説明

二軸延伸フィルムの製造方法及び二軸延伸フィルム製造装置

【課題】端部にタルミの少ない二軸延伸フィルムの製造方法、及びそのための二軸延伸フィルム製造装置を提供すること。
【解決手段】二軸延伸フィルム製造装置100は、二軸延伸装置10と、熱処理装置40とを含むとともに、張力制御装置50を熱処理装置40の下流側に備えており、張力制御装置50は、熱処理装置40の内部で熱処理を受けている基材フィルム2に対し、下記式(1)に示す張力Tを加える。
98≦ T≦ 196・・・(1)
(式中、Tは、基材フィルム2の幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸フィルムの製造方法及び二軸延伸フィルム製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸フィルムは、各種包装材料の表基材として多色印刷が施されて使用されることが多い。一方、二軸延伸フィルムを製造する際は、延伸後の基材フィルムに熱処理(熱固定)を施すことが一般的である。この熱処理により、二軸延伸フィルムの耐熱性等が飛躍的に向上して、実用上優れたフィルムとなる。
熱処理方法としては、一般に、テンター方式が用いられる。具体的には、延伸後の基材フィルムの両端をクリップ等で固定しながら、熱処理装置の中を走行させて熱処理を行う。このとき、基材フィルムの中央部が収縮応力のために元に戻ろうとする力が働き、その結果、いわゆるボーイング現象が生ずる。すなわち、基材フィルムの両端部はクリップ等で固定されているため、基材フィルムの中央部が両端部に比べて相対的に進行が遅れ、いわば弓なりに変形(ボーイング)した状態で熱処理装置から排出されることになる。
【0003】
このようなボーイング現象が生ずると、熱処理された基材フィルム(二軸延伸フィルム)の端部と中央部とでは、フィルム外観に何ら差はなくとも、物性に差を生じることになる。例えば、二軸延伸ナイロンフィルムでは、フィルムの端部が特にタルミを生じやすく、印刷やラミネートの際にトラブルを起こす原因ともなる。
そこで、熱処理装置において、基材フィルムの耳部(端部)付近の加熱温度を他の部分よりも高めに設定する方法(例えば、特許文献1)や、基材フィルムに2段階の熱処理を行う方法(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−126523号公報
【特許文献2】特開平3−106635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、加熱温度の制御が困難であり、特許文献2の方法では、一段目の熱処理装置を非常に大きくする必要があるなど、操作面や設備面での課題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ボーイング現象の少ない二軸延伸フィルムを安定して製造することのできる二軸延伸フィルムの製造方法、及び二軸延伸フィルム製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法は、二軸延伸工程と、その後に行われる熱処理工程とを含む二軸延伸フィルムの製造方法であって、前記熱処理工程において熱処理を受けている基材フィルムに対し、下流側より下記式(1)に示す張力Tを加えることを特徴とする。
98≦ T ≦196・・・(1)
(式中、Tは、基材フィルムの幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)
【0008】
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法によれば、熱処理工程において、熱処理を受けている基材フィルムに対し、特定の範囲の張力を下流側から加えることになる。それ故、基材フィルムは、熱処理時に収縮する方向と逆方向に延伸されることとなり、結果的に基材フィルムに生ずるボーイング現象を少なくすることができる。ここで、張力Tが98N未満であると、熱固定後のフィルムの両端部にタルミが発生しやすくなり、フィルムの平滑性が失われて、印刷やラミネート加工の際にトラブルを起こしやすくなる。一方、張力Tが196Nを超えると、熱処理装置のテンター内でフィルムの破断が生じやすくなる(熱処理成形性の悪化)。張力Tとしては、好ましくは、118N以上、176N以下である。
【0009】
本発明では、前記張力は、前記熱処理工程の下流側に設けられた張力制御装置により制御されることが好ましい。
本発明によれば、基材フィルムに対する張力が熱処理工程の下流側に設けられた張力制御装置により制御されるため、設備的に、熱処理工程を通過中の基材フィルムに対して、張力をかけることが容易となる。また、二軸延伸フィルム製造装置自体を簡素化できる。
【0010】
本発明では、前記張力制御装置がダンサーロールを備えていることが好ましい。
本発明によれば、張力制御装置がダンサーロールを備えており、ダンサーロールの上下動という簡易な動作により、基材フィルムに張力を加えることができる。すなわち、張力制御装置自身に複雑な構成を必要としない。
【0011】
本発明では、前記熱処理工程が、予備熱処理工程と、その後に行われる本熱処理工程とを含んでいることが好ましい。
本発明によれば、基材フィルムが、予備熱処理工程を通過するため、基材フィルムの結晶化度が増して、その後に行われる本熱処理工程における熱処理が円滑に進む。なお、予備熱処理工程と区別できる場合は、本熱処理工程を単に熱処理工程ともいう。
【0012】
本発明では、二軸延伸がチューブラー方式であることが好ましい。
チューブラー方式であれば、MD方向(フィルムの移動方向)とTD方向(フィルムの移動方向に直交する方向)の同時二軸延伸を行うことができるため、得られた二軸延伸フィルムがMD方向とTD方向の強度バランスに優れる。
【0013】
本発明の二軸延伸フィルム製造装置は、二軸延伸装置と、熱処理装置とを含む二軸延伸フィルム製造装置であって、張力制御装置を前記熱処理装置の下流側に備え、前記張力制御装置は、前記熱処理装置の内部で熱処理を受けている基材フィルムに対し、下記式(1)に示す張力Tを加えることを特徴とする。
98 ≦T≦ 196・・・(1)
(式中、Tは、基材フィルムの幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)
【0014】
本発明によれば、熱処理装置の内部で熱処理を受けている基材フィルムに対し、下流側に位置する張力制御装置から特定の範囲の張力を加えることになる。それ故、基材フィルムは、熱処理時に収縮する方向と逆方向に延伸されることとなり、結果的に基材フィルムに生ずるボーイング現象を少なくすることができる。
【0015】
本発明では、前記張力制御装置がダンサーロールを備えていることが好ましい。
本発明によれば、張力制御装置がダンサーロールを備えており、ダンサーロールの上下動という簡便な機構で基材フィルムに張力をかけることができる。それ故、二軸延伸フィルム製造装置自体が簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明である二軸延伸フィルムの製造方法を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳述する。具体的には、二軸延伸フィルム製造の各工程を構成する装置とその動作について詳細に説明する。
〔二軸延伸フィルム製造装置の概要〕
図1は、本発明の一例として、チューブラー方式の二軸延伸フィルム製造装置100を示した模式図である。
【0017】
二軸延伸フィルム製造装置100は、未延伸原反フィルム1(以後、原反フィルム1ともいう)を延伸する二軸延伸装置(チューブラー延伸装置)10と、延伸後に折り畳まれた基材フィルム2(以後、単にフィルム2ともいう)を予熱する予備熱処理装置(予熱炉)20と、予熱されたフィルム2を上下2枚に分離する分離装置30と、分離されたフィルム2を熱処理(熱固定)する熱処理装置40と、フィルム2が熱固定されるときに、下流側からフィルム2に張力を加える張力制御装置50と、フィルム2が熱固定されてなる二軸延伸フィルム3(以後、単にフィルム3ともいう)を巻き取る巻取装置60とを備えている。
【0018】
チューブラー延伸装置10は、押出機(図示せず)により製造されたチューブ状の原反フィルム1を内部空気の圧力により二軸延伸してフィルム2を製造するための装置である。そして、このフィルム2を扁平に折り畳んで下流の予熱炉20に送る手段として、案内板11及びピンチロール12を備えている。
【0019】
予熱炉20は、扁平となったフィルム2を予備的に熱処理するための装置である。フィルム2の収縮開始温度以上であって、フィルム2の融点よりも約30℃低い温度かそれ以下の温度でこのフィルム2を予め熱処理する。この予備的な熱処理により、フィルム2の結晶化度が増して、重なり合ったフィルム同士の滑り性が良好になる。
【0020】
分離装置30は、ガイドロール31と、トリミング装置32と、分離ロール33A、33Bと、溝付きロール34A〜34Cとを備えている。
トリミング装置32は、ブレード321を有しており、ガイドロール31を介して送られた扁平なフィルム2の両端部を切開して2枚のフィルム2A、2Bに分離する。そして、上下に離れて位置する一対の分離ロール33A、33Bにより、ガイドロール31を介して送られた両フィルム2A、2B間に空気を介在させながらこれらを分離する。この扁平なフィルム2の切開は、両端部から若干内側にブレード321を位置させることにより、一部分耳部が生じるように行ってもよく、又はフィルム2の折り目部分にブレード321を位置させることにより、耳部が生じないように行ってもよい。
次に、両フィルム2A、2Bの進行方向に順に位置する3個の溝付きロール34A〜34Cにより両フィルム2A、2Bは、再び重ねられる。なお、これらの溝付きロール34A〜34Cは、溝付き加工後、表面にめっき処理を施したものである。この溝を介してフィルム2A、2Bと空気との良好な接触状態が得られる。
【0021】
熱処理装置40は、2枚のフィルム2A、2Bの両端部を把持する手段であるテンター41と、両端部が把持された2枚のフィルム2A、2Bを熱処理するための加熱手段である加熱炉42とを備えている。この加熱炉42は、例えば熱風炉である。
重なった状態のフィルム2A、2Bは、テンター41のクリップ(図示せず)で両端部を把持されながら、フィルム2を構成する樹脂の融点以下であって、融点から約30℃低い温度以上で熱処理(熱固定)され、物性の安定した二軸延伸フィルム3(以後、フィルム3ともいう)となる。
また、加熱炉42内のフィルム2A、2Bに対しては、下流側に位置する張力制御装置50(後述)により強い張力が加えられるようになっている。
【0022】
巻取装置60は、ガイドロール61と、巻取ロール62とを備えている。熱固定されたフィルム3は、張力制御装置50を経て、ガイドロール61を介して2本の巻取ロール62に、フィルム3A、3Bとして巻き取られる。
【0023】
〔張力制御装置の概要〕
図2に、張力制御装置50を側面から見た概略図を示す。
張力制御装置50は、2本のフリーロール51A,51Bと、その中間に位置して、上下に変位(移動)可能なダンサーロール52とを備えている。
熱処理装置40から送出されたフィルム3は、フリーロール51A、ダンサーロール52を経由した後、フリーロール51Bから巻取装置60に送出される。
フリーロール51A、51Bは、熱処理装置40からのフィルム3の進行に合わせて自由回転するだけであるが、ダンサーロール52は、上下に変位可能となっている。それ故、ダンサーロール52を下方に変位させるとフィルム3の張力が上がり、逆にダンサーロール52を上方に変位させるとフィルム3の張力が下がる。すなわち、ダンサーロール52の上下への変位により、上流に位置する熱処理装置40内部で熱処理を受けているフィルム2への張力制御が可能となる。
【0024】
具体的には、熱処理装置40の内部で熱処理を受けているフィルム2に対し、張力制御装置50のダンサーロール52により、下流側より下記式(1)に示す張力Tを加える。
98≦ T ≦196・・・(1)
(式中、Tは、フィルム基材の幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)
ここで、Tが98N未満であると、ボーイング現象の防止効果が十分でなく、熱固定後のフィルム3の両端部にタルミが発生しやすくなる。その結果、フィルム3の平滑性が失われ、印刷やラミネート加工の際にトラブルを起こしやすくなる。
一方、Tが196Nを超えると、熱処理装置40のテンター41内(クリップ付近)でフィルム2の破断が生じやすくなる(熱処理成形性の悪化)。張力Tとしては、好ましくは、118N以上、176N以下である。
【0025】
また、熱処理装置の内部で熱処理を受けているフィルム2に対し、下流側より加える張力Tは、下記式(2)に示す関係を満たすことが好ましい。
0.025≦ T/K ≦0.06・・・(2)
(式中、Kは、フィルム3のMD方向の破断強度であり、単位はMPaである。破断強度の測定は、ASTM D 882に準拠して行う。)
ここで、T/Kが0.025未満であると、ボーイング現象の防止効果が十分でなく、熱固定後のフィルム3の両端部にタルミが発生しやすくなる。その結果、フィルム3の平滑性が失われ、印刷やラミネート加工の際にトラブルを起こしやすくなる。一方、T/Kが0.06を超えると、熱処理装置40のテンター41内(クリップ付近)でフィルム2の破断が生じやすくなる(熱処理成形性の悪化)。T/Kは、好ましくは0.027以上、0.053以下である。
【0026】
上述のように、本発明の二軸延伸フィルム製造装置100によれば、熱処理装置40の内部で熱処理を受けているフィルム2に対し、下流側に張力制御装置50を設置して、特定の張力制御を行うので、熱固定後のフィルム3の両端部にタルミが発生しにくくなり、その結果、印刷やラミネート加工の際にトラブルを起こすことがなくなる。
また、張力制御装置50は、ダンサーロール52の上下動という簡便な機構によりフィルム2への張力を制御しており、二軸延伸フィルム製造装置全体を複雑化することがないため、実用上も有利である。
【0027】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、構造、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、構造などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである
【0028】
例えば、本実施形態では、張力制御装置50による張力制御をダンサーロール52の上下動により行ったが、張力の制御方式はそれに限られない。例えば、巻取装置60によるフィルム3の巻き取り速度(巻き取り力)を制御することによって行ってもよい。
また、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式でもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【実施例】
【0029】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。なお、装置等として共通する箇所は、実施形態における図の符号と同じ符号を使用した。
[実施例1〜5、比較例1〜6]
前記した実施形態(図1)において、具体的条件を設定して二軸延伸ナイロンフィルム3を製造した。
結晶性熱可塑性樹脂として、ポリアミド系のナイロン6(相対粘度3.7)を使用し、直径60mmの環状ダイから溶融押し出しした後、15℃の冷却水中で急冷し、直径90mm、厚さ120μm又は200μmの原反フィルム1(チューブ状ナイロンフィルム、収縮開始温度45℃、融点215℃)を作製した。この原反フィルム1をチューブラー延伸装置10において赤外線ヒータを使用して加熱しながら、延伸倍率MD(フィルムの移動方向)/TD(直交方向)=3.0/3.2で同時二軸延伸してフィルム2を得た。
次に、このフィルム2を案内板11とピンチロール12に連続的に供給して折り畳むことにより、扁平なチューブ状のフィルム2とした。
【0030】
次に、この扁平となったフィルム2を予備熱処理装置(予熱炉)20に送通し、ここで、フィルム2に60℃、5秒間の予熱を行い、予め予備処理を行った。予熱炉20の内部には、左右にフィルム2の端部を把持して走行するクリップ(図示せず)が配設されている。
次に、扁平のフィルム2の両端部を、分離装置30に付属するトリミング装置32で切開して2枚のフィルム2A、2Bに分離した後、それらのフィルム2A、2Bを分離ロール33A、33Bで離隔して内面を空気と接触させ、引き続き溝付きロール34A〜34C間を通すことにより再び重ね合わせた。
【0031】
次に、フィルム2A、2Bを熱処理装置40に導入した。具体的には、フィルム2A、2Bの両端部を、クリップを備えたテンター41で把持しながら、210℃、10秒間の熱処理(熱固定)を行い、物性の安定した二軸延伸ナイロンフィルム3(フィルム3A、3B)とした。この熱固定時には、下流に位置する張力制御装置50により表1に示す張力Tがフィルム2、3に加えられている。
次に、熱固定後のフィルム3を、巻取装置60で上下2枚(フィルム3A、3B)に分けて巻き取った。
なお、フィルム3としては、厚みが15μmのもの(実施例1〜3、比較例1〜4)と25μmのもの(実施例4、5、比較例5、6)の2種類を製造した。
ここで、表1に記載されている張力Tは、フィルム幅1mかつフィルム厚み15μmあたりに換算した値である。
【0032】
[評価方法]
以上の実施例、比較例において、フィルム3製造中の成形性(熱処理時の成形性)を評価するとともに、得られたフィルム3について、ボーイング現象の程度(ボーイング率)、タルミの程度(タルミ消失張力)、平滑性、及び印刷適性に関する評価を行い、その結果を表1に示した。
【0033】
(熱処理時の成形性)
図1の熱処理装置40内で熱処理を受けている時のフィルム2を観察して、以下のように成形性を評価した。
○:フィルム2が連続的に熱処理を受けている時間(運転時間)が12時間を経過しても熱処理装置40内で、フィルム2が破断したり、クリップからはずれたりすることがない。
△:運転時間が12時間程度で、フィルム2が破断したり、クリップからはずれたりする(運転停止)。
×:運転時間が2〜3時間程度でフィルム2が破断したり、クリップからはずれたりする(運転停止)。
【0034】
(ボーイング率)
図3に示すように、原反フィルム1に、その移動方向に対して垂直な方向に所定幅の標線Sを引き、延伸・熱処理後におけるフィルム3の標線S中央部の遅れ量ΔBと幅Lを測定し、以下の式(3)により求められる値をボーイング率(%)とした。
ボーイング率(%)=ΔB/L × 100・・・(3)
【0035】
(タルミ消失張力)
巻取装置60に巻き取られた広幅のフィルム3の端部から、1m幅のフィルム3をスリットしながら約500m採取した。そして、図4に示すようなタルミ量測定装置(小型スリッタ)70を用いて巻き替えを行いながら以下のようにしてタルミ消失張力(N)を測定した。
繰り出しロール71にセットされたロール巻状のフィルム3を、20m/min程度で繰り出しながら、中間ロール72A、72Bを経由して巻取ロール73で巻き替えを行った。その際、繰出ロール71にブレーキをかけることでフィルム3に加える張力を制御した。
フィルム3の端部にタルミがあると、走行中に端部がばたつくが、張力を上げるに従って、そのばたつきがおさまるようになる。そこで、フィルム3の端部のばたつきがおさまったときの張力をタルミ消失張力とした。具体的には、繰出ロール71と中間ロール72Aの間(約50cm)における端部SAGのばたつきを観察した。なお、タルミ消失張力はフィルム3の幅1m、厚み15μmあたりに換算した値(N)として示した。
【0036】
(平滑性)
実施例1において、上述のタルミ量測定装置70により測定されたタルミ消失張力(64.7N/1m幅・15μm厚み)を基準張力として、実施例1〜5、比較例1〜6で用いられた各フィルム3の平滑性を測定した。具体的には、タルミ量測定装置70を用い、実施例1〜5、比較例1〜6のロール巻き状のフィルム3に対して基準張力をかけながら各々1分間程度巻き替え運転を行い、以下の基準で平滑性を判断した。
○:目視でフィルム3の端部SAGにばたつきを確認できない
△:目視でフィルム3の端部SAGにばたつきを少し確認できる
×:目視でフィルム3の端部SAGにばたつきを明確に確認できる
【0037】
(印刷適性)
二軸延伸・熱処理後のフィルム3について、市販の多色刷り印刷機にて通常の運転条件で印刷(5色)を行った。走行中のフィルム端部のタルミによるばたつきにより、印刷時にいわゆるピッチずれが起こったか否かにより、以下のような基準で印刷適性を判断した。
○:印刷ピッチのずれが0.5mm以内で、実用上問題ないもの
△:印刷ピッチのずれが1mm程度認められたが、印刷機の調整で対応できたもの
×:印刷ピッチのずれが1mm以上あり、印刷機の調整が困難であったもの
【0038】
【表1】

【0039】
[評価結果]
表1に示すように、実施例では、張力制御装置による張力が所定の範囲内にあるため、熱処理におけるフィルム2の成形性は、いずれも良好であり、熱処理後のフィルム3のボーイング率も低く、タルミ消失張力も低い。結果的に、フィルム3は平滑性に優れ、印刷適性にも問題はない。なお、フィルム3の厚みは、実施例1〜3では15μm、実施例4、5では25μmであったが、いずれも良好な結果を得た。
【0040】
一方、比較例は、上述の条件を満たしていないため、いずれも問題がある。具体的には、比較例1、3、5は、熱処理時におけるフィルム2へ張力Tが非常に低いため、熱固定後のフィルム3のボーイング率が高い。それ故、タルミ消失張力も高く、印刷適性も悪い。比較例6は張力Tを比較的高めに設定しているが、それでも98N未満と本発明の範囲外であるため、フィルム3の平滑性や印刷適性が不十分である。
比較例2、4は、逆に張力Tが非常に高く、ボーイング率が低いので、タルミ消失張力も低く、印刷適性にも優れる。しかしながら、張力Tが本発明の範囲を超えており、熱処理時にテンター41内部でクリップ付近で破断が生じやすく、成形性に問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、端部にタルミの少ない二軸延伸フィルムの製造方法、及びそのための二軸延伸フィルム製造装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る二軸延伸フィルム製造装置の概略図。
【図2】前記実施形態における張力制御装置の概略図。
【図3】本発明の実施例に係るボーイング率測定法を示す模式図。
【図4】前記実施例におけるタルミ量測定装置の斜視図。
【符号の説明】
【0043】
1 未延伸原反フィルム
2 基材フィルム
3 二軸延伸フィルム(二軸延伸ナイロンフィルム)
10 二軸延伸装置(チューブラー二軸延伸装置)
20 予備熱処理装置(予熱炉)
30 分離装置
40 熱処理装置
50 張力制御装置
60 巻取装置
70 タルミ量測定装置
100 二軸延伸フィルム製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸工程と、その後に行われる熱処理工程とを含む二軸延伸フィルムの製造方法であって、
前記熱処理工程において熱処理を受けている基材フィルムに対し、下流側より下記式(1)に示す張力Tを加えることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
98≦ T≦ 196・・・(1)
(式中、Tは、基材フィルムの幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)
【請求項2】
請求項1に記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記張力は、前記熱処理工程の下流側に設けられた張力制御装置により制御されることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記張力制御装置がダンサーロールを備えていることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記熱処理工程が、予備熱処理工程と、その後に行われる本熱処理工程とを含んでいることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
二軸延伸がチューブラー方式であることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
二軸延伸装置と、熱処理装置とを含む二軸延伸フィルム製造装置であって、
張力制御装置を前記熱処理装置の下流側に備え、
前記張力制御装置は、前記熱処理装置の内部で熱処理を受けている基材フィルムに対し、下記式(1)に示す張力を加えることを特徴とする二軸延伸フィルム製造装置。
98 ≦T≦ 196・・・(1)
(式中、Tは、基材フィルムの幅1m、厚み15μmあたりの張力を示す。単位はNである。)
【請求項7】
請求項6に記載の二軸延伸フィルム製造装置において、
前記張力制御装置がダンサーロールを備えていることを特徴とする二軸延伸フィルム製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−8089(P2007−8089A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193981(P2005−193981)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】