説明

二次電池およびその製造方法

【課題】フッ素含有リン酸マンガン化合物を正極活物質として利用し、電池性能が改善された二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、支持塩を含む非水電解質と、を備える。上記正極活物質は、次の一般式:NaMn1−xM’POF;で表されるリン酸マンガン化合物である。ここで、M’は、Al,MgおよびTiから選択される少なくとも一種である。xは、0<x<0.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有リン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電して繰り返し使用することのできる二次電池は、各種分野において需要が高まっている。典型的な二次電池は、正極および負極と、それら両電極間に介在された電解質とを備え、両電極間をカチオンが行き来することにより充放電を行う。各電極は、該カチオンを可逆的に吸蔵および放出する活物質を備える。例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、ニッケルやコバルト等の遷移金属を主要な構成金属元素として含むリチウム遷移金属酸化物が知られている。
【0003】
一方、ニッケルやコバルトを必須成分としない活物質についても種々の検討が行われている。かかる電極活物質には、二次電池の原料コストや供給リスクを低減し得る利点がある。例えば特許文献1には、NaMnPOFで表されるフッ素含有リン酸マンガン化合物が二次電池の活物質として機能し得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−260761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、正極活物質としてのNaMnPOFは、充電状態(すなわち、Naの一部が放出された状態)においてその結晶性が損なわれていることを見出した。上記充電状態における結晶構造の維持性を改善することができれば、NaMnPOF構造を有する材料の正極活物質としての有用性がより向上し得る。例えば、かかる材料を正極活物質に用いた電池の充放電効率(充放電反応の可逆性)が向上し、より高性能な二次電池となり得るものと期待される。そこで本発明は、フッ素含有リン酸マンガン化合物を正極活物質として利用し、電池性能が改善された二次電池を提供することを目的とする。関連する他の発明は、かかる正極活物質を備えた二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、支持塩を含む非水電解質と、を備えた二次電池が提供される。その正極活物質は、次の一般式(I)で表されるリン酸マンガン化合物である。
NaMn1−xM’POF (I)
ここで、xは0<x<0.5である。M’は、Al,MgおよびTiから選択される一種または二種以上である。
【0007】
上記式(I)で表されるリン酸マンガン化合物(フッ素含有リン酸マンガン塩)は、NaMnPOFにおけるMnの一部が特定の金属元素M’(例えばAl)によって置換されているので、M’を含まないリン酸マンガン化合物に比べて、より結晶構造の安定性の高いものであり得る。したがって、このようなリン酸マンガン化合物を正極活物質に用いた二次電池は、充放電に伴う正極活物質の構造劣化が少なく、より高性能なものとなり得る。また、上記正極活物質は、電気化学的活性に寄与する遷移金属として、豊富で安価な金属資源であるMnを主に利用するので、原料コストや供給リスクを低減し得るという観点からも好ましい。
【0008】
好ましい一態様では、上記一般式(I)中のxが0<x≦0.06である。かかるリン酸マンガン化合物(例えば、M’がAlであるリン酸マンガン化合物)を正極活物質に用いた二次電池によると、より高い初期充放電効率が実現され得る。
【0009】
上記リン酸マンガン化合物としては、b軸方向に偏平な板状の粒子形状を呈するものが好ましい。かかるリン酸マンガン化合物を正極活物質に用いた二次電池は、より高性能なものとなり得る。
【0010】
本発明によると、また、上記一般式(I)で表されるリン酸マンガン化合物を用意する工程と、該リン酸マンガン化合物を備えた電極(典型的には正極)を作製する工程と、その電極を用いて二次電池を構築する工程と、を包含する二次電池製造方法が提供される。かかる方法により得られた二次電池は、上記一般式(I)で表されるリン酸マンガン化合物を正極活物質として利用することにより、充放電に伴う正極活物質の構造劣化が少なく、より高性能なものとなり得る。
【0011】
好ましい一態様では、上記リン酸マンガン化合物を用意する工程は、ナトリウム源、マンガン源、前記M’源、リン酸源およびフッ素源を包含する出発原料を、金属キレート形成性官能基(例えば、水酸基、カルボニル基およびエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基)を含む溶媒(例えば、ポリオール溶媒)中で混合して原料混合液を調製する工程を包含する。また、上記原料混合液を加熱して前駆体を得る工程を包含する。さらに、上記前駆体を所定温度で焼成する工程を包含する。このようにして得られたリン酸マンガン化合物は、b軸方向に偏平な板状の粒子形状を呈するものとなり得る。かかるリン酸マンガン化合物を正極活物質に用いた二次電池は、より高性能なものとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明の二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【図4】実施例において作製した評価用コインセルを模式的に示す図である。
【図5】例2および例4に係る各正極活物質−炭素材複合材料の充電後におけるX線回折パターンを示すチャートである。
【図6】例4に係る各正極活物質―炭素材複合材料の初期充電前におけるX線回折パターンを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
本明細書に開示される二次電池は、正極活物質として、上記一般式(I)で表されるリン酸マンガン化合物を用いて構成されている。上記式(I)においてM’の組成比を表すxは、0<x<0.5であり得る。通常は、0.001≦x<0.1であるリン酸マンガン化合物が好ましい。M’の組成比xが小さすぎると、結晶構造の維持性を向上させる効果が十分に発揮されないことがあり得る。M’の組成比が大きすぎると、電池の使用条件(充放電条件等)によっては、内部抵抗が増加して電池性能が低下傾向となる場合がある。好ましい一態様では、上記リン酸マンガン化合物が、0.01≦x≦0.06(好ましくは0.01≦x≦0.05)を満たす。かかるリン酸マンガン化合物を備える二次電池によると、より高い初期充放電効率が実現され得る。
【0015】
上記式(I)におけるM’は、Al,MgおよびTiから選択される一種または二種以上である。これらの金属元素は、Mnサイトに置換した際にMn2+およびMn3+と同程度のイオン半径を示し、かつNaMnPOFと同じ空間群P12/n1を構成する傾向が強いので、Mnに対する置換性がよい。特に好ましい金属元素M’として、Al(典型的には、Mnサイトに置換されてAl3+の酸化状態をとる。)が例示される。
【0016】
NaMnPOFにおけるMnの一部を上記特定の金属元素M’と置換することにより、該リン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた場合における結晶構造の安定性が向上する理由としては、次のようなことが考えられる。
正極活物質としてのNaMnPOFは、充電時、Naの脱離に伴ってMn2+がMn3+に酸化される際、ヤーン・テラー効果によりMn−F結合が伸長して結晶構造に歪みが生じ、さらにはMn−F結合が分解してしまうことで結晶性が損なわれるものと考えられる。これに対して、NaMnPOFにおけるMnの一部がM’に置換されたリン酸マンガン化合物では、M’がMnよりも強くFに結合しているので、結晶構造の安定性が向上し、これにより充放電効率(可逆性)が向上し得る。上記ヤーン・テラー効果による結合の歪み(ひいては結晶構造の歪み)は、フッ素含有リン酸マンガン塩(典型的にはアルカリ金属塩;例えば、上記アルカリ金属が実質的にナトリウムである塩、リチウムのみである塩、ナトリウムおよびリチウムを任意の割合で含む塩等)に特異の現象であり、オリビン型のFe系リン酸塩や、層状構造のNi系リン酸塩およびCo系リン酸塩には認められない現象である。
【0017】
上記正極活物質は、平均粒径が0.1μm〜3μm程度(より好ましくは0.1μm〜1μm程度)であることが好ましい。特に、その結晶構造(典型的には、空間群P12/n1で表される結晶構造)におけるb軸方向の距離が短い板状のものがより好ましい。これは、上記正極活物質の内部において、Naがb軸方向にしか拡散できないことによる。すなわち、b軸方向の距離が短いことにより、充放電時にNaが拡散しやすくなり、二次電池の性能向上(例えば、内部抵抗の低減、可逆性の向上等の少なくとも一つの性能の向上)に寄与し得る。なお、上記正極活物質の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により20個以上の粒子の差渡し長さを計測した結果を算術平均して得られる値をいうものとする。
【0018】
b軸方向の距離が短い板状粒子の場合、該板状粒子の平均厚さ(SEMにより5個以上の板状粒子の厚みを計測した結果を算術平均して得られる値をいうものとする。)は、概ね200nm以下(例えば50〜200nm)が好ましく、100nm以下(例えば50〜100nm)がより好ましく、80nm以下(例えば50〜80nm)が特に好ましい。板状粒子の平均厚さを小さくすることにより、Naの拡散性がさらに良好となり得る。
【0019】
ここに開示される正極活物質の製造方法は特に制限されない。好ましくは、正極活物質粒子のb軸方向の成長が抑制され得る製造方法を採用する。好ましい一製造方法では、まず、出発原料としての各元素源(Mn源、M’源、リン酸源(P源およびO源)、Na源、およびF源)と、Mnとキレートを形成し得る有機溶媒と、を含む反応混合物を加熱しながら攪拌する。この工程は、例えば、何段階かに分けて実施することができる。好ましい一態様では、Mn源およびM’源をMnキレート形成性有機溶媒に添加し、これを加熱しながら攪拌することで少なくともMnを該有機溶媒に十分にキレートさせる(M’も該有機溶媒とキレートを形成し得る。)。これに、リン酸源を加えてさらに加熱・攪拌し、さらにまたNa源およびF源を加えて引き続き加熱・攪拌する。次いで、加熱・攪拌完了後の反応混合物から、遠心分離機等を用いて、生成物(中間体)を分離・洗浄し、適当な温度で乾燥させた後に適宜の温度で焼成する。こうして形成された焼成体を粉砕・篩分することにより、所望の平均粒径を有する正極活物質が得られる。
【0020】
上記出発原料としての各元素源は、それぞれ使用する溶媒に対する溶解度や互いとの反応性等に応じて適宜選択すればよい。これら出発原料は、最終的な焼成によって所望の組成比を有するリン酸マンガン化合物を形成し得るものであれば特に限定されず、各元素を含む各種塩(酸化物、酢酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物(例えばフッ化物))や金属単体等を、それぞれ一種または二種以上使用することができる。特に好ましい例として、Mn源としての酢酸マンガン、M’源としてのM’の硝酸塩(例えば硝酸アルミニウム)、リン酸源としてのリン酸2水素アンモニウム(NHPO)、Na源およびF源としてのフッ化ナトリウム(NaF)が挙げられる。これら各元素源は、そのまま上記溶媒に添加してもよく、あるいは適当量の水(純水)に溶解させた水溶液として添加してもよい。これら出発原料の配合比は、所望の組成比が得られるよう適宜設定すればよい。得られるリン酸マンガン化合物における組成比は、通常、各元素源から得られる各元素の配合比と略同等である。
【0021】
上記有機溶媒としては、Mnとキレートを形成可能な官能基を含み、且つ沸点が比較的高い溶媒(Mnに対する配位性の高い溶媒)を適宜選択して使用することができる。Mnキレート形成性の官能基としては、水酸基(好ましくはアルコール性水酸基)、アミノ基、エーテル基、カルボニル基(アミド基等)等が例示される。特に好ましい溶媒として、2個以上の水酸基を有するポリオール類が例示される。かかるポリオール類の具体例としては、ジエチレングリコール(沸点245℃)、エチレングリコール(沸点196℃)、1,2−プロパンジオール(沸点187℃)、1,3−プロパンジオール(沸点214℃)、1,4−プロパンジオール(沸点230℃)等のポリオール類が挙げられる。特に好ましいMnキレート形成性溶媒として、ジエチレングリコールが例示される。また、他の官能基を有する溶媒の好適例として、アミド基(カルボニル基)含有のN,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)が挙げられる。
【0022】
上記有機溶媒の使用量は、キレート形成に必要な化学量論量以上であればよく、通常は、Mnに対するモル比(官能基換算)で20倍以上とすることができる。Mnに対するモル比(官能基換算)は、例えば、20倍〜100倍が好ましく、40倍〜60倍がより好ましい。
【0023】
上記製造方法において反応混合物(出発原料の少なくとも一部を含む反応系)を加熱する際の温度は、該混合物に含まれる各元素源のうち上記式(I)に含まれない元素から構成される対イオン(Mn源のアニオン、リン酸源(リン酸塩)のカチオン等)が分解され系外に排出されるよう、適宜設定すればよい。通常は、加熱温度を120℃以上とすることが好ましく、140℃以上とすることがより好ましく、180℃以上とすることがさらに好ましい。加熱温度の上限は、使用する溶媒の沸点を下回る温度とすることが好ましい。加熱時間は、出発原料の反応性に応じて適宜選択すればよく、通常は8時間〜24時間(好ましくは10時間〜15時間)程度とすることができる。上述した方法のように出発原料を段階的に添加する場合、加熱温度および加熱時間は、いずれも各段階における反応の進行具合に応じて適宜設定すればよい。加熱温度および加熱時間は、いずれも段階ごとに異なってもよい。加熱時間は、通常、全段階の合計を上記範囲となるようにすればよい。
【0024】
上記反応混合物を上記所定の温度で加熱することの利点として、溶媒の一部が揮発して、生成物(中間体)が析出しやすくなることが挙げられる。このとき、上記有機溶媒が該生成物粒子表面のMnに配位する(M’にも配位し得る。)ので、粒子の成長(特にb軸方向の成長)が適度に抑制され、微細な粉末状の中間体が形成され得る。また、かかる中間体粒子表面において溶媒分子が配位することで、Fが該生成物(中間体)内に取り込まれやすくなる。これにより、焼成工程においてFが分解して失われることが防止され、所望の組成比および結晶性を有するリン酸マンガン化合物が安定して形成され得る。
【0025】
上述のようにして得られた反応生成物(中間体)を焼成して最終的な固溶体(焼成体)を形成する際の焼成温度は、500℃〜800℃程度(好ましくは550℃〜700℃程度、より好ましくは550℃〜650℃程度;例えば、600℃程度)とすることが好ましい。焼成温度(本焼成温度)が低すぎると、結晶が形成され難くなる場合がある。焼成温度が高すぎると、分解反応等の副反応により上記反応生成物(中間体)の収率が低下し得る。
【0026】
好ましい一態様では、この焼成工程を仮焼成段階と本焼成段階とに分けて実施する。仮焼成は、上記温度域よりも低い温度域(300℃〜400℃程度)で実施することが好ましい。得られた仮焼成体の本焼成は、必要に応じて解砕処理等を施した仮焼成体に対し、上記のより高い温度域にて実施することが好ましい。正極活物質の均質性(組成の均一性および結晶性等)を高める観点からは、仮焼成をした後、仮焼成体を解砕し、本焼成する段階方式の採用が好ましい。仮焼成は、2度以上行ってもよい。
【0027】
焼成時間は、上記中間体が均一な固溶体を形成するのに十分な時間であればよく、通常は、1時間〜10時間程度(好ましくは3時間〜6時間程度、より好ましくは4時間〜5時間程度)とすることができる。焼成を段階的に実施する場合は、例えば、仮焼成時間を1時間〜5時間程度、本焼成時間を1時間〜5時間程度とすることができる。焼成手段は特に限定されず、電気加熱炉等を適宜使用すればよい。焼成は、大気雰囲気中で実施してもよく、不活性ガス雰囲気中で実施してもよい。焼成時にFが失われるのを防止する観点からは、Ar等の不活性ガス雰囲気下において焼成を実施することが好ましい。
【0028】
ここに開示される二次電池は、上記式(I)で表されるリン酸マンガン化合物を正極活物質として含む正極を備える。上記正極活物質は、正極形成の際に、そのまま用いてもよく、あるいは導電材との複合材料として用いてもよい。
【0029】
好ましい一態様では、上記正極活物質を、導電材との複合材料として用いる。導電材としては、典型的には、各種炭素材を使用することができる。炭素材の具体例としては、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、カーボンファイバー等が挙げられる。かかる正極活物質−導電材複合材料は、粉末状にした上記正極活物質と導電材とを混合し、該混合物に適当な粉砕装置(例えばボールミル装置)を用いて粉砕処理を施すことによって形成することができる。この粉砕処理により、上記正極活物質の粒子表面に導電材が圧着され、該粒子表面に導電性の被膜が形成される。これにより、より均質で導電性に優れた正極活物質層が形成され得る。上記正極活物質を導電材との複合材料として用いる態様は、該複合材料を形成する際の粉砕過程で生じる摩擦熱によってメカノケミカル反応が起こり、上記正極活物質の製造工程で生じた不純物(例えば、未反応の出発原料や副反応生成物等)の残渣が分解され得るという利点を有する。粉砕処理の時間は、適宜選択すればよく、通常は10時間以上とすることで不純物のほとんどが分解され得る。粉砕処理時間の上限は特に限定されないが、通常は25時間程度とすることができる。
【0030】
好ましい一態様では、上記粉砕処理後、得られた導電材が圧着された正極活物質をさらに再焼成する。かかる態様によると、不純物が分解された後に再焼成処理を施すことにより、正極活物質の純度および均質性がより向上し得る。例えば、上記粉砕処理によって結晶性が損なわれた場合でも、この再焼成処理により結晶性が復元され得る。再焼成は、正極活物質を焼成する際の温度と同程度の温度域(500℃〜800℃程度(好ましくは550℃〜700℃程度、より好ましくは550℃〜650℃程度;例えば、600℃程度))で実施することができる。再焼成する時間は特に限定されず、通常は1時間〜10時間程度(好ましくは3時間〜6時間程度、より好ましくは4時間〜5時間程度)とすることができる。
【0031】
ここに開示される二次電池の非水電解質(典型的には、常温において液状を呈する非水電解質、すなわち非水電解液)としては、非水溶媒中(非プロトン性溶媒)に支持塩を含むものが用いられる。支持塩としては、各種のリチウム塩、ナトリウム塩(例えば、リチウムイオン電池用電解質の支持塩として機能し得るリチウム塩のアニオンと、リチウムまたはナトリウムとの塩)を用いることができる。好ましいリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiCFSO等が例示される。好ましいナトリウム塩としては、NaPF、NaBF、NaClO、NaAsF、Na(CFSON、NaCFSO等が例示される。これら支持塩は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。通常は、一種または二種以上のリチウム塩のみ、あるいは一種または二種以上のナトリウム塩のみを採用することが好ましい。伝導性を高め充放電の効率を高くする観点からは、より伝導性の高いリチウム塩の使用が好ましい。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。
【0032】
なお、製造時には正極活物質としてNaMn1−xM’POFを使用しても、支持塩としてリチウム塩を用いた場合、LiおよびNaの伝導性の違いから、充電によるNa脱離後、放電時に正極活物質に吸蔵されるのは、主にリチウムであるものと考えられる。したがって、正極活物質としてNaMn1−xM’POFを用い、且つ支持塩としてリチウム塩を用いて構築された態様の二次電池では、初期充放電以降の正極活物質の組成は、Naの一部がLiに置き換わった組成であり得る。また、かかる態様において正極活物質から放出されたNaは、負極活物質の種類(ナトリウム吸蔵性)にもよるが、そのほとんどが非水電解質中に存在し、以後の充放電には実質的に関与しないものと考えられる。したがって、該態様では、初期充電後の非水電解液は、支持塩に由来するLiと、正極活物質に由来するNaとを含み得る。
【0033】
ここに開示される二次電池の負極活物質は、支持塩の種類に応じて適宜選択することができる。
支持塩としてリチウム塩を用いた態様では、リチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。かかる負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質を用いることができる。好適な負極活物質として、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が例示される。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。なかでも特に、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。当該態様において使用可能な他の負極活物質として、金属リチウムが例示される。
【0034】
支持塩としてナトリウム塩を用いた態様では、ナトリウムを吸蔵および放出可能な負極活物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。かかる負極活物質としては、ハードカーボン(ナトリウム吸蔵性のもの)、金属ナトリウム等が例示される。
【0035】
本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極活物質を含む二次電池が提供される。かかる二次電池の一実施形態について、電極体および非水電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成の二次電池100(図1)を例にして詳細に説明するが、ここに開示される技術はかかる実施形態に限定されない。すなわち、ここに開示される二次電池の形状は特に限定されず、その電池ケース、電極体等は、用途や容量に応じて、素材、形状、大きさ等を適宜選択することができる。例えば、電池ケースは、直方体状、扁平形状、円筒形状等であり得る。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0036】
二次電池100は、図1および図2に示されるように、捲回電極体20を、非水電解液90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10の開口部12から内部に収容し、該ケース10の開口部12を蓋体14で塞ぐことによって構築することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。
【0037】
上記電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
【0038】
正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極活物質層34が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体32が露出するよう形成されている。同様に、負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層44が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体42が露出するように形成されている。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部には負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0039】
上記正極シート30は、例えば、上記正極活物質−導電材複合材料を、結着剤および必要に応じて使用される追加の導電材(上記複合材料に含まれる導電材と同種の材料であってもよく、異なる材料であってもよい。)とともに適当な溶媒(例えば、N−メチルピロリドン(NMP)等の非水溶媒)に分散させて調製した正極ペーストを正極集電体32に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。あるいは、上記正極ペーストの代わりに、上記正極活物質をそのまま(上記複合材料化することなく)、導電材および結着剤とともに適当な溶媒に分散させて調製した正極ペーストを用いてもよい。正極活物質層34に含まれる正極活物質の量は、例えば、50〜98質量%(好ましくは70〜90質量%)程度とすることができる。正極活物質層34に含まれる導電材の量(正極活物質−導電材複合材料を用いる場合には、該複合材料に含まれる導電材と、必要に応じて用いられる追加の導電材との合計量)は、例えば、1〜40質量%(好ましくは5〜30質量%、例えば10〜25質量%)程度とすることができる。
【0040】
正極形成用の結着剤としては、各種ポリマーから適宜選択して用いることができる。一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の、油溶性ポリマー;カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)等の、水溶性ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の、水分散性ポリマー;等が挙げられる。正極活物質層34に含まれる結着剤の量は、適宜選択すればよく、例えば、1〜10質量%程度とすることができる。
【0041】
正極集電体32としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備えた二次電池100では、シート状のアルミニウム製の正極集電体32(例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシート)を好ましく使用し得る。
【0042】
負極シート40は、例えば、上述のように適宜選択した負極活物質を、必要に応じて結着剤等とともに適当な溶媒に分散させて調製した負極ペーストを負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。負極活物質層44に含まれる負極活物質の量は、適宜選択すればよく、例えば、90〜99.5質量%程度とすることができる。
【0043】
負極形成用の結着剤としては、上記正極形成用の結着剤と同様のものを、一種のみ単独で、または二種以上を混合して用いることができる。負極活物質層44に含まれる結着剤の量は、適宜選択すればよく、例えば、0.5〜10質量%程度とすることができる。
【0044】
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備える二次電池100では、シート状の銅製の負極集電体42(厚みが6μm〜30μm程度の銅製シート)を好ましく使用し得る。
【0045】
非水電解液90は、適宜選択した上記支持塩(支持電解質)を非水溶媒に溶解させることにより調製することができる。上記非水溶媒としては、一般的な二次電池に用いられる溶媒を適宜選択して使用することができる。特に好ましい非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。これらの非水溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を混合して用いることができる。例えば、EC,DMC,EMCの混合溶媒を好ましく使用することができる。非水電解液90の支持塩濃度は、例えば、0.7〜1.3mol/L程度の範囲にあることが好ましい。
【0046】
上記セパレータ50は、正極シート30および負極シート40の間に介在する層であって、典型的にはシート状をなし、正極シート30の正極活物質層34と、負極シート40の負極活物質層44にそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における両電極活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に上記電解液を含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。特に、PEシート、PPシート、PE層とPP層とが積層された多層構造シート(例えば、PP/PE/PP三層シート)等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0047】
上述のとおり、ここに開示されるいずれかの二次電池は、資源量の豊富なMnを主な遷移金属元素とするリン酸マンガン化合物を正極活物質として含む構成であることから、例えば車両用等、よりコスト性が重要となる大容量電池に好ましく採用され得る。したがって、本発明によると、図3に示されるように、ここに開示されるいずれかの二次電池100を備えた車両1が提供される。特に、かかる二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の駆動電源)として備える車両(例えば自動車)が好ましい。
【0048】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0049】
≪正極活物質−導電材複合材料の調製および評価用ハーフセルの構築≫
<例1>
Mn源としての酢酸マンガン・4水和物((CHCOO)Mn・4HO)7.279gおよびM’源(Al源)としての硝酸アルミニウム・9水和物(Al(NO・9HO)0.113gを純水20mLに溶解し、これをジエチレングリコール(ポリオール溶媒)160mLとともに適当な攪拌装置に投入し、180℃で1時間攪拌した。褐色に変化して若干の析出物が認められる反応混合物に、リン酸源としてのリン酸2水素アンモニウム(NHPO)3.4509gを純水20mLに溶解させて調製した水溶液を加えた。白色粉末が析出した反応混合物に、Na源およびF源としてのフッ化ナトリウム(NaF)2.194gを純水60mLに溶解させて調製した水溶液をさらに投入した。これを180℃でさらに15時間攪拌した。この反応混合物から、遠心分離機を用いて生成物(中間体)を分離し、180℃で乾燥させた。これを、Ar雰囲気中において、300℃で3時間仮焼成し、得られた仮焼成体を解砕した後、さらに600℃で5時間本焼成し、NaMn0.99Al0.01POFの組成を有するAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物を得た。
【0050】
得られたAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物をSEMにより観察したところ、板状の粒子形状を有することが確認された。上記板状粒子の平均厚さは60nm(計測粒子数:5個)であり、平均粒径は600nm(計測粒子数:20個)であった。
【0051】
上記で得られたAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物(正極活物質)をボールミル装置に投入して1時間粉砕した。ここに、炭素材(導電材)としてのカーボンブラックを、正極活物質と炭素材との比が80:20となるように投入し、さらに21時間粉砕して、正極活物質粒子表面に炭素材が圧着された複合粉末を得た。この複合粉末を、600℃のアルゴン雰囲気下で5時間焼成し、得られた焼成体を粉砕して、平均粒径が0.2μm(計測粒子数:20個)の正極活物質−炭素複合材料を得た。この複合材料のSEM観察により、板状の粒子径状が維持されていることが確認された。
【0052】
上記複合材料と、導電助剤(追加の導電材)としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFとを、これらの比が75:20:5となるようにNMPに分散・混練して正極ペーストを得た。この正極ペーストを厚さ15μmの長尺状アルミニウム箔の片面に塗付し、乾燥後圧延して、理論容量(各組成式に含まれる2個のNaを全て放出させたときの容量)が250mAh/gの正極シートを得た。
【0053】
直径16mmの円形に打ち抜いた上記正極シート(作用極)と、負極(対極)としての金属リチウム箔(直径19mm、厚さ0.02mm)と、セパレータ(直径22mm、厚さ0.02mmのPP/PE/PP三層多孔質シート)とを、非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、図4に示す概略構造を有する2032型(直径20mm、厚さ3.2mm)の評価用コインセル60を構築した。図4中、符号61は正極(作用極)を、符号62は負極(対極)を、符号63は電解液の含浸したセパレータを、符号64はガスケットを、符号65は容器(負極端子)を、符号66は蓋(正極端子)をそれぞれ示す。非水電解液としては、1mol/LのLiPF溶液(EC:DMC:EMC=3:4:3の混合溶媒)を使用した。
【0054】
<例2>
Mn源の使用量を7.132gとし、Al源の使用量を0.3376gとした他は、例1と同様にして、NaMn0.97Al0.03POFの組成を有するAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物を得た。この化合物をSEM観察したところ、平均粒径600nm、平均厚さ60nmの板状粒子であることが確認された。これを正極活物質として用いた他は例1と同様にして、本例に係る評価用コインセルを構築した。
【0055】
<例3>
Mn源の使用量を6.985gとし、Al源の使用量を0.5627gとした他は、例1と同様にして、NaMn0.95Al0.05POFの組成を有するAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物を得た。この化合物をSEM観察したところ、平均粒径600nm、平均厚さ60nmの板状粒子であることが確認された。これを正極活物質として用いた他は例1と同様にして、本例に係る評価用コインセルを構築した。
【0056】
<例4>
Mn源の使用量を7.3527gとし、Al源を使用しなかった他は、例1と同様にして、NaMnPOFの組成を有するフッ素リン酸マンガン化合物を得た。この化合物をSEM観察したところ、平均粒径600nm、平均厚さ60nmの板状粒子であることが確認された。これを正極活物質として用いた他は例1と同様にして、本例に係る評価用コインセルを構築した。
【0057】
<例5>
Mn源の使用量を6.6174gとし、Al源の使用量を1.1254gとした他は、例1と同様にして、NaMn0.90Al0.10POFの組成を有するAl−フッ素含有リン酸マンガン化合物を得た。この化合物をSEM観察したところ、平均粒径600nm、平均厚さ60nmの板状粒子であることが確認された。これを正極活物質として用いた他は例1と同様にして、本例に係る評価用コインセルを構築した。
【0058】
≪正極活物質の結晶性評価≫
各例に係る正極活物質−導電材複合材料のサンプルにつき、X線回折装置(株式会社リガク製、型式「Ultuma IV」)を用いてX線回折パターンを測定した。本測定用に構築した各コインセルを、温度60℃の環境下、1/20C(1Cは、1時間で満充放電可能な電流値)のレートにて、容量100mAh/g(作用極の理論容量の40%)に相当する分のNaが該作用極から脱離するまで充電した後、該コインセルを解体し、正極シートから正極活物質−炭素複合材料を回収・洗浄して乾燥させた後、上記装置を用いてX線回折パターンを測定した。
【0059】
得られたX線回折チャートを分析したところ、例4では、充電前にはっきりと認められたNaMnPOFの回折ピークの強度が、充電後はほとんど基線に近いレベルまで弱くなったことが認められた。これらの結果は、例4の正極活物質の結晶性が、初期充電により顕著に低下した(損なわれた)ことを示している。一方で、例1〜3では、充電前に観察された回折ピークが、初期充電後においても、いずれも基線とは明らかに区別可能な強度を有するピークとして確認された。これらの結果は、例1〜3では例4に比べて正極活物質の結晶構造の安定性が改善され、初期充電後も正極活物質の結晶性がよりよく維持されていることを示している。
なお、例4の充電前のX線回折パターンを図6に、例2および例4の充電後の回折パターンを図5に示す。これらのチャートにおける縦軸は、回折強度を示すものではない。
【0060】
≪充放電効率の測定≫
本測定用に構築した各コインセルを、温度60℃の環境下、上記と同様にして、1/20Cのレートで容量が100mAh/g(作用極の理論容量の40%)となるまで充電した。次いで、同じレートにて、両端子間の電圧が3.0Vとなるまで放電させ、この時の放電容量を測定した。測定された放電容量の上記初期充電容量に対する百分率を充放電効率として算出した。これらの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるとおり、Mnの一部をM’(Al)に置き換えたリン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた例1〜3は、いずれも、M’(Al)を含まない組成のリン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた例4と比べて、より高い充放電効率を示した。この結果は、例1〜4に係る正極活物質についての上記結晶性評価結果と整合するものである。一方で、M’(Al)の組成比xが0.10であるリン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた例5では、x=0(例4)に比べて充放電効率が低下する結果となった。これは、Mnサイトに置換されたAl3+が充放電に寄与しない(価数が変化しない)ため、上記評価条件では結晶構造の維持性向上よりも正極活物質内の抵抗上昇の影響が強く表れたためと考えられる。
【0063】
上述した充電前後の結晶性評価および充放電効率測定の結果は、リン酸マンガン化合物のMnを特定の元素M’に置換することにより、該リン酸マンガン化合物の結晶構造の安定性が向上し、かかるM’含有リン酸マンガン化合物を正極活物質として用いた二次電池の性能(例えば、初期充放電効率)を向上させ得ることを示している。
【0064】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
38 正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
60 コインセル
90 非水電解液
100 二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
支持塩を含む非水電解質と、を備え、
前記正極活物質として、次の一般式(I):
NaMn1−xM’POF (I)
(ここで、M’は、Al,MgおよびTiから選択される少なくとも一種であり、0<x<0.5である。);
で表されるリン酸マンガン化合物を用いて構築された、二次電池。
【請求項2】
前記一般式(I)中のM’がAlである、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記一般式(I)中のxが0<x≦0.06である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記リン酸マンガン化合物の粒子形状が、b軸方向に偏平な板状である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
次の一般式(I)
NaMn1−xM’POF (I)
(ここで、M’は、Al,MgおよびTiから選択される少なくとも一種であり、0<x<0.5である。);
で表されるリン酸マンガン化合物を用意する工程;
前記リン酸マンガン化合物を備えた電極を作製する工程;および、
その電極を用いて二次電池を構築する工程;
を包含する、二次電池製造方法。
【請求項6】
前記リン酸マンガン化合物を用意する工程は:
ナトリウム源、マンガン源、前記M’源、リン酸源およびフッ素源を包含する出発原料を、金属キレート形成性官能基を含む溶媒中で混合して原料混合液を調製する工程;
前記原料混合液を加熱して前駆体を得る工程;および、
前記前駆体を所定温度で焼成する工程;
を包含する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属キレート形成性官能基は、水酸基、カルボニル基およびエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒はポリオール溶媒である、請求項6または7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89379(P2013−89379A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227231(P2011−227231)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】