説明

二酸化炭素の回収方法及び回収装置

【課題】腐食抑制剤による効果を享受しつつ吸収液の濡れ性を確保して効率よく二酸化炭素を回収可能な二酸化炭素の回収方法及び装置を提供する。
【解決手段】吸収塔10及び再生塔20は、各々、表面を粗面化された充填材11,21を有し、腐食抑制剤を含有する吸収液を用いて、二酸化炭素の回収を行う。充填材の粗面化は、腐食抑制剤を含有しない吸収液に予め接触させることで達成され、その後、腐食抑制剤40を吸収液に添加する。充填材は、腐食抑制剤を含有する吸収液に対して良好な濡れを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガスなどの二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収し、清浄なガスを大気に還元するための二酸化炭素の回収方法及び二酸化炭素の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や製鉄所、ボイラーなどの設備では、石炭、重油、超重質油などの燃料を多量に使用しており、燃料の燃焼によって排出される硫黄酸化物、窒素酸化物及び二酸化炭素は、大気汚染防止や地球環境保全の見地から放出に関する量的及び濃度的制限が必要とされている。近年、二酸化炭素は地球温暖化の主原因として問題視され、世界的にも排出を抑制する動きが活発化している。このため、燃焼排ガスやプロセス排ガスの二酸化炭素を大気中に放出せずに回収・貯蔵を可能とするために、様々な研究が精力的に進められ、二酸化炭素の回収方法として、例えば、PSA(圧力スウィング)法、膜分離濃縮法や、塩基性化合物による反応吸収を利用する化学吸収法などが知られている。
【0003】
化学吸収法においては、主にアルカノールアミン系の塩基性化合物を吸収剤として用い、その処理では、概して、吸収剤を含む水性液を吸収液として、ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収塔と、吸収された二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔とを循環させて、吸収及び再生を交互に繰り返す。再生塔においては、二酸化炭素を放出させるための加熱が必要であり、再生後の吸収液は、吸収塔において再使用するために冷却される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
吸収液としてのアルカノールアミン水溶液は、それ自体、鉄系金属に対して特に激しい腐食性は示さないが、炭酸ガスや二酸化硫黄等の酸性ガスの存在下では、高温において極めて腐食性が強くなることが知られている。つまり、装置を構成する鉄系金属が二酸化炭素を吸収した吸収液によって腐食し、装置の耐用年数が短くなる。これに対応するために耐食性の高い素材を用いて装置を構成すると、建設費が非常に高額となる。
【0005】
このようなことから、吸収液による装置の腐食を防止する方法が求められ、下記特許文献2においては、炭素鋼の腐食を軽減可能な吸収剤として、ヒンダードアミン化合物の使用を提案している。他方、吸収剤による腐食を抑制する腐食抑制剤の使用を提案するものもあり、例えば、下記特許文献3には、バナジウムを成分とする腐食抑制剤を吸収液に添加することによって、アルカノールアミン系吸収剤による装置の腐食を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−214089号公報
【特許文献2】特開平6−91135号公報
【特許文献3】特開平7−233489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3の腐食抑制剤を吸収液に添加して用いると、金属材の腐食は抑制され、装置の耐久性が改善される。しかし、二酸化炭素の回収効率が低いことが重要な問題である。
【0008】
本発明の課題は、上述の問題を解決し、吸収液による装置の腐食を抑制すると共に、二酸化炭素の回収効率を向上させることができる二酸化炭素の回収方法及び回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、回収効率を向上させるために、吸収塔及び再生塔で用いられる充填材の濡れ性を変化させることで対応可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の一態様によれば、二酸化炭素の回収装置は、腐食抑制剤を含有する吸収液を用い、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔とを有する二酸化炭素の回収装置であって、前記吸収塔及び前記再生塔は、各々、腐食抑制剤を含有しない吸収液に予め接触した充填材を有することを要旨とする。
【0011】
又、本発明の他の態様によれば、二酸化炭素の回収装置は、腐食抑制剤を含有する吸収液を用い、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔とを有する二酸化炭素の回収装置であって、前記吸収塔及び前記再生塔は、各々、表面を粗面化された充填材を有することを要旨とする。
【0012】
更に、本発明の一態様によれば、二酸化炭素の回収方法は、腐食抑制剤を含有する吸収液を用いて、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程とを有する二酸化炭素の回収方法であって、前記吸収工程及び前記再生工程において用いる充填材を、予め、腐食抑制剤を含有しない吸収液に接触させる前処理工程を有することを要旨とする。
【0013】
又、本発明の他の態様によれば、二酸化炭素の回収方法は、腐食抑制剤を含有する吸収液を用いて、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程とを有する二酸化炭素の回収方法であって、前記吸収工程及び前記再生工程において用いる充填材に、予め、粗面化処理を施す前処工程を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガスに含まれる二酸化炭素を回収する際に、吸収液による装置の腐食を腐食抑制剤によって抑制しつつ、予め充填材の濡れ性を向上させることにより二酸化炭素の回収効率を向上させることができるため、省エネルギー及び環境保護に貢献可能な二酸化炭素の回収装置を提供できる。特殊な装備や高価な装置を用いずに装置の耐用年数を確保でき、一般的な設備を利用して簡易に実施できるので、経済的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素の回収装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
化学吸収法による二酸化炭素の吸収プロセスにおいては、ガスに含まれる二酸化炭素を低温の吸収液に吸収させる吸収工程と、吸収された二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する高温の再生工程との間で吸収液を循環させて、吸収工程と再生工程とを交互に繰り返す。ガスと吸収液との接触を促進するために、二酸化炭素回収装置の吸収塔及び再生塔においては、通常、金属製の充填材が用いられ、吸収液は、充填材間の空隙を流下する間に、上昇するガスと接触してガス中の二酸化炭素を吸収する。吸収液に対する充填材表面の親和性、つまり、濡れ性が変化すると、吸収液とガスとの接触にも影響を及ぼし、接触面積及び二酸化炭素の吸収効率が変化し得る。
【0017】
吸収液に含まれる吸収剤としては、概してアルカノールアミン類化合物が用いられ、それ自体、鉄系金属に対して特に激しい腐食性は示さないが、炭酸ガスの存在下では高温において極めて腐食性が強くなるため、装置の腐食を抑制するために腐食抑制剤が吸収液に配合される。前述のバナジウムを成分とする腐食抑制剤は、金属表面の不動態化によって腐食を抑制する腐食抑制剤の一種で、酸化力を有し、接触により金属表面に極薄の酸化物皮膜を生成して金属表面の不動態化に寄与すると考えられている。
【0018】
二酸化炭素の回収効率が変動する原因を調査したところ、吸収液によって充填材の金属表面の濡れ性が変化していることが判明した。一般に、金属酸化物は金属に比べて水に対する濡れ性が低いことから、腐食抑制剤との接触によって酸化物皮膜が生成することが濡れ性を低下させる原因であると考えられる。一方、腐食抑制剤を含まない吸収液に既に接触した充填材を用いて、腐食抑制剤を添加した吸収液で二酸化炭素を回収すると、充填材表面の濡れ性が向上して回収効率が向上し得ることを見出した。この原因は、腐食抑制剤を含まない吸収液による腐食によって充填材の金属表面が粗面化し、その後に腐食抑制剤によって形成される薄い酸化物皮膜も粗面となるために濡れ性が改善されるためと考えられる。つまり、前処理として粗面化処理を充填材に施すと、その後に生成される酸化物皮膜も粗面化して濡れ性の改善に有効であるものと理解できる。従って、腐食抑制剤による腐食防止効果を享受しつつ、充填材の濡れ性を確保して二酸化炭素の回収効率を向上するには、予め、充填材の表面を粗面化する前処理を施すことが有効であり、吸収液による腐食と同様の粗面が得られれば、その種類を問わず、金属表面を粗面化可能な様々な方法を採用することができる。そして、その簡便な形態が、腐食抑制剤を含まない吸収液に充填材を接触させる方法であると言える。又、前処理としての粗面化処理は、その後に形成される皮膜を粗面にすることができるので、皮膜が生成する様々な酸化型腐食抑制剤が本発明における腐食抑制剤として使用可能となる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
充填材は、二酸化炭素の回収プロセスにおいて耐久性を有する素材で構成され、概して金属素材が用いられる。鉄系金属が好適に使用でき、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼等を含む鉄及び各種鉄合金が挙げられる。その他に、Ti,Al,Ni,Cr,Zr等の金属又はその合金の使用も好適である。Cr,Ni,Mo,Cu,N,Si等の元素を含有する合金を用いると、不動態皮膜が強化される点で好ましい。充填材は、全体が金属製である必要はなく、少なくとも表層部分が上述のような金属によって構成されていれば良く、例えば、適宜選択される芯材を上記金属で被覆して、上述の粗面化に対応可能な厚さの金属表層部を有する充填材を構成しても良い。所望の接触表面積を得るために様々な寸法及び形状の充填材が市場に提供されており、入手可能なものから適宜選択して使用できる。
【0020】
前処理として、機械的又は化学的な粗面化処理を施すことができ、例えば、ロールやプレスを用いた表面成形、ショットブラスト等の塑性加工、ケミカルエッチング、プラズマエッチング等の処理が挙げられる。酸化型腐食抑制剤によって形成される酸化物皮膜が、SPM(走査型プローブ顕微鏡)やSEM(走査型電子顕微鏡)による表面分析において厚さ数nm〜数百nm程度の範囲で粗面化表面形状に対応した薄膜となるように粗面化処理の進行程度を調節すると、腐食抑制剤との接触によって生成する酸化物皮膜も良好な粗面となり、充填材は、腐食抑制剤を含有する吸収液に良好な濡れ性を発揮できる。
【0021】
腐食抑制剤を含まない吸収液で粗面化する前処理は、ケミカルエッチングに該当し、二酸化炭素の回収作業を腐食抑制剤を用いずに行うことによって、吸収液の腐食による金属製充填材表面の粗面化が進行する。吸収液の吸収剤濃度、接触時間及び液温によって粗面化程度は変化するので、接触時間及び液温を適宜変更することによって充填材の粗面化を適切に調節することができる。この前処理は、回収装置に組み込む前の充填材に施しても、回収装置に組み込まれた充填材に施しても良く、腐食抑制剤を含まない吸収液を用いて二酸化炭素の回収を行うことで簡便に前処理を施すことができ、その後に腐食抑制剤を添加して本来の二酸化炭素回収プロセスに移行できる。他の粗面化処理の場合は、予め前処理を施した充填材を装置に組み込むことが好ましい。
【0022】
二酸化炭素の回収装置において濡れ性が最も重要であるのは吸収塔の充填材であるが、二酸化炭素の回収プロセスにおいて吸収塔内の吸収液は低温に維持され、この温度においては吸収液による腐食及び粗面化の進行速度は遅い。従って、腐食抑制剤を含まない吸収液による前処理を行う場合、吸収塔の液温を40℃程度以上、好ましくは90〜125℃程度に上げると効率的である。つまり、前処理では、再生塔で加熱された高温の吸収液を冷却せずにそのまま吸収塔に還流させることで、吸収塔内の充填材の粗面化を促進し効率化できる。温度設定による粗面化の調節は、一般的なケミカルエッチングによって粗面化処理を行う場合にも共通して適用される。
【0023】
上述のように前処理を施して吸収塔及び再生塔内の充填材を粗面化した後に、腐食抑制剤を添加した吸収液によって二酸化炭素の回収を行うことによって、充填材表面に生成する酸化物皮膜も粗面となり、吸収液に対する濡れ性の低下を抑制しつつ、吸収剤による腐食を抑制することができる。
【0024】
使用される腐食抑制剤は、酸化型の酸腐食抑制剤であり、リン酸系、クロム酸系、フッ化物系、バナジン酸系、トリアジンチオール系等の化合物を用いたものがあり、具体的には、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸クロム、リン酸錫、リン酸シリカ、クロム酸クロム、リン酸クロム、リン酸錫、リン酸シリカ、フッ化チタン、フッ化亜鉛、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、ピロバナジン酸カリウム、オルトバナジン酸カリウム等が挙げられる。バナジン酸系腐食抑制剤は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム塩等のアルミニウム化合物を含むと好ましく、これらは鉄系金属表面に沈積して強固な防食被膜を形成し得る。詳細については、特開平7−90641号公報を参照することができる。また、炭酸銅(特に塩基性炭酸銅)も、腐食抑制剤による防食作用の強化に有効である。更に、吸収液に必要に応じて酸素を供給する手段を設けると、還元状態で減退した腐食抑制効果を酸化によって復活させ、継続的に効果を発揮させる上で有用であり、また、電位測定に基づいて酸素の供給を調節することができる。詳細については、特開平7−233489号公報を参照することができる。
【0025】
以下、本発明の二酸化炭素の回収方法及び回収装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の二酸化炭素の回収方法及びそれを実施する回収装置の第1の実施形態を示す。回収装置1は、二酸化炭素を含有するガスGを吸収液に接触させて、吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔10と、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔20と、二酸化炭素を含むガスGを吸収塔10へ供給する前に予備冷却するための冷却塔30とを有する。吸収塔10に供給されるガスGについて特に制限はなく、燃焼排ガスやプロセス排ガスなどの様々なガスの取扱いが可能であり、二酸化炭素の吸収に適した低温に維持し易いように冷却塔30が設けられている。吸収塔10、再生塔20及び冷却塔30は、各々、向流型気液接触装置として構成され、接触面積を大きくするための充填材11,21,31を各々内部に保持している。充填材11,21,31を構成する素材は特に限定されず、処理温度における耐久性を有する素材が用いられるが、概して、少なくとも表層部が鉄系金属材料製であるものが好適に用いられ、例えば、前述のようなステンレス鋼、炭素鋼等の鉄又は鉄合金製充填材が用いられる。所望の接触面積を提供し得る形状の充填材が適宜選択される。吸収液として、アルカノールアミン類等の二酸化炭素に親和性を有する化合物を吸収剤として含有する水性液が用いられ、前処理を経た後の吸収液に前述の腐食抑制剤を供給するための供給システムを有する。即ち、腐食抑制剤を収容するタンク40及びポンプ41を備え、ポンプ41の駆動によって腐食抑制剤が流路16の吸収液に添加される。この実施形態では、タンク40は、腐食抑制剤を高濃度で含有する吸収液の形態で腐食抑制剤を収容する。
【0027】
冷却塔30底部から供給されるガスGは、塔内に保持される充填材31を通過し、冷却塔30の上部から供給される冷却水によって冷却された後に、吸収塔10に供給される。これにより、吸収塔10の温度がガスGに起因して上昇するのが防止される。ガスGを冷却することによって温度上昇した冷却水は、ポンプ32によって水冷式冷却器33に送られ、冷却された後に冷却塔30に還流される。
【0028】
冷却塔30を通過した二酸化炭素を含んだガスGは、吸収塔10の下部から供給され、吸収液は、吸収塔10の上部から供給され、ガスG及び吸収液が充填材11を通過する間に気液接触してガスG中の二酸化炭素が吸収液に吸収される。
【0029】
吸収塔10で二酸化炭素を吸収した吸収液A1は、底部に貯溜され、吸収塔10底部と再生塔20上部とを接続する流路16から再生塔20へ、ポンプ12によって供給される。二酸化炭素が除去されたガスG’は、吸収塔10頂部から排出される。吸収液が二酸化炭素を吸収することによって発熱して液温が上昇するので、ガスG’には水蒸気等が含まれ得るが、冷却凝縮部13を吸収塔10頂部に設けて、水蒸気等を凝縮してガスG’から分離除去することで、塔外への漏出を抑制できる。これを更に確実にするために、吸収塔外に付設される冷却器14と、凝縮水の一部(塔内のガスG’を含んでも良い)を冷却器14との間で循環させるポンプ15とを備え、冷却器14で冷却されて塔頂部に供給される凝縮水等は冷却凝縮部13を低温に維持し、冷却凝縮部13を通過するガスG’を確実に冷却する。又、充填材11に還流する凝縮水によって、塔内の吸収液の組成変動が補整される。塔外へ排出されるガスG’の温度は60℃程度以下が好ましく、より好ましくは45℃以下となるように冷却する。この実施形態の冷却器14は水冷式であるが、他の冷却方式であって良く、冷媒による冷凍サイクルを用いて、より確かな冷却が可能となるようにしてもよい。
【0030】
吸収塔10内の二酸化炭素を含む吸収液A1は、再生塔20の上部に供給され、充填材21を通過して底部に貯溜される。再生塔20の底部には、リボイラーが付設される。即ち、吸収液を塔外に循環させる循環路と、吸収液を加熱するためのスチームヒーター22が付設され、塔底部の吸収液A2の一部が循環路を通してスチームヒーター22に供給され、高温蒸気との熱交換によって加熱された後に塔内へ還流される。この加熱によって、底部の吸収液から二酸化炭素が放出され、又、間接的に加熱される充填材21上での気液接触間にも吸収液から二酸化炭素が放出される。
【0031】
再生塔20で二酸化炭素を放出して再生された吸収液A2は、再生塔20底部と吸収塔10上部とを接続する流路17を通じてポンプ23によって吸収塔10に還流され、その間に、熱交換器24において、吸収塔10から再生塔20に供給される吸収液A1との間で熱交換して冷却され、更に、水冷式の冷却器25によって、二酸化炭素の吸収に適した温度まで充分に冷却される。流路17には、切替弁42を有する分岐路17’があり、切替弁42を開放すると、熱交換器24を回避して吸収塔10に吸収液A1を供給可能となり、高温の吸収液が吸収塔10へ供給される。
【0032】
再生塔20における加熱で放出される二酸化炭素を含む回収ガスCは、再生塔20上部の凝縮部26を通って頂部から排出され、回収ガスCに含まれる水蒸気や吸収剤は、凝縮部26における凝縮によって塔外への放出が抑制される。
【0033】
再生塔20から放出される回収ガスCは、更に、冷却水を用いた冷却器27によって充分に冷却され、含まれる水蒸気を可能な限り凝縮した後、気液分離器28によって凝縮水を除去した後に、二酸化炭素を含む回収ガスCとして回収される。回収された二酸化炭素は、例えば、地中又は油田中に注入することによって、地中での炭酸ガス固定及び再有機化が可能である。気液分離器28において分離された凝縮水は、ポンプ29によって再生塔20上部に還流され、凝縮部26を冷却する。これは、吸収剤等の放出抑制に有用であり、又、塔内の吸収液の組成変動を補整できる。
【0034】
図1の回収装置1において実施される回収方法について説明する。
【0035】
吸収液として、二酸化炭素に親和性を有する化合物を吸収剤として含有する水性液が用いられる。吸収剤としては、アルカノールアミン類やアルコール性水酸基を有するヒンダードアミン類などが挙げられ、具体的には、アルカノールアミンとして、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン等を例示することができ、アルコール性水酸基を有するヒンダードアミンとしては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、2−(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2−(メチルアミノ)エタノール(MAE)等を例示できる。通常、モノエタノールアミン(MEA)の使用が好まれる。吸収液の吸収剤濃度は、処理対象とするガスに含まれる二酸化炭素量や処理速度等に応じて適宜設定することができ、吸収液の流動性や消耗損失抑制などの点を考慮すると、概して、10〜50質量%程度の濃度が適用され、例えば、二酸化炭素含有量20%程度のガスGの処理に対して、濃度30質量%程度の吸収液が好適に使用される。ガスG及び吸収液の供給速度は、ガスに含まれる二酸化炭素量及び気液接触効率等に応じて、吸収が好適に進行するように適宜設定される。
【0036】
前処理においては、腐食抑制剤を含まない上述の吸収液を用い、切替弁42を開けた状態でポンプ12,13を駆動して流路16,17及び分岐路17’を通じて吸収液を循環させる。この際、冷却器25は、温度調節に必要な場合のみ利用すればよい。二酸化炭素を含有するガスGの供給は有っても無くても良く、ガスGを供給すると、二酸化炭素の吸収によって吸収液による腐食、つまり、粗面化が進行し易くなる。
【0037】
吸収塔10の吸収液A1は、再生塔20に供給されると、充填材21中を流下した後、スチームヒーター22によって加熱された後、ポンプ25によって吸収塔10へ供給される。この際、再生塔20で加熱された高温の吸収液は、熱交換器24を回避してそのまま吸収塔10へ供給され、吸収塔10から再生塔20へ再度循環するので、吸収塔10及び再生塔20の充填材11,21が共に高温の吸収液と接触する。このようにして、高温の吸収液を循環させて充填材11,21と接触させることによって、充填材11,21表面の腐食又は粗面化処理が進行する。この際の吸収液の温度及び処理時間は、吸収液の濃度にも依るが、吸収剤濃度30質量%程度の吸収液の場合、概して、温度は90〜125℃程度、好ましくは100〜120℃程度に設定し、処理時間は1〜24時間程度、好ましくは5〜15時間程度とすると好適である。
【0038】
この後、ポンプ41を作動して、タンク40に収容される高濃度の腐食抑制剤を含有する吸収液を、循環する吸収液に添加する。腐食抑制剤は、概して、20mg/L程度以上、好ましくは50〜200mg/L程度の割合になるように添加するとよい。更に、切替弁42を閉じ、冷却器25の冷却を有効にした後、以下に記載するように、二酸化炭素を回収する本処理に移行する。
【0039】
吸収塔10において、燃焼排ガスやプロセス排ガスなどの二酸化炭素を含有するガスGが底部から供給され、吸収液が上部から供給されると、充填材11上でガスGと吸収液とが気液接触し、吸収液に二酸化炭素が吸収される。二酸化炭素は、低温において良好に吸収されるので、概して50℃程度以下、好ましくは40℃以下となるように吸収液の液温又は吸収塔10(特に充填材11)の温度を冷却器14を利用して調整する。吸収液は二酸化炭素の吸収によって発熱するので、これによる液温上昇を考慮し、液温やガスG’の温度が60℃を超えないように配慮することが望ましい。吸収塔10に供給されるガスGについても、ガス冷却塔30によって適正な温度に調整される。
【0040】
二酸化炭素を吸収した吸収液A1は、再生塔20に供給されると、沸点近辺の高温度に加熱されるが、再生塔20に供給される前に熱交換器24において、再生塔20から還流する吸収液A2と熱交換されるので、吸収液A1は、再生塔20での加熱温度に近い温度に昇温されて二酸化炭素を放出し易い状態で再生塔20に投入される。更に、充填材21上での気液接触状態において二酸化炭素の放出が促進されると共に、再生塔20底部の加熱によって更に昇温及び二酸化炭素の放出が進行する。再生塔20底部に貯留される吸収液A2は、スチームヒーター22による加熱によって二酸化炭素を充分に放出して再生される。吸収液A2の沸点は組成(吸収剤濃度)に依存し、液温の上限は使用する吸収液によって異なるが、概して90〜125℃程度である。
【0041】
ポンプ12,23及び流路16,17によって吸収液の循環系が構成されるので、吸収液は、吸収塔10と再生塔20との間で循環し、吸収工程と再生工程とが交互に繰り返される。再生塔20から還流する吸収液A2は、熱交換器24において吸収液A1と熱交換されるので、吸収塔10の温度近くまで降温されて、更に、冷却器25において冷却水で充分に冷却されて二酸化炭素を吸収し易い状態で吸収塔10に投入される。
【0042】
再生塔20において、吸収液から放出される二酸化炭素を含んだ回収ガスは水蒸気を含み、その温度は、概して80〜120℃程度となるが、凝縮部26においてかなりの水蒸気が凝縮し、更に冷却水を用いた冷却器27によって可能な限り水蒸気を凝縮し、二酸化炭素を含む回収ガスCとして回収される。
【実施例】
【0043】
前処理用の吸収液として、30質量%モノエタノールアミン水溶液を用意した。更に、腐食抑制剤配合吸収液として、炭酸銅濃度が200mg/Lの30質量%モノエタノールアミン水溶液を調製した。
【0044】
大きさが6mmの未使用のラシヒリング(SUS304製)を用意して、2つに分け、一方のラシヒリングを、温度120℃の前処理用吸収液に6時間浸した後に、純水で洗浄して水分を拭って前処理済みラシヒリングの試料を得た。
【0045】
他方のラシヒリングを用いて、前処理用吸収液に浸さなかったこと以外は上記と同じ操作を繰り返して未処理ラシヒリングの試料を得た。
【0046】
各試料について、腐食抑制剤配合吸収液の接触角をθ/2法に従って測定したところ、前処理済みラシヒリング試料の平均値は53°、未処理ラシヒリング試料の平均値は84°であった。前処理を施すことによって接触角が約30°低下し、濡れ性が向上することが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、火力発電所や製鉄所、ボイラーなどの設備から排出される二酸化炭素含有ガスの処理等において利用して、その二酸化炭素放出量や、環境に与える影響などの軽減に有用である。処理効率が向上するので、適用性が高く、環境保護に貢献可能な二酸化炭素の回収装置を提供できる。
【符号の説明】
【0048】
10:吸収塔、 20:再生塔、 30:ガス冷却塔、
11,21,31:充填材、 40:タンク
12,15,23,29,32,41:ポンプ、
13:冷却凝縮部、 14,25,27,33:冷却器、
16,17:流路、17’:分岐路
22:スチームヒーター、 24:熱交換器、 26:凝縮部、
28:気液分離器、 42:切替弁、
G、G’:ガス、 A1,A2:吸収液、C:回収ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食抑制剤を含有する吸収液を用い、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔とを有する二酸化炭素の回収装置であって、
前記吸収塔及び前記再生塔は、各々、腐食抑制剤を含有しない吸収液に予め接触した充填材を有する二酸化炭素の回収装置。
【請求項2】
腐食抑制剤を含有する吸収液を用い、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔とを有する二酸化炭素の回収装置であって、
前記吸収塔及び前記再生塔は、各々、表面を粗面化された充填材を有する二酸化炭素の回収装置。
【請求項3】
前記充填材は金属製であり、腐食を経て粗面化された表面を有する請求項1又は2に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項4】
前記吸収液は、吸収剤としてアルカノールアミンを含有する水溶液である請求項1〜3の何れかに記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項5】
前記充填材は鉄系金属製であり、前記腐食抑制剤は、前記充填材との接触によって酸化物皮膜を生成可能な酸化性を有する請求項1〜4の何れかに記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項6】
吸収液に腐食抑制剤を供給する供給システムを有し、前記供給システムは、腐食抑制剤を収容するタンクと、腐食抑制剤を含有しない吸収液が前記吸収塔及び前記再生塔の充填材に接触した後に前記タンクの腐食抑制剤を供給するように駆動制御されるポンプとを有する請求項1記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項7】
前記吸収塔及び前記再生塔に前記吸収液が交互に繰り返し供給されるように前記吸収液を循環させる循環系と、
前記再生塔で加熱された吸収液が前記吸収塔に供給される前に前記吸収液を冷却する熱交換器と、
前記再生塔の吸収液を、前記熱交換器を回避して前記吸収塔へ供給するための切替弁と
を有する請求項1〜6の何れかに記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項8】
腐食抑制剤を含有する吸収液を用いて、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程とを有する二酸化炭素の回収方法であって、
前記吸収工程及び前記再生工程において用いる充填材を、予め、腐食抑制剤を含有しない吸収液に接触させる前処理工程を有する二酸化炭素の回収方法。
【請求項9】
腐食抑制剤を含有する吸収液を用いて、二酸化炭素を含有するガスを前記吸収液に接触させて前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程とを有する二酸化炭素の回収方法であって、
前記吸収工程及び前記再生工程において用いる充填材に、予め、粗面化処理を施す前処工程を有する二酸化炭素の回収方法。
【請求項10】
前記充填材は金属製であり、前記前処理工程は、腐食によって表面を粗面化する請求項8又は9に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項11】
前記吸収液は、吸収剤としてアルカノールアミンを含有する水溶液である請求項8〜10の何れかに記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項12】
前記充填材は、鉄系金属製の表層部を有し、前記腐食抑制剤は、前記充填材との接触によって酸化物皮膜を生成可能な酸化性を有する請求項8〜11の何れかに記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項13】
前記前処理は、加熱を含む請求項8〜12の何れかに記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項14】
前記前処理工程の後に、吸収液に腐食抑制剤を供給する供給工程を有し、前記供給工程によって得られる腐食抑制剤を含有する吸収液を、前記吸収工程及び前記再生工程において用いる請求項8に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項15】
前記吸収液は、前記吸収工程及び前記再生工程に吸収液が交互に繰り返し供給されるように循環し、前記再生工程と前記吸収工程との間に、前記吸収液を冷却する冷却工程を有する請求項8〜14の何れかに記載の二酸化炭素の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76065(P2012−76065A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226567(P2010−226567)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】