説明

二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】温湿度膨張係数が小さく、しかも巻取り性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムの提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる芳香族ポリエステルおよび平均粒子径が50nm以上の粒子を0.01重量%以上含有する二軸配向ポリエステルフィルムであって、
芳香族ジカルボン酸成分は、その5モル%以上80モル%未満が、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であり、少なくとも一方の表面は、10点平均粗さ(Rz)を表面粗さ(Ra)で割った値(Rz/Ra)が、20以上である二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合した芳香族ポリエステルを用いた二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性、特に湿度膨張係数と温度膨張係数を小さくするといった特性の向上が求められている。
【0003】
そして、二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、湿度膨張係数と温度膨張係数はともにヤング率と非常に密接な関係にあり、ヤング率が高いほど低くなりやすい。しかしながら、ヤング率はいくらでも高められるというわけではなく、製膜性や直交する方向のヤング率確保の点から自ずと限界がある。そのため、同じヤング率ならより低い温度や湿度に対する膨張係数をもつフィルムが求められる。そのような状況の下、特許文献1〜4に記載のポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートからなるフィルムは、ヤング率が低くても低い湿度膨張係数を示すことから好適なフィルムとして考えられた。
【0004】
しかしながら、前述の特許文献1〜4を見ると、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートからなるフィルムは、一方のヤング率はきわめて高くできるものの、それに直交する方向のヤング率が極めて低くなるという問題があった。また、湿度膨張係数が非常に小さいものの温度膨張係数が非常に高いという問題もあった。
【0005】
ところが、本発明者らが、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合成分として用いたとき、驚くべきことにポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートとその共重合相手である芳香族ポリエステルの両方の優れた特性を兼備するフィルムが得られることを見出し、先に出願した。
【0006】
ただ、このように優れた6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合成分として用いたポリエステル樹脂や二軸配向ポリエステルフィルムだが、延伸応力が低いためか、Raに比べてRzが低くなりやすい、すなわち大きな突起が形成されにくく、巻き取る際の空気抜けが悪く、巻き姿が不良になりやすいという問題があることが判明した。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、温湿度膨張係数が小さく、しかも巻取り性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明によれば、 芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる芳香族ポリエステルおよび平均粒子径が50nm以上の粒子を0.01重量%以上含有する二軸配向ポリエステルフィルムであって、
芳香族ジカルボン酸成分は、その5モル%以上80モル%未満が、下記式(I)
【化1】

(上記構造式(I)中の、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基を示す。)
で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であり、
少なくとも一方の表面は、10点平均粗さ(Rz)を表面粗さ(Ra)で割った値(Rz/Ra)が、20以上である二軸配向ポリエステルフィルムが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、含有する粒子の粒度分布が、相対標準偏差で0.5以上であること、少なくとも一方の表面は、10点平均粗さ(Rz)が10〜400nmの範囲にあること、少なくとも一方の表面は、表面粗さ(Ra)が1〜20nmの範囲にあること、粒子が、シリカ粒子、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋ポリエステル粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であること、粒子の平均粒径が、50〜1000nmの範囲にあり、含有量が、フィルムの重量を基準として、0.05〜0.5重量%の範囲にあること、上記本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの片面に、他のフィルム層が積層されていること、および磁気記録媒体のベースフィルムに用いられることの少なくともいずれかを具備する二軸配向ポリエステルフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温湿度変化に対する膨張係数を低くできる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合しながらも、巻取り性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムが提供される。
したがって、本発明によれば、高度の寸法安定性と巻取り性とが求められる用途、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムに適したフィルムが提供され、そして、本発明のフィルムを用いれば、優れた寸法安定性を有する高密度磁気記録媒体なども提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<芳香族ポリエステル>
本発明において、二軸配向ポリエステルフィルムを形成する芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるものである。具体的な前述の式(I)で示される芳香族ジカルボン酸成分以外の芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール成分、トリメチレングリコール成分、テトラメチレングリコール成分、シクロヘキサンジメタノール成分などが挙げられる。もちろん、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を共重合しても良い。
【0013】
前述の式(I)で示される芳香族ジカルボン酸成分以外の芳香族ジカルボン酸成分から形成される具体的な芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのアルキレンテレフタレートを繰り返し単位とするポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートなどのアルキレン−2,6−ナフタレートを繰り返し単位とするポリアルキレン−2,6−ナフタレートが好ましく挙げられ、これらの中でも機械的特性などの点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましく、特にポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。そのような観点から、グリコール酸成分の90モル%以上はエチレングリコール成分であることが好ましい。好ましいエチレングリコール成分の割合は、90〜100モル%、さらに95〜100モル%の範囲である。
【0014】
ところで、本発明の特徴の一つは、前述の芳香族ポリエステルの酸成分が、5モル%以上80モル%未満の範囲で上記式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることである。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が下限未満では共重合による湿度膨張係数の低減効果が乏しくなりやすい。なお、上限は、成形性などの観点から、80モル%未満であることが必要である。また、驚くべきことに、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分による湿度膨張係数の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、50モル%未満でほぼ飽和状態に近く、50モル%未満であることが好ましい。そのような観点から好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量の上限は、45モル%以下、さらに40モル%以下、よりさらに35モル%以下、特に30モル%以下であり、他方下限は、5モル%以上、さらに7モル%以上、よりさらに10モル%以上、特に15モル%以上である。
【0015】
このような特定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合した芳香族ポリエステルを用いることで、同じヤング率なら温度膨張係数を大きくすることなく湿度膨張係数の小さいフィルムとすることができる。
【0016】
また、前述の構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分としては、Rの部分が炭素数1〜10のアルキレン基であるものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、上記一般式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0017】
つぎに、本発明における芳香族ポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合しているために溶融粘度が大きくなりやすいことから、DSCで測定した融点が、200〜260℃の範囲、さらに210〜255℃の範囲、特に220〜253℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融粘度が大きく溶融押し出しして成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなり、製膜性が低下しやすい。一方、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、芳香族ポリエステルの持つ機械的特性などの損なわれやすくなる。なお、通常他の酸成分を共重合して融点を下げれば、同時に機械的特性なども低下するが、製膜性が向上するためか、驚くべきことに共重合をする芳香族ポリエステルや特許文献2に記載の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のエステルを主たる繰り返し単位とするポリマーと同様な機械的特性などを発現することができる。
【0018】
また、本発明における芳香族ポリエステルは、DSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)が、90〜120℃の範囲、さらに95〜119℃の範囲、特に100〜118℃の範囲にあることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0019】
<フィルム>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、前述の芳香族ポリエステルを溶融製膜して、シート状に押出すことで得られる。そして、前述のとおり、溶融時の流動性やその後の結晶性が改良されていることから、製膜性に優れた、例えば厚み斑のない均一なフィルムとなる。
【0020】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、磁気テープなどのベースフィルムとして用いたときなどに、優れた巻取性を具備するために、少なくとも一方の表面は10点平均粗さ(Rz)と表面粗さ(Ra)との比(Rz/Ra)が20以上、好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上であることが必要である。いずれの表面もRz/Raが下限未満では、同じ表面粗さで比較したとき、フィルム表面に大きな突起が少なく、エア抜けが悪く、巻取り性が損なわれる。なお、Rz/Raの上限は特に制限されないが、80以下、さらに60以下であることが、大きな突起による平坦性への影響を抑えやすいことから好ましい。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、用いる用途によっても異なるが、平坦性と走行性との関係から、少なくとも一方の表面の表面粗さ(Ra)が1〜20nm、さらに2〜15nmの範囲にあることが好ましい。特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる場合は、好ましい表面粗さは、少なくとも一方の表面の表面粗さ(Ra)は1〜10nm、特に2〜8nmの範囲にあることが好ましい。特に電磁変換特性の向上を図る場合は、少なくとも一方1〜5nmの範囲、さらに2〜4nmの範囲にあることが好ましく、一方電磁変換特性と磁気記録媒体に加工するときの搬送性とを両立させる観点からは、5〜10nmの範囲、さらに6〜8nmの範囲にあることが好ましい。表面粗さ(Ra)が上限を越えると、平坦性が乏しく、例えば磁気記録媒体のベースフィルムとして用いたとき、出力特性や電磁変換特性などが乏しくなりやすい。一方、表面粗さ(Ra)が下限未満では、走行性が乏しくなりやすい。
【0022】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは用いる用途によっても異なるが、平坦性と走行性との関係から、少なくとも一方の表面の10点平均粗さ(Rz)が50〜2000nm、さらに100〜1000nmの範囲にあることが好ましい。特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる場合は、少なくとも一方の表面の10点平均粗さ(Rz)は150〜900nm、特に200〜700nmの範囲にあることが好ましい。10点平均粗さ(Rz)が上限を越えると、大きな突起が走行時に脱落しやすくなる。一方、10点平均粗さ(Rz)が下限未満では、フィルム表面に大きな突起が少なく、エア抜けが悪く、巻取り性が乏しくなりやすい。
【0023】
ところで、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに上記のような表面性を持たせるには、平均粒子径50nm以上の粒子を0.01重量%以上含有させることが必要である。平均粒子径や含有量が下限未満では、上記のような表面性を、粒子による突起形成で作ることが困難になる。また、前述のRzとRaの比を大きくするには、含有させる粒子として、粒径のバラツキの大きなものを用いることが挙げられる。そのような観点から、含有させる粒子は、粒度分布を見たとき、相対標準偏差が0.5以上であることが好ましい。このような粒子は後述のような比較的バラツキの少ない粒子を複数種用いて全体としての相対標準偏差を大きくすることが調整しやすく、さらにフィルターなどの濾過で粗大粒子などを取り除くことで過度に大きな突起の形成も抑制できる。なお、前述のRaを小さくするには、含有させる粒子の粒径を小さくしたり、含有量を少なくすればよく、他方Raを大きくするには、含有させる粒子の粒径を大きくしたり、含有量を少なくすればよい。また、Rzを大きくするには、前述の式(I)で示す6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合量を少なくしたり、含有させる粒子の中で粒径の大きなものの割合を多くすることなどが挙げられる。
【0024】
ところで、このようなフィルム中に含有させる粒子としては、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイアモンドなど)および粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子、さらに(3)異なる素材を例えばコアとシェルに用いたコアシェル型などの複合粒子など粒子の状態で添加する外部添加粒子が挙げられ、そのほかに本発明の効果を損なわない範囲でまたは(4)触媒などの析出によって形成する内部析出粒子などを挙げることができる。これらの中で特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンおよび二酸化ケイ素(但し、多孔質シリカなどは除く)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが、粒子の粒径のバラツキが小さく、過度に大きな突起の形成を抑制しやすいことから好ましい。
【0025】
好ましい粒子の平均粒径は50〜1000nm、さらに80〜800nmの範囲であり、特に磁気記録媒体として用いる場合は50〜600nm、さらに80〜400nmの範囲である。また、好ましい粒子の含有量は、フィルムの重量を基準として、0.01〜0.5重量%、さらに0.03〜0.45重量%、特に磁気記録媒体として用いる場合は0.01〜0.4重量%、さらに0.05〜0.35重量%の範囲である。なお、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムが、2つ以上のフィルム層からなる積層フィルムの場合、それぞれの粒子の含有量は、それぞれのフィルム層の重量を基準として、満足していればよい。
【0026】
さらに本発明の好ましい態様について、詳述する。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、磁気テープなどのベースフィルムとして用いたときなどにベースフィルムがフィルムにかかる応力などによって伸びないようにフィルム面方向における少なくとも一方向は、ヤング率が6.0GPa以上という高いヤング率を有することが好ましい。しかも、このように高いヤング率を有することで、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートを共重合成分として用いても十分な湿度膨張係数の低減を図ることができる。ヤング率の上限は制限されないが、通常11GPaである。好ましいヤング率は、フィルムの長手方向が5.1〜11GPa、さらに5.2〜10GPa、特に5.5〜9GPaの範囲であり、フィルムの幅方向が5.0〜11GPa、さらに6〜10GPa、特に7〜10GPaの範囲である。
【0027】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた寸法安定性を発現する点から、少くとも1方向、好ましくはフィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)がppm/℃以下であることが好ましい。フィルムの少なくとも一方向における温度膨張係数が10ppm/℃以下であることで環境変化に対する優れた寸法安定性を発現することができる。なお、特許文献3の結果から、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフタレートを共重合した場合、温度膨張係数は大きくなってしまうと予想されるが特定の共重合量の範囲で共重合し、かつそれを延伸することで、驚くべきことに温度膨張係数を小さくすることもできる。温度膨張係数の下限は制限されないが、通常−15ppm/℃である。好ましい温度膨張係数(αt)は−10〜10ppm/℃、さらに−7〜7ppm/℃、特に−5〜5ppm/℃の範囲であることが、例えば磁気記録テープとしたとき、雰囲気の温湿度変化による寸法変化に対して優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0028】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも一方向、好ましくはフィルムの幅方向における温度膨張係数の関係を満足する方向の湿度膨張係数が3〜7ppm/%RH、3〜6ppm/%RHの範囲にあることが、特に磁気記録テープにしたときの寸法安定性の点で好ましい。特に、磁気記録テープにベースフィルムに用いる場合、上記式(1)を満足する方向が二軸配向ポリエステルフィルムの幅方向であることが、トラックずれなどを極めて抑制できることから好ましい。なお、本発明において、フィルムの幅方向とは、フィルムの製膜方向(長手方向、縦方向と称することもある。)に直交する方向であり、横方向と称することもある。
【0029】
また、上記温度膨張係数が10ppm/℃以下の方向については、少なくとも一方向、好ましくは前述のとおり、幅方向が満足していれば良いが、それに直交する方向も寸法安定性の点からは、同様な温度膨張係数や湿度膨張係数、さらにヤング率などを満足することが好ましい。
【0030】
なお、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、単層フィルムに限られず、少なくとも一方の表面が、前述の本発明の二軸配向ポリエステルフィルムからなるものであれば、含有する粒子組成や樹脂種を異にする他のフィルム層を片面に積層した積層フィルムであっても良い。なお、他のフィルム層は、それ自体公知のものを好適に使用でき、剥離などの点から前述の本発明の二軸配向ポリエステルフィルムで説明したものと同様なものが好ましい。
【0031】
<芳香族ポリエステル樹脂の製造方法>
つぎに、本発明における芳香族ポリエステルの製造方法について、詳述する。
まず、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体と例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体と、例えばエチレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、ポリエステル前駆体を製造する。そして、このようにして得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在下で重合することで製造でき、必要に応じて固相重合などを施しても良い。なお、触媒としてはそれ自体公知のものを使用できる。このようにして得られる芳香族ポリエステルのP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、0.4〜1.5dl/g、さらに0.5〜1.3dl/gの範囲にあることが本発明の効果の点から好ましい。
【0032】
このようにして得られる芳香族ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合しても良い。他種熱可塑性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0033】
<フィルムの製造方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、製膜方向と幅方向に延伸してそれぞれの方向の分子配向を高めたものであり、例えば以下のような方法で製造することが、製膜性を維持しつつ、ヤング率を向上させやすいことから好ましい。
まず、上述の芳香族ポリエステルを原料とし、これを乾燥後、該芳香族ポリエステル樹脂の融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸する。
【0034】
なお、本発明で規定する両方向のヤング率、さらにαtやαhを満足させるには、その後の延伸を進行させやすくすることが必要であり、そのような観点から冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましい。そのような観点から、特許文献3に記載されるような80℃といった高温ではなく、20〜60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行うことが可能となる。
【0035】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸は共重合芳香族ポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒、さらに1〜15秒熱固定処理するのが好ましい。
【0036】
なお、通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明では6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されているので延伸性が非常に高く、そのような問題は無く、特に延伸倍率をより高くできることから、厚みが10μm以下、さらに8μm以下の薄いフィルムで特に有用である。なお、フィルムの厚みの下限は特に制限されないが、通常1μm程度、好ましくは3μmである。
【0037】
前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0038】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出し、好ましくはそれぞれのポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出すか、2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、ついで前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。このような方法を用いれば、得られる二軸配向ポリエステルフィルムの表裏にそれぞれ目的とする表面特性を付与しやすく、非常に好ましい態様である。また、前述の塗布層を設ける場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うことが好ましい。
【0039】
なお、粒子を含有させる方法については、それ自体公知の方法を採用でき、例えば前述の芳香族ポリエステルの製造工程において、反応系に添加しても良いし、得られた芳香族ポリエステルに溶融混練によって添加してもよい。粒子の分散性の点から、好ましくは芳香族ポリエステルの反応系に添加して、粒子濃度の高いポリエステル組成物をマスターポリマーとして製造し、それを粒子を含まないか、粒子濃度低いポリエステル組成物と混ぜ合わせる方法が好ましい。
【0040】
本発明によれば、本発明の上記二軸配向ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、その一方の面に非磁性層および磁性層がこの順で形成され、他方の面にバックコート層が形成することなどで磁気記録テープとすることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0042】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0043】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0044】
(3)共重合量
グリコール成分については、試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解した。イソプロピルアミンを加えて、十分に混合した後に600MのH−NMR(日立電子製 JEOL A600)にて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を測定した。
また、芳香族ジカルボン酸成分については、試料50mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、400M 13C−NMR(日立電子 JEOL A600)にて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を測定した。
【0045】
(4)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0046】
(5)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムの幅方向が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、60℃で30分前処理し、その後室温まで降温させる。その後25℃から70℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5は石英ガラスの温度膨張係数(×10−6/℃)である。
【0047】
(6)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムの幅方向が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度30%RHと湿度70%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L70−L30)/(L30×△H)
ここで、上記式中のL30は30%RHのときのサンプル長(mm)、L70は70%RHのときのサンプル長(mm)、△H:40(=70−30)%RHである。
【0048】
(7)中心面平均粗さ(Ra)および10点平均粗さ(Rz)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率10倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetroProにより中心面平均粗さ(Ra)と10点平均粗さ(Rz)を求める。
【0049】
(8)空気洩れ指数
(株)東洋精機製、デジベック平滑度試験機を用いて、まずフィルム20枚をフィルムのA面、D面が重なるように重ね合わせ、そのうち試料台最上部にくる1枚を除いて、残り19枚に直径5mmφの穴をあけ、試料台にセットする。この時、穴の中心部が試料台の中心にくるようにする。この状態で1kg/cm2の荷重を加えて、真空到達度を560mmHgに設定する。560mmHgに到達した後、常圧に戻ろうとするため、フィルムとフィルム間を空気が流れ込んでいく。この時、1時間の間30秒毎に降下していく真空度(mmHg)を測定し、測定時間(sec)に対する真空度を直線近似したときの直線の傾き(=mmHg/sec)を空気洩れ指数とする。
【0050】
(9)フィルムの巻取性
フィルムをスリットし、張力80N/m、接圧900N/m、速度180m/分の条件にて、幅1,000mm、長さ10,000mのサイズのロールに20本以上巻いた時にシワ等が全くないものの割合をスリット歩留として、下記により判定する。
◎:90%以上
○:70〜90%未満
×:70%未満
【0051】
(10)粒子の相対標準偏差
添加する粒子の相対標準偏差は、JIS Z8823−1に準拠する遠心沈降法で得られる粒度分布から以下の式にて算出した。一方、フィルム中の粒子の粒度分布はフィルム表面を、走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッターリング装置(JFC−1100型イオンエッチング装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、ベルジャー内に試料を設置し、約10−3Torrの真空状態まで真空度を上げ、電圧0.25kV、電流12.5mAにて約10分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にて、フィルム表面に金スパッターを施し、走査型電子顕微鏡にて20,000倍で観察し、得られた画像から日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500により画像解析処理を行い、個々の粒子について面積円相当径を求め、それから得られる粒度分布から以下の式にて相対標準偏差(σ)を算出した。
【0052】
【数1】

【0053】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.66dl/gで、酸成分の73モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の27モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の98モル%がエチレングリコール成分、2モル%がジエチレングリコール成分であるフィルム層B用のポリエステル(B−1)を得た。なお、該ポリエステル(B−1)には、重縮合反応の前に、エチレングリコールスラリーの状態で、平均孔径0.7μmのろ材で濾過を行なって粗大粒子を除去した、平均粒径0.5μm、相対標準偏差が0.12のシリコーン粒子(粒子B1)、平均粒径0.32μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B2)および平均粒径0.12μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B3)を、それぞれ得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%、0.10重量%および0.15重量%となるように含有させた。
【0054】
また、表1に示すとおり、粒子B1、B2およびB3の代わりに、同様のろ過を実施して粗大粒子を除去した、平均粒径0.15μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子A1)を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%と含有させた以外は、ポリエステル(B−1)と同様な操作を繰り返して、フィルム層A用のポリエステル(A−1)を得た。
【0055】
このようにして得られたポリエステル(A−1)と(B−1)とを、それぞれ別の押し出し機に供給して295℃で厚み比が1:2となるようダイ内で積層し、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状にポリエステル(B−1)側が冷却ドラムと接するように押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱し、縦方向(製膜方向)の延伸を倍率5.6倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、145℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.5で延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0056】
[実施例2、3、7および比較例2,3]
実施例1において、含有する不活性粒子を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返して、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0057】
[実施例4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.77dl/gで、酸成分の82モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の18モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分であるフィルム層B用のポリエステル(B−2)を得た。なお、該ポリエステル(B−2)には、重縮合反応の前に、エチレングリコールスラリーの状態で、平均孔径0.7μmのろ材で濾過を行なって粗大粒子を除去した、平均粒径0.5μm、相対標準偏差が0.12のシリコーン粒子(粒子B1)、平均粒径0.32μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B2)および平均粒径0.12μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B3)を、それぞれ得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%、0.10重量%および0.15重量%となるように含有させた。
【0058】
また、表1に示すとおり、粒子B1、B2およびB3の代わりに、同様のろ過を実施して粗大粒子を除去した、平均粒径0.15μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子A1)を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%と含有させた以外は、ポリエステル(B−2)と同様な操作を繰り返して、フィルム層A用のポリエステル(A−2)を得た。
【0059】
このようにして得られたポリエステル(A−2)と(B−2)とを、それぞれ別の押し出し機に供給して290℃で厚み比が1:2となるようダイ内で積層し、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にポリエステル(B−2)側が冷却ドラムと接するようにシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率8.0倍で延伸し、その後205℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0060】
[実施例5]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.72dl/gで、酸成分の90モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の10モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分であるフィルム層B用のポリエステル(B−3)を得た。なお、該ポリエステル(B−3)には、重縮合反応の前に、エチレングリコールスラリーの状態で、平均孔径0.7μmのろ材で濾過を行なって粗大粒子を除去した、平均粒径0.5μm、相対標準偏差が0.12のシリコーン粒子(粒子B1)、平均粒径0.32μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B2)および平均粒径0.12μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B3)を、それぞれ得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%、0.10重量%および0.15重量%となるように含有させた。
【0061】
また、表1に示すとおり、粒子B1、B2およびB3の代わりに、同様のろ過を実施して粗大粒子を除去した、平均粒径0.15μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子A1)を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%と含有させた以外は、ポリエステル(B−3)と同様な操作を繰り返して、フィルム層A用のポリエステル(A−3)を得た。
【0062】
このようにして得られたポリエステル(A−3)と(B−3)とを、それぞれ別の押し出し機に供給して290℃で厚み比が1:2となるようダイ内で積層し、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にポリエステル(B−3)側が冷却ドラムと接するようにシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.6倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、155℃で横方向(幅方向)に延伸倍率7.4倍で延伸し、その後205℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0063】
[実施例6]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.77dl/gで、酸成分の65モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の35モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の99モル%がエチレングリコール成分、1モル%がジエチレングリコール成分であるフィルム層B用のポリエステル(B−4)を得た。なお、該ポリエステル(B−4)には、重縮合反応の前に、エチレングリコールスラリーの状態で、平均孔径0.7μmのろ材で濾過を行なって粗大粒子を除去した、平均粒径0.5μm、相対標準偏差が0.12のシリコーン粒子(粒子B1)、平均粒径0.32μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B2)および平均粒径0.12μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子B3)を、それぞれ得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%、0.10重量%および0.15重量%となるように含有させた。
【0064】
また、表1に示すとおり、粒子B1、B2およびB3の代わりに、同様のろ過を実施して粗大粒子を除去した、平均粒径0.15μm、相対標準偏差0.12のシリカ粒子(粒子A1)を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.10重量%と含有させた以外は、ポリエステル(B−4)と同様な操作を繰り返して、フィルム層A用のポリエステル(A−4)を得た。
【0065】
このようにして得られたポリエステル(A−4)と(B−4)とを、それぞれ別の押し出し機に供給して290℃で厚み比が1:2となるようダイ内で積層し、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にポリエステル(B−4)側が冷却ドラムと接するようにシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、145℃で横方向(幅方向)に延伸倍率7.4倍で延伸し、その後205℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0066】
[実施例8]
実施例1において、ポリエステル(A−1)の代わりにポリエステル(B−1)を用い、ポリエステル(B−1)のみからなる単層フィルムとした以外は同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。なお、冷却ドラムと接した側をB面側とした。
【0067】
[比較例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、グリコール成分の1.5モル%がジエチレングリコール成分であるフィルム層A用およびフィルム層B用のポリエチレン−2,6−ナフタレートをそれぞれ得た。なお、それぞれのフィルム層用のポリエチレン−2,6−ナフタレートには、重縮合反応の前に実施例1と同様な操作を繰り返して、表1に示すとおり不活性粒子を含有させた。
【0068】
このようにして得られたポリエチレン−2,6−ナフタレートを、押し出し機に供給して300℃でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にフィルム層B側が冷却ドラムと接するようにシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、160℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、更に170℃で1.3倍延伸し、その後200℃で5秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表1および表2中の、ANAは6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、MDはフィルムの製膜方向、TDはフィルムの幅方向、A面はフィルム層A側の表面、B面はフィルム層B側の表面、A層はフィルム層A、B層はフィルム層B、エア抜け指数は前述の空気洩れ指数の結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような優れた寸法安定性を有しながらも巻取り性に優れ、寸法安定性が求められる用途、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる芳香族ポリエステルおよび平均粒子径が50nm以上の粒子を0.01重量%以上含有する二軸配向ポリエステルフィルムであって、
芳香族ジカルボン酸成分は、その5モル%以上80モル%未満が、下記式(I)
【化1】

(上記構造式(I)中の、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基を示す。)
で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であり、
少なくとも一方の表面は、10点平均粗さ(Rz)を表面粗さ(Ra)で割った値(Rz/Ra)が、20以上であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
含有する粒子の粒度分布が、相対標準偏差で0.5以上である請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
少なくとも一方の表面は、10点平均粗さ(Rz)が50〜2000nmの範囲にある請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
少なくとも一方の表面は、表面粗さ(Ra)が1〜20nmの範囲にある請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
粒子が、シリカ粒子、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋ポリエステル粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
粒子の平均粒径が、50〜1000nmの範囲にあり、含有量が、フィルムの重量を基準として、0.05〜0.5重量%の範囲にある請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの片面に、他のフィルム層が積層された二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
二軸配向ポリエステルフィルムが、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる請求項1または7記載の二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2009−167342(P2009−167342A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9226(P2008−9226)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】