説明

二次電池の劣化状態判別システム及び劣化状態判別方法。

【課題】二次電池が車両に搭載されて使用されている環境下であっても適切に容量劣化を判別する。
【解決手段】本発明は、二次電池の劣化状態判別システムであり、二次電池の電圧を検出する電圧センサ、二次電池の内部圧力を検出する圧力センサ、及び二次電池の容量劣化を算出する制御装置を有する。制御装置は、所定の基準状態における二次電池の電圧と内部圧力の第1関係データ及び二次電池の内部圧力と電池容量の第2関係データを用い、電圧センサによって検出された電圧値に対応する所定の基準状態の内部圧力と圧力センサによって検出された内部圧力との間の圧力変動に応じた二次電池の容量劣化を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池等の二次電池の劣化状態を判別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の二次電池は、充放電を繰り返すことで劣化する。特許文献1では、定電流充電又は定電流放電時の電池電圧を逐次測定して所定時間あたりの電池電圧の変化を求め、電池電圧の変化が所定値以下である時間を劣化度合いとして算出している。
【0003】
特許文献2では、二次電池を一度充電率が0%になるまで放電した後に、満充電状態まで充電した際の充電電流積算値を用いて、二次電池の電池容量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−340997号公報
【特許文献2】特開2008−278624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2では、定電流充電時又は定電流放電時の状態で電池容量を検出したり、電池残存容量が0%から満充電状態まで充電するなどの特定条件で電池容量を検出しなければならない。このため、充放電を頻繁に繰り返すような車両に搭載されて使用されている環境下では、電池容量の劣化状態を判別することが難しい。
【0006】
また、電池容量の劣化を検出するために、二次電池に特定条件での充電又は放電を行わせる必要があるので、電池容量の劣化検出のための充放電によって電池容量のさらなる劣化を生じさせてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願第1の発明である二次電池の劣化状態判別システムは、二次電池の劣化状態判別システムであり、二次電池の電圧を検出する電圧センサ、二次電池の内部圧力を検出する圧力センサ、及び二次電池の容量劣化を算出する制御装置を含んで構成される。制御装置は、所定の基準状態における二次電池の電圧と内部圧力の第1関係データ及び二次電池の内部圧力と電池容量の第2関係データを用い、電圧センサによって検出された電圧値に対応する所定の基準状態の内部圧力と圧力センサによって検出された内部圧力との間の圧力変動に応じた二次電池の容量劣化を算出する。
【0008】
本願第1の発明によれば、二次電池の内部圧力の変動に起因する容量劣化を算出するので、二次電池に特定条件で動作させる(経験させる)ことなく二次電池の容量劣化を算出することができる。このため、使用されている環境下であっても適切に容量劣化を判別することができるとともに、二次電池を特定条件で動作させる場合に比べて短時間で容量劣化を判別することができ、かつ劣化状態判別に伴う充放電によって二次電池が劣化することを抑制できる。特に、二次電池が車両に搭載されて使用されている環境下(充放電を頻繁に繰り返すような環境下の二次電池)であっても容量劣化を判別することができる。
【0009】
制御装置は、第1関係データに基づいて、電圧センサで検出された電圧値に対応する所定の基準状態の第1圧力値を算出するとともに、第2関係データに基づいて、第1圧力値に対応する第1電池容量と圧力センサによって検出された第2圧力値に対応する第2電池容量とを算出する。算出された第1電池容量と第2電池容量それぞれから、二次電池の容量劣化を算出することができる。
【0010】
二次電池の内部圧力は、二次電池を構成する電池要素の負極素子のみの圧力又は発電要素の負極素子及び正極素子それぞれの圧力を含むことができる。
【0011】
制御装置は、所定の基準電圧と第1関係データに基づく基準電圧に対応する基準内部圧力とを予め設定しておき、基準電圧時の内部圧力を圧力センサで検出することで二次電池の容量劣化を算出することができる。このとき、制御装置は、電圧センサによって検出される二次電池の電圧が基準電圧でない場合に基準電圧まで二次電池を充放電させるように制御することができる。
【0012】
圧力センサは、二次電池を構成する電池要素を覆う外装部材の外周又は電池要素と外装部材との間に設けることができ、また、二次電池として、リチウムイオン二次電池を用いることができる。
【0013】
本願第2の発明である二次電池の劣化状態判別方法は、二次電池の端子間電圧を検出するステップと、二次電池の内部圧力を検出するステップと、二次電池の容量劣化を算出するステップと、を含む。二次電池の容量劣化を算出するステップは、所定の基準状態における二次電池の電圧と内部圧力の関係データ及び二次電池の内部圧力と電池容量の関係データを用い、電圧センサによって検出された電圧値に対応する所定の基準状態の内部圧力と圧力センサによって検出された内部圧力との間の圧力変動に応じた二次電池の容量劣化を算出する。
【0014】
本願第2の発明によれば、使用されている環境下であっても適切に容量劣化を判別することができるとともに、二次電池を特定条件で動作させる場合に比べて短時間で容量劣化を判別することができ、かつ劣化状態判別に伴う充放電によって二次電池が劣化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両に搭載される電池システムの概略構成図である。
【図2】圧力センサが設けられた単電池の一例を示す図である。
【図3】単電池の電圧値と単電池の内部圧力の関係を示す図である。
【図4】単電池の内部圧力と電池容量の関係を示す図である。
【図5】電池容量の劣化状態判別動作を示すフローチャートである。
【図6】単電池の電圧値と単電池の正極圧力変動が考慮された内部圧力の関係を示す図である。
【図7】単電池の正極圧力変動が考慮された内部圧力と電池容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例1である二次電池の劣化状態判別システムについて説明する。図1は、本実施例の電池システムの構成を示す図である。
【0018】
組電池10は、直列に接続された複数の単電池(二次電池に相当する)11を有する。組電池10を構成する単電池11の数は、要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。また、組電池10は、並列に接続された複数の単電池11を含んでいてもよい。
【0019】
本実施例の組電池10は、車両に搭載することができる。車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させるための動力源として、組電池10に加えて、エンジン又は燃料電池を備えている。電気自動車は、車両の動力源として、組電池10のみを備えている。
【0020】
組電池10は、負荷40に接続される。組電池10と負荷40との間にはリレー装置(システムメインリレー)31、32が設けられており、リレー装置31、32がコントローラ50からの制御信号を受けて、オン(接続状態)およびオフ(遮断状態)の間で切り替わることで、組電池10と負荷40との接続/非接続が制御される。
【0021】
負荷40は、例えば、組電池10から供給される電力によって動作するモータ・ジェネレータを用いることができる。モータ・ジェネレータは、組電池10からの電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータは、車輪と接続されており、モータ・ジェネレータによって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。
【0022】
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータは、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギに変換する。モータ・ジェネレータによって生成された電力は、組電池10に出力される。これにより、回生電力を組電池10に蓄えることができる。
【0023】
負荷40は、昇圧コンバータ及びインバータを含むことができる。昇圧コンバータは、組電池10の出力電圧を昇圧して、昇圧後の電力をインバータに出力する。また、昇圧コンバータは、インバータの出力電圧を降圧して、降圧後の電力を組電池10に出力する。インバータは、昇圧コンバータから出力された直流電力を交流電力に変換して、交流電力をモータ・ジェネレータに出力する。また、インバータは、モータ・ジェネレータから出力された交流電力を直流電力に変換して、直流電力を昇圧コンバータに出力する。
【0024】
電圧監視IC20(電圧センサに相当)は、組電池10を構成する各単電池11それぞれの電圧を検出する。電圧監視IC20は、コントローラ50に接続され、単電池11の端子間電圧の検出値をコントローラ50に出力する。
【0025】
圧力センサ21は、複数の単電池11それぞれに設けられ、単電池11の内部圧力を検出する。圧力センサ21は、圧電素子やピエゾ抵抗体等に加わる圧力を電気信号に変換して単電池11の内部圧力を検出する圧力検出手段である。圧力センサ21は、コントローラ50に接続され、検出結果をコントローラ50に出力する。なお、圧力センサ21は、電圧監視IC20に含まれるように構成することもでき、例えば、組電池10の電圧及び内部圧力を検出する監視ICとして構成できる。
【0026】
図2は、圧力センサ21が設けられた単電池11の一例を示す図である。組電池10は、所定の方向に並んで配置され、複数の単電池11で構成することができる。隣り合う2つの単電池11は、不図示のバスバーによって電気的に接続される。図2(a)に示すように、所定の方向に並んで配置される隣り合う2つの単電池11の間には、絶縁材料で形成された仕切り部材13を設けることができ、圧力センサ21は、単電池11(外装部材16)と仕切り部材13の間に設けることができる。また、組電池10の両端に配置される不図示の一対のエンドプレートと単電池11との間に圧力センサ21を設けることができる。
【0027】
単電池11は、発電要素(例えば、正電極体、負電極体、正電極体及び負電極体の間に配置されるセパレータ(電解液を含む)を積層して構成することができる)13を含んで構成されている。発電要素13(電池要素に相当する)は、外装部材12(発電要素13を収納する外装缶等のケース部材)によって覆われて密閉されている。外装部材12の上部には、発電要素13の正電極体が接続される正極端子14及び負電極体と接続する負極端子15が設けられている。
【0028】
正電極体に用いられる正活物質としては、リチウム−遷移元素複合酸化物であるLiCoO2、LiNiO2、LiMO2(MはCo、Ni、Fe、Cu及びMnよりなる群から選ばれた少なくとも2種の遷移元素)、LiMn24を例示的に挙げることができる。また、負電極体に用いられる負活物質としては、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵及び放出することが可能なものであれば特に限定されない。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、有機物焼成体、金属カルコゲン化物が挙げられる。
【0029】
電解液の溶質として使用するリチウム塩としては、LiClO4、LiCF3SO3、LiPF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiBF4 、LiSbF6及びLiAsF6などがある。リチウム塩を溶かすために使用する有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステルと、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルとの混合溶媒などがある。なお、電解液は、非水電解質以外にも固体電解質を用いることができ、固体電解質としては、無機固体電解質や高分子固体電解質を用いることができる。
【0030】
圧力センサ21は、図2(b)に示すように、発電要素13が収容される外装部材12の外周、例えば、単電池11の外装部材12の略中央部に設けることができる。また、図2(c)に示すように外装部材12内部、例えば、外装部材12と発電要素13との間に圧力センサ21を設けることができる。
【0031】
図2の例のように配置された電圧センサ21は、充放電に伴う発電要素13(活物質)の膨張・収縮の圧力変動を検出する。組電池10を構成する複数の単電池11は、所定の拘束力で並び方向(積層方向)両側から拘束されている。各単電池11に一定の拘束力が加わっている状態での発電要素13の膨張(充電)・収縮(放電)による圧力変動を電圧センサ21によって検出する。なお、単電池11単体が二次電池として使用される場合、拘束力が加わっていない状態での発電要素13の膨張・収縮による圧力変動が電圧センサ21によって検出される。
【0032】
コントローラ50は、単電池11の劣化状態を判別する劣化状態判別を行う劣化状態判別部51と記憶部52を含んで構成される。電圧監視IC20(電圧センサ)、圧力センサ21及び劣化状態判別部51は、電池システムを構成する単電池11の劣化状態判別システムを構成している。
【0033】
なお、コントローラ50は、組電池10の充放電制御を行う制御装置として動作することができ、車両出力要求に基づいて負荷40に組電池10の電力を出力する放電制御、車両が減速したり、停止したりする際の車両制動時における回生電力を組電池10に充電する充電制御を行う。劣化状態判別部51は、コントローラ50とは別途の制御装置として構成することもできる。
【0034】
次に、本実施例の単電池11の劣化状態判別処理について詳細に説明する。単電池11の満充電容量は、充放電を繰り返すことにより劣化して製造時の初期状態の満充電容量よりも小さくなる。リチウムイオン二次電池を一例に説明すると、例えば、過充電(ハイレート充電、高充電状態(高SOC)からの充電、長時間充電の継続、低温での充電など)において、リチウムイオン二次電池の負極表面に、SEI(Solid Electrolyte interface)皮膜生成により固定化されてリチウム(Li)金属が析出することがあり、このリチウム金属の析出は、電池容量の劣化を招く要因として知られている。
【0035】
つまり、リチウムイオン二次電池では、充電の際に正電極体(正活物質)からリチウムイオンが負電極体(負活物質)へ移動して吸蔵され、放電の際には逆に負電極体から正電極体にリチウムイオンが戻るが、電極にリチウム(Li)金属が析出すると、電気伝導を担う電解質中のリチウムイオンが減少してしまい、電池容量が減少する。
【0036】
このとき、単電池11が劣化して電気伝導を担う電解質中のリチウムイオンが減少することに伴って、単電池11の内部圧力が変化する。例えば、電解質内のリチウムイオンの密度が減少すると、電気伝導を担うリチウムイオンの移動が少なくなるので、充電時に負電極体に吸蔵されるリチウムイオンが減少し、負電極体の膨張が初期状態の単電池11に比べて小さくなる。このため、発電素子13の内部圧力が減少する。
【0037】
本実施例の単電池11の劣化状態判別は、未使用の劣化していない初期状態の単電池11、例えば、製造時の単電池11の基準状態として予め測定した各種のデータを用い、使用環境下にある単電池11で検出される電圧値及び圧力値に基づいて、単電池11の電池容量の劣化状態を算出、判別する。
【0038】
本実施例では、初期状態の単電池11の複数の異なるSOC状態それぞれにおける端子間電圧値(CCV:Closed Circuit Voltage)、内部圧力値をそれぞれ測定することで、初期状態の単電池11の電圧とSOCとの関係を示す電圧−SOC関係データ(V−S関係マップ)と、初期状態の単電池11の内部圧力とSOCとの関係を示す内部圧力−SOC関係データ(P−S関係マップ)と、を予め測定によって取得(作成)する。
【0039】
取得された電圧−SOC関係データと内部圧力−SOC関係データの2つの関係データから、初期状態の単電池11の電圧と内部圧力との関係を示す電圧−内部圧力関係データ(V−P関係マップ:第1関係データに相当する)を取得することができる。なお、SOC(State of Charge)は、単電池11の満充電容量に対する現在充電容量の割合を示すものであり、単電池11のOCV(Open Circuit Voltage)から特定することができる。
【0040】
図3は、初期状態における単電池11の電圧値と内部圧力の関係を示した図である。横軸が単電池11の電圧(V)、縦軸が単電池11の内部圧力であり、単電池11の初期状態における電圧と内部圧力との関係が実線(V−P曲線)で表されている。
【0041】
次に、上述した各関係マップとは別に、初期状態から単電池11を劣化させ、劣化状態の遷移に伴う単電池11の内部圧力の変動を測定する。まず、初期状態の電池容量C0は、初期値として予め算出又は測定することができ、電池容量C0における単電池11の内部圧力P0を測定する。続いて、初期状態にある単電池11を充放電させて劣化させ、電池容量C1となった際の単電池11の内部圧力P1を測定する。電池容量C1は、充電電流の積算値から算出することができる。
【0042】
具体的には、予め設定された上限SOCまで充電及び放電を繰り返し行う所定の充放電サイクルで単電池11を劣化させ、各充放電サイクルそれぞれで単電池11の電池容量及び内部圧力を取得する。例えば、単電池11の初期SOCが80%である場合、この初期状態における単電池11の圧力P0を圧力センサで検出する。このときの単電池11の満充電容量、すなわち、電池容量は、劣化前の電池容量C0となる。続いて、単電池11を放電させてSOCを一定の下限値(例えば、20%)まで低下させ、SOCが下限値の状態からSOCが同じ80%になるまで充電を行う。放電及び同じ上限SOCまでの充電を1サイクルとした充放電を繰り返し行い、電流センサによって検出される充電電流の積算値に基づいて満充電容量(Ah)を算出し、かつ各充放電サイクルにおいてSOCが80%の状態の単電池11の電池容量と内部圧力を測定する。
【0043】
初期状態の電池容量C0から劣化させた各電池容量それぞれの単電池11の圧力を測定し、単電池11の内部圧力と電池容量との関係を示す内部圧力と電池容量の関係データ(P−C関係マップ:第2関係データに相当する)を作成することができる。
【0044】
図4は、単電池11の内部圧力と電池容量の関係を示す図である。横軸が単電池11の電池容量(Ah)、縦軸が単電池11の内部圧力である。充放電させることで遷移した(劣化した)単電池11の電池容量とその電池容量における単電池11の内部圧力の関係が実線で表されている。
【0045】
なお、初期状態における単電池11の内部圧力の測定は、例えば、相手方の極が変動しないものを使用して発電要素13の正電極体及び負電極体それぞれの圧力を測定するが、負電極体の圧力の寄与が正電極体よりも十分に大きい場合、測定された負電極体の圧力変動のみを単電池11の内部圧力とすることができる。図3、図4の例は、測定された負電極体の圧力変動のみを含む内部圧力との関係を示したものである。
【0046】
本実施例の劣化状態判別は、図3に示した単電池11の初期状態における電圧と内部圧力の関係データと、図4に示した各劣化状態それぞれでの単電池11の電池容量と内部圧力の関係データと、を予め記憶部52に記憶しておき、単電池11の電圧値及び内部圧力を各センサで検出することで、使用されている環境下にある単電池11の電池容量の劣化状態を算出及び判別する。
【0047】
図5は、本実施例の単電池11の劣化状態判別動作を示すフローチャートである。劣化状態判別は、劣化状態判別部51によって遂行される。劣化状態判別部51は、単電池11の電圧を検出する電圧監視IC20によって検出される検出値及び圧力センサ21によって検出される検出値を用いて、各単電池11の劣化状態を判別する劣化状態判別装置として機能する。
【0048】
劣化状態判別部51は、車両のイグニッションスイッチがオフからオンに切り替わり、リレー装置31、32がオンされてコントローラ50によって充放電制御を開始できる状態(READY−ON状態)になった後の負荷40との間で充放電制御が行われていないとき、又はコントローラ50による充放電制御が終了する(READY−OFF状態)前の負荷40との間で充放電制御が行われていないときに、単電池11の劣化状態判別を行うことができる。
【0049】
劣化状態判別部51は、単電池11の電圧値及び圧力値を電圧監視IC20及び圧力センサ21から取得する。つまり、負荷40と接続される使用環境下(使用状態)にある単電池11の実測電圧値V1及び実測圧力値P1を各センサから取得する(S101)。
【0050】
ステップS102において、劣化状態判別部51は、記憶部52に記憶されている図3に示したV−P関係マップから電圧監視IC20で検出された実測電圧値V1に対応する初期状態の圧力値P0を算出する。
【0051】
ステップS103において、劣化状態判別部51は、記憶部52に記憶されている図4に示したP−C関係マップから、図3のV−P関係マップによって算出された初期状態の圧力値P0に対応する電池容量C0を算出するとともに、圧力センサ21で検出された実測圧力値P1に対応する電池容量C1を算出する。
【0052】
ステップS104において、劣化状態判別部51は、実測電圧値V1に対して単電池11の内部圧力がP0からP1に変動した圧力変動に対応する電池容量の差分(C0−C1)を単電池11の劣化量として算出する。
【0053】
算出された劣化量は、単電池11の劣化状態を判別する情報として用いることができる。例えば、算出された劣化量が0である場合、単電池11は初期状態から劣化していないと判別することができる。算出された劣化量から単電池11の電池容量が所定値以下である場合、組電池10の出力制限(例えば、組電池10の電力を用いた走行距離を制限したり、組電池10の充放電電流の入出力値を制限など)することができる。また、算出された劣化量から組電池10の寿命を推定することができる。
【0054】
上述した図3及び図4の各関係データを用いた単電池11の電池容量の劣化状態判別は、劣化による単電池11の負電極体の変動に起因する電池容量の劣化状態、すなわち、負極電極体の圧力変動が正電極体よりも十分に大きい場合の電池容量の劣化状態を判別しているが、単電池11の正電極体の圧力変動が無視できない場合、正電極体の圧力変動分を加味した図3(電圧と内部圧力の関係データ)、図4(電池容量と内部圧力の関係データ)それぞれに対応する電圧と内部圧力の関係データ及び電池容量と内部圧力の関係データを作成することができる。
【0055】
図6は、単電池11の正電極体及び負電極体それぞれの電位とSOCとの関係を示す図である。縦軸は電位(V)、横軸はSOC(%)であり、実線が各SOCにおいて初期状態の正電極体及び負電極体それぞれの電位を表している。
【0056】
まず、初期状態の単電池11の正電極体及び負電極体それぞれの電位と内部圧力との関係を図3に示した例と同様に取得する。つまり、図6に示した正電極体及び負電極体それぞれの電位とSOCの関係データ(実線)と、不図示の単電池11の正電極体及び負電極体それぞれの圧力とSOCの関係データとをそれぞれ取得し、電圧(正電極体と負電極体との電位差)及び正電極体の圧力変動と負電極体の圧力変動を含む単電池11の内部圧力の関係データを作成する。図3において二点鎖線で示されたV−P曲線が、正電極体の圧力変動分が加味(加算)されたV−P関係マップである。
【0057】
図3の例において、二点鎖線で示した正電極体の圧力変動分が加味されたV−P関係マップは、負電極体の圧力変動のみを考慮した実線で示されたV−P関係マップよりも内部圧力が正電極体の圧力変動分上方にスライドしている。任意の電圧V1における単電池11の内部圧力は、P0に正電極体の圧力変動が加算されたPaとなる。
【0058】
続いて、図4に対応する正電極体の圧力変動分が加味されたP−C関係マップを作成する。電池容量C0の初期状態(劣化していない状態)の単電池11を劣化させ、電池容量C1となった際の単電池11の任意のSOC(電圧V1)における正電極体及び負電極体それぞれの電位を算出する。
【0059】
このとき、電池容量C0から電池容量C1に劣化した劣化量(C0−C1)の分、負電極体の充電量(放電量)が正電極体に対して少なくなる性質を利用することで、図6の点線で示す曲線を予め作成することができる。このため、電池容量C1に劣化した状態での負電極体の電位は、電池容量C1に劣化した状態の負電極体の電位の変動を図6の点線で示す曲線から算出することができる。図6の例のように負電極体の電位は、劣化によって正電極体の電位に対して右方向にスライドし、劣化量の分、電位が高くなる(正電極体と負電極体との電位差が小さくなる)。
【0060】
このように任意のSOCにおける初期状態の電池容量C0から劣化させた各電池容量それぞれの単電池11の正極電体及び負電極体それぞれの電位を、図6に示した予め作成された電池容量の劣化に伴う単電池11の負電極体の電位変動マップから算出する。電池容量C0の初期状態における電圧差V1、電池容量C1に劣化した状態の電位差V2をそれぞれ求めると、各電圧差V1、V2に対応する単電池11の内部圧力が、図3の二点鎖線で示されたV−P曲線から算出することができ、正電極体の圧力変動分が加味されたP−C関係データを取得することができる。
【0061】
図7は、正電極体の圧力変動分が加味された単電池11の内部圧力と電池容量の関係を示す図である。横軸が単電池11の電池容量(Ah)、縦軸が単電池11の内部圧力である。充放電させることで遷移した(劣化した)単電池11の電池容量とその電池容量における正電極体の圧力変動分が加味された単電池11の内部圧力の関係が実線で表されている。
【0062】
図7の例において、一点鎖線で示した関係データは、図4に示した負電極体の圧力変動のみを単電池11の内部圧力とした場合のP−C関係データである。図7に示すように、実線で示した正電極体の圧力変動分が加味されたP−C関係データは、負電極体の圧力変動のみを考慮した一点鎖線で示されたP−C関係データよりも内部圧力が正電極体の圧力変動分上方にスライドしている。各電池容量は、負電極体の圧力変動に正電極体の圧力変動が加算された内部圧力と関連付けられ、例えば、任意の電圧V1における初期状態の単電池11の内部圧力は、P0に正電極体の圧力変動が加算されたPaとなり、内部圧力Paに対して初期状態の電池容量C0が関連付けられることになる。電池容量C1についても図4に示した正電極体の圧力変動が加算されたPbが関連付けられることになる。
【0063】
なお、図3及び図4、図6及び図7に示した各関係データは、単電池11の電圧値は、CCV(Closed Circuit Voltage)が適用されて作成されており、使用環境下で検出される単電池11のCCVと内部圧力によって単電池11の劣化量を算出、判別しているが、これに限らず、OCV(Open Circuit Voltage)を適用して各関係データを作成し、電圧監視IC20によって取得される使用環境下で検出される単電池11のCCV(Closed Circuit Voltage)を用いて単電池11のOCVを算出することで、使用環境下における単電池11のOCVと検出された内部圧力によって単電池11の劣化量を算出、判別するように構成してもよい。
【0064】
次に、本実施例の劣化状態判別の変形例を説明する。例えば、予め任意の電圧(基準電圧)を決めておき、図3に示した初期状態のV−P関係マップから任意の電圧に対応する初期状態の単電池11の内部圧力を予め取得しておく。記憶部52には、図3に示したV−P関係マップの各データを全て記憶せずに、任意の電圧とそれに対応する単電池11の内部電圧のみを記憶しておくようにする。劣化状態判別部51は、電圧監視IC20によって検出される単電池11の電圧が予め決められた任意の電圧である場合に、劣化状態判別を行うように構成することができる。
【0065】
この場合、劣化状態判別部51は、単電池11の電圧が予め決められた任意の電圧になった際の内部圧力を圧力センサ21で検出し、既に取得済みの任意の電圧に対する初期状態の内部圧力と検出された内部圧力とを用いて、図4のP−C関係データから単電池11の劣化量を算出することができる。また、劣化状態判別部51は、電圧監視IC20によって検出される単電池11の電圧が予め決められた任意の電圧でない場合、任意の電圧まで単電池11を充放電させることができる。劣化状態判別部51は、充放電制御後に任意の電圧になった際の圧力センサ21によって検出された内部圧力と既に取得済みの任意の電圧に対する初期状態の内部圧力とを用いて、図4のP−C関係データから単電池11の劣化量を算出することができる。
【0066】
この変形例では、処理手順(例えば、図7のステップS102)が簡略化されるとともに、記憶部52に図3に示した初期状態のV−P関係マップの全データを記憶させておく必要がないので記憶部52の記憶領域を小さくすることができる。
【0067】
このように本実施例の二次電池の劣化状態判別システムは、単電池11の内部圧力の変動に起因した容量劣化を算出するので、容量劣化を算出するために単電池11に特定条件で動作させることなく二次電池の容量劣化を算出することができる。
【0068】
このため、使用されている環境下であっても適切に容量劣化を判別することができるとともに、単電池11を特定条件で動作させる場合に比べて短時間で容量劣化を判別することができ、かつ劣化状態判別に伴う充放電によって単電池11が劣化することを抑制できる。特に、単電池11が車両に搭載されて使用されている環境下(充放電を頻繁に繰り返すような環境下の単電池11)であっても劣化状態判別に伴う充放電によって単電池11が劣化することを抑制しつつ、容量劣化を算出するために単電池11に特定条件で動作させることなく短時間で適切に容量劣化を判別することができる。
【0069】
なお、単電池11の内部圧力の変動(単電池11の充放電に伴う膨張・収縮)に起因して算出された劣化量と、実際に電流センサで検出される充放電電流の積算値から算出される測定劣化量とを比較し、算出値と測定値との間で相違が場合に、単電池11の内部圧力の変動に起因した容量劣化以外の要因(例えば、正電極体の構造変化)による容量劣化が生じているものと判別することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 組電池(電源装置)
11 単電池(二次電池)
12 外装部材
13 発電要素
14 正極端子
15 負極端子
16 仕切り部材
20 電圧監視IC(電圧センサ)
21 圧力センサ
31,32 リレー装置
40 負荷
50 コントローラ
51 劣化状態判別部
52 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の劣化状態判別システムであって、
前記二次電池の電圧を検出する電圧センサと、
前記二次電池の内部圧力を検出する圧力センサと、
所定の基準状態における前記二次電池の電圧と内部圧力の第1関係データ及び前記二次電池の内部圧力と電池容量の第2関係データを用い、前記電圧センサによって検出された電圧値に対応する前記所定の基準状態の内部圧力と前記圧力センサによって検出された内部圧力との間の圧力変動に応じた前記二次電池の容量劣化を算出する制御装置と、
を有することを特徴とする劣化状態判別システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1関係データに基づいて、前記電圧センサで検出された電圧値に対応する前記所定の基準状態の第1圧力値を算出するとともに、前記第2関係データに基づいて、前記第1圧力値に対応する第1電池容量と前記圧力センサによって検出された第2圧力値に対応する第2電池容量とを算出し、前記第1電池容量と前記第2電池容量から前記容量劣化を算出することを特徴とする請求項1に記載の劣化状態判別システム。
【請求項3】
前記内部圧力は、前記二次電池を構成する電池要素の負極素子のみの圧力又は前記発電要素の負極素子及び正極素子それぞれの圧力を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の劣化状態判別システム。
【請求項4】
前記制御装置は、所定の基準電圧と前記第1関係データに基づく前記基準電圧に対応する基準内部圧力とを予め設定しておき、前記電圧センサによって検出される前記二次電池の電圧が前記基準電圧でない場合に前記基準電圧まで前記二次電池を充放電させ、前記基準電圧になった際の前記圧力センサによって検出された内部圧力と前記基準内部圧力との間の圧力変動に応じて前記容量劣化を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の劣化状態判別システム。
【請求項5】
前記圧力センサは、前記二次電池を構成する電池要素を覆う外装部材の外周又は前記電池要素と前記外装部材との間に設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の劣化状態判別システム。
【請求項6】
前記二次電池は、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の劣化状態判別システム。
【請求項7】
二次電池の劣化状態判別方法であって、
前記二次電池の電圧を検出するステップと、
前記二次電池の内部圧力を検出するステップと、
所定の基準状態における前記二次電池の電圧と内部圧力の関係データ及び前記二次電池の内部圧力と電池容量の関係データを用い、前記電圧センサによって検出された電圧値に対応する前記所定の基準状態の内部圧力と前記圧力センサによって検出された内部圧力との間の圧力変動に応じた前記二次電池の容量劣化を算出するステップと、
を含むことを特徴とする劣化状態判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−92398(P2013−92398A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233089(P2011−233089)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】