交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法
【課題】入出力波形を正弦波化し、セクター間を移行するときもスイッチング回数を低減できる交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法を提供する。
【解決手段】多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*が存在するセクターの単振動ベクトル軸をX軸、Y軸と定義し、各軸で最大、中間、最小のベクトルおよび相電圧の中間電圧となる零べクトルおよびセクター内に1つ存在する回転ベクトルを基本ベクトルとし、これらベクトルのうち、所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを選択手段15によって求め、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、前記4つのベクトルについて、デューティ演算手段14によって逆行列演算を行って4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティによって入力と出力の波形を同時に正弦波化する。
【解決手段】多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*が存在するセクターの単振動ベクトル軸をX軸、Y軸と定義し、各軸で最大、中間、最小のベクトルおよび相電圧の中間電圧となる零べクトルおよびセクター内に1つ存在する回転ベクトルを基本ベクトルとし、これらベクトルのうち、所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを選択手段15によって求め、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、前記4つのベクトルについて、デューティ演算手段14によって逆行列演算を行って4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティによって入力と出力の波形を同時に正弦波化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相の交流電源から任意の電圧または周波数に変換した多相出力を得る交流−交流直接変換装置(マトリックスコンバータ)に係り、特に時々刻々と大きさ・位相が変化する空間ベクトルを入力/出力それぞれで表現し、使用する基本ベクトルを選択してデューティ演算する空間ベクトル変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から存在するこの種の交流−交流直接変換装置は、自己消弧形の半導体素子を用いた双方向スイッチを高速に切換え、単相または多相の交流入力を任意の電圧または周波数の電力に変換する変換装置であり、図1のように構成されている。
【0003】
図1は、三相/三相交流−交流直接変換装置の基本構成を示し、三相交流電源1は、リアクトルとコンデンサによる入力フィルタ部2および9つの双方向スイッチSW1〜SW)で構成された半導体電力変換部3を介して任意の負荷4に接続される。9つの双方向スイッチSW1〜SW9は、逆阻止IGBT18個で構成する場合や、通常のIGBT等の半導体素子とダイオードを組み合わせるなど、その細部の構成方法には拘らないが、双方向に電力授受できるスイッチング素子で構成されている。
【0004】
なお、図1に示すように、以下、電源三相をRST相、出力三相をUVW相とする。
【0005】
マトリックスコンバータに代表される交流−交流直接変換装置は、電源電圧をPWM制御して出力電圧を生成する電圧形電力変換器と、出力負荷電流を電流源とみなしてPWM制御により電源電流を生成する電流形電力変換器を組み合わせた形とし、交流から交流へ直接電力変換する装置である。両者の制御を同時に9つの双方向スイッチで実現するため、制御上は互いに関連し合っている(すなわち、入力と出力で授受される三相瞬時有効電力は一致しなければならない制約条件を持つ)。
【0006】
次に、上記を踏まえて交流−交流直接変換装置の空間ベクトルを定義する。出力電圧は交流の電源電圧から、入力電流も交流の負荷電流からPWMで生成するので、一般的な直流−交流変換装置(インバータ)の空間ベクトルと異なり、交流−交流直接変換装置が生成できるPWM制御した瞬時空間ベクトルは時々刻刻と変動する。出力側電圧の瞬時空間ベクトルの変動は、PWMで切り刻む基となる電源電圧の位相・大きさに依存している。入力側電流の瞬時空間ベクトルは、出力負荷電流の位相・大きさに依存して変動する。
【0007】
また、交流−交流直接変換装置のスイッチングパターンとしては、(1)電源短絡を引き起こさない、(2)負荷電流を不連続としない、という制約条件を与える必要がある。(1)は電源短絡による過電流破損の防止、(2)は誘導性負荷のインダクタンスに蓄えられたエネルギーによる過電圧故障を防止するためである。これら条件を考慮すると、9つの双方向スイッチSW1〜SW9のスイッチングパターンは27種類(33)の組み合わせに限定される。
【0008】
27種類のスイッチングパターンを入力側および出力側で静止αβ座標上に展開すると、図2及び表1のように表現できる(図2(a)は出力負荷電流位相15度時の入力側電流の空間ベクトルを示し、図2(b)は電源電圧位相15度時の出力側電圧の空間ベクトルを示している)。
【0009】
【表1】
【0010】
表1において、空間ベクトルは、位相角30度の方向を正軸とした単振動ベクトルのグループを単振動ベクトルS1、位相角150度方向を正軸とした単振動ベクトルS2、位相角270度方向を正軸とした単振動ベクトルS3、長さは最大一定で反時計方向に回転する回転ベクトルR1、同じく長さ一定で時計方向に回転する回転ベクトルR2、および6角形の中心零点で固定された零ベクトルZ、の6つのグループに分けられる。これら各々の基本ベクトルは、入力電圧の位相θに依存、つまり入力電圧の角速度ωiに同期して変動する。また、ベクトルの長さ(6角形の大きさ)は入力線間電圧の大きさに対応する。
【0011】
前述のとおり、瞬時空間ベクトルは時々刻刻と変化するので、各位相に合わせて変動する。静止αβ座標上における瞬時空間ベクトルの変動の方向に着目すると、27種のベクトルは、18種の単振動ベクトル(3軸で各6種、位相関係は一定)、6種の回転ベクトル(時計方向に3種、反時計方向に3種で、夫々大きさについては一定)3種の零ベクトル(原点位置で不変)に分類することができる。
【0012】
表1は、出力側空間ベクトルを基準に27種のパターンを分類した例であり、このような空間ベクトルの基本的な考え方については、非特許文献1等で既に知られている。
【0013】
次に空間ベクトルの考え方を簡単に説明する。例えば出力側空間ベクトルにおいて、表1におけるステート1:UVW=RSSの接続パターンに着目すると、出力の三相交流は、U相→V相→W相の順にそれぞれ120度の位相差をもつ。ここでは出力側空間ベクトルはU相をα軸(図2のS1軸)として定義しているので、V相はS2軸方向、W相はS3軸方向である。
【0014】
ステート1:UVW=RSSの状態で、図2の例と同様に電源電圧位相θ=15度のときは、電源相電圧の関係はvr>0>vs>vtの関係となる。したがって、ステート1では、Vu*=Vr,Vv*=Vs,Vw*=Vsとなり、Vrは正電圧、Vsは負電圧なので出力側空間ベクトルではVu*,Vv*,Vw*をベクトル合成すると図2のvRSSに示すように、S1軸正方向に出力されることになる。そのほかの瞬時空間ベクトルについても同様に展開できる。
【0015】
いま、図3に示すように、入力側空間ベクトルは(a)のように30度位相ごとに、出力側空間ベクトルは(b)のように60度位相ごとに領域を区分けして番号を割り当てる。以下、これらをセクターと呼ぶ。なお、セクターは、以下の3相2相変換(αβ変換)と三角公式から入力位相θと出力位相φを求めれば判別できる。
【0016】
【数1】
【0017】
【数2】
【0018】
尚、本発明に関連する技術として非特許文献2に記載のマトリックスコンバータの空間ベクトル変調法や、非特許文献3に記載のマトリックスコンバータのPWM制御法などが知られている。
【0019】
従来からある一般的な制御方式(例えば非特許文献2)は、出力負荷電流情報を用いずに入出力波形を正弦波化できるものが多い。マトリックスコンバータのPWM制御に必要なものは三相交流電源電圧の位相(もしくは位相と大きさ)の情報のみで、出力電流検出値の情報は演算に含まれないため、オープンループ制御に対応できる。
【0020】
一方、1制御周期内のスイッチング回数に着目すると、従来の一般的な制御方式では4回以上である(キャリア1周期で考えると8回以上)。
【0021】
尚前記1制御周期とはPWM周期のことであり、5ベクトル変調方式ならば5つの空間ベクトルのパルス信号(出力時間)の総和の時間である。5つの瞬時ベクトルをPWM、すなわち積分的に(平均値的に)指令値に合わせるための単位時間であり、指令値の更新もこれに合わせるのが一般的である。
【0022】
ただし、非特許文献3に記載されているような三角波キャリア比較方式に当てはめるならば、三角波の山と谷で指令値を更新する場合に相当するので、一般的に言われるキャリア周波数は制御周波数の1/2倍となる。
【0023】
例えばキャリア5KHZ→制御周波数10KHZ(1制御周期=100μs)。5ベクトル方式ならば、1制御周期は5つのPWMパルスで構成され、すなわちスイッチング回数は4回であり、また4ベクトル変調方式の場合は4つのPWMパルスで3回のスイッチングとなる。
【非特許文献1】石黒章夫、古橋武、石田宗秋、大熊繁、内川嘉樹:「空間ベクトルを用いたPWM制御サイクロコンバータの出力電圧制御法」、電学論、Vol.110,No,6,pp、655−663(1990)
【非特許文献2】只野裕吾、漆畑正太、野村昌克、足利正:「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調法の検討」、平成18年電気学会産業応用部門大会、1−87(2006)
【非特許文献3】安藤雄介、竹下隆晴:「マトリックスコンバータのスイッチング回数低減PWM制御法」、平成18年電気学会産業応用部門大会、1−04−4(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
非特許文献1に記載の制御法は出力のみを制御して正弦波化しており、入力波形は高調波を含むという問題がある。出力電圧だけを正弦波化すれば良いならば、空間ベクトルは3つ選択して制御すれば実現できる。しかしそのときの入力電流は制御していないため、高調波歪みを含む波形となってしまう。
【0025】
非特許文献2に記載のベクトル変調方式は、制御方針に従って5つの空間ベクトルを選択した後、擬似逆行列を用いてデューティを演算する手法であり、入出力波形を正弦波化できる。出力に加え入力電流も同時に正弦波化する場合は、入力電流のα成分、β成分の2つの自由度がさらに必要となるので、5つの空間ベクトルで制御する。
【0026】
しかしながら、5ベクトル変調方式であるため1制御周期内のスイッチング回数は4回となり、この4回の転流によるスイッチング損失により装置効率が低下する。
【0027】
非特許文献3では、三相毎にデューティを演算して三角波キャリア比較方式によりPWM波形を生成しており、出力線間電圧高調波を低減したい場合に有効である。しかしながら、出力電圧高調波低減を優先するため、入力電流脈動は従来方式より増加する。
【0028】
また、デューティ演算後にキャリア比較を行いPWMパルスを決定しているので、PWMパルスの配列順序に自由度が無く、モードの切り替わり時(セクター間を移行する時、例えば図3のセクター1からセクター2へ移行する時)にスイッチング回数を削減するようにPWMパルスを配列することができず、セクター間を移行する時のスイッチング回数の低減は配慮されていない。
【0029】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、入出力波形を正弦波化することができるとともに、セクター間を移行するときもスイッチング回数を低減することができる交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、直接AC/AC変換方式による空間ベクトル変調で双方向スイッチを多相交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*の存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大電圧のベクトルXL、YLと、中間のベクトルXM、YMと、最小のベクトルXS、YSと、電源の中間電圧相となる零ベクトルZと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルRを基本ベクトルとし、前記8種類のベクトルのうち、入力電流および/又は出力電圧の高調波を低減するための所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを求め、この選択パターンの4つのベクトルについて、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、入力と出力に関するデューティ係数行列を導き、その逆行列を演算して4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティ解によって入力と出力の波形を同時に正弦波化することを特徴としている。
【0031】
また請求項2に記載の発明は、前記所定の条件は、・入力波形と出力波形を同時に正弦波化することができること、・線間電圧ベクトル方向に見て指令値との電圧差が最も大きいベクトルは選択しないこと、・1相ごとのスイッチング遷移が可能なこと、・スイッチング遷移に電源の最大電圧相と最小電圧相間の直接転流がないこと、・常に電源の中間電圧相の零ベクトルを用いること、のうち、少なくとも1つ以上の条件を含むことを特徴としている。
【0032】
また請求項3に記載の発明は、前記交流−交流直接変換装置のすべての空間ベクトルのうち、出力側空間ベクトルを、電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分viαおよび電源相電圧検出値の3相2相変換後のβ成分viβの係数としてテーブル化し、入力側空間ベクトルを、出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分Ioαおよび出力負荷電流検出値の3相2相変換後のβ成分Ioβの係数としてテーブル化し、前記テーブルを用いて前記4つのベクトルのデューティ解を求めることを特徴としている。
【0033】
また請求項4に記載の発明は、前記デューティ解を求める際は、前記4ベクトルの選択パターンすべてについて逆行列が存在するかどうかを予め演算しておき、デューティ解が得られる選択パターンを最終的なデューティとして適用することを特徴としている。
【0034】
また請求項5に記載の発明は、前記デューティ解を求める際は、前記デューティ係数行列のデューティ加算値が1となる行を消去して演算することを特徴としている。
【0035】
また請求項6に記載の発明は、前記選択パターンは、出力電圧指令値の大きさに基づいて、低出力電圧領域では零ベクトルを含む選択パターンを採用し、高出力電圧領域では零ベクトルを含まない選択パターンを採用することを特徴としている。
【0036】
また請求項7に記載の発明は、前記選択パターンについて、予め、逆行列が存在する前記デューティ係数行列の行列式をテーブル化しておき、前記テーブルを用いて前記ベクトルのデューティ解を求めることを特徴としている。
【0037】
また請求項8に記載の発明は、前記選択パターンは、出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相の遅れ又は進みに応じて決定することを特徴としている。
【0038】
また請求項9に記載の発明は、前記選択パターンは、単振動ベクトルの中間電圧のベクトルXMとYMとの結線と出力電圧指令値との大小比較に応じて決定することを特徴としている。
【0039】
また請求項10に記載の発明は、前記選択パターンは、2レベルとなる選択パターンを優先して採用することを特徴としている。
【0040】
また請求項11に記載の発明は、電流検出値が小さい又は初期運転開始時に、前記4つのベクトルのデューティ解を求める演算は、電源電圧情報および出力電流指令値に基づいて行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0041】
(1)請求項1〜11に記載の発明によれば電源電圧および出力電流情報を用いて4つのベクトルで入力/出力波形を正弦波化することができる。4つのベクトルで変調するので、1制御周期におけるスイッチング回数は従来の4回から3回へ低減できる。スイッチング回数低減により、スイッチング損失を低減することができるので効率が向上する。
(2)請求項2に記載の発明によれば、5つの条件を与えているため、出力における高調波が低減され、低ノイズで出力電流脈動も低減することができる。また、PWMパルスの出力波高値に着目すると、入力電圧の中間相を介してスイッチングするため、電圧変化が出来る限り小さくなる順序で出力される。したがって、電圧変化による損失低減と低ノイズ化にも有効である。また、モータ負荷等の中性点電圧(コモンモード電圧)の変動幅についても理論上最低限に抑制することができる。
(3)請求項5に記載の発明によれば、デューティ解を求める演算負荷が軽減される。
(4)請求項6に記載の発明によれば、低出力電圧領域又は高出力電圧領域のいずれであっても適切な選択パターンを選ぶことができ、出力電圧高調波を低減することができる。
(5)請求項7に記載の発明によれば、逆行列が存在するかどうかを簡単に判別できるようにすることで、逆行列が存在しないものをデューティ演算処理から除外できるので、演算負荷が軽減される。
(6)請求項8,9に記載の発明によれば、選択パターンを少なくすることができ、これによってデューティ演算処理が軽減される。
(7)請求項10に記載の発明によれば、出力電圧高調波をより一層低減することができる。
(8)請求項11に記載の発明によれば、電流検出値が小さい場合や初期運転開始時においても、電流指令を用いてデューティを演算するので演算エラーを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、交流−交流直接変換装置は双方向スイッチをPWM制御するマトリックスコンバータとして、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0043】
マトリックスコンバータは、その用途として一般的にモータ負荷をベクトル制御する、もしくは負荷の過電流を検出する手段としても、出力電流センサ等の負荷電流検出手段を備えているのが普通である。したがって、負荷電流情報を制御に用いることも可能である。
【0044】
そこで本発明では、出力電流情報(例えば出力電流検出値)を用いることで自由度を一つ減らし、4つの空間ベクトルで変調する方式とし、1制御周期内のスイッチング回数を従来の4回から3回に低減するものである。
【0045】
非特許文献3のようなキャリア比較方式は、電圧指令値を三角波キャリアと比較するだけでPWMパルスを生成できるので、比較的に制御が簡単になる。一方、空間ベクトル変調方式は生成したデューティ情報からPWMパルスを任意の順序で配置する必要があるが、そのパルスの配列順序に自由度がある。したがってモード切り替わり(入力/出力セクター移行等;セクターは前記数式(2)で示される位相の領域)の過渡状態についてもスイッチング回数を減らすように瞬時に配列変更することも可能である。また、非特許文献3では、出力電圧高調波低減を優先する場合のみを扱っているが、本発明の空間ベクトル変調方式は、入力を優先する、磁束ベクトル軌跡を優先する等、用途に応じたその他の制御方針にも応用できる。
(実施例1)
まず、本実施例では、出力電圧高調波を極力低減することを優先した場合のベクトル選択手法とデューティ演算手法について述べる。
【0046】
マトリックスコンバータは入力と出力を同時に制御する必要があるため、どちらか一方を優先的に高調波低減の制御をすると、もう一方の脈動が増加する等のトレードオフの関係がある(非特許文献2参照)。入力と出力のどちらも正弦波にPWM制御するという大前提の下では、前記トレードオフの関係を回避できないため、用途に応じて制御方針を予め決定しておく必要がある。
【0047】
本実施例は出力高調波低減を最優先するために、以下の制約条件を与える。
(1)入力・出力ともに正弦波化する。
(2)線間電圧変化を低減させるため、線間電圧ベクトル方向に見て、指令値との電圧差が最も大きいベクトルは未選択とする。
(3)1相毎の転流とする。すなわち2相以上同時スイッチングを防止し、スイッチング回数を最小化する。
(4)入力最大電圧相⇔最小電圧相の転流を防止する。すなわち常に中間電圧相を介して電圧変化を低減し、スイッチング損失を低減させる。
(5)常に電源の中間電圧相の零ベクトルを利用して、コモンモード電圧を低減させる。
【0048】
本発明では、前記(1)を制御方針の最優先となる前提条件としつつ、出力電流検出値情報を用いることにより、この自由度を1つ減らして4ベクトル方式とするものであり、したがって、4つの空間ベクトル+出力電流情報で入力・出力に正弦波の指令を与えて制御する(条件式は後述する(11)式である)。
【0049】
前記(2)はVuv,Vvw,Vwuの線間電圧ベクトル方向(正負両方向)、すなわち「30+60n」度(0≦n≦5の整数)の方向に見て電圧変化が小さくなるようなベクトルを選択する。そのときの電圧指令値の大きさも線間電圧方向に考えてみて、最も離れているベクトル群は使用しないことにする。
【0050】
例えば出力線間電圧高調波の低減を、従来の方式(例えば仮想間接形制御方式など)に対して優先する、もしくは入力電流高調波の低減に対して優先するために、60度位相差内の任意の1セクターについて、図4のように8種類のベクトルを定義して考えていく。
【0051】
回転ベクトルは1セクター内に常に1つしか存在しないのでRとおく。零ベクトルは前記制約条件(5)に従い、電源電圧の中間電圧相の零ベクトルZを適用する(Vr>Vs>VtならばSSSのパターンを選択)。
【0052】
単振動ベクトルは1セクター内に6種存在するが、使用しているベクトルは2軸であるので、位相関係で見て遅れている軸をX軸、進んでいる軸をY軸とし、夫々単振動している瞬時電圧の大中小関係を判別し、X軸で絶対値が最も大きなベクトルをXL、中間のものをXM、最小のものをXsとおく。Y軸についても同様に絶対値が最も大きなベクトルをYL、中間のものをYM、最小のものをYsと定義する。
【0053】
電圧指令値Vo*の出力電圧が高い(ベクトルが長い)のときは、図5に示すように線間電圧方向に見て最も距離がはなれている零ベクトルを選択しないようにする。一方、出力電圧が低い時は、図6に示すように、距離の遠いXL,YL,Rは選択しないようにする。
【0054】
ここで、図3で定義したセクターにおいて、入力セクター「1」、出力セクター「1」の位相状態にある場合を例に挙げる(つまり、Vr>Vs>Vt、Vu*>Vv*>Vw*)。このときの出力セクター内の8種類のベクトルは、図2の(b),図5、図6から、XL=RTT,XM=RSS,Xs=STT,YL=RRT,YM=RRS,Ys=SST,R=RST,Z=SSSとなる。
【0055】
上記8種類のベクトルのスイッチング遷移を考えるときに前記制約条件(3)と(4)を考慮すると、図7のように遷移図を描くことができる。図7において、どの遷移も、入力中間相であるS相を介してスイッチングしており、同時に2つ以上スイッチングすることもない。
【0056】
図7の遷移図から27種類のスイッチングパターンのうち、4つのベクトルを選択して遷移する組み合わせを考えると、表2に示すselection pattern の1〜10の10パターンに限られる(pattern 11〜20は、その他の入出力セクター状態で発生し得る遷移モード。今回の例では1〜10のみが制約条件を満たせる)。
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表2中のベクトル番号v1〜v4は4つのベクトルを意味している。v1→v2→v3→v4、もしくはその逆の順序で遷移すると上記制約条件を満たして遷移することができる。v1→v2→v3→v4→v4→v3→v2→v1→v1→v2→……といった形で折り返しスイッチングする。
【0059】
上記の通り、4つのベクトルを選択して遷移する組み合わせは10パターンに限られ、この中から1つの組み合わせを選択(選択パターン)すれば良く、本実施例では10パターンすべてについて4つのベクトルのデューティ(パルス出力時間比率)を演算し、不適な解となったものを除外する消去法を採用する。
【0060】
以下、本実施例で提案するデューティ演算手法について述べる。まず、マトリックスコンバータの27種類すべてのスイッチングパターンを、入力側空間ベクトル、出力側空間ベクトルのそれぞれで静止αβ座標系のα軸成分とβ軸成分に分解する。ここでは、表1におけるステート1:RSSについて代表して説明する。
【0061】
まず、出力側空間においては、Vu*=Vr,Vv*=Vs,Vw*=Vsであるので、これを3相2相変換すると、
【0062】
【数3】
【0063】
一方、Vr,Vs,Vtを2相3相変換式を用いてViα、Viβの関係式に置き換えると以下のようになる。
【0064】
【数4】
【0065】
【数5】
【0066】
上記以外の瞬時空間ベクトルのVoα、Voβについても、同様にViαとViβの関係式として導くことができる。これを以下のように一般化して、27種類すべてのスイッチングパターンについてViαとViβの係数テーブルを、予め表3のように生成しておく。
【0067】
【表3】
【0068】
【数6】
【0069】
ただしnは選択した4つのベクトル番号1〜4の識別番号、Kvaan,Kvabn,Kvban,Kvbbnは係数のテーブルとする。
【0070】
Viα、Viβは電源電圧検出値を利用する。すなわち、例えば後述する図8の電圧検出手段により検出した例えば電源電圧検出値の静止αβ変換(3相2相変化)値Viα、Viβを(5)式に等に代入する。
【0071】
尚、表3の、Viαは電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分、Viβは同じくβ成分、Ioαは出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分、Ioβは同じくβ成分、Iiα*は入力電流指令値のα成分、Iiβ*は同じくβ成分、Voα*は出力相電圧指令値のα成分、Voβ*は同じくβ成分を各々示している。
【0072】
また、入力側空間においても同様に出力電流情報IoαとIoベータの係数テーブルとして展開することができる。例として表1におけるステート1のUVW=RSSを考える。R相にはU相が結線され、S相にはV相とW相が結線される。T相には何も結線されないオープンの状態となり、入力電流は、Ir*=Iu,Is*=Iv+Iw=−Iu,It*=0となる。したがって、
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
(8)式のIuを(7)式に代入して、
【0076】
【数9】
【0077】
その他の瞬時空間ベクトルも同様にIoαとIoベータの係数テーブルとして展開する。
【0078】
【数10】
【0079】
ただしnは、選択した4つのベクトル番号1〜4の識別番号、Kiaan,Kiabn,Kiban,Kibbnは係数のテーブルとする。
【0080】
Ioα、Ioβは出力負荷電流検出値を利用する。すなわち、例えば後述する図8の電流検出手段により検出し、静止αβ変換した値を用いる。
【0081】
そして上述の瞬時空間ベクトルの係数テーブル(表3)を用いて、4つのベクトルのデューティを演算する。出力電圧指令と入力電流指令の関係式、およびデューティ4つは加算して1でなければならないことから、次の(11)式が成り立つ。
【0082】
【数11】
【0083】
尚、デューティの係数は(6)、(10)式代入。
【0084】
ただし、マトリックスコンバータは入力と出力を同時に制御することから、三相瞬時有効電力の授受が入力側と出力側で一致していなければ成立しない。つまりVo*とIi*の大きさと位相を独立に制御すると、有効電力の関係が崩れることになり、入出力を同時に正弦波化することができない。
【0085】
そこで、指令値としては出力電圧指令のみを用いて、入力電流に関しては、そのときの負荷に応じて大きさが自動的に決定されるようにする。入力位相については、電源電圧位相に一致すれば力率1となる。また、電源電圧位相と差を持つように制御すれば、入力側の無効電力を調整することも可能である。そこで、入力電流と電源電圧、およびその位相差θ*の関係式として、三角公式等を用いて次の(12)式の入力側位相関係を導く(θ*は、電源電圧位相に対する入力電流位相の指令値、つまり位相差指令値とする。電流進み方向は正)。
【0086】
【数12】
【0087】
この(12)式を前記(11)に代入してIiα*、Iiβ*を消去すると、入力電流に関する式((11)式の3行目と4行目)は以下のようにまとめられる。
【0088】
【数13】
【0089】
したがって、(13)式および(11)式の1,2,5行目を用いて、4つのデューティに関する以下の方程式になる。
【0090】
【数14】
【0091】
デューティ係数行列の逆行列を求めることで、以下のように4つのデューティが求められる。
【0092】
【数15】
【0093】
以上のようにして、デューティ演算式が導かれる。本実施例では4つのベクトルの選択パターンを表2から選択した後、(15)式で4つのデューティを求めて、その出力時間比に従ってPWMパルスを生成する。
【0094】
図8は本実施例における基本制御構成図である(尚、他の実施例も基本的に同じ構成である)。
【0095】
図8において図1と同一部分は同一符号をもって示している。三相交流電源1の三相電源電圧から、変圧器等の何らかの電圧検出手段11により電源電圧を検出して取り込む。図8では入力フィルタ部2の電源側で検出しているが、検出位置はフィルタの前でも後でも可能である。出力負荷電流は電流センサ等の何らかの電流検出手段12によって検出する。
【0096】
前記取り込んだ電源電圧・負荷電流値はどちらも3相2相変換手段13a,13bにより3相2相変換し、デューティ演算手段14におけるデューティ演算時に使用する。出力電圧指令値および入力位相指令値は任意の上位制御系から受け取り、デューティ演算および4つのベクトルを選択手段15により選択する際の空間ベクトルのセクター判別や、低電圧・高電圧領域判別などに用いる。前記電源電圧検出値の位相についても4つのベクトルを選択するために使用する。
【0097】
そして4つのベクトルを選択した後に前記(15)式のデューティ演算を行うが、4つのベクトルの選択パターンは表2に示すように20種類存在する。出力電圧高調波低減の制約条件を与えた場合、そのうち、10種類に限定されるが、これらのすべてが(15)式で常に求解できるとは限らない(逆行列を持たない場合がある)。逆行列を持たないということは、ベクトルの選択方法が間違っていることを意味するので、その他のベクトル選択パターンに変更する。本実施例では、まず10種類の選択パターンにおけるデューティ係数行列の逆行列が存在するかどうかを確認して、解が得られるパターンを最終的にゲート信号生成部16に適用する。
【0098】
尚、上述の説明では、3相2相変換して静止座標系のα軸方向、β軸方向の関係式で演算しているが、R,S,T,U,V,Wの三相方向で演算式を構成することも可能である。
【0099】
図9に、本発明によるシミュレーション結果の代表例を示す。波形は図の上から電源相電圧、入力電流、出力線間電圧、出力電流である。図9(a)は出力電圧指令が低い場合、図9(b)は高い場合である。入力/出力波形ともに、正弦波化を実現しており、良好な結果が得られる。また、線間電圧高調波低減を優先しているので、低出力電圧指令の時は波高値の高い線間電圧が出力されていない。高出力電圧指令の時は逆に、零ベクトルを使用していないので、波高値の高いパルスが出力されている。このように指令値に近いパルス電圧が出力されているので、高調波や損失を低減することができる。
(実施例2)
実施例1において、デューティ係数行列として式(15)のように4×4の行列を用いていた。ここで、式(15)の4行目のデューティ加算値=1の方程式に着目すると、係数行列は常に1である。このことから、以下のようにd4を消去して演算式を考える。
【0100】
【数16】
【0101】
なお、係数行列の要素は以下のように演算しておく。
【0102】
【数17】
【0103】
本実施例によれば、実施例1の4×4の逆行列から、3×3の逆行列に演算を簡素化することができる。
(実施例3)
実施例1では、表2の4つのベクトルの選択パターン20種類について、逆行列が存在するか確認していた。本実施例では、入力・出力セクター状態、その状態において発生し得ないパターンについてはデューティ係数行列の行列式を演算しないようにする。これにより演算負荷を軽減することができる。
【0104】
表2の20パターンについて、まず表4のように1〜10と11〜20の2グループに分離する。
【0105】
【表4】
【0106】
ここではそれぞれ、セクターモード1(sm1),セクターモード2(sm2)と呼ぶことにする。この両グループは、XとYの関係が反転しただけで、対となるパターン群であるが、入力と出力のセクター状態から、どちらのグループに所属すれば出力電圧高調波低減の制約条件を満たせるかが決まる。それをまとめると、表5のようになる。
【0107】
【表5】
【0108】
入力と出力のセクターの関係から、sm1とsm2を決定できるため、デューティ演算行列の逆行列について、常に20パターン演算する必要はなく、半分の10パターンで良い。本実施例によれば、逆行列の存在確認の演算負荷が半減する。
(実施例4)
本実施例では、実施例3に加え、出力電圧指令値の大きさを見て、低出力電圧領域と高出力電圧領域に分離する。前記表4のパターン1,6,11,16は、零ベクトルZを含み、それ以外の選択パターンは回転ベクトルRを含んでいることに着目する。
【0109】
低電圧領域は零ベクトルを含む選択パターンを選択した方が線間電圧高調波を低減できることは前述のとおりである。また、高電圧領域は回転ベクトルRを含むパターン(零ベクトルを含まない選択パターン)を用いるようにする。その判別は、電圧指令値の大きさを線間電圧ベクトル方向に見て、最も大きな単振動ベクトル(XL,YL,R)の線間電圧方向瞬時値の1/2を境界線として、電圧指令値の線間電圧方向瞬時値が大きい場合は高電圧領域の選択パターン、低いときは低電圧領域の選択パターンを優先する。境界線は、例えばXLの大きさを用いて、以下の式(18)で求められる。
【0110】
【数18】
【0111】
ただし、φは、X軸と電圧指令値Vo*のなす角である。
【0112】
本実施例によれば、電圧指令値の大きさから優先すべき4つのベクトルの選択パターンが判別できるので、電圧高調波を低減できる。
(実施例5)
前記実施例1,2の手法において、1セクター内の8種類のベクトル「XL,XM,XS,YL,YM,YS,R,Z」に適用されるスイッチングパターン27種は、入出力セクター状態によって一意に決定される。例えば入力セクター「1」、出力セクター「1」のときは、XL=RTT,XM=RSS,Xs=STT,YL=RRT,YM=RRS,Ys=SST,R=RST,Z=SSSとなる。
【0113】
その後、4つのベクトルを選択して、それから各スイッチングパターンの係数テーブルからデューティ係数行列に代入している。そのため、4つのベクトルの選択パターンが決定されないとデューティを数値演算できない。
【0114】
そこで、本実施例では、予め表2の選択パターンそれぞれについて、係数を代入した演算式自体をテーブルにしておく。
【0115】
入力セクター「1」、出力セクター「1」の例を挙げて説明する。尚デューティ演算には実施例2の方式を用いる。
【0116】
表6は、それぞれの選択パターンで各係数を代入して、デューティ係数行列の逆行列が存在するかどうかをチェックする式のテーブルである。
【0117】
【表6】
【0118】
デューティ係数行列をAとおくと、その行列式|A|≠0ならば逆行列が存在するので、それぞれの行列式をテーブルとしている。また、マトリックスコンバータ制御中は電源が確立されているので、通常は電源電圧検出値ViaおよびfVibは同時に0となることはない。したがって、Via2+Vib2≠0となり、表6最右列のように逆行列の存在判別式が簡素化できるとともに、判別式自体もある程度パターン化されて出現する。このような逆行列存在判別式のテーブルを全セクターで予め展開しておき、入出力セクターに応じてテーブルから読み出して使用する。本実施例によれば、係数行列の逆行列が存在するかどうかを比較的に簡単に判別することができるので、演算負荷が軽減される。
(実施例6)
使用する4つのベクトルの選択パターンは前記実施例3により10パターンに低減できるが、デューティ演算負荷をさらに軽減するためには、何らかの領域判別法により、選択パターンの出現可能性を減らせると良い。しかしながら、マトリックスコンバータにおいて出力電圧と入力電流を同時に正弦波化する場合、接続される負荷の状況にも依存しているため、4つのベクトルの選択パターンを領域判別で一意に決定することは容易ではない。複数の数式で判別式を表現することも可能であるが、逆に演算負荷が増加することが想定される。そこで、本実施例では、比較的に簡単な方法で選択パターンを10パターンから9パターンに低減する手法を構築した。
【0119】
まず、電源電圧と出力電圧指令から、入力と出力のセクター判別が可能であることは前述したとおりである。ここでは、任意の出力側1セクター内の10パターンの領域について考えていく。今、出力側セクター内が図4の状態であったとして、表2で定義した選択パターン1〜10を実現することができる出力電圧指令領域を図示すると、図10のようになる。尚図10の(a)〜(j)はパターン1〜10に対応している。この選択パターンが選択されるには、少なくとも図10の黒色部に出力電圧指令が存在するはすである。
【0120】
ただし、この領域はあくまでも出力側の条件を満たす最低限の条件であるので、この領域内に存在するからといって、その選択パターンが入力電流側の条件も満たしているとは限らない点に注意が必要である。したがって、この10パターンの領域で相互に重なっている箇所があるが、そのような領域は入力条件を満たす任意の1パターンを選択しなければならない(本実施例では、複雑さを回避するためそこまでは判別しない)。
【0121】
図4及び図10の回転ベクトルRの位相に着目すると、図11に示すように、この回転ベクトル位相Rを基準に遅れ側領域(2)ではパターン7(図10(g))は選択されない。一方、進み側領域(1)ではパターン2(図10(b))が選択されない。出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相は入力電源電圧位相から検出できるので、その位相を基準に遅れか進みかを判別すれば、パターン2もしくは7のデューティ演算処理を省略することができる。したがって、デューティ演算1回分の負荷を軽減することができる。
(実施例7)
実施例6と同様に、領域を判別する手段として、図12に示すように出力側空間ベクトルのセクター内における単振動ベクトルの中間電圧相XMとYMの結線を新たに考える。図10より、この結線の低電圧側の領域(1)では、パターン9,10(図10(i),(j))は選択されない。一方、高電圧側の領域(2)ではパターン1,6(図10(a),(f))が選択されない。なお、この結線を境界とした領域の判別方法は種々あり、例えば入力電源電圧で決定づけられるXM瞬時値を線間電圧方向に見たXMcos30°と、出力電圧指令Vo*の線間電圧方向の瞬時値Vo*cosγ(γは線間電圧方向との位相差)について大きさを比較すれば、領域(1)と(2)を判別できる。
【0122】
このように、出力側空間ベクトルのセクター内における単振動ベクトルの中間電圧相XMとYMの結線で区切られる領域を判別することで、4つのベクトルの選択パターンを10パターンから8パターンに低減することができる。
(実施例8)
前記実施例6,7を組み合わせると、図13のように4つの領域分けが可能である。選択パターンは以下のように分離される。
【0123】
領域(1):パターン7,9,10以外(1,2,3,4,5,6,8)
領域(2):パターン2,9,10以外(1,3,4,5,6,7,8)
領域(3):パターン1,6,7以外(2,3,4,5,8,9,10)
領域(4):パターン1,2,6以外(3,4,5,7,8,9,10)
したがって、実施例6と7の判別処理を同時に行えば、4つのべクトルの選択パターンのデューティ演算処理を10パターンから7パターン低減することが可能となる。
(実施例9)
本発明の手法を用いると、負荷条件や運転状態によっては10種の4つのベクトルの選択パターンの内、2つの選択パターンでデューティ条件を同時に満たす場合が存在する。
【0124】
なお、演算したデューティが正しいかどうかは、4つのデューティd1〜d4が以下の条件を満たした場合を言う。
【0125】
d1+d2+d3+d4=1
0≦dn≦1(n:1〜4)
2つ以上同時に満たすモードがある場合、制御的に見ればどちらを用いてもかまわないが、本実施例では表2におけるパターン4,5,9,10を優先的に選択する処理を施す。
【0126】
選択パターン9を例に挙げてその理由を述べる。選択パターン9はXL,R,YL,YMであるので、単振動ベクトル(大)XL,YLを2つと単振動ベクトル(中)YMを1つ、および回転ベクトルR1つを用いている。これらを出力線間電圧べクトル方向に見た場合、単振動ベクトル(大)XL,YLと回転ベクトルRは同じ大きさとなる。したがって、線間電圧に出力されるパルスの電圧波高値としては、「XL,R,YL」と「YM」の2つのレベルに限定される。パターン4,5,10についても同様に言える。一方、それ以外の選択パターンについては、線間電圧方向に見て3レベルの波高値を用いている。出力線間電圧高調波を低減するためには、パルス電圧変化とパルス周波数を極力低減することが望ましいので、パターン4,5,9,10を積極的に用いた方が良い。
【0127】
したがって、パターン4,5,9,10の2レベルモードとそれ以外の3レベルモードが同時に発生したときは、2レベルモードのデューティ演算結果を最終的に反映させるように処理する。これにより、出力電圧高調波を一層低減することが可能となる。
(実施例10)
本発明は、電源電圧検出値と出力電流検出値情報を用いて4つのベクトルを用いてベクトル変調する方式であるが、出力電流検出値については、電流瞬時値が元々小さいような負荷運転条件の場合や初期運転時において、電流検出値が小さい/誤差が多い等の理由で、どの選択パターンもデューティ演算の解が得られないといった不安定モードが発生する場合がある。
【0128】
そこで、本実施例では、電流制御運転(モータ負荷のベクトル制御時など)を前提として、電流指令値をマトリックスコンバータのデューティ演算式に用いる(ただし、フィードバック電流制御系が十分に安定しており、良好な追従が成されている場合のみ有効)。
【0129】
図14にその制御構成例を示す。図14において、図8と同一部分は同一符号をもって示している。図14における電流フィードバック制御手段20は、3相2相変換手段13bから出力電流検出値を取り込むとともに、上位系統から出力電流指令値を取り込み、デューティ演算手段14および選択手段15に出力電圧指令を出力する。またデューティ演算手段14には前記出力電流指令値が入力される。
【0130】
本実施例において、電流検出値はフィードバック電流制御系に使用し、マトリックスコンバータのデューティ演算には電流指令値を用いており、これによって初期運転開始時や電流検出誤差を無視できないような低出力電流時の運転について、演算を安定化することができる。
【0131】
また例えば、運転開始時の数秒間や出力電流が任意の値以下の時に、出力電流検出値から電流指令値に切り換えるようにしても良い。
(実施例11)
前記実施例10を用いても正当な演算結果が得られない場合を想定して、フェールセーフの考えからオープンループでも運転可能な従来方式に制御を切り替える。例えば、既に一般的に用いられている仮想間接形変調方式や、非特許文献2の5ベクトルによる空間ベクトル変調方式等である。これらの方式は、出力電流情報を用いる必要がないので、何らかの正当なデューティを出力することができる。 したがって、デューティ演算エラーが発生しやすい初期運転開始時や低電流時の運転についてはオープンループ形の従来方式を用いて、安定な運転条件では本発明の4ベクトル方式(4つのベクトルを使用する方式)の電流フィードバック空間ベクトル変調方式を用いる。切り替える条件については電流検出値の大きさから任意のレベルで判定する。本実施例によれば、出力電流が小さい場合でもより安全・安定的に運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明が適用される交流−交流直接変換装置の基本構成図。
【図2】空間ベクトルを表し、(a)は入力側空間ベクトル図、(b)は出力側空間ベクトル図。
【図3】空間ベクトルの入力側セクターと出力側セクターの定義例の説明図。
【図4】出力セクター1における空間ベクトルの状態図。
【図5】本発明の制約条件を説明する説明図。
【図6】本発明の制約条件を説明する説明図。
【図7】本発明の方法におけるスイッチングの遷移図。
【図8】本発明の実施例1を実施する装置の構成図。
【図9】本発明の効果を説明するための説明図。
【図10】本発明の実施例における出力電圧指令領域を説明するための説明図。
【図11】本発明の実施例6を説明するための説明図。
【図12】本発明の実施例7を説明するための説明図。
【図13】本発明の実施例8を説明するための説明図。
【図14】本発明の実施例10を実施する装置を示す構成図。
【符号の説明】
【0133】
1…三相交流電源、2…入力フィルタ部、3…半導体電力変換部、4…負荷、11…電圧検出手段、12…電流検出手段、13a,13b…3相2相変換手段、14…デューティ演算手段、15…選択手段、16…ゲート信号生成部、20…電流フィードバック制御手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相の交流電源から任意の電圧または周波数に変換した多相出力を得る交流−交流直接変換装置(マトリックスコンバータ)に係り、特に時々刻々と大きさ・位相が変化する空間ベクトルを入力/出力それぞれで表現し、使用する基本ベクトルを選択してデューティ演算する空間ベクトル変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から存在するこの種の交流−交流直接変換装置は、自己消弧形の半導体素子を用いた双方向スイッチを高速に切換え、単相または多相の交流入力を任意の電圧または周波数の電力に変換する変換装置であり、図1のように構成されている。
【0003】
図1は、三相/三相交流−交流直接変換装置の基本構成を示し、三相交流電源1は、リアクトルとコンデンサによる入力フィルタ部2および9つの双方向スイッチSW1〜SW)で構成された半導体電力変換部3を介して任意の負荷4に接続される。9つの双方向スイッチSW1〜SW9は、逆阻止IGBT18個で構成する場合や、通常のIGBT等の半導体素子とダイオードを組み合わせるなど、その細部の構成方法には拘らないが、双方向に電力授受できるスイッチング素子で構成されている。
【0004】
なお、図1に示すように、以下、電源三相をRST相、出力三相をUVW相とする。
【0005】
マトリックスコンバータに代表される交流−交流直接変換装置は、電源電圧をPWM制御して出力電圧を生成する電圧形電力変換器と、出力負荷電流を電流源とみなしてPWM制御により電源電流を生成する電流形電力変換器を組み合わせた形とし、交流から交流へ直接電力変換する装置である。両者の制御を同時に9つの双方向スイッチで実現するため、制御上は互いに関連し合っている(すなわち、入力と出力で授受される三相瞬時有効電力は一致しなければならない制約条件を持つ)。
【0006】
次に、上記を踏まえて交流−交流直接変換装置の空間ベクトルを定義する。出力電圧は交流の電源電圧から、入力電流も交流の負荷電流からPWMで生成するので、一般的な直流−交流変換装置(インバータ)の空間ベクトルと異なり、交流−交流直接変換装置が生成できるPWM制御した瞬時空間ベクトルは時々刻刻と変動する。出力側電圧の瞬時空間ベクトルの変動は、PWMで切り刻む基となる電源電圧の位相・大きさに依存している。入力側電流の瞬時空間ベクトルは、出力負荷電流の位相・大きさに依存して変動する。
【0007】
また、交流−交流直接変換装置のスイッチングパターンとしては、(1)電源短絡を引き起こさない、(2)負荷電流を不連続としない、という制約条件を与える必要がある。(1)は電源短絡による過電流破損の防止、(2)は誘導性負荷のインダクタンスに蓄えられたエネルギーによる過電圧故障を防止するためである。これら条件を考慮すると、9つの双方向スイッチSW1〜SW9のスイッチングパターンは27種類(33)の組み合わせに限定される。
【0008】
27種類のスイッチングパターンを入力側および出力側で静止αβ座標上に展開すると、図2及び表1のように表現できる(図2(a)は出力負荷電流位相15度時の入力側電流の空間ベクトルを示し、図2(b)は電源電圧位相15度時の出力側電圧の空間ベクトルを示している)。
【0009】
【表1】
【0010】
表1において、空間ベクトルは、位相角30度の方向を正軸とした単振動ベクトルのグループを単振動ベクトルS1、位相角150度方向を正軸とした単振動ベクトルS2、位相角270度方向を正軸とした単振動ベクトルS3、長さは最大一定で反時計方向に回転する回転ベクトルR1、同じく長さ一定で時計方向に回転する回転ベクトルR2、および6角形の中心零点で固定された零ベクトルZ、の6つのグループに分けられる。これら各々の基本ベクトルは、入力電圧の位相θに依存、つまり入力電圧の角速度ωiに同期して変動する。また、ベクトルの長さ(6角形の大きさ)は入力線間電圧の大きさに対応する。
【0011】
前述のとおり、瞬時空間ベクトルは時々刻刻と変化するので、各位相に合わせて変動する。静止αβ座標上における瞬時空間ベクトルの変動の方向に着目すると、27種のベクトルは、18種の単振動ベクトル(3軸で各6種、位相関係は一定)、6種の回転ベクトル(時計方向に3種、反時計方向に3種で、夫々大きさについては一定)3種の零ベクトル(原点位置で不変)に分類することができる。
【0012】
表1は、出力側空間ベクトルを基準に27種のパターンを分類した例であり、このような空間ベクトルの基本的な考え方については、非特許文献1等で既に知られている。
【0013】
次に空間ベクトルの考え方を簡単に説明する。例えば出力側空間ベクトルにおいて、表1におけるステート1:UVW=RSSの接続パターンに着目すると、出力の三相交流は、U相→V相→W相の順にそれぞれ120度の位相差をもつ。ここでは出力側空間ベクトルはU相をα軸(図2のS1軸)として定義しているので、V相はS2軸方向、W相はS3軸方向である。
【0014】
ステート1:UVW=RSSの状態で、図2の例と同様に電源電圧位相θ=15度のときは、電源相電圧の関係はvr>0>vs>vtの関係となる。したがって、ステート1では、Vu*=Vr,Vv*=Vs,Vw*=Vsとなり、Vrは正電圧、Vsは負電圧なので出力側空間ベクトルではVu*,Vv*,Vw*をベクトル合成すると図2のvRSSに示すように、S1軸正方向に出力されることになる。そのほかの瞬時空間ベクトルについても同様に展開できる。
【0015】
いま、図3に示すように、入力側空間ベクトルは(a)のように30度位相ごとに、出力側空間ベクトルは(b)のように60度位相ごとに領域を区分けして番号を割り当てる。以下、これらをセクターと呼ぶ。なお、セクターは、以下の3相2相変換(αβ変換)と三角公式から入力位相θと出力位相φを求めれば判別できる。
【0016】
【数1】
【0017】
【数2】
【0018】
尚、本発明に関連する技術として非特許文献2に記載のマトリックスコンバータの空間ベクトル変調法や、非特許文献3に記載のマトリックスコンバータのPWM制御法などが知られている。
【0019】
従来からある一般的な制御方式(例えば非特許文献2)は、出力負荷電流情報を用いずに入出力波形を正弦波化できるものが多い。マトリックスコンバータのPWM制御に必要なものは三相交流電源電圧の位相(もしくは位相と大きさ)の情報のみで、出力電流検出値の情報は演算に含まれないため、オープンループ制御に対応できる。
【0020】
一方、1制御周期内のスイッチング回数に着目すると、従来の一般的な制御方式では4回以上である(キャリア1周期で考えると8回以上)。
【0021】
尚前記1制御周期とはPWM周期のことであり、5ベクトル変調方式ならば5つの空間ベクトルのパルス信号(出力時間)の総和の時間である。5つの瞬時ベクトルをPWM、すなわち積分的に(平均値的に)指令値に合わせるための単位時間であり、指令値の更新もこれに合わせるのが一般的である。
【0022】
ただし、非特許文献3に記載されているような三角波キャリア比較方式に当てはめるならば、三角波の山と谷で指令値を更新する場合に相当するので、一般的に言われるキャリア周波数は制御周波数の1/2倍となる。
【0023】
例えばキャリア5KHZ→制御周波数10KHZ(1制御周期=100μs)。5ベクトル方式ならば、1制御周期は5つのPWMパルスで構成され、すなわちスイッチング回数は4回であり、また4ベクトル変調方式の場合は4つのPWMパルスで3回のスイッチングとなる。
【非特許文献1】石黒章夫、古橋武、石田宗秋、大熊繁、内川嘉樹:「空間ベクトルを用いたPWM制御サイクロコンバータの出力電圧制御法」、電学論、Vol.110,No,6,pp、655−663(1990)
【非特許文献2】只野裕吾、漆畑正太、野村昌克、足利正:「マトリックスコンバータの空間ベクトル変調法の検討」、平成18年電気学会産業応用部門大会、1−87(2006)
【非特許文献3】安藤雄介、竹下隆晴:「マトリックスコンバータのスイッチング回数低減PWM制御法」、平成18年電気学会産業応用部門大会、1−04−4(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
非特許文献1に記載の制御法は出力のみを制御して正弦波化しており、入力波形は高調波を含むという問題がある。出力電圧だけを正弦波化すれば良いならば、空間ベクトルは3つ選択して制御すれば実現できる。しかしそのときの入力電流は制御していないため、高調波歪みを含む波形となってしまう。
【0025】
非特許文献2に記載のベクトル変調方式は、制御方針に従って5つの空間ベクトルを選択した後、擬似逆行列を用いてデューティを演算する手法であり、入出力波形を正弦波化できる。出力に加え入力電流も同時に正弦波化する場合は、入力電流のα成分、β成分の2つの自由度がさらに必要となるので、5つの空間ベクトルで制御する。
【0026】
しかしながら、5ベクトル変調方式であるため1制御周期内のスイッチング回数は4回となり、この4回の転流によるスイッチング損失により装置効率が低下する。
【0027】
非特許文献3では、三相毎にデューティを演算して三角波キャリア比較方式によりPWM波形を生成しており、出力線間電圧高調波を低減したい場合に有効である。しかしながら、出力電圧高調波低減を優先するため、入力電流脈動は従来方式より増加する。
【0028】
また、デューティ演算後にキャリア比較を行いPWMパルスを決定しているので、PWMパルスの配列順序に自由度が無く、モードの切り替わり時(セクター間を移行する時、例えば図3のセクター1からセクター2へ移行する時)にスイッチング回数を削減するようにPWMパルスを配列することができず、セクター間を移行する時のスイッチング回数の低減は配慮されていない。
【0029】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、入出力波形を正弦波化することができるとともに、セクター間を移行するときもスイッチング回数を低減することができる交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、直接AC/AC変換方式による空間ベクトル変調で双方向スイッチを多相交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*の存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大電圧のベクトルXL、YLと、中間のベクトルXM、YMと、最小のベクトルXS、YSと、電源の中間電圧相となる零ベクトルZと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルRを基本ベクトルとし、前記8種類のベクトルのうち、入力電流および/又は出力電圧の高調波を低減するための所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを求め、この選択パターンの4つのベクトルについて、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、入力と出力に関するデューティ係数行列を導き、その逆行列を演算して4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティ解によって入力と出力の波形を同時に正弦波化することを特徴としている。
【0031】
また請求項2に記載の発明は、前記所定の条件は、・入力波形と出力波形を同時に正弦波化することができること、・線間電圧ベクトル方向に見て指令値との電圧差が最も大きいベクトルは選択しないこと、・1相ごとのスイッチング遷移が可能なこと、・スイッチング遷移に電源の最大電圧相と最小電圧相間の直接転流がないこと、・常に電源の中間電圧相の零ベクトルを用いること、のうち、少なくとも1つ以上の条件を含むことを特徴としている。
【0032】
また請求項3に記載の発明は、前記交流−交流直接変換装置のすべての空間ベクトルのうち、出力側空間ベクトルを、電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分viαおよび電源相電圧検出値の3相2相変換後のβ成分viβの係数としてテーブル化し、入力側空間ベクトルを、出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分Ioαおよび出力負荷電流検出値の3相2相変換後のβ成分Ioβの係数としてテーブル化し、前記テーブルを用いて前記4つのベクトルのデューティ解を求めることを特徴としている。
【0033】
また請求項4に記載の発明は、前記デューティ解を求める際は、前記4ベクトルの選択パターンすべてについて逆行列が存在するかどうかを予め演算しておき、デューティ解が得られる選択パターンを最終的なデューティとして適用することを特徴としている。
【0034】
また請求項5に記載の発明は、前記デューティ解を求める際は、前記デューティ係数行列のデューティ加算値が1となる行を消去して演算することを特徴としている。
【0035】
また請求項6に記載の発明は、前記選択パターンは、出力電圧指令値の大きさに基づいて、低出力電圧領域では零ベクトルを含む選択パターンを採用し、高出力電圧領域では零ベクトルを含まない選択パターンを採用することを特徴としている。
【0036】
また請求項7に記載の発明は、前記選択パターンについて、予め、逆行列が存在する前記デューティ係数行列の行列式をテーブル化しておき、前記テーブルを用いて前記ベクトルのデューティ解を求めることを特徴としている。
【0037】
また請求項8に記載の発明は、前記選択パターンは、出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相の遅れ又は進みに応じて決定することを特徴としている。
【0038】
また請求項9に記載の発明は、前記選択パターンは、単振動ベクトルの中間電圧のベクトルXMとYMとの結線と出力電圧指令値との大小比較に応じて決定することを特徴としている。
【0039】
また請求項10に記載の発明は、前記選択パターンは、2レベルとなる選択パターンを優先して採用することを特徴としている。
【0040】
また請求項11に記載の発明は、電流検出値が小さい又は初期運転開始時に、前記4つのベクトルのデューティ解を求める演算は、電源電圧情報および出力電流指令値に基づいて行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0041】
(1)請求項1〜11に記載の発明によれば電源電圧および出力電流情報を用いて4つのベクトルで入力/出力波形を正弦波化することができる。4つのベクトルで変調するので、1制御周期におけるスイッチング回数は従来の4回から3回へ低減できる。スイッチング回数低減により、スイッチング損失を低減することができるので効率が向上する。
(2)請求項2に記載の発明によれば、5つの条件を与えているため、出力における高調波が低減され、低ノイズで出力電流脈動も低減することができる。また、PWMパルスの出力波高値に着目すると、入力電圧の中間相を介してスイッチングするため、電圧変化が出来る限り小さくなる順序で出力される。したがって、電圧変化による損失低減と低ノイズ化にも有効である。また、モータ負荷等の中性点電圧(コモンモード電圧)の変動幅についても理論上最低限に抑制することができる。
(3)請求項5に記載の発明によれば、デューティ解を求める演算負荷が軽減される。
(4)請求項6に記載の発明によれば、低出力電圧領域又は高出力電圧領域のいずれであっても適切な選択パターンを選ぶことができ、出力電圧高調波を低減することができる。
(5)請求項7に記載の発明によれば、逆行列が存在するかどうかを簡単に判別できるようにすることで、逆行列が存在しないものをデューティ演算処理から除外できるので、演算負荷が軽減される。
(6)請求項8,9に記載の発明によれば、選択パターンを少なくすることができ、これによってデューティ演算処理が軽減される。
(7)請求項10に記載の発明によれば、出力電圧高調波をより一層低減することができる。
(8)請求項11に記載の発明によれば、電流検出値が小さい場合や初期運転開始時においても、電流指令を用いてデューティを演算するので演算エラーを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、交流−交流直接変換装置は双方向スイッチをPWM制御するマトリックスコンバータとして、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0043】
マトリックスコンバータは、その用途として一般的にモータ負荷をベクトル制御する、もしくは負荷の過電流を検出する手段としても、出力電流センサ等の負荷電流検出手段を備えているのが普通である。したがって、負荷電流情報を制御に用いることも可能である。
【0044】
そこで本発明では、出力電流情報(例えば出力電流検出値)を用いることで自由度を一つ減らし、4つの空間ベクトルで変調する方式とし、1制御周期内のスイッチング回数を従来の4回から3回に低減するものである。
【0045】
非特許文献3のようなキャリア比較方式は、電圧指令値を三角波キャリアと比較するだけでPWMパルスを生成できるので、比較的に制御が簡単になる。一方、空間ベクトル変調方式は生成したデューティ情報からPWMパルスを任意の順序で配置する必要があるが、そのパルスの配列順序に自由度がある。したがってモード切り替わり(入力/出力セクター移行等;セクターは前記数式(2)で示される位相の領域)の過渡状態についてもスイッチング回数を減らすように瞬時に配列変更することも可能である。また、非特許文献3では、出力電圧高調波低減を優先する場合のみを扱っているが、本発明の空間ベクトル変調方式は、入力を優先する、磁束ベクトル軌跡を優先する等、用途に応じたその他の制御方針にも応用できる。
(実施例1)
まず、本実施例では、出力電圧高調波を極力低減することを優先した場合のベクトル選択手法とデューティ演算手法について述べる。
【0046】
マトリックスコンバータは入力と出力を同時に制御する必要があるため、どちらか一方を優先的に高調波低減の制御をすると、もう一方の脈動が増加する等のトレードオフの関係がある(非特許文献2参照)。入力と出力のどちらも正弦波にPWM制御するという大前提の下では、前記トレードオフの関係を回避できないため、用途に応じて制御方針を予め決定しておく必要がある。
【0047】
本実施例は出力高調波低減を最優先するために、以下の制約条件を与える。
(1)入力・出力ともに正弦波化する。
(2)線間電圧変化を低減させるため、線間電圧ベクトル方向に見て、指令値との電圧差が最も大きいベクトルは未選択とする。
(3)1相毎の転流とする。すなわち2相以上同時スイッチングを防止し、スイッチング回数を最小化する。
(4)入力最大電圧相⇔最小電圧相の転流を防止する。すなわち常に中間電圧相を介して電圧変化を低減し、スイッチング損失を低減させる。
(5)常に電源の中間電圧相の零ベクトルを利用して、コモンモード電圧を低減させる。
【0048】
本発明では、前記(1)を制御方針の最優先となる前提条件としつつ、出力電流検出値情報を用いることにより、この自由度を1つ減らして4ベクトル方式とするものであり、したがって、4つの空間ベクトル+出力電流情報で入力・出力に正弦波の指令を与えて制御する(条件式は後述する(11)式である)。
【0049】
前記(2)はVuv,Vvw,Vwuの線間電圧ベクトル方向(正負両方向)、すなわち「30+60n」度(0≦n≦5の整数)の方向に見て電圧変化が小さくなるようなベクトルを選択する。そのときの電圧指令値の大きさも線間電圧方向に考えてみて、最も離れているベクトル群は使用しないことにする。
【0050】
例えば出力線間電圧高調波の低減を、従来の方式(例えば仮想間接形制御方式など)に対して優先する、もしくは入力電流高調波の低減に対して優先するために、60度位相差内の任意の1セクターについて、図4のように8種類のベクトルを定義して考えていく。
【0051】
回転ベクトルは1セクター内に常に1つしか存在しないのでRとおく。零ベクトルは前記制約条件(5)に従い、電源電圧の中間電圧相の零ベクトルZを適用する(Vr>Vs>VtならばSSSのパターンを選択)。
【0052】
単振動ベクトルは1セクター内に6種存在するが、使用しているベクトルは2軸であるので、位相関係で見て遅れている軸をX軸、進んでいる軸をY軸とし、夫々単振動している瞬時電圧の大中小関係を判別し、X軸で絶対値が最も大きなベクトルをXL、中間のものをXM、最小のものをXsとおく。Y軸についても同様に絶対値が最も大きなベクトルをYL、中間のものをYM、最小のものをYsと定義する。
【0053】
電圧指令値Vo*の出力電圧が高い(ベクトルが長い)のときは、図5に示すように線間電圧方向に見て最も距離がはなれている零ベクトルを選択しないようにする。一方、出力電圧が低い時は、図6に示すように、距離の遠いXL,YL,Rは選択しないようにする。
【0054】
ここで、図3で定義したセクターにおいて、入力セクター「1」、出力セクター「1」の位相状態にある場合を例に挙げる(つまり、Vr>Vs>Vt、Vu*>Vv*>Vw*)。このときの出力セクター内の8種類のベクトルは、図2の(b),図5、図6から、XL=RTT,XM=RSS,Xs=STT,YL=RRT,YM=RRS,Ys=SST,R=RST,Z=SSSとなる。
【0055】
上記8種類のベクトルのスイッチング遷移を考えるときに前記制約条件(3)と(4)を考慮すると、図7のように遷移図を描くことができる。図7において、どの遷移も、入力中間相であるS相を介してスイッチングしており、同時に2つ以上スイッチングすることもない。
【0056】
図7の遷移図から27種類のスイッチングパターンのうち、4つのベクトルを選択して遷移する組み合わせを考えると、表2に示すselection pattern の1〜10の10パターンに限られる(pattern 11〜20は、その他の入出力セクター状態で発生し得る遷移モード。今回の例では1〜10のみが制約条件を満たせる)。
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表2中のベクトル番号v1〜v4は4つのベクトルを意味している。v1→v2→v3→v4、もしくはその逆の順序で遷移すると上記制約条件を満たして遷移することができる。v1→v2→v3→v4→v4→v3→v2→v1→v1→v2→……といった形で折り返しスイッチングする。
【0059】
上記の通り、4つのベクトルを選択して遷移する組み合わせは10パターンに限られ、この中から1つの組み合わせを選択(選択パターン)すれば良く、本実施例では10パターンすべてについて4つのベクトルのデューティ(パルス出力時間比率)を演算し、不適な解となったものを除外する消去法を採用する。
【0060】
以下、本実施例で提案するデューティ演算手法について述べる。まず、マトリックスコンバータの27種類すべてのスイッチングパターンを、入力側空間ベクトル、出力側空間ベクトルのそれぞれで静止αβ座標系のα軸成分とβ軸成分に分解する。ここでは、表1におけるステート1:RSSについて代表して説明する。
【0061】
まず、出力側空間においては、Vu*=Vr,Vv*=Vs,Vw*=Vsであるので、これを3相2相変換すると、
【0062】
【数3】
【0063】
一方、Vr,Vs,Vtを2相3相変換式を用いてViα、Viβの関係式に置き換えると以下のようになる。
【0064】
【数4】
【0065】
【数5】
【0066】
上記以外の瞬時空間ベクトルのVoα、Voβについても、同様にViαとViβの関係式として導くことができる。これを以下のように一般化して、27種類すべてのスイッチングパターンについてViαとViβの係数テーブルを、予め表3のように生成しておく。
【0067】
【表3】
【0068】
【数6】
【0069】
ただしnは選択した4つのベクトル番号1〜4の識別番号、Kvaan,Kvabn,Kvban,Kvbbnは係数のテーブルとする。
【0070】
Viα、Viβは電源電圧検出値を利用する。すなわち、例えば後述する図8の電圧検出手段により検出した例えば電源電圧検出値の静止αβ変換(3相2相変化)値Viα、Viβを(5)式に等に代入する。
【0071】
尚、表3の、Viαは電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分、Viβは同じくβ成分、Ioαは出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分、Ioβは同じくβ成分、Iiα*は入力電流指令値のα成分、Iiβ*は同じくβ成分、Voα*は出力相電圧指令値のα成分、Voβ*は同じくβ成分を各々示している。
【0072】
また、入力側空間においても同様に出力電流情報IoαとIoベータの係数テーブルとして展開することができる。例として表1におけるステート1のUVW=RSSを考える。R相にはU相が結線され、S相にはV相とW相が結線される。T相には何も結線されないオープンの状態となり、入力電流は、Ir*=Iu,Is*=Iv+Iw=−Iu,It*=0となる。したがって、
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
(8)式のIuを(7)式に代入して、
【0076】
【数9】
【0077】
その他の瞬時空間ベクトルも同様にIoαとIoベータの係数テーブルとして展開する。
【0078】
【数10】
【0079】
ただしnは、選択した4つのベクトル番号1〜4の識別番号、Kiaan,Kiabn,Kiban,Kibbnは係数のテーブルとする。
【0080】
Ioα、Ioβは出力負荷電流検出値を利用する。すなわち、例えば後述する図8の電流検出手段により検出し、静止αβ変換した値を用いる。
【0081】
そして上述の瞬時空間ベクトルの係数テーブル(表3)を用いて、4つのベクトルのデューティを演算する。出力電圧指令と入力電流指令の関係式、およびデューティ4つは加算して1でなければならないことから、次の(11)式が成り立つ。
【0082】
【数11】
【0083】
尚、デューティの係数は(6)、(10)式代入。
【0084】
ただし、マトリックスコンバータは入力と出力を同時に制御することから、三相瞬時有効電力の授受が入力側と出力側で一致していなければ成立しない。つまりVo*とIi*の大きさと位相を独立に制御すると、有効電力の関係が崩れることになり、入出力を同時に正弦波化することができない。
【0085】
そこで、指令値としては出力電圧指令のみを用いて、入力電流に関しては、そのときの負荷に応じて大きさが自動的に決定されるようにする。入力位相については、電源電圧位相に一致すれば力率1となる。また、電源電圧位相と差を持つように制御すれば、入力側の無効電力を調整することも可能である。そこで、入力電流と電源電圧、およびその位相差θ*の関係式として、三角公式等を用いて次の(12)式の入力側位相関係を導く(θ*は、電源電圧位相に対する入力電流位相の指令値、つまり位相差指令値とする。電流進み方向は正)。
【0086】
【数12】
【0087】
この(12)式を前記(11)に代入してIiα*、Iiβ*を消去すると、入力電流に関する式((11)式の3行目と4行目)は以下のようにまとめられる。
【0088】
【数13】
【0089】
したがって、(13)式および(11)式の1,2,5行目を用いて、4つのデューティに関する以下の方程式になる。
【0090】
【数14】
【0091】
デューティ係数行列の逆行列を求めることで、以下のように4つのデューティが求められる。
【0092】
【数15】
【0093】
以上のようにして、デューティ演算式が導かれる。本実施例では4つのベクトルの選択パターンを表2から選択した後、(15)式で4つのデューティを求めて、その出力時間比に従ってPWMパルスを生成する。
【0094】
図8は本実施例における基本制御構成図である(尚、他の実施例も基本的に同じ構成である)。
【0095】
図8において図1と同一部分は同一符号をもって示している。三相交流電源1の三相電源電圧から、変圧器等の何らかの電圧検出手段11により電源電圧を検出して取り込む。図8では入力フィルタ部2の電源側で検出しているが、検出位置はフィルタの前でも後でも可能である。出力負荷電流は電流センサ等の何らかの電流検出手段12によって検出する。
【0096】
前記取り込んだ電源電圧・負荷電流値はどちらも3相2相変換手段13a,13bにより3相2相変換し、デューティ演算手段14におけるデューティ演算時に使用する。出力電圧指令値および入力位相指令値は任意の上位制御系から受け取り、デューティ演算および4つのベクトルを選択手段15により選択する際の空間ベクトルのセクター判別や、低電圧・高電圧領域判別などに用いる。前記電源電圧検出値の位相についても4つのベクトルを選択するために使用する。
【0097】
そして4つのベクトルを選択した後に前記(15)式のデューティ演算を行うが、4つのベクトルの選択パターンは表2に示すように20種類存在する。出力電圧高調波低減の制約条件を与えた場合、そのうち、10種類に限定されるが、これらのすべてが(15)式で常に求解できるとは限らない(逆行列を持たない場合がある)。逆行列を持たないということは、ベクトルの選択方法が間違っていることを意味するので、その他のベクトル選択パターンに変更する。本実施例では、まず10種類の選択パターンにおけるデューティ係数行列の逆行列が存在するかどうかを確認して、解が得られるパターンを最終的にゲート信号生成部16に適用する。
【0098】
尚、上述の説明では、3相2相変換して静止座標系のα軸方向、β軸方向の関係式で演算しているが、R,S,T,U,V,Wの三相方向で演算式を構成することも可能である。
【0099】
図9に、本発明によるシミュレーション結果の代表例を示す。波形は図の上から電源相電圧、入力電流、出力線間電圧、出力電流である。図9(a)は出力電圧指令が低い場合、図9(b)は高い場合である。入力/出力波形ともに、正弦波化を実現しており、良好な結果が得られる。また、線間電圧高調波低減を優先しているので、低出力電圧指令の時は波高値の高い線間電圧が出力されていない。高出力電圧指令の時は逆に、零ベクトルを使用していないので、波高値の高いパルスが出力されている。このように指令値に近いパルス電圧が出力されているので、高調波や損失を低減することができる。
(実施例2)
実施例1において、デューティ係数行列として式(15)のように4×4の行列を用いていた。ここで、式(15)の4行目のデューティ加算値=1の方程式に着目すると、係数行列は常に1である。このことから、以下のようにd4を消去して演算式を考える。
【0100】
【数16】
【0101】
なお、係数行列の要素は以下のように演算しておく。
【0102】
【数17】
【0103】
本実施例によれば、実施例1の4×4の逆行列から、3×3の逆行列に演算を簡素化することができる。
(実施例3)
実施例1では、表2の4つのベクトルの選択パターン20種類について、逆行列が存在するか確認していた。本実施例では、入力・出力セクター状態、その状態において発生し得ないパターンについてはデューティ係数行列の行列式を演算しないようにする。これにより演算負荷を軽減することができる。
【0104】
表2の20パターンについて、まず表4のように1〜10と11〜20の2グループに分離する。
【0105】
【表4】
【0106】
ここではそれぞれ、セクターモード1(sm1),セクターモード2(sm2)と呼ぶことにする。この両グループは、XとYの関係が反転しただけで、対となるパターン群であるが、入力と出力のセクター状態から、どちらのグループに所属すれば出力電圧高調波低減の制約条件を満たせるかが決まる。それをまとめると、表5のようになる。
【0107】
【表5】
【0108】
入力と出力のセクターの関係から、sm1とsm2を決定できるため、デューティ演算行列の逆行列について、常に20パターン演算する必要はなく、半分の10パターンで良い。本実施例によれば、逆行列の存在確認の演算負荷が半減する。
(実施例4)
本実施例では、実施例3に加え、出力電圧指令値の大きさを見て、低出力電圧領域と高出力電圧領域に分離する。前記表4のパターン1,6,11,16は、零ベクトルZを含み、それ以外の選択パターンは回転ベクトルRを含んでいることに着目する。
【0109】
低電圧領域は零ベクトルを含む選択パターンを選択した方が線間電圧高調波を低減できることは前述のとおりである。また、高電圧領域は回転ベクトルRを含むパターン(零ベクトルを含まない選択パターン)を用いるようにする。その判別は、電圧指令値の大きさを線間電圧ベクトル方向に見て、最も大きな単振動ベクトル(XL,YL,R)の線間電圧方向瞬時値の1/2を境界線として、電圧指令値の線間電圧方向瞬時値が大きい場合は高電圧領域の選択パターン、低いときは低電圧領域の選択パターンを優先する。境界線は、例えばXLの大きさを用いて、以下の式(18)で求められる。
【0110】
【数18】
【0111】
ただし、φは、X軸と電圧指令値Vo*のなす角である。
【0112】
本実施例によれば、電圧指令値の大きさから優先すべき4つのベクトルの選択パターンが判別できるので、電圧高調波を低減できる。
(実施例5)
前記実施例1,2の手法において、1セクター内の8種類のベクトル「XL,XM,XS,YL,YM,YS,R,Z」に適用されるスイッチングパターン27種は、入出力セクター状態によって一意に決定される。例えば入力セクター「1」、出力セクター「1」のときは、XL=RTT,XM=RSS,Xs=STT,YL=RRT,YM=RRS,Ys=SST,R=RST,Z=SSSとなる。
【0113】
その後、4つのベクトルを選択して、それから各スイッチングパターンの係数テーブルからデューティ係数行列に代入している。そのため、4つのベクトルの選択パターンが決定されないとデューティを数値演算できない。
【0114】
そこで、本実施例では、予め表2の選択パターンそれぞれについて、係数を代入した演算式自体をテーブルにしておく。
【0115】
入力セクター「1」、出力セクター「1」の例を挙げて説明する。尚デューティ演算には実施例2の方式を用いる。
【0116】
表6は、それぞれの選択パターンで各係数を代入して、デューティ係数行列の逆行列が存在するかどうかをチェックする式のテーブルである。
【0117】
【表6】
【0118】
デューティ係数行列をAとおくと、その行列式|A|≠0ならば逆行列が存在するので、それぞれの行列式をテーブルとしている。また、マトリックスコンバータ制御中は電源が確立されているので、通常は電源電圧検出値ViaおよびfVibは同時に0となることはない。したがって、Via2+Vib2≠0となり、表6最右列のように逆行列の存在判別式が簡素化できるとともに、判別式自体もある程度パターン化されて出現する。このような逆行列存在判別式のテーブルを全セクターで予め展開しておき、入出力セクターに応じてテーブルから読み出して使用する。本実施例によれば、係数行列の逆行列が存在するかどうかを比較的に簡単に判別することができるので、演算負荷が軽減される。
(実施例6)
使用する4つのベクトルの選択パターンは前記実施例3により10パターンに低減できるが、デューティ演算負荷をさらに軽減するためには、何らかの領域判別法により、選択パターンの出現可能性を減らせると良い。しかしながら、マトリックスコンバータにおいて出力電圧と入力電流を同時に正弦波化する場合、接続される負荷の状況にも依存しているため、4つのベクトルの選択パターンを領域判別で一意に決定することは容易ではない。複数の数式で判別式を表現することも可能であるが、逆に演算負荷が増加することが想定される。そこで、本実施例では、比較的に簡単な方法で選択パターンを10パターンから9パターンに低減する手法を構築した。
【0119】
まず、電源電圧と出力電圧指令から、入力と出力のセクター判別が可能であることは前述したとおりである。ここでは、任意の出力側1セクター内の10パターンの領域について考えていく。今、出力側セクター内が図4の状態であったとして、表2で定義した選択パターン1〜10を実現することができる出力電圧指令領域を図示すると、図10のようになる。尚図10の(a)〜(j)はパターン1〜10に対応している。この選択パターンが選択されるには、少なくとも図10の黒色部に出力電圧指令が存在するはすである。
【0120】
ただし、この領域はあくまでも出力側の条件を満たす最低限の条件であるので、この領域内に存在するからといって、その選択パターンが入力電流側の条件も満たしているとは限らない点に注意が必要である。したがって、この10パターンの領域で相互に重なっている箇所があるが、そのような領域は入力条件を満たす任意の1パターンを選択しなければならない(本実施例では、複雑さを回避するためそこまでは判別しない)。
【0121】
図4及び図10の回転ベクトルRの位相に着目すると、図11に示すように、この回転ベクトル位相Rを基準に遅れ側領域(2)ではパターン7(図10(g))は選択されない。一方、進み側領域(1)ではパターン2(図10(b))が選択されない。出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相は入力電源電圧位相から検出できるので、その位相を基準に遅れか進みかを判別すれば、パターン2もしくは7のデューティ演算処理を省略することができる。したがって、デューティ演算1回分の負荷を軽減することができる。
(実施例7)
実施例6と同様に、領域を判別する手段として、図12に示すように出力側空間ベクトルのセクター内における単振動ベクトルの中間電圧相XMとYMの結線を新たに考える。図10より、この結線の低電圧側の領域(1)では、パターン9,10(図10(i),(j))は選択されない。一方、高電圧側の領域(2)ではパターン1,6(図10(a),(f))が選択されない。なお、この結線を境界とした領域の判別方法は種々あり、例えば入力電源電圧で決定づけられるXM瞬時値を線間電圧方向に見たXMcos30°と、出力電圧指令Vo*の線間電圧方向の瞬時値Vo*cosγ(γは線間電圧方向との位相差)について大きさを比較すれば、領域(1)と(2)を判別できる。
【0122】
このように、出力側空間ベクトルのセクター内における単振動ベクトルの中間電圧相XMとYMの結線で区切られる領域を判別することで、4つのベクトルの選択パターンを10パターンから8パターンに低減することができる。
(実施例8)
前記実施例6,7を組み合わせると、図13のように4つの領域分けが可能である。選択パターンは以下のように分離される。
【0123】
領域(1):パターン7,9,10以外(1,2,3,4,5,6,8)
領域(2):パターン2,9,10以外(1,3,4,5,6,7,8)
領域(3):パターン1,6,7以外(2,3,4,5,8,9,10)
領域(4):パターン1,2,6以外(3,4,5,7,8,9,10)
したがって、実施例6と7の判別処理を同時に行えば、4つのべクトルの選択パターンのデューティ演算処理を10パターンから7パターン低減することが可能となる。
(実施例9)
本発明の手法を用いると、負荷条件や運転状態によっては10種の4つのベクトルの選択パターンの内、2つの選択パターンでデューティ条件を同時に満たす場合が存在する。
【0124】
なお、演算したデューティが正しいかどうかは、4つのデューティd1〜d4が以下の条件を満たした場合を言う。
【0125】
d1+d2+d3+d4=1
0≦dn≦1(n:1〜4)
2つ以上同時に満たすモードがある場合、制御的に見ればどちらを用いてもかまわないが、本実施例では表2におけるパターン4,5,9,10を優先的に選択する処理を施す。
【0126】
選択パターン9を例に挙げてその理由を述べる。選択パターン9はXL,R,YL,YMであるので、単振動ベクトル(大)XL,YLを2つと単振動ベクトル(中)YMを1つ、および回転ベクトルR1つを用いている。これらを出力線間電圧べクトル方向に見た場合、単振動ベクトル(大)XL,YLと回転ベクトルRは同じ大きさとなる。したがって、線間電圧に出力されるパルスの電圧波高値としては、「XL,R,YL」と「YM」の2つのレベルに限定される。パターン4,5,10についても同様に言える。一方、それ以外の選択パターンについては、線間電圧方向に見て3レベルの波高値を用いている。出力線間電圧高調波を低減するためには、パルス電圧変化とパルス周波数を極力低減することが望ましいので、パターン4,5,9,10を積極的に用いた方が良い。
【0127】
したがって、パターン4,5,9,10の2レベルモードとそれ以外の3レベルモードが同時に発生したときは、2レベルモードのデューティ演算結果を最終的に反映させるように処理する。これにより、出力電圧高調波を一層低減することが可能となる。
(実施例10)
本発明は、電源電圧検出値と出力電流検出値情報を用いて4つのベクトルを用いてベクトル変調する方式であるが、出力電流検出値については、電流瞬時値が元々小さいような負荷運転条件の場合や初期運転時において、電流検出値が小さい/誤差が多い等の理由で、どの選択パターンもデューティ演算の解が得られないといった不安定モードが発生する場合がある。
【0128】
そこで、本実施例では、電流制御運転(モータ負荷のベクトル制御時など)を前提として、電流指令値をマトリックスコンバータのデューティ演算式に用いる(ただし、フィードバック電流制御系が十分に安定しており、良好な追従が成されている場合のみ有効)。
【0129】
図14にその制御構成例を示す。図14において、図8と同一部分は同一符号をもって示している。図14における電流フィードバック制御手段20は、3相2相変換手段13bから出力電流検出値を取り込むとともに、上位系統から出力電流指令値を取り込み、デューティ演算手段14および選択手段15に出力電圧指令を出力する。またデューティ演算手段14には前記出力電流指令値が入力される。
【0130】
本実施例において、電流検出値はフィードバック電流制御系に使用し、マトリックスコンバータのデューティ演算には電流指令値を用いており、これによって初期運転開始時や電流検出誤差を無視できないような低出力電流時の運転について、演算を安定化することができる。
【0131】
また例えば、運転開始時の数秒間や出力電流が任意の値以下の時に、出力電流検出値から電流指令値に切り換えるようにしても良い。
(実施例11)
前記実施例10を用いても正当な演算結果が得られない場合を想定して、フェールセーフの考えからオープンループでも運転可能な従来方式に制御を切り替える。例えば、既に一般的に用いられている仮想間接形変調方式や、非特許文献2の5ベクトルによる空間ベクトル変調方式等である。これらの方式は、出力電流情報を用いる必要がないので、何らかの正当なデューティを出力することができる。 したがって、デューティ演算エラーが発生しやすい初期運転開始時や低電流時の運転についてはオープンループ形の従来方式を用いて、安定な運転条件では本発明の4ベクトル方式(4つのベクトルを使用する方式)の電流フィードバック空間ベクトル変調方式を用いる。切り替える条件については電流検出値の大きさから任意のレベルで判定する。本実施例によれば、出力電流が小さい場合でもより安全・安定的に運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明が適用される交流−交流直接変換装置の基本構成図。
【図2】空間ベクトルを表し、(a)は入力側空間ベクトル図、(b)は出力側空間ベクトル図。
【図3】空間ベクトルの入力側セクターと出力側セクターの定義例の説明図。
【図4】出力セクター1における空間ベクトルの状態図。
【図5】本発明の制約条件を説明する説明図。
【図6】本発明の制約条件を説明する説明図。
【図7】本発明の方法におけるスイッチングの遷移図。
【図8】本発明の実施例1を実施する装置の構成図。
【図9】本発明の効果を説明するための説明図。
【図10】本発明の実施例における出力電圧指令領域を説明するための説明図。
【図11】本発明の実施例6を説明するための説明図。
【図12】本発明の実施例7を説明するための説明図。
【図13】本発明の実施例8を説明するための説明図。
【図14】本発明の実施例10を実施する装置を示す構成図。
【符号の説明】
【0133】
1…三相交流電源、2…入力フィルタ部、3…半導体電力変換部、4…負荷、11…電圧検出手段、12…電流検出手段、13a,13b…3相2相変換手段、14…デューティ演算手段、15…選択手段、16…ゲート信号生成部、20…電流フィードバック制御手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接AC/AC変換方式による空間ベクトル変調で双方向スイッチを多相交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、
多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*の存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大電圧のベクトルXL、YLと、中間のベクトルXM、YMと、最小のベクトルXS、YSと、電源の中間電圧相となる零ベクトルZと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルRを基本ベクトルとし、
前記8種類のベクトルのうち、入力電流および/又は出力電圧の高調波を低減するための所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを求め、この選択パターンの4つのベクトルについて、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、入力と出力に関するデューティ係数行列を導き、その逆行列を演算して4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティ解によって入力と出力の波形を同時に正弦波化することを特徴とする交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項2】
前記所定の条件は、
・入力波形と出力波形を同時に正弦波化することができること、
・線間電圧ベクトル方向に見て指令値との電圧差が最も大きいベクトルは選択しないこと、
・1相ごとのスイッチング遷移が可能なこと、
・スイッチング遷移に電源の最大電圧相と最小電圧相間の直接転流がないこと、
・常に電源の中間電圧相の零ベクトルを用いること、
のうち、少なくとも1つ以上の条件を含むことを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項3】
前記交流−交流直接変換装置のすべての空間ベクトルのうち、出力側空間ベクトルを、電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分viαおよび電源相電圧検出値の3相2相変換後のβ成分viβの係数としてテーブル化し、入力側空間ベクトルを、出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分Ioαおよび出力負荷電流検出値の3相2相変換後のβ成分Ioβの係数としてテーブル化し、前記テーブルを用いて前記4つのベクトルのデューティ解を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項4】
前記デューティ解を求める際は、前記4ベクトルの選択パターンすべてについて逆行列が存在するかどうかを予め演算しておき、デューティ解が得られる選択パターンを最終的なデューティとして適用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項5】
前記デューティ解を求める際は、前記デューティ係数行列のデューティ加算値が1となる行を消去して演算することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項6】
前記選択パターンは、出力電圧指令値の大きさに基づいて、低出力電圧領域では零ベクトルを含む選択パターンを採用し、高出力電圧領域では零ベクトルを含まない選択パターンを採用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項7】
前記選択パターンについて、予め、逆行列が存在する前記デューティ係数行列の行列式をテーブル化しておき、前記テーブルを用いて前記ベクトルのデューティ解を求めることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項8】
前記選択パターンは、出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相の遅れ又は進みに応じて決定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項9】
前記選択パターンは、単振動ベクトルの中間電圧のベクトルXMとYMとの結線と出力電圧指令値との大小比較に応じて決定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項10】
前記選択パターンは、2レベルとなる選択パターンを優先して採用することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項11】
電流検出値が小さい又は初期運転開始時に、前記4つのベクトルのデューティ解を求める演算は、電源電圧情報および出力電流指令値に基づいて行うことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項1】
直接AC/AC変換方式による空間ベクトル変調で双方向スイッチを多相交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法であって、
多相交流出力の線間電圧を2相の静止αβ軸上に展開したベクトルの状態を、出力電圧指令値ベクトルVo*の存在するセクターの位相が遅れている単振動ベクトル軸をX軸、進んでいる単振動ベクトル軸をY軸と定義して、それぞれの軸で最大電圧のベクトルXL、YLと、中間のベクトルXM、YMと、最小のベクトルXS、YSと、電源の中間電圧相となる零ベクトルZと、セクター内に1つ存在する回転ベクトルRを基本ベクトルとし、
前記8種類のベクトルのうち、入力電流および/又は出力電圧の高調波を低減するための所定の条件を満たす4つのベクトルの組み合わせからなるスイッチングの選択パターンを求め、この選択パターンの4つのベクトルについて、電源電圧情報および出力電流情報に基づいて、入力と出力に関するデューティ係数行列を導き、その逆行列を演算して4つのベクトルのデューティ解を求め、該求められたデューティ解によって入力と出力の波形を同時に正弦波化することを特徴とする交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項2】
前記所定の条件は、
・入力波形と出力波形を同時に正弦波化することができること、
・線間電圧ベクトル方向に見て指令値との電圧差が最も大きいベクトルは選択しないこと、
・1相ごとのスイッチング遷移が可能なこと、
・スイッチング遷移に電源の最大電圧相と最小電圧相間の直接転流がないこと、
・常に電源の中間電圧相の零ベクトルを用いること、
のうち、少なくとも1つ以上の条件を含むことを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項3】
前記交流−交流直接変換装置のすべての空間ベクトルのうち、出力側空間ベクトルを、電源相電圧検出値の3相2相変換後のα成分viαおよび電源相電圧検出値の3相2相変換後のβ成分viβの係数としてテーブル化し、入力側空間ベクトルを、出力負荷電流検出値の3相2相変換後のα成分Ioαおよび出力負荷電流検出値の3相2相変換後のβ成分Ioβの係数としてテーブル化し、前記テーブルを用いて前記4つのベクトルのデューティ解を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項4】
前記デューティ解を求める際は、前記4ベクトルの選択パターンすべてについて逆行列が存在するかどうかを予め演算しておき、デューティ解が得られる選択パターンを最終的なデューティとして適用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項5】
前記デューティ解を求める際は、前記デューティ係数行列のデューティ加算値が1となる行を消去して演算することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項6】
前記選択パターンは、出力電圧指令値の大きさに基づいて、低出力電圧領域では零ベクトルを含む選択パターンを採用し、高出力電圧領域では零ベクトルを含まない選択パターンを採用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項7】
前記選択パターンについて、予め、逆行列が存在する前記デューティ係数行列の行列式をテーブル化しておき、前記テーブルを用いて前記ベクトルのデューティ解を求めることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項8】
前記選択パターンは、出力側空間ベクトルのセクター内における回転ベクトル位相の遅れ又は進みに応じて決定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項9】
前記選択パターンは、単振動ベクトルの中間電圧のベクトルXMとYMとの結線と出力電圧指令値との大小比較に応じて決定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項10】
前記選択パターンは、2レベルとなる選択パターンを優先して採用することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【請求項11】
電流検出値が小さい又は初期運転開始時に、前記4つのベクトルのデューティ解を求める演算は、電源電圧情報および出力電流指令値に基づいて行うことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置の空間ベクトル変調方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−228499(P2008−228499A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65864(P2007−65864)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
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