人工股関節用コンポーネント
【課題】初期固定性の向上を図るとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にする。
【解決手段】一対の前後面(12、13)は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面(16、17)と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面(18、19)とを有する。一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とは、軸方向に対する傾きが異なる面として形成されている。一対の近位部側前後面(16、17)の各面と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面とを区画する一対の境界線(20、21)には、内側から外側に向かって延びるとともに、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれている。
【解決手段】一対の前後面(12、13)は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面(16、17)と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面(18、19)とを有する。一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とは、軸方向に対する傾きが異なる面として形成されている。一対の近位部側前後面(16、17)の各面と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面とを区画する一対の境界線(20、21)には、内側から外側に向かって延びるとともに、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変形性股関節症や慢性関節リウマチなどの疾患によって股関節における大腿骨に異常が認められた患者に対して、人工股関節が適用される手術が行われている。このような手術として、大腿骨の臼蓋側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材と、大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材としての人工股関節用コンポーネントとを有する人工股関節で置換する人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)が行われている。
【0003】
上述のように人工股関節においてステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして、特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された人工股関節用コンポーネントは、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くよう配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成されている。そして、この人工股関節用コンポーネントは、一対の前後面と一対の内外側面とが形成された略矩形の断面を備えるよう構成されている。これにより、この人工股関節用コンポーネントは、大腿骨に埋植された初期の段階においては、略矩形の断面で皮質骨に対して噛み込むようにして骨内で固定されることが意図されている。
【0004】
特許文献1に開示の人工股関節用コンポーネントは、略矩形の断面での噛み込み作用によって、大腿骨に埋植された初期の段階における骨内での固定性能(以下、「初期固定性」という)を確保しようとするものである。しかしながら、特許文献1の人工股関節用コンポーネントに対しては、初期固定性の更なる向上が求められている。そこで、初期固定性の向上を図ることを目的とした人工股関節用コンポーネントとして、特許文献2に開示されたものが知られている。特許文献2においては、一対の前後面に凹凸形状が形成されるとともに、一対の内外側面のうち人体の左右方向における外側に向くように配置される外側面の近位部側において大きく外側に張り出した部分が形成された人工股関節用コンポーネントが開示されている。この人工股関節用コンポーネントでは、このように一対の前後面の凹凸形状と外側面の大きな張り出し部分とが設けられることで、初期固定性の向上が図られている。尚、以下の説明においては、人体において相対的に心臓に近い側に位置することを「近位」といい、遠い側に位置することを「遠位」という。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5156627号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第EP1070490A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工股関節置換術において、大腿骨に人工股関節用コンポーネントを埋植する際には、大腿骨の髄腔部に対して、手術用のやすり(ラスプ)やのみ等の医療機器を用いて穴を形成する処置が行われ、この穴に対して人工股関節用コンポーネントが挿入される。しかしながら、上述した特許文献2に開示の人工股関節用コンポーネントの場合、一対の前後面に凹凸形状が設けられ、更に、外側面に外側へ大きく張り出す張り出し部分が設けられているため、大腿骨の髄腔部に形成した穴に挿入する作業が困難になり易い。そして、大腿骨の髄腔部へ穴を形成する際に、一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分に対応した形状にする必要があるため、場合によっては術中に大腿骨の折損を招いてしまう虞もある。また、人工股関節置換術が行われた後、感染症などを発症した場合、人工股関節用コンポーネントを抜去する手術が必要となる。この場合、人工股関節用コンポーネントに一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分が存在すると、これらの形状構成が抜去作業を妨げる要因となり、抜去作業において相当な手間を要することになってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントであって、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成されている。そして、第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、前記一対の前後面は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面とを有し、前記一対の近位部側前後面と前記一対の遠位部側前後面とは、前記ステム部材における棒状に延びる方向である軸方向に対する傾きが異なる面として形成され、前記一対の近位部側前後面の各面と前記一対の遠位部側前後面の各面とを区画する一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、一対の前後面と一対の内外側面とが形成されることで、人工股関節用コンポーネントの断面が略矩形に形成される。そして、一対の前後面は一対の近位部側前後面と一対の遠位部側前後面とで構成され、これらは軸方向に対する傾きが異なる面として形成される。このため、一対の前後面が一様な傾きの面として形成される場合に比して、髄腔部に形成した穴に沿って沈下しにくくなり、軸方向における位置の安定性であるシンキング抵抗性を大幅に向上させることができる。また、一対の近位部側前後面と一対の遠位部側前後面との軸方向に対する傾きが異なることに加え、これらの各面を区画する一対の境界線には軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれるように形成されている。このため、傾きが異なるとともに斜めに交差する面の抵抗により、シンキング抵抗性の大幅な向上に加え、軸方向を中心とした回転方向における位置の安定性である回旋抵抗性も十分に確保することができる。これにより、初期固定性の指標であるシンキング抵抗性と回旋抵抗性とにおいて向上を図ることができ、初期固定性の向上を図ることができる。
【0010】
そして、上述のように、本発明の人工股関節用コンポーネントは、傾きが異なるとともに斜めに交差する面を含んで構成された一対の前後面によって初期固定性が向上するように構成されている。このため、大腿骨の髄腔部に形成した穴に人工股関節用コンポーネントを挿入する作業を困難とするような形状構成(従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられることもない。これにより、人工股関節用コンポーネントの大腿骨への挿入作業を容易に行うことができる。また、髄腔部に穴を形成する際には、傾きが異なり斜めに交差する一対の前後面に対応した形状の穴を形成すればよく、穴の形成作業が容易となり、術中に大腿骨の折損を招いてしまう虞も抑制できる。そして、初期固定性を向上させる一対の前後面には、人工股関節用コンポーネントを大腿骨から抜去する作業を手間を要する作業としてしまうような形状構成(即ち、従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられていない。このため、人工股関節用コンポーネントの大腿骨からの抜去作業を容易に行うことができる。
【0011】
従って、本発明によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【0012】
第2発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の遠位部側前後面よりも前記一対の近位部側前後面の方が、前記軸方向に対する傾きが大きいことを特徴とする。
【0013】
この発明によると、一対の遠位部側前面よりも一対の近位部側前後面の方が軸方向に対する傾きが大きくなるように形成されているため、遠位部側よりも近位部側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、遠位部側から近位部側にかけて面積の広がる形態が多いため、遠位部側よりも近位部側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0014】
第3発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明又は第2発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、一対の境界線に内側から外側に向かって近位部側から遠位部側に傾くように延びる部分が含まれているため、外側において一対の近位部側前後面の面積が拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、近位部側において外側にかけて面積の広がる形態が多いため、外側において一対の近位部側前後面の面積が拡大する人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0016】
第4発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第3発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって当該一対の境界線間の距離が広がりながら延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、一対の境界線に内側から外側に向かってこの一対の境界線間の距離が広がりながら傾いて延びる部分が含まれているため、内側よりも外側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、内側から外側にかけて面積の広がる形態が多いため、内側よりも外側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0018】
第5発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面には、近位部側に向かって且つ前記内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されていることを特徴とする。
【0019】
この発明によると、内側面に、近位部側に向かって且つ内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されているため、人工股関節用コンポーネントを大腿骨に挿入した際に、大腿骨における近位部側の内側に応力が集中してしまうことを抑制できる。これにより、大腿骨における近位部側で内側に存在する薄い皮質骨が割れてしまうことを抑制することができる。
【0020】
第6発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第5発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記外側に向くように配置される外側面の近位部側の端部は、円弧状の曲面部分として形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によると、外側面の近位部側の端部が円弧状の曲面部分として形成されているため、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業及び抜去作業を行う際に、人工股関節用コンポーネントと大腿骨とが干渉してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業及び抜去作業をより容易にすることができ、作業効率を向上させることができる。
【0022】
第7発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第6発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記軸方向に沿って延びるように形成された溝が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この発明によると、内側面及び外側面の少なくともいずれかにおいて軸方向に沿って延びる溝が設けられているため、この溝によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、この溝は内側面又は外側面の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネントの挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0024】
第8発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第7発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記前面側及び前記後面側の縁部分において前記軸方向に沿ってエッジ状に延びるように形成された突起部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
この発明によると、内側面及び外側面の少なくともいずれかにおいて前面側及び後面側の縁部分に軸方向に沿って延びるエッジ状の突起部が設けられているため、この突起部によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、この突起部は内側面又は外側面の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネントの挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1を示す断面図であり、大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに示している。人工股関節用コンポーネント1は、大腿骨100の髄腔部100aに一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として構成されている。この人工股関節用コンポーネント1は、骨頭ボール部材102と組み合わされた状態で人工股関節として適用される。尚、人工股関節置換術においては、髄腔部100aには手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられた穴が形成され、この穴に対して、人工股関節用コンポーネント1が挿入されて埋植される。一方、骨頭ボール部材102は、大腿骨100において骨盤101の臼蓋101a側に配置される。そして、骨頭ボール部材102は、臼蓋101aに配置されるとともに外側半球殻部材103a及び内側半球殻部材103bを有する二層構造の臼蓋カップ103に対して、外形の球面部分において摺動するように配置される。
【0029】
図2は、人工股関節用コンポーネント1の斜視図を示したものである。図3は、人工股関節用コンポーネント1の左側面図(図3(a))、正面図(図3(b))、図3(b)のA−A線矢視断面図(図3(c))、図3(b)のB−B線矢視断面図(図3(d))、及び右側面図(図3(e))を示したものである。尚、図2及び図3に示す人工股関節用コンポーネント1は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0030】
図2及び図3に示す人工股関節用コンポーネント1は、前述のように棒状のステム部材として形成されており、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。この人工股関節用コンポーネント1は、図3(c)及び図3(d)によく示すように、人工股関節用コンポーネント1における棒状に延びる方向である軸方向を示す軸中心線C(図3(a)及び図3(e)にて一点鎖線で示す)と垂直な断面が略矩形に形成されている。尚、人工股関節用コンポーネント1は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成されている。そして、人工股関節用コンポーネント1における一対の前後面(12、13)及び一対の内外側面(14、15)には、その表面にアパタイトを生体内で形成させ易くするための処理としてのアルカリ加熱処理と、ブラスト処理とが施されている。
【0031】
図1乃至図3に示すように、ネック部11は、一端側が大腿骨100に埋植される人工股関節用コンポーネント1の他端側の端部において突出するよう設けられている。そして、人工股関節用コンポーネント1が人工股関節において用いられる場合には、ネック部11に骨頭ボール部材102が嵌合される。尚、ネック部11は、人工股関節用コンポーネント1の他端側の端部において、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態で、内側に向かって傾いて突出するように設けられている。
【0032】
図2及び図3に示すように、一対の前後面(12、13)は、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態(図1参照)で、人体の前面側及び後面側に向くように配置される。そして、一対の前後面(12、13)は、人体の前面側に配置されるテーパ状前面12と人体の後面側に配置されるテーパ状後面13とで構成されている。テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つの平坦なテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0033】
また、一対の前後面(12、13)は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。一対の近位部側前後面(16、17)は、大腿骨100に埋植された状態で一対の前後面(12、13)における近位部側に配置される。そして、一対の近位部側前後面(16、17)は、人体の前面側に配置される近位部側テーパ状前面16と人体の後面側に配置される近位部側テーパ状後面17とで構成されている。一方、一対の遠位部側前後面(18、19)は、大腿骨100に埋植された状態で一対の前後面(12、13)における遠位部側に配置される。そして、一対の遠位部側前後面(18、19)は、人体の前面側に配置される遠位部側テーパ状前面18と人体の後面側に配置される遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。尚、上述の配置構成のため、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されることになる。
【0034】
図3によく示すように、近位部側テーパ状前面16及び近位部側テーパ状後面17は、軸中心線Cを中心として線対称の位置に配置されており、軸中心線Cに対して同一の角度傾いた平坦なテーパ状の面としてそれぞれ構成されている。図3(e)では、近位部側テーパ状前面16の軸中心線Cに対する傾きの角度Dを示しているが、近位部側テーパ状後面17も軸中心線Cに対して同一角度(角度D)傾くように形成されている。そして、この角度Dの大きさは、例えば4°に設定され、2°から8°の範囲において設定される。一方、遠位部側テーパ状前面18及び遠位部側テーパ状後面19は、軸中心線Cを中心として線対称の位置に配置されており、軸中心線Cに対して同一の角度傾いた平坦なテーパ状の面としてそれぞれ構成されている。図3(e)では、遠位部側テーパ状前面18の軸中心線Cに対する傾きの角度Eを示しているが、遠位部側テーパ状後面19も軸中心線Cに対して同一角度(角度E)傾くように形成されている。そして、この角度Eの大きさは、例えば、2°に設定され、0°から3°の範囲において設定される。
【0035】
尚、上述した角度Dの設定範囲(2°から8°)及び角度Eの設定範囲(0°から3°)は、大腿骨の髄腔部の形状のばらつきを考慮して設定されたものである。髄腔部の形状は、個人によってばらつきがあるが、一般的に近位部側で面積が大きく遠位部側で面積が小さい傾向にあり、髄腔部の形状を円錐状と仮定してばらつきを整理することができる。そして、上述した設定範囲で設定することで、髄腔部の形状に適合させた状態で人工股関節用コンポーネント1を埋植することができる。
【0036】
また、上述のように角度Dと角度Eとが設定されていることで、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とは、軸中心線Cに対する傾き(軸方向に対する傾き)が異なる面として形成されている。また、角度Dは角度Eよりも大きい角度となるように設定される。これにより、一対の遠位部側前後面(18、19)よりも一対の近位部側前後面(16、17)の方が、軸中心線Cに対する傾きが大きく設定されている。
【0037】
また、図2及び図3に示すように、一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(20、21)が形成されている。尚、図3(e)では、一対の境界線(20、21)の位置を点で図示している。一対の境界線(20、21)は、前面側境界線20と後面側境界線21とで構成されている。前面側境界線20は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線21は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。そして、一対の境界線(20、21)はそれぞれ、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向(軸方向と垂直な方向)に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて直線状に延びるよう形成されている。
【0038】
図2及び図3に示すように、一対の内外側面(14、15)は、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態で、人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される。そして、一対の内外側面(14、15)は内側面14と外側面15とで構成され、内側面14は人体左右方向における内側に向くように配置され、外側面15は人体左右方向における外側に向くように配置される。また、内側面14には、近位部側に向かって且つ人体左右方向における内側に向かって円弧状に延びる曲面22が形成されている。尚、この曲面22は、軸中心線Cと垂直な方向においても円弧状に形成されている。一方、外側面15は、その近位部側の端部が円弧状に湾曲した曲面部分23として形成されている。
【0039】
ここで、一対の前後面(12、13)と一対の境界線(20、21)との関係について、更に詳しく説明する。図4は、人工股関節用コンポーネント1の軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示したものであり、その斜視図(図4(a))と透視図(図4(b))とを示している。また、図5は、図4(a)に示す仮想のコンポーネントの平面図(図5(a))、左側面図(図5(b))、正面図(図5(c))、右側面図(図5(d))、及び底面図(図5(e))を示したものである。尚、人工股関節用コンポーネント1に対応する要素には同一の符号を付している。
【0040】
図4及び図5に示すように、一対の境界線(20、21)は、互いに平行に配置され、人体の内側から外側に向かって軸中心線Cと垂直な断面に対して近位部側から遠位部側に傾くように延びている。そして、この一対の境界線(20、21)を境として、軸中心線Cに対して近位部側に向かって大きく広がるように傾く一対の近位部側前後面(16、17)と、軸中心線Cに対して近位部側に向かって小さく広がるように傾く一対の遠位部側前後面(18、19)とが配置されている。このため、軸中心線Cに対して垂直な断面形状は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の内外側面(14、15)とで周囲が囲まれる領域では幅の広い台形状となり、一対の遠位部側前後面(18、19)と一対の内外側面(14、15)とで囲まれる領域では幅の狭い台形状となる。そして、いずれの断面形状ともに、人体左右方向における外側に向かって広がった台形状となる。
【0041】
尚、一対の前後面(12、13)と一対の境界線(20、21)との関係について、図4及び図5にて説明した構成とは異なる構成で人工股関節用コンポーネント1を変更して実施することもできる。図6は、人工股関節用コンポーネント1の変形例において、その軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示したものであり、その斜視図(図6(a))と透視図(図6(b))とを示している。また、図7は、図6(a)に示す仮想のコンポーネントの平面図(図7(a))、左側面図(図7(b))、正面図(図7(c))、右側面図(図7(d))、及び底面図(図7(e))を示したものである。尚、図6及び図7に示す変更例において、人工股関節用コンポーネント1に対応する要素には同一の符号を付している。
【0042】
図6及び図7に示す変形例においては、一対の境界線(20、21)は、人体左右方向における内側から外側に向かってこの一対の境界線(20、21)間の距離が広がりながら延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に傾くように延びている。そして、この一対の境界線(20、21)を境界として、軸中心線Cに対して近位部側に向かって大きく広がるように傾く一対の近位部側前後面(16、17)と、軸中心線Cに対して近位部側に向かって小さく広がるように傾く一対の遠位部側前後面(18、19)とが配置されている。この変形例においても、軸中心線Cに対して垂直な断面形状は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の内外側面(14、15)とで周囲が囲まれる領域では幅の広い台形状となり、一対の遠位部側前後面(18、19)と一対の内外側面(14、15)とで囲まれる領域では幅の狭い台形状となる。そして、いずれの断面形状ともに、人体左右方向における外側に向かって広がった台形状となる。
【0043】
以上説明した人工股関節用コンポーネント1によると、一対の前後面(12、13)と一対の内外側面(14、15)とが形成されることで、人工股関節用コンポーネント1の断面が略矩形に形成される。そして、一対の前後面(12、13)は一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とで構成され、これらは軸方向に対する傾きが異なる面として形成される。このため、一対の前後面(12、13)が一様な傾きの面として形成される場合に比して、髄腔部100aに形成した穴に沿って沈下しにくくなり、軸方向における位置の安定性であるシンキング抵抗性を大幅に向上させることができる。また、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)との軸方向に対する傾きが異なることに加え、これらの各面(16、17、18、19)を区画する一対の境界線(20、21)は軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びるように形成されている。このため、傾きが異なるとともに斜めに交差する面の抵抗により、シンキング抵抗性の大幅な向上に加え、軸方向を中心とした回転方向における位置の安定性である回旋抵抗性も十分に確保することができる。これにより、初期固定性の指標であるシンキング抵抗性と回旋抵抗性とにおいて向上を図ることができ、初期固定性の向上を図ることができる。
【0044】
そして、上述のように、人工股関節用コンポーネント1は、傾きが異なるとともに斜めに交差する面を含んで構成された一対の前後面(12、13)によって初期固定性が向上するように構成されている。このため、大腿骨100の髄腔部100aに形成した穴に人工股関節用コンポーネント1を挿入する作業を困難とするような形状構成(従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられることもない。これにより、人工股関節用コンポーネント1の大腿骨100への挿入作業を容易に行うことができる。また、髄腔部100aに穴を形成する際には、傾きが異なり斜めに交差する一対の前後面(12、13)に対応した形状の穴を形成すればよく、穴の形成作業が容易となり、術中に大腿骨100の折損を招いてしまう虞も抑制できる。そして、初期固定性を向上させる一対の前後面(12、13)には、人工股関節用コンポーネント1を大腿骨100から抜去する作業を手間を要する作業としてしまうような形状構成(即ち、従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられていない。このため、人工股関節用コンポーネント1の大腿骨100からの抜去作業を容易に行うことができる。
【0045】
従って、本実施形態によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネント1を提供することができる。
【0046】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、一対の遠位部側前面(18、19)よりも一対の近位部側前後面(16、17)の方が軸方向に対する傾きが大きくなるように形成されているため、遠位部側よりも近位部側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネント1を構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、遠位部側から近位部側にかけて面積の広がる形態が多いため、遠位部側よりも近位部側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネント1を用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0047】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、一対の境界線(20、21)が内側から外側に向かって近位部側から遠位部側に傾くように延びるよう形成されているため、外側において一対の近位部側前後面(16、17)の面積が拡大する形状の人工股関節用コンポーネント1を構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、近位部側において外側にかけて面積の広がる形態が多いため、外側において一対の近位部側前後面(16、17)の面積が拡大する人工股関節用コンポーネント1を用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0048】
また、図6及び図7において説明した人工股関節用コンポーネント1の変形例によると、一対の境界線(20、21)が内側から外側に向かってこの一対の境界線(20、21)間の距離が広がりながら傾いて延びるように形成されているため、内側よりも外側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、内側から外側にかけて面積の広がる形態が多いため、内側よりも外側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0049】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、内側面14に、近位部側に向かって且つ内側に向かって円弧状に延びる曲面22が形成されているため、人工股関節用コンポーネント1を大腿骨100に挿入した際に、大腿骨100における近位部側の内側に応力が集中してしまうことを抑制できる。これにより、大腿骨100における近位部側で内側に存在する薄い皮質骨が割れてしまうことを抑制することができる。
【0050】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、外側面15の近位部側の端部が円弧状の曲面部分23として形成されているため、大腿骨100に対する人工股関節用コンポーネント1の挿入作業及び抜去作業を行う際に、人工股関節用コンポーネント1と大腿骨100とが干渉してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨100に対する人工股関節用コンポーネント1の挿入作業及び抜去作業をより容易にすることができ、作業効率を向上させることができる。
【0051】
尚、本願発明者は、型枠内において人工股関節用コンポーネントを硬質発砲ウレタンにて固定し、型枠に対して人工股関節用コンポーネントを押し込むシンキング抵抗性確認試験と、型枠に対して人工股関節用コンポーネントを回転させる回旋抵抗性確認試験とを実施した。尚、これらの試験は、人工股関節用コンポーネント1に対して実施するとともに、比較のため、一対の前後面に凹凸形状が形成された人工股関節用コンポーネント(比較例1)に対してと、外側面に大きな張り出し部分が形成された人工股関節用コンポーネント(比較例2)に対しても実施した。その結果、シンキング抵抗性については、人工股関節用コンポーネント1が比較例1及び比較例2よりも向上することを確認できた。また、回旋抵抗性については、人工股関節用コンポーネント1と、比較例1及び比較例2とにおいて、ほぼ同等の水準であることを確認できた。従って、人工股関節用コンポーネント1を用いることにより、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる構成で、初期固定性の向上を図ることができることを確認することができた。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る人工股関節用コンポーネント2を示す斜視図である。また、図9は、人工股関節用コンポーネント2の左側面図(図9(a))、正面図(図9(b))、図9(b)のA−A線矢視断面図(図9(c))、図9(b)のB−B線矢視断面図(図9(d))、及び右側面図(図9(e))を示したものである。尚、図8及び図9に示す人工股関節用コンポーネント2は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0053】
図8及び図9に示す人工股関節用コンポーネント2は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント2は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント2は、一対の内外側面(14、15)に溝(24、25)が設けられている点において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0054】
図8及び図9に示すように、人工股関節用コンポーネント2の一対の内外側面(14、15)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置され、内側面14には曲面22が形成され、外側面15の近位部側の端部には曲面部分23が形成されている。しかし、人工股関節用コンポーネント2の一対の内外側面(14、15)には、それぞれ溝(24、25)が設けられている。内側面14には内側溝24が設けられており、外側面15には外側溝25が設けられている。内側溝24及び外側溝25は、いずれも軸中心線Cと垂直な断面において円弧状に凹んだ断面形状の溝として形成されている。また、内側溝24は、内側面14における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置され、軸方向に沿って延びるように形成されている。一方、外側溝25は、外側面15における近位部側の端部から遠位部側の端部にかけて軸方向のほぼ全長に亘って配置され、軸方向に延びるように形成されている。
【0055】
以上説明した人工股関節用コンポーネント2によると、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。そして、この人工股関節用コンポーネント2によると、内側面14及び外側面15において軸方向に沿って延びる溝(24、25)が設けられているため、この溝(24、25)によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、これらの溝(24、25)は内側面14及び外側面15の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネント2の挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネント2の挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0056】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図10は、本発明の第3実施形態に係る人工股関節用コンポーネント3を示す斜視図である。また、図11は、人工股関節用コンポーネント3の左側面図(図11(a))、正面図(図11(b))、図11(b)のA−A線矢視断面図(図11(c))、図11(b)のB−B線矢視断面図(図11(d))、及び右側面図(図11(e))を示したものである。尚、図10及び図11に示す人工股関節用コンポーネント3は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0057】
図10及び図11に示す人工股関節用コンポーネント3は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント3は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント3は、一対の内外側面(14、15)に突起部(26、27)が設けられている点において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0058】
図10及び図11に示すように、人工股関節用コンポーネント3の一対の内外側面(14、15)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置され、内側面14には曲面22が形成され、外側面15の近位部側の端部には曲面部分23が形成されている。しかし、人工股関節用コンポーネント3の一対の内外側面(14、15)には、それぞれフィン状に形成された突起部(26、27)が設けられている。内側面14には内側突起部26が設けられており、外側面15には外側突起部27が設けられている。内側突起部26は、人体の前面側及び後面側における縁部分にそれぞれ設けられ、軸方向に沿ってエッジ状に伸びるように形成されている。この内側突起部26は、内側面14における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置されている。一方、外側突起部27も同様に、人体の前面側及び後面側における縁部分にそれぞれ設けられ、軸方向に沿ってエッジ状に伸びるように形成されている。この外側突起部27は、外側面15における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置されている。
【0059】
以上説明した人工股関節用コンポーネント3によると、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。そして、この人工股関節用コンポーネント3によると、内側面14及び外側面15において前面側及び後面側の縁部分に軸方向に沿って延びるエッジ状の突起部(26、27)が設けられているため、この突起部(26、27)によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、これらの突起部(26、27)は内側面14及び外側面15の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネント3の挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネント3の挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図12は、本発明の第4実施形態に係る人工股関節用コンポーネント4を示す斜視図である。また、図13は、人工股関節用コンポーネント4の左側面図(図13(a))、正面図(図13(b))、図13(b)のA−A線矢視断面図(図13(c))、図13(b)のB−B線矢視断面図(図13(d))、及び右側面図(図13(e))を示したものである。尚、図12及び図13に示す人工股関節用コンポーネント4は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0061】
図12及び図13に示す人工股関節用コンポーネント4は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント4は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント4は、一対の前後面(12、13)に設けられた一対の境界線(28、29)の構成において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0062】
図12及び図13に示すように、人工股関節用コンポーネント4の一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置され、前面側のテーパ状前面12と後面側のテーパ状後面13とで構成されている。そして、テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つのテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0063】
また、人工股関節用コンポーネント4における一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。そして、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。
【0064】
また、図12及び図13に示すように、人工股関節用コンポーネント4における一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(28、29)が形成されている。尚、図13(e)では、一対の境界線(28、29)の位置を点で図示している。一対の境界線(28、29)は、前面側境界線28と後面側境界線29とで構成されている。前面側境界線28は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線29は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。
【0065】
また、一対の境界線(28、29)にはそれぞれ、軸中心線Cと垂直な方向に延びる垂直部分と、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに軸中心線Cと垂直な方向に対して傾く方向に直線状に延びる傾斜部分とが含まれている。尚、図13では、前面側境界線28についてのみ、上述の垂直部分28aと傾斜部分28bとを図示している(図13(b)参照)。一対の境界線(28、29)における傾斜部分は、軸中心線Cと垂直な方向(軸方向と垂直な方向)に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びるよう形成されている。尚、このように、一対の境界線(28、29)が途中から傾くように形成されているため、一対の近位部側前後面(16、17)の各面及び一対の遠位部側前後面(18、19)の各面には、軸中心線Cと垂直な方向において僅かに湾曲した曲面部分が形成されている。
【0066】
以上説明した人工股関節用コンポーネント4によると、一対の前後面(12、13)において、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれた一対の境界線(28、29)が設けられている。このため、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。
【0067】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図14は、本発明の第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネント5を示す斜視図である。また、図15は、人工股関節用コンポーネント5の左側面図(図15(a))、正面図(図15(b))、図15(b)のA−A線矢視断面図(図15(c))、図15(b)のB−B線矢視断面図(図15(d))、及び右側面図(図15(e))を示したものである。尚、図14及び図15に示す人工股関節用コンポーネント5は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0068】
図14及び図15に示す人工股関節用コンポーネント5は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント5は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント5は、一対の前後面(12、13)に設けられた一対の境界線(30、31)の構成において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0069】
図14及び図15に示すように、人工股関節用コンポーネント5の一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置され、前面側のテーパ状前面12と後面側のテーパ状後面13とで構成されている。そして、テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つのテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0070】
また、人工股関節用コンポーネント5における一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。そして、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。
【0071】
また、図14及び図15に示すように、人工股関節用コンポーネント5における一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(30、31)が形成されている。尚、図15(e)では、一対の境界線(30、31)の位置を点で図示している。一対の境界線(30、31)は、前面側境界線30と後面側境界線31とで構成されている。前面側境界線30は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線31は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。
【0072】
また、一対の境界線(30、31)はそれぞれ、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に曲線状に湾曲しながら延びるように形成されている。尚、このように、一対の境界線(30、31)が湾曲しながら延びるように形成されているため、一対の近位部側前後面(16、17)の各面及び一対の遠位部側前後面(18、19)の各面には、軸中心線Cと垂直な方向において僅かに湾曲した曲面部分が形成されている。
【0073】
以上説明した人工股関節用コンポーネント5によると、一対の前後面(12、13)において、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれた一対の境界線(30、31)が設けられている。このため、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、一対の近位部側前後面及び一対の遠位部側前後面の軸方向に対する傾きの角度は適宜変更して実施することができる。また、一対の境界線の軸方向に対する傾きの形態や角度、軸方向における位置については適宜変更して実施することができる。また、第2実施形態及び第3実施形態では、一対の内外側面において軸方向に沿って設けられる溝及び突起部の構成を例示したが、この通りでなくてもよく、軸方向における位置や長さ、軸方向と垂直な方向の断面形状等を種々変更して実施することができる。また、この溝及び突起部については、内側面及び外側面のいずれかのみに設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして、広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る人工股関節用コンポーネントを示す断面図であって、大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに示した図である。
【図2】図1に示す人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図3】図2に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図4】図2に示す人工股関節用コンポーネントの軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示す斜視図及び透視図である。
【図5】図4に示す仮想のコンポーネントの平面図、左側面図、正面図、右側面図、及び底面図である。
【図6】図2に示す人工股関節用コンポーネントの変形例について、その軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示す斜視図及び透視図である。
【図7】図6に示す仮想のコンポーネントの平面図、左側面図、正面図、右側面図、及び底面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図9】図8に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図11】図10に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図13】図12に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図15】図14に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 人工股関節用コンポーネント
12、13 一対の前後面
14、15 一対の内外側面
16、17 一対の近位部側前後面
18、19 一対の遠位部側前後面
20、21 一対の境界線
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変形性股関節症や慢性関節リウマチなどの疾患によって股関節における大腿骨に異常が認められた患者に対して、人工股関節が適用される手術が行われている。このような手術として、大腿骨の臼蓋側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材と、大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材としての人工股関節用コンポーネントとを有する人工股関節で置換する人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)が行われている。
【0003】
上述のように人工股関節においてステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして、特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された人工股関節用コンポーネントは、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くよう配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成されている。そして、この人工股関節用コンポーネントは、一対の前後面と一対の内外側面とが形成された略矩形の断面を備えるよう構成されている。これにより、この人工股関節用コンポーネントは、大腿骨に埋植された初期の段階においては、略矩形の断面で皮質骨に対して噛み込むようにして骨内で固定されることが意図されている。
【0004】
特許文献1に開示の人工股関節用コンポーネントは、略矩形の断面での噛み込み作用によって、大腿骨に埋植された初期の段階における骨内での固定性能(以下、「初期固定性」という)を確保しようとするものである。しかしながら、特許文献1の人工股関節用コンポーネントに対しては、初期固定性の更なる向上が求められている。そこで、初期固定性の向上を図ることを目的とした人工股関節用コンポーネントとして、特許文献2に開示されたものが知られている。特許文献2においては、一対の前後面に凹凸形状が形成されるとともに、一対の内外側面のうち人体の左右方向における外側に向くように配置される外側面の近位部側において大きく外側に張り出した部分が形成された人工股関節用コンポーネントが開示されている。この人工股関節用コンポーネントでは、このように一対の前後面の凹凸形状と外側面の大きな張り出し部分とが設けられることで、初期固定性の向上が図られている。尚、以下の説明においては、人体において相対的に心臓に近い側に位置することを「近位」といい、遠い側に位置することを「遠位」という。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5156627号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第EP1070490A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工股関節置換術において、大腿骨に人工股関節用コンポーネントを埋植する際には、大腿骨の髄腔部に対して、手術用のやすり(ラスプ)やのみ等の医療機器を用いて穴を形成する処置が行われ、この穴に対して人工股関節用コンポーネントが挿入される。しかしながら、上述した特許文献2に開示の人工股関節用コンポーネントの場合、一対の前後面に凹凸形状が設けられ、更に、外側面に外側へ大きく張り出す張り出し部分が設けられているため、大腿骨の髄腔部に形成した穴に挿入する作業が困難になり易い。そして、大腿骨の髄腔部へ穴を形成する際に、一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分に対応した形状にする必要があるため、場合によっては術中に大腿骨の折損を招いてしまう虞もある。また、人工股関節置換術が行われた後、感染症などを発症した場合、人工股関節用コンポーネントを抜去する手術が必要となる。この場合、人工股関節用コンポーネントに一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分が存在すると、これらの形状構成が抜去作業を妨げる要因となり、抜去作業において相当な手間を要することになってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントであって、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成されている。そして、第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、前記一対の前後面は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面とを有し、前記一対の近位部側前後面と前記一対の遠位部側前後面とは、前記ステム部材における棒状に延びる方向である軸方向に対する傾きが異なる面として形成され、前記一対の近位部側前後面の各面と前記一対の遠位部側前後面の各面とを区画する一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、一対の前後面と一対の内外側面とが形成されることで、人工股関節用コンポーネントの断面が略矩形に形成される。そして、一対の前後面は一対の近位部側前後面と一対の遠位部側前後面とで構成され、これらは軸方向に対する傾きが異なる面として形成される。このため、一対の前後面が一様な傾きの面として形成される場合に比して、髄腔部に形成した穴に沿って沈下しにくくなり、軸方向における位置の安定性であるシンキング抵抗性を大幅に向上させることができる。また、一対の近位部側前後面と一対の遠位部側前後面との軸方向に対する傾きが異なることに加え、これらの各面を区画する一対の境界線には軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれるように形成されている。このため、傾きが異なるとともに斜めに交差する面の抵抗により、シンキング抵抗性の大幅な向上に加え、軸方向を中心とした回転方向における位置の安定性である回旋抵抗性も十分に確保することができる。これにより、初期固定性の指標であるシンキング抵抗性と回旋抵抗性とにおいて向上を図ることができ、初期固定性の向上を図ることができる。
【0010】
そして、上述のように、本発明の人工股関節用コンポーネントは、傾きが異なるとともに斜めに交差する面を含んで構成された一対の前後面によって初期固定性が向上するように構成されている。このため、大腿骨の髄腔部に形成した穴に人工股関節用コンポーネントを挿入する作業を困難とするような形状構成(従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられることもない。これにより、人工股関節用コンポーネントの大腿骨への挿入作業を容易に行うことができる。また、髄腔部に穴を形成する際には、傾きが異なり斜めに交差する一対の前後面に対応した形状の穴を形成すればよく、穴の形成作業が容易となり、術中に大腿骨の折損を招いてしまう虞も抑制できる。そして、初期固定性を向上させる一対の前後面には、人工股関節用コンポーネントを大腿骨から抜去する作業を手間を要する作業としてしまうような形状構成(即ち、従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられていない。このため、人工股関節用コンポーネントの大腿骨からの抜去作業を容易に行うことができる。
【0011】
従って、本発明によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【0012】
第2発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の遠位部側前後面よりも前記一対の近位部側前後面の方が、前記軸方向に対する傾きが大きいことを特徴とする。
【0013】
この発明によると、一対の遠位部側前面よりも一対の近位部側前後面の方が軸方向に対する傾きが大きくなるように形成されているため、遠位部側よりも近位部側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、遠位部側から近位部側にかけて面積の広がる形態が多いため、遠位部側よりも近位部側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0014】
第3発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明又は第2発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、一対の境界線に内側から外側に向かって近位部側から遠位部側に傾くように延びる部分が含まれているため、外側において一対の近位部側前後面の面積が拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、近位部側において外側にかけて面積の広がる形態が多いため、外側において一対の近位部側前後面の面積が拡大する人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0016】
第4発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第3発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって当該一対の境界線間の距離が広がりながら延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、一対の境界線に内側から外側に向かってこの一対の境界線間の距離が広がりながら傾いて延びる部分が含まれているため、内側よりも外側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、内側から外側にかけて面積の広がる形態が多いため、内側よりも外側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0018】
第5発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面には、近位部側に向かって且つ前記内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されていることを特徴とする。
【0019】
この発明によると、内側面に、近位部側に向かって且つ内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されているため、人工股関節用コンポーネントを大腿骨に挿入した際に、大腿骨における近位部側の内側に応力が集中してしまうことを抑制できる。これにより、大腿骨における近位部側で内側に存在する薄い皮質骨が割れてしまうことを抑制することができる。
【0020】
第6発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第5発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記外側に向くように配置される外側面の近位部側の端部は、円弧状の曲面部分として形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によると、外側面の近位部側の端部が円弧状の曲面部分として形成されているため、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業及び抜去作業を行う際に、人工股関節用コンポーネントと大腿骨とが干渉してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業及び抜去作業をより容易にすることができ、作業効率を向上させることができる。
【0022】
第7発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第6発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記軸方向に沿って延びるように形成された溝が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この発明によると、内側面及び外側面の少なくともいずれかにおいて軸方向に沿って延びる溝が設けられているため、この溝によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、この溝は内側面又は外側面の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネントの挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0024】
第8発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第7発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記前面側及び前記後面側の縁部分において前記軸方向に沿ってエッジ状に延びるように形成された突起部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
この発明によると、内側面及び外側面の少なくともいずれかにおいて前面側及び後面側の縁部分に軸方向に沿って延びるエッジ状の突起部が設けられているため、この突起部によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、この突起部は内側面又は外側面の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネントの挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネントの挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1を示す断面図であり、大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに示している。人工股関節用コンポーネント1は、大腿骨100の髄腔部100aに一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として構成されている。この人工股関節用コンポーネント1は、骨頭ボール部材102と組み合わされた状態で人工股関節として適用される。尚、人工股関節置換術においては、髄腔部100aには手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられた穴が形成され、この穴に対して、人工股関節用コンポーネント1が挿入されて埋植される。一方、骨頭ボール部材102は、大腿骨100において骨盤101の臼蓋101a側に配置される。そして、骨頭ボール部材102は、臼蓋101aに配置されるとともに外側半球殻部材103a及び内側半球殻部材103bを有する二層構造の臼蓋カップ103に対して、外形の球面部分において摺動するように配置される。
【0029】
図2は、人工股関節用コンポーネント1の斜視図を示したものである。図3は、人工股関節用コンポーネント1の左側面図(図3(a))、正面図(図3(b))、図3(b)のA−A線矢視断面図(図3(c))、図3(b)のB−B線矢視断面図(図3(d))、及び右側面図(図3(e))を示したものである。尚、図2及び図3に示す人工股関節用コンポーネント1は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0030】
図2及び図3に示す人工股関節用コンポーネント1は、前述のように棒状のステム部材として形成されており、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。この人工股関節用コンポーネント1は、図3(c)及び図3(d)によく示すように、人工股関節用コンポーネント1における棒状に延びる方向である軸方向を示す軸中心線C(図3(a)及び図3(e)にて一点鎖線で示す)と垂直な断面が略矩形に形成されている。尚、人工股関節用コンポーネント1は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成されている。そして、人工股関節用コンポーネント1における一対の前後面(12、13)及び一対の内外側面(14、15)には、その表面にアパタイトを生体内で形成させ易くするための処理としてのアルカリ加熱処理と、ブラスト処理とが施されている。
【0031】
図1乃至図3に示すように、ネック部11は、一端側が大腿骨100に埋植される人工股関節用コンポーネント1の他端側の端部において突出するよう設けられている。そして、人工股関節用コンポーネント1が人工股関節において用いられる場合には、ネック部11に骨頭ボール部材102が嵌合される。尚、ネック部11は、人工股関節用コンポーネント1の他端側の端部において、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態で、内側に向かって傾いて突出するように設けられている。
【0032】
図2及び図3に示すように、一対の前後面(12、13)は、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態(図1参照)で、人体の前面側及び後面側に向くように配置される。そして、一対の前後面(12、13)は、人体の前面側に配置されるテーパ状前面12と人体の後面側に配置されるテーパ状後面13とで構成されている。テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つの平坦なテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0033】
また、一対の前後面(12、13)は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。一対の近位部側前後面(16、17)は、大腿骨100に埋植された状態で一対の前後面(12、13)における近位部側に配置される。そして、一対の近位部側前後面(16、17)は、人体の前面側に配置される近位部側テーパ状前面16と人体の後面側に配置される近位部側テーパ状後面17とで構成されている。一方、一対の遠位部側前後面(18、19)は、大腿骨100に埋植された状態で一対の前後面(12、13)における遠位部側に配置される。そして、一対の遠位部側前後面(18、19)は、人体の前面側に配置される遠位部側テーパ状前面18と人体の後面側に配置される遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。尚、上述の配置構成のため、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されることになる。
【0034】
図3によく示すように、近位部側テーパ状前面16及び近位部側テーパ状後面17は、軸中心線Cを中心として線対称の位置に配置されており、軸中心線Cに対して同一の角度傾いた平坦なテーパ状の面としてそれぞれ構成されている。図3(e)では、近位部側テーパ状前面16の軸中心線Cに対する傾きの角度Dを示しているが、近位部側テーパ状後面17も軸中心線Cに対して同一角度(角度D)傾くように形成されている。そして、この角度Dの大きさは、例えば4°に設定され、2°から8°の範囲において設定される。一方、遠位部側テーパ状前面18及び遠位部側テーパ状後面19は、軸中心線Cを中心として線対称の位置に配置されており、軸中心線Cに対して同一の角度傾いた平坦なテーパ状の面としてそれぞれ構成されている。図3(e)では、遠位部側テーパ状前面18の軸中心線Cに対する傾きの角度Eを示しているが、遠位部側テーパ状後面19も軸中心線Cに対して同一角度(角度E)傾くように形成されている。そして、この角度Eの大きさは、例えば、2°に設定され、0°から3°の範囲において設定される。
【0035】
尚、上述した角度Dの設定範囲(2°から8°)及び角度Eの設定範囲(0°から3°)は、大腿骨の髄腔部の形状のばらつきを考慮して設定されたものである。髄腔部の形状は、個人によってばらつきがあるが、一般的に近位部側で面積が大きく遠位部側で面積が小さい傾向にあり、髄腔部の形状を円錐状と仮定してばらつきを整理することができる。そして、上述した設定範囲で設定することで、髄腔部の形状に適合させた状態で人工股関節用コンポーネント1を埋植することができる。
【0036】
また、上述のように角度Dと角度Eとが設定されていることで、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とは、軸中心線Cに対する傾き(軸方向に対する傾き)が異なる面として形成されている。また、角度Dは角度Eよりも大きい角度となるように設定される。これにより、一対の遠位部側前後面(18、19)よりも一対の近位部側前後面(16、17)の方が、軸中心線Cに対する傾きが大きく設定されている。
【0037】
また、図2及び図3に示すように、一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(20、21)が形成されている。尚、図3(e)では、一対の境界線(20、21)の位置を点で図示している。一対の境界線(20、21)は、前面側境界線20と後面側境界線21とで構成されている。前面側境界線20は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線21は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。そして、一対の境界線(20、21)はそれぞれ、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向(軸方向と垂直な方向)に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて直線状に延びるよう形成されている。
【0038】
図2及び図3に示すように、一対の内外側面(14、15)は、人工股関節用コンポーネント1が大腿骨100に埋植された状態で、人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される。そして、一対の内外側面(14、15)は内側面14と外側面15とで構成され、内側面14は人体左右方向における内側に向くように配置され、外側面15は人体左右方向における外側に向くように配置される。また、内側面14には、近位部側に向かって且つ人体左右方向における内側に向かって円弧状に延びる曲面22が形成されている。尚、この曲面22は、軸中心線Cと垂直な方向においても円弧状に形成されている。一方、外側面15は、その近位部側の端部が円弧状に湾曲した曲面部分23として形成されている。
【0039】
ここで、一対の前後面(12、13)と一対の境界線(20、21)との関係について、更に詳しく説明する。図4は、人工股関節用コンポーネント1の軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示したものであり、その斜視図(図4(a))と透視図(図4(b))とを示している。また、図5は、図4(a)に示す仮想のコンポーネントの平面図(図5(a))、左側面図(図5(b))、正面図(図5(c))、右側面図(図5(d))、及び底面図(図5(e))を示したものである。尚、人工股関節用コンポーネント1に対応する要素には同一の符号を付している。
【0040】
図4及び図5に示すように、一対の境界線(20、21)は、互いに平行に配置され、人体の内側から外側に向かって軸中心線Cと垂直な断面に対して近位部側から遠位部側に傾くように延びている。そして、この一対の境界線(20、21)を境として、軸中心線Cに対して近位部側に向かって大きく広がるように傾く一対の近位部側前後面(16、17)と、軸中心線Cに対して近位部側に向かって小さく広がるように傾く一対の遠位部側前後面(18、19)とが配置されている。このため、軸中心線Cに対して垂直な断面形状は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の内外側面(14、15)とで周囲が囲まれる領域では幅の広い台形状となり、一対の遠位部側前後面(18、19)と一対の内外側面(14、15)とで囲まれる領域では幅の狭い台形状となる。そして、いずれの断面形状ともに、人体左右方向における外側に向かって広がった台形状となる。
【0041】
尚、一対の前後面(12、13)と一対の境界線(20、21)との関係について、図4及び図5にて説明した構成とは異なる構成で人工股関節用コンポーネント1を変更して実施することもできる。図6は、人工股関節用コンポーネント1の変形例において、その軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示したものであり、その斜視図(図6(a))と透視図(図6(b))とを示している。また、図7は、図6(a)に示す仮想のコンポーネントの平面図(図7(a))、左側面図(図7(b))、正面図(図7(c))、右側面図(図7(d))、及び底面図(図7(e))を示したものである。尚、図6及び図7に示す変更例において、人工股関節用コンポーネント1に対応する要素には同一の符号を付している。
【0042】
図6及び図7に示す変形例においては、一対の境界線(20、21)は、人体左右方向における内側から外側に向かってこの一対の境界線(20、21)間の距離が広がりながら延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に傾くように延びている。そして、この一対の境界線(20、21)を境界として、軸中心線Cに対して近位部側に向かって大きく広がるように傾く一対の近位部側前後面(16、17)と、軸中心線Cに対して近位部側に向かって小さく広がるように傾く一対の遠位部側前後面(18、19)とが配置されている。この変形例においても、軸中心線Cに対して垂直な断面形状は、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の内外側面(14、15)とで周囲が囲まれる領域では幅の広い台形状となり、一対の遠位部側前後面(18、19)と一対の内外側面(14、15)とで囲まれる領域では幅の狭い台形状となる。そして、いずれの断面形状ともに、人体左右方向における外側に向かって広がった台形状となる。
【0043】
以上説明した人工股関節用コンポーネント1によると、一対の前後面(12、13)と一対の内外側面(14、15)とが形成されることで、人工股関節用コンポーネント1の断面が略矩形に形成される。そして、一対の前後面(12、13)は一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とで構成され、これらは軸方向に対する傾きが異なる面として形成される。このため、一対の前後面(12、13)が一様な傾きの面として形成される場合に比して、髄腔部100aに形成した穴に沿って沈下しにくくなり、軸方向における位置の安定性であるシンキング抵抗性を大幅に向上させることができる。また、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)との軸方向に対する傾きが異なることに加え、これらの各面(16、17、18、19)を区画する一対の境界線(20、21)は軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びるように形成されている。このため、傾きが異なるとともに斜めに交差する面の抵抗により、シンキング抵抗性の大幅な向上に加え、軸方向を中心とした回転方向における位置の安定性である回旋抵抗性も十分に確保することができる。これにより、初期固定性の指標であるシンキング抵抗性と回旋抵抗性とにおいて向上を図ることができ、初期固定性の向上を図ることができる。
【0044】
そして、上述のように、人工股関節用コンポーネント1は、傾きが異なるとともに斜めに交差する面を含んで構成された一対の前後面(12、13)によって初期固定性が向上するように構成されている。このため、大腿骨100の髄腔部100aに形成した穴に人工股関節用コンポーネント1を挿入する作業を困難とするような形状構成(従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられることもない。これにより、人工股関節用コンポーネント1の大腿骨100への挿入作業を容易に行うことができる。また、髄腔部100aに穴を形成する際には、傾きが異なり斜めに交差する一対の前後面(12、13)に対応した形状の穴を形成すればよく、穴の形成作業が容易となり、術中に大腿骨100の折損を招いてしまう虞も抑制できる。そして、初期固定性を向上させる一対の前後面(12、13)には、人工股関節用コンポーネント1を大腿骨100から抜去する作業を手間を要する作業としてしまうような形状構成(即ち、従来技術におけるような一対の前後面の凹凸形状や外側面の大きな張り出し部分などの形状構成)が設けられていない。このため、人工股関節用コンポーネント1の大腿骨100からの抜去作業を容易に行うことができる。
【0045】
従って、本実施形態によると、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる人工股関節用コンポーネント1を提供することができる。
【0046】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、一対の遠位部側前面(18、19)よりも一対の近位部側前後面(16、17)の方が軸方向に対する傾きが大きくなるように形成されているため、遠位部側よりも近位部側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネント1を構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、遠位部側から近位部側にかけて面積の広がる形態が多いため、遠位部側よりも近位部側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネント1を用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0047】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、一対の境界線(20、21)が内側から外側に向かって近位部側から遠位部側に傾くように延びるよう形成されているため、外側において一対の近位部側前後面(16、17)の面積が拡大する形状の人工股関節用コンポーネント1を構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、近位部側において外側にかけて面積の広がる形態が多いため、外側において一対の近位部側前後面(16、17)の面積が拡大する人工股関節用コンポーネント1を用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0048】
また、図6及び図7において説明した人工股関節用コンポーネント1の変形例によると、一対の境界線(20、21)が内側から外側に向かってこの一対の境界線(20、21)間の距離が広がりながら傾いて延びるように形成されているため、内側よりも外側において断面積がより大きく拡大する形状の人工股関節用コンポーネントを構成することができる。一方、大腿骨の髄腔部は、一般的に、内側から外側にかけて面積の広がる形態が多いため、内側よりも外側の方がより拡大する断面の人工股関節用コンポーネントを用いることで、髄腔部の形態により適合した形状の人工股関節用コンポーネントを実現し易くなり、より初期固定性を向上させることができる。
【0049】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、内側面14に、近位部側に向かって且つ内側に向かって円弧状に延びる曲面22が形成されているため、人工股関節用コンポーネント1を大腿骨100に挿入した際に、大腿骨100における近位部側の内側に応力が集中してしまうことを抑制できる。これにより、大腿骨100における近位部側で内側に存在する薄い皮質骨が割れてしまうことを抑制することができる。
【0050】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、外側面15の近位部側の端部が円弧状の曲面部分23として形成されているため、大腿骨100に対する人工股関節用コンポーネント1の挿入作業及び抜去作業を行う際に、人工股関節用コンポーネント1と大腿骨100とが干渉してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨100に対する人工股関節用コンポーネント1の挿入作業及び抜去作業をより容易にすることができ、作業効率を向上させることができる。
【0051】
尚、本願発明者は、型枠内において人工股関節用コンポーネントを硬質発砲ウレタンにて固定し、型枠に対して人工股関節用コンポーネントを押し込むシンキング抵抗性確認試験と、型枠に対して人工股関節用コンポーネントを回転させる回旋抵抗性確認試験とを実施した。尚、これらの試験は、人工股関節用コンポーネント1に対して実施するとともに、比較のため、一対の前後面に凹凸形状が形成された人工股関節用コンポーネント(比較例1)に対してと、外側面に大きな張り出し部分が形成された人工股関節用コンポーネント(比較例2)に対しても実施した。その結果、シンキング抵抗性については、人工股関節用コンポーネント1が比較例1及び比較例2よりも向上することを確認できた。また、回旋抵抗性については、人工股関節用コンポーネント1と、比較例1及び比較例2とにおいて、ほぼ同等の水準であることを確認できた。従って、人工股関節用コンポーネント1を用いることにより、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる構成で、初期固定性の向上を図ることができることを確認することができた。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る人工股関節用コンポーネント2を示す斜視図である。また、図9は、人工股関節用コンポーネント2の左側面図(図9(a))、正面図(図9(b))、図9(b)のA−A線矢視断面図(図9(c))、図9(b)のB−B線矢視断面図(図9(d))、及び右側面図(図9(e))を示したものである。尚、図8及び図9に示す人工股関節用コンポーネント2は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0053】
図8及び図9に示す人工股関節用コンポーネント2は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント2は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント2は、一対の内外側面(14、15)に溝(24、25)が設けられている点において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0054】
図8及び図9に示すように、人工股関節用コンポーネント2の一対の内外側面(14、15)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置され、内側面14には曲面22が形成され、外側面15の近位部側の端部には曲面部分23が形成されている。しかし、人工股関節用コンポーネント2の一対の内外側面(14、15)には、それぞれ溝(24、25)が設けられている。内側面14には内側溝24が設けられており、外側面15には外側溝25が設けられている。内側溝24及び外側溝25は、いずれも軸中心線Cと垂直な断面において円弧状に凹んだ断面形状の溝として形成されている。また、内側溝24は、内側面14における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置され、軸方向に沿って延びるように形成されている。一方、外側溝25は、外側面15における近位部側の端部から遠位部側の端部にかけて軸方向のほぼ全長に亘って配置され、軸方向に延びるように形成されている。
【0055】
以上説明した人工股関節用コンポーネント2によると、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。そして、この人工股関節用コンポーネント2によると、内側面14及び外側面15において軸方向に沿って延びる溝(24、25)が設けられているため、この溝(24、25)によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、これらの溝(24、25)は内側面14及び外側面15の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネント2の挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネント2の挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0056】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図10は、本発明の第3実施形態に係る人工股関節用コンポーネント3を示す斜視図である。また、図11は、人工股関節用コンポーネント3の左側面図(図11(a))、正面図(図11(b))、図11(b)のA−A線矢視断面図(図11(c))、図11(b)のB−B線矢視断面図(図11(d))、及び右側面図(図11(e))を示したものである。尚、図10及び図11に示す人工股関節用コンポーネント3は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0057】
図10及び図11に示す人工股関節用コンポーネント3は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント3は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント3は、一対の内外側面(14、15)に突起部(26、27)が設けられている点において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0058】
図10及び図11に示すように、人工股関節用コンポーネント3の一対の内外側面(14、15)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置され、内側面14には曲面22が形成され、外側面15の近位部側の端部には曲面部分23が形成されている。しかし、人工股関節用コンポーネント3の一対の内外側面(14、15)には、それぞれフィン状に形成された突起部(26、27)が設けられている。内側面14には内側突起部26が設けられており、外側面15には外側突起部27が設けられている。内側突起部26は、人体の前面側及び後面側における縁部分にそれぞれ設けられ、軸方向に沿ってエッジ状に伸びるように形成されている。この内側突起部26は、内側面14における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置されている。一方、外側突起部27も同様に、人体の前面側及び後面側における縁部分にそれぞれ設けられ、軸方向に沿ってエッジ状に伸びるように形成されている。この外側突起部27は、外側面15における軸方向での中心部から遠位部側の端部にかけて配置されている。
【0059】
以上説明した人工股関節用コンポーネント3によると、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。そして、この人工股関節用コンポーネント3によると、内側面14及び外側面15において前面側及び後面側の縁部分に軸方向に沿って延びるエッジ状の突起部(26、27)が設けられているため、この突起部(26、27)によって皮質骨と噛み合い易くなり、回旋抵抗性を更に向上させることができる。また、これらの突起部(26、27)は内側面14及び外側面15の軸方向に沿って形成されているため、人工股関節用コンポーネント3の挿入方向及び抜去方向において大腿骨と干渉することも抑制され、大腿骨に対する人工股関節用コンポーネント3の挿入作業や抜去作業も容易に行うことができる。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図12は、本発明の第4実施形態に係る人工股関節用コンポーネント4を示す斜視図である。また、図13は、人工股関節用コンポーネント4の左側面図(図13(a))、正面図(図13(b))、図13(b)のA−A線矢視断面図(図13(c))、図13(b)のB−B線矢視断面図(図13(d))、及び右側面図(図13(e))を示したものである。尚、図12及び図13に示す人工股関節用コンポーネント4は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0061】
図12及び図13に示す人工股関節用コンポーネント4は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント4は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント4は、一対の前後面(12、13)に設けられた一対の境界線(28、29)の構成において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0062】
図12及び図13に示すように、人工股関節用コンポーネント4の一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置され、前面側のテーパ状前面12と後面側のテーパ状後面13とで構成されている。そして、テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つのテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0063】
また、人工股関節用コンポーネント4における一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。そして、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。
【0064】
また、図12及び図13に示すように、人工股関節用コンポーネント4における一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(28、29)が形成されている。尚、図13(e)では、一対の境界線(28、29)の位置を点で図示している。一対の境界線(28、29)は、前面側境界線28と後面側境界線29とで構成されている。前面側境界線28は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線29は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。
【0065】
また、一対の境界線(28、29)にはそれぞれ、軸中心線Cと垂直な方向に延びる垂直部分と、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに軸中心線Cと垂直な方向に対して傾く方向に直線状に延びる傾斜部分とが含まれている。尚、図13では、前面側境界線28についてのみ、上述の垂直部分28aと傾斜部分28bとを図示している(図13(b)参照)。一対の境界線(28、29)における傾斜部分は、軸中心線Cと垂直な方向(軸方向と垂直な方向)に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びるよう形成されている。尚、このように、一対の境界線(28、29)が途中から傾くように形成されているため、一対の近位部側前後面(16、17)の各面及び一対の遠位部側前後面(18、19)の各面には、軸中心線Cと垂直な方向において僅かに湾曲した曲面部分が形成されている。
【0066】
以上説明した人工股関節用コンポーネント4によると、一対の前後面(12、13)において、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれた一対の境界線(28、29)が設けられている。このため、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業及び大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。
【0067】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図14は、本発明の第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネント5を示す斜視図である。また、図15は、人工股関節用コンポーネント5の左側面図(図15(a))、正面図(図15(b))、図15(b)のA−A線矢視断面図(図15(c))、図15(b)のB−B線矢視断面図(図15(d))、及び右側面図(図15(e))を示したものである。尚、図14及び図15に示す人工股関節用コンポーネント5は、左股関節用の人工股関節において用いられるものとして説明する。
【0068】
図14及び図15に示す人工股関節用コンポーネント5は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に用いられ、人工股関節置換術によって人工股関節において適用される。そして、この人工股関節用コンポーネント5は、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に構成され、ネック部11、一対の前後面(12、13)、一対の内外側面(14、15)が設けられている。但し、人工股関節用コンポーネント5は、一対の前後面(12、13)に設けられた一対の境界線(30、31)の構成において、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成については図面において同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0069】
図14及び図15に示すように、人工股関節用コンポーネント5の一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置され、前面側のテーパ状前面12と後面側のテーパ状後面13とで構成されている。そして、テーパ状前面12及びテーパ状後面13は、軸中心線Cに対する傾きが異なる2つのテーパ状の面が組み合わされて構成される面としてそれぞれ構成されている。
【0070】
また、人工股関節用コンポーネント5における一対の前後面(12、13)は、第1実施形態と同様に、一対の近位部側前後面(16、17)と一対の遠位部側前後面(18、19)とを備えて構成されている。そして、テーパ状前面12は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とで構成され、テーパ状後面13は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とで構成されている。
【0071】
また、図14及び図15に示すように、人工股関節用コンポーネント5における一対の前後面(12、13)には、一対の近位部側前後面(16、17)の各面(近位部側テーパ状前面16、近位部側テーパ状後面17)と一対の遠位部側前後面(18、19)の各面(遠位部側テーパ状前面18、遠位部側テーパ状後面19)とを区画する一対の境界線(30、31)が形成されている。尚、図15(e)では、一対の境界線(30、31)の位置を点で図示している。一対の境界線(30、31)は、前面側境界線30と後面側境界線31とで構成されている。前面側境界線30は近位部側テーパ状前面16と遠位部側テーパ状前面18とを区画しており、後面側境界線31は近位部側テーパ状後面17と遠位部側テーパ状後面19とを区画している。
【0072】
また、一対の境界線(30、31)はそれぞれ、人体の左右方向における内側から外側に向かって延びるとともに、軸中心線Cと垂直な方向に対して傾く方向であって近位部側から遠位部側に向かう方向に曲線状に湾曲しながら延びるように形成されている。尚、このように、一対の境界線(30、31)が湾曲しながら延びるように形成されているため、一対の近位部側前後面(16、17)の各面及び一対の遠位部側前後面(18、19)の各面には、軸中心線Cと垂直な方向において僅かに湾曲した曲面部分が形成されている。
【0073】
以上説明した人工股関節用コンポーネント5によると、一対の前後面(12、13)において、軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれた一対の境界線(30、31)が設けられている。このため、第1実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に、初期固定性の向上を図ることができるとともに、大腿骨への挿入作業や大腿骨からの抜去作業を容易にすることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、一対の近位部側前後面及び一対の遠位部側前後面の軸方向に対する傾きの角度は適宜変更して実施することができる。また、一対の境界線の軸方向に対する傾きの形態や角度、軸方向における位置については適宜変更して実施することができる。また、第2実施形態及び第3実施形態では、一対の内外側面において軸方向に沿って設けられる溝及び突起部の構成を例示したが、この通りでなくてもよく、軸方向における位置や長さ、軸方向と垂直な方向の断面形状等を種々変更して実施することができる。また、この溝及び突起部については、内側面及び外側面のいずれかのみに設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、人工股関節において大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる人工股関節用コンポーネントとして、広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る人工股関節用コンポーネントを示す断面図であって、大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに示した図である。
【図2】図1に示す人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図3】図2に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図4】図2に示す人工股関節用コンポーネントの軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示す斜視図及び透視図である。
【図5】図4に示す仮想のコンポーネントの平面図、左側面図、正面図、右側面図、及び底面図である。
【図6】図2に示す人工股関節用コンポーネントの変形例について、その軸方向における両端部分を除いた部分を模式的に示した仮想のコンポーネントを示す斜視図及び透視図である。
【図7】図6に示す仮想のコンポーネントの平面図、左側面図、正面図、右側面図、及び底面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図9】図8に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図11】図10に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図13】図12に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネントの斜視図である。
【図15】図14に示す人工股関節用コンポーネントの左側面図、正面図、断面図、及び右側面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 人工股関節用コンポーネント
12、13 一対の前後面
14、15 一対の内外側面
16、17 一対の近位部側前後面
18、19 一対の遠位部側前後面
20、21 一対の境界線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工股関節において、大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる、人工股関節用コンポーネントであって、
大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成され、
前記一対の前後面は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面とを有し、前記一対の近位部側前後面と前記一対の遠位部側前後面とは、前記ステム部材における棒状に延びる方向である軸方向に対する傾きが異なる面として形成され、
前記一対の近位部側前後面の各面と前記一対の遠位部側前後面の各面とを区画する一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の遠位部側前後面よりも前記一対の近位部側前後面の方が、前記軸方向に対する傾きが大きいことを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって当該一対の境界線間の距離が広がりながら延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面には、近位部側に向かって且つ前記内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記外側に向くように配置される外側面の近位部側の端部は、円弧状の曲面部分として形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記軸方向に沿って延びるように形成された溝が設けられていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記前面側及び前記後面側の縁部分において前記軸方向に沿ってエッジ状に延びるように形成された突起部が設けられていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項1】
人工股関節において、大腿骨に一端側が埋植される棒状に形成されたステム部材として用いられる、人工股関節用コンポーネントであって、
大腿骨に埋植された状態で人体の前面側及び後面側に向くように配置される一対の前後面と、大腿骨に埋植された状態で人体の左右方向における内側及び外側に向くように配置される一対の内外側面と、が形成され、
前記一対の前後面は、大腿骨に埋植された状態で近位部側に配置される一対の近位部側前後面と遠位部側に配置される一対の遠位部側前後面とを有し、前記一対の近位部側前後面と前記一対の遠位部側前後面とは、前記ステム部材における棒状に延びる方向である軸方向に対する傾きが異なる面として形成され、
前記一対の近位部側前後面の各面と前記一対の遠位部側前後面の各面とを区画する一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の遠位部側前後面よりも前記一対の近位部側前後面の方が、前記軸方向に対する傾きが大きいことを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して近位部側から遠位部側に向かう方向に傾いて延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の境界線には、前記内側から前記外側に向かって当該一対の境界線間の距離が広がりながら延びるとともに、前記軸方向と垂直な方向に対して傾く方向に延びる部分が含まれていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面には、近位部側に向かって且つ前記内側に向かって円弧状に延びる曲面が形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記外側に向くように配置される外側面の近位部側の端部は、円弧状の曲面部分として形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記軸方向に沿って延びるように形成された溝が設けられていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記一対の内外側面における前記内側に向くように配置される内側面及び前記外側に向くよう配置される外側面のうちの少なくともいずれかには、前記前面側及び前記後面側の縁部分において前記軸方向に沿ってエッジ状に延びるように形成された突起部が設けられていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−51504(P2010−51504A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219034(P2008−219034)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
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