説明

交互読み出し勾配を用いて取得される複数MR画像の整列方法

水及び脂肪画像は、パルスシーケンスを使用して取得され、その中で、一方の画像データセットのNMR信号は一方向の分極を有する読み出し勾配を用いて取得され、他方の画像データセットのNMR信号は反対の分極を有する読み出し勾配を用いて取得される。化学シフトにより生じる脂肪信号の誤整列は、k空間の中の別々の水及び脂肪画像データセットを算出し、その後、実空間画像に変換することで補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴画像法(「MRI」)の方法及びシステムに関し、特に、複数の化学シフトしたスピン種の画像の再構成に関する。
【背景技術】
【0002】
人体組織などの物質が均一な磁場(分極磁場B0)にさらされると、組織内のスピンの個々の磁気モーメントはこの分極磁場に沿って整列しようとし、その人体組織固有のラーモア周波数で分極磁場の周りをランダムに歳差運動する。もしこの物質つまり組織が、xy平面内にありラーモア周波数に近い周波数をもつ磁場(励起磁場B1)にさらされると、整列後の正味のモーメントMzは、xy平面内に向かって回転し、もしくは「傾き(tipped)」、正味の横磁気モーメントMtが生じる。励起信号B1を停止させた後、励起されたスピンにより信号が放出され、この信号を受信し処理して画像を形成することができる。
【0003】
これらの信号を利用して画像を形成する際には、磁場勾配(magnetic field gradients)(Gx、Gy及びGz)が用いられる。通常、画像化しようとする領域は、使用する具体的な位置特定方法に従って勾配が変化するような一連の測定サイクルによりスキャンされる。結果として得られるNMR受信信号の組は、デジタル化されると共に処理され、多くの周知の再構成技法のうちの1つを用いて画像を再構成する。
【0004】
本発明を、周知のフーリエ変換(FT)イメージング技法の一変法(「スピン・ワープ」とも呼ばれる)に関連させて記載する。スピン・ワープ技法については、非特許文献1で議論されている。スピン・ワープ技法では、NMRスピンエコー信号の収集に先だって可変振幅の位相エンコード磁場勾配パルス(phase encoding magnetic field gradient pulse)を利用し、空間情報をこの勾配方向に位相エンコードしている。2次元による実現形態(2DFT)では例えば、空間情報は、1つの方向に沿って位相エンコード勾配(Gy)を適用することにより該方向においてエンコードされ、次いで、位相エンコード方向に直交する方向にある読み出し磁場勾配(Gx)の存在下でNMR信号が取得される。取得中に存在する読み出し磁場勾配は、上述の直交する方向での空間情報をエンコードしている。典型的な2DFTパルスシーケンスにおいては、位相エンコード磁場勾配Gyの大きさは、一連の視野において(ΔGy)だけ増加し、一連の視野はスキャン時に取得され、全体の画像を再構成することのできる一組のNMRデータを作成する。
【0005】
NMR画像化シーケンスにおいては、均一な磁場Bがカーテシアン座標系のZ軸方向に画像化された物体に印加される。磁場Bを印加することにより、その物体の核スピンはZ方向に配列する。この磁場内では、下式に従う物体固有のラーモア周波数で原子核が共鳴する。
ω=γB0
ここで、ωはラーモア周波数、γは核種に固有の磁気回転比(gyromagnetic ratio)である。原子核はこの周波数においてRFパルスに反応し、その縦方向の磁化が横方向のxy平面に傾く。水は、生物組織に比較的豊富に存在することから、またその陽子の性質から、このような画像法において主な関心の対象である。水の陽子の磁気回転比γの値は4.26kHz/Gaussであり、従って、1.5テスラの分極磁場Bにおける水の陽子のラーモア周波数はおよそ63.9MHzである。
【0006】
水の他、主に脂肪は生物組織内に存在し且つ異なる磁気回転比を有する。脂肪の陽子のラーモア周波数は、1.5テスラの分極磁場Bにおける水の陽子よりも約210Hz低い。このような異なる同位体又は同じ原子核の種、つまり陽子、のラーモア周波数の差異は化学シフトと呼ばれ、二種の化学状態の差異を反映している。
【0007】
周知のスライス選択RFパルスシーケンスにおいては、スライス選択磁場勾配GをRFパルスと同時に印加することで、xy平面内にある物体のスライス面内の原子核のみが励起される。原子核の励起後、x軸及びy軸方向に磁場勾配が印加され、NMR信号が得られる。x軸方向の読み出し磁場勾配Gは、x軸方向の位置に依存した異なる共鳴周波数での原子核の歳差運動を誘起し、つまり、Gは歳差運動している原子核を、周波数ごとに空間的にエンコードする。水と脂肪は、たとえ同じ位置にあっても異なる周波数にて共鳴するため、再構成された画像においてそれぞれの位置にズレが生じる。この化学シフトは、特に組織や臓器の境界においてぼけを生じたり、縁を何重にもみせたりする原因となり問題となる。
【0008】
水又は脂肪からの信号を抑制するための技術はこれまでに多数開発されている。信頼性が高く均一な脂肪抑制は、MRIを用いて行う広範囲における精密診断のために不可欠である。特に、高速スピンエコー法(fast spin-echo)(FSE)、定常状態自由歳差運動(steady-state free precession)(SSFP)、グラディエントエコー法(GRE)のようなシークエンスにおいては、脂肪が画面上に明るく映るため、その下に隠れた病状を覆い隠してしまう。比較的均一な静磁場B下の人体の箇所においては従来の脂肪抑制法で十分であるものの、脂肪抑制がルーチン的に機能しない応用例も存在する。特に、四肢イメージング(extremity imaging)、アイソセンタから逸れたイメージング(off-isocenter imaging)、大きな視野(large field of view)(FOV)イメージング、また、腕神経叢や頭蓋底などその他多くの難しい箇所においては脂肪抑制がうまく機能しない。短時間反転回復(Short-TI inversion recovery)(STIR)イメージングを用いると均一な脂肪抑制がされるが、水の画像やT1(縦緩和時間)に依存する画像の混合コントラストの信号雑音比(SNR)が犠牲となる(非特許文献2参照)。後者の不利点から、STIRイメージングはT2強調画像への応用にのみ制限され、従来のT1強調画像への応用には単に従来の脂肪抑制法のみが用いられている。脂肪抑制法の他の技術には、スペクトル空間選択パルス又は水選択パルスを利用するものがあるが、しかしながらこの方法もまた静磁場の不均一性により影響を受けやすい(非特許文献3参照)。
【0009】
「インフェーズ」及び「アウトオブフェーズ」画像法は、1984年にDixonにより初めて描写され、この方法は水と脂肪の化学シフトに基づき水画像と脂肪画像を分離するために使用される(非特許文献4参照)。1991年にGloverらは、被検体の組織により異なる磁気感受率(susceptibility)に起因する静磁場不均一からなる3ポイント法を用いてこのアプローチをさらに精査した(非特許文献5参照)。Hardyらはこの方法を初めてFSEイメージングへ応用し、スピンエコーの中心で読みだした一枚の画像と、その相対的な前後位置で読みだした続く二枚の画像からなる三枚の画像を取得した(非特許文献7参照)。
【0010】
近年、Jingfei Maは、Dixonにより描写されたオリジナルの2ポイント法の改良技術を発表した(非特許文献8参照)。この方法では、Dixonのオリジナルの方法と同じようにインフェーズ及びアウトオブフェーズの二種類のエコーが得られるが、その中で、静磁場不均一性が存在することにより起こる水と脂肪の「入れ替わり(swapping)」を取り除くため、水と脂肪の間の曖昧さをはっきりとさせるアンラッピングアルゴリズム(upwrapping algorithm)が用いられている。この方法はさらに3D−SPGRの取得へも拡張され、これにより反対の分極を有する読み出し勾配を持つ二つの読み出しが、同じパルスシーケンス又は繰り返し時間(TR)の中で取得される(非特許文献9参照)。
【0011】
交互の分極を有する読み出し勾配を用いて単一パルスシーケンス又は繰り返し時間(TR)の中で複数の画像を取得するとき、化学シフトアーティファクトの結果、画像が空間的に互いに整列されないことが観測されている。その結果、上記の方法の一つを用いて画像が合成される際に、例えば、水又は脂肪のスピン密度のみを描写する画像であっても、組織や臓器の境界においてぼけを生じたり縁を二重にしたりするなどのアーティファクトが生じる。このアーティファクトは、特に、強い静磁場Bを印加することで化学シフトが大きくなる際や、信号雑音比(SNR)の向上のために受信機のバンド幅を小さく設定する際に問題となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「「スピン・ワープNMR画像法及び人体全身画像法への応用」、W.A.Edelstein他著、1980年、Physics in Medicine and Biology、25巻 p.751−756」」
【非特許文献2】「「短時間反転回復シーケンス 腹部のMR画像法へのアプローチ」、Bydder GM、Pennock JM、Steiner RE、Khenia S、Payne JA、Young IR著、1985年、Magn. Reson. Imaging、3(3) p.251−254」」
【非特許文献3】「「同時に起こる空間的及びスペクトル的選択励起」、Meyer CH、Paejy JM、Macovski A、Nishimura DG著、1990年、Magn. Reson. Med.、15(2) p.287−304」」
【非特許文献4】「「単純陽子分光画像法」、Dixon W .著、1984年、Radiology153,p.189−194」」
【非特許文献5】「「静磁場不均一性補正を用いた正しい水及び脂肪構成への3ポイントディクソン法」、Glover GH、Schneider E著、1991年、Magn. Reson. Med.、18(2) p.371−383」」
【非特許文献6】「「水及び脂肪プロトンへのマルチポイントディクソン法及び感受率画像法」、Glover GH著、1991年、Journal of Magnetic Resonance Imaging、1 p.521−530」」
【非特許文献7】「「3ポイントディクソン法を用いた高速スピンエコーMR画像法における脂肪及び水の分離」、Hardy PA、Hinks RS、Tkach JA著、1995年、Journal of Magnetic Resonance Imaging、5(2) p.181−195」」
【非特許文献8】「「効果的なロバスト位相補正アルゴリズムを適用したデュアルエコー2ポイントディクソン技法を用いた息止め下での水及び脂肪画像法」、Ma J著、2004年、Magn.Reson.Med.、52(2) p.415−419」
【非特許文献9】「「造影増強MRIにおける脂肪抑制された三次元デュアルエコーディクソン技法」、Ma J、Vu A、Son J、Choi H、Hazle J著、2006年、Magn.Reson.Imag.、23 p.36−41」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、反対の分極を有する読み出し勾配から二つの異なるスピン種の画像を取得した時に生じる化学シフトエラーを完全に補正することを目的とする。
【0014】
本発明は、反対の分極を有する読み出し勾配から二つの画像のNMR信号を得た時に生じる化学シフトエラーを完全に補正した、水及び脂肪画像を生成することを目的とする。
【0015】
本発明の前述及び他の目的及び利点については、後述する発明の詳細に記述する。発明の詳細では、符号は詳細の一部を構成する図面を参照しており、また、図面は本発明の好ましい実施形態を描いている。このような実施形態は必ずしも本発明の全ての範囲をカバーするものではないが、符号は請求の範囲でも参照しており、その中で本発明の範囲を説明している。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、複数の画像の取得のため交互読み出し勾配が用いられる時に生じる、画像アーティファクトの原因の発見から生まれ、また、画像再構成プロセスに使用される補正ステップを含む。
【0017】
本発明の重要な一側面は、補正段階をk空間内でより簡単に行うことができる点である。第一の画像がインフェーズ、第二の画像がアウトオブフェーズである2ポイント取得法を考える。第一の画像s0(x,y)についてのk空間データは左から右への読み出し(つまり正の読み出し勾配)から取得され、第二の画像sl(x,y)についてのk空間データは右から左への読み出し(つまり負の読み出し勾配)から取得される。これら二つの再構成された実空間画像は下記のように記述できる。

及び、

ここで、w(x,y) 及びf(x,y)は水と脂肪のスピンから生じる信号であり、φ 0はコイル感度や他の原因から生じる位相定数項である。Δφは静磁場不均一性やその他の時間依存する静磁場不均一性が起因する位相の増加分である。さらに、位相シフトΔφにおいて実施された勾配分極の反転やタイミング不整合が原因となって位相シフトが起こる可能性がある。
【0018】
Δxは化学シフトを表す。もし、スキャナの中心周波数が水に設定された場合、これらの再構成画像内の脂肪はわずかにシフトされ、そのシフトは、読み出し勾配が正のときは読み出し方向に、読み出し勾配が負のときは反対方向に同量シフトされる。二枚の画像内の脂肪の信号間における化学シフト(単位はピクセル)は下記のように記述される。

ここで、 BWは読み出しバンド幅(通常±20−125kHz)、Nxは読み出し行列内のk空間サンプルの数、Δfは水と脂肪の間の化学シフトであり、1.5Tにおいて約−210Hzである。後述の議論の中では、系の中心周波数が水に合わせて設定されているため全ての化学シフトは脂肪に起因するものとする。化学シフトは、rfの中心周波数を変化させることで水にシフトでき、また水と脂肪の間のある値にセットすることができる。
【0019】
位相φ0は、式(1)及び(2)の両方の信号を式(1)の位相で割ることで消去することができ、下記のように記述できる。

及び、


ここでΔxはピクセル単位で測定した化学シフトである。もし、位相分布画像(phase map)eiΔφ(x,y)がわかっていれば、式(5)の二番目の画像から復調することができ、w(x,y)及びf(x,y)を求めることができる。一般的に、Δφ(x,y)は不明であるものの、式(5)の絶対値をとることでその効果を無視することができる。これにより、上記ピクセルが、水支配(w(x,y)>f(x,y))であるか、もしくは脂肪支配(w(x,y)<f(x,y))であるかによって、自然な曖昧さが生じる。
【0020】
上記のあいまいさを解決するために、上述のJingfei Maの参考文献に記述されたような位相アンラッピングアルゴリズム(phase unwrapping algorithm)が用いられる。画像s'1(x,y)内の各ピクセルの大きさ及び符号の正しい解は下式で与えられる。

【0021】
式(4)及び(6)で与えられる二つの画像をフーリエ変換すると、下記のような対応するk空間のデータのセットが得られる。

及び、

これらのk空間のデータのセットを用いて、また、Δx=FOV/Nxがピクセル次元(cm)であること、及び、k空間が-kxmaxから+kxmax(kxmax=π/ΔX)の間で抽出されることを考慮すると、別々の水及び脂肪のk空間のデータW(kx,ky)及びF(kx,ky)を計算できる。


及び、

【0022】
注意すべきなのは、分母はゼロにはならないので、Δx≠Nx及びkx=Δk(nx+1/2)の時、

である。最終的に、水画像(w(x,y))と脂肪画像(f(x,y))は、式(9)及び(10)で与えられるk空間のデータのセットを逆フーリエ変換することで再構成することができる。但し、Δxがとても小さい(ゼロ)時、式(9)及び(10)は下記のように簡単にすることができる。

及び、

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明を用いるMRIシステムを示すブロック図である。
【図2】図2は、パルスシーケンスを示す最良の実施形態であり、図1に図示されたMRIシステムの操作を指揮して水及び脂肪画像を得るものである。
【図3】図3は図2に図示されたパルスシーケンスから得られた信号の誤整列を表すグラフ図である。
【図4】図4は図2に図示されたパルスシーケンスを用いて二つの画像を取得するために用いる方法を示すフローチャートである。
【図5】図5は水画像k空間データセット及び脂肪画像k空間データセットの算出のためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
特に図1を参照すると、本発明の好ましい実施形態がMRIシステムに組み込まれている。MRIシステムは、ディスプレイ12とキーボード14を有するワークステーション10を備える。ワークステーション10は市販の書き込み可能な機械であり、市販の動作システムを走らせるプロセッサー16を備える。ワークステーション10は、MRIシステムにスキャン命令をインプットすることができる動作インターフェース(operator interface)を設ける。
【0025】
ワークステーション10は4つのサーバに接続しており、それらは、パルスシーケンスサーバ18と、データ取得サーバ20と、データ処理サーバ22と、データ格納サーバ23である。好ましい実施形態においては、データ格納サーバ23は、ワークステーションプロセッサー16及び関連するディスクドライブインターフェース回路により実行される。残りの3つのサーバ18、20、22は、1つの匡体に搭載されて64ビットバックプレーンバスを用いて相互に接続された別々のプロセッサーにより実行される。パルスシーケンスサーバ18は、市販のマイクロプロセッサー及び市販の4通信コントローラーを使用している。データ取得サーバ20及びデータ処理サーバ22の両方は、同じ市販のマイクロプロセッサーを使用しており、さらにデータ処理サーバ22は、市販の並列ベクトルプロセッサーに基づいた一以上のアレイプロセッサーを備える。
【0026】
ワークステーション10と、サーバ18、20及び22の各プロセッサーはシリアル通信ネットワークに接続されている。このシリアルネットワークは、ワークステーション10からサーバ18、20及び22へダウンロードされるデータを伝達するとともにサーバ間及びワークステーションとサーバ間で通信されるタグデータを伝達する。さらに、データ格納サーバ23へ画像データを伝達するための高速データリンクがデータ処理サーバ22とワークステーション間に設けられている。
【0027】
パルスシーケンスサーバ18は、ワークステーション10からダウンロードされるプログラム要素に応答して、勾配システム24とRFシステム26を動作させるように機能する。指定されたスキャンを実行するために必要な勾配波形が生成され勾配システム24に与えられ、それにより勾配システム24はアセンブリ28の中にある勾配コイルを励起し、NMR信号の位置エンコードに使用する磁場勾配Gx、Gy、Gzを生成する。勾配コイルを備えるアセンブリ28は、分極マグネット32と全身用RFコイル34を備えるマグネットアセンブリ30の一部を形成している。
【0028】
RF励起波形はRFシステム26によってRFコイル34に与えられ、指定の磁気共鳴パルスシーケンスを実行する。それに応答するNMR信号はRFコイル34により検出されてRFシステム26により受信され、パルスシーケンスサーバ18が生成するコマンド命令により増幅、復調、フィルター処理、及びデジタル化処理される。RFシステム26はMRパルスシーケンスにて使用される広範囲なRFパルスを生成するRF送信機を備える。このRF送信機はスキャン命令及びパルスシーケンスサーバ18からのコマンド命令に応答して、希望する周波数、位相、及びパルス振幅を有する波形のRFパルスを生成する。生成されたRFパルスは全身用RFコイル34、もしくは、一以上の局所コイル又はコイルアレイに与えることができる。
【0029】
RFシステム26はまた、一以上のRF受信チャネルも備える。各RF受信チャネルは、NMR信号を受信するコイルに接続されてNMR信号を増幅する増幅器と、受信したNMR信号の直角位相成分I及びQを検出してデジタル化する直角位相検出器(quadrature detector)を備える。受信されるNMR信号の大きさは、このようにして、下式のようにI成分及びQ成分の二乗和の平方根によりいずれの抽出ポイントにおいてももとめることができる。

また、受信されるNMR信号の位相は下記のように求められる。

【0030】
パルスシーケンスサーバ18はまた、生体的収集コントローラー(physiological acquisition controller)36から患者のデータを任意で受信することができる。生体的収集コントローラー36は、患者に接続された数々の異なるセンサから信号を受信し、例えば、電極からのECG信号やベローズ(bellows)からの呼吸信号などを受信する。パルスシーケンスサーバ18は通常、このような信号を使用して、スキャンの実行を患者の呼吸又は心拍に同期、又は「ゲート(gate)」させる。
【0031】
パルスシーケンスサーバ18はまた、患者及びマグネットシステムの状態に関連する各種センサから信号を受信するスキャン室インターフェース回路(scan room interface circuit)38と接続する。さらに、患者位置決めシステム(patient positioning system)40がスキャン中に患者を希望する位置に移動させるコマンドの受信についても、スキャン室インターフェース回路38を通す。
【0032】
パルスシーケンスサーバ18が、スキャン中にMRIシステム要素のリアルタイム制御を行う、ということは明らかであるべきである。結果、そのハードウェア要素が、ランタイムプログラムにより適時実行されるプログラム命令で動作することが必要となる。スキャン命令の指示要素は、ワークステーション10からオブジェクトの形でダウンロードされる。パルスシーケンスサーバ18は、これらのオブジェクトを受信するプログラムを備え、これらオブジェクトをランタイムプログラムに使用されるオブジェクトに変換する。
【0033】
RFシステム26により生成されるデジタル化されたNMR信号サンプルは、データ取得サーバ20により受信される。データ取得サーバ20は、ワークステーション10からダウンロードされる指示要素に応答して動作し、リアルタイムNMRデータを受信し、データオーバーランによりデータが失われないようバッファストレージを提供する。スキャンによっては、データ取得サーバ20は取得されたNMRデータをデータプロセッササーバ22に渡すにすぎない。しかし、スキャンのさらなる実行を制御するために、取得したNMRデータから導出された情報必要とするスキャンにおいて、データ取得サーバ20はこのような情報を生成しパルスシーケンスサーバ18に伝達するようにプログラムされる。例えば、プレスキャン中、NMRデータは取得された後、パルスシーケンスサーバ18により行われるパルスシーケンスを較正するために使われる。また、ナビゲータ信号はスキャン中に取得され、RFシステム又は勾配システムの動作パラメータを調整するために使われ、もしくは、k空間が抽出される視野順序を制御するために使われる。また、データ取得サーバ20は、MRAスキャン中に造影剤の到着を検出するために使用されるNMR信号を処理するために使われる。これら例のすべてにおいて、データ取得サーバ20はNMRデータを取得し、リアルタイムで処理して、スキャンの制御に使用される情報を生成する。
【0034】
データ処理サーバ22は、データ取得サーバ20からNMRデータを受信して、ワークステーション10からダウンロードされた指示要素に従って処理する。このような処理は、たとえば、2次元又は3次元画像を生成する生のk空間NMRデータのフーリエ変換、再構成された画像へのフィルター処理の適用、取得されたNMRデータの逆投影画像再構成の実行、機能MR画像の算出、動き又は流れの画像の算出等を含むことができる。次に記述するように、本発明は、データ処理サーバ22により実行されるソフトウェアの中で実施される。
【0035】
データ処理サーバ22により再構成された画像は、再びワークステーション10に伝達されて格納される。リアルタイム画像はデータベースメモリキャッシュ(図示せず)に格納され、ここから、マグネットアセンブリ30付近に配置されたオペレータディスプレイ12又はディスプレイ42に出力され、担当医師により使用される。バッチモード画像又は選択されたリアルタイム画像は、ディスクストレージ44上のホストデータベースに格納される。このような画像が再構成されストレージに転送されるとき、データ処理サーバ22は、ワークステーション10上のデータ格納サーバ23に通知する。ワークステーション10は、オペレーター操作により、画像のアーカイブ、フィルムの生成、又はネットワークを介した他施設への画像の送信を行うことができる。
【0036】
図1のMRIシステムは、多数の異なるパルスシーケンスを実行して画像及び分光情報を生成することができる。本発明は、前述のパルスシーケンス及び後の画像処理において、特定の状況下で生じるアーティファクトの除去に関する。その様な状況の一つは、図2に示されるパルスシーケンスにおいて、二つの画像が再構成及び合成されたときに水もしくは脂肪のいずれかの画像が生成される場合に起こる。その他にもアーティファクトを生成する状況は多く存在するが、本発明を用いて補正可能である。
【0037】
特に図2を参照すると、水と脂肪の画像を分離して取得することを可能とするパルスシーケンスが示されている。rf励起パルス50が生成されて縦方向の磁化が横方向の平面に傾けられると、負の位相分散ローブ52が読み出し勾配軸方向に生成され、続いて、最初のグラディエントエコーであるNMR信号56を誘起する、正の読み出し勾配ローブ54が生成される。この最初のNMR信号56のエコー時間T1が、信号56の中の水成分及び脂肪成分が180°アウトオブフェーズとなる時間ポイントに設定されるように、タイミングが選択される。この時間は1.5Tのシステムにおいて2.3msecである。NMR技術において周知のように、信号56は、読み出し勾配と同方向に配向した直線に沿ってk空間の抽出を行う。k空間におけるこの抽出軌道の具体的な位置は、この技術において周知のように、パルスシーケンスの中で印加される位相エンコード勾配及びスライス勾配によって求められる。
【0038】
読み出し勾配の分極は、その後、逆になり、第二の読み出し勾配ローブ58が生成され、これは横磁化を再びリフェーズ(位相戻し)し、第二のグラディエントエコーNMR信号60を生成する。位相エンコードは不変であるため、第二のNMR信号60は、同じ線形k空間抽出軌道に沿っているが、反対方向に向けて抽出を行う。第二のNMR信号60のエコー時間TEは、脂肪と水のスピンが同位相になるように設定される。この時間は、1.5Tにおいて4.6msecである。図2に示されるパルスシーケンスは、異なる位相エンコードで繰り返され、k空間の至るところで抽出を行い、二つの分離したk空間データセットS及びSを生成し、そこから脂肪と水がインフェーズ及び180°アウトオブフェーズの画像が再構成される。
【0039】
rf励起パルス52の中心周波数が水のラーモア周波数に設定された場合、読み出し勾配軸方向の再構成画像内の脂肪信号は、化学シフトによってわずかにシフトされる。画像ピクセルを用いて測定されるこの化学シフト(Δx)の量は、下記のように表わされる。

Δx=NxΔf/2BW

ここで、Δf=水と脂肪の間の化学シフトであり、1.5Tにおいて約−210Hz
Nx=読み出し中に取得されるk空間サンプル数
BW=読み出しバンド幅で、通常±20から125kHz
【0040】
重要なのは、この脂肪信号の化学シフトは、読み出し勾配が正の時には水信号から一方向に生じ、読み出し勾配が負のときには、脂肪信号は、水信号から反対方向に同量シフトする。結果として、上記のように取得された二つの画像内の脂肪信号は、水信号からΔx化学シフトするだけでなく、お互いから2Δx化学シフトする。
【0041】
この二つの再構成画像内の脂肪信号の誤整列は図3に描写される。この例の中で、中心RF励起は水のラーモア周波数に設定され、ある特定の周波数fを有する水スピン信号70aは、正の読み出し勾配71が印加されている時、フーリエ変換により読み出し軸x上の補正位置70bの位置に定められる。同様に、信号70cは、同じ大きさを持つ負の読み出し勾配72が印加されている時、同じ水スピンから生成され、これらのスピンは読み出し軸x上の位置70dの位置に定められる。これにより、水信号は両方の画像内で正しく整列する。
【0042】
脂肪信号はわずかな周波数の差(1.5Tにおいて210Hz、3.0Tにおいて520Hz)でオフレゾナンス(off resonance)状態であり、フーリエ変換により定められる読み出し勾配軸上の位置に正しく定められていない。正の勾配71が印加されると、同じ場所にある脂肪スピンがわずかに低い周波数信号73aを生成し、そのため脂肪スピンは、この信号のフーリエ変換により定められる水スピン70bの一方向にΔxシフトした位置73bに、誤って位置定めされる。負の読み出し勾配72が生成されると、同じ脂肪スピンは、水スピン70dの前記とは反対方向にΔxシフトした位置73dに信号73cを生成する。その結果、二つの再構成画像が合成されると、整列した水スピン70b及び70dは読み出し軸x上のそれぞれの位置においてスピン密度を正確に示すが、脂肪信号73b及び73dはお互いから2Δxだけシフトしている。
【0043】
特に図4を参照すると、処理ブロック100に示されるとおり、本発明は、図2に示されるパルスシーケンスを用いて二つの画像が取得される水脂肪イメージング処理の中で使用される。rf励起パルス52の中心周波数は水の周波数に設定され、二つのk空間データセットS'1及びS'0は前述したスキャンパラメータにて取得される。
【0044】
二つの画像s0及びs1は、これらの取得されたk空間データセットを処理ブロック102にて示される逆フーリエ変換を実行することで再構成される。
【0045】
両方の画像は、その後、処理ブロック104に示されるように位相補正される。この位相補正は、so(x,y)画像内の各画像ピクセルにおける位相を、それ自身及び第二の画像sl(x,y)内の対応するピクセルで割り、上記の式(4)及び式(5)の中で示される二つの画像s'0(x,y)及びs'1(x,y)を生成することで達成される。処理ブロック106にて示されるように、位相補正された画像s'1(x,y)の大きさは、その後、上記の方法で計算され、上記の式(6)で示される画像s''1(x,y)を生成する。
【0046】
二つの補正された画像は、その後、処理ブロック108に示されるようにk空間に再び変換される。全ての軸は、変換されて式(7)及び式(8)のk空間データセットを生成することができるが、本発明の目的のために、ここでは読み出し勾配軸上のフーリエ変換を行っている。
【0047】
この時点で化学シフトの補正が行われ、処理ブロック110に示されるように、上式(9)に従って最終的な水k空間データセットW(kx,ky)の算出及び、上式(10)に従って最終的な脂肪k空間データセットF(kx,ky)の算出を行う。これらの二つのデータセットは、その後、処理ブロック112に示されるようにフーリエ変換され、最終的な水画像w(x,y)と最終的な脂肪画像f(x,y)が生成される。
【0048】
図5では、式(9)に従う水画像のk空間データセットの算出及び、式(10)に従う脂肪画像のk空間データセットの算出が描写されている。処理ブロック120及び122に示されるように、最初のステップはk空間データセットS0(kx,ky)及びSl(kx,ky)を位相シフトすることである。具体的には、位相シフトされたデータセットS''0は、k空間データの各kyの列に、

を掛けて位相シフトすることで生成される。同様に、位相シフトデータセットS''1は、k空間データの各kyの列に、

を掛けることで生成される。
【0049】
処理ブロック124に示されるように、二つの位相シフトデータセットS''0 及びS''1は、その後、足し合されてk空間データセットS+(kx,ky)を生成し、処理ブロック126においてその中の値を2 cos(ΔxΔXkx)で割ることで、水画像のk空間データセットW(kx, ky)が生成される。
【0050】
処理ブロック134に示されるように、上記で算出された二つの位相シフトデータセットS''0及びS''1は、その後、S''1の値をS''0の対応する値から引くことでまとめられ、異なるk空間データセットS-(kx, ky)が形成される。処理ブロック136に示されるように、その後、その中の値を2 cos (ΔxΔXkx)で割ることで、脂肪画像k空間データセットF(kx, ky)が生成される。
【0051】
二つの化学種の別々の画像を生成するための先行技術とは異なり、二つの取得データセットの合体は画像空間よりもむしろk空間の中で実行される、ということは明らかであるべきである。これにより、読み出し勾配の交互の分極に起因する化学シフトアーティファクトの補正が可能になる。
【0052】
水及び脂肪画像は発明の好ましい実施形態の中で生成されているが、本発明は、反対の分極を有する読み出し勾配を用いて取得される二つ以上の画像が合成される他の臨床応用へ適用可能であることは明らかであるべきである。
【0053】
上記のアプローチは二つの付加的な考察によって修正可能であることは注意すべきである。第一に、本発明の補正法の詳細はスキャナの中心周波数が水に設定されているという条件の下で描写されている。これは典型的な概要ではあるが、中心周波数は、脂肪又は水と脂肪の中間の周波数を含む他の周波数に設定可能である。これらの場合、二つの勾配分極を使って取得される脂肪画像のシフトの補正に使われる位相シフトは、補正可能であり、またs0及びs1に適切に適用可能であり、水及び脂肪画像の正しい配列を確実なものにする。大きな周波数シフトは上記分析の単純補正である。
【0054】
同様に、中心周波数の中で効果的な局所的シフトを生み出す局所的オフレゾナンス効果も存在可能である。この効果の原因は、磁気感受率及び画面に渡って「フィールド不均一性マップ(field inhomogeneity map)」を生じさせるようなその他のオフレゾナンス効果である。フィールドマップΨ、単位はHz、は反対の勾配分極を用いて取得される画像において、水と脂肪両方を同等かつ逆に空間シフトさせることのできる時間依存位相シフトを生み出す。多くの化学シフトイメージングは局所的なフィールドマップΨを測定し、これにより、局所的なフィールド不均一性に起因する空間的な歪みによる生じる反対の勾配分極を用いて取得される画像の局所的誤整列が補正される。フィールドマップがわかっているとき、上記と酷似したアプローチにより(数学的にはより複雑になるものの原理的には酷似している)その効果を取り去ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴イメージング(MRI)システムを用いる二種のスピン種を有する対象の画像生成方法であり、
a)パルスシーケンスを使用した一組のk空間画像データセットの取得において、一つのk空間画像データセットにおけるNMR信号(S'0)が一つの分極を有する読み出し勾配を用いて取得され、もう一つのk空間画像データセットにおけるNMR信号(S'1)が反対の分極を有する読み出し勾配を用いて取得される段階と、
b)二つの画像s0及びs1を、それぞれのk空間データセットS'0及びS'1から再構成する段階と、
c)前記二つの画像s0及びs1の一方又は両方から位相シフトを除去してそれぞれの画像s'0及びs'1を生成する段階と、
d)前記二つの画像s'0及びs'1をk空間にフーリエ変換する段階と、
e)その結果得られるk空間データセットS0及びS1から、化学シフト補正された第一のスピン種のk空間データセットW及び第二のスピン種のk空間データセットFを生成する段階と、
f)前記第一及び第二のスピン種のk空間データセットW及びFをフーリエ変換して、第一のスピン種の画像w及び第二のスピン種の画像fを生成する段階と、からなることを特徴とする画像生成方法。
【請求項2】
前記二種のスピン種は、水に含まれる水素原子及び脂肪に含まれる水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。
【請求項3】
パルスシーケンスは、前記スピン種のうち一つのラーモア周波数に調節されたrf励起パルスを生成することを含むことを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。
【請求項4】
段階c)は、前記画像s1又はs0のうち一つの中の各ピクセルにおける位相を、前記一方の画像及び他方の画像の両方の対応するピクセル位相に分けることを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。
【請求項5】
段階e)は、
e)i)前記二つのk空間データセットS0及びS1の位相シフトする段階と、
e)ii)段階e)i)で生成された二つの位相シフトデータセットを足し合わせてk空間データセットの和S+を生成する段階と、
e)iii)k空間データセットの和S+から第一のスピン種のk空間データセットWを生成する段階と、
e)iv)段階e)i)で生成された二つの位相シフトデータセットを差し引いてk空間データセットの差S-を生成する段階と、
e)v)k空間データセットの差S-から第二のスピン種のk空間データセットFを生成する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−502301(P2010−502301A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526838(P2009−526838)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/076840
【国際公開番号】WO2008/027813
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】