説明

交流ATき電回路のき電保護装置及び方法

【課題】長大なき電区間においても故障を確実に検出することができる交流ATき電回路のき電保護技術を提供する。
【解決手段】保護区間両端のき電電圧をそれぞれの電気所端で取り込み、取り込んだき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有し、両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求め、差電圧時系列情報をフィルタリング演算して差電圧基本波成分の時系列情報を求め、差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求め、差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する交流ATき電回路のき電保護装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道における交流ATき電回路のAT区間に発生する短絡あるいは地絡故障を検出するためのき電保護装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電気鉄道におけるATき電回路の一般的な系統構成例を図19に示す。鉄道沿線には、き電電源を供給する変電所SSを数10km間隔で備え、双方の変電所電源をき電区分所SPで区分している。さらに、同一電源区間を限定区分するための補助き電区分所SSPを設けている。変電所、及びそれぞれのき電区分所には単巻変圧器ATを備えている。き電区分所SPの切替セクションで双方向の異なる電源を列車走行位置に応じて切り替える運転方式を「突き合せき電」と言い、き電区分所SPの切替セクションを開閉器でバイパスして一方の電源を反対方面へ延ばした運転方法を「延長き電」と言う。電車線には下り線と上り線があり、上下線は変電所から上下線にき電し、き電区分所に備える上下線タイ開閉器により分離又は結合して運用する。
【0003】
ATき電回路は、図20に示すようにトロリ線T・き電線F・レールR及び保護線PWから構成され、約10km間隔で単巻変圧器ATが配置される。変電所SSのき電電圧Vは単巻変圧器ATの巻き数比Nでトロリ線TとレールR間電圧に降圧(V/N)して電気車に供給している。トロリ線TとレールRに流れる電気車電流は単巻変圧器ATで巻き数比倍の値1/Nに変換されてトロリ線Tとき電線Fを帰還し、変電所SSの電源Vに流れる。
【0004】
変電所SSで検出する一般的な電車線の線路短絡インピーダンスを図21に示す。T−F短絡インピーダンスは線路長に対し直線であるが、T−R短絡、T−PW短絡、F−PW短絡、及び図示しないT、Fの地絡故障は、レールRと保護線PWの渡り地点CPWを節として上部に膨らむ。き電回路の保護方式としては、このようなATき電回路のインピーダンス特性をカバーするように、故障検出領域が平行四辺形の形状を持った距離継電器(#44F)が一般に使用されてきている。図22にその特性例を示す。
【0005】
さらにこの距離継電器とは別に、き電電流の急峻な変化分から故障を検出する交流ΔI形継電器(#50F)が使用され、上記距離継電器#44Fと併用してき電回路の故障検出を行っている。図23にその特性例を示す。これら#44F、#50Fは電源元の変電所SSだけでなく、き電区分所SP、補助き電区分所SSPの電車線路上に配置する各電気所にも設備して、き電形態に応じ分布変化する故障電流に対し、少なくとも故障点近傍の電気所で故障を検出できるように構成されている。これら保護要素(#44F、#50F)の配置例を図24に示す。図24は、A変電所AssとB変電所Bssとの間の配置例である。
【0006】
このような従来のATき電回路には、次のような問題点があった。鉄道き電回路電車線の上下線それぞれは、大別すると電気車に電力を送電するトロリ線T、き電線F、レールR、保護線PWなどの電車線から成るき電区間及び、上下線を開閉器で結合あるいは分離するき電ポストSS、SSP、SPから構成されている。しかしながら、故障は多様な箇所でT、F地絡故障、あるいは、T−R、T−PW、F−R、F−PW短絡故障、さらには、T−F短絡故障が発生する。
【0007】
一方で電気車両の負荷電流はその走行状態に応じて変動し、き電区間に進入する電気車電流には過大な車両用変圧器の励磁突入電流が発生して急峻な電流増加を伴う。さらにき電回路には再閉路機能が備えられ、再閉路時に、き電区間内の複数の電気車と複数の単巻変圧器ATが一斉に再加圧されて過大な変圧器の励磁突入電流が発生する。き電回路に設備される保護リレーには、このような負荷電流変動と故障電流とを確実に判別する性能が要求される。ところが変電所建設の都合上変電所間隔が長くなると、在線する電気車の編成数が増えるので負荷電流は増加し、線路長の延伸に応じた線路定数の増加で故障電流は減少する。そのため、図25の電流例に示す重なり部分のように、負荷電流と故障電流の領域が近接し、あるいは重なりが生じ、遠端故障の検出が困難となる場合が生じる。図25の電流例で、最大負荷電流がTR(トロリ線−レール)故障電流を上回る領域の故障検出が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−221898号公報
【特許文献2】特開2004−74924号公報
【特許文献3】特開2003−2088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたもので、長大なき電区間においても故障を確実に検出することができる交流ATき電回路のき電保護装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出手段とを備えた点にある。
【0011】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記差電流基本波成分量と予め定めた定数とを比較判定し、当該双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えた点にある。
【0012】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、前記両端の同一時系列電流情報を演算して各端の電流時系列情報を求める電流時系列情報演算手段と、前記各端の電流時系列情報をフィルタリング演算して各端の基本波電流時系列情報を求める基本波電流時系列情報算出手段と、前記各端の基本波電流時系列情報を振幅値演算して各端の基本波電流成分量を算出する基本波電流成分量算出手段と、前記差電流基本波成分量と各端の基本波電流成分量とから区間通過電流量を求める区間通過電流量演算手段と、前記区間通過電流量に予め定める線路定数を乗じ、前記差電圧基本波成分量から減算して区間流入電流量等価差電圧を求める等価差電圧演算手段と、前記区間流入電流量等価差電圧と予め定める定数とを比較判定し、区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えた点にある。
【0013】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出手段と、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して差電圧の第二高調波時系列情報を求める第二高調波時系列情報算出手段と、差電圧の第二高調波時系列情報を振幅値演算して差電圧第二高調波成分量を算出する差電圧第二高調波成分量算出手段と、前記差電圧第二高調波成分量と前記差電圧基本波成分量との比率演算から差電圧の第二高調波含有量を算出する第二高調波含有量算出手段と、前記第二高調波含有量を予め定める判定定数と比較判定し、前記第二高調波含有量が予め定めた判定定数を超過する場合に前記電圧ベース区間故障検出手段による区間故障判定を抑止する区間故障判定抑止手段とを備えた点にある。
【0014】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電流ベース区間故障検出手段と、前記保護区間の両端の同一時系列電圧情報から各端それぞれの電圧時系列情報を求める電圧時系列情報算出手段と、前記各端の電圧時系列情報をフィルタリング演算して各端の電圧の基本波時系列情報を求める電圧基本波時系列情報算出手段と、前記各端の電圧の基本波時系列情報を振幅値演算して各端の電圧基本波成分量を求める電圧基本波成分量算出手段と、前記各端の電圧基本波成分量の過去値と現在値との電圧変化量を各端毎に求める電圧変化量算出手段と、前記各端毎の電圧変化量を加算してスカラ和量を求める電圧変化量算出手段と、前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記電圧変化量のスカラ和量と予め定める定数とを比較判定し、双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えた点にある。
【0015】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出ステップとを有する点にある。
【0016】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記差電流基本波成分量と予め定めた定数とを比較判定し、当該双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有する点にある。
【0017】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、前記両端の同一時系列電流情報を演算して各端の電流時系列情報を求める電流時系列情報演算ステップと、前記各端の電流時系列情報をフィルタリング演算して各端の基本波電流時系列情報を求める基本波電流時系列情報算出ステップと、前記各端の基本波電流時系列情報を振幅値演算して各端の基本波電流成分量を算出する基本波電流成分量算出ステップと、前記差電流基本波成分量と各端の基本波電流成分量とから区間通過電流量を求める区間通過電流量演算ステップと、前記区間通過電流量に予め定める線路定数を乗じ、前記差電圧基本波成分量から減算して区間流入電流量等価差電圧を求める等価差電圧演算ステップと、前記区間流入電流量等価差電圧と予め定める定数とを比較判定し、区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有する点にある。
【0018】
また本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出ステップと、前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して差電圧の第二高調波時系列情報を求める第二高調波時系列情報算出ステップと、差電圧の第二高調波時系列情報を振幅値演算して差電圧第二高調波成分量を算出する差電圧第二高調波成分量算出ステップと、前記差電圧第二高調波成分量と前記差電圧基本波成分量との比率演算から差電圧の第二高調波含有量を算出する第二高調波含有量算出ステップと、前記第二高調波含有量を予め定める判定定数と比較判定し、前記第二高調波含有量が予め定めた判定定数を超過する場合に前記電圧ベース区間故障検出ステップによる区間故障判定を抑止する区間故障判定抑止ステップとを有する点にある。
【0019】
さらに本発明の別の特徴は、交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電流ベース区間故障検出ステップと、前記保護区間の両端の同一時系列電圧情報から各端それぞれの電圧時系列情報を求める電圧時系列情報算出ステップと、前記各端の電圧時系列情報をフィルタリング演算して各端の電圧の基本波時系列情報を求める電圧基本波時系列情報算出ステップと、前記各端の電圧の基本波時系列情報を振幅値演算して各端の電圧基本波成分量を求める電圧基本波成分量算出ステップと、前記各端の電圧基本波成分量の過去値と現在値との電圧変化量を各端毎に求める電圧変化量算出ステップと、前記各端毎の電圧変化量を加算してスカラ和量を求める電圧変化量算出ステップと、前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記電圧変化量のスカラ和量と予め定める定数とを比較判定し、双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有する点にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法によれば、保護区間において負荷電流と故障電流とが接近する領域に対する故障検出の選択性が向上し、保護区間の両端に備える従来の保護要素数を半減できる。
【0021】
また、本発明の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法によれば、保護区間外への通過電流で生じる差電圧による不要動作を抑止することができ、同時に、計器用変圧器二次電圧の導入不良で生じる差電圧による不要動作を抑止することもできる。
【0022】
また、本発明の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法によれば、保護区間の差電圧検出感度を著しく改善できる。
【0023】
さらに、本発明の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法によれば、保護区間の差電圧検出感度を著しく改善でき、同時に、計器用変圧器二次電圧の導入不良で生じる差電圧による不要動作を抑止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な交流ATき電回路の基本構成を示す回路図。
【図2A】図2A(a)、(b)は、本発明のき電保護装置及び方法による差電圧保護方式でのき電保護動作を説明する図であり、トロリ線とレールの短絡故障検出の原理を示す説明図。
【図2B】図2B(a)、(b)は、本発明のき電保護装置及び方法による差電圧保護方式でのき電保護動作を説明する図であり、トロリ線とき電線の短絡故障検出の原理を示す説明図。
【図3】本発明の第1の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図4】上記第1の実施の形態において、区間外の負荷電流と保護区間の差電圧を示す説明図。
【図5】本発明の第2の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図6】上記実施の形態において、電気車の位置移動と電流増加の時間変化特性を示すグラフ。
【図7】本発明の第3の実施の形態のき電保護装置による差電圧保護方式でのき電保護動作の説明図。
【図8】上記第3の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図9】本発明の第4の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図10】本発明の第5の実施の形態のき電保護装置に関連し、保護区間に流れる電気車突入電流の説明図。
【図11】上記第5の実施の形態に関連し、電気車再加圧における区間両端差電圧の測定波形図。
【図12】上記第5の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図13A】本発明の第6の実施の形態に関連し、故障前の電車線の電流分布変化と保護区間両端の差電圧を示す回路図。
【図13B】上記第6の実施の形態に関連し、故障時の電車線の電流分布変化と保護区間両端の差電圧を示す回路図。
【図13C】上記第6の実施の形態に関連し、保護区間内外の電流重畳の等価回路図。
【図14】上記第6の実施の形態のき電保護装置のブロック図。
【図15】上記第6の実施の形態に関連し、故障前の保護区間内の電流の位置と故障電流の故障点に応じた電圧変化を示すグラフ。
【図16】上記第6の実施の形態に関連し、保護区間に流れる故障電気量の説明図。
【図17A】従来例のき電保護方式の説明図。
【図17B】本発明の第1の実施の形態による差電圧保護方式の説明図。
【図18】本発明の第2の実施の形態による故障前後の端差電圧と故障時の差電圧の変化量を示すグラフ。
【図19】従来の交流ATき電回路の構成を示す回路図。
【図20】交流ATき電の原理を示す説明図。
【図21】交流ATき電回路の距離−インピーダンス特性のグラフ。
【図22】従来の距離継電器(#44F)の動作特性のグラフ。
【図23】従来の交流ΔI形継電器(#50F)の動作特性のグラフ。
【図24】従来の交流ATき電回路におけるき電系統と保護リレー要素(#44F、#50F)の配置を示す回路図。
【図25】従来の交流ATき電回路のき電保護装置の課題を説明するためのグラフであって、負荷電流と短絡故障電流との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0026】
[第1の実施の形態]
図1は、交流電気鉄道におけるATき電回路の一般的な系統構成例を示しており、従来例で前述した図19の構成と同様である。図2A(a)、図2B(a)は、本発明による差電圧保護の原理を説明するために、図1で前述した系統構成の複数AT区間における任意区間の下り線を代表例として示したもので、保護区間の両端はそれぞれ、電気所A、Bの単巻変圧器ATに接続され、保護区間の電車線は三種に代表されるトロリ線、レール、き電線で示している。図2A(a)は保護区間の不定位置dにおけるトロリ線とレールの短絡故障を示し、図2A(b)はその故障等価回路である。図2B(a)はトロリ線とき電線の短絡故障を示し、図2B(b)もまたその故障等価回路である。保護区間全長の電車線路インピーダンスZLを基準値1PUとして区間の不定位置dで発生する故障には故障点インピーダンスZFが介在し、故障電流Iが流れる。故障電流Iは、故障点dで保護区間の電車線路インピーダンスZLが二分されたインピーダンスZA、ZB分岐点で、それぞれ端の電気所A、Bへ電流IA、IBが分岐して流れる。
【0027】
区間の両端電気所A、Bには保護装置1A、1Bを備え、それぞれ端のき電電圧VA、VBを図示しない計器用変圧器を介して導入する。区間両端の保護装置1A、1Bは、任意周期毎にサンプリング同期して測定したき電電圧VA、VBを相互に高速通信し、任意サンプリング回数分の同一時系列情報として記憶し、更新する。区間両端の保護装置1A、1Bは、記憶更新される区間両端き電電圧のサンプリング時系列情報をフィルタリング演算、及び、振幅値演算して両端電圧VA、VBの差dVの基本波成分量を求め、区間故障を検出する。また、図2A(a)、図2B(a)は原理説明を簡略するため、レールとき電線の電車線インピーダンスをトロリ線インピーダンスZA、ZB、ZLに集約している。
【0028】
図2A(a)のトロリ線とレール短絡故障、図2A(b)の故障等価回路において、電源電圧をV、保護区間両端の単巻変圧器ATの変圧比をN、電源から保護区間までの経路インピーダンスをZP、保護区間全長の線路インピーダンスをZL、AT漏れインピーダンスをZAT、故障点抵抗をZf、AT漏れインピーダンスZATの線路インピーダンスZLに対する比率をkZAT、電気所Aから故障点までの線路インピーダンスZAの保護区間線路長ZLに対する線路長比率をd、故障点から電気所Bまでの線路インピーダンスZBの線路長比率を1−d、電気所A端の電車線から故障点に流れる電流をIA、電気所B端の電車線から故障点に流れる電流をIB、区間両端の電圧をVA、VB、区間両端の差電圧をdVとすれば、これらには、数1〜数4の関係式が成り立つ。
【数1】

【0029】
但し、αは区間両端電気所A、Bにおける上下線の結合関数、上下線開放では(α=1)、結合では(α=2)である。
【数2】

【数3】

【数4】

【0030】
ここで、単巻変圧器ATの巻数比Nを2、長距離区間の線路インピーダンスZLに対する単巻変圧器ATの漏れインピーダンスZATは小さいので無視(ZAT=0)すれば、故障点比率dに応じた区間両端差電圧dVは数5式の原理式、区間両端の上下線が開放の場合は数6式(α=1)、区間両端の上下線が結合の場合は数6a式(α=2)の値となる。
【数5】

【数6】

【数6a】

【0031】
図2B(a)、図2B(b)のトロリ線とき電線の短絡故障においても同様に、数7〜数10の関係式が成り立つ。
【0032】
但し、βは区間両端電気所A、Bにおける上下線の結合関数であり、上下線開放では(β=∞)、結合では(β=1)
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【0033】
ここで、故障点比率dに応じて生じる区間両端の差電圧は、区間両端の上下線が開放の場合は数11式(β=∞)、区間両端の上下線が結合の場合は数12式(β=1)の値となる。
【数11】

【数12】

【0034】
前述した、図2A(a)のトロリ線とレール短絡故障の数4式と、図2B(a)のトロリ線とき電線短絡故障の数10式とから分かるように、双方は何れも、保護区間全長の電車線インピーダンスZLを基準として故障点dと区間内に流れ込む故障電流Iを関数とする原理式である。
【0035】
また、図2A(a)のトロリ線とレール短絡故障電流は、電車線電圧V/N基準の電流であり(数4式)、図2B(a)のトロリ線とき電線短絡故障電流は、き電電圧V基準である(数10式)。しかるに、トロリ線とレール短絡、トロリ線とき電線短絡、この両者の同一故障点dにおける区間両端差電圧dVは、トロリ線とき電線短絡故障の方が0.2PU程度上回り、故障点が電源より遠のく程に増加する。
【0036】
また、両端電気所A、Bの上下線が結合する場合と開放する場合の差電圧量dVの変化率は双方とも50%である。
【0037】
図3に本発明の第1の実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式の演算方法を示す。き電保護装置1は、図2A(a)、図2B(a)に記載する保護区間両端の保護装置1A、1Bである。両端保護装置1A、1Bの構成は同様である。図2A(a)、図2B(a)を用いて説明したように、両端保護装置1A、1Bは、それぞれ端がサンプリング同期して測定する両端の電圧情報を相互に通信し、任意のサンプリング回数分の同一時系列情報VA、VBとして記憶し、都度更新する。これらサンプリング同期測定、相互通信、サンプリング時系列情報の記憶更新に関する手段は既に公開され、実用化されたものを採用する。
【0038】
差電圧時系列情報算出ステップにて、差電圧時系列情報算出部11は、両端電圧情報の同一時点サンプリング値の差を任意サンプリング回数分の両端差電圧時系列情報dVとして記憶し、都度更新する。
【0039】
差電圧基本波成分演算ステップにて、差電圧基本波成分演算部12は、両端差電圧時系列情報をフィルタリング演算して両端差電圧VA、VBの基本波成分を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0040】
差電圧量演算ステップにて、差電圧量演算部13は、両端差電圧の基本波成分時系列情報を振幅値演算して区間両端の差電圧量|dV|を求める。
【0041】
電圧ベース区間故障検出ステップにて、電圧ベース区間故障検出部14は、振幅値演算して求めた区間両端の差電圧量|dV|と予め定める故障判定値kVとを比較判定し、区間故障を検出する。|dV|≧kVならば区間故障と判定し、そうでなければ区間故障なしと判定する。
【0042】
このように、本実施の形態のき電保護装置及び方法では、保護区間の両端保護装置1A、1Bは、電車線に接続された計器用変圧器VTを介してそれぞれの端のき電電圧情報を任意周期毎にサンプリング同期して測定して相互に通信し、両端の測定情報を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、サンプリング周期毎に更新する。そして、記憶更新される両端き電電圧の同時系列情報をサンプリング周期毎に合成して区間両端差電圧の時系列情報を生成し、差電圧時系列情報から算出する両端の差電圧基本波量を故障判定値と比較判定して区間故障を検出する。
【0043】
これにより、本実施の形態のき電保護装置及び方法は、次のような効果を奏する。
【0044】
1)負荷電流と故障電流とが接近する領域に対する故障検出の選択性が向上する。
【0045】
図16(a)は、複数編成数(1、2、…、n)の電気車が保護区間の電車線を等間隔(d=1/n)で、一定・同速度・同電流ILで走行するとした概念図である。同図(b)は、同一保護区間における不定位置の故障点dfに流れる故障電流Ifを示している。
【0046】
図16(a)、(b)に示した定常負荷走行と故障の概念図において、従来の保護方式は、定常負荷走行における不要動作を回避するために、保護区間内に流れる最大負荷電流、つまり、電気車編成数n×単位編成当りの負荷電流ILを超える故障電流If(>n・IL)を検出し、あるいは、区間全長の電車線インピーダンスZL以下の故障インピーダンスZfを検出する。つまり、最大負荷領域に接近する故障の検出は困難である。
【0047】
一方、本実施の形態による差電圧保護方式では、図16(a)、(b)において、定常負荷走行で区間の両端に生じる最大差電圧dVLは数13式の値である(d=1PU)。保護区間内の故障で区間の両端に生じる差電圧はdVfは数14式の値になる。ここで、電気車単位編成当りの負荷電流ILに対する故障電流Ifの倍率kf=If/ILと置けば、故障時の差電圧dVfが定常走行時の差電圧dVLを上回る故障点位置dfは、数15式で示すように電気車編成数nと負荷電流に対する故障電流比率Kfとの関数式で示すことができる。仮に、電気車単位編成当りの負荷電流ILに対する検出すべき故障電流Ifの比率kfを”4”、区間を走行する気車編成数nを”4”とすれば、従来方式では困難な保護領域の故障検出が可能になる。図示の場合、区間全長の5/8より遠方の領域故障を検出できる。
【数13】

【数14】

【数15】

【0048】
2) 区間両端に備える従来の保護要素数を半減できる。
【0049】
図17Aに示す従来方法と図17Bに示す本実施の形態による差電圧方式の比較から明白なように、保護すべき区間の両端に備える従来の保護要素を区間差電圧保護に統括して簡素化(半減)できる。
【0050】
[第2の実施の形態]
上記第1の実施の形態では、基本原理の数4式、数10式で明らかなように、区間両端に生じる差電圧dVは、区間内に流れ込む電流の位置dと量Iに依存する一方で、図4に示すように、保護区間ZL=1PUを通過して保護区間外に流れる電気車負荷電流σIX=IX1+IX2+IX3の影響を受ける。その影響は、電源に近い区間ほど、区間通過の負荷電流量σIxが増えるので増大する。しかるに、区間両端の差電圧dVは、図2A(a)で説明した区間内に流れ込む電流Iとその位置dで生じる差電圧dVの基本原理式(数4式)に保護区間外へ通過する電気車電流σIxによる差電圧が重畳する。ここで、単巻変圧器ATの巻数比Nを2、漏れインピーダンスを無視(ZAT=0)すれば、区間内を走行する電気車の電流Iと位置の比率d、区間外通過電流σIXに応じて生じる区間両端の差電圧dVは、数16式の値となる。
【数16】

【0051】
但し、α:上下線の結合関数で、開放(α=1)、結合(α=2)、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)である。
【0052】
図5は本発明の第2の実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式の演算機能の構成を示す。図3と同一の符号の要素、すなわち、差電圧時系列情報算出部11、差電圧基本波成分演算部12、電圧ベース区間故障検出部14は、第1の実施の形態と同一であり、各ステップにて同様の処理をするので、その説明は省略する。
【0053】
図3における差電圧量演算部13による差電圧量演算ステップにて両端差電圧の基本波成分時系列情報を振幅値演算して区間両端の差電圧量|dV|を求めるのに対し、本実施の形態では、差電圧量演算ステップにて、差電圧量演算部13aが差電圧基本波成分演算部12による差電圧基本波成分演算ステップにて出力する両端差電圧の基本波成分時系列情報を振幅値演算して任意サイクル分過去t−nと、現在t−0の区間両端差電圧|dV|t−n、|dV|t−0の変化量ΔdVを数17式のように求める。
【数17】

【0054】
ここで、区間を走行する電気車最大電流の増加時定数dI/dt=dtiを1sec、電源周波数fを60Hz、変化量検出のブラインド時間wを5サイクルとすれば、図6のように、電気車最大負荷電流は5%程度の変化量に抑制される。また、保護区間を走行する電気車の一定時走行速度をSkm/h、加速時定数dtvとすれば、任意時間tにおける区間両端電圧dVtは、数18式の値となる。
【数18】

【0055】
ここで、定常の負荷走行状態で生じる区間両端の差電圧変化量ΔdVが最大となる一例として、区間内任意位置の電気車編成数を1、区間外任意位置の電気車編成数をn、全電気車が一斉に最大電流Iに加速中として保護区間長距離をLkm、その線路インピーダンスをZLとすれば、数19式の値となる。一般的に保護区間長距離は10km以上であるから、電気車の走行速度による位置移動分変化量は微小で無視できるので区間両端差電圧dVが10%以下に低減されることは確実となる。
【数19】

【0056】
但し、α:上下線の結合関数で、開放(α=1)、結合(α=2)、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)である。
【0057】
このように、本実施の形態のき電保護装置及び方法は、両端の保護装置1A、1Bが、第1の実施の形態で求める差電圧の過去時点に対する現在時点の増加量を判定して区間故障を検出する。
【0058】
これにより、本実施の形態のき電保護装置及び方法によれば次のような効果を奏する。
【0059】
1)保護区間の差電圧検出感度を著しく改善できる。
【0060】
本実施の形態のき電保護装置及び方法では、当該区間の差電圧量を過去と現在との変化量に縮小して検出する。そのため、当該保護区間を通過して遠方の他区間に流れる電気車の電流、当該保護区間を走行する電気車の電流と走行位置、これら電気車走行変化の時定数に対する変化検出時間ウィンドウ幅の比率により差電圧変化量は数19式の値に縮小できる。つまり、定常負荷走行で生じる区間両端の差電圧を10%以下の変化量に抑制するので、定常負荷走行で区間両端に生じる最大差電圧の10%以上を差電圧保護の検出量として整定できる。また、保護区間内の故障時には、故障電流量Ifと電流位置dfが急峻に変化するので変化検出時間のウィンドウ幅比率による変化量の抑制を無視できる。したがって、故障時の差電圧変化量としては、故障前後の差電圧量の差、即ち、数20式の変化量ΔdVfが検出される。
【数20】

【0061】
但し、α:上下線の結合関数で、開放(α=1)、結合(α=2)、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)、df:故障電流位置、If:故障電流量、d:故障前の電気車の区間走行位置、σIx:故障前の区間通過電流量である。
【0062】
定常の負荷電流と故障電流とが接近すると、従来方式では故障検出が困難になっていたが、本実施の形態が検出する差電圧変化量を、数20式を用い区間外走行の電気車電流σIX=3PUと区間内電気車電流I=1PUとの和、即ち、故障前電流と区間内の故障電流If=4PUとが同等である場合の計算結果を図18に示す。但し、計算では、kα=0.4、α=1、ZL=1PUとしている。
【0063】
図18において、本実施の形態による差電圧変化量グラフのdVmaxは定常時に想定される区間両端差電圧量dVの最大値である。本実施の形態では、この最大値dVmaxの±10%の変化量を検出するとして、故障時の差電圧量dVfが定常時に区間内を走行する電気車の任意位置dに応じた差電圧量dVの±dVmaxを超えた領域が故障検出領域である。即ち、定常時の区間内を走行する電気車の位置dが0.7PU以上の領域では全域(df=0〜1)に生じる故障を、定常時の区間内を走行する電気車の位置dが0.7PU以下の領域では故障位置df=0〜0.8に生じる故障の検出が可能である。
【0064】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法について説明する。図7は、本実施の形態による区間差電圧方式の構成を示すもので、区間の両端電気所A、Bには、保護装置1A、1Bを備え、計器用変圧器VTA、VTBと変流器CTtA、CTtB、CTfA、CTfBを介して区間両端それぞれのき電電圧VA、VBとトロリ線電流ItA、ItB、き電線電流IfA、IfBを導入する。区間両端の保護装置1A、1Bは、任意周期毎にサンプリング同期して測定するき電電圧VA、VBとトロリ線電流ItA、ItB、き電線電流IfA、IfBを相互に高速通信し、任意サンプリング回数分の同一時系列情報として記憶し、更新する。区間両端の保護装置1A、1Bは、記憶更新する区間両端のサンプリング時系列情報をフィルタリング演算、及び、振幅値演算して区間の両端電圧VA、VBの差dVと図7の保護区間に流入する電流ItA、ItB、IfA、IfBの差dIの基本波成分量を求める。尚、求める区間両端差電圧dVは、第1の実施の形態と同様に求め、区間流入電流dIは数21式のように求める。
【数21】

【0065】
図8を用いて、本実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式の演算方法を示す。図3と同一の符号の要素、すなわち、差電圧時系列情報算出部11、差電圧基本波成分演算部12、差電圧量演算部13、電圧ベース区間故障検出部14それぞれによる差電圧時系列情報算出ステップ、差電圧基本波成分演算ステップ、差電圧量演算ステップ、電圧ベース区間故障検出ステップは第1の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0066】
差電流自警情報算出ステップにて、差電流時系列情報算出部15は、両端電流情報の同一時点サンプリング値の差(数21式)を任意サンプリング回数分の両端差電流時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0067】
基本波成分量算出ステップにて、基本波成分量算出部16は、両端差電流の時系列情報をフィルタリング演算して両端差電流の基本波成分量を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0068】
差電流量演算ステップにて、差電流量演算部17は、両端差電流の基本波成分時系列情報を振幅値演算して区間両端の差電流量|dI|を求める。
【0069】
電流ベース区間故障検出ステップにて、電流ベース区間故障検出部18は、振幅値演算して求めた区間両端の差電流量|dI|と予め定める故障判定値kIとを比較し区間故障を判定(|dI|≧kI)する。
【0070】
最終区間故障判定ステップにて、最終区間故障判定部19は、電圧ベース区間故障検出ステップにおける差電圧値|dV|の電圧ベース区間故障検出部14の判定結果と、電流ベース区間故障検出ステップにおける差電流値|dI|の電流ベース区間故障検出部18の判定結果とを論理積処理し、双方ともに故障判定のとき保護装置の動作を出力する。
【0071】
このように、第3の実施の形態のき電保護装置及び方法では、第1の実施の形態に対して、さらに、電車線に接続された計器用変流器CTtA、CTtB、CTfA、CTfBを介してそれぞれ端を通過する電流情報を任意サンプリング周期毎に測定し、任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶更新し、記憶更新される両端の同一時系列電流情報から区間両端の差電流量を算出し、第1の実施の形態と同様の差電圧量に基づく区間故障判定と同次に、差電流量に基づく区間故障判定とを平行して行い、双方の判定結果に基づいて最終的な区間故障判定を行う。
【0072】
これにより、本実施の形態によれば、次のような効果を奏する。
【0073】
1)保護区間外への通過電流で生じる差電圧による不要動作を抑止する。
【0074】
前述した数21で求める差電流|dI|は、区間両端電流のベクトル合成量である。本発明は、区間両端の差電圧量|dV|と区間両端電流のベクトル合成量|dI|の双方を判定して故障検出する。つまり、健全区間を通過する故障電流の重畳で両端に差電圧が生じても、故障電流は健全区間を通過して区間両端電流のベクトル合成量(流入量)として検出されないので、不要動作は抑止できる。
【0075】
2)計器用変圧器二次電圧の導入不良で生じる差電圧による不要動作を抑止する。
【0076】
保護区間両端電圧は計器用変圧器を介して導入される。一端側電圧の導入が不良(断線)になると、区間両端に顕著な差電圧が生じて動作するが、区間両端電流のベクトル合成量(流入量)の検出量を、区間内に定常時流入する電気車電流量よりも大きくすれば、故障検出を抑止できる。
【0077】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法について説明する。本実施の形態のき電保護装置1の構成は、上記第3の実施の形態と共通する。そして、本実施の形態によれば、区間両端の保護装置1A、1Bは、任意周期毎にサンプリング同期して測定したき電電圧VA、VBとトロリ線電流ItA、ItB、き電線電流IfA、IfBを相互に高速通信し、任意サンプリング回数分の同一時系列情報として記憶し、更新する。区間両端の保護装置1A、1Bは、記憶更新する区間両端のサンプリング時系列情報をフィルタリング演算、及び、振幅値演算して両端電圧VA、VBと、保護区間外に通過する電流Ithを数22式で求め、数23式による区間差電圧抑制量dVXを判定して区間故障を検出する。尚、各数式では、単巻変圧器ATの巻数比Nを2、漏れインピーダンスを無視(ZAT=0)している。
【数22】

【数23】

【0078】
但し、I:保護区間に流入する電流(故障電流)、d:保護区間流入電流位置の区間長距離比(保護区間の線路長に対する故障点の線路長比率)、ZL:保護区間の電車線路インピーダンス、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.2)である。
【0079】
図9を用いて、本実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式の演算機能の構成及びき電保護方法を説明する。図3に示した第1の実施の形態における演算要素、また図8に示した第3の実施の形態における演算要素と共通するものには同一の符号を用い、その説明は省略する。すなわち、差電圧時系列情報算出部11、差電圧基本波成分演算部12、差電圧量演算部13は第1の実施の形態と同一であり、それらによる差電圧時系列情報算出ステップ、差電圧基本波成分演算ステップ、差電圧量演算ステップの処理も第1の実施の形態と同一である。また、差電流時系列情報算出部15、基本波成分量算出部16、差電流量演算部17は第3の実施の形態と同一であり、それらによる差電流時系列情報算出ステップ、基本波成分量算出ステップ、差電流量演算ステップの処理も第3の実施の形態と同一である。
【0080】
本実施の形態では、各端電流算出ステップにて、各端電流算出部15aは、区間両端の電流サンプリング情報ItA、IfA、ItB、IfBを各端電流時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0081】
各端電流基本波成分量算出ステップにて、各端電流基本波成分量算出部16aは、各端電流時系列情報をフィルタリング演算して各端差電流の基本波成分量を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0082】
各端電流振幅値演算ステップにて、各端電流振幅値演算部17aは、各端電流の基本波成分時系列情報を振幅値演算して各端の電流量|ItA|、|IfA|、|ItB|、|IfB|を求める。
【0083】
区間通過電流演算ステップにて、区間通過電流演算部20は、差電流量演算部17による差電流量演算ステップにて数21式のように求めた区間両端の差電流量|dI|と各端電流振幅値演算部17aによる各端電流振幅値演算ステップにて求めた各端電流量|ItA|、|IfA|、|ItB|、|IfB|を用い、数22式のように保護区間通過電流Ithを算出する。
【0084】
通過電流補正演算ステップにて、通過電流補正演算部21は、数23式のように、差電圧量演算部13で求めた区間両端の差電圧量|dV|から、区間通過電流演算部20で求めた保護区間通過電流Ithと予め定める定数ZLとの積量を減算し、保護区間通過電流による区間差電圧抑制量dVXを算出する。
【0085】
区間故障判定ステップにて、区間故障判定部22は、保護区間通過電流で抑制した差電圧dVXと予め定める故障判定値kVとを比較して、|dVX|≧kVであるか否かにより区間故障を判定する。
【0086】
このように、本実施の形態のき電保護装置及び方法は、第3の実施の形態両端の保護装置及び方法のように保護区間の両端電流の同一時系列情報から求める区間両端それぞれの電流のスカラ和量と区間両端の差電流量とから区間両端を通過して区間外に流れる区間通過電流を算出し、区間通過電流量に予め定める線路定数を乗じ、さらに区間両端の差電圧量から減算した値を予め定める故障判定値kVとを比較して、区間故障を判定する。
【0087】
これにより、本実施の形態によれば、次のような効果を奏する。
【0088】
1)保護区間の差電圧検出感度を著しく改善できる。
【0089】
上述のように、本実施の形態では、区間両端の電車線電流から区間通過電流Ithを算出し、区間両端の差電圧|dV|から保護区間通過電流成分Ithの差電圧重畳量|Ith|・ZLを差し引いて除去し、区間内流入電流成分の差電圧量|dVX|を検出する。任意の保護区間内を走行する電気車の編成数は、電車線全域を走行する電気車の総編成数よりも少ない。しかるに、上のようにすることで、保護区間の全域を走行する電気車の総負荷電流で生じる差電圧量よりも低い値の区間流入成分で生じる差電圧量を検出することができ、その結果、差電圧検出感度は著しく改善できる。
【0090】
[第5の実施の形態]
本発明の第5の実施の形態の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法について説明する。本実施の形態のき電保護装置1の構成は図2A、図2Bに示した第1の実施の形態と同様である。
【0091】
第1の実施の形態では、保護区間両端の保護装置1A、1Bは、それぞれ端のき電電圧を導入し、保護区間両端の差電圧|dV|を求め、比較定数kVとの比較判定により区間故障を検出する。
【0092】
一方、図10に示すように、電源を区分する切替セクションに電気車が進入する場合は、セクションの電源切替により電気車に積載されている変圧器の再加圧による励磁突入電流が流れる。この励磁突入電流の値は、電源の再加圧時の電圧位相により不定であるが、その最大は故障電流に匹敵し、急峻に変化する。しかるに、前述した第1の実施の形態により数7式、数12式で算出される保護区間両端の差電圧量は、検出すべき故障電流に匹敵する値の再加圧時の励磁突入電流が保護区間全域d=1PUを通過するので故障で生じる差電圧量との判別が困難になる。
【0093】
図10を用いて、切替セクションに電気車が進入する場合に保護区間に流れる電気車積載変圧器の再加圧時の励磁突入電流を説明する。図10は、図1の交流ATき電回路の基本構成に示す変電所SSからき電区分所SPに至る区間の上り線で、保護区間2(補助き電区分所SSP〜き電区分所SPの区間の切替セクションに進入した電気車を保護区間側変電所SSの電源で再加圧している。その再加圧時の無負荷突入電流ILinはSSの電源〜保護区間1〜保護区間2〜セクション再加圧電気車へと流れ、保護区間全域の線路インピーダンスZLを通過するので各保護区間1、2の両端に生じる差電圧dV1、dV2は、数24式、数24a式の値となる。尚、各数式では、単巻変圧器ATの巻数比Nを2、漏れインピーダンスを無視(ZAT=0)している。
【数24】

【数24a】

【0094】
但し、dV1:区間1両端差電圧、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)、dV2:区間2両端差電圧、α:上下線結合状態の関数で、開放(α=1)、結合(α=2)である。
【0095】
しかるに、故障電流域の再加圧突入電流ILinが区間全域d=1を通過すれば、故障との判別は困難である。
【0096】
図11は、切替セクションの電源切替における電気車再加圧時に生じた区間両端差電圧の測定波形例である。波形から明らかなように、再加圧突入電流ILinには、第二高調波成分量が多く含まれるので、電流で生じる区間両端差電圧量dVの第二高調波成分の含有率を判定すれば、電気車再加圧と故障との判別は可能である。
【0097】
図12は本実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式の演算機能の構成を示している。図12において、図3に示した第1の実施の形態における演算要素と共通するものには同一の符号を用い、その説明は省略する。すなわち、差電圧時系列情報算出部11、差電圧基本波成分演算部12、差電圧量演算部13、電圧ベース区間故障検出部14は第1の実施の形態と同一であり、それらによる差電圧時系列情報算出ステップ、差電圧基本波成分演算ステップ、差電圧量演算ステップ、電圧ベース区間故障検出ステップそれぞれの処理も同一である。
【0098】
本実施の形態では、さらに、第二高調波成分算出ステップにて、第二高調波成分算出部23は、両端差電圧の時系列情報をフィルタリング演算して両端差電圧VA、VBの第二高調波成分を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0099】
第二高調波差電圧演算ステップにて、第二高調波差電圧演算部24は、両端差電圧の第二高調波成分の時系列情報を振幅値演算して区間両端の第二高調波差電圧量|dV2f|を求める。
【0100】
第二高調波含有率判定ステップにて、第二高調波含有率判定部25は、差電圧量演算部13で求めた区間両端の基本波差電圧量|dV1f|と第二高調波差電圧演算部24で求めた第二高調波差電圧量|dV2f|を用い、第二高調波成分の含有率|dV2f|/|dV1f|を算出し、算出した含有率と予め定める含有率判定量k2fとを比較し、電気車再加圧突入電流による差電圧か否かを判定する。
【0101】
最終区間故障判定ステップにて、最終区間故障判定部26は、電圧ベース区間故障検出部14による電圧ベース区間故障検出ステップでの基本波差電圧量|dV|による故障判定と、第二高調波含有率判定部25による第二高調波含有率判定ステップでの第二高調波の含有率判定を用い、両判定の論理積により基本波差電圧判定が電気車再加圧突入電流によるものでなく、区間故障によるものであると判定し、そうでなければ区間故障はなしと判定する。
【0102】
このように、本実施の形態のき電保護装置及び方法は、第1の実施の形態による保護区間両端の差電圧量に基づく区間故障の判定に対して、両端き電電圧の差電圧時系列情報から差電圧に含有する第二高調波成分量を算出し、第二高調波の含有率が予め定める判定定数を超えたなら差電圧量に基づく区間故障判定の出力を抑止する。
【0103】
これにより、本実施の形態によれば、次のような効果を奏する。
【0104】
1)保護区間の差電圧検出感度を著しく改善できる。
【0105】
セクション電源切替により電気車が再加圧されると故障電流に匹敵する突入電流が当該セクション区間に流入し、他区間の電車線を通過する。したがって、区間両端には故障検出量に匹敵し、あるいは、超過する量の差電圧(前記の数7式、数16式、数23式)が生じるが、差電圧に含有する第二高調波成分の含有率を判定し、差電圧量に基づく区間故障の判定を抑止することにより、電気車再加圧電流による不要動作を抑制することができる。つまり、電気車再加圧電流で生じる差電圧量より低い値、若しくは無視して故障による差電圧量を検出することができ、その結果、保護区間の差電圧検出感度は著しく改善できる。
【0106】
[第6の実施の形態]
本発明の第6の実施の形態の交流ATき電回路のき電保護装置及び方法について説明する。本実施の形態のき電保護装置1の構成は図7に示した第3の実施の形態と同様である。
【0107】
第3の実施の形態では、区間両端の保護装置1A、1Bが任意周期毎にサンプリング同期して測定するき電電圧VA、VBとトロリ線電流ItA、ItB、き電線電流IfA、IfBを相互に高速通信し、任意サンプリング回数分の同一時系列情報として記憶し、更新する。区間両端の保護装置1A、1Bは、記憶更新する区間両端のサンプリング時系列情報をフィルタリング演算、及び、振幅値演算して求める区間両端の差電圧|dV|と差電流|dI|とから故障を検出するようにしている。しかしながら、定常時に区間両端に生じる差電圧量|dV|は区間外に通過する電流の影響を受ける。その一例として、図13Aの故障前電流分布に示すように、電源Vより遠端側の電気車負荷電流σIX(=IX1+IX2+IX3)は保護区間ZL=1PUを通過して区間外に流れ、保護区間の両端に生じる差電圧dVは数25式(第2の実施の形態で使用した数16式と同様)の値となる。
【0108】
一方、区間内に故障が生じる場合、図13Bに示すように、故障電流Ifが保護区間の故障点位置df流れ、電気車負荷電流は、故障による電圧低下で高速度に制御を停止して零になるとすれば、故障時の区間両端電圧VA、VBの差電圧量|dVf|は数26式の値となる。
【0109】
故障前後の区間両端差電圧dVとdVfの比較において、故障時の差電圧量|dVf|が定常時の差電圧量|dV|を上回るための関係式は数27式で示される。尚、各数式では、単巻変圧器ATの巻数比をN、漏れインピーダンスを無視(ZAT=0)している
【数25】

【数26】

【数27】

【0110】
但し、α:上下線の結合関数で、開放(α=1)、結合(α=2)、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)である。
【0111】
定常時の差電圧量dVLを故障時の差電圧量dVfが上回る検出量限界点を示す関係式である数27式において、故障検出は故障点位置dfと区間通過電流σIXに大きく左右される。故障前後の区間内電流I、Ifの位置d、dfは0〜1PUの範囲に限定される。したがって、故障電流Ifが如何に大きい値でも、故障点位置dfが減少するにつれて右辺が増加して無限大に近づき、故障検出困難な領域が存在する。また、定常時の区間外通過電流と故障電流が接近するにつれ、あるいは故障点が中間位置よりも電源側端に接近するにつれて故障判定は困難になる。つまり、数27式から汲み取る故障検出の概念的な条件は、区間外へ通過する電流σIXの2倍以上の故障電流が保護区間の中間より終端側位置に流れることである。
【0112】
本実施の形態のき電保護装置1による区間差電圧方式は、定常時の区間外通過電流σIXの影響を排除するものである。図14は本実施の形態による区間差電圧方式の演算機能の構成及びき電保護方法を示す。この図14において、図8に示した第3の実施の形態と共通する要素には同一の符号を用いている。つまり、差電流時系列情報算出部15、基本波成分量算出部16、差電流量演算部17、電流ベース区間故障検出部18は第3の実施の形態と同一であり、それらによる差電流時系列情報算出ステップ、基本波成分量算出ステップ、差電流量演算ステップ、電流ベース区間故障検出ステップの処理も同一であるので、その説明は省略する。
【0113】
本実施の形態のき電保護装置1において、各端電圧算出ステップにて、各端電圧算出部27は、区間両端のそれぞれ端電圧VA、VBを同一サンプリング時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0114】
各端基本波成分量算出ステップにて、各端基本波成分量算出部28は、それぞれ端電圧の時系列情報をフィルタリング演算して基本波成分量を任意サンプリング回数分の時系列情報として記憶し、都度更新する。
【0115】
各端電圧変化量算出ステップにて、各端電圧変化量算出部29は、各端電圧の基本波成分時系列情報を振幅値演算して各端それぞれの電圧量VA、VBの任意サイクル分過去t−nと現在t0との変化量ΔVA、ΔVBを求める。この各端それぞれの変化量ΔVA、ΔVBは、故障の前後を示す図13Aと図13Bの概念図と図13Cに示す等価回路から、数28式、数29式のように求める。
【数28】

【数29】

【0116】
但し、V:電源電圧、Zp:電源〜保護区間までの線路インピーダンス、N:単巻き変圧器ATの巻き数比、If:故障電流、I:故障前の区間走行電気車電流、σIx:故障前の区間外通過電流、dVto:故障時の区間両端差電圧、dVt−n:故障前の区間両端差電圧、kα:上下線結合状態に応じた基本原理式の差電圧量係数で、開放(kα=0.4)、結合(kα=0.22)、α:上下線の結合関数、開放(α=1)、結合(α=2)である。
【0117】
変化量ベース区間故障検出ステップにて、変化量ベース区間故障検出部30は、各端変化量ΔVA、ΔVBのスカラ和ΣΔV(=|ΔVA|+|ΔVB|を数30式で求め、予め定める故障判定値kσVと比較し区間故障を判定する。
【数30】

【0118】
最終区間故障検出ステップにて、最終区間故障検出部31は、電流ベース区間故障検出部18による電流ベース区間故障検出ステップでの差電流量|dI|による故障判定と、変化量ベース区間故障検出部30による変化量ベース区間故障検出ステップでのスカラ和|ΣΔV|による故障判定との両判定の論理積により最終的な区間故障の判定結果を出力する。
【0119】
数30式で求める区間両端の電圧変化量スカラ和に生じる変化量ΣΔVを、概念的な一例として、上下線の結合関数αを1、上下線結合状態に応じた差電圧量係数kαを0.4、区間長の線路インピーダンスをZL、故障電流をIf、故障前の区間内流入電流をI、故障前の区間通過電流をσIXと置き、故障前後の電流を同一とすれば、故障前の区間内電流Iの位置dと故障電流Ifの故障点dfに応じた電圧変化量は数31式の値となる。その計算結果を図15に示す。
【数31】

【0120】
図15において、直線右肩上がりの両端差電圧dVは故障前電流の位置dに応じた値である。直線右肩上がりの両端差電圧dVfは故障後電流の位置dfに応じた値である。これら両者dV、dVfの比較から明白なように、故障時の最大差電圧dVf=1.6PU(df=1の値)は、故障前の最大差電圧dV=1.9PU(d=1の値)を下回る。つまり、保護区間全域の故障点において故障は検出できない。一方、本実施の形態による各端変化量ΔVA、ΔVB|のスカラ和量ΣΔV(=|ΔVA|+|ΔVB|)は、図15のΔ0.1d、Δ0.5d、Δ1.0d、ΔdVのV折れ線と水平線で示される。水平線ΔdVは、故障前の各端電圧変化スカラ和量|ΔVAt0−ΔVAt−n|+|ΔVBt0−ΔVBt−n|であり、前述したようにその値は電気車の電流増加時定数と変化量検出ブラインド時間の比率で圧縮されて故障前の最大差電圧dV=1.9・PUの10%程度に低減される。V折れ線Δ0.1d、Δ0.5d、Δ1.0dは、故障前の電流Iの位置dが、0.1PU、0.5PU、1.0PU、の各端電圧変化量に対する故障位置dfに応じて生じる各端電圧変化スカラ和量|ΔVAft0−ΔVAt−n|+|ΔVBft0−ΔVBt−n|である。
【0121】
図15から明白なように、保護区間全域に対して0.2PU幅程度の故障前の各端電圧変化スカラ和量を下回る保護不能領域が生じるものの、保護区間領域は格段に拡大する。また、図15の計算例条件の故障電流量4PUが0.8PU程度増加すれば全域において故障検出は可能になる。
【0122】
このように、本発明の第6の実施の形態のき電保護装置及び方法は、第3の実施の形態による保護区間の両端の差電流量判定と両端の電圧変化量スカラ和量判定の双方から区間故障を検出する。
【0123】
これにより、本実施の形態によれば、次のような効果を奏する。
【0124】
1)保護区間の差電圧検出感度を著しく改善できる。
【0125】
本実施の形態によれば、保護区間の両端において、現在と任意ブラインド時間幅だけ過去との電圧差をそれぞれ端の電圧変化量として検出し(数28式、数29式)、両端変化量のスカラ和量から故障を検出する(数30式)。つまり、定常の電気車走行において生じる両端電圧変化量は電気車の電流増加時定数と変化量検出の任意ブラインド時間で大きく抑制し、一方で、急峻に電流量と位置が変化する故障では殆んど抑制することなく両端電圧の増減変化スカラ和量を検出できる。これにより、保護区間外まで通過する電気車電流で生じる差電圧量よりも著しく低い値で故障による差電圧を検出できる。その結果、保護区間の差電圧検出感度は著しく改善できる。
【0126】
2)計器用変圧器二次電圧の導入不良で生じる差電圧による不要動作を抑止できる。
【0127】
保護区間の両端電圧は計器用変圧器を介して導入される。一端側電圧の導入が不良(断線)になると区間両端に顕著な差電圧が生じるが、定常状態の保護区間の両端電流のベクトル合成量(流入量)は、故障検出量に達することは無く不要動作を抑止できる。
【0128】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、第1〜第6の実施の形態の構成を任意に組み合わせたき電保護装置、またそれによるき電保護方法を構成できる。
【符号の説明】
【0129】
1 き電保護装置
11 差電圧時系列情報算出部
12 差電圧基本波成分演算部
13 差電圧量演算部
13a 差電圧量演算部
14 電圧ベース区間故障検出部
15 差電流時系列情報算出部
15a 各端電流算出部
16 基本波成分量算出部
16a 各端電流基本波成分量算出部
17 差電流量演算部
18 電流ベース区間故障検出部
19 最終区間故障判定部
20 区間通過電流演算部
21 通過電流補正演算部
22 区間故障判定部
23 第二高調波成分算出部
24 第二高調波差電圧演算部
25 第二高調波含有率判定部
26 最終区間故障判定部
27 各端電圧算出部
28 各端基本波成分量算出部
29 各端電圧変化量算出部
30 変化量ベース区間故障検出部
31 最終区間故障検出部
AT 単巻変圧器
CT 計器用変流器
SS 変電所
SP き電区分所
SSP 補助き電区分所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出手段とを備えたことを特徴とする交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項2】
前記差電圧基本波成分算出手段は、任意時点の過去値に対する現在値の増加量に基づいて前記差電圧基本波成分量を算出することを特徴とする請求項1に記載の交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項3】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記差電流基本波成分量と予め定めた定数とを比較判定し、当該双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えたことを特徴とする交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項4】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して各端の電流時系列情報を求める電流時系列情報演算手段と、
前記各端の電流時系列情報をフィルタリング演算して各端の基本波電流時系列情報を求める基本波電流時系列情報算出手段と、
前記各端の基本波電流時系列情報を振幅値演算して各端の基本波電流成分量を算出する基本波電流成分量算出手段と、
前記差電流基本波成分量と各端の基本波電流成分量とから区間通過電流量を求める区間通過電流量演算手段と、
前記区間通過電流量に予め定める線路定数を乗じ、前記差電圧基本波成分量から減算して区間流入電流量等価差電圧を求める等価差電圧演算手段と、
前記区間流入電流量等価差電圧と予め定める定数とを比較判定し、区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えたことを特徴とする交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項5】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧時系列情報算出手段と、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出手段と、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出手段と、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出手段と、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して差電圧の第二高調波時系列情報を求める第二高調波時系列情報算出手段と、
差電圧の第二高調波時系列情報を振幅値演算して差電圧第二高調波成分量を算出する差電圧第二高調波成分量算出手段と、
前記差電圧第二高調波成分量と前記差電圧基本波成分量との比率演算から差電圧の第二高調波含有量を算出する第二高調波含有量算出手段と、
前記第二高調波含有量を予め定める判定定数と比較判定し、前記第二高調波含有量が予め定めた判定定数を超過する場合に前記電圧ベース区間故障検出手段による区間故障判定を抑止する区間故障判定抑止手段とを備えたことを特徴とする交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項6】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護装置であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報端末手段と、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得手段と、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報端末手段と、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出手段と、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出手段と、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出手段と、
前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電流ベース区間故障検出手段と、
前記保護区間の両端の同一時系列電圧情報から各端それぞれの電圧時系列情報を求める電圧時系列情報算出手段と、
前記各端の電圧時系列情報をフィルタリング演算して各端の電圧の基本波時系列情報を求める電圧基本波時系列情報算出手段と、
前記各端の電圧の基本波時系列情報を振幅値演算して各端の電圧基本波成分量を求める電圧基本波成分量算出手段と、
前記各端の電圧基本波成分量の過去値と現在値との電圧変化量を各端毎に求める電圧変化量算出手段と、
前記各端毎の電圧変化量を加算してスカラ和量を求める電圧変化量算出手段と、
前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記電圧変化量のスカラ和量と予め定める定数とを比較判定し、双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出手段とを備えたことを特徴とする交流ATき電回路のき電保護装置。
【請求項7】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出ステップとを有することを特徴とする交流ATき電回路のき電保護方法。
【請求項8】
前記差電圧基本波成分算出ステップは、任意時点の過去値に対する現在値の増加量に基づいて前記差電圧基本波成分量を算出することを特徴とする請求項7に記載の交流ATき電回路のき電保護方法。
【請求項9】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記差電流基本波成分量と予め定めた定数とを比較判定し、当該双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有することを特徴とする交流ATき電回路のき電保護方法。
【請求項10】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して各端の電流時系列情報を求める電流時系列情報演算ステップと、
前記各端の電流時系列情報をフィルタリング演算して各端の基本波電流時系列情報を求める基本波電流時系列情報算出ステップと、
前記各端の基本波電流時系列情報を振幅値演算して各端の基本波電流成分量を算出する基本波電流成分量算出ステップと、
前記差電流基本波成分量と各端の基本波電流成分量とから区間通過電流量を求める区間通過電流量演算ステップと、
前記区間通過電流量に予め定める線路定数を乗じ、前記差電圧基本波成分量から減算して区間流入電流量等価差電圧を求める等価差電圧演算ステップと、
前記区間流入電流量等価差電圧と予め定める定数とを比較判定し、区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有することを特徴とする交流ATき電回路のき電保護方法。
【請求項11】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電圧情報を演算して差電圧時系列情報を求める差電圧演算ステップと、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して、差電圧基本波成分の時系列情報を求める差電圧基本波成分算出ステップと、
前記差電圧基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電圧基本波成分量を求める差電圧基本波成分量算出ステップと、
前記差電圧基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電圧ベース区間故障検出ステップと、
前記差電圧時系列情報をフィルタリング演算して差電圧の第二高調波時系列情報を求める第二高調波時系列情報算出ステップと、
差電圧の第二高調波時系列情報を振幅値演算して差電圧第二高調波成分量を算出する差電圧第二高調波成分量算出ステップと、
前記差電圧第二高調波成分量と前記差電圧基本波成分量との比率演算から差電圧の第二高調波含有量を算出する第二高調波含有量算出ステップと、
前記第二高調波含有量を予め定める判定定数と比較判定し、前記第二高調波含有量が予め定めた判定定数を超過する場合に前記電圧ベース区間故障検出ステップによる区間故障判定を抑止する区間故障判定抑止ステップとを有することを特徴とする交流ATき電回路のき電保護方法。
【請求項12】
交流単巻変圧器き電回路において、任意距離区間毎に配置される電気所の単巻変圧器を境界とする電車線の故障を検出するき電保護方法であって、
保護区間の両端き電電圧をそれぞれの電気所端で計器用変圧器の二次側から取り込むき電電圧取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込むき電電圧を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端のき電電圧情報を両端の同一時系列電圧情報として一元共有する電圧情報共有ステップと、
前記保護区間の両端電車線電流をそれぞれの電気所端で計器用変流器の二次側から取り込む電車線電流取得ステップと、
前記電気所端それぞれで取り込む電車線電流を任意周期毎に測定し、相互に高速通信してそれぞれの端の電車線電流を両端の同一時系列電流情報として一元共有する電流情報共有ステップと、
前記両端の同一時系列電流情報を演算して差電流時系列情報を求める差電流算出ステップと、
前記差電流時系列情報をフィルタリング演算して、差電流基本波成分の時系列情報を求める差電流基本波成分算出ステップと、
前記差電流基本波成分の時系列情報を振幅値演算して差電流基本波成分量を求める差電流基本波成分量算出ステップと、
前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定して区間故障を検出する電流ベース区間故障検出ステップと、
前記保護区間の両端の同一時系列電圧情報から各端それぞれの電圧時系列情報を求める電圧時系列情報算出ステップと、
前記各端の電圧時系列情報をフィルタリング演算して各端の電圧の基本波時系列情報を求める電圧基本波時系列情報算出ステップと、
前記各端の電圧の基本波時系列情報を振幅値演算して各端の電圧基本波成分量を求める電圧基本波成分量算出ステップと、
前記各端の電圧基本波成分量の過去値と現在値との電圧変化量を各端毎に求める電圧変化量算出ステップと、
前記各端毎の電圧変化量を加算してスカラ和量を求める電圧変化量算出ステップと、
前記差電流基本波成分量と予め定める定数とを比較判定し、前記電圧変化量のスカラ和量と予め定める定数とを比較判定し、双方の判定結果から区間故障を検出する区間故障検出ステップとを有することを特徴とする交流ATき電回路のき電保護方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−111128(P2011−111128A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272106(P2009−272106)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(501284767)株式会社ジェイアール総研電気システム (17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】