド状に分布するものと考えられる。これにより、ナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができるものと考えられる。
【0048】
なお、本願発明者らの実験では、タンタルなどの融点が高い材料からなる基板では、表面を酸化処理しなくともナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができた。この詳細は、後述する第2〜第4の実施形態において説明することとする。
【0049】
また、本願発明者らの実験では、ステンレス、鉄及びSUS304からなる基板では、表面を酸化しても、その直上にはナノワイヤ構造の酸化マグネシウム膜を形成することができなかった。
【0050】
このように、本願発明者らは、細線状の酸化マグネシウムは、二次電子発生層を形成するための触媒金属を酸化ニッケル膜上にアイランド状に分布し、このアイランド状の触媒金属上にレーザアブレーション法を用いて形成することで得られることを見出した。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、触媒金属(触媒層30)を拡散防止層20上にアイランド状に分布し、レーザアブレーション法を用いて、このアイランド状の触媒金属を触媒として拡散防止層20上に酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成するので、酸化マグネシウムは細線状、すなわちナノワイヤ状に形成されることとなる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、上記したように、二次電子発生電極1の二次電子発生効率を向上することができる。
【0052】
また、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、二次電子発生電極1の表面積を大きくすることができる。例えば、1cm2の領域に厚さ100nmの緻密な酸化マグネシウム膜に相当するだけの体積を持つナノワイヤ膜を形成したとする。1本のナノワイヤの表面積Scm2、本数Nは、それぞれ、下記式より求められる。
S=π×5×100×10−14
N=(104/0.005)2=4×1012
よって、総表面積SNは、約60cm2となり、約60倍に増加することとなる。
【0053】
その結果、この二次電子発生電極1を光電子増倍管や電子増倍管等に用いると、光電陰極を活性化する際に用いられるアルカリ金属であって、ガラスバルブ中に組み込まれた二次電子電極の表面に吸着して物理的及び化学的に結合するアルカリ金属の量を増加することができ、二次電子発生層の表面のアルカリ金属の減少を低減することができる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、二次電子発生電極1の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生電極1の長寿命化が可能となる。
【0054】
また、電子増倍段数を少なくすることができ、光電子増倍管や電子増倍管等の小型化、低コスト化が可能である。また、増倍段数が同一である場合には、加速電圧を低減することができ、二次電子増倍電極のダメージを軽減することができ、光電子増倍管や電子増倍管等の長寿命化が可能となる。
【0055】
一方、この二次電子発生電極1をプラズマディスプレイパネルに用いると、プラズマ発生電圧を低くすることができ、高エネルギーイオンの衝突による酸化マグネシウムと誘電体との損傷を軽減することができる。したがって、本実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1によれば、プラズマディスプレイパネル、すなわち二次電子発生電極1の二次電子発生効率の経時劣化を低減することができ、二次電子発生電極1の長寿命化が可能となる。更には、プラズマ発生電圧を生成するための電気回路の負担を軽減することができると共に、プラズマディスプレイパネルの低コスト化をも可能とする。
【0056】
次に、上記した第1の実施形態の作用効果を検証した結果を示す。図4は、一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図4には、第1の実施形態の二次電子発生電極1の特性Aに加えて、比較例の二次電子発生電極の特性Bが示されている。なお、比較例の二次電子発生電極は、従来の電子線加熱蒸着法によりSUS304基板上に直接酸化マグネシウム膜を形成したもの、すなわち、従来の平坦な酸化マグネシウム膜を有する二次電子発生電極である。
【0057】
図4に示すように、第1の実施形態の二次電子発生電極1では、比較例の二次電子発生電極と比較して、運動エネルギー100eV以上の一次電子に対して二次電子増幅率δが向上していることがわかる。
[第2の実施形態]
【0058】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図6は、図5に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0059】
第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において基板整形工程S01に代えて基板整形工程S01Aを有し、第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて拡散防止層形成工程S02Aを有する点で第1の実施形態と異なっている。第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの製造方法におけるその他の製造工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0060】
基板整形工程S01Aでは、基板整形工程S01において材料が異なる基板を用いている。すなわち、基板整形工程S01Aでは、ステンレス鋼であるSUS304からなる基板10に代えてニッケルからなる基板10Aを用いる。
【0061】
拡散防止層形成工程S02Aでは、基板10Aの表面を酸化し、この酸化ニッケル層を拡散防止層20Aとする。なお、基板10Aの表面の酸化方法は、第2拡散防止層形成工程S03における拡散防止層の酸化方法と同様であればよい。
【0062】
この第2の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Aでも、拡散防止層20A上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
【0063】
図7は、第2の実施形態による二次電子発生電極1Aの一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図7には、第2の実施形態の二次電子発生電極1Aの特性Aに加えて、比較例の二次電子発生電極の特性Bが示されている。なお、比較例の二次電子発生電極は、従来の電子線加熱蒸着法によりニッケル基板上に直接酸化マグネシウム膜を形成したもの、すなわち、従来の平坦な酸化マグネシウム膜を有する二次電子発生電極である。
【0064】
図7に示すように、第2の実施形態の二次電子発生電極1Aでも、比較例の二次電子発生電極と比較して、運動エネルギー100eV以上の一次電子に対して二次電子増幅率δが向上していることがわかる。なお、図7に示す特性Aを得る第2の実施形態の二次電子発生電極1Aでは、酸化ニッケル層、すなわち拡散防止層20Aの厚さが約1nm〜1μmであり、二次電子発生層40における細線状の酸化マグネシウムの直径が約10nmであり、長さが約100nmであった。
[第3の実施形態]
【0065】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図9は、図8に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0066】
第3の実施形態の二次電子発生電極1Bの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて第1拡散防止層形成工程S02B及び第2拡散防止層形成工程S03Bを有する点で第1の実施形態と異なっている。第3の実施形態の二次電子発生電極1Bの製造方法におけるその他の工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0067】
第1拡散防止層形成工程S02Bでは、第1拡散防止層形成工程S02において、拡散防止層の素地の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、第1拡散防止層形成工程S02Bでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Bの素地を形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0068】
第2拡散防止層形成工程S03Bでは、このタンタル膜における基板10と反対側の表面を窒化する。すなわち、タンタル層21B上に、窒化タンタル層22Bを有する拡散防止層20Bを形成する。
【0069】
具体的には、活性ガス発生機構によって、レーザアブレーション成膜装置の筐体内を窒素雰囲気とし、基板10を約800℃で約10分間加熱し続ける。このようにして、タンタル膜の表面を窒化させることによって、タンタル層21B上に窒化タンタル層22Bを有する拡散防止層20Bを形成する。
【0070】
なお、拡散防止層は、全体が窒化タンタルからなっていてもよい。この場合、第1拡散防止層形成工程において、窒素雰囲気中にてレーザアブレーションを行ってもよいし、ターゲットとして窒化ニッケルを用いてもよい。この場合には、第2拡散防止層形成工程を省略する。
【0071】
この第3の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Bでも、拡散防止層20B上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
[第4の実施形態]
【0072】
図10は、本発明の第4の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図11は、図10に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0073】
第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法において第1拡散防止層形成工程S02及び第2拡散防止層形成工程S03に代えて拡散防止層形成工程S02Cを有する点で第1の実施形態と異なっている。第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法におけるその他の工程は、第1の実施形態の二次電子発生電極1の製造方法と同一である。
【0074】
拡散防止層形成工程S02Cでは、第1拡散防止層形成工程S02において、拡散防止層の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、拡散防止層形成工程S02Cでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Cを形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0075】
タンタルは、触媒層30の触媒金属である金に比べて融点が非常に高いので、表面を酸化したり、窒化したりしなくとも、金の融点付近まで温度を上げる際に、金と合金化することがなく、金をアイランド状に分布することができる。
【0076】
なお、拡散防止層20Cの材料には、タンタルの他にも、金に比べて融点が非常に高いモリブデン、タングステン、チタンなどが適用可能である。
【0077】
この第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Cでも、拡散防止層20C上にアイランド状の触媒層30を形成することができ、細線状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40を形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
[第5の実施形態]
【0078】
第1〜第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法では、触媒層の触媒金属として金、アルミニウム、錫などのうちでも最も好ましい金を例示したが、触媒金属としては銀も好ましい。また、第1〜第4の実施形態の二次電子発生電極の製造方法では、二次電子発生層として酸化マグネシウムを細線状に形成したが、酸化マグネシウムを微粒子状に形成しても同様の効果が得られる。以下に、その実施形態の一例を示す。
【0079】
図12は、本発明の第5の実施形態に係る二次電子発生電極の製造方法を示すフローチャートであり、図13は、図12に示す二次電子発生電極の製造方法における製造工程を側面から示す図である。
【0080】
第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法は、第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法において拡散防止層形成工程S02C、第1触媒層形成工程S04、第2触媒層形成工程S05及び二次電子発生層形成工程S06に代えて拡散防止層形成工程S02D、第1触媒層形成工程S04D、第2触媒層形成工程S05D及び二次電子発生層形成工程S06Dを有する点で第4の実施形態と異なっている。第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法におけるその他の工程は、第4の実施形態の二次電子発生電極1Cの製造方法と同一である。
【0081】
なお、第5の実施形態の二次電子発生電極1Dの製造方法でもレーザアブレーション法を用いることとするが、レーザ光源には、波長193mmのフッ化アルゴンエキシマレーザに代えて波長248nmのフッ化クリプトンエキシマレーザを用いた。
【0082】
拡散防止層形成工程S02Dでは、拡散防止層形成工程S02と同様に、拡散防止層の材料としてニッケルに代えてタンタルが用いられる。すなわち、拡散防止層形成工程S02Dでは、基板10上に、タンタルからなる拡散防止層20Dを形成する。具体的な形成方法は、第1拡散防止層形成工程S02の方法と同様である。
【0083】
第1触媒層形成工程S04Dでは、第1触媒層形成工程S04において、触媒層の材料として金に代えて銀が用いられる。すなわち、第1触媒層形成工程S04Dでは、拡散防止層20D上に、二次電子発生層を形成するための触媒金属として銀からなる触媒層30Dの素地を形成する。具体的な形成方法は、第1触媒層形成工程S04の方法と同様である。このようにして、拡散防止層20D上に、厚さ約2nmの銀膜を成膜することによって、触媒層30Dの素地を形成する(図13(a))。
【0084】
第2触媒層形成工程S05Dでは、触媒層30Dにおける触媒金属を拡散防止層20D上にアイランド状に分布し、触媒層30Dを形成する。具体的には、排気機構及び活性ガス発生機構によって、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部を約10Paのアルゴンガス雰囲気とし、基板10の温度を触媒金属である銀の融点付近まで、例えば約350℃に上昇する。これにより、拡散防止層20D上に、銀を約10nmの微粒子状に配置して、アイランド状の触媒層30Dを形成する。
【0085】
二次電子発生層形成工程S06Dでは、アイランド状の触媒層30Dにおける触媒金属を触媒として、拡散防止層20上に微粒子状の酸化マグネシウム(MgO)からなる二次電子発生層40Dを形成する。
【0086】
具体的には、レーザアブレーション成膜装置の筐体内部の回転子上に直径約50mmの線状のマグネシウムターゲットを配置し、排気機構によって、約1×10−7Paまで排気する。その後、排気機構によって、筐体内を約1×10−2Paの酸素及び約1Paのアルゴンガスからなる混合ガス雰囲気とする。その後、回転子によって、マグネシウムターゲットを約1rpmの速度で回転させた状態で、マグネシウムターゲットに強度約5J/cm2のレーザ光を照射する。その後、同一の雰囲気及び基板温度にて約1時間保って、酸化を促進させると共に、膜の結晶構造を安定化させる。このようにして、アイランド状に分布した触媒層30Dの銀を触媒として、拡散防止層20D上に、微粒子状構造の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40Dが形成される(図13(b))。
【0087】
詳説すれば、二次電子発生層40では、微粒子状、すなわちナノ粒子状の酸化マグネシウムが、縦横に不規則に配置されて、立体的に積層される。微粒子状の酸化マグネシウムの直径は1nm以上1μm以下である。なお、微粒子状の酸化マグネシウムの直径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、更には、10nm以上100nm以下であることが好ましい。本願発明者らの実験では、直径約10nm〜100の微粒子状の酸化マグネシウムが多く観測された。
【0088】
なお、触媒金属の銀は微粒子状の酸化マグネシウム形成の触媒として作用するので、図13(b)に示すように、本製造方法によって製造される二次電子発生電極1Dでは、触媒金属の銀はもはや拡散防止層20D上には存在しないものと考えられる。触媒金属の銀は、微粒子状の酸化マグネシウムの表面に付着するものと考えられる。
【0089】
なお、二次電子発生層形成工程では、第1の実施形態において説明したように、ターゲットとして酸化マグネシウムが用いられてもよい。
【0090】
図14は、図12に示す第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法における二次電子発生層を積層方向から示す図である。図14(a)〜(c)には、それぞれ、二次電子発生層、すなわち酸化マグネシウムの成膜時間約7.5分、約15分、約60分の二次電子発生層が示されている。
【0091】
図14によれば、酸化マグネシウムの成膜時間を約7.5分から約15分へ約2倍に増加すると、粒子径が約15nmから約20nmに大きくなった。また、粒子の個数が数十%減少して、粒子間の隙間が小さくなった。更に、酸化マグネシウムの成膜時間を約60分と約4倍に増加すると、直径が約10nm以下の細線状の酸化マグネシウム膜が基板表面全体を覆うように形成された。
【0092】
図15は、第5の実施形態による二次電子発生電極の一次電子運動エネルギーに対する二次電子増幅率δ特性の測定結果を示す図である。図15には、二次電子発生層、すなわち酸化マグネシウムの成膜時間が約7.5分のときの特性A、約15分のときの特性B、及び、約60分のときの特性Cが示されている。
【0093】
図15によれば、酸化マグネシウムの成膜時間が約15分であるときに、二次電子増幅率δが最も大きい。これは、粒子間の隙間を保ちつつ、粒子径を極力大きくすることによって、実質的な表面積が大きくなり、一次電子が衝突する確率が大きくなることによるものと考えられる。更に、酸化マグネシウムの成膜時間を長くすると、二次電子効率が減少する。これは、絶縁体である酸化マグネシウムが基板表面に隙間の無い程度まで成膜してしまい、持続的に電子線を照射した場合に荷電効果が生じてしまい、その結果、酸化マグネシウム表面から二次電子がでることができず、実効的に二次電子効率が減少してしまうと考えられる。
【0094】
このように、酸化マグネシウムの成膜時間を適切な長さにすることで、二次電子効率が高いことが知られている絶縁性の酸化マグネシウム微粒子で基板表面全体を覆う構造とすることができる。これにより、二次電子効率が1以上の二次電子放出によって生じる表面の電子欠損を基板から容易に補う構造とすることができ、帯電効果による二次電子放出の減少を抑えることができる。その結果、実効的な二次電子放出効率を上げることができる。
【0095】
以上説明したように、第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Dでも、拡散防止層20D上にアイランド状の触媒層30Dを形成することができ、微粒子状の酸化マグネシウムからなる二次電子発生層40Dを形成することができるので、第1の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1と同様の利点を得ることができる。
【0096】
また、第5の実施形態の二次電子発生電極の製造方法及び二次電子発生電極1Dによれば、触媒金属として銀を用いているので、微粒子成長温度を金の約900℃に対して、約350℃と低温にすることができる。これにより、基板からの鉄成分が酸化マグネシウム粒子内へ拡散することによる二次電子増幅率δの減少を防止することが容易になる。その結果、成膜装置への負担が低減されるなどの利点を得ることができる。
【0097】
なお、第3の実施形態では、拡散防止膜の性能を向上させるためにタンタルの窒化処理を行ったが、触媒金属として銀を用いる場合には、基板温度が低いために、ステンレスからの鉄の拡散が減少する。そのため、タンタルの窒化処理を行う必要はない。
【0098】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、レーザアブレーション法を用いた二次電子発生電極の製造方法を例示したが、レーザアブレーション法に代えて、電子線加熱蒸着法、抵抗加熱法、スパッタ法などの様々な成膜手法が適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,1A,1B,1C,1D…二次電子発生電極、10,10A…基板、20,20A,20B,20C,20D…拡散防止層、21…ニッケル層、22…酸化ニッケル層、21B…タンタル層、22B…窒化タンタル層、30,30D…触媒層、40,40D…二次電子発生層、S01,S01A…基板整形工程、S02,S02A,S02B,S02C,S02D…第1拡散防止層形成工程(拡散防止層形成工程)、S03,S03B…第2拡散防止層形成工程(拡散防止層形成工程)、S04,S04D…第1触媒層形成工程、S05,S05D…第2触媒層形成工程、S06,S06D…二次電子発生層形成工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、
基板上に、前記二次電子発生層を形成するための触媒金属が前記基板へ拡散することを防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程と、
前記拡散防止層上に前記触媒金属からなる触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記基板の温度を上昇して、前記触媒金属を前記拡散防止層上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、
前記触媒金属を触媒として前記拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる前記二次電子発生層を形成する二次電子発生層形成工程と、
を含む、二次電子発生電極の製造方法。
【請求項2】
前記拡散防止層形成工程では、
前記基板上に、ニッケルからなる前記拡散防止層を形成し、
少なくとも前記拡散防止層における前記基板と反対側の表面を酸化する、
請求項1に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項3】
前記拡散防止層形成工程では、
前記基板上に、タンタルからなる前記拡散防止層を形成し、
少なくとも前記拡散防止層における前記基板と反対側の表面を窒化する、
請求項1に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項4】
二次電子発生層形成工程では、マグネシウムを酸素雰囲気中で成膜する、
請求項1〜3の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項5】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを細線状に形成する、
請求項1〜4の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項6】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下であり、長さが前記直径の1.5倍以上である細線状に形成する、
請求項5に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項7】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを微粒子状に形成する、
請求項1〜4の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項8】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下である微粒子状に形成する、
請求項7に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法によって製造された二次電子発生電極。
【請求項1】
表面に二次電子発生層を有する二次電子発生電極の製造方法において、
基板上に、前記二次電子発生層を形成するための触媒金属が前記基板へ拡散することを防止するための拡散防止層を形成する拡散防止層形成工程と、
前記拡散防止層上に前記触媒金属からなる触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記基板の温度を上昇して、前記触媒金属を前記拡散防止層上にアイランド状に分布する第2触媒層形成工程と、
前記触媒金属を触媒として前記拡散防止層上に酸化マグネシウムからなる前記二次電子発生層を形成する二次電子発生層形成工程と、
を含む、二次電子発生電極の製造方法。
【請求項2】
前記拡散防止層形成工程では、
前記基板上に、ニッケルからなる前記拡散防止層を形成し、
少なくとも前記拡散防止層における前記基板と反対側の表面を酸化する、
請求項1に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項3】
前記拡散防止層形成工程では、
前記基板上に、タンタルからなる前記拡散防止層を形成し、
少なくとも前記拡散防止層における前記基板と反対側の表面を窒化する、
請求項1に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項4】
二次電子発生層形成工程では、マグネシウムを酸素雰囲気中で成膜する、
請求項1〜3の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項5】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを細線状に形成する、
請求項1〜4の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項6】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下であり、長さが前記直径の1.5倍以上である細線状に形成する、
請求項5に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項7】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを微粒子状に形成する、
請求項1〜4の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項8】
前記二次電子発生層形成工程では、前記酸化マグネシウムを、直径が1nm以上1μm以下である微粒子状に形成する、
請求項7に記載の二次電子発生電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の二次電子発生電極の製造方法によって製造された二次電子発生電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−222322(P2011−222322A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90738(P2010−90738)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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