説明

介護用入浴装置

【課題】 利用者の座位を維持でき、設置に要するスペースが少なく、かつ短時間で利用者の体を温めうる介護用入浴装置を提供する。
【解決手段】 車椅子に乗る利用者が座位のまま出入口を介して入浴できるように形成され、かつ湯の供給口34を有する浴槽本体31と、一端縁が出入口に蝶着され、出入口を開閉する扉32と、浴槽本体31よりも高い位置に設置される湯溜槽5と、湯溜槽5と供給口34とを接続する配管6と、配管6の途中に設けられるバルブ7と、扉32の開閉時に扉32と浴槽本体31との水密性を担保する水密機構33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子を必要とする被介護者(以下「利用者」という。)が車椅子に乗る座位のまま入浴できるようにした介護用入浴装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
入浴時にぬれても差し支えないように形成された車椅子が市販されている。また、特許文献1(特開2006−141926号公報)、特許文献2(特開2006−20989号公報)は、利用者がこのような入浴用の車椅子に乗る座位のまま入浴できる装置を開示する。
【0003】
これらの文献のように、浴槽本体の前面に出入口を設け、この出入口を扉で開閉するようにすれば、利用者は、座位のまま浴槽本体内へ入り、入浴でき、姿勢変化が殆どなく、利用者は、負担を感じずに、かつ安心して入浴できるため好都合である。
【0004】
ところで、社会の高齢化が進むにつれ、従前は車椅子を必要とせず自力で入浴できていたものの、それが不可能になるケースが増えている。
【0005】
また、介護施設等を利用せず、住み慣れた自宅の一部をリフォームにより改造し、車椅子のまま入浴できる入浴装置を設けて、自宅で生活を続けたいとする高齢者も増えている。
【0006】
このような場合、狭い我が国の住宅事情に鑑みると、浴槽やトイレ等を含む水回りに確保できる空間は、約六畳程度しかないことが普通である。したがって、このような用途に適する入浴装置は、極力コンパクトに構成しなければ、実用に供し得ない。
【0007】
言い換えれば、介護施設に設けられているようなリフト等を使用するような大がかりな入浴装置は使用できない。
【0008】
入浴時のことを考えれば明らかなように、入浴する利用者は、裸の状態で車椅子に乗っているのであるから、脱衣をしてからお湯に浸かるまでの時間は、短時間でなければならない。さもなければ、風邪を引くなどの不都合を生ずる。
【0009】
特許文献1,2の技術は、この点を考慮しておらず、利用者の周囲を短時間でお湯で満たすことができない。したがって、上記用途に十分対応できていない。
【0010】
また、特許文献1,2の技術において、仮にお湯を浴槽内へ圧送すると、扉部分から漏水するおそれがあり、実用にならない。
【0011】
さらに、特許文献3(特開2006−102389号公報)は、別の技術を開示するが、これによると、利用者は後ろ向きの座位から、さらに後方へ回転する姿勢変化を強制されるばかりでなく、利用者は車椅子から乗り移る動作をしなければならない。
【0012】
弱っている利用者にこのような動作等を強制すると負担が大きいから、利用者は楽しいはずの入浴を敬遠しがちとなる。また、ポンプやモータなどの駆動部を必要とするので、設備が大がかりとなり、狭い空間に設置しにくくなる。また、高価となるから、年金暮らしのように経済的に恵まれないことが多い利用者には、入手が困難になる。
【特許文献1】特開2006−141926号公報
【特許文献2】特開2006−20989号公報
【特許文献3】特開2006−102389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、利用者の座位を維持でき、設置に要するスペースが少なく、かつ短時間で利用者の体を温めうる介護用入浴装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明に係る介護用入浴装置は、車椅子に乗る利用者が座位のまま出入口を介して入浴できるように形成され、かつ湯の供給口を有する浴槽本体と、一端縁が出入口に蝶着され、出入口を開閉する扉と、浴槽本体よりも高い位置に設置される湯溜槽と、湯溜槽と供給口とを接続する配管と、配管の途中に設けられるバルブと、扉の開閉時に扉と浴槽本体との水密性を担保する水密機構とを備える。
【0015】
この構成において、介護者は、バルブを閉じて、湯溜槽にお湯を溜め、水密機構を解除して扉を開けておく。この状態において、利用者は脱衣し、車椅子に乗る座位を維持したまま、車椅子ごと浴槽本体内へ移動する。このとき、利用者が前を向くように車椅子を移動することができ、利用者は安心して浴槽本体内へ移動できる。勿論、利用者が望めば、後ろ向きにしても良い。
【0016】
次に、介護者は扉を閉じ、水密機構により扉と浴槽本体の水密性を担保し、バルブを開く。すると、湯溜槽と浴槽本体とにおいてレベル差が設けられているから、湯溜槽に溜まったお湯は、自然流下により配管を介して浴槽本体内へ流れ込み、直ちに利用者の周囲に充満する。
【0017】
したがって、利用者の体は、短時間でお湯により暖められ、風邪等の不都合を回避できる。しかも、水密機構により水密性が担保されているから、扉から漏水することはない。さらに、この間、特段の機械力や電気力は不要であるので、入浴装置の設備規模及び設置スペースを小さくすることができると共に、製造コストを低減できる。よって、資力に乏しい利用者であっても、現実に使用しやすい入浴装置を提供できる。
【0018】
第2の発明に係る介護用入浴装置では、出入口はU字状の端面を有するように形成され、水密機構は、端面に沿って配設されるレールと、レールに対面するように扉に配設され、弾性を有する水密膜と、レールと水密膜とを圧着させる圧着部とを有する。
【0019】
この構成により、レールと水密膜とを、圧着部により圧着させることができ、水密性をシンプルな構成で実用上十分なレベルに担保できる。
【0020】
第3の発明に係る介護用入浴装置では、圧着部は、扉から外向きに突設され、かつ係合溝が形成された係合板と、浴槽本体から係合溝に挿通可能に支持されるねじ棒と、ねじ棒に螺合して係合板を浴槽本体側へ付勢するナットとを備える。
【0021】
この構成により、ねじ棒の先端部を係合溝に挿通し、ナットをねじ棒にねじ込むだけで、特別な外力を付加しなくても、水密性を担保でき、コンパクトな入浴装置を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、利用者は、座位を維持したまま安心して入浴できるし、入浴装置をコンパクトに構成できるから狭い空間にも容易に設置できるし、安価に構成できるから、実用に供しやすい。また、湯溜槽から浴槽本体への自然流下を利用し、利用者の体は、短時間でお湯により暖められ、風邪等の不都合を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態における介護用入浴装置の正面図である。図1に示すように、床面1上に枕木2を設置し、その上に浴槽部3を配設する。
【0025】
ここで、枕木2を設けたのは、排水時の都合と車椅子が浴槽部3にスムーズに接近できるように考慮したものであり、枕木2を設ける点は必須ではない。また、所謂バリアフリーを実現するために、適宜スロープやアプローチ等を設けるのが望ましい。
【0026】
枕木2から離れた位置において、床面1上に台部4を立設し、さらにその上に、湯溜槽5を配設する。
【0027】
湯溜槽5は、十分な量のお湯を溜めうるものであれば、任意に構成できる。例えば、上面を開放しておいても良いし、上面を蓋で封鎖するものであっても良い。湯溜槽5内には、お湯を溜めるのであるが、その要領は任意である。例えば、ホースやシャワー等でお湯を送っても良いし、手桶やバケツなどにお湯をくんで溜めても良い。
【0028】
台部4上に湯溜槽5を配設するのは、湯溜槽5と、浴槽部3の浴槽本体31とにレベル差を設けるためである。本形態では、台部4は、コンクリートブロックを組んで形成したが、上記レベル差を確保できる限り、任意に構成して差し支えない。
【0029】
湯溜槽5の下面には、吐出口51が開設され、配管6の上端部が、吐出口51に接続される。また、配管6の下端部は、浴槽部3の浴槽本体31の側部に開設された供給口34に接続される。
【0030】
さらに、配管6の途中にはバルブ7が設けられ、湯溜槽5を開閉することにより、湯溜槽5から浴槽本体31へのお湯の流動を、許可/禁止することができる。バルブ7は、この用途を満たせば任意である。例えば、電磁弁等ではなく、手動のバルブとすることがコスト低減のため有利である。
【0031】
図2に平面視で示すように、浴槽本体31の底部には、排水口35が開設されており、入浴時には、排水口35を図示しない栓で塞ぐ。入浴が終了したら、この栓を抜き、浴槽本体31内のお湯を排水する。
【0032】
図3に示すように、浴槽本体31は、前面及び上面が開放された箱形をなす。本形態では、檜を主材として浴槽本体31を構成し、利用者が檜の香りを満喫できるようにしたが、これは必須ではない。例えば、合成樹脂、ステンレス鋼あるいはタイル等で構成しても良い。
【0033】
浴槽本体31の前面は開放されて、出入口となっており、図3のように、この出入口はU字状の端面を有する。扉32の基端縁は、蝶番32aにより、出入口の上下方向の一辺に開閉自在に蝶着される。
【0034】
以下、本形態の扉32及び水密機構33について説明する。図2一部拡大図にもあらわれているように、出入口の端面に沿ってステンレス製の角棒からなるレール36が配設され、扉32には、レール36に対面するように弾性を有する水密膜37(本例では、水密ゴムからなる)が固着される。
【0035】
図2の一部拡大図にあらわれているように、扉32が閉じられたときに、レール36と水密膜37とを圧着させることにより、水密膜37が弾性変形し、レール36が水密膜37に食い込んで、水密性を担保する圧着部が設けられる。
【0036】
扉32の各辺のうち、蝶番32aが蝶着される辺と上辺とを除く、2つの辺には、所定間隔を隔てて複数の係合板60の基端部が固着される。係合板60の先端部には、略U字状をなす係合溝61が形成されている。
【0037】
さらに、浴槽本体31の出入口をなす端面において、これらの係合板60に符合する位置には、図5に拡大して示される圧着部が配設される。
【0038】
この圧着部は、次の要素を備える。ブラケット38は、断面コ字状をなし、その側面は、図4に示すように、浴槽本体31の出入口をなす端面の脇に位置する側面に固着される。ブラケット38の先端側には、図5の矢印N1、N2方向に回転可能にロータ39が枢着される。さらに、ロータ39から外側へ向けてねじ棒40が延設される。図4に示すように、ねじ棒40の先端部は、係合溝61よりもやや小径であり、係合溝61に挿通できるようになっている。
【0039】
ナット41は、ねじ棒40のねじ部に螺合する雌ねじ部41aを有し、ナット41から外向きに2つのハンドル41bが突設される。
【0040】
したがって、図3に示す状態から扉32を閉じ、図4に示すように、図5(a)の矢印N2方向にねじ棒40を回転させ、ねじ棒40の先端部を係合溝61に係合させる。
【0041】
さらに、図5(a)に示す状態から、図5(b)に示すように、ナット41をねじ棒40に螺合させ、図4の矢印N3方向に回転させると、係合板60即ち扉32及び水密膜37を、レール36に圧着させることができる。
【0042】
これにより、水密性を担保できる。しかも、この操作は、人手のみにより実施でき、特別な外力を作用させる必要がない。
【0043】
図6に示すように、脱衣した利用者10が車椅子9に乗る座位を維持したまま、扉32を開き、浴槽本体31内へ至った後、扉32を閉じ、上記水密機構により水密性を担保した上で、バルブ7を開けば、湯溜槽5と浴槽本体31とのレベル差により、湯溜槽5内のお湯8が浴槽本体31内へ自然流下し、お湯8は短時間で利用者10の周囲を満たす。これにより、利用者10は風邪を引くことなく、また座位を維持したまま安心して、かつ快適に入浴できる。
【0044】
なお、本形態では、図6に示すように、利用者10が肩までお湯8に浸からない半身浴の例を説明したが、浴槽本体31等の高さをより大とすれば、全身浴も実現でき、そうしても本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、例えば、高齢者など車椅子を必要とする被介護者が自宅で入浴するためのリフォーム事業等の分野において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態における介護用入浴装置の正面図
【図2】本発明の一実施の形態における介護用入浴装置の平面図
【図3】本発明の一実施の形態における介護用入浴装置の斜視図
【図4】本発明の一実施の形態における水密機構の拡大斜視図
【図5】(a)本発明の一実施の形態における圧着部の拡大斜視図 (b)本発明の一実施の形態における圧着部の拡大斜視図
【図6】本発明の一実施の形態における介護用入浴装置の使用状態を示す断面図
【符号の説明】
【0047】
1 床面
2 枕木
3 浴槽部
4 台部
5 湯溜槽
6 配管
7 バルブ
8 湯
9 車椅子
10 利用者
31 浴槽本体
32 扉
32a 蝶番
33 水密機構
34 供給口
35 排水口
36 レール
37 水密膜
38 ブラケット
39 ロータ
40 ねじ棒
41 ナット
41a 雌ねじ部
41b ハンドル
51 吐出口
60 係合板
61 係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子に乗る利用者が座位のまま出入口を介して入浴できるように形成され、かつ湯の供給口を有する浴槽本体と、
一端縁が前記出入口に蝶着され、前記出入口を開閉する扉と、
前記浴槽本体よりも高い位置に設置される湯溜槽と、
前記湯溜槽と前記供給口とを接続する配管と、
前記配管の途中に設けられるバルブと、
前記扉の開閉時に前記扉と前記浴槽本体との水密性を担保する水密機構とを備える介護用入浴装置。
【請求項2】
前記出入口はU字状の端面を有するように形成され、
前記水密機構は、
前記端面に沿って配設されるレールと、
前記レールに対面するように前記扉に配設され、弾性を有する水密膜と、
前記レールと前記水密膜とを圧着させる圧着部とを有する請求項1記載の介護用入浴装置。
【請求項3】
前記圧着部は、
前記扉から外向きに突設され、かつ係合溝が形成された係合板と、
前記浴槽本体から前記係合溝に挿通可能に支持されるねじ棒と、
前記ねじ棒に螺合して前記係合板を前記浴槽本体側へ付勢するナットとを備える請求項2記載の介護用入浴装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−48988(P2008−48988A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229787(P2006−229787)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(506290741)株式会社米田建装 (1)
【Fターム(参考)】