説明

二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の塗装方法及びその装置

【課題】二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の塗装方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 有機溶剤系の噴霧塗装において用いられる希釈溶剤(シンナー)を、二酸化炭素で一部又は全部を代替する二酸化炭素塗装を行う塗装方法及び装置において、塗料と二酸化炭素の混合を行う前に、二酸化炭素に、あらかじめ塗料の真溶剤成分を、飽和溶解量(二酸化炭素重量当たり20〜50%)以上に添加し、二酸化炭素の真溶剤成分に対する溶解力を低下させることで、逆流して進入してきた塗料成分のポリマーの析出を防止する二酸化炭素を用いた低環境負荷型の一液型・二液型塗料の塗装方法、及び塗装装置。
【効果】一液硬化型・二液硬化型塗料を安定して二酸化炭素塗装することが可能な塗装方法、及びその装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の塗装方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、従来の有機溶剤系塗料によるスプレー塗装において大量に使用される希釈溶剤(VOC)を極少量の二酸化炭素に替えることにより、有機溶剤系塗装と同等の、塗膜均一性、平滑性、鮮映性などの塗装仕上げ品質を確保したまま、VOC発生を大幅に低減し得る二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の塗装方法及びその装置に関するものである。本発明は、大気中へのVOC発生を大幅に低減することを可能とすると共に、特に、一液硬化型・二液硬化型塗料を安定して二酸化炭素塗装することが可能な低環境負荷型の塗装方法及びその装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
VOC発生は、地球温暖化に繋がる有害化学物質として、2010年には、自主規制を含め、3割の削減が求められている。塗装工業界は、塗料に用いる粘度低下剤として、大量に有機溶剤を使用しており、塗装産業は、日本におけるVOC発生量の約150万トンの中で、その60%に近いVOC発生量を占める最大のVOC発生産業となっており、VOC対策は、塗装工業における喫緊の課題となっている。
【0003】
塗装工業技術においては、この希釈溶剤を使用するスプレー塗装が主流であり、VOC削減のために、種々の対策が講じられている。具体的には、水性塗料への転換、有機溶剤を削減した塗料、すなわちハイソリッドなど、あるいは、排気された有機溶媒の回収、分解処理などの技術開発があげられる。
【0004】
しかしながら、これらの対策技術のうち、特に、水性塗料への転換は、水処理装置、空調設備などの付帯設備を必要とされ、また、水性塗料は、塗装対象物が金属材料の場合には適合するが、高い塗装仕上げ品質が要求されるプラスチィック部品などへの塗装については、対応できていない、というのが現状である。
【0005】
従って、塗装工業界において、特に、中小企業にあっては、上述のVOC対策に対応することは、現状の技術では、大きな設備投資を必要とするなどの課題を抱えており、そのため、現在の有機溶剤系塗装、あるいは水性系塗装に代わり得る、新しい塗装技術の開発が強く求められていた。
【0006】
一方、塗装技術に関して、米国ユニオンカーバイト社から出願された特許(特許文献1)において、粘度低下剤(希釈剤)として、有機溶媒の代わりに、超臨界流体を利用する技術が提案されている。この技術では、塗料(ポリマーと、ポリマーを溶解して流動性を持たせる真溶剤)に、超臨界流体、特に、二酸化炭素を溶解させ、噴霧可能なレベルまで粘度を低下させることで、塗装が可能であることが示されている。
【0007】
それ以降、同社から、当該塗装技術に関して、10数件の特許が出願されており、例えば、スプレー幅の制御方法(特許文献2)、塗料組成の限定(特許文献3)、噴霧状態の改良方法(特許文献4)、閉塞の回避方法(特許文献5)、及び塗料/CO混合物の密度制御方法(特許文献6)の5件が、特許として登録されている。
【0008】
これらの特許のうち、当該塗装技術の実用化上非常に重要なものは、特許文献5に示された閉塞の回避方法に関するものである。本特許によると、ニトロセルロースやセルロースアセテートブチレートのようなセルロース系ポリマーを含有するコーティング用の濃厚物は、混合器内において、固体沈殿物を生じ、運転を継続すると、圧力上昇を引き起こし、最終的には閉塞し、噴霧不可能となることが示されている。
【0009】
そして、この文献には、その問題を解決すべく、流体力学的な検討や、混合器型式の再検討を含め、ハード的な変更で、トラブル対応を試みたが、短時間の操作は行えても、長時間の安定な運転ができなかったこと、そこで、その対策として、ハード的な対応ではなく、操作温度・圧力の限定、すなわち、ソフト的な対応で、閉塞問題の解決を行ったことが示されている。
【0010】
具体的には、この特許は、使用する粘度低下用の圧縮流体が、塗料との混合時に、気体又は超臨界流体であり、かつ約0.5〜約4.0 cal/ccの溶解度係数となるような温度・圧力で操作されることにより、固体ポリマーの析出を防止する、というものである。
【0011】
この特許に基づいて、本発明者らも、一液硬化型塗料(ニトロセルロースがブレンドされたアクリル樹脂系塗料)の二酸化炭素塗装を実施したところ、多くの温度・圧力条件で、混合器内の閉塞が起こることを確認した。しかも、この特許で示されている溶解度係数が、約0.5〜約4.0 cal/cc内にある条件下、例えば、40℃の一定温度条件下で、8MPa以下の圧力においても、混合器内での閉塞トラブルは頻発し、噴霧不可となることが確認された。
【0012】
この特許においては、この固体析出現象を、相平衡的な観点から考察し、ポリマー析出の防止条件として、溶解度係数の限定を行っている。この固体析出現象について、本発明者らが、詳細に、ポリマーの析出状況を調査、検討した結果、混合器内での析出に先立ち、混合器直前の二酸化炭素の単独ラインで、ポリマーの析出が起こること、それにより、二酸化炭素供給ラインの供給圧力が急上昇すること、などが明らかとなった。
【0013】
これらのことは、混合器への二酸化炭素供給ラインに、塗料の一部が逆流し、その混合物中の溶剤成分(真溶剤)が、二酸化炭素、すなわち液体二酸化炭素あるいは超臨界二酸化炭素に抽出、除去される結果、塗料中のポリマー成分が析出し、閉塞を起こす現象が起こることが原因することを示唆するものと考えられた。
【0014】
本来、定常操作においては、二酸化炭素供給ラインに、塗料が逆流することはない。しかし、上記閉塞は、混合器以降の、下流の流動状態により、圧力変動(圧力増加)が起こると、塗料は、非圧縮性流体であるため、即座に昇圧できるが、二酸化炭素は、圧縮性流体であるため、昇圧に時間差が生じ、その間に、二酸化炭素ラインへ、塗料の逆流が起こることによるものと推察された。すなわち、一液硬化型塗料のような速乾性の高い塗料に対して、二酸化炭素を粘度低下剤とした塗装技術は、未だ工業化技術という観点からは、未確立といわざるを得ない状況にあり、当技術分野では、それらの問題を解決することを可能とする実用化可能な新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第1927328号
【特許文献2】特許第2061845号
【特許文献3】特許第2670904号公報
【特許文献4】特許第2785099号公報
【特許文献5】特許第2739548号公報
【特許文献6】特許第2807927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、二酸化炭素塗装における上述の問題点を解決し、特に、一液硬化型塗料のような速乾性の高い塗料に対して好適に適用可能な二酸化炭素を用いた塗装装置と、その安定運転方法を確立することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ハード的な改良と、安定な運転方法を確立することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、二酸化炭素を粘度低下剤として利用して、大気中へのVOC発生を大幅に低減することを可能とする低環境負荷型の低VOC塗装として好適に使用することができる一液型・二液型塗料の塗装方法、及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)有機溶剤系の噴霧塗装において用いられる希釈溶剤(シンナー)を、二酸化炭素で一部又は全部を代替する二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装装置において、
塗料供給ラインとして、塗料を貯蔵するタンク、該タンクから供給される塗料を所定の圧力まで加圧する塗料高圧ポンプ、該塗料高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を塗料タンクへ返送させる塗料1次圧調整弁、を有し、
二酸化炭素供給ラインとして、液体二酸化炭素を貯蔵するタンク、該液体二酸化炭素を所定温度まで冷却する冷却器、該冷却器から供給される液体二酸化炭素を所定の圧力まで加圧する液体二酸化炭素高圧ポンプ、該液体二酸化炭素高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を同ポンプのサクションに返送させる液体二酸化炭素1次圧調整弁、を有し、
溶剤供給ラインとして、溶剤タンク、該タンクから供給される溶剤を所定の圧力まで加圧する溶剤高圧ポンプを有し、
塗料/二酸化炭素混合物ラインとして、上記塗料供給ラインから供給される加圧された塗料、上記二酸化炭素供給ラインから供給される加圧された二酸化炭素とを混合する混合器、及び該混合器から供給される混合後の塗料/二酸化炭素加圧混合物を大気圧下の塗装対象物へ噴霧する噴霧ガン、を有する装置であって、
塗料との混合を行う前に、二酸化炭素に、あらかじめ有機溶剤を添加するようにしたことを特徴とする二酸化炭素を用いた塗装装置。
(2)塗料が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料である、前記(1)記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(3)有機溶剤が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料の真溶剤である、前記(1)又は(2)記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(4)有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのサクション部に行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(5)有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのデリベリ部(加圧側)に行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(6)有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素加熱器の後のラインで行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(7)有機溶剤と二酸化炭素との混合を、マイクロ混合器で行う、前記(1)から(6)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(8)有機溶剤と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても0.5mmのT字型マイクロ混合器である、前記(7)記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(9)塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、二重管式マイクロ混合器であり、二酸化炭素が流入する内管の内径が、大きくても0.5mmであり、かつ外管の内径が、2.5mm〜5mmの範囲にある、前記(7)又は(8)記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(10)塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器に接続する二酸化炭素供給ラインの接続部のなるべく近い位置に、逆止弁を備え、塗料の二酸化炭素供給ラインへの逆流を防止する構造を有する、前記(1)から(9)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(11)塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を上部から対向するように流入させ、混合物を90度横から排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有する、前記(1)から(8)のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(12)塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を90度横から流入させ、混合物を上方へ排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有する、前記(1)から(8)に記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
(13)前記(1)から(12)のいずれかに記載の塗装装置を使用して二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装を行う方法であって、当該塗装装置において、二酸化炭素に、あらかじめ塗料の真溶剤成分を少なくとも飽和溶解量添加し、二酸化炭素の真溶剤成分に対する溶解力を低下させることで、逆流して進入してきた塗料成分のポリマーの析出を防止することを特徴とする二酸化炭素を用いた塗装方法。
(14)真溶剤成分を、二酸化炭素重量当たり20〜50%の範囲で添加する、前記(13)記載の二酸化炭素を用いた塗装方法。
(15)塗料が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料である、前記(12)又は(13)に記載の二酸化炭素を用いた塗装方法。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、従来の有機溶剤系塗料によるスプレー塗装において、大量に使用される希釈溶剤(VOC)を、極少量の二酸化炭素に替えることにより、有機溶剤系塗装と同等の、塗装仕上げ品質、すなわち塗膜均一性、平滑性、鮮映性などを確保したまま、VOCの発生を大幅に低減し得る低環境負荷型の新しい塗装方法及びその装置を提供することを特徴とするものである。
【0019】
本発明は、有機溶剤系の噴霧塗装において用いられる希釈溶剤(シンナー)を、二酸化炭素で一部又は全部を代替する二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装装置において、塗料供給ラインとして、塗料を貯蔵するタンク、該タンクから供給される塗料を所定の圧力まで加圧する塗料高圧ポンプ、該塗料高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を塗料タンクへ返送させる塗料1次圧調整弁、を有し、二酸化炭素供給ラインとして、液体二酸化炭素を貯蔵するタンク、該液体二酸化炭素を所定温度まで冷却する冷却器、該冷却器から供給される液体二酸化炭素を所定の圧力まで加圧する液体二酸化炭素高圧ポンプ、該液体二酸化炭素高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を同ポンプのサクションに返送させる液体二酸化炭素1次圧調整弁、を有し、溶剤供給ラインとして、溶剤タンク、該タンクから供給される溶剤を所定の圧力まで加圧する溶剤高圧ポンプを有し、塗料/二酸化炭素混合物ラインとして、上記塗料供給ラインから供給される加圧された塗料、上記二酸化炭素供給ラインから供給される加圧された二酸化炭素とを混合する混合器、及び該混合器から供給される混合後の塗料/二酸化炭素加圧混合物を大気圧下の塗装対象物へ噴霧する噴霧ガン、を有する装置であって、塗料との混合を行う前に、二酸化炭素に、あらかじめ有機溶剤を添加するようにしたことを特徴とする二酸化炭素を用いた塗装装置、である。
【0020】
また、本発明は、上記装置を使用して二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装を行う方法であって、当該塗装装置において、二酸化炭素に、あらかじめ塗料の真溶剤成分を少なくとも飽和溶解量添加し、二酸化炭素の真溶剤成分に対する溶解力を低下させることで、逆流して進入してきた塗料成分のポリマーの析出を防止する塗装方法、である。
【0021】
本発明では、塗料が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料であること、有機溶剤が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料の真溶剤であること、有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのサクション部に行うこと、有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのデリベリ部(加圧側)に行うこと、有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素加熱器の後のラインで行うこと、を好ましい実施の態様としている。
【0022】
また、本発明では、有機溶剤と二酸化炭素との混合を、マイクロ混合器で行うこと、有機溶剤と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても0.5mmのT字型マイクロ混合器であること、塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、二重管式マイクロ混合器であり、二酸化炭素が流入する内管の内径が、大きくても0.5mmであり、かつ外管の内径が、2.5mm〜5mmの範囲にあること、塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器に接続する二酸化炭素供給ラインの接続部のなるべく近い位置に、逆止弁を備え、塗料の二酸化炭素供給ラインへの逆流を防止する構造を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0023】
また、本発明では、塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を上部から対向するように流入させ、混合物を90度横から排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有すること、塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を90度横から流入させ、混合物を上方へ排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有すること、真溶剤成分を、二酸化炭素重量当たり20〜50%の範囲で添加すること、を好ましい実施の態様とている。
【0024】
一般に、有機溶剤系塗装では、重量基準で、塗料、すなわち、ポリマーと、ポリマーを溶解して流動性を持たせる真溶剤の50から150%の希釈溶剤、例えば、トルエン、キシレンなどを加えて、噴霧が可能な粘度まで低下させることが必要とされる。そして、その低粘度化された塗料/希釈溶剤の混合物は、空気を霧化媒体としたエアースプレー方式や、霧化エアーを使用しない高圧噴霧方式により、微細液滴として噴霧され、塗装対象物に塗布される。
【0025】
本発明は、上記の有機溶剤系塗装で使用される希釈溶剤を、二酸化炭素で一部又は全量を代替する塗装方式を提供するものである。本発明で対象とされる塗料は、一液硬化型塗料、及び二液硬化型塗料の2種に分けられ、特に、一液硬化型塗料を主な対象とする。
【0026】
塗料は、塗膜を形成するポリマーと、ポリマーを溶解して流動性を持たせる真溶剤からなり、真溶剤としては、噴霧後の蒸発性や、塗膜形成過程でのレベリング性などを種々調整するための有機溶剤、例えば、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、及びこれらの混合物より構成される。
【0027】
一液型塗料とは、無希釈で、あるいはシンナーなどの希釈剤(粘度調整剤)だけを調合して用いる塗料であり、主に、家電製品、例えば、TVキャビネットなどや、自動車部品、工業部品に用いられる。この塗料は、アクリル樹脂を主成分とし、硬化剤を使用しなくても、塗膜形成される塗料である。ニトロセルロースがブレンドされていることで、速乾性で、硬度が高く、耐摩耗性が優れている。適用素材は、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノリル樹脂、硬質塩化ビニール樹脂、ポリカーボネート樹脂など、巾広い用途に使用される。
【0028】
一方、二液型塗料とは、硬化剤を使用前に混合し、化学反応で硬化し、乾燥する塗料であり、耐アルコール性、耐磨耗性に優れ、主に、自動車内装、精密機器、光学機器に用いられる。この塗料は、アクリル樹脂を主成分とし、ポリイソシアネート化合物を硬化剤とする、二液反応硬化型のアクリルウレタン塗料のことである。
【0029】
本発明では、塗料に、二酸化炭素を混合、溶解させるが、その条件は、温度は30〜70℃、好ましくは35から45℃、圧力は5〜20MPa、好ましくは7〜10MPaである。従って、塗料を加圧する必要があるが、一般的に、粘度が50〜500cpと高く、塗料高圧ポンプとして、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどが用いられる。
【0030】
塗料粘度が充分に高ければ、ギヤポンプの採用も可能となる。一方、二酸化炭素高圧ポンプとしては、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプに加え、プランジャーポンプの採用も可能である。ただし、二酸化炭素の加圧に際しては、液体二酸化炭素での加圧が有利であり、この場合、ポンプの前段での冷却が必要とされる。
【0031】
本発明では、有機溶剤、特に、使用された塗料を構成する真溶剤そのものを、二酸化炭素ラインに供給することが必要であり、通常、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプが採用される。上述の塗料用には、摺動部が大気と触れて、ポリマーが析出することを防止するため、密閉式のポンプが必要となるが、真溶剤用には、その必要がないため、価格面から、プランジャーポンプの採用が有利である。
【0032】
本発明では、加熱器の型式は、特に限定されないが、装置の運転開始時や、流量を変えたときなどに、温度をなるべく早く一定に制御することや、塗装面の切り替えなどで噴霧を一時的に停止し、再度噴霧を開始するときなどに、それぞれの流体の温度が大きく変化しないことが求められる。そのため、一般的に使用される電気加熱式加熱器よりは、加熱媒体(通常は、水)の満たされたタンクに、流体の通過する高圧配管をコイル状に浸漬したタンク/コイル式の熱交換器が好適に用いられる。
【0033】
本発明では、塗料と二酸化炭素との混合前に、二酸化炭素に、あらかじめ有機溶剤、好ましくは塗料と同じ真溶剤を一定量添加しておくことが必要である。有機溶剤とは、塗料中にポリマー溶解のために添加されている真溶剤中の単独、あるいは複数の成分を指す。ここでは、二酸化炭素に、あらかじめ塗料の真溶剤成分を、飽和溶解量(真溶剤組成に依存するが、通常は、二酸化炭素重量当たり10〜50%程度)以上に添加する。
【0034】
それにより、二酸化炭素の真溶剤成分に対する溶解力を低下させることで、逆流して進入してきた塗料成分から、真溶剤だけが二酸化炭素へ移行することを防ぎ、結果として、ポリマーの析出を防止することが可能となる。従って、二酸化炭素への真溶剤成分の迅速・完全な溶解が必要であり、マイクロ混合器の採用、例えば、流路径が0.5mm以下のT字型マイクロ混合器が好ましく用いられる。
【0035】
本発明では、上記塗料と、二酸化炭素を効率的に混合し、塗料中に、二酸化炭素を溶解していくことが必要である。従来、この目的ためには、インラインミキサである流体多段分割の原理を応用したスタティックミキサ(静的混合器)が用いられてきたが、必ずしも充分な混合溶解が実現できないことに加え、一液硬化型塗料に関しては、混合器内、あるは混合器直前の二酸化炭素ラインでの閉塞が頻発する。
【0036】
流体多段分割を原理とするスタティックミキサは、流れが一時的に止められる傾向があり、これが、一時的な圧力変動を引き起こし、二酸化炭素が塗料に溶解する前に、塗料中の真溶剤成分が、二酸化炭素に移行し、その結果として、ポリマーの析出→圧力上昇→閉塞→噴霧不可、の状況を引き起こすと考えられる。
【0037】
また、迅速な混合性が期待できる、流路径が0.5mm以下のT字型マイクロ混合器や、中心衝突型マイクロ混合器においても、流体流れが、収縮→拡大を受ける際に、圧力変動を引き起こす原因となり、長時間での安定運転ができなくなると考えられる。
【0038】
紫外線硬化型塗料は、紫外線を照射されなければポリマー硬化を起こさないため、わずかな圧力変動であれば、影響をほとんど受けない。しかし、一液硬化型塗料に関しては、圧力変動に起因して、二酸化炭素へ真溶剤成分が抽出され、瞬時に、ポリマーの析出が起こることが想定され、混合器、及び混合器以降で噴霧ガンまでの配管構成においても、できる限り流れがスムースなことが求められる。
【0039】
これに対して、二酸化炭素が流入する内管の内径が0.5mm以下であり、かつ外管の内径が2.5mm〜5mmで、外管内径と内管外径との環状部に塗料が流入し、二酸化炭素導入部以降は単なる配管となる、二重管式マイクロ混合器を用いることで、安定した塗装が長時間継続できることが明らかとなった。
【0040】
当然ながら、混合器以降に、スタティックミキサを連結することは好ましくなく、噴霧ガンまで、できる限り配管径の変更を行わないことが望まれる。ただし、紫外線硬化型塗料と同様に、混合器以降、噴霧ガンまでの間で、塗料と二酸化炭素の二相形となることもあり、その場合、両流体の粘性が大きく異なるため、噴霧が安定せず、きれいな塗布が実現できない危険性もある。
【0041】
塗料への二酸化炭素の溶解度は、塗料の種類、温度・圧力により大きく変動するが、塗料中へ二酸化炭素が完全に溶解するまでには、一定の保持時間が必要となることが明らかとなった。この溶解のために、必要な時間は、混合器以降の混合性(配管径と配管ワーク)にも影響され、混合性の改良化を目的とした複数の曲げ部の設置も効果が認められる。
【0042】
本発明で用いる噴霧ガンは、エアレスタイプの高圧噴霧ガンであれば良いが、噴霧流量、噴霧圧力、及び噴霧パターンの最終的な制御は、この噴霧ガンに装着されている高圧ノズルオリフィスの開口径(相当径)とその形状に依存するため、極めて重要である。噴霧流量は、単位時間当たりの塗装量をどのくらいに設定するかで、大きく異なるが、塗料の流量として、一般的に、50〜500g/minの範囲が選択される。
【0043】
例えば、噴霧流量が、100g/min程度の場合、その時の圧力を5〜10MPaとすると、オリフィスの相当直径は、0.1〜0.2mmが選択される。オリフィスの形状については、求められる噴霧スプレーパターンにより異なるが、フラットスプレーであれば、楕円形のオリフィス形状となる。また、オリフィス形状が円形であれば、フルコーンスプレーとなるが、噴出直後に空気などを吹き付けて、スプレーパターンを制御することにより、フルコーンスプレーをフラットスプレーに変えることも可能である。
【0044】
次に、添付図面を参照し、本発明の実施の形態を具体的に説明する。図1に示す装置は、本発明に係る二酸化炭素塗装装置の好適な実施形態の一例である。図中、符号は、以下に示す手段を示す。すなわち、1:塗料タンク、2:塗料フィルター、3:塗料高圧ポンプ、4:塗料背圧弁(一次圧調整)、5:塗料加熱器、6:COボンベ、7:COフィルター、8:CO冷却器、9:CO高圧ポンプ、10:CO加熱器、11:CO背圧弁(一次圧調整)、12:CO冷却器2、13:塗料逆止弁、14:CO逆止弁、15:混合器、16:混合物加熱器、17:混合物ストップ弁、18:COストップ弁、19:噴霧ガン、30:溶剤タンク、31:溶剤高圧ポンプ、31:混合器、
を示す。
【0045】
上記装置、及びその動作について詳しく説明すると、塗料は、塗料タンク1に充填され、必要に応じて、窒素ガスなどにより加圧(数気圧)されて、フィルター2を経由して、塗料高圧ポンプ3のサクションに供給される。通常、フィルター2の目開きは、クリア塗料であれば、数十μmで良いが、有色塗料の場合には、固形物顔料を含有しているため、数百μmとすることが望ましい。
【0046】
塗料高圧ポンプ3は、容積式のポンプであり、吐出圧力が20MPa程度まであれば良く、一般的には、ダイアフラムポンプ、好ましくは脈動対策として、2連式のダイアフラムポンプが選定される。塗料によっては、プランジャーポンプでも可能であるが、プランジャーシール部が塗料で固着する危険性があるため、通常は、選択されない。対応策として、プランジャーシール部を、溶剤で浸漬することも適宜行うことができる。
【0047】
ポンプ駆動源は、装置の設置場所により、空気作動式、電動式が適宜選択される。塗料は、塗料高圧ポンプ3で、通常、10MPa前後に加圧され、必要に応じて、塗料加熱器5で、40℃前後に加熱されて、混合器15に送られる。このとき、定圧運転操作の場合には、噴霧流量(圧力とノズルオリフィスで決まる)より多いポンプ流量を設定し、余剰分を、背圧弁4から塗料タンク1に戻す操作を行う。このとき、定圧運転操作の制御圧力(システム圧力)は、この背圧弁4の一次圧力となる。
【0048】
一方、COは、ボンベ6の液体部分を吸い込み、フィルター7を通り、冷却器8で、飽和温度以下に冷却されて、CO高圧ポンプ9のサクションに供給される。この液体COは、CO高圧ポンプ9で加圧され、更に、CO加熱器10で、臨界温度(31℃)以上、通常、40℃の超臨界COに加熱されて、混合器15に送られる。
【0049】
ここで、CO高圧ポンプとしては、通常、ダイヤフラムポンプや、プランジャ−ポンプなどが選定されるが、塗料の場合と同様に、脈動防止のため、2連式ポンプの採用が望ましい。また、通常、CO供給の必要量は、塗料の30%以下と少量である。そのため、噴霧流量が少ない場合には、プランジャーポンプが採用される。
【0050】
また、溶剤は、溶剤タンク30より、溶剤高圧ポンプ31により加圧され、混合器32で、加圧加熱されたCOと混合される。この混合器は、価格や設置の制約上から、T字マイクロ混合器の採用が望ましい。ただし、混合器の設置位置は、CO高圧ポンプ9のサクション部でも、デリベリ直後でも可能である。
【0051】
加圧加熱された塗料、及びCO・溶剤の混合物は、混合器15で瞬時に混合され、塗料/CO混合物となる。混合器構造としては、上述したとおり、内管の内径が0.5mm以下の二重管式マイクロ混合器などが好適に使用される。本発明で使用される二重管式マイクロ混合器の概要を、図2に示す。また、逆止機構付のT字混合器も、好適に用いられる(図8参照)。
【0052】
塗料/CO混合物は、必要に応じて、混合物加熱器16で加熱され、ストップ弁17を経由して、噴霧ガン19で塗装対象物に向けて噴霧される。塗料/CO混合物は、噴霧直後に、COが離脱し、塗料の微細粒子となる。この塗料粒子の粒径は、温度、圧力、そして噴霧ガン構造、代表的にはノズルオリフィス口径などに依存し、10〜50μmの範囲にある。
【0053】
塗装対象物が立体的な形状の場合には、噴霧ガンが、3次元ロボットに搭載されて塗装が行われるが、塗装面を切り替えるときなどには、ストップ弁17が閉となり、直後にストップ弁18が開となって、超臨界COが、噴霧ガンのノズルに供給されて、瞬時に、洗浄が行われる。これがないと、ノズル先端部の閉塞の可能性が高まる。
【0054】
このとき、高圧塗料ポンプ3は、運転を継続しているが、定圧運転モードであれば、操作圧力のまま、背圧弁4により塗料が循環される。定量運転モードで操作している場合には、背圧弁4の設定を、操作圧力よりわずかに高くしておくことにより、少しの圧力上昇で、塗料が循環される。塗装を再開するときは、ストップ弁18を閉とし、ストップ弁17を開とすれば、噴霧が再開される。
【0055】
本方式は、ストップ弁17、18とも閉となっても、塗料と同様に、COも、背圧弁11により、余剰分をCO高圧ポンプ10のサクションにも戻すことが可能であり、特に、運転上問題はない。ただし、背圧弁11により減圧されるため、液体状態を確保するために、冷却器12でCOは冷却されることが好ましい。
【発明の効果】
【0056】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)VOC発生を大幅に低減することが可能な低環境負荷型の一液型・二液型塗料の塗装方法、及びその塗装装置を提供することができる。
(2)従来の有機溶剤系塗料によるスプレー塗装において、大量に使用される希釈溶剤(VOC)を極少量の二酸化炭素に代替することが可能となる。
(3)希釈溶剤(VOC)の大気中への排出を防止した一液型・二液型塗料の塗装技術を提供することができる。
(4)塗料の粘度が高いことに起因する装置の閉塞性の問題を確実に抑制し得る実用化可能な塗装技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る二酸化炭素塗装装置の実施形態の一例を示す。
【図2】二重管式マイクロ混合器の概要を示す。
【図3】ポリマーの析出を確認するために構築した比較例3の評価系を示す。
【図4】真溶剤の添加ユニットを増設した実施例1の評価系を示す。
【図5】実施例2におけるCOのみの場合の結果を示す。
【図6】実施例における真溶剤添加の効果を示す。
【図7】実施例2における有機溶剤添加の効果(3ml/min添加時)を示す。
【図8】逆止溝付きのT型混合器の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
比較例1
塗料として、一液硬化型塗料(樹脂組成:アクリル、ニトロセルロース、真溶剤組成:酢酸ブチル、シクロヘキサノン、イソブチルアルコール、酢酸エチル、ブチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン)を用いて、塗装実験を行った。操作条件は、40℃・8MPaとし、塗料流量は40g/分、CO流量は8g/分とし、混合器は、混合後の流路径が0.3mmの1/16インチT字継手(ローデッドボリュームT字継手、LDV−Tと略記する)を用いて行った。ただし、この実験では、COに、真溶剤の添加は行わなかった。
【0060】
本実験開始時は、溶剤とCOで安定した混合状態を確認した後、溶剤を塗料に切り替えたが、切り替え直後から、塗料の高い粘性に起因して、圧力上昇が起こり、しばらくすると、CO側の圧力が急上昇し、運転不可となった。装置停止後に、COラインを解体し、状況を調べた結果、混合器の上流のCOライン(混合器〜逆止弁までの間)に、塗料ポリマーの析出が認められた。
【0061】
この現象は、塗料は、非圧縮性流体であるため、即座に、圧力が増加するが、CO側は、圧縮性流体であるため、圧力上昇が少し遅れ、このとき、塗料が、COラインに逆流し、塗料中の真溶剤成分がCOに抽出された結果、塗料ポリマーが析出したものと推察された。
【0062】
比較例2
比較例1と同じ塗装実験を行った。ただし、塗料ラインの背圧弁を、操作圧力よりわずかに高く設定し、圧力が上昇しないように運転を行った。その結果、40℃・8MPaの条件で、定常操作が確立できたが、運転を十数分間継続すると、操作圧力が不安定となり、最終的に、CO側の圧力が急上昇し、運転不可となった。
【0063】
装置停止後に、COラインを解体し、状況を調べた結果、比較例1と同様に、混合器の上流のCOライン(混合器〜逆止弁までの間)に、塗料ポリマーの析出が認められた。この現象は、定常操作中に、混合器〜噴霧ガンまでのライン構成において、一時的に圧力変動があり、それに起因して、塗料が、COラインに逆流し、塗料中の真溶剤成分がCOに抽出された結果、塗料ポリマーが析出したものと推察された。
【0064】
比較例3
ポリマーの析出を再確認するために、図3に示すような評価系を構築し、逆止弁の中に、一液硬化型塗料を充填・密閉した後、ストップ弁Aを閉とし、ストップ弁Bを開として、所定の温度・圧力のCOを流通させた。定常状態を確認後、次に、ストップ弁Aを開とし、ストップ弁Bを閉として、逆止弁中にCOを一定時間(約10分)流通させた。その後、再度、ストップ弁Aを閉とし、ストップ弁Bを開として、圧力を大気圧まで減圧し、逆止弁の中の状態を確認した。
【0065】
その結果を表1に整理して示す。液体CO、超臨界CO(温度・圧力とも臨界点以上、温度は臨界点以上、かつ圧力は臨界点以下)のいずれの場合も、ポリマーは析出していた。特に、溶解度係数が4以下の場合においても、ポリマーの析出は防止できていなかった。参考実験として、紫外線硬化型塗料を、逆止弁に充填して、同様の操作を行ったが、ポリマーの析出は、認められなかった。
【0066】
【表1】

【実施例1】
【0067】
比較例3の評価系に、図4に示すような、真溶剤の添加ユニットを増設した評価系を構築して、真溶剤の添加率を種々変えて、同様の評価を行った。ここでは、COと真溶剤の混合器として、1/16インチのLDV−Tを用いた。その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
塗料と、COとのコンタクト前に、COに、真溶剤を20%以上加えることにより、逆止弁に充填した塗料中の真溶剤が、COに抽出されることを防止することができ、ポリマーの析出を回避することができた。逆に、本実施例で用いた真溶剤の超臨界COへの溶解度は、20%前後であることが分かった。
【実施例2】
【0070】
実施例1と同様の検討を、COに添加する有機溶剤の種類を種々変えて実施した。有機溶剤は、真溶剤の他に、真溶剤成分である、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、イソブチルアルコール、そして、真溶剤成分ではない、アセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコールを用いた。その評価結果を、整理して、表3〜5、及び図5〜7に示す。
【0071】
本実施例でのCO条件は、40℃・8MPa(超臨界)とし、流量は、全て10g/minで供給した。表中の析出度合は、5段階評価で、1:析出なし(最も良い状態)〜5:多量析出、を表している。また、相状態は、評価ライン上に設けた可視化窓内のCO/有機溶剤混合物の直視による状態を示している。1は、超臨界1相状態、2は、2相状態である。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
上記の表の結果から明らかなように、一液硬化型塗料中に含まれるポリマー成分の析出防止に効果が最もあるのは、真溶剤そのものと、シクロヘキサノンをCO量に対して30%以上添加したときであり、次いで、酢酸エチル、酢酸ブチル、及びアセトンの順となった。一方、アルコール類の添加は、添加率の大小によらず、ほぼ効果が認められない結果であった。
【実施例3】
【0076】
比較例1と同じ実験(真溶剤は未添加)を、混合器の種類を種々変えて実施した。使用した混合器は、STD−T、LDV−T、スワール型(内径0.5、0.8、10mmの3種類)、中心衝突型(2方向中心衝突、4方向中心衝突の2種類)、及び二重管型(内管1/16インチ×内径0.5mm×長さ120mm、外管1/4インチ×内径4.3mm×長さ160mm)の各種とした。
【0077】
また、各混合器の下流に、流体多段分割型スタティックミキサを設置した実験も実施した。本実験では、混合器以降を1/8インチ×1000mm+1/4インチ×1250mm(90度曲げ3箇所)のラインを通って噴霧する構成とした。
【0078】
その結果、二重管型混合器を使用したときの安定性が最も良く、次いで、中心衝突型、LDV−T、スワール、STD−Tの順であった。二重管型混合器は、流体の流動状態が最もシンプルであり、混合物の流れがスムースであることが、良い結果につながったものと考えられる。また、下流に、SMを設置した効果は、認められず、逆に、安定性が減じられる結果であった。
【実施例4】
【0079】
実施例2と同じ検討を、逆止機構付きのT型混合器(図8参照)を用いて実施した。本混合器は、内部に金属球を内包しており、圧力変動があっても、COラインに塗料が逆流しないことを目的としたものである。実験の結果、圧力変動はあるものの、COラインでのポリマーの析出は、完全に防止することができた。
【実施例5】
【0080】
(塗装実験)
1液硬化型アクリルクリア塗料について、塗装実験を行った。塗料組成は、樹脂が28%、真溶剤72%である。樹脂成分は、主成分がアクリルであり、他に、ニトロセルロース含み、真溶剤は、含有量の多い順に、エステル系、アルコール系、炭化水素系、そして、ケトン系から構成される。
【0081】
塗装操作は、LDV−Tを用いて、COに真溶剤を添加した後、一液硬化型塗料とCO/真溶剤混合物を、二重管型混合器で混合し、1/8インチ×1000mm+1/4インチ×1250mm(90度曲げ3箇所)のラインを通って、噴霧する構成とした。塗料流量は40g/分、CO流量は8g/分、及び真溶剤流量は2.4g/分の条件とし、40℃・8MPaで、噴霧操作(噴霧ロボットによる)を実施した。
【0082】
その結果、塗料粘性は、CO添加前120〜140cpが、添加後、20cp以下に低下し、圧力変動はほとんどなく、長時間の安定操作性が確認できた。しかしながら、安定した噴霧は行えたものの、プラスチック板表面に塗料塊が多数付着した状況であり、均一な塗膜の形成には至らなかった。
【0083】
そのため、レベリング性を良くするために、上記塗料に、真溶剤成分のみを重量比で20〜40%添加して、同様の塗装操作を行った。塗装後のプラスチック板を、5分間、室温で保持した後、50〜60℃の乾燥器内で、30分間、乾燥を行い、塗膜を硬化させた後、塗膜面の評価を行った。その結果、均一な塗膜が形成され、塗膜は、厚さが20μm前後で、表面粗さが0.5μmと実用レベルの塗装が実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上、詳述したように、本発明は、二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の塗装方法及びその装置に係るものであり、本発明により、VOC発生を大幅に低減することが可能な低環境負荷型の新しい塗装方法、及びその塗装装置を提供することができる。本発明では、従来の有機溶剤系塗料によるスプレー塗装において、大量に使用される希釈溶剤(VOC)を極少量の二酸化炭素に代替することが可能であり、本発明は、希釈溶剤(VOC)の大気中への排出を防止した、二酸化炭素を用いた一液型・二液型塗料の新しい塗装技術を提供することを可能とするものである。本発明により、塗料の粘度が高いことに起因する装置の閉塞性の問題を確実に抑制し得る実用化可能な塗装技術を提供することを実現することができる。本発明は、大気中へのVOCの排出を防止する、低環境負荷型の新しい塗装方法及びその装置を提供するものして有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤系の噴霧塗装において用いられる希釈溶剤(シンナー)を、二酸化炭素で一部又は全部を代替する二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装装置において、
塗料供給ラインとして、塗料を貯蔵するタンク、該タンクから供給される塗料を所定の圧力まで加圧する塗料高圧ポンプ、該塗料高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を塗料タンクへ返送させる塗料1次圧調整弁、を有し、
二酸化炭素供給ラインとして、液体二酸化炭素を貯蔵するタンク、該液体二酸化炭素を所定温度まで冷却する冷却器、該冷却器から供給される液体二酸化炭素を所定の圧力まで加圧する液体二酸化炭素高圧ポンプ、該液体二酸化炭素高圧ポンプの吐出圧を調整し、余剰分を同ポンプのサクションに返送させる液体二酸化炭素1次圧調整弁、を有し、
溶剤供給ラインとして、溶剤タンク、該タンクから供給される溶剤を所定の圧力まで加圧する溶剤高圧ポンプを有し、
塗料/二酸化炭素混合物ラインとして、上記塗料供給ラインから供給される加圧された塗料、上記二酸化炭素供給ラインから供給される加圧された二酸化炭素とを混合する混合器、及び該混合器から供給される混合後の塗料/二酸化炭素加圧混合物を大気圧下の塗装対象物へ噴霧する噴霧ガン、を有する装置であって、
塗料との混合を行う前に、二酸化炭素に、あらかじめ有機溶剤を添加するようにしたことを特徴とする二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項2】
塗料が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料である、請求項1記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項3】
有機溶剤が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料の真溶剤である、請求項1又は2記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項4】
有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのサクション部に行う、請求項1から3のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項5】
有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素高圧ポンプのデリベリ部(加圧側)に行う、請求項1から3のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項6】
有機溶剤の添加を、液体二酸化炭素加熱器の後のラインで行う、請求項1から3のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項7】
有機溶剤と二酸化炭素との混合を、マイクロ混合器で行う、請求項1から6のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項8】
有機溶剤と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても0.5mmのT字型マイクロ混合器である、請求項7記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項9】
塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、二重管式マイクロ混合器であり、二酸化炭素が流入する内管の内径が、大きくても0.5mmであり、かつ外管の内径が、2.5mm〜5mmの範囲にある、請求項7又は8記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項10】
塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器に接続する二酸化炭素供給ラインの接続部のなるべく近い位置に、逆止弁を備え、塗料の二酸化炭素供給ラインへの逆流を防止する構造を有する、請求項1から9のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項11】
塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を上部から対向するように流入させ、混合物を90度横から排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有する、請求項1から8のいずれかに記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項12】
塗料と二酸化炭素を混合するマイクロ混合器が、流路径が大きくても2mmのT字型マイクロ混合器であり、二酸化炭素を下部から、塗料を90度横から流入させ、混合物を上方へ排出させる構造を有し、内部に逆止のための金属球を備え、塗料の二酸化炭素ラインへの逆流を防止する構造を有する、請求項1から8に記載の二酸化炭素を用いた塗装装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の塗装装置を使用して二酸化炭素を用いた一液型又は二液型塗料の塗装を行う方法であって、当該塗装装置において、二酸化炭素に、あらかじめ塗料の真溶剤成分を少なくとも飽和溶解量添加し、二酸化炭素の真溶剤成分に対する溶解力を低下させることで、逆流して進入してきた塗料成分のポリマーの析出を防止することを特徴とする二酸化炭素を用いた塗装方法。
【請求項14】
真溶剤成分を、二酸化炭素重量当たり20〜50%の範囲で添加する、請求項13記載の二酸化炭素を用いた塗装方法。
【請求項15】
塗料が、一液硬化型塗料、又は二液硬化型塗料である、請求項12又は13に記載の二酸化炭素を用いた塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−234349(P2010−234349A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88501(P2009−88501)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発/革新的塗装装置の開発/二酸化炭素塗装装置の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592115836)加美電子工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】