説明

交流誘導電動機

【課題】高電圧系制御回路を電動機内の絶縁空間部に配置し、低電圧系制御回路の配線設計の自由度を向上させた交流誘導電動機を提供する。
【解決手段】回転子軸方向でブラケット4と固定子16及び回転子17との間に形成される絶縁空間部に高電圧系のモータ駆動回路19と絶縁回路20を有する第1の制御基板12が低電圧系の制御回路23を有する第2の制御基板21と分離して一体に組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばかご型単相交流誘導電動機のように制御基板にモータ駆動回路とモータ制御指令信号を出力する制御回路を有する交流誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機のなかでも交流誘導電動機は、回転子に例えばかご型回転子が用いられ、固定子コイルに交流電流を流す。この交流電流によって固定子に形成される回転磁界によりかご型回転子に誘導電流が流れる。この誘導電流と固定子に発生する回転磁界との間に働く電磁力により回転トルクが発生する。この交流誘導電動機の固定子コイルに流れるモータ電流の位相制御を行ないモータの回転数を変化させるために、制御回路が設けられる。
【0003】
例えば、図5において、制御基板51には、交流電源(商用電源)52からモータMの固定子コイルに印加される交流電圧を切り替えるモータ駆動回路(位相制御回路)53が設けられている(高電圧区分;例えば印加電圧が50Vを超えるもの)。また、制御基板51には、交流電源(商用電源)52から絶縁変圧器54を経て整流して生成された直流電源電圧回路内にて、任意のモータ制御指令信号を生成して出力する制御回路55を有する(低電圧区分;例えば印加電圧が電圧50V以下のもの)。
【0004】
このように制御基板51には高電圧区分に相当するモータ駆動回路(位相制御回路)53と低電圧区分に相当する制御回路55が設けられるため十分な電気的絶縁を行なう必要がある。フォトカプラを用いた絶縁回路56や配線間の設計幅に余裕をもたせたり十分な絶縁空間を設けたりする必要から制御基板51自体が大型になり易く、通常交流誘導電動機とは別体で設けられている。
【特許文献1】特開2001−50625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように交流誘導電動機の制御回路55は、高電圧系のモータ駆動回路53と低電圧系の制御回路55が同一基板51上に設けられる。また、電源として商用電源52を用いることから高電圧系のモータ駆動回路53と低電圧系の制御回路55の間に絶縁回路56を設ける必要があり、高電圧系のモータ駆動回路53の配線スペースを縮小して小型化は図り難く、制御基板51を小型化すると配線設計に余裕がなくなる。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、制御基板の高電圧系制御回路と低電圧系制御回路を分離して、高電圧系制御回路を電動機内の絶縁空間部に配置し、低電圧系制御回路の配線設計の自由度を向上させた交流誘導電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
ハウジング内に固定子と回転子が収納され、固定子コイルへ通電する電流を切換えることにより発生する回転磁界により回転子側に誘導電流を誘起して回転トルクを発生する誘導電動機であって、交流電源より電源電圧が供給され固定子コイルへモータ駆動電圧が印加される高電圧系のモータ駆動回路と、該交流電源から電圧変換して電源が供給される直流電源電圧回路において任意のモータ制御指令信号を生成して絶縁回路を通じてモータ駆動回路へ出力する低電圧系の制御回路のうち、回転子軸方向でハウジングと固定子及び回転子との間に形成される絶縁空間部に高電圧系のモータ駆動回路と絶縁回路を有する第1の制御基板が低電圧系の制御回路を有する第2の制御基板と分離して一体に組み込まれることを特徴とする。
また、第1の制御基板には、高電圧系のモータ駆動回路からレベルシフトされた制御電圧が供給され、回転子の回転信号を絶縁回路を通じて低電圧系の制御回路へ出力する回転センサが設けられていることを特徴とする。
或いは、第1の制御基板には固定子コイルへ通電制御するモータ位相制御回路とフォトリレーを通じて接続する絶縁回路を含むことを特徴とする。
或いは、第1の制御基板には、固定子コイルへの通電方向を切り替えることにより回転子を正逆回転駆動するリレー回路を含むことを特徴とする。
また、第1の制御基板は固定子と固定子コイルを絶縁するインシュレータにより固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述した交流誘導電動機を用いれば、回転子軸方向でハウジングと固定子及び回転子との間に形成される絶縁空間部に高電圧系のモータ駆動回路と絶縁回路を有する第1の制御基板が低電圧系の制御回路を有する第2の制御基板と分離して一体に組み込まれるので、絶縁耐圧が必要な高電圧系制御回路がモータハウジング内の絶縁空間部に設けられ、低電圧系の制御回路を有する第2の制御基板のみがモータハウジング外に設けられる。よって、第2の制御基板に形成される低電圧系の制御回路に絶縁スペースを考慮することなく設計の自由度が広がる。また、第2の制御基板上に高電圧系のモータ駆動回路がないため、基板の小型化も可能になる。よって、ユーザーが望む仕様で任意のモータ制御指令信号を生成してモータ制御することができる。
また、第1の制御基板には、高電圧系のモータ駆動回路からレベルシフトされた制御電圧が供給され、回転子の回転信号を絶縁回路を通じて低電圧系の制御回路へ出力する回転センサが設けられていると、第2の制御基板に設けられた低電圧系の制御回路にモータ回転数のフィードバック信号が入力されるためモータが制御し易くなる。
また、第1の制御基板には、固定子コイルへの通電方向を切り替えることにより回転子を正逆回転駆動するリレー回路を含む場合には、低電圧系の制御回路から回転方向信号を出力してモータ制御が行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る交流誘導電動機の最良の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施例では、かご型単相誘導電動機を例示して説明する。
交流誘導電動機の概略構成について図1を参照して説明する。図1において、回転子17は回転子軸1に回転子かご2が組み付けられている。回転子かご2が固定子により形成される磁界と直交する向きに導体棒が一定間隔で円周上に並べられ両端が導体リングで連結されたものが用いられる。回転子軸1はプレート3及びブラケット4(モータハウジング)に嵌め込まれたボールベアリング5、6によって回転可能に支持されている。
【0010】
固定子16は、リング状に形成され、径方向内部に向かってティース部7が形成された固定子コア8が設けられている。固定子コア8のティース部7にはインシュレータ9を介して固定子コイル10が巻回されている。固定子コア8はブラケット4の内壁に圧入されて組み付けられる。
【0011】
回転子軸1には回転子17の回転数や回転位置を検出するセンサマグネット11が設けられている。回転子軸方向でプレート3と固定子16及び回転子17との間に形成される絶縁空間部には第1の制御基板12が設けられている。
【0012】
図4において、第1の制御基板12には交流電源(商用電源)18から固定子コイル10に交流電圧が印加される高電圧系(たとえば印加電圧が50Vを越えるもの)のモータ駆動回路(位相制御回路)19が設けられている。モータ駆動回路19はフォトリレー(フォトカプラ・メカニカルリレーを含む電子部品13)を有する絶縁回路20を介して図1に示すコネクタ14と接続される。コネクタ14に接続されたワイヤーハーネス15は、例えば切欠き部若しくは貫通孔よりブラケット4外へ引き出されて、モータ外に設けられる低電圧系(たとえば印加電圧が50V以下のもの)の第2の制御基板21と接続される。第2の制御基板21には、交流電源18から絶縁変圧器22を介して電圧変換(シフトダウン)して電源が供給される直流電源電圧回路(例えばインバータ回路、DC−DCコンバータ回路など)において任意のモータ制御指令信号(例えば、速度制御信号、相切り替え信号など)を生成して出力する制御回路(MPU、オペアンプなど)23が設けられる。制御回路23は、モータ駆動回路19へモータ制御指令信号を出力し、絶縁回路20に設けられるフォトリレーの発光側信号の周波数とデューティ比を用いて速度制御を行なうようになっている。
【0013】
固定子16の対向するティース部7に巻回された固定子コイル10に順次通電して形成される磁界により回転子かご2の導体棒に誘導電流が流れる。このとき導体棒に作用する電磁力によって回転子17が回転するようになっている。
【0014】
次に、交流誘導電動機の組み立ての一例について図2を参照して説明する。
ブラケット4内に固定子16を固定子コア8がブラケット内壁面に圧入して固定される。
また、回転子軸1にボールベアリング5、6、回転子かご2、センサマグネット11が組み付けられた回転子17が、ボールベアリング6がブラケット4へ圧入、焼嵌め、接着などにより組み付けられる。固定子16のインシュレータ9には、第1の制御基板12が同心状に組み付けられる。次いで、第1の制御基板12を覆ってプレート3がブラケット4を閉止するように、ボールベアリング5を圧入、焼嵌め、接着などにより組み付けられる。
【0015】
上記実施例では、高電圧系の第1の制御基板12を固定子16とプレート3との間に設けたが、例えば図3のように固定子16とブラケット4との絶縁空間部に設けるようにしても良い。この場合も、固定子16のインシュレータ9によって第1の制御基板12が固定される。また、コネクタ14に接続するワイヤーハーネス15は、ブラケット4に貫通孔を設けて外部へ引き出される。
【0016】
尚、本実施例ではかご型誘導電動機について例示したがこれに限定されるものではなく、例えば巻線型の誘導電動機などの他の誘導電動機についても適用可能である。
また、高電圧系の第1の制御基板12には、低電圧系の制御基板21等から制御電圧が供給され回転子17の回転信号を検出する回転センサ(例えば絶縁コーティングされたホール素子など)が設けられていると、制御回路23にモータ回転数のフィードバック信号が入力されるためモータの制御がし易くなる。
或いは、高電圧系の第1の制御基板12には、固定子コイル10への通電方向を切り替えることにより回転子17を正逆回転駆動するリレー回路を含む場合には、制御回路23から回転方向信号を出力してモータ制御を行なうようにしてもよい。
【0017】
また、モータ駆動回路19と制御回路23に各々供給される電源電圧が絶縁回路20を設けるほどの必要性がない場合には、絶縁回路20に替えてトランジスタを代表とする基板配線上の沿面距離を確保できるスイッチング素子により代替してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】誘導電動機の断面説明図である。
【図2】誘導電動機の一例を示す分解斜視図である。
【図3】導電動機の他例を示す分解斜視図である。
【図4】誘導電動機の制御系のブロック構成図である。
【図5】従来の誘導電動機の制御系のブロック構成図である。
【符号の説明】
【0019】
1 回転子軸
2 回転子かご
3 プレート
4 ブラケット
5、6 ボールベアリング
7 ティース部
8 固定子コア
9 インシュレータ
10 固定子コイル
11 センサマグネット
12 第1の制御基板
13 電子部品
14 コネクタ
15 ワイヤーハーネス
16 固定子
17 回転子
18 交流電源
19 モータ駆動回路
20 絶縁回路
21 第2の制御基板
22 絶縁変圧器
23 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に固定子と回転子が収納され、固定子コイルへ通電する電流を切換えることにより発生する回転磁界により回転子側に誘導電流を誘起して回転トルクを発生する誘導電動機であって、
交流電源より電源電圧が供給され固定子コイルへモータ駆動電圧が印加される高電圧系のモータ駆動回路と、該交流電源から電圧変換して電源が供給される直流電源電圧回路において任意のモータ制御指令信号を生成して絶縁回路を通じてモータ駆動回路へ出力する低電圧系の制御回路のうち、
回転子軸方向でハウジングと固定子及び回転子との間に形成される絶縁空間部に高電圧系のモータ駆動回路と絶縁回路を有する第1の制御基板が低電圧系の制御回路を有する第2の制御基板と分離して一体に組み込まれる誘導電動機。
【請求項2】
第1の制御基板には、高電圧系のモータ駆動回路からレベルシフトされた制御電圧が供給され、回転子の回転信号を絶縁回路を通じて低電圧系の制御回路へ出力する回転センサが設けられている請求項1記載の誘導電動機。
【請求項3】
第1の制御基板には、固定子コイルへ通電制御するモータ位相制御回路とフォトリレーを通じて接続する絶縁回路を含む請求項1記載の誘導電動機。
【請求項4】
第1の制御基板には、固定子コイルへの通電方向を切り替えることにより回転子を正逆回転駆動するリレー回路を含む請求項1記載の誘導電動機。
【請求項5】
第1の制御基板は固定子と固定子巻線を絶縁するインシュレータにより固定されている請求項1記載の誘導電動機。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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