説明

亜鉛原料の処理方法

【課題】
湿式亜鉛製錬における亜鉛原料の処理において、前記亜鉛原料を硫酸酸性溶液で処理する際に、当該硫酸酸性溶液へ溶出したシリカ等を、迅速かつ固液分離容易な形態で析出沈殿させる。
【解決方法】
湿式亜鉛製錬における電解尾液の液体部分と脱鉄后液とを混合して浸出液とし、加温した後、当該湿式亜鉛製錬にて産出される所定量のPb・Ag残査を、添加物として当該浸出液へ投入し、亜鉛原料の焙焼物を浸出する。そして、浸出完了後、得られた浸出液に凝集剤を添加し、溶出したシリカ等をスラリーとして分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式亜鉛製錬における亜鉛原料の湿式処理工程に関し、特に、前記亜鉛原料を硫酸酸性溶液で浸出した後に、シリカの沈降性・ろ過性を向上させる亜鉛原料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬は、ZnSを主成分とする鉱石を選鉱して亜鉛原料とし、当該亜鉛原料の焙焼物を硫酸酸性溶液を用いて浸出し、得られた浸出液を固液分離して亜鉛浸出残査を除去した後、さらに浄液し、当該液体部分より電解採取を経て電気亜鉛を得ている。このとき前記鉱石に不純物が多く存在すると、亜鉛製錬工程の操業において様々な課題が発生する。
例えば、前記亜鉛原料に不純物としてFeやSiが多く含有されていると、焙焼物の浸出後に生成する亜鉛浸出残渣の沈降性が悪化する。特に、不純物がSi化合物であるシリカであると、その含有量が多くなるに従い当該シリカがゲル化し、前記亜鉛浸出残渣と絡み合うため、前記固液分離工程の沈降性・ろ過性が著しく悪くなる。そこで、前記固液分離工程における沈降性・ろ過性を向上させるため、特許文献1を始めとする提案がされている。
【0003】
【特許文献1】特許第3464602号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1は、前記固液分離工程における沈降性・ろ過性を向上させるため、浸出工程において、浸出を行う酸溶解槽内の組成物中のシリカの量に応じ、所定量以上の可溶性シリカ、またはシリカを含有する亜鉛浸出残渣を前記溶解槽へ供給することを提案している。
【0005】
しかし、本発明者らが検討したところ、当該浸出工程において酸溶解槽における組成物中のシリカの量に応じ、所定量以上の可溶性シリカを前記溶解槽へ供給しても、前記固液分離工程におけるシリカの沈降性・ろ過性の向上は、満足できる水準ではなかった。
【0006】
ここで本発明者らは、シリカの有する前記浸出工程における亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性の向上に対する寄与を確認するため、浸出に用いる硫酸酸性溶液へ、予めシリカゲルを濃度10g/Lとなるように添加して亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性を評価した。ところが、亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性の向上に対する、当該シリカゲル添加の寄与を確認することが出来なかった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するために成されたものであり、工程の複雑化や浸出時間の延長をもたらすことなく、固液分離工程においてシリカの沈降性・ろ過性を向上させる亜鉛原料の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を続け試行錯誤の結果、前記浸出工程で用いる硫酸酸性溶液へ、亜鉛製錬工程で産出するPb・Ag残査を添加した後に当該浸出を行うと、固液分離工程においてシリカの沈降性・ろ過性が向上することを見出した。本発明者らは、この知見を出発点として研究を続け、当該Pb・Ag残査に含有されるSiO2以外の成分であるPbSO4、PbS、PbOに注目した。そして、これらのPb化合物の試薬を準備して当該Pb化合物の所定量を浸出に用いる硫酸酸性溶液に添加して、亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性を評価することとし、予めPbSO4、PbS、PbOを各々濃度10g/Lとなるように添加して3種類の硫酸酸性溶液を調製し、亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性を評価した。ところが、いずれの硫酸酸性溶液も亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性の向上に対する寄与を確認することが出来なかった。
【0009】
ここで本発明者らは発想を転換し、上述したPbSO4とSiO2との両方を添加することで、固液分離工程においてシリカの沈降性・ろ過を向上させることが出来るのではないかと考え、PbSO4とSiO2との混合物を添加した硫酸酸性溶液を用いたところ、固液分離工程においてシリカの沈降性・ろ過性が向上することを見出し、本発明に想到した。
【0010】
本発明者らは、上述したPbSO4とSiO2との混合物へ、さらにAgを添加すると、固液分離工程におけるシリカの沈降性・ろ過性をさらに向上出来ることも見出した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の手段は、
亜鉛原料から亜鉛を抽出する湿式亜鉛製錬工程において、
焙焼した亜鉛原料を、硫酸酸性溶液を用いて浸出する際、
PbSO4とSiO2との存在下で、硫酸酸性溶液を用いて、浸出をおこなうことを特徴とする亜鉛原料の処理方法である。
【0012】
第2の手段は、
第1の手段に記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L以上、且つSiO2が1g/L以上となるように、PbSO4とSiO2とを添加することを特徴とする亜鉛原料の処理方法である。
【0013】
第3の手段は、
亜鉛原料から亜鉛を抽出する湿式亜鉛製錬工程において、
焙焼した亜鉛原料を硫酸酸性溶液を用いて浸出する際、
PbSO4とSiO2とAgとが添加された硫酸酸性溶液を用いて、浸出をおこなうことを特徴とする亜鉛原料の処理方法である。
【0014】
第4の手段は、
第3の手段に記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L以上、且つSiO2が1g/L以上、且つAgが0.01g/L以上となるように、PbSO4とSiO2とAgとを添加することを特徴とする亜鉛原料の処理方法である。
【0015】
第5の手段は、
第1から第4手段のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液に添加するPbSO4とSiO2、または、PbSO4とSiO2とAgとして、前記湿式亜鉛製錬工程で産出するPb・Ag残査を用いることを特徴とする亜鉛原料の処理方法である。
【0016】
第6の手段は、
前記PbSO4とSiO2とを、または、前記PbSO4とSiO2とAgとを、添加した前記硫酸酸性溶液のpHを、1.5以下とすることを特徴とする第1から第5手段のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法である。
【0017】
第7の手段は、
前記粉砕物を浸出する時間を、10分間以上5時間以下とすることを特徴とする第1から第6手段のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法である。
【発明の効果】
【0018】
上述した第1から第7の手段のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法によれば、当該亜鉛原料を硫酸酸性溶液で浸出した後の固液分離工程において、前記亜鉛原料に含有されたシリカを含む固形成分を、液体成分より容易に分離して沈殿させることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図1に示す湿式亜鉛製錬工程における亜鉛原料の処理フロー例を参照しながら説明する。
図1に示すように、亜鉛鉱石等の亜鉛原料は、まず、焙焼・粉砕されるが、粉砕は浸出の前後で実施され粉砕物となる。この粉砕物へ、後述する電解尾液の液体部分や脱鉄后液の混合液を含む硫酸酸性の浸出液を加え、浸出操作の後、固液分離工程を行って液体の浸出液と固体の亜鉛浸出残査とを得る。次に、当該浸出液を浄液操作の後に電解処理し、電気亜鉛と電解尾液とを得る。当該電気亜鉛は亜鉛製錬の次工程へと送られるが、電解尾液の液体部分は上述した浸出液として循環使用される。一方、アノードの付着物はMn澱物となる。
【0020】
一方、上述の亜鉛浸出残査は、SO等を用いて2次浸出操作を行った後、固液分離操作を行い、液体の2次浸出液と固体のPb・Ag残査とを得る。この2次浸出液に炭酸カルシウムを加えて1段中和を行い固液分離工程の後、液体の1段中和液と固体の1段石膏とを得る。この1段中和液に亜鉛末を加えて脱砒操作を行い、液体の脱砒液と固体のRT残査とを得る。尚、ここでRT残渣とはResidue Treatmentの略称で、CuAsを主成分とした銅・砒素化合物である。この脱砒液に炭酸カルシウムを加えて2段中和を行い固液分離工程の後、液体の2段中和液と固体の2段石膏とを得る。この2段中和液にO・蒸気を加えて脱鉄処理を行い、液体の脱鉄后液と固体のヘマタイトとを得る。得られた脱鉄后液は、上述した電解尾液の液体部分と伴に浸出液として循環使用する。
【0021】
この時、当初の亜鉛原料中にSiO2が多量に含有されていると、当該SiO2は亜鉛原料が焙焼され粉砕された粉体の浸出時にZnSiO3となって浸出液中に溶解し、当該浸出液のpHの上昇とともに析出してゲル化し、固液分離工程時における亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性を悪くする。ここで、当該固液分離工程時における亜鉛浸出残査の沈降性を良好に保持するには、当初の亜鉛原料中のSiO2品位が1%以下であることが好ましいのだが、それ以上になると亜鉛浸出残査の沈降性不良・ろ過性不良が発生することとなる。しかし、当初の亜鉛原料中のSiO2含有量は多様であり、2%を超える場合もある。
【0022】
このようなSiO2を多量に含有する亜鉛原料を用いた場合の、固液分離工程時における亜鉛浸出残査の沈降性・ろ過性は悪く、例えば、後述する実施例1で行った沈降性評価結果によれば、2分間後の沈降距離で22mm、ろ過速度で1.75l/m2/minであった。ここで当該浸出液へ、上述のPb・Ag残査を濃度が10g/L(約10000ppm)となるように添加したところ、2分間後の沈降距離が69mm、ろ過速度が3.13l/m2/minへと向上した。
【0023】
ここで、Pb・Ag残査とは、上述した1次の浸出操作で産出した固形分である亜鉛浸出残渣(ジンクフェライトというFeとZnとの化合物である。)を、さらにSO等により2次浸出した残査のことである。主成分は、PbSOとSiOとであり、他に、少量のSn・Sb化合物、極少量のAgが含有されている。これらの各成分は、当初の亜鉛原料(亜鉛精鉱や、それを焙焼した焼鉱)の成分比率により変化する。即ち、当初の亜鉛原料において、Pbが少ないものはPbが少なくなるし、Agが極少量含まれれば、極少量のAgを含むことといなる。当社での操業におけるPbAg残渣の代表的な組成比率としては、SiOが20%、Pbが20%その他、SOなどの塩類やSn・Sb化合物であり、Agは約2000ppmである。尤もAg濃度は鉱石ブレンドによって変動し、4000〜5000ppmになることもある。
【0024】
当該Pb・Ag残査を浸出液に添加した際、残査中のSiOは、上記2次浸出時に熱作用を受けるため結晶性のSiOとなっており浸出液に溶解しない。PbもPbSOで存在しているため硫酸にはほとんど溶解しない。この結果、当該Pb・Ag残査を添加した浸出液で亜鉛原料の焙焼物を浸出する際、後述する機構により、当該Pb・Ag残査が析出するシリカの沈降性・ろ過性向上の効果をもたらしたと考えられる。
また、Agは、非酸化性の酸には溶解しないので、当該Agが析出するシリカの種晶として効果をもたらしていると考えられる。
【0025】
さらに、当該Agが析出するシリカの種晶として効果をもたらす際、Agの絶対的存在量という観点から見ると、バルク時のAgを添加する場合よりも少ないAg量を含むAg・Pb残査でも、沈降性・ろ過性に効果がある。これは、上述したPbSOとSiOとの協働効果の他に、PbAg残渣中に含有されているAgが微細に分散しており、その表面積が大きことも原因と考えられる。さらに、Agは、浸出液中に含まれる酸化性の酸(4価のMn)により極少量が浸出液に溶解するが、亜鉛原料の焙焼物が浸出されていくと同時に、浸出液の酸化還元電位(以下ORPと記載する。)が下がることで、一旦溶解したAgが析出するので、その際の共沈効果も考えられる。
しかし、当該Pb・Ag残渣を残査ケーキとして浸出液へ添加した場合は、浸出液中の濃度が10g/Lとなる添加での効果が2分後の沈降距離で56mm、濃度が20g/Lとなる添加での効果が2分後の沈降距離で50mm程度と、若干劣り、且つ添加量に比例しないことが判った。
【0026】
一方、当該Pb・Ag残渣を構成する主要成分に注目して、各主要成分毎の沈降性・ろ過性向上へ寄与する機構について検討した。
まずSiO2に注目し、シリカゲルを合成して準備し、当該シリカゲルを濃度10g/Lとなるように溶解、分散させた硫酸酸性溶液を調製した。そして、このシリカゲルを含有する硫酸酸性溶液を用いて亜鉛原料を浸出し、その後、浸出液の固液分離を行ったが、沈降性・ろ過性改善効果は見込めなかった。
次に、当該Pb・Ag残渣を構成するPbSO4・PbS・PbOといったPb化合物に注目し、当該Pb化合物の試薬を準備し、当該Pb化合物濃度を濃度10g/Lとなるように溶解、分散させた硫酸酸性溶液を調製した。そして、このPb化合物を含有する硫酸酸性溶液を用いて亜鉛原料を浸出し、その後、浸出液の固液分離を行ったが、沈降性・ろ過性改善効果は見込めなかった。
【0027】
ここで、本発明者らは発想を転換し、SiO2とPbSO4とを溶解後、共沈させた硫酸酸性溶液を調製した。そして、このSiO2とPbSO4とが含有され存在する硫酸酸性溶液を用いて亜鉛原料を浸出し、その後、浸出液の固液分離を行ったところ沈降性・ろ過性改善効果が実現できた。
【0028】
当該SiO2とPbSO4とが存在する硫酸酸性溶液を用いて、浸出液の固液分離における沈降性改善効果が実現できたのは、次のような機構によるものではないかと考えられる。即ち、まずSiO2がシリカゲルの析出を補助するが、SiO2粒子には沈降性を向上させるほどの比重が無い。一方、PbSO4などのPb化合物は、比重が大きく沈降性には役立つがシリカゲルの核とはならない。ここで、SiO2とPbSO4とがあると、まずSiO2によりシリカゲルが析出し、それがPbSO4粒子に付着して乾燥し粒子全体として成長することで、芯の部分にPbSO4、当該芯の周りにSiO2、当該SiO2の周りにシリカゲル付着した構造を有する粒子となっているのではないかと考えられる。そして、当該粒子は十分な比重を有しているので、浸出液の沈降性・ろ過性改善効果を実現できたのだと考えられる。
【0029】
加えて本発明者らは、上述したSiO2とPbSO4とへ、Agが添加されると浸出液の沈降性・ろ過性効果がさらに向上することに想到した。当該Agの添加により、浸出液の沈降性・ろ過性効果が向上する機構は、未だ不明であるが、Ag粒子の表面がSiO2析出の際の種となって効いているのではないかと考えられる。この推定は、AgをAgOに代替した場合、AgOは硫酸酸性溶液に溶解するのだが、その結果、浸出液の沈降性・ろ過性改善効果はAgに劣ることからも裏付けられる。従って、Agは100%のバルクである必要はなく、微細に分散する形態であることが好ましいと考えられる。
【0030】
ここで、本発明者らは、SiO2、PbSO4、Agの添加において、浸出液の沈降性・ろ過性改善効果を発揮する最小添加量についても検討した。その結果、上述したSiO2とPbSO4とを浸出液へ添加する際は、浸出液である硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L(約1000ppm)以上、且つSiO2が1g/L(約1000ppm)以上となる添加から、浸出液の沈降性・ろ過性改善効果があった。また、SiO2とPbSO4とAgとを浸出液へ添加する際は、浸出液である硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L以上、且つSiO2が1g/L以上、Agは0.01g/L(約10ppm)以上となる添加から、浸出液の沈降性・ろ過性改善効果が確認できた。
【0031】
さらに、SiO2とPbSO4とを浸出液へ添加する際に、PbSO4が2g/L(約2000ppm)以上かつSiO2が2g/L(約2000ppm)以上となるレベルで行うと沈降性速度が上昇し好ましく、SiO2とPbSO4とAgとを浸出液へ添加する際も、PbSO4が2g/L以上かつSiO2が2g/L以上、Agは0.02g/L(約20ppm)以上となるレベルで行うと沈降性速度が上昇し好ましい。
【0032】
さらに加えて、SiO2とPbSO4とを浸出液へ添加する際に、PbSO4が4g/L(約4000ppm)以上かつSiO2が4g/L(約4000ppm)以上となるレベルで行うと沈降性速度がさらに上昇して好ましく、SiO2とPbSO4とAgとを浸出液へ添加する際も、PbSO4が4g/L以上かつSiO2が4g/L以上、Agは0.04g/L(約40ppm)以上となるレベルで行うと沈降性速度がさらに上昇して好ましい。
尚、SiO2とPbSO4とAgとの添加量が上述のレベルであれば、固液分離の際の、ろ滓容積が増加して生産性を低下させたり、2次浸出の結果産出する残渣のボリュームを増加させことが少ないので好ましい。
【0033】
また、以上説明した物質を含む浸出前の前記硫酸酸性溶液のpHは1.5以下とすることが好ましい構成である。これは当該pH1.5以上であると、浸出液の酸濃度が低くなるため、化学工学でいうところの拡散・物質移動(dC/dt=k・A・(C−C)の関係で、時間当たりの濃度変化は、物質移動係数k・抽出面積A(撹拌による接触回数の増加も含まれる)・および濃度差(C−C))の効果により、亜鉛原料からの亜鉛が浸出され難くなるためである。この結果、浸出時間が長くなったり、浸出時間を短縮するために浸出槽を多く設置すると工程が複雑化し、亜鉛の浸出率が低下したりするからである。
【0034】
さらに、SiO2とPbSO4とを添加した前記硫酸酸性溶液を浸出液として用い、前記亜鉛原料を浸出する際の時間は、10分間以上行えばSiO2の沈降性・ろ過性を改善することが出来るし、5時間以下であれば処理コストの増加にはつながらないので好ましい構成である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
原料として用いた亜鉛原料の焙焼物の組成を表1に示し、浸出液として用いた電解尾液の液体部分および脱鉄后液の組成を表2に示す。
【表1】

【表2】

電解尾液の液体部分440g、脱鉄后液272gを混合したものを浸出液(以下、実施例1の浸出液、と記載する。)とし、ビーカーにセットして温度を60℃に加温した。この時、当該浸出液のpHは、おおむね0.0を示し、ORP(Ag/AgCl電極)は、1150mVであった。
【0037】
次に添加剤としてPbSO4−SiO2(PbSO4とSiO2との等モル混合物)を、以下のように合成した。
試薬のPbSO4を303g計量し、2Lの純水に添加して400rpmで撹拌した。そして、試薬のメタケイ酸ナトリウム9水和物(Na2SiO3・9H2O)284gを、当該2Lの水溶液に添加した。このとき、当該水溶液のpHは12.5となり、一部PbSO4が溶解して白濁が薄くなったが、直ちに硫酸(H2SO4)を添加してpH8とした。すると水溶液の粘性は非常に上昇して寒天状となったが、撹拌は可能であった。そして、この寒天状物質を採取し、105℃で20時間乾燥して得られた固形物を乳鉢で解砕し、合成PbSO4−SiO2を得た。
【0038】
この合成PbSO4−SiO2を6.6g採り、前記浸出液へ添加し5分間撹拌した。このときの撹拌速度は300rpmとした。5分間後の浸出液の温度・pHに大きな変化は無く、ORPは560mV程度となった。
【0039】
次に、亜鉛原料として焼鉱を132g計量し、それをPbSO4−SiO2が添加された浸出液中に一気に投入した。このとき浸出液の温度は、直ちに60から85℃前後まで上昇し、5分間後のpHが4.2となった。ここで、当該浸出液のpHを4.2に保持する為、若干の微調整量の浸出液を添加して加温し80℃に制御しながら30分間撹拌して浸出を行った。ORPは250mV前後であった。
【0040】
浸出完了後に、当該浸出液へ凝集剤(三洋化成(株)製:サンポリーA511)を15ppm添加した。(具体的には、凝集剤1gを1Lの純水に希釈した後、シリンジを用いて、当該希釈液を9ml計量し、当該浸出液へ添加した。)そして、当該浸出液を10秒間手撹拌した後、1Literのメスシリンダーに移し、沈降性を評価した。沈降性評価は目視とストップウォッチでおこない、当該メスシリンダーにおける液面から、清澄領域と沈降領域との境界面迄の位置を沈降距離とし、所定時間毎に30分間後まで当該沈降距離を測定して沈降性評価をおこなった。
【0041】
上記沈降性評価を30分間で終了した後、メスシリンダー内に沈降した沈降領域のスラリーを、直径116mm、3μmPTFEろ紙が設置された加圧ろ過器に投入し、4kgf/cm2で加圧ろ過し全量排出となる時間を計測して、ろ過速度を測定した。
当該加圧ろ過後の浸出液の液温は、若干冷めており60℃から45℃となっていた。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。ここで、図2は、添加物質毎のろ過速度を棒グラフで示した図であり、図3は、縦軸を沈降距離、横軸を時間とし時間毎の当該沈降性評価結果を示したグラフである。
【0042】
ここで、2〜5分間後の沈降性評価結果より、1次浸出後の固液分離工程における固形分の沈降速度の速さを評価することができる。また、30分間後の沈降性評価結果より、後工程におけるのスラリー密度の評価を行うことが出来る。即ち、後工程におけるアンダーフローのスラリーは、フィルタープレス等により固液分離され、得られた固形分は、2次浸出工程で処理される。このとき30分間後の沈降性評価結果が小さいと、当該スラリー密度が低くなり、フィルタープレス等にかけられるスラリーのケーキ密度も低くなるという相関がある。当該ケーキ密度が低いとフィルタープレス等の開板作業が増え、生産性が低下するという問題が生じる。また、30分間後の沈降性評価結果が小さいと、ろ過速度も遅くなる傾向があり、これも生産性低下という問題を生じる。
【0043】
そこで本実施例における沈降性評価は、1分間後から30分間後の沈降距離を測定することで行った。表3および図3の結果から明らかなように、実施例1においては2分間後に42mm、30分間後に105mmを示した。この値は、後述する比較例にて説明するシリカゲル添加、または、何も添加しない場合と比較して、沈降性が向上していることが判明した。
一方、ろ過速度は、表3および図2の結果から明らかなように、実施例1においては2.95l/m2/minを示した。この値は、後述する比較例にて説明するシリカゲル添加と比較して若干劣り、何も添加しない場合と比較して向上していることが判明した。
以上のことから、浸出液中へ合成PbSO4−SiO2を添加することで、無添加の場合に比較して、沈降性およびろ過速度とも向上することが判明した。さらに、沈降性については、シリカゲル添加より向上することも判明した。即ち、PbSO4を芯として、その周囲をSiO2が取り囲み、さらに当該SiO2の周囲にシリカゲルが付着した構造をとっているものと考えられる。
【0044】
(実施例2)
実施例2として添加剤にAg粉(同和ハイテック(株)製:平均粒径約1μm品)を選択した。当該Ag粉を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0045】
Ag粉を添加した場合、Ag粒子の分散状態は、それ程良好なものとはなっていなかったが、沈降性およびろ過速度とも、何も添加しない場合やシリカゲル添加の場合と比較して大きく向上した。
当該Ag粉の何が効果を奏して、沈降性やろ過速度を向上させているのか、詳しいことは不明であるが、恐らくは、当該Ag粉の表面がシリカゲル析出の際の種となり、さらにメタルのAgが重りの効果を果たしていると考えられる。
【0046】
(実施例3)
実施例3として添加剤に酸化銀(同和ハイテック(株)製:平均粒径約10μm品)を選択した。当該酸化銀を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0047】
AgをAgOに代替した場合は、1分間後の沈降速度も約半分に低下した。これは、AgOが浸出液に溶解することで、その効果が半減しているものと考えられる。従って、Agを添加する場合は浸出液に溶解しない形で添加する方が有利であると考えられる。
【0048】
(実施例4)
実施例4として添加剤に、上述した湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査を選択した。当該Pb・Ag残査を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0049】
ここで、湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査gは、実施例1で説明したPbSO4−SiO2と、実施例2で説明したAgとの混合物に相当するものである。
沈降性評価およびろ過速度測定結果は、いずれも実施例2、3で説明したAgとAgOとの中間程度の値を示したが、コストの高いAgを予め含んでいること、当該Pb・Ag残査は湿式亜鉛製錬工程で産出することを考慮すると、コストパフォーマンスの観点から優れた方法であると考えられる。
【0050】
(実施例5)
実施例5として添加剤に、上述した湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査に対しデカンターによる強制的な沈降分離を行い、PbSO4リッチ品(70%がPbで残りがSiO2)を製造し、これを105℃で乾燥し解砕して作成したPbリッチなPb・Ag残査(以下、デカンタPb系残査と記載する。)を選択した。当該デカンタPb系残査を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0051】
当該操作により、沈降性評価およびろ過速度測定とも実施例4より低下することが判明した。従って、PbSO4:SiO2は、70:30よりPbSO4が少ないことが好ましいと考えられる。
【0052】
(実施例6)
実施例6として添加剤に、上述した湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査に対しデカンターによる強制的な沈降分離を行い、SiO2リッチ品(70%がSiO2、残りがPb)を製造し、これを105℃で乾燥し解砕して作成したSiO2リッチなPb・Ag残査(以下、デカンタSi系残査と記載する。)を選択した。当該デカンタSi系残査を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0053】
当該操作により、ろ過速度測定は実施例4より向上するが、沈降性評価は実施例4より低下することが判明した。従って、PbSO4:SiO2のPbSO4:SiO2=50:50よりSi濃度の高い領域においては、沈降性とろ過速度とのどちらを求めるかで、その値を定めることが好ましいと考えられる。
【0054】
(比較例1)
比較例1として添加剤に、シリカゲル磨鉱を選択した。
当該シリカゲル磨鉱は、試薬のシリカゲル10meshの粒状のものを準備し、これをメノウ乳鉢で磨鉱した後、篩いかけして100mesh(150μm)アンダーとすることにより製造した。
当該シリカゲル磨鉱を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0055】
浸出液にシリカゲル磨鉱を添加した場合、ろ過速度においては実施例1、実施例4、5より若干優れているが、沈降性評価においてはいずれの実施例よりも劣ることが判明した。
【0056】
(比較例2)
比較例2として添加剤に、合成シリカを選択した。
当該合成シリカは次のように製造した。
試薬のメタケイ酸ナトリウム9水和物(Na2SiO3・9H2O)500gを純水5Lで希釈し、400rpmで撹拌した。このとき、pHは12.5であった。この希釈液へ硫酸(H2SO4)を添加しpH8として寒天状のゲルを得た。次に、当該ゲルの一部を採取し、105℃で20時間乾燥して固形物得る。そして、当該固形物を乳鉢で解砕し合成シリカを製造した。
当該合成シリカを6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0057】
浸出液に合成シリカを添加した場合、ろ過速度においては実施例1、実施例5より若干優れているが、沈降性評価においてはいずれの実施例よりも劣ることが判明した。
【0058】
(比較例3)
比較例3では、添加剤を添加することなく実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0059】
浸出液に何も添加しない場合、ろ過速度および沈降性評価において、いずれの実施例よりも劣ることが判明した。
【0060】
(実施例7)
実施例7では、添加剤として上述した湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査を選択し、
実施例1と同様の浸出液への添加量を、5〜20g/Lの間で変化させた他は、実施例4と同様の操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図4、5に示す。図4は、縦軸をろ過速度、横軸をPb.Ag残査添加濃度として示したグラフであり、図5は、縦軸を沈降距離、横軸を時間とし時間毎の当該沈降性評価結果を示したグラフである。
【0061】
表3および図4、5の結果より、Pb・Ag残査の添加量を、5〜20g/Lの間で変化させた場合、添加量の増加と伴に、ろ過速度および沈降性評価とも向上することが判明した。
【0062】
(実施例8)
実施例8では、添加剤として上述した湿式亜鉛製錬工程で産出したPb・Ag残査であって水分を含有している所謂ウエットケーキを選択した。そして、当該ウエットケーキを、Pb.Ag残査に換算した乾量重量で10および20g/Lとなるように実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様のろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図4、5に示す。尚、図4、5においてウエットケーキを、Pb.Ag残査に換算した値で示している。
【0063】
表3および図4、5の結果より、Pb・Ag残査のウエットケーキ添加量を10および20g/Lとした場合、沈降性評価はウエットケーキ添加10g/Lの方が優れ、ろ過速度は添加20g/Lの方が優れることが判明した。
【0064】
(参考例1)
参考例1として添加剤に試薬のPbSを選択した。当該PbSを6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0065】
表3および図2、3の結果から、PbSを10g/L添加した場合は、沈降性評価およびろ過速度において、添加剤無添加よりも向上が見られるが、実施例1から6には劣るものであった。
【0066】
(参考例2)
参考例2として添加剤に試薬のPbSO4を選択した。当該PbSO4を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0067】
表3および図2、3の結果から、PbSO4を10g/L添加した場合は、ろ過速度において添加剤無添加よりも向上が見られるが、沈降性評価において劣り、沈降性評価およびろ過速度とも実施例1から6には劣るものであった。
【0068】
(参考例3)
参考例3として添加剤に試薬のPbOを選択した。当該PbOを6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0069】
表3および図2、3の結果から、PbOを10g/L添加した場合は、沈降性評価およびろ過速度において、添加剤無添加よりも向上が見られるが、実施例1から6には劣るものであった。
【0070】
(参考例4)
参考例4として添加剤に試薬の活性炭(C)を選択した。当該活性炭を6.6g採って、実施例1と同様の浸出液へ添加し、実施例1と同様の浸出操作を行った後、実施例1と同様の沈降性評価およびろ過速度測定を行った。
これらの試験結果を表3および図2、3に示す。
【0071】
表3および図2、3の結果から、活性炭を10g/L添加した場合は、沈降性評価およびろ過速度において、添加剤無添加よりも向上が見られるが、実施例1から6には劣るものであった。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る亜鉛原料の処理フロー例である。
【図2】本発明の実施例および比較例に係る各物質を添加したときのろ過性評価結果を示す棒グラフである。
【図3】本発明の実施例および比較例に係る各物質を添加したときの時間毎の沈降性評価結果を示したグラフである。
【図4】Pb/Ag残査の添加量とろ過性評価結果との関係を示すグラフである。
【図5】Pb/Ag残査の添加量と沈降性評価結果との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛原料から亜鉛を抽出する湿式亜鉛製錬工程において、
焙焼した亜鉛原料を、硫酸酸性溶液を用いて浸出する際、
PbSO4とSiO2との存在下で、硫酸酸性溶液を用いて、浸出をおこなうことを特徴とする亜鉛原料の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L以上、且つSiO2が1g/L以上となるように、PbSO4とSiO2とを添加することを特徴とする亜鉛原料の処理方法。
【請求項3】
亜鉛原料から亜鉛を抽出する湿式亜鉛製錬工程において、
焙焼した亜鉛原料を硫酸酸性溶液を用いて浸出する際、
PbSO4とSiO2とAgとが添加された硫酸酸性溶液を用いて、浸出をおこなうことを特徴とする亜鉛原料の処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液中の、PbSO4が1g/L以上、且つSiO2が1g/L以上、且つAgが0.01g/L以上となるように、PbSO4とSiO2とAgとを添加することを特徴とする亜鉛原料の処理方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法であって、
前記硫酸酸性溶液に添加するPbSO4とSiO2、または、PbSO4とSiO2とAgとして、前記湿式亜鉛製錬工程で産出するPb・Ag残査を用いることを特徴とする亜鉛原料の処理方法。
【請求項6】
前記PbSO4とSiO2とを、または、前記PbSO4とSiO2とAgとを、添加した前記硫酸酸性溶液のpHを1.5以下とすることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法。
【請求項7】
前記粉砕物を浸出する時間を、10分間以上5時間以下とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の亜鉛原料の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−225697(P2006−225697A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39066(P2005−39066)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】