説明

五歩蛇毒の線溶酵素およびその使用

本発明は、五歩蛇の線溶酵素遺伝子、前記遺伝子を含むベクター、およびそのベクターにより形質転換される宿主細胞に関する。
【課題】線溶酵素は、血栓を起因とする疾患の治療に使用する。
【解決手段】五歩蛇の未加工の毒から線溶酵素FIIを精製し、これに相当する遺伝子をクローニングする。酵母発現システムにより線溶酵素を生成するのが望ましい。線溶酵素の活性も測定する。本発明の利点は、線溶酵素の発現レベルおよび活性がどちらも高く、品質が安定していることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学の技術分野に関するものであり、特に五歩蛇のフィブリン(フィブリノゲン)溶解遺伝子(2番)、遺伝子ベクター、遺伝子ベクターを用いて遺伝子操作した宿主細胞、および血栓塞栓性疾患を緩和するため遺伝子を用いて作製された薬剤を対象とする。
【背景技術】
【0002】
現在、血栓塞栓性疾患、とりわけ心筋梗塞および卒中は、死亡および罹患の主な原因の1つとなっている。感染症の大半を制御するのに成功したことで、中国では生活水準が改善され、一般に寿命は延び、集団構造において高齢者数が増加し、全疾患のなかで心血管性および脳血管性血栓塞栓性疾患の罹患率が1位と2位を占めるようになった。年間300万人以上が罹患していると推算される。血栓塞栓性疾患の罹患率が今後さらに増加すると予想されるのは当然である。
【0003】
現在、血栓塞栓性疾患の治療薬は、主に抗血小板薬(例、アスピリン)、抗凝固薬(例、ヘパリン)、および血栓溶解薬(例、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼ)である。アスピリンおよびヘパリンなどの抗血小板療法および抗凝固療法は、新たなフィブリン形成を予防することにより血栓溶解作用を増強すると考えられている。しかし、これらに既存の血栓に対する作用は認められない。ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、および組織プラスミノーゲン活性化因子(t‐PA)など、臨床使用が可能な血栓溶解薬はプラスミノーゲン活性化因子であり、プラスミノーゲンの活性化により血栓を効果的に溶解する。すなわち、特に大きな血栓に作用する場合、血栓溶解薬の一般的特徴として、血栓溶解作用が間接的かつ緩徐で、弱いことが挙げられる。心血管性および脳血管性血栓症が発症した場合、血流が遮断されてから数分で低酸素により心筋および神経細胞は死滅する。これは血栓溶解薬の血栓溶解作用が間接的だからである。上の3剤は、血栓および出血に関して選択性が低いなど、副作用が認められることがある。スタフィロキナーゼはアナフィラキシーを誘発することがあり、組織プラスミノーゲン活性化因子も高価であるため、広範な応用範囲が制限されている。
【0004】
特に注目すべきは、血栓溶解薬を他剤と併用投与しても、患者の25%にとって効果がないことである。さらに、当初血栓溶解薬の投与により治癒した症例の約5〜30%に再閉塞が生じ、血栓溶解薬に対する感受性が認められない。
【0005】
結論として、血栓溶解薬は臨床応用の要件を完全には満たしていない。より特異的かつ効果的な血栓溶解薬の開発が急がれる。
【0006】
蛇毒に関する海外の研究によれば、アメリカマムシおよびセイブヒシモンガラガラヘビ(ニシダイヤガラガラヘビ)の毒は、直接作用する線溶酵素を含有しており、プラスミノーゲンを活性化することはない。これらの研究では、ラットの静脈血栓塞栓症モデルにおいて血栓溶解活性が示された。さらに、in vivoで血栓溶解活性を確認したときには、心臓、肝臓、肺、および腎臓の組織切片に関する顕微鏡検査で出血および腐敗が認められなかった。
【0007】
ancordおよびahylysantinfarctaseなど、中国の診療所で使用される特定の蛇毒から分離したトロンビン様の酵素は、フィブリノゲンをフィブリン類に変換し、血漿粘度を下げ、トロンビンとほぼ同じ機序で抗血栓作用を発揮する。これらの酵素と血栓溶解薬の有効性および機序を比較することはできない。
【0008】
中国固有の五歩蛇の毒は、プラスミノーゲンを活性化せずにフィブリン/フィブリノゲンを直接分解する成分を含有し、強力な生物活性を持つ。カラムクロマトグラフィーを用いて、15分画から数種類の線溶タンパク質を採取すると、このなかの分画IIに価値の高い生物学的特徴が認められた。(1)直接血栓を溶解する作用:加熱したプレートを用いることで線溶因子がフィブリンを分解し、プラスミノーゲンを不活化する、(2)迅速な作用:in vitro実験では、線溶因子の作用はウロキナーゼより2倍速い、(3)有効性が高い:線溶因子の生物活性は、ウロキナーゼよりも高い(線溶因子130μgはウロキナーゼ450μgに相当する)、(4)副作用が少ない:未精製の五歩蛇毒には明らかに出血の副作用が認められるが、用量500μg/mlの線溶因子では出血は認められない。これらの特徴は、五歩蛇毒から得られた線溶因子が、血栓塞栓性疾患を治療する上で魅力的な製剤となり得ることを強力に裏付けている。
【0009】
しかし、天然由来であることから、五歩蛇毒の組成および生物活性には、地域的および季節的多様性があり、安定した臨床効果を得るのは実際には困難である。さらに、未加工の蛇の成分は複雑であるため、精製しても単一成分を分離することは依然難しく、臨床応用時に毒性および副作用を引き起こす可能性もある。天然蛇毒には、生産量が限定される、コストが高い、市場占有率が低い、という特徴がある。その分子構造や構造と活性との関係は、依然としてタンパク質工学では説明できない。上記の問題を解決することで、五歩蛇毒由来の線溶因子を臨床適応するための科学的根拠を確立することは不可能である。
【0010】
酵母は増殖が速く、特別な培地がなくとも大量に発酵する。酵母のDNAは比較的単純で、クローニング法を用いたスクリーニングが簡便である。酵母とは真菌であるため、遺伝子発現および遺伝子調節の機序、そして発現産物の修飾処理法は、大腸菌よりも完成されている。例えば、酵母はグリコシル化や、正しいジスルフィド結合を形成すること等が可能である。蛇毒のタンパク質を酵母で発現させるのに成功した前例もある。五歩蛇由来のFII抗体をプローブとして用いて、cDNAライブラリーからFIIの遺伝子をスクリーニングし、酵母発現ベクターPPIC9Kへクローニングした。次に酵母細胞へと形質転換し、酵母細胞に五歩蛇のFIIを大量に発現させた。ついには、クロマトグラフィーを用いて五歩蛇の組換えFIIを精製し、線溶活性を確認した。われわれの研究では、遺伝子操作により五歩蛇由来の組換えFIIが豊富に得られ、続く薬力学試験およびクラス1の新薬の評価の基礎となっている。
【0011】
蛇毒研究は、蛇毒からDNAエンドヌクレアーゼを単離して分子生物学的研究を大いに推進させる、サンゴヘビの毒素発見が神経伝達物質受容体の精製において重要な役割を果たすなど、バイオ医薬品開発で主要な役割を果たしてきた。蛇毒由来のあらゆる化学的、あるいは生物学的臨床製剤を比較すると、五歩蛇毒由来組換えFIIが組成面および生物活性面で地域的多様性および化学的不均質性を克服し、生産量および有効性を高め、市場価値の大きい、独自の知的財産権を有する新規の臨床薬となると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
五歩蛇由来の線溶酵素FIIはフィブリンを直接分解することが可能であり、線溶活性の有効量で出血は認められなかった。しかし、未加工の蛇毒は複雑であるため、精製しても単一成分を分離することは難しい。蛇毒の産生量は限られているため、大量生産は困難である。これら上記の問題は、遺伝子工学技術を用いて五歩蛇由来の組換え線溶酵素FIIを発現させることで解決できる。われわれは、五歩蛇由来の組換え線溶酵素であるFIIを単離し、FII遺伝子のスクリーニングおよびクローニングを行って、酵母細胞中に組換え線溶酵素を発現させて精製し、その線溶活性について試験を行った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
方法:イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過により、五歩蛇毒から天然線溶酵素FIIを単離した。基質として用いたフィブリンおよびフィブリノゲンにより線溶活性を確認した。フィブリノゲンに対する作用部位は、SDS‐PAGEにより観察した。五歩蛇毒のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびcDNAライブラリーを作製した。プローブとして五歩蛇由来FIIの抗体を用いて、cDNAライブラリーからFIIの遺伝子をスクリーニングした。これを消化および結合により酵母発現ベクターPPIC9Kへクローニングし、形質転換およびスクリーニングにより大量の酵母菌を発現させた。イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーにより、組換えFIIを精製した。組換えFIIの純度についてSDS‐PAGEで試験を行い、フィブリン平板法により線溶活性を測定し、IgGおよびアルブミンに対する作用について観察した。in vivoの線溶活性については、ビーグル犬の肺動脈血栓症モデルを用いて測定した。
【0014】
結果:3段階の手順を踏んで、単一のバンドとしてSDS‐PAGE上に線溶酵素FIIを単離した。分子量は25,500であった。FIIは、フィブリノゲンおよびフィブリンの主にAα鎖およびBβ鎖を切断し、γ鎖にはほとんど影響を及ぼさなかった。FIIは、用量依存的にフィブリンを分解した。ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびcDNAライブラリーを作製することにより、cDNAライブラリーからFII遺伝子をスクリーニングして、組換えプラスミドPPIC9K‐FIIを作製した。形質転換後、PCRで確認した酵母の染色体へ組換えプラスミドを組み込んだ。線溶活性を基準として用いて発現量の多い菌株をスクリーニングしたところ、発現から3日目に線溶活性がピークに達した。2段階の手順を踏んで、単一のバンドとしてSDS‐PAGE上に組換え線溶酵素FIIを単離した。組換えFIIはフィブリンを強力に分解できるが、IgGおよびアルブミンに対しては作用しない。組換えFIIは、右下肺動脈にあらかじめ作製した血栓を効率的に溶解することが可能である。注入から1時間後に測定を行ったところ、右下肺動脈血栓の平均再開通率は、83.3%であった。結論:組換え線溶酵素FIIは酵母で大量に発現し、線溶活性が高かった。
【発明の効果】
【0015】
五歩蛇毒由来の天然FIIは収量が低く、品質が不安定である。われわれが遺伝子工学技術を用いて酵母に組換えFIIを発現させたところ、天然FIIよりも線溶活性および収量が高く、品質が安定し、費用を抑えられた。組換えFIIは、動物の血栓溶解モデルにおいて血栓を効率的に溶解し、出血はほとんど認められなかった。組換えFIIが、社会および経済に多大な利益をもたらす有効性の高い、新規の血栓溶解薬となることが強く示唆される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1. 五歩蛇毒由来FIIの精製
【0017】
1.1 DEAE‐Sephadex A‐50を用いたイオン交換クロマトグラフィー
【0018】
五歩蛇毒(3g)を0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)10mlで溶解し、0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)を用いて25℃、24時間で平衡化したDEAE−Sephadex A‐50カラム(直径3.0m、高さ80cm)に上清を移した。開始バッファーとして0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)、溶出バッファーとして1M酢酸アンモニウム(PH5.0)からなる直線濃度勾配で分画を溶出した。流速12ml/時間で3ml量の分画を回収した。溶出液の吸光度(280nmにて)を試験した。ピークを示した分画の線溶活性について試験を行った。次に線溶分画を透析し、凍結乾燥した。
【0019】
修正したフィブリン平板法(Astrup and Mullertz、1952)を用いて線溶活性を証明した。各濃度について、3回試験を行った。ペトリ皿(直径9.5cm)に入れたウシ血漿(0.2%、20ml)をトロンビン(80μl、100U/ml)で凝血した。線溶活性は、各分画20μlより生じた溶解面積、すなわち径の積(mm)として表した。各分画をペトリ皿に置き、37℃で12時間インキュベートした。
【0020】
結果:DEAE‐Sephadex A‐50を用いた未加工の毒のイオン交換クロマトグラフィーにより10分画が生成された(図1)。第2分画(FII)において、線溶活性が高かった。線溶活性は60.23±16.47mm/μgであった。
【0021】
1.2 1回目のSephadex G‐75ゲル濾過
【0022】
DEAE‐Sephadex A‐50を用いたイオン交換クロマトグラフィーで得られたFII(85mg)を0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)2mlで溶解し、0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)を用いて25℃、24時間で平衡化したSephadex G‐75カラム(直径1.1cm、高さ100cm)に上清を移した。0.05M酢酸アンモニウム(PH8.0)で分画を溶出した。流速12ml/時間で3ml量の分画を回収した。溶出液の吸光度(280nmにて)ならびにピークを示した分画の線溶活性について試験を行った。次に線溶分画を透析し、凍結乾燥した。
【0023】
結果:Sephadex G‐75カラムにおいて、ゲル濾過によりさらに分取すると、FIIが2分画得られた(図2)。線溶活性は、第1分画に局在していた。線溶活性は87.51±14.95mm/μgであった。
【0024】
1.3 2回目のSephadex G‐75ゲル濾過
【0025】
Sephadex G‐75を用いた1回目のゲル濾過で得られた線溶分画を、上記の方法で再度Sephadex G‐75ゲル濾過カラムに適用した。
【0026】
結果:単一のピークが得られた(図3)。線溶活性は90.49±12.41mm/μgであった。
【0027】
2. 純度および生化学的キャラクタリゼーション
【0028】
2.1 五歩蛇毒由来線溶酵素FIIの純度の確認
【0029】
Laemmli法に従って、ドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‐PAGE)を実施した(電気泳動バッファーの組成は、12%分解ゲル[pH8.8]、4%濃縮ゲル[pH6.8]、Tris‐glycineゲル。電圧200V、時間45分)。分子量の標準は、MBP-β-ガラクトシダーゼ175,000、MBP‐パラミオシン83,000、グルタミン酸脱水素酵素62,000、アルドラーゼ47,500、トリオースリン酸イソメラーゼ32,500、β‐ラクトグロブリンA25,000、リゾチーム16,500であった。タンパク質バンドは、0.25%クーマシーブリリアントブルーR−250で染色した。
【0030】
結果:SDS−PAGEゲルにおいて、精製されたFIIが単一のタンパク質バンドとして確認された(図4)。回帰曲線(X軸はlgMW、Y軸は標準移動度に対する相対移動度[Rf(x)])に基づき、方程式lgMW=−1.55×+5.51、r=0.95が得られた。算出された分子量は25,550である(図5)。
【0031】
2.2 五歩蛇毒由来線溶酵素FIIのフィブリノゲン溶解活性の確認
【0032】
ウシフィブリノゲン(75μl、0.2mg/ml)をピペットで1.5mlマイクロ遠心チューブに移した。FII(25μl、2mg/ml)をチューブに添加し、溶液を37℃で1時間インキュベートした。次に125Mm EDTA10μlを添加してチューブ内の反応を中止し、SDS−PAGEサンプルバッファー50μlを添加した。サンプル20μlをSDS−PAGE分析にかけて、FIIによるフィブリノゲン分解がプラスミンによる分解と異なっているかどうかを確認した。FIIの代わりにプラスミン以外のサンプルを用いて同じ実験を繰り返し行った。
【0033】
結果:SDS−PAGEによれば、FIIはα‐およびβ‐フィブリノゲン分解酵素であり、α鎖およびβ鎖を分解する。γ鎖にはほとんど影響を及ぼさなかった。FIIによる分解画分の分子量は45,000Daであった。フィブリノゲンのα鎖、β鎖、およびγ鎖は、プラスミンにより分解された。プラスミンによる分解画分の分子量は、それぞれ47,000Da、44,000Da、および23,000Daであった。FIIおよびプラスミンによる分解後のバンドは異なっており、これらの切断サイトが異なっていることを示している(図6)。
【0034】
2.3 五歩蛇毒由来線溶酵素FIIの線溶活性の確認
【0035】
修正したフィブリン平板法を用いて線溶活性を証明した(AstrupおよびMullertz、1952年)。ペトリ皿(直径9.5cm)に入れたウシフィブリノゲン(0.2%、20ml)をトロンビン(80μl、100U/ml)で凝血した。各濃度について、3回試験を行った。線溶活性は、各分画20μlより生じた溶解面積、すなわち径の積(mm)として表した。各分画をペトリ皿に置き、37℃で12時間インキュベートした。陽性対照としてウロキナーゼ500U/mlを、陰性対照として生理食塩水を使用した。
【0036】
結果:20μlのFIIを、0.25、0.5、1、および2mg/mlの異なる濃度で適用した(表1)。濃度の増加とともに溶解面積も増加することが示された(図7)。
【0037】
3. 五歩蛇毒由来線溶酵素FII抗体の作製
【0038】
3.1 ウサギの抗血清FIIの作製
【0039】
方法:(1)動物の免疫。ウサギは、FII(3mg/ml)1mlおよびフロイントアジュバント1mlを混合した乳化剤を背部にマルチポイント皮下注入することにより免疫化した。1回目注入後、追加抗原を週に数回、計4週間投与した。
【0040】
(2)抗血清の作製。免疫化されたウサギに対し、塩酸ケタミン30mg/kg筋注により麻酔した。頚動脈に挿入したカテーテルから採血し、4℃で一晩保存した。続いてこの血清を遠心分離し、一部を4℃で保存した。
【0041】
(3)酵素結合免疫測定法(ELISA)による抗体価の測定。マイクロプレート(96穴)は、炭酸水素ナトリウムバッファーに入れたFII100ml(0.1mg/ml)、穴当たり100μlに4℃で一晩浸した。プレートを0.05%Tween‐20含有PBSTで2回洗浄し、2×PBSおよび1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有ブロック液を用いて非結合部位を37℃で1時間ブロックした。血清力価を測定するため、1%BSAおよびウサギ抗血清(1次抗体)含有1×PBSに段階希釈した血清100mlを入れてプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。再度プレートを3回洗浄し、ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(分子全体)‐ペルオキシダーゼ複合体100mlで1時間インキュベート後、さらに3回洗浄した。ペルオキシダーゼアッセイAおよびB用基質溶液をすべての穴に添加し、反応システムの色に基づいて抗体価を確認した。
【0042】
結果:抗原として使用した五歩蛇毒由来の精製された線溶酵素FIIによりNO.1およびNO.2のウサギを免疫化した。4週後、ELISAにより抗体価を測定した。各ウサギの抗体価は1:20000であった。
【0043】
3.2 FIIモノクローナル抗体の作製
【0044】
方法:(1)免疫、ハイブリドーマ融合クローニングを用いたスクリーニング。Balb/cマウス(7週齢)に対し、FII0.2ml(1mg/ml)および同量のフロイント完全アジュバントの混合液を皮下注射した。フロイント完全アジュバントに入れた同量の抗原による追加抗原を、2週間隔で、計3サイクル投与した。尾静脈からFII0.2ml(1mg/ml)を注入し、3日後、ハイブリドーマ融合を実施した。すなわち、免疫化したマウスから脾細胞を採取し、10:1の割合でSP2/10細胞と混合し、50%PEG(u3700)を用いて融合を実施した。融合した細胞を596穴のプレートで培養し、5%COインキュベータで培養した。15%FBS(ウシ胎児血清)含有HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択培地を4日間、次にHT培地を6日間継続的に適用し、11日目以降はRPMI‐1640培地を使用した。前述のように、培地で生成された抗体を、間接酵素結合免疫測定法(間接ELISA)により測定した。
【0045】
(2)結果:ハイブリドーマ融合2サイクル後、細胞株20株が確立された。このうち特異度の高い細胞株2株について、それぞれC1およびC4と名付けた。この2株から生成されたモノクローナル抗体はいずれもIgGIで、IgG分類キットを用いて試験し、製造会社の指示に従って使用した。
【0046】
4. 五歩蛇の毒腺由来の発現cDNAライブラリーの構築
【0047】
4.1 RNAの作製
【0048】
方法:(1)蛇の頭から対の毒腺を摘出し、切除して、直ちにドライアイスのなかに保存した。
【0049】
(2)RNA精製キット(Promega)を使用し、製造会社のプロトコールに従った。毒腺(計約1.7g)を混合した。トリゾール、クロロホルム、およびイソプロピルアルコールを使用して各腺を均質化し、12,000rpmで10分間遠心分離した。水相のRNAを分離して、イソプロピルアルコールによりtotal RNAを抽出した。RNAのペレットを75%エタノールで2回洗浄し、短時間風乾した。最後に、RNAをジエチルピロカルボネート(DEPC)処理水で溶解した。1%アガロースゲルに入れたリボソームRNAの28S,18S,および5Sのバンドを識別することにより、total RNAの完全性を確認した。A260とA280の比でtotal RNAの純度を確認した。
【0050】
結果:total RNAは長いスメアとして検出され、28S、18S,および5Sに明るいバンドが認められた。total RNAのCD/260とCD280の比は20で、総量は426μgであった。したがって、RNAは劣化しておらず、高品質であるとの結論を導くことができた。RNA電気泳動(図8)によれば、28Sおよび18SのrRNAは明るく示された。28Sの蛍光強度は18SrRNAの2倍であり、ライブラリーが高品質であることの根拠を示した。
【0051】
4.2 mRNAの精製
【0052】
方法:引き続き、製造会社のプロトコールに従って、オリゴ(dT)‐セルロースアフィニティクロマトグラフィーを用いてmRNAを精製した。total RNAからPoly(A)RNAを濃縮し、サンプルバッファー溶液でセルロースカラムを十分に洗浄し、total RNA(3mg)をDEPC処理水に入れて65℃で10分間インキュベートした。すぐに氷冷したバスを用いて、温度を室温まで下げた。サンプルバッファー溶液3回のあと、溶離液で溶出し、mRNAを洗浄して分離した。
【0053】
1%アガロース‐エチジウムブロマイド電気泳動を用いてRNAの無損傷性を評価した。mRNAの完全性は1%アガロース電気泳動で確認した。
【0054】
結果:mRNAの総量は10μgであった。
【0055】
4.3 cDNAライブラリーの構築
【0056】
方法:cDNA合成キット(Promega)を使用し、製造会社のプロトコールに従った。図9参照。
【0057】
(1)第1ストランドcDNA合成
【0058】
(2)第2ストランドcDNA合成
【0059】
(3)cDNA末端にNotIおよびSalIアダプターを付加する。
【0060】
(4)cDNAの連結と形質転換。cDNAおよびpSportIベクターを連結した。cDNA反応液、pSportIベクター、T4リガーゼ10×バッファーの混合液を16℃で一晩インキュベートした。連結産物10μlを大腸菌コンピテントセルDH5 50μlに添加し、4℃で30分間、42℃で120秒間、4℃で5分間、37℃で10分間の順で培養した。次に懸濁した細胞を新しい1.5mL EPチューブに入れ、37℃で1時間、250rpmで振盪した。形質転換体2μLを、10倍、100倍、および1000倍に希釈して、アンピシリン、イソプロピル‐β‐D‐チオガラクトシド、および5‐brom‐4‐chloro‐3‐indolyl‐beta‐D‐galactopyranoside100mg/L−1を含有するLuria‐Bertaniプレートにまき、37℃で一晩インキュベートした。cDNAライブラリーの力価を計算し、−80℃で保存した。
【0061】
結果:増幅していない5ライブラリーの総力価は、5×107pfu/mlである。
【0062】
5. 発現cDNAライブラリーからのFII遺伝子のクローン
【0063】
5.1 抗体による発現cDNAライブラリーからのスクリーニング
【0064】
方法:適切に希釈してから、cDNAライブラリーに入れた細菌100μlを、1%グルコース、8%グリセロール、およびアンピシリン50μg/mlを付加したLB培地を含有するプレートにまき、37℃で一晩増殖させた。
【0065】
酢酸セルロース膜をIPTG(10mmol/l)に浸漬してLBプレートにひろげ、酢酸セルロース膜上の非対称な3箇所をスポットして配向させた。確認された酢酸セルロース膜をアガロースプレートに広げ、融合タンパク質の発現を誘導するため、37℃で6〜8時間インキュベートした。
【0066】
誘導から6〜8時間後、酢酸セルロース膜をクロロホルムで30分間処理し、1%BSA、リゾチーム4g/ml、およびDNAase1μg/mlに入れて30分間軽く攪拌し、4℃で一晩ブロックした。ブロック後、各フィルターに対し、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、0.2%Tween20、および0.05%Triton‐X100(TBS−TT)約100mlで、1回15分間の洗浄を3回行った。続いてTBS100ml/フィルターで2回洗浄し、残留洗浄剤を除去した。組換えタンパク質を産生するコロニーを検出するため、ブロッキング・バッファーで1000倍に希釈したウサギ抗体で膜を探索し、室温で3時間軽く攪拌した。ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(分子全体)‐ペルオキシダーゼ複合体100mlで膜を再度3回洗浄し、1時間インキュベートした。その後、さらに3回洗浄した。
【0067】
DAB発色基質溶液に膜を浸漬し、30分間軽く攪拌して、蒸留水ですすいだ。茶色の陽性コロニーが検出された。
【0068】
結果:プレート(直径9cm、5×103クローンを含む)を用いて1次スクリーニングを実施した。200,000個のクローンをスクリーニングし、15個の陽性クローンを検出した。これらの陽性クローンに対し繰り返しスクリーニングを行ったところ、11個のクローンに陽性反応が認められた(図10)。この11個の陽性クローンを、アンピシリン100mg/L-1を含有するLuria‐Bertaniプレートで平板培養し、モノクローナル抗体で確認したところ、9個のクローンに陽性反応(C1およびC4抗体を使用)が認められた。
【0069】
5.2 プラスミド抽出と陽性クローンの配列決定
【0070】
方法:プラスミドをアルカリ法(GIAGEN)により抽出した。(1)新しく画線培養したプレートから単一コロニーを採取し、スターター培養液(適切な選択的抗生物質を含有するLB培地2〜5ml)に接種する。37℃で約8時間、激しく振盪(約300rpm)しながら培養する。
【0071】
(2)スターター培養液を選択的LB培地3mlに入れて500倍〜1000倍に希釈する。37℃で12〜16時間、激しく振盪(約300rpm)しながら増殖させる。
【0072】
(3)6000×g、4℃で15分間遠心して細菌細胞を採集する。
【0073】
(4)細菌ペレットをバッファーP1 0.3mlで再懸濁する。
【0074】
(5)バッファーP2 0.3mlを添加し、密閉したチューブを4〜6回激しく転倒混和し、室温(15〜25℃)で5分間インキュベートする。
【0075】
(6)冷却したバッファーP3 0.3mlを添加し、直後に4〜6回激しく転倒混和し、氷上で5分間インキュベートする。
【0076】
(7)マイクロ遠心チューブに移して、最高速度で10分間遠心する。すぐにプラスミドDNAを含む上清を除去する。
【0077】
(8)Buffer QBT1mlを添加してGIAGEN−tip20を平衡化し、重力流によりカラムを空にする。
【0078】
(9)手順7の上清をGIAGEN‐tip20に添加し、重力流により樹脂に入れる。
【0079】
(10)Buffer QC2×2mlでGIAGEN‐tip20を洗浄する。
【0080】
(11)Buffer QF0.8mlでDNAを溶出する。1.5mlまたは2mlのマイクロ遠心チューブに溶出液を回収する。
【0081】
(12)室温のイソプロパノールをDNAの0.7倍量(DNA溶出量0.8ml当たり0.56ml)添加して、DNAを沈殿させる。マイクロ遠心チューブで混和し、直ちに10,000rpm以上で30分間遠心する。慎重に上清を取り除く。
【0082】
(13)70%エタノール1mlでDNAペレットを洗浄し、10,000rpmで10分間遠心する。
【0083】
(14)ペレットを5〜10分間風乾し、適量のバッファーでDNAを再溶解する。
【0084】
キャピラリー電気泳動による配列決定にプラスミドを使用し、標準的なプライマーT7およびSP6を適用した。
【0085】
結果:陽性プレート9枚から単一コロニーをそれぞれ採取し、スターター培養液(適切な選択的抗生物質を含有するLB培地2〜5ml)に接種した。37℃で約8時間、激しく振盪しながらインキュベートし、プラスミドを抽出した。PCR反応を実施し、標準的なプライマーT7およびSP6を適用した。各クローンに、産物に特異的なバンドが認められた。キャピラリー電気泳動による配列決定にプラスミドを使用し、標準的なプライマーT7およびSP6を適用した(図11)。
【0086】
5.3 シーケンス・アラインメント
【0087】
方法:これら陽性クローンのゲノムの起源を同定するため、BLASTnおよびBLASTpにより、これらのシーケンスとGenBankの核酸データベースおよびタンパク質データベースとを比較した。この9個のシーケンスのほとんどは、SVMPファミリーと相同性がある(報告された遺伝子と相同性を共有し、同一性は最高で85%)。このうちFII‐2およびFII‐4は、SVMPファミリーと関連のあるADAMファミリーに属す、最も保守的なシーケンスを共有していた。したがって、われわれはFII‐2の遺伝子をFIIと名付け、このタンパク質を優先的に発現させて、FIIのアミノ酸シーケンスを推測した(図12)。
【0088】
6. 大腸菌における五歩蛇毒由来FII遺伝子の発現
【0089】
方法:一晩振盪(抽出により確認されたFIIプラスミド含有コロニー)させた大腸菌0.2mlをアンピシリン20ml含有SOB培地に添加し、37℃で3時間、A600(濁度)が約0.5になるまで振盪した。最終濃度1μmol/LまでIPTGを添加した。4時間振盪し、1,500rpmで20分間遠心して、上清を捨てた。水0.5mlおよびSDSローディングバッファー0.5mlをペレットに添加して100℃で5分間加熱し、10,000rpmで遠心した。上清20μlを採取し、SDS−PAGEにかけた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
結果:IPTGによる誘導後のFIIプラスミド含有大腸菌溶解産物では、SDS−PAGEで40kDのバンドが示された。IPTGにより誘導しなかった、あるいはプラスミドを含まない大腸菌溶解産物では、そのようなバンドは認められなかったことから、大腸菌の融合タンパク質としてFIIの遺伝子を発現させることが可能であることが示された。
【0091】
7. 五歩蛇毒由来FII遺伝子のクローニング
【0092】
方法:(図14参照)
【0093】
7.1 FIIのPCR増幅
【0094】
2段階のPCRにより、標的遺伝子のαシグナルから5’までのシーケンスおよび制限酵素サイトを導入した。
プライマー1:5’AGA GAG GCT GAA GCT AAT CTT ACT CCT GAA C 3’
プライマー2:5’CT CTC GAG AAA AGA GAG GCT GAA GCT AAT C 3’
リバースプライマー:
プライマー3:5’GAG CGG CCG CCT CAC GCC TCC AAA AGT TC 3’
手順:(1)PCR1回目:プライマー1がフォワードプライマー、プライマー3がリバースプライマー、テンプレートはFIIプラスミドである。

(2)PCR2回目:プライマー2がフォワードプライマー、プライマー3がリバースプライマー、テンプレートは、PCR1回目の産物である。PCRの条件は、1回目と同じである。
【0095】
7.2 組換えPPIC9K‐FIIプラスミドの構築
【0096】
1%アガロースゲル電気泳動後、PCR2回目の産物を抽出した。アガロースゲルから抽出した標的フラグメントおよびPPIC-9Kプラスミドの両方をXhoIおよびNotIで消化し、それぞれを電気泳動後、回収した。次に16℃で12時間T4反応系に接合した。次にコンピテント細胞Top 10Fに形質転換し、LB/ペニシリンプレートで平板培養した。陽性コロニーを採取してプラスミドを抽出し、制限酵素分析により同定した。次に、標的フラグメントを含むプラスミドを精製した。
【0097】
7.3 組換え発現PPIC9K‐FIIプラスミドの構築
【0098】
標的フラグメントの有無に関わらず、PPIC9KプラスミドをSacIおよびNotIの両方で消化して接合し、形質転換した。次に、陽性コロニーを採取し、PPIC9KFIIプラスミドを同定し、精製した。
【0099】
結果:上の2段階のPCR後のPCR産物は約700bpで、FII遺伝子の大きさと同じであった。電気泳動後に回収されたPCR産物およびPPIC9KプラスミドをXhoIおよびNotIの両方で消化し、構築された組換えPPIC9K‐FIIを制限酵素消化により同定した。
【0100】
組換えPPI9K‐FIIプラスミドをXhoIおよびNotIの両方で消化し、小さな消化フラグメントもPPIC9KプラスミドへサブクローニングしてXhoIおよびNotIの両方で消化し、組換え発現PPIC9K‐FIIプラスミドを構築した。制限酵素消化により同定された産物は700bpで、予測値と同じであった(図15参照)。サンガー法による配列決定によれば、組換え発現PPIC9K‐FIIプラスミドにFIIのDNAシーケンスが認められる。
【0101】
8. 酵母における五歩蛇毒由来組換え線溶酵素FIIの発現
【0102】
8.1 酵母の形質転換およびスクリーニング
【0103】
方法:大腸菌から組換えプラスミドPPIC9K‐FII50μgを分離し、SacI制限酵素サイトで直線化した。続いてフェノールおよびクロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させた。その後、TEバッファーでDNAを溶解し、−30℃で保存した。直線化プラスミドをサケ精子DNAと混合して、3%ポリグリコール酸で調製したコンピテント酵母へ添加した。これを2枚のRDプレート培地へひろげ、よく分布させた。プレートは、30℃で上下を入れ替えて増殖させた。96時間後、RDプレート培地の酵母菌株を洗い流し、0.5、1、2、3、4mg/mlなど、さまざまな濃度のG418(ジェネティシン)を含有するYPDプレート培地で平板培養した。YPDプレート培地において、30℃で増殖させた。4日目、低濃度のG418によりプレートに組換えコロニーが初めて現れた。6日目、3mg/mlのG418を含有するプレートからコロニーを選択し、PCR分析用のDNAを分離した。
【0104】
結果:プラスミドPPIC9K‐FIIをSacIサイトで分離し、直線化した。直線化プラスミドを精製し、PEG法によりコンピテント酵母へ形質転換した。4日目、低濃度(0.5mg/ml)のG418によりYPDプレート培地に最初のコロニーが現れ、6日目に、3mg/mlのG418を含有するプレートから6コロニーを選択した。
【0105】
8.2 発現量の多い菌株のスクリーニングおよび組換えFIIの発現量の増大
【0106】
方法:挿入遺伝子を含むことがPCRで確認された組換え菌株6株をMD培地10mlにそれぞれ接種し、30℃で一晩、振盪しながら増殖させた。次に遠心により採取し、BMMY培地に添加して発現を誘導した。最終濃度が1%になるように、100%メタノールを24時間ごとに添加し、引き続き発現を誘導した。培養した誘導物質のサンプリングも毎日実施し、37℃でフィブリノゲンと反応させてからSDS−PAGEを実施し、フィブリン(フィブリノゲン)溶解活性を分析した。3日目にサンプルチューブ3本を急速に凍結させた。
【0107】
凍結した菌株のチューブを1本選択してMD培地100mlに添加し、30℃で一晩、振盪しながら培養した。5Lフラスコ2本に、それぞれ培養液2Lまで増幅した。24時間後、培養液を100L容量のジャーファーメンターのBMMY培地へ移し、30℃で引き続き増殖させた。さらに、1%メタノールを24時間ごとに補充した。96時間の発酵後、培養液を遠心して上清を保存し、限外濾過により2Lまで濃縮した。
【0108】
結果:FII遺伝子を含むことが確認された組換え菌株6株を培養した。毎日サンプリングを行い、上清を用いて37℃で1時間フィブリノゲンと反応させ、SDS−PAGE分析にかけた。1番、2番、3番の酵母菌株の3日目のサンプルに、フィブリノゲンに対する加水分解活性(図16)が認められた。天然FIIを陽性対照として使用した。組換えFIIは、加水分解の種類という面では天然FIIと同じであり、加水分解後に支配的な分画から、これら3つの酵母菌株は効率よく組換えFIIを発現することが可能であることが示された。メタノール誘導による96時間の発酵後、培養液の上清に大量の組換えFIIが発現した。
【0109】
9. 五歩蛇毒由来組換え線溶酵素FIIの精製および生化学的キャラクタリゼーションの確認
【0110】
9.1 DEAE−Sepharoseを用いたFF陰性イオン交換クロマトグラフィー
【0111】
方法:(1)限外濾過。上清液をカラムが2LになるまでMilliporeで限外濾過し、0.05M NH4Acダブルカラムに添加し、さらに限外濾過を続けた。
【0112】
(2)DEAE−Sepharose FF。限外濾過した上清を、以前0.05M NH4a(PH8.0)で平衡化したADEAE−Sepharose FFカラムに添加した。カラムを0.1M NH4Ac(PH6.5)で洗浄して、結合していない物質を除去し、残ったタンパク質を0.2M NH4Ac(PH5.2)で溶出した。
【0113】
結果:DEAE−Sepharoseで限外濾過した上清から、5分画が生成された(図17)。線溶活性は、0.2M NH4Ac(PH5.2)の分画に局在していた。
【0114】
9.2 疎水性クロマトグラフィー
【0115】
方法:フィブリノゲン溶解活性を示す分画を2M NaClと混和し、以前1M NaCl、20mM PBSで平衡化した別のButyl‐toyopearl4FFカラムへ添加した。1M NaCl、20mM PBSでカラムを洗浄し、結合していない物質を除去し、残ったタンパク質を2mM PBCで溶出した。
【0116】
結果:Butyl‐toyopearlで限外濾過した分画の上清から3分画が生成された(図18)。線溶活性は、第3分画に局在していた。限外濾過、塩からの精製、およびフィブリノゲン溶解活性を示す分画の凍結乾燥により、組換えFIIが生成された。
【0117】
9.3 五歩蛇毒由来組換え線溶酵素FIIの純度の確認
【0118】
方法:組換えFIIの純度は、方法2.1で述べた通り、SDS−PAGE法により確認した。
【0119】
結果:SDS−PAGEゲルにおいて、精製された組換えFIIが単一のタンパク質バンドとして現れた(図19)。
【0120】
9.4 五歩蛇毒由来組換え線溶酵素FIIの線溶活性を直接測定する。
【0121】
方法:FIIの線溶活性は、加熱したフィブリンプレートを用いて証明した。このフィブリンプレートを85℃で30分間インキュベートし、プラスミン活性を不活化した。調製したプレート表面に、異なる濃度の組換えFII20mL(2mg/ml、1mg/ml、0.5mg/ml、0.25mg/ml、0.125mg/ml)を適用した。天然FII0.5mg/mlおよびウロキナーゼ500U/mlを陽性対照として、生理食塩水を陰性対照として使用した。各濃度で3回試験を行った。プレートを加湿装置に入れ、37℃で12時間インキュベートした。明るい溶解ゾーンの面積により線溶活性を測定した。
【0122】
結果:FIIの線溶活性は、加熱したフィブリンプレートを用いて証明した。rFIIは、濃度の増加とともにフィブリンプレートに明るい溶解ゾーンを形成し、線溶活性は天然FIIよりも高かった(rFII0.5mg/mlによる溶解ゾーンは50mm、天然FII0.5mg/mlによる溶解ゾーンはわずか40mmであった)(表2、図20)。プラスミンは、フィブリンプレートが85℃まで加熱されたときに不活化した。これにより、組換えFIIがプラスミノーゲンの活性化に依存せずフィブリンを溶解することが示された。
【0123】
9.5 組換えFIIのヒトのIgGおよびアルブミンに対する作用
【0124】
方法:ピペットを用いて、r−FII(10μl、0.5mg/ml)と混和したヒトIgG(10μl、10mg/ml)を37℃で24時間、インキュベートした。指示された時間が経過してから、タンパク質の電気泳動液10μlを添加した。SDS−PAGEによりサンプルを分析した。ヒトIgGの代わりにヒトアルブミン以外のサンプルを用いて、同じ実験を繰り返した。
【0125】
結果:組換えFIIを用いてIgGをインキュベートしたとき、H鎖が消失し、L鎖は酵素に対し依然として反応しなかった。組換えFIIを用いてアルブミンをインキュベートしたときは、ペプチド鎖がほぼ完全性を保っていた。これにより、組換えFIIがアルブミンに対し作用しないことが示唆された(図21)。
【0126】
10.組換えFIIのビーグル犬の肺動脈血栓症に対する作用
【0127】
方法:ビーグル犬の肺動脈血栓症実験モデルを用いてNowk法を実施した。実験用ビーグル犬の全血15mlを、37℃で2時間in vitroでインキュベートして血餅を作製し、これを適用した。異なる2群(各群6匹)を設定した。治療群に対しては、rFII0.24mg/kgを投与した。NS(生理食塩水)対照群に対しては、NS0.1ml/kgを注入した。ペントバルビタールナトリウム30mg/kg筋注によりビーグル犬に麻酔し、実験全般にわたって塩酸ケタミンを筋注により補充した。麻酔後、周囲組織から左大腿静脈を分離した。6mmFcobra/Humterheadカテーテルのシースを左大腿静脈に挿入し、腎下部腹静脈、右心房、右心室、肺動脈を介して、最終的に右下肺動脈へ導入した。右下肺動脈に留置したカテーテルへ、人工血栓を注入した。1024×1024ピクセルのマトリックスによる高分解能の二方向血管造影装置で、選択的動脈内デジタルサブトラクション血管造影(DSA)を施行し、右下肺動脈の血栓塞栓症を記録した。あらかじめ作製した血栓を注入してから2時間後、単一用量の組換えFIIを大腿静脈から注入した。rFII注入前、注入から15分後、30分後、60分後、90分後、および120分後の横方向および前後方向(AP)の投影像により右下肺動脈血栓の再開率を測定して、動脈血栓に対するrFIIの作用を評価した。
【0128】
結果:組換えFII注入から1時間後に行った測定により、組換えFIIが右下肺動脈にあらかじめ作製した血栓を効率的に溶解することが示された(図22)。右下肺動脈血栓の平均再開通率は、83.3%であった。注入から1時間後に測定したNS対照群では、変化はほとんど認められなかった。右下肺動脈血栓の平均再開通率は、0.6%であった(表3)。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】DEAE‐Sephadex A‐50を用いた五歩蛇毒のイオン交換クロマトグラフィー
【図2】Sephadex G‐75を用いたFIIの1回目のゲル濾過
【図3】Sephadex G‐75を用いたFIIの2回目のゲル濾過
【図4】SDS‐PAGEによるFIIの分子量測定
【図5】SDS‐PAGEを用いたタンパク質マーカーの検量線
【図6】SDS‐PAGEによるフィブリノゲンの加水分解産物の分析
【図7】FIIの線溶活性
【図8】アガロース‐ホルムアルデヒド電気泳動による五歩蛇毒のtotal RNAの分析
【図9】五歩蛇毒のcDNAライブラリーの構造
【図10】モノクローナル抗体によりスクリーニングされた五歩蛇毒のcDNAライブラリーにおけるFIIの陽性結果
【図11】組み込まれたDNA分画の陽性クローン9個のシーケンス
【図12】FIIのDNAシーケンスから推測されるamoidシーケンス
【図13】大腸菌に発現しているFII融合タンパク質のSDS−PAGE分析
【図14】大腸菌におけるFIIの標的DNAベクターの2段階での構築
【図15】プラスミドPpic9k−FIIにおける二倍体の制限
【図16】SDS−PAGEによる上清のFIIの線溶活性
【図17】DEAE−Sepharoseを用いた上清のイオン交換クロマトグラフィー
【図18】Butyl‐toyopearlを用いた上清のクロマトグラフィー
【図19】SDS−PAGEによる組換えFIIの純度の測定
【図20】組換えFIIの直接的な線溶作用
【図21】SDS−PAGEによる組換えFIIのIgGおよびアルブミンに対する作用
【図22】組換えFIIのビーグル犬の肺動脈血栓症モデルに対する作用

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のように、1つ以上の部分配列を含む、単離されたポリヌクレオチド(NO.2遺伝子):
(A)以下のシーケンスを含むポリヌクレオチド:5’-aaaagagaggctgaagctaatcgtactcctgaacaacaaatctatgacccctacaaatacgttgagactgtctttgttgtggacaaagcaatggtcacaaaatacaatggcgatttagataagataaaaacaagaatgtacgaagctgccaacaatatgaatgagatgtacagatatatgttttttcgtgtagtaatggttggcctaataatttggaccgaagaagataagattaccgtgaagccagatgtggattatactttgaacgcatttgcagaatggagaaaaacatatttgctggctgagaaaaaacatgataatgctcagttaatcacgggcattgacttcagaggaagcattataggatacgcttacattggcagcatgtgccacccgaagcgttctgtaggaattattcaggattatagcccaataaatcttgtgcttgccgttataatggcccatgagatgggtcacaatctgggcattcaccatgacgacggttactgttattgcggtggttacccatgcattatgggtccctcgataagccctgaaccttccaaatttttcagcaattgtagttatatccaatgttgggactttattatgaatcacaacccagaatgcattgacaatgaacccttgggaacagatattatttcacctccactttgtggaaatgaacttttggaggcgtga‐3’(702bp)
(B)(A)と少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチド
(C)(A)または(B)のフラグメント
【請求項2】
ポリヌクレオチドがDNAである、請求項1記載のポリヌクレオチド
【請求項3】
請求項2のDNAを含むDNAベクター
【請求項4】
請求項3のベクター遺伝子により遺伝子操作された宿主細胞
【請求項5】
血栓塞栓性疾患に対しフィブリン(フィブリノゲン)溶解に使用し、請求項1または請求項2のポリヌクレオチドの生物活性を含む薬物併用法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2008−522633(P2008−522633A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545811(P2007−545811)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/CN2004/001457
【国際公開番号】WO2006/063486
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507197878)中山大学 (2)
【Fターム(参考)】