説明

亜鉛系めっき鋼板

【課題】耐食性および密着性の諸性能を有し、低面圧での導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】水溶性ジルコニウム化合物とテトラアルコキシシランとエポキシ基を有する化合物とキレート剤とシランカップリング剤とバナジン酸と金属化合物を含み、これらを特定の比率で混合したpH8〜10である表面処理剤を用いて亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥し、50〜1200mg/mの表面処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などに用いられ、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成された表面処理皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含まない表面処理を施した環境調和型亜鉛系めっき鋼板に関し、特に、電気・電子機器など、電磁波漏れ(EMI)を防止す
る必要がある用途に好適で、電磁波シールド特性に優れるとともに、耐食性にも優れる亜鉛系めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年に見られる家電製品のデジタル化進展、CPU高速化などに伴い、その周辺機器や人
体に与える電磁波障害に関する問題が重要視されつつある。係る問題に対応し、わが国では「情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)」が設立されており、昨今、VCCIの規格を遵守すべく、電磁波障害問題に対する業界自主規制の傾向がますます強まっている。電気・電子機器内の電子基盤等から発生する電磁波ノイズの対策として、金属(導電体)素材のシールドボックスにより電子基盤等を包囲し、電磁波をシールドする技術がその一例である。
【0003】
シールドボックスは、シールドボックスを構成する導電性素材が電磁波を反射することにより電磁波を遮蔽する。また、シールドボックスを構成する素材の導電性が高いほど電磁波の反射率も高くなり、電磁波シールド性が向上する。そのため、シールドボックスの電磁波シールド性を確保する上では、シールドボックスを構成する金属板が高い導電性を有することが重要となる。
【0004】
また、シールドボックスは、金属板を成型加工して製造されるため不連続部(継目や接合部)を有し、その不連続部からは電磁波の漏洩または侵入が生じやすい。そのため、シールドボックスでは通常、不連続部に導電性のガスケットを挿入して電磁波の漏洩・侵入を防いでいる。
【0005】
ここで、シールドボックスの遮蔽性をより確実にする上では、所望の電流をシールドボックス全体に亘り通電可能な構造とする必要がある。しかしながら、上記金属体とガスケットとの接触部は通常、接触圧力が低いため、金属体−ガスケット間の電気導通性(以下、単に「導通性」という)に劣り、該接触部における通電量が低くなる傾向にある。そのため、シールドボックスを構成する金属板の導電性を確保することに加え、金属板−ガスケット間の導通性をも確保することが、シールドボックスの更なる高性能化を図る上で重要となる。
【0006】
一方、今日、あらゆる環境下で電気・電子機器が使用されており、シールドボックスを構成する素材には、過酷な使用環境下においても腐食しないこと、すなわち、優れた耐食性を有することも要求されている。従来、家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板に使用される亜鉛系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理を施した鋼板が広く用いられてきた。
【0007】
先述のとおり、シールドボックスを構成する金属体(鋼板)には高い導電性、更には、ガスケットとの導通性が要求される。ここで、クロメート処理により鋼板表面に形成される皮膜は、素地鋼板よりも導電性が劣るものの、クロメート処理により形成される皮膜は、その膜厚が薄膜であっても防錆性能を発揮することが可能である。このため、クロメート処理を施した表面処理鋼板においては、導電性に劣る皮膜を極力薄くすることにより、
鋼板(表面処理なし)に匹敵する導電性が得られる結果、上記ガスケットとの導通性を十分に確保することができるため、防錆性能と電磁波シールド性を両立することが可能であった。しかしながら、最近の地球環境問題から、クロメート処理によらない無公害な表面処理鋼板、所謂クロムフリー処理鋼板を採用することへの要請が高まっている。
【0008】
クロムフリー処理鋼板に関する技術は既に数多く提案されており、クロム酸と同じIV
A族に属するモリブデン酸、タングステン酸の不動態化作用を狙った技術、Ti、Zr、V、Mn、Ni、Coなどの遷移金属やLa、Ceなどの希土類元素の金属塩を用いる技術、タンニン酸などの多価フェノールカルボン酸やS、Nを含む化合物などのキレート剤をベースとする技術、シランカップリング剤を用いてポリシロキサン皮膜を形成した技術、或いは、これらを組み合わせた技術などが提案されている。
【0009】
具体的に例を挙げると以下の通りである。
(1)ポリビニルフェノール誘導体などの有機樹脂と酸成分、エポキシ化合物を反応させて得られる被覆剤、およびシランカップリング剤やバナジウム化合物等を配合した処理液から皮膜を形成する技術(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)
(2)水性樹脂とチオカルボニル基とバナジン酸化合物とリン酸を含む皮膜を形成する技術(例えば、特許文献5)
(3)Tiなどの金属化合物とフッ化物、リン酸化合物等の無機酸および有機酸を含む処理液から皮膜を形成する技術(特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12)
(4)Ce、La、Y等の希土類元素とTi、Zr元素の複合皮膜を形成し、その皮膜中でめっき界面側に酸化物層、表面側に水酸化物層を濃化させる技術(特許文献13)や、CeとSi酸化物の複合皮膜を形成する技術(特許文献14)
(5)下層に酸化物を含有するリン酸及び/又はリン酸化合物皮膜、その上層に樹脂皮膜からなる有機複合被覆を形成する技術(例えば、特許文献15、特許文献16)。
(6)特定のインヒビター成分とシリカ/ジルコニウム化合物からなる複合皮膜を形成する技術(例えば特許文献17)。
【0010】
これらの技術により形成される皮膜は、有機成分或いは無機成分の複合添加によって亜鉛の白錆発生を抑制することを狙ったものであり、例えば上記(1)および(2)の技術は、主に有機樹脂を添加することで耐食性を確保している。しかしながら、このような有機樹脂による皮膜組成の場合、有機樹脂が絶縁性を有する。したがって、このような皮膜が形成された鋼板は、十分な導電性を有しないため、シールドボックスの素材として不適当である。
【0011】
上記(3)および(4)の技術では、有機成分を全く含有しない無機単独皮膜が提案されている。しかしながら、これらの金属酸化物・金属水酸化物による複合皮膜では、皮膜を厚くしなければ亜鉛系めっき鋼板に十分な耐食性を付与することができない。加えて、亜鉛系めっき鋼板表面をリン酸亜鉛のような不導体皮膜(絶縁性皮膜)で覆うため、上記(1)および(2)の技術と同様に、良好な導電性を得るには不利であり、耐食性と導電性の両立が困難であった。
【0012】
上記(5)の技術では、表面処理鋼板表面の導電性が表面に被覆する絶縁性皮膜の膜厚に依存することに着目し、絶縁性皮膜を薄くすることにより良好な導電性を得ることが可能である。しかしながら、膜厚を薄くすると鋼板の耐食性が低下するため、耐食性と導電性がともに優れた表面処理鋼板を得ることは困難であった。
【0013】
(6)の技術では、インヒビター成分としてバナジン酸化合物の不動態化作用およびリン酸化合物による難溶性金属塩を利用し、更に骨格皮膜としてジルコニウム化合物、微粒
子シリカ、シランカップリング剤の複合皮膜を形成させることで優れた耐食性を発現している。しかしながら、導電性を確保する上では膜厚を薄くする必要があり、耐食性と導電性の両立が困難であった。
【0014】
以上のように、現在までに提案されているクロムフリー処理鋼板では、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性を確保するためには、絶縁性の高い皮膜の膜厚を厚くする必要がある。そのため、これらのクロムフリー処理鋼板は、導電性の確保が困難であり、シールドボックス本体を構成する鋼板に要求される特性を十分に満足するものとは云い難い。更に、先述のとおり、シールドボックスの遮蔽性をより確実にする上では、低接触圧力で接触する金属体(鋼板)−ガスケット間の導通性を十分に確保する必要があるところ、上記の何れの技術においても係る導通性について全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−13252号公報
【特許文献2】特開2001−181860号公報
【特許文献3】特開2004−263252号公報
【特許文献4】特開2003−155452号公報
【特許文献5】特許3549455号公報
【特許文献6】特許3302677号公報
【特許文献7】特開2002−105658号公報
【特許文献8】特開2004−183015号公報
【特許文献9】特開2003−171778号公報
【特許文献10】特開2001−271175号公報
【特許文献11】特開2006−213958号公報
【特許文献12】特開2005−48199号公報
【特許文献13】特開2001−234358号公報
【特許文献14】特許3596665号公報
【特許文献15】特開2002−53980号公報
【特許文献16】特開2002−53979号公報
【特許文献17】特開2008−169470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題点を解決し、亜鉛系めっき表面に6価クロムなどの公害規制物質を全く含むことなく、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力でガスケットなどと鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れる表面処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水溶性ジルコニウム化合物と、テトラアルコキシシランと、エポキシ基を有する化合物と、キレート剤と、バナジン酸化合物と、金属化合物などを含むアルカリ性の表面処理剤を使用することにより、上記問題点を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0018】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
(1) 水溶性ジルコニウム化合物(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、エポキシ基を有する化合物(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、Ti、Al、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を含有する金属化合物(F)とを含有し、pHが8〜10であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するよう
に調整された表面処理剤を亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥して得た、片面当たりの付着量が50〜1200mg/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする亜鉛
系めっき鋼板。

(I)水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算質量とテトラアルコキシシラン(B)との質量比(A/B)が1.0〜6.0
(II)テトラアルコキシシラン(B)とエポキシ基を有する化合物(C)との質量比(B/C)が0.1〜1.6
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との質量比(B/D)が0
.3〜2.0
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算質量とキレート剤(D)との質量比(E/D)が0.03〜1.0
(V)金属化合物(F)の金属合計換算質量とキレート剤(D)との質量比(F/D)が0.05〜0.8
【0019】
(2) 前記片面当たりの付着量が50〜500mg/mである(1)に記載の亜鉛系
めっき鋼板。
【0020】
(3) 前記表面処理剤が更に潤滑剤(G)を含有し、該潤滑剤(G)を、該表面処理剤の全固形分に対し、1〜10質量%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【0021】
(4) 前記表面処理剤が更にノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を含有し、該ノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を、該表面処理剤の全固形分に対し、0.5〜45.0質量%含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【0022】
(5) 前記ノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を前記表面処理剤の全固形分に対し、0.5〜4.5質量%含有する(4)に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力で鋼板がガスケットなどと接触するような厳しい条件でも導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の亜鉛系めっき鋼板について説明する。
【0025】
本発明の亜鉛系めっき鋼板としては、特に制限されないが、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、更には溶融亜鉛Zn−5質量%Al合金めっき鋼板(GF)、溶融亜鉛−55質量%アルミ合金めっき鋼板(GL)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、電気亜鉛−Ni合金めっき鋼板(Zn−11質量%Ni)等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る亜鉛系めっき鋼板は、水溶性ジルコニウム化合物(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、エポキシ基を有する化合物(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、Ti、Al、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を含有する金属化合物(F)を含有する表面処理剤を用いて、亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥し、片面当たりの付着量が50〜1200mg/mの皮膜を
有する導通性に優れた亜鉛めっき鋼板である。
次に、本発明に使用される表面処理剤について説明する。
【0027】
本発明に使用される表面処理剤は水溶性ジルコニウム化合物(A)を含有する。水溶性ジルコニウム化合物を含有する表面処理剤を用いて亜鉛系めっき鋼板の表面に表面処理皮膜を形成すると、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、無機皮膜の特性である耐熱性および溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0028】
本発明に使用される水溶性ジルコニウム化合物(A)の種類は特に限定されず、例えば、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウム、ジルコンフッ化水素酸などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、亜鉛めっき鋼板の耐食性、および導通性がより優れる点で、炭酸ジルコニルアンモニウム、および炭酸ジルコニルナトリウムが好ましい。
【0029】
本発明に使用される表面処理剤は、テトラアルコキシシラン(B)を含有する。上記水溶性ジルコニウムと共にテトラアルコキシシランを含有する表面処理剤を用いて亜鉛系めっき鋼板の表面に皮膜を形成すると、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、無機皮膜の特性である耐熱性、溶接性、に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。これらの優れた特性が得られる理由は定かでないが、テトラアルコキシシラン(B)と上述した水溶性ジルコニウム(A)とを併用すると、水溶性ジルコニウム(A)とテトラアルコキシシラン(B)とが、三次元架橋を有する皮膜を形成することに起因するものと推測される。
【0030】
本発明に使用されるテトラアルコキシシラン(B)の種類は1分子中にアルコキシ基を4個有するものであれば特に限定されず、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、及びテトラブトキシシランなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。アルコキシ基としては特に限定されず、例えば、炭素数が1〜4のアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜3、さらに好ましくは炭素数1〜2である。すなわち、亜鉛系めっき鋼板の耐食性がより優れるという観点からテトラエトキシシラン、およびテトラメトキシシランが好ましい。
【0031】
本発明の表面処理剤に使用される水溶性ジルコニウム(A)とテトラアルコキシシラン(B)の含有量は、水溶性ジルコニウム(A)の合計Zr換算質量とテトラアルコキシシラン(B)との質量比(A/B)が1.0〜6.0であり、1.6〜3.1であることがより好ましい。上記質量比が1.0未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、6.0超の場合には亜鉛系めっき鋼板の導通性が低下する。
【0032】
本発明に使用される表面処理剤は、エポキシ基を有する化合物(C)を含有する。上記水溶性ジルコニウムおよびテトラアルコキシシランと共に、エポキシ基を有する化合物(C)を含有する表面処理剤を用いて亜鉛系めっき鋼板の表面に皮膜を形成すると、該鋼板の耐食性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、特に、密着性、耐疵つき性、および潤滑性に優れた皮膜を亜鉛系めっき鋼板の表面に形成することができる。
【0033】
本発明に使用されるエポキシ基を有する化合物(C)の種類は特に限定されず、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのエポキシ基を有するシラン
カップリング剤、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テ
レフタル酸ジグリシジルエステルのエポキシ基を有するエステル化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルのエポキシを有するエーテル化合物などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、少ない皮膜量で亜鉛系めっき鋼板の耐食性がより優れるという観点からエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0034】
本発明に使用されるエポキシ基を有する化合物(C)の含有量は、テトラアルコキシシラン(B)の質量とエポキシ基を有する化合物(C)合計の質量との質量比(B/C)が、0.1〜1.6であり、0.2〜1.2であることがより好ましい。上記質量比が0.1未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、1.6超の場合には皮膜の密着性が低下する。
【0035】
本発明に使用される表面処理剤は、キレート剤(D)を含有する。キレート剤(D)を含有することにより、保管安定性(貯蔵安定性)に優れた表面処理剤が得られる。その理由は定かでないが、キレート剤(D)は、上記テトラアルコキシシラン(B)が表面処理剤中で高分子化することを抑制する効果を有するものと推測され、係る効果に起因して表面処理剤を調製後長期に亘り保管した場合においても変質することなく、調製時の品質が維持されるものと推測される。また、キレート剤(D)は、バナジン酸化合物(E)および金属化合物(F)を表面処理剤中に安定に溶解するために必要である。更に、キレート剤(D)は、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸などの無機酸に比べて亜鉛めっき層表面のエッチング作用が少ない上、リン酸亜鉛などの不導体皮膜を形成することがない。そのため、キレート剤(D)を含有する表面処理剤を用いて形成された皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板は、より優れた導通性を呈するものと推測される。
【0036】
本発明に使用されるキレート剤(D)の種類は特に限定されず、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、アジピン酸等のジカルボン酸又はトリカルボン酸等のポリカルボン酸及びグリシン等のアミノカルボン酸等、ホスホン酸またはホスホン酸塩などが挙げられ、これらキレート剤の1種以上を用いることができる。特に、表面処理剤の保管安定性(貯蔵安定性)、および亜鉛系めっき鋼板の耐食性と導通性の観点より、1分子中にカルボキシル基またはホスホン酸基を2個以上有する化合物が好ましい。
【0037】
本発明に使用されるキレート剤(D)の含有量は、テトラアルコキシシラン(B)の質量とキレート剤(D)合計の質量との質量比(B/D)が0.3〜2.0であり、0.5〜1.8であることがより好ましい。質量比が0.3未満または2.0超のいずれの場合も耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られない。
【0038】
本発明に使用される表面処理剤は、バナジン酸化合物(E)を含有する。バナジン酸化合物(E)は亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜中において、水に溶解し易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。本発明に使用されるバナジン酸化合物(E)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウムが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0039】
本発明に使用されるバナジン酸化合物(E)の含有量は、バナジン酸化合物(E)合計のV換算質量とキレート剤(D)合計の質量との質量比が(E/D)が、0.03〜1.
0であり、0.05〜0.71であることがより好ましい。質量比が0.03未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、1.0超の場合には表面処理剤へのバナジン酸化合物の溶解が難しくなる。
【0040】
本発明に使用される表面処理剤は、Ti、AlおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(F)を含有する。これらの金属成分を含有することにより、優れた耐食性(特に加工部)を有する亜鉛系めっき鋼板の提供が可能となる。
【0041】
本発明に使用される金属化合物(F)としては、Ti、AlおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物であれば特に種類は限定されない。
【0042】
Tiを含む金属化合物としては、例えば、硫酸チタニル、硝酸チタニル、硝酸チタン、塩化チタニル、塩化チタン、チタニアゾル、酸化チタン、シュウ酸チタン酸カリウム、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、チタンラクテート、チタンテトライソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、ジイソプロピルチタニウムビスアセチルアセトンなどが挙げられる。また、硫酸チタニルの水溶液を、熱加水分解させて得られるメタチタン酸や、アルカリ中和で得られるオルソチタン酸およびこれらの塩も挙げられる。
【0043】
Alを含む金属化合物としては、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0044】
Znを含む金属化合物としては、例えば、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛の他、亜鉛は両性金属であるため、アルカリサイドで生成する亜鉛酸ナトリウム、亜鉛酸カリウムなどが挙げられる。これらの1種以上を混合して用いることができる。
【0045】
本発明に使用される金属化合物(F)の含有量は、金属化合物(F)の金属合計換算質量とキレート剤(D)合計の質量との質量比(F/D)が、0.05〜0.8であり、0.17〜0.34であることがより好ましい。質量比が0.05未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、0.8超の場合には金属化合物(F)の表面処理剤への溶解が難しくなる。
【0046】
本発明に使用される表面処理剤は、pH8〜10であり、pH8.2〜9.5であることがより好ましい。処理液のpHが8未満であると表面処理剤の保管安定性(貯蔵安定性)、並びに、亜鉛系めっき鋼板の耐食性および鋼板表面に形成される皮膜の密着性が低下する。一方、pHが10を超える場合や酸性となった場合には、亜鉛のエッチングが著しくなり、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、および導通性が低下する。本発明において、pHの調整に用いられるアルカリとしては、アンモニウム、アミン、アミンの誘導体およびアミノポリカルボン酸が好ましく、酸としては上述したキレート剤(D)から選択されることが好ましい。
【0047】
本発明の亜鉛めっき層の表面に形成される皮膜は、片面当たりの付着量が50〜1200mg/mとなるように調整され、好ましくは100〜900mg/mに調整され、さらに好ましくは100〜500mg/m以下に調整される。50mg/m未満の場合には本発明の効果が十分には得られないことがあり、1200mg/mを超える場合には効果が飽和し、経済的に不利益となるほか、場合によっては導通性の低下を招くこともある。
【0048】
更に、本発明に使用される表面処理剤は、潤滑性能を向上させるために潤滑剤(G)を
添加することができる。潤滑剤としては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ライスワックス、テフロン(登録商標)ワックス、二硫化炭素、グラファイトなどの固体潤滑剤が挙げられる。これらの固体潤滑剤の中から、1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
本発明に使用される潤滑剤(G)の含有量は、表面処理剤の全固形分に対し、1〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。1質量%以上とすると潤滑性能の向上が得られ、10質量%以下の場合には亜鉛系めっき鋼板の耐食性が低下することがない。
【0050】
更に、本発明に使用される表面処理剤は、亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜の耐食性を向上させる目的でノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を含有することができる。ノニオン系アクリル樹脂エマルションの種類は特に限定されず、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどのビニル系モノマーをポリエチレンオキサイドあるいはポリプロピレンオキサイドを構造上にもつノニオン系界面活性剤(乳化剤)の存在下、水中で乳化重合した水系エマルション等、ノニオン系乳化剤で乳化されたアクリル樹脂を使用することができる。
【0051】
本発明に使用されるノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)の含有量は、表面処理剤の全固形分に対し0.5〜45.0質量%であり、1.0〜40.0質量%であることがより好ましく、4.5質量%以下であることがさらに好ましい。0.5質量%以上とすると表面処理剤の濡れ性向上の効果が得られ、45.0質量%以下の場合には亜鉛系めっき鋼板の導通性が低下することがない。
【0052】
本発明に使用される表面処理剤は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。表面処理剤の固形分割合は適宜選択すればよい。本発明に使用される表面処理剤は、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防カビ剤、着色剤などを添加しても良い。これらを添加することにより、表面処理剤の乾燥性、塗布外観、作業性、貯蔵安定性(保管安定性)、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても表面処理剤の全固形分に対して5質量%未満である。
【0053】
本発明の表面処理剤の亜鉛系めっき鋼板への塗布の方法としては、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状などによって適宜最適な方法が選択され、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法、などが挙げられる。より具体的には、例えば、シート状であればロールコート法、バーコート法や、表面処理剤を亜鉛系めっき鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する。成型品であれば、表面処理剤に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理剤を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが挙げられる。
【0054】
また、亜鉛系めっき鋼板に表面処理剤を塗布する前に、必要に応じて、亜鉛系めっき鋼板表面上の油分や汚れを除去することを目的とした前処理を亜鉛系めっき鋼板に施してもよい。亜鉛系めっき鋼板は、防錆目的で防錆油が塗られている場合が多い。また、防錆油で塗油されていない場合でも、作業中に付着した油分や汚れなどがある。前処理を施すことにより、亜鉛系めっき鋼板表面上が清浄化され、金属材料表面が均一に濡れやすくなる。油分や汚れなどがなく、表面処理剤が均一に濡れる場合は、前処理工程は特に必要はない。
なお、前処理の方法は特に限定されず、例えば湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄などの
方法が挙げられる。
【0055】
本発明の亜鉛系めっき鋼板表面上に形成された皮膜を乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、通常60〜200℃であり、80〜180℃であることがより好ましい。加熱温度を60℃以上とすると、主溶媒である水分が残存することなく、亜鉛系めっき鋼板の耐食性の低下等が見られない。一方、加熱温度を200℃以下とすると、皮膜にクラックが生じることによる亜鉛系めっき鋼板の耐食性低下がない。加熱乾燥方法は特に限定されず、例えば熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線などにより加熱して、表面処理剤を乾燥すればよい。
また、加熱時間は、使用される亜鉛系めっき鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
【0056】
本発明により得られる亜鉛系めっき鋼板において、耐食性、および亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜の密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下させることなく、所望の導通性が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のような作用効果によるものと推測される。
【0057】
まず、本発明においては、水溶性ジルコニウム化合物とテトラアルコキシシランとエポキシ基を有する化合物により亜鉛系めっき鋼板の表面に形成される皮膜の骨格を構成する。水溶解性ジルコニウムの皮膜は、一旦乾燥すると再度水には溶解せずバリアー的効果を有するため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における亜鉛系めっき鋼板の耐食性の諸性能に優れ、無機皮膜の特性である耐熱性および溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。このとき、テトラアルコキシシランを含有することにより、アルコキシ基から発生したシラノール基と水溶性ジルコニウム化合物が三次元架橋することにより、緻密な皮膜が形成されるものと推測される。また、本発明の表面処理剤は、エポキシ基を有する化合物を含有することにより、エポキシ基が、シラノール基、および水溶性ジルコニウムと架橋反応するものと推測される。このため、皮膜の結合力がより強固になるものと推測される。また、エポキシ基を有する化合物により、有機皮膜の特性である耐疵つき性、および潤滑性に優れた亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0058】
更に、バナジン酸化合物と金属化合物は、皮膜中において水に溶け易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。すなわち、バナジン酸化合物と金属化合物は、腐食環境下で一部がイオン化し、不動態化することにより亜鉛の腐食自体を抑制するものと推測される。特に、金属化合物は、成型後の皮膜欠陥部に優先的に溶出し、亜鉛の腐食を抑制するものと推測される。また、キレート剤は、表面処理剤中で、テトラアルコキシシランが高分子化することを抑制する効果、およびバナジン酸化合物と金属化合物を安定に溶解する効果を有するものと推測される。更に、乾燥して皮膜を形成する際には、リン酸亜鉛のような絶縁皮膜を形成せずに、キレート剤のカルボキシル基、またはホスホン酸基が上記皮膜骨格成分と緻密な皮膜骨格を形成するための架橋剤として働くため、導通性の向上に寄与するものと推測される。
【0059】
すなわち、本発明の導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、水溶性ジルコニウム化合物、テトラアルコキシシラン、およびエポキシ基を有する化合物により形成される皮膜が薄膜でありながら高耐食性を有する点と、キレート剤、バナジン酸化合物、および金属化合物の腐食インヒビターを、皮膜中に含有させる構成により、低い圧力でガスケットなどと接触する場合であっても、優れた導通性を維持することが可能になったとものと推測される。
【0060】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することな
く、低い圧力で鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。本発明の亜鉛系めっき鋼板は種々の用途に適用することができ、例えば、建築、電気、自動車等の各種分野で使用される材料などに好適に用いられる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまで本発明を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0062】
1.試験板の作成方法
(1)供試板(素材)
以下の市販の材料を供試板として使用した。
( i )電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、目付量=20/20(g/m2
( ii )溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚0.8mm、目付量=60/60(g/m2
(iii)合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚0.8mm、目付け量=40/40(g
/m2
尚、目付量はそれぞれの鋼板の主面上への目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合は、20/20(g/m)であり、鋼板の両面のそれぞれに20g/mのめっき層を有することを意味する。
【0063】
(2)前処理(洗浄)
試験片の作製方法としては、まず上記の供試材の表面を、日本パーカライジング(株)製パルクリーンN364Sを用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して金属材料表面が水で100%濡れることを確認した後、更に純水(脱イオン水)を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥したものを試験片として使用した。
【0064】
(3)本発明の処理液の調整
各成分を表1に示す組成(質量比)にて脱イオン水中で混合し、表面処理剤を得た。
尚、表1中の成分(G)及び(H)の配合量は、表面処理剤1kg中に配合した量(g)を表す。
【0065】

【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0066】
以下に、表1で使用された化合物について説明する。
<水溶性ジルコニウム化合物(A)>
A1:炭酸ジルコニウムナトリウム
A2:炭酸ジルコニウムアンモニウム
【0067】
<テトラアルコキシシラン(B)>
B1:テトラエトキシシラン
B2:テトラメトキシシラン
【0068】
<エポキシ基を有する化合物(C)>
C1:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
C2:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル
【0069】
<キレート剤(D)>
D1:1−ヒドロキシメタン−1.1−ジホスホン酸
D2:酒石酸
【0070】
<バナジン酸化合物(E)>
E1:メタバナジン酸アンモニウム
E2:メタバナジン酸ナトリウム
【0071】
<金属化合物(F)>
F1:チタンフッ化アンモニウム
F2:硝酸アルミニウム・6水和物
F3:炭酸亜鉛
【0072】
<潤滑剤(G)>
G1:ポリエチレンワックス(三井化学(株)製ケミパール(登録商標)W900)
【0073】
<ノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)>
H1:スチレン−エチルメタアクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸共重
合体
【0074】
(4)処理方法
上記の表面処理剤を用いて、バーコート塗装にて各試験片の片側の表面上に塗装し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れて、表2に示される乾燥温度となるように乾燥させ、表2に示される付着量(mg/m)の皮膜を形成させた。
乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節した。なお、乾燥温度は試験片表面の最高到達温度を示す。バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
【0075】
バーコート塗装:表面処理剤を試験片に滴下して、#3〜5バーコーターで塗装した。使用したバーコーターの番手と表面処理剤の濃度とにより、表2に示す付着量となるように調整した。
【0076】

【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0077】
(5)評価試験の方法
(5−1)耐食性の評価
各供試板からサイズ70×150mmの試験片を切り出し、裏面と端部をビニールテープでシールして以下の試験を行った。評価は、錆発生面積率を目視にて判定評価した。
塩水噴霧試験(SST:JIS−Z−2371−2000に準ずる):
SST120時間後の白錆発生面積率を目視にて、下記評価基準で評価した。
判定基準:
◎ :白錆発生面積率5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上20%未満
△ :白錆発生面積率20%以上40%未満
× :白錆発生面積率40%以上
【0078】
(5−2)上塗り塗装性(密着性)の評価
前記と同一サイズの試験片上に市販のメラミンアルキッド塗料を塗装し、140℃で
30分間焼き付けた後の塗膜厚さが30μmとなるようにした。その後、沸水に2時間浸漬後、試験片の表面にNTカッターで素地鋼まで達する切り込みを入れて1mm角の碁盤目を100個形成し、切込みを入れた部分が外(表)側となる様にエリクセン押し出し機で5mm押し出し、テープで剥離し、塗膜の残存状況を以下の評価で実施した。エリクセン押し出し条件は、JIS−Z−2247−2006(エリクセン値記号:IE)に準拠し、ポンチ径:20mm、ダイス径:27mm、絞り幅:27mmとした。
判定基準:
◎ :剥離面積5%未満および剥離なし
○ :剥離面積10%未満5%以上
△ :剥離面積20%未満以上10%以上
× :剥離面積20%以上
【0079】
(5−3)導通性の評価
試験板について、三菱化学アナリテック(株)製ロレスタGP、ESP端子を用い表面抵抗値を測定して評価した。表面抵抗値は、端子にかかる荷重を50gピッチで増加させて測定し、10−4Ω以下が達成できる最小の荷重を評価した。
◎ :10点測定の平均荷重が250g未満
○ :10点測定の平均荷重が250g以上、500g未満
:10点測定の平均荷重が500g以上、750g未満
△ :10点測定の平均荷重が750g以上、950g未満
× :10点測定の平均荷重が950g以上
【0080】
(5−4)保管安定性(貯蔵安定性)の評価
表1に示した成分組成を有する各表面処理剤について、40℃の恒温槽に30日間保管し、表面処理剤の外観を目視によって評価した。
◎ :変化なし
○ :極微量の沈殿が見られる。
△ :微量の沈殿が見られる。もしくは、粘度がやや高くなった。
× :大量の沈殿が見られる。もしくは、ゲル化した。
【0081】
(5−5)潤滑性の評価
表面処理した試験板より直径100mmの円板状の試験片を切り出し、ポンチ径:50mm、ダイス径51.91mm、しわ押さえ力:1トンの条件でカップ状に成型した。成型品の絞り加工を受けた面(カップの側面)の外観を目視によって調べ、疵つき程度及び黒化程度を評価した。評価基準は次の通りである。
◎ :全面に渡って殆ど変化なく、外観が均一
○ :疵つき及び黒化が少し発生し、外観が明らかに不均一
△ :コーナー部を中心に疵つき及び黒化が激しく発生
× :成型できずに割れた
【0082】
実施例1〜81、および比較例82〜103に記載の表面処理剤を用いて得られた亜鉛系めっき鋼板に関して、上記の(5−1)〜(5−4)の評価を行った結果を、表3に示す。
なお、比較例89、および比較例101においては、処理液が不安定で皮膜を形成することができず、各種評価を行うことができなかった。
【0083】

【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【0084】
表3に示すように、本発明の亜鉛系めっき鋼板は、耐食性、および密着性の諸性能を有し、低い接触圧力でガスケットなどと接触するときの導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。本発明の導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板は皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含んでおらず、自動車、家電、OA機器の部品として使用する亜鉛系めっき鋼板としては最適である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含むことなく、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力でガスケットなどと鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ジルコニウム化合物(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、エポキシ基を有する化合物(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、Ti、Al、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を含有する金属化合物(F)とを含有し、pHが8〜10であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された表面処理剤を亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥して得た、片面当たりの付着量が50〜1200mg/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする亜鉛系めっ
き鋼板。

(I)水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算質量とテトラアルコキシシラン(B)との質量比(A/B)が1.0〜6.0
(II)テトラアルコキシシラン(B)とエポキシ基を有する化合物(C)との質量比(B/C)が0.1〜1.6
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との質量比(B/D)が0
.3〜2.0
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算質量とキレート剤(D)との質量比(E/D)が0.03〜1.0
(V)金属化合物(F)の金属合計換算質量とキレート剤(D)との質量比(F/D)が0.05〜0.8
【請求項2】
前記片面当たりの付着量が50〜500mg/mである請求項1に記載の亜鉛系めっ
き鋼板。
【請求項3】
前記表面処理剤が更に潤滑剤(G)を含有し、該潤滑剤(G)を該表面処理剤の全固形分に対し、1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記表面処理剤が更にノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を含有し、該ノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を該表面処理剤の全固形分に対し、0.5〜45.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
前記ノニオン系アクリル樹脂エマルション(H)を前記表面処理剤の全固形分に対し、0.5〜4.5質量%含有する請求項4に記載の亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2010−255105(P2010−255105A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70873(P2010−70873)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】