説明

人体用溶融性油脂エアゾール組成物

【課題】噴射されたときに固形状態で皮膚上に付着し、この皮膚上において徐々に液状に変化するバター状の吐出物を得ることのできる人体用溶融性油脂エアゾール組成物を提供することにある。
【解決手段】人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、融点が10〜40℃である油脂物質を主成分とする油脂成分と、この油脂成分が溶解された液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる噴射剤とよりなり、油脂成分の含有割合が、当該油脂成分と噴射剤との合計に対して10〜70質量%であり、噴射剤の気化熱により固形状の吐出物が形成されると共に、当該固形状の吐出物が皮膚上において徐々に融解するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体用溶融性油脂エアゾール組成物に関し、更に詳しくはボディーバターとして好適に用いられる人体用溶融性油脂エアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スキンケア用およびヘアケア用のクリームの或る種のものとして、常温においては固形状であって人体体温程度の温度で液状に変化する特性を有し、例えば湯上りなどに肌が乾燥しないように保湿するために油分を多く含有したバター状のクリームであるボディーバターが用いられている。
このボディーバターは、例えば植物性油分などの油脂物質を主成分とし、多くの場合、肌にマッサージするようにして塗られるものである。
【0003】
しかしながら、このようなボディーバターは、その剤形が軟膏剤のものであることから、通常、蓋付きの容器などに充填された状態で保管されることとなるため、気温が高い季節や気温が高い場所においては、冷蔵保管することが必要であり、さもなくば短時間のうちにその品質が低下してしまうということが問題とされている。
【0004】
一方、エアゾール製品としては、内容物がミスト状あるいは泡状で吐出されるものなどの種々ものが用いられており、また、軟膏状物質が吐出されるものも提案されている(例えば、特許文献1参照)が、この軟膏状物質はバター状のものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−086500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいて、ボディーバターを環境にかかわらずに簡便に用いることのできるよう、エアゾール製剤化することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、噴射されたときに固形状態で皮膚上に付着し、この皮膚上において徐々に液状に変化するバター状の吐出物を得ることのできる人体用溶融性油脂エアゾール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、融点が10〜40℃である油脂物質を主成分とする油脂成分と、この油脂成分が溶解された液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる噴射剤とよりなり、
油脂成分の含有割合が、当該油脂成分と噴射剤との合計に対して10〜70質量%であり、
噴射剤の気化熱により固形状の吐出物が形成されると共に、当該固形状の吐出物が皮膚上において徐々に融解するものであることを特徴とする。
【0008】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物においては、固形状の吐出物が温度36℃の条件において固形物の残存している状態とされている固形状態保持時間が10秒間以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物においては、油脂成分が、融点が10℃未満の油脂物質または融点が40℃を超える油脂物質を含有することが好ましい。
【0010】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、噴射剤が、20〜60質量%のブタンと、80〜40質量%のプロパンとの混合液化石油ガスよりなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物によれば、特定の融点を有する油脂物質を主成分とする油脂成分が特定の割合で液化ガスよりなる噴射剤に溶解されてなるものであるため、噴射されたときに、噴射剤の気化熱によって油脂成分が一時的に固形化されることから、吐出物として、噴射されたときに固形状態で適用対象部位としての皮膚上に付着し、この皮膚上において徐々に液状に変化するバター状物質を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、融点が10〜40℃である油脂物質を主成分とする油脂成分と、液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる噴射剤とを必須成分として含有し、噴射剤としての液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる液化ガスに油脂成分が溶解されてなる構成を有するものである。
【0013】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物の必須成分である油脂成分は、噴射剤を構成する液化ガスに溶解することによって液状とされている。
【0014】
この油脂成分の主成分を構成する油脂物質は、その融点が10℃以上で40℃以下であるものであることが必要とされるが、好ましくは融点が15〜37℃のものであり、特に好ましくは融点が20〜37℃のものである。
【0015】
油脂成分の主成分を構成する油脂物質の融点が過小である場合には、吐出物を固形状態とすることができなくなる。
一方、油脂成分の主成分を構成する油脂物質の融点が過大である場合には、噴射剤に対する十分な溶解性が得られず、エアゾール組成物自体を形成することができなくなる。
【0016】
油脂成分の主成分を構成する油脂物質としては、人体用溶融性油脂エアゾール組成物の使用用途などに応じて、10〜40℃の温度範囲内において適宜の融点を有するものが用いられ、植物由来の油脂物質および動物由来の油脂物質のいずれをも用いることができる。
具体的に、植物由来であって10〜40℃の範囲内に融点を有する油脂物質としては、例えばココナッツ油 (融点:22〜26℃)、アーモンド油(融点:−10〜21℃)、パーム油 (融点:27〜50℃)、パーム核油(融点:25〜30℃)、ヤシ油(融点:20〜28℃)、カカオ脂(融点:32〜39℃)、シア脂(融点:23〜45℃)、マンゴーバター(融点:25〜38℃)等の植物油などが挙げられる。
また、動物由来であって10〜40℃の範囲内に融点を有する油脂物質としては、例えば牛脂(融点:35〜50℃) 、豚脂(融点:28〜48℃)、馬脂(融点:29〜50℃) 、卵黄油(融点:10〜17℃)等の動物油、羊毛脂(融点:31〜43℃)、ラノリン(融点:37〜43℃)等のロウ類などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
これらのうちでは、噴射剤に対する溶解性、固形状吐出物の形成性および固形状態からの溶融性の観点から、カカオ脂、シア脂、マンゴーバターおよびヤシ油を用いることが好ましく、特に、ボディーバターとして用いる場合には、無臭で高い安全性を有すると共に、優れたエモリエント効果および保湿効果が得られることから、ヤシ油を用いることが好ましい。
【0018】
油脂成分には、主成分としての油脂物質の他、融点が10℃未満の油脂物質(以下、「低融点油脂物質」ともいう。)または融点が40℃を超える油脂物質(以下、「高融点油脂物質」ともいう。)が含有されていることが好ましい。
油脂成分が低融点油脂物質または高融点油脂物質よりなる添加油脂物質を含有することにより、この添加油脂物質の作用によって吐出物の性状を、例えば人体用溶融性油脂エアゾール組成物の使用用途などに応じて調整することができ、その結果、吐出物として、噴射時における固形状態への形成性に優れると共に、適用対象部位としての皮膚上において固形状態から徐々に融解する溶融特性を有する、良好な状態のバター状物質を得ることができるという効果が得られる。
【0019】
この添加油脂物質の含有割合は、油脂成分全体に対して20質量%以下であることが好ましい。すなわち、油脂成分においては、主成分を構成する油脂物質の含有割合は80質量%を超えることが好ましい。
油脂成分における添加油脂物質の含有割合が過大である場合には、吐出物を固形状とすることができなくなる、あるいはエアゾール組成物自体を形成することができなくなるなどの弊害が生じるおそれがある。
【0020】
低融点油脂物質の具体例としては、10℃未満の範囲内に融点を有する、例えばつばき油(融点:−21〜−15℃)、オリーブ油(融点:0〜6℃)、大豆油(融点:−8〜−7℃)、トウモロコシ油(融点:−18〜−10℃)、ナタネ油(融点:−12〜0℃)、綿実油(融点:−6〜4℃)、サフラワー油(融点:−5℃)、ブドウ種子油(融点:−24〜−10℃)、アサ種子油(融点:−27.5℃)、アマニ油(融点:−27〜−18℃)、ヒマワリ油(融点:−18〜−16℃)、ゴマ油(融点:−6〜−3℃)、ヒマシ油(融点:−13〜−10℃)、落花生油(融点:−3〜0℃)、メドウホーム油(融点:10℃以下)、米ぬか油(融点:−10〜−5℃)、ククイナッツ油(融点:−22℃)などが挙げられる。
また、高融点油脂物質の具体例としては、40℃を超える範囲内に融点を有する、例えば水素添加パーム油(融点:54℃)、モクロウ(融点:49〜56℃)、羊脂(融点:44〜55℃)、カルナウバロウ(融点:72〜86℃)、鯨ロウ(融点:42〜52℃)、サトウキビロウ(融点:77〜80℃)、虫白ロウ(融点:80〜83℃)、パームロウ(融点:85〜86℃)、ミツロウ(融点:61〜66℃)、キャンデリラロウ(融点:68〜72℃)、コメヌカロウ(融点:70〜83℃)、ホホバ脂(融点:46〜54℃)などが挙げられる。
【0021】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物において、油脂成分の含有割合は、油脂成分と噴射剤との合計に対して10〜70質量%であることが必要とされ、好ましくは15〜50質量%であり、更に好ましくは20〜40質量%である。
油脂成分が噴射剤の含有割合との関係において、上記の特定の含有割合で含有されていることにより、吐出物として、噴射時における固形状態への形成性に優れると共に、皮膚上において固形状態から徐々に融解する溶融特性を有する、良好な状態のバター状物質を確実に得ることができる。
【0022】
油脂成分の含有割合が過大である場合には、噴射剤の気化熱による冷却作用が小さくなるため、油脂成分の固形化が十分になされず、その結果、吐出物を固形状とすることができなくなる。
一方、油脂成分の含有割合が過小である場合には、吐出物を固形状とすることはできるものの、噴射剤の気化熱による冷却作用が過剰となるため、その固形状の吐出物が非常に冷たいものとなり、皮膚上において極めて短時間のうちに完全に融解してしまうなどの弊害が生じることから、良好な状態のバター状物質が得られなくなる。
【0023】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物には、油脂成分および噴射剤の他、当該組成物の使用目的や用途に応じて種々の添加成分が含有されていてもよい。その具体例としては、例えば香料、界面活性剤、着色剤、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、メントールなどの薬剤、その他が挙げられる。
ここに、任意成分として香料が含有される場合には、その含有割合は、組成物全体に対して0.1〜1質量%であることが好ましい。
また、界面活性剤が含有される場合には、その含有割合は、組成物全体に対して1〜15質量%であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物には、必要に応じて水系の成分を含有させることもできる。
【0025】
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物を構成する噴射剤としては、ジメチルエーテルまたは液化石油ガスが用いられる。
このような液化ガスよりなる噴射剤を用いることにより、油脂成分を溶解させることができ、かつ当該噴射剤と共に油脂成分を噴射させたときに、当該噴射剤の気化熱によって吐出物が固形状となり、その状態で適用対象部位としての皮膚上に付着させることができる。
【0026】
噴射剤としては、ブタン20〜60質量%と、プロパン40〜80質量%との混合液化石油ガスを用いることが好ましい。
このような混合液化ガスを用いることにより、気化熱を利用することによって得られる固形状の吐出物を良好な状態のもの、すなわち所望のバター状物質とすることができると共に、噴射性および油脂成分の溶解性が優れたものとなる、という効果が得られる。
【0027】
噴射剤の含有割合は、前述のように、油脂成分の含有割合との関係から、油脂成分と噴射剤との合計に対して30〜90質量%であることが好ましい。
【0028】
以上の油脂成分および噴射剤により構成される本発明の人体用溶解性油脂エアゾール組成物は、噴射バルブを有する耐圧エアゾール容器内に充填されてエアゾール製品とされる。
【0029】
ここに、耐圧エアゾール容器としては、アクチュエーターとして、泡沫用スパウトが備えられてなるものを用いることが好ましい。
このような泡沫用スパウトを備えたものを用いることにより、この泡沫用スパウトが、内部通路が通常の噴霧用ボタンに比して大きく、拡張室が形成されてなる構成を有し、スパウト内部において内容物の体積拡張を十分に図ることのできるものであるため、吐出物を固形状に噴射させやすくなるという効果が得られる。
【0030】
そして、このエアゾール製品から、その内容物を、適用対象部位としての皮膚上に向けて噴射すると、大気中に放出されることにより噴射剤が気化して噴射され、このときに、噴射剤の気化によって吐出された内容物から熱が奪われるため、当該吐出された内容物を構成する油脂成分は、融点が10〜40℃である油脂物質を主成分とするものであるために、液状の油脂物質が、噴射剤の気化に基づく冷却作用によって固形化されることから、結局、吐出物は固形状態で皮膚上に付着する。
【0031】
また、このようにして吐出されて皮膚上に付着した付着物は、噴射剤の気化熱の作用によって油脂成分が一時的に固形状態とされたものであることから、皮膚の表面温度により、固形状態から一定の時間をかけて徐々に融解されて最終的には液状とされることとなる。
ここに、「皮膚の表面温度」とは、具体的に35〜43℃の温度範囲を示す。この温度範囲には、例えば平常時における人体皮膚表面の温度の他、湯上り時における人体皮膚表面の温度およびマッサージ対象部位の人体皮膚表面の温度などが含まれる。
【0032】
このように、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、噴射剤の気化熱により固形状の吐出物が形成されると共に、当該固形状の吐出物が、平常時における人体皮膚の他、例えば湯上り時における人体皮膚およびマッサージ対象部位の人体皮膚などの適用対象部位としての皮膚上において徐々に融解する溶融特性を有するものである。
【0033】
ここに、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物の有する固形状の吐出物の溶融特性としては、具体的に、温度36℃の条件、すなわち適用対象部位の温度が36℃である場合において、固形状の吐出物が完全に融解して液状とならずに固形物が残存している状態とされている固形状態保持時間が、10秒間以上であることが好ましく、特に30秒間以上であることが好ましい。
本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物がこのような溶融特性を有するものであることにより、ボディーバターとして好適に用いることができる。
【0034】
この固形状の吐出物の溶融特性は、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物を耐圧容器内に充填することによって得られるエアゾール製品を、25℃に設定した恒温槽に30分間浸漬した後、その内容物を、36℃に設定した恒温槽に浸漬した容積20ミリリットルのビーカー内に1g吐出させ、このようにして吐出物を温度36℃で保持した条件下においてその状態を経時的に観察し、固形物が残存している状態とされている時間を測定することによって確認される。
【0035】
このように、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物によれば、特定の融点を有する油脂物質を主成分とする油脂成分が液化ガスよりなる噴射剤に特定の割合で溶解されてなるものであるため、噴射されたときに、噴射剤の気化熱によって油脂成分が一時的に固形化されることから、噴射されたときに固形状態で適用対象部位である皮膚上に付着し、この皮膚上において、速やかに融解することなく、一定の時間をかけて徐々に液状に変化するバター状の吐出物を得ることができる。
【0036】
而して、本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、その剤形がエアゾール剤のものであり、耐圧エアゾール容器内に充填されてエアゾール製品とされるものであることから、気温が高い季節や気温が高い場所においても、冷蔵保管せずとも良好な品質を保持することができるため、環境にかかわらずに簡便に用いることができる。
【0037】
以上のような本発明の人体用溶融性油脂エアゾール組成物は、人体皮膚上の使用目的箇所に直接適用することの他、例えば固形状の吐出物を手のひら上に吐出させ、その吐出物を手のひら上で融解させながら、足裏や毛髪などの使用目的箇所に間接的に適用することによって使用することもでき、例えば湯上りの肌の保湿用、マッサージの際の潤滑油などとして用いられ、また多くの場合においてマッサージするようにして塗られることとなるボディーバターとして好適に用いることができる。
具体的には、例えば保湿剤、日焼け止め剤およびクレンジング剤等のスキンケア剤、およびヘアートリートメント剤などのヘアケア・スキャルプケア剤などとして用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〜9および比較例1〜4〕
表1に示す配合処方に従って、各成分を混合させて原液を調製し、この原液を、ブタン53質量%とプロパン47質量%との混合液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる噴射剤と共に透明の耐圧容器内に充填することにより、エアゾール製品を作製した。
ここに、比較例1は、融点が10℃未満の油脂物質を油脂成分の主成分として用いた場合の例であり、比較例2は、融点が40℃を超える油脂物質を油脂成分の主成分として用いた場合の例である。また、比較例3は、油脂成分が、噴射剤と油脂成分との合計に対して10質量%未満である場合の例であり、比較例4は、油脂成分が、噴射剤と油脂成分との合計に対して70質量%を超える場合の例である。
【0040】
<エアゾール組成物の評価試験>
上記の実施例1〜9および比較例1〜4により調製されたエアゾール組成物の各々について、下記の手法によって油脂成分の噴射剤に対する溶解性、吐出物の噴射時における固形状態への形成性および吐出物の固形状態における溶融性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
(油脂成分の噴射剤に対する溶解性)
実施例および比較例の各々により作製されたエアゾール製品を25℃に設定した恒温槽に30分間浸漬し、耐圧容器内の状態を目視にて観察し、固形分(不溶解物)がまったく残存していない場合を油脂成分が噴射剤に溶解するとして「○」、耐圧容器を振とうすることによって固形分(不溶解物)のすべてを溶解させることができた場合を油脂成分が噴射剤に溶解しにくいが、実用上必要とされる溶解性が得られるとして「△」、耐圧容器を振とうすることによっても固形分(不溶解物)が残存する場合を油脂成分が噴射剤に溶解しないとして「×」と評価した。
ここに、耐圧容器の振とうは、振とう機「RECIPRO SHAKER SR−1N」(TAITEC社製)を用い、振とう方向が横振り、振とう幅が5cm、振とう速度が100往復/分、振とう回数が100往復となる条件で行った。
【0042】
(噴射時における固形状態への形成性)
実施例および比較例の各々により作製されたエアゾール製品を、25℃に設定した恒温槽に30分間浸漬した後、各エアゾール製品の内容物を、36℃に設定した恒温槽に浸漬した容積20mlのガラスビーカー内に1g吐出させ、吐出直後、その吐出物の状態を目視にて確認し、吐出物の全体積を占める固形分の割合が8割以上である場合を良好な固形状態が形成されるとして「○」、吐出物の全体積を占める固形分の割合が5割以上であって8割未満である場合を比較的やわらかいものの、実用上必要とされる固形状態が形成されるとして「△」、吐出物の全体積を占める固形分の割合が5割未満である場合を固形状態が形成されないとして「×」と評価した。
【0043】
(固形状態における溶融性)
実施例および比較例の各々により作製されたエアゾール製品を、25℃に設定した恒温槽に30分間浸漬した後、各エアゾール製品の内容物を、36℃に設定した恒温槽に浸漬した容積20ミリリットルのビーカー内に1g吐出させ、この吐出をしてから固形状の吐出物が完全に融解することなく固形物が残存している状態とされている時間を測定し、固形物が残存している状態とされている固形状態保持時間が30秒間以上である場合、すなわち30秒間以内に完全に融解しない場合を、皮膚上において徐々に融解する溶融特性が得られ、その溶融特性が良好であるとして「○」、固形状態保持時間が10秒間以上であって30秒間未満である場合、すなわち10〜30秒間の間に完全に融解した場合を、皮膚上において徐々に融解する溶融特性が得られ、その溶融特性が実用上問題ないとして「△」、固形状態保持時間が10秒間未満である場合、すなわち10秒間以内に完全に融解した場合を、皮膚上において徐々に融解する溶融特性が得られずに不良であるとして「×」と評価した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1において、融点5℃の「オリーブ油」とは、日光ケミカルズ社製の「NIKKOLオリーブ油」、融点10℃の「アーモンド油」とは、サミット製油社製のもの、融点24℃の「ヤシ油」とは、花王社製の「RCO」、融点33℃の「カカオ脂」とは、大東カカオ社製の「ココアバターD」、融点40℃の「食用油脂」とは、雪印乳業社製の「マーガリン」、融点54℃の「水素添加パーム油」とは、日光ケミカルズ社製の「NIKKOL Trifat P−52」を示す。
【0046】
以上の結果から明らかなように、本発明の各実施例に係るエアゾール組成物によれば、吐出物として、良好な状態のバター状物質が得られることが理解される。
また、実施例8に係るエアゾール組成物においては、油脂成分として、主成分としてのヤシ油と共に高融点油脂物質および低融点油脂物質が含有されており、高融点油脂物質による、噴射時における油脂成分の固形化に係る核形成促進作用と共に、低融点油脂物質による、固形状の吐出物の融解促進作用が得られることから、油脂成分としてヤシ油のみが含有されている実施例2に係るエアゾール組成物に比して、固形状態への形成性および固形状態における溶融性が優れたものとなることが確認された。
【0047】
更に、固形状態における溶融性の評価試験において固形状態保持時間が30秒間以上であることから良好である旨の評価がなされた、実施例2、3および6〜9において作製したエアゾール製品の各々を湯上りの皮膚上に適用したところ、当該皮膚上において徐々に融解し、湯上りの肌の保湿用のボディーバターとして好適なものであることが確認された。なお、実施例2、3および6〜9に係るエアゾール組成物について、各々、固形状態における溶融性の評価試験において、固形状態保持時間が30秒間以上であることを確認した後、更に、吐出物を温度36℃で保持した条件での融解の有無および完全に融解するまでに要する完全融解時間を確認したところ、実施例2においては完全融解時間が1分30秒間、実施例3においては完全融解時間が1分間、実施例6においては完全融解時間が3分間、実施例7においては融解がなされず、実施例8においては完全融解時間が1分20秒間、実施例9においては完全融解時間が2分間であった。
また、実施例1〜8において作製したエアゾール製品は、各々、高温環境下において保管した場合であっても良好な品質が保持されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が10〜40℃である油脂物質を主成分とする油脂成分と、この油脂成分が溶解された液化石油ガスまたはジメチルエーテルよりなる噴射剤とよりなり、
油脂成分の含有割合が、当該油脂成分と噴射剤との合計に対して10〜70質量%であり、
噴射剤の気化熱により固形状の吐出物が形成されると共に、当該固形状の吐出物が皮膚上において徐々に融解するものであることを特徴とする人体用溶融性油脂エアゾール組成物。
【請求項2】
固形状の吐出物が温度36℃の条件において固形物の残存している状態とされている固形状態保持時間が10秒間以上であることを特徴とする請求項1に記載の人体用溶融性油脂エアゾール組成物。
【請求項3】
油脂成分が、融点が10℃未満の油脂物質または融点が40℃を超える油脂物質を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の人体用溶融性油脂エアゾール組成物。
【請求項4】
噴射剤が、20〜60質量%のブタンと、80〜40質量%のプロパンとの混合液化石油ガスよりなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の人体用溶融性油脂エアゾール組成物。