説明

亜鉛ボール及び亜鉛ボールの製造方法

【課題】従来公知の製造技術では製造が困難である寸法の高品質の亜鉛ボールを製造することが可能な製造技術を提供する。
【解決手段】亜鉛棒Sを温間で転造することにより先端から所定間隔で切断し、亜鉛ボールBを製造する方法であって、転造する際に亜鉛棒の温度を70℃以上、180℃以下に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛ボール及び亜鉛ボールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は、電気的に卑な元素であることから、様々な産業において利用されている。一般に、各産業で利用される亜鉛は、板、粒状などの基本的な形状に加工されてから搬送先に搬送され、搬送先でめっき電極や溶解原料等の本来の利用目的に用いられる。
【0003】
従来、亜鉛を搬送する際の基本的な形状としてインゴットが採用されることが多かったが、インゴットは大きくて嵩張るので搬送効率が悪いという問題があった。このため、インゴットの代わりに球状の亜鉛ボールに加工する製造技術が開発されてきた。
【0004】
特許文献1には、溶融亜鉛をノズルから滴下し、下部に配置した冷却媒体中で冷却凝固させることによって球状の亜鉛ボールを製造する製造技術が開示されている。上記特許文献1の製造技術では、直径10mm以下の亜鉛ボールを製造することが可能である。
【0005】
特許文献2には、ベルトコンベアに設けられた半球形状の鋳型に溶融亜鉛を充填して半球形状の亜鉛を連続的に成形し、成形された2つの半球形状の亜鉛を押し合わせることによって球形状の亜鉛ボールを製造する製造技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3281019号公報
【特許文献2】特開昭55−97862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造技術を用いた場合には、直径が10mmを超える亜鉛ボールの製造が困難であった。これは、直径10mm超の亜鉛ボールを製造するために溶融亜鉛を滴下するノズルの口を大きくすると、溶融亜鉛の表面張力が溶融亜鉛の重力よりも小さくなってしまい、ノズルの口から溶融亜鉛が流出してしまうからである。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の製造技術では鋳型による成形を行っているので溶融亜鉛を鋳型内に流し込む際に空気が混入してしまうことや、溶融亜鉛を冷却して凝固させる際に空洞部が生じてしまうことが多く、亜鉛ボールを直径60mm以下の小さい寸法で製造することが難しかった。特に、製造された亜鉛ボールの外面が望ましい球形状に形成されないうえに、その内部に断面積の10%程度の巣ができてしまうという問題があった。
【0008】
このため、上記特許文献2の製造技術により製造された亜鉛ボールは品質が悪く、密度も6.4g/cm程度と非常に低いので、産業上の利用範囲が極めて限定されていた。例えば、溶解炉中の溶融亜鉛を補充する際に、上記特許文献2の製造技術で製造した低品質の亜鉛ボールを用いた場合には、亜鉛ボールの内部に含まれる空気によって溶融亜鉛が水蒸気爆発してしまう恐れがあり、非常に危険である。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、従来公知の製造技術では製造が困難である寸法の高品質の亜鉛ボールを製造することが可能な製造技術を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明によれば、亜鉛棒を転造することにより先端から所定間隔で切断し、亜鉛ボールを製造する方法であって、転造する際に亜鉛棒の温度を70℃以上、180℃以下に設定することを特徴とする、亜鉛ボールの製造方法が提供される。
【0011】
上記亜鉛ボールの製造方法において、転造機内の温度を70℃以上、90℃以下に設定するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、密度が7.1g/cm以上であり、直径が18〜55mmであることを特徴とする、亜鉛ボールが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来公知の製造技術では製造が困難である直径18mm〜55mmの亜鉛ボールを製造することができる。特に、製造の際に亜鉛ボールの内部に生じる巣を低減又は防止し、亜鉛ボールを7.1g/cm以上の高密度に製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明をする。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る亜鉛ボールの製造に用いる製造装置Mの一例を示す構成図である。図1に示すように、製造装置Mは、溶融亜鉛Lから亜鉛棒Sを製造する亜鉛棒製造装置1の下流に、この亜鉛棒製造装置1で製造された亜鉛棒Sを転造して亜鉛ボールBにする転造機3を設けた構成を有する。なお、図1中では、処理される溶融亜鉛L(亜鉛棒S)が水平方向に左から右に進行する。転造機3の下流には、亜鉛ボールBを(図1の紙面に垂直に、手前から奥に向かう方向に)搬出する搬出台6が配置されている。本実施の形態では、亜鉛棒製造装置1、転造機3及び搬出台6は、支持台5の上に設置されている。
【0016】
亜鉛棒製造装置1は、亜鉛の連続鋳造装置2を備えている。図1に示すように、亜鉛棒製造装置1は、溶融亜鉛Lから亜鉛棒Sを連続鋳造する連続鋳造装置2の下流に、連続鋳造装置2で鋳造された亜鉛棒Sを切断する切断機14が設けられた構成を有する。切断機14の下流には、切断した亜鉛棒Sを転造機3に搬送する搬送台4が配置されている。
【0017】
連続鋳造装置2は、溶湯としての溶融亜鉛Lが充填された溶湯容器10と、この溶湯容器10の低位置に設けられ、溶湯容器10から排出された溶融亜鉛Lを冷却して亜鉛棒Sに鋳造する鋳型部11と、鋳型部11から排出された亜鉛棒Sを案内する搬送テーブル12と、亜鉛棒Sを水平方向に案内し、鋳型部11から引抜くピンチロール13とが、水平方向に順に(図1中、左から右に)配置された構成を有する。本実施の形態では、99.9%以上の純度の亜鉛棒Sを製造することが可能である。
【0018】
溶湯容器10は、図1に示すように、上面が開放された直方体形状をしている。溶湯容器10の上部には、亜鉛の電気炉(図示せず)が設置され、この電気炉から溶融亜鉛Lが補充され、レーザーを用いた湯面調整装置(図示せず)によって、湯面の高さが所定の高さ(例えば、300mm)以上に保持されるように構成されている。本実施の形態では、溶湯容器10は、内部の溶融亜鉛Lを加熱可能なバーナ(図示せず)を備えており、内部に充填された溶融亜鉛Lを500℃以上に加熱及び恒温保持できるようになっている。また、溶湯容器10は、内部の溶融亜鉛Lを撹拌可能な撹拌装置(図示せず)を備えている。
【0019】
図2は、溶湯容器10の切断機14側の外側面の低位置に設けられた鋳型部11と、溶湯容器10の内部の一部との鉛直方向の断面を拡大して示した拡大断面図である。図2に示すように、溶湯容器10は、その内面がキャスター材20で被覆されている。また、溶湯容器10の外底面及び外側面には、例えば鉄等の外壁22が設けられている。溶湯容器10の底部では、内側のキャスター材20と外側の外壁22との間に、上から順に断熱煉瓦25及び断熱材21が設けられている。溶湯容器10の側部では、後述するように鋳型部11が設けられた部分を除き、内側のキャスター材20と外側の外壁22との間に耐熱煉瓦25が設けられている。
【0020】
図2に示すように、鋳型部11が設けられた溶湯容器10の側部の低位置では、内側のキャスター材20と外側の外壁22との間に、耐熱煉瓦25の代わりに内面と同じキャスター材20で形成された排出部30が設けられている。そして、この排出部30と、その両側のキャスター材20及び外壁22を水平方向に貫通する開口部31が設けられている。この開口部31は、キャスター材20、排出部30及び外壁22を貫通し、水平方向に伸びる単一のスリット形状になっている。また、開口部31は、外壁22の位置で、後述するセラミックススリーブ45の水平方向に伸びる単一のスリット形状の孔に連通している。なお、図2に示すように、排出部30は、外壁22の位置で開口部31に沿って外側に突出した形状を有し、この突出部の外面が、外壁22の開口部31における矩形状内面と適合している。即ち、開口部31と外壁22との間には排出部30が介在している。外壁22には、開口部31に各々連通する6つの円筒形状の鋳型部11が、開口部31の長手方向に沿って設けられている。図3は、切断機14側から鋳型部11を視た側面図である。
【0021】
図2及び図3に示すように、6つの鋳型部11の各内面には、カーボンで形成されたカーボンスリーブ35が各々配置されている。本実施の形態では、6つのカーボンスリーブ35の内径は、全て同一であり、開口部31の6つの円形孔の内径よりも小さくなっている。また、6つの鋳型部11の外面には、これら6つの鋳型部11全部を覆う水冷銅ジャケット36が取付けられている。水冷銅ジャケット36の溶湯容器10側下部には、その内部に冷却水を供給する流入口40が設けられている。また、水冷銅ジャケット36の上部には、供給された冷却水を排出する流出口41が、各鋳型部11に対して各々2つずつ設けられている。
【0022】
カーボンスリーブ35と開口部31との間には、溶湯容器10側から順に、第1の断熱材としてのセラミックスで形成されたセラミックススリーブ45と、第2の断熱材としてのセラミックスファイバーキャストで形成されたセラミックスファイバースリーブ46とが設けられている。セラミックススリーブ45に用いるセラミックスとしては、亜鉛との濡れ性(即ち、反応性)が低く、熱衝撃に強いセラミックスが好ましく、本実施の形態では、そのようなセラミックスとして、シリカ(SiO)が99.7質量%を占め、残部がアルミナ(Al)で構成されたセラミックスを用いている。また、本実施の形態では、セラミックスファイバースリーブ46に用いるセラミックスファイバーキャストとしては、シリカ及びアルミナを含有し、亜鉛との濡れ性(即ち、反応性)が低く、断熱性の高いファイバーキャストを用いている。このセラミックスファイバースリーブ46は、セラミックスファイバーをバインダで固めてから、このバインダを揮発させることによって製造している。
【0023】
図2に示すように、セラミックススリーブ45は、外壁22に固定された固定板50に、ねじ等の固定具(図示せず)によって固定されている。その際に、図2に示すように、セラミックススリーブ45の溶湯亜鉛の鋳造部と外壁22との間には、排出部30のキャスター材(即ち、キャスター材20と同じキャスター材)が位置するように構成されている。セラミックススリーブ45は、その内部において、開口部31側から連通して水平方向に伸びる単一のスリット形状の孔が、外壁22の位置で水平方向に並んだ6つの円形孔に分岐した構成をしている。セラミックススリーブ45の内面は、開口部31側からカーボンスリーブ35側に向かって狭くなっており、排出部30の開口部31及びカーボンスリーブ35の両方の内面と整合するように構成されている。セラミックススリーブ45の各円形孔には、カーボンスリーブ35側に、カーボンスリーブ35の外径と同じ大きさの内径の環状溝が各々形成されている。セラミックススリーブ45のこの環状溝には、鋳造した亜鉛棒Sの軸を合わせるため、カーボンスリーブ35と同じ内外径のセラミックスファイバースリーブ46を介して、カーボンスリーブ35が嵌込まれて接続されている。
【0024】
本発明者らが、種々研究した結果、容器に充填された亜鉛溶湯を鋳造する際に、その熱効率を上げるためには、容器の内側に断熱材を設置することが好ましく、その断熱材は単一でもよいが、図2に示すように、複数の特性の異なる材料を使用することによって、さらに熱効率を上げて、容器の耐久性を向上させることができることが分かった。また、溶融亜鉛は湯流れ性が良いため、溶融亜鉛と反応しない、例えばセラミックス接着剤等で断熱材間を封止することが好ましいことが分かった。
【0025】
搬送テーブル12は、図1に示すように、亜鉛棒Sの長手方向と直交する回転軸を備えた搬送ロールを搬送方向に沿って複数有し、上面に載置された亜鉛棒Sを溶湯容器10側から切断機14側に水平方向に案内するようになっている。本実施の形態では、6つの鋳型部11で成形された6本の亜鉛棒Sに対応するように、上述した複数の搬送ロールが、搬送方向と直交する方向に沿って6列設けられている。
【0026】
ピンチロール13は、亜鉛棒Sの長手方向と直交する回転軸を備えた一対の上下ロールで構成されている。上下ロールには、円周面に沿った複数の溝が上下で整合する位置に各々設けられており、整合する上下の溝の間に亜鉛棒Sを挟持しながら回転することによって、亜鉛棒Sを鋳型部11から引き抜くように構成されている。本実施の形態では、6つの鋳型部11で各々成形した6本の亜鉛棒Sに対応する位置に、各々6つの溝が設けられている。
【0027】
切断機14は、6本の亜鉛棒Sを長手方向と直交する方向に沿って一度に切断し、各亜鉛棒Sを長手方向において所定の長さに切断するように構成されている。
【0028】
搬送台4は、その上面に載置された亜鉛棒Sを溶湯容器10側から転造機3側に水平方向に案内して搬送するように、亜鉛棒Sの長手方向と直交する回転軸を備えた搬送ロールを搬送方向に沿って複数有している。また、搬送テーブル12と同様に、切断機14経由で進入した6本の亜鉛棒Sに対応するように、複数の搬送ロールが搬送方向と直交する方向に沿って6列設けられている。なお、搬送台4は、切断機14で切断された後に搬送台4の上面に残留する6本の亜鉛棒Sを1本ずつ転造機3の入側に配置できるように、亜鉛棒Sの搬送方向と直交する方向に移動可能に構成されている。
【0029】
図4を用いて転造機3の構成について説明する。図4は、転造機3を水平面で視た構成図である。図4に示すように、転造機3は、略直方体形状のケーシング60内に一対の転造ロール65、66を備えた構成になっている。これらの転造ロール65、66は、搬送台4の搬送によりケーシング60内に水平方向に進入した亜鉛棒Sを両側から挟み込んで転造できるようになっている、本実施の形態では、転造ロール65、66の各回転軸は、亜鉛棒Sと同一水平面内に配置され、亜鉛棒Sの搬送方向下流側で亜鉛棒S側に若干傾斜した構成を有する。なお、転造ロール65、66の回転軸が、亜鉛棒Sと平行に配置されていてもよい。
【0030】
図4に示すように、転造ロール65、66には、各々スパイラル形状の凸部70が設けられている。転造ロール65、66は、モータ(図示せず)等によって各々回転されることによって、両転造ロール65、66の凸部70が、亜鉛棒Sを長手方向において所定間隔(即ち、スパイラル形状のピッチ)で挟み込んで圧力を加えながら回転させ、亜鉛棒Sを圧縮しながら搬送方向に送込むように構成されている。上述したように、両転造ロール65、66は、搬送方向下流側において、より亜鉛棒Sに近付くように配置されているため、亜鉛棒Sは、搬送方向下流側に進行するに従ってより圧縮されるようになっている。この圧縮により、亜鉛棒Sが長手方向において搬送方向下流側の先端から所定間隔で順に切断され、亜鉛ボールBが形成されるようになっている。形成された亜鉛ボールBは重力によって下側に落下して搬出台6に移動するように構成されている。なお、本実施の形態では、転造ロール65、66が同一方向に回転するように構成されている。
【0031】
転造機3は、図4に示すように、搬送台4からの亜鉛棒Sが搬送される入側に亜鉛棒Sを冷却する冷却装置71を備えている。本実施の形態では、冷却装置71として、例えば冷却水等の冷却媒体を亜鉛棒Sに向けて噴射するホースが用いられている。また、転造機3の入側には、亜鉛棒Sの温度を測定可能な温度センサ75が設けられている。これにより、温度センサ75で測定される温度に基づいて冷却装置71から噴射する冷却水の水量、温度等を調整し、転造前の亜鉛棒Sの温度を制御することが可能である。なお、転造前の亜鉛棒Sの温度を制御する別の方法として、連続鋳造装置2の出側にて亜鉛棒Sの温度をセンサで測定し、鋳型部11での冷却を調整すると共に、その後の工程の切断、転造までの時間を管理するようにしてもよい。
【0032】
さらに、転造機3のケーシング60内にもケーシング60内を冷却する冷却装置76と、ケーシング60内の温度を測定する温度センサ77が設けられている。本実施の形態では、冷却水を亜鉛棒Sに向けて噴射する冷却装置76が用いられている。これにより、温度センサ77で測定される温度に基づいて冷却装置76から噴射する冷却水の水量、温度等を調整し、転造機3内の温度を制御することができる。
【0033】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る亜鉛ボールの製造装置Mを用いて、溶融亜鉛Lから亜鉛棒Sを鋳造し、鋳造した亜鉛棒Sから亜鉛ボールBを製造する方法について図1〜図4を用いて説明する。
【0034】
溶湯容器10の上部に設けた亜鉛の電気炉(図示せず)から、溶湯容器10内に、溶融亜鉛Lを充填し、撹拌装置(図示せず)を用いて撹拌しながら530〜580℃以上に恒温保持する。この際に、溶融亜鉛Lの温度が低下しないように、バーナ(図示せず)を用いて溶融亜鉛Lを適宜加熱する。
【0035】
撹拌により溶湯容器10内で均一に530℃以上の温度に保持された溶融亜鉛Lが、図2に示すように、溶湯容器10内から開口部31を通して、6つの鋳型部11に送出されることによって、亜鉛棒Sの製造が開始する。なお、この送出によって、溶湯容器10内の溶融亜鉛Lが減少したら、随時、亜鉛の電気炉(図示せず)から溶融亜鉛Lを溶湯容器10内に補充する。また、湯面調整装置(図示せず)を用いて、溶湯容器10内の溶融亜鉛Lの湯面の高さを、所定の高さ(例えば、300mm)に保持する。なお、溶融亜鉛Lの湯面の、この所定の高さは、溶融亜鉛Lを連続鋳造して得られる亜鉛棒Sの強度を十分に大きくする値に設定する。
【0036】
溶湯容器10内から6つの鋳型部11に向けて送出された溶融亜鉛Lは、溶湯容器10のキャスター材20及び排出部30を通って開口部31を進行し、外壁22の位置において、セラミックススリーブ45内で6つの円形孔で分岐して進行する。セラミックススリーブ45内で分岐して進行した溶融亜鉛Lは、各円形孔に連通するセラミックスファイバースリーブ46を通って6つの鋳型部11の各カーボンスリーブ35内に各々進入する。本実施の形態では、セラミックススリーブ45の入側の溶融亜鉛Lの温度は、溶湯容器10内の溶融亜鉛Lの温度と概ね同じ530〜580℃になっている。
【0037】
カーボンスリーブ35の外面に取付けられた水冷銅ジャケット36の内部には、溶湯容器10側下部の流入口40から流入し、上部の流出口41から流出する冷却水が循環して流れているため、カーボンスリーブ35内を進行する溶融亜鉛Lは進行に伴い徐々に冷却される。冷却水の温度及び流量を調整することによって、溶融亜鉛Lが、鋳型部11のカーボンスリーブ35内で凝固点(419℃)以下まで冷却され、搬送方向下流側から円筒形状の亜鉛棒Sに連続鋳造される。なお、本実施の形態では、カーボンスリーブ35の入側の溶融亜鉛Lの温度は、420〜430℃になっている。
【0038】
溶湯容器10の開口部31と鋳型部11との間に、セラミックススリーブ45とセラミックスファイバースリーブ46を、溶融容器10側から順に設けたことによって、開口部31側で溶融亜鉛Lの高温に曝されるセラミックススリーブ45に対するカーボンスリーブ35側からの冷却の影響が緩和され、カーボンスリーブ35に加わる熱衝撃を緩和することができる。さらに、溶湯容器10の内面に設けたキャスター材20と同一のキャスター材20で形成された排出部30を設けたことによって、セラミックススリーブ45の開口部31側からの加熱の影響を低減することができ、カーボンスリーブ35に加わる熱衝撃をさらに緩和することができる。
【0039】
上述したように、溶湯容器10から鋳型部11に溶融亜鉛Lを中継するセラミックススリーブ45に対して加わる温度差の熱衝撃を緩和することができるため、溶融亜鉛Lから亜鉛棒Sを連続鋳造する際に、セラミックススリーブ45の溶湯容器10側及び鋳型部11側の両側の溶融亜鉛Lの温度を、従来公知の技術では困難であった適切な温度に設定することが可能になる。具体的には、セラミックススリーブ45の開口部31側の溶融亜鉛Lの温度を、溶融亜鉛Lの流動性が高く、カーボンスリーブ35内で凝固させる際に、鋳造体表面に凹凸が生じる恐れのない最適温度である530℃以上に設定することが可能になる。また、セラミックススリーブ45のカーボンスリーブ35側の溶融亜鉛Lの温度を、溶融亜鉛Lがカーボンスリーブ35で適切に凝固する最適温度である420〜430℃に設定することが可能になる。
【0040】
6つの鋳型部11で各々連続鋳造された6本の亜鉛棒Sは、図1に示すように、鋳型部11のカーボンスリーブ35内を退出した後、水平方向に進行し、亜鉛棒Sを案内する搬送テーブル12の上面を経由してピンチロール13の上下ロールの間に水平方向に進入する。ピンチロール13に進入した6本の亜鉛棒Sは、ピンチロール13の上下ロールの上下で整合する各溝の間に各々挟持され、ピンチロール13の回転によって、各鋳型部11から引抜かれて搬送方向下流にある切断機14側に送出される。即ち、亜鉛棒Sは、溶湯容器10側から切断機14側への水平方向の進行が付勢される。本実施の形態では、ピンチロール13による亜鉛棒Sの引抜きは、0.2秒の引抜き動作と0.8秒の停止動作を繰返すことによって断続的に行っている。
【0041】
上述したようにピンチロール13によって送出されて、ピンチロール13を退出した6本の亜鉛棒Sは、水平方向に進行して切断機14に進入する。6本の亜鉛棒Sが切断機14及び搬送台4上で、長手方向において所定の長さに達すると、6本の亜鉛棒Sは、切断機14によって長手方向と直交する方向に沿って一度に切断される。これにより、搬送台4上には、切断機14で切断された6本の亜鉛棒Sが残される。
【0042】
上述のように切断機14で切断され、搬送台4上に残留した6本の亜鉛棒Sは、搬送台4の移動(搬送方向と直交する方向の移動)によって、転造機3の入側に1本ずつ順に配置される。転造機3の入側に配置された亜鉛棒Sは、搬送台4によって搬送され、図4に示すように先端から転造機3内に進入する。この進入と共に亜鉛棒Sに対する転造作業が後述するようにして行われる。転造機3内に進入する亜鉛棒Sは、転造機3の入側を通過する際に冷却装置71としてのホースから冷却水が噴射されて所定の温度に冷却される。本実施の形態では、転造機3の入側における亜鉛棒Sの温度が120℃になるように設定されている。転造する際に亜鉛棒Sの温度を70〜180℃に設定するのが好ましい。
【0043】
進入させた1本目の亜鉛棒Sの転造作業の終了後、残り5本の亜鉛棒Sのうちの1本が転造機3の入側に配置され、1本目と同様に搬送台4によって搬送されて転造機3内に進入し、転造作業が行われる。以下、同様にして搬送台4上に残留した亜鉛棒Sがなくなるまで同じ手順が繰返される。そして、6本の亜鉛棒Sの転造作業が全て終了すると、空になった搬送台4は、切断機14が亜鉛棒Sを切断する際に停止していた最初の位置に戻る。ピンチロール13によって送出された6本の亜鉛棒Sが切断機14によって切断され、搬送台4上に新たな6本の亜鉛棒Sが供給される。以下、同様にして6本の亜鉛棒Sが供給される度に上述の作業が繰返される。
【0044】
転造機3内での亜鉛棒Sの転造作業について説明する。転造機3内に進入した亜鉛棒Sは、一対の転造ロール65、66のスパイラル形状の凸部70によって両側から挟まれて圧力が加えられ、圧縮されながら回転し、亜鉛棒Sの長手方向に沿って搬出台6側に送込まれる。両転造ロール65、66は、搬送方向下流側でより亜鉛棒Sに近付くように、各回転軸が傾斜して配置されているため、亜鉛棒Sが搬送方向下流側に進行するに従ってより圧縮され、最終的には、長手方向において所定の長さで切断されて、亜鉛ボールBが形成される。転造作業が行われる転造機3内では転造により熱が発生するが、冷却装置76としてのホースから冷却水が噴射されて所定の温度に冷却されている。本実施の形態では、転造機3内の温度は80℃になるように設定されている。なお、転造する際に転造機3内の温度を70〜90℃に設定するのが好ましい。
【0045】
形成された亜鉛ボールBは、重力により下側に落下して搬出台6に移動する。搬出台6に移動した亜鉛ボールBは、搬出台6によって搬出される。
【0046】
以上の実施の形態によれば、亜鉛棒Sを転造する際に冷却装置71で冷却し、亜鉛棒Sの温度を70℃以上、180℃以下に設定したことによって、亜鉛棒Sの加工性を最適化でき、従来公知の製造技術では困難であった直径10〜55mmの球状の亜鉛ボールBを製造することが可能になる。特に、冷却装置76を用いて転造機3内の温度が70℃以上、90℃以下になるように設定すると、亜鉛棒Sの転造加工をより好適に行うことができる。これに対して、転造する亜鉛棒Sの温度が180℃を超過する場合には、亜鉛棒Sが軟らか過ぎるために、転造ロール65、66によって両側から圧力を加える際に形状が崩れてしまい、亜鉛ボールBを真球度の高い球形状に製造することができない。また、亜鉛棒Sの温度が70℃未満である場合には、亜鉛棒Sが硬過ぎるために、転造ロール65、66による転造を行う際に亜鉛棒Sの研削抵抗が高く、真球度の高い球形状の亜鉛ボールBを製造できない。本願発明に従い製造した亜鉛ボールBは、真球度が高い球形状であるため、容易に転がすことが可能であるうえに、搬送の際における充填率も高く、作業効率及び搬送効率を著しく向上させる効果がある。なお、上述したように真球度が高いとは、具体的には、水平面に対して15度の傾斜を付けた1m長の傾斜面に亜鉛ボールBを置いた場合に、途中で止まらずに傾斜面を転がり落ちる形状であることを意味する。
【0047】
さらに、亜鉛ボールBを亜鉛棒Sから転造して成形するようにしたことによって、密度が7.1g/cm以上で、純度が99.9%以上である非常に高品質の亜鉛ボールBを製造することが可能になる。また、亜鉛ボールBを溶融亜鉛から直接的に鋳造して製造する際に内部に生じる巣を除去又は低減化することができる。このため、本願発明による亜鉛ボールBは、従来公知の製造技術で製造した亜鉛ボールを利用できない又は利用が難しい種々の産業に利用することができる。例えば、本願発明による亜鉛ボールBは、その内部に巣等の空洞をほとんど有していないので、溶解炉中の溶融亜鉛に補充する亜鉛として用いた場合に水蒸気爆発を発生させる可能性が低く、安全な補充が可能である。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0049】
上述した実施形態では、亜鉛の鋳造装置として連続的に鋳造を行う連続鋳造装置2を用いる場合について説明したが、亜鉛の鋳造装置は、連続鋳造装置以外の鋳造装置であってもよい。
【0050】
上述した実施形態では、亜鉛の連続鋳造装置2が、切断機14を含まない構成である場合について説明したが、亜鉛の連続鋳造装置2が切断機14を含む構成であってもよい。
【0051】
上述した実施形態では、溶融亜鉛Lを充填させる容器が内部に充填された溶融亜鉛Lを加熱するバーナ(図示せず)を備えた溶湯容器10である場合について説明したが、容器がヒータ等のバーナ以外の加熱手段を備えていてもよいし、容器として炉を用いてもよい。
【0052】
上述した実施形態では、溶湯容器10の内面がキャスター材20で被覆されている場合について説明したが、被覆する材料としてキャスター材以外の材料を用いてもよい。
【0053】
上述した実施形態では、第1の断熱材として、シリカ(SiO)が99.7質量%を占め、残部がアルミナ(Al)で構成されたセラミックスを用いる場合について説明したが、セラミックスはその他の構成であってもよいし、第1の断熱材はセラミックス以外であってもよい。
【0054】
上述した実施形態では、第2の断熱材として、シリカ及びアルミナを含有するセラミックスファイバーキャストを用いる場合について説明したが、第2の断熱材は、セラミックスファイバーキャスト以外の断熱材であってもよい。
【0055】
上述した実施形態では、セラミックスファイバースリーブ46を、セラミックスファイバーをバインダで固めてから、このバインダを揮発させることによって製造されている場合について説明したが、セラミックスファイバースリーブ46は、その他の方法で製造されていてもよい。
【0056】
上述した実施形態では、溶湯容器10に設けた鋳型部11の個数が6である場合について説明したが、鋳型部11の個数は6以外の任意の数であってもよい。また、セラミックススリーブ45内で単一のスリット形状の孔から分岐する円形孔の個数が任意の数であってもよい。さらに、搬送テーブル12、ピンチロール13及び切断機14が処理可能な亜鉛棒Sの個数も6以外の任意の数であってもよい。
【0057】
上述した実施形態では、開口部31が水平方向に伸びるスリット形状に構成されている場合について説明したが、開口部31の形状はその他の形状であってもよい。
【0058】
上述した実施形態では、鋳型部11の内面が円筒形状である場合について説明したが、鋳型部11の内面は円筒形状以外の形状であってもよい。
【0059】
上述した実施形態では、ピンチロール13が断続的に亜鉛棒Sの引抜きを行う場合について説明したが、ピンチロール13が連続的に亜鉛棒Sの引抜きを行うようにしてもよい。
【0060】
上述した実施形態では、搬送台4が搬送ロールを備えた構成である場合について説明したが、搬送台4が搬送ロールを備えていない構成等、その他の構成であってもよい。搬送台4が搬送ロールを備えていない構成の一例として、例えば搬送台4の上面を傾斜面にすることによって、切断機14で切断した亜鉛棒Sを重力で転がして転造機3の入側に配置する構成であってもよい。また、このようにして転造機3の入側に配置された亜鉛棒Sを1本ずつ転造機3内に押込む機構を設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0061】
本発明を、実施例と比較例を用いて説明する。
【0062】
以下に示す表1、2において、実施例1〜7の各データは、図1に示す本発明の製造方法を用いて製造した亜鉛ボールの各特性を各々示し、比較例1〜4の各データは本発明の製造方法を用いずに製造した亜鉛ボールの各特性を示している。
【0063】
<転造する際の亜鉛棒の温度の条件比較>
下記表1では、図4に示す転造機3内で亜鉛棒Sを転造する際の亜鉛棒Sの温度条件を変更した比較結果が示されている。即ち、実施例1〜4の各データでは、本発明の製造方法に従って、転造機3内で転造する際に亜鉛棒Sの温度を70〜180℃に設定して転造を行ったのに対し、比較例1、2の各データでは、亜鉛棒Sの温度を70℃未満又は180℃超に設定して転造を行い、亜鉛ボールBを製造した。亜鉛棒Sの温度は、転造機3の入側に設けた温度センサ75で測定し、冷却装置71としてのホースから亜鉛棒Sに冷却水を噴射することによって温度調整を行った。
【0064】
また、下記表1に記載の外観検査の欄では、製造された亜鉛ボールBの球形状の真球度により判定した。判定方法としては、水平面に対して15度の傾斜を付けた1m長の傾斜面に亜鉛ボールBを置き、途中で止まらずに傾斜面を転がり落ちるか否かによって判定した。なお、傾斜面の材料としては、市販されている表面が鏡面状態のステンレス鋼を用いた。完全に転がり落ちた場合に真球度が高くて品質が良いと判定(○印)し、途中で止まってしまった場合に真球度が低くて品質が悪いと判定(×印)した。
【0065】
【表1】

【0066】
上記表1に示されるように、転造を行う際の亜鉛棒の温度を本発明に従って70〜180℃に設定した場合には、真球度の高い球形状である亜鉛ボールが製造できているのに対し、亜鉛棒の温度が70℃未満又は180℃超である場合には、製造された亜鉛ボールは、真球度の低い球形状になってしまっていることが分かる。
【0067】
<転造する際の転造機内の温度の条件比較>
下記表2では、図4に示す転造機3内で転造する際の転造機3内の温度条件を変更した比較結果が示されている。即ち、実施例5〜7の各データでは、本発明の製造方法に従って、転造機3内の温度を70〜90℃に設定して転造を行ったのに対し、比較例3、4の各データでは、転造機3内の温度を70℃未満又は90℃超に設定して転造を行い、亜鉛ボールBを製造した。転造機3内の温度は、転造機3のケーシング60内に設けた温度センサ77で測定し、冷却装置76としてのホースから転造機3内に冷却水を噴射することによってケーシング60内の温度調整を行った。
【0068】
なお、実施例5〜7及び比較例3、4の各データでは、転造する亜鉛棒Sの温度がいずれも120℃に設定されている。亜鉛棒Sの温度は、転造機3の入側に設けた温度センサ75で測定し、冷却装置71としてのホースから亜鉛棒Sに冷却水を噴射することによって温度調整を行った。
【0069】
また、下記表2に記載の外観検査の欄では、製造された亜鉛ボールBの球形状の真球度により判定した。判定方法としては、水平面に対して15度の傾斜を付けた1m長の傾斜面に亜鉛ボールBを置き、途中で止まらずに傾斜面を転がり落ちるか否かによって判定した。完全に転がり落ちた場合に真球度が高くて品質が良いと判定(○印)し、途中で止まってしまった場合に真球度が低くて品質が悪いと判定(×印)した。
【0070】
【表2】

【0071】
上記表2に示されるように、転造を行う際に転造機3内の温度を本発明に従って70〜90℃に設定した場合には、真球度の高い球形状である亜鉛ボールが製造できているのに対し、転造機3内の温度が70℃未満又は90℃超である場合には、製造された亜鉛ボールは、真球度の低い球形状になってしまっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば溶融亜鉛から亜鉛ボールを製造する製造装置に適用する際に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態に係る亜鉛ボールの製造に用いる製造装置の一例としての製造装置Mの構成図である。
【図2】溶湯容器10の切断機14側の外側面の低位置に設けられた鋳型部11と、溶湯容器10の内部の一部との鉛直方向の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図3】切断機14側から鋳型部11を視た側面図である。
【図4】転造機3を水平面で視た構成図である。
【符号の説明】
【0074】
1 亜鉛棒製造装置
2 亜鉛の連続鋳造装置
3 転造機
4 搬送台
5 支持台
6 搬出台
10 溶湯容器
11 鋳型部
12 搬送テーブル
13 ピンチロール
14 切断機
20 キャスター材
21 底面の断熱材
22 外壁
25 耐熱煉瓦
30 排出部
31 開口部
35 カーボンスリーブ
36 水冷銅ジャケット
40 流入口
41 流出口
45 セラミックススリーブ
46 セラミックスファイバースリーブ
50 固定板
60 ケーシング
65、66 転造ロール
70 転造ロールの凸部
71、76 冷却装置
75、77 温度センサ
B 亜鉛ボール
L 溶融亜鉛
M 亜鉛ボールの製造装置
S 亜鉛棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛棒を転造することにより先端から所定間隔で切断し、亜鉛ボールを製造する方法であって、
転造する際に亜鉛棒の温度を70℃以上、180℃以下に設定することを特徴とする、亜鉛ボールの製造方法。
【請求項2】
転造機内の温度を70℃以上、90℃以下に設定することを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛ボールの製造方法。
【請求項3】
密度が7.1g/cm以上であり、直径が18〜55mmであることを特徴とする、亜鉛ボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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