説明

仕切り部材及び建物

【課題】基材の一側からしか光が差し込まないか、基材の他側からの光量が不十分であるような環境下においても、基材の表裏両側をクリーンに保つことのできる仕切り部材を得る。
【解決手段】仕切り部材としての防汚ガラス11は、光透過性を有する基材としてのガラス板12と、その一方の面に形成された第1光触媒層13と、その他方の面に形成された第2光触媒層14とから構成されている。また、第1光触媒層13には紫外線光応答型の光触媒が担持されており、第2光触媒層14には可視光応答型の光触媒が担持されている。これにより、光源からの直接光が第1光触媒層13にしか差し込まない場合でも、第1光触媒層13及び第2光触媒層14においてそれぞれ光触媒を活性化させることができ、防汚ガラス11の表裏両面をクリーンに保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス窓等の仕切り部材及びその仕切り部材を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物において、窓ガラス等の表面には汚れが付着することがある。この汚れ等を防ぐ技術として、ガラス板の表面に二酸化チタン等の光触媒を担持させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、図4(a)に示されるように、ガラス板等の基材51の表面に光触媒層52をコーティング等により形成して仕切り部材53が構成されている。これにより、太陽等の光源から差し込む光によって光触媒層52に担持された光触媒が活性化され、基材51表面の汚れを除去する効果が期待されている。しかしながら、かかる従来技術においては、基材51の表面だけに防汚性が付与されるに過ぎず、基材51の裏面には汚れが付着してしまう。
【0003】
そこで、基材51の表裏両面をクリーンに保つために、表裏両面にそれぞれ同一の光触媒を担持させるようにした技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。すなわち、図4(b)に示されるように、基材51の表裏表面に同一の光触媒が担持された光触媒層52a,52bを形成する。これにより、基材51の表面に光が差し込むと表面側の光触媒層52aの光触媒が活性化される。一方、基材51の裏面に光が差し込むと裏面側の光触媒層52bの光触媒が活性化される。このような活性化作用によって、基材51の表裏両面をクリーンに保つことができるという発想である。
【0004】
しかしながら、必ずしも基材51の表裏両側から光が入り込む環境で当該基材51を使用できるとは限らない。例えば、基材51の表面側からしか光が入り込まないか、裏面側からの光が不十分である場合には、基材51の表面側では光触媒層52aの光触媒が活性化するが、基材51の裏面側の光触媒層52bでは光触媒が活性化しないおそれがあり、基材51の裏面側の浄化がなされないか、または不十分になるおそれがある。
【特許文献1】特開2002−26757号公報
【特許文献2】特開2004−67394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基材の一側からしか光が差し込まないか、基材の他側からの光量が不十分であるような環境下においても、基材の複数の側面(1の基材であれば表裏両面)をクリーンに保つことのできる仕切り部材及びその仕切り部材を備えた建物を得ることを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するのに有効な手段につき、必要に応じて作用、効果、より踏み込んだ具体的手段等を示しつつ説明する。なお、理解を容易にするため、発明の実施の形態において対応する主要な構成を括弧書きで適宜示すが、この括弧書きで示した具体的構成に限定されない。
【0007】
本発明は、空間を仕切る仕切り部材(防汚ガラス11等)であって、光透過材料により形成された基材(ガラス板12等)と、該基材の一側に形成され、第1光触媒(紫外線応答型の光触媒等)が担持された第1光触媒層(第1光触媒層13)と、前記基材の他側に形成され、前記第1光触媒とは活性化領域の異なる第2光触媒(可視光応答型の光触媒等)が担持された第2光触媒層(第2光触媒層14)とを備えたことを特徴とする。
【0008】
この仕切り部材によれば、基材の一側に光源からの光が差し込んだ場合、第1光触媒層で第1光触媒が活性化され、基材の一側が浄化される。この活性化作用により所定波長領域の光は第1光触媒層において吸収されるが、その他の光は光透過性のある基材を透過して第2光触媒層に至る。第2光触媒層に担持された第2光触媒は第1光触媒と異なる活性化領域を有しているため、第2光触媒層に至った光により第2光触媒が活性化され得る。その結果、基材の他側も活性化作用により浄化され得る。以上により、基材の表裏両側を光触媒の活性化作用によりクリーンに保つことが可能となる。
【0009】
前記仕切り部材としてはガラス窓(トップライト23、複層ガラス窓27等)に適用することができ、この場合、前記基材をガラス窓のガラス板とし、前記第1光触媒層をガラス板の屋外側表面に形成し、前記第2光触媒層をガラス板の屋内側表面に形成することが好ましい。このように構成することで、太陽光を光源として、ガラス窓の表裏両面をクリーンに保つことができる。
【0010】
別の発明では、空間を仕切る仕切り部材であって、光透過材料により形成された複数の基材(屋外側ガラス板28,屋内側ガラス板29等)と、前記各基材のいずれかの基材の側面に形成され、第1光触媒が担持された第1光触媒層と、前記各基材の前記第1光触媒層が形成された基材とは異なる基材の側面に形成され、前記第1光触媒とは活性化領域の異なる第2光触媒が担持された第2光触媒層とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この仕切り部材によれば、複数の基材のうち所定の基材に光源からの光が差し込んだ場合、第1光触媒層で第1光触媒が活性化され、前記所定の基材の側面が浄化される。この活性化作用により所定波長領域の光は第1光触媒層において吸収されるが、その他の光は光透過性のある基材を透過して第2光触媒層に至る。第2光触媒層に担持された第2光触媒は第1光触媒と異なる活性化領域を有しているため、第2光触媒層に至った光により第2光触媒が活性化され得る。その結果、他の基材の側面も活性化作用により浄化され得る。以上により、複数の基材の各側面を光触媒の活性化作用によりクリーンに保つことが可能となる。
【0012】
前記仕切り部材としては複層ガラス窓に適用することができ、この場合、前記各基材を複層ガラス窓の各ガラス板とし、各ガラス板を間隙をおいて配置し、当該間隙を密閉空間とするように連結することで構成される。さらに、複合ガラス窓に適用する場合においては、前記第1光触媒層を各ガラス板のうち屋外側に配置されるガラス板(屋外側ガラス板28)の屋外側表面に形成し、前記第2光触媒層を各ガラス板のうち屋内側に配置されるガラス板(屋内側ガラス板29)の屋内側表面に形成することが好ましい。
【0013】
このように構成することで、太陽光を光源として、複層ガラス窓の屋外側表面及び屋内側表面をクリーンに保つことができる。なお、複層ガラス窓の密閉空間側の側面に第1光触媒層及び第2光触媒層を形成することも可能であり、このように構成すれば、光触媒が活性化されることにより発現する親水性によって密閉空間側の側面における水滴付着や曇りの発生を抑制することができる。
【0014】
また、前記第2光触媒は第1光触媒に吸収されずに透過した光を吸収して活性化される光触媒であればよく、少なくとも第1光触媒の活性化領域と重複しない活性化領域(実施形態では380〜520nm)を有するものであればよい。この構成によって、第2光触媒層側の側面から光が差し込むことがなく、または第2光触媒層側の側面への光の差し込み量が少ない場合であっても、第1光触媒層及び基材を透過してくる光によって第2光触媒を活性化させることができる。
【0015】
特に、第1光触媒は波長380nm以下の光を吸収する光触媒であることが好ましく、第2光触媒は波長520nm以下の光を吸収する光触媒であることが好ましい。第1光触媒を波長380nm以下の光を吸収する光触媒とすれば、TiO2等の一般的なものを利用できるし、第2光触媒を波長520nm以下の光を吸収する光触媒とすれば、Ti−O−N等の近年提案されているものを利用でき、しかも波長520nmを越える波長の光は仕切り部材を透過するため、透過側に人間がいる場合に違和感が少ないという利点がある。
【0016】
以上のように構成された各仕切り部材は建物設備の一部(トップライト23,複層ガラス窓27,照明器具32のレンズカバー34,換気装置37のフィルタ38等)として利用するに適しており、この場合には、自然光又は人口光が直接差し込む側に前記第1光触媒層が配置されるように仕切り部材を設置すればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、発明を具体化した一実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。なお、図1は本実施の形態における防汚ガラスの断面図、図2は同防汚ガラスの特性を示す説明図である。
【0018】
本実施形態の仕切り部材としての防汚ガラス11は、その基材としてガラス板12が用いられている。本実施形態のガラス板12は、紫外線光、可視光及び赤外線光の全波長領域において十分な光透過性を有する。
【0019】
ガラス板12の表面には、紫外線光応答型の光触媒を担持した第1光触媒層13が形成されている。この第1光触媒層13に含まれる紫外線応答型の光触媒としては、TiO2(二酸化チタン)が代表例として挙げられる。この光触媒は半導体であり、波長380nm以下の紫外線光を吸収して電子と正孔を生成し、付着した汚れを除去し、殺菌を行う。一方、380nmよりも長い波長の光はこの光触媒に吸収されることなく透過する。
【0020】
ガラス板12の裏面には、可視光応答型の光触媒を担持した第2光触媒層14が形成されている。この第2光触媒層14に含まれる可視光応答型の光触媒としては、Ti−O−N(酸化チタン結晶に窒素を含有させた物質)が代表例として挙げられる。この光触媒は半導体であり、波長520nm以下の光、すなわち可視光のうち短波長領域の光を吸収して電子と正孔を生成し、付着した汚れを除去し、殺菌を行う。一方、520nmよりも長い波長の光はこの光触媒に吸収されることなく透過する。
【0021】
上記第1光触媒層13及び第2光触媒層14は、例えばガラス板12の表面及び裏面にそれぞれコーティングすることにより得られる。このようにして、ガラス板12の表面に第1光触媒層13が形成され、ガラス板12の裏面に第2光触媒層14が形成され、全体として平坦な仕切り部材(面材)としての防汚ガラス11が構成されている。
【0022】
さて、かかる防汚ガラス11では、図1に示すように、光源からの光が第1光触媒層13側の側面に当ると、波長380nm以下の光により当該第1光触媒層13中の紫外線光応答型の光触媒が活性化され、防汚作用や殺菌作用等を生じる。これにより、第1光触媒層13側の側面が浄化される。波長380nm以下の光は紫外線光応答型の光触媒により吸収されるため、波長380nmより長波長の光だけが第1光触媒層13を透過する。
【0023】
第1光触媒層13を透過した波長380nmより長波長の光は、ガラス板12内を透過して第2光触媒層14に到達する。すると、波長520nm以下の光により当該第2光触媒層14中の可視光応答型の光触媒が活性化され、防汚作用や殺菌作用等を生じる。これにより、第2光触媒層14側の側面が浄化される。波長520nm以下の光、詳細には波長380〜520nmの光は可視光応答型の光触媒により吸収されるため、波長520nmより長波長の光だけが第2光触媒層14を透過する。すなわち、可視光のうち青色成分の多くは吸収されるが、それ以外の可視光や赤外線光は防汚ガラス11を透過していく。
【0024】
上記構成を備えるとともに上記作用のある本実施形態の防汚ガラス11では、以下に示す特有かつ顕著な効果を奏する。
【0025】
基材としてのガラス板12を光透過性材料によって形成し、その両面に互いに異なる波長領域で活性化される光触媒を担持した第1光触媒層13及び第2光触媒層14をそれぞれ形成した。特に、第2光触媒層14に担持される光触媒を第1光触媒層13に担持される光触媒が吸収しない波長領域で活性化されるものとした。これにより、光源からの直接光が第1光触媒層13側にしか差し込まず、または第2光触媒層14への直接光が少量であったとしても、第1光触媒層13及び第2光触媒層14の両面において光触媒を活性化させることができ、防汚ガラス11の表裏両面を浄化することができる。その結果、防汚ガラス11の両面とも頻繁な清掃作業を行わずに済むというメリットがある。
【0026】
また、第1光触媒層13及び第2光触媒層14に担持されるそれぞれの光触媒の活性化により520nm以下の波長の光が吸収されても、波長520nmを越える可視光及び赤外線光は防汚ガラス11を透過する。これにより、防汚ガラス11越しにも比較的自然な光を感じさせることができ、光源と人間とが防汚ガラス11を挟んで存在する場合においても違和感を与えない。特に、本実施形態では、可視光のうち青色領域が若干カットされるものであるため、暖かいイメージの光を感じさせることができる。
【0027】
なお、上記実施の形態の変形例としては次のようなものが挙げられる。
【0028】
(a)基材としては、上述のガラス板12の他にも、アクリル等の光透過性の合成樹脂材を用いることもできる。基材は、必ずしも全波長領域で光を透過させる必要はなく、紫外線光をカットするUVカット機能を付与してもよいし、熱線吸収ガラスを用いてもよい。UVカット機能があっても、第1光触媒層13側の側面に差し込む光により当該第1光触媒層13に担持された光触媒は活性化され、基材内を通過する際に紫外線が完全にカットされても第2光触媒層14に担持された光触媒は活性化される。また、熱線吸収タイプのものであっても、両光触媒層13,14での光触媒の活性化を阻害することはない。
【0029】
(b)仕切り部材として防汚ガラス11以外のものを用いてもよい。仕切り部材としては、空間を仕切る性質のものであればよく、平板状のものに限られない。勿論、完全に空間を区画するほどの大袈裟なものに限られるものでもない。さらに、仕切り部材は基材を1枚のみとして構成するのではなく、複数の基材を含む仕切り部材として構成することも可能である。なお、具体的な適用例や変形例については後述する。
【0030】
・第1光触媒層13において担持される紫外線光応答型の光触媒としては、上述のTiO2(二酸化チタン)の他にも、CdS(硫化カドミニウム)、WO3(三酸化タングステン)、ZnO(酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0031】
(c)第2光触媒層14において担持される可視光応答型の光触媒としては、上述のTi−O−N(酸化チタン結晶に窒素を含有させた物質)の他、酸化チタンにパナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅などをドーピングしたものであってもよい。また、ルチル型酸化チタンを窒素プラズマで処理するか、またはアンモニア雰囲気中で過熱処理することにより得られるものであってもよい。
【0032】
(d)基材に第1光触媒層13及び第2光触媒層14を形成する方法としては、上述のコーティングの他、光触媒を担持した光触媒層をフィルムに形成し、当該フィルムを基材に貼り付ける方法や、その他の方法によって光触媒層を形成してもよい。
【0033】
(e)第1光触媒層13と第2光触媒層14とでは、それぞれに担持される光触媒の活性化領域が一致しなければよい。特に、第1光触媒層13側からしか光が入射しないという想定では、少なくとも第1光触媒層13に担持される光触媒の活性化領域とは異なる波長領域で第2光触媒層14に担持される光触媒が活性化されるものであればよく、第2光触媒層14に担持される光触媒の活性化領域内に第1光触媒層13に担持される光触媒の活性化領域全部が含まれるものであってもよい。例えば、両光触媒層13,14に担持される光触媒として、いずれも紫外線応答型の光触媒であってかつ活性化領域の異なるものを用いれば、可視光領域を全て透過させることができる。
【0034】
(f)光源からの光としては、太陽光のような自然光でも、蛍光灯等からの人口光でもよく、少なくとも第1光触媒層13側に直接光が差し込む形態とすればよい。なお、人口光の場合、少なくとも第1光触媒層13及び第2光触媒層14にそれぞれ担持された光触媒のいずれもが活性化し得る波長領域を有する光を照射するものである必要がある。
【0035】
<適用例・応用例>
上記ように構成された防汚ガラス11の各種適用例ないし応用例について、図3を参照しつつ説明する。なお、図3は、建物及び周辺環境の概略構成を示している。
【0036】
(1)トップライトへの適用例
建物(住宅)21の屋根22の一部にはトップライト23が設けられている。トップライト23のガラス板として前記防汚ガラス11が用いられている。防汚ガラス11は、第1光触媒層13が屋外側、第2光触媒層14が屋内側となっている。
【0037】
このように構成されたトップライト23は、太陽光が差し込む環境下で使用されることから、第1光触媒層13における光触媒の活性化により屋外側(室外側)の面が浄化され、ここを透過した波長380nm以上の光が第2光触媒層14に至って光触媒の活性化により屋内側(室内側)の面も浄化される。したがって、トップライト23の屋内外の両面を太陽光のみによって浄化することが可能となる。特に、トップライト23は人間にとって手の届き難い場所に設置されており、清掃作業を行い難い分、その効果が顕著となる。
【0038】
また、波長520nmより長波長の光は第2光触媒層14を透過して屋内側に至る。これにより、トップライト23越しにも比較的自然な光を感じさせることができ、屋内にいる人間に違和感を与えない。特に、青色領域が若干カットされた状態で可視光が屋内に入り込むものであるため、暖かいイメージの光を感じさせることができる。
【0039】
(2)複層ガラス窓への適用例
建物21の外壁26の一部には複層ガラス窓27が設けられている。複層ガラス窓27は、前記ガラス板12と同種のガラス板28,29を所定間隔おいて図示しないサッシ枠により平行に保持されて構成されている。そして、屋外側ガラス板28の屋外側表面に前記第1光触媒層13が形成され、屋内側ガラス板29の屋内側表面に前記第2光触媒層14が形成されている。
【0040】
このように構成された複層ガラス窓27は、太陽光が差し込む環境下で使用されることから、第1光触媒層13における光触媒の活性化により屋外側ガラス板28の屋外側(室外側)の面が浄化され、ここを透過した波長380nm以上の光が屋外側ガラス板28、両ガラス板28,29間の空隙、屋内側ガラス板29を透過して第2光触媒層14に至る。そして、第2光触媒層14において光触媒の活性化により屋内側ガラス板29の屋内側の面も浄化される。したがって、複層ガラス窓27の屋内外の両面を太陽光のみによって浄化することが可能となる。
【0041】
また、波長520nmより長波長の光は第2光触媒層14を透過して屋内側に至る。これにより、複層ガラス窓27越しにも比較的自然な光を感じさせることができ、屋内にいる人間に違和感を与えない。特に、青色領域が若干カットされた状態で可視光が屋内に入り込むものであるため、暖かいイメージの光を感じさせることができる。
【0042】
なお、上記複層ガラス窓27において、屋外側ガラス板28の屋内側の面に第1光触媒層13を形成し、屋内側ガラス板29の屋外側の面に第2光触媒層14を形成することも可能である。一般に、複層ガラス窓27ではガラス板28,29間の空隙は密閉空間とされているため、理想的には水分が入り込まないように構成されるが、実際には若干の水分の混入が避けられない。そして、入り込んだ水分によってガラス板28,29に水滴が付着し又は曇りが発生するとこれを除去することができないという問題がある。このような問題も、両光触媒層13,14の光触媒の活性化により発現される親水性作用によって解消することができる。
【0043】
(3)照明器具への適用例
建物21の屋内、例えば天井31には照明器具32が設けられている。照明器具32は、光源としての蛍光灯33とそれを覆うレンズカバー34とを備えている。蛍光灯33は紫外線光を含み可視光のほぼ全域を発するものが使用されている。レンズカバー34には前記防汚ガラス11のうちガラス板12に代えてアクリル等の合成樹脂製の非平面形状をなす基材が用いられる。そして、レンズカバー34のうち内側すなわち蛍光灯33側を第1光触媒層13とし、外側すなわち照明器具32外表面側を第2光触媒層14とするように配置する。
【0044】
このように構成された照明器具32は、蛍光灯33が点灯されると、そこから照射された光がレンズカバー34のうち第1光触媒層13に最初に到達する。そして、第1光触媒層13における光触媒の活性化によりレンズカバー34の内面が浄化され、ここを透過した波長380nm以上の光が第2光触媒層14に至って光触媒の活性化により外面も浄化される。したがって、レンズカバー34の内外両面が浄化され、清掃頻度を減らすことができる。
【0045】
また、波長520nmより長波長の光は第2光触媒層14を透過して屋内側に至る。特に、青色領域が若干カットされた状態で可視光が室内に照射されるものであるため、暖かいイメージの光を感じさせることができる。
【0046】
(4)換気装置への適用例
建物21の屋内にはキッチン設備36が設けられ、キッチン設備36の一部としてキッチンコンロの上方に換気装置37が設けられている。換気装置37はキッチンコンロから立ちのぼる蒸気や煙等を屋外に排出するものである。そして、換気装置37には、空気中に含まれる油分等を除去するためのフィルタ38が設けられている。
【0047】
フィルタ38の上方には光源としての蛍光灯39が設けられている。蛍光灯39は紫外線光を含み可視光のほぼ全域を発するものが使用されている。そして、フィルタ38にはアクリル等の合成樹脂製の平面形状をなす基材が用いられ、多数の気孔が形成されている。また、この上面側には第1光触媒層13が形成され、下面側には第2光触媒層14が形成されている。
【0048】
このように構成された換気装置37では、フィルタ38の下面及び上面に油分その他の汚れが付着し易い環境下におかれる。しかしながら、蛍光灯39が点灯されると、そこから照射された光がフィルタ38の上面側の第1光触媒層13に最初に到達する。そして、第1光触媒層13における光触媒の活性化によりフィルタ38の上面が浄化され、ここを透過した波長380nm以上の光が第2光触媒層14に至って光触媒の活性化によりフィルタ38の下面も浄化される。したがって、フィルタ38の上下両面が浄化され、清掃頻度を減らすことができる。
【0049】
また、波長520nmより長波長となる可視光の大部分は第2光触媒層14を透過してキッチンコンロに至る。したがって、蛍光灯39はキッチンコンロでの調理時の照明としての機能も兼ね備えたものとなる。
【0050】
(5)水槽への適用例
建物21の屋外には、水槽41が設置されている。水槽41は、全体として箱状に形成され、内部に水Wが溜められている。そして、水槽41は全体が前記ガラス板12の組合せによって箱状に構成され、外面に第1光触媒層13が形成されるとともに内面に第2光触媒層14が形成されている。
【0051】
このように構成された水槽41は、太陽光が差し込む環境下で使用されることから、第1光触媒層13における光触媒の活性化により水槽41の外面が浄化され、ここを透過した波長380nm以上の光が第2光触媒層14に至って光触媒の活性化により水槽41の内面も浄化される。したがって、水槽41の内外両面の浄化作用によって、水槽41の清掃頻度を減らすことができる。
【0052】
また、水槽41は屋内に設置されたものであってもよい。水槽41の他、貯水タンクなどへの適用も可能である。
【0053】
なお、上記各適用例の他、建物21の屋内において、部屋を仕切るドア等の間仕切材につき光透過材を用いた箇所で適用することも可能である。さらに、自動車等の車両のフロントガラス、リアガラス、ドアガラス等に適用することも可能であるし、ヘッドライト等のライトのレンズに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態における防汚ガラスの断面図。
【図2】同防汚ガラスの特性を示す説明図。
【図3】各種適用例を示す概略図。
【図4】従来における防汚ガラスの断面図。
【符号の説明】
【0055】
11…仕切り部材としての防汚ガラス、12…基材としてのガラス板、13…第1光触媒層、14…第2光触媒層、21…建物、22…屋根、23…仕切り部材としてのトップライト、26…外壁、27…仕切り部材としての複層ガラス窓、28…基材としての屋外側ガラス板、29…基材としての屋内側ガラス板、31…天井、32…照明器具、33…光源としての蛍光灯、34…仕切り部材としてのレンズカバー、36…キッチン設備、37…換気装置、38…仕切り部材としてのフィルタ、39…光源としての蛍光灯、41…仕切り部材としての水槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を仕切る仕切り部材であって、
光透過材料により形成された基材と、
該基材の一側に形成され、第1光触媒が担持された第1光触媒層と、
前記基材の他側に形成され、前記第1光触媒とは活性化領域の異なる第2光触媒が担持された第2光触媒層と
を備えた仕切り部材。
【請求項2】
前記基材はガラス窓のガラス板であり、前記第1光触媒層はガラス板の屋外側表面に形成され、前記第2光触媒層はガラス板の屋内側表面に形成されたものである請求項1記載の仕切り部材。
【請求項3】
空間を仕切る仕切り部材であって、
光透過材料により形成された複数の基材と、
前記各基材のいずれかの基材の側面に形成され、第1光触媒が担持された第1光触媒層と、
前記各基材の前記第1光触媒層が形成された基材とは異なる基材の側面に形成され、前記第1光触媒とは活性化領域の異なる第2光触媒が担持された第2光触媒層と
を備えた仕切り部材。
【請求項4】
前記基材は複層ガラス窓の各ガラス板であり、各ガラス板が間隙をおいて配置し、当該間隙を密閉空間とするように連結されてなる請求項3記載の仕切り部材。
【請求項5】
前記第1光触媒層は各ガラス板のうち屋外側に配置されるガラス板の屋外側表面に形成され、前記第2光触媒層は各ガラス板のうち屋内側に配置されるガラス板の屋内側表面に形成されたものである請求項4記載の仕切り部材。
【請求項6】
前記第2光触媒は、第1光触媒に吸収されずに透過した光を吸収して活性化される光触媒である請求項1乃至5のいずれかに記載の仕切り部材。
【請求項7】
前記第2光触媒は、少なくとも第1光触媒の活性化領域と重複しない活性化領域を有する光触媒である請求項1乃至6のいずれかに記載の仕切り部材。
【請求項8】
前記第1光触媒は波長380nm以下の光を吸収する光触媒である請求項1乃至7のいずれかに記載の仕切り部材。
【請求項9】
前記第2光触媒は波長520nm以下の光を吸収する光触媒である請求項1乃至8のいずれかに記載の仕切り部材。
【請求項10】
自然光又は人口光が直接差し込む側に前記第1光触媒層が配置されるように、請求項1乃至9のいずれかに記載の仕切り部材が設置された建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−260523(P2007−260523A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86935(P2006−86935)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】