説明

二色性色素、その色素組成物、二色性色素を含むマイクロカプセル化液晶、液晶組成物および液晶表示デバイス

【課題】二色性色素化合物、その色素組成物、二色性色素化合物または組成物を含むマイクロカプセル化液晶、液晶組成物および液晶表示デバイスを提供する。
【解決手段】特定構造を有する二色性色素化合物による。本発明が提供する二色性色素化合物は、溶解度に優れるのみならず、卓越した光安定性をも備える。この二色性色素化合物を液晶中に添加した場合、その配向秩序パラメータは0.7以上となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二色性色素、その組成物、その液晶との組成物、およびそれを含む液晶表示デバイスに関し、より詳細には、例えば液晶ディスプレイ、特に反射型液晶ディスプレイなどの光電アプリケーションに利用できる二色性色素に関する。
【背景技術】
【0002】
反射型液晶ディスプレイ(LCD)は低消費電力および軽量薄型といった特性を備えるため、例えばE−Book、PDAなどのように、情報ツールの中でも需要が高まっている表示デバイスである。現在、反射型液晶ディスプレイには、二色性色素をネマチック液晶と光学活性体の混合物に溶解し、色素の吸収異方性を利用して液晶表示効果を実現する、色素を「ゲスト(Guest)」、液晶を「ホスト(Host)」としたゲストホスト効果(Guest-Host effect)モードが採られている。このようなモードは、偏光板の代わりとなって、電界の変化に応じ色素が可視光を吸収するか否かにより明暗を切り替えるものであり、これを利用する反射型液晶ディスプレイは、視野角が広がり、輝度も大幅に向上する。また、環境光を利用するのでバックライトが不要となり、電力消費も飛躍的に低くなる。
【0003】
ゲストホストモードに用いられる二色性色素には、良好な二色性を持つことが要され、それは通常、分子の配向秩序パラメータ(orientational order parameter;SD)または二色比(dichroic ratio)を数量化することで決定される。二色比とは、二色性色素が配向するホスト液晶間にあるときの、平行偏光と垂直偏光の吸収強度の比N=A///Aである。配向秩序パラメータは、SD=(A//−A)/(A//+2A)と定義される。これらNとSDの値が大きいほど、高コントラストが得られる。また、ディスプレイはバックライトや外部環境光(例えば太陽光)の照射に長期間曝されることから、色素の分子が変質して表示効果に影響が出易い。このことを考慮すれば、色素には良好な光安定性と熱安定性も備わっていなければならない。さらに、二色性色素と液晶の溶解度は通常1〜10%ほどであること、および電圧の状態に応じ液晶の向きが変わるのに伴って添加された二色性色素も向きを変えることを踏まえて、輝度低下および駆動電圧増加の問題を同時に解決しようとした場合、溶解度と添加量を高めてディスプレイのコントラスト比を向上させるということができる。よって、求められるのは、溶解度、熱安定性、および光安定性の高い二色性色素である。
【0004】
しかし、従来の二色性色素で、上述の要求をすべて満たせるようなものはほとんどない。基本的な要求、二色性と着色性をクリアできる従来の二色性色素であっても、溶解度が低く加工し難い、または光安定性に優れず製品の使用寿命が短縮されるといった問題を持つことが多い。例えば、一般に用いられる二色性アゾ色素は光安定性と熱安定性に劣る。アントラキノン色素は分子間水素結合を持つため比較的安定である。ジュロリジン(julolidine)またはチアゾールなどの複素環を有するモノアゾ二色性色素は、光安定性は比較的高いが、溶解度が低い。また、特許文献1(下記参照)には、長鎖柔軟基を持つアントラキノン色素が開示されており、これは非対称の分子構造を有するが、溶解度が理想的ではない。
【0005】
上述した諸事情より、優れた二色性および高溶解度を備える二色性色素の開発は、液晶ディスプレイ技術分野において急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4304683号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述に鑑みて、本発明の目的は、異なる官能基の組み合わせによって緑色、青色、黄色、橙色、紫色、赤色などそれぞれ異なる色を呈し、溶解度に優れるのみならず、卓越した光安定性をも備え、さらに液晶中に添加したときに、その配向秩序パラメータが0.7以上、好ましくは0.8以上となるような二色性色素化合物を提供することにある。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、少なくとも2種の前記二色性色素を混合させてなり、さらに液晶中に添加したときに、その配向秩序パラメータが0.7以上、好ましくは0.8以上であるような例えば黒色二色性色素組成物である二色性色素組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明のもう一つの目的は、重合体の壁内に包み込まれた液晶と前記二色性色素または二色性色素組成物を含むマイクロカプセル化液晶組成物を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明のもう1つの目的は、液晶と前記二色性色素または二色性色素組成物とを含む液晶組成物を提供することにある。
【0011】
さらにまた、本発明のもう1つの目的は、少なくとも1種の前記二色性色素を含んでなり、駆動モジュールとしてアクティブ駆動モジュール、パッシブ型駆動モジュール、またはセグメント型駆動モジュールを使用する、透過型液晶表示デバイス、反射型液晶表示デバイスまたは半透過型液晶表示デバイスであり得る液晶表示デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)または一般式(II)の構造を有する二色性色素化合物に関する。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、X1およびX2はそれぞれ独立にH、−OH、−NH2を表わす。
1は、
【0015】
【化2】

【0016】
を表わし、
2はH、F、Cl、Br、−NH2、−NO2、または
【0017】
【化3】

【0018】
を表わす。
AおよびBはそれぞれ独立にO、Sまたは−NH−を表わす。
1およびZ2はそれぞれ独立にO、S、
【0019】
【化4】

【0020】
を表わす。
Ar1、Ar2、Ar3およびAr4はそれぞれ独立にフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基または複素環基を表わす。
1およびR2はそれぞれ独立に−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、フェニル基、−NCS、−N(R32または、
【0021】
【化5】

【0022】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。)
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、Lは、
【0025】
【化7】

【0026】
を表わす。
1およびP2はそれぞれ独立に−H、−R3、−OR3、−NHR3、−N(R32、または
【0027】
【化8】

【0028】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
iおよびjはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。)
前記二色性色素化合物を液晶化合物に添加したときの配向秩序パラメータが0.7以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上である。
【0029】
また、本発明は、前記二色性色素化合物を少なくとも2種混合してなる二色性色素組成物に関する。
【0030】
前記二色性色素組成物を液晶化合物に添加したときの配向秩序パラメータが0.7以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上である。
【0031】
前記二色性色素組成物が、黒色二色性色素組成物であることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明は、液晶と、下記の一般式(I)または(II)で示される構造を有する二色性色素である少なくとも1種の二色性色素とを含む液晶組成物に関する。
【0033】
【化9】

【0034】
(式中、X1およびX2はそれぞれ独立にH、−OH、−NH2を表わす。
1は、
【0035】
【化10】

【0036】
を表わし、
2はH、F、Cl、Br、−NH2、−NO2、または
【0037】
【化11】

【0038】
を表わす。
AおよびBはそれぞれ独立にO、Sまたは−NH−を表わす。
1およびZ2はそれぞれ独立にO、S、
【0039】
【化12】

【0040】
を表わす。
Ar1、Ar2、Ar3およびAr4はそれぞれ独立にフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基または複素環基を表わす。
1およびR2はそれぞれ独立に−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、フェニル基、−NCS、−N(R32または、
【0041】
【化13】

【0042】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。)
【0043】
【化14】

【0044】
(式中、Lは、
【0045】
【化15】

【0046】
を表わす。
1およびP2はそれぞれ独立に−H、−R3、−OR3、−NHR3、−N(R32、または
【0047】
【化16】

【0048】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
iおよびjはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。))
前記液晶は、ネマチック型液晶(TN)、スメクチック型液晶(Sm)またはコレステリック型液晶(Ch)のいずれかから選択することができる。
【0049】
液晶組成物において、前記二色性色素化合物が二色性色素組成物を構成していることが好ましい。
【0050】
また、本発明は、前記液晶組成物を重合体の壁に包み込んだマイクロカプセル化液晶組成物に関する。
【0051】
前記重合体が、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはポリウレアであることが好ましい。
【0052】
さらに、本発明は、少なくとも1種の前記二色性色素化合物を含んだ液晶組成物またはマイクロカプセル化液晶組成物を含む液晶表示デバイスに関する。
【0053】
使用する駆動モジュールがアクティブ駆動モジュールまたはマルチプレックス駆動モジュールであることが好ましい。
【0054】
前記液晶表示デバイスは、透過型、反射型または半透過型のいずれかから選択することができる。
【発明の効果】
【0055】
本発明による二色性色素化合物は、良好な光および熱安定性と溶解度を備え、液晶組成物に優れた二色比(Dichroic ratio)を付与するので、液晶ディスプレイに使用した場合に、液晶ディスプレイ製品の使用寿命を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明実施例9による二色性色素化合物および従来の二色性色素化合物の吸収度と照射時間との関係を示す図である。
【図2】本発明実施例42による黒色二色性色素組成物を、液晶配向に平行または垂直な光で照射することで測定した吸光度を示す図である。
【図3】本発明実施例43によるマイクロカプセル化液晶組成物の吸収度と照射時間との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例43によるディスプレイ用フィルムの透過率と外部電圧との関係を示す図である。
【図5】本発明の反射型液晶表示デバイスの電圧無印加時断面図である。
【図6】本発明の反射型液晶表示デバイスの電圧印加時断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明の二色性色素化合物は、一般式(I)または一般式(II)により示される構造を有するので、異なる官能基の組み合わせによって緑色、青色、黄色、橙色、紫色、赤色などそれぞれ異なる種々の色を呈し、溶解度に優れるのみならず、卓越した光安定性を有する。
【0058】
【化17】

【0059】
(式中、X1およびX2はそれぞれ独立にH、−OH、−NH2を表わす。
1は、
【0060】
【化18】

【0061】
を表わし、
2はH、F、Cl、Br、−NH2、−NO2、または
【0062】
【化19】

【0063】
を表わす。
AおよびBはそれぞれ独立にO、Sまたは−NH−を表わす。
1およびZ2はそれぞれ独立にO、S、
【0064】
【化20】

【0065】
を表わす。
Ar1、Ar2、Ar3およびAr4はそれぞれ独立にフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基または複素環基を表わす。
1およびR2はそれぞれ独立に−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、フェニル基、−NCS、−N(R32または、
【0066】
【化21】

【0067】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。)
【0068】
【化22】

【0069】
(式中、Lは、
【0070】
【化23】

【0071】
を表わす。
1およびP2はそれぞれ独立に−H、−R3、−OR3、−NHR3、−N(R32、または
【0072】
【化24】

【0073】
を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
iおよびjはそれぞれ独立に0、1または2を表わす。)
【0074】
前記R1、R2およびR3が、アルキル基の場合は炭素数1〜8である。アルコキシル基の場合は、炭素数1〜8であり、シクロアルキル基の場合は、炭素数3〜6であり、フルオロアルキル基の場合は、炭素数1〜4であり、これらの置換基のアルキル部分は、直鎖でも分枝構造を有していてもよい。
【0075】
前記二色性色素化合物を液晶中に添加すると、その配向秩序パラメータを0.7以上にすることができ、好ましくは0.8以上とすることができる。
【0076】
前記二色性色素化合物との混合比は特に限定されるものではないが、二色性色素化合物が0.5〜5重量%含まれることが好ましく、2.5〜3重量%であることがより好ましい。
【0077】
また、本発明は、少なくとも2種の前記二色性色素化合物を混合した二色性色素組成物に関する。二色性色素化合物の組合せは、特に限定されず、前記一般式(I)および(II)のいずれかの構造を有すればよい。
【0078】
前記二色性色素組成物は、前記化合物の組合せによって、種々の色を有するものであり、例えば黒色二色性色素組成物であり得る。
【0079】
前記二色性色素組成物を液晶中に添加すると、その配向秩序パラメータを0.7以上にすることができ、好ましくは0.8以上とすることができる。
【0080】
さらに、本発明は、液晶(以下、液晶化合物と称することがある。)と前記二色性色素化合物または二色性色素組成物とを含んでなる液晶組成物に関する。
【0081】
液晶は、特に限定されるものではなく、ネマチック型液晶(TN)、スメクチック型液晶(Sm)またはコレステリック型液晶(Ch)を、公知の種々の液晶から目的に応じて選択することができる。
【0082】
液晶組成物においては、液晶と前記二色性色素化合物は、二色性色素化合物の重量を液晶の重量の0.5〜5%とすることが好ましく、1〜3%とすることがより好ましく、さらに好ましくは2.5〜3%である。
【0083】
また、本発明は、前記液晶組成物を重合体の壁に包み込んだマイクロカプセル化液晶組成物に関する。
【0084】
前記重合体は、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはポリウレアであることが好ましく、目的によって選択すればよい。
【0085】
前記マイクロカプセル化液晶組成物の製造方法は、特に限定されない。
【0086】
本発明の提供する液晶表示デバイスは、少なくとも1種の前記二色性色素化合物を含んでなる。この液晶表示デバイスに用いる駆動モジュールは、アクティブ駆動モジュール、パッシブ型、セグメント型の表示方式に対応するマルチプレックス駆動モジュールとすることができる。また、この液晶表示デバイスは、透過型液晶表示デバイス、反射型液晶表示デバイスまたは半透過型液晶表示デバイスであり得る。
【0087】
以下、本発明の二色性色素化合物、組成物、液晶組成物、マイクロカプセル化液晶組成物および液晶デバイスについて実施例を挙げ、図面と対応させながら本発明の方法、特徴および長所をより詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0088】
下表1および表2に、本発明による一般式(I)または一般式(II)で示される構造を満たす二色性色素化合物の実施例を挙げる。全部で41種類の異なる構造の化合物がある。これらの化学構造もそれぞれ表中に示しており、各々の持つ官能基が明確となるはずである。また、表1、2および表2には、前記二色性色素化合物を含む液晶組成物のUV吸収、配向秩序パラメータ、二色比、および光色などの物理特性も同時に記してある。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
次に、表1、2および3における実施例7、9、21、34、35および36を例にとり、本発明の二色性色素化合物の調製方法を詳細に説明する。
【0093】
実施例7
実施例7の二色性色素(化合物c)の合成スキームを下記の化学反応式(1)により示す。
【0094】
【化25】

【0095】
化学反応式(1)
式中の化合物bおよびcは次のようにして合成した。
【0096】
温度計が取り付けられた二口丸底フラスコに、4−エチニルアニリン(4-Ethynylaniline、化合物a)1.17gと、6N塩酸25mlを入れて固体を溶解させた。温度が0〜−5℃まで下げ、水に溶解した亜硝酸ナトリウム(NaNO2)1gを0〜−5℃に保ちながらゆっくり滴下し、完全に滴下し終わったのち、2時間攪拌してジアゾニウム塩/塩酸混合液を得た。次いで、温度計とpH計が装着された三つ口丸底フラスコに、N,N-ジエチルアニリン1.64g、メタノール20mlおよび酢酸ナトリウム1gを入れた。そしてフラスコ内の温度を0℃以下に下げ、先に合成したジアゾニウム塩/塩酸混合液をゆっくり滴下して加えた。この間、反応温度を5℃以下に制御すると共に、pH値を5〜6の間に保持しておいた。完全に滴下し終わるのを待って、さらに2時間攪拌したら、溶液全体を氷水にあけ、1N水酸化ナトリウム溶液で溶液全体のpH値を6〜7に調整したのち、濾過、乾燥して橙色の固体(化合物b)を回収した。収率は60%であった。
【0097】
化合物b0.277g、酢酸銅二水和物0.4g、およびピリジン10mlを反応容器に入れて50℃に加熱し、30分間攪拌したのち、反応が終了するのを待ってピリジンを除去した。続いて、エチルアセテート/ヘキサンを用いてカラムクロマトグラフィーを行い、有機層を回収してから分留し、CH2Cl2/MeOHで再結晶させて、橙色の固体(化合物c)を得た。収率は80%であった。
【0098】
実施例9
実施例9の二色性色素(化合物f)の合成スキームを下記の化学反応式(2)により示す。
【0099】
【化26】

【0100】
化学反応式(2)
式中の化合物eおよびfは次のようにして合成した。
【0101】
1,5-ジクロロアントラキノン(化合物d)11.08g、4-アミノチオフェノール5g、炭酸ナトリウム8.47g、およびDMF150mlを反応フラスコに取り、80℃に加熱して6時間攪拌した。反応が終了したらその混合液を氷水にあけ、希塩酸でpH値を6〜7に調整し、濾過、乾燥して黄色の固体(化合物e)を回収した。収率は85%であった。
【0102】
黄色の固体(化合物e)0.36g、4-ブトキシベンズアルデヒド(4-butoxybenzaldehyde)0.178g、p-トルエンスルホン酸(TsOH)0.05g、およびトルエン100mlを反応フラスコに取り、ディーン・スターク(dean stark)蒸留装置により150℃に加熱し還流させて水分を除去し、24時間反応させた。反応が終了したら、トルエンを除去し、クロロホルムで黄色の固体を溶解して有機溶液を回収した。そして溶剤を除去したのち、CH2Cl2/MeOHで再結晶させ、黄色の固体(化合物f)を得た。収率は83%であった。
【0103】
実施例21
実施例21の二色性色素(化合物i)の合成スキームを下記の化学反応式(3)により示す。
【0104】
【化27】

【0105】
化学反応式(3)
式中の化合物hおよびiは次のようにして合成した。
【0106】
化合物g0.65g、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)0.45g、およびジオキサン(dioxane) 20mlを丸底フラスコに入れ、130℃に加熱して24時間攪拌した。反応が終了したらその混合液を冰水にあけ、濾過、乾燥したのち、カラムクロマトグラフィーで分離し、青紫色の固体(化合物h)を回収した。収率は55%であった。
【0107】
化合物h0.68g、4-ブトキシアニリン(4-butoxyaniline) 0.4g、p-トルエンスルホン酸(TsOH )0.1g、およびトルエン100mlを反応フラスコに取り、ディーン・スターク(dean stark)蒸留装置で150℃に加熱し還流させて水分を除去し、24時間反応させた。反応が終了したら、エチルアセテート/水で抽出し、有機溶液を回収した。そして溶剤を除去したのち、CH2Cl2/MeOHで再結晶させ、紫色の固体(化合物i)を回収した。収率は85%であった。
【0108】
実施例34
実施例34の二色性色素(化合物n)の合成スキームを下記の化学反応式(4)により示す。
【0109】
【化28】

【0110】
化学反応式(4)
式中の化合物k、l、mおよびnは次のようにして合成した。
【0111】
温度計が装着された二口丸底フラスコに、精製した化合物j5gとHCl(6N)50mlを入れ、固体が溶解するまで攪拌した。氷浴で0〜−5℃に冷却したら、水に溶解した亜硝酸ナトリウム(NaNO2)2.1gをゆっくり滴下した。この間、温度は0〜−5℃に保っておいた。完全に滴下し終わったのち、2時間攪拌を行った。次いで、温度計とpH計が装着された三つ口丸底フラスコを準備し、フェノール2.8g、メタノール40ml、および酢酸ナトリウム2gを加えた。その反応フラスコ内の温度を0℃以下まで下げてから、先に合成した化合物j混合液をゆっくり滴下した。この間、反応温度は5℃以下に制御し、pH値は8〜9に保っておいた。そして、完全に滴下し終わってから、2時間攪拌を行った。続いて、溶液全体を氷水中にあけ、6N塩酸で溶液全体のpH値を6〜7に調整してから、濾過、乾燥して橙色の固体(化合物k)を回収した。収率は65%であった。
【0112】
化合物k4g、ブロモオクタン3.86g、炭酸カリウム5.5g、およびエタノール100mlをシングルネック丸底フラスコに入れ、100℃に加熱して24時間還流させた。反応が終了したらその混合液を氷水にあけ、pHを6〜7に調整してからメタノールで洗浄し、濾過、乾燥して橙黄色の固体(化合物l)を回収した。収率は78%であった。
【0113】
化合物l1.45g、硫化ナトリウム九水和物8.64gおよびエタノール100mlをシングルネック丸底フラスコに入れ、100℃に加熱して1時間還流させた。反応が終了したら、エタノールを除去して、その粘性のある混合液を氷水にあけ、水ですすいたのち、濾過、乾燥して橙色の固体(化合物m)を回収した。収率は80%であった。
【0114】
シングルネック丸底フラスコを準備し、化合物m0.86g、1,5-ジヒドロキシ-4,8-ジニトロアントラキノン(1,5-dihydroxy-4,8-dinitroanthraquinone)0.33g、およびニトロベンゼン10mlを入れて、180℃に加熱し24時間還流させた。反応が終了したら、減圧蒸留によりニトロベンゼンを除去し、その反応フラスコ中にプロピレングリコールをさらに加えて攪拌することにより固体を析出させた。そして、メタノールですすぎ、濾過、乾燥して緑色の固体(化合物n)を回収した。収率は65%であった。
【0115】
実施例35
実施例35の二色性色素(化合物o)の合成スキームを下記の化学反応式(5)により示す。
【0116】
【化29】

【0117】
化学反応式(5)
式中の化合物oは次のようにして合成した。
【0118】
シングルネック丸底フラスコに緑色の固体である化合物n1.45g、硫化ナトリウム九水和物6g、水10ml、およびエタノール100mlを入れ、100℃に加熱して4時間還流させた。反応が終了したら、エタノールを除去して、その粘性のある混合液を氷水にあけ、水ですすいたのち、濾過、乾燥して緑色の固体(化合物o)を回収した。収率は70%であった。
【0119】
実施例36
実施例36の二色性色素(化合物p)の合成スキームを下記の化学反応式(6)により示す。
【0120】
【化30】

【0121】
化学反応式(6)
式中の化合物pは次のようにして合成した。
【0122】
化合物n0.72g、炭酸ナトリウム0.3g、2-ナフタレンチオール0.2g、およびDMF10mlを丸底フラスコに入れ、80℃に加熱して4時間攪拌した。反応が終了したら、混合液を氷水にあけ、希塩酸でpH値を6〜7に調整し、濾過、乾燥して緑色の固体(化合物p)を回収した。収率は85%であった。
【0123】
(二色性色素の光安定性テスト)
本発明にかかわる二色性色素が優れた光安定性を持つことを証明するべく、本発明実施例9で得られた二色性色素と市販の色素(SI−426、SI-486およびM-137、三井化学(株)製)それぞれに対して吸収光安定性試験を行った。試験は、350nmのUVランプで対象色素を照射し、紫外可視光線で対象色素の吸収度を測定した上で、照射時間と吸収度をプロットし、二色性色素の光安定性の高低を観測することにより実施した。その結果を図1および表4に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
表4に示された実験データより、本発明実施例9による二色性色素は、市販の色素(SI−426、SI-486およびM-137)に比べて良好な光安定性を備えることがわかった。
【0126】
実施例42(二色性色素組成物)
2種または2種以上の異なる色の本発明による二色性色素を混合すれば、例えば黒色二色性色素組成物である二色性色素組成物を得ることができる。表5に、本発明の黒色二色性色素組成物を形成し得る組成を示す。
【0127】
【表5】

【0128】
実施例43(液晶組成物)
実施例42の黒色二色性色素組成物を液晶(メルク社製、ZLI-5100-100)に、色素組成物の色素総重量が該液晶重量の0.85%となるように溶解し、全波長(400から700nm)吸収のゲストホスト型二色性色素−液晶組成物を得た。この黒色の色素組成物は、実用において許容できる二色比と溶解度、そして、卓越した光安定性を有していた。
【0129】
上記で得られたゲストホスト型二色性色素−液晶組成物を、ノーマリーブラック(normally black)の厚さが6から8μmである均質な(homogeneous)サンプルを作製した。そのサンプルを偏光フィルタと組み合わせて、Eldim製の計測装置により輝度を測った。図2はその測定結果である。サンプルは良好な二色比(N)を示した。例えば、波長426nmで二色比は9、配向秩序パラメータ(SD)は0.73であり、波長580nmで二色比は10.3、配向秩序パラメータ(SD)は0.76であり、波長635nmで二色比は12.7、配向秩序パラメータ(SD)は0.8であった。
【0130】
本発明による二色性色素または二色性色素組成物を、さらに液晶と混ぜ合わせることで液晶組成物を作製することができる。そしてこの液晶組成物を、さらに重合体の壁で包み込んで、マイクロカプセル化液晶組成物を作製することもできる。以下に、黒色二色性色素組成物とホスト液晶を含むマイクロカプセル化液晶組成物の調製の実施例を挙げる。
【0131】
実施例43(マイクロカプセル化液晶組成物)
実施例42で得られた黒色二色性色素組成物0.06g、および5gの液晶(E7、メルク製)を反応フラスコに入れ、攪拌しながら2時間加熱し、得られた溶液を室温に保って一晩置いた。その溶液を0.2μmのPTFEメンブレン(アルドリッチケミカル製)に通し、液晶組成物を得た。続いて、Desmodur N-3200(バイヤー製)0.1g、および黒色色素液晶組成物2gを攪拌しながら15分間加熱したのち、攪拌下に10%PVA(エアプロダクツ製、Airvol V205)溶液10g中に加えた。得られた混合物を、50℃、3000rpmで2分間乳化して、粒径を1から6μmにしたら、50℃、500prmで8時間反応させ、その間に、10%DABCO(アルドリッチケミカル製)0.60g、トリエタノールアミン0.75g、ジエチレングリコール0.34g、およびジブチルスズジアセテート(アルドリッチケミカル製)0.07gを、数分間間隔で別々に該溶液中に加えた。反応終了後、その溶液に10%NH4OH0.15gを加え、得られた希釈液を室温で一晩置いてから、遠心装置で精製して、液晶カプセルの粒度分布が狭いマイクロカプセル化液晶組成物を得た。偏光顕微鏡で観測したところ、粒度は3〜4μmであった。
【0132】
そして、実施例43で得られたマイクロカプセル化液晶組成物を350nmのUVランプで照射し、紫外可視光線で対象色素の吸収度を測定した上で、照射時間と吸収度をプロットし、該マイクロカプセル化液晶組成物の光安定性の高低を観測した。その結果を図3および表6に示す
【0133】
【表6】

【0134】
これとは別に、実施例42で得られた黒色二色性色素組成物と誘電異方性が正の液晶(DH0381-110)とを混和して、未乾燥膜厚が50μmのディスプレイ用フィルムを作製した。続いて、LCD評価装置(大塚電子(株)製、LCD 5100)によって直接コントラスト比を測定した。その透過率と電圧の関係は図4に示すとおりである。また、このディスプレイ用フィルムの特性を表7に示す。
【0135】
【表7】

【0136】
本発明による新規な二色性色素はいずれも、ネマチック液晶(TN)、スメクチック液晶(Sm)、またはコレステリック液晶(Ch)化合物と組み合わせることによって、新規なゲストホスト型二色性色素液晶組成物を作り出すことのできるものである。
【0137】
この新規なゲストホスト型二色性色素液晶組成物は、公知技術を用いて透過型、半透過型または反射型液晶表示デバイスに用いることができ、かつ、アクティブ型またはパッシブ型駆動モードに適用可能である。
【0138】
図5および6の例により本発明の液晶表示デバイスを説明する。この液晶表示デバイスは、本発明の二色性色素化合物を含む液晶組成物を反射型表示デバイスの液晶セルに入れたものである。図5に示す電圧無印加時に、液晶化合物4と二色性色素化合物5は共に規則正しく配列しており、入射光1を吸収するため、暗表示となる。図6に示す電圧印加時には、液晶化合物4と二色性色素化合物5は共に電界の方向と平行に配列し、入射光1を透過させて反射電極6または反射基板7で反射させるため、明表示となる。
【0139】
本発明を好ましい実施例によって以上のように開示したが、これは本発明を限定しようとするものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて変更および修飾を施すことができる。
【符号の説明】
【0140】
1 入射光
2 透明基板
3 インジウムスズ酸化物
4 液晶化合物
5 二色性色素化合物
6 反射電極
7 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(II)により示される構造を有する二色性色素化合物。
【化1】

(式中、Lは、
【化2】

を表わす。
1およびP2はそれぞれ独立に−H、−R3、−OR3、−NHR3、−N(R32、または
【化3】

を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
iおよびjはそれぞれ独立に1または2を表わす。)
【請求項2】
請求項1記載の二色性色素化合物を少なくとも2種混合してなる二色性色素組成物。
【請求項3】
黒色二色性色素組成物である請求項1または2記載の二色性色素組成物。
【請求項4】
液晶と、下記の一般式(II)で示される構造を有する二色性色素である少なくとも1種の二色性色素とを含む液晶組成物。
【化4】

(式中、Lは、
【化5】

を表わす。
1およびP2はそれぞれ独立に−H、−R3、−OR3、−NHR3、−N(R32、または
【化6】

を表わす。
3は−H、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基または−NCSを表わす。
iおよびjはそれぞれ独立に1または2を表わす。)
【請求項5】
前記液晶が、ネマチック型液晶(TN)、スメクチック型液晶(Sm)またはコレステリック型液晶(Ch)である請求項4記載の液晶組成物。
【請求項6】
前記二色性色素化合物が二色性色素組成物を構成している請求項4または5記載の液晶組成物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の液晶組成物を重合体の壁に包み込んだマイクロカプセル化液晶組成物。
【請求項8】
前記重合体が、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはポリウレアである請求項7記載のマイクロカプセル化液晶組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の請求項1に記載の二色性色素化合物を含む液晶組成物またはマイクロカプセル化液晶組成物を含む液晶表示デバイス。
【請求項10】
使用する駆動モジュールがアクティブ駆動モジュールまたはマルチプレックス駆動モジュールである請求項9記載の液晶表示デバイス。
【請求項11】
透過型、反射型または半透過型の液晶表示デバイスである請求項9記載の液晶表示デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−47775(P2010−47775A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273682(P2009−273682)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【分割の表示】特願2005−375918(P2005−375918)の分割
【原出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】