説明

亜鉛又は亜鉛合金めっき表面の活性化処理溶液とそれを用いる活性化処理方法

【課題】本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき上に化成皮膜を形成させる前の活性化処理に硝酸を使用せずとも、曇りや黒ずみのない表面活性化処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理用の活性化処理溶液であって、有機スルホン酸を含有してなる活性化処理溶液を提供する。また、本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理方法であって、活性化処理溶液として前記活性化処理溶液を用いることを特徴とする活性化処理方法を提供する。さらに、本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を前記活性化処理溶液を用いて活性化処理した後、化成処理することを特徴とする、亜鉛又は亜鉛合金めっきに化成被膜を形成する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっき上を化成処理する前の活性化処理溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面の防食方法として亜鉛めっきを行う方法が比較的多く使用されている。しかしながら、めっき単独では耐食性が十分ではなく、めっき後に6価クロムを用いた化成処理(クロメート処理)や3価クロムを用いた化成処理が産業界で広範囲に採用されている。通常、これらの化成処理を行う前の前処理として、亜鉛めっき表面の酸化膜や汚れを除去するために硝酸による活性化処理が行われている(特許文献1)。
近年、河川や湖などの窒素汚染が広がり、窒素の環境基準、排水基準が厳しく規制されるようになり、窒素の使用削減が課題となっている。このような状況の下で、窒素を用いない活性化処理方法として、硫酸や塩酸を使用する試みも行われている(特許文献2)。しかしながら、濃度管理が困難なことに加えて、縦方向への侵食が大きく、活性化処理表面が荒れたり、曇りや黒ずみも発生し易く、実用的ではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−316330号公報
【特許文献2】特開2005−126796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき上に化成皮膜を形成させる前の活性化処理に硝酸を使用せずとも、曇りや黒ずみのない表面活性化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理用の活性化処理溶液であって、有機スルホン酸を含有してなる活性化処理溶液を提供する。
また、本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理方法であって、活性化処理溶液として前記活性化処理溶液を用いることを特徴とする活性化処理方法を提供する。
さらに、本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を前記活性化処理溶液を用いて活性化処理した後、化成処理することを特徴とする、亜鉛又は亜鉛合金めっきに化成被膜を形成する方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金めっき上に化成皮膜を形成させる前の活性化処理溶液として、優れた活性化性能をもち、しかも硝酸を使用しないため、窒素の大幅削減を達成することができ排水処理が容易で、環境保護に大きく貢献することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理用の活性化処理溶液は、有機スルホン酸を含有する。少なくとも1種の有機スルホン酸を含有する活性化溶液を用いることで、硝酸による活性化処理と同等以上の活性化処理効果が認められた。有機スルホン酸としては、4-アミノベンゼンスルホン酸、2-アミノエチルスルホン酸などのアミノ基含有スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロアニリンスルホン酸などのニトロ基含有スルホン酸などが挙げられる。窒素を含有しない有機スルホン酸としては、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸、ヒドロキシアルカンスルホン酸などが挙げられる。アルカンスルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸;アリルスルホン酸、ブテンスルホン酸などのアルケニルスルホン酸などが挙げられる。アリールスルホン酸としては、例えばベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンメタンスルホン酸、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸などが挙げられる。ヒドロキシアルカンスルホン酸としては、例えばヒドロキシエタンスルホン酸、ヒドロキシプロパンスルホン酸、ヒドロキシブタンスルホン酸、ヒドロキシペンタンスルホン酸、ヒドロキシヘキサンスルホン酸、ヒドロキシヘプタンスルホン酸などのヒドロキシアルキルスルホン酸などが挙げられる。
【0008】
有機スルホン酸の中でも、特に、窒素原子を含有しない有機スルホン酸を用いることで、窒素の削減を大幅に達成できる。
好ましくは、炭素原子数1〜7の、窒素を含有しない有機スルホン酸である。このような炭素数1〜7の有機スルホン酸の中でも、アルキルスルホン酸やヒドロキシアルキルスルホン酸が効果的であり、特に炭素数1〜4のアルカンスルホン酸及び炭素数2〜4のヒドロキシアルカンスルホン酸が好ましい。
【0009】
本発明の活性化処理溶液中の有機スルホン酸の含有量は、0.1〜3.5重量%であることが好ましく、0.1〜1.5重量%であることがさらに好ましく、0.2〜0.7重量%であることが最も好ましい。有機スルホン酸の含有量含がこのような範囲内であれば、十分な表面活性化力を有し、亜鉛溶解量を増やしてめっき膜厚の減少を大きくすることもなく、その後の化成処理への弊害を小さくすることができる。また、有機スルホン酸は、硝酸よりも酸化力が高いため、縦方向への侵食が抑制され、表面を平滑化すると供に亜鉛溶解量も硝酸に比べ小さくなる。その結果、液寿命も長く、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面の活性化処理に最適である。さらに、硝酸に比べ、めっき皮膜中に金属不純物が含有した場合でも活性化処理による黒ずみが少なく、化成皮膜の外観も良好である。
【0010】
本発明の活性化処理溶液は、これらの有機スルホン酸に加えて、有機スルホン酸の効果を阻害せず、しかも活性化力の促進などの性能向上のために、他の有機酸、酸化剤などを添加して使用してもよい。
有機酸としては、例えば酢酸、蟻酸、酒石酸、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸、マロン酸およびそれらの塩などが挙げられる。
酸化剤としては、例えば過酸化水素;次亜塩素酸、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウムなどの過塩素酸塩類;過よう素酸ナトリウム、過よう素酸カリウムなどの過よう素酸塩類;過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸又はその塩;ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸ナトリウム、ペルオキソ一硫酸カリウム、アペルオキソ一硫酸ンモニウムなどのペルオキソ一硫酸酸又はその塩;過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、ペルオキシフタル酸、モノペルオキシコハク酸などの有機過酸又はその塩;ペルオキソリン酸、ペルオキソリン酸ナトリウム、ペルオキソリン酸カリウムなどのペルオキソリン酸又はその塩などが挙げられる。
【0011】
本発明の活性化処理溶液のpHは、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜3であ、さらに好ましくは1.3〜2.0である。
pHの調整は、苛性ソーダ、無機酸、有機スルホン酸などで行うことができる。無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウフッ酸およびそれらの塩などが挙げられる。pHの調整法としては、有機スルホン酸を補給することが最適な方法である。
活性化処理温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは10〜30℃、さらに好ましくは15〜25℃である。処理時間は、好ましくは2〜120秒、より好ましくは5〜30秒、さらに好ましくは5〜15秒である。
本発明の活性化処理溶液の使用液中には、亜鉛や鉄、Niなどが溶解含有しているのは当然のことである。
【実施例】
【0012】
(実施例1〜5)
M6ボルト(材質:鉄)にジンケート亜鉛めっき(ディップソール(株)製NZ−200)を厚さ8μm施したものを、表1に示すように水で希釈したメタンスルホン酸に25℃で10秒間浸漬して活性化処理を行った。下記表1に活性化処理による亜鉛膜厚の減少量および活性化処理後の外観を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
(比較例1及び2)
M6ボルト(材質:鉄)にジンケート亜鉛めっき(ディップソール(株)製NZ−200)を厚さ8μm施したものを、表2に示すように水で希釈した硝酸に25℃で10秒間浸漬して活性化処理を行った。下記表2に活性化処理による亜鉛膜厚の減少量及び活性化処理後の外観を示す。
【0015】
【表2】

【0016】
(比較例3及び4)
M6ボルト(材質:鉄)にジンケート亜鉛めっき(ディップソール(株)製NZ−200)を厚さ8μm施したものを、表3に示すように水で希釈した塩酸に25℃で10秒間浸漬して活性化処理を行った。下記表3に活性化処理による亜鉛膜厚の減少量及び活性化処理後の外観を示す。
【0017】
【表3】

【0018】
(実施例6)
M6ボルト(材質:鉄)にジンケート亜鉛めっき(ディップソール(株)製NZ−200)を厚さ8μm施したものを、表4に示すように水で希釈したメタンスルホン酸に25℃で10秒間浸漬して活性化処理を行った。さらに、3価クロム化成処理剤(ディップソール(株)製ZT−444DS(ZT−444DSA:50ml/l,ZT−444DSB:50ml/l,ZT−444DSD:5ml/l,pH2.0))に40℃で30秒間浸漬して化成処理を行った。下記表4に耐食性及び外観を示す。
【0019】
(比較例5)
M6ボルト(材質:鉄)にジンケート亜鉛めっき(ディップソール(株)製NZ−200)を厚さ8μm施したものを、表4に示すように水で希釈した硝酸に25℃で10秒間浸漬して活性化処理を行った。さらに、3価クロム化成処理剤(ディップソール(株)製ZT−444DS(ZT−444DSA:50ml/l,ZT−444DSB:50ml/l,ZT−444DSD:5ml/l,pH2.0))に40℃で30秒間浸漬して化成処理を行った。下記表4に耐食性及び外観を示す。
【0020】
【表4】

【0021】
(亜鉛膜厚の減少量の測定方法)
Znめっき皮膜の厚さは、蛍光X線分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、マイクロエレメントモニターSEA5120)を用いて測定した。
【0022】
(耐食性:白錆発生時間(Hr)の測定(塩水噴霧試験))
塩水噴霧試験はJIS−Z−2371に準拠し評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理用の活性化処理溶液であって、有機スルホン酸を含有してなる活性化処理溶液。
【請求項2】
有機スルホン酸濃度が0.1〜3.5重量%の範囲であり、PHが1〜4の範囲である、請求項1記載の活性化処理溶液。
【請求項3】
有機スルホン酸が窒素元素を含まない有機スルホン酸である、請求項1又は請求項2記載の活性化処理溶液。
【請求項4】
窒素元素を含まない有機スルホン酸がアルカンスルホン酸又はヒドロキシアルカンスルホン酸である請求項3記載の活性化処理溶液。
【請求項5】
亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を化成処理する前に行う活性化処理方法であって、活性化処理溶液として請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の活性化処理溶液を用いることを特徴とする活性化処理方法。
【請求項6】
亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の活性化処理溶液を用いて活性化処理した後、化成処理することを特徴とする、亜鉛又は亜鉛合金めっきに化成被膜を形成する方法。

【公開番号】特開2009−108372(P2009−108372A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281976(P2007−281976)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000109657)ディップソール株式会社 (25)
【Fターム(参考)】