説明

二次電池用負極組成物

【課題】従来の蓄電池と同程度のコストの原材料を特に二次電池の負極版に用いることにより、活物質の利用率を向上させ高エネルギー密度が得られる蓄電池すなわち二次電池を提供する。
【解決手段】金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを該活物質原料1モルに対し全吸油量が1.7ミリリットル以上となる量を含有する混練物で、この混練物は、前記カーボンを水とポリビニルアルコール水溶液とで混練して生成された一次混練物と、前記活物質原料とを混練して生成された混練物であり、この混練を負極に使用することで、活物質の利用率を向上させ高エネルギー密度が得られる蓄電池を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー密度でありかつ安価なコストで製造できる二次電池用負極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の二次電池が知られており、例えば、安価なものとしては鉛蓄電池があり、高エネルギー密度のものとしてはリチウムイオン電池がある。いうまでもなく、安価であることと高エネルギー密度であることを兼ね備えた二次電池が理想的である。特に、蓄電池による発進駆動を行うハイブリッド自動車や電気自動車のような用途では、安価で高エネルギー密度の蓄電池に対する要望が大きい。蓄電池の価格は、その材料コストに最も大きく依存する。例えば、ハイブリッド自動車では、高価なニッケル水素蓄電池が使用されているが、ニッケル水素蓄電池の正極に使われるニッケルや負極に使用される貴金属は非常に高価な材料である。また、リチウムイオン電池も高価な材料を用いることを余儀なくされている。
【0003】
一方、従来の鉛蓄電池は、鉛を酸化した鉛粉と言われる活物質原料に希硫酸を添加してペースト状態とし、このペーストを格子状の集電体に充填する製造方法が一般的である。その後、これを化成することで、正極は二酸化鉛、負極は海綿状鉛と言われる活物質を含むものとなる。これらの活物質は電池が放電されると硫酸鉛(放電活物質)へと変化する。放電活物質への変化に伴い体積が増加するために活物質における多孔質構造の孔が小さくなり、電解液の活物質への拡散が困難となる。
【0004】
また、電気的絶縁物である硫酸鉛へ変化することで電気抵抗が増大する。一般的には、硫酸鉛が70%を越えると電気抵抗は急激に増加する。従って、活物質を70%以上放電させること、つまり活物質の利用率を70%以上とすることは、理論的に不可能とされてきた。実際には、放電電流の大きさにも影響されるので、低率放電の利用率は一般的には40%程度、高率放電の利用率は20%程度が現状である。
【0005】
活物質の利用率を上げるためには、組成物の嵩密度、すなわち、多孔度を上げることが必要条件であるが、背反事項として充放電サイクル寿命が激減することが従来から知られており、多孔度を上げ活物質の利用率を向上させるということは、至難の技とされ、未解決のままである。
【0006】
鉛蓄電池は、原料が安価である点では好ましいが、活物質の利用率が低いために鉛の使用量を増やさざるを得ず、その結果、ただでさえ密度の大きい鉛の重量がさらに増えてエネルギー密度の低下を招いている。現状の鉛蓄電池のエネルギー密度では、ハイブリッド車や電気自動車には不十分であり使用できない。
【0007】
特許文献1では、鉛蓄電池の長寿命化を目的とし、鉛粉と、鉛粉に対して13重量%の希硫酸と、鉛粉に対して12重量%の水に、負極添加剤として、鉛粉に対して0.1〜0.3重量%のDBP吸油量100〜300ml/100gの非晶質炭素及び/又は鉛粉に対して0.4〜0.6重量%のリグニンスルホン酸ナトリウムを添加、混練して作製した負極ペーストを開示する。
【特許文献1】特開2002−63905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
安価であることと高エネルギー密度であることを兼ね備えた二次電池が要望されているが、従来これらは背反的関係にある概念とされており、未だ実現されていない。特許文献1は、鉛蓄電池の長寿命化を目的としている。従って、特許文献1の技術では、活物質の利用率の改善はなく、高エネルギー密度を得られる70%を超える活物質の利用率は実現されない。
【0009】
上記の通り、鉛蓄電池のエネルギー密度が低い主要な原因は、放電において活物質の電気抵抗が増大するために利用率を70%以上とすることができないことである。加えて、大電流で放電する使用形態では利用率はさらに低下する。また、活物質の利用率と寿命は背反的関係にあるとされている。つまり、利用率を上げると、充放電サイクル寿命が低下するという致命的な問題も存在する。
【0010】
一方、リチウムイオン電池のコストが高いのはその必須材料に起因するため、コスト低減は困難である。
【0011】
以上により、本発明は、鉛蓄電池と同程度のコストの原材料を用いて、高エネルギー密度が得られる蓄電池すなわち二次電池を提供することを目的とする。より具体的には、二次電池の負極板について低コストの原材料により活物質の利用率を向上させた二次電池用負極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は以下の構成を提供する。
請求項1に係る二次電池用負極組成物は、金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを該活物質原料1モルに対し全吸油量が1.7ミリリットル以上となる量を含有する混練物であることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る二次電池用負極組成物は、金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを該活物質原料に対して3.5×10−1質量パーセント以上含有する混練物であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る二次電池用負極組成物は、金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを含有する混練物が乾燥され未化成状態における嵩密度が2.2×10−1ミリリットル/グラム以上となる量の該カーボンを含有することを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る二次電池用負極組成物は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記カーボンはアセチレンブラックであることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る二次電池用負極組成物は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記混練物は、前記カーボンを水とポリビニルアルコール水溶液とで混練して生成された一次混練物と、前記活物質原料とを混練して生成された混練物であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る二次電池用負極組成物は、請求項5において、前記ポリビニルアルコール水溶液は、溶解温度40℃及び溶解時間30分の条件下での水に対する溶解量が略1質量パーセント以下であるポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものであることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る二次電池用負極組成物は、請求項5において、前記ポリビニルアルコール水溶液は、鹸化度98モル%以上でかつ重合度1.7×10以上のポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、二次電池用負極組成物により利用率を向上させるために、電解液(希硫酸)と活物質とが十分に接触でき、電気抵抗の増大を招来しない構成を実現した。具体的には、負極板において導電性ネットワークを形成し、そのネットワークが電解液を担持するための無数の孔を有することで、負極板の嵩密度を高める。つまり、多孔度を向上させることで、負極板内に存在する電解液の量を増加させるとともに、負極板外からの電解液の浸透拡散を容易にすることで、活物質に対して電解液が十分に供給できるように構成した。具体的には、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを活物質原料に含有させることが好適である。カーボン含有量は、該活物質原料1モルに対し全吸油量が1.7ミリリットル以上となる量とする。
【0020】
負極板では、粒子連鎖構造物質であるカーボンを含有させることにより導電性ネットワークを形成することができる。粒子連鎖構造物質とは、複数の粒子状物質が互いに融着し全体として鎖状に延びた状態の物質をいう。このようなカーボンは連鎖状に連なる粒子における個々の粒子が粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンが好適である。カーボン含有量は、該活物質原料に対して3.5×10−1質量パーセント以上とする。
【0021】
上記のような微細粒子径のカーボンにより形成された導電性ネットワークに活物質原料である鉛粉が均一に分散し、導電性ネットワークと共存して配置される。粒子連鎖構造物質であるカーボンは互いに縦横に絡み合うことでネットワーク状になると同時に、粒子径が小さいほど導電性ネットワークはより発達し、かつ、無数の孔を形成して多孔質構造となる。これらの孔は、十分な量の電解液を保有することができる。加えて、カーボンにより良好な導電性を維持できる。放電持には、これらの孔に保有された希硫酸が、分散した活物質原料へ持続的に供給されることになる。この結果、導電性ネットワークは、放電終了時直前の電気抵抗の急激な増大を防止できる。
また、このような微細粒子径のカーボンにより形成された導電性ネットワークに活物質原料である鉛粉が均一に分散し、鉛蓄電池の負極として使用すると電池の容量の増大となる。
【0022】
また、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを含有する混練物が乾燥され未化成状態における嵩密度が2.2×10−1ミリリットル/グラム以上となる量のカーボンを含有することで十分な量の電解液を保有することができる。
【0023】
さらに、カーボンを水とポリビニルアルコール水溶液とで混練して生成された一次混練物と、前記活物質原料とを混練して生成された混練物は、カーボンがより均一に分散し、導電性ネットワークの形成を助長し、この混練物を使用した負極の活物質利用率が大幅に向上する。
【0024】
また、ポリビニルアルコールは、カーボンの導電性を確保しながら混練物の分散剤として効果を発揮するとともに、負極ペーストの極板への付着性も向上させることができる。
ポリビニルアルコール水溶液は、溶解温度40℃及び溶解時間30分の条件下での水に対する溶解量が1質量パーセント以下であるポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものが好適である。
【0025】
また、ポリビニルアルコール水溶液は、鹸化度98モル%以上でかつ重合度1.7×10以上のポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものが好適である。
【0026】
鉛粉を低減できることにより蓄電池のコストをさらに低減でき、エネルギー密度を大幅に向上できる。この結果、同じ電池容量において従来の蓄電池より軽量化が可能となる。これらにより、ハイブリッド自動車用蓄電池及び電気自動車用として極めて好適なものとなる。活物質利用率の大幅な向上は、過去百年近くに亘り不可能とされてきたが、本発明によりそれが始めて可能となった。その工業的価値は極めて高いと云える。
【0027】
また、本発明の負極組成物を使用することにより、従来は不可能とされていた充放電サイクル寿命を格段に向上させた鉛蓄電池を製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
先ず、本発明の実施形態の概要を説明する。詳細については、以下の各実施例にて説明する。
本発明による二次電池用負極組成物(「負極組成物」または「組成物」と略称する)は、実質的には鉛蓄電池を対象とする。負極組成物は、活物質原料を主要成分としその他の必要な成分を添加してペースト状の混練物としたものである。この混練物を格子状集電体である負極板に充填及び熟成・乾燥し(未化成状態)、その後この負極板を蓄電池に組み込み、化成工程を行うことにより鉛蓄電池として完成する。
【0029】
負極組成物である混練物は、金属及びその金属の酸化物を含む活物質原料と、カーボンとを含有する。活物質原料は鉛粉とする。そして、カーボンは、活物質原料1モルに対し全吸油量が1.7ml以上となる量とする。「全吸油量」とは、組成物中に含まれるカーボンと活物質原料の相対的含有量の関係において、活物質原料1モル当たりに対するカーボン含有量におけるカーボンのもつ吸油量全体であり(後述する計算式で詳細を示す)、カーボン特性の指標であるDBP吸油量とは異なる値である。混練用の媒体としては、水である。
【0030】
本発明の負極組成物の多孔度の目安としては、格子状集電体に充填され乾燥された後の未化成状態にて、その嵩密度が2.2×10−1ml/g以上である。
【0031】
さらに、上記の組成物に対しポリビニルアルコール(PVA)を含有させることが好適である。ポリビニルアルコールは、カーボン等の分散性向上を目的として添加するが、混練物を格子状集電体に充填したときにその付着強度を高めることにも寄与する。
【0032】
本発明による負極組成物は、次の製造工程(具体的には、混練物の作製工程)によって生成されたものである。第1の混練工程では、カーボンをポリビニルアルコール水溶液と水とともに混練し、第1の混練物を生成する。次に、第2の混練工程では、第1の混練物に対し活物質原料、その他添加物を加えてさらに混練し、第2の混練物を生成する。得られた第2の混練物が、上記の負極組成物である。従来の負極組成物では、このような2工程での混練は行っていなかった。本発明では、2工程の混練工程を経ることによって好適な嵩密度、吸油量及び利用率をもつ負極組成物を得ることができた。
【0033】
本発明による負極活物質の利用率は、格子状集電体を用いた場合、0.06A放電約40時間率放電(低率放電)では70%以上、6A放電約10分間率放電(高率放電)では40%以上であった。低率放電及び高率放電におけるどの放電率においても、従来の鉛蓄電池に比べて利用率が格段に向上した。集電体としては、従来通りの格子を用いることが可能であり、あるいは、鉛シートのようなシート状物に混練物を塗布することも可能である。格子状集電体に充填する場合は、ある程度の粘性が必要なので、混練媒体である水の量をその他の成分に対して少なく設定してペースト状の混練物とする。一方、シートに塗布する場合は、水の量を多くして粘性を低くしスラリー状の混練物とする。極板に適用する前の混練物がペーストであってもスラリーであっても、本発明の効果は同様に得られる。
【0034】
格子状集電体にペーストを充填した極板は、基本的には、従来の鉛蓄電池の全用途に用いることができ、しかも同じ電池容量においてより軽量とすることができる。シート状にした極板を用いた鉛蓄電池は、円筒形状の電池を形成できる。その場合、極板をスパイラルに巻くことにより高率放電に優れ、耐振動性の強い電池となる。これは、特にハイブリッド自動車用、電気自動車用として適している。ハイブリッド自動車では、現在、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池が使用されあるいは検討されているが、いずれもコストが高いという問題があった。本発明による鉛蓄電池は、それらより格段に低コストであるため実用化に適している。
【0035】
以上のように、本発明による負極組成物を用いた鉛蓄電池は、大電流による放電が可能なこと、長寿命であること、活物質利用率が高いこと、低コストであることに加えて、リチウムイオン電池やニッケル・水素電池に比べて充放電の管理が簡易である。その最適な用途は、自動車用途におけるエンジンと蓄電池のハイブリッド的な使い方である。この用途では、自動車の制動時の回生電力を蓄電池へ充電し、発進時には蓄電池から電力を取り出すことで、ガソリンの消費を節減する。自動車企業では、省エネルギーや排ガス減少により環境的に好ましいことから、現在及び将来的にハイブリッド自動車に注力しており、本発明の産業上の利用性は極めて高いといえる。
【0036】
また、一般的な蓄電池はフロート充電使用されることも多い。これは、停電発生の非常時に蓄電池から負荷へ給電するシステムであり、一般的には10分間率程度で放電されるケースが多い。このような蓄電池として従来の鉛蓄電池と用いると、短時間放電すなわち大電流放電となるので、元々高くない活物質利用率がさらに低下する。従って、大きな定格容量の鉛蓄電池を用意しなければならず、大きくかつ重いものとなる。本発明の負極組成物を用いた鉛蓄電池は、活物質利用率が従来の鉛蓄電池の約2倍以上と高く、かつ大電流による放電が可能で、軽量とすることができる。
【0037】
本発明による二次電池用負極組成物は、実質的には鉛蓄電池を対象とする。負極組成物は、活物質原料である鉛粉を主要成分としその他の必要な成分を添加してペースト状の混練物としたものであり、さらにこれを極板に充填し熟成・乾燥したものを含む。
このペースト状の混練物を格子状集電体に充填し、熟成及び乾燥し(未化成状態)、その後この負極板を蓄電池ケースに組み込み、化成工程を行うことにより活物質原料が活物質となり、鉛蓄電池として完成する。従って、本出願の特許請求の範囲及び明細書における「活物質原料」は、未化成状態のものを指す。そして、「活物質原料」とは、化成されて目的物である活物質となる原料をいう。
また、上記のとおりペーストは負極組成物であるが、負極組成物であるペーストが格子集電体(格子極板)に充填され乾燥されたもの、さらには化成されたものも総称して負極組成物若しくは組成物と言い又は負極板若しくは極板という場合がある。すなわち、負極板、極板は格子自体を意味する場合と負極組成物が充填されたものを意味する場合がある。
【0038】
以下、格子状集電体を用いた負極板に適用した場合における本発明の各実施例を説明する。
【実施例1】
【0039】
実施例1では、表1における負極組成物によりペーストNo.1〜11を調製し、該ペーストを充填した負極板により後述する各種の試験を行なった。

<試料の調製>
表1は、試験に供した負極組成物の成分組成を示す一覧である。
表1における組成物において、カーボンであるアセチレンブラック−1とアセチレンブラック−2は選択的に配合するものとして、両方同時には使用しない。
表1における鉛粉、PVA−124水溶液(濃度6%)、リグニン、BaSO(硫酸バリウム)及び水に対しアセチレンブラック−1又はアセチレンブラック−2が配合される。
したがって、各種試験結果は、アセチレンブラック−1を使用したものとアセチレンブラック−2を使用したものとの2種類となる。これらが、本発明のペーストNo.3〜11である。
ペーストNo.1は従来技術によるものであり比較例とする。
ペーストNo.2はカーボン(アセチレンブラック−1又はアセチレンブラック−2)を使用しない。したがって、PVA−124水溶液(濃度6%)を使用しない。また、従来技術における硫酸を配合しない比較例である。
ここで、PVA−124水溶液(濃度6%)の濃度6%とは、水94gに対し6gのPVA−124粉末を溶解させたものを意味する。PVA水溶液の製造方法は実施例4で説明する。なお、PVAとは、ポリビニルアルコールの略称であり、番号は品番を示す。
【0040】
ペーストとは、表1の成分で構成される組成物を混練した後の、乾燥前のペースト状態の混練物を意味する。ただし、負極組成物の嵩密度を測定する場合は、極板に充填し、熟成・乾燥を行なう。活物質利用率を測定する場合は、さらに化成を行なう。
【0041】
表1において、鉛粉の量を一定とし、カーボン量を変化させる。カーボン量の変化に伴い、PVA−124水溶液量及び水の量を変化させる。
【0042】
鉛粉は、活物質の主要成分であり、鉛の酸化度は約75〜80%である。
カーボンについて、アセチレンブラック−1は、DBP吸油量220ml/100g、アセチレンブラック−2は、DBP吸油量160ml/100g(いずれも電気化学工業製)のものを使用した。ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製)は、PVA−124であり鹸化度98モル%〜99モル%、重合度2400のものを用いた。
【0043】
図8に、アセチレンブラック−1及びアセチレンブラック−2のカーボン粒子の累積粒度分布を示す。AB−1はアセチレンブラック−1、AB−2は、アセチレンブラック−2の累積曲線である。
この曲線は、粒子径が最小のものから粒子径の頻度の累積を開始し、最大粒子径の粒子径の頻度を累積して終了し、すべて累積して100%となる。
アセチレンブラック−1は、粒子径略20ナノメートル以下の粒子が略50%存在する。
アセチレンブラック−2は、粒子径略28ナノメートル以下の粒子が略50%存在する。
後に示す図3及び図4において、粒子径の小さいものが多く分布するアセチレンブラック−1の方が、活物質利用率が高い。
【表1】

【0044】
実施例1では、表1の組成物から成るペーストを作製し、(1)鉛粉充填量(g)、(2)嵩密度(ml/g)及び(3)活物質利用率(%)を測定し、これらの関係を明らかにする。
【0045】
<負極板の製造方法>
表1におけるペーストNo.3〜11は、カーボン、PVA−124水溶液及び水を混合し30分間混練し、その後、この混練物に鉛粉を混合し、さらにリグニン及び硫酸バリウム(BaSO)を添加し、さらに混練を30分間行った。
【0046】
比較例として作製したペーストNo.1は、鉛粉、リグニン、硫酸バリウム、水及び硫酸を表1の量にて混合し単純に混練したものであり、ペーストNo.2は、鉛粉、リグニン、硫酸バリウム及び水を表1の量にて混合し単純に混練したものである。
【0047】
このようにして作製したペーストを厚さ2mmの格子状集電体に充填し、その後、湿度98%、温度45℃で24時間熟成し、その後、60℃で24時間乾燥して、厚さ2.2mmの負極板を形成した。
【0048】
次に、この負極板1枚の両側に微細ガラス繊維セパレータを当接し、さらにその外側に1枚づつ正極板を当接した。このような構成とすることで、活物質の理論容量は、正極が大過剰となるため、目的とする負極活物質の利用率を評価できる。これらの極板群を電槽に挿入し、電槽と極板群の隙間にはABS樹脂製スペーサを装填した。電槽に比重1.223の希硫酸を注入して、正極理論容量の300%の電気量を流して、化成をおこなった。化成後の電解液の比重は1.320とした。
【0049】
その後、上記の電槽に挿入した極板群について容量試験を行った。容量試験は、0.06A(アンペア)と6Aの2種類とした。0.06Aは約40時間率の低率放電であり、6Aは約10分間率の高率放電である。それぞれの放電終止電圧はセル当たり、1.7V(ボルト)と1.2Vとした。温度は25℃である。
【0050】
<試験結果>
(1)鉛粉充填量について
表2に鉛粉充填量の測定結果を示す(同一調製ペーストを4サンプル)。図1は表2をグラフ化したものである。従来技術であるペーストNo.1の鉛粉充填量は表2の最右欄に示す。
なお、鉛粉充填量とは、上記のように調製されたペーストを負極板である格子に充填し、熟成・乾燥した状態の負極板に充填された鉛粉の質量(g)を言う。
負極板である格子に充填されたペーストには当然表1の成分が含まれるが、質量比が比較的多い水分は乾燥されるので含まれず、質量のほとんどが鉛粉である。
鉛粉充填量を測定する目的は、従来技術では極板に充填される組成物はほとんどが鉛粉であるのに対し、本発明では、負極組成物に嵩高いカーボンを含有させることによって減少する鉛粉の充填量をみるためである。
すなわち、カーボン自体の質量(g)は小さいが、嵩高いため負極組成物の体積が増加し、格子に充填される鉛粉量が減少するからである。
【0051】
【表2】

【0052】
図1において、カーボン量が0gで●印のプロットは従来技術であるペーストNo.1の比較例データ、同じくカーボン量が0gで◆印のプロットはペーストNo.2の比較例データである。
本発明のペーストNo.3〜11は、カーボン量が0gでなく、◆印及び黒色の四角印のプロットである。
◆印のプロットは、アセチレンブラック−1(AB−1)、黒色の四角印プロットは、アセチレンブラック−2(AB−2)である。
【0053】
本発明であるペーストNo.3〜11の鉛粉充填量は、比較例のペーストNo.1及び2より鉛粉充填量が少なく、さらに、カーボン量が増加するに従い、鉛粉の充填量が減少している。
(1)最もカーボン量が多い(8.6g)本発明のペーストNo.7は、従来技術のペーストの鉛粉充填量の約45%
(2)最もカーボン量が少ない(0.7g)本発明のペーストNo.3は、従来技術のペーストの鉛粉充填量の約95%
(3)その次にカーボン量が少ない(1.4g)ペーストNo.4においては、従来技術のペーストの鉛粉充填量の約87%
【0054】
本発明のペーストにおいて鉛粉充填量が減少した原因は、カーボンが嵩高く、鉛粉の質量に比較し少ない質量のカーボン量であってもペーストの体積が大幅に増加したためである。
【0055】
(2)嵩密度について
表3に嵩密度の測定結果を示す。図2は表3をグラフ化したものである。従来技術の嵩密度は表3の最右欄に示す。
嵩密度とは、質量密度の逆数であり、単位は「ml/g」で表され、同一質量(g)で体積(ml)を比較する場合使用される。
嵩密度を測定する目的は、従来技術では極板に充填される組成物はほとんどが鉛粉であるのに対し、本発明では、負極組成物に嵩高いカーボンを含有させることによって、多孔度が高まる様子をみるためである。
すなわち、多孔度が大きいほど活物質(鉛)の近傍に硫酸を多く蓄え、放電特性が良好となる。
【0056】
【表3】

【0057】
図2において、カーボン量が0gで●印のプロットは従来技術であるペーストNo.1の比較例データ、同じくカーボン量が0gで◆印のプロットはペーストNo.2の比較例データである。
本発明のペーストNo.3〜11は、カーボン量が0gでなく、◆印及び黒色の四角印のプロットである。
◆印のプロットは、アセチレンブラック−1(AB−1)、黒色の四角印プロットは、アセチレンブラック−2(AB−2)である。
【0058】
本発明のペーストNo.3〜11は、比較例のペーストより嵩密度が高く、さらに、カーボン量が増加するに従い、嵩密度が高くなっている。
(1)最もカーボン量が多い(8.6g)本発明のペーストNo.7は、従来技術のペーストの嵩密度の約160%
(2)最もカーボン量が少ない(0.7g)本発明のペーストNo.3は、従来技術のペーストの嵩密度の約110%
(3)その次にカーボン量が少ない(1.4g)本発明のペーストNo.4は、従来技術のペーストの嵩密度の約130%
なお、嵩密度の測定方法は、後述する。
【0059】
(3)活物質利用率について
表4及び表5に活物質利用率の測定・計算結果を示す。図3は表4を、図4は表5をグラフ化したものである。従来技術のペーストNo.1の活物質利用率は表4、表5の最右欄に示す。
表4は低率放電0.06A、表5は高率放電6Aである。
活物質利用率は、如何に少ない活物質で蓄電池の容量を確保できるかをみる重要な指標で、特に鉛蓄電池においては、活物質原料が鉛であるため、鉛蓄電池の軽量化を図るうえで最重要課題である。
【0060】
【表4】


【表5】

【0061】
図3及び図4において、カーボン量が0gで●印のプロットは従来技術であるペーストNo.1の比較例データ、同じくカーボン量が0gで◆印のプロットはペーストNo.2の比較例データである。
本発明のペーストNo.3〜11は、カーボン量が0gでなく、◆印及び黒色の四角印のプロットである。
◆印のプロットは、アセチレンブラック−1(◆:AB−1)、黒色の四角印プロットは、アセチレンブラック−2(AB−2)である。
【0062】
本発明のペーストNo.3〜11は、比較例のペーストより活物質利用率が高く、さらに、カーボン量が増加するに従い、活物質利用率がいっそう高くなっている。以下、利用率を比較する。
(A)低率放電である0.06Aにおいて
(1)最もカーボン量が多い(8.6g)本発明のペーストNo.7は、従来技術のペーストの活物質利用率の約154%
(2)最もカーボン量が少ない(0.7g)本発明のペーストNo.3は、従来技術のペーストの活物質利用率の約110%
(3)その次にカーボン量が少ない(1.4g)本発明のペーストNo.4は、従来技術のペーストの活物質利用率の約124%
(B)高率放電である6Aにおいて
(1)最もカーボン量が多い(8.6g)本発明のペーストNo.7は、従来技術のペーストの活物質利用率の約250%
(2)最もカーボン量が少ない(0.7g)本発明のペーストNo.3は、従来技術のペーストの活物質利用率の約120%
(3)その次にカーボン量が少ない(1.4g)本発明のペーストNo.4は、従来技術のペーストの活物質利用率の約150%
【0063】
<利用率について>
前述したように、原料である鉛粉は主体が酸化鉛であるが、酸化されていない金属状態の鉛も含む。酸化鉛が電解液の硫酸と反応して、化成により活物質である鉛に変化する。このようにしてできた鉛が活物質とみなされている。すると、元来含まれていた金属鉛を活物質とみなすかどうかは議論の分かれるところである。ここでは、原料に元来含まれていた金属鉛も活物質となったとして、放電における活物質の利用率を計算した。
<利用率計算方法>
格子集電体に充填された鉛粉の重量をEとすると、
F=E×207/223×(1/3.866)
ここで、Fは鉛粉が化成によりすべて鉛に変化したと仮定した場合の容量、つまり理論容量であり、207は鉛の分子量、223は酸化鉛(PbO)の分子量であり、3.866は鉛がすべて放電して硫酸鉛に変化したと仮定した場合に、1アンペアーアワー(Ah)を放電するに必要な鉛量である。活物質の利用率(%)は、
活物質の利用率(%)=負極の放電容量(実測値)/F×100
として算出することができる。
本発明において化成後は全て鉛になるとして計算したが、実際には、鉛粉中に最初から存在した金属鉛が活物質として使用されるかどうかは不明であるので、前述した活物質の利用率を少なめに計算したこととなる。
すなわち、金属鉛の利用率への寄与が低い場合、本発明の活物質の利用率はこの実施例で示すものより更に高い値となる。
【0064】
本発明のペーストを使用した高率放電特性を示す表5及び図4を参照すると、アセチレンブラック−1(◆:AB−1)0.7gを使用したペーストNo.3の活物質利用率において、従来技術のペーストNo.1の活物質利用率の約120%である。すなわち、従来技術を約20%上回ることになる。
従来技術を使用する範疇で20%もの活物質利用率の向上は通常有り得ない。これは、従来技術を超越する発明によって為し得るものである。
【0065】
ここで、アセチレンブラック−1を含有した負極組成物において、活物質原料である鉛粉1モルに対し全吸油量がどれくらいであるか計算する。
使用した鉛粉200gは、酸化鉛150gと金属鉛50gからなるので、それぞれの分子量223と207より、酸化鉛は150/223=0.673(モル)、金属鉛は、50/207=0.242(モル)となる。つまり、鉛粉の全モル量は、0.673+0.242=0.915(モル)となる。
アセチレンブラック−1:0.7gの吸油量は、220ml/100g×0.7g=1.54mlとなる。
鉛粉0.915モルに対するカーボンの全吸油量が、1.54mlであるから、1モル当たりに換算した吸油量は、1.54(ml)/0.915(モル)=1.683(ml/モル)となる。上記の説明を計算式で表すと、以下のとおりである。(途中で四捨五入しないで、一挙に計算した場合)
220(ml/100g)×0.7(g)/(150(g)/223+50(g)/207)=1.685(ml/モル)
酸化鉛成分を80%とし、鉛成分を20%とした場合は、以下の式で示される。
220(ml/100g)×0.7(g)/(160(g)/223+40(g)/207)=1.691(ml/モル)
両者の平均値は、(1.685+1.691)/2=1.688
したがって、鉛粉1モルに対して、全吸油量が1.7ml以上となる量のアセチレンブラック−1を含有させることにより、本発明が従来技術を20%以上、上回ることになる。
【0066】
また、上記、アセチレンブラック−1が0.7gのときの嵩密度は、表3により、0.220ml/gであり、鉛粉200gに対するアセチレンブラック−1:0.7gは、0.7(g)/200(g)×100(%)=0.35(%)として、0.35質量%となる。
【0067】
上記(1)、(2)、(3)の試験結果について考察する。
負極組成物にカーボンを添加することにより、鉛粉充填量が減少するとともに、嵩密度が増す。嵩密度が増すことにより、活物質周辺に硫酸が豊富となり活物質利用率が向上する。すなわち、鉛粉を削減しつつ、活物質利用率の向上がある。鉛蓄電池の主要成分である鉛を削減しコストを低減させながら、電池性能を向上させることができる。
【0068】
嵩密度が小さい場合には、活物質が放電をするのに必要な電解液(希硫酸)を極板外からより多く供給する必要があるが、嵩密度が大きい場合は電解液を活物質の近傍から供給できるため、より放電しやすくなる。従って、図4及び図5に示す結果となったものである。利用率は、電池のエネルギー密度を向上させる上で、絶対に必要な項目である。また、利用率が高ければ、電池の活物質を少なくすることができるので、コスト低減の意義も大きい。
【0069】
<寿命試験結果>
充放電サイクルを繰り返すことによるサイクル寿命試験は、次の条件で行った。
(a)放電:7A
(b)放電終止電圧:1.5V/セル
(c)充電:2.45V、5時間
(d)電池極板構成:正極3枚、負極4枚
充電量は放電量に対して、概略105%であった。温度は25℃である。
サイクル寿命試験結果を表6に示す。
【0070】

【表6】

【0071】
本発明のペーストNo.3〜11は、充放電600サイクルを確認し、まだ寿命が尽きていない。
【0072】
従来技術のペーストNo.1は、400サイクルで寿命が尽きた。これは、負極組成物にカーボンを含有させたためであると考察する。
【実施例2】
【0073】
実施例2は、ポリビニルアルコールの種類により電池(負極板)の寿命の変化を試験したものである。
表7は、ポリビニルアルコールの種類と組成物の成分を一覧にしたものである。

【表7】

【0074】
ペーストは、従来技術のペーストNo.1、種類の異なるPVAとカーボンを配合したペーストNo.12〜15である。なお、カーボンはアセチレンブラック−2を使用した。
表7の成分において、PVA(g)は粉末のPVA自体の質量であり、組成物の調製においては、PVAを水に溶かし濃度約6%水溶液にしてから使用する。PVA水溶液の製造方法は実施例4において説明する。
なお、本実施例2における表7の組成物からペーストの製造、格子への充填、熟成・乾燥から化成に至るまでの電池としての製造方法は、実施例1と同一であり、重複する説明は省略する。
【0075】
<試験結果>
表8には、表7に対応するペーストによる負極板を使用した電池のサイクル寿命を示す。
【0076】
【表8】

【0077】
PVA−117、PVA−124は鹸化度が共に98モル%〜99モル%であり、重合度は、それぞれ1700、2400である。鹸化度が高く重合度が大きいほど難水溶性である。
サイクル寿命については、鹸化度が高いほど良い結果がでている。鹸化度が98モル%〜99モル%のPVA−117、PVA−124を使用したそれぞれペーストNo.12、13はサイクル寿命が600サイクル以上で寿命が尽きていないが、鹸化度が87モル%〜89モル%と低いPVA−217、PVA−224を使用したそれぞれペーストNo.14、15はサイクル寿命が300サイクルで寿命が尽きた。従来技術のペーストを使用したものより、サイクル寿命が劣化する。
【0078】
カーボンを分散するPVAは、難水溶性のPVAを用いることが好適である。
鹸化度の高いPVAは、分子中に酢酸基をほとんど含有しないため、難水溶性となる。逆に酢酸基を含有した鹸化度の低いPVAは水に溶け易く、該PVAに含まれる酢酸基は電池に悪影響を及ぼす。特に、電池の充放電時は電池極板の温度が上昇するので該PVAに含まれる酢酸基が速く多く電解液に溶け出し、電池の寿命を縮める。
【0079】
表8のサイクル寿命試験の結果でも、難水溶性のPVA−117とPVA−124を用いたものは、水溶性の高いPVA−217、PVA−214を用いたものに比べて、良好なサイクル寿命が得られ、水溶性の高いPVA−217、PVA−214を用いたものはサイクル寿命が短い。
なお、サイクル寿命試験の方法は、実施例1と同様であり、重複する説明を省略する。
【実施例3】
【0080】
実施例3では、PVA−124、PVA−117とアセチレンブラック−1、アセチレンブラック−2との4通りの組み合わせにより以下の試験を実施した。
ペーストは酸化鉛を主体とする鉛粉200gにアセチレンブラック、PVA、水およびリグニンや硫酸バリウム等により構成される。ここでは試験を単純化して、アセチレンブラックとPVAおよび水の3者の関係において、難溶な性質であるPVAを30分間で溶解するための水の温度を求めた。
実際のペーストの混練においてはカーボン量が変わることで、PVAは水に対して表9及び表10のPVA水溶液濃度(%)で使用されるので、PVAを溶解して、カーボン量に対する必要なPVA濃度の水溶液をつくるために、必要な水の温度を求めるための実験を行なった。
PVA−124を使用したものを表9に示し、PVA−117を使用したものを表10に示す。

【表9】


【表10】

【0081】
試験に供したポリビニルアルコール(いずれも株式会社クラレ製)は、粉体として市販されている。表8に示すように、それぞれ鹸化度と重合度の異なるものである。
PVA−117、PVA−124は、他の2種に比べて鹸化度が98モル%〜99モル%と高く、重合度はそれぞれ1700と2400である。
PVA−217とPVA−224は、鹸化度が87モル%〜89モル%と低く、重合度はそれぞれ1700と2400である。鹸化度が高い程、難水溶性である。
【0082】
図5は表9をグラフ化し、図6は表10をグラフ化したものである。
図5及び図6を参照して説明する。
横軸はカーボン(アセチレンブラック−1又はアセチレンブラック−2)量であり、負極組成物に必要なカーボン量から必要なポリビニルアルコール量を得る。また、カーボン量に応じて、必要な水の量が求められる。したがって、カーボン量を変数としたPVAと水の量が求められる。これにより、PVA濃度が決まる。
負極組成物の作製においては、カーボン量が多くなると混練に必要な水の割合が相対的少なくなる。
PVA量は、カーボン量に対して一定の割合で混合されるから、カーボン量が多くなると、水の量に対するPVA量は多くなり、PVA水溶液の濃度は高くなる。PVAの濃度が高くなると、これに応じて必要とする最低溶解温度が高くなる。これが横軸にカーボン量をとったことを意味するところである。
【0083】
図5及び図6に示す結果から、横軸のカーボン量が多くなると、PVAの溶解に必要な水の温度を上げなくてはならないことが分かる。従って、PVAを比較的短時間で水に溶解させてPVA水溶液にするには溶解させる水の温度を上げなくてはならない。
【実施例4】
【0084】
実施例4は、表11のペーストNo.16〜18に示されるようPVAの溶解温度を変えてPVA水溶液を製造した場合のPVA溶解結果と、このPVA水溶液を使用した場合の活物質利用率を試験したものである。
表11には、ペースト組成物の成分とPVAの溶解方法とこれに基づく溶解結果が示されている。
表11の成分において、PVAは粉末のPVA自体の質量であり、組成物の調製においては、PVAを水に溶かし濃度約6%水溶液にするため、水の質量とPVA質量の和に対してPVA質量を6%混合させてPVA水溶液を製造する。このため表11の水80.8gの一部は、PVA水溶液にも配分され、残りは、カーボンとPVA水溶液を混練する水に使用される。
なお、本実施例4における表11の組成物からペーストの製造、格子への充填、熟成・乾燥から化成に至るまでの電池としての製造方法は、実施例1と同一であり、重複する説明は省略する。また、活物質利用率を測定するための容量試験も実施例1と同一である。
表12は、表11により製造された負極板を電池にしたときの活物質利用率が示されている。
【0085】

【表11】


【表12】

【0086】
表11の成分におけるカーボンは、アセチレンブラック−1であり、ポリビニルアルコールは、PVA−124である。
表11のペーストNo.16は、水の質量とPVA質量の和に対してPVAの質量6%を分散させ、溶解温度90℃で5時間溶解させたもので完全に溶解し、ペーストNo.17は、同様に分散させ溶解温度50℃で5時間溶解させ約1/3の溶解、ペーストNo.18は、同様に分散させ溶解温度25℃で5時間溶解させたがほとんど溶解しなかったものである。
【0087】
図7は、表12をグラフ化したものであり、白抜きの各図形で示されるプロットマークは低率放電0.06A、黒塗りの各図形で示されるプロットマークは高率放電6Aで、それぞれ5サンプル(5種類の図形で示される。)存在する。
横軸は、PVA溶解温度(℃)であり3ポイント存在する。縦軸は活物質利用率(%)を示す。
溶解温度の高いものは、活物質利用率が高く、サンプル間のバラツキが小さいが、溶解温度の低いものは、活物質利用率が低く、サンプル間のバラツキが大きい。これらのバラツキは、高率放電において顕著である。
これらの原因は、水の温度が低いとPVAの溶解度が低くなり、カーボンをコーティングするPVA量が少なくなる。したがって、カーボンの分散状態が均一とならず、ある程度良好に分散するカーボンと、これに至らないカーボンが存在し、活物質利用率にバラツキが生じるためである。
【0088】
上記の結果から、PVAの溶解温度は、50℃を超える60℃以上の温度が好ましく、さらに好ましくは略90℃以上である。
【0089】
実施例2において、難水溶性のPVA−117とPVA−124をカーボンの分散剤として用いることの利点(長寿命)が判明したが、これらのPVAは常温の水では溶解し難い(同じ溶解濃度に達するのに時間がかかる)。従って、難水溶性のPVAを用いてPVA水溶液を作製するには、PVAを水に分散させてから加熱(50℃超、さらには90℃程度)して完全に溶解させ、その後、冷却(自然冷却で常温にする)したPVA水溶液を、負極組成物の作製に使用することが、効果的である。一旦、加熱して完全に溶解させた場合、冷却してもPVAは水溶した状態のままであり、また、このPVA水溶液は新たな水と混合しても、溶解が損なわれることはない。
実施例1で、この方法によりPVA水溶液、濃度6%を製造した。
【0090】
最後に、負極組成物の特性を示すために、未化性の極板について、嵩密度を測定した。嵩密度の測定方法を表13に示す。
未化成負極組成物の嵩密度は次式で算出される。
未化成負極組成物の嵩密度=未化成負極組成物の体積/未化成負極組成物の重量
=(D−B)/(C−A)
【0091】

【表13】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の負極板の鉛粉充填量の測定結果を示すグラフである。
【図2】本発明の負極板の嵩密度の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の負極板の活物質利用率の測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の負極板の活物質利用率の測定結果を示すグラフである。
【図5】カーボン量とPVA−124の溶解温度の関係を示すグラフである。
【図6】カーボン量とPVA−117の溶解温度の関係を示すグラフである。
【図7】PVA溶解方法と利用率の関係を示すグラフである。
【図8】アセチレンブラックの累積粒度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを該活物質原料1モルに対し全吸油量が1.7ミリリットル以上となる量を含有する混練物であることを特徴とする二次電池用負極組成物。
【請求項2】
金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを該活物質原料に対して3.5×10−1質量パーセント以上含有する混練物であることを特徴とする二次電池用負極組成物。
【請求項3】
金属酸化物を主体として成る活物質原料と、粒子径略20ナノメートル以下の粒子を略50%を含むカーボンを含有する混練物が乾燥され未化成状態における嵩密度が2.2×10−1ミリリットル/グラム以上となる量の該カーボンを含有することを特徴とする二次電池用負極組成物。
【請求項4】
前記カーボンはアセチレンブラックであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用負極組成物。
【請求項5】
前記混練物は、前記カーボンを水とポリビニルアルコール水溶液とで混練して生成された一次混練物と、前記活物質原料とを混練して生成された混練物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用負極組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール水溶液は、溶解温度40℃及び溶解時間30分の条件下での水に対する溶解量が1質量パーセント以下であるポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものであることを特徴とする請求項5に記載の二次電池用負極組成物。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール水溶液は、鹸化度98モル%以上でかつ重合度1.7×10以上のポリビニルアルコールを水に分散させ、略60℃以上に加熱して略完全に溶解させたものであることを特徴とする請求項5に記載の二次電池用負極組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−20932(P2010−20932A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178155(P2008−178155)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(501470544)エヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社 (29)
【Fターム(参考)】