説明

介護用風呂

【課題】入浴者を吊り下げる懸架装置と浴槽とからなる介護用風呂であって、入浴者に対する洗浄効果に優れ、また、身体吊具の清浄な状態も維持できる介護用風呂を提供する。
【解決手段】介護用風呂は、懸架装置1と浴槽3とからなり、懸架装置1は、ベルトを組み合わせてなる身体吊具としてのハーネス2を吊持し且つ水平方向および上下方向に移動させるように構成され、浴槽3は、逆浸透膜を通して得られた純水の湯を供給可能に構成され、かつ、湯中に気泡を噴射するバブリング装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護用風呂に関するものであり、詳しくは、入浴者を吊り下げる懸架装置と浴槽とからなる介護用風呂であって、純水(RO水)を使用して洗浄効果を高めるようにした介護用風呂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
要介護者の入浴では、介護者の労力を軽減し且つ要介護者(入浴者)の安全を確保するため、各種の懸架装置を使用することにより、入浴者を浴槽まで移動させて身体を湯に浸し、そして、身体の洗浄を行っている。
【0003】
上記のような介護に関する技術としては、本体部から水平に張出され且つチェーンで連動して回動可能な脇支え部(コの字棒状部材)及び下肢支え部(座面状部材)からなる「身体吊具」、ならびに、天井側の一対のレールにガーダ(移動梁)を架け渡してなる軌道と、ガーダに走行可能に取り付けられたホイストと、当該ホイストに吊下げられた前記の身体吊具と、軌道の下方に配置されたベッド及び浴槽とからなり、寝た姿勢から座った姿勢まで身体吊具により身体を補助し、更にホイストで身体を吊り上げて浴槽へ移動させるようにした天井クレーン型の「介護システム」が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、要介護者を移動させる際にジブクレーン型の介護用リフト(懸架装置)に吊り下げて使用される身体吊具として、平面形状が長方形に形成されたクッション性を有するマット本体と、当該マット本体の4辺部の裏面に縫い付けられた補強帯と、当該補強帯に取り付けられた複数の環状のストラップと、これらストラップと介護用リフトの掛止部を連結する連結ベルトとからなる「スリングマット」が提案されている。斯かるマットは、取扱いが容易であり、懸架装置自体も容易に設置できる点で優れている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−488号公報
【特許文献2】特開2001−87324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、要介護者の入浴においては、ベットと浴槽の間などを移動させて浴槽に身体を浸すため、マット等の身体吊具を使用するが、浴槽に浸した身体の下側が身体吊具によって洗浄し難く、また、身体吊具の内側に付着する汚れも除去し難いと言う問題がある。一方、入浴に際して洗浄剤や消毒剤を使用することもできるが、肌への影響を配慮すると、洗浄剤などを過剰に使用するのは好ましくない。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、入浴者を吊り下げる懸架装置と浴槽とからなる介護用風呂であって、入浴者ならびに身体吊具に対する洗浄効果に優れた介護用風呂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明においては、ベルトを組み合わせてなるハーネスを身体吊具として吊持した構造の懸架装置を採用することにより、浴槽内において入浴者ならびに身体吊具を湯に接触し易くすると共に、逆浸透膜を通して得られた純水の湯を浴槽に供給することにより、その浸透力と汚れに対する溶解力を利用し、入浴者ならびに身体吊具に対する洗浄力を高め、しかも、湯中に気泡を噴射することにより、その衝撃力と撹拌効果によって洗浄効果を一層高めるようにした。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、入浴者を吊り下げる懸架装置と浴槽とからなる介護用風呂であって、前記懸架装置は、ベルトを組み合わせてなる身体吊具としてのハーネスを吊持し且つ水平方向および上下方向に移動させるように構成され、前記浴槽は、逆浸透膜を通して得られた純水の湯を供給可能に構成され、かつ、湯中に気泡を噴射するバブリング装置を備えていることを特徴とする介護用風呂に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る介護用風呂によれば、入浴者を浴槽の湯に浸した際、入浴者および身体吊具が湯に接触し易く、かつ、浸透力と溶解力に優れた純水の湯を供給でき、しかも、湯中に気泡を噴射できるため、入浴者ならびに身体吊具に対して優れた洗浄効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る介護用風呂の主要部の構成および使用態様を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る介護用風呂において給湯およびバブリングに必要な設備を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る介護用風呂の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の介護用風呂は、要介護者の入浴に使用される風呂であり、図1に示すように、入浴者を吊り下げる懸架装置1と浴槽3とから主として構成されている。
【0013】
懸架装置1は、身体吊具としてのハーネス(安全帯)2を吊持して構成されている。ハーネス2は、入浴者の身体を保持するために当該入浴者に着用させるものであり、入浴時に身体が湯に接触し易く、かつ、当該ハーネス自体の内側も湯に接触し易いように、樹脂製または革製の複数のベルト(帯)を組み合わせて構成されている。例えば、ハーネス2は、平行に配置された4〜6本の縦ベルトの上下端部および中間部に横ベルトを縫い付け、かつ、両側の縦ベルトから更に外側に延びる各横ベルトの端部に引掛具としてのフック26を取り付けて構成されている(図1(b)のB部分拡大図参照)。なお、ハーネス2は、各横ベルトのフック26を後述するロープ15先端の掛止具に引掛けることにより、身体を包み込む篭状の構造体を構成するようになされている。
【0014】
懸架装置1としては、天井クレーン型、ジブクレーン型などの各種構造の懸架装置を使用できる。図1に例示する懸架装置1は、ジブクレーン型のものであり、床に設置されるベース11と、当該ベースに立設された高さ調節可能な支柱12と、当該支柱に水平方向に旋回可能に取り付けられた伸縮可能なアーム13と、当該アームの先端から滑車14を介して伸長され且つ繰出し及び巻取り可能に構成された吊下げ用のロープ15と、当該ロープの先端に取り付けられ且つ上記のハーネス2のフック26を引掛ける掛止具としての金属製のリング16とから構成されている(図1(a)のA部分拡大図参照)。
【0015】
懸架装置1のアーム13は、例えば2重管構造により内側のアーム部材を摺動させて伸縮するように構成されている。ロープ15は、アーム13及び支柱12に挿通され、例えば支柱12の基部に付設された巻取り機(図示省略)に巻回されており、斯かる巻取り機の操作により、アーム13の先端からの繰出し長さを調節するようになされている。これにより、懸架装置1は、吊持したハーネス2を水平方向および上下方向に移動させるように構成されている。
【0016】
なお、懸架装置1においては、ロープ15の先端の掛止具としてフックを使用し、ハーネス2のベルト先端の引掛具としてリングを使用することもできる。また、懸架装置1は、巻取り機に代えて、アーム13の先端にホイストを吊り下げ、当該ホイストによってロープ15の繰出し及び巻取りを行うように構成されていてもよい。上記のようなジブクレーン型の懸架装置1は、ベース11を床に固定するだけで容易に設置できる。
【0017】
また、図示しないが、天井クレーン型の懸架装置は、浴槽の上方に架設された一対のレールにガーダを架け渡してなる軌道、ガーダにサドルを介して移動自在に取り付けられたホイスト、当該ホイストから繰出し及び巻取り可能に伸長された吊下げ用のロープ、当該ロープの先端に取り付けられた掛止具とから構成されている。天井クレーン型の懸架装置は、上記のジブクレーン型の装置のような支柱が無く、より広い室内空間を確保できる点で有利である。
【0018】
本発明では、後述するように浸透力の強い純水を使用するため、浴槽3としては、漏水を防止する観点から、通常はFRP成形された槽が使用される。浴槽3の平面形状は、長方形、楕円形、平行な二辺部を長くした六角形などの適宜の形状に設定できるが、浴槽3の大きさは、幅65〜75cm程度、長さ90〜120cm程度、深さ50〜60cm程度に設計されている。浴槽3の大きさを規定する理由は次の通りである。すなわち、本発明では、純水の洗浄効果を利用するため、1回の入浴ごとに湯を交換するが、浴槽3を上記の大きさに設計することにより、湯量を制限でき、効率的な水利用と省エネルギー化を図ることができる。
【0019】
図2に示すように、浴槽3には、底部近傍の側面に給湯口31が設けられており、底部中央に排水口32が設けられている。そして、本発明においては、洗浄効果を高めるため、逆浸透膜を通して得られた純水(RO水)の湯を使用するようになされている。すなわち、浴槽3は、純水の湯を給湯口31から供給可能に構成されている。斯かる純水は、以下のような純水製造装置4によって製造することができる。
【0020】
すなわち、純水製造装置4は、井戸水など原水を貯留する原水槽(図示省略)と、例えば粒状の塩を収容した殺菌用の塩素添加装置と、砂濾過器、無撚糸膜フィルター、粒状炭素が収容されたカーボンフィルターを順次配置してなる前処理装置と、中空糸膜、スパイラル膜またはチューブラー膜からなる逆浸透膜モジュールとから主として構成されており、そして、ポンプで供給された原水に塩素添加装置で殺菌処理を施し、前処理装置で異物や臭気を除去した後、更にポンプで逆浸透膜モジュールに供給し、逆浸透膜モジュールで濾過することにより、塩類やその他の不純物、細菌類が完全に除去された純水を製造し、貯水槽5に蓄えるようになされている。上記のような純水製造装置の基本的な構造は周知であり、特開2007−326029、特開2008−161818、特開2010−08261等に開示されている。なお、図2は、浴槽3や純水製造装置4の周辺のポンプ、弁類を省略して図示したものである。
【0021】
本発明の介護用風呂は、貯水槽5からポンプ(図示省略)で供給される純水をボイラー等の加熱装置6によって加熱し、例えば38〜43℃の湯を浴槽3に供給するようになされている。本発明においては、設備費および運転コストを抑制し且つ実質的に十分な洗浄効果を得る観点から、上記のような純水製造装置4により、通常は、電気伝導率0.15〜15S/mの純水または不純物濃度0.1〜10ppmの純水、好ましくは、電気伝導率0.15〜0.80S/mの純水または不純物濃度0.1〜0.5ppmの純水が浴槽3に供給されるようになされている。
【0022】
また、浴槽3には、当該浴槽内の湯の水質を監視する水質計8が付設されている。水質計8としては、水の電気伝導度を測定する導電率計、または、水に含まれる不純物濃度(イオン量)を測定するTDS計(蒸発残留物計)が使用される。周知の通り、導電率計やTDS計は、2本の電極を使用して電気伝導度を測定し、TDS計は、電気伝導度を更に濃度に換算するものである。浴槽3に水質計8を設置することにより、浴槽3に供給される湯の水質、換言すれば、純水製造装置4等の設備に異常がないかどうかを視覚的に管理できる。
【0023】
更に、本発明においては、純水による洗浄効果を一層高めるため、浴槽3は、湯中に気泡を噴射するバブリング装置7を備えている。浴槽3の底部には、スプレーノズル等のノズル37取り付けられており、バブリング装置7は、エアフィルターを介して清浄な加圧空気をノズル37に供給するエアコンプレッサーで構成されている。
【0024】
また、図示しないが、バブリング装置7としては、浴槽の湯を吸入して浴槽へ噴流として還流する際に外部の空気を吸引して気泡を発生させるいわゆる噴流ポンプ(ジェットノズル)で構成されていてもよい。噴流ポンプは、流体の導入管、吐出管ならびに気体導入用の吸入管を備えた公知のノズルであり、導入管から吐出管内に流体が噴射された際に、吸入管によって気体を吸引し、気液混相流を吐出する構造を備えている。上記のようなバブリング装置7を利用することにより、浴槽3内の湯を撹拌でき且つ汚れ成分に対して衝撃力を与えることができ、洗浄効果を一層高めることができる。
【0025】
本発明の介護用風呂を使用するには、純水からなる湯を予め浴槽3に満たしておき、懸架装置1を使用して要介護者である入浴者を浴槽3に移動させる。入浴者の移動においては、例えばベッドの上にハーネス2を広げ、その上に要介護者である入浴者を寝かせた後、懸架装置1のアーム13を操作し且つロープ15を繰出すことにより、ロープ15先端のリング16を入浴者の直上に位置させる。次いで、ハーネス2の各横ベルトのフック26をリング16に引掛け、入浴者の身体を包むようにしてハーネス2を装着する。
【0026】
続いて、図1(a)に示すように、ロープ15の巻き上げ操作によりベットから吊り上げ、アーム13の旋回・伸縮操作により入浴者を浴槽3の直上まで移動させる。そして、ロープ15の繰出し操作により、入浴者を浴槽3の湯に浸ける。浴槽3内においては、ロープ15を緩め、入浴者の姿勢を整えた後、図1(b)に示すように、ハーネス2のフック26をリング16から外しロープ15を巻き上げた後、ハーネス2を広げる。
【0027】
入浴においては、バブリング装置7を作動させ、浴槽3の湯中に気泡を噴射することにより、入浴者の身体を洗浄する。また、湯に浸したハーネス2も同時に洗浄する。そして、入浴後は、再びロープ15を繰出し、先端のリング16を入浴者の直上に位置させ、ハーネス2の各フック26をリング16に引掛けて入浴者にハーネス2を装着した後、ロープ15の巻き上げ操作およびアーム13の操作により、入浴者を吊り上げて浴槽3からベッド等の所定場所まで移動させる。
【0028】
上記のように、本発明の介護用風呂は、身体吊具としてベルトを組み合わせてなるハーネス2を吊持した構造を懸架装置1が備えているため、入浴者を浴槽3の湯に浸した際、入浴者およびハーネス2が湯に直接接触し易く、また、浸透力と汚れに対する溶解力に優れた純水の湯が浴槽3に供給されるため、入浴者ならびにハーネス2に対して高い洗浄力を得ることができる。しかも、バブリング装置7により、気泡が含まれる噴流を浴槽3内に発生させるため、その衝撃力と撹拌効果により、洗浄効果を一層高めることができる。
【0029】
また、本発明によれば、上記のような純水の供給とバブリングにより、それだけで優れた洗浄効果が得られるため、仮に洗浄剤を使用する場合でも、その使用量を一層低減することができる。本発明の介護用風呂は、各種の介護施設の他、公衆浴場に設置することもでき、そして、本発明は、介護者の労力を軽減でき、要介護者の一層快適な入浴を実現できる点において、社会的貢献度が大きい。
【符号の説明】
【0030】
1 :懸架装置
11:ベース
12:支柱
13:アーム
14:滑車
15:吊下げ用のロープ
16:リング(掛止具)
2 :ハーネス(身体吊具)
26:フック(引掛具)
3 :浴槽
31:給湯口
32:排水口
37:ノズル
4 :純水製造装置
5 :貯水槽
6 :加熱装置
7 :バブリング装置
8 :水質計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴者を吊り下げる懸架装置と浴槽とからなる介護用風呂であって、前記懸架装置は、ベルトを組み合わせてなる身体吊具としてのハーネスを吊持し且つ水平方向および上下方向に移動させるように構成され、前記浴槽は、逆浸透膜を通して得られた純水の湯を供給可能に構成され、かつ、湯中に気泡を噴射するバブリング装置を備えていることを特徴とする介護用風呂。
【請求項2】
懸架装置は、水平方向に旋回可能で且つ伸縮可能なアームと、当該アームの先端から滑車を介して伸長され且つ繰出し及び巻取り可能に構成された吊下げ用のロープと、当該ロープの先端に取り付けられたハーネス連結用の掛止具とを備えている請求項1に記載の介護用風呂。
【請求項3】
純水が、電気伝導率0.15〜15S/mの純水または不純物濃度0.1〜10ppmの純水である請求項1又は2に記載の介護用風呂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176203(P2012−176203A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41733(P2011−41733)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(396020305)株式会社イフェクト (6)
【Fターム(参考)】