説明

二次電池用電極、二次電池、及び二次電池用電極の製造方法

【課題】高出力で内部抵抗の低い二次電池を提供する
【解決手段】
本発明の二次電池用電極は、電極集電体15と、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と粒子状の導電助剤とを含み、電極集電体15の一方の主面上に形成された電極活物質層16と、を有する。そして、電極活物質層16における電極集電体側16bの密度が電極集電体側と反対側16aの密度に比べて大きいことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に有機ラジカル化合物を含む電極活物質を使用した二次電池用電極、二次電池、及び二次電池用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、ハイブリッド電気自動車などの市場拡大に伴い、小型で高容量、高出力の二次電池が求められている。
【0003】
そして、このような要求に応えるべく、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。特に、出力密度の大きなリチウムイオン二次電池は、現在では広く普及している。
【0004】
二次電池の構成要素のうち電極活物質は、充電反応、放電反応という電池電極反応に直接寄与する物質であり、二次電池の中心的役割を有する。すなわち、電池電極反応は、電解質中に配された電極と電気的に接続された電極活物質に電圧を印加することにより、電子の授受を伴って生じる反応であり、電池の充放電時に進行する。したがって、上述したように電極活物質は、二次電池の中心的役割を有する。
【0005】
そして、リチウムイオン二次電池では、正極の電極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物、負極の電極活物質として炭素材料を使用し、これらの電極活物質に対するリチウムイオンの挿入反応、及び脱離反応を利用して充放電を行っている。
【0006】
しかしながら、上述したリチウムイオン二次電池は、正極におけるリチウムイオンの移動が律速となるため、充放電の速度が制限されるという問題があった。すなわち、リチウムイオン二次電池では電解質や負極に比べて正極の遷移金属酸化物中でのリチウムイオンの移動速度が遅く、このため正極での電池反応速度が律速となって充放電速度が制限される。その結果、高出力化や充電時間の短時間化には限界があった。
【0007】
そこで、このような課題を解決すべく、近年、有機化合物を正極の電極活物質とする二次電池が提案されている。このような二次電池には有機ラジカル化合物を利用したものや有機硫黄化合物を利用したものがあり、研究開発が盛んにおこなわれている。
【0008】
有機ラジカル化合物は、電子軌道の最外殻に不対電子であるラジカルを有している。そして、このラジカルは一般には反応性に富んだ化学種であり、周囲の物質との相互作用によって、ある程度の寿命を持って消失するものが多い。しかしながら、共鳴効果や立体障害、溶媒和の状態によっては安定したものとなる。
【0009】
そして、ラジカルは反応速度が速いので、安定なラジカルの酸化還元反応を利用して充放電を行うことにより、充電時間を短時間で完了させることが可能となる。
【0010】
例えば特許文献1には、ニトロキシルラジカル化合物、オキシラジカル化合物、及び窒素原子にラジカルを有する窒素ラジカル化合物を使用した二次電池用の電極活物質が開示されている。この特許文献1では、ラジカルとして安定性の高いニトロキシルラジカルを使用した実施例が記載されている。特許文献1ではニトロキシルラジカル化合物を含む電極層を正極とし、リチウム貼り合わせ銅箔を負極として二次電池を作製し、繰り返し充放電したところ、10サイクル以上にわたって充放電可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−207249号公報
【発明の概要】
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、有機ラジカル化合物を電極活物質とする電極は、体積当たりの活物質含有量が小さい。したがって、容量密度や出力密度などは質量当たりでは大きくても、体積当たりになると大幅に低下するという問題点があった。これは電極活物質である有機ラジカル化合物自体が絶縁性であるため導電助剤を多量に含有させる必要があることと、有機ラジカル化合物の比重も遷移金属酸化物に比べて小さいことが主な理由である。
【0014】
ところで、リチウムイオン二次電池では塗工した電極を加圧する電極プレスが行われている。その結果、電極の比重が増加して容量密度が増大するばかりでなく、電極表面の平坦性が改善する効果や、導電助剤同士や導電助剤と集電体である電極箔との接触が改善して内部抵抗が低減するという効果が得られている。しかしながら、有機ラジカル電池ではこのような電極プレスは適用されていない。有機化合物の場合は固体としての機械的強度がコバルト酸リチウムのような無機の電極活物質に比べて小さい。特に高分子等の場合には変形を伴う圧密化が起こりやすいため、電解質を保持するための電極内の空隙が失われる。このような圧密化した電極では充放電反応の進行が制限され、容量出現率や出力密度の低下につながる。そのため、有機ラジカル電池に関しては、電極プレスの効果や、それによって得られた電池の性質の報告はなされていなかったと考えられる。
【0015】
以上述べたように電極プレスは容量密度や出力密度を改善する方法として期待されているが、通常の有機ラジカル電池では効果が得られていないというのが現状である。
【0016】
このような状況下において、本件発明者は、有機ラジカル化合物を電極活物質とする二次電池用電極において、特定の構成を選択することで、電極プレスが可能となり、高出力の二次電池用電極、及び電池が得られることを見出した。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、有機ラジカル化合物を電極活物質とする電極の電極プレスを可能とし、高出力で内部抵抗の低い二次電池用電極、二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る二次電池用電極は、電極集電体と、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と粒子状の導電助剤とを含み、前記電極集電体の一方の主面上に形成された電極活物質層と、を有する二次電池用電極であって、前記電極活物質層における電極集電体側の密度が前記電極集電体側と反対側の密度に比べて大きいことを特徴としている。
【0019】
本発明者は、電極活物質層に有機ラジカル化合物を含んでいる場合に、粒子状の導電助剤を選択することで、電極プレスを行い高出力で内部抵抗の低い二次電池が得られることを見出した。また、本発明では、電極活物質層における電極集電体側の密度が、電極集電体側と反対側の密度に比べて大きい。かかる場合には、電極集電体側にある電極活物質の量が多いため、内部抵抗が小さく、大電流で放電した場合にも電圧降下が小さな、高出力に適した電池となる。
【0020】
また、本発明では、前記電極活物質層における前記電極集電体側の密度が0.8g/cm3以上であることを特徴としている。
【0021】
かかる場合には、電極内部の密度との差が大きく、内部抵抗を低減する効果がより顕著である。
【0022】
また、本発明では、前記有機ラジカル化合物が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシラジカル構造を含む分子を含むことを特徴としている。
【0023】
かかる場合には、充放電反応が安定である二次電池用電極を提供することができる。
【0024】
また、本発明は、前記二次電池用電極からなる正極と、負極と、電解質と、を少なくとも備える二次電池にも向けられる。
【0025】
また、本発明に係る二次電池用電極の製造方法は、電極集電体を用意する工程と、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と、粒子状の導電助剤と、を含む電極活物質スラリーを作製する工程と、前記電極活物質スラリーを前記電極集電体の一方の主面に塗工して電極活物質層を形成する工程と、前記電極活物質層を120℃以上の温度でプレスする工程と、を備えることを特徴としている。
【0026】
かかる場合には、高出力の二次電池用電極が製造可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、電極活物質層における電極集電体側の密度が、電極集電体側と反対側の密度に比べて大きいことを特徴としている。かかる場合には、電極集電体側にある電極活物質の量が多いため、内部抵抗が小さく、大電流で放電した場合にも電圧降下が小さな、高出力に適した電池となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る電極の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る製造工程の一実施の形態を示す概略の断面図である。
【図3】本発明に係る二次電池としてのコイン型電池の一実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
【0030】
図1に、本発明に係る二次電池用電極の断面図を示す。本発明の二次電池用電極20は、電極集電体15と、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と粒子状の導電助剤とを含み、前記電極集電体の一方の主面上に形成された電極活物質層16と、を有する。そして、電極活物質層16における電極集電体側16bの密度が前記電極集電体側と反対側16aの密度に比べて大きいことを特徴としている。
【0031】
本発明において電極集電体は特に限定されないが、例えばAlが挙げられる。また、Al表面を改質したものや、Al−Mn合金等も含まれる。
【0032】
また、本発明において導電助剤は導電性を有する材料であれば特に限定されず、炭素材料を用いることが好ましい。例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子やフラーレン、金属粉末などが利用できる。
【0033】
また、プレスの点から粒子状の導電助剤が好ましい。このような粒子状の導電助剤としては、C60やC70などのフラーレン類、天然黒鉛もしくは人造黒鉛を含有する黒鉛系炭素質物、石炭系コークス、石油系コークス、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどの有機物の熱分解物などが挙げられる。
【0034】
また、本発明では導電助剤を2種類以上混合して用いることもできる。尚、導電助剤の電極中の含有率も特に限定されないが、10〜80質量%が望ましい。
【0035】
本発明において、粒子状の炭化水素とは繊維状炭化水素と対比されるもので、長辺の長さと短辺の長さの比、すなわちアスペクト比が概ね5以下の形状のものを言う。本発明者らの検討によれば、繊維状の炭化水素を導電助剤とする場合には電極プレスを行うとプレス温度に依らず、容量や出力が大幅に低下する。繊維状炭素は塗工表面に偏在化しやすく、さらに、電極プレスを行うと表面に電極活物質を含まない緻密な繊維状炭素の層が形成されるために、電解質の浸透が阻害されるためと考えられるが、詳細は不明である。
【0036】
また、本発明において電極の密度は特に限定されないが、発明の効果の点から電極集電体側の密度が0.8g/cm3以上であることが好ましい。一般に、有機ラジカル化合物とアセチレンブラックなどの導電助剤を含む電極の密度は、電極スラリーから塗工した場合や、乾燥粉末を加圧成型して作成した場合には、0.4〜0.6g/cm3である。したがって、電極集電体側の密度が0.8g/cm3以下では電極内部との密度の差が小さく、内部抵抗を低減する効果が得られない。
【0037】
また、本発明において有機ラジカル化合物のラジカル基は特に限定されない。例えば、ピペリジノキシラジカル基(a)、プロキシラジカル基(b)、ピロリノキシラジカル基(c)、ジ−tert−ブチルニトロキシラジカル基(d)、アザアダマンチルラジカル基(e)、トリメチルジアザアダマンチルラジカル基(f)、架橋脂環式化合物ニトロキシラジカル基(g)、芳香族ニトロキシラジカル基(h)〜(l)などが挙げられる。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
また、本発明において有機ラジカル化合物は特に限定されない。例えば、各種のニトロキシラジカル、窒素ラジカル、酸素ラジカル、チオアミニルラジカル、硫黄ラジカル、ホウ素ラジカル等が用いられるが、充放電反応が安定であることから特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシラジカル構造を含む分子からなる化合物が好ましい。このような、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシラジカル構造を含む分子としては、例えば[化5]〜[化10]で表わされる高分子化合物やこれらを繰り返し単位の一部とする共重合体などが挙げられる。
【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
本発明に係る二次電池用電極の製造方法は、電極集電体を用意する工程と、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と、粒子状の導電助剤と、を含む電極活物質スラリーを作製する工程と、前記電極活物質スラリーを前記電極集電体の一方の主面に塗工して電極活物質層を形成する工程と、前記電極活物質層を120℃以上の温度でプレスする工程と、を備えることを特徴としている。図2にその概略図を示す。
【0050】
まず、図2(a)に示すように、電極集電体15を用意する。
【0051】
次に、図示していないが、電極活物質を導電助剤、及び結合剤と共に混合し、有機溶剤、もしくは水を加えて電極活物質スラリーを作製する。
【0052】
次に、図2(b)に示すように、電極活物質スラリーを電極集電体の一方の主面に塗工して電極活物質層16を形成する。
【0053】
そして、図2(c)に示すように、電極活物質層16をプレス50でプレスする。図は二軸プレスの例である。本発明において、プレスの方法は特に限定されず、一軸プレスやロールプレス、あるいは静水圧を用いて加圧する方法などで行われ、一般には50MPa以上で効果が得られる。また、圧力が300MPaを超える場合には全体が押しつぶされて本発明の効果が得られないため、圧力は300MPa以下が望ましい。
【0054】
本発明者らの検討によれば、有機ラジカル化合物を含む電極活物質と粒子状の導電助剤と、を含む電極活物質スラリーを塗工した電極は、どの部分でも密度が0.4〜0.6g/cm3であるが、電極プレスを行うとプレス温度によって異なる構造が出現する。プレス温度が120℃以上では、電極活物質層の電極集電体側の密度が電極集電体側と反対側の密度に比べて大きくなる。逆に、120℃より低い温度では、電極集電体側の密度が電極集電体側と反対側の密度に比べて小さくなる。従って、120℃以上で電極プレスを行うことにより、電極集電体側の電極活物質の割合が大きくなり、内部抵抗を低減しやすい構造とすることができる。
【0055】
120℃よりも低い温度でプレスした場合には、電極活物質層の変位は表面ほど大きくなる。したがって、電極集電体側の密度が、電極集電体側と反対側(すなわちプレスされた表面)の密度に比べて小さくなると考えられる。
【0056】
一方、120℃以上の温度でプレスした場合には、電極活物質層も多少流動的になり、全体が一様にプレスされると考えられる。そして、プレス時の圧力を取り去る際に、プレスされた表面の変位が緩和される。したがって、電極集電体側の密度が、電極集電体側と反対側(すなわちプレスされた表面)の密度に比べて大きくなると考えられる。
【0057】
本発明ではプレス温度の上限は特に限定されないが、好ましくは170℃以下の温度で行われる。170℃より高い温度の場合には、結合剤の融点に近づき、電極プレスを行っても、結合剤がうまく機能しないと考えられるためである。
【0058】
本発明において電極の密度は、電極集電体と、電極集電体上に形成した電極活物質層の質量と、面積および厚さから求めた体積から全体の値が求められる。また、電極集電体側の密度は、例えば塗工した電極を表面から所定の深さまで切削加工し、残った電極の質量と体積から求めることができる。本発明において、電極集電体側と電極集電体側と反対側とは、電極の厚さの中心の位置で分けている。
【0059】
一方、電極集電体側と反対側の密度は全体の密度と先に求めた電極集電体側の密度と体積の割合から求めることができる。また、電極断面を走査型電子顕微鏡などで観察し、空隙率などから便宜的に求めることもできる。
【0060】
次に、二次電池用電極を使用した二次電池について記述する。
【0061】
図3は、本発明に係る二次電池の一実施の形態としてのコイン型二次電池を示す断面図である。本実施の形態では、本発明の二次電池用電極を正極として使用している。
【0062】
電池缶1は、正極ケース2と負極ケース3とを有し、該正極ケース2及び負極ケース3は、いずれも円盤状の薄板形状に形成されている。そして、正極ケース2の底部中央には、正極の電極集電体に形成された電極集電体側の密度が電極集電体と反対側の密度に比べて大きい電極活物質層を有する正極4が配されている。そして、正極4上には微多孔膜、織布、不織布などの多孔性のシートまたはフィルムで形成されたセパレータ5が積層され、さらにセパレータ5には負極6が積層されている。負極6としては、例えば、銅箔にリチウムの金属箔を重ね合わせたものや、黒鉛やハードカーボン等のリチウム吸蔵材料を銅箔に塗布したものを使用することができる。負極6には金属からなる負極集電体7が積層されるとともに、該負極集電体7には金属製ばね8が載置されている。そして、電解質9が内部空間に充填されると共に、負極ケース3は金属製ばね8の付勢力に抗して正極ケース2に固着され、ガスケット10を介して封止されている。
【0063】
次に、上記二次電池の製造方法の一例を詳述する。
【0064】
まず、正極を形成する。例えば、電極活物質を導電助剤、及び結合剤と共に混合し、有機溶剤、もしくは水を加えて電極活物質スラリーとし、該電極活物質スラリーを電極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより正極を形成する。
【0065】
本発明において結合剤は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の各種樹脂を使用することができる。
【0066】
また、有機溶剤についても、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒等を使用することができる。また、有機溶剤の種類、有機化合物と有機溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量等は、二次電池の要求特性や生産性等を考慮し、任意に設定することができる。
【0067】
次いで、この正極4を電解質9に含浸させて該正極4に前記電解質9を染み込ませ、その後、正極ケース2の底部中央の正極集電体上に正極4を載置する。その後、電解質9を含浸させたセパレータ5を正極4上に積層し、さらに負極6及び負極集電体7を順次積層し、内部空間に電解質9を注入する。そして、負極集電体7上に金属製ばね8を載置すると共に、ガスケット10を周縁に配し、かしめ機等で負極ケース3を正極ケース2に固着して外装封止することでコイン型二次電池が作製される。
【0068】
尚、電解質9は、正極4と対向電極である負極6との間に介在して両電極間の荷電担体輸送を行う。このような電解質としては、室温で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導度を有するものを使用することができる。例えば、電解質塩を有機溶剤に溶解させた電解液を使用することができる。ここで、電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23C等を使用することができる。
【0069】
また、有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ一ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を使用することができる。
【0070】
また、電解質9には、固体電解質を使用してもよい。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリロニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等を挙げることができる。また、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを電解質9として使用してもよい。或いは電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま電解質9に使用してもよい。
【0071】
また、上記実施の形態では、コイン型二次電池について説明したが、電池形状は特に限定されるものでないのはいうまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフイルム等を使用してもよい。
【0072】
また、上記実施の形態では、電極活物質を正極に使用したが、負極に使用するのも有用である。
【0073】
また、上記実施の形態では、電極活物質を二次電池に使用した場合について述べたが、一次電池にも使用することが可能である。
【0074】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。尚、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
〔実験例1〕
電極活物質としてポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)600mg、導電助剤として平均粒径36nmの電気化学工業株式会社製デンカブラックプレス品300mg、および結合剤として株式会社クレハ製ポリフッ化ビニリデン(KF−1700)100mgにN−メチル−2−ピロリドンを加え、ホモミキサーを用いて室温で30分間撹拌した。30分後、得られた電極活物質スラリーを取り出し、コーターを用いて厚さ15μmのAl箔上に塗工して、120℃で乾燥させ、厚さ150μmのポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)を電極活物質とする電極を形成した。この厚さ及び質量から求めたこの電極の密度は0.58であった。
【0076】
次に、得られた電極を切り出し、圧力を変えながら125℃で30秒間二軸プレスを行った。得られた電極の厚さと厚さから求めた電極全体の密度、および電極を50%まで切削加工して求めた電極集電体側の密度を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
次いで、直径12mmの円形に電極を打ち抜き、電解液に含浸して空隙に減圧(80%、30秒)と昇圧を2回繰り返した後、常圧で30分放置して電解液を染み込ませた。電解液としては、モル濃度が1.0mol/LのLiPF6(電解質塩)を含有した有機溶剤であるエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液を使用した。尚、有機溶剤であるエチレンカーボネート/ジエチルカーボネートの混合比率は体積%でエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=30:70であった。この正極をコイン型セルの正極ケース上に載置し、さらに前記電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムからなる厚さ20μmのセパレータを前記正極上に積層し、さらに銅箔の両面にリチウムを貼布した負極をセパレータ上に積層した。そして、負極上に集電用の金属ディスクを積層した後、内部空間に電解液を注入し、金属製ばねを載置すると共に、周縁にガスケットを配置した状態で負極ケースを正極ケースに接合し、かしめ機によって外装封止した。これにより、有機ラジカル化合物であるポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)と粒子状の導電助剤とを含む電極活物質層を有する密閉型のコイン型二次電池を作製した。
【0079】
予備実験として、以上のように作製した二次電池のうち電極プレスをしていない電極を用いたセルを、0.1mAの定電流で電圧4.2Vまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.5Vまで放電した。その結果、このセルの放電容量は0.5mAhであることがわかった。
【0080】
この結果に基づいて、作製したセルを60mAの定電流、すなわち120Cで充放電試験を行った。ここで、120Cとは電池を1時間で充放電する電流(1C)の120倍の電流、すなわち30秒間で充放電する電流を意味する。この120Cで測定した容量はプレス圧力0MPa(プレスなし)、50MPa、100MPa、及び150MPaについて、それぞれ0.12mAh、0.30mAh、0.32mAh、0.35mAhであった。
【0081】
また、それぞれのセルの交流インピーダンス測定で得られるCole−Coleプロットから見積もった電荷移動抵抗はそれぞれ、10Ω、6.4Ω、6.2Ω、6.4Ωとなり、電極プレスを行ったものは低インピーダンスであることがわかった。
【0082】
このことから、電極活物質層における電極集電体側の密度が電解質側の密度に比べて大きい、プレス圧50MPa以上でプレスした電極は、プレスしていない電極に比べて大電流でも容量低下が少ないことがわかった。
【0083】
〔比較例1〕
実験例1のデンカブラックに代えて繊維径150nm、アスペクト比10〜500の昭和電工株式会社製VGCF−Hを使う以外は実験例1と同様の方法でポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)を含む電極活物質スラリーを作製した。そしてコーターを用いて厚さ15μmのAl箔上に塗工して乾燥させ、厚さ150μmのポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)を電極活物質とする電極を形成した。この厚さ及び質量から求めたこの電極の密度は0.59であった。
【0084】
次に、得られた電極を切り出し、実験例1と同様の方法で電極プレスを行った。得られた電極の厚さ、および厚さから求めた電極全体の密度を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
次いで、実験例1と同様の方法で電極を打ち抜き、電解液を染み込ませて、有機ラジカル化合物であるポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)と繊維状の導電助剤VGCF−Hとを含む電極活物質層を有する密閉型のコイン型二次電池を作製した。
【0087】
予備実験として、作製した二次電池のうち電極プレスをしていない電極を用いたセルを、0.1mAの定電流で電圧4.2Vまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.5Vまで放電した。その結果、このセルの放電容量は0.5mAhであることがわかった。
【0088】
この結果に基づいて、実験例1と同様の方法で作製したセルを60mAの定電流、すなわち120Cで充放電試験を行った。その結果、50MPa、100MPa、150MPaで電極プレスした条件では、120Cで測定した容量は0.1mAh以下となった。また、1Cで測定した容量も0.1mAh以下となり、二次電池として動作しないことがわかった。
【0089】
〔実験例2〕
実験例1のデンカブラックに代えて粒径39.5μmのライオン株式会社製ケッチェンブラックEC300Jを使う以外は実験例1と同様の方法でポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)を含む電極活物質スラリーを作製した。そして、コーターを用いて厚さ15μmのAl箔上に塗工して乾燥させ、厚さ150μmのポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)を電極活物質とする電極を形成した。この厚さ及び質量から求めたこの電極の密度は0.55であった。
【0090】
次に、得られた電極を切り出し、実験例1と同様の方法で100MPaの圧力で電極プレスを行った。その結果、厚さ96μm、全体の密度0.86、電極集電体側の密度1.00の電極が得られた。
【0091】
次いで、実験例1と同様の方法で電極を打ち抜き、電解液を染み込ませて、有機ラジカル化合物であるポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)と粒子状の導電助剤ケッチェンブラックEC300Jとを含む電極活物質層を有する密閉型のコイン型二次電池を作製した。また、比較のために電極プレスをしていないものについてもコイン型二次電池を作製した
予備実験として、作製した二次電池のうち電極プレスをしていない電極を用いたセルを、0.1mAの定電流で電圧4.2Vまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.5Vまで放電した。その結果、このセルの放電容量は0.55mAhであることがわかった。
【0092】
この結果に基づいて、実験例1と同様の方法で作製したセルを66mAの定電流、すなわち120Cで充放電試験を行ったところ、容量は0.28mAhとなった。一方、プレスしない電極を用いたセルの120Cでの放電容量は0.18mAhに低下した。
【0093】
また、交流インピーダンス測定で得られるCole−Coleプロットから見積もった電荷移動抵抗は6.4Ωとなり、電極プレスを行わないものの9.5Ωに比べて低インピーダンスであることがわかった。
【0094】
このことから、電極活物質層における電極集電体側の密度が電解質側の密度に比べて大きい、プレス圧100MPaでプレスした電極は大電流でも容量低下が少なく、高出力用途に適したものであることがわかった。
【0095】
〔実験例3〕
実験例1のポリ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノキシメタクリレート)に代えてポリ(4−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)を使う以外は実験例1と同様の方法でポリ(4−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)を含む電極活物質スラリーを作製した。そして、コーターを用いて厚さ15μmのAl箔上に塗工して乾燥させ、厚さ150μmのポリ(4−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)を電極活物質とする電極を形成した。この厚さ及び質量から求めたこの電極の密度は0.60であった。
【0096】
次に、得られた電極を切り出し、実験例1と同様の方法で100MPaの圧力で電極プレスを行った。その結果、厚さ100μm、全体の密度0.84の電極が得られた。この電極の電極集電体側の密度は1.02で、電極集電体側と反対側の密度は0.65であった。
【0097】
次いで、実験例1と同様の方法で電極を打ち抜き、電解液を染み込ませて、有機ラジカル化合物であるポリ(4−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)と粒子状の導電助剤デンカブラックとを含む電極活物質層を有する密閉型のコイン型二次電池を作製した。また、比較のために電極プレスをしていないものについてもコイン型二次電池を作製した。
【0098】
予備実験として、作製した二次電池のうち電極プレスをしていない電極を用いたセルを、0.1mAの定電流で電圧4.2Vまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.5Vまで放電した。その結果、このセルの放電容量は0.54mAhであることがわかった。
【0099】
この結果に基づいて、実験例1と同様の方法で作製したセルを64.8mAの定電流、すなわち120Cで充放電試験を行ったところ、容量は0.34mAhとなった。一方、プレスしない電極を用いたセルの60Cでの放電容量は0.17mAhに低下した。このことから、ポリ(4−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)を電極活物質とする場合にも、電極活物質層における電極集電体側の密度が電極集電体側と反対側の密度に比べて大きい電極は、大電流でも容量低下が少なく、高出力用途に適したものであることがわかった。
【符号の説明】
【0100】
1:電池缶
2:正極ケース
3:負極ケース
4:正極
5:セパレータ
6:負極
7:負極集電体
8:金属製ばね
9:電解質
10:ガスケット
15:電極集電体
16:電極活物質層
16a:電極集電体側と反対側(電解質側)
16b:電極集電体側
20:二次電池用電極
50:プレス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電体と、
有機ラジカル化合物を含む電極活物質と粒子状の導電助剤とを含み、前記電極集電体の一方の主面上に形成された電極活物質層と、
を有する二次電池用電極であって、前記電極活物質層における電極集電体側の密度が前記電極集電体側と反対側の密度に比べて大きい二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極活物質層における前記電極集電体側の密度が0.8g/cm3以上である、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記有機ラジカル化合物が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシラジカル構造を含む分子を含む、請求項1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記二次電池用電極からなる正極と、負極と、電解質と、を少なくとも備える二次電池。
【請求項5】
電極集電体を用意する工程と、
有機ラジカル化合物を含む電極活物質と、粒子状の導電助剤と、を含む電極活物質スラリーを作製する工程と、
前記電極活物質スラリーを前記電極集電体の一方の主面に塗工して電極活物質層を形成する工程と、
前記電極活物質層を120℃以上の温度でプレスする工程と、
を備える二次電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−29136(P2011−29136A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271888(P2009−271888)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】