説明

介護用排泄物処理装置

【課題】 患者及び介護者に不快感を与えずに介護用排泄物処理装置を使用でき、排泄時以外の装置の不使用時には、患者の心地よい就寝状態を確保できるようにして、患者の排泄物の処理の容易化と、患者の排泄時の安心感の確保を図る。
【解決手段】 ベッド上面で患者の腰部を安定させる腰部巻きチューブと、患者の太もも部を安定させる一対の太もも部巻きチューブと、患者の尻部周縁を下方から保持するドーナツ型の便座チューブとを備え、上記各チューブは、それぞれに形成したエアー注入口からエアーの注入・排出が可能となるように構成され、このエアーを注入することにより各チューブは膨隆し、エアーを排出することにより各チューブはしぼむように構成され、前記便座チューブには、下方に伸びるカバー部を垂設し、前記便座チューブの近傍に温水シャワー発射口と、乾燥温風発射口と、脱臭部接続口とを設け、前記ベッド排泄孔の下方には排泄物や温水シャワーを集めて収納するための収集部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院、老人介護施設、家庭などで、自力でトイレまで行って排泄処理をすることが困難な、例えば寝たきり患者(以下単に、「患者」ということもある)に対して、介護者の労力を煩わせることなく、ベッド上で寝たままの姿勢で簡単かつ清潔に排泄物の処理をおこなえる介護用排泄物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から病院、老人介護施設、家庭などでベッド上に寝たきり状態となっている要介護患者の排泄物処理に対しては、多くの場合大人用オムツを使用しているのが現状である。
確かに大人用のオムツで対処すれば、排泄の都度介護者が患者の上半身を起こしたり、近くに置いたおまるをあてがうなどの対応から解放されるため、介護者の労力を緩和するという観点では評価することができる。
【0003】
しかしながら、オムツで排泄物の処理を行う場合には、この使用済みオムツの量は、患者一人当たり一日数回(4〜8回程度)オムツ交換をするとしても、多数のベッドを抱える大型病院や老人介護施設などにおいては、そこでの全体量は莫大な量になる。この使用済みオムツは、通常は焼却処理されるので、使用済みオムツの増加により、その焼却処理施設がオムツの処理だけで対応の限界を超えてしまうという大問題が起きている。
さらに、オムツの代金も全体金額からすると高額となり、患者、あるいは健康保険や介護保険を管理する団体または地方行政組織に過大な金銭的負担をかけるという実情や、患者にとってはオムツ交換時に羞恥心を感じてしまう問題などもあった。
【0004】
このような背景から、トイレをベッドに組み込んだものも開発されてきた。
例えばベッド上に、横から小型便器を差し込むタイプとして特開2000-254032号公報(特許文献1)があり、またベッド上面の尻が当たる箇所に、常時開いた状態の孔を備え、そのベッド下方に設置した便器を使用するタイプとして特開2005−230411号公報(特許文献2)があり、さらにベッド上面の一部を斜めに起こして使用するもので、かつベッド下方に設置した便器を上方に移動させると共に、ベッド上面の尻が当たる箇所を左右方向にスライドさせて孔を形成して使用するタイプとして特許第3554549号公報(特許文献3)が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000-254032号公報
【特許文献2】特開2005−230411号公報
【特許文献3】特許第3554549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に説明した従来の介護用排泄物処理装置によれば、患者の尻が当たるベッド上面の箇所に、便座相当部材を正確にあてがう工夫がなされておらず、かつ患者の腰や脚を安定的に保持するための工夫もなされていなかったため、患者のベッド上での位置調整に手間取り、患者に便座相当部材を無理にあてがうような状況となって、排泄時の身体の安定が図れないという問題が発生していた。
【0007】
本発明は、患者及び介護者に不快感を与えることなく、介護用排泄物処理装置を衛生的かつ安定的に使用することができ、排泄時以外の装置の不使用時には、便座チューブや腰部及び太もも部の巻きチューブ内のエアーを抜いて扁平状に収縮させて、患者の心地よい就寝状態を確保できるようにした介護用排泄物処理装置を提供し、患者の排泄物の処理の容易化と、患者の排泄時の安心感の確保を両立せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る介護用排泄物処理装置の請求項1のものは、患者の排泄準備の必要に応じて開口されるベッド排泄孔をベッド上に開閉自在に形成し、このベッド排泄孔に適合するように装着される介護用排泄物処理装置であって、ベッド上面で患者の腰部を安定させる腰部巻きチューブと、患者の太もも部を安定させる一対の太もも部巻きチューブと、患者の尻部周縁を下方から保持するドーナツ型の便座チューブとを備え、上記各チューブは、それぞれに形成したエアー注入口からエアーの注入・排出が可能となるように構成され、このエアーを注入することにより各チューブは膨隆し、エアーを排出することにより各チューブはしぼむように構成され、前記便座チューブには、下方に伸びるカバー部を垂設し、前記便座チューブの近傍に温水シャワー発射口と、乾燥温風発射口と、脱臭部接続口とを設け、前記ベッド排泄孔の下方には排泄物や温水シャワーを集めて収納するための収集部を備えたことを特徴とする介護用排泄物処理装置である。
【0009】
また請求項2は、前記各チューブの表面を、フェルト系立毛生地またはアクリル系立毛生地からなる伸縮素材で被覆したことを特徴とする請求項1記載の介護用排泄物処理装置である。
【0010】
また請求項3は、ベッドに形成される前記ベッド排泄孔は、シリンダーロッドの引き込み力で開口形成され、スプリングの復元力で閉口されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の介護用排泄物処理装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る介護用排泄物処理装置は、エアーの注入・排出により膨隆したり、しぼんだりする腰部巻きチューブ、太もも部巻きチューブ、便座チューブとが存在するため、患者の排泄の準備に際しては、患者の腰部と太もも部とが腰部巻きチューブと太もも部巻きチューブとで軽く締め付けられ、かつ尻部周辺は膨隆する便座チューブで上方にわずかに持ち上げられるようになり、患者のベッド上での位置調整が確実に行われ、排泄時の身体の安定が図られるという優れた効果を発揮する。同時に収集部位置に、確実に排泄物を集めるのに適した身体位置を保持できるという効果も発揮する。
【0012】
そのため、患者は自らの意思で(もちろん介護者による操作を排除するわけではない)、エアー注入・排出の操作スイッチをONにするだけで、患者の排泄の準備が完了することとなり、排泄完了後は操作スイッチをOFFにするだけで一旦膨隆した腰部巻きチューブ、太もも部巻きチューブ、便座チューブを扁平状に収縮させ、開口しているベッド排泄孔を閉じてそのまま安心して就寝できる状態に戻ることができ、患者の排泄物の処理の容易化と、患者の排泄時の安心感の確保を両立できるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の介護用排泄物処理装置の実施の形態を説明する。
図1は、本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入する前の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
図2は、本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
図3は、本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを斜めに起こしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
【0014】
図4は、本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入する前の状態)の概要を示す図で、(A)は側面図、(B)は要部の平面図である。
図5は、本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は側面図、(B)は要部の平面図である。
【0015】
本発明にかかる介護用排泄物処理装置1は、ベッド2に開口形成されるベッド排泄孔3に適合されるように装着されるものであり、このベッド排泄孔3は患者の排泄準備の必要があるときにのみ開口され、排泄準備の必要がない場合には閉口されている。このため、患者は、排泄をせずにベッド上で就寝するときは常に平坦状を呈するベッドの上でその身体を休めることができる。
なお図示しないが、ベッド2の上面にはベッドマットが敷設され、そのベッドマットにはベッド排泄孔3に対応する部位に、予め楕円形状の孔が穿設されている。
【0016】
またベッド2の上面には、患者の腰部を安定させる腰部巻きチューブ4と、患者の太もも部を安定させる一対の太もも部巻きチューブ5と、患者の尻部周縁を下方から保持するドーナツ型の便座チューブ6が備えられている。
【0017】
腰部巻きチューブ4は、患者の腰回りに巻きつけて、たとえば面ファスナー7などで止着した状態で装着されるもので、その状態でエアー注入口8からエアーを注入すると、腰部巻きチューブ4は膨隆して腰部を軽い力で締め付けて腰部の位置の安定を図ることとなる。
【0018】
また一対の太もも部巻きチューブ5は、患者の太もも回りに巻きつけて、たとえば面ファスナー7などで止着した状態で装着されるもので、その状態でエアー注入口8からエアーを注入すると、太もも部巻きチューブ5は膨隆して太もも部を軽い力で締め付けて太もも部の位置の安定を図ることとなる。
【0019】
上記の腰部及び太もも部の巻きチューブ4,5の締め付けをしないときには、面ファスナー7をはずして平面状に展開させておくこともできる。
さらに腰部及び太もも部の巻きチューブ4,5は、股間部を解放したパンツと一体的になるように形成しておき、そのパンツを患者に着用させることで、腰部及び太もも部の巻きチューブ4,5を簡単に装着できる(パンツ一体型)ようにすることもできる。
【0020】
ついで便座チューブ6は、エアー注入口8からエアーを注入すると、便座チューブ6は膨隆して、その上面に載せられた患者の尻部周縁をベッドの上面からわずかに上方へ浮かせて排泄空間9を確保することとなる。また便座チューブ6には、下方に伸びるカバー部10が垂設されている。
【0021】
この状態で患者の排泄を受け入れる準備が整い、患者の排泄物(シャワーされる温水も含む)はカバー部10から外に漏れ出ることなく、収集容器等からなる収集部11に集められる。
さらに排泄完了後は、便座チューブ6の近傍に設けられた温水シャワー発射口12から肛門に向けて温水を発射し、次いで乾燥温風発射口13から温風を吹きかけ、同時に脱臭部接続口14に接続された脱臭部を介して周囲の悪臭を脱臭・消臭する。
【0022】
ここで脱臭部としては、例えばアンモニア臭をすばやく吸着・吸収して消臭する消臭糸で作成した繊維を利用する方法とか、ゼオライトや活性炭を利用して吸着する方法や、オゾンによる脱臭、光触媒により脱臭、芳香剤による消臭、フィルター式脱臭(エア換気型、強制排気型)など、どのような手段によるものであっても良い。
【0023】
次に図4及び図5にしたがって、ベッド排泄孔3の形成手順を説明する。
ベッド2の下面には、スプリング15と、このスプリングを圧縮することができるシリンダーロッド16とが備えられており、このシリンダーロッド16を作動させない場合には、図4(A)に示すようにベッド2にベッド排泄孔3は形成されない(スプリングの弾発力でベッド排泄孔3は閉口されている)。
この状態からシリンダーロッド16を収縮させると、先端に保持されているスプリング15が圧縮されるため、ベッド2にベッド排泄孔3が形成される。
またシリンダーロッド16の収縮を解除すると、スプリング15の弾発力でシリンダーロッド16は伸張する状態に復元するため、ベッド排泄孔3は閉口されることとなる。シリンダーロッド16の駆動力は、エアー、電動、手動、その他いかなる手段を用いても良い。
【0024】
上記の腰部及び太もも部の巻きチューブ4,5の表面を、肌触りの良い生地、例えばフェルト系立毛生地またはアクリル系立毛生地からなる伸縮素材で被覆しておくと、患者の皮膚面との接触部が柔らかな感じとなり、患者に不快感を与えないこととなる。このことは、腰部及び太もも部の巻きチューブ4,5を膨隆させた場合でも、収縮させた場合でもまったく変わらないので、患者は常時違和感を感ずることなく、本発明装置を使用できる結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、病院、老人介護施設、家庭などで利用すると、患者をベッドに寝かせたままで、介護者の労力をかけずに、患者の排泄物の処理を容易に行え、患者の配設時の安心感の確保も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入する前の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
【図2】本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
【図3】本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを斜めに起こしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は正面図、(B)は要部の平面図である。
【図4】本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入する前の状態)の概要を示す図で、(A)は側面図、(B)は要部の平面図である。
【図5】本発明にかかる介護用排泄物処理装置(ベッドを水平にしてチューブにエアーを注入した後の状態)の概要を示す図で、(A)は側面図、(B)は要部の平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 介護用排泄物処理装置
2 ベッド
3 ベッド排泄孔
4 腰部巻きチューブ
5 太もも部巻きチューブ
6 便座チューブ
7 面ファスナー
8 エアー注入口
9 排泄空間
10 カバー部
11 収集部
12 温水シャワー発射口
13 乾燥温風発射口
14 脱臭部接続口
15 スプリング
16 シリンダーロッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の排泄準備の必要に応じて開口されるベッド排泄孔をベッド上に開閉自在に形成し、このベッド排泄孔に適合するように装着される介護用排泄物処理装置であって、
ベッド上面で患者の腰部を安定させる腰部巻きチューブと、患者の太もも部を安定させる一対の太もも部巻きチューブと、患者の尻部周縁を下方から保持するドーナツ型の便座チューブとを備え、上記各チューブは、それぞれに形成したエアー注入口からエアーの注入・排出が可能となるように構成され、このエアーを注入することにより各チューブは膨隆し、エアーを排出することにより各チューブはしぼむように構成され、前記便座チューブには、下方に伸びるカバー部を垂設し、前記便座チューブの近傍に温水シャワー発射口と、乾燥温風発射口と、脱臭部接続口とを設け、前記ベッド排泄孔の下方には排泄物や温水シャワーを集めて収納するための収集部を備えたことを特徴とする介護用排泄物処理装置。
【請求項2】
前記各チューブの表面を、フェルト系立毛生地またはアクリル系立毛生地からなる伸縮素材で被覆したことを特徴とする請求項1記載の介護用排泄物処理装置。
【請求項3】
ベッドに形成される前記ベッド排泄孔は、シリンダーロッドの引き込み力で開口形成され、スプリングの復元力で閉口されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の介護用排泄物処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−233095(P2009−233095A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82744(P2008−82744)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(592098377)シーアイエンジニアリング有限会社 (3)
【Fターム(参考)】