二重シェルコアリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物
【課題】二重シェルコアリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物
【解決手段】
再充電可能電池の使用に向けたリチウム遷移金属酸化物粉末が開示され、上記粉末の一次粒子の表面は第一内側及び第二外側層で被覆され、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物を含む。この反応生成物の例はLiFであり、リチウムは一次粒子表面を発源とする。また、例として、フッ素含有ポリマーは、PVDF、PVDF−HFP、若しくはPTFEの何れか一つである。リチウム遷移金属酸化物の例は、LiCOdMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方でありe<0.02でありd+e=1である)、Li1+aM′i−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06でありb<0.02でありM′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成りM1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であって0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)及びLiaNixCOyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、0.9<(x+y+z+f)<1.1でM″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成りAはSとCの何れか一方若しくは両方から成る)の何れか一つである。被覆された粉末を作製するための方法例は、剥き出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、この粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、得られた粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くても140℃上回る温度で加熱する工程を含む。
【解決手段】
再充電可能電池の使用に向けたリチウム遷移金属酸化物粉末が開示され、上記粉末の一次粒子の表面は第一内側及び第二外側層で被覆され、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物を含む。この反応生成物の例はLiFであり、リチウムは一次粒子表面を発源とする。また、例として、フッ素含有ポリマーは、PVDF、PVDF−HFP、若しくはPTFEの何れか一つである。リチウム遷移金属酸化物の例は、LiCOdMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方でありe<0.02でありd+e=1である)、Li1+aM′i−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06でありb<0.02でありM′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成りM1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であって0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)及びLiaNixCOyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、0.9<(x+y+z+f)<1.1でM″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成りAはSとCの何れか一方若しくは両方から成る)の何れか一つである。被覆された粉末を作製するための方法例は、剥き出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、この粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、得られた粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くても140℃上回る温度で加熱する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能リチウム電池のためのカソード材料に関し、具体的には、フッ素含有ポリマーで被覆されその後熱処理された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物である。
【背景技術】
【0002】
以前は、LiCoO2は、最も使われていた再充電可能リチウム電池向けのカソード材料であった。しかしながら、最近、リチウムニッケル酸化物をベースとしたカソード、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物によるLiCoO2の代替が本格的に進行している。これらの代替材料においては、金属組成の選択に応じて、異なる制限が生じ、若しくは課題が解決されることを必要とする。単純さの理由のため、“リチウムニッケル酸化物をベースとしたカソード”という用語はこの先は“LNO”といい、“リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物”はこの先“LMNCO”という。
【0003】
LNO材料の一つの例はLiNi0.80Co0.15Al0.05O2である。これは高い容量をもち、しかしながら、一般に二酸化炭素フリーな雰囲気(酸素)が必要とされるため調製が難しく、水酸化リチウムのような特別な炭酸塩フリーな前駆体が、炭酸リチウムの代わりに使用される。それ故、そのような製造上の制限はこの材料のコストを顕著に上げる傾向にある。LNOは非常に敏感なカソード材料である。それは空気中で完全に安定ではないために大スケールでの電池生産がより難しくなっており、(それのより低い熱力学的安定性に起因して)実際の電池における乏しい安全性の原因となっている。最終的に、可溶性塩基の含有量が低いリチウムニッケル酸化物を生産することは非常に困難である。
【0004】
“可溶性塩基”は表面の近くにあるリチウムを意味し、熱力学的により不安定であり、そして溶液中へ移り、一方でバルク中のリチウムは熱力学的に安定であり溶解できない。したがって、表面におけるより低い安定性とバルクにおけるより高い安定性との間で、リチウムの安定性の勾配が存在する。高い塩基含量はしばしば電池生産中の問題につながるため、“可溶性塩基”の存在は不利である:スラリー作製中及びコーティング中の高い塩基量はスラリーの劣化(スラリー不安定性、ゲル化)を引き起こし、高い塩基量はまた、高温にさらされる間の過度のガス発生(電池の膨張)のような乏しい高温特性に関与する。イオン交換反応(LiMO2+δH+←→Li1−δHδMO2+δLi+)に基づいた、pH滴定による“可溶性塩基”の決定によって、そのLiの勾配は確証され得る。この反応の範囲は表面特性である。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0226810(A1)号明細書において、可溶塩基の問題はさらに議論されている:LiMO2カソード材料は前駆体として混成遷移金属水酸化物を使用して合成されている。これらは遷移金属硫酸塩とNaOHのような工業銘柄の塩基との共沈から得られ、LiMO2前駆体調製のための最も安価な工業ルートである。この塩基はCO32−アニオンをNa2CO3の形態で含み、混成水酸化物中でトラップされ、該混成水酸化物は通常は0.1質量%乃至1質量%のCO32−を含む。遷移金属前駆体以外に、リチウム前駆体Li2CO3、若しくは工業銘柄のLiOH*H2Oで少なくとも1質量%のLi2CO3を含むものが使用される。リチウムと遷移金属前駆体は、通常は700℃を超える高温で反応させられる。高ニッケルカソードLNOの場合において、Li2CO3不純物は生じたリチウム遷移金属酸化物粉末中、特にその表面に残留する。より高い純度の材料が使用されたとき、より少ないLi2CO3不純物が見出されるが、常にいくらかのLiOH不純物があり、空気中のCO2と反応してLi2CO3を形
成する。そのような解決法は特開2003−142093号公報において提案されており、しかしながら非常に高い純度の高価な前駆体の使用は好ましくない。
【0006】
LMNCOの例は、よく知られたLi1+XM1−XO2でM=Mn1/3Ni1/3Co1/3O2であり、ここでマンガン及びニッケル含量はほぼ同じである。“LMNCO”カソードは非常に頑丈であり、調製が容易であり、相対的に低いコバルト含量をもち、したがって、一般にコストが低い傾向にある。それらの主な欠点は、相対的に低い可逆容量である。一般に、4.3V乃至3.0Vで、その容量は約160mAh/g又はそれ未満であり、LNOカソードの185−195mAh/gと比べられる。LNOと比較したLMNCOのさらなる欠点は、相対的に低い結晶学的密度であり体積容量もまた低いこと、及び相対的に低い電気伝導性である。
【0007】
LNO及びLMNCO型材料の間において、我々は“ニッケルに富むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物”をLi1+xM1−xO2と位置づけることができ、ここで、M=Ni1−x−yMnxCoy若しくはM=Ni1−x−y−zMnxCoyAlzでありNi:Mnは1より大きく、一般には1.5乃至3の値のNi:Mnをもち、Co含量“y”は一般に0.1乃至0.3である。単純さのために、我々はこの材料の類を“LNMO”という。例は、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2、M=Ni0.67Mn0.22Co0.11、及びM=Ni0.6Mn0.2Co0.2である。
【0008】
LNOと比べて、LNMOは標準的な方法(Li2CO3前駆体を使用)によって調製することができ、そして、特別なガス(上で述べたように酸素など)は必要ない。LMNCOと比べてLNMOは、ずっと高い固有の容量と、おそらくは、高温において電解質(通常はMnの溶解によって特徴づけられる)と反応するより低い傾向をもつ。したがって、LNMOはおそらくLiCoO2の代替において主要な役割を果たすことが明らかとなる。一般に、塩基含量が増加すると、Ni:Mn比の増加と共に安全性能は悪化する傾向にある。一方で、高いMn含量は安全性の向上を助けることが、広く受け入れられている。
【0009】
高い塩基含量は、水分感受性に関連する。この点において、LNMOはLNOより低い水分感受性であるが、LMNCOよりは敏感である。調製直後に、よく調製されたLNMO試料は相対的に低い表面塩基の含量をもち、そしてそれがよく調製されたとき表面塩基のほとんどはLi2CO3型塩基ではない。しかしながら、水分の存在下では、空中のCO2、若しくは有機ラジカルはLiOH型塩基と反応しLi2CO3型塩基を形成する。同様に、消費されたそのLiOHは、バルクからのLiによってゆっくりと再形成され、したがって、全体の塩基(全体の塩基=Li2CO3+LiOH型塩基のモル)は増加する。同時に、その水分(ppm H2O)は増加する。これらのプロセスは電池の作製にとって非常に悪い。Li2CO3と水分は、深刻な膨張を引き起こし、スラリー安定性を悪化させることが知られている。それ故に、LNMO及びLNO材料の水分感受性を低下させることが望まれる。
【0010】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書において、LNOカソード材料の環境安定性を向上させる方法が述べられている。該特許は、非分解ポリマーの単一層の形態での、ニッケルベースのカソード材料のポリマーコーティングを公開する。ポリマー(例えばPVDF)はリチウムイオン電池の製造(電極コーティングのためのスラリー作製)で一般に使用される結合剤から選択される。
【0011】
熱安定性(安全性)は電解質とカソード材料との界面の安定性に関連する。表面安定性を向上させる一般的な取り組みはコーティングによる。コーティングの多くの異なる例は文献と、特に特許文献において利用可能である。コーティングを分類する種々の方法がある。例えば、我々はその場以外(ex−situ)とその場(in−situ)コーティン
グとを区別することができる。その場以外コーティングにおいては、層は粒子上を被覆する。コーティングは、ドライ若しくはウェットコーティングによって得ることができる。一般に、該コーティングは、少なくともコーティング工程及び一般には追加の加熱工程を伴う分離プロセスにおいて適用される。したがって、プロセスの全体のコストは高い。また、いくつかの場合において、その場コーティング、若しくは自己組織化コーティングが可能である。この場合、コーティング材料は、熱を加える(cooking)前にブレンドに加えられ、熱を加えている間に分離した相を形成し、好ましくはコーティング相は液体となり、そしてLiMO2とコーティング相との間のぬれが強いとき、薄く高密度なコーティング相は最終的に電気化学的に活性なLiMO2相を覆う。明らかに、コーティング相がコアをぬらすとき、その場コーティングはただ有効である。
【0012】
我々は、カチオン性とアニオン性コーティングをまた区別できる。カチオン性コーティングの例は、Al2O3コーティングである。アニオン性コーティングの例は、フッ化物、リン酸塩、ケイ酸塩コーティング、及び同類のものである。フッ化物コーティングは特に好まれる、なぜならLiFの保護フィルムが形成されるためである。熱力学的にLiFは非常に安定であり、電解質と反応せず、したがって、LiFコーティングは、高い温度及び電圧での良好な安定性を達成するために非常に有望である。クログネク(Croguennec)らによってジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサイエティー 156(5) A349−A355(2009)(Journal of The Electrochemical Society, 156(5)A349−A355(2009))において用いられているような典型的な手法は、LiF保護フィルムを達成するためのリチウム遷移金属酸化物へのLiFの添加である。しかしながら、LiFの高い融点及びまた乏しいぬれ特性のため、薄く高密度なLiFフィルムを得ることは不可能である。クログネクは、コーティングの代わりに、LiMO2粒子の粒界において小粒子若しくは“シート”を見出すことができたと報告している。さらに可能な方法は、MgF2、AlF3、若しくはリチウム氷晶石の使用である。
【0013】
我々は、無機と有機コーティングを、さらに区別することができる。有機コーティングの例は、ポリマーコーティングである。ポリマーコーティングの一つの利点は、弾性コーティングが得られる可能性である。一方で、乏しい電気伝導性、及び、時としてポリマーを隔てた乏しいリチウム輸送から問題が生じる。一般に、ポリマーコーティングは、多少は表面に付着するが、それは表面を化学的に変化させない。
【0014】
上で述べたアプローチが、LNO及びLNMO材料の前述の問題を改善するために効果的であることを示す、先行技術におけるあらゆる実験データを見出すことはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
まとめると、
1)LMNCOは頑丈な材料であるが、深刻な容量制限をもつ、
2)熱安定性を高めること、及びLNOの塩基含量を減少させることが望まれている
3)熱安定性を高めること、及びLNMOの塩基含量を減少させることが望まれている。
本発明の目的は、前に述べた問題を、改善若しくは克服し、高い容量のLMNCO材料の代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
概要
第一の特徴からみると、本発明は、再充電可能リチウム電池の使用のためのリチウム遷移
金属酸化物粉末を提供でき、第一内側、及び第二外側層によって被覆された前記粉末の一次粒子の表面を有し、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物から成る。一つの実施態様において、この反応生成物はLiFであり、リチウムは一次粒子表面を発源とする。別の実施態様において、該反応生成物LiF中のそのフッ素は、該外側層に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とする。
【0017】
特定の実施態様において、第一内側層は厚さが少なくとも0.5nm、若しくは少なくとも0.8nm、若しくは少なくとも1nmまでものLiFフィルムから成る。別の特定の実施態様において、フッ素含有ポリマーは、PVDF、PVDF−HFP若しくはPTFEの何れか一つである。該フッ素含有ポリマーは、0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集した一次粒子から構成され得る。そのような粒子サイズは、溶融した該フッ素含有ポリマーのぬれ特性に有利である。
【0018】
リチウム遷移金属酸化物の例は、
−LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02及びd+e=1を含む)、
−Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り質量%で0≦k≦0.1を含み、0≦m≦0.6、mはmol%で表される)、
−Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方から成る)、
の何れか一つであり得る。
【0019】
実施態様の例において、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0であってa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である。別の実施態様において、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である。a″/b″>1である実施態様は、リチウムイオン角形若しくはポリマー電池における使用にとって、とりわけ適切である。
【0020】
最初のコーティングに適用された元の状態のポリマーはフッ素を含む。一つの実施態様において、それは少なくとも50質量%のフッ素を含む。元の状態のポリマーの典型的な例は、PVDFホモポリマー若しくはPVDFコポリマー(例えばハイラー(HYLAR)(登録商標)又はソレフ(SOLEF)(登録商標)PVDFであり、両者はベルギーのソルベー社(Solvay SA)より)である。別の知られているPVDFをベースとしたコポリマーは、例えばPVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。そのようなポリマーは、しばしば、“カイナー(Kynar)(登録商標)”の名で知られる。テフロン(Teflon)(登録商標)、若しくはPTFEもまたポリマーとして使用される。
【0021】
第二の特徴からみると、本発明は、リチウム遷移金属酸化物粉末を、フッ素を含有する二層コーティングで覆うための方法を提供でき、
剥き出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
この粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、
得られた粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱し、それによって金属酸化物粉末の表面上にフッ
素含有ポリマーから成る外側層及び該粉末表面と該ポリマーとの反応生成物から成る内側層から成る二層コーティングが形成される工程を含む。
【0022】
一つの実施態様において、粉末−ポリマー混合物におけるフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%であり、別の実施態様においては0.2質量%乃至1質量%である。また、内側層は好ましくはLiFから成る。内側層の例は、少なくとも0.5nm、若しくは少なくとも0.8nm、若しくは少なくとも1nmの厚さを有する。
【0023】
一つの方法の例はPVDFのようなフッ素含有ポリマーを使用し、そして粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度で少なくとも1時間加熱される。具体的な実施態様において、加熱は240℃乃至275℃の温度で少なくとも1時間である。
【0024】
本方法で用いられるリチウム遷移金属酸化物の例は、
−LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02であってd+e=1である)、
−Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6であってmはmol%で表される)、及び
−Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、そして0.9<(x+y+z+f)<1.1、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方から成る)の何れか一つである。
【0025】
実施態様の例において、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0でありa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である。別の実施態様において、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1:LNMO/1%PVDF混合物の、加熱温度に対するユニットセル体積(下)、塩基含量(中、μmol/g)及び水分含量(ppm)。
【図2】図2a:LNMO/1%PVDF混合物の加熱温度に対する、レート(Rate)(下、%での1C vs.0.1C)、不可逆的容量(中、mAh/g)及び可逆的容量(上、mAh/g)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能リチウム電池のためのカソード材料に関し、具体的には、フッ素含有ポリマーで被覆されその後熱処理された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物である。
【背景技術】
【0002】
以前は、LiCoO2は、最も使われていた再充電可能リチウム電池向けのカソード材料であった。しかしながら、最近、リチウムニッケル酸化物をベースとしたカソード、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物によるLiCoO2の代替が本格的に進行している。これらの代替材料においては、金属組成の選択に応じて、異なる制限が生じ、若しくは課題が解決されることを必要とする。単純さの理由のため、“リチウムニッケル酸化物をベースとしたカソード”という用語はこの先は“LNO”といい、“リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物”はこの先“LMNCO”という。
【0003】
LNO材料の一つの例はLiNi0.80Co0.15Al0.05O2である。これは高い容量をもち、しかしながら、一般に二酸化炭素フリーな雰囲気(酸素)が必要とされるため調製が難しく、水酸化リチウムのような特別な炭酸塩フリーな前駆体が、炭酸リチウムの代わりに使用される。それ故、そのような製造上の制限はこの材料のコストを顕著に上げる傾向にある。LNOは非常に敏感なカソード材料である。それは空気中で完全に安定ではないために大スケールでの電池生産がより難しくなっており、(それのより低い熱力学的安定性に起因して)実際の電池における乏しい安全性の原因となっている。最終的に、可溶性塩基の含有量が低いリチウムニッケル酸化物を生産することは非常に困難である。
【0004】
“可溶性塩基”は表面の近くにあるリチウムを意味し、熱力学的により不安定であり、そして溶液中へ移り、一方でバルク中のリチウムは熱力学的に安定であり溶解できない。したがって、表面におけるより低い安定性とバルクにおけるより高い安定性との間で、リチウムの安定性の勾配が存在する。高い塩基含量はしばしば電池生産中の問題につながるため、“可溶性塩基”の存在は不利である:スラリー作製中及びコーティング中の高い塩基量はスラリーの劣化(スラリー不安定性、ゲル化)を引き起こし、高い塩基量はまた、高温にさらされる間の過度のガス発生(電池の膨張)のような乏しい高温特性に関与する。イオン交換反応(LiMO2+δH+←→Li1−δHδMO2+δLi+)に基づいた、pH滴定による“可溶性塩基”の決定によって、そのLiの勾配は確証され得る。この反応の範囲は表面特性である。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0226810(A1)号明細書において、可溶塩基の問題はさらに議論されている:LiMO2カソード材料は前駆体として混成遷移金属水酸化物を使用して合成されている。これらは遷移金属硫酸塩とNaOHのような工業銘柄の塩基との共沈から得られ、LiMO2前駆体調製のための最も安価な工業ルートである。この塩基はCO32−アニオンをNa2CO3の形態で含み、混成水酸化物中でトラップされ、該混成水酸化物は通常は0.1質量%乃至1質量%のCO32−を含む。遷移金属前駆体以外に、リチウム前駆体Li2CO3、若しくは工業銘柄のLiOH*H2Oで少なくとも1質量%のLi2CO3を含むものが使用される。リチウムと遷移金属前駆体は、通常は700℃を超える高温で反応させられる。高ニッケルカソードLNOの場合において、Li2CO3不純物は生じたリチウム遷移金属酸化物粉末中、特にその表面に残留する。より高い純度の材料が使用されたとき、より少ないLi2CO3不純物が見出されるが、常にいくらかのLiOH不純物があり、空気中のCO2と反応してLi2CO3を形
成する。そのような解決法は特開2003−142093号公報において提案されており、しかしながら非常に高い純度の高価な前駆体の使用は好ましくない。
【0006】
LMNCOの例は、よく知られたLi1+XM1−XO2でM=Mn1/3Ni1/3Co1/3O2であり、ここでマンガン及びニッケル含量はほぼ同じである。“LMNCO”カソードは非常に頑丈であり、調製が容易であり、相対的に低いコバルト含量をもち、したがって、一般にコストが低い傾向にある。それらの主な欠点は、相対的に低い可逆容量である。一般に、4.3V乃至3.0Vで、その容量は約160mAh/g又はそれ未満であり、LNOカソードの185−195mAh/gと比べられる。LNOと比較したLMNCOのさらなる欠点は、相対的に低い結晶学的密度であり体積容量もまた低いこと、及び相対的に低い電気伝導性である。
【0007】
LNO及びLMNCO型材料の間において、我々は“ニッケルに富むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物”をLi1+xM1−xO2と位置づけることができ、ここで、M=Ni1−x−yMnxCoy若しくはM=Ni1−x−y−zMnxCoyAlzでありNi:Mnは1より大きく、一般には1.5乃至3の値のNi:Mnをもち、Co含量“y”は一般に0.1乃至0.3である。単純さのために、我々はこの材料の類を“LNMO”という。例は、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2、M=Ni0.67Mn0.22Co0.11、及びM=Ni0.6Mn0.2Co0.2である。
【0008】
LNOと比べて、LNMOは標準的な方法(Li2CO3前駆体を使用)によって調製することができ、そして、特別なガス(上で述べたように酸素など)は必要ない。LMNCOと比べてLNMOは、ずっと高い固有の容量と、おそらくは、高温において電解質(通常はMnの溶解によって特徴づけられる)と反応するより低い傾向をもつ。したがって、LNMOはおそらくLiCoO2の代替において主要な役割を果たすことが明らかとなる。一般に、塩基含量が増加すると、Ni:Mn比の増加と共に安全性能は悪化する傾向にある。一方で、高いMn含量は安全性の向上を助けることが、広く受け入れられている。
【0009】
高い塩基含量は、水分感受性に関連する。この点において、LNMOはLNOより低い水分感受性であるが、LMNCOよりは敏感である。調製直後に、よく調製されたLNMO試料は相対的に低い表面塩基の含量をもち、そしてそれがよく調製されたとき表面塩基のほとんどはLi2CO3型塩基ではない。しかしながら、水分の存在下では、空中のCO2、若しくは有機ラジカルはLiOH型塩基と反応しLi2CO3型塩基を形成する。同様に、消費されたそのLiOHは、バルクからのLiによってゆっくりと再形成され、したがって、全体の塩基(全体の塩基=Li2CO3+LiOH型塩基のモル)は増加する。同時に、その水分(ppm H2O)は増加する。これらのプロセスは電池の作製にとって非常に悪い。Li2CO3と水分は、深刻な膨張を引き起こし、スラリー安定性を悪化させることが知られている。それ故に、LNMO及びLNO材料の水分感受性を低下させることが望まれる。
【0010】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書において、LNOカソード材料の環境安定性を向上させる方法が述べられている。該特許は、非分解ポリマーの単一層の形態での、ニッケルベースのカソード材料のポリマーコーティングを公開する。ポリマー(例えばPVDF)はリチウムイオン電池の製造(電極コーティングのためのスラリー作製)で一般に使用される結合剤から選択される。
【0011】
熱安定性(安全性)は電解質とカソード材料との界面の安定性に関連する。表面安定性を向上させる一般的な取り組みはコーティングによる。コーティングの多くの異なる例は文献と、特に特許文献において利用可能である。コーティングを分類する種々の方法がある。例えば、我々はその場以外(ex−situ)とその場(in−situ)コーティン
グとを区別することができる。その場以外コーティングにおいては、層は粒子上を被覆する。コーティングは、ドライ若しくはウェットコーティングによって得ることができる。一般に、該コーティングは、少なくともコーティング工程及び一般には追加の加熱工程を伴う分離プロセスにおいて適用される。したがって、プロセスの全体のコストは高い。また、いくつかの場合において、その場コーティング、若しくは自己組織化コーティングが可能である。この場合、コーティング材料は、熱を加える(cooking)前にブレンドに加えられ、熱を加えている間に分離した相を形成し、好ましくはコーティング相は液体となり、そしてLiMO2とコーティング相との間のぬれが強いとき、薄く高密度なコーティング相は最終的に電気化学的に活性なLiMO2相を覆う。明らかに、コーティング相がコアをぬらすとき、その場コーティングはただ有効である。
【0012】
我々は、カチオン性とアニオン性コーティングをまた区別できる。カチオン性コーティングの例は、Al2O3コーティングである。アニオン性コーティングの例は、フッ化物、リン酸塩、ケイ酸塩コーティング、及び同類のものである。フッ化物コーティングは特に好まれる、なぜならLiFの保護フィルムが形成されるためである。熱力学的にLiFは非常に安定であり、電解質と反応せず、したがって、LiFコーティングは、高い温度及び電圧での良好な安定性を達成するために非常に有望である。クログネク(Croguennec)らによってジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサイエティー 156(5) A349−A355(2009)(Journal of The Electrochemical Society, 156(5)A349−A355(2009))において用いられているような典型的な手法は、LiF保護フィルムを達成するためのリチウム遷移金属酸化物へのLiFの添加である。しかしながら、LiFの高い融点及びまた乏しいぬれ特性のため、薄く高密度なLiFフィルムを得ることは不可能である。クログネクは、コーティングの代わりに、LiMO2粒子の粒界において小粒子若しくは“シート”を見出すことができたと報告している。さらに可能な方法は、MgF2、AlF3、若しくはリチウム氷晶石の使用である。
【0013】
我々は、無機と有機コーティングを、さらに区別することができる。有機コーティングの例は、ポリマーコーティングである。ポリマーコーティングの一つの利点は、弾性コーティングが得られる可能性である。一方で、乏しい電気伝導性、及び、時としてポリマーを隔てた乏しいリチウム輸送から問題が生じる。一般に、ポリマーコーティングは、多少は表面に付着するが、それは表面を化学的に変化させない。
【0014】
上で述べたアプローチが、LNO及びLNMO材料の前述の問題を改善するために効果的であることを示す、先行技術におけるあらゆる実験データを見出すことはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
まとめると、
1)LMNCOは頑丈な材料であるが、深刻な容量制限をもつ、
2)熱安定性を高めること、及びLNOの塩基含量を減少させることが望まれている
3)熱安定性を高めること、及びLNMOの塩基含量を減少させることが望まれている。
本発明の目的は、前に述べた問題を、改善若しくは克服し、高い容量のLMNCO材料の代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
概要
第一の特徴からみると、本発明は、再充電可能リチウム電池の使用のためのリチウム遷移
金属酸化物粉末を提供でき、第一内側、及び第二外側層によって被覆された前記粉末の一次粒子の表面を有し、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物から成る。一つの実施態様において、この反応生成物はLiFであり、リチウムは一次粒子表面を発源とする。別の実施態様において、該反応生成物LiF中のそのフッ素は、該外側層に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とする。
【0017】
特定の実施態様において、第一内側層は厚さが少なくとも0.5nm、若しくは少なくとも0.8nm、若しくは少なくとも1nmまでものLiFフィルムから成る。別の特定の実施態様において、フッ素含有ポリマーは、PVDF、PVDF−HFP若しくはPTFEの何れか一つである。該フッ素含有ポリマーは、0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集した一次粒子から構成され得る。そのような粒子サイズは、溶融した該フッ素含有ポリマーのぬれ特性に有利である。
【0018】
リチウム遷移金属酸化物の例は、
−LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02及びd+e=1を含む)、
−Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り質量%で0≦k≦0.1を含み、0≦m≦0.6、mはmol%で表される)、
−Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方から成る)、
の何れか一つであり得る。
【0019】
実施態様の例において、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0であってa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である。別の実施態様において、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である。a″/b″>1である実施態様は、リチウムイオン角形若しくはポリマー電池における使用にとって、とりわけ適切である。
【0020】
最初のコーティングに適用された元の状態のポリマーはフッ素を含む。一つの実施態様において、それは少なくとも50質量%のフッ素を含む。元の状態のポリマーの典型的な例は、PVDFホモポリマー若しくはPVDFコポリマー(例えばハイラー(HYLAR)(登録商標)又はソレフ(SOLEF)(登録商標)PVDFであり、両者はベルギーのソルベー社(Solvay SA)より)である。別の知られているPVDFをベースとしたコポリマーは、例えばPVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。そのようなポリマーは、しばしば、“カイナー(Kynar)(登録商標)”の名で知られる。テフロン(Teflon)(登録商標)、若しくはPTFEもまたポリマーとして使用される。
【0021】
第二の特徴からみると、本発明は、リチウム遷移金属酸化物粉末を、フッ素を含有する二層コーティングで覆うための方法を提供でき、
剥き出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
この粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、
得られた粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱し、それによって金属酸化物粉末の表面上にフッ
素含有ポリマーから成る外側層及び該粉末表面と該ポリマーとの反応生成物から成る内側層から成る二層コーティングが形成される工程を含む。
【0022】
一つの実施態様において、粉末−ポリマー混合物におけるフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%であり、別の実施態様においては0.2質量%乃至1質量%である。また、内側層は好ましくはLiFから成る。内側層の例は、少なくとも0.5nm、若しくは少なくとも0.8nm、若しくは少なくとも1nmの厚さを有する。
【0023】
一つの方法の例はPVDFのようなフッ素含有ポリマーを使用し、そして粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度で少なくとも1時間加熱される。具体的な実施態様において、加熱は240℃乃至275℃の温度で少なくとも1時間である。
【0024】
本方法で用いられるリチウム遷移金属酸化物の例は、
−LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02であってd+e=1である)、
−Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6であってmはmol%で表される)、及び
−Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05、そして0.9<(x+y+z+f)<1.1、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方から成る)の何れか一つである。
【0025】
実施態様の例において、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0でありa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である。別の実施態様において、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1:LNMO/1%PVDF混合物の、加熱温度に対するユニットセル体積(下)、塩基含量(中、μmol/g)及び水分含量(ppm)。
【図2】図2a:LNMO/1%PVDF混合物の加熱温度に対する、レート(Rate)(下、%での1C vs.0.1C)、不可逆的容量(中、mAh/g)及び可逆的容量(上、mAh/g)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再充電可能電池において使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉末であって、
前記粉末の一次粒子の表面は第一内側層及び第二外側層で被覆され、
前記第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、
前記第一内側層は前記フッ素含有ポリマーと前記一次粒子の表面との反応生成物から成ることを特徴とする、
リチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項2】
前記反応生成物はLiFであり、該リチウムは前記一次粒子の表面を発源とすることを特徴とする請求項1に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項3】
前記反応生成物LiF中のフッ素は、前記外側層中に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とすることを特徴とする、請求項2に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項4】
前記フッ素含有ポリマーはPVDF、PVDF−HFP又はPTFEの何れか一つであり、前記フッ素含有ポリマーは、好ましくは0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集した一次粒子から構成されることを特徴とする、
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiのどちらか一方若しくは両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であり、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方である)の何れか一つであることを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項6】
M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0、a″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項7】
0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項8】
前記第一内側層は少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして最も好ましくは少なくとも1nmの厚さをもつLiFフィルムから成ることを特徴とする、
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項9】
リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆うための方法であって、むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
前記粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、
前記の粉末−ポリマー混合物を、前記フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱し、これによって前記金属酸化物粉末の表面上に、前記フッ素含有ポリマーから成る外側層と、前記粉末の表面と前記ポリマーとの反応生成物から成る内側層とから成る二層コーティングが形成される工程を含む方法。
【請求項10】
前記の粉末−ポリマー混合物におけるフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%、そして好ましくは0.2質量%乃至1質量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記内側層はLiFから成る、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度において、そして好ましくは240℃乃至275℃において、少なくとも1時間加熱される、請求項9乃至請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム遷移金属酸化物は、
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であり、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方である)の何れか一つであることを特徴とする、請求項9乃至請求項12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記内側層は少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして最も好ましくは少なくとも1nmの厚さを有する、請求項9乃至請求項15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
リチウムイオン角形若しくはポリマー電池における、請求項6又は請求項7に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末の使用。
【請求項1】
再充電可能電池において使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉末であって、
前記粉末の一次粒子の表面は第一内側層及び第二外側層で被覆され、
前記第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、
前記第一内側層は前記フッ素含有ポリマーと前記一次粒子の表面との反応生成物から成ることを特徴とする、
リチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項2】
前記反応生成物はLiFであり、該リチウムは前記一次粒子の表面を発源とすることを特徴とする請求項1に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項3】
前記反応生成物LiF中のフッ素は、前記外側層中に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とすることを特徴とする、請求項2に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項4】
前記フッ素含有ポリマーはPVDF、PVDF−HFP又はPTFEの何れか一つであり、前記フッ素含有ポリマーは、好ましくは0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集した一次粒子から構成されることを特徴とする、
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiのどちらか一方若しくは両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であり、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方である)の何れか一つであることを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項6】
M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0、a″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項7】
0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項8】
前記第一内側層は少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして最も好ましくは少なくとも1nmの厚さをもつLiFフィルムから成ることを特徴とする、
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末。
【請求項9】
リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆うための方法であって、むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
前記粉末をフッ素含有ポリマーと混合する工程と、
前記の粉末−ポリマー混合物を、前記フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱し、これによって前記金属酸化物粉末の表面上に、前記フッ素含有ポリマーから成る外側層と、前記粉末の表面と前記ポリマーとの反応生成物から成る内側層とから成る二層コーティングが形成される工程を含む方法。
【請求項10】
前記の粉末−ポリマー混合物におけるフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%、そして好ましくは0.2質量%乃至1質量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記内側層はLiFから成る、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度において、そして好ましくは240℃乃至275℃において、少なくとも1時間加熱される、請求項9乃至請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム遷移金属酸化物は、
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方若しくは両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物でありその少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1であり、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCの何れか一方若しくは両方である)の何れか一つであることを特徴とする、請求項9乃至請求項12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記内側層は少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも0.8nm、そして最も好ましくは少なくとも1nmの厚さを有する、請求項9乃至請求項15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
リチウムイオン角形若しくはポリマー電池における、請求項6又は請求項7に記載のリチウム遷移金属酸化物粉末の使用。
【図2】図2b:LNMO/1%PVDF混合物の加熱温度に対する、0.1Cレート(上)若しくは1Cレート(下)で測定したエネルギー減衰(100サイクルあたりの%で測定した)。
【図3】図3:200℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のSEM。
【図4】図4:250℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のFESEM顕微鏡写真。
【図5】図5:350℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のSEM。
【図6】図6:上:加熱温度に対する、LNMO/0.3%PVDF混合物の湿気露出の後の水分含量。下:加熱温度に対する、LNMO/0.3%PVDF混合物の、湿気露出の前(★)及び後(△)の塩基含量。
【図7】図7a及びb:300/600℃で加熱されたLCO/1%PVDF混合物のSEM。
【図8】図8:放電電圧プロファイル:異なる温度で加熱されたLCO/1%PVDF混合物の、カソード容量(mAh/g)に対する電圧V。
【図9】図9:カイナー(登録商標)2801試料のSEM写真。
【図10】図10:カイナー(登録商標)2801及びカイナー(登録商標)とLiOH・H2Oの混合物のDSC測定であり、温度に対する熱流量(W/g)を示す。
【図11】図11:対照標準のPVDF(下)及び250℃で処理したLNO/PVDF混合物(上)のX線回折パターン(任意単位、散乱角に対して(度))。
【図12】図12:対照標準のPVDF(下)及び175(上曲線)/150℃(下曲線)で処理したLNO/PVDF混合物(上部)のX線回折パターン。
【図13】図13:上:LNMO/PVDF混合物の熱処理温度に対するクロマトグラフィーによって検出されたフッ素(g/サンプルのg)。下:LNMO/PVDFの熱処理温度に対する、クロマトグラフィーデータ混合物(data mixtures)から計算された計算フラクション(PVDF中のフッ素に対するフッ素のg)。
【図14】図14a−c:F 1sの小領域(subregion)のXPSナロースキャンスペクトルであり、2F寄与へのデコンボリューションを示す:687.5 eVにおける有機F及び684.7eVにおけるLiF中のF−。
【0027】
詳細な説明
単純な用語において、本発明の第一の特徴におけるカソード材料のその構造は、例えば二重シェルコア設計として記述され得る。該二重シェルは繰り返しのコーティングによってではなく、最初のコーティングとその材料コア表面とのその場反応によって得られる。該反応は、下に述べられるように一定の加熱温度において起こる。該二重シェルの最も外側の部分はポリマーの薄い層である。該ポリマーは部分的に分解され、そして非常に薄い内側層(基本的にはフッ化リチウム)と接触し、再びLNO及びLNMOコアを覆う。LiF層は、分解するポリマーと、LNO若しくはLNMOのリチウムを含む表面塩基との反応を発源とする。通常のフッ化物含有ポリマー、例えばカイナー(登録商標)など(下もみよ)は加熱すると融解するのみであるが、遷移金属酸化物表面でのLi塩基との接触は、そのポリマーの分解につながる化学反応を起こすことが確証されている。この分解は、最終的には蒸発するガスの発生及び炭素の残留となり得、十分な温度で分解したときも驚いたことにはLi2CO3型塩基を再形成する粒子との反応を伴わない。LiFフィルムはLi2CO3を形成する炭素の反応を妨げることで、粒子中のLiを保護すると推測される。この“完全な”分解(本発明における一部の分解とは対照的な)は、十分な熱が加えられたときにのみ起こる。遷移金属酸化物上を被覆するポリマーの量に依存して、外側シェルは一部分解したポリマー以外に、多少の元の状態の(反応していない)ポリマーを含む。その意味で“一部分解した”という用語は、
− 分解したものと元の状態のポリマーとの混合物、及び
− 多少分解したポリマーの混合物であって、いまだにポリマーとみなすことができるが本来の元の状態のポリマーとは異なる組成を有するもの
の両方を含む。
【0028】
実際において、“二重シェル”という用語は、内側LiFシェル以外に、一部分解したポリマーから成る外側層と、おそらくはより分解していない又は元の状態であるポリマーによって覆われている外側層も含むことができる。二重シェルは以下の機能をもつ:一部分解したポリマーの外側層は水分吸収から保護し、一方でその薄いLiFを基本とする内側層は反応性の表面塩基層を置き換え、したがって、塩基含量の減少と安全性の改善となる。
【0029】
表面被覆されたリチウム遷移金属酸化物の例は、上で述べた背景のコーティング分類と対応しない。その例において、我々は分解したポリマーを発源とする反応生成物の存在と二重シェルの形成を観測する。したがって、それは米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書において開示されているようなポリマーコーティングではない。
アニオンコーティングとして同じものではなく、なぜならば(a)部分的に分解したポリマーは鍵となる役割を果たし、(b)より高い温度ではLiFが結晶化するためにLiFによるコーティングは低い温度で起こる。最終的に、それはその場コーティングとその場以外コーティングのどちらでもないが、実際は中間である。
【0030】
リチウム遷移金属酸化物を覆う方法の例は以下の工程を含む:
1) LNO若しくはLNMOカソードと、少量の元の状態のポリマーを混合する。
2) 混合物を該ポリマーの融点を超える温度まで加熱し、ポリマーがカソード粉末と反応するまで加熱を続ける。
3) ポリマーが完全に分解したときに冷却する。
【0031】
本方法例における混合工程は(1)ウェットコーティング若しくは(2)ドライコーティングのどちらかから成ることができる。ウェットコーティング方法においては、ポリマーは溶媒に溶解され、そして粉末は溶液中に浸され、スラリー(若しくは湿潤粉末)は乾燥される。ドライコーティング方法においては、ポリマー粉末は粉末と混合され、ポリマーの融点を超える温度まで加熱され、そして溶融したポリマーは表面をぬらす。ドライコーティングの一つの実施態様において、小さな一次粒子サイズをもつポリマー、例えば1μを大きく下回るものが良好な表面被覆率を得るために使用される。
【0032】
上記の方法例において、LNO/LNMOカソード材料は非常に薄いフィルムに包まれる。フィルムが厚いと、このときリチウムがフィルムを透過することが困難になり、したがって電気化学的特性の損失を引き起こす(低い容量と乏しいレート特性を引き起こす)。LNO/LNMOカソードが高い多孔率を有すると、多孔率の充填を伴わない被包は困難であり、表面をLiFで覆うためにさらに多くのポリマーが必要となる。
【0033】
実施態様の例において、ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%である。ポリマー配合が0.1%未満であるとき、良好なフィルムを達成することは困難である。それが2%を超えるとき、粉末の容量は低くなり得る。0.2−0.5質量%のポリマー配合は別の実施態様の例において用いられる。
【0034】
特定の実施態様において、ポリマーコーティングの例はポリマーの一時的なコーティングとなることができる。このとき該ポリマーは、スラリー作製のために電池メーカーによって用いられる溶媒中で高溶解性であることが望ましい。最終的な正電極の生産において、スラリー作製工程の間に、ポリマーは溶解するがLiF界面は残る。したがって、ポリマー型外側シェルはそれの調製時からスラリー作製時までLNMO若しくはLNOカソード粉末を保護し、したがって一時的なコーティングとなる。その保護メカニズムは、カソード粉末表面への水分の付着を妨げるポリマーコーティングのその強い疎水特性によって決定され、したがって、(1)粉末による重大な水分吸収と(2)LiOH型塩基のLi2CO3型への重大な変換率を妨げ、そして(3)湿度駆動による全体の塩基含量の増加を妨げる。
【0035】
コイン電池作製はスラリー作製の工程を伴う。スラリー調製のために電池メーカーによって使用される典型的な溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)である。このため、コーティングに使用されるポリマー例は、NMP中に溶解され得る。また、ポリマーがLi電池化学と適合するとき、それは利点となる。したがって、別のポリマー例は、基本的に電池メーカーによって使用される結合剤と同じである。電池メーカーはPVDFをベースとしたポリマーを結合剤として使用している。したがって、コーティングポリマーは、例としてはPVDFベースのポリマーである。スラリー作製の間、ポリマーコーティングは溶解するが、表面を保護しているLiFフィルムは残る。
【0036】
上で述べたように、コーティング工程の特定の実施態様は、ドライコーティングとそれに続いてポリマーの融解温度よりも著しく高い温度まで加熱することである。融解温度を大きく超えた場合のみ、その溶融したポリマーは表面塩基と反応し、効果的にLNO/LNMO粒子のその表面をぬらす。別の特定の実施態様において、LNMO若しくはLNOと、PVDFをベースとするポリマー粉末の粉末混合物は、PVDFの融解温度を少なくとも50℃上回る(異なるPVDF'sは135℃乃至170℃の範囲の融解温度を有する)、220℃を越える温度で加熱処理される。さらに別の実施態様において、PVDFをベースとするポリマー粉末は、225℃乃至320℃の温度で加熱処理される。この温度範囲におけるぬれが、物理効果(ポリマーの低い粘度のため)だけでなく、同様に役割を果たすLNO/LNMOの表面塩基とポリマーとの反応を有することが確証されている。その温度が220℃を下回るとき、ポリマーは融解し得るがぬれは良好ではない。結果として乏しい表面被覆率が達成される。その温度が320℃を超えるとき、ポリマーは完全に分解する。Li塩基との化学反応が起こるその温度は、カイナー(登録商標)若しくはPVDFが単に空気中で加熱されることによって分解を開始する温度であるおよそ350−375℃より低いことに留意されたい。PTFEはおよそ330℃の融解温度をもつため、PTFEをポリマーとして使用した場合においてLiF層を得るためのその加熱温度は少なくとも380℃となることは明らかである。
【0037】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書(INCOに帰属される)においては、PVDF結合剤材料はその分解温度より下の温度で適用され、従ってLiFフィルムが形成されず、そして全ての適用されたポリマーはいまだに存在し化学的に不変であることに言及することは適切である。
【0038】
そのINCO特許は、高温若しくは(好ましい)溶解した形態のどちらかである液相においてポリマーコーティングを行っている。そのINCO特許は、ポリマーとカソード粉末の間の乏しい付着を観測し、したがってシュウ酸のようなルイス酸を、その付着の改善のためと、特にまたカソード材料表面上のあらゆるLiOHを中和しPVDFとのそれの反応を避けるために加える。
【0039】
以前に説明された被覆方法の実施態様は異なる概念に従う。第一に、ポリマーとカソードの混合物は一般に室温で固形状で行われる。そして、該混合物はカソード粉末表面との反応を経て該ポリマーの分解が開始する温度まで加熱される。一方では、加熱処理の時間は制限され、そして該ポリマーは完全には分解せず、他方ではそれは十分長く、ポリマー−カソード界面の該ポリマーは十分に反応し、LiFをベースとする界面フィルムを形成する。第二に、ルイス酸を加える必要はない。我々は驚くべきことに、カソードとポリマー間の乏しい付着は低い加熱温度によって引き起こされることを発見した。温度が上昇するとき、ポリマーとカソード表面は化学反応を開始し非常に強い付着が得られる。事実、我々はカソード粉末粒子表面上への溶融ポリマーの良好なぬれを観測する。我々は、良好なぬれはカソード表面上でのポリマーの分解の証拠であると考える。
【0040】
当然ながら、LNMOカソード材料は円筒形状電池に対しての興味がもたれる。これは、それらの高い容量と、LNMCOの欠点であり塩基含量と関係していると考えられているガス発生が円筒形状電池においては扱いやすいためである(円筒形状電池は非常に堅いケースを有する)。膨張を扱うことが容易ではないため、最近、角形電池への実装はより困難であり、実際にはポリマー電池にとっては不可能である。本発明にしたがったLNMOカソード材料は、LiFフィルムが表面塩基を置き換えるためにより低い塩基含量をもつ。また、それらは、そのようなカソードを角形若しくはポリマー電池にさえも実装することを許容する改善された安全性を有する。
【実施例】
【0041】
本発明は、例えば、以下の記述とは異なる実施例によって実用されてもよい。
【0042】
実施例1
この実施例は、フッ素含有ポリマーによるコーティングとそれに続く温度処理の効果を示す:
1) 高温において起こるカソードとポリマーとの反応と、
2) LiF保護フィルムの形成
また、本実施例は、LiF界面を有するポリマーで被覆された試料に対する温度の影響について調べた。この実施例は、1%のポリマーを加えることによって合成された試料の結果を示す。カソード前駆体(前駆体=被覆されていない若しくは剥き出しの試料)としてLNMO量産試料を使用した。その組成はLi1+XM1−XO2で、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2でありxは約0.00であった。該前駆体はさらに0.145mol%のS及び142ppmのCaを含んでいた。
【0043】
カソード前駆体の100gとPVDF粉末の10gを、コーヒーグラインダーを用いて注意深く事前に混合した。そして、110gの中間体混合物を900gの残っていたカソード前駆体とヘンゼル(Haensel)型ミキサーを用いて中出力(medium energy)で混合した。前駆体−PVDF混合物をそれぞれ100gのバッチへとサンプリングした。これらのバッチを、150℃乃至350℃の範囲の温度で5時間熱処理した。熱処理の間に試料の質量が変化するので(該ポリマーが部分的もしくは完全に分解するため)、1%PVDFとは前駆体として使用される試料の100gあたりに1gのPVDFを加えることを参照する。最終的な試料の正確なgあたりの量はわずかに低くてもよく、例えば熱処理の間に質量が失われないとき、正しい値は0.99%となり得た。その生じた粉末をふるいにかけた。2シリーズの実験を実施した。最初のシリーズは、150、200、250、300、及び350℃において、そして繰り返しはT=25、150、180、200、225、250、275、300、325、350℃であった。2つのシリーズにPVDFを含まない追加のブランク試料を加えた。
【0044】
選択された試料の粉末を、以下のように分析した:
1) 正確な格子定数を得るためのX線及びリートベルト解析
2) 電気化学的特性を測定するためのコイン電池試験(第一シリーズのみ)
3) 走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は電界放出銃走査型電子顕微鏡(FESEM)及び、
4) 湿気暴露試験(5日間、湿度50%、30℃)であって、
A.暴露前後での水分含量の測定
B.暴露前後での適合された可溶塩基のpH滴定
を含むもの。その試験結果の概要は表1及び図1−5において与えられる。
【0045】
これと以下の実施例の全てにおいて、電気化学的特性はコイン型電池において、25℃で六フッ化リチウム(LiPF6)型電解質中の対電極としてのLiホイルを用いて試験された。電池はレート特性及び容量を測定するため、4.3Vまで充電し3.0Vまで放電した。延長されたサイクル中のその容量保持は4.5Vの充電電圧で測定した。160mAh/gの比容量はその放電率の決定のために推測した。例えば、2Cでの放電は320mA/gの比電流が使用された。これは試験の概要である:
【表1】
下記の定義は、データ分析のために使用される(Q:容量、D;放電、C;充電)
不可逆容量 Q(irr)は(QC1−QD1)/C1
100サイクルあたりのフェード率(Fade rate)(0.1C):(1−QD31/QD7)*100/23
100サイクルあたりのフェード率(1.0C):(1−QD32/QD8)*100/23
エネルギーフェード(Energy fade):放電容量QDの代わりにその放電エネルギー(容量×平均放電電圧)が使用された。
【0046】
pH滴定に関して:PVDF被覆された試料はしばしば強く疎水的であり、水溶液中でのpH滴定を困難にする。このため、7.5gの試料を最初にアセトン10g中でぬらし、そして90gの水を加え、続いて10分間攪拌した。ろ過の後、透明なろ液中の可溶塩基の含量は、0.1MのHClを用いた標準的なpH滴定によって滴定した。
【0047】
【表2】
【0048】
図1は示す:
1) 下:粉末回折データのリートベルト解析から得た1つの化学式ユニット(LiMO2)のユニットセル体積(シリーズ1b:▽、2a:△)、
2) 中:湿度暴露前(シリーズ1a:★、2a:△)及び後(シリーズ1b:○)のpH滴定により得た可溶塩基の含量
3) 上:湿度暴露後の水分含量(シリーズ1b:▽)
図2は湿度暴露されていない試料の電気化学的特性を示す。
【0049】
以下は、図1において観測することができる。
ユニットセル体積:T≧175℃でのユニットセル体積の継続的な増加とT≒300−325℃での段階的な増加。格子定数の増加は、ほぼ確実に部分的な脱リチウムによって引き起こされている。脱リチウムはフッ素含有ポリマーの分解により駆動され、リチウムはポリマーと反応しLiFを形成した。また熱処理していない前駆体の体積が33.8671A3であることから、そのユニットセル体積は、180℃までPVDFとカソードとの間で反応が起こらないことを示している。約200℃でのみ反応は始まり、約300℃で主な反応が起こった。我々は、LiFのフィルムが200℃を超える温度において存在すると結論付けた。
【0050】
塩基:より高い処理温度におけるより少ない可溶塩基。最適条件(最も少ない塩基)はおよそ275−325℃で観測された。可溶塩基は表面上にあり、水中へ溶解しLiOH若しくはLi2CO3を形成した。可溶塩基はリチウムの最も反応的な形態である。つまり、フッ素含有ポリマーと表面との反応により形成されたLiF中のリチウムは可溶塩基を発源とする。実質的に、LiFフィルムは可溶塩基のフィルムを置き換える。我々は、可溶塩基を50%減らすために少なくとも250℃が必要であることを観測した。より高い温度(>325℃)では、新たな可溶塩基がバルクから再形成され得、LiFフィルム形成によって消費された塩基を置き換える。
【0051】
水分:>200℃乃至約325℃での良好な水分安定性とともに非常に低い水分含量。325℃を超える温度では、ポリマーは徐々に完全に分解し、表面はもはや水分吸収から保護されなかった。200℃未満の温度では、ポリマーはその表面を完全に覆わなかった。十分に高くしかし高すぎる温度ではないときのみ、表面は水分吸収に対し保護する部分的に分解したポリマーフィルムによって覆われた。良好な被覆率(=良好なぬれ特性)は、表面上でのポリマーと可溶塩基との反応に関連することは明らかである。
【0052】
図2a(上:)は、300℃を超える温度では、被覆された粉末の可逆容量(C1:サイクル1)は減少し、一方で(中:)不可逆容量(Qirr=〔放電−充電〕/充電、%)は顕著に増加することを示す。同時に(下:)、レート特性(2C対0.1C、%における)は低下した。この観測結果には2つの理由があり、
1) LiFを形成するためカソードからLiが失われる。酸素が化学両論的に平衡であるとき、Liの喪失はLi欠損Li1−XM1+XO2を生じる。1質量%のPVDFは約6000ppmのフッ素を含み、約3mol%のリチウムの喪失に相当する。一般に、Li欠損Li1−XM1+XO2は低いレート特性と高い不可逆容量を有する、
2) その表面は電子的及びイオン的に絶縁性であるLiFフィルムによって覆われており、それは要求よりも厚く、乏しいレート特性を生じる。
【0053】
図2bは、3.0乃至4.5の23サイクルでのサイクル後のエネルギーフェード(energy fade)(容量×平均放電電圧、0.1C(上)若しくは1C(下)のどちらかにおいて測定された)の結果を示す。図2bは、250℃までの温度上昇に伴うサイクル安定性の増加を示唆する。改善されたサイクル安定性はおそらく、ほぼ確実に保護LiFフィルムの形成に起因する。
【0054】
図3−5は、200℃(SEM−図3)、250℃(FESEM−図4)及び350℃(FESEM−図5)で調製した試料の顕微鏡写真を示す。図3は200℃で調製した試料の顕微鏡写真を示す:その表面上の多数の小さな“液滴”とともに粒子が示されている。該液滴はおそらく溶融したPVDF粒子である。明らかにPVDFはその表面を濡らしていない。250℃において(図4を見よ)該液滴は消え、そしてその表面はPVDFフィルムによって滑らかに覆われ、そして表面構造は該フィルムの下でのLiFプレートの形成を示す。350℃において(図5を見よ)ポリマーは完全に分解し、表面はフッ化リチウムの小さな結晶の板によって覆われた。
【0055】
結論:実施例1は、200℃を超えるが350℃を下回る温度において、ポリマーフィルムは粒子を覆い、該ポリマーとカソード表面との界面はLiFのフィルムであることを示す。該LiFフィルムは、該カソードの可溶表面塩基を置き換える。
【0056】
実施例2:
実施例1は1%PVDFによるコーティングを調べた。しかしながら、処理温度T>275℃、特に>300℃において、分解するポリマーが非常に多くのLiをカソードから引き抜き、可逆容量の減少を引き起こすことが観測された。これは、生じたLiFフィルムが不必要に厚くなり得たことを示す。したがって本実施例は、より少ないポリマー(たった0.3質量%のPVDF)を使用した熱処理の発明を示す。既に述べたように、本実施例はLiF界面をもつポリマーによって被覆された試料の調製における温度の影響について調べた。LNMO量産試料をカソード前駆体として使用した。その組成はLi1+XM1−XO2でM=Ni0.5Mn0.3Co0.2でありxは約0.00であった。該前駆体はさらに、0.145mol%のS及び142ppmのCaを含む。
【0057】
カソード前駆体100gとPVDF粉末3gを、コーヒーグラインダーを用いて注意深く前もって混合した。そして混合物103gを残りのカソード前駆体900gと混合し、そしてヘンゼル(Haensel)型ミキサーを用いて中出力で混合した。該混合物を、各々100gのバッチにサンプリングした。これらのバッチを225−350℃の範囲の温度で5時間熱処理した。PVDFを含まないブランク試料と対照的に、試料は225、250、275、300、325及び350℃で調製された。得られた粉末をふるいにかけ、実施例1と同様の方法で分析した。表2は試料、調製及び結果のまとめを与える:
【0058】
【表3】
【0059】
図6は、(下)湿気暴露(5日間、30℃、50%)の前(★)および後(△)のpH滴定と、同様に湿気暴露後の水分含量(上)の結果を示す。これは実施例1と同様に、250℃を超える温度においてPVDF処理が可溶塩基を顕著に減少させ、そしてそれが水分吸収から保護し(しかしより低い効果で)、250−275℃での最適条件を伴うことを示す。良好なコイン電池試験の結果は、温度領域全体で得られた。塩基含量が減少するとLiF層が生じ、このLiFはフル電池(full cell)における安全性能の改善及び高電圧安定性に好都合であると考えられる。
【0060】
実施例1と比較して、最適な塩基含量は275−350℃において観測され、250℃周辺の限定された範囲において水分含量は最も低くなり、電気化学試験の結果は全温度範囲で良好であったと結論付けることができる。いくらかの効果が0.1質量%のPVDFを用いて既に観測できたとしても、200℃乃至300℃の加熱温度と組み合わせられる0.3質量%のPVDFは、求められる結果を達成するための下限に近いとみられ、ここで1質量%のPVDFは上限となり得るとみられる。この分析を、下記の実施例5a−dにおいてさらに調査した。塩基含量への要求される効果と水分吸収との最適な平衡(電気化学的な結果に悪影響を及ぼさずに)は、試験されたリチウム遷移金属酸化物組成物に依存せず0.5質量%乃至0.8質量%のPVDFであると見出された。
【0061】
実施例3:
この実施例では、LiF界面をもつポリマーで被覆されたLiCoO2試料の調製に対する温度の影響を調べた。本実施例は、実施例1−2の結論のさらなる証拠を与えるために、適切なLiCoO2の電圧プロファイル及び微細構造について考察した。鍵となる結論は実施例1−2と同様であり、200−350℃でLiFフィルムが形成する。その厚さは温度とともに増加した。一方、LiFフィルムをより高い温度で保つことはできなかった。
【0062】
本実施例は、1%PVDFポリマーを加えることにより調製された試料の結果を示す。リチウムコバルト酸化物の量産品試料をカソード前駆体として使用した。その組成は1mo
l%のMgがドープされたLiCoO2であり、17μmの平均粒子サイズを有していた。この前駆体粉末1000gと10gのPVDF粉末を、ヘンゼル(Hensel)型ミキサーを用いて注意深く混合した。該混合物はそれぞれ150gのバッチへサンプリングされた。これらのバッチは150−600℃の温度範囲で9時間加熱処理された。得られた粉末はふるいにかけられた。該粉末はコイン電池試験、SEM及び伝導性の分析がなされた。
【0063】
SEM分析は、150℃におけるポリマーの不規則なコーティングが、250℃までの温度上昇とともに次第に滑らかで均質なものになることを示した。300℃においてその表面層は変化し始め、そして350℃においてポリマーコーティングに代わって無機的な特徴を有しているように見える表面フィルムが観測された。600℃において、該表面フィルムは損傷を受け、よく形成された結晶(おそらくLiF)が生成した。結晶の生成は、LiFがより高い温度において表面をぬらさないことを示す。直接的な高温合成によってLiFフィルムを達成することは不可能であると思われる。図7aは300℃での、図7bは600℃での試料のSEMグラフを示す。よく形成されたLiF結晶の存在に注意せよ。
【0064】
表3は、電気化学試験測定のまとめを与える。
【表4】
【0065】
図8は、1%のPVDFを含み異なる温度で調製された表3における試料の放電電圧プロファイル(4.3−3.0V、0.1Cレート)を示す。より低い温度(150℃、200℃)において調製された試料は、全く同じ放電電圧プロファイルを示した。該プロファイルは、処理していない試料を前駆体として使用した対照標準(データは示されていない)と類似しているが、それよりもわずかに低い容量(約1%少ない)を有していた。容量値は試料の実際の質量を参照した(したがってそれはポリマーコーティングの質量を含む)。低いTの試料(150℃、200℃)は1%PVDFのコーティング層を含み、これは1%低い容量を説明する。4.1Vにおける相転移が検出されなかったことから、その電圧プロファイルは高いLi:Co比をもつLiCoO2において典型的なものであった。250℃の試料は異なる電圧プロファイル(乏しいレート特性をもつLiCoO2において典型的なもの)を示した。その分極はより大きくなり(電圧降下)、そして放電の最後はほとんど四角型ではなかった(より丸みを帯びた)。これは、ポリマーコーティングとLiCoO2表面の間に形成されたLiF界面層に起因する。このLiF層は表面を完全に覆い、低いイオン及び電気伝導性を有し、低いレート電圧プロファイルを引き起こす。
【0066】
温度上昇とともに(300℃、350℃)容量は劇的に悪化した。これは、厚さの増加を伴って明らかに表面全体を覆う抵抗性LiF層の形成をはっきりと示す。しかしながら、調製温度がさらに上昇するとき、600℃において我々はほとんど全容量に近い容量、改善されたレート特性(示されていない)、及び4.1Vにおけるはっきりとした相転移を観測した(通常、4.1Vの相転移はLi欠損若しくは化学量論のLiCoO2でのみ観測される)。
【0067】
600℃におけるこれらのデータは抵抗性LiF表面層がないことを示す。明らかに、高温において均質なLiF表面層は破壊され、その表面の大部分はもはやLiF層によって覆われていない。このデータは、損傷を受けた表面と、より大きなLiF結晶の生成を示すSEMと十分に一致した。
【0068】
実施例3は、PVDFの融点(140−170℃)を超える温度において、均質なポリマー表面フィルムが生じることを示した。しかしながら、要求される界面LiFフィルムの生成を引き起こすポリマーとカソード表面との反応前に、温度を200℃を超える温度そして好ましくは250℃まで上げることが必要とされた。しかしながら、温度が高すぎるとき、その保護層はもはや活性ではなくなる。LiF表面フィルムはこのとき表面から分離しLiF結晶が生じる。実施例3はまた、1%のMgがドープされたLiCoO2試料において達成された結果が実施例1のLNMO試料と匹敵することを示した。
【0069】
実施例4:
実施例4は、LiF界面を有するポリマーで被覆されたLNO型試料の調製に対する温度の影響を調べた。
【0070】
本実施例は、0.3及び1%のPVDFポリマーを加えることによって調製された試料の結果を示す。0.15mol%のS及び500―1000pppmのCを含むLiNi0.8Co0.15Al0.05O2試料は、アルミナを含む混合された遷移金属前駆体とLiOHから、酸素フロー中で、パイロットプラントにおいて5kgスケールで調製された。PVDF処理は実施例1及び2と同様に行われた。表4に試料、合成及び結果をまとめた。
【0071】
【表5】
【0072】
この表は、PVDF処理は水分安定性を改善し、T=250℃において初期の塩基含量が大幅に下げられたことを示す。150℃において、PVDF無しと比較して、塩基が減少しないことが観測され、しかしより高いTでは、LiFを形成するための塩基の消費によってその塩基含量は減少した。このLNO組成物において、350℃での処理で水分含量はその最小となった。未処理の試料と比較して、湿気暴露中の塩基増加の速度は低下した。実施例1−3と同様に、1%PVDFが使用されたとき、容量及びレートはより高いTにおいて悪化し、一方で0.3%PVDFの使用は、全温度範囲で良好な電気化学的結果の達成を許容した。
【0073】
実施例5a−d
この実施例は、より大きなスケールの試料における実施例1及び2の結果を再現する。これらの試料は、ポリマー型フル電池(full cell)でさらに試験された。全ての実施例において、Li:Mがおよそ1.0である量産LNMO(M=Ni0.5Mn0.3Co0.2)を前駆体として使用した。該前駆体はさらに、0.145mol%のS及び142ppmのCaを含む。
【0074】
実施例5a:250℃での1質量%PVDF
200gの量産LNMOと18gのPVDF粉末を、コーヒーグラインダーを用いて4つのバッチ中で事前に混合した。該混合物を1.6kgのLNMOに加え、ヘンゼル(Hensel)型ミキサーを用いて2L容器を用いて混合を継続した。該混合物を対流式オーブンにおいて250℃で5時間熱処理し、続いてふるいにかけた。
【0075】
実施例5b:250℃での1質量%PVDF(より大きな試料)
15kgのカソード前駆体粉末と150gのPVDF粉末を、パイロットプラントのリボンブレンダーを用いて注意深く混合した。その粉末混合物を250℃で5時間加熱し、続いて粉砕しふるいにかけた。
【0076】
実施例5c:300℃での0.3%PVDF
熱処理温度は300℃であることと、より少ないPVDF(5.4g)を使用したことを除いて、基本的には実施例5aの1.8kg試料と同様である。50gの試料の2バッチと2.7gのPVDFを事前に混合した。
【0077】
実施例5d:350℃における0.3%PVDF
熱処理温度が350℃であることを除いて、実施例5cと同様である。
【0078】
試験は実施例1−3と同様の方法で行われ、さらに800mAhの巻回ポーチ(wound pouch)型電池が組み立てられ、試験された(電池のそのような型は、例えば米国特許第7585589号明細書の先行技術において述べられている)。表5に結果をまとめた。
【0079】
【表6】
【0080】
この表は以下の結論を許容する:
・ 1%@250℃試料:最も良い水分安定性を有していた。塩基は湿気暴露中に増加せず、湿気暴露後の水分含量は非常に低かった。しかしながら、LiFフィルムは薄く、その塩基含量はおよそ30%だけ減少した。
・ 0.3%@300℃試料:より薄いポリマーフィルムに起因して、水分安定性は1%@250℃のそれよりも悪く、一方でその塩基の全体量は小さく対照標準の50%未満であった。これは、そのLiFがより良好に成長し、ポリマーの分解が塩基のほとんどを消費したことを示す。我々は、バルクからのいくらかのリチウム引き抜きと一致する、ユニットセル体積のわずかな減少を観測した。
・ 0.3%@350℃試料:水分含量は300℃におけるそれよりも良好であった。
【0081】
表6にポーチ電池試験の結果をまとめた。高温蓄電(4時間、90℃)後の膨張の劇的な減少が観測された。膨張は、その電池が4時間後にいまだ熱い(90℃)ときに測定した電池厚さに対する、試験前(冷たい状態)に測定した厚さの比である。異なる処理がなされた試料について、いくつかのさらなる試験が行われたが、PVDF処理試料のみが劇的に減少した膨張を示し、典型的に得られる数値である40−50%よりも低かった。我々はさらに、全てのPVDF処理された電池が過充電試験に合格し、改善された安全特性を示すことを観測した。過充電は700mAで5.5Vに達するまで行った。合格は、炎若しくは煙現象が起こらないことを意味する。釘刺し試験は、直径2.5mmの鋭い釘を使用して1秒当たり6.4mmの速度で行われた。合格は、煙若しくは炎が無いことを意味する。
【0082】
【表7】
【0083】
実施例6:
実施例6は、いわゆるブランク例であり、粒子の表面を覆う溶融したPVDFと該粒子表面にあるLiOH型塩基との間で起こる可能性がある反応を模擬的に再現した。示差走査熱量(DSC)法を用いることによって、この実施例は、カイナー(登録商標)の融解温度を約50℃上回る温度において、ポリマーは塩基を含むリチウムと反応したことを示した。この反応は、要求される内側LiF層の生成のために必要である。
【0084】
アルケマ社(Arkema)からのカイナー(登録商標)2801試料(微粉末として受け取り、生産者により報告されたように142℃の融点を有する)とLiOH*H2O試料をそれぞれ、それらの平均サイズ(D50)が2μmを下回るまでジェットミルした。図9はカイナー(登録商標)試料のSEM写真を与え、0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集したボール状の一次粒子から成ることを示す。
【0085】
得られた細かいカイナー(登録商標)粉末とLiOH*H2Oの微粒子を、2:1の質量比でその後混合した。これは、カイナー(登録商標)中のフッ素の、水酸化物中のリチウムに対するモル比であるF:Liがおよそ2.62であることに相当する。したがって、全てのLiがポリマーと反応したとしても、いまだに過剰の未反応ポリマーがあることになる。この混合物は150、200及び250℃まで加熱された。その質量損失を記録し、そして加熱されたブレンドのX線回折を測定した。
【0086】
ブレンド及びカイナー(登録商標)対照標準をDSCによって調べた。試料を密閉されたステンレススチールのDSCカン(cans)の中へ挿入した。5K/分の温度速度で室温から350℃まで、熱流量を昇温中に測定した。
【0087】
図10は得られたDSC結果を示す(熱流量対温度;上:カイナー(登録商標)とLiOH*H2Oのブレンド;下:純粋なカイナー(登録商標)):カイナー(登録商標)の最小の熱流量(最も吸熱)は142℃において達成され、142℃の融点と一致した。
【0088】
ブレンドの昇温中に得られた曲線は完全に異なっていた。第一に、シャープな吸熱現象が最小熱流量を伴って109.1℃に観測された。これは水分の放出(LiOH*H2O → LiOH + H2O)である。その後強い発熱現象が観測された。その最大熱流量は186.2℃に観測された。この温度において、Li塩基と高圧蒸気に接触しているPVDFは分解し、そしてLiF(及びおそらく炭素)が形成されたと推測される。DSCカンは密閉されており、そのためさらなる反応は起こらなかった。しかしながら空気中では、実施例7で示されるように、より高い温度においてポリマーは分解し続けた。
【0089】
実施例7
この実施例は別のブランク例であり、粒子の表面を覆う溶融したPVDFと該粒子表面にあるLiOH型塩基との間で起こる可能性のある反応を模擬的に再現した。本実施例は、空気中で200℃を超える温度において、分解したポリマーとおそらくは炭素の生成を引き起こす塩基とPVDFとの反応が起こることを示した。
【0090】
実施例6と同様のブレンド試料(アルケマ社からのカイナー(登録商標)2801試料と質量比2:1でジェットミルされたLiOH*H2O)を用いた。該ブレンドを150、200及び250℃まで空気中で5時間加熱した。その質量損失を記録し、その加熱されたブレンドのX線回折を測定した。実施例6は閉鎖系(高圧蒸気)であるのに対して、実施例7は開放系(おそらくほとんどの水分は蒸発する)であることに注意してください。表7に結果をまとめ、ここで“X線”は観測した化合物を示す。
【0091】
【表8】
【0092】
150℃及び175℃において、ブレンドは基本的に反応しなかった。その色は白色から黄色がかっており、その電気伝導度はゼロであった。13−15質量%の質量損失が観測され、ほとんどはLiOH*H2O + PVDF → LiOH + PVDFの反応を発源とした。該ブレンドはNMP中に完全に可溶であった。X線回折パターンは、LiOH、LiOH*H2O、Li2CO3、ポリマー並びにLiFの痕跡を示した。
【0093】
200℃においてブレンドは反応した。生じた色は黒色であった。はるかに大きな質量損失が観測された。伝導性は測定できなかった(低すぎるため)。該ブレンドはアセトン中に完全に溶解せず、黒色粒子が残った。X線回折パターンはLiF及びポリマーを示した。該ポリマーは、純粋なPVDFとは異なる回折パターンを有していた。
【0094】
250℃において、より強い反応が起こった。質量損失は58.7質量%であった。ブレンドは、3*10−7S/cmの向上した伝導性を示した。該ブレンドはアセトン中に完全に溶解せず、黒色粒子が残った。X線回折パターンはLiF及びポリマーを示し、そのポリマーは純粋なPVDFとは異なる回折パターンを有していた。
【0095】
図11及び12は、集められたX線回折パターンのいくつかを示す:図11は対照標準のカイナー(登録商標)(PVDF)試料(下)及び250℃で処理した試料(上)であり、図12は150(上図の下側の曲線)及び175℃(上図の上側の線)であり、下側の図はまた同様に対照標準のPVDFである。図11において、上図の2つの高強度ピーク(フルスケールの10%のみを示す)はLiFである。15−30度におけるブロードな山は“不明確な”ポリマーであり、PVDFは残ってはいるが、対照標準とははっきりと異なるX線パターンを有していた。200℃での熱処理後のブレンドのパターン(示されていない)は非常に似ていた。図12において、PVDF前駆体(=対照標準)並びに150℃及び175℃での熱処理後のブレンドのX線回折パターンは、基本的にPVDFは反応しないことを示し、PVDFのパターンは残っていた。150℃において、LiFのわずかな痕跡を検出することができた。175℃において、LiFは少量の不純物となった。LiFの回折ピークを矢印で示す。他のピークは、Li2CO3やLiOHといったリチウム塩に帰属することができた。
【0096】
実施例7は、空気中で約200℃、即ちその融点よりも約50K高い温度において、LiFと変性ポリマーを生成するLiOHとPVDFとの反応が起こったことを示した。本実施例は、PVDFの分解とリチウム遷移金属酸化物粉末上のLiF層の形成は、PVDFとリチウム塩基との反応によって引き起こされるというモデルを裏付ける。
【0097】
実施例8:
この実験は以下を証明するために考案された
1) 低い加熱温度においてLiF層は存在しない(PVDFはまさに粒子を覆うが、LiF反応層は形成されない)
2) 本発明にしたがった加熱温度において、PVDFとカソードとの反応が開始される(薄い界面LiF層を生じる)
3) 高すぎる温度において、厚いLiFフィルムが形成される(全てのPVDFは、カソードと反応してLiFを形成することによって消費される)
【0098】
LiFは水中で低い溶解性を有する(Lあたり約1.5g程度)。一方、PVDFは不溶である。したがって、熱処理した生成物を浸した後、LiFは溶解し、そしてあらゆる溶解したフッ素イオンを液体クロマトグラフィーによって検出できる。しかしながら、PVDFを含む試料は疎水的であるので、しかしながら全てのLiFに水が近づける保証がない。PVDFはアセトン若しくはNMPに高溶解性であるがLiFはそうではないため、PVDFがNMP若しくはアセトン中での溶解によって除かれた試料もやはり合成でき、水が近づいてLiFを溶解することを保証する。
【0099】
以下の試料を試験した:
1) 合成したままの試料(洗浄していない)で、実施例1において分析若しくは述べられた試料と同じ若しくは類似した試料、
2) 少量のアセトン中で洗浄しデカントした試料
3) NMP中で洗浄しデカントした試料
【0100】
液体クロマトグラフィー(LC)手順は以下のとおりである
1)300mLのガラス三角フラスコに1gの試料を量り取った
2)二重に脱イオン化した水100mLを加えた
3)ガラス攪拌棒を加え1時間攪拌した
4)ミリポア(Millipore)0.45μmマイクロフィルターでろ過した;
5)ろ液をイオンクロマトグラフで測定した(操作ブランクとともに)
【0101】
表8に試料、合成及び結果をまとめる
【表9】
フラクション%:反応したPVDFの%であり、見出されたFの量から推定できる。F(−)分析の結果は洗浄水中の3つの異なるレベルを示した:LiFがほぼ存在しないことを示す0.006質量%乃至0.010質量%;ほぼ同じ厚さのLiF層の存在を示す0.054質量%乃至0.064質量%;そして最後に、以下で説明されるようにほとんど全てのPVDFが反応したことを示す0.158質量%乃至0.162質量%。
【0102】
結果を図13にも示す。上側のパネルはクロマトグラフィーにより検出されたフッ素の質量%である。下側のパネルは、上述のデータから計算されクロマトグラフィーにより検出された溶解したFのフラクションである。
【0103】
第一に、我々は洗浄した試料(NMP若しくはアセトン中)と洗浄していない試料は同じ結果を与えることを観測した。実施例EX0121及び0121Cを比較した。PVDFは湿気暴露試験において水分吸収に対して効果的な保護を示した一方、水中への浸漬は下層のLiFが溶解することを可能にした。
【0104】
第二に、イオンクロマトグラフィーは150℃において実質的にLiFが存在しない(そしてあらゆるケースにおいて不十分である)ことをはっきりと証明した。実施例EX0121及び0121Cを見よ。このように、ポリマーは処理したカソード生成物の表面と反応しなかった。PVDFフィルムは粒子を被覆し得るが、保護LiFフィルムは存在しなかった。250℃において、例えばEX0194及び0194Cにおいて、PVDFのフラクションは反応した。EX0194Cと0126Cとの比較から推定されるように、形成されたLiFの全体量(=反応したPVDFの量)は、初期のPVDFの量にほとんど依存しなかった。我々は、反応速度はカソードの表面積及び表面塩基の有効性によって制限されると結論づけた。大過剰の未反応PVDFはその粒子を覆うが、LiFの界面層は生じた。
【0105】
350℃において全てのPVDFは反応した。理想的な実験においては、我々はLCによってPVDFの形態で試料に加えられたものと同じ量のフッ素を検出する。ここで得られた結果である、検出されたフッ素のフラクション(84−88%)は、その実験的系統誤差内であり、したがって我々は350℃において全てのPVDFは分解したと結論付けた。
【0106】
250℃での処理において、検出されたFの量は表面に制限され、すなわち塩基Liの量に依存し、一方350℃ではその量はおそらくPVDFに制限され、すなわち初期のPVDFの量に依存するといえる。
【0107】
実施例9
この実施例は、温度に応じたPVDFの分解及びLiFの形成を調べるための、X線光電子分光法(XPS)を使用したPVDF処理されたカソード材料の調査について述べる。本実施例は、1%PVDFの添加並びに3つの異なる温度での処理:200℃、250℃及び350℃、によって調製された実施例1の選択された試料(EX0124、EX0127、EX0161)の結果を示す。
【0108】
本実験は
1) 高温(〜350℃)での長時間の加熱によってPVDFコーティングの完全な分解が得られる。
2) 温度上昇とともに次第に厚いLiF層が形成される。この層におけるフッ素はPVDFに由来し、この層におけるLiはそのカソード粒子表面上の表面塩基に由来する。
ことを示すために考案された。
【0109】
C、F及びLiのスペクトルの結果を表9にまとめる。
【表10】
【0110】
表9における結論
1 C 1s:
1.1 291eVのCF2−CF2ピークの減少によって示された350℃におけるPVDFの消失(=分解)。この温度を下回る温度においてはPVDF(元の状態又は部分的に分解した)は依然として存在する。
1.2 289.2eVでのCO3ピークによって粒子表面で観測されたLi2CO3。350℃において、Li2CO3は除かれた。これは、該粒子の表面に存在するLi2CO3をLi源として使用したLiFの形成によって説明することができる。
2 F 1s:
2.1 686.7eVのF−orgピークの減少によって示された、350℃におけるPVDFの消失(=分解)。PVDF(元の状態又は部分的に分解した)はこの温度を下回る温度においては依然として存在する。
2.2 〜685eVでのLiFピークによって示された、350℃におけるLiFの形成。
2.3 LiFの形成はLi2CO3の減少と直接的に関係し、この形成中でのLi2CO3の使用を示す。より低い温度でのLiFの形成は、PVDFオーバー層によるこの
LiF層のマスキングのために、結論付けることができなかった(XPSは侵入深さ限界を有することが知られる)。そのため、実施例8において、該PVDFオーバー層は溶媒洗浄によって取り除かれる。
3 Li 1s:
3.1 温度が上昇しより多くのLiFが形成されるとき、1に近づいていくLi+/LiF比の減少。これは、350℃においてLiFの形成は完了し、表面における全てのLiはLiFとして存在することをはっきりと示す。
【0111】
XPSデータは、
1 PVDFコーティングの完全な分解は、高温(〜350℃)での長時間の加熱によって得られる。
2 温度上昇とともに次第に厚いLiF層が形成される。この層におけるFはPVDFに由来し、そしてこの層におけるLiはカソード粒子表面上に存在する表面塩基に由来する。(該表面塩基はLi2CO3やLiOHのようなリチウム塩から成る。該Li2CO3は該表面塩基の主要部分でありXPSによって観察できる)
具体的には:
2.1 低いT(150−200℃)においてPVDFはいまだコーティングとして存在し、LiFはほとんど存在しない。全ての表面塩基(Li2CO3)はカソード材料の表面上にいまだ存在する。
2.2 上昇したT(250℃)において、PVDFと該Li2CO3との反応が開始される(薄い界面LiF層を生じる)。PVDFはまた、いまだコーティングとして存在する。
2.3 高いT(350℃)において、厚いLiF層が形成する:時間とともにPVDFは完全に分解し、それのFは粒子表面において、有効なLi2CO3との反応によって消費されLiFを形成する。
というモデルをはっきりと支持する。
【0112】
実施例10
この実施例は、温度に応じたPVDFの分解並びにLiFの形成を調べるため、X線光電子分光法(XPS)を使用してPVDF被覆されたカソード材料を調べた。この実施例は、0.3%のPVDF並びに150℃、250℃若しくは350℃の3つの異なる温度での処理についての結果を与える。実施例2の選択された試料:EX0120、EX0126並びにEX0160を調べた。
【0113】
XPSは限定された侵入深さをもつ表面に敏感な技術である。実施例9において、発現する下層のLiF界面はポリマー表面によってマスクされ、該ポリマーが分解した高いT試料においてのみ検出することができた。本実施例において、残っているPVDFを除いて下層のLiF層をよりはっきりと可視化するために洗浄工程が適用された。
【0114】
試料EX0120、EX0126並びにEX0160を以下の手順を用いて洗浄した:
1) 5gを20mLのNMP中で1時間振とうした;
2) 40mLのアセトンで希釈した;
3) 2回デカントし、乾燥した。
【0115】
ポリマーはNMP及びアセトンに可溶であるがLiFは実際には不溶であるため、我々は、ポリマーは除かれ下層のLiFはXPS分析ができると考えた。
【0116】
C、F及びLiのスペクトルの結果を、表10にまとめた。
図14aは150℃における、14bは250℃における、そして14cは350℃におけるF1sスペクトルを示す。1秒あたりのカウント(CPS)を結合エネルギー(eV
)に対してプロットした。
【0117】
【表11】
【0118】
表10の結論:
1 C 1s:
1.1 CF2−CF2ピークが無いことに基づき、我々はPVDFのほとんどは溶媒洗浄によって除かれたと結論付けることができる。特にT=350℃においてPVDFは観測されなかった(完全な分解並びにLiFへの転換のため)。
1.2 289.7eVでのCO3ピークにより粒子表面において観測されたLi2CO3。Li2CO3の除去と温度の上昇との直接的な関連はLiFへ転換されたPVDFによって説明される。この方法において、該粒子の表面に存在するLi2CO3はLiの源として使用される。
2 F 1s:
2.1 温度の上昇と共に増加するLiF層の形成は、684.7eVでの典型的なLiFピークの増加によってはっきりと示される(図13を見よ)。
2.2 LiFの形成は、この形成中のLi2CO3の使用を示すLi2CO3の減少と直接的に関係した。
3 Li 1s:
3.1 温度が上がりより多くのLiFが形成されたとき、1に近づいてゆくLi+/LiF比の減少。これは、350℃においてLiFの形成は完了し、表面の全てのLiはLiFとして存在することをはっきりと示す。250℃においては、いまだにLi2CO3のような他のLi化学種がいくらか少量存在する。150℃においては、前記の他のLi化学種が主に存在し、LiFはほとんど無かった。
【0119】
LiFの厚さ:
LiFの厚さの計算は、ジャーナル オブ バキュームサイエンス アンド テクノロジーズA 2005,23(5),1456−1470(Journal of Vacuum Science and Technologies A,23(5) 1456−1470(2005))においてファン デル マレル(van der Marel)らによって述べられたように、移動距離の関数としてのその光電子強度の標準指数関数型減弱に基づく。本試料の層構造は以下のとおりであった:バルクMnOx、CoOx、NiOx、−CO3中のC及びLi+rest/Li及びLiF/有機CにおけるF−、有機F及びO−org、そしてLiFは均質な層を形成した。
【0120】
LiFの厚さは温度に応じて増加した:150℃では、たった0.2nmの初期の薄い層が形成された。250℃では、LiFの厚さはそれの最大限の厚さにほとんど達し、1nm又はそれを上回った。350℃では、LiF層はそれの最大限の厚さに達し、PVDFは完全に消費された。これらの結果は、フルオル(Fluor)イオンクロマトグラフィーから得られた厚さと同程度であった。実施例10は、十分に高い温度(その融点を約5
0℃上回る)において、ポリマーは表面塩基との反応を開始し、表面塩基を消費し置き換えることによって保護LiFフィルムが形成されることの強い証拠を与える。
【0121】
実施例1から10の結果に基づき、効果的なLiFフィルムは、少なくとも0.5nm(>200℃での推定された値)、好ましくは0.8nm(>225℃での推定された値)の厚さを有さなければならないと結論付けることができた。
【0122】
本発明は、以下の条項によって代わりに記述されることができる:
1.再充電可能な電池で使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該粉末の一次粒子の表面は第一内側層と第二外側層で被覆され、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、そして該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物から成る。
【0123】
2.条項1のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、その反応生成物がLiFであり、リチウムは一次粒子の表面を発源とする。
【0124】
3.条項2のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、その反応生成物LiF中のフッ素は外側層に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とする。
【0125】
4.条項1乃至条項3の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、そのフッ素含有ポリマーはPVDF、PVDF−HFP、及びPTFEから成る群から選択される。
【0126】
5.条項1乃至条項4の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、そのフッ素含有ポリマーは約0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有し凝集している一次粒子から成る。
【0127】
6.条項1乃至条項5の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該リチウム遷移金属酸化物は
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方又は両方であり、e<0.02であってd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物であってM′の少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiから成る群から選択され、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6、mはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCのどちらか一方又は両方から成る)
から成る群から選択される。
【0128】
7.条項6のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であるもの。
【0129】
8.条項7のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、ここで0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であるもの。
【0130】
9.条項1乃至条項8の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも0.5nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0131】
10.条項1乃至条項9の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも0.8nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0132】
11.条項1乃至条項10の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも1nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0133】
12.リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆う方法であって、該方法は、むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
そのむき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有ポリマーと混合し、粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
その粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度の少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度において加熱し、それによって、該金属酸化物粉末の表面上に、該フッ素含有ポリマーから成る外側層と、該粉末表面と該ポリマーとの反応生成物から成る内側層から成る二層コーティングが形成される工程を含む。
【0134】
13.条項12に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%である方法。
【0135】
14.条項12又は条項13の何れか一項に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量は0.2質量%乃至1質量%である方法。
【0136】
15.条項12又は条項13に記載の方法であって、前記内側層はLiFから成る方法。
【0137】
16.条項12乃至条項15の何れか一項に記載の方法であって、前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度で少なくとも1時間加熱される方法。
【0138】
17.条項12乃至条項15の何れか一項に記載の方法であって、前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は240℃乃至275℃の温度で加熱される方法。
【0139】
18.条項12乃至条項17の何れか一項に記載の方法であって、前記リチウム遷移金属酸化物は
LiCodMeO2(ここで、MはMgとTiの何れか一方又は両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物であって、M′の少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCのどちらか一方又は両方から成る)
の何れか一つである方法。
【0140】
19.条項18に記載の方法であって、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である方法。
【0141】
20.条項19に記載の方法であって、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である方法。
【0142】
21.条項12乃至条項20の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも0.5nmの厚さを有する方法。
【0143】
22.条項12乃至条項21の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも0.8nmの厚さを有する方法。
【0144】
23.条項12乃至条項22の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも1nmの厚さを有する方法。
【0145】
24.二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、表面を有する一次粒子を含み、該一次粒子の表面は内側及び外側層で被覆される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0146】
25.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記外側層はフッ素含有ポリマーを含んでいる二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0147】
26.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記内側層はフッ素含有ポリマーと一次粒子表面との反応生成物を含んでいる二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0148】
27.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記一次粒子の表面は完全に被覆されている二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0149】
28.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記一次粒子はリチウム遷移金属酸化物粉末の沈殿と焼成の後に形成される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0150】
29.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、さらに二次粒子を含み、前記一次及び前記二次粒子はどちらも被覆されている二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0151】
30.条項29の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記二次粒子が形成される前に前記一次粒子は形成される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0152】
31.リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆うための方法であって、該方法は
むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有ポリマーと混合して粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
該粉末−ポリマー混合物を加熱し、二層コーティングが該金属酸化物粉末の表面上に形成される工程を含む。
【0153】
32.条項31に記載の方法であって、前記二層コーティングは外側層と内側層を含む方法。
【0154】
33.条項31に記載の方法であって、前記外側層は前記フッ素含有ポリマーを含む方法。
【0155】
34.条項31に記載の方法であって、前記内側層は前記粉末表面と前記ポリマーとの反応生成物を含む方法。
【0156】
35.条項31に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物が、前記フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱される方法。
【0157】
36.条項31に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物の加熱が、条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末を形成する方法。
【0158】
37.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末はリチウムイオン角形又はポリマー電池において利用される。
【0159】
38.LNMO/LNOカソード材料であって、LNMO/LNOコアを含む一次LNMO/LNO粒子を含み、該コアは、フッ化物含有ポリマーと該フッ化物含有ポリマーと接触している部分的に分解したポリマー基質によって覆われている、LNMO/LNOカソード材料。
【0160】
39.条項38のLNMO/LNOカソード材料であって、前記フッ化物含有ポリマーはLiFであるLNMO/LNOカソード材料。
【0161】
40.条項38のLNMO/LNOカソード材料であって、その一次LNMO/LNO粒子の表面はカーボンフリーであるLNMO/LNOカソード材料。
【0162】
41.二重シェル被覆されたLNMO/LNOカソード材料を形成する方法であって、該方法は
LNMO/LNO粉末材料をフッ素含有ポリマーと混ぜ合わせ粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
該粉末−ポリマー混合物を該フッ素含有ポリマーの融点を上回る温度まで加熱する工程と、
該フッ素含有ポリマーを該LNMO/LNO粉末材料と反応させる工程と、
該LNMO/LNO粉末材料上に二層コーティングを形成する工程を含む。
【0163】
具体的な実施態様及び/又は本発明の詳細は、本発明の原理の応用を解説するために上で示され述べられた一方、この発明は、請求項および条項においてより詳細に記述されたように具体化され得、若しくは他に、そのような原理から逸脱せずに、当業者(あらゆる同等の者を含む)によって知られると理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0226810(A1)号明細書
【特許文献2】特開2003−142093号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書
【特許文献4】米国特許第7585589号明細書
【非特許文献】
【0165】
【非特許文献1】クログネクら,ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサイエティー 156(5) A349−A355(2009)(Croguennec et. al., Journal of The Electrochemical Society, 156(5)A349−A355(2009))
【非特許文献2】ファン デル マレルら,ジャーナル オブ バキュームサイエンス アンド テクノロジーズA 2005,23(5),1456−1470(van der Marel et al., Journal of Vacuum Science and Technologies A 2005,23(5),1456−1470)
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】図3:200℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のSEM。
【図4】図4:250℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のFESEM顕微鏡写真。
【図5】図5:350℃で加熱されたLNMO/1%PVDF混合物のSEM。
【図6】図6:上:加熱温度に対する、LNMO/0.3%PVDF混合物の湿気露出の後の水分含量。下:加熱温度に対する、LNMO/0.3%PVDF混合物の、湿気露出の前(★)及び後(△)の塩基含量。
【図7】図7a及びb:300/600℃で加熱されたLCO/1%PVDF混合物のSEM。
【図8】図8:放電電圧プロファイル:異なる温度で加熱されたLCO/1%PVDF混合物の、カソード容量(mAh/g)に対する電圧V。
【図9】図9:カイナー(登録商標)2801試料のSEM写真。
【図10】図10:カイナー(登録商標)2801及びカイナー(登録商標)とLiOH・H2Oの混合物のDSC測定であり、温度に対する熱流量(W/g)を示す。
【図11】図11:対照標準のPVDF(下)及び250℃で処理したLNO/PVDF混合物(上)のX線回折パターン(任意単位、散乱角に対して(度))。
【図12】図12:対照標準のPVDF(下)及び175(上曲線)/150℃(下曲線)で処理したLNO/PVDF混合物(上部)のX線回折パターン。
【図13】図13:上:LNMO/PVDF混合物の熱処理温度に対するクロマトグラフィーによって検出されたフッ素(g/サンプルのg)。下:LNMO/PVDFの熱処理温度に対する、クロマトグラフィーデータ混合物(data mixtures)から計算された計算フラクション(PVDF中のフッ素に対するフッ素のg)。
【図14】図14a−c:F 1sの小領域(subregion)のXPSナロースキャンスペクトルであり、2F寄与へのデコンボリューションを示す:687.5 eVにおける有機F及び684.7eVにおけるLiF中のF−。
【0027】
詳細な説明
単純な用語において、本発明の第一の特徴におけるカソード材料のその構造は、例えば二重シェルコア設計として記述され得る。該二重シェルは繰り返しのコーティングによってではなく、最初のコーティングとその材料コア表面とのその場反応によって得られる。該反応は、下に述べられるように一定の加熱温度において起こる。該二重シェルの最も外側の部分はポリマーの薄い層である。該ポリマーは部分的に分解され、そして非常に薄い内側層(基本的にはフッ化リチウム)と接触し、再びLNO及びLNMOコアを覆う。LiF層は、分解するポリマーと、LNO若しくはLNMOのリチウムを含む表面塩基との反応を発源とする。通常のフッ化物含有ポリマー、例えばカイナー(登録商標)など(下もみよ)は加熱すると融解するのみであるが、遷移金属酸化物表面でのLi塩基との接触は、そのポリマーの分解につながる化学反応を起こすことが確証されている。この分解は、最終的には蒸発するガスの発生及び炭素の残留となり得、十分な温度で分解したときも驚いたことにはLi2CO3型塩基を再形成する粒子との反応を伴わない。LiFフィルムはLi2CO3を形成する炭素の反応を妨げることで、粒子中のLiを保護すると推測される。この“完全な”分解(本発明における一部の分解とは対照的な)は、十分な熱が加えられたときにのみ起こる。遷移金属酸化物上を被覆するポリマーの量に依存して、外側シェルは一部分解したポリマー以外に、多少の元の状態の(反応していない)ポリマーを含む。その意味で“一部分解した”という用語は、
− 分解したものと元の状態のポリマーとの混合物、及び
− 多少分解したポリマーの混合物であって、いまだにポリマーとみなすことができるが本来の元の状態のポリマーとは異なる組成を有するもの
の両方を含む。
【0028】
実際において、“二重シェル”という用語は、内側LiFシェル以外に、一部分解したポリマーから成る外側層と、おそらくはより分解していない又は元の状態であるポリマーによって覆われている外側層も含むことができる。二重シェルは以下の機能をもつ:一部分解したポリマーの外側層は水分吸収から保護し、一方でその薄いLiFを基本とする内側層は反応性の表面塩基層を置き換え、したがって、塩基含量の減少と安全性の改善となる。
【0029】
表面被覆されたリチウム遷移金属酸化物の例は、上で述べた背景のコーティング分類と対応しない。その例において、我々は分解したポリマーを発源とする反応生成物の存在と二重シェルの形成を観測する。したがって、それは米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書において開示されているようなポリマーコーティングではない。
アニオンコーティングとして同じものではなく、なぜならば(a)部分的に分解したポリマーは鍵となる役割を果たし、(b)より高い温度ではLiFが結晶化するためにLiFによるコーティングは低い温度で起こる。最終的に、それはその場コーティングとその場以外コーティングのどちらでもないが、実際は中間である。
【0030】
リチウム遷移金属酸化物を覆う方法の例は以下の工程を含む:
1) LNO若しくはLNMOカソードと、少量の元の状態のポリマーを混合する。
2) 混合物を該ポリマーの融点を超える温度まで加熱し、ポリマーがカソード粉末と反応するまで加熱を続ける。
3) ポリマーが完全に分解したときに冷却する。
【0031】
本方法例における混合工程は(1)ウェットコーティング若しくは(2)ドライコーティングのどちらかから成ることができる。ウェットコーティング方法においては、ポリマーは溶媒に溶解され、そして粉末は溶液中に浸され、スラリー(若しくは湿潤粉末)は乾燥される。ドライコーティング方法においては、ポリマー粉末は粉末と混合され、ポリマーの融点を超える温度まで加熱され、そして溶融したポリマーは表面をぬらす。ドライコーティングの一つの実施態様において、小さな一次粒子サイズをもつポリマー、例えば1μを大きく下回るものが良好な表面被覆率を得るために使用される。
【0032】
上記の方法例において、LNO/LNMOカソード材料は非常に薄いフィルムに包まれる。フィルムが厚いと、このときリチウムがフィルムを透過することが困難になり、したがって電気化学的特性の損失を引き起こす(低い容量と乏しいレート特性を引き起こす)。LNO/LNMOカソードが高い多孔率を有すると、多孔率の充填を伴わない被包は困難であり、表面をLiFで覆うためにさらに多くのポリマーが必要となる。
【0033】
実施態様の例において、ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%である。ポリマー配合が0.1%未満であるとき、良好なフィルムを達成することは困難である。それが2%を超えるとき、粉末の容量は低くなり得る。0.2−0.5質量%のポリマー配合は別の実施態様の例において用いられる。
【0034】
特定の実施態様において、ポリマーコーティングの例はポリマーの一時的なコーティングとなることができる。このとき該ポリマーは、スラリー作製のために電池メーカーによって用いられる溶媒中で高溶解性であることが望ましい。最終的な正電極の生産において、スラリー作製工程の間に、ポリマーは溶解するがLiF界面は残る。したがって、ポリマー型外側シェルはそれの調製時からスラリー作製時までLNMO若しくはLNOカソード粉末を保護し、したがって一時的なコーティングとなる。その保護メカニズムは、カソード粉末表面への水分の付着を妨げるポリマーコーティングのその強い疎水特性によって決定され、したがって、(1)粉末による重大な水分吸収と(2)LiOH型塩基のLi2CO3型への重大な変換率を妨げ、そして(3)湿度駆動による全体の塩基含量の増加を妨げる。
【0035】
コイン電池作製はスラリー作製の工程を伴う。スラリー調製のために電池メーカーによって使用される典型的な溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)である。このため、コーティングに使用されるポリマー例は、NMP中に溶解され得る。また、ポリマーがLi電池化学と適合するとき、それは利点となる。したがって、別のポリマー例は、基本的に電池メーカーによって使用される結合剤と同じである。電池メーカーはPVDFをベースとしたポリマーを結合剤として使用している。したがって、コーティングポリマーは、例としてはPVDFベースのポリマーである。スラリー作製の間、ポリマーコーティングは溶解するが、表面を保護しているLiFフィルムは残る。
【0036】
上で述べたように、コーティング工程の特定の実施態様は、ドライコーティングとそれに続いてポリマーの融解温度よりも著しく高い温度まで加熱することである。融解温度を大きく超えた場合のみ、その溶融したポリマーは表面塩基と反応し、効果的にLNO/LNMO粒子のその表面をぬらす。別の特定の実施態様において、LNMO若しくはLNOと、PVDFをベースとするポリマー粉末の粉末混合物は、PVDFの融解温度を少なくとも50℃上回る(異なるPVDF'sは135℃乃至170℃の範囲の融解温度を有する)、220℃を越える温度で加熱処理される。さらに別の実施態様において、PVDFをベースとするポリマー粉末は、225℃乃至320℃の温度で加熱処理される。この温度範囲におけるぬれが、物理効果(ポリマーの低い粘度のため)だけでなく、同様に役割を果たすLNO/LNMOの表面塩基とポリマーとの反応を有することが確証されている。その温度が220℃を下回るとき、ポリマーは融解し得るがぬれは良好ではない。結果として乏しい表面被覆率が達成される。その温度が320℃を超えるとき、ポリマーは完全に分解する。Li塩基との化学反応が起こるその温度は、カイナー(登録商標)若しくはPVDFが単に空気中で加熱されることによって分解を開始する温度であるおよそ350−375℃より低いことに留意されたい。PTFEはおよそ330℃の融解温度をもつため、PTFEをポリマーとして使用した場合においてLiF層を得るためのその加熱温度は少なくとも380℃となることは明らかである。
【0037】
米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書(INCOに帰属される)においては、PVDF結合剤材料はその分解温度より下の温度で適用され、従ってLiFフィルムが形成されず、そして全ての適用されたポリマーはいまだに存在し化学的に不変であることに言及することは適切である。
【0038】
そのINCO特許は、高温若しくは(好ましい)溶解した形態のどちらかである液相においてポリマーコーティングを行っている。そのINCO特許は、ポリマーとカソード粉末の間の乏しい付着を観測し、したがってシュウ酸のようなルイス酸を、その付着の改善のためと、特にまたカソード材料表面上のあらゆるLiOHを中和しPVDFとのそれの反応を避けるために加える。
【0039】
以前に説明された被覆方法の実施態様は異なる概念に従う。第一に、ポリマーとカソードの混合物は一般に室温で固形状で行われる。そして、該混合物はカソード粉末表面との反応を経て該ポリマーの分解が開始する温度まで加熱される。一方では、加熱処理の時間は制限され、そして該ポリマーは完全には分解せず、他方ではそれは十分長く、ポリマー−カソード界面の該ポリマーは十分に反応し、LiFをベースとする界面フィルムを形成する。第二に、ルイス酸を加える必要はない。我々は驚くべきことに、カソードとポリマー間の乏しい付着は低い加熱温度によって引き起こされることを発見した。温度が上昇するとき、ポリマーとカソード表面は化学反応を開始し非常に強い付着が得られる。事実、我々はカソード粉末粒子表面上への溶融ポリマーの良好なぬれを観測する。我々は、良好なぬれはカソード表面上でのポリマーの分解の証拠であると考える。
【0040】
当然ながら、LNMOカソード材料は円筒形状電池に対しての興味がもたれる。これは、それらの高い容量と、LNMCOの欠点であり塩基含量と関係していると考えられているガス発生が円筒形状電池においては扱いやすいためである(円筒形状電池は非常に堅いケースを有する)。膨張を扱うことが容易ではないため、最近、角形電池への実装はより困難であり、実際にはポリマー電池にとっては不可能である。本発明にしたがったLNMOカソード材料は、LiFフィルムが表面塩基を置き換えるためにより低い塩基含量をもつ。また、それらは、そのようなカソードを角形若しくはポリマー電池にさえも実装することを許容する改善された安全性を有する。
【実施例】
【0041】
本発明は、例えば、以下の記述とは異なる実施例によって実用されてもよい。
【0042】
実施例1
この実施例は、フッ素含有ポリマーによるコーティングとそれに続く温度処理の効果を示す:
1) 高温において起こるカソードとポリマーとの反応と、
2) LiF保護フィルムの形成
また、本実施例は、LiF界面を有するポリマーで被覆された試料に対する温度の影響について調べた。この実施例は、1%のポリマーを加えることによって合成された試料の結果を示す。カソード前駆体(前駆体=被覆されていない若しくは剥き出しの試料)としてLNMO量産試料を使用した。その組成はLi1+XM1−XO2で、M=Ni0.5Mn0.3Co0.2でありxは約0.00であった。該前駆体はさらに0.145mol%のS及び142ppmのCaを含んでいた。
【0043】
カソード前駆体の100gとPVDF粉末の10gを、コーヒーグラインダーを用いて注意深く事前に混合した。そして、110gの中間体混合物を900gの残っていたカソード前駆体とヘンゼル(Haensel)型ミキサーを用いて中出力(medium energy)で混合した。前駆体−PVDF混合物をそれぞれ100gのバッチへとサンプリングした。これらのバッチを、150℃乃至350℃の範囲の温度で5時間熱処理した。熱処理の間に試料の質量が変化するので(該ポリマーが部分的もしくは完全に分解するため)、1%PVDFとは前駆体として使用される試料の100gあたりに1gのPVDFを加えることを参照する。最終的な試料の正確なgあたりの量はわずかに低くてもよく、例えば熱処理の間に質量が失われないとき、正しい値は0.99%となり得た。その生じた粉末をふるいにかけた。2シリーズの実験を実施した。最初のシリーズは、150、200、250、300、及び350℃において、そして繰り返しはT=25、150、180、200、225、250、275、300、325、350℃であった。2つのシリーズにPVDFを含まない追加のブランク試料を加えた。
【0044】
選択された試料の粉末を、以下のように分析した:
1) 正確な格子定数を得るためのX線及びリートベルト解析
2) 電気化学的特性を測定するためのコイン電池試験(第一シリーズのみ)
3) 走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は電界放出銃走査型電子顕微鏡(FESEM)及び、
4) 湿気暴露試験(5日間、湿度50%、30℃)であって、
A.暴露前後での水分含量の測定
B.暴露前後での適合された可溶塩基のpH滴定
を含むもの。その試験結果の概要は表1及び図1−5において与えられる。
【0045】
これと以下の実施例の全てにおいて、電気化学的特性はコイン型電池において、25℃で六フッ化リチウム(LiPF6)型電解質中の対電極としてのLiホイルを用いて試験された。電池はレート特性及び容量を測定するため、4.3Vまで充電し3.0Vまで放電した。延長されたサイクル中のその容量保持は4.5Vの充電電圧で測定した。160mAh/gの比容量はその放電率の決定のために推測した。例えば、2Cでの放電は320mA/gの比電流が使用された。これは試験の概要である:
【表1】
下記の定義は、データ分析のために使用される(Q:容量、D;放電、C;充電)
不可逆容量 Q(irr)は(QC1−QD1)/C1
100サイクルあたりのフェード率(Fade rate)(0.1C):(1−QD31/QD7)*100/23
100サイクルあたりのフェード率(1.0C):(1−QD32/QD8)*100/23
エネルギーフェード(Energy fade):放電容量QDの代わりにその放電エネルギー(容量×平均放電電圧)が使用された。
【0046】
pH滴定に関して:PVDF被覆された試料はしばしば強く疎水的であり、水溶液中でのpH滴定を困難にする。このため、7.5gの試料を最初にアセトン10g中でぬらし、そして90gの水を加え、続いて10分間攪拌した。ろ過の後、透明なろ液中の可溶塩基の含量は、0.1MのHClを用いた標準的なpH滴定によって滴定した。
【0047】
【表2】
【0048】
図1は示す:
1) 下:粉末回折データのリートベルト解析から得た1つの化学式ユニット(LiMO2)のユニットセル体積(シリーズ1b:▽、2a:△)、
2) 中:湿度暴露前(シリーズ1a:★、2a:△)及び後(シリーズ1b:○)のpH滴定により得た可溶塩基の含量
3) 上:湿度暴露後の水分含量(シリーズ1b:▽)
図2は湿度暴露されていない試料の電気化学的特性を示す。
【0049】
以下は、図1において観測することができる。
ユニットセル体積:T≧175℃でのユニットセル体積の継続的な増加とT≒300−325℃での段階的な増加。格子定数の増加は、ほぼ確実に部分的な脱リチウムによって引き起こされている。脱リチウムはフッ素含有ポリマーの分解により駆動され、リチウムはポリマーと反応しLiFを形成した。また熱処理していない前駆体の体積が33.8671A3であることから、そのユニットセル体積は、180℃までPVDFとカソードとの間で反応が起こらないことを示している。約200℃でのみ反応は始まり、約300℃で主な反応が起こった。我々は、LiFのフィルムが200℃を超える温度において存在すると結論付けた。
【0050】
塩基:より高い処理温度におけるより少ない可溶塩基。最適条件(最も少ない塩基)はおよそ275−325℃で観測された。可溶塩基は表面上にあり、水中へ溶解しLiOH若しくはLi2CO3を形成した。可溶塩基はリチウムの最も反応的な形態である。つまり、フッ素含有ポリマーと表面との反応により形成されたLiF中のリチウムは可溶塩基を発源とする。実質的に、LiFフィルムは可溶塩基のフィルムを置き換える。我々は、可溶塩基を50%減らすために少なくとも250℃が必要であることを観測した。より高い温度(>325℃)では、新たな可溶塩基がバルクから再形成され得、LiFフィルム形成によって消費された塩基を置き換える。
【0051】
水分:>200℃乃至約325℃での良好な水分安定性とともに非常に低い水分含量。325℃を超える温度では、ポリマーは徐々に完全に分解し、表面はもはや水分吸収から保護されなかった。200℃未満の温度では、ポリマーはその表面を完全に覆わなかった。十分に高くしかし高すぎる温度ではないときのみ、表面は水分吸収に対し保護する部分的に分解したポリマーフィルムによって覆われた。良好な被覆率(=良好なぬれ特性)は、表面上でのポリマーと可溶塩基との反応に関連することは明らかである。
【0052】
図2a(上:)は、300℃を超える温度では、被覆された粉末の可逆容量(C1:サイクル1)は減少し、一方で(中:)不可逆容量(Qirr=〔放電−充電〕/充電、%)は顕著に増加することを示す。同時に(下:)、レート特性(2C対0.1C、%における)は低下した。この観測結果には2つの理由があり、
1) LiFを形成するためカソードからLiが失われる。酸素が化学両論的に平衡であるとき、Liの喪失はLi欠損Li1−XM1+XO2を生じる。1質量%のPVDFは約6000ppmのフッ素を含み、約3mol%のリチウムの喪失に相当する。一般に、Li欠損Li1−XM1+XO2は低いレート特性と高い不可逆容量を有する、
2) その表面は電子的及びイオン的に絶縁性であるLiFフィルムによって覆われており、それは要求よりも厚く、乏しいレート特性を生じる。
【0053】
図2bは、3.0乃至4.5の23サイクルでのサイクル後のエネルギーフェード(energy fade)(容量×平均放電電圧、0.1C(上)若しくは1C(下)のどちらかにおいて測定された)の結果を示す。図2bは、250℃までの温度上昇に伴うサイクル安定性の増加を示唆する。改善されたサイクル安定性はおそらく、ほぼ確実に保護LiFフィルムの形成に起因する。
【0054】
図3−5は、200℃(SEM−図3)、250℃(FESEM−図4)及び350℃(FESEM−図5)で調製した試料の顕微鏡写真を示す。図3は200℃で調製した試料の顕微鏡写真を示す:その表面上の多数の小さな“液滴”とともに粒子が示されている。該液滴はおそらく溶融したPVDF粒子である。明らかにPVDFはその表面を濡らしていない。250℃において(図4を見よ)該液滴は消え、そしてその表面はPVDFフィルムによって滑らかに覆われ、そして表面構造は該フィルムの下でのLiFプレートの形成を示す。350℃において(図5を見よ)ポリマーは完全に分解し、表面はフッ化リチウムの小さな結晶の板によって覆われた。
【0055】
結論:実施例1は、200℃を超えるが350℃を下回る温度において、ポリマーフィルムは粒子を覆い、該ポリマーとカソード表面との界面はLiFのフィルムであることを示す。該LiFフィルムは、該カソードの可溶表面塩基を置き換える。
【0056】
実施例2:
実施例1は1%PVDFによるコーティングを調べた。しかしながら、処理温度T>275℃、特に>300℃において、分解するポリマーが非常に多くのLiをカソードから引き抜き、可逆容量の減少を引き起こすことが観測された。これは、生じたLiFフィルムが不必要に厚くなり得たことを示す。したがって本実施例は、より少ないポリマー(たった0.3質量%のPVDF)を使用した熱処理の発明を示す。既に述べたように、本実施例はLiF界面をもつポリマーによって被覆された試料の調製における温度の影響について調べた。LNMO量産試料をカソード前駆体として使用した。その組成はLi1+XM1−XO2でM=Ni0.5Mn0.3Co0.2でありxは約0.00であった。該前駆体はさらに、0.145mol%のS及び142ppmのCaを含む。
【0057】
カソード前駆体100gとPVDF粉末3gを、コーヒーグラインダーを用いて注意深く前もって混合した。そして混合物103gを残りのカソード前駆体900gと混合し、そしてヘンゼル(Haensel)型ミキサーを用いて中出力で混合した。該混合物を、各々100gのバッチにサンプリングした。これらのバッチを225−350℃の範囲の温度で5時間熱処理した。PVDFを含まないブランク試料と対照的に、試料は225、250、275、300、325及び350℃で調製された。得られた粉末をふるいにかけ、実施例1と同様の方法で分析した。表2は試料、調製及び結果のまとめを与える:
【0058】
【表3】
【0059】
図6は、(下)湿気暴露(5日間、30℃、50%)の前(★)および後(△)のpH滴定と、同様に湿気暴露後の水分含量(上)の結果を示す。これは実施例1と同様に、250℃を超える温度においてPVDF処理が可溶塩基を顕著に減少させ、そしてそれが水分吸収から保護し(しかしより低い効果で)、250−275℃での最適条件を伴うことを示す。良好なコイン電池試験の結果は、温度領域全体で得られた。塩基含量が減少するとLiF層が生じ、このLiFはフル電池(full cell)における安全性能の改善及び高電圧安定性に好都合であると考えられる。
【0060】
実施例1と比較して、最適な塩基含量は275−350℃において観測され、250℃周辺の限定された範囲において水分含量は最も低くなり、電気化学試験の結果は全温度範囲で良好であったと結論付けることができる。いくらかの効果が0.1質量%のPVDFを用いて既に観測できたとしても、200℃乃至300℃の加熱温度と組み合わせられる0.3質量%のPVDFは、求められる結果を達成するための下限に近いとみられ、ここで1質量%のPVDFは上限となり得るとみられる。この分析を、下記の実施例5a−dにおいてさらに調査した。塩基含量への要求される効果と水分吸収との最適な平衡(電気化学的な結果に悪影響を及ぼさずに)は、試験されたリチウム遷移金属酸化物組成物に依存せず0.5質量%乃至0.8質量%のPVDFであると見出された。
【0061】
実施例3:
この実施例では、LiF界面をもつポリマーで被覆されたLiCoO2試料の調製に対する温度の影響を調べた。本実施例は、実施例1−2の結論のさらなる証拠を与えるために、適切なLiCoO2の電圧プロファイル及び微細構造について考察した。鍵となる結論は実施例1−2と同様であり、200−350℃でLiFフィルムが形成する。その厚さは温度とともに増加した。一方、LiFフィルムをより高い温度で保つことはできなかった。
【0062】
本実施例は、1%PVDFポリマーを加えることにより調製された試料の結果を示す。リチウムコバルト酸化物の量産品試料をカソード前駆体として使用した。その組成は1mo
l%のMgがドープされたLiCoO2であり、17μmの平均粒子サイズを有していた。この前駆体粉末1000gと10gのPVDF粉末を、ヘンゼル(Hensel)型ミキサーを用いて注意深く混合した。該混合物はそれぞれ150gのバッチへサンプリングされた。これらのバッチは150−600℃の温度範囲で9時間加熱処理された。得られた粉末はふるいにかけられた。該粉末はコイン電池試験、SEM及び伝導性の分析がなされた。
【0063】
SEM分析は、150℃におけるポリマーの不規則なコーティングが、250℃までの温度上昇とともに次第に滑らかで均質なものになることを示した。300℃においてその表面層は変化し始め、そして350℃においてポリマーコーティングに代わって無機的な特徴を有しているように見える表面フィルムが観測された。600℃において、該表面フィルムは損傷を受け、よく形成された結晶(おそらくLiF)が生成した。結晶の生成は、LiFがより高い温度において表面をぬらさないことを示す。直接的な高温合成によってLiFフィルムを達成することは不可能であると思われる。図7aは300℃での、図7bは600℃での試料のSEMグラフを示す。よく形成されたLiF結晶の存在に注意せよ。
【0064】
表3は、電気化学試験測定のまとめを与える。
【表4】
【0065】
図8は、1%のPVDFを含み異なる温度で調製された表3における試料の放電電圧プロファイル(4.3−3.0V、0.1Cレート)を示す。より低い温度(150℃、200℃)において調製された試料は、全く同じ放電電圧プロファイルを示した。該プロファイルは、処理していない試料を前駆体として使用した対照標準(データは示されていない)と類似しているが、それよりもわずかに低い容量(約1%少ない)を有していた。容量値は試料の実際の質量を参照した(したがってそれはポリマーコーティングの質量を含む)。低いTの試料(150℃、200℃)は1%PVDFのコーティング層を含み、これは1%低い容量を説明する。4.1Vにおける相転移が検出されなかったことから、その電圧プロファイルは高いLi:Co比をもつLiCoO2において典型的なものであった。250℃の試料は異なる電圧プロファイル(乏しいレート特性をもつLiCoO2において典型的なもの)を示した。その分極はより大きくなり(電圧降下)、そして放電の最後はほとんど四角型ではなかった(より丸みを帯びた)。これは、ポリマーコーティングとLiCoO2表面の間に形成されたLiF界面層に起因する。このLiF層は表面を完全に覆い、低いイオン及び電気伝導性を有し、低いレート電圧プロファイルを引き起こす。
【0066】
温度上昇とともに(300℃、350℃)容量は劇的に悪化した。これは、厚さの増加を伴って明らかに表面全体を覆う抵抗性LiF層の形成をはっきりと示す。しかしながら、調製温度がさらに上昇するとき、600℃において我々はほとんど全容量に近い容量、改善されたレート特性(示されていない)、及び4.1Vにおけるはっきりとした相転移を観測した(通常、4.1Vの相転移はLi欠損若しくは化学量論のLiCoO2でのみ観測される)。
【0067】
600℃におけるこれらのデータは抵抗性LiF表面層がないことを示す。明らかに、高温において均質なLiF表面層は破壊され、その表面の大部分はもはやLiF層によって覆われていない。このデータは、損傷を受けた表面と、より大きなLiF結晶の生成を示すSEMと十分に一致した。
【0068】
実施例3は、PVDFの融点(140−170℃)を超える温度において、均質なポリマー表面フィルムが生じることを示した。しかしながら、要求される界面LiFフィルムの生成を引き起こすポリマーとカソード表面との反応前に、温度を200℃を超える温度そして好ましくは250℃まで上げることが必要とされた。しかしながら、温度が高すぎるとき、その保護層はもはや活性ではなくなる。LiF表面フィルムはこのとき表面から分離しLiF結晶が生じる。実施例3はまた、1%のMgがドープされたLiCoO2試料において達成された結果が実施例1のLNMO試料と匹敵することを示した。
【0069】
実施例4:
実施例4は、LiF界面を有するポリマーで被覆されたLNO型試料の調製に対する温度の影響を調べた。
【0070】
本実施例は、0.3及び1%のPVDFポリマーを加えることによって調製された試料の結果を示す。0.15mol%のS及び500―1000pppmのCを含むLiNi0.8Co0.15Al0.05O2試料は、アルミナを含む混合された遷移金属前駆体とLiOHから、酸素フロー中で、パイロットプラントにおいて5kgスケールで調製された。PVDF処理は実施例1及び2と同様に行われた。表4に試料、合成及び結果をまとめた。
【0071】
【表5】
【0072】
この表は、PVDF処理は水分安定性を改善し、T=250℃において初期の塩基含量が大幅に下げられたことを示す。150℃において、PVDF無しと比較して、塩基が減少しないことが観測され、しかしより高いTでは、LiFを形成するための塩基の消費によってその塩基含量は減少した。このLNO組成物において、350℃での処理で水分含量はその最小となった。未処理の試料と比較して、湿気暴露中の塩基増加の速度は低下した。実施例1−3と同様に、1%PVDFが使用されたとき、容量及びレートはより高いTにおいて悪化し、一方で0.3%PVDFの使用は、全温度範囲で良好な電気化学的結果の達成を許容した。
【0073】
実施例5a−d
この実施例は、より大きなスケールの試料における実施例1及び2の結果を再現する。これらの試料は、ポリマー型フル電池(full cell)でさらに試験された。全ての実施例において、Li:Mがおよそ1.0である量産LNMO(M=Ni0.5Mn0.3Co0.2)を前駆体として使用した。該前駆体はさらに、0.145mol%のS及び142ppmのCaを含む。
【0074】
実施例5a:250℃での1質量%PVDF
200gの量産LNMOと18gのPVDF粉末を、コーヒーグラインダーを用いて4つのバッチ中で事前に混合した。該混合物を1.6kgのLNMOに加え、ヘンゼル(Hensel)型ミキサーを用いて2L容器を用いて混合を継続した。該混合物を対流式オーブンにおいて250℃で5時間熱処理し、続いてふるいにかけた。
【0075】
実施例5b:250℃での1質量%PVDF(より大きな試料)
15kgのカソード前駆体粉末と150gのPVDF粉末を、パイロットプラントのリボンブレンダーを用いて注意深く混合した。その粉末混合物を250℃で5時間加熱し、続いて粉砕しふるいにかけた。
【0076】
実施例5c:300℃での0.3%PVDF
熱処理温度は300℃であることと、より少ないPVDF(5.4g)を使用したことを除いて、基本的には実施例5aの1.8kg試料と同様である。50gの試料の2バッチと2.7gのPVDFを事前に混合した。
【0077】
実施例5d:350℃における0.3%PVDF
熱処理温度が350℃であることを除いて、実施例5cと同様である。
【0078】
試験は実施例1−3と同様の方法で行われ、さらに800mAhの巻回ポーチ(wound pouch)型電池が組み立てられ、試験された(電池のそのような型は、例えば米国特許第7585589号明細書の先行技術において述べられている)。表5に結果をまとめた。
【0079】
【表6】
【0080】
この表は以下の結論を許容する:
・ 1%@250℃試料:最も良い水分安定性を有していた。塩基は湿気暴露中に増加せず、湿気暴露後の水分含量は非常に低かった。しかしながら、LiFフィルムは薄く、その塩基含量はおよそ30%だけ減少した。
・ 0.3%@300℃試料:より薄いポリマーフィルムに起因して、水分安定性は1%@250℃のそれよりも悪く、一方でその塩基の全体量は小さく対照標準の50%未満であった。これは、そのLiFがより良好に成長し、ポリマーの分解が塩基のほとんどを消費したことを示す。我々は、バルクからのいくらかのリチウム引き抜きと一致する、ユニットセル体積のわずかな減少を観測した。
・ 0.3%@350℃試料:水分含量は300℃におけるそれよりも良好であった。
【0081】
表6にポーチ電池試験の結果をまとめた。高温蓄電(4時間、90℃)後の膨張の劇的な減少が観測された。膨張は、その電池が4時間後にいまだ熱い(90℃)ときに測定した電池厚さに対する、試験前(冷たい状態)に測定した厚さの比である。異なる処理がなされた試料について、いくつかのさらなる試験が行われたが、PVDF処理試料のみが劇的に減少した膨張を示し、典型的に得られる数値である40−50%よりも低かった。我々はさらに、全てのPVDF処理された電池が過充電試験に合格し、改善された安全特性を示すことを観測した。過充電は700mAで5.5Vに達するまで行った。合格は、炎若しくは煙現象が起こらないことを意味する。釘刺し試験は、直径2.5mmの鋭い釘を使用して1秒当たり6.4mmの速度で行われた。合格は、煙若しくは炎が無いことを意味する。
【0082】
【表7】
【0083】
実施例6:
実施例6は、いわゆるブランク例であり、粒子の表面を覆う溶融したPVDFと該粒子表面にあるLiOH型塩基との間で起こる可能性がある反応を模擬的に再現した。示差走査熱量(DSC)法を用いることによって、この実施例は、カイナー(登録商標)の融解温度を約50℃上回る温度において、ポリマーは塩基を含むリチウムと反応したことを示した。この反応は、要求される内側LiF層の生成のために必要である。
【0084】
アルケマ社(Arkema)からのカイナー(登録商標)2801試料(微粉末として受け取り、生産者により報告されたように142℃の融点を有する)とLiOH*H2O試料をそれぞれ、それらの平均サイズ(D50)が2μmを下回るまでジェットミルした。図9はカイナー(登録商標)試料のSEM写真を与え、0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有する凝集したボール状の一次粒子から成ることを示す。
【0085】
得られた細かいカイナー(登録商標)粉末とLiOH*H2Oの微粒子を、2:1の質量比でその後混合した。これは、カイナー(登録商標)中のフッ素の、水酸化物中のリチウムに対するモル比であるF:Liがおよそ2.62であることに相当する。したがって、全てのLiがポリマーと反応したとしても、いまだに過剰の未反応ポリマーがあることになる。この混合物は150、200及び250℃まで加熱された。その質量損失を記録し、そして加熱されたブレンドのX線回折を測定した。
【0086】
ブレンド及びカイナー(登録商標)対照標準をDSCによって調べた。試料を密閉されたステンレススチールのDSCカン(cans)の中へ挿入した。5K/分の温度速度で室温から350℃まで、熱流量を昇温中に測定した。
【0087】
図10は得られたDSC結果を示す(熱流量対温度;上:カイナー(登録商標)とLiOH*H2Oのブレンド;下:純粋なカイナー(登録商標)):カイナー(登録商標)の最小の熱流量(最も吸熱)は142℃において達成され、142℃の融点と一致した。
【0088】
ブレンドの昇温中に得られた曲線は完全に異なっていた。第一に、シャープな吸熱現象が最小熱流量を伴って109.1℃に観測された。これは水分の放出(LiOH*H2O → LiOH + H2O)である。その後強い発熱現象が観測された。その最大熱流量は186.2℃に観測された。この温度において、Li塩基と高圧蒸気に接触しているPVDFは分解し、そしてLiF(及びおそらく炭素)が形成されたと推測される。DSCカンは密閉されており、そのためさらなる反応は起こらなかった。しかしながら空気中では、実施例7で示されるように、より高い温度においてポリマーは分解し続けた。
【0089】
実施例7
この実施例は別のブランク例であり、粒子の表面を覆う溶融したPVDFと該粒子表面にあるLiOH型塩基との間で起こる可能性のある反応を模擬的に再現した。本実施例は、空気中で200℃を超える温度において、分解したポリマーとおそらくは炭素の生成を引き起こす塩基とPVDFとの反応が起こることを示した。
【0090】
実施例6と同様のブレンド試料(アルケマ社からのカイナー(登録商標)2801試料と質量比2:1でジェットミルされたLiOH*H2O)を用いた。該ブレンドを150、200及び250℃まで空気中で5時間加熱した。その質量損失を記録し、その加熱されたブレンドのX線回折を測定した。実施例6は閉鎖系(高圧蒸気)であるのに対して、実施例7は開放系(おそらくほとんどの水分は蒸発する)であることに注意してください。表7に結果をまとめ、ここで“X線”は観測した化合物を示す。
【0091】
【表8】
【0092】
150℃及び175℃において、ブレンドは基本的に反応しなかった。その色は白色から黄色がかっており、その電気伝導度はゼロであった。13−15質量%の質量損失が観測され、ほとんどはLiOH*H2O + PVDF → LiOH + PVDFの反応を発源とした。該ブレンドはNMP中に完全に可溶であった。X線回折パターンは、LiOH、LiOH*H2O、Li2CO3、ポリマー並びにLiFの痕跡を示した。
【0093】
200℃においてブレンドは反応した。生じた色は黒色であった。はるかに大きな質量損失が観測された。伝導性は測定できなかった(低すぎるため)。該ブレンドはアセトン中に完全に溶解せず、黒色粒子が残った。X線回折パターンはLiF及びポリマーを示した。該ポリマーは、純粋なPVDFとは異なる回折パターンを有していた。
【0094】
250℃において、より強い反応が起こった。質量損失は58.7質量%であった。ブレンドは、3*10−7S/cmの向上した伝導性を示した。該ブレンドはアセトン中に完全に溶解せず、黒色粒子が残った。X線回折パターンはLiF及びポリマーを示し、そのポリマーは純粋なPVDFとは異なる回折パターンを有していた。
【0095】
図11及び12は、集められたX線回折パターンのいくつかを示す:図11は対照標準のカイナー(登録商標)(PVDF)試料(下)及び250℃で処理した試料(上)であり、図12は150(上図の下側の曲線)及び175℃(上図の上側の線)であり、下側の図はまた同様に対照標準のPVDFである。図11において、上図の2つの高強度ピーク(フルスケールの10%のみを示す)はLiFである。15−30度におけるブロードな山は“不明確な”ポリマーであり、PVDFは残ってはいるが、対照標準とははっきりと異なるX線パターンを有していた。200℃での熱処理後のブレンドのパターン(示されていない)は非常に似ていた。図12において、PVDF前駆体(=対照標準)並びに150℃及び175℃での熱処理後のブレンドのX線回折パターンは、基本的にPVDFは反応しないことを示し、PVDFのパターンは残っていた。150℃において、LiFのわずかな痕跡を検出することができた。175℃において、LiFは少量の不純物となった。LiFの回折ピークを矢印で示す。他のピークは、Li2CO3やLiOHといったリチウム塩に帰属することができた。
【0096】
実施例7は、空気中で約200℃、即ちその融点よりも約50K高い温度において、LiFと変性ポリマーを生成するLiOHとPVDFとの反応が起こったことを示した。本実施例は、PVDFの分解とリチウム遷移金属酸化物粉末上のLiF層の形成は、PVDFとリチウム塩基との反応によって引き起こされるというモデルを裏付ける。
【0097】
実施例8:
この実験は以下を証明するために考案された
1) 低い加熱温度においてLiF層は存在しない(PVDFはまさに粒子を覆うが、LiF反応層は形成されない)
2) 本発明にしたがった加熱温度において、PVDFとカソードとの反応が開始される(薄い界面LiF層を生じる)
3) 高すぎる温度において、厚いLiFフィルムが形成される(全てのPVDFは、カソードと反応してLiFを形成することによって消費される)
【0098】
LiFは水中で低い溶解性を有する(Lあたり約1.5g程度)。一方、PVDFは不溶である。したがって、熱処理した生成物を浸した後、LiFは溶解し、そしてあらゆる溶解したフッ素イオンを液体クロマトグラフィーによって検出できる。しかしながら、PVDFを含む試料は疎水的であるので、しかしながら全てのLiFに水が近づける保証がない。PVDFはアセトン若しくはNMPに高溶解性であるがLiFはそうではないため、PVDFがNMP若しくはアセトン中での溶解によって除かれた試料もやはり合成でき、水が近づいてLiFを溶解することを保証する。
【0099】
以下の試料を試験した:
1) 合成したままの試料(洗浄していない)で、実施例1において分析若しくは述べられた試料と同じ若しくは類似した試料、
2) 少量のアセトン中で洗浄しデカントした試料
3) NMP中で洗浄しデカントした試料
【0100】
液体クロマトグラフィー(LC)手順は以下のとおりである
1)300mLのガラス三角フラスコに1gの試料を量り取った
2)二重に脱イオン化した水100mLを加えた
3)ガラス攪拌棒を加え1時間攪拌した
4)ミリポア(Millipore)0.45μmマイクロフィルターでろ過した;
5)ろ液をイオンクロマトグラフで測定した(操作ブランクとともに)
【0101】
表8に試料、合成及び結果をまとめる
【表9】
フラクション%:反応したPVDFの%であり、見出されたFの量から推定できる。F(−)分析の結果は洗浄水中の3つの異なるレベルを示した:LiFがほぼ存在しないことを示す0.006質量%乃至0.010質量%;ほぼ同じ厚さのLiF層の存在を示す0.054質量%乃至0.064質量%;そして最後に、以下で説明されるようにほとんど全てのPVDFが反応したことを示す0.158質量%乃至0.162質量%。
【0102】
結果を図13にも示す。上側のパネルはクロマトグラフィーにより検出されたフッ素の質量%である。下側のパネルは、上述のデータから計算されクロマトグラフィーにより検出された溶解したFのフラクションである。
【0103】
第一に、我々は洗浄した試料(NMP若しくはアセトン中)と洗浄していない試料は同じ結果を与えることを観測した。実施例EX0121及び0121Cを比較した。PVDFは湿気暴露試験において水分吸収に対して効果的な保護を示した一方、水中への浸漬は下層のLiFが溶解することを可能にした。
【0104】
第二に、イオンクロマトグラフィーは150℃において実質的にLiFが存在しない(そしてあらゆるケースにおいて不十分である)ことをはっきりと証明した。実施例EX0121及び0121Cを見よ。このように、ポリマーは処理したカソード生成物の表面と反応しなかった。PVDFフィルムは粒子を被覆し得るが、保護LiFフィルムは存在しなかった。250℃において、例えばEX0194及び0194Cにおいて、PVDFのフラクションは反応した。EX0194Cと0126Cとの比較から推定されるように、形成されたLiFの全体量(=反応したPVDFの量)は、初期のPVDFの量にほとんど依存しなかった。我々は、反応速度はカソードの表面積及び表面塩基の有効性によって制限されると結論づけた。大過剰の未反応PVDFはその粒子を覆うが、LiFの界面層は生じた。
【0105】
350℃において全てのPVDFは反応した。理想的な実験においては、我々はLCによってPVDFの形態で試料に加えられたものと同じ量のフッ素を検出する。ここで得られた結果である、検出されたフッ素のフラクション(84−88%)は、その実験的系統誤差内であり、したがって我々は350℃において全てのPVDFは分解したと結論付けた。
【0106】
250℃での処理において、検出されたFの量は表面に制限され、すなわち塩基Liの量に依存し、一方350℃ではその量はおそらくPVDFに制限され、すなわち初期のPVDFの量に依存するといえる。
【0107】
実施例9
この実施例は、温度に応じたPVDFの分解及びLiFの形成を調べるための、X線光電子分光法(XPS)を使用したPVDF処理されたカソード材料の調査について述べる。本実施例は、1%PVDFの添加並びに3つの異なる温度での処理:200℃、250℃及び350℃、によって調製された実施例1の選択された試料(EX0124、EX0127、EX0161)の結果を示す。
【0108】
本実験は
1) 高温(〜350℃)での長時間の加熱によってPVDFコーティングの完全な分解が得られる。
2) 温度上昇とともに次第に厚いLiF層が形成される。この層におけるフッ素はPVDFに由来し、この層におけるLiはそのカソード粒子表面上の表面塩基に由来する。
ことを示すために考案された。
【0109】
C、F及びLiのスペクトルの結果を表9にまとめる。
【表10】
【0110】
表9における結論
1 C 1s:
1.1 291eVのCF2−CF2ピークの減少によって示された350℃におけるPVDFの消失(=分解)。この温度を下回る温度においてはPVDF(元の状態又は部分的に分解した)は依然として存在する。
1.2 289.2eVでのCO3ピークによって粒子表面で観測されたLi2CO3。350℃において、Li2CO3は除かれた。これは、該粒子の表面に存在するLi2CO3をLi源として使用したLiFの形成によって説明することができる。
2 F 1s:
2.1 686.7eVのF−orgピークの減少によって示された、350℃におけるPVDFの消失(=分解)。PVDF(元の状態又は部分的に分解した)はこの温度を下回る温度においては依然として存在する。
2.2 〜685eVでのLiFピークによって示された、350℃におけるLiFの形成。
2.3 LiFの形成はLi2CO3の減少と直接的に関係し、この形成中でのLi2CO3の使用を示す。より低い温度でのLiFの形成は、PVDFオーバー層によるこの
LiF層のマスキングのために、結論付けることができなかった(XPSは侵入深さ限界を有することが知られる)。そのため、実施例8において、該PVDFオーバー層は溶媒洗浄によって取り除かれる。
3 Li 1s:
3.1 温度が上昇しより多くのLiFが形成されるとき、1に近づいていくLi+/LiF比の減少。これは、350℃においてLiFの形成は完了し、表面における全てのLiはLiFとして存在することをはっきりと示す。
【0111】
XPSデータは、
1 PVDFコーティングの完全な分解は、高温(〜350℃)での長時間の加熱によって得られる。
2 温度上昇とともに次第に厚いLiF層が形成される。この層におけるFはPVDFに由来し、そしてこの層におけるLiはカソード粒子表面上に存在する表面塩基に由来する。(該表面塩基はLi2CO3やLiOHのようなリチウム塩から成る。該Li2CO3は該表面塩基の主要部分でありXPSによって観察できる)
具体的には:
2.1 低いT(150−200℃)においてPVDFはいまだコーティングとして存在し、LiFはほとんど存在しない。全ての表面塩基(Li2CO3)はカソード材料の表面上にいまだ存在する。
2.2 上昇したT(250℃)において、PVDFと該Li2CO3との反応が開始される(薄い界面LiF層を生じる)。PVDFはまた、いまだコーティングとして存在する。
2.3 高いT(350℃)において、厚いLiF層が形成する:時間とともにPVDFは完全に分解し、それのFは粒子表面において、有効なLi2CO3との反応によって消費されLiFを形成する。
というモデルをはっきりと支持する。
【0112】
実施例10
この実施例は、温度に応じたPVDFの分解並びにLiFの形成を調べるため、X線光電子分光法(XPS)を使用してPVDF被覆されたカソード材料を調べた。この実施例は、0.3%のPVDF並びに150℃、250℃若しくは350℃の3つの異なる温度での処理についての結果を与える。実施例2の選択された試料:EX0120、EX0126並びにEX0160を調べた。
【0113】
XPSは限定された侵入深さをもつ表面に敏感な技術である。実施例9において、発現する下層のLiF界面はポリマー表面によってマスクされ、該ポリマーが分解した高いT試料においてのみ検出することができた。本実施例において、残っているPVDFを除いて下層のLiF層をよりはっきりと可視化するために洗浄工程が適用された。
【0114】
試料EX0120、EX0126並びにEX0160を以下の手順を用いて洗浄した:
1) 5gを20mLのNMP中で1時間振とうした;
2) 40mLのアセトンで希釈した;
3) 2回デカントし、乾燥した。
【0115】
ポリマーはNMP及びアセトンに可溶であるがLiFは実際には不溶であるため、我々は、ポリマーは除かれ下層のLiFはXPS分析ができると考えた。
【0116】
C、F及びLiのスペクトルの結果を、表10にまとめた。
図14aは150℃における、14bは250℃における、そして14cは350℃におけるF1sスペクトルを示す。1秒あたりのカウント(CPS)を結合エネルギー(eV
)に対してプロットした。
【0117】
【表11】
【0118】
表10の結論:
1 C 1s:
1.1 CF2−CF2ピークが無いことに基づき、我々はPVDFのほとんどは溶媒洗浄によって除かれたと結論付けることができる。特にT=350℃においてPVDFは観測されなかった(完全な分解並びにLiFへの転換のため)。
1.2 289.7eVでのCO3ピークにより粒子表面において観測されたLi2CO3。Li2CO3の除去と温度の上昇との直接的な関連はLiFへ転換されたPVDFによって説明される。この方法において、該粒子の表面に存在するLi2CO3はLiの源として使用される。
2 F 1s:
2.1 温度の上昇と共に増加するLiF層の形成は、684.7eVでの典型的なLiFピークの増加によってはっきりと示される(図13を見よ)。
2.2 LiFの形成は、この形成中のLi2CO3の使用を示すLi2CO3の減少と直接的に関係した。
3 Li 1s:
3.1 温度が上がりより多くのLiFが形成されたとき、1に近づいてゆくLi+/LiF比の減少。これは、350℃においてLiFの形成は完了し、表面の全てのLiはLiFとして存在することをはっきりと示す。250℃においては、いまだにLi2CO3のような他のLi化学種がいくらか少量存在する。150℃においては、前記の他のLi化学種が主に存在し、LiFはほとんど無かった。
【0119】
LiFの厚さ:
LiFの厚さの計算は、ジャーナル オブ バキュームサイエンス アンド テクノロジーズA 2005,23(5),1456−1470(Journal of Vacuum Science and Technologies A,23(5) 1456−1470(2005))においてファン デル マレル(van der Marel)らによって述べられたように、移動距離の関数としてのその光電子強度の標準指数関数型減弱に基づく。本試料の層構造は以下のとおりであった:バルクMnOx、CoOx、NiOx、−CO3中のC及びLi+rest/Li及びLiF/有機CにおけるF−、有機F及びO−org、そしてLiFは均質な層を形成した。
【0120】
LiFの厚さは温度に応じて増加した:150℃では、たった0.2nmの初期の薄い層が形成された。250℃では、LiFの厚さはそれの最大限の厚さにほとんど達し、1nm又はそれを上回った。350℃では、LiF層はそれの最大限の厚さに達し、PVDFは完全に消費された。これらの結果は、フルオル(Fluor)イオンクロマトグラフィーから得られた厚さと同程度であった。実施例10は、十分に高い温度(その融点を約5
0℃上回る)において、ポリマーは表面塩基との反応を開始し、表面塩基を消費し置き換えることによって保護LiFフィルムが形成されることの強い証拠を与える。
【0121】
実施例1から10の結果に基づき、効果的なLiFフィルムは、少なくとも0.5nm(>200℃での推定された値)、好ましくは0.8nm(>225℃での推定された値)の厚さを有さなければならないと結論付けることができた。
【0122】
本発明は、以下の条項によって代わりに記述されることができる:
1.再充電可能な電池で使用するためのリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該粉末の一次粒子の表面は第一内側層と第二外側層で被覆され、該第二外側層はフッ素含有ポリマーを含み、そして該第一内側層は該フッ素含有ポリマーと該一次粒子表面との反応生成物から成る。
【0123】
2.条項1のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、その反応生成物がLiFであり、リチウムは一次粒子の表面を発源とする。
【0124】
3.条項2のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、その反応生成物LiF中のフッ素は外側層に存在する部分的に分解したフッ素含有ポリマーを発源とする。
【0125】
4.条項1乃至条項3の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、そのフッ素含有ポリマーはPVDF、PVDF−HFP、及びPTFEから成る群から選択される。
【0126】
5.条項1乃至条項4の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、そのフッ素含有ポリマーは約0.2μm乃至0.5μmの平均粒子サイズを有し凝集している一次粒子から成る。
【0127】
6.条項1乃至条項5の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該リチウム遷移金属酸化物は
LiCodMeO2(ここで、MはMg及びTiの何れか一方又は両方であり、e<0.02であってd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物であってM′の少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiから成る群から選択され、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6、mはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1であり、M″はAl、Mg、及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCのどちらか一方又は両方から成る)
から成る群から選択される。
【0128】
7.条項6のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)であるもの。
【0129】
8.条項7のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、ここで0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1であるもの。
【0130】
9.条項1乃至条項8の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも0.5nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0131】
10.条項1乃至条項9の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも0.8nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0132】
11.条項1乃至条項10の何れか一項のリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記第一内側層は少なくとも1nmの厚さをもつLiFフィルムから成る。
【0133】
12.リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆う方法であって、該方法は、むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末を準備する工程と、
そのむき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有ポリマーと混合し、粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
その粉末−ポリマー混合物を、該フッ素含有ポリマーの融解温度の少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度において加熱し、それによって、該金属酸化物粉末の表面上に、該フッ素含有ポリマーから成る外側層と、該粉末表面と該ポリマーとの反応生成物から成る内側層から成る二層コーティングが形成される工程を含む。
【0134】
13.条項12に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量は0.1質量%乃至2質量%である方法。
【0135】
14.条項12又は条項13の何れか一項に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物中のフッ素含有ポリマーの量は0.2質量%乃至1質量%である方法。
【0136】
15.条項12又は条項13に記載の方法であって、前記内側層はLiFから成る方法。
【0137】
16.条項12乃至条項15の何れか一項に記載の方法であって、前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は220℃乃至325℃の温度で少なくとも1時間加熱される方法。
【0138】
17.条項12乃至条項15の何れか一項に記載の方法であって、前記フッ素含有ポリマーはPVDFであり、そして前記の粉末−ポリマー混合物は240℃乃至275℃の温度で加熱される方法。
【0139】
18.条項12乃至条項17の何れか一項に記載の方法であって、前記リチウム遷移金属酸化物は
LiCodMeO2(ここで、MはMgとTiの何れか一方又は両方であり、e<0.02でありd+e=1である)、
Li1+aM′1−aO2±bM1kSm(ここで、−0.03<a<0.06、b<0.02であり、M′は遷移金属化合物であって、M′の少なくとも95%はNi、Mn、Co、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、M1はCa、Sr、Y、La、Ce及びZrの群の中の一つ以上の元素から成り、質量%で0≦k≦0.1、そして0≦m≦0.6でありmはmol%で表される)、及び
Lia′NixCoyM″zO2±eAf(ここで、0.9<a′<1.1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05そして0.9<(x+y+z+f)<1.1、M″はAl、Mg及びTiの群の中の一つ以上の元素から成り、AはS及びCのどちらか一方又は両方から成る)
の何れか一つである方法。
【0140】
19.条項18に記載の方法であって、M′=Nia″Mnb″Coc″(ここで、a″>0、b″>0、c″>0そしてa″+b″+c″=1、そしてa″/b″>1である)である方法。
【0141】
20.条項19に記載の方法であって、0.5≦a″≦0.7、0.1<c″<0.35、そしてa″+b″+c″=1である方法。
【0142】
21.条項12乃至条項20の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも0.5nmの厚さを有する方法。
【0143】
22.条項12乃至条項21の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも0.8nmの厚さを有する方法。
【0144】
23.条項12乃至条項22の何れか一項に記載の方法であって、前記内側層は少なくとも1nmの厚さを有する方法。
【0145】
24.二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、表面を有する一次粒子を含み、該一次粒子の表面は内側及び外側層で被覆される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0146】
25.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記外側層はフッ素含有ポリマーを含んでいる二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0147】
26.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記内側層はフッ素含有ポリマーと一次粒子表面との反応生成物を含んでいる二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0148】
27.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記一次粒子の表面は完全に被覆されている二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0149】
28.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記一次粒子はリチウム遷移金属酸化物粉末の沈殿と焼成の後に形成される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0150】
29.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、さらに二次粒子を含み、前記一次及び前記二次粒子はどちらも被覆されている二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0151】
30.条項29の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、前記二次粒子が形成される前に前記一次粒子は形成される二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末。
【0152】
31.リチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有二層コーティングで覆うための方法であって、該方法は
むき出しのリチウム遷移金属酸化物粉末をフッ素含有ポリマーと混合して粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
該粉末−ポリマー混合物を加熱し、二層コーティングが該金属酸化物粉末の表面上に形成される工程を含む。
【0153】
32.条項31に記載の方法であって、前記二層コーティングは外側層と内側層を含む方法。
【0154】
33.条項31に記載の方法であって、前記外側層は前記フッ素含有ポリマーを含む方法。
【0155】
34.条項31に記載の方法であって、前記内側層は前記粉末表面と前記ポリマーとの反応生成物を含む方法。
【0156】
35.条項31に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物が、前記フッ素含有ポリマーの融解温度を少なくとも50℃乃至高くとも140℃上回る温度で加熱される方法。
【0157】
36.条項31に記載の方法であって、前記の粉末−ポリマー混合物の加熱が、条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末を形成する方法。
【0158】
37.条項24の二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末であって、該二重シェルコアリチウム遷移金属酸化物粉末はリチウムイオン角形又はポリマー電池において利用される。
【0159】
38.LNMO/LNOカソード材料であって、LNMO/LNOコアを含む一次LNMO/LNO粒子を含み、該コアは、フッ化物含有ポリマーと該フッ化物含有ポリマーと接触している部分的に分解したポリマー基質によって覆われている、LNMO/LNOカソード材料。
【0160】
39.条項38のLNMO/LNOカソード材料であって、前記フッ化物含有ポリマーはLiFであるLNMO/LNOカソード材料。
【0161】
40.条項38のLNMO/LNOカソード材料であって、その一次LNMO/LNO粒子の表面はカーボンフリーであるLNMO/LNOカソード材料。
【0162】
41.二重シェル被覆されたLNMO/LNOカソード材料を形成する方法であって、該方法は
LNMO/LNO粉末材料をフッ素含有ポリマーと混ぜ合わせ粉末−ポリマー混合物を形成する工程と、
該粉末−ポリマー混合物を該フッ素含有ポリマーの融点を上回る温度まで加熱する工程と、
該フッ素含有ポリマーを該LNMO/LNO粉末材料と反応させる工程と、
該LNMO/LNO粉末材料上に二層コーティングを形成する工程を含む。
【0163】
具体的な実施態様及び/又は本発明の詳細は、本発明の原理の応用を解説するために上で示され述べられた一方、この発明は、請求項および条項においてより詳細に記述されたように具体化され得、若しくは他に、そのような原理から逸脱せずに、当業者(あらゆる同等の者を含む)によって知られると理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0226810(A1)号明細書
【特許文献2】特開2003−142093号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0194747(A1)号明細書
【特許文献4】米国特許第7585589号明細書
【非特許文献】
【0165】
【非特許文献1】クログネクら,ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサイエティー 156(5) A349−A355(2009)(Croguennec et. al., Journal of The Electrochemical Society, 156(5)A349−A355(2009))
【非特許文献2】ファン デル マレルら,ジャーナル オブ バキュームサイエンス アンド テクノロジーズA 2005,23(5),1456−1470(van der Marel et al., Journal of Vacuum Science and Technologies A 2005,23(5),1456−1470)
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2013−510392(P2013−510392A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537313(P2012−537313)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006351
【国際公開番号】WO2011/054440
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(502270497)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006351
【国際公開番号】WO2011/054440
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(502270497)
【Fターム(参考)】
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