説明

人工股関節の製造方法

【課題】 真空中あるいは不活性ガスの雰囲気中で加熱処理する際に発生する加圧治具の熱膨張力を半径方向内方に向けることで、メッシュ層をステム部に確実に拡散接合することができる人工股関節の製造方法を提供する。
【解決手段】 チタン材料またはチタン合金材料から成形されたステム部2aを有する人工股関節本体1aを設け、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料から成形された複数のセグメントを有する加圧治具7を設け、ステム部2aの表面にチタン材料またはチタン合金材料のメッシュ層6を積層し、加圧治具7をステム部2aのメッシュ層6を囲むように配置し、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が小さい金属材料で形成した線材12を加圧治具7の外面に巻き付け、これら全体を真空中あるいは不活性ガスの雰囲気中で加熱処理し、加圧治具7の半径方向内方を向く加圧力によりメッシュ層6をステム部2aに拡散接合する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散接合法により接合されたメッシュ層を有する人工股関節の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科において用いられる人工股関節は、生体親和性に加え、使用状況に応じた負荷や摺動に耐える構成であることが要求される。これらの要求を満たす金属系材料としては、SUS316、Co−Cr合金、チタン、チタン合金がある。人工股関節は、生体親和性、負荷性および摺動性を考慮してこれらの金属系材料からチタンやチタン合金が選定される。
【0003】
人工股関節は、ステム部とステム部の近位端にオフセット連接されたネック部とを有する構成である。人工股関節は、ステム部の外面に骨セメントとして作用するポリメチルアクリレートを塗布し、ステム部を骨セメント層を介して大腿骨の近位部骨髄腔に装着することで大腿骨に固定される。
【0004】
人工股関節は、ステム部を骨セメント層を介し大腿骨に固定するので、長期間の使用により塗布した骨セメント層が劣化し、ステム部と大腿骨の骨皮質との間にゆるみが生じ、大腿骨に対する結合力が低下してしまうことがある。
【0005】
一方、大腿骨に対する支持面に多孔質金属パッドを接合して多孔質面に形成し、多孔質面に形成した細孔に大腿骨の新生骨を侵入させて大腿骨に確実に結合することで大腿骨に対する結合力を高めるようにした人工関節が開発されている。
上記人工関節は、人工関節本体をチタンまたはチタン合金により成形し、多孔質金属パッドをCo−Cr合金またはステンレススチール合金により成形し、人工関節本体と多孔質金属パッドをレーザー光線による接合手段により接合することで構成される(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかし、上記人工関節は、大腿骨に対する支持面を有する人工膝関節に適用することはできても、大腿骨の近位部骨髄腔に装着するステム部を有する人工股関節に適用されるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−43216号公報(第1頁参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記人工股関節は、ステム部とステム部の近位端にオフセット連接されたネック部とを有し、ステム部の断面形状が卵形であるため、ステム部の表面にチタン線またはチタン粒子を従来の拡散接合法により接合することは困難である。
【0009】
本発明は、上記した点を考慮してなされたもので、ステム部に配置されたメッシュ層を半径方向内方の加圧力によりステム部に確実に拡散接合することができる人工股関節の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の人工股関節の製造方法は、チタン材料またはチタン合金材料から成形されたステム部を有する人工股関節本体を設け、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料から成形された複数のセグメントを有する加圧治具を設け、人工股関節本体のステム部の表面にチタン材料またはチタン合金材料のメッシュ層を積層し、加圧治具をステム部のメッシュ層を囲むように配置し、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が小さい金属材料で形成した線材を加圧治具の外面に巻き付け、これら全体を真空中あるいは不活性ガスの雰囲気中で加熱処理し、加圧治具の半径方向内方を向く加圧力によりメッシュ層をステム部に拡散接合することで構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加圧治具を構成する金属材料の熱膨張係数をチタン材料またはチタン合金材料の熱膨張係数より大きく、加圧治具の外面に巻き付けられる線材の金属材料の熱膨張係数をチタン材料またはチタン合金材料の熱膨張係数より小さくすることで、真空中あるいは不活性ガスの雰囲気中で加熱処理する際に発生する加圧治具の熱膨張力を半径方向内方に向けることで、メッシュ層をステム部に確実に拡散接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明による人工股関節の製造方法により作られた人工股関節の斜視図である。
【0013】
本発明による人工股関節の製造方法により作られた人工股関節1は、図1に示すように、大腿骨の近位部骨髄腔に固定されるステム部2と、ステム部2の近位端にオフセット連接されたネック部3とを有する。ステム部2のネック部3に近い部位に多孔質面4が形成されている。多孔質面4は、複数枚のチタンまたはチタン合金製メッシュシートを積層したメッシュシート積層体により形成される。各メッシュシートは、縦方向および横方向に規則的に配列した略円形の細孔を有する。メッシュシートの厚さおよび細孔の孔径は、使用条件に応じて選定される。
【0014】
本発明による人工股関節の製造方法に用いられる人工股関節本体1aは、チタン材料またはチタン合金材料により成形されている。人工股関節本体1aは、図2に示すように、ステム部2aと、ステム部2aにオフセット連接されたネック部3aとを有する。ステム部2aのネック部3aに近い部位に周方向に延びる環状溝5が形成されている。環状溝5は、その深さを環状溝5に配置されるメッシュシート積層体6の厚さに対応させている。メッシュシート積層体6は、ステム部2aの外面に設けた環状溝5にその上面がステム部2aの外面と同一面になるように配置されることが好ましい。
【0015】
本発明による人工股関節の製造方法に用いられる加圧治具7は、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料であるSUS304ステンレス鋼材により成形された円筒体8から形成されている。円筒体8は、図3に示すように、ステム部2aの卵形断面形状に対応した内部空間8aを有する。円筒体8は、卵形の長径線に沿って2つ割りされた半体9,9を有する。各半体9は、半径方向中間位置に連結部10aを有する3つの半径方向に延びるスリット10,10,10により互いに連結された4つのセグメント片11,11,11,11を形成する。加圧治具7は、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料であれば、鉄、ニッケル、またはこれらの合金であってもよい。
【0016】
本発明による人工股関節の製造方法に用いられる加圧治具を固定するための線材12は、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が小さい金属材料であるモリブデン材またはタングステン材から形成されている。
【0017】
金属材料の熱膨張係数を下表に示す。
【表1】

【0018】
つぎに、本発明による人工股関節の製造方法を説明する。
準備段階として、人工股関節本体1aをチタン材料またはチタン合金材料により成形する。加圧治具7をSUS304ステンレス鋼、鉄又はニッケルにより成形する。線材12をモリブデンまたはタングステンで形成する。
【0019】
第1段階として、図2に示す人工股関節本体1aを設け、人工股関節本体1aのステム部2aに形成した環状溝5に、チタン材料またはチタン合金材料のメッシュシート積層体6を図4に示すように配置する。この場合、メッシュシート積層体6を、ステム部2aの外面に設けた環状溝5にその上面がステム部2aの外面と同一面になるように配置することが好ましい。
【0020】
第2段階として、図3に示す2つ割りした加圧治具7を設け、この2つ割りした加圧治具7を、図5に示すように、人工股関節本体1aのメッシュシート積層体6を配置したステム部2aを囲むように配置する。加圧治具7は、内部空間がステム部2aに外面形状に対応しているので、位置決めすることなくメッシュシート積層体6を配置したステム部2aに密着される。
【0021】
第3段階として、線材12を、図6に示すように、2つ割りした加圧治具7の外面に巻き付ける。これにより、2つ割りした加圧治具7は、人工股関節本体1aのステム部2aに固定される。
【0022】
第4段階として、これら全体を図示しない真空加熱処理装置の真空室に配置し、真空加熱処理装置を作動することにより、人工股関節本体1aを真空中あるいは不活性ガスの雰 囲気中で、温度800℃で15分間処理する。
【0023】
真空あるいは不活性ガスの雰囲気における加熱中において、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料で成形された加圧治具7は、チタン材料またはチタン合金材料により成形された人工股関節本体1aより大きく膨張する。しかし、加圧治具7は、外面をチタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が小さい金属材料の線材12で拘束され、加圧治具7の半径方向外方の膨張が抑制される。そのため、加圧治具7は、半径方向内方に膨張する。
【0024】
加圧治具7の各半体は、連結部10aを有する半径方向に延びるスリットにより複数のセグメント片11を形成しているので、各セグメント片11は、互いに連結した状態で半径方向内方に膨張し、半径方向内方の加圧力を発生する。加圧治具7の半径方向内方の加圧力は、メッシュシート積層体6をステム部2aの全周からほぼ均一に加圧し、メッシュシート積層体6をステム部2aに拡散接合する。
【0025】
本発明による人工股関節の製造方法によりり作られた人工股関節は、メッシュシート積層体をステム部の全周方向から加圧するので、メッシュシート積層体とステム部と接合強度を高くでき、メッシュシート積層体により形成される多孔質面への新生骨の均一な育成を可能にし、大腿骨に確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による人工股関節の製造方法により作られた人工股関節の斜視図である。
【図2】本発明による人工股関節の製造方法に用いられる人工股関節本体の斜視図である。
【図3】本発明による人工股関節の製造方法に用いられる加圧治具の斜視図である。
【図4】本発明による人工股関節の製造方法の人工股関節本体のステム部にメッシュシート積層体を配置した状態を示す図である。
【図5】本発明による人工股関節の製造方法の人工股関節本体のメッシュシート積層体を設けたステム部に加圧治具を配置した状態を示す図である。
【図6】本発明による人工股関節の製造方法の人工股関節本体のステム部に配置した加圧治具に線材を巻き付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1a 人工股関節本体
2a ステム部
6 メッシュ層
7 加圧治具
12 線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン材料またはチタン合金材料から成形されたステム部を有する人工股関節本体を設け、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が大きい金属材料から成形された複数のセグメントを有する加圧治具を設け、人工股関節本体のステム部の表面にチタン材料またはチタン合金材料のメッシュ層を積層し、加圧治具をステム部のメッシュ層を囲むように配置し、チタン材料またはチタン合金材料より熱膨張係数が小さい金属材料で形成した線材を加圧治具の外面に巻き付け、これら全体を真空中あるいは不活性ガスの雰囲気中で加熱処理し、加圧治具の半径方向内方を向く加圧力によりメッシュ層をステム部に拡散接合することを特徴とする人工股関節の製造方法。
【請求項2】
加圧治具は、内部空間をステム部の外面形状に対応した円筒体を複数のセグメントに分割し、各セグメントに連結部を有するスリットを半径方向に延びるように設けたことを特徴とする請求項1に記載の人工股関節の製造方法。
【請求項3】
メッシュ層は、ステム部の外面に設けた周方向溝にステム部の外面と同一面になるように積層されることを特徴とする請求項1または2に記載の人工股関節の製造方法。
【請求項4】
加圧治具は、SUS304ステンレス鋼材により成形され、線材は、モリブデン材で形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の人工股関節の製造方法。
【請求項5】
加熱処理条件は、処理温度が800℃で処理時間が15分であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の人工股関節の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate