説明

二重化線路による光通信切替システム及び方法

【課題】本発明の課題は、通信光の二重化時に生じる光干渉雑音を低減させる二重化線路による光通信切替システムを提供することにある。
【解決手段】本発明は、所内伝送装置(送信機)1と所外終端装置(受信機)6との間に第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4を接続して二重化線路を形成し、第2の光通信線路(迂回線路)4の中に前記通信光の光周波数を変化させる光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を具備するものであって、光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を用いて前記二重化線路の各々を伝播してくる前記通信光が合波されたときに生じるビート干渉の周波数成分を所外終端装置(受信機)6の受信帯域外となる高周波側に移して通信信号の劣化を抑制することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信線路として第1の光通信線路(現用線路)および第2の光通信線路(迂回線路)による二重化線路を備える光通信切替システム及び方法に係り、通信光の二重化によって生じる通信信号品質の劣化を低減し、伝送論理リンクを継続させながら通信サービスを途絶させることなく現用線路の信号を迂回線路に移し替える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
経済的な光通信システムを構築するため、一台の所内伝送装置によって複数の所外伝送終端装置を集約するPON(Passive Optical Network)システムが提案されたことで(例えば、特許文献1参照。)、通信設備のコストが大幅に削減され、光化の動きが本格化している。また、高密度波長多重や高密度時分割多重などの伝送容量の拡大により、映像や光電話等のようなリアルタイム性を要求されるサービスや付加価値の高いサービスも普及している。
【0003】
従来、所外の光線路設備に対して、道路の拡幅工事や橋の架け替え工事、あるいは他の設備工事(電気や水道などの新設や修理)によって、通信ルートの変更を余儀なく強いられるケースがしばしば発生している(以後、支障移転工事と称する)。このような状況において、上記のようなサービスを支える通信設備に支障移転工事が発生した場合、一度に多くのトラフィックを停止させる工事となることから、多くのユーザヘの影響は計り知れない。その影響を小さくするために工事時期を分けたり、トラフィック量の小さい時間帯、例えば、深夜から早朝に切替工事を実施したりするなど、効率性に欠ける設備運用がなされてきた。
【0004】
このような状況の中、光線路の切替接続時間をできる限り短縮させ、通信復旧時間を短くするためのツールが商用化された(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、本システムをもってしても光線路の一時的な切り離しや、現用線路と迂回線路との線路長の違い(伝送信号の到達時間差)によって、伝送データの欠落や伝送論理リンクのミスマッチを回避することはできていない。
【0005】
また、光線路設備構築時に伝達ルートを二重化し、伝送装置からこの2つのルートに対して現用信号を予め提供し、切替接続時間をほとんどゼロにした切替を実行しても、線路長の違いによって、伝送論理リンクのミスマッチを避けられないという問題があった(例えば、特許文献3、4参照。)。
【0006】
いずれにしても、このような媒体切替の技術的限界を考慮して、ユーザヘの影響(サービス劣化)を最小限に食い止めるように工事期間を分散させ、深夜作業をより一層長期化することは避けられない状況に変化はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−102710号公報
【特許文献2】特許第3573606号公報
【特許文献3】特開平5−252548号公報
【特許文献4】特開平10−117168号公報
【特許文献5】特開2009−253884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のケーブル切替工事では、サービスが一時的に停止するため、サービス利用者の意向を考慮した工事日時等の調整が行われてきた。しかしながら、PONシステムに代表されるように、支障移転工事によって一度に多くの利用者がサービス停止となるような通信方式では、工事日時の調整は非常に困難である。その結果、支障移転工事は計画性に欠け、工事期間の長期化を余儀なくさせられている。なお、SS網(single Star Network)システムのような単数のユーザであったとしてもサービス停止が、極めて困難な専用回線では、その状況はPONシステムと変わりはない。
【0009】
上記の事情に鑑みて、線路長(光路長)の等しい二重化線路を作成し、伝送信号の位相を合わせることによってデータの欠落や伝送論理リンクのミスマッチを回避させている(例えば、特許文献5参照。)。これにより、サービスを停止させない支障移転工事を可能にしている。しかしながら、この方法では通信光を二重化する際に生じる光干渉雑音が通信品質を低下させるという問題がある。
【0010】
本発明では、通信光の二重化時に生じる光干渉雑音を低減させる二重化線路による光通信切替システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、第1の光伝送装置(送信機)と第2の光伝送装置(受信機)との間に信号伝達時間の等しい第1の光通信線路とは別の第2の光通信線路を接続して二重化線路を形成し、一時的に通信光を重畳しながら前記第1の光通信線路と前記第2の光通信線路のいずれかを選択していく光通信切替システムであって、前記第2の光通信線路の中に前記通信光の光周波数を変化させる光周波数変換器もしくは波長変換器を具備し、前記光周波数変換器もしくは波長変換器を用いて前記二重化線路の各々を伝播してくる前記通信光が合波されたときに生じるビート干渉の周波数成分を前記第2の光伝送装置の受信帯域外となる高周波側に移して通信信号の劣化を抑制することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、二重化線路の片方を伝播する通信光の光周波数を、もう片方を伝播する通信光の光周波数とは異なる成分に変換し、それらが合波したときに生じる光周波数差成分のビート干渉雑音を光伝送装置(受信機)が応答できない高周波域まで移すことによって、通信信号の符号誤りの劣化を抑制させている。これによって、信頼性の高い光通信線路の切替工事が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る二重化線路による光通信切替システムを示す構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るビート干渉を伴う二重化通信光波形を示すイメージ図である。
【図3】本発明の実施形態に係るビート干渉を伴う二重化通信光のレベル変動を示すイメージ図である。
【図4】本発明の実施形態に係る二重化通信光のレベル変動低減を示すイメージ図である。
【図5】本発明の実施形態に係る二重化線路による光通信切替システムの検証実験系を示す構成説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る二重化しない通信光のアイダイアグラム(ディスプレイ上に表示した中間画像)である。
【図7】本発明の実施形態による対策前の通信光における変化を示すアイダイアグラムである。
【図8】本発明の実施形態に係る対策後の二重化通信光を示すアイダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る二重化線路による光通信切替システムを示す構成説明図である。図1において、1は例えば送信機等の第1の光伝送装置である所内伝送装置、2、2’は光カプラ、3は第1の光通信線路(現用線路)、4は第2の光通信線路(迂回線路)、5は光周波数変換器(もしくは波長変換器)、6は例えば受信機等の第2の光伝送装置である所外終端装置である。
【0015】
図1において、所内伝送装置(送信機)1の出力端は光カプラ2の入力端に接続され、光カプラ2の一方の出力端は第1の光通信線路(現用線路)3を介して光カプラ2′の一方の入力端に接続される。光カプラ2の他方の出力端は第2の光通信線路(迂回線路)4及び光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を介して光カプラ2′の他方の入力端に接続され、光カプラ2′の出力端は所外終端装置(受信機)6の入力端に接続される。
【0016】
すなわち、所内伝送装置(送信機)1と所外終端装置(受信機)6との間に信号伝達時間の等しい第1の光通信線路(現用線路)3とは別の第2の光通信線路(迂回線路)4を接続して二重化線路を形成し、一時的に通信光を重畳しながら前記第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4のいずれかを選択していく光通信切替システムにおいて、前記第2の光通信線路(迂回線路)4の中に前記通信光の光周波数を変化させる光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を具備するものであって、前記光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を用いて前記二重化線路の各々を伝播してくる前記通信光が合波されたときに生じるビート干渉の周波数成分を前記所外終端装置(受信機)6の受信帯域外となる高周波側に移して通信信号の劣化を抑制することを特徴とする。
【0017】
所内伝送装置(送信機)1から送出された通信光が二重化線路で第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4に分岐された後、再び合波されたとき、二重化線路の各々を伝播してきた通信光にはわずかながら到達時間に差をもって所外終端装置(受信機)6に入力されるため、通信光のもつ光周波数差がビート干渉雑音として発生する。
【0018】
そこで、前記第2の光通信線路(迂回線路)4の中に設置した光周波数変換器(もしくは波長変換器)5によって、当該第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播する通信光の光周波数を前記第1の光通信線路(現用線路)3を伝播する通信光の光周波数とは異なる成分に変換し、それらが合波したときに生じる光周波数差成分のビート干渉雑音を所外終端装置(受信機)6が応答できない高周波域まで移して通信信号の劣化を抑制させている。
【0019】
次に、図1及び図2を用いて、二重化線路による光通信切替システムにおけるビート干渉雑音低減の考え方を説明する。
【0020】
図1に示すように、所内伝送装置(送信機)1から送出された通信光が、第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4から構成されるマッハ・ツェンダ型の二重化線路を通過するとき、その光路長差ΔL(=Δt・c/n)に応じたビート干渉雑音を伴いながら受光される。これは、所内伝送装置(送信機)1からの通信光が直接強度変調されたビットパルスであり、当該通信光の光周波数がチャープしているためである。つまり、このチャープされた通信光が前記二重化線路を通過して合波されたとき、その光路長差ΔLが原因で異なる光周波数成分の通信光同士が重なるため、その差周波数成分Δωのビート干渉が発生するものである。
【0021】
図2はその時の様子、即ち、二重化線路を伝播してきた各通信光ビットパルス(1ビット)のパワーと光周波数、およびビート干渉波形をイメージしたものである。図2において、7は現用側通信光のビットパルス、8は迂回側通信光のビットパルス、9は現用側通信光の周波数チャープ曲線、10は迂回側通信光の周波数チャープ曲線、11はビート干渉波形、12は光周波数差(Δω)である。
【0022】
いま、光カプラ2によって分岐され、第1の光通信線路(現用線路)3を伝播する通信光φと、第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播する通信光φとを各々平面波で近似すると、式(1)と式(2)によって表される。
φ{L,ω(L)}=A・exp[−i{k・n・L−ω(L)・t+φ}]……………式(1)
φ{L,ω(L)}=B・exp[−i{k・n・L−ω(L)・t+φ}]……………式(2)
【0023】
とLは第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4の光路長、ω(L)とω(L)は光路長LとLにおける光周波数、AとBは振幅、kは真空中の波数、nはコアの屈折率、φは初期位相である。
【0024】
ここで、所外終端装置(受信機)6で測定される電流値Iは、上記通信光φとφを重ね合わせた干渉波の2乗に比例することから、式(3)により表される。但し、光−電気の変換効率を1とし、合波時の偏波結合効率もビート干渉が最も大きくなることを想定して1と仮定する。
I=|φ+φ|……………式(3)
【0025】
*は複素共役を表す。式(1)と式(2)を式(3)に代入すると、次の式(4)が得られる。
I=|A|+|B|+2・|A|・|B|・cos(k・n・ΔL−Δω・t)……式(4)
但し、ΔL=L−L、Δω=ω(L)−ω(L)である。
【0026】
ここで、図2からわかるように光路長差がない場合(ΔL=0)、合波される通信光の周波数もまた一致し、光周波数差Δω=0となることから、式(4)の第3項のcos(cosine)部が“1”となり、電流値Iから交流成分がなくなる。つまり、電流値Iが一定値となることが期待される。
【0027】
しかしながら、通信線路の長さが周囲の温度環境によって伸縮することや、例え光路長差が完全に一致(ΔL=0)したとしても通信光源の周波数に揺らぎがあることを考えれば、式(4)から交流成分(ビート干渉項)がなくなることは、現実的にはあり得ない。従って、本発明の実施形態では光路長差ΔLなどの理由でビート干渉が発生することを前提に、その干渉雑音の低減対策を施している。
【0028】
式(4)から分かるように、ビート干渉を表わす第3項(cos部)の周波数を所外終端装置(受信機)6の受信帯域より大きくする、即ち、高周波状態に移すことによってビート干渉雑音度を低減せることが可能になる。
【0029】
いま、図1に示すように第2の光通信線路(迂回線路)4の途中に光周波数変換器(もしくは波長変換器)5を設置し、前記通信光φの光周波数をΩだけシフトさせる。この時の通信光をφとすると、式(5)で表される。
φ{L,ω(L)}=B・exp〔−i[k’・n・L−{ω(L)+Ω}・t+φ]〕……………式(5)
【0030】
’は光周波数をΩだけシフトさせた後の波数であり、次の式(6)で表される。
’=2πc/(cλ+λ・Ω)……………式(6)
【0031】
λは通信光φの波長、cは光速である。式(1)、式(5)、式(6)を式(3)に代入すると、前記通信光φとφの重ね合わせによって生じる電流値Iは、次の式(7)で与えられる。
I=|A|+|B|+2・|A|・|B|・sin{(k・L−k’・L)・n−(Δω+Ω)・t}……………式(7)
【0032】
式(7)を用いて、第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播する通信光φの光周波数をΩだけシフトする場合(φ)としない場合(φ)との合波通信光の電流値Iについて計算する。本計算では、図1における第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播する通信光φとφの振幅が同じで(|A|=|B|=1)、光路長はほぼ一致したと仮定した(ΔL=2mmと設定)。
【0033】
また、1.25Gbpsの所内伝送装置(送信機)1から送出される通信光(ビットパルス)の光周波数のチャープ量は、一般的に伝送速度あたり数GHz程度であることから、2GHz/0.8ns(=2GHz/160mm)とし、上記光路長差ΔL=2mmで生じる光周波数差Δωには0.025GHzを用いた。
【0034】
その結果を図3に示す。図3(a)は、光周波数変換器(もしくは波長変換器)5によって通信光φの光周波数をシフトさせない場合(Ω=0GHz)、図3(b)は、4.25GHzだけシフトさせた場合の二重化通信光のレベル変動の様子を表している。図3(a),(b)からわかるように光周波数シフトの有無に係わらずビート干渉が発生し、最小レベルは、いずれもゼロである。但し、ビート干渉波形の周波数は、図3(a)では、Δω(=0.025GHz)による長周期のレベル変化であるのに対して、図3(b)は光周波数シフトΩ(=4.25GHz)が支配要因となり、短周期のレベル変化となっている。
【0035】
次に、上述のビート干渉波形を所外終端装置(受信機)6が約2GHzの帯域で受信する場合の電流値Iのレベル変動イメージを図4に示す。13は光周波数シフト(Ω=0GHz)前のビート干渉波形、14は光周波数シフト(Ω=4.25GHz)後のビート干渉波形である。
【0036】
光周波数をシフトしないビート干渉波形13は(Δω=0.025GHz)、所外終端装置(受信機)6の受信帯域(2GHz)内にあることから、図3(a)のビート干渉波形をよく再現し、通信光の最低レベルはゼロのままである。
【0037】
一方、光周波数をΩだけシフトしたビート干渉波形14は(Δω+Ω=4.28GHz)、所外終端装置(受信機)6の受信帯域(2GHz)から外れるため、即ち、当該所外終端装置(受信機)6の応答速度がビート干渉の周波数より遅いため、平均化された波形として測定される。従って、通信光の最低レベルがゼロとはならず、通信光φとφの振幅(|A|=|B|=1)の合計である2に近づいている。
【0038】
以上、二重化線路の片方に光周波数変換器もしくは波長変換器を設け、合波された通信光のビート干渉の周波数が所外終端装置(受信機)6の受信帯域を超えるように設計することによって、通信光のレベル変動(ビート干渉雑音)を低減できる。なお、図4のビート干渉波形14から明らかなように、光周波数変換器(もしくは波長変換器)5の光周波数シフト量を更に大きくすることで、通信光のレベル変動(ビート干渉雑音)が一層小さくなることは言うまでもない。
【実施例1】
【0039】
図5は本発明における二重化線路による光通信切替システムの検証実験系である。図5中、図1と同一部分は同一符号を付して説明する。図5において、17はパルスパターン発生器、18は光レベル調整器、19は偏波制御器、20はO/E(光/電気)変換器、21はオシロスコープである。
【0040】
すなわち、所内伝送装置(送信機)1から送出された通信光を光カプラ2によって、第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4に分け、光カプラ2’で再び合波し、O/E変換器20で受光しオシロスコープ21で電圧値として測定する。
【0041】
この時、第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播してくる通信光(φ[L,ω(t)])は、当該線路4の途上にある光周波数変換器(もしくは波長変換器)5によって光周波数をΩだけシフトさせられ(φ[L,ω(t)+Ω])、当該通信光φと第1の光通信線路(現用線路)3を伝播してくる通信光(φ[L,ω(t)])と合波させる。
【0042】
ここで、光レベル調整器18は第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4を伝播する通信光のレベルを調節している。また、偏波制御器19は第1の光通信線路(現用線路)3の通信光(φ[L,ω(t) ])と第2の光通信線路(迂回線路)4の通信光(φ[L,ω(t)+Ω])の偏波面を一致させている。これらは、二重化された通信光のビート干渉(レベル変動)の振幅を最大にし、通信品質を最も低下させた状態にするために使用している。
【0043】
いま、第1の光通信線路(現用線路)3と第2の光通信線路(迂回線路)4の光路長差ΔLを2mm以内に一致させ、光レベル調整器18で各線路の通信光のレベル差を1dB以内に調整すると同時に、偏波制御器19によって各線路からの通信光の偏波面を一致させながら上記の二重化線路による光通信切替システムにおけるビート干渉雑音低減の考え方の効果を検証した。
【0044】
まず、図6は、第1の光通信線路(現用線路)3のみを伝播する二重化しない通信光(φ[L,ω(t)])のアイダイアグラムである。本アイダイアグラムは明瞭に、かつ、安定して開いており、所外終端装置(受信機)6では通信品質のよいディジタル信号として受信されることになる。
【0045】
次に、図7(a)〜(d)は、本発明の実施形態の対策(光周波数変換)前の二重化通信光のアイダイアグラムの変化を示す。本図からわかるように、ディジタル信号の品質を表すアイダイアグラムの状態がレベル変動を引き起こし、図7(d)においてはアイダイアグラムの目が完全に塞がった状態、即ち、ディジタル信号が消失するまでに至っている。これは、ディジタル信号を構成する通信光φとφが合波後に大きなレベル変動(ビート雑音)が発生しているためで、周期的に図7(a)〜(d)のレベル変動を繰り返している。このようにレベル変動(ビート雑音)を含むディジタル信号は、所外終端装置(受信機)6でのディジタル信号受信時において、符号“1”と“0”を判定する閾値に対して誤りを引き起こすことになり、結果として通信品質が劣化する。
【0046】
一方、図8は本発明の実施形態の対策(光周波数変換)後の二重化通信光のアイダイアグラムである。この場合、本発明の実施形態の対策前に確認された二重化通信光のレベル変動は全く消失し、アイダイアグラムの目を塞ぐことはなかった。なお、二重化通信光の上部にはO/E変換器20の受信帯域(2GHz程度)に検知されるビート干渉がいくらか現れているが、二重化しない通信光のアイダイアグラム(図6)の形状を維持していることが分かる。これにより、所外終端装置(受信機)6でのディジタル信号受信時において、符号“1”と“0”判定に誤りがなくなり、結果として良好な通信品質を維持することができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…所内伝送装置、2、2’…光カプラ、3…第1の光通信線路(現用線路)、4…第2の光通信線路(迂回線路)、5…光周波数変換器(もしくは波長変換器)、6…所外終端装置、17…パルスパターン発生器、18…光レベル調整器、19…偏波制御器、20…O/E(光/電気)変換器、21…オシロスコープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光伝送装置と第2の光伝送装置との間に第1の光通信線路と第2の光通信線路を接続して二重化線路を形成し、一時的に通信光を重畳しながら前記第1の光通信線路と前記第2の光通信線路のいずれかを選択していく光通信切替システムにおいて、
前記第2の光通信線路の中に前記通信光の光周波数を変化させる光周波数変換器もしくは波長変換器を具備し、
前記光周波数変換器もしくは波長変換器を用いて前記二重化線路の各々を伝播してくる前記通信光が合波されたときに生じるビート干渉の周波数成分を前記第2の光伝送装置の受信帯域外となる高周波側に移すことを特徴とする二重化線路による光通信切替システム。
【請求項2】
第1の光伝送装置と第2の光伝送装置との間に信号伝達時間の等しい第1の光通信線路と第2の光通信線路を接続して二重化線路を形成し、一時的に通信光を重畳しながら前記第1の光通信線路と前記第2の光通信線路のいずれかを選択していく光通信切替方法において、
前記第2の光通信線路の中に設けた前記通信光の光周波数を変化させる光周波数変換器もしくは波長変換器を用いて前記二重化線路の各々を伝播してくる前記通信光が合波されたときに生じるビート干渉の周波数成分を前記第2の光伝送装置の受信帯域外となる高周波側に移して通信信号の劣化を抑制することを特徴とする二重化線路による光通信切替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182256(P2011−182256A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45691(P2010−45691)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】