説明

人工海水製造システム

【課題】 少ない設置スペースで人工海水の十分な供給量を確保すると共に人工海水の原料のストックを削減し得る人工海水製造システムを提供すること。
【解決手段】 人工海水の濃縮液が生成される濃縮液槽と、前記濃縮液槽から移送される前記濃縮液を希釈して所定濃度の人工海水に調整する調整槽と、を備えた人工海水製造システムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水族館等の展示水槽に用いられる人工海水の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水族館等の展示水槽内の海水はこれが汚れると水槽内の生物に影響を与えるため、常時清浄な海水を供給する必要があり、日々大量の海水が必要となる。このため、展示水槽内に供給すべき海水を予め貯留槽内に貯留し、必要に応じて貯留槽内の海水が展示水槽内へ供給されるようにされている(例えば特許文献1参照)。ここで都市型の水族館等においては展示水槽内の海水として天然海水を用いるとは海岸から水族館等までの海水の移送費等が嵩むため、人工海水を用いることが望ましい。人工海水は、その素となる塩等の原料を淡水に溶解させて天然海水と同等の濃度とすることにより生成できる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−336614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、展示水槽内の海水として人工海水を用いる場合、水族館等にその製造システムを配備する必要がある。上述した通り、展示水槽には日々大量の海水が必要となることから、人工海水の製造システムも展示水槽の規模に応じた規模が必要となるところ、都市型の水族館等においては製造システムの設置スペースが限られる。従って、大規模な展示水槽を有する都市型の水族館等では人工海水の十分な供給量を確保することが困難となる。また、人工海水の生成に必要な原料をストックしておくスペースも限られる。更に、人工海水の原料は吸湿性を有するため、長期間多湿環境下にストックしておくとその変質を招く。
【0005】
本発明の目的は、少ない設置スペースで人工海水の十分な供給量を確保すると共に人工海水の原料のストックを削減し得る人工海水製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、人工海水の濃縮液を生成する濃縮液槽と、前記濃縮液槽から移送される前記濃縮液を希釈して所定濃度の人工海水に調整する調整槽と、を備えた人工海水製造システムが提供される。
【0007】
この人工海水製造システムによれば、前記濃縮液槽と前記調整槽とを備えたことにより、人工海水を濃縮液として一旦生成し、展示水槽等の海水として必要な所定濃度の人工海水が得られる。従って、当初から当該所定濃度の人工海水を生成する場合に比べて、少ない設置スペースで人工海水の十分な供給量を確保すると共に人工海水の原料のストックを削減できる。
【0008】
本発明においては、前記濃縮液槽が、前記濃縮液槽内に供給された人工海水の原料と淡水とを攪拌する攪拌手段を備えた構成を採用できる。これにより、より短時間で人工海水の濃縮液を生成できる。
【0009】
また、本発明においては、前記濃縮液槽が、前記原料を前記濃縮液槽内に投入する投入部と、前記濃縮液槽内の濃縮液の濃度を検知する第1検知手段と、を備え、前記調整槽が、前記調整槽内の人工海水の濃度を検知する第2検知手段を備え、前記人工海水製造システムは、更に、前記濃縮液槽へ供給される淡水の量を制御する第1制御弁と、前記調整槽へ供給される淡水の量を制御する第2制御弁と、前記濃縮液槽内の濃縮液を前記調整槽へ移送する移送手段と、前記第1及び第2制御弁と移送手段とを制御する制御手段と、を備えた構成を採用できる。この構成におれば、人工海水の製造の自動化が図れる。
【発明の効果】
【0010】
以上述べた通り、本発明によれば、少ない設置スペースで人工海水の十分な供給量を確保すると共に人工海水の原料のストックを削減し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<システムの構成>
図1は本発明の一実施形態に係る人工海水製造システムAのシステム図である。人工海水製造システムAは、例えば、展示水槽を有する水族館等の構造物の地下構造内に配設され、人工海水の濃縮液10aを生成する濃縮液槽10と、濃縮液槽10から移送される濃縮液10aを希釈して所定濃度の人工海水20aに調整する調整槽20と、を備える。
【0012】
濃縮液槽10は液体を収容可能な槽状をなし、人工海水の素である顆粒状の原料1が投入される投入部11と、淡水が供給される供給部12と、濃縮液槽10内に供給された原料1と淡水とを攪拌する複数の攪拌ユニット13と、同じく原料1と淡水とを攪拌する曝気ユニット14と、濃縮液槽10内の濃縮液10aの濃度を検知する濃度センサ15と、濃縮液槽10内の濃縮液10aの液位を検知する液位センサ16と、を備える。原料1は例えば天然海水を天日干しすることで得られる。
【0013】
投入部11は濃縮液槽10の天板に形成され、原料1を濃縮液槽10内に投入する開口を形成する。本実施形態の場合、原料1を収納するバッグ2を原料1の供給元からユニック車3で搬送し、ユニック車3のクレーンでバッグ2を吊り下げ、バッグ2の下方を開封して直接濃縮液槽10に投入できるようにしている。バッグ2の搬送を展示水槽内の人工海水の交換周期に応じて行ない、ユニック車3から直接濃縮液槽10に原料1を投入するようにすることで、原料1のストックを削減でき、原料1のストックレス化が図れる。
【0014】
供給部12は濃縮液槽10の天板に形成され、淡水を濃縮液槽10内に供給する開口を形成する。淡水は例えば井水、水道水を利用でき、井水であればより安価に人工海水を製造できる。淡水の供給源と供給部12との間の流路には淡水の供給、遮断を切替える制御弁30aが配設されている。制御弁30aは濃縮液槽10へ供給される淡水の量を制御する。
【0015】
攪拌ユニット13は、濃縮液槽10内に吊り下げられた回転羽根13aと、濃縮液槽10の天板に配設され、回転羽根13aを回転駆動するモータ13bと、を備える。回転羽根13aの回転により濃縮液槽10内の液体が攪拌され、淡水への原料1の溶解を促進する。回転羽根13aによる攪拌は、後述する曝気ユニット14よりも攪拌能力が高く、また、原料1の沈殿を効果的に防止し、本実施形態のように濃縮液を攪拌する場合に好適である。
【0016】
曝気ユニット14は、空気の噴出口を複数有し、濃縮液槽10内に配設された曝気管14aと、曝気管14aに圧縮空気を供給する曝気用ポンプ14bとを備える。曝気用ポンプ14bからの圧縮空気は曝気管14aから濃縮液槽10内に噴出されて濃縮液槽10内の液体が攪拌され、淡水への原料1の溶解を促進する。濃度センサ15は濃縮液槽10内に配設された検知部15aを有し、本実施形態の場合濃縮液10aの塩分濃度を検知する。液位センサ16は例えば濃縮液槽10内の底部近傍の液圧を検知する圧力センサであり、当該液圧により濃縮液槽10内の濃縮液の液位を検知する。
【0017】
濃縮液槽10で生成された濃縮液10aは移送用ポンプ40aにより調整槽20へ移送される。また、循環用ポンプ17は移送用ポンプ40aにより調整槽20へ濃縮液10aを移送する際、調整槽20の容量が足りない場合に濃縮液10aを濃縮液槽10内へ還流し、調整槽20に空きが生じるまで濃縮液10aの移送待ちを行なうためのポンプである。
【0018】
調整槽20は液体を収容可能な槽状をなし、濃縮液槽10からの濃縮液10aが移送される供給部21と、濃縮液10aを希釈する淡水が供給される供給部22と、濃縮液10aと淡水とを攪拌する曝気ユニット24と、調整槽20内の人工海水20aの濃度を検知する濃度センサ25と、調整槽20内の人工海水20aの液位を検知する液位センサ26と、を備える。
【0019】
供給部21及び22はそれぞれ調整槽20の天板に形成され、濃縮液10a、淡水を調整槽20内に供給する開口を形成する。淡水は濃縮液槽10と同じ淡水の供給源から得ることができ、淡水の供給源と供給部22との間の流路には淡水の供給、遮断を切替える制御弁30bが配設されている。制御弁30bは調整槽20へ供給される淡水の量を制御する。供給部21からの濃縮液10aは供給部22からの淡水により希釈され、展示水槽に供給する人工海水に要求される所定濃度(本実施形態では塩分濃度)の人工海水20aが生成される。
【0020】
曝気ユニット24は、上述した曝気ユニット14と同様の構成のものであり、空気の噴出口を複数有し、調整槽20内に配設された曝気管24aと、曝気管24aに圧縮空気を供給する曝気用ポンプ24bとを備える。曝気用ポンプ24bからの圧縮空気は曝気管24aから調整槽20内に噴出されて調整槽20内の液体が攪拌され、淡水による濃縮液10aの希釈を満遍なく行なう。
【0021】
濃度センサ25及び液位センサ26は、上述した濃度センサ15及び液位センサ16と同様の構成のものであり、濃度センサ25は調整槽20内に配設された検知部25aを有し、本実施形態では人工海水20aの塩分濃度を検知する。液位センサ26は例えば調整槽20内の底部近傍の液圧を検知する圧力センサであり、当該液圧により調整槽20内の人工海水20aの液位を検知する。
【0022】
調整槽20で生成された人工海水20aは貯留槽4へ移送される。調整槽20と貯留槽4との流路には人工海水20aの移送、遮断を切替える制御弁30cが配設されている。貯留槽4内の人工海水20aは移送用のポンプ40bにより高置水槽5へ移送され、各展示水槽へ供給されることになる。
【0023】
次に、人工海水製造システムAの制御系について説明する。図2は人工海水製造システムAの制御系のブロック図である。人工海水製造システムAは濃縮液槽10及び調整槽20の配設現場に設置される制御盤50と、管理室等に設置され、制御盤50と通信可能なコンピュータ60と、を備える。
【0024】
制御盤50はCPU51と、RAM52と、ROM53とを備える。ROM53には人工海水製造システムAの制御プログラム等が格納される。RAM52、ROM53は他の記憶手段も採用可能である。CPU51には入力インターフェース(I/F)54が接続されており、入力I/F54には操作パネル56、液位センサ16及び26並びに濃度センサ15及び25が接続されている。操作パネル56は操作者が制御盤50に対する各種の命令を行なうための操作を受け付ける。液位センサ16及び26並びに濃度センサ15及び25の検知結果は入力I/F54を介してCPU51が取得する。
【0025】
CPU51には出力I/F55が接続されており、出力I/F55には表示器57、攪拌ユニット13、ポンプ40a、40b、14b、24b及び17、制御弁30a乃至30cが接続されている。表示器57には各種の情報が表示される。CPU51は出力I/F55を介して攪拌ユニット13、ポンプ40a、40b、14b、24b及び17、制御弁30a乃至30cにそれぞれ制御命令を出力し、これらは制御命令に従って動作する。
【0026】
CPU51には通信I/F58が接続されており、コンピュータ60とのデータ通信を行なう。コンピュータ60は制御盤50に対して、濃縮液10a及び人工海水20aの濃度設定、自動運転・マニュアル運転の設定等の各種設定、人工海水製造システムAの動作指示、人工海水製造システムAの状態表示等を行なう。
【0027】
<システムの動作>
<濃縮液の生成>
ユニック車3から原料1を収納したバッグ2が搬送されると、オペレータはコンピュータ60(又は制御盤50)から濃縮液の生成を指示する。濃縮液の生成の指示により、制御盤50は液位センサ16の検知結果を取得し、濃縮液槽10内の空きの容量をチェックする。新たな濃縮液の生成が可能な分だけの空き容量がなければコンピュータ60(又は表示器57)に警告を表示し、空き容量があれば攪拌ユニット13及び曝気ユニット14の作動を開始させる。また、制御弁30aを開いて淡水を濃縮液槽10内に供給する。
【0028】
続いてユニック車3の作業者にバッグ2から原料1を濃縮液槽10内へ投入する作業を指示し、原料1が濃縮液槽10内へ投入される。攪拌ユニット13及び曝気ユニット14の作動により、原料1と淡水とが攪拌される。濃縮液槽10内に既存の濃縮液10aが存在する場合はこれも一緒に攪拌される。制御盤50は濃度センサ15の検知結果を取得し、濃縮液槽10内の液体の濃度をチェックする。濃度がコンピュータ60により設定された値に達すると、制御盤50は制御弁30aを閉じて淡水の供給を停止する。また、攪拌ユニット13の作動を停止する。曝気ユニット14の作動は継続してもよい。以上により濃縮液10aの生成が終了する。
【0029】
<濃縮液の移送と希釈>
濃縮液10aの生成が終了すると、自動的に又はコンピュータ60(又は制御盤50)に対するオペレータの指示により濃縮液10aを調整槽20へ移送する処理を実行する。制御盤50は液位センサ26の検知結果を取得し、調整槽10内の空きの容量をチェックする。新たな人工海水の生成が可能な分だけの空き容量がなければポンプ17を作動して、濃縮液10aを濃縮液槽10で循環させ、調整槽20へ移送しない。
【0030】
空き容量があれば、制御弁30cを閉じた後、ポンプ40aを作動して濃縮液10aを調整槽20へ移送する。制御盤50は液位センサ26の検知結果を取得し、調整槽20内の液体の液位が所定値に達するとポンプ40aの作動を停止する。次に、曝気ユニット24の作動を開始させる。また、制御弁30bを開いて淡水を調整槽20内に供給する。制御盤50は濃度センサ25の検知結果を取得し、調整槽20内の液体の濃度をチェックする。濃度がコンピュータ60により設定された値(展示水槽に用いる人工海水の濃度)に達すると、制御盤50は制御弁30bを閉じて淡水の供給を停止する。曝気ユニット24の作動は継続してもよい。以上により所定濃度の人工海水20aが生成される。その後、制御盤50は制御弁30cを開いて貯留槽4へ調整槽20内の人工海水20aが貯留槽4へ供給されるようにする。人工海水20aは調整槽20と貯留槽4との双方で貯留される。
【0031】
<展示水槽への供給>
展示水槽への人工海水の補給が必要になると、オペレータはコンピュータ60(又は制御盤50)から人工海水の補給を指示する。制御盤50はポンプ40bを作動して貯留槽4内の人工海水20aを高置水槽5へ移送する。そして、高置水槽5から各展示水槽へ人工海水20aが供給されることになる。
【0032】
<システムの効果>
本実施形態の人工海水製造システムAによれば、濃縮液槽10と調整槽20とを備えたことにより、人工海水20aをその濃縮液10aとして一旦生成し、展示水槽等の海水として必要な所定濃度の人工海水20aが得られる。従って、当初から人工海水20aを生成する場合に比べて、少ない設置スペースで人工海水20aの十分な供給量を確保できる。また、一度に投入できる原料1の量が多くなるので原料1のストックを削減できる。更に、制御盤50を備えたことにより、人工海水の製造の自動化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工海水製造システムAのシステム図である。
【図2】人工海水製造システムAの制御系のブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
A 人工海水製造システム
10 濃縮液槽
20 調整槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工海水の濃縮液を生成する濃縮液槽と、
前記濃縮液槽から移送される前記濃縮液を希釈して所定濃度の人工海水に調整する調整槽と、
を備えた人工海水製造システム。
【請求項2】
前記濃縮液槽が、
前記濃縮液槽内に供給された人工海水の原料と淡水とを攪拌する攪拌手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の人工海水製造システム。
【請求項3】
前記濃縮液槽が、
前記原料を前記濃縮液槽内に投入する投入部と、
前記濃縮液槽内の濃縮液の濃度を検知する第1検知手段と、を備え、
前記調整槽が、
前記調整槽内の人工海水の濃度を検知する第2検知手段を備え、
前記人工海水製造システムは、更に、
前記濃縮液槽へ供給される淡水の量を制御する第1制御弁と、
前記調整槽へ供給される淡水の量を制御する第2制御弁と、
前記濃縮液槽内の濃縮液を前記調整槽へ移送する移送手段と、
前記第1及び第2制御弁と移送手段とを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の人工海水製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−333849(P2006−333849A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166010(P2005−166010)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】