説明

二重特異性四価抗原結合タンパク質

本発明は、二重特異性四価の抗原結合タンパク質、それらの製造のための方法、該抗体を含有してなる薬学的組成物、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性四価抗原結合タンパク質、それらの製造のための方法、該抗体を含有する薬学的組成物、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2つ以上の抗原に結合することが可能である二重又は多重特異性抗体等の操作されたタンパク質が、当技術分野で知られている。このような多重特異性結合タンパク質は、細胞融合、化学的結合、又は組換えDNA技術を使用して生成されることが可能である。
【0003】
幅広い種類の組換え多重特異性抗体のフォーマットが近年開発されて来ており、例えば、IgG抗体フォーマット及び単鎖ドメインの融合による四価二重特異性抗体等である(例えば、Coloma, M.J.等, Nature Biotech. 15 (1997) 159-163;国際公開第2001/077342号; 及びMorrison, S.L., Nature Biotech. 25 (2007) 1233-1234を参照)。
【0004】
また、抗体のコア構造(IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM)がもはや保たれていない、二以上の抗原に結合することが可能である例えばダイア、トリア、又はテトラボディ、ミニボディ、幾つかの単鎖フォーマット(scFv、Bis-scFv)等の幾つかの他の新しいフォーマットが開発されて来た(Holliger, P.等, Nature Biotech. 23 (2005) 1126-1136; Fischer, N., and Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14; Shen, J.等, J. Immunol. Methods 318 (2007) 65-74; Wu, C.等, Nature Biotech. 25 (2007) 1290-1297)。
【0005】
全てのこのようなフォーマットは、抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM)を更なる結合タンパク質(例えば、scFv)に融合させるか、又は例えば2つのFab断片又はscFvを融合するためにリンカーを使用する(Fischer, N., and Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14)。リンカーが、二重特異性抗体の操作に利点を有するのは明らかである一方、それらは治療設定に問題も引き起こす。実際、これらの外来ペプチドは、リンカー自体又はタンパク質とリンカーとの間の接合部に対して免疫反応を誘発し得る。更には、これらのペプチドの可動性がそれらにタンパク質切断をより起こさせ易くさせ、潜在的に、乏しい抗体の安定性、凝集、及び増加された免疫原性へと導く。更に、例えば、自然に生じる抗体に対して高度の類似性を保つことによりFc部に仲介される、補体依存性細胞傷害(CDC)又は抗体依存性細胞傷害(ADCC)等のエフェクター機能を保持したい場合もあり得る。
【0006】
従って、理想では、ヒト配列から最小の逸脱である、自然に生じる抗体(IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM等)に一般的な構造が非常に類似した二重特異性抗体を開発することを目的とする。
【0007】
一アプローチでは、天然の抗体に非常に類似する二重特異性抗体は、二重特異性抗体の所望する特異性を有するネズミモノクローナル抗体を発現する2種の異なったハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づいて、クアドローマ技術(Milstein, C, and Cuello, A.C., Nature 305 (1983) 537-40を参照のこと)を用いて生成されて来た。得られるハイブリッド-ハイブリドーマ(又はクアドローマ)内の2種の異なった抗体重及び軽鎖のランダム対合のために、10種までの異なった抗体種(そのうち1つのみが所望の機能的二重特異性抗体である)が生成される。誤って対合された副産物の存在及び有意に低められた生成収率のために、高度な精製方法が必要とされる(Morrison, S. L., Nature Biotech 25 (2007) 1233-1234を参照のこと)。一般的に、誤って対合された副産物の同じ問題が、組換え発現技法が使用される場合、残存する。
【0008】
「ノブ-インツゥ-ホール(knobs-into-holes)」として知られている、誤って対合された副産物の問題を回避するためのアプローチは、CH3ドメイン中に変異を導入し接合面を変性することにより、2種の異なった抗体重鎖の対合を強制することを目的とする。1つの鎖上の嵩のあるアミノ酸が、「ホール」を作るために、短い側鎖を有するアミノ酸により置換された。反対に、大きな側鎖を有するアミノ酸が、「ノブ」を創造するために、他のCH3ドメイン中に導入された。それらの2種の重鎖(及び両重鎖のために適切であるべきである2種の同一の軽鎖)を同時発現することにより、高い収率のヘテロ二量体の形成(「ノブ-インツゥ-ホール」)対ホモ二量体形成(「ホール-ホール」又は「ノブ-ノブ」)が観察された(Ridgway, J.B.等, Protein Eng. 9 (1996) 617-621;及び国際公開第96/027011号)。ヘテロ二量体の割合は、ファージ表示アプローチを用いて2種のCH3ドメインの相互作用表面の改造、及びヘテロ二量体を安定化するためのジスルフィド架橋の導入により、さらに高められ得た(Merchant, A.M.等, Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; Atwell, S.等, J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)。ノブ-インツゥ-ホール技法のための新しいアプローチは例えば、欧州特許出願公開第1 870 459 A1号に記載されている。この形は非常に魅力的であるように思われるが、クリニックへの進行を記載するデータは現在入手できない。この方法の1つの重要な制限は、誤対合及び不活性分子の形成を防止するために2種の親抗体の軽鎖が同一でならなければならないことである。従って、この技法は、これらの抗体の重鎖及び/又は同一の軽鎖が最適化されなければならないため、第一及び第二抗原に対する2つの抗体から始まる2つの抗原に対する組み換え二重特異性抗体を容易に開発するために適切ではない。例えば、ヘテロ二量体の各重鎖のC末端に更なるFabフラグメント(それぞれは第一又は第二の抗原に結合する各抗体のFabフラグメントに同一である)を融合させることによって、二価の二重特異性抗体の代わりに四価の二重特異性抗体を発現させる場合にも、同様に誤対合の問題がある。(図2を参照)。
【0009】
国際公開第2006/093794号は、ヘテロ二量体タンパク質結合組成物に関する。国際公開第99/37791号は、多目的抗体誘導体を記載する。Morrison, S.L.等, J. Immunol. 160 (1998) 2802-2808は、IgGの機能的特性に対する可変領域ドメインの交換の影響に言及している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、二重特異性四価の抗原結合タンパク質であって、
a)第一抗原に特異的に結合する第一抗体の修飾重鎖であって、その重鎖のC末端に更に該第一抗体のVH−CH1ドメインがそのN末端を介して融合している、第一抗体の修飾重鎖、
b)a)の第一抗体の2つの軽鎖、
c)第二抗原に特異的に結合する第二抗体の修飾重鎖であって、このときCH1ドメインが該第二抗体のCLドメインで置換されており、その重鎖のC末端に更に該第二抗体のVH−CLドメインがそのN末端を介して融合している、第二抗体の修飾重鎖、そして、
d)CLドメインが前記第二抗体のCH1ドメインによって置換されている、c)の第二抗体の2つの修飾軽鎖
を含んでなる二重特異性四価の抗原結合タンパク質を含む。
【0011】
本発明の更なる実施態様は、本発明による抗原結合タンパク質の調製方法において、
a)本発明による二重特異性抗原結合タンパク質をコードする核酸分子を含んでなるベクターを用いて宿主細胞を形質転換する工程、
b)前記抗体分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養する工程;及び
c)前記培養物から前記抗体分子を回収する工程
を含んでなる方法である。
【0012】
本発明の更なる実施態様は、本発明に係る抗原結合タンパク質をコードする核酸分子を含むベクターを含んでなる宿主細胞である。
【0013】
本発明の更なる実施態様は、本発明に係る抗原結合タンパク質及び少なくとも一の薬学的に許容可能な賦形剤を含有する薬学的組成物である。
【0014】
本発明の更なる実施態様は、治療上有効な量の本発明に係る抗原結合タンパク質を患者に投与することを特徴とする、治療を必要としている患者の治療方法である。
【0015】
本発明によると、所望されない副生産物に対する所望の二重特異性四価抗原結合タンパク質の割合は、c)の下で修飾重鎖のCLドメインとCH1を、d)の下で対応する2つの修飾軽鎖を置換させることによって改善することができる。このようにして、(bの)第一抗原をいずれも特異的に結合する抗体の軽鎖の、第二抗原をいずれも特異的に結合する抗体の(cの)修飾抗体重差の間違ったVH−CH1ドメインとの所望されない誤対合を低減することができる。同様にd)の修飾軽鎖のa)の重鎖との誤対合も低減することができる。(これらの修飾がなく誤対合がある図2と、これらのCH1−CL置換(又は交換)があり誤対合のない図3を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】典型的な順序で可変及び定常ドメインを含む2対の重鎖及び軽鎖を有する、第一抗原1に特異的に結合するCH4ドメインを持たない完全長抗体の模式的構造図。
【図2】第一抗原1と第二抗原2とに結合し、ドメインが置換していない、二重特異性四価抗体の収率を低減する例示的な望ましくない副産物を生じさせる、(4つのうち)2つの起こりうる誤対合の模式的構造図。
【図3】本発明に係る二重特異性四価の抗原結合タンパク質の模式的構造図−誤対合は、第二抗原に特異的に結合する抗体の重鎖と軽鎖のCH1及びCLドメインの置換により低減する。
【図4】ノブおよびホールを有する本発明に係る例示的な二重特異性四価の抗原結合タンパク質の模式的構造図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の詳細な説明)
本発明は、二重特異性四価の抗原結合タンパク質であって、
a)第一抗原に特異的に結合する第一抗体の修飾重鎖であって、その重鎖のC末端に更に該第一抗体のVH−CH1ドメインがそのN末端を介して融合している、第一抗体の修飾重鎖、
b)a)の第一抗体の2つの軽鎖、
c)第二抗原に特異的に結合する第二抗体の修飾重鎖であって、このときCH1ドメインが該第二抗体のCLドメインで置換されており、その重鎖のC末端に更に該第二抗体のVH−CLドメインがそのN末端へペプチドコネクターを介して融合している、第二抗体の修飾重鎖、そして、
d)CLドメインが前記第二抗体のCH1ドメインによって置換されている、c)の第二抗体の2つの修飾軽鎖
を含んでなる二重特異性四価の抗原結合タンパク質を含む。
【0018】
本発明によると、所望されない副生産物(抗体の軽鎖の間違った抗体重鎖との誤対合によるもの)に対する所望の二重特異性四価抗原結合タンパク質の割合は、c)の下で修飾重鎖のCLドメインとCH1を、d)の下で対応する2つの修飾軽鎖を置換させることによって改善することができる。この文脈での誤対合は、i)第一抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖b)の、第二抗原に特異的に結合する抗体の修飾重鎖との会合、又はii)第二抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖b)の、第一抗原に特異的に結合する抗体の修飾重鎖との会合であって図2を参照)、望ましくない不活性又は不完全な機能的副産物を生じさせるものを意味する。
【0019】
本発明の更なる態様では、所望されない副産物と比較した、所望される二重特異性四価抗体のこのような改善された比率は、第一及び第二の抗原に特異的に結合する前記抗体のCH3ドメインの修飾によって更に改善さすることができる。
【0020】
従って、本発明の好ましい一実施態様では、本発明に係る前記二重特異性四価の抗原結合タンパク質の(a)及びc)の修飾された重鎖中の)CH3ドメインは、例えば、国際公開第96/027011号, Ridgway, J.B.等, Protein Eng. 9 (1996) 617-621;及びMerchant, A.M.等, Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681に幾つかの実施例と共に詳細に記載されている「ノブ-インツゥ-ホール」技術によって変更することができる。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面が、これら2つのCH3ドメインを含む両重鎖のヘテロ二量体化を増加するために変更される。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインの各々は、「ノブ」であり得、他方は「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入が、ヘテロ二量体を更に安定化し(Merchant, A.M.等, Nature Biotech. 16 (1998) 677-681;Atwell, S.等, J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収率を増大させる。
【0021】
従って、本発明の一態様では、前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、
a)の抗体の修飾された重鎖のCH3ドメイン及びb)の抗体の修飾された重鎖のCH3ドメイン各々が、抗体CH3ドメイン間のオリジナルの界面を含む界面に接し;
該界面は、二重特異性四価抗原結合タンパク質の形成を促進するよう変更され、該変更は、
i)一方の重鎖のCH3ドメインが変更され、
二重特異性四価抗原結合タンパク質内における、他方の重鎖のCH3ドメインのオリジナルの界面に接する一方の重鎖のCH3ドメインのオリジナルの界面内において、
アミノ酸残基がより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換され、これにより一方の重鎖のCH3ドメインの界面内に隆起が生じ、他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空洞に位置することが可能となり、
また
ii)他方の重鎖のCH3ドメインが変更され、
二重特異性四価抗原結合タンパク質内における、第一のCH3ドメインのオリジナルの界面に接する第二のCH3ドメインのオリジナルの界面内において、
アミノ酸残基がより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換され、これにより第二のCH3ドメインの界面内に空洞が生じ、その中に第一のCH3ドメインの界面内の隆起が位置することが可能となる、
ことを特徴とする変更であることを更に特徴とする。
【0022】
好ましくは、より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)から成る群から選択される。
【0023】
好ましくは、より小さい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)から成る群から選択される。
【0024】
本発明の一態様では、両CH3ドメイン間にジスルフィド架橋が形成できるように、各CH3ドメインの該当する位置におけるアミノ酸としてのシステイン(C)の導入によって、両CH3ドメインが更に変更される。
【0025】
好ましい一実施態様では、前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V変異を含む。CH3ドメイン間の更なる鎖間ジスルフィド架橋も使用することができ(Merchant, A.M.等, Nature Biotech. 16 (1998) 677-681)、例えば、「ノブ鎖」又は「ホール鎖」のCH3ドメインにY349C変異、及び他方の鎖のCH3ドメインにE356C変異又はS354C変異を導入することによって可能である。従って、別の好ましい実施態様では、前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、2つのCH3ドメインの内一方にS354C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内の他方にY349C、T366S、L368A、Y407V変異を含み、又は前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、2つのCH3ドメインの内一方にE356C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内の他方にY349C、T366S、L368A、Y407V変異を含み、又は前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、2つのCH3ドメインの内一方にY349C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内他方にE356C、T366S、L368A、Y407V変異を含み、又は前記二重特異性四価抗原結合タンパク質は、2つのCH3ドメインの内一方にY349C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内他方にS354C、T366S、L368A、Y407V変異を含む(一方のCH3ドメインの更なるY349C変異、及び他方のCH3ドメインの更なるE356C又はS354C変異が鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(番号付けは常にカバットのEUインデックスに従う)。しかしまた、欧州特許出願公開第1870459A1号に記載されるような他のノブ-インツゥ-ホール技術を、代わりに又は追加で使用することができる。前記三重特異性又は四重特異性抗体の好ましい実施例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異である(番号付けは常にカバットのEUインデックスに従う)。
【0026】
別の好ましい実施態様では、前記三重特異性又は四重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V変異、及び追加として「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0027】
別の好ましい実施態様では、三重特異性又は四重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの内一方にY349C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内他方にS354C、T366S、L368A、Y407V変異を含み、又は前記三重特異性又は四重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの内一方にY349C、T366W変異、及び2つのCH3ドメインの内他方にS354C、T366S、L368A、Y407V変異、及び更に、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370EW変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0028】
ここで使用する「抗体」なる用語は、2つの重鎖及び2つの軽鎖から成る完全長抗体を意味する(図1を参照)。完全長抗体の重鎖は、抗体のN末端からC末端への方向で、VH-CH1-HR-CH2-CH3として省略される、重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、及び抗体重鎖定常ドメイン3(CH3);及び場合によっては、サブクラスIgEの抗体の場合に抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)から成る。好ましくは、完全長抗体の重鎖は、N末端からC末端への方向で、VH、CH1、HR、CH2、及びCH3から成るポリペプチドである。完全長抗体の軽鎖は、抗体のN末端からC末端への方向で、VL-CLとして省略される、軽鎖可変ドメイン(VL)、及び抗体軽鎖定常ドメイン(CL)から成るポリペプチドである。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)は、κ(カッパ)又はλ(ラムダ)が可能である。抗体鎖は、CLドメイン及びCH1ドメイン間(つまり、軽及び重鎖間)、及び完全長抗体重鎖のヒンジ領域間の、ポリペプチド間ジスルフィド結合によって共につながれている。典型的な完全長抗体の例は、IgG(例えばIgG1及びIgG2)、IgM、IgA、IgD、及びIgEの様な天然の抗体である。本発明による抗体は、例えばヒト等の単一の種からであり得、又はキメラ化又はヒト化抗体であり得る。本発明による完全長抗体は、一対のVH及びVLによって各々形成される2つの抗原結合部位を含み、両者は同じ(第一)抗原に特異的に結合する。前記完全長抗体の重又は軽鎖のC末端は、前記重又は軽鎖のC末端の最後のアミノ酸を意味する。前記抗体は、重鎖のVH及びCH1ドメインと軽鎖のVL及びCLドメインから成る2つの同一なFabフラグメントを含む(図1を参照)。
【0029】
本発明に係る抗原結合タンパク質において、第二抗原に特異的に結合する第二抗体のCH1およびCLドメインは互いに置換されており、d)の下に修飾軽鎖と、c)の下に修飾抗体重鎖とを生じ、該重鎖のC末端に更に該抗体(第二抗原に特異的に結合するもの)のVH−CLドメインがそのN末端にペプチドコネクターを介して融合している。
【0030】
前記抗体(第一抗原に特異的に結合するもの)の「VH-CH1ドメイン」は、NからC末端方向の前記抗体のVHおよびCH1ドメインを指す。前記抗体(第二抗原に特異的に結合するもの)の「VH−CCLドメイン」は、NからC末端方向の前記抗体のVHおよびCH1ドメインを指す。
【0031】
本発明内で使用される「ペプチドコネクター」なる用語は、好ましくは合成起点(synthetic origin)の、アミノ酸配列を有するペプチドを意味する。本発明によるこれらのペプチドコネクターは、抗原結合ペプチドを完全長及び/又は修飾完全長抗体鎖のC又はN末端に融合し、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質を形成するために使用される。好ましくは、c)における前記ペプチドコネクターは、少なくとも5アミノ酸の長さ、好ましくは5から100の長さ、より好ましくは10から50アミノ酸であるアミノ酸配列を有するペプチドである。一実施態様では、前記ペプチドコネクターは、(GxS)n又は(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリン、及び(x=3、n=3、4、5、又は6、及びm=0、1、2、又は3)又は(x=4、n=2、3、4、又は5、及びm=0、1、2、又は3)、好ましくはx=4及びn=2又は3、より好ましくはx=4、n=2である。一実施態様では、前記ペプチドコネクターは(GS)である。
【0032】
ここで使用される「結合部位」又は「抗原結合部位」なる用語は、リガンド(例えば、抗原又はその抗原断片)が実際結合し、且つ抗体分子又はその断片(例えば、Fabフラグメント)から得られる本発明に係る抗原結合タンパク質の領域を意味する。本発明に係る抗原結合部位は、所望の抗原に特異的に結合する抗体ないし抗体フラグメントの、抗体重鎖可変ドメイン(VH)及び抗体軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0033】
所望の抗原に特異的に結合する抗原結合部位(すなわち、VH/VLの対)は、a)該抗原に対する既知の抗体から、又はb)特に抗原タンパク質又は核酸又はその断片の何れかを使用したデノボ免疫法によって、又はファージディスプレイによって得られる新規な抗体又は抗体断片から得られる。
【0034】
本発明の抗原結合タンパク質の抗原結合部位は、6つの相補決定領域(CDR)を含み、これらは抗原に対する結合部位の親和性の程度の変化に貢献する。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2、及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2、及びCDRL3)がある。CDR及びフレームワーク領域(FR)の範囲は、配列での多様性によって該領域が決定されたアミノ酸配列の蓄積データベースと比較することによって決定される。
【0035】
抗体特異性は、抗原の特定のエピトープに対する抗体又は抗原結合タンパク質の選択的認識を意味する。天然抗体は、例えば単一特異性である。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。抗体が一を超える特異性を有する場合は、認識されるエピトープは、単一抗原又は一を超える抗原に関連し得る。
【0036】
ここで使用される「単一特異性」抗体又は抗原結合タンパク質なる用語は、各々が同じ抗原の同じエピトープに結合する一又は複数の結合部位を有する抗原結合タンパク質を意味する。
【0037】
本出願内で使用される「価」なる用語は、抗体分子における特定の数の結合部位の存在を意味する。例として天然抗体又は本発明による完全長抗体は、2つの結合部位を有し2価である。「4価」なる用語は、抗原結合タンパク質において4つの結合部位の存在を意味する。ここで使用される「二重特異性、四価」なる用語は、2つが第一抗原に結合し2つが第二抗原(又は抗原の別のエピトープ)に結合する4つの抗原結合部位を有する、本発明に係る抗原結合タンパク質を意味する。本発明の抗原結合タンパク質は、4つの結合部位を有し、四価である。
【0038】
本発明の完全長抗体は、一又は複数の免疫グロブリンクラスの、免疫グロブリン定常領域を含む。免疫グロブリンクラスは、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEアイソタイプ、及びIgG及びIgAの場合はそれらのサブタイプを含む。好ましい実施態様では、本発明の完全長抗体は、IgG型抗体の定常ドメイン構造を有する。
【0039】
ここで使用される「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」なる用語は、単一のアミノ酸組成物の抗体又は抗体又は抗原結合タンパク質分子の調製物を意味する。
【0040】
「キメラ抗体」なる用語は、1つの源又は種からの可変領域、すなわち結合領域と、異なる源又は種に由来する定常領域の少なくとも一部とを含んでなる抗体を意味し、通常組換えDNA法により調製される。ネズミ可変領域及びヒト定常領域を含んで成るキメラ抗体が好ましい。本発明により包含される他の形の「キメラ抗体」は、定常領域が、本発明の性質を生成するために修飾されているか又は元の抗体のその領域から変更されているものであって、特にはC1q結合及び/又はFc受容体(FcR)結合に関する。そのようなキメラ抗体はまた、「クラス-スイッチ抗体」とも称される。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメント、及び免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含んで成る、発現された免疫グロブリン遺伝子の生産物である。キメラ抗体を生成するための方法は一般的な組換えDNAを含み、遺伝子トランスフェクション技術は当該分野において良く知られている。例えば、Morrison, S.L.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855、米国特許第5202238号及び米国特許第5204244号を参照のこと。
【0041】
「ヒト化抗体」なる用語は、そのフレームワーク又は「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンのCDRに比較して、異なった特異性の免疫グロブリンのCDRを含んで成るよう修飾されている抗体を意味する。好ましい態様においては、ネズミCDRは、「ヒト化抗体」を調製するために、ヒト抗体のフレームワーク領域中に移植される。例えば、Riechmann, L.等, Nature 332 (1988) 323-327;及びNeuberger, M.S.等, Nature 314 (1985) 268-270を参照のこと。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について上記の抗原を認識する配列を表すものに対応する。本発明により包含される他の形の「キメラ抗体」は、定常領域が、本発明の性質を生成するために修飾されているか又は元の抗体のその領域から変更されているものであって、特にはC1q結合及び/又はFc受容体(FcR)結合に関する。
【0042】
「ヒト抗体」なる用語は、本明細書において使用される場合、ヒト生殖系免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を包含することを意図する。ヒト抗体は当技術分野の水準において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体はまた、トランスジェニック(遺伝子導入)動物(例えば、マウス)においても生成され得り、これは、内因性免疫グロブリンを生産することなく、免疫化に基づいてヒト抗体の完全なレパートリー又はセレクションを生産することが可能である。そのような生殖系変異体マウスにおけるヒト生殖系免疫グロブリン遺伝子アレイのトランスファーは、抗原チャレンジおいてヒト抗体の生成をもたらすであろう(例えば、Jakobovits, A.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A.等, Nature 362 (1993) 255-258; Bruggemann, M.等, Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照のこと)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーにおいても生成され得る(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D.等, J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole等及びBoerner等の技法はまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のためにも利用できる(Cole, S., P., C.等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77-96 (1985); 及び Boerner, P.等, J. Immunol. 147 (1991)86-95)。本発明のキメラ及びヒト化抗体についてすでに言及されたように、用語「ヒト抗体」とは、本明細書において使用される場合、本発明による特性を生成するために定常領域において修飾されたこのような抗体を含み、特にC1q結合及び/又はFcR結合に関し、例えば「クラススイッチ」つまりFc部の変化又は変異による(例えば、IgG1からIgG4及び/又はIgG1/IgG4変異)。
【0043】
「組換えヒト抗体」なる用語は、本明細書において使用される場合、組換え手段によって調製、発現、製造、又は単離される全てのヒト抗体を含むことを意図し、例えば、NS0又はCHO細胞等の宿主細胞から又はヒト免疫グロブリン遺伝子トランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体、又は宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体等である。このような組換えヒト抗体は、再配列された形で可変及び定常領域を有する。本発明の組換えヒト抗体は、インビボで体細胞超変異に課された。従って、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系VH及びVL領域に由来しその配列に関連するが、インビボでヒト抗体生殖系レパートリー内に自然に存在することはないだろう。
【0044】
「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変領域(VH))は、本明細書において使用される場合、抗原への抗体の結合において直接関与する軽鎖及び重鎖の対の個々を示す。ヒト可変軽及び重鎖のドメインは、同じ一般構造を有し、そして個々のドメインは4つのフレームワーク(FR)領域を含んで成り、それらの配列は広く保存され、3つの「高頻度可変領域」(又は相補性決定領域、CDR)により結合される。フレームワーク領域は、βシートコンホメーションを採用し、そしてCDRはβシート構造体を結合するループを形成することができる。個々の鎖におけるCDRは、フレームワーク領域によりそれらの3次元構造を保持され、そして他の鎖からのCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体重及び軽鎖CDR3領域は、本発明の抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を演じ、そして従って、本発明のさらなる目的を提供する。
【0045】
「高頻度可変領域」又は「抗体の抗原結合部分」なる用語は、本明細書において使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を言及する。高頻度可変領域は「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含んで成る。「フレームワーク」又は「FR」領域は、本明細書において定義されるように高頻度可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン領域である。従って、抗体の軽鎖及び重鎖は、N-末端からC-末端の方に、ドメインFRl、CDRl、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。個々の鎖上のCDRはそのようなフレームワークアミノ酸により分離される。特に、重鎖のCDR3は、最も抗原結合に寄与する領域である。CDR及びFR領域は、Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準の定義に従って決定される。
【0046】
本明細書において使用される場合、「結合する」、「特異的に結合する」又は「に特異的に結合する」なる用語は、インビトロアッセイでの抗原のエピトープに対する抗体/抗原結合タンパク質の結合を意味し、好ましくは精製された野生型の抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)における。結合の親和性は、用語k(抗体/抗原複合体からの抗体(又は抗体又は抗原結合タンパク質)の結合に対する速度定数)、k(解離定数)、及びK(k/ka)によって定義される。結合する又は特異的に結合するとは、10-8mol/l以下、好ましくは10-9Mから10-13mol/lの結合親和性(K)を意味する。したがって、本発明による二重特異性四価抗原結合タンパク質は、各抗原に対して10-8mol/l以下、好ましくは10-9Mから10-13mol/lの結合親和性(K)で特異的に結合する。
【0047】
FcγRIII に対する抗体の結合は、BIAcoreアッセイ(GE-Healthcare Uppsala, Sweden)によって調べることが出来る。結合の親和性は、用語ka(抗体/抗原複合体からの抗体の結合に対する比率定数)、k(解離定数)、及びK(k/ka)によって定義される。
【0048】
「エピトープ」なる用語は、抗体に特異的に結合できるあらゆるポリペプチド決定基を包含する。ある実施態様においては、エピートープ決定基は、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニル等の分子の化学的活性表面群を包含し、ある実施態様においては、特定の三次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有し得る。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。
【0049】
ある実施態様では、抗体は、タンパク質及び/又は高分子の複合混合物においてその標的抗原を優先的に認識する場合、抗原を特異的に結合すると言われる。
【0050】
更なる実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、前記完全長抗体が、ヒトIgG1サブクラス、又は変異L234A及びL235Aを有するヒトIgG1サブクラスのものであることを特徴とする。
【0051】
更なる実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質体は、前記完全長抗体が、ヒトIgG2サブクラスのものであることを特徴とする。
【0052】
更なる実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、前記完全長抗体が、ヒトIgG3サブクラスのものであることを特徴とする。
【0053】
更なる実施態様では、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、前記完全長抗体が、ヒトIgG4サブクラス、又は追加変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラスのものであることを特徴とする。
【0054】
好ましくは、本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、前記完全長抗体が、ヒトIgG1サブクラス、追加変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラスのものであることを特徴とする。
【0055】
本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、例えば生物学的又は薬物学的活性、薬物動態特性、又は毒性等の改善された特性を持つことが現在分かっている。これらは、例えば癌などの疾病の治療のため等に使用されることが可能である。
【0056】
本出願内で使用される「定常領域」なる用語は、可変領域以外の抗体のドメインの合計を意味する。定常領域は、抗原の結合に直接は関与しないが、様々なエフェクター機能を示す。それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列によって、抗体はクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに分けられ、これらの内幾つかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、IgA1及びIgA2等のサブクラスに更に分けられる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常領域は、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。全5抗体クラスに見られる軽鎖定常領域(CL)はκ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0057】
本出願で使用される「ヒト由来の定常領域」なる用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域、及び/又は定常軽鎖カッパ又はラムダ領域を意味する。このような定常領域は、現状の当技術分野でよく知られており、また例えばKabat, E.A., (例えばJohnson, G.及びWu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218;Kabat, E.A.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975) 2785-2788を参照)によって記載されている。
【0058】
IgG4サブクラスの抗体は、低減されたFc受容体(FcγRIIIa)結合を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は強い結合を示す。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fc炭水化物の損失)、Pro329、Leu234、Leu235、Gly236、Gly237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434、及びHis435は、変更されれば、同様に低減されたFc受容体結合を提供する残基である(Shields, R.L.等, J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604;Lund, J.等, FASEB J. 9 (1995) 115-119;Morgan, A.等, Immunology 86 (1995) 319-324;欧州特許第0307434号)。
【0059】
一実施態様では、本発明による抗原結合タンパク質は、IgG1抗体と比較して低減されたFcR結合を持ち、完全長親抗体は、FcR結合においては、IgG4サブクラスのもの、又はS228、L234、L235及び/又はD265に変異を有するIgG1又はIgG2のものであり、及び/又はPVA236変異を有する。一実施態様では、完全長親抗体の変異は、S228P、L234A、L235A、L235E、及び/又はPVA236である。別の実施態様では、完全長親抗体の変異は、IgG4 S228P、及びIgG1 L234A及びL235Aにある。
【0060】
抗体の定常領域は、ADCC(抗体依存性細胞傷害)及びCDC(補体依存性細胞傷害)に直接関与する。補体活性(CDC)は、ほとんどのIgG抗体サブクラスの、定常領域への補体因子Clqの結合によって開始される。抗体へのClqの結合は、いわゆる結合部位での所定のタンパク質-タンパク質相互作用によって引き起こされる。このような定常領域結合部位は、現在の当該技術分野で周知であり、例えばLukas, T.J.等, J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Bunkhouse, R.及びCobra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton, D.R.等, Nature 288 (1980) 338-344; Thomason, J.E.等, Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idiocies, E.E.等, J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184; Hearer, M.等, J. Virol. 75 (2001) 12161-12168;Morgan, A.等, Immunology 86 (1995)319-324;及び欧州特許出願公開第0307434号等に記載されている。このような定常領域結合部位は、例えばアミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、及びP329(番号付けはカバットのEUインデックスに従う)によって特徴付けられる。
【0061】
「抗体依存性細胞傷害(ADCC)」なる用語は、エフェクター細胞の存在下における、本発明の抗原結合タンパク質によるヒト標的細胞の溶解を意味する。ADCCは、エフェクター細胞、例えば、新鮮に単離されたPBMC、又は単球もしくはナチュラルキラー(NK)細胞または持続的に増殖するNK細胞株のような、バフィーコートから精製されたエフェクター細胞等の存在下で、抗原発現細胞の調製物を本発明による抗原結合タンパク質で処理することによって測定される。
【0062】
「補体依存性傷害(CDC)」なる用語は、ほとんどのIgG抗体サブクラスの、Fc部への補体因子C1qの結合によって開始される過程を意味する。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位での、規定のタンパク質-タンパク質相互作用によって引き起こされる。このようなFc部結合部位は、現在の当該技術分野で知られている(上記参照)。このようなFc結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、及びP329によって特徴づけられる(番号付けはカバットのEUインデックスに従う)。サブクラスIgG1、IgG2、及びIgG3の抗体は通常C1q及びC3結合を含む補体活性を示すが、IgG4は、補体系を活性化せず、C1q及び/又はC3を結合しない。
【0063】
モノクローナル抗体の細胞媒介エフェクターの機能は、Umana, P.等, Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180;及び米国特許第6602684号に記載されるように、それらのオリゴ糖成分を操作することにより強化されることが出来る。最も一般的に使用される治療抗体であるIgG1型抗体は、各CH2ドメインのAsn297に、保存されたN結合型グリコシル化部位を有する糖タンパク質である。Asn297に結合した2つの複合二分岐型オリゴ糖はCH2ドメインの間に埋め込まれ、ポリペプチド骨格との広範な接触を形成し、またそれらの存在は抗体が抗体依存性細胞傷害(ADCC)等のエフェクター機能を仲介するために必須である(Lifely, M., R.等, Glycobiology 5 (1995) 813-822; Jefferis, R.等, Immunol. Rev. 163 (1998) 59-76; Wright, A., and Morrison, S.L., Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32). Umana, P.等, Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180及び国際公開第99/54342号は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞におけるβ(1、4)-N-アセチルグルコサミン転移酵素III(GnTIII)(バイセクト化オリゴ糖の形成を触媒するグリコシル転移酵素)の過剰発現が、インビトロでの抗体のADCC活性を顕著に上昇させることを示した。また、N297における糖質の構成の変更又はその除去は、FcγR及びC1qとの結合に影響する(Umana, P.等, Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180; Davies, J.等, Biotechnol. Bioeng. 74 (2001) 288-294; Mimura, Y.等, J. Biol. Chem. 276 (2001) 45539-45547; Radaev, S.等, J. Biol. Chem. 276 (2001) 16478-16483; Shields, R.L.等, J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604; Shields, R.L.等, J. Biol. Chem. 277 (2002) 26733-26740; Simmons, L.C.等, J. Immunol. Methods 263 (2002) 133-147)。
【0064】
モノクローナル抗体の細胞媒介エフェクター機能を増強させる方法は、例えば、国際公開第2005/018572号、国際公開第2006/116260号、国際公開第2006/114700号、国際公開第2004/065540号、国際公開第2005/011735号、国際公開第2005/027966号、国際公開第1997/028267号、米国特許第2006/0134709号、米国特許第2005/0054048号、米国特許第2005/0152894号、国際公開第2003/035835号、国際公開第2000/061739号に報告されている。
【0065】
本発明の一好ましい実施態様では、二重特異性抗原結合タンパク質は、(IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブクラス、好ましくはIgG1又はIgG3サブクラスのFc部を含む場合は)Asn297において糖鎖でグリコシル化され、これにより前記糖鎖内のフコースの量が65%またはそれ以下である(番号付けはカバットに従う)。別の実施態様では、前記糖鎖内のフコースの量は5%から65%の間であり、好ましくは20%から40%の間である。本発明による「Asn297」は、Fc領域における約位置297に位置するアミノ酸アスパラギンを意味する。抗体の小さい配列変異に基づき、Asn297は、位置297の数アミノ酸(通常は多くて±3アミノ酸)上流又は下流、つまり位置294と300の間に位置してもよい。一実施態様では、本発明によるグリコシル化抗原結合タンパク質は、IgGサブクラスは、ヒトIgG1サブクラス、変異L234A及びL235Aを有するヒトIgG1サブクラス、又はIgG3サブクラスのものである。更なる実施態様では、前記糖鎖内の、N-グリコリルノイラミン酸(NGNA)の量は1%もしくはそれ以下であり及び/又はN末端α-1,3-ガラクトースの量は1%もしくはそれ以下である。糖鎖は好ましくは、CHO細胞において組換えによって発現させた抗体のAsn297に結合したN結合型グリカンの特徴を示す。
【0066】
「糖鎖は、CHO細胞において組換えによって発現させた抗体のAsn297に結合したN結合型グリカンの特徴を示す」という用語は、本発明による完全長親抗体のAsn297における糖鎖が、フコース残基以外は、未改変CHO細胞において発現させた同じ抗体のもの、例えば国際公開第2006/103100号に報告されるものと同じ構造および糖残基配列を有するということを意味する。
【0067】
「NGNA」なる用語は、本出願内で使用される場合、糖残基N-グリコリルノイラミン酸を意味する。
【0068】
ヒトIgG1またはIgG3のグリコシル化は、フコシル化二分岐複合型コアオリゴ糖としてAsn297で発生し、その際、グリコシル化は最高2個のGal残基で終結する。IgG1又はIgG3サブクラスのヒト定常重鎖領域は、Kabat, E., A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991), and by Bruggemann, M.等, J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361; Love, T., W.等, Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527によって詳細に報告されている。これらの構造物は、末端Gal残基の量に応じて、G0、G1(α-1,6-もしくはα-1,3-)、又はG2グリカン残基と名付けられている(Raju, T., S., Bioprocess Int. 1 (2003) 44-53)。抗体Fc部分のCHO型グリコシル化は、例えば、Routier, F. H., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207によって説明されている。糖改変していない(non-glycomodified)CHO宿主細胞において組換えによって発現される抗体は、通常、少なくとも85%の量がAsn297においてフコシル化されている。完全長親抗体の修飾されたオリゴ糖は、ハイブリッド又は複合体であり得る。好ましくは、分岐型、還元/非グリコシル化オリゴ糖は、ハイブリッドである。別の実施態様では、分岐型、還元/非グリコシル化オリゴ糖は、複合体である。
【0069】
本発明によれば、「フコースの量」とはAsn297での糖鎖内の前記糖の量を意味し、Asn297に付着した全ての糖鎖構造物(例えば、複合体構造物、ハイブリッド構造物、及び高マンノース構造物等)の合計に関連し、MALDI-TOF質量分析法によって測定され、平均値として算出される。フコースの相対量は、MALDI-TOFによる、N-グリコシダーゼFで処理された試料において同定された全糖鎖構造物(例えば、それぞれ複合体構造物、ハイブリッド構造物、ならびにオリゴマンノース構造物、および高マンノース構造物)に関連するフコース含有構造物の割合である。
【0070】
本発明による抗原結合タンパク質は組換え手段によって生産される。このように、本発明の一態様は、本発明による抗原結合タンパク質をコードする核酸であり、更なる態様は、本発明による抗原結合タンパク質をコードする前記核酸を含んでなる細胞である。組換え生産の方法は当技術分野の水準(state of the art)において広く知られており、原核及び真核細胞におけるタンパク質の発現と続く抗原結合タンパク質の単離及び通常は薬物学的に許容可能な純度までの精製を含む。宿主細胞における前述した抗体の発現のために、それぞれ修飾された軽及び重鎖をコードする核酸が標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、又は大腸菌細胞等の適切な原核又は真核宿主細胞において発現が実施され、細胞(上清又は溶解後の細胞)から抗原結合タンパク質が回収される。抗体の組換え生産のための一般的な方法は当技術分野の水準において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S.等, Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880といった総説論文に記載されている。
【0071】
本発明による二重特異性抗原結合タンパク質は、一般的な免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどによって、培地から適宜分離される。モノクローナル抗体をコードするDNA又はRNAは、一般的な手順を用いて容易に単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNAの供給源として機能することができる。一度単離されると、DNAは発現ベクターに挿入され得、次いで他には免疫グロブリンタンパク質を生産さいない例えばHEK293細胞、CHO細胞、メラノーマ細胞等の宿主細胞にトランスフェクトされ、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成が得られる。
【0072】
二重特異性抗原結合タンパク質のアミノ酸配列変異体(又は変異)は、抗原結合タンパク質DNAに適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又はヌクレオチド合成によって調製される。このような修飾は実施されることが可能であるが、しかしながら、例えば上述のような非常に限定された範囲においてのみである。例えば、修飾は、IgGアイソタイプ及び抗原結合等の上述の抗体特性を変更しないが、組換え生産の収率、タンパク質安定を改善し得、又は精製を容易にし得る。
【0073】
本出願において使用される「宿主細胞」なる用語は、本発明による抗体を生成するよう操作されることが可能である細胞系の何れかの種を意味する。一実施態様では、HEK293細胞及びCHO細胞が宿主細胞として使用される。ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」、及び「細胞培養物」なる表現は互換的に使用され、全てのこのような指定は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」なる用語は転換の数に関係無く、一次対象細胞及びそれら由来の培養物を含む。また、全ての子孫細胞が、故意の又は偶発的な変異のためにDNA内容において正確に同一ではないかもしれないことが理解される。本来形質転換された細胞のためにスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を持つ変異体子孫細胞が含まれる。
【0074】
NS0細胞における発現は、例えばBarnes, L.M.等, Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M.等, Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270によって記載されている。一過性発現は、Durocher, Y.等, Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289; and Norderhaug, L.等, J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87によって記載されている。好ましい一過性発現システム(HEK 293)は、Schlaeger, E.-J., 及びChristensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83及びSchlaeger, E.-J., J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199によって記載されている。
【0075】
原核細胞に適したコントロール配列には、例えば、プロモーター、場合によってはオペレーター配列、及びリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、及びポリアデニル化シグナルを使用することが知られている。
【0076】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合、「作用可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、そのポリペプチドのDNAに機能的に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、そのコード配列に機能的に連結されており;又は、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に機能的に連結されている。一般に、「作用可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が近接していていること、分泌リーダーの場合は、近接し、且つリーディングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは近接していなくてもよい。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが、一般的な手法に従って使用される。
【0077】
抗体の精製は、細胞成分又は他の混入物、例えば他の細胞核酸又はタンパク質等を除去するために実施され、アルカリ/SDS法、CsCl分染法(CsCl banding)、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当該技術で周知の他の方法を含む標準技術によって実施される。例えばAusubel, F.等編 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照のこと。タンパク質精製のための異なる方法が確立されまた広く使用されており、例えば、微生物タンパク質を用いたアフィニティークロマトグラフィー(例えばタンパク質A又はタンパク質Gアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、及び混床式(mixed-mode)交換)、チオール基吸着(thiophilic adsorption)(例えばβメルカプトエタノール及び他のSHリガンドを用いて)、疎水性相互作用又は芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニル-セファロース、アザ-アレノフィリック樹脂、又はm-アミノフェニルボロン酸を用いて)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)-及びCu(II)-アフィニティー材料を用いる)、サイズ排除クロマトグラフィー、及び電気泳動法(ゲル電気泳動、キャピラリー泳動等)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)等である。
【0078】
本発明の一態様は、本発明による抗原結合タンパク質を含む薬学的組成物である。本発明の別の態様は、薬学的組成物を製造するための、本発明による抗原結合タンパク質の使用である。本発明の更なる態様は、本発明による抗原結合タンパク質を含有する薬学的組成物を製造するための方法である。別の態様では、本発明は、薬学的担体と合わせて製剤化された本発明に係る抗原結合タンパク質を含む組成物、例えば、薬学的組成物を提供する。
【0079】
本発明の別の態様は、癌の治療のための前記薬学的組成物である。
【0080】
本発明の一実施態様は、癌の治療のための本発明に係る二重特異性抗原結合タンパク質である。
【0081】
本発明の別の態様は、癌の治療のための医薬の製造のための本発明に係る抗原結合タンパク質の使用である。
【0082】
本発明の別の態様は、癌を患っている患者の治療の方法であって、このような治療を必要とする患者に本発明に係る抗原結合タンパク質を投与する方法である。
【0083】
ここで使用される場合、「薬学的担体」は、生理学的に適合性のある、ありとあらゆる溶剤、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、及び同様なもの含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与(例えば、注射又は注入による)に適したものである。
【0084】
本発明の組成物は当該技術知られる様々な様式によって投与されることができる。当業者によって理解されるように、投与のルート及び/又は方法は所望される結果によって様々であろう。投与の特定のルートによって本発明の化合物を投与するために、その不活性化を防止するための物質で化合物をコーティング、又は化合物と共に同時投与される必要があり得る。例えば、化合物はリポソーム又は希釈剤等の適切な担体において投与され得る。薬物学的に許容可能な希釈剤は、生理食塩水及び緩衝水溶液を含む。薬物学的担体は、滅菌水溶液又は分散系、及び滅菌注射用溶液又は分散系の即時調製のための滅菌パウダーを含む。薬物学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は当技術分野で公知である。
【0085】
「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は、本明細書において使用される場合、経腸及び局所の投与以外の投与様式を意味し、通常は注射によって、及び静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、及び胸骨内の注射および注入を含むが、これに限定されるものではない。
【0086】
癌なる用語は、ここで使用される場合、増殖性疾病を意味し、例えばリンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞(bronchioloalviolar)細胞肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、大腸癌、乳癌、子宮癌、卵管の癌、子宮内膜の癌、頸部の癌、膣の癌、外陰部の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、上皮小体癌、副腎癌、軟部組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓又は尿管癌、腎臓細胞癌、腎盂の癌、中皮腫、肝細胞性癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣腫(ependymonas)、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体性腺腫及びユーイング肉腫等であり、上記の癌の何れかの難治性のもの、又は上記の癌の一又は複数のの組合せを含む。
【0087】
本発明による組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などの補助剤も含んでよい。微生物の存在の防止は、上記の滅菌手順、及び例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、及びソルビン酸等の様々な抗菌及び抗真菌剤の含有両方によって徹底することが出来る。また、糖、塩化ナトリウム、及び同様なもの等張化剤を組成物中に含めることが望ましい場合もあり得る。更に、注射可能な薬剤形態の長期にわたる吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン等の吸収を遅延させる薬剤の含有によって実現され得る。
【0088】
選択された投与ルートに関わらず、適切な水和型で使用され得る本発明の化合物、及び/又は本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である一般的な方法によって薬学的に許容可能な剤形に製剤化される。
【0089】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性とならずに、個々の患者、組成物、及び投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効である活性成分の量を得るように変更することができる。選択される投薬量レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、治療の継続期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/又は材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的健康状態、及び以前の病歴、並びに医薬分野で周知である同様な要因を含む様々な薬物動態学的要因に依存すると考えられる。
【0090】
該組成物は、無菌であり、且つ、注射器によって組成物を送達可能である程度に流動性でなければならない。水に加えて、担体は好ましくは等張性の緩衝生理食塩水である。
【0091】
適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤の使用、分散系の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張化剤、例えば糖、マンニトール又はソルビトール等の多価アルコール、及び塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。
【0092】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養物」なる表現は互換的に使用され、全てのこのような指定は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」なる用語は転換の数に関係無く、一次対象細胞及びそれら由来の培養物を含む。また、全ての子孫細胞が、故意の又は偶発的な変異のためにDNA内容において正確に同一ではないかもしれないことが理解される。本来形質転換された細胞のためにスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を持つ変異体子孫細胞が含まれる。異なる指定が意図される場合は、文脈から明らかとなるであろう。
【0093】
「形質転換」なる用語は、本明細書において使用される場合、宿主細胞中へのベクター/核酸のトランスファー工程を言及する。強い細胞壁バリヤーを有さない細胞が宿主細胞として使用される場合、トランスフェクションが、例えばGraham及びVan der Eh, Virology 52 (1978) 546ffにより記載されるようなリン酸カルシウム沈殿方法等により実施される。しかしながら、核注入又はプロトプラスト融合等による細胞中へのDNAの導入のための他の方法がまた使用され得る。原核細胞、又は実質的な細胞壁構成を含む細胞が使用される場合、1つのトランスフェクション方法は、Cohen, S., N.等, PNAS 69 (1972) 2110-2114により記載されるような、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理法である。
【0094】
本明細書において使用される場合、「発現」とは、核酸がmRNAに転写される過程、及び/又は転写されたmRNA(また、転写物としても言及される)がその後ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に翻訳される過程を言及する。転写物及びコードされたポリペプチドは、集合的には、遺伝子生成物として言及される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを包含し得る。
【0095】
「ベクター」とは、挿入される核酸分子を、宿主細胞中に及び/又は宿主細胞間にトランスファーする、核酸分子、特に自己複製する核酸分子である。この用語は、DNA又はRNAの細胞中への挿入(例えば、染色体組込み)のために主に機能するベクター、DNA又はRNAの複製のために主に機能するベクターの複製、及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクターを包含する。一以上の記載されるような機能を提供するベクターもまた包含される。
【0096】
「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞中に導入される場合、転写され、そしてポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」とは、所望する発現生成物を生成するために機能することができる発現ベクターから構成される適切な宿主細胞を通常言及する。
【0097】
以下の実施例、配列リスト、及び図は本発明の理解を補助するために提供され、真の範囲は添付の請求の範囲に記載されている。発明の意図することから逸脱することなく、記載される手順において変更がなされてもよいことが理解される。
【0098】
配列表の説明
配列番号:1 <Ang-2>抗体VH-CH1ドメインがC末端融合した<Ang-2>抗体の修飾重鎖。
配列番号:2 無修飾軽鎖<Ang-2>抗体。
配列番号:3CH1−CL置換を有し、<VEGF>抗体のVH−CLドメインがC末端融合した、<VEGF>抗体の修飾重鎖。
配列番号:4CH1−CL置換を有する<VEGF>抗体の修飾軽鎖(<VEGF>抗体VL-CH1ドメイン)。
【実施例】
【0099】
材料及び一般方法
ヒト免疫グロブリン軽及び重鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は、Kabat, E.A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に与えられている。抗体鎖のアミノ酸はEU番号付けに従って、番号付けされまた言及される(Edelman, G.M.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85;Kabat, E.A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))。
【0100】
組換えDNA技法
標準的な方法がDNAを操作するために使用され、Sambrook, J.等, Molecular Cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載される。分子生物学的試薬が、製造業者の指示に従い使用される。
【0101】
遺伝子合成
所望する遺伝子セグメントを、化学合成により製造されたオリゴヌクレオチドから調製する。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位を両端に有する、遺伝子セグメントを、PCR増幅を包含するオリゴヌクレオチドのアニーリング及びライゲーションによりアセンブリーし、続いて、例えばKpnI/SacI又はAxI/PacI等の示された制限部位によって、pPCRスクリプト(Stratagene)に基づくpGA4クローニングベクター中にクローン化する。サブクローン化された遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定により確かめる。遺伝子合成断片を、Geneart (Regensburg, Germany)での得られる規格に従ってオーダーする。
【0102】
DNA配列決定
DNA配列を、MediGenomix GmbH(Martinsried, Germany) 又はSequiserve GmbH(Vaterstetten, Germany)で実施される二本鎖配列決定により決定する。
【0103】
DNA及びタンパク質配列分析及び配列データ管理
GCG (Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のsoftware package version 10.2及びInfomax'のVector NTl Advance suite version 8.0を、配列作製、マッピング、分析、アノテーション及び図解のために使用する。
【0104】
発現ベクター
所望の二重特異性四価抗体の発現のために、CMV-イントロンAプロモーター有り又は無しのcDNA構成又はCMVプロモーター有りのゲノム構成の何れかに基づく一過性発現(例えば、HEK293 EBNA又はHEK293-F)細胞に対する発現プラスミドの変異体が適用される。
抗体発現カセットの他に、ベクターは次のものを含んだ:
−大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にする複製の起点、及び
−大腸菌においてアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0105】
抗体遺伝子の転写ユニットは次の要素から構成される:
−5’末端のユニーク制限部位、
−ヒトサイトメガロウィルスからの最初期エンハンサー及びプロモーター、
−cDNA構成の場合、続くイントロンA配列、
−ヒト抗体遺伝子の5’-非翻訳領域、
−免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
−cDNAとしての又は免疫グロブリンエキソン-イントロン構成を有するゲノム構成としてのヒト二重特異性四価抗体鎖(野生型、又はドメイン交換を有する)、
−ポリアデニル化シグナル配列を有する3’未翻訳領域、及び
−3’末端のユニーク制限部位。
【0106】
下記に記載される所望の抗体鎖を含んで成る融合遺伝子を、PCR及び/又は遺伝子合成により生成し、例えばそれぞれのベクターにおける固有の制限部位を用いて、核酸セグメントの結合により、既知組換え方法及び技法によりアセンブリーした。サブクローン化された核酸配列を、DNA配列決定により確証する。一過性トランスフェクションのために、多量のプラスミドを、形質転換された大腸菌培養物(Nucleobond AX, Macherey-Nagel)からのプラスミド調製物により調製する。
【0107】
細胞培養技法
標準の細胞培養技法を、Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J.及びYamada, K.M. (編), John Wiley & Sons, Incに記載されるように使用する。
二重特異性四価抗体を、接着的に増殖するHEK293-EBNAにおける、又は下記のような懸濁液において増殖するHEK29-F細胞における、それぞれ3つの発現プラスミドの一過性同時トランスフェクションにより発現させる。
【0108】
HEK293-EBNAシステムにおける一過性トランスフェクション
二重特異性四価抗体を、10%極低(Ultra Low)IgG FCS(ウシ胎児血清, Gibco(登録商標))、2mML-グルタミン (Gibco(登録商標))及び250μg/mlジェネティシン(Gibco(登録商標))が補足されたDMEM(ダルベッコ変性イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)、Gibco(登録商標))において培養された、付着的に増殖するHEK293-EBNA細胞(エプスタイン-バールウィルス核抗原を発現するヒト胎児腎臓細胞系293;ATCC(American type culture collection)寄託番号CRL-10852、ロット959218)におけるそれぞれ3つの発現プラスミド(例えば、H鎖及び修飾されたH鎖、及びその対応するL鎖及び修飾されたL鎖をコードする)の一過性同時トランスフェクションにより発現させる。トランスフェクションのために、FuGENETM6トランスフェクション 試薬 (Roche Molecular Biochemicals)を、4:1(3:1〜6:1の範囲)のFuGENETM試薬(μl):DNA(μg)の比率で使用する。タンパク質を、それぞれ、1:1:1(等モル)(1:1:2〜2:2:1の範囲)のモル比の(修飾された及び野生型)L鎖コードのプラスミド:H鎖コードのプラスミドを用いて、それぞれのプラスミドから発現させる。細胞は、3日目に、Lグルタミン(4mM)、グルコース(Sigma)及びNAA(Gibco(登録商標))を供給する。二重特異性四価抗体含有細胞培養上清液を、遠心分離により、トランスフェクションの5〜11日後、収穫し、そして−20℃で貯蔵した。例えばHEK293細胞におけるヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は、Meissner, P.等, Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203に与えられる。
【0109】
HEK293-Fシステムにおける一過性トランスフェクション
他方では、二重特異性四価抗体を、HEK293-Fシステム(Invitrogen)を用いて、その製造業者の指示に従って、それぞれのプラスミド(例えば、H鎖及び修飾されたH鎖、及びその対応するL鎖及び修飾されたL鎖をコードする)の一過性トランスフェクションにより生成する。手短に言及すると、血清を有さないFreeStyleTM293発現培地(Invitrogen)を含む、振盪フラスコ又は撹拌された発酵器において増殖するHEK293-F細胞(Invitrogen)を、上記3つの発現プラスミド及び293フェクチンTM又はフェクチン(Invitrogen)の混合物によりトランスフェクトした。2Lの振盪フラスコ(Corning)に関しては、HEK293-F細胞を、600mlにおいて1.0E6個の細胞/mlの密度で播き、そして120rpm、8%CO2下でインキュベートする。この後、細胞を、A)修飾された重鎖、対応する軽鎖、及びその対応する修飾された軽鎖を等モル比でコードする全プラスミドDNA(1μg/ml)600μgを含むOpti-MEM(Invitrogen)20ml、及びB)20mlのOpti-MEM+1.2mlの293フェクチン又はフェクチン(2μl/ml)の混合物(約42ml)により、約1.5×E6個の細胞/mlの細胞密度でトランスフェクトする。グルコース消費に従って、グルコース溶液を、発酵の間、添加する。分泌された抗体を含む上清液を、5〜10日後、収穫し、そして抗体を上清液から直接的に精製するか、又は上清液を凍結し、そして貯蔵する。
【0110】
タンパク質決定
精製された二重特異性四価抗体及び誘導体のタンパク質濃度を、Pace,C.,N.等, Protein Science, 1995, 4, 2411-1423に従うアミノ酸配列に基づいて計算されたモル消衰係数を用いて、280nmでの光学密度(OD)を決定することにより決定する。
【0111】
上清における抗体濃度決定
細胞培養上清液における二重特異性四価抗体の濃度を、プロテインAアガロースビーズ(Roche)による免疫沈澱法により推定する。60μlのプロテインAアガロースビーズを、TBS-NP40(50mM Tris、pH7.5、150mM NaCl、1% Nonidet-P40)により3度、洗浄する。続いて、1〜15mlの細胞培養上清液を、TBS-NP40において予備-平衡化されたプロテインAアガロースビーズに適用する。室温での1時間のインキュベーションの後、ビーズを、Ultrafree-MC-filterカラム(Amicon)上で、0.5mlのTBS-NP40により1度、0.5mlの2×リン酸緩衝溶液(2×PBS、Roche)により、2度、及び0.5mlの100mMのクエン酸ナトリウム(pH5.0)により、すばやく4度、洗浄する。結合された抗体は、35μlのNuPAGE(商標)LDS サンプル緩衝液 (Invitrogen)の添加により溶出する。サンプルの半分を、それぞれNuPAGE(商標)サンプル還元剤と共に組合すか、又は末還元のままにし、そして70℃で10分間、加熱する。続いて、5−30μlを、4−12% NuPAGE(商標)Bis-Tris SDS-PAGE(Invitrogen)(還元されていないSDS-PAGEのためにはMOPS緩衝液、及び還元されたSDS-PAGEのためには、NuPAGE(商標) 抗酸化ランニング緩衝液添加剤(Invitrogen)と共にMES緩衝液を用いる)に適用し、そしてクーマシーブルーにより染色した。
【0112】
細胞培養上清液における二重特異性四価抗体の濃度を、親和性HPLCクロマトグラフィーにより定量的に測定する。手短に言及すると、プロテインAに結合する抗体及び誘導体を含む細胞培養上清液を、200mMのKH2PO4、100mMのクエン酸ナトリウム(pH7.4)を含むApplied Biosystems Poros A/20カラムに適用し、そしてAgilent HPLC1100システム上で、200mMのNaCl、100mMのクエン酸(pH2.5)によりマトリックスから溶出する。溶出されたタンパク質を、UV吸光度及びピーク領域の積分により定量化する。精製された標準のIgG1抗体が、標準として作用した。
【0113】
他方では、細胞培養上清液における二重特異性四価抗体の濃度を、Sandwich-IgG-ELISAにより測定する。手短に言及すれば、StreptaWell High Bind Strepatavidin A-96 ウエルマイクロタイタープレート (Roche)を、100μl/ウェルのビオチニル化された抗ヒトIgG捕獲分子F(ab’)2<h-Fcγ>BI(Dianova)により、0.1μg/mlで室温で1時間、又は他方では、4℃で一晩、被覆し、そして続いて、200μl/ウェルのPBS、0.05%Tween(PBST、Sigma)により3度、洗浄する。それぞれの抗体含有細胞培養上清液のPBS(Sigma)中、希釈溶液シリーズ100μlを、ウェル当たり添加し、そして室温でマイクロタイタープレートシェーカー上で1〜2時間インキュベートする。ウェルを、200μl/ウェルのPBSTにより3度、洗浄し、そして結合された抗体を、室温でマイクロタイタープレートシェーカー上で1〜2時間、検出抗体として、0.1μg/mlでの100μlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)により検出する。結合されなかった検出抗体を、200μl/ウェルのPBSTにより3度、洗浄し、そして結合された検出抗体を、100μlのABTS/ウェルの添加により検出する。吸光度の決定を、405nmの測定波長(492nmの参照波長)でTecan Fluor分光計上で実施する。
【0114】
タンパク質精製
タンパク質を、標準プロトコールに従って、濾過された細胞培養上清液から精製する。手短に言及すると、二重特異性四価抗体を、プロテインAセファロースカラム(GE healthcare)に適用し、そしてPBSにより洗浄する。二重特異性四価抗体の溶出を、pH2.8で達成し、続いてすぐに、サンプルを中和する。凝集されたタンパク質を、PBS又は20mMのヒスチジン、150mMのNaCl(pH6.0)中、サイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200, GE Healthcare)により、モノマー抗体から分離する。モノマー画分をプールし、必要なら、例えばMILLIPORE Amicon Ultra (30 MWCO)遠心分離濃縮機を用いて濃縮し、凍結し、そして−20℃〜−80℃で貯蔵する。サンプルの一部を、例えばSDS-PAGE、サイズ排除クロマトグラフィー又は質量分光法による、続くタンパク質の分析及び分析特徴化に用いる。
【0115】
SDS-PAGE
NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen)を、その製造業者の指示に従って使用する。特に、10%又は4〜12%のNuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis-TRIS Pre-Castゲル(pH6.4)及びNuPAGE(登録商標)MES(NuPAGE(登録商標)抗酸化剤ランニング緩衝液添加剤により還元されたゲル)又はMOPS(還元されていないゲル)ランニング緩衝液を使用する。
【0116】
分析用サイズ排除クロマトグラフィー
二重特異性四価抗体の凝集及びオリゴマー状態の決定のためのサイズ排除クロマトグラフィーを、HPLCクロマトグラフィーにより実施する。手短に言及すると、プロテインA精製された抗体を、Agilent HPLC 1100システム上、300mMのNaCl、50mMのKH2PO4/K2HPO4(pH7.5)中、Tosoh TSKgel G3000SWカラムに、又はDionex HPLC-システム上、2×PBS中、Superdex 200 カラム (GE Healthcare)に適用する。溶出されたタンパク質を、UV吸光度及びピーク領域の積分により定量化する。BioRad Gel Filtration Standard 151-1901を標準とした。
【0117】
質量分光法
二重特異性四価抗体の全体の脱グリコシル化された質量を、電子噴霧イオン化質量分析(ESI-MS)により、決定し、そして確かめる。手短に言及すると、100μgの精製された抗体を、100mMのKH2PO4/K2HPO4(pH7)中、50mUのN-Glycosidase F (PNGaseF, ProZyme)により、37℃で12〜24時間、2mg/mlまでのタンパク質濃度で脱グリコシル化し、そして続いてSephadex G25カラム(GE Healthcare)上、HPLCにより脱塩する。それぞれの修飾した重鎖、軽鎖及び修飾した軽鎖の質量を、脱グリコシル化及び還元の後、ESI-MSにより決定する。手短に言及すると、115μl中、50μgの二重特異性四価抗体を、60μlの1MのTCEP及び50μlの8Mのグアニジン塩酸塩と共にインキュベートし、続いて脱塩する。還元されたH及びL鎖の合計質量及び質量を、NanoMate源を備えたQ-Star Elite MSシステム上でESI-MSにより決定する。
【0118】
VEGF結合ELISA
二重特異性四価抗体の結合性質を、完全長VEGF165-Hisタンパク質(R&D Systems)によるELISAアッセイにおいて評価する。このために、ファルコンポリスチレン透明増強マイクロタイタープレートを、100μlのPBS中2μg/mL組換えヒトVEGF165(R&D Systems)にて室温で2時間又は4℃で終夜かけてコートする。ウェルを300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、200μlの2%BSA 0.1%ツイーン20にて室温で30分かけてブロックし、その後300μlのPBSTにて3回洗浄する。100μL/ウェルの精製した二重特異性四価抗体のPBSでの希釈物(Sigma)をウェルに加え、マイクロタイタープレート振とう器上で室温で1時間インキュベートする。ウェルは300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、結合した抗体は、100μL/ウェルの0.1μg/ml F(ab')<hFcgamma>POD (Immuno research)を含む2%BSA 0.1%ツイーン20を検出抗体として用いて、マイクロタイタープレート振とう器上で室温で1時間かけて検出する。結合していない検出抗体は300μL/ウェルのPBSTにて3回洗い流し、結合した検出抗体は100μLのABTS/ウェルを添加して検出する。吸光度の測定は、405nm(対照波長492nm)の測定値波長のTecanFluor分光計にて実行する。
【0119】
VEGF結合:表面プラスモン共鳴(Biacore)による37℃のVEGF結合の動態学的特徴づけ
ELISAの所見を更に確認するために、VEGFに対する二重特異性四価抗体の結合を、以下のプロトコールに従ってBiacoreT100機器による表面プラズモン共鳴技術を用いて定量的に分析し、T100ソフトウェアパッケージを用いて分析する。手短に言及すると、二重特異性四価抗体は、ヤギ抗ヒトIgG(JIR109−005−098)へ結合させてCM5-チップに捕捉する。捕捉抗体は、以下の通りに標準的なアミノカップリングを使用したアミノカップリングによって固定される。HBS-Nバッファをランニングバッファとして用い、700RUのリガンド密度となるようにEDC/NHSを混合して活性化する。捕捉-抗体はカップリングバッファNaAc、pH5.0、c=2μg/mLにて希釈し、最後に、また活性化されているカルボキシル基は1Mエタノールアミンを注入して遮断する。二重特異性四価<VEGF>抗体の捕捉は、ランニングバッファ+1mg/mL BSAにて希釈し、5μL/分及びc=10nMの流量で行う。およそ30RUの捕捉レベルになるようにする。rhVEGF(rhVEGF、R&D-Systems Cat.-No, 293-VE)を被分析物として用いる。二重特異性四価<VEGF>抗体に対するVEGF結合の動態学的特徴づけは、PBS+0.005%(v/v)ツイーン20をランニングバッファとして25℃又は37℃で実行する。試料は、50μL/分の流量、80秒の会合時間、1200秒の解離時間で、及び300− 0.29nMのrhVEGFの濃度シリーズを注入する。遊離捕捉抗体表面の再生は、各々の被分析物サイクルの後に10mMグリシンpH1.5および60秒の接触時間にて実施する。反応速度定数は、標準的なダブルレファレンス法を用いて算出する(コントロール対照:捕捉分子ヤギ抗ヒトIgGへのrhVEGFの結合、測定フローセル上のブランク、rhVEGF濃度「0」、モデル:ラングミュア結合1:1(Rmaxは捕捉分子結合のために局所に合わせる)。
【0120】
Ang-2結合ELISA
二重特異性四価抗体の結合性質を、完全長Ang-2-Hisタンパク質(R&D Systems)を用いたELISAアッセイにおいて評価する。このために、ファルコンポリスチレン透明増強マイクロタイタープレートを、100μlのPBS中1μg/mL組換えヒトAng−2(R&D Systems、キャリアフリー)にて室温で2時間又は4℃で終夜かけてコートする。ウェルを300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、200μlの2%BSA 0.1%ツイーン20にて室温で30分かけてブロックし、その後300μlのPBSTにて3回洗浄する。100μL/ウェルの精製した二重特異性四価抗体のPBSでの希釈物(Sigma)をウェルに加え、マイクロタイタープレート振とう器上で室温で1時間インキュベートする。ウェルは300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、結合した抗体は、100μL/ウェルの0.1μg/ml F(ab')<hk>POD (Biozol Cat.No. 206005)を含む2%BSA 0.1%ツイーン20を検出抗体として用いて、マイクロタイタープレート振とう器上で室温で1時間かけて検出する。結合していない検出抗体は300μL/ウェルのPBSTにて3回洗い流し、結合した検出抗体は100μLのABTS/ウェルを添加して検出する。吸光度の測定は、405nm(対照波長492nm)の測定値波長のTecanFluor分光計にて実行する。
【0121】
Ang-2結合BIACORE
ヒトAng-2に対する二重特異性四価抗体の結合は、BIACORE T100機器(GE Healthcare Biosciences AB, Uppsala, Sweden)を使用した表面プラスモン共鳴によって調査する。手短に言及すると、親和性の測定のために、ヤギ<hIgG-Fc>ポリクローナル抗体を、ヒトAng-2に対する二重特異性四価抗体の提示のためにアミンカップリングによりCM5チップに固定する。HBSバッファ(HBS−P(10mM HEPES、150mM NaCl、0.005%ツイーン20、pH7.4)中、25℃で、結合を測定した。様々な濃度の精製したAng-2-His(R&D systems又はインハウス精製)を溶液に加える。会合は3分のAng-2-注入によって測定し、解離は、HBSバッファにてチップ表面を3分間洗浄することによって測定し、KD値は1:1ラングミュア結合モデルを用いて推定する。Ang-2調製物が不均質であるため、1:1結合が観察されないこともある。ゆえに、KD値は単に相対的な評価である。ネガティブコントロールデータ(例えばバッファ曲線)は、系の内因性の基線変動の補正、及び、ノイズシグナルを低減するために試料曲線から減算する。BiacoreT100評価バージョン1.1.1を、センサーグラムの分析、及び、親和性データの計算のために用いる。別法として、Ang-2は、アミンカップリング(BSAフリー)によりCM5チップに固定されているペンタHis抗体(ペンタHis-Ab BSAフリー、Qiagen No. 34660)により、2000−1700RUの捕捉レベルで捕えることができる(下記参照)。
【0122】
Ang-2-VEGFブリッジングELISA
二重特異性四価抗体の結合性質を、結合した二重特異性抗体の検出のために固定した完全長VEGF165-Hisタンパク質(R&D Systems)およびヒトAng-2-Hisタンパク質(R&D Systems)を用いたELISAアッセイにおいて評価する。二重特異性四価<VEGF-Ang-2>抗体のみがVEGFおよびAng-2に同時に結合し2つの抗原を架橋することができるが、単一特異性「標準」IgG1抗体はVEGFおよびAng-2に同時に結合することができない(図7)。
このために、ファルコンポリスチレン透明増強マイクロタイタープレートを、100μlのPBS中2μg/mL組換えヒトVEGF165(R&D Systems)にて室温で2時間又は4℃で終夜かけてコートする。ウェルを300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、200μlの2%BSA 0.1%ツイーン20にて室温で30分かけてブロックし、その後300μlのPBSTにて3回洗浄する。100μL/ウェルの精製した二重特異性四価抗体のPBSでの希釈物(Sigma)をウェルに加え、マイクロタイタープレート振とう器上で室温で1時間インキュベートする。ウェルは300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、結合した抗体は、100μlの0.5μg/ml ヒトAng-2-His(R&D Systems)を含むPBSを加えて検出する。ウェルは300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗浄し、結合したAng-2は、100μlの0.5μg/ml <Ang-2>mIgG1-ビオチン抗体(BAM0981, R&D Systems)にて室温で1時間かけて検出する。結合していない検出抗体は、300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3回洗い流し、結合した抗体は、ブロッキングバッファにて1:4に希釈した100μlの1:2000ストレプトアビジン-PODコンジュゲート(Roche Diagnostics GmbH, Cat. No.11089153)を添加して室温で1時間かけて検出する。結合していないストレプトアビジン-PODコンジュゲートは300μlのPBST(0.2%ツイーン20)にて3−6回洗い流し、結合したストレプトアビジン-PODコンジュゲートは100μLのABTS/ウェルを添加して検出する。吸光度の測定は、405nm(対照波長492nm)の測定値波長のTecanFluor分光計にて実行する。
【0123】
VEGF−A及びAng-2に対する二重特異性四価抗体<VEGF-Ang-2>の同時結合のBiacoreによる証明
ブリッジングELISAのデータを更に確認するために、以下のプロトコールに従ってBiacoreT100機器による表面プラズモン共鳴技術を用いてVEGF及びAng-2への同時結合を確認するために更なるアッセイを確立し、T100ソフトウェアパッケージ(T100コントロール、バージョン2.01、T100評価、バージョン2.01、T100動態概要、バージョン1.01)を用いて分析する。Ang-2は、アミンカップリング(BSAフリー)によりCM5チップに固定されているペンタHis抗体(ペンタHis-Ab BSAフリー、Qiagen No. 34660)により、PBS, 0.005%(v/v)ツイーン20ランニングバッファ中2000−1700RUの捕捉レベルで捕えることができる。カップリングの間HBS-Nバッファをランニングバッファとして用い、EDC/NHSを混合して活性化する。ペンタHis-Ab BSAフリー捕捉-抗体はカップリングバッファNaAc、pH4.5、c=30μg/mLにて希釈し、最後に、また活性化されているカルボキシル基は1Mエタノールアミンを注入して遮断する。5000及び17000RUのリガンド密度を試験する。500nMの濃度のAng-2は、ランニングバッファ+1mg/mL BSAにて希釈した5μL/分の流量で、ペンタHis-Abにて捕える。その後、Ang-2及びVEGFに対する<Ang-2、VEGF>二重特異性四価抗体の結合は、rhVEGFとともにインキュベートし、サンドイッチ複合体の形成によって示される。この目的のために、二重特異性四価の<VEGF-Ang-2>抗体は、ランニングバッファ+1mg/mL BSAにて希釈し、50μL/分の流量および100nMの濃度でAng-2に結合させ、同時結合は、PBS+0.005%(v/v)ツイーン20ランニングバッファ中でVEGF (rhVEGF, R&D-Systems Cat.-No, 293-VE)とともにインキュベートし、50μL/分の流量および150nMのVEGF濃度によって検出する。会合時間120秒、解離時間1200秒。再生は、各サイクルの後に、2×10mMグリシンpH2.0および60秒の接触時間にて50μL/分の流量で実施する。センサーグラムは、標準的なダブルレファレンス法を用いて補正する(コントロール対照:捕捉分子ペンタHisAbに対する二重特異性抗体およびrhVEGFの結合)。各Abのためのブランクは、rhVEGF濃度「0」によって測定する。
【0124】
HEK293-Tie2細胞株の生成
Ang-2刺激性Tie2リン酸化及び細胞上のTie2へのAng-2の結合による二重特異性四価抗体<Ang-2、VEGF>の干渉を決定するために、組換えHEK293-Tie細胞株を生成した。手短に言及すると、CMVプロモータおよびネオマイシン耐性マーカーの制御下に完全長ヒトTie2をコードするpcDNA3ベースのプラスミド(RB22-pcDNA3 Topo hTie2)は、Fugene (Roche Applied Science)を形質移入試薬として使用してHEK293細胞(ATCC)に形質移入し、耐性細胞をDMEM 10% FCS、500μg/ml G418中で選別した。個々のクローンは、クローニングシリンダにて単離し、その後FACSによってTie2発現について分析した。クローン22は、G418がない場合でも高く安定してTie2を発現するクローンとして同定した(HEK293-Tie2 クローン22)。HEK293-Tie2 クローン22は、細胞性アッセイのためにその後使用する。Ang-2は、Tie2リン酸化およびAng-2細胞性リガンド結合アッセイを誘導した。
【0125】
Ang-2誘導性Tie2リン酸化アッセイ
<Ang-2、VEGF>二重特異性四価抗体によるAng-2誘導性Tie2リン酸化の阻害は、以下のアッセイ原理に従って測定される。HEK293-Tie2クローン22は、Ang-2の有無の下で5分間Ang-2にて刺激し、P-Tie2はサンドイッチELISAによって定量化される。手短に言及すると、1ウェル当たり2×10のHEK293-Tie2を、ポリ-D-リジンコート96ウェルマイクロタイタープレート上で、100μlのDMEM、10%FCS、500μg/mlジェネテシン中で生育する。その翌日、<Ang-2、VEGF>二重特異性四価抗体の滴定列をマイクロタイタープレート(4倍濃縮、75μl終体積/ウェル、二通り)に調製し、75μlのAng-2(R&D systems # 623-AN]希釈物(4倍濃縮溶液にして3.2μg/ml)と混合する。抗体およびAng-2は、室温で15分間予めインキュベートする。100μlの混合物を、HEK293-Tie2クローン22細胞(1mMのNaV3O4と共に5分間予めインキュベートしたもの、Sigma #S6508)に加え、37℃で5分間インキュベートした。その後、細胞は、1ウェル当たり200μlの氷温PBS+1mM NaV3O4にて洗浄し、1ウェル当たり120μlの溶解バッファ(20mM トリス、pH8.0、137mM NaCl、1%NP-40、10%グリセロール、2mM EDTA、1mM NaV3O4、1mM PMSF及び10μg/ml アプロチニン)を加えて氷上で溶解する。細胞はマイクロタイタープレート振とう器上で4℃で30分間溶解し、100μlの溶解物を、事前に遠心分離及び総タンパク質決定を行わずにp-Tie2 ELISAマイクロタイタープレート(R&D Systems, R&D #DY990)に直接移す。P-Tie2量は製造業者の指示に従って定量化し、阻害についてのIC50値はエクセル(用量反応(Dose-response one site)、モデル205)のためにXLfit4分析プラグインを使用して決定する。IC50値は、一実験内で比較してもよいが、実験と実験とで変化するかもしれない。
【0126】
VEGF誘導性HUVEC増殖アッセイ
VEGF誘導性HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞、Promocell #C-12200)増殖を選択して、<Ang-2、VEGF>二重特異性四価抗体の細胞性機能を測定する。手短に言及すると、96ウェルにつき5000のHUVEC細胞(低継代数、5継代以下)を、コラーゲンIコートBD Biocoat Collagen I 96ウェルマイクロタイタープレート(BD #354407 / 35640)に、100μlの飢餓培地(EBM-2内皮性基礎培地2、Promocell # C-22211、0.5%FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン)中で終夜インキュベートする。様々な濃度の<Ang-2、VEGF>二重特異性四価抗体は、rhVEGF(30ng1/ml終濃度、BD # 354107)と混合し、室温で15分間予めインキュベートする。その後、混合物をHUVEC細胞に加え、37℃、5%CO2で72時間インキュベートする。分析の日に、プレートを、30分間かけて室温に平衡化し、細胞生存度/増殖は、マニュアル(Promega, # G7571/2/3)に従ってCellTiter-GloTM発光細胞生存度アッセイキットを使用して決定する。発光は分光光度計において決定する。
【0127】
実施例1 Ang-2及びVEGF−Aを認識する二重特異性四価の抗原結合タンパク質の製造、発現、精製及び特徴付け
第一の例では、Ang-2及びVEGF−Aを認識する、二重特異性四価抗原結合タンパク質は、Ang-2を認識する抗体のVH−CH1ドメイン融合体を、Ang-2を認識する該抗体の重鎖のC末端に(G4S)4コネクターを介して融合させ(配列番号1)、そして、VEGF−Aを認識する抗体のVH−CLドメイン融合体を、VEGFを認識するCH1−CL置換抗体の重鎖のC末端に(G4S)4コネクターを介して融合させる(配列番号3)ことによって作製する。2つそれぞれの重鎖のヘテロ二量体化を誘導するために、配列番号1は、例えばノブ配列(T366W)を含有し、配列番号2は、例えばホール配列T366S、L368AおよびY407V並びに2つの挿入システイン残基S354C/Y349'Cをそれぞれ含有し、ヘテロ二量体化により安定したジスルフィド架橋を形成する。本発明に係る二重特異性四価の抗原結合タンパク質を得るために、この重鎖コンストラクトを、Ang-2抗体のそれぞれの軽鎖(配列番号2)およびVEGF−Aを認識するVL−CH1ドメイン融合体(配列番号4)をコードするプラスミドによって同時発現させる。ノブ-インツゥ-ホール修飾を有するそれぞれの二重特異性四価の抗原結合タンパク質の一般的なスキームを図4に示す。
二重特異性四価抗原結合タンパク質は、一般的な方法の項に記載のように典型的な分子生物学的技術によって生成され、上記のようにHEK293F細胞に過渡的に発現される。その後、プロテインA親和性クロマトグラフィおよびサイズ排除クロマトグラフィの組合せによって上清から精製した。得られた生成物は、質量分析法および分析的性質(例えばSDS-PAGEによる純度、単量体内容および安定性)によって同一性について特徴付けした。

これらのデータは、二重特異性四価抗原結合タンパク質が好収率で生産され得、安定であることを示す。
その後、Ang-2およびVEGF−Aへの結合並びに同時結合を、上記のELISA及びBiacoreアッセイによって調べ、Tie2リン酸化の阻害およびVEGF誘導性HUVEC増殖の阻害のような機能的特性を分析したところ、生成された二重特異性四価抗体はAng-2およびVEGF−Aに結合し、その活性を同時にブロックすることができることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性四価の抗原結合タンパク質であって、
a)第一抗原に特異的に結合する第一抗体の修飾重鎖であって、その重鎖のC末端に更に該第一抗体のVH−CH1ドメインがそのN末端を介して融合している、第一抗体の修飾重鎖、
b)a)の第一抗体の2つの軽鎖、
c)第二抗原に特異的に結合する第二抗体の修飾重鎖であって、このときCH1ドメインが該第二抗体のCLドメインで置換されており、その重鎖のC末端に更に該第二抗体のVH−CLドメインがそのN末端を介して融合している、第二抗体の修飾重鎖、そして、
d)CLドメインが前記第二抗体のCH1ドメインによって置換されている、c)の第二抗体の2つの修飾軽鎖
を含んでなる二重特異性四価の抗原結合タンパク質。
【請求項2】
a)の抗体の修飾された重鎖のCH3ドメイン及びc)の抗体の修飾された重鎖のCH3ドメインの各々が、抗体CH3ドメイン間のオリジナルの界面を含む界面に接し、
該界面が、二重特異性四価抗原結合タンパク質の形成を促進するよう変更されており、該変更が、
i)一方の重鎖のCH3ドメインが変更され、
二重特異性四価抗原結合タンパク質内における、他方の重鎖のCH3ドメインのオリジナルの界面に接する一方の重鎖のCH3ドメインのオリジナルの界面内において、
アミノ酸残基がより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換され、これにより一方の重鎖のCH3ドメインの界面内に隆起が生じ、他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空洞に位置することが可能となり、そして、
ii)他方の重鎖のCH3ドメインが変更され、
二重特異性四価抗原結合タンパク質内における、第一のCH3ドメインのオリジナルの界面に接する第二のCH3ドメインのオリジナルの界面内において、
アミノ酸残基がより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換され、これにより第二のCH3ドメインの界面内に空洞が生じ、その中に第一のCH3ドメインの界面内の隆起が位置することが可能となる、
ことを特徴とする変更であることを更に特徴とする、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群から選択され、より小さい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)からなる群から選択される、請求項2に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
両CH3ドメイン間にジスルフィド架橋が形成できるように、各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸としてのシステイン(C)の導入によって、両CH3ドメインが更に変更されている、請求項2又は3に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質の調製方法において、
a)請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質をコードする核酸分子を含んでなるベクターを用いて宿主細胞を形質転換する工程、
b)前記抗原結合タンパク質分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養する工程、及び
c)前記培養物から前記抗原結合タンパク質分子を回収する工程
を含む方法。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項7】
請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質と、少なくとも一の薬学的に許容可能な賦形剤とを含有する薬学的組成物。
【請求項8】
癌の治療のための、請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質。
【請求項9】
癌の治療のための医薬の製造のための、請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質の使用。
【請求項10】
請求項1から4の何れか一に記載の二重特異性四価抗原結合タンパク質の治療上有効な量を患者に投与することを特徴とする、治療を必要としている患者の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530089(P2012−530089A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515382(P2012−515382)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003560
【国際公開番号】WO2010/145793
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】