説明

人工授粉用噴霧器

【課題】液体受粉法に使用される噴霧器は専用の噴霧器がなく、市販の噴霧器が活用されているが、噴霧させるために花粉を混和した液体に高圧力をかけるため、発芽率の低下を及ぼしている。
【解決手段】花粉を混和した液体を貯蔵するタンクと電源としての電池とこの電池を駆動源とするモータ及びこのモータにより駆動し空気を排出するポンプとポンプに連接されオリフィスを有した噴霧部とオリフィスに対して一定の角度で交わりタンク内に一端を開放した筒体とを有し、ポンプが空気を排出する際にオリフィス部が負圧となりタンク内の液体を吸い上げ、0.3MPa以下の圧力で空気とともに液体が噴霧部から放出することを特徴とする人工授粉用噴霧器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹の人工授粉用噴霧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、果樹の人工授粉において、作業性・受粉効率の向上を目的とした溶液受粉法が取り入れられている。これは花粉と液体を混和し、花粉をめしべに噴霧し人工授粉させる方法である。現状では、資材価格等の問題により広く普及されておらず、そのため専用の散布装置がなく、市販の噴霧器が活用されている。市販の噴霧器は大別して、手動式と電動式がある。以下従来の手動式及び電動式噴霧器の一例を説明する。
【0003】
従来の手動式噴霧器を図3に示す。図3においてタンク301は花粉を混和した液体を貯蔵するものであり、その上方には密封状態で手押し式加圧ポンプ302を備えており、ピストンおよびシリンダを有してタンク内を加圧する。また安全弁303はタンク内の過剰な圧力を外へ逃がす弁であり、ノズル304は液体を噴霧する噴霧部である。連結ホース305はノズル304とタンク301を連結するものであり、開閉弁306はタンク301と連結ホース305の連通の開閉を調整する。
【0004】
以上のように構成された従来の手動式噴霧器において、以下その動作について説明する。まず、タンク301内に液体を貯蔵したのち、安全弁303及び開閉弁306を閉じ、タンク301の密閉を保つ。その後、手押し式加圧ポンプ302を手動にて上下操作することによりタンク301内の圧力を上昇させる。タンク301内の液体に所定の圧力がかかった後、開閉弁306を開くと、液体が連結ホース305を通過してノズル304の先端から噴霧されるとともに、タンク301内の圧力は液体の減少とともに次第に下がっていく(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、他の方法として図4に示すような電動式噴霧器がある。図4においてタンク401は液体を貯蔵するものであり、ポンプ402は液体を吸い込む吸い込み部と加圧した液体を排出する排出部を備えており、ホース403はポンプ402の吸い込み部に連結されている。またモータ404は前記ポンプ402を作動させ、スイッチ405はこのポンプを作動させるための電源(図示せず)をオン、オフさせるためのものであり、圧力ホース406はポンプ402によって加圧された液体をノズル(図示せず)に導くためのものである。電動式においてポンプ402はギヤポンプが主流である。
【0006】
以上のように構成された従来の電動式噴霧器において、以下その動作について説明する。タンク401に液体を貯蔵したのち、スイッチ405をオンにしてモータ404を作動させるとポンプ402はホース403を通して液体を吸い上げ、ポンプ402にて加圧した液体を、圧力ホース406を通過して噴霧する。スイッチ405をオフにするとモータ404は作動を停止して、液体に加えられた圧力は開放される。(例えば特許文献2参照)
【特許文献1】特開2004−68893号公報
【特許文献2】特開昭58−44030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この従来の手動式や電動式の噴霧器は、噴霧するために液体に圧力をかけるため、花粉自体にも圧力がかかる。しかも、液体は花粉の柱頭への付着を向上させるために粘性を上げているので、噴霧させるためにはより高い圧力をかける必要がある。従
来の手動式や電動式の噴霧器では噴霧に必要な圧力は0.3MPaである。しかし、圧力0.3MPaもかかってしまうと花粉がつぶれてしまう。また電動式の場合、液体の輸送にギヤポンプを使用しているため、圧力以外でもポンプ内を液体が通過する際にギヤの間にはさまれて花粉がつぶされる。そのため、花粉の柱頭への付着率を上げても、花粉が正常に作用せず受粉できないという課題を有していた。さらに、溶液受粉にて果樹の人工授粉をさせる場合、長時間腕を上げての作業となるので、軽量のノズルが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の課題を解決するために、花粉を混和した液体を貯蔵するタンクと電源としての電池と電池を駆動源とするモータにより駆動し空気を排出するポンプとポンプに連接されオリフィス及び噴霧口を有した噴霧部と噴霧部に対して一定の角度で交わりタンク内に一端を開放した筒体とを有した構成としている。
【0009】
本発明のポンプが空気を排出する際にオリフィスが負圧となりタンク内の液体を吸い上げ、液体が噴霧口から放出することによりポンプ内を通過させることなく、かつ密閉状態を取らないため0.3MPaの高い圧力をかけることなく噴霧できる。さらに、タンクがオリフィス部近傍の小型タンクと一定の距離を置いた大型タンクとに分離し、大型タンクと小型タンクがホースで連結されるとともに、大型タンクから小型タンクへ0.3MPa未満の低圧で輸送する液体輸送ポンプを有することにより、手元が軽量化され、作業効率を上げることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、液体及び花粉に高圧をかけることなく、液体噴霧が可能となるので、花粉のつぶれによる発芽率の低下をおよぼすことがなくなる人工授粉に適した噴霧器となる。また、持ち手部分の軽量化により、使い勝手の良い人工授粉に適した噴霧器となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施形態1における果樹の人工授粉用噴霧器の断面図である。図1において、タンク101は花粉を混和した液体を貯蔵するものである。電池102は電源であり、モータ103は電池102を動力源として作動し、ポンプ104はモータ103により駆動され空気を排出する。スイッチ105は押圧している期間だけモータ103に電圧が印加され、ポンプ104を作動させる。ポンプ104に連接されている噴霧部107はオリフィス106と噴霧口111で構成され、オリフィス106がポンプ104側に配置されている。ポンプ104から押し出された空気はこのオリフィス106を通過して噴霧口111から放出される。本体108はこれら電池102、モータ103、ポンプ104、スイッチ105、オリフィス106及び噴霧口111を有した噴霧部107を内蔵している。本体108とタンク101は花粉を混和した液体を給水する際は取り外しできるように嵌着されており、かつタンク101内は密閉状態ではなく、空気の出入りが可能となっている。筒体109は一端が噴霧部107と連接され、他端はタンク101内に開放されている。フィルター110は筒体109のタンク101側に連接されており、攪拌しきれなかった花粉が筒体109内に侵入するのを防ぐことができる。
【0013】
以上のように構成された果樹の人工授粉用噴霧器について、図1を用いてその動作を説明する。まずタンク101に花粉を混和した液体を入れた後、本体108と嵌着させる。次にスイッチ105を押圧すると電池102より電源が供給されモータ103が回転し、ポンプ104を作動させ空気が噴霧部107に有したオリフィス106を通過して噴霧口111から放出される。この空気がオリフィス106を通過する際に流速が速められるこ
とにより、筒体109が負圧となりフィルター110を通してタンク101内の液体が吸い上げられる。この際、フィルター110は液体に均一に混和されなかった花粉をせき止めるため、オリフィス106に通じる筒体109の一部を花粉で目詰まりさせる頻度を下げることができる。そして、吸い上げられた液体はポンプ104によって送られてきた空気に吹き飛ばされて噴霧口111から空気とともに放出される。スイッチ105の押圧をやめると電池102から電源の供給が遮断されモータ103の回転が止まり、噴霧も停止する。これにより、液体および花粉に高圧をかけることなく、またポンプ内に液体を通過させることがないため機械的な花粉のつぶれを防ぎ、花粉のつぶれによる発芽率の低下を防ぐという特有の効果を有する。
【0014】
(実施の形態2)
図2は本発明の実施形態2における果樹の人工授粉用噴霧器の断面図である。図2において、人工授粉用噴霧器は本体部201と手元操作部202の大きく2部で構成されている。大型タンク212は花粉を混和した液体を貯蔵するものである。電池207は電源であり、サブモータ206はこの電池207を動力源としている。ポンプ205はサブモータ206により駆動し空気を排出する。液体輸送ポンプ213は大型タンク212に貯蔵した液体を輸送するためのものであり、メインモータ214は電池207を動力源として液体輸送ポンプ213を駆動する。216はメインスイッチであり押圧するとメインモータ214に電圧が印加され、液体輸送ポンプ213を作動させる。本体ケース203はこれら電池207、サブモータ206、ポンプ205、液体輸送ポンプ213及びメインモータ214を内蔵している。本体ケース203と大型タンク212は花粉を混和した液体を給水する際は取り外しできるように嵌着されており、かつ大型タンク212は密閉状態ではなく、本体ケース203との間で空気の出入りが可能となっている。吸い込みチューブ211の一端は液体輸送ポンプ213の吸入口につながっており他端は大型タンク212内にて開口している。本体部201は大型タンク212および本体ケース202から構成されている。
【0015】
噴霧部215はオリフィス209と噴霧口221から構成されており、空気輸送チューブ210はポンプ205とオリフィス209を連結しており、ポンプ205から排出された空気はこのオリフィス209を通過して噴霧部215から放出される。サブスイッチ208は押圧している期間だけサブモータ206に電圧が印加され、ポンプ205を作動させる。手元ケース220はサブスイッチ208、噴霧部215を内蔵している。小型タンク204は手元ケース220と取り外し自在に嵌着されており、小型タンク204内は密閉状態ではなく、空気の出入りが可能になっている。筒体218の一端は噴霧部215に連接され、他端は小型タンク204内に開放されている。フィルター222は筒体218に連接されて小型タンク204側にあり、攪拌しきれなかった花粉が筒体218内に侵入するのを防ぐことができる。手元操作部202は手元ケース220及び小型タンク204から構成されており、ホース217は液体輸送ポンプ213の排出部と小型タンク204を連結させる。
【0016】
以上のように構成された果樹の人工授粉用噴霧器について、図2を用いてその動作を説明する。まず大型タンク212に花粉を混和した液体を入れた後、本体203と嵌着する。次にメインスイッチ216を押圧するとメインモータ214が回転し、液体輸送ポンプ213によって大型タンク212から液体を吸い込みチューブ211を通して液体輸送ポンプ213内に吸い込まれ、液体がホース217を通じて小型タンク204に送られる。小型タンク204内に一定の液体が入ったところで、メインスイッチ216を切る。次にサブスイッチ208を押圧するとサブモータ206が回転し、ポンプ205によって空気が空気輸送チューブ210を通ってオリフィス209を通して噴霧口221から放出される。この空気がオリフィス209を通過する際に流速が速められることにより、筒体218部が負圧となりフィルター222を通して小型タンク204内の液体が吸い上げられる
。この際、フィルター222は液体に均一に混和されなかった花粉をせき止めるため、オリフィス209に通じる筒体218の一部を花粉で目詰まりする頻度を下げることができる。そして、吸い上げられた液体はポンプ205によって送られてきた空気に吹き飛ばされて噴霧部215から空気とともに放出される。サブスイッチ208の押圧をやめるとサブモータ206の回転が止まり、噴霧が停止される。このように手元操作部202と本体部201を分離して、手元操作部202を極力軽くすることにより操作性を向上させ、かつ液体および花粉に高圧をかけることなく発芽率の低下をおよぼすことがないという特有の効果を有する。
【実施例1】
【0017】
(実施例1)
従来の手動式噴霧器と、本発明の果樹の人工授粉用噴霧器での噴霧後の発芽率を表1に示す。従来の手動式噴霧器としてはダイヤスプレーNo.570を用いている。0.5%の寒天水溶液にキウイ花粉を混和し濃度0.225%の花粉溶液を用いた。ダイヤスプレー(No.570)の圧力0.3MPaで寒天培地に噴霧したものと、実施の形態1で寒天培地に噴霧したものと比較用に花粉溶液をスポイトにて寒天培地に滴下したものを、25度中に1時間放置して花粉の発芽率を測定した。
【0018】
【表1】

表1の結果から本発明の人工授粉用噴霧器は花粉の潰れによる発芽率の低下を防ぐ点で特有効果を示していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明にかかる果樹の人工授粉用噴霧器は噴霧する際に液体に高圧をかけずに噴霧することが可能になるので、果樹の人工授粉用の他、消毒液などの液体も圧力をかけずに噴霧するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1における果樹の人工授粉用噴霧器の断面図
【図2】本発明の実施形態2における果樹の人工授粉用噴霧器の断面図
【図3】従来の手動式噴霧器の構成図
【図4】従来の電動式噴霧器の構成図
【符号の説明】
【0021】
101 タンク
102、207 電池
103 モータ
104、205 ポンプ
105 スイッチ
106 オリフィス
107、215 噴霧部
108 本体
109 筒体
110 フィルター
111 噴霧口
203 本体ケース
204 小型タンク
206 サブモータ
212 大型タンク
213 液体輸送ポンプ
214 メインモータ
217 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉を混和した液体を貯蔵するタンクと、
電源としての電池と、
前記電池を駆動源とするモータにより駆動し空気を排出するポンプと、
前記ポンプに連接されオリフィス及び噴霧口を有した噴霧部と、
前記噴霧部に対して一定の角度で交わり前記タンク内に一端を開放した筒体とを有し、
前記ポンプが空気を排出する際に前記オリフィスが負圧となり前記タンク内の液体を吸い上げ、0.3MPa未満の圧力で空気とともに液体が前記噴霧口から放出することを特徴とする人工授粉用噴霧器。
【請求項2】
前記タンクがオリフィス部近傍の小型タンクと一定の距離を置いた大型タンクとに分離され、前記大型タンクと前記小型タンクがホースで連結されるとともに、前記大型タンクから前記小型タンクへ0.3MPa未満の低圧で輸送する液体輸送ポンプを有した請求項1記載の人工授粉用噴霧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−112990(P2009−112990A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291495(P2007−291495)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】