説明

人体保護用具

【課題】排泄物による異臭が効果的に脱臭されうる人体保護用具2の提供。
【解決手段】人体保護用具2は、オムツの上に装着される。この人体保護用具2は、緩衝体12と、この緩衝体12が収容されうる装着体14とを備えている。この緩衝体12は、変形復元性を有する多孔質体と、この多孔質体を気密に包み込む袋体と、この緩衝体12の内部に気体を吸入する吸気手段と、この緩衝体12の外部に気体を排出させる排気手段とを備えている。この緩衝体12には、脱臭剤が含まれている。この吸気手段は、装着状態におけるこの緩衝体12の体表面側に配置されている。この緩衝体12の内部に吸入される気体の単位時間当たりの量は、この緩衝体12の外部に排出される気体の単位時間当たりの量よりも大きい。好ましくは、この脱臭剤は、活性炭からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転倒時においてヒトへの衝撃を緩和する人体保護用具に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者人口の増加に伴い、高齢者が転倒して骨折する事故が増えている。特に、大腿骨頸部骨折は、増加の傾向にある。この大腿骨頸部骨折の完全治癒には、時間がかかる。この大腿骨頸部骨折が原因で、高齢者が寝たきりとなってしまう事例もある。この大腿骨頸部骨折は大きな社会問題となりつつあり、その予防が強く求められている。
【0003】
大腿骨頸部骨折を防止するために、種々の人体保護用具の提案がなされている。例えば、特表平9−508824号公報には、人の大腿骨頚部周りの体型に合うように凹状の側面を備えたドーム形部材を有するヒッププロテクターが記載されている。このヒッププロテクターの表面全体は、剛性のポリプロピレンフォーム等の独立気泡形熱可塑性材料からなり、ドーム形の硬質なシェルとして形成されている。
【0004】
上記のヒッププロテクターと同様にドーム型に形成されたシェルが大腿骨頸部に相当する部分をカバーするように収容されたズボンの提案もある(特表平10−512016号公報)。このシェルは、偏平方向圧縮強度と横方向圧縮強度で規定される可撓性を備えている。これらは、剛性の高い外郭によるため、大きな衝撃に対する防護機能は、緩衝材のみからなるヒッププロテクターに比べて大きい。
【0005】
剛性の高いプロテクターは、着用感が悪く常時着用するには適していない。特に就寝時において、寝返りの度にヒトは突き上げ感を感じてしまう。剛性の高いプロテクターは、就寝時に身体から外される。骨折の発生する多くの場合は、寝床から離床するときであるといわれている。就寝時に外されるてしまうプロテクターでは、離床時の骨折は防止されない。
【0006】
常時着用できる衣類装着用として、アクリル系共重合体からなる衝撃吸着パッドが提案されている(特開平9−268409号公報)。これは、着用して違和感のない軟らかさと、衝撃吸着機能とをバランスさせるものである。このパッドは、就寝時も着用されうる。しかし、このパッドの衝撃吸着性は十分ではない。
【0007】
排泄を認識することができなくなった高齢者には、排泄物による衣類、寝具等の汚れが防止されるために、オムツが日常的に着用される。特に、歩行が不安定となり転倒により骨折する可能性が高い高齢者には、このオムツの上から人体保護用具が装着される場合がある。
【0008】
排泄物は、異臭を放つ。異臭の代表的な成分としては、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素及びメルカプタンが例示される。ヒトは、この異臭を認識すると、不快感を感じてしまう。活性炭が担持された脱臭剤層が備えられることにより、異臭成分が吸着されうるように構成されたオムツが、特開2004−237056公報に開示されている。動物骨粉が内包された吸着材が用いられることにより異臭成分を除去しつつ、排泄物から発生する菌を殺菌しうるシート材が、特開平8−243121号公報に開示されている。
【特許文献1】特表平9−508824号公報
【特許文献2】特表平10−512016号公報
【特許文献3】特開平9−268409号公報
【特許文献4】特開2004−237056公報
【特許文献5】特開平8−243121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
転倒時におけるヒトへの衝撃を緩和する上に、排泄物により生じる異臭成分の吸着が考慮されている人体保護用具は、現存しない。
【0010】
上記公報のオムツにおいては、異臭成分の移動は排泄物近傍に生じる異臭成分の濃度勾配を駆動力とする拡散に支配される。このオムツでは、異臭成分の移動方向の制御はできない。異臭成分のうち脱臭剤層に到達した異臭成分のみが、この脱臭剤層に吸着される。このため、一部の異臭成分が外部に放出される場合がある。特に就寝時のように長時間オムツが装着される場合においては、排泄物の量が多くなるので、十分な脱臭効果は得られない。異臭による環境の悪化が防止されるためには、介護者が定期的に排泄の状況を確認しなければならない。この場合、介護者の負担が増してしまう。上記公報のシート材においても、同様の問題がある。
【0011】
本発明の目的は、排泄物による異臭が効果的に脱臭されうる人体保護用具の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る人体保護用具は、オムツの上に装着される。この人体保護用具は、緩衝体と、この緩衝体が収容されうる装着体とを備えている。この緩衝体は、変形復元性を有する多孔質体と、この多孔質体を気密に包み込む袋体と、この緩衝体の内部に気体を吸入する吸気手段と、この緩衝体の外部に気体を排出させる排気手段とを備えている。この緩衝体に、脱臭剤が含まれている。この吸気手段は、装着状態におけるこの緩衝体の体表面側に配置されている。この緩衝体の内部に吸入される気体の単位時間当たりの量は、この緩衝体の外部に排出される気体の単位時間当たりの量よりも大きい。
【0013】
好ましくは、この人体保護用具では、上記脱臭剤は、活性炭からなる。
【発明の効果】
【0014】
この人体保護用具では、緩衝体が装着状態における体表面側に吸気手段を備えているので、この緩衝体とヒトとの間の気体はこの緩衝体に吸入されうる。この緩衝体は脱臭剤を備えているので、この人体保護用具がオムツの上から装着されることにより、オムツの中に滞留している排泄物から発生する異臭成分はこの脱臭剤に効果的に吸着されうる。この人体保護用具では、この異臭による環境の悪化が防止されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る人体保護用具2の一部が示された背面図であり、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。この図2には、人体保護用具2と、ヒトの断面4と、オムツ6とが示されている。このヒトの断面4には、立位状態にあるヒトのX線コンピュータ断層映像装置による観察から得られた画像の内、大転子8と坐骨10とが示されている。このヒトは、オムツ6をしている。このオムツ6の上から、この人体保護用具2は装着されている。この人体保護用具2は、緩衝体12と、この緩衝体12が収容されうる装着体14とを備えている。この人体保護用具2は、大腿骨頸部骨折が効果的に防止されうる位置に、この緩衝体12を配置する。
【0017】
装着体14は、実質的には衣類である。衣類としては、ズボン、スウェットパンツ、ベルトが例示される。この人体保護用具2では、この装着体14はスウェットパンツである。この装着体14は、ポケット16を備えている。この緩衝体12は、このポケット16に収容される。なお、この装着体14が、ヒトに巻かれるベルトと、このベルトに吊された尻当てとから構成されてもよい。この場合、この尻当てが、緩衝体12が収容されうるポケット16を備える。
【0018】
ポケット16は、装着体14に糸で縫いつけられている。このポケット16の挿入口18には、ファスナー20が取り付けられている。このポケット16に緩衝体12が収容されると、挿入口18がこのファスナー20で閉じられる。この緩衝体12が、このポケット16から外に出ることはない。この人体保護用具2では、このポケット16の位置が固定されているので、この緩衝体12の位置がずれることはない。なお、このポケット16の装着体14への接合に、面ファスナー、ボタン等が用いられてもよい。面ファスナー、ボタン等が用いられることにより、この緩衝体12がこの装着体14に直接取り付けられてもよい。
【0019】
図3は、図1の人体保護用具2の緩衝体12が示された一部切り欠き斜視図である。この緩衝体12は、多孔質体22と、袋体24と、吸気手段としての吸気弁26と、排気手段としての弁シート28とを備えている。この緩衝体12の平面形状は、矩形である。この緩衝体12の典型的なサイズとしては、縦が140mmであり、横が140mmであり、そして厚みが20mmである。
【0020】
多孔質体22は、ポリマー成形体である。図示されていないが、この多孔質体22は、その内部に気泡を有する。特に、この多孔質体22は、連続気泡を備えている。この多孔質体22は荷重によって容易に変形し、荷重の除去によって直ちに復元する。この多孔質体22に、複数の気泡と、これらの気泡が連通される通路とを備えたポリマー成形体が用いられてもよい。
【0021】
袋体24は、合成樹脂製のフィルムからなる。この袋体24は、多孔質体22を気密に包み込む。この袋体24とこの多孔質体22とは、接合されている。この袋体24は、第一貫通孔30と、第二貫通孔32と、4の通気口34とを備えている。この4の通気口34は、第一貫通孔30から等しい距離に等しい間隔で配置される。
【0022】
図4は、図3のIV−IV線に沿った部分拡大断面図である。この図4には、吸気弁26と、袋体24の一部とが示されている。この吸気弁26は、支持体36と、この支持体36が中心とされて放射状に拡がる傘部38とを備えている。この傘部38は、上下に動きうる。この支持体36が第一貫通孔30に嵌め込まれることにより、この吸気弁26は袋体24に固定される。
【0023】
図5は、図3のV−V線に沿った部分拡大断面図である。この図5には、弁シート28と、袋体24の一部とが示されている。この弁シート28は、筒体40と、この筒体40の中心に排気口42とを備える。この筒体40が第二貫通孔32に嵌め込まれることにより、この弁シート28は袋体24に固定される。
【0024】
袋体24には、脱臭剤(図示されず)が収容されている。この脱臭剤は、粒子からなる。この脱臭剤は、細孔を有している。従って、この脱臭剤の比表面積は大きい。なお、この明細書において、比表面積は、窒素ガスの吸着量から求められる単位質量当たりの表面積で表される。
【0025】
この人体保護用具2では、脱臭剤は多孔質体22の表面に塗されている。なお、この脱臭剤の多孔質体22からの脱落が防止されるために、この脱臭剤と多孔質体22とが接着剤で接合されてもよい。この脱臭剤が、二以上に分割された多孔質体22の間に挟まれることにより、この多孔質体22に配置されてもよい。取り扱い性が考慮されて、この脱臭剤が多孔質体22に練り込まれてもよい。この脱臭剤が内包された脱臭シートが形成され、この脱臭シートがこの多孔質体22に積層されてもよい。
【0026】
吸気弁26と弁シート28とは、緩衝体12の一方の平面44に配置される。この人体保護用具2では、この吸気弁26と弁シート28とは、この平面44の隅にそれぞれ位置している。この吸気弁26と弁シート28とは、この平面44の対角線上にある。この人体保護用具2がヒトに装着された時に、この吸気弁26が体表面46の側に配置されるようにこの緩衝体12はポケット16に収容される。なお、この弁シート28は、この緩衝体12の他方の平面44に配置されてもよい。この弁シート28が、この緩衝体12の側面48に配置されてもよい。
【0027】
この人体保護用具2では、通気口34は、傘部38の外縁50よりも内側に配置されている。前述したように、この傘部38は上下に動く。この緩衝体12の内圧が大気圧よりも高い場合、この傘部38は上方に動き、この外縁50が袋体24の内面52と接触する。この外縁50と内面52との接触により、この通気口34を通じた気体の流通が遮蔽される。この傘部38は、シールとして機能する。この緩衝体12の内圧が大気圧よりも低い場合、この傘部38が下方に動きこの外縁50と内面52とが離隔する。この外縁50と内面52との離隔により、この通気口34を通じた気体の流通が可能となる。この緩衝体12では、その内圧が下がると吸気弁26を通じて気体が吸入される。この緩衝体12の内圧が上がると気体の吸入が止まる。この吸気弁26は、逆止弁として機能する。この緩衝体12の内部への気体の吸入量は、この袋体24に備えられる通気口34の合計断面積が調整されることにより、制御される。なお、この吸気弁26の位置及び構造は、この人体保護用具2の仕様が考慮されて適宜決められる。
【0028】
この人体保護用具2では、緩衝体12の内部にある気体は、弁シート28を通じてこの緩衝体12の外部に排出される。この弁シート28に備えられる排気口42の合計断面積が調整されることにより、この緩衝体12の外部への気体の排出量が制御される。この緩衝体12は、排気口42の合計断面積が、通気口34の合計断面積よりも小さくなるように構成されている。従って、この人体保護用具2では、この緩衝体12の内部に吸入される気体の単位時間当たりの量は、この緩衝体12の外部に排出される気体の単位時間当たりの量よりも大きい。なお、この弁シート28の位置及び構造は、この人体保護用具2の仕様が考慮されて適宜決められる。
【0029】
図6は、図3の緩衝体12の一部が示された拡大断面図である。この図6には、矢印線Aで示される方向に衝撃が加えられた状態が示されている。衝撃が加えられることにより、袋体24と多孔質体22とが圧縮変形するので、この緩衝体12の容積は減少する。このため、この緩衝体12の内圧が上がる。前述したように、この袋体24と多孔質体22とは接合されているので、図6に示されているように、この袋体24と多孔質体22とは一体的に変形する。この袋体24が、この多孔質体22から浮き上がることはない。このため、この緩衝体12の内圧は、この袋体24と多孔質体22とが接合されていない場合に比べて効果的に上昇する。なお、圧縮変形による袋体24の多孔質体22からの浮き上がりが小さい場合には、この浮き上がりによる緩衝効果の阻害の程度が小さくなるので、この袋体24と多孔質体22とが接合されなくてもよい。
【0030】
この人体保護用具2を装着したヒトが転倒して緩衝体12が圧縮されると、この緩衝体12の内圧は高まる。この緩衝体12の外部に排出される気体の単位時間当たりの量は小さいので、この緩衝体12は内圧が高められた状態を維持する。このため、この緩衝体12は、エアースプリングとして機能し、転倒時におけるヒトへの衝撃を緩和する。
【0031】
この人体保護用具2を装着したままヒトが就寝すると、この緩衝体12にはヒトの体重がかかる。この場合においても、この緩衝体12は圧縮されるので、この緩衝体12の内圧が高まり、弁シート28を通じて気体が徐々に排出される。気体が排出されつつ、多孔質体22が荷重により容易に変形するので、この緩衝体12は就寝時の体の動きに合わせて変形する。この緩衝体12は、就寝しているヒトに違和感を与えない。この人体保護用具2は、着用感に優れる。
【0032】
この人体保護用具2を装着したヒトが起床すると、緩衝体12に掛かっていた荷重が除去される。圧縮により変形していた緩衝体12は、その形状を復元していく。就寝時の圧縮変形により、この緩衝体12の内部にある気体の量は減少している。この緩衝体12の形状復元過程では、この緩衝体12の体積が増えていく。この緩衝体12の内圧は下がるので、吸気弁26が開き、この吸気弁26を通じてこの緩衝体12の内部に気体が吸入される。前述したように、この緩衝体12の内部に吸入される気体の単位時間当たりの量は大きいので、荷重が除去されてから短時間で緩衝体12の形状は復元し、この緩衝体12の内部に十分な量の気体が吸入される。このような緩衝体12は、起床直後にヒトが転倒した場合でも、骨折を防止できる。
【0033】
この人体保護用具2では、緩衝体12と体表面46との間にある異臭成分を含んだ気体は、吸気弁26を通じてこの緩衝体12の内部に取り込まれる。この緩衝体12には、脱臭剤が含まれている。この脱臭剤は、その表面においてこの異臭成分を吸着する。この吸着は、この表面と異臭成分とが相互に作用することにより起こる物理吸着である。この吸着により、気体に含まれている異臭成分が除去されるので、弁シート28を通じてこの緩衝体12の外部に排出される気体には、異臭成分が含まれない。就寝時においては、寝返りをうつたびに異臭成分を含んだ気体が吸入され、この異臭成分が除去された気体が排出される。このため、緩衝体12と体表面46との間に、この異臭成分が滞留することはない。この人体保護用具2がオムツ6の上から装着されることにより、この異臭による環境の悪化が防止されうる。
【0034】
この人体保護用具2では、気体が緩衝体12に吸入されると同時に、この緩衝体12の外部から新鮮な気体がこの緩衝体12と体表面46との間に導入される。この緩衝体12と体表面46との間で、換気が促される。このため、この人体保護用具2が装着されたヒトが、蒸れを感じることはない。なお、換気効率が高められるために、この緩衝体12の体表面46の側に通気層が積層されてもよい。この通気層としては、編み目が三次元的に組み合わされている三次元メッシュ、連続気泡を含むポリマー成形体及び織布、不織布等からなる布地が例示される。この通気層が、三次元メッシュ、ポリマー成形体、布地等が組み合わされることにより形成されてもよい。
【0035】
この人体保護用具2の製造方法は、次の通りである。まず、袋体24及びこの袋体24に収容される多孔質体22が形成される。この袋体24には、多孔質体22が挿入されうる挿入口54が形成されている。次に、この袋体24の所定の箇所に、第一貫通孔30、第二貫通孔32及び通気口34が打ち抜きによって形成される。次に、この第一貫通孔30に吸気弁26が取り付けられる。次に、この第二貫通孔32に弁シート28が取り付けられる。次に、多孔質体22の表面に、接着剤が塗布される。次に、この挿入口54を通じて、この多孔質体22がこの袋体24に収容される。この多孔質体22の収容時に、脱臭剤が投入される。次に、この挿入口54が熱溶着で閉じられる。このようにして、緩衝体12が形成される。最後に、この緩衝体12が、吸気弁26が装着状態における体表面46の側に位置するように装着体14に収容されて、図1に示された人体保護用具2が完成する。なお、この袋体24の内面52と多孔質体22の表面とが、熱溶着で接合されてもよい。この多孔質体22の表面に、液状のポリマー組成物が塗工されてこのポリマー組成物からなる袋体24が形成されてもよい。ポリマー組成物の塗工によって得られた袋体24は、多孔質体22と強固に接合する。
【0036】
多孔質体22の気泡は、化学的又は物理的な処理が用いられることにより得られる。この処理としては、化学反応途中の揮発性のガスが利用される方法、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、ニトロソペンタメチレンテトラミン等の発泡剤が利用される方法、及び攪拌による気体の巻き込みが利用される方法が例示される。連続気泡の好適な形成方法としては、爆発法及び溶出法が例示される。この爆発法では、高圧力の気体で気泡の壁が破裂されることにより、連続気泡が形成される。この溶出法では、炭酸カルシウムの微粉末が混合された材料から形成されたブロックが塩酸水溶液に漬けられる。この塩酸水溶液への浸積により、このブロックに混合された炭酸カルシウムが溶出される。この炭酸カルシウムの溶出により、連続気泡が形成される。
【0037】
緩衝体12に含まれる脱臭剤の質量は、この緩衝体12の基準平面100cm当たりに10g以上200g以下であるのが好ましい。この質量が10g以上に設定されることにより、排泄物からの異臭が効果的に除去されうる。この観点から、この質量は15g以上がより好ましく、20g以上が特に好ましい。この質量が200g以下に設定されることにより、生産コストの上昇が抑えられる。この観点から、この質量は150g以下がより好ましく、100g以下が特に好ましい。なお、この基準平面は、人体保護用具2が装着されたときに、体表面46の側に位置する緩衝体12の平面44である。
【0038】
脱臭剤としては、活性炭、合成ゼオライト及びシリカゲルが例示される。脱臭性の観点から、活性炭が脱臭剤として用いられるのが好ましい。この活性炭としては、天然椰子殻由来活性炭、石炭系活性炭及び石油系活性炭が例示される。なお、この活性炭の粒径としては、1mm以上5mm以下であるのが好ましい。この粒径が1mm以上に設定されることにより、多孔質体22の気泡を通じたこの活性炭の移動が抑えられる。この粒径が5mm以下に設定されることにより、人体保護用具2が装着された時の違和感が抑えられる。なお、この粒径は、活性炭の篩い分けに用いられるふるいの目開きで表される。
【0039】
活性炭の比表面積としては、100m/g以上2000m/g以下であるのが好ましい。この比表面積が100m/g以上に設定されることにより、異臭成分の吸着効果が高まる。この観点から、この比表面積は200m/g以上がより好ましく、500m/g以上が特に好ましい。この比表面積が2000m/g以下に設定されることにより、生産コストの上昇が抑えられる。この観点から、この比表面積は1800m/g以下がより好ましく、1500m/g以下が特に好ましい。
【0040】
多孔質体22の基材ポリマーとしては、合成樹脂及びゴムが例示される。合成樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、シリコーン及び各種熱可塑性エラストマーが例示される。ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びエチレン−プロピレン−ジエン共重合体が例示される。加工性の観点から、ポリウレタンが好ましい。ポリウレタンとしては、エステル系ポリウレタン及びエーテル系ポリウレタンが例示される。形状復元性の観点から、エーテル系ポリウレタンがより好ましい。
【0041】
袋体24の基材ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ナイロン及びポリエステルが例示される。ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。材質の異なる複数のフィルムが積層されて、袋体24が形成されてもよい。袋体24の気密性が高められるために、フィルム状に加工されたアルミニウムが積層されたアルミラミネートフィルムがこの袋体24に用いられてもよい。
【0042】
吸気弁26が構成される架橋ゴムの基材ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム及びアクリルゴムが例示される。なお、軟質な合成樹脂から、この吸気弁26が形成されてもよい。
【0043】
以下、この緩衝体12における気体の排出及び吸入の速度の測定方法が説明される。まず、緩衝体12の平面44に、縦が140mmであり、横が140mmであり、厚みが1.0mmの鋼板が載置される。次に、この鋼板に、11kgの錘が載せられる。すると、緩衝体12は徐々に変形し、やがて変形が停止する。錘が載せられてから変形が停止するまでの時間T1が、測定される。次に、錘がこの鋼板から降ろされる。すると緩衝体12は徐々に復元し、やがて復元が停止する。錘がこの鋼板から降ろされてから復元が停止するまでの時間T2が、測定される。
【0044】
骨折防止の観点から、時間T1は1.0秒以上が好ましく、2.0秒以上が特に好ましい。就寝時の着用感の観点から、時間T1は10.0秒以下が好ましく、4.0秒以下が特に好ましい。起床直後の転倒によっても骨折が防止されるとの観点から、時間T2は1.0秒未満が好ましく、0.8秒以下が特に好ましい。時間T2は、通常は0.01秒以上である。
【0045】
吸着された異臭成分が化学的に変質されうる消臭剤が、脱臭剤に併用されてもよい。この消臭剤としては、鉄化合物及び二酸化チタンが例示される。この鉄化合物としては、酸化防止効果のあるアスコルビン酸等の化合物による処理が施されて安定化された鉄(II)化合物が好適に用いられる。二酸化チタンとしては、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが好適に用いられる。この二酸化チタンは、光触媒機能を有する。この二酸化チタンが併用された緩衝体12では、吸着された異臭成分の光分解が促される。このため、脱臭効果が低下した緩衝体12が日の当たる場所に静置されることにより、この緩衝体12の脱臭機能が再生されうる。
【0046】
この人体保護用具2では、この緩衝体12が乾燥剤を含んでもよい。この乾燥剤により、この緩衝体12から外部に排出される気体が乾燥される。具体的には、この乾燥剤が多孔質体22に練り込まれてもよい。乾燥剤が内包された乾燥シートが、この多孔質体22の反体表面側の平面44に積層されて袋体24に収容されてもよい。この乾燥シートは、この多孔質体22の体表面46の側の平面44に積層されてもよい。この乾燥シートが、この多孔質体22の両側の平面44に積層されてもよい。この多孔質体22と乾燥シートとは、緩衝体12の衝撃緩和効果が維持されるために、接合されているのが好ましい。なお、この乾燥剤としては、シリカゲル、活性アルミナ、無水塩化カルシウム及び無水硫酸カルシウムが例示される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0048】
[実施例1]
図1に示された人体保護用具を得た。この人体保護用具には、図3に示された基本構成を備えており、表1に示された仕様の本体が収容されている。多孔質体は、その縦が140mmであり、横が140mmであり、そして厚みが20mmであるウレタンスポンジからなる。袋体の材質は、ポリプロピレンである。この袋体の中に100gの活性炭が入れられている。緩衝体の体表面側に、吸気弁と弁シートとが取り付けられている。
【0049】
[実施例2]
弁シートを反体表面側に設けた他は実施例1と同様にして、人体保護用具を得た。
【0050】
[比較例1]
吸気弁を反体表面側に設け、活性炭を投入しなかった他は実施例1と同様にして、人体保護用具を得た。
【0051】
[比較例2]
活性炭を投入しなかった他は実施例1と同様にして、人体保護用具を得た。
【0052】
[比較例3]
弁シートを反体表面側に設け、活性炭を投入しなかった他は実施例1と同様にして、人体保護用具を得た。
【0053】
[脱臭性及び蒸れ性評価]
30%に調整されたアンモニア水溶液を200cc含まされたオムツをつけて、このオムツの上から人体保護用具を装着した。この状態で、その厚さが20mmとされたウレタンマットレスの上に寝転び、1分間に1回寝返りを行った。30分経過後に、5点が満点とされた脱臭性及び蒸れ性に関する官能評価を行った。この評価は、温度が25℃、湿度が70%に制御された評価室で行った。10人のモニターから得られた結果の平均値が、評価結果として表示されている。脱臭性に関しては、この数値が大きいほど、この人体保護用具による脱臭性に優れていることが示される。蒸れ性に関しては、この数値が大きいほど、この人体保護用具の装着による蒸れの発生が防止されており、その装着感に優れていることが示される。これらの評価結果が、下記の表1に示されている。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示されるように、実施例の人体保護用具は脱臭性に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る人体保護用具は、介護用として用いられる車いすのシート、ベッドのマットレス等にも適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る人体保護用具の一部が示された背面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図1の人体保護用具の緩衝体が示された一部切り欠き斜視図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV線に沿った部分拡大断面図である。
【図5】図5は、図3のV−V線に沿った部分拡大断面図である。
【図6】図6は、図3の緩衝体の一部が示された拡大断面図である。
【符号の説明】
【0058】
2・・・人体保護用具
4・・・断面
6・・・オムツ
8・・・大転子
10・・・坐骨
12・・・緩衝体
14・・・装着体
16・・・ポケット
18、54・・・挿入口
20・・・ファスナー
22・・・多孔質体
24・・・袋体
26・・・吸気弁
28・・・弁シート
30・・・第一貫通孔
32・・・第二貫通孔
34・・・通気口
36・・・支持体
38・・・傘部
40・・・筒体
42・・・排気口
44・・・平面
46・・・体表面
48・・・側面
50・・・外縁
52・・・内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オムツの上に装着される人体保護用具であって、
緩衝体と、この緩衝体が収容されうる装着体とを備えており、
この緩衝体が、変形復元性を有する多孔質体と、この多孔質体を気密に包み込む袋体と、この緩衝体の内部に気体を吸入する吸気手段と、この緩衝体の外部に気体を排出させる排気手段とを備えており、
この緩衝材に、脱臭剤が含まれており、
この吸気手段が、装着状態におけるこの緩衝体の体表面側に配置されており、
この緩衝体の内部に吸入される気体の単位時間当たりの量が、この緩衝体の外部に排出される気体の単位時間当たりの量よりも大きい人体保護用具。
【請求項2】
上記脱臭剤が、活性炭からなる請求項1に記載の人体保護用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−126790(P2007−126790A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321749(P2005−321749)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】