説明

二次電池用非水電解液及び非水電解液二次電池

【課題】 高温条件下においても非水電解液が電極と反応するのを抑制して、電池容量が低下するのを防止し、長期にわたって良好な電池特性が得られる非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】 正極と負極とセパレータと非水電解液とを備えた非水電解液二次電池おいて、その非水電解液として、非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有されると共に、この非水系溶媒にCH3COOCH2CH3−x(式中、xは2又は3である。)で示されるフッ素化鎖状カルボン酸エステルと、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として+1.0〜3.0Vの範囲で分解される被膜形成化合物とを含む二次電池用非水電解液を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用非水電解液及びこのような非水電解液を用いた非水電解液二次電池に係り、特に、高温条件下においても非水電解液が電極と反応するのを抑制して、電池容量が低下するのを防止し、長期にわたって良好な電池特性が得られるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力,高エネルギー密度の新型二次電池として、非水電解液を用い、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解液二次電池が広く利用されている。
【0003】
そして、このような非水電解液二次電池において、良好な充放電特性が得られるようにするため、従来においては、上記の非水電解液として、非水系溶媒に、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルと、ジエチルカーボネート,エチルメチルカーボネート,ジメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルとを混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒にLiPF6やLiBF4等のリチウム塩からなる電解質を溶解したものが使用されている。
【0004】
しかし、上記のような非水電解液を用いた非水電解液二次電池の耐久性等を評価するために、このような非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下に放置させる充電保存試験を行った場合、上記の非水電解液が正極や負極と副反応を起こし、電池容量が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、近年においては、各種のフッ素化鎖状カルボン酸エステルを、非水電解液の非水系溶媒として用いたり、非水電解液に添加させたりすることが提案されている。(例えば、特許文献1〜6参照。)
【0006】
ここで、一般的に溶媒分子構造中にフッ素を導入すると、非水系溶媒の耐酸化性が向上することから、正極と非水電解液との反応を抑制することができる。しかし、フッ素を導入すると非水電解液の粘度の増加が起こり、また、耐還元性が低下することから負極との反応性が増大してしまう。特に、フッ素を導入する位置は、負極との反応性を大きく左右する。
【0007】
しかし、これらの特許文献においては、どのような種類のフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いるかは様々であり、フッ素が置換される炭素の位置について、特許文献1,2,5においては、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたものが好ましいことが示されており、また特許文献3,4,6においては、α炭素とそれ以外の炭素の何れであってもよいと記載されている。
【0008】
そして、非水電解液の非水系溶媒として、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、トリフルオロ酢酸エチルCF3COOCH2CH3を用いた場合には、電解質として用いるLiPF6等のリチウム塩が適切に溶解されなくなるという問題があった。また、ジフルオロ酢酸エチルCHF2COOCH2CH3を用いた場合には、電解質として用いるLiPF6等のリチウム塩が溶解されるが、負極との反応性が高くなり、この非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下に放置させると、電池容量や電池特性が大きく低下するという問題があった。このように、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルでは、十分な電池特性が得られなかった。
【0009】
さらに、非水系溶媒として、α炭素以外の炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた場合においては、負極との反応性を低減させることができるが、依然として、この非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下において放置させた場合に、電池容量や電池特性が低下するという問題があった。また、このようなフッ素化鎖状カルボン酸エステルを他の非水系溶媒と組み合わせて使用する場合においても、組み合わせる他の溶媒が適切でないと、この非水電解液二次電池における初期容量が低下し、また高温条件下に放置させた場合に、電池容量や電池特性が低下するという問題があった。
【0010】
このように、非水系溶媒のフッ素化により、正極との反応を抑制することができても、負極との反応性が増大することから、良好な電池特性を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−298134号公報
【特許文献2】特開平11−86901号公報
【特許文献3】特開平6−20719号公報
【特許文献4】特開2003−282138号公報
【特許文献5】特開2006−32300号公報
【特許文献6】特開2006−114388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、非水電解液を用いた非水電解液二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、高温条件下においても非水電解液が電極と反応するのを抑制して、電池容量が低下するのを防止し、長期にわたって良好な電池特性が得られるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、上記のような課題を解決するため、非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に、下記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルと、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として+1.0〜3.0Vの範囲で分解される被膜形成化合物とを含むようにした。
CH3COOCH2CH3−x (1)
(式中、xは2又は3である。)
【0014】
そして、このようにフッ素化鎖状カルボン酸エステルとして、α炭素以外の炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いるようにすると、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた場合における前記のような問題が生じないようになることを見出したのである。
【0015】
ここで、このようなフッ素化鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸2,2−ジフルオロエチルCH3COOCH2CHF2や酢酸2,2,2−トリフルオロエチルCH3COOCH2CF3を用いることができる。
【0016】
ここで、非水系溶媒中における上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルの量が少ないと、高温条件下における上記のような特性を十分に向上させることが困難になる一方、その量が多くなりすぎると、非水電解液中に含有させる上記の被膜形成化合物の量が減少して、負極に十分な被膜が形成されなくなる。このため、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルの量を、非水系溶媒全体に対して5〜90体積%の範囲にすることが好ましく、特に、20〜80体積%の範囲にすることがより好ましい。
【0017】
また、上記のように金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として、+1.0〜3.0Vの範囲で分解される被膜形成化合物を含有させると、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが負極と反応して分解するのが抑制され、或いはこのフッ素化鎖状カルボン酸エステルが負極の被膜形成に部分的に関与して、過大に分解するのが抑制されるようになる。
【0018】
例えば、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルであるCH3COOCH2CHF2やCH3COOCH2CF3に対してLiPF6を1mol/lになるよう溶解させ、黒鉛負極を作用電極として用い、走査速度1mV/secの測定条件にてCV測定した場合、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位に対して、CH3COOCH2CHF2の場合には+1.0V程度、CH3COOCH2CF3の場合には+0.8V程度で還元分解される。このため、+1.0V以上で分解する被膜形成化合物を含有させることで、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが負極と反応して分解するのを抑制することができ、或いはこのフッ素化鎖状カルボン酸エステルが負極の被膜形成に部分的に関与して、過大に分解するのを抑制することができる。なお、非水電解液を注液した時の黒鉛負極の電位は+3.0V程度であるため、+3.0V以下で分解する被膜形成化合物を含有させることが必要である。
【0019】
そして、上記のような被膜形成化合物を含有させることにより、フッ素化鎖状カルボン酸エステルと負極との反応を抑制でき、またフッ素化鎖状カルボン酸エステルを溶媒に用いることで正極との反応を抑制でき、良好な電池特性を得ることができる。
【0020】
そして、上記のような被膜形成化合物としては、例えば、4−フルオロエチレンカーボネート及びその誘導体、エチレンサルファイト及びその誘導体、ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体、LiB(C242、LiBF2(C24)から選択される少なくとも1種を用いることができ、特に、負極に適切な被膜を形成すると共に非水系溶媒として有効に機能する4−フルオロエチレンカーボネートを用いることが好ましい。ここで、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として分解される電位は、4−フルオロエチレンカーボネートでは約1.2V、エチレンサルファイトでは約1.1V、ビニルエチレンカーボネートでは約1.3V、LiB(C242では約2.0V、LiBF2(C24)では約1.7Vである。また、4−フルオロエチレンカーボネートの誘導体、エチレンサルファイトの誘導体、ビニルエチレンカーボネートの誘導体としても、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として分解される電位が+1.0〜3.0Vの範囲のものを用い、好ましくは+1.1〜2.0Vの範囲のものを用いるようにする。
【0021】
そして、上記の被膜形成化合物として4−フルオロエチレンカーボネートを非水系溶媒に含有させる場合、4−フルオロエチレンカーボネートの量が少ないと、負極に十分な被膜が形成されず、フッ素化鎖状カルボン酸エステルが還元分解されて、非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下において放置させた場合における保存特性が低下する。一方、4−フルオロエチレンカーボネートの量が多くなり過ぎると、非水電解液の粘度が上昇して負荷特性が低下する。このため、4−フルオロエチレンカーボネートの量を非水系溶媒全体に対して2〜40体積%の範囲にすることが好ましく、特に、5〜30体積%の範囲にすることがより好ましい。
【0022】
また、被膜形成化合物として、エチレンサルファイト及びその誘導体、ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体を用いる場合には、その含有量が電解質を含めた非水電解液の総量に対して0.1〜10重量%、特に0.2〜5重量%の範囲になるようにすることが好ましい。また、LiB(C242やLiBF2(C24)からなるLi塩を被膜形成化合物として用いる場合には、その含有量が非水系溶媒に対して0.01〜0.2mol/l、特に0.02〜0.1mol/lの範囲になるようにすることが好ましい。これは、これらの被膜形成化合物の量が、上記の範囲より少なくなると、負極に十分な被膜が形成されず、フッ素化鎖状カルボン酸エステルが還元分解されて、良好な高温充電保存特性が得られなくなる一方、上記の範囲より多くなると、これらの被膜形成化合物の分解が顕著に起こり、内部抵抗の増加やガス発生を引き起こすおそれがあるためである。
【0023】
また、上記の二次電池用非水電解液においては、上記の非水系溶媒に、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルと被膜形成化合物との他に、他の非水系溶媒を加えることも可能であり、このような非水系溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等を用いることが好ましい。特に、非水電解液の粘度を低減させて負荷特性を向上させるためには、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートから選択される少なくとも1種の低粘度溶媒を加えることが好ましい。さらに、非水電解液の導電率を高めるために、高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等を混合させることも可能である。
【0024】
また、上記の二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に溶解させるリチウム塩からなる電解質としては、上記の被膜形成化合物として用いるLiB(C242やLiBF2(C24)に加えて、非水電解液二次電池において一般に使用されているリチウム塩を用いることができる。そして、上記のリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4,LiCF3SO3,LiClO4,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23等を用いることができ、特にLiPF6,LiBF4,LiN(CF3SO22を用いることが好ましい。
【0025】
また、本発明における非水電解液二次電池においては、非水電解液として、上記のような二次電池用非水電解液を用いるようにした。
【0026】
ここで、この非水電解液二次電池の正極に用いる正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出することができ、その電位が貴な材料であれば特に限定されず、一般に使用されている公知の正極活物質を用いることができ、例えば、層状構造や、スピネル型構造や、オリビン型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を単独又は複数組み合わせて使用することができる。特に、高エネルギー密度の非水電解液二次電池を得るためには、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましく、具体的には、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・コバルト・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト・ニッケル・アルミニウム複合酸化物からなるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。特に、結晶構造の安定性の観点からは、Al或いはMgが結晶内部に固溶され、かつZrが粒子表面に固着したコバルト酸リチウムを用いることが好ましい。
【0027】
また、この非水電解液二次電池の負極に用いる負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出することができる材料であれば特に限定されず、一般に使用されている公知の負極活物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム−アルミニウム合金,リチウム−鉛合金,リチウム−シリコン合金,リチウム−スズ合金等のリチウム合金、黒鉛,コークス,有機物焼成体等の炭素材料、SnO2、SnO、TiO2等の電位が正極活物質に比べて卑な金属酸化物を用いることができ、特に、リチウムの吸蔵、放出に伴う体積変化が少なくて可逆性に優れる黒鉛系の炭素材料を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された二次電池用非水電解液に、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルと、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として+1.0〜3.0Vの範囲で分解される被膜形成化合物とを含む非水系溶媒を用いるようにした。
【0029】
この結果、このような非水電解液を用いた非水電解液二次電池においては、上記の被膜形成化合物により負極に適切な被膜が形成されて、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが分解するのが抑制され、またフッ素化鎖状カルボン酸エステルを溶媒に用いることで正極と非水電解液との反応が抑制され、高温条件下においても電池容量が低下するのが抑制されて、良好な電池特性が得られるようになった。
【実施例】
【0030】
次に、本発明に係る二次電池用非水電解液を用いた非水電解液二次電池について実施例を挙げて具体的に説明すると共に、本発明の非水電解液二次電池は、高温での保存特性が向上することを、比較例を挙げて明らかにする。
【0031】
(実施例1)
実施例1においては、下記のようにして作製した正極と負極と非水電解液とを用い、図1に示すような円筒型で、充電終止電圧が4.2V、設計容量が2300mAhの非水電解液二次電池を作製した。
【0032】
[正極の作製]
正極を作製するにあたっては、正極活物質として、コバルト酸リチウムLiCoO2にAlとMgとがそれぞれ1.0mol%固溶されると共にその固溶体の粒子表面にZrが0.05mol%付与されたものを用いた。
【0033】
そして、この正極活物質と、導電剤の炭素と、結着剤のポリフッ化ビニリデンとが95:2.5:2.5の重量比になるようにして、これらをN−メチル−2−ピロリドン溶液中で混練して正極合剤スラリーを作製した。次いで、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて正極を作製した。
【0034】
[負極の作製]
負極を作製するにあたっては、負極活物質の黒鉛と、結着剤のスチレン・ブタジエンゴムと、増粘剤のカルボキシメチルセルロースとを97.5:1.5:1の重量比になるようにして、これらを水溶液中において混練して負極合剤スラリーを作製した。そして、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて負極を作製した。
【0035】
[非水電解液の作製]
非水電解液を作製するにあたっては、非水系溶媒として、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準とした分解電位が1.0〜3.0Vの範囲にある被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおけるxの値が2であるCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用いた。そして、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させて、非水電解液を作製した。
【0036】
ここで、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして用いた上記のCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)の合成方法を以下に示す。
【0037】
2リットルの四ツ口フラスコに、2,2−ジフルオロエタノール128g(1.56mol)とジエチルエーテル150mlを入れ、さらにトリエチルアミン240g(2.37mol/1.52eq)を加えた。そして、これを氷冷、攪拌しながら、アセチルクロリド180g(2.29mol/1.47eq)をジエチルエーテル150mlで希釈した液を、滴下ロートにより反応液の液温が20〜30℃の範囲を保つようにして徐々に滴下して、2時間で終了した。その後、室温で1時間攪拌した後、水600mlを加えて反応を終了した。次いで、分液ロートにより有機層を分離し、これを硫酸マグネシウムで乾燥させた後、蒸留により精製を行い、上記のCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)を82g(収率42.4%)得た。
【0038】
そして、この実施例の非水電解液二次電池を作製するにあたっては、図1に示すように、上記のようにして作製した正極1と負極2との間に、セパレータ3としてリチウムイオン透過性のポリエチレン製の微多孔膜を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させた後、この電池缶4内に上記の非水電解液を注液して封口し、上記の正極1を正極タブ5により、正極蓋6に取り付けられた正極外部端子9に接続させると共に、上記の負極2を負極タブ7により電池缶4に接続させ、電池缶4と正極蓋6とを絶縁パッキン8により電気的に分離させた。
【0039】
(実施例2)
実施例2においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおけるxの値が3であるCH3COOCH2CF3(酢酸2,2,2−トリフルオロエチル)とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0040】
ここで、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして用いた上記のCH3COOCH2CF3(酢酸2,2,2−トリフルオロエチル)の合成方法を以下に示す。
【0041】
2リットルの四ツ口フラスコに、トリフルオロエタノール85g(0.85mol)とジエチルエーテル80mlを入れ、さらにトリエチルアミン129g(1.27mol/1.49eq)を加えた。そして、これを氷冷、攪拌しながら、アセチルクロリド100g(1.27mol/1.49eq)をジエチルエーテル80mlで希釈した液を、滴下ロートにより反応液の液温が27〜35℃の範囲を保つようにして徐々に滴下して、20分間で終了した。その後、室温で1.5時間攪拌した後、水350mlを加えて反応を終了した。次いで、分液ロートにより有機層を分離し、これを硫酸マグネシウムで乾燥させた後、蒸留により精製を行い、上記のCH3COOCH2CF3(酢酸2,2,2−トリフルオロエチル)を88g(収率72.9%)得た。
【0042】
(実施例3)
実施例3においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、実施例1と同じフッ素化鎖状カルボン酸エステルのCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)とを1:9の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0043】
(実施例4)
実施例4においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、実施例1と同じフッ素化鎖状カルボン酸エステルのCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0044】
(実施例5)
実施例5においては、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、実施例1と同じフッ素化鎖状カルボン酸エステルのCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して、さらに被膜形成化合物のビニルエチレンカーボネート(VEC)を2重量%の割合で添加した非水電解液を用いるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0045】
(実施例6)
実施例6においては、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、実施例1と同じフッ素化鎖状カルボン酸エステルのCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して、さらに被膜形成化合物のエチレンサルファイト(ES)を2重量%の割合で添加した非水電解液を用いるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0046】
(実施例7)
実施例7においては、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、実施例1と同じフッ素化鎖状カルボン酸エステルのCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して、さらに被膜形成化合物のLiB(C242を0.05mol/lの割合で溶解させた非水電解液を用いるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0047】
(比較例1)
比較例1においては、非水系溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して被膜形成化合物のビニレンカーボネート(VC)を2重量%の割合で添加した非水電解液を用いた。そして、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
比較例2においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、フッ素化を行っていない鎖状カルボン酸エステルであるCH3COOCH2CH3とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0049】
(比較例3)
比較例3においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおけるxの値が1であるCH3COOCH2CH2F(酢酸2−フルオロエチル)とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0050】
ここで、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして用いた上記のCH3COOCH2CH2F(酢酸2−フルオロエチル)の合成方法を以下に示す。
【0051】
2リットルの四ツ口フラスコに、2−フルオロエタノール100g(1.56mol)とジエチルエーテル150mlを入れ、さらにトリエチルアミン240g(2.37mol/1.52eq)を加えた。そして、これを氷冷、攪拌しながら、アセチルクロリド180g(2.29mol/1.47eq)をジエチルエーテル150mlで希釈した液を、滴下ロートにより反応液の液温が20〜30℃の範囲を保つようにして徐々に滴下して、2時間で終了した。その後、室温で1時間攪拌した後、水600mlを加えて反応を終了した。次いで、分液ロートにより有機層を分離し、これを硫酸マグネシウムで乾燥させた後、蒸留により精製を行い、上記のCH3COOCH2CH2F(酢酸2−フルオロエチル)を76g(収率45.9%)得た。
【0052】
(比較例4)
比較例4においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、実施例1と同じ被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネート(4−FEC)と、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたフッ素化鎖状カルボン酸エステルであるCHF2COOCH2CH3とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0053】
(比較例5)
比較例5においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準とした分解電位が1.0〜3.0Vの範囲外の0.6Vであるエチレンカーボネートと、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして実施例1と同じCH3COOCH2CHF2(酢酸2,2−ジフルオロエチル)とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0054】
(比較例6)
比較例6においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準とした分解電位が1.0〜3.0Vの範囲外の0.6Vであるエチレンカーボネートと、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして実施例2と同じCH3COOCH2CF3(酢酸2,2,2−トリフルオロエチル)とを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0055】
次に、上記のように作製した実施例1〜7及び比較例1〜6の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、460mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた後、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて、各非水電解液二次電池の初期放電容量を測定した。
【0056】
そして、比較例1の非水電解液二次電池における初期放電容量を100として、各非水電解液二次電池の初期放電容量を算出し、その結果を下記の表1に示した。なお、表1においては、4−フルオロエチレンカーボネートを4−FEC、ジメチルカーボネートをDMC、ビニルエチレンカーボネートをVEC、エチレンサルファイトをES、エチレンカーボネートをEC、エチルメチルカーボネートをEMC、ビニレンカーボネートをVCとして示した。
【0057】
【表1】

【0058】
この結果、非水系溶媒におけるフッ素化鎖状カルボン酸エステルとして、上記の式(1)に示したxの値が2又は3であるCH3COOCH2CHF2やCH3COOCH2CF3を用いた場合においても、被膜形成化合物として、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として分解される電位が+1.0〜3.0Vの範囲から外れたエチレンカーボネートを用いた比較例5,6の各非水電解液二次電池は、実施例1〜7及び比較例1〜4の各非水電解液二次電池に比べて、初期放電容量が低下していた。
【0059】
次に、上記の実施例1〜7及び比較例1〜6の各非水電解液二次電池について、それぞれ25℃において、460mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた後、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて保存前の放電容量D1を測定した。
【0060】
次いで、上記の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、2300mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させ、この状態で各非水電解液二次電池を恒温槽内において60℃で10日間保存した後、保存後の各非水電解液二次電池について、それぞれ25℃において、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて保存後の残存容量D2を求めた。
【0061】
その後、上記の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、460mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた後、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて保存後の復帰容量D3を測定した。
【0062】
そして、上記のように測定した保存前の放電容量D1、保存後の残存容量D2及び保存後の復帰容量D3に基づき、下記の式により実施例1〜7及び比較例1〜6の各非水電解液二次電池の保存後における容量残存率(%)及び容量復帰率(%)を求め、その結果を下記の表2に示した。
【0063】
容量残存率(%)=(D2/D1)×100
容量復帰率(%)=(D3/D1)×100
【0064】
【表2】

【0065】
この結果、非水系溶媒として、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準とした分解電位が+1.0〜3.0Vの範囲にある被膜形成化合物の4−フルオロエチレンカーボネートと、上記の式(1)に示したxの値が2又は3になったCH3COOCH2CHF2やCH3COOCH2CF3からなるフッ素化鎖状カルボン酸エステルとの混合溶媒を用いた実施例1〜7の各非水電解液二次電池は、フッ素化を行っていない鎖状カルボン酸エステルを用いた比較例2の非水電解液二次電池や、上記の式(1)に示したxの値が1になったCH3COOCH2CH2Fからなるフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた比較例3の非水電解液二次電池や、被膜形成化合物に金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として分解される電位が+1.0〜3.0Vの範囲から外れたエチレンカーボネートを用いた比較例5,6の非水電解液二次電池や、従来より一般に用いられているエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒に被膜形成化合物のビニレンカーボネートを添加させたものを用いた比較例1の非水電解液二次電池に比べて、保存後の容量残存率が明らかに向上していると共に、保存後の容量復帰率も向上していた。
【0066】
ここで、上記の式(1)に示したxの値が1になったフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた比較例3の非水電解液二次電池において、保存後の容量残存率や容量復帰率が、上記の式(1)に示したxの値が2又は3になったフッ素化鎖状カルボン酸エステルを用いた実施例1〜7の非水電解液二次電池に比べて大きく低下したのは、xの値が1になったフッ素化鎖状カルボン酸エステルは、xの値が2又は3になったフッ素化鎖状カルボン酸エステルに比べて、加水分解して酢酸を発生しやすく、このようなフッ素化鎖状カルボン酸エステルの安定性の低さによって、保存後の電池特性が低下したものと考えられる。
【0067】
また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして、α炭素に結合している水素がフッ素で置換されたCHF2COOCH3を用いた比較例4の非水電解液二次電池においては、保存後の容量残存率及び容量復帰率が大きく低下していた。これは、α炭素に電子吸引性の高いフッ素が結合することで、隣接するカルボニル炭素の電子密度が低下して、非水電解液が負極と反応したためであると考えられる。
【0068】
また、上記の実施例1,2の非水電解液二次電池について、上記の保存前と保存後とにおける電池電圧を測定し、その結果を下記の表3に示した。
【0069】
【表3】

【0070】
この結果、フッ素化鎖状カルボン酸エステルとして、上記の式(1)に示したxの値が2になったCH3COOCH2CHF2を用いた実施例1の非水電解液二次電池は、上記の式(1)に示したxの値が3になったCH3COOCH2CF3を用いた実施例2の非水電解液二次電池に比べて保存後の電池電圧が高く、保存後における電池電圧の低下が抑制されていた。
【0071】
ここで、上記の詳細な理由については不明であるが、上記の式(1)に示したxの値が2になったCH3COOCH2CHF2では、その沸点が105℃程度であるのに対して、上記の式(1)に示したxの値が3になったCH3COOCH2CF3では、その沸点が78℃程度であり、沸点の低いCH3COOCH2CF3の方が、保存中において電極と反応しやすくなるためであると考えられる。また、後述するように、上記の式(1)に示したxの値が2になったCH3COOCH2CHF2を用いた方が、耐久性に優れた被膜が負極に形成されるためと考えられる。
【0072】
次に、非水系溶媒中における上記のCH3COOCH2CHF2からなるフッ素化鎖状カルボン酸エステルの割合が異なる実施例1,3,4の非水電解液二次電池について、負荷特性の評価を行った。
【0073】
ここで、負荷特性の評価を行うにあたっては、上記の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、2300mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた。
【0074】
そして、このように充電させた各非水電解液二次電池を、460mA(0.2C)と4600mA(2C)の各電流でそれぞれ2.75Vになるまで放電させ、460mA(0.2C)で放電させた場合の放電容量Q0.2Cと、4600mA(2C)で放電させた場合の放電容量Q2Cとを測定し、下記の式により負荷特性を求め、この結果を下記の表4に示した。
【0075】
負荷特性(%)=(Q2C/Q0.2C)×100
【0076】
【表4】

【0077】
この結果、非水系溶媒中における上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルの割合が90体積%になった実施例3の非水電解液二次電池は、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルの割合が80体積%になった実施例1の非水電解液二次電池や、40体積%になった実施例4の非水電解液二次電池に比べて、上記の負荷特性の値が低くなって、負荷特性が劣る結果となった。これは、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルの割合が多くなることにより、非水電解液の粘度が増加したためであると考えられる。
【0078】
このため、非水系溶媒中における上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルの割合を20〜80体積%の範囲にすることが好ましいと考えられる。
【0079】
次に、非水系溶媒に、上記の被膜形成化合物である4−フルオロエチレンカーボネートを含有させずに、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルとして、xの値が2であるCH3COOCH2CHF2と、xの値が3であるCH3COOCH2CF3とを用いた場合におけるCV特性を比較する実験を行った。
【0080】
(実験例1)
実験例1においては、非水系溶媒として、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおけるxの値が2であるCH3COOCH2CHF2だけを用い、これに電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させて、非水電解液を作製した。
【0081】
(実験例2)
実験例2においては、非水系溶媒として、上記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおけるxの値が3であるCH3COOCH2CF3だけを用い、これに電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させて、非水電解液を作製した。
【0082】
そして、上記の実験例1,2の各非水電解液を用いて、それぞれ図2に示す三電極式試験セルを作製した。
【0083】
ここで、上記の各三電極式試験セルにおいては、作用極11に上記の実施例1において作製した負極を所定の大きさに切断させたものを用い、対極12及び参照極13にそれぞれ金属リチウムを使用し、これらを上記の各非水電解液14中に浸漬させた。
【0084】
そして、上記の各三電極式試験セルを用い、それぞれ1mV/sの走査速度で、参照極13に対する作用極11の電位を、初期電位から0Vまで走査させた後、2Vまで走査させてCV測定を行った。そして、上記の実験例1の非水電解液を用いた三電極式試験セルにおけるCV測定の結果を図3に、実験例2の非水電解液を用いた三電極式試験セルにおけるCV測定の結果を図4に示した。
【0085】
この結果、非水電解液の非水系溶媒に、上記の式(1)におけるxの値が2であるCH3COOCH2CHF2を用いた実験例1のものにおいては、リチウムの挿入,脱離に伴うピークが観測され、CH3COOCH2CHF2を単独で用いた場合にも、作用極である負極に被膜が形成されると考えられる。これに対して、非水電解液の非水系溶媒に、上記の式(1)におけるxの値が3であるCH3COOCH2CF3を用いた実験例2のものにおいては、リチウムの挿入,脱離に伴うピークが観測されず、CH3COOCH2CF3を単独で用いた場合には、作用極である負極に被膜が形成されないと考えられる。
【0086】
そして、上記の実施例1に示すように、非水電解液の非水系溶媒に、上記の式(1)におけるxの値が2であるCH3COOCH2CHF2と被膜形成化合物である4−フルオロエチレンカーボネートとを含有させると、CH3COOCH2CHF2と4−フルオロエチレンカーボネートとの両方により、負極に被膜が形成されるようになり、上記の実施例2に示すように、非水電解液の非水系溶媒に、上記の式(1)におけるxの値が3であるCH3COOCH2CF3と被膜形成化合物である4−フルオロエチレンカーボネートとを含有させたものよりも、さらに耐久性の高い被膜が負極に形成されると考えられる。
【0087】
この結果、非水電解液の非水系溶媒に、上記の式(1)におけるxの値が2であるCH3COOCH2CHF2と被膜形成化合物である4−フルオロエチレンカーボネートとを含有させた実施例1のものは、上記の実施例2のものに比べて、さらに保存特性が向上されると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例及び比較例において作製した非水電解液二次電池の概略断面図である。
【図2】本発明における非水系溶媒に含有させるフッ素化鎖状カルボン酸エステルの種類を変更させた実験例において作製した三電極式試験セルの概略説明図である。
【図3】実験例1の非水電解液を用いた三電極式試験セルにおけるCV測定の結果を示した図である。
【図4】実験例2の非水電解液を用いた三電極式試験セルにおけるCV測定の結果を示した図である。
【符号の説明】
【0089】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池缶
5 正極タブ
6 正極蓋
7 負極タブ
8 絶縁パッキン
9 正極外部端子
11 作用極
12 対極
13 参照極
14 非水電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に、下記の式(1)に示したフッ素化鎖状カルボン酸エステルと、金属リチウムとリチウムイオンとの平衡電位を基準として+1.0〜3.0Vの範囲で分解される被膜形成化合物とを含むことを特徴とする二次電池用非水電解液。
CH3COOCH2CH3−x (1)
(式中、xは2又は3である。)
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが、酢酸2,2−ジフルオロエチルCH3COOCH2CHF2であることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の二次電池用非水電解液において、上記の被膜形成化合物が、4−フルオロエチレンカーボネート及びその誘導体、エチレンサルファイト及びその誘導体、ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体、LiB(C242、LiBF2(C24)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項4】
請求項3に記載の二次電池用非水電解液において、上記の被膜形成化合物が、4−フルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池用非水電解液において、上記の4−フルオロエチレンカーボネートが、非水系溶媒全体に対して5〜30体積%の範囲で含有されていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが、非水系溶媒全体に対して5〜90体積%の範囲で含有されていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化鎖状カルボン酸エステルが、非水系溶媒全体に対して20〜80体積%の範囲で含有されていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項8】
正極と負極とセパレータと非水電解液とを備えた非水電解液二次電池において、その非水電解液に請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の二次電池用非水電解液を用いたことを特徴とする非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−62132(P2010−62132A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116046(P2009−116046)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【Fターム(参考)】