説明

亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液および表面処理亜鉛系めっき鋼板

【課題】6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性を有する表面処理皮膜を得ることができる亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液を提供する。また、皮膜中に6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性が得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】水系表面処理液は、水溶性ジルコニウム化合物、水分散性微粒子シリカ、シランカップリング剤、バナジン酸化合物、リン酸化合物、ニッケル化合物およびアクリル樹脂エマルションを特定の割合で含む。また、表面処理亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物、微粒子シリカ、シランカップリング剤由来成分、バナジン酸化合物、リン酸化合物、ニッケル化合物およびアクリル樹脂を特定の割合で含有し、Zr付着量が10〜200mg/mである表面処理皮膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、建材などに用いられる亜鉛系めっき鋼板の表面処理技術に関するもので、具体的には、処理液や皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含まない環境調和型の亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液と表面処理亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板、家電製品用鋼板、建材用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、6価クロムを主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられてきた。しかし、近年は地球環境問題の対策として、従来から使用されていたクロメート処理に代わって、公害規制物質である6価クロムを全く含まない表面処理皮膜を施した表面処理鋼板が用いられるようになってきており、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛の白錆を抑制するクロメートフリー処理方法として、例えば、以下のような提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、バナジウム化合物やチタン化合物、ジルコニウム化合物を含有する表面処理液によって皮膜を形成する方法が示されている。また、特許文献2,3には、上記化合物に加え、さらに、シランカップリング剤を含む皮膜を形成する方法が示されている。また、特許文献4〜6には、バナジウム化合物やチタン化合物、ジルコニウム化合物、シランカップリング剤とともに有機樹脂を含む皮膜を形成する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−63621号公報
【特許文献2】特開2007−177314号公報
【特許文献3】特開2008−133510号公報
【特許文献4】特開2007−204847号公報
【特許文献5】特開2007−162098号公報
【特許文献6】特開2007−152435号公報
【特許文献7】特開2008−169470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2,3の方法では、表面処理皮膜中の有機樹脂の含有量が数%未満であるか若しくは有機樹脂を含んでいないため、皮膜形成時やハンドリング時、また、加工時に皮膜にクラックなどが入りやすく、十分な耐食性が得られない。また、特許文献4〜6の方法では、有機樹脂を含有することでクラックに由来する耐食性の低下は抑制することができ、耐食性劣化を防ぐことはできるが、耐食性を大きく向上させる作用はない。また、耐食性を発現させるために一定レベルの皮膜厚を確保する必要があるため、導電性との両立ができないという問題がある。
また、特許文献7には、ジルコニウム化合物とシランカップリング剤とシリカ、有機樹脂からなる皮膜を形成する技術を開示されている。この技術は、プレス成形後でも優れた外観を有する皮膜が得られるが、優れた外観を発現させるためには有機樹脂の含有量や皮膜厚が制限されるため、プレス成形を必要としない用途では必ずしも耐食性が十分ではなかった。
【0006】
以上のように、ジルコニウム化合物やシランカップリング剤を主成分とする皮膜は、いずれもある程度耐食性を発現するものの、導電性、耐食性、塗料密着性のすべてについて優れた性能を有する皮膜を得る技術は未だ提案されていない。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性を有する表面処理皮膜を得ることができる亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、この水系表面処理液を用いた表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、皮膜中に6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性が得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)を下記(1)〜(7)の条件を満足するように含むことを特徴とする亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液。
(1)水分散性微粒子シリカ(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(B)/(A)=0.1〜1.2
(2)シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(C)/(A)=0.5〜3.0
(3)バナジン酸化合物(D)のV換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(D)/(A)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(E)のP換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(E)/(A)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(F)のNi換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(F)/(A)=0.005〜0.10
(6)水分散性微粒子シリカ(B)およびシランカップリング剤(C)のSi換算量の合計(SI)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(SI)/(A)=0.15〜1.0
(7)アクリル樹脂エマルション(G)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(G)/(X)=0.18超〜0.75
【0008】
[2]上記[1]の水系表面処理液において、さらに、ワックス(H)を下記(8)の条件を満足するように含むことを特徴とする亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液。
(8)ワックス(H)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(H)/(X)=0.01〜0.10
[3]上記[1]または[2]に記載の水系表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面にZr付着量が10〜200mg/mとなるように塗布し、乾燥することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0009】
[4]亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を下記(1)〜(6)の条件を満足するように含有し、Zr付着量が10〜200mg/mである表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(1)微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)=0.1〜1.2
(2)微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)=0.15〜1.0
(3)バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)が0.005〜0.10
(6)アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)=0.18超〜0.75
[5]上記[4]の表面処理亜鉛系めっき鋼板において、表面処理皮膜が、さらに、ワックス(h)を下記(7)の条件を満足するように含有することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(7)ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)=0.01〜0.10
【発明の効果】
【0010】
本発明の亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液は、6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性を有する表面処理皮膜を得ることができ、また、この水系表面処理液を用いた本発明の製造方法によれば、皮膜中に6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造することができる。また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、皮膜中に6価クロムを全く含むことなく、優れた導電性、耐食性、塗料密着性を有している。このため自動車、家電製品、OA機器などに使用される表面処理亜鉛系めっき鋼板として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細と限定理由を説明する。
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、めっき皮膜中に亜鉛を含有するものであればよく、例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5mass%Al合金めっき鋼板、Zn−55mass%Al合金めっき鋼板)、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板(例えば、Zn−6mass%Al−3mass%Mg合金めっき鋼板、Zn−11mass%Al−3mass%Mg合金めっき鋼板)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、上記各亜鉛系めっき鋼板のめっき層に少量の異種金属元素または不純物としてニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅などの1種または2種以上を含有しためっき鋼板を用いることもできる。また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
【0012】
まず、本発明の亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液について説明する。
この水系表面処理液は、水を溶媒とし、水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)を含み、好ましくはこれら成分(A)〜(G)を主成分として含むものである。この水系表面処理液は6価クロムを含まない。また、この水系表面処理液は、必要に応じて、さらにワックス(H)を含むことができる。
【0013】
前記水溶性ジルコニウム化合物(A)としては、特に制限はないが、例えば、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウムなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。ここで、ジルコンフッ化水素酸やその塩などのような無機フッ素含有化合物を含んでいる場合も水溶性ジルコニウム化合物であり、液が相溶するかぎり使用可能であるが、本発明の表面処理液は必須成分としてシリカを含有するため、無機フッ素含有化合物を含むと液安定性が損なわれることが多く、したがって、ジルコンフッ化水素酸やその塩はあまり好ましくない。
【0014】
前記水分散性微粒子シリカ(B)としては、粒径や種類などに特に制限はないが、コロイダルシリカや乾式シリカを用いることができる。コロイダルシリカとしては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、20、OS、OXS(いずれも商品名)などが挙げられ、また、乾式シリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380(いずれも商品名)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
水分散性微粒子シリカ(B)の配合割合は、水分散性微粒子シリカ(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(B)/(A)で0.1〜1.2とする。(B)/(A)が0.1未満では導電性や塗料密着性が低下し、一方、質量比(B)/(A)が1.2を超えると皮膜が適切に形成できないため耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(B)/(A)は0.2〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.8である。
【0015】
前記シランカップリング剤(C)としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-トリエトキシシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-(ビニルベンジルアミン)-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0016】
シランカップリング剤(C)の配合割合は、シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(C)/(A)で0.5〜3.0とする。質量比(C)/(A)が0.5未満では導電性や塗料密着性が低下し、一方、3.0を超えると皮膜が適切に形成できないため耐食性が低下し、また、処理液の安定性も低下する。このような観点から、より好ましい質量比(C)/(A)は1.0〜2.5であり、特に好ましくは1.2〜2.0である。
【0017】
前記バナジン酸化合物(D)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。ここで、バナジン酸化合物のVは5価であるが、4価のバナジウム化合物では耐食性、導電性が十分に確保できない。
バナジン酸化合物(D)の配合割合は、バナジン酸化合物(D)のV換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(D)/(A)で0.02〜0.15とする。質量比(D)/(A)が0.02未満では耐食性が低下し、一方、0.15を超えると皮膜が着色し、外観を損なうとともに耐黒変性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(D)/(A)は0.04〜0.12であり、特に好ましくは0.05〜0.10である。
【0018】
前記リン酸化合物(E)は液に相溶するものであれば特に制限はなく、このリン酸化合物としては、例えば、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩などの縮合リン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩などが挙げられる。ホスホン酸塩としては、例えば、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメリレンホスホン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、およびこれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられる。これらリン酸化合物の1種以上を用いることができる。
リン酸化合物(E)の配合割合は、リン酸化合物(E)のP換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(E)/(A)で0.03〜0.30とする。質量比(E)/(A)が0.03未満では耐食性が低下し、一方、0.30を超えると皮膜の外観や耐黒変性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(E)/(A)は0.06〜0.20であり、特に好ましくは0.10〜0.18である。
【0019】
前記ニッケル化合物(F)としては、液に相溶するものであれば特に制限はなく、例えば、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、リン酸ニッケルなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
ニッケル化合物(F)の配合割合は、ニッケル化合物(F)のNi換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(F)/(A)で0.005〜0.10とする。質量比(F)/(A)が0.005未満では耐黒変性が低下し、一方、0.10を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい(F)/(A)は0.01〜0.08であり、特に好ましくは0.02〜0.06である。
水分散性微粒子シリカ(B)およびシランカップリング剤(C)のSi換算量の合計(SI)は、水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(SI)/(A)で0.15〜1.0とする。質量比(SI)/(A)が0.15未満では導電性や塗料密着性が低下し、一方、1.0を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(SI)/(A)は0.25〜0.85であり、特に好ましくは0.30〜0.68である。
【0020】
前記アクリル樹脂エマルション(G)は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル系モノマーを乳化重合した水系エマルション樹脂であり、相溶性があれば乳化剤の有無や乳化剤の種類に特に制限はないが、なかでもノニオン系乳化剤は好適に適用できる。また、ノニオン系乳化剤の中でも、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイドを構造にもつものは、特に好適に適用できる。
アクリル樹脂エマルション(G)の配合割合は、アクリル樹脂エマルション(G)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(G)/(X)で0.18超〜0.75とする。質量比(G)/(X)が0.18以下では塗料密着性が低下し、一方、0.75を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(G)/(X)は0.2〜0.6であり、特に好ましくは0.25〜0.5である。
【0021】
また、上記アクリル樹脂エマルション(G)を構成するアクリル樹脂は、下記(1)式で計算されるガラス転移温度(Tg)が10〜30℃であることが好ましい。下記(1)式は、一般にFOXの式と呼ばれる。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi) …(1)
アクリル樹脂のTgが10℃未満であるとプレス成形後の外観が低下し、一方、Tgが30℃を超えると耐食性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明の水系表面処理液には、連続プレス成形時の潤滑性能を向上させるために、ワックス(H)を添加することができる。
前記ワックス(H)としては、液に相溶するものであれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ラノリン系ワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックスなどが挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。また、前記ポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。
ワックス(H)の配合割合は、ワックス(H)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(H)/(X)で0.01〜0.10とすることが好ましい。質量比(H)/(X)が0.01未満では潤滑性、特にプレス成形時の潤滑性の向上効果が見られず、一方、0.10を超えると塗料密着性が低下するとともに、耐食性も低下するおそれがある。このような観点から、より好ましい質量比(H)/(X)は0.02〜0.08である。
【0023】
本発明の水系表面処理液のpHは特に制限はないが、処理液安定性の面からはpH6〜11が好ましく、pH8〜10がより好ましい。処理液のpHが6未満では処理液の安定性が低下し、耐食性や皮膜の外観が低下する。一方、pHが11を超えると亜鉛のエッチングが著しくなり、やはり皮膜の外観が低下し、導電性が低下する傾向となる。このpHに調整するのに用いられるアルカリとしては、アンモニア、アミンが好ましく、酸としてはリン酸化合物が好ましい。
【0024】
以上のような水系表面処理液は、亜鉛系めっき鋼板表面に塗布し、加熱乾燥することにより表面処理皮膜が形成される。この加熱乾燥後の表面処理皮膜の付着量は、皮膜中のジルコニウム化合物のZr換算量で10〜200mg/mとすることが好ましい。付着量が10mg/m未満では十分な耐食性が得られず、一方、200mg/mを超えると皮膜が厚いために導電性が低下する。このような観点から、より好ましい付着量は20〜180mg/mであり、特に好ましくは30〜150mg/mである。
また、加熱乾燥後の表面処理皮膜の厚さは、Zr付着量が上記範囲内に入る条件であれば特別な制限はないが、上記各成分の配合割合およびZr付着量の範囲を確保した上で、1.0μm以下とすることが好ましい。皮膜厚さが1.0μmを超えると導電性が低下するおそれがある。このような観点から、より好ましい皮膜厚さは0.8μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0025】
水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布して表面処理皮膜を形成する方法としては、通常行われている方法を用いればよい。例えば、塗布法、浸漬法、スプレー法により、亜鉛系めっき鋼板表面を水系表面処理液で処理した後、加熱乾燥を行う。塗布法としては、ロールコーター(例えば、3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、バーコーター、スプレーコーターなどいずれの方法でもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、あるいは浸漬処理、スプレー処理の後に、エアーナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行ってもよい。
加熱乾燥を行う加熱手段としては、特に制限はないが、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱乾燥温度は到達板温で50〜250℃が好ましい。250℃を超えると皮膜にクラックが入り、耐食性を低下させることがある。一方、50℃より低い温度では皮膜中の水分残存が多くなり、やはり耐食性が低下することがある。このような観点から、より好ましい加熱乾燥温度は60〜200℃であり、特に好ましくは60〜180℃である。
【0026】
次に、以上のような水系表面処理液を用いて得られる、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板について説明する。
この表面処理亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を含み、好ましくはこれらを主成分とする表面処理皮膜を有する。この表面処理皮膜は6価クロムを含まない。また、この表面処理皮膜には、必要に応じて、さらにワックス(h)を配合してもよい。
【0027】
前記ジルコニウム化合物(a)は、処理液に配合した水溶性ジルコニウム化合物(A)中のZrに由来する成分であり、その水溶性ジルコニウム化合物(A)の詳細はさきに述べたとおりである。
前記微粒子シリカ(b)は、処理液に配合した水分散性微粒子シリカ(B)に由来するものであり、この水分散性微粒子シリカ(B)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中での微粒子シリカ(b)の含有割合は、微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)で0.1〜1.2とする。(b)/(a)が0.1未満では導電性や塗料密着性が低下し、一方、質量比(b)/(a)が1.2を超えると皮膜が適切に形成できないため耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(b)/(a)は0.2〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.8である。
【0028】
前記シランカップリング剤由来成分(c)は、処理液に配合したシランカップリング剤(C)に由来するものであり、このシランカップリング剤(C)の詳細はさきに述べたとおりである。
ここで、微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)は、ジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)で0.15〜1.0とする。質量比(Si)/(a)が0.15未満では導電性や塗料密着性が低下し、一方、1.0を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(Si)/(a)は0.25〜0.85であり、特に好ましくは0.30〜0.68である。
【0029】
前記バナジン酸化合物(d)は、処理液に配合したバナジン酸化合物(D)に由来するものであり、このバナジン酸化合物(D)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中でのバナジン酸化合物(d)の含有割合は、バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)で0.02〜0.15とする。質量比(d)/(a)が0.02未満では耐食性が低下し、一方、0.15を超えると皮膜が着色し、外観を損なうとともに耐黒変性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(d)/(a)は0.04〜0.12であり、特に好ましくは0.05〜0.10である。
【0030】
前記リン酸化合物(e)は、処理液に配合したリン酸化合物(E)に由来するものであり、このリン酸化合物(E)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中でのリン酸化合物(e)の含有割合は、リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)で0.03〜0.30とする。質量比(e)/(a)が0.03未満では耐食性が低下し、一方、0.30を超えると皮膜の外観や耐黒変性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(e)/(a)は0.06〜0.20であり、特に好ましくは0.10〜0.18である。
【0031】
前記ニッケル化合物(f)は、処理液に配合したニッケル化合物(F)に由来するものであり、このニッケル化合物(F)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中でのニッケル化合物(f)の含有割合は、ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)で0.005〜0.10とする。質量比(f)/(a)が0.005未満では耐黒変性が低下し、一方、0.10を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい(f)/(a)は0.01〜0.08であり、特に好ましくは0.02〜0.06である。
【0032】
前記アクリル樹脂(g)は、処理液に配合したアクリル樹脂エマルション(G)に由来するものであり、このアクリル樹脂エマルション(G)およびアクリル樹脂の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中でのアクリル樹脂(g)の含有割合は、アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)で0.18超〜0.75とする。質量比(g)/(x)が0.18以下では塗料密着性が低下し、一方、0.75を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(g)/(x)は0.2〜0.6であり、特に好ましくは0.25〜0.5である。
【0033】
表面処理皮膜は、さらに、連続プレス成形時の潤滑性能を向上させるために、ワックス(h)を含有してもよい。このワックス(h)は、処理液に配合したワックス(H)に由来するものであり、このワックス(H)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中でのワックス(h)の含有割合は、ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)で0.01〜0.10とすることが好ましい。質量比(h)/(x)が0.01未満では潤滑性、特に連続プレス成形時の潤滑性の向上効果が見られず、一方、0.10を超えると塗料密着性が低下するとともに、耐食性も低下するおそれがある。このような観点から、より好ましい質量比(h)/(x)は0.02〜0.08である。
さきに述べたように、表面処理皮膜の付着量は、皮膜中のジルコニウム化合物のZr換算で10〜200mg/m、好ましは20〜180mg/m、さらに好ましくは30〜150mg/mとする。同じく、表面処理皮膜の厚さは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下とすることが望ましい。
【0034】
本発明により得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板において、優れた導電性、耐食性および塗料密着性が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のような機構によるものと考えられる。
まず、水溶性ジルコニウム化合物と水分散性微粒子シリカとシランカップリング剤により皮膜の骨格が形成される。水分散性微粒子シリカは、乾燥した後の皮膜中でもその形状を維持するものと考えられる。また、シランカップリング剤は、水に溶解させると加水分解によりシラノールとアルコールを生じる。生じたシラノールは脱水縮合してポリシロキサンとなる。このポリシロキサンとなった部分をコアにし、外側にアルキル基を向けた二重構造となって水に分散しているものと考えられる。
【0035】
水溶性ではこれらのバインダーとして働き、微粒子シリカやポリシロキサンを有する二重構造ジルコニウム化合物は、微粒子シリカ(粒子)やポリシロキサンを有する二重構造体の間に浸透し、乾燥後の皮膜体を繋ぎ留めて皮膜を形成する。このようにして形成された無機質な皮膜は、ハンドリング時に傷が入りやすいとともに、プレス成形時の応力で細かく砕かれ易くため、クラックが形成された部分の耐食性が得られにくかった。しかし、皮膜に特定の樹脂(アクリル樹脂)を適量配合することにより、水溶性ジルコニウム化合物同様に皮膜中でバインダーとして機能するとともに、皮膜が受ける応力を緩和できるようになり、安定に耐食性を得ることができる。
【0036】
上述したように水溶性ジルコニム化合物、水分散性微粒子シリカ、シランカップリング剤およびアクリル樹脂は皮膜の骨格を形成する成分であり、一旦乾燥すると再度水には溶解せずバリアー的効果を有すると考えられる。これに対して、バナジン酸化合物とリン酸化合物は、皮膜中に均一に分散し、水に溶けやすい形態で存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を有する。すなわち、バナジン酸化合物は不動態化作用により亜鉛の腐食自体を抑制し、リン酸化合物は亜鉛と接触した際に亜鉛をエッチングして、溶解してきた亜鉛と難溶性の金属塩を形成する、あるいは亜鉛の腐食が起きた時に、亜鉛イオンを皮膜中で捕捉して、それ以上の腐食を抑制するものと考えられる。このように腐食抑制機構の異なるインヒビターを併用することで、優れた耐食性を得ることができる。また、アクリル樹脂を配合すると、バナジン酸化合物とリン酸化合物が水に溶出するのを抑制する効果が発現するため、沸騰水2時間浸漬後も塗料密着性が劣化せずに優れた塗料密着性を有するものと考えられる。
【0037】
この表面処理皮膜は、皮膜自体に導電性を有していないため、局部的に皮膜が薄くなっている鋼板表面の凸部で導電性が発現するものと考えられる。本発明の水系表面処理液は、処理液の安定性の面からはpH6〜11が好ましいが、亜鉛のエッチングがマイルドな領域であるため、亜鉛系めっき鋼板の凸部は、著しいエッチングが起きる場合に比べ、反応が起きにくく薄い皮膜を形成しやすいことが、優れた導電性を示す一因であると推測される。
【実施例】
【0038】
表2に示す水溶性ジルコニウム化合物、表3に示す水分散微粒子シリカ、表4に示すシランカップリング剤、表5に示すバナジン酸化合物、表6に示すリン酸化合物、表7に示すニッケル化合物、表8に示すアクリル樹脂エマルション(ノニオン性アクリル樹脂エマルション)、表9に示すワックスを用い、これらの成分を水に適宜配合して表10〜表13に示す水系表面処理液を作製した。処理液のpHはアンモニアとリン酸で適宜調整した。
処理原板である表1に示す亜鉛系めっき鋼板をアルカリ脱脂処理し、水洗および乾燥した後、上記水系表面処理液をバーコーターで塗布し、その後、直ちに鋼板表面温度が数秒〜十数秒で所定温度になるように加熱乾燥し、表面処理皮膜を形成させた。この表面処理皮膜の膜厚量は水系表面処理液の濃度により調整し、皮膜のZr付着量はZrを蛍光X線分析装置にて定量した。
【0039】
皮膜厚の測定は、集束イオンビーム(Focused
Ion Beam:FIB)加工装置(日立製作所製「FB2000A」)と付設のマイクロサンプリング装置を用いて断面試料を作製した後、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて行った。なお、FIB加工に先立って、断面試料を作成する表面処理鋼板の試料片の表面には、イオンビーム照射によるダメージからこれを保護するため、カーボン(C)の保護膜を約200nmほどフラッシュ蒸着し、さらにその上に金(Au)の保護膜をスパッタコートした。このようにして表面を保護した供試材をFIB加工装置にセットした後、断面試料のサンプリング位置にはさらに、FIB加工装置の化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)機構を用いて、厚さ約500nmのカーボン保護膜をコーティングし、イオンビームによる断面試料の切り出し加工を行った。マイクロサンプリング装置を用いて取り出した断面試料(幅方向約20μm、深さ方向約10μm)は、モリブデン製半月板状特殊メッシュの直線部分にCVD機構を使って固定した上で、イオンビームによる切り出し加工でTEM観察に適する厚さ(約0.1μmt)にまで仕上げた。その後、TEMにて断面試料を加速電圧200kVで観察して、約10μmの範囲で3ヶ所の皮膜厚を測定し、その平均値を皮膜厚とした。
【0040】
得られた表面処理亜鉛系めっき鋼板の品質性能(導電性、耐食性、塗料密着性、耐黒変性)を以下のような方法で評価した。その結果を、製造条件および皮膜構成とともに表14〜表18に示す。なお、表14〜表18に示す表面処理亜鉛系めっき鋼板の皮膜構成において、微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)、バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)、リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)、ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)、アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)、ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)については、表10〜表13に示される水系表面処理液の組成の質量比(B)/(A)、質量比(D)/(A)、質量比(E)/(A)、(F)/(A)、質量比(G)/(X)、質量比(H)/(X)とそれぞれ同等であるので、表14〜表18には記載しなかった。
【0041】
(1)導電性
抵抗測定装置(ダイアインスツルメンツ製ロレスタGP,ASPプローブ)を用い、鋼板表面へのASPプローブ(4探針)の押し付け荷重が200gとなる状態で、鋼板の表面抵抗を10箇所測定し、平均値にて評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎ :0.1mΩ未満
○ :0.1mΩ以上、1.0mΩ未満
○−:1.0mΩ以上、10.0mΩ未満
△ :10.0mΩ以上、100mΩ未満
× :100mΩ以上
【0042】
(2)耐食性
各サンプルについて、平板の状態で塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、168時間後の耐白錆性で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上
なお、表18の「耐食性」は、塩水噴霧試験での白錆発生率が5%以上となる時間(12時間単位)を示した。この耐食性の評価では、72時間以上を合格とした。
【0043】
(3)塗料密着性
各サンプルについて、メラミン系の焼き付け塗料(膜厚30μm)を塗装した後、沸水中に2時間浸漬し、直ちに、碁盤目(10×10、1mm間隔)のカットを入れてセロテープによる剥離を行った。評価基準は以下のとおりである。
◎ :剥離なし
○ :剥離面積率5%未満
△ :剥離面積率5%以上、20%未満
× :剥離面積率20%以上
【0044】
(4)耐黒変性
サンプルを80℃、98%RHで24時間保持した前後の色差△L(JIS−Z−8729に規定するL、a、b表示系における二つの物体色のCIE1976明度L*の差)の測定と目視判定にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎ :[0≦△L<1]であり、かつムラが無い均一な外観
○ :[−1<△L<0]であり、かつムラが無い均一な外観
○−:[−2<△L≦−1]であり、かつムラが無い均一外観
△ :[△L≦−2]であり、かつムラが無い均一な外観
× :ムラが目立つ外観
表14〜表18によれば、本発明例は、導電性、耐食性および塗料密着性が良好であるとともに、耐黒変性にも優れていることが判る。これに対して比較例では、導電性、耐食性、塗料密着性のいずれか一つ以上が劣っている。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
【表10】

【0055】
【表11】

【0056】
【表12】

【0057】
【表13】

【0058】
【表14】

【0059】
【表15】

【0060】
【表16】

【0061】
【表17】

【0062】
【表18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)を下記(1)〜(7)の条件を満足するように含むことを特徴とする亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液。
(1)水分散性微粒子シリカ(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(B)/(A)=0.1〜1.2
(2)シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(C)/(A)=0.5〜3.0
(3)バナジン酸化合物(D)のV換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(D)/(A)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(E)のP換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(E)/(A)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(F)のNi換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(F)/(A)=0.005〜0.10
(6)水分散性微粒子シリカ(B)およびシランカップリング剤(C)のSi換算量の合計(SI)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(SI)/(A)=0.15〜1.0
(7)アクリル樹脂エマルション(G)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(G)/(X)=0.18超〜0.75
【請求項2】
さらに、ワックス(H)を下記(8)の条件を満足するように含むことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板用水系表面処理液。
(8)ワックス(H)の固形分と水系表面処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(H)/(X)=0.01〜0.10
【請求項3】
請求項1または2に記載の水系表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面にZr付着量が10〜200mg/mとなるように塗布し、乾燥することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を下記(1)〜(6)の条件を満足するように含有し、Zr付着量が10〜200mg/mである表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(1)微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)=0.1〜1.2
(2)微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)=0.15〜1.0
(3)バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)が0.005〜0.10
(6)アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)=0.18超〜0.75
【請求項5】
表面処理皮膜が、さらに、ワックス(h)を下記(7)の条件を満足するように含有することを特徴とする請求項4に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
(7)ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)=0.01〜0.10

【公開番号】特開2012−62565(P2012−62565A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210307(P2010−210307)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】