説明

人体部位測定器具

【課題】
骨突出度を定量的に測定できると共に、操作が簡単で初心者でも容易に測定することができる人体部位測定器具を提供することを課題としている。
【解決手段】
略矩形の板状の器具本体11と、器具本体11の向かい合った一対の長辺の中央部に一対の長辺12,12と直交する方向に摺動自在に設けられた長尺体の移動測定子30とを有する人体部位測定器具10であって、少なくとも一方の長辺12、12の両端部には人体の左右の臀筋D,Dに接触することのできる突出部13,13が一つずつ設けられて対峙していると共に、移動測定子30と器具本体11との接触部には、両者の相対的な移動量が確認できる表示部50を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、患者の褥瘡の進行程度を判定及び/又は測定すると共に、褥瘡の予防に必要な有益な情報を得るために仙骨部の突出量を測定する他、人体のむくみ(浮腫)の程度を測定することのできる人体部位測定器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療現場では、長期間臥床を強いられる脳血管系及び脊髄系障害による麻痺、或いは老人性精神障害、老衰、悪性腫瘍の終末期等の自分で体位の変更が不可能又は困難な患者によく見られる褥瘡が問題視されている。
【0003】
褥瘡は、身体の骨突出部で皮膚や皮下の組織が自分の体の重さで圧迫され局所の血流が遮断されるために、その部位の組織が壊死に陥り、皮膚潰瘍を生じたもので、進行したものでは骨組織が露出し治り難い特徴をもっており、床擦れとも称される。
【0004】
褥瘡は、仰臥位の姿勢で長時間療養、介護を受けると仙骨部、踵骨部、後頭部、肩甲部など、骨突出部に荷重の集中する部位に発生する。中でも、人体腰部背面に当たる左右臀筋の間の腰椎の最下部位に位置する略三角形状の仙骨部は、仰臥位で寝たきりの生活を行うことによって、左右臀筋の上部を結ぶ両臀筋線の位置が下がり、両臀筋線より仙骨部が突出し易く褥瘡になり易い。
【0005】
このような褥瘡の進行程度の判定には数種の方法が知られているが、褥瘡発生予防のリスクアセスメントツールの一種であるOH(大浦・堀田)スケールでは、仙骨部の骨突出を危険要因と特定し、褥瘡の進行程度の判定材料としている。
【0006】
仙骨部の骨突出量を測定する方法としては、一般にモアレ法やレーザー光線を利用する方法が知られている他、下記の特開2001−418号公報や特開2003−305024号公報に記載されている仙骨部の骨突出量を測定する骨突出度判定装置が知られている。
【0007】
モアレ法やレーザーを用いる方法は、高価であり、測定に係る費用も高額となるため、介護医療に用いるには適していない。
【0008】
また、特開2001−418号公報に記載されている褥瘡に係る骨突出度検査装置は、図11に示したように、人体背面部における断面外郭線の形状を測定する形状読取り手段100を備えている。形状読取り手段100は、一対の基準子102,102と、両基準子間にそれぞれ均等な間隔で配設される複数の測定子103,103,・・・と、基準子102及び測定子103とを垂直方向に昇降自在に保持する支持手段104と、基準子102及び測定子103に係合すると共に各測定子103の昇降に追従して所定の形状に変化する転写板105と、転写板105に倣い転写板105の形状を描出するために転写板105に隣接して配置される表出手段(図示せず)の保持手段106を備えている。しかしながら、この褥瘡に係る骨突出度検査装置を使用するには、一対の基準子102,102と複数の測定子103,103,・・・を操作することとなり、測定の工程が複雑多岐に亘り、取り扱いが難しく、構造も複雑な大型な装置のため持ち運びも容易でない。
【0009】
また、特開2003−305024号公報に記載されている病的骨突出度判定装置は、図12に示したように、主軸部201と、主軸部201の両端から主軸部201の長さ方向に対して直角かつ同一方向に伸びる二本の脚部202とからなり、両臀筋線からの仙骨部の突出度を判定するためのものであって、主軸部201の長さが140〜200mm、脚部202の長さは15〜25mmであり、使い捨てを目的とした透明プラスチックにより構成されている。この病的骨突出度判定装置においては、簡便な構造であり熟練者以外の人でも容易に測定することができるが、骨突出度を定量的に測定することができない。また、単純な構成であるため安価に製造することができるが、使い捨てのため環境負荷の問題を生じる。
【特許文献1】特開2001−418号公報
【特許文献2】特開2003−305024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
OH(大浦・堀田)スケールにみるように、病的骨突出は概ね3段階に評価できれば一般的な介護医療においては、ほぼその目的を達成できる。しかし、褥瘡と種々の発生要因や治療効果との因果関係を突き詰めるためには、骨突出度を定量的に測定できることが望ましい。
【0011】
そこで、この発明は、骨突出度を定量的に測定できると共に、操作が簡単で初心者でも容易に測定することができる人体部位測定器具を提供することを課題としている。さらに、測定の再現性に優れ、かつ保管及び持ち運びの利便性をも備えた人体部位測定器具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、略矩形の板状の器具本体と、該器具本体の向かい合った一対の長辺の中央部に前記一対の長辺と直交する方向に摺動自在に設けられた長尺体の移動測定子とを有する人体部位測定器具であって、少なくとも前記一方の長辺の両端部には人体の左右の臀部に接触することのできる突出部が一つずつ設けられて対峙していると共に、前記移動測定子と前記器具本体との接触部には、両者の相対的な移動量が確認できる表示部が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、少なくともいずれか一方の前記突出部には、前記移動測定子と平行な方向に移動自在な補助移動測定子を有すると共に、前記補助移動測定子と前記器具本体乃至前記突出部の固定側部材との接触部には、前記補助移動測定子と前記固定側部材との相対的な移動量が確認できる補助表示部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記補助表示部には、前記表示部に表示される最大値を最小値として前記補助移動子の前記突出部からの突出量に応じた値が加算されるようにした指標が施されているとを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の構成に加え、前記移動測定子には、前記一対の対峙した突出部の両方に摺接しながら移動自在となるガイド部材を設けたことを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成に加え、前記一対の対峙した突出部は、前記器具本体の長辺のいずれか一方にのみ設けられており、かつ、前記移動測定子の全長は前記一対の長辺の差し渡し寸法と前記突出部の全長との和と同一寸法に形成されると共に、前記移動測定子の端面が前記一対の長辺のいずれからも突出できるように構成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の構成に加え、前記突出部、前記移動測定子及び前記補助測定子の厚みは、前記器具本体の板厚の寸法内に収められていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、略矩形の板状の器具本体と器具本体から突出した突出部とからなる固定側部材と、器具本体に摺動自在に設けられた長尺体の移動測定子といった二つの部材からなるものであるため、安価に製造することができる。また、測定作業者は、人体の左右の臀部に左右の突出部を宛うようにして接触させることで、両臀筋線と仙骨部に接触させた移動測定子の測定部との高低差により骨突出の度合いが表示部に表示されるから、初心者でも容易に骨突出の度合いを定量的に測定できる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の構成による効果に加え、移動測定子の移動限界に達したときに、補助移動測定子を使用することにより、測定可能範囲が拡大される。したがって、移動測定子の全長を器具本体の長辺の差し渡し寸法と突出部の全長との和と等しいものとした場合に、不使用時には、所定の測定寸法から補助移動測定子の突出部からの突出寸法分だけ小さなものとなり、測定器具自体の保管や持ち運びの利便性が向上する。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の構成による効果に加え、補助表示部には、移動測定子の最大移動量と補助移動測定子の移動量との和の値が表示されるので、移動測定子の最大移動量に補助移動測定子の移動量を足し算する手間が省けるだけでなく、計算間違いを起こすこともなく、素早く正確な測定作業を行うことができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の構成による効果に加え、突出部とガイド部材との案内作用により移動測定子の器具本体に対する摺動運動が円滑に行われるため、移動測定子の移動操作が無理なく実行されるから、測定器具を変形するような応力の発生を抑えることとなり、長期に渡って測定精度を維持することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成による効果に加え、突出部を設けていない側の器具本体の長辺を人体の左右の臀部に宛うようにして接触させて、移動測定子を仙骨部に接触させることにより、人体の左右の臀部に接触している器具本体の長辺から仙骨部までの凹みの深さを測定することができる。また、器具本体の長辺を人体の他の部位に宛うことで、臀部以外の箇所の凹みの深さを測定することができるので、例えば、浮腫検査時の指圧痕の深さを定量的に測定することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の構成による効果に加え、突出部、移動測定子及び補助測定子といった器具本体以外の構成部材のすべてが器具本体の板厚寸法内に収められているから、板厚方向に嵩張ることがない。そのため、測定器具自体の保管が容易で携帯に便利なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[発明の実施の形態1]
【0025】
この発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具を図1乃至図4に示す。
【0026】
この発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具10は、図1の正面図に示すように、正面視の外形が略矩形の板状の器具本体11と、器具本体11の向かい合った一対の長辺12,12の中央部に長辺12,12と直交する方向に摺動自在に設けられた移動測定子30とを有し、一方の長辺12の両端部には人体の左右の臀部D,Dに接触することのできる突出部13が一つずつ設けられ、長辺12を挟んで一対の突出部13,13が対峙した状態に配置されている(図1では下方に突出している)。なお、図1に示した発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具10では、移動測定子30の中心線を中心として左右対称の形状としている。
【0027】
突出部13,13は、器具本体11と一体に同じ板厚で構成されており、突出部13,13の先端には、図4の使用状態を示す正面図に示したように、人体の左右の臀部D,Dに接触することのできる平坦な当接部14を備えている。
【0028】
ここで、突出部13,13は器具本体11と一体に形成することに限定されるものではなく、着脱自在であってもよく、また形状も板状の矩形に限定することなく、使用態様に応じて角柱や円柱などの任意の形状を採用してもよい。なお、図示した突出部13,13の当接部14の先端は平坦なものとしたが、これに限らず、先端の一部を外側に向けて突出させた山形の形状を採用してもよい。この場合、山形の頂点を突出部13,13の内側、中央部、外側のどの位置にするかは、突出部13,13の形状に応じて山形の頂点が人体の左右の臀部D,Dとの接触する状態を勘案して決定すればよい。
【0029】
器具本体11は、図2の平面図に示すように、表面を構成する第1層11aと、中間部を構成する第2層11bと、裏面を構成する第3層11cとで構成されている。
【0030】
図3は、器具本体の第1層を取り外した状態を示した正面図である。
【0031】
器具本体11の第2層11bには、図3に示したように、器具本体11の長辺12,12の中央部に長辺12,12と直交する方向に移動測定子30を摺動自在に収容する凹部からなる測定子案内部15が第2層11bの板厚方向を貫通するように形成されている。
【0032】
図示した器具本体11は、積層された3層構造により形成されているが、必要に応じて、第1層と第2層、又は第2層と第3層を一体に形成してもよいし、第1層乃至第3層の全体を部分的又は全体的に一体に構成することも可能である。
【0033】
さらには、器具本体11の外表面部に溝を設けて、この溝内で移動測定子30が摺動するようにするか、又は、器具本体11の板厚方向を跨いで摺動するように移動測定子30の形状を変更することも可能である。
【0034】
図3に示した移動測定子30は、縦長の十字架形状を呈しており、縦長の長方形部の測定子本体32と、測定子本体32の長さ方向の中央部で直角方向に左右に突出させた係止部33が形成されている。移動測定子30の長手方向の両端には仙骨部Sに接触する当接部31を備えている。また、移動測定子30の全長Iは、器具本体11の一対の長辺12,12の差し渡し寸法Bと突出部13,13の高さhを合わせた寸法と同一寸法に調整されている。そのため、器具本体11に対して移動測定子30の係止部33の下端が後述する係止受部16に当接する移動測定子30の最下位置で、移動測定子30の当接部31の端面と突出部13の当接部14の端面とが同一直線上に揃うようになっている。
【0035】
移動測定子30は、器具本体11の第2層11bの板厚と略同一の厚さに形成されており、器具本体11の第2層11bの長辺12,12の中央部に設けた、測定子案内部15に摺動自在に収容されている。
【0036】
測定子案内部15は、移動測定子30の係止部33の左右の端面部と接する幅寸法より僅かに大きい間隔と一対の長辺12,12の差し渡し寸法Bより短い寸法からなる矩形の幅広部17を備えると共に、測定子本体32が通過する幅寸法の間隔を有する切欠部17a,17aを備えている。切欠部17a,17aは、図3に示したように、器具本体11の一対の長辺12,12と直交するように上下方向に配置されている。切欠部17a,17aは、器具本体11を構成する第1層11a、第2層11b及び第3層11cとを組み合わせた場合には、図2の平面図に示すように、移動測定子30の案内をするガイド孔18として現れる。
【0037】
さらに、図3において、器具本体11の第2層11bには、移動測定子30の係止部33と係止する係止受部16が、測定子本体32部が通過する切欠部17a,17aの両側に延出するように形成されている。つまり、係止受部16に移動測定子30の係止部33が係止することで、器具本体11から移動測定子30が勝手に抜け落ちることを防止している。これにより、移動測定子30を器具本体11に対して強く出し入れするような操作をしても、移動測定子30が器具本体11から離脱するようなことがないので、安心して測定作業を行うことができる。
【0038】
表示部50は、図4(b)に示したように、器具本体11の一対の長辺12,12の上側の長辺12部を指標51として、移動測定子30の測定子本体32の長手方向に設けた目盛52とで構成されている。
【0039】
このようにして構成した表示部50により、指標51と一致する目盛52の数値を目視することで、移動測定子30の移動量を読み取ることができる。これにより、人体の左右の臀部D,Dに接触する突出部13の当接部14と仙骨部Sに接触する移動測定子30の当接部31との距離を表す数値(骨突出量)により定量的に測定することができる。
【0040】
器具本体11、突出部13、移動測定子30、及び後述する補助移動測定子40は、それぞれ適宜選択される材料により形成することができるが、硬質の素材を用いて堅固に製作する場合には、人体の左右の臀部D,Dに接触する突出部13の当接部14や仙骨部Sに接触する移動測定子30の当接部31といった人体部位と接触する部分に、シリコンゴム、ウレタンゴム等のゴム系、ポリウレタン、軟質プラスチック等の樹脂系等で被覆することにより、人体に対する刺激を少なくすることが好ましい。
【0041】
以上のように構成された発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具10の具体的な寸法は、OH(大浦・堀田)スケールにならい、例えば、移動測定子30の中心(人体部位測定器具10の中心)から左右の突出部13,13の内側までの距離Kがそれぞれ80mm、突出部13,13の高さhは40mmに設定することが望ましい。各構成部材が以上のような寸法に調整された発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具10よれば、0〜40mmの仙骨部Sの骨突出量を測定することができる。
【0042】
次に、以上のような構成を有する実施の形態1に係る人体部位測定器具を用いて骨突出量を測定する方法について説明する。
【0043】
発明の実施の形態1に係る人体部位測定器具10によれば、図4に示すように、俯せになった患者の仙骨部Sと左右臀筋D,Dの上部を結ぶ線分上に、器具本体11に対して移動測定子30を最下部まで突出させた状態の人体部位測定器具10を持っていき、仙骨部Sを中心にして左右臀筋D,Dの上部に突出部13,13の当接部14の端面を接触させることで、両臀筋線Xから仙骨部Sまでの距離を測定することができる。
【0044】
つまり、図4(a)に示したように、患者が正常に近い状態の場合には、両臀筋線Xより仙骨部Sが凹んでいるので、移動測定子30の当接部31が仙骨部Sに接触することがない。
【0045】
他方、図4(b)に示したように、褥瘡の患者又は褥瘡のおそれのある患者の場合には、仙骨部Sが左右臀筋D,Dの上部より飛び出た状態にあるため、仙骨部Sに接触している移動測定子30の当接部31は器具本体11側に押し込まれることになり、左右の突出部13,13の当接部14,14が左右臀筋D,Dの上部に接触した位置で、移動測定子30が停止する。このとき、移動測定子30が器具本体11に押し込まれた寸法と同じ寸法だけ移動測定子30の上部側の測定子本体32が器具本体11の長辺12から突出することとなる。
【0046】
これにより、器具本体11の上部側の長辺12が移動測定子30の測定子本体32に設けられている目盛52と接している箇所を目視することで、仙骨部Sと両臀筋線Xとの距離、つまり、両臀筋D,Dの上部からの骨突出量Zを読み取ることができる。
【0047】
以上のような人体部位測定器具10によれば、長辺12の中央部にある移動測定子30を仙骨部Sに宛うようにして使用するため、自動的に仙骨部Sを基準として左右に等距離だけ隔てた位置にある突出部13の当接部14が左右臀筋D,Dの上部に接触することとなる。
【0048】
また、実施の形態1に係る人体部位測定器具10では、器具本体11が板状体からなると共に、移動測定子30が器具本体11の長辺12と直交する方向に摺動可能な長尺体からなり、突出部13、移動測定子30といった器具本体11以外の構成部材のすべてが器具本体11の板厚寸法内に収められているから、板厚方向に嵩張ることがない。したがって、測定器具自体を薄く構成することができる。さらに、移動測定子30を最下部の位置まで移動した場合であっても、器具本体11と一対の突出部13,13と構成される外郭線内に移動測定子30が収まっているため、全体として小型で携帯し易いものとなっている。
【0049】
[発明の実施の形態2]
【0050】
この発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具を図5乃至図8に示す。
【0051】
この発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具10は、図5に示したように、器具本体11の一方の突出部13には、移動測定子30と平行な方向に移動自在な補助移動測定子40を有し、補助移動測定子40と器具本体11との接触部には、器具本体11と補助移動測定子40の先端部42との相対的な移動量が確認できる補助表示部53が設けられている。
【0052】
突出部13,13は、左右の高さ寸法が異なる寸法に形成されている。つまり、図5において、左側の突出部13よりも、右側の突出部13の高さが低く形成されている。つまり、右側の突出部13の下端部には補助移動測定子40の略矩形状の先端部42が突出する高さ寸法分、右側の突出部13は低く形成されており、左側の突出部13の高さ寸法と、右側の突出部13と先端部42の高さ寸法とを合わせた高さとが同じ高さに形成されている。
【0053】
以上のように構成されたこの発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具10を使用する場合は、後述する、図8(b)の人体部位測定器具の使用状態図において、左側の突出部13の当接部14の端面を左側の臀筋Dに接触させて、右側の突出部13の先端部42の当接部44の端面を右側の臀筋Dに接触させて両臀筋D,Dの上部からの骨突出量を測定する。
【0054】
表示部50は、図5に示したように、移動測定子30の測定子本体32の前面側に器具本体11の第1層11aを貫通させて案内窓23を形成している。案内窓23の長手方向に沿って目盛52が設けられ、目盛52の一部には数字が付されている。さらに、移動測定子30の長さ方向の中央部に指標51を備えた凸部とからなる指標部材34が設けられている。これにより、器具本体11に設けた目盛52と、指標51とで構成される表示部50により、指標51と一致する目盛52の数字を目視することで、移動測定子30の移動量を読みとることができる。
【0055】
ここで、指標部材34は必ずしも凸部に形成することなく、指標51を測定子本体32に直接設けてもよい。このように構成された表示部50においては、この発明の実施の形態1の表示部50と同様の効果が得られると共に、構造を簡単にすることができる。
【0056】
補助表示部53は、図5において、器具本体11の長辺12の右側端部に縦方向に目盛54が設けられ、目盛54の一部には数字が付されている。操作片43には指標55が設けられている。器具本体11の目盛54と、操作片43の指標55とで補助表示部53が構成されている。補助表示部53の目盛54には、表示部50に表示される最大値(2cm)を最小値(2cm)として先端部42の突出部13からの突出量に応じて大きくなる数値が記載されている。これにより、操作片43の指標55が示す目盛54上の数値を読むことで、移動測定子30の最大移動量と補助移動測定子40の移動量とを加算した値を知ることができる。したがって、頭の中で移動測定子30と補助移動測定子40の移動量を加算するような手間がいらず、計算間違いによる測定ミスがなくなる。なお、補助表示部53を背面側にも設ける(図示せず)ようにすれば、正面側及び背面側から測定結果を目視することができるので、利便性を一層向上させることができる。
【0057】
また、器具本体11の突出部13を設けていない側の長辺12部に沿って、正面側、或いは、背面側の少なくとも一方の面に、褥瘡の直径等を数値として計測するための目盛56を設けてもよい。これにより、褥瘡の大きさを測定することができる。
【0058】
図6は、器具本体の第1層を取り外した状態を示した正面図である。
【0059】
器具本体11の第2層11bには、図6において、右側の突出部13の中央部に移動測定子30と平行な方向に補助移動測定子40を摺動自在に収容する凹部からなる補助測定子案内部20が器具本体11の第2層11bの板厚方向を貫通するように形成されている。補助測定子案内部20は、補助移動測定子40の測定子本体41の左右の端面部と接する幅寸法より僅かに大きい横幅で突出部13内に形成された長方形状の補助測定子ガイド部24と、補助測定子ガイド部24の上部に延設され器具本体11の右側の端部に達する拡幅された凹部が形成されている。
【0060】
器具本体11を構成する第1層11a、第2層11b、及び第3層11cを組み合わせた場合には、第2層11bの器具本体11の側面部に補助移動測定子40の操作片43が上下方向に移動量を規制する大きさをした開口部22が存在する。
【0061】
補助移動測定子40は、図6において、縦長の長方形部の測定子本体41と、測定子本体41の長さ方向の下端部に設けた突出部13とほぼ同じ幅の矩形状の先端部42と、測定子本体41の長さ方向の上端部に突出させた操作片43とで形成されている。また、補助移動測定子40は、器具本体11の第2層11bの板厚と略同一の厚さに形成されており、先端部42には、左右の臀筋D,Dのいずれか一方の臀筋Dと接触する平坦面を有する当接部44を備えている。
【0062】
そして、補助移動測定子40に設けられている操作片43は、器具本体11の開口部22の上部面及び下部面のそれぞれの係止受部21a,21bに操作片43の上部面及び下部面が係止することにより、補助移動測定子40の上下方向の移動を規制すると共に、補助移動測定子40が器具本体11から離脱することを防止している。
【0063】
ここで、器具本体11と一対の突出部13,13とで構成される外郭線から突出している部分の操作片43及び先端部42の板厚は器具本体11及び突出部13と同じ板厚にしてもよい。
【0064】
図7は、この発明の実施の形態2の補助表示部の変形例を示している。
【0065】
この変形例では、補助表示部53を表示部50と同様に補助移動測定子40の測定子本体41の前面側に設けて、器具本体11の第1層11aを貫通させて案内窓23を形成している。案内窓23に接するようにその長手方向に沿って目盛54を設け、目盛54の一部には数字が付されている。これにより、器具本体11の外郭線から突出する操作片43がなくなるため、測定器具自体の美観を向上させることができる。この変形例の場合には、右側の突出部13から補助移動測定子40を出し入れする際の操作は、案内窓23から露出している指標部材34、或いは先端部42を動かすことで可能となる。
【0066】
次に、以上のような構成を有するこの発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具を用いて骨突出量を測定する方法について説明する。
【0067】
この発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具によれば、図8(a)、(b)に示すように、俯せになった患者の仙骨部Sと左右臀筋D,Dの上部を結ぶ線分上に、器具本体11に対して移動測定子30を最下部まで突出させた状態の人体部位測定器具10を持って行く。そして、仙骨部Sを中心にして左右いずれかの臀筋Dの上部に補助移動測定子40を備えていない方の突出部13の当接部14の端面を接触させる。次に、他方の臀筋Dの上部に他方の突出部13に備えられている補助移動測定子40の先端部42の当接部44の端面を接触させることで両臀筋線Xから仙骨部Sまでの距離Z1+Z2を測定することができる。
【0068】
図8(a)に示したように、褥瘡の患者又は褥瘡のおそれがある患者の場合には、仙骨部Sが左右の臀筋D、Dの上部より飛び出た状態にあるため、仙骨部Sに接触している移動測定子30の当接部31は器具本体11側に押し込まれることになる。つまり、図8(a)に示したように、左側の突出部13の当接部14の端面が左の臀筋Dに接触させ、右側の補助移動測定子40の先端部42の当接部44の端面が右の臀筋Dの上部に接触した位置で、移動測定子30が停止する。そして、移動測定子30が器具本体11に押し込まれた寸法と同じ寸法だけ移動測定子30の指標51部が移動するので、器具本体11の目盛52と指標51が一致する箇所を目視することで、仙骨部Sと両臀筋線Xとの距離、つまり、両臀筋D,Dの上部からの骨突出量Zを読み取ることができる。
【0069】
次に、図8(b)に示したように、図8(a)よりさらに褥瘡が進行している患者の場合には、さらに、右側の操作片43により補助移動測定子40を押し下げて先端部42の当接部44を右の臀筋Dの上部に接触するまで移動させる。これにより、補助移動測定子40が移動した寸法と同じ寸法分だけ補助移動測定子40の指標55部が移動するので、この時の指標55部と目盛54が一致する箇所を目視することで、仙骨部Sと両臀筋線Xとの距離、つまり、両臀筋D,Dの上部からの骨突出量Z1+Z2を読み取ることができる。このとき、補助移動測定子40の表示部53では、移動測定子30の最大移動量に補助移動測定子40の移動量が加算された数値として骨突出量Z1+Z2を読み取ることができる。
【0070】
また、図8(c)に示すように、左右臀筋D,Dの上部を結ぶ線分上に仙骨部Sが突出していない患者の場合には、突出部13側を上方に向けて、突出部13,13がない方の長辺12部を左右臀筋D,Dの上部に接触させるようにして使用する。そして、移動測定子30を押し下げて当接部31を仙骨部Sに接触させて、器具本体11の目盛52と指標51が一致する箇所を目視することで、両臀筋線Xより仙骨部Sまでの凹みの深さYを読み取ることができる。
【0071】
以上のような構成を有するこの発明の実施の形態2に係る人体部位測定器具10によれば、補助移動測定子40を設けたことにより、左右の突出部13,13の高さを低くすることができる。これにより、補助移動測定子40を備えていないものに比べて、人体部位測定器具10の全高を低く抑えることができるので、より小型化をすることができる。したがって、より携帯し易く、かつ保管し易いものとなる。
【0072】
その他、この発明実施の形態1と同一の構成部材には同一符号を付して、その構成及び使用方法の説明を省略する。
【0073】
[発明の実施の形態3]
【0074】
この発明の実施の形態3に係る人体部位測定器具を図9及び図10に示す。
【0075】
この発明の実施の形態3に係る人体部位測定器具10は、図9に示したように、移動測定子30には、一対の対峙した突出部13,13の両方に摺接しながら移動自在となるガイド部材35とが設けられている。
【0076】
移動測定子30は、図10に示すように、細長い略長方形の板状の器具本体11の向かい合った一対の長辺12,12の中央部に摺動自在に設けられた長方形状に形成された測定子本体32の下端部に、測定子本体32と直角方向に左右に延設された帯状のガイド部材35を有している。このガイド部材35は、対峙する突出部13,13の内側の寸法より僅かに長い寸法に形成されており、ガイド部材35の長手方向両端部の下端部を僅かに切欠いて係止部36,36が形成されている。
【0077】
突出部13,13は、図10に示すように、突出部13の第2層11bを貫通させた凹部からなるガイド溝19,19が突出部13,13の高さ方向のほぼ全長に渡り、突出部13,13の内部側に開口するように形成されている。突出部13,13の下端部にはガイド溝19,19を幅方向に閉鎖する形で下部側の係止受部25,25が形成されている。上部側の係止受部26,26は、器具本体11の第2層1bの下側の長辺12と同一直線上に形成されており、ガイド部材35の上面が当接するようになっている。
【0078】
したがって、ガイド部材35の長手方向の両端部は、突出部13,13の第1層11aと第3層11cに挟まれる形でガイド溝19,19内を上下移動できるようになっている。そして、突出部13,13の下端部の係止受部25,25に、ガイド部材35の下面の係止部36,36が当接して下方の移動を規制する。
【0079】
これにより、移動測定子30の上下方向への移動を規制すると共に、器具本体11から移動測定子30が離脱するのを防止している。
【0080】
以上のように構成されたこの発明の実施の形態3に係る人体部位測定器具10は、突出部13,13のガイド溝19,19と、ガイド部材35との案内作用により移動測定子30の器具本体11に対する摺動運動が円滑に行われる。これにより、移動測定子30の移動操作が無理なく実行されるから、測定器具を変形するような応力の発生が抑えられることとなり、長期に渡って測定精度を維持することができる。
【0081】
また、移動測定子30は、測定子本体32の形状及び構造を、額縁形状、格子形状、三角形状などの任意の形状を適宜選択したり、測定子本体32に対応させた適宜な形状のガイド部材35、例えば、ガイド部材35部分の面積を大きくすることなどで、剛性を向上させることにより、移動測定子30の形状の変形を防止することができる。
【0082】
なお、この発明の実施の形態1乃至3に係る人体部位測定器具10は、突出部13側を上方に向けて、突出部13,13がない方の長辺12部を下にした状態で器具本体11を人体に接触させるようにした場合には、移動測定子30を押し下げて当接部31を人体の一部の窪んだ部分に接触させることで、移動測定子30の移動量によりその箇所の窪みの深さを知ることができる。さらに、器具本体11の突出部13を設けていない側の長辺12部に設けている目盛56によって窪みの大きさを測定することができる。これにより、この発明の実施の形態1乃至3に係る人体部位測定器具10によれば、指圧痕の深さと大きさを測定することで人体のむくみ(浮腫)の程度をも測定することが可能である。
【0083】
その他、この発明の実施の形態1又はこの発明の実施の形態2と同一の構成部材には同一符号を付して、その構成及び使用方法の説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】この発明の実施の形態1の人体部位測定器具を示した正面図である。
【図2】同実施の形態1の人体部位測定器具を示した平面図である。
【図3】同実施の形態1の器具本体の第1層を取り外した状態を示した正面図であり、(a)は移動測定子が下限に達した状態を示し、(b)は移動測定子が上限に達した状態を示している。
【図4】同実施の形態1の人体部位測定器具の使用状態図であり、(a)は仙骨部が突出していない人体への使用状態を示し、(b)は仙骨部が中程度突出した人体への使用状態を示している。
【図5】この発明の実施の形態2の人体部位測定器具を示す正面図である。
【図6】同実施の形態2の器具本体の第1層を取り外した状態を示す正面図である。
【図7】同実施の形態2の補助表示部の変形例を示す正面図である。
【図8】同実施の形態2の人体部位測定器具の使用状態図であり、(a)は仙骨部が中程度突出した人体への使用状態を示し、(b)は仙骨部が高度に突出した人体への使用状態を示し、(c)は仙骨部が突出していない人体への使用状態を示している。
【図9】この発明の実施の形態3の人体部位測定器具の使用状態図であり、(a)は仙骨部が突出していない人体への使用状態を示し、(b)は仙骨部が中程度突出した人体への使用状態を示している。
【図10】同実施の形態3の器具本体の第1層を取り外した状態を示す正面図であり、(a)は移動測定子が下限に達した状態を示し、(b)は移動測定子が上限に達した状態を示している。
【図11】従来技術の褥瘡に係る骨突出度検査装置を示す斜視図である。
【図12】従来技術の病的骨突出度判定装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0085】
D 臀筋
S 仙骨部
10 人体部位測定器具
11 器具本体
12 長辺
13 突出部
14 当接部
30 移動測定子
40 補助移動測定子
50 表示部
51,55 指標
52,54 目盛
53 補助表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形の板状の器具本体と、該器具本体の向かい合った一対の長辺の中央部に前記一対の長辺と直交する方向に摺動自在に設けられた長尺体の移動測定子とを有する人体部位測定器具であって、少なくとも前記一方の長辺の両端部には人体の左右の臀部に接触することのできる突出部が一つずつ設けられて対峙していると共に、前記移動測定子と前記器具本体との接触部には、両者の相対的な移動量が確認できる表示部が設けられていることを特徴とする人体部位測定器具。
【請求項2】
少なくともいずれか一方の前記突出部には、前記移動測定子と平行な方向に移動自在な補助移動測定子を有すると共に、前記補助移動測定子と前記器具本体乃至前記突出部の固定側部材との接触部には、前記補助移動測定子と前記固定側部材との相対的な移動量が確認できる補助表示部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の人体部位測定器具。
【請求項3】
前記補助表示部には、前記表示部に表示される最大値を最小値として前記補助移動子の前記突出部からの突出量に応じた値が加算されるようにした指標が施されていることを特徴とする請求項2に記載の人体部位測定器具。
【請求項4】
前記移動測定子には、前記一対の対峙した突出部の両方に摺接しながら移動自在となるガイド部材を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の人体部位測定器具。
【請求項5】
前記一対の対峙した突出部は、前記器具本体の長辺のいずれか一方にのみ設けられており、かつ、前記移動測定子の全長は前記一対の長辺の差し渡し寸法と前記突出部の全長との和と同一寸法に形成されると共に、前記移動測定子の端面が前記一対の長辺のいずれからも突出できるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の人体部位測定器具。
【請求項6】
前記突出部、前記移動測定子及び前記補助測定子の厚みは、前記器具本体の板厚の寸法内に収められていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の人体部位測定器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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