説明

代謝症候群を処置するための改善された甲状腺刺激ホルモン受容体ポリペプチドアゴニストグリコフォーム

代謝症候群および肥満を処置するため、ならびに脂肪分解を誘発するための、実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストを記述する。TSHRポリペプチドアゴニストは、処置された個体において甲状腺機能亢進状態を生じることなく、代謝症候群の特徴である肥満、インスリン抵抗性、高脂血症、および肝臓脂肪症を処置するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられる2005年12月23日に提出された米国特許仮出願第60/753,798号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、肝臓脂肪症、および肥満が含まれる代謝症候群を処置するための改善された方法に関する。より具体的には、本明細書において、代謝症候群を処置するために脂肪組織に対して増加した生物活性を示すが、甲状腺中毒症、すなわち慢性甲状腺機能亢進状態を回避する、TSH受容体(TSHR)アゴニストのグリコシル化イソ型が提供される。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
代謝症候群は、重篤で広く起こっている公衆衛生問題である。ヒトにおける代謝症候群は、典型的に肥満に関連しており、以下の1つまたは複数を特徴とする:心血管疾患、肝臓脂肪症、高脂血症、糖尿病、およびインスリン抵抗性。先進国における集団の3分の1が理想体重と比較して少なくとも20%の過剰体重を有する。この現象は開発途上国にも、特に経済が近代化されつつある地球上の地域にも広がっている。2000年現在、世界中で肥満の人は推定で3億人であった。肥満はしばしば高脂肪食の消費、無活動、および遺伝的素因に帰因する。
【0004】
肥満は、心血管疾患または代謝疾患の発症リスクをかなり増加させる。30%より多い過剰体重の場合、冠動脈疾患の発生率は50歳未満の被験体において倍加する。他の疾患に関して行われた試験も等しく意味深い。20%の過剰体重の場合、高血圧症のリスクは倍加する。30%の過剰体重の場合、非インスリン依存性糖尿病を発症するリスクは3倍となり、異脂肪血症の発生率は6倍に増加する。肥満によって促進されるさらなる疾患のリストは長く、肝機能異常、消化器病態、特定の癌、および心理障害はそれらの中でも顕著である。
【0005】
肥満の処置には、カロリー摂取制限および身体運動によるカロリー消費の増加が含まれる。しかし、食事療法による肥満の処置は、短期間では有効であるが、極めて高率の再犯傾向を有する。運動による処置は、食事療法が存在しなければ応用しても比較的無効であることが示されている。他の処置には、消化管手術または食事の脂肪の吸収を制限する作用物質が含まれる。これらの戦略は、その使用の副作用によりほとんど成功していない。2型糖尿病、高脂血症、および脂肪性肝炎が含まれる肥満に関連する合併症の現在の治療は、ほとんどの症例におけるこれらの生命を脅かす病態の進行を停止させるには不適当であった。
【0006】
脂肪分解は、それによってトリグリセリドの形で貯蔵された脂肪が循環中に個々の遊離脂肪酸(FFA)として脂肪細胞から放出される生化学プロセスである。脂肪分解の刺激は、ヒトでは明らかにエネルギー支出の増加に連結しており、脂肪分解を促進して脂肪の酸化を増加させるためのいくつかの戦略が、体重減量を促進して、肥満に関連する代謝症候群の局面を処置するために研究されている。これらの治療努力は主に、その末梢のβ-アドレナリン作動神経受容体を通して交感神経系を刺激する化合物を作製することに重点を置いている。
【0007】
脂肪分解物質は、齧歯類、イヌ、および霊長類において広く研究されており、代謝症候群の顕著な特徴である、肥満症、グルコース感受性、および異脂肪血症に顕著な改善を生じることが見いだされた。交感神経系のカテコラミンのアゴニストであるこれらの作用物質は、交感神経支配に反応する他の組織を刺激することなく脂肪組織のみを標的とする特異的物質を作製することができていないために、これまでのところ主にヒトにおける治療薬として成功していないことが証明された。
【0008】
エネルギー支出は、エネルギーバランス等式の一面を表す。安定な体重を維持するためには、エネルギー支出はエネルギー摂取と平衡でなければならない。体重を維持または減量するための手段として、エネルギー摂取(すなわち、食事および食欲)を操作するためにかなりの努力がなされてきた;しかし、これらのアプローチに莫大な金額が費やされたにもかかわらず、それらは主として成功していない。体重制限を管理して肥満を処置する手段としてエネルギー支出を薬理学的に増加させるための努力も存在する。代謝率の増加は、罹患した個体の食物摂取を正常レベルに維持させる潜在性を有することから魅力的な治療アプローチである。さらなる証拠は、薬理学的手段によるエネルギー支出の増加がエネルギー摂取および食欲の対応する増加によって完全に相殺されないという考え方を支持する。Bray, G. A. (1991) Ann Rev Med 42, 205-216(非特許文献1)を参照されたい。
【0009】
毎日消費されるエネルギーのほとんどが、1日の総エネルギー支出の50〜80%を含む安静代謝率(RMR)に由来する。論評に関しては、Astrup, A. (2000) Endocrine 13, 207-212(非特許文献2)を参照されたい。ノルアドレナリン代謝回転試験から、体格および体組成によって説明されないRMRにおける変動のほとんどがSNS活性の差に関係することが示され、SNS活性が実際にRMRを調節することを示唆している。Snitker, S., et al. (2001) Obes. Rev. 1 :5-15(非特許文献3)を参照されたい。食事の摂取はSNS活性の増加を伴い、試験により、食事に反応したSNS活性の増加が食事誘発性の熱発生の少なくとも一部の原因であることが証明された。
【0010】
エネルギー利用の調節に関与するSNSの末梢の標的はβ-アドレナリン作動性受容体(β-AR)である。これらの受容体は、二次伝達物質である環状アデノシン一リン酸(cAMP)に共役している。cAMPレベルの上昇によって、多能性タンパク質キナーゼおよび多様な細胞効果を誘発する転写因子であるプロテインキナーゼA(PKA)の活性化が起こる。Bourne, H. R., et al. (1991) Nature 349:117-127(非特許文献4)を参照されたい。脂肪組織はSNSによって高度に神経支配され、3つの公知のサブタイプのβ-アドレナリン作動性受容体、すなわちβ1-、β2-、およびβ3-ARを保有する。SNSの活性化は、脂肪分解および脂肪酸化に対するこれらの受容体の共役によってエネルギー支出を刺激する。脂肪組織によって産生され、血流に放出される血清中の遊離の脂肪酸(FFA)の増加は、エネルギー支出を刺激して、熱発生を増加させる。論評に関しては、Astrup, A. (2000) Endocrine 13, 207-212(非特許文献2)を参照されたい。さらに、PKAレベルの上昇は上方制御性脱共役タンパク質-1(UCP-1)による脂肪におけるエネルギー利用を増加させ、これはミトコンドリアにおける無益回路を作製して、廃熱を生成する。
【0011】
過去20年のあいだに、肥満の処置および肥満に関連する糖尿病の処置に関するSNS活性化の生理的有用性の研究は、β3-ARの薬理学的活性化に集中してきた。β3-ARの発現は、β1またはβ2イソ型より組織のより狭い範囲に限定され、これは他のイソ型と比較して齧歯類脂肪組織において高度に発現される。β3-ARアゴニストを処置した齧歯類における実験的研究により、脂肪分解および脂肪酸化の刺激がエネルギー支出の増加、体重減量、およびインスリン抵抗性の増加を生じることが証明された。de Souza, C. J. and Burkey, B. F. (2001) Curr Pharm Des 7, 1433-1449(非特許文献5)を参照されたい。しかし、β3-ARアゴニストの潜在的有用性は、ヒトβ3-ARでの有効性がないために実現されていない。さらに、より最近、齧歯類脂肪組織におけるβ3-ARレベルはヒト脂肪組織よりかなり高いことが示されている。ヒト脂肪組織では、β1およびβ2イソ型が優勢なアドレナリン作動性受容体イソ型を表す。Arch, J. R. (2002) Eur J Pharmacol 440:99-107(非特許文献6)を参照されたい。このように、脂肪分解の刺激は齧歯類において証明されているが、ヒトにおいて対応する効果を治療的にもたらすためのメカニズムは実現されていない。
【0012】
エネルギー支出は、中枢神経系の操作によって、SNSの末梢遠心性線維の活性化によって、または甲状腺ホルモンレベルを増加させることによって薬理学的に刺激することができる。甲状腺ホルモンは、体のほとんどの細胞における炭水化物および脂質代謝を刺激して、タンパク質合成速度を増加させる。甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺ホルモンの生合成および分泌を刺激する。下垂体前葉の向甲状腺細胞からのTSHの分泌は、循環中のT4およびT3によって阻害され、視床下部において産生された甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって刺激される。Utiger, in Endocrinology and Metabolism (Felig and Frohman, eds), pp. 261-347, McGraw-Hill, (2001)(非特許文献7)を参照されたい。視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸は、甲状腺から放出される、または甲状腺から放出される他の型の甲状腺ホルモンであるT4から組織において合成される、甲状腺ホルモンT3によって負に調節される古典的な内分泌フィードバック経路である。視床下部TRHの放出は、T3によって阻害され、下垂体TSHの合成はT3によって阻害される。
【0013】
甲状腺ホルモンによって産生される異化の結果として、熱が放出され、エネルギー支出が増加する。甲状腺ホルモンレベルを増加させることによって基礎エネルギー消費を増加させる機会があるために、肥満における甲状腺ホルモンレベルには強い関心が集まっている。甲状腺組織に関する試験から、甲状腺はTSHによる持続的な刺激を受けていることが判明した。甲状腺は、反応性の遅い臓器であり、甲状腺細胞はDNA合成および増殖を開始するために持続的な18時間のTSH刺激を必要とする。Roger, P.et al. (1987) J Cell Physiol 130, 58-67(非特許文献8)を参照されたい。
【0014】
組み換え型ヒトTSH(rhTSH)がヒトにおいて導入されており(Thyrogen(登録商標)、Genzyme Corporation, Cambridge, MA)、ヒト下垂体由来TSHよりかなり低い代謝クリアランス率(MCR)を有する。見かけの平均消失半減期の推定値は25+/-10時間である。rhTSHの血清濃度はヒト被験体に約30μg/kgを1回注射後24時間まで有意に上昇する。Ladenson, P.W. et al. (1997) N Engl J Med 337, 888-896(非特許文献9)を参照されたい。ヒト下垂体TSHは、硫酸化オリゴ糖、シアリル化オリゴ糖、および陰イオン基を欠くオリゴ糖が含まれるオリゴ糖イソ型の糖タンパク質混合物である。甲状腺機能低下状態では、甲状腺ホルモン放出を増加させるためにTSHに対する持続的な曝露が必要であり、シアリル化TSHは他のTSHグリコフォームより大きいインビボ甲状腺刺激活性を生じる。
【0015】
しかし、肥満および正常体重の個体は類似の甲状腺ホルモンプロフィールを有することが試験により明らかとなった。過剰量の甲状腺ホルモンにより様々な障害、一般的に甲状腺中毒症と呼ばれる障害が起こる。この状態は異常に高い代謝率、血圧の増加、高体温、熱不耐性、被刺激性、および指の振せんを特徴とする。肥満状態において特に懸念されるのが、心拍数の増加およびより強い心拍に対する傾向である。甲状腺ホルモンレベル上昇の副作用により、肥満を処置するための甲状腺ホルモンの使用は、甲状腺機能低下症であると同定された肥満患者の少数の割合以外では、ほとんど成功していない。
【0016】
甲状腺機能亢進状態に関連したおそらく重篤な副作用を生じることなく、脂肪分解を刺激するためおよび代謝症候群を処置するために有用な改善された処置が明らかに必要である。本発明は、そのような要求を満たし、他の関係する長所を提供する。
【0017】
【非特許文献1】Bray, G. A. (1991) Ann Rev Med 42, 205-216
【非特許文献2】Astrup, A. (2000) Endocrine 13, 207-212
【非特許文献3】Snitker, S., et al. (2001) Obes. Rev. 1 :5-15
【非特許文献4】Bourne, H. R., et al. (1991) Nature 349:117-127
【非特許文献5】de Souza, C. J. and Burkey, B. F. (2001) Curr Pharm Des 7, 1433-1449
【非特許文献6】Arch, J. R. (2002) Eur J Pharmacol 440:99-107
【非特許文献7】Utiger, in Endocrinology and Metabolism (Felig and Frohman, eds), pp. 261-347, McGraw-Hill, (2001)
【非特許文献8】Roger, P.et al. (1987) J Cell Physiol 130, 58-67
【非特許文献9】Ladenson, P.W. et al. (1997) N Engl J Med 337, 888-896
【発明の開示】
【0018】
発明の簡単な概要
1つの態様において、本発明は、実質的に脱シアリル化されている自己甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストと、薬学的に許容される担体とを含む組成物を、被験体において甲状腺中毒症を誘発することなく、1つまたは複数の脂肪細胞において脂肪分解を誘発するために十分な条件下および期間で、被験体に投与する段階を含む、被験体における代謝症候群を処置する方法を提供する。1つの態様において、TSHRアゴニストは、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む。特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。もう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。なおもう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。特定の態様において、TSHRアゴニストは検出可能なシアル酸を欠く糖タンパク質調製物を含む。特定の特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、実質的に脱シアリル化甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および実質的に脱シアリル化されたコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)から選択される。もう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む。なおもう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む。1つの態様において、TSHRアゴニストは、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物、および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物から選択される糖タンパク質調製物を含む。もう1つの特異的態様において、被験体はヒトであり、TSHRアゴニストは、先に記述したようにおよび本発明開示を通して、実質的に脱シアリル化されたヒトTSHRアゴニストであるヒトTSHRアゴニストである。特異的態様において、ヒトTSHRアゴニストはヒトTSHまたはヒトCGHである。特定の態様において、代謝症候群は、肥満、2型真性糖尿病、高脂血症、インスリン抵抗性、脂肪性肝炎、高血圧症、異脂肪血症、およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される、少なくとも1つの代謝障害を含む。特定の態様において、被験体は(a)肥満であるか、(b)2型真性糖尿病を有するか、または(c)肥満であってかつ2型真性糖尿病を有する。
【0019】
TSHRアゴニストを含む薬学的組成物も同様に本明細書において提供される。1つの態様において、実質的に脱シアリル化されている甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストと、薬学的に許容される担体とを含む、代謝障害を処置するための薬学的組成物が提供される。特定の態様において、TSHRアゴニストは、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む。もう1つの態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。なおもう1つの態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。なおさらにもう1つの態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。もう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む。なおもう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む。なおもう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストは、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物、および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物から選択される糖タンパク質調製物を含む。特定の特異的態様において、上記の任意の薬学的組成物における実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、上記の態様においておよび本開示を通して記述されるように、実質的に脱シアリル化されているヒトTSHRアゴニストである。もう1つの特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたヒトTSHRアゴニストは、上記の態様においておよび本開示を通して記述されるように、実質的に脱シアリル化されているヒトCGHを含む。
【0020】
同様に本明細書において、実質的に脱シアリル化されている自己甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストと、薬学的に許容される担体とを含む組成物を、被験体において甲状腺中毒症を誘発することなく、少なくとも1つの代謝活性を変化させるために十分な条件下および期間で、被験体に投与する段階を含む、被験体における代謝活性を変化させる方法も提供される。特定の態様において、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、被験体の少なくとも1つの細胞における脂肪分解を誘発することを含む。もう1つの特定の態様において、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、被験体における血清トリグリセリドレベルを減少させることを含む。特定の態様において、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、被験体における代謝率を増加させることを含む。なおもう1つの特定の態様において、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、血中グルコースレベルを減少させることを含む。なおもう1つの態様において、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、血漿コレステロールレベルを減少させることを含む。もう1つの特定の態様において、上記の方法において用いられるTSHRアゴニストは、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む。特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。もう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。なおもう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される。上記の方法の特異的態様において、TSHRアゴニストは検出可能なシアル酸を欠く糖タンパク質調製物を含む。もう1つの特異的態様において、実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストは、実質的に脱シアリル化された甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および実質的に脱シアリル化されたコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)から選択される。もう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む。なおもう1つの特異的態様において、TSHRアゴニストは、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む。もう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストは、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物、および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む。特定の態様において、被験体はヒトであり、TSHRアゴニストはヒトTSHRアゴニストである。特異的態様において、ヒトTSHRアゴニストは、上記の態様においておよび本発明開示を通して記述されるように、実質的に脱シアリル化されているヒトTSHを含む。もう1つの特異的態様において、ヒトTSHRアゴニストは、上記の態様においておよび本開示を通して記述されるように、実質的に脱シアリル化されているヒトCGHを含む。
【0021】
他の態様において、肥満、2型真性糖尿病、高脂血症、インスリン抵抗性、脂肪性肝炎、高血圧症、異脂肪血症、およびアテローム性動脈硬化症から選択される少なくとも1つの代謝障害が含まれてもよい、代謝症候群を処置するための薬剤を製造するための本明細書に記述の実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの任意の1つの使用が提供される。特定の他の態様において、被験体における甲状腺中毒症を誘発することなく、少なくとも1つの代謝活性を変化させるための薬剤を製造するための、本明細書に記述の実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの任意の1つの使用が提供され、少なくとも1つの代謝活性を変化させることは、被験体の少なくとも1つの細胞における脂肪分解を誘発すること;被験体における血清トリグリセリドレベルを減少させること;被験体における代謝率を増加させること;血中グルコースレベルを減少させること;および血漿コレステロールレベルを減少させることの任意の1つまたは複数を含む。
【0022】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の詳細な説明を参照することによって明らかとなる。本明細書において言及したおよび/または出願データシートにおいて記載された全ての米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許公報は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、一般的に脂肪細胞および/または組織における脂肪分解を刺激するための改善された方法に関する。本明細書において詳細に記述されるように、実質的に脱シアリル化グリコフォームのような、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストを用いて、処置した被験体において慢性的な甲状腺機能亢進状態の誘発または維持なしに、脂肪組織のSNS神経支配の関係する治療的有用性を伴う、強力な脂肪分解刺激をもたらすことができる。本明細書に記述のTSHRアゴニストは、増加した生物活性を有し、他のTSHRアゴニストより短い循環半減期を有するが、循環中の甲状腺ホルモンレベルを正常範囲より上に慢性的に上昇するように刺激しないかまたはさせない。したがって、これらのTSHRアゴニストは、ヒトにおいて、甲状腺中毒症を誘発せず、肥満などの代謝症候群、ならびに他の関連する代謝疾患および障害の処置にとって有用である。
【0024】
予想外にも、本開示によれば、代謝症候群の当技術分野において確立された齧歯類モデルにおいて用いられるシアリル化TSHRアゴニストは、ヒトにおける代謝症候群の処置にとって必要ではない。本明細書において記述されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは成人ヒト脂肪細胞において脂肪分解の誘発能を示す。さらに、本明細書において提供されるように実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、甲状腺を過剰刺激することなく、被験体において強力な脂肪分解反応を誘発することができる。したがって、本明細書において開示されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、被験体において甲状腺中毒症を誘発しない用量で、脂肪組織において脂肪分解を実際に刺激する可能性がある。
【0025】
先に述べたように、脂肪分解物質としてTSHRアゴニストを用いることは、代謝症候群の齧歯類モデルにおいて調べられている。これらのアゴニストには、サイロスチミュリン(thyrostimulin)とも呼ばれるコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)およびサイロトロピンとしても公知の甲状腺刺激ホルモン(TSH)が含まれる(たとえば、米国特許出願第2004/0176294号および第2003/0095983号を参照されたい)。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞における組み換えDNA法によって産生されたTSHおよびCGHによって齧歯類を処置すると、改善されたグルコースおよび脂質プロフィールが得られ、肝臓脂肪症が逆行される。齧歯類の脂肪組織TSHRはこれらの糖タンパク質によって急激に活性化され、強い脂肪分解刺激を生成し、血清中FFAの急激な上昇を通して代謝率を増加させる。脂肪分解および代謝的有用性は、50〜250μg/kg/日の用量の腹腔内(ip)注射によってもたらされる(たとえば、米国特許出願第2004/0176294号および第2003/0095983号を参照されたい)。
【0026】
齧歯類モデルにおいて記述される結果がTSHRアゴニストが代謝症候群に関する有用な治療物質である可能性があることを示唆しても、ヒトをこれらのアゴニストによって処置することは、いくつかの問題を提起する。霊長類における組み換え型TSHの半減期の延長は、脂肪分解量の組み換え型TSHが望ましくない甲状腺機能亢進状態を生じると考えられることを示唆する。さらに、甲状腺機能低下ではないヒトにTSHRアゴニストを投与すると、甲状腺の過剰な刺激を引き起こすことによって望ましくない有害作用(たとえば、甲状腺中毒症)をもたらし、それによって、正常範囲より高い、血清甲状腺ホルモンレベルの慢性的な上昇が起こる。
【0027】
したがって、ヒトにおいて用いるためのTSH関連治療物質の開発は、脱シアリル化TSHがインビトロでより大きい内因性活性を有することを示すデータにもかからわず、脱シアリル化型は有意に速やかに循環から生理的に消失し、従ってインビボでより活性が低いことから、長時間持続型のシアリル化TSHグリコフォームを作製および開発することに重点が置かれてきた(たとえば、Grossman et al., Endocrine Rev. 18:476-501 (1997);Szkudlinski et al., Physiol. Rev. 82:473-502 (2002);Thotakura et al., Endocrinology 128:341-48 (1998);Grossman et al., Endocrinology 138:92-100(1997);米国特許出願第2004/0266665号;第2005/0250185号;および第2005/0096264号を参照されたい)。内因性の活性は、通常インビトロアッセイである、リガンドの分子量単位あたりシグナル伝達の強度によって測定される、受容体に対するリガンドの比活性を指す。
【0028】
さらに、リンパ球、精巣、および副腎組織、ならびに脂肪細胞のような甲状腺外組織におけるTSH結合部位の存在が知られているが、ヒトTSH受容体およびヒトTSHの機能的発現および生理的関連性は確立されていない。本開示の態様に従って本明細書において詳述されるように、および当技術分野における先行知見および結論とは反対に、シアリル化TSHRアゴニストと比較して実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの顕著に増加した代謝クリアランス率(MCR)は、甲状腺中毒症を誘発することなく、脂肪分解の誘発を可能にすることによって被験体に対して治療的有用性を提供する。
【0029】
本明細書において用いられるように、「単離された」という用語は、材料がその当初の環境(たとえば、それが天然に存在する場合には天然の環境)から取り出されていることを意味する。たとえば、生きている動物に存在する天然に存在する核酸またはポリペプチドは単離されていないが、天然の系において同時に存在する材料の一部または全てから分離された同じ核酸またはポリペプチドは単離されている。そのような核酸はベクターの一部となり得、および/またはそのような核酸またはポリペプチドは組成物の一部となりうるが、ベクターまたは組成物が核酸またはポリペプチドの天然の環境の一部ではないという点においてなおも単離されている。「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖を産生するためのプロセスにおいて転写されるDNAセグメントを指し;これには、コード領域の前後の領域「リーダーおよびトレーラー(trailer)」と共に個々のコードセグメント(エキソン)のあいだの介在配列(イントロン)が含まれる。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの(a)」、「および」、および「その(the)」には、本文が明らかにそうでないことを述べている場合を除き、複数形に対する参照が含まれる。このように、たとえば「1つの作用物質(an agent)」という参照には、そのような作用物質の複数が含まれ、「その細胞(the cell)」という参照には1つまたは複数の細胞、および当業者に公知のその同等物に対する参照等が含まれる。「含む(comprising)」という用語(および「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、または「有する(having)」または「含む(including)」のような関連用語)は、本明細書において記述されたいかなる当該組成物、組成物、方法、またはプロセス等が、記述の特色「からなる(consist of)」または「から本質的になる(consist essentially of)」可能性があることを除外することを意図しない。
【0031】
実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト
本明細書において、被験体における代謝症候群を処置するための方法において用いるための、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを含む組成物が提供される。本明細書において詳細に記述されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは脂肪分解の誘発に関して脂肪TSHRに対して固有の活性を増加させることができる。これらのアゴニストの代謝クリアランス率(MCR)は、甲状腺の過剰刺激を防止または阻害するために十分であり、したがって、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストによって処置された被験体が甲状腺中毒症を発症する確率を防止または低減させる。
【0032】
TSH受容体(TSHR)は、G-タンパク質共役7回膜貫通受容体スーパーファミリーメンバーである。たとえば、TSHRアゴニストの特異的結合または会合によるTSH受容体の活性化によって、ヘテロ三量体Gタンパク質との共役が起こり、これが下流の細胞効果を惹起する。TSH受容体は、Gs、Gq、G12、およびGiが含まれるいくつかのサブタイプのGタンパク質と相互作用する可能性がある。特に、Gsとの相互作用によって、アデニレートシクラーゼの活性化およびcAMPレベルの増加が起こる可能性がある。Laugwitz, K. L., et al. (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93, 116-120を参照されたい。
【0033】
本明細書に記述のTSHRアゴニストポリペプチドには、下垂体糖タンパク質ホルモン、たとえばTSHおよびCGHが含まれる。これらの糖タンパク質ホルモンは、通常、典型的に主に両触角様の構造を有する1、2、または3個の明確なアスパラギン(N)-結合型オリゴ糖の炭水化物部分を含む(Grossman et al., Endocrinol. Rev. 18:476-501 (1997))。歴史的に、等電点電気泳動試験によって、糖タンパク質ホルモンのオリゴ糖変種は比較的酸性であると特徴付けされた。その後の試験により、そのような変種の酸性度の増加は、最後から2番目のN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)残基に共有的に連結した非還元末端硫酸(SO4)の存在によること、および/またはN-結合型オリゴ糖部分上の最後から2番目のガラクトース残基に共有的に連結したシアル酸(NeuAc)基のオリゴ糖非還元末端の存在によることが判明した。
【0034】
脱シアリル化TSHRアゴニストを含むTSHRアゴニストは、特にTSHRと特異的に相互作用および/または特異的に結合して、細胞内で伝達され、かつ生物学的反応を誘発するシグナルを刺激または活性化する。例えば、脂肪細胞上のTSH受容体に対するTSHの結合によって、cAMPレベルの変化(たとえば統計学的に有意な増加または減少)を伴い、最終的に遺伝子発現を変化させる可能性がある、二次伝達物質経路が刺激される。脂肪細胞に存在するTSHRの活性化によって脂肪分解が起こる可能性があり、これは本明細書に記述のおよび当技術分野において実践される方法を用いて、グリセロールの蓄積および遊離の脂肪酸(FFA)の決定によって分析されうる。脱シアリル化TSHRアゴニストは、TSHRに対するTSHの結合を競合的に阻害する可能性があり、またはそのようなアゴニストは、TSHとは異なる結合部位でTSHRに結合する可能性がある。脱シアリル化アゴニストには、異なる2つの部位でTSHRに結合するアゴニストが含まれてもよく;たとえば1つの部位にはTSH結合部位が含まれてもよく、第二の部位は脱シアリル化TSHRアゴニストの結合がTSH受容体に対するTSHの結合を阻害しないように、異なる別個の結合部位であってもよい(たとえば、Okada et al., Mol. Endocrinol. October 6, 2005(Epub ahead of print))を参照されたい)。
【0035】
本明細書において用いられるように、TSHRアゴニストは、検出可能なレベルで、好ましくは約104 M-1より大きいもしくはそれに等しい、約105 M-1より大きいもしくはそれに等しい、約106 M-1より大きいもしくはそれに等しい、約107 M-1より大きいもしくはそれに等しい、または約108 M-1より大きいもしくはそれに等しい、親和性定数Kaで受容体に反応し、もう1つの細胞表面受容体には特異的に結合しない場合、TSHRに対して「特異的である」、または「特異的に結合する」と言われる。その同族の受容体に対するアゴニストの親和性は、同様に、一般的に解離定数KDでも表され、TSHRアゴニストは、10-4 M未満もしくはそれに等しい、10-5 M未満もしくはそれに等しい、10-6 M未満もしくはそれに等しい、10-7 M未満もしくはそれに等しい、または10-8 M未満もしくはそれに等しいKDで結合する場合に、TSHRに特異的に結合する。結合パートナーの親和性は、通常の技術、たとえばScatchardら(Ann. N.Y. Acad. Sci. USA 51:660 (1949))によって記述される技術、表面プラズモン共鳴(SPR; BIAcore(商標), Biosensor, Piscataway, NJ)、および当技術分野において日常的に実践される他の方法(たとえば、Wolff et al., Cancer Res. 53:2560-2565 (1993)を参照されたい)によって容易に決定することができる。
【0036】
特定の態様において、被験体における代謝症候群ならびにその関連代謝疾患および障害を処置するために本明細書において記述される方法は、被験体において非免疫原性である脱シアリル化TSHRアゴニストを投与する段階を含む。特定の態様において、脱シアリル化TSHRアゴニストは、自己脱シアリル化TSHRアゴニストである;すなわち脱シアリル化TSHRアゴニストは処置される被験体と同じ種に由来する。他の態様において、脱シアリル化アゴニストは異種源に由来してもよく、アゴニストは、アゴニストによって処置される被験体における異種脱シアリル化TSHRアゴニストの免疫原性を低減または排除する(たとえば、非改変対照と比較して統計学的に有意または生物学的に有意な方法での減少)ような方法で改変されてもよい。改変には、異種宿主または被験体におけるアゴニストの免疫原性が低減または排除されるように、アゴニストのエピトープのアミノ酸を置換、欠失、または付加することが含まれるがこれらに限定されるわけではない。そのような変異をアゴニストポリペプチドに導入することは、当技術分野において日常的に実践される方法に従って達成されてもよい。または、異種脱シアリル化TSHRアゴニストを、宿主において異種脱シアリル化TSHRアゴニストに対する免疫応答を抑制することができる作用物質または組成物の前に、同時に、または後に送達してもよい。
【0037】
例示的な脱シアリル化TSHRアゴニストは、脱シアリル化甲状腺刺激ホルモン(TSH)(サイロトロピンとも呼ばれる)およびコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)(サイロスチミュリンまたはオーファン糖タンパク質ホルモン(OGH)とも呼ばれる)が含まれるがこれらに限定されるわけではない、実質的に脱シアリル化または無シアリル化されている下垂体糖タンパク質ホルモンである。ヒトTSHは、2つの非共有結合ペプチドサブユニット、すなわちαサブユニットとβサブユニットで構成される〜30 kDaの糖タンパク質である。TSHのαサブユニットは黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、および絨毛ゴナドトロピンのαサブユニットと同じである。シグナルペプチドの切断前に、TSHのαサブユニットは以下のアミノ酸配列を有する:
MDYYRKYAAIFLVTLSVFLHVLHSAPDVQDCPECTLQENPFFSQPGAPILQCMGCCFSRAYPTPLRSKKTMLVQKNVTSESTCCVAKSYNRVTVMGGFKVENHTACHCSTCYYHKS(SEQ ID NO:1)。シグナルペプチドは1〜24位に存在する(SEQ ID NO:5)。αサブユニット(SEQ ID NO:1)の25〜116位に存在するアミノ酸は成熟タンパク質(SEQ ID NO:6)を含む。TSHのβサブユニットは特有のものであり、以下のアミノ酸配列を有する:
MTALFLMSMLFGLACGQAMSFCIPTEYTMHIERRECAYCLTINTTICAGYCMTRDINGKLFLPKYALS QD VCTYRDFIYRTVEIPGCPLHVAPYFSYPVALSCKCGKCNTDYSDCIHEAIKTNYCTKPQKSYLVGFSV(SEQ ID NO:2)。糖タンパク質のβサブユニットは、ホルモンの生物学的特異性を決定する。βサブユニットはまた、シグナルペプチド(SEQ ID NO:7)(SEQ ID NO:2の1〜20位)を含む。SEQ ID NO:2の21〜138位に存在するアミノ酸は成熟タンパク質(SEQ ID NO:8)を含む。
【0038】
糖タンパク質ホルモンの構造特色はその炭水化物部分であり、これは糖タンパク質分子の集団内で構造の微小不均一性を示す可能性がある。したがって、TSHは均一な集団としてではなくて、一組のグリコシル化変種として分泌される(たとえば、Szkudlinski M., et al. (2001) Physiol Rev 82, 473-502を参照されたい)。α-サブユニットは、アミノ酸配列N52およびN78位で成熟α-サブユニットに存在する2つのアスパラギン(N)-結合型オリゴ糖を有する(SEQ ID NO:6を参照されたい)。TSHのβ-サブユニットは、成熟ポリペプチドのアミノ酸N23位に存在する1つのN-結合型オリゴ糖を有する(SEQ ID NO:8を参照されたい)。
【0039】
CGHは、GPHA2と呼ばれるαサブユニット(SEQ ID NO3)およびGPHB5と呼ばれるβサブユニット(SEQ ID NO.4)で構成されるヘテロ二量体糖タンパク質である(たとえば、Nakabayashi et al., J. Clin. Invest 109:1445-52 (2002);Okada et al., Mol. Endocrinol. October 6, 2005 (Epub ahead of print);国際特許出願公開番号WO 01/73034を参照されたい)。成熟GPHA2サブユニット(SEQ ID NO:10)は、完全長の糖タンパク質(SEQ ID NO:3)からシグナルペプチド(SEQ ID NO:9)の切断後に形成される。GPHB5サブユニットは、シグナルペプチド(SEQ ID NO:11)(SEQ ID NO:4の1〜24位)を含み、SEQ ID NO:4の25〜130位に存在するアミノ酸は成熟GPHB5サブユニット(SEQ ID NO:12)を含む。CGHは、α-サブユニット上に2つのN-結合型グリコシル化部位(SEQ ID NO:10の14位および58位を参照されたい)およびβ-サブユニット上に1つのN-結合型グリコシル化部位(SEQ ID NO:12の63位を参照されたい)を含有する(Nakabayashi et al., J. Clin. Invest. 109:1445-52 (2002)を参照されたい)。
【0040】
CGHは血清または組織から精製されていないが、CHO細胞にトランスフェクトされているヒトTSHRを強力に活性化する精製ヘテロ二量体タンパク質を生じるよう、組み換えDNA方法論によってハムスター卵巣(CHO)細胞において産生されている。GPHA2は他の公知の糖タンパク質ホルモンと共通のαサブユニットのアミノ酸配列と25%同一であるアミノ酸配列を有し、類似の構造モチーフを有すると予測される。GPHB5は、ヒト甲状腺刺激ホルモンのβサブユニットのアミノ酸配列と約30%同一であるアミノ酸配列を有し、同様に構造的に保存されていると予想される。
【0041】
1つの態様において、TSHRアゴニストは実質的に脱シアリル化されているか、またはシアリル化されていない少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖鎖(すなわち、N-結合型オリゴ糖部分)を含む実質的に脱シアリル化された糖タンパク質である。特定の態様において、TSHRアゴニストは少なくとも2個、少なくとも3個、またはそれより多いN-結合型オリゴ糖鎖を含む。本明細書において記述されるように、TSHRアゴニストのオリゴ糖部分(本明細書においてオリゴ糖鎖またはオリゴ糖イソ型とも呼ばれる)は、主に両触角様の構造のN-結合型オリゴ糖鎖である。これらのオリゴ糖鎖は、糖であるマンノース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、およびガラクトースを含む(たとえば、Grossman et al., Endocrine Reviews 18:476-501 (1997);Harvey, Proteomics 5:1774-86 (2005);Schauer, Zoology (Jena) 107:49-64 (2004);Schauer Glycoconj. J. 17:485-99 (2000)を参照されたい)。鎖はまた、硫酸(SO4)またはシアル酸で終結してもよい(たとえば、非還元末端で)。このように、特定の態様において、脱シアリル化TSHRアゴニストには、N-結合型高マンノース型オリゴ糖が含まれる。TSHおよびCGHのような特定のTSHRアゴニストは、両触角様のN-結合型オリゴ糖鎖3個を有し、そのそれぞれが非還元末端炭水化物残基としてシアル酸を保有し、糖タンパク質1分子あたりおそらく全体でシアル酸分子6個となり得る。例として、実質的に脱シアリル化されたTSHまたは実質的に脱シアリル化されたCGHは、アゴニスト1分子あたりシアル酸1分子のみまたは2分子のみを有する。特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは無シアリル化される(すなわち、それぞれのN-結合型オリゴ糖部分は末端基としてのシアル酸を欠く)。
【0042】
他の態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも1個、2個、3個、またはそれより多いN-結合型オリゴ糖部分を有する、1つまたはそれより多い(すなわち複数の)糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含む。特定の態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、少なくとも85%、90%、95%、または98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物を含む。糖タンパク質調製物は、それぞれの糖タンパク質分子が同じ割合の脱シアリル化を示す糖タンパク質分子を含んでもよい。または、糖タンパク質調製物は、調製物におけるそのような糖タンパク質分子の組み合わせが、少なくとも85%、90%、95%、または98%脱シアリル化されているように、異なる割合の脱シアリル化を示す糖タンパク質分子を含んでもよい。もう1つの態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、検出可能なシアル酸を欠き、無シアリル化されてもよい(すなわち、それぞれのN-結合型オリゴ糖部分はシアル酸末端基を欠く)糖タンパク質調製物を含む。もう1つの態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、少なくとも70%、75%、または80%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物を含む。特定の態様において、たとえばTSHRアゴニストはTSH糖タンパク質調製物を含み、もう1つの特定の態様において、TSHRアゴニストはCGH糖タンパク質調製物を含む。なおもう1つの態様において、TSHRアゴニストは、第一の糖タンパク質調製物と第二の糖タンパク質調製物のような、糖タンパク質調製物の混合物を含む。1つの態様において、第一の糖タンパク質調製物と第二の糖タンパク質調製物のそれぞれは、少なくとも85%、90%、95%、もしくは98%脱シアリル化されているか、少なくとも70%、75%、もしくは80%脱シアリル化されているか、または検出可能なシアル酸を欠いてもよい。もう1つの特定の態様において、少なくとも1つの糖タンパク質調製物と少なくとも1つの第二の糖タンパク質調製物の組み合わせまたは混合物は、少なくとも85%、90%、95%、もしくは98%脱シアリル化されているか、少なくとも70%、75%、もしくは80%脱シアリル化されているか、または検出可能なシアル酸を欠いてもよい。特定の態様において、糖タンパク質調製物の混合物は、TSH糖タンパク質調製物とCGH糖タンパク質調製物とを含む。
【0043】
TSHRアゴニストのオリゴ糖部分に結合したシアル酸分子の存在および/または定量は、本明細書に記述の方法および当業者に公知の方法に従って決定されてもよい。たとえば、トウゴマ(Ricinus communis)は、露出したガラクトース残基に特異的に結合し、ガラクトースに付着したシアル酸の存在はそのような結合を防止する。TSHRアゴニストのような糖タンパク質を、シアル酸残基を切断してガラクトースを露出するノイラミニダーゼと混合する。シアリル化の程度または度合い(すなわち、たとえば単位質量あたりのシアル酸分子の数または平均数)は、リシン(ricin)に対する糖タンパク質の結合の増加を測定することに相関し、それにより決定することができる(たとえば、Oliveira et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 86:1694-99 (2001)を参照されたい)。もう1つの例示的な方法に従って、糖タンパク質は、遊離のシアル酸残基をその対応するN-アシルマンノサミンに変換するN-アセチルノイラミン酸アルドラーゼによって処置される前に、シアリダーゼによって処置されるか、または軽度の酸加水分解に供される(たとえば、Yasuno et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 63:1353-59 (1999)を参照されたい)。次に、反応混合物を酸加水分解(単糖を産生するために)、N-アセチル化、およびp-アミノ安息香酸エチルエステル(ABEE)による変換に連続的に供する。ABEE変換単糖は、逆相高速液体クロマトグラフィーによって同時に決定される。他の方法は、さらなる技術、たとえば、キャピラリー電気泳動を組み入れるが、これをイオントラップ質量分析(たとえば、Che et al., Electrophoresis 20:2930-37 (1999)を参照されたい)、および陰イオン交換HPLC(たとえば、Dionex, Sunnyvale, CAを参照されたい;同様にたとえば、Harvey, Proteomics 5: 1774- 86 (2005);Duk et al., Adv. Exp. Med. Biol. 491:127-32 (2001);Varke et al., Anal. Biochem. 137:236-47 (1984)を参照されたい)と組み合わせてもよい。
【0044】
実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(たとえば、CGHおよびTSH)には、以下に詳述されるような、それぞれの脱シアリル化TSHRアゴニストのポリペプチド変種が含まれる。特定の脱シアリル化TSHRアゴニスト変種に関して、生物活性は増強されるか、または本来の脱シアリル化TSHRアゴニストと比較して不変である。そのような変種の脂肪細胞における脂肪分解誘発能は実質的に減損されず、変種の甲状腺中毒症誘発能は実質的に増加しない(すなわち、アゴニスト変種の生物活性は、脱シアリル化TSHRアゴニストの生物機能を有害に変化させる、統計学的または生物学的に有意な様式で変化しない)。そのような脱シアリル化TSHRアゴニスト変種の脂肪細胞(たとえば、ヒト脂肪細胞)における脂肪分解誘発能は、本来の脱シアリル化TSHRアゴニストと比較して増強されるかもしくは不変である可能性があり、またはアゴニストと比較して50%未満、40%未満、30%未満、25%未満、20%未満、もしくは10%未満減損する可能性もある。そのような変種は、本明細書において提供される代表的なアッセイおよび技術を用いて同定され得る。
【0045】
このように、本明細書において記述されたTSHおよびCGHを含む実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストにはまた、変種またはそのそれぞれの糖タンパク質ホルモンが含まれ、その変種は、本明細書に開示されるTSHおよびCGHアミノ酸配列と類似のアミノ酸配列を有する。そのようなポリペプチド変種は、1つまたは複数の置換、欠失、付加、および/または挿入を含有してもよい。変種には、たとえば天然に存在する多形(たとえば、対立遺伝子変種)、または組み換えによって操作されたもしくは遺伝子操作されたTSHRアゴニスト変種が含まれる。実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト変種(またはそのサブユニット)のアミノ酸配列は、本来のアゴニストと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一または類似である。特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたTSH変種のαサブユニットのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:6において記載される配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一または類似である。もう1つの特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたTSH変種のβサブユニットのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:8に記載される配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一または類似である。なおもう1つの特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたCGH変種のαサブユニットのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:10に記載される配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一または類似である。もう1つの特異的態様において、実質的に脱シアリル化されたCGH変種のβサブユニットのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:12に記載される配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一または類似である。
【0046】
当業者に公知の多様な基準によって、ペプチドまたはポリペプチドの特定の位置のアミノ酸が保存的であるか、または類似であるか否かが示される。たとえば、類似のアミノ酸または保存的アミノ酸置換は、その中でアミノ酸残基が、塩基性側鎖(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン);酸性側鎖(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸);非荷電極性側鎖(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、ヒスチジン);非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);β-分岐側鎖(たとえば、トレオニン、バリン、イソロイシン);および芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を有するアミノ酸のような、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されている置換である。分類することがより難しいと考えられるプロリンは、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(たとえば、ロイシン、バリン、イソロイシン、およびアラニン)と特性を共有する。特定の状況において、グルタミン酸のグルタミンへの置換、またはアスパラギン酸のアスパラギンへの置換はグルタミンおよびアスパラギンがそれぞれ、グルタミン酸およびアスパラギン酸のアミド誘導体であるという点において類似の置換であると考えられる可能性がある。アミノ酸配列を有する2つのTSHRアゴニスト間の同一性または類似性の割合(パーセント)は、本明細書において記述され、当業者に周知であるアラインメント法(たとえば、GENEWORKS、Align、またはBLASTを用いて)によって容易に決定することができる。
【0047】
実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト変種はまた、遺伝子操作および組み換え分子生物学の方法および技術によって容易に調製される可能性がある。簡単に説明すると、アゴニストの一次および二次アミノ酸配列の分析、ならびにポリペプチドのアミノ酸配列、ならびに標準的な構造およびモチーフを用いて三次構造を分析するためのコンピューターモデリングによる分析は、配列の変種の構造のコンピューター補助予測が含まれる、置換されうる特異的アミノ酸残基を同定するために役立つ可能性がある(Bradley et al., Science 309:1868 (2005);Schueler-Furman et al., Science 310:638 (2005))。さらに、関連するポリペプチドにおけるアミノ酸配列多様性に関する進化的保存または許容度は、活性を低減、維持、または増強するように変化させる可能性があるアミノ酸残基に対する洞察を提供する可能性がある。本明細書に記述の脱シアリル化TSHRアゴニストにおいて望ましくない可能性があるアミノ酸置換には、Leitolfら(J. Biol. Chem. 275:27457-65 (2000);(同様に、たとえば米国特許出願第2004/0266665号を参照されたい))によって記述された、甲状腺細胞における内因性の活性、たとえばシグナル伝達活性を増加させるが、アゴニストの血清半減期を増加させるおよび/またはMCRを減少させる、TSHにおける特定の残基の置換のような、アゴニストのアミノ酸の置換が含まれる。したがって、特定の態様において、米国特許出願第2004/0266665号およびLeitolf et al.、前記において記述される1つまたは複数の特異的アミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含むTSH変種は除外される。
【0048】
TSHRアゴニストまたは断片をコードするDNAの改変は、DNAの部位特異的または部位指向性の変異誘発が含まれる、多様な方法によって行ってもよく、方法には、PCRのオーバーラップ伸長によるスプライシング(SOE)のような、DNA鋳型における変化を導入および増幅するためのプライマーを用いるDNA増幅が含まれる。本来の配列の断片とのライゲーションを可能にする制限部位が隣接する、変異体配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって、特定の位置で変異を導入してもよい。ライゲーションの後、得られた再構築配列は、所望のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有する変種(または誘導体)をコードする。
【0049】
部位指向性の変異誘発は典型的に、周知であり市販されているM13ファージベクターのような一本鎖および二本鎖型を有するファージベクターを用いて行われる(たとえば、Veira et al., Meth. Enzymol. 15:3 (1987);Kunkel et al., Meth. Enzymol. 154:367 (1987)ならびにU.S. Patent Nos. 4,518,584および4,737,462を参照されたい)。オリゴヌクレオチド指定部位特異的(またはセグメント特異的)変異誘発技法を用いて、所望の置換、欠失、または挿入に従って変化した特定のコドンを有する変化したポリヌクレオチドを提供してもよい。タンパク質の欠失または切断誘導体も同様に、望ましい欠失に隣接する簡便な制限エンドヌクレアーゼ部位を用いて構築してもよい。先に述べた変更を作製する例示的な方法は、Sambrook et al.(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY 2001)によって開示されている。または、アラニンスキャニング変異誘発、変異性(error prone)ポリメラーゼ連鎖反応変異誘発、およびオリゴヌクレオチド指定変異誘発のようなランダム変異誘発技術を用いて、TSHRアゴニスト変種および断片変種を調製してもよい(たとえば、Sambrook et al.、前記を参照されたい)。
【0050】
ポリペプチド変種の三次元構造の上記のコンピューター予測(Bradley et al.、前記;Schueler- Furman et al.、前記)のほかに、変種が非変種ポリペプチドまたは断片と同等のコンフォメーションに折りたたまれるか否かを査定するための確認アッセイには、たとえば変種タンパク質が、天然または非折り畳みエピトープに対して特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体と反応できるか否かを試験すること、リガンド結合機能の変種タンパク質による保持を査定すること、およびプロテアーゼによる消化に対する変異体(すなわち、変種)タンパク質の感受性または抵抗性(Sambrook et al.、前記を参照されたい)を決定することが含まれ得る。本明細書において記述される実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト変種は、当業者によって日常的に実践される、本明細書に記述されるこれらの方法、または当技術分野において公知の他の方法(たとえば、脂肪分解cAMPの誘導のためのアッセイのような機能的アッセイ)に従って、同定、特徴付け、および/または作製することができる。
【0051】
アゴニストの組み換え型発現の目的のために、TSHRアゴニストポリペプチドをコードする核酸分子において作製または同定される変異は、好ましくはコード配列の読み取り枠を保存する。例として、ポリヌクレオチド変種には、ヌクレオチド配列、ヒトTSHαサブユニットをコードするSEQ ID NO:13、またはヒトTSHβ-サブユニットをコードするSEQ ID NO:14をそれぞれ含むポリヌクレオチドの変種が含まれてもよい。もう1つの例として、ポリヌクレオチド変種には、ヌクレオチド配列、ヒトCGH GPHA2サブユニットをコードするSEQ ID NO:15、またはヒトCGH GPHB5サブユニットをコードするSEQ ID NO:16をそれぞれ含むポリヌクレオチドの変種が含まれてもよい。さらに、変異は、好ましくは、転写された場合に、mRNAの翻訳に有害な影響を及ぼすであろうループまたはヘアピンのような二次mRNA構造を産生するようにハイブリダイズし得る相補的領域を生成しない。変異部位は予め決定されてもよいが、変異の性質それ自体は予め決定される必要はない。たとえば、所定の部位で変異の最適な特徴を選択するために、標的コドンでランダム変異誘発を行って、発現された変異体を生物活性の獲得、喪失、または保持に関してスクリーニングしてもよい。
【0052】
縮重変種であり得るか、またはポリペプチド変種をコードするポリヌクレオチド変種を含み得るポリヌクレオチド変種はまた、ハイブリダイゼーション法によって同定されてもよい。適した中等度にストリンジェントな条件には、たとえば5×SSC、0.5% SDS、1.0 mM EDTA(pH 8.0)の溶液中での予洗;50℃〜70℃、5×SSCで1〜16時間ハイブリダイズ;その後22〜65℃で、0.05〜0.1%SDSを含有する1つまたは複数の2×、0.5×、および0.2×SSCによる1または2回の20〜40分間の洗浄が含まれる。さらなるストリンジェンシーのために、条件に、0.1×SSCおよび0.1% SDSで50〜60℃で15分間の洗浄が含まれてもよい。当業者によって理解されるように、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーの変更は、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄段階に用いられる時間、温度、および/または溶液の濃度を変化させることによって得られる。適した条件はまた、用いるプローブの特定のヌクレオチド配列(すなわち、たとえばグアニンプラスシトシン(G/C)対アデニンプラスチミジン(A/T)含有量)に部分的に依存する可能性がある。したがって、当業者はプローブの所望の選択性が同定された場合には、過度の実験を行うことなく、適したストリンジェント条件を容易に選択することができることを認識するであろう。
【0053】
実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストグリコフォームの調製
実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、当業者によって実践される生物薬学的方法および技術によって産生され得る。TSHRアゴニストは、販売元から得た後、脱シアリル化してもよい。例えばTSHを、Genzyme Corporation(Thyrogen(登録商標)、Cambridge, MA)のような販売元から得て、酵素的に処理して脱シアリル化TSHを産生してもよい。シアル酸部分の除去は当業者に周知の技術であり、市販のノイラミニダーゼまたはシアリダーゼ試薬(たとえば、Sigma-Aldrich, St. Louis, MOを参照されたい)を用いることを含む、確立された化学および/または酵素的技法を用いて容易に行われる可能性がある(たとえば、Varke et al.、前記;Duk et al.、前記を参照されたい)。これらの試薬はまた、アガロースコンジュゲートとしても容易に入手可能である。Thotakura, N., et al. (1991) Endocrinology 128, 341-348を参照されたい。
【0054】
もう1つの態様において、CGHまたはTSHのようなTSHRアゴニストは、組み換え発現法によって産生されてもよい。TSHRアゴニスト糖タンパク質のそれぞれのα-サブユニットおよびβ-サブユニットをコードする遺伝子を含む組み換え型発現ベクターを、当技術分野において日常的に実践される標準的な分子生物学の方法に従って、培養哺乳動物CHO細胞に挿入した後、細胞または条件細胞培地からTSHRポリペプチドアゴニストを精製してもよい。たとえば国際特許出願公開番号WO 03/006051を参照されたい。次に、本明細書において記述されるように、シアリダーゼ試薬を用いてシアリル化TSHRアゴニストを脱シアリル化して、脂肪TSHRで高い内因性活性を有し、甲状腺中毒症を回避する低い血清半減期を有する実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストポリペプチドグリコフォームを産生する。当業者は、いくつかの哺乳動物細胞宿主、ベクター、および精製法を用いて、精製された実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストを産生できることを容易に認識するであろう(たとえば、米国特許出願第2003/0095983号、第2003/0207403号;一般的にSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY (2001)を参照されたい)。
【0055】
実質的に脱シアリル化されたCGHまたは実質的に脱シアリル化されたTSHのような実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、オリゴ糖側鎖にシアル酸部分の付加を最小限にする条件で哺乳動物細胞培養から産生してもよい(たとえば、Szkudlinkski et al., Endocrinology 133:1490-1593 (1993)を参照されたい)。既定の培養条件で産生されたTSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、シアル酸部分がない、またはシアル酸部分の数が低減されたオリゴ糖側鎖を有しうる。細胞培養において発現され、低減された数のシアル酸残基を有するTSHRアゴニストはさらに、本明細書に記述されるように酵素的に脱シアリル化されてもよい。
【0056】
なおもう1つの例において、実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、オリゴ糖プロセシング経路を欠損する細胞株を用いて哺乳動物細胞培養から産生されてもよい。たとえば、CHO-LEC2細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)は、シアル酸輸送を欠損しており、末端シアル酸を欠く糖タンパク質を分泌する。もう1つの例示的な細胞株は、N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼ-I酵素活性を欠損するCHO変異体細胞を含む。この変異体細胞株は、末端のシアル酸を欠くN-結合型(GlcNAc)2(マンノース)5オリゴ糖を有する糖タンパク質を分泌する。Galway, AB., et al. (1990) Endocrinology 127, 93-100を参照されたい。当業者は、たとえば、シアル酸生合成経路、シアリルトランスフェラーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、糖タンパク質プロセシング、折り畳み、シャペロンタンパク質等が含まれる、オリゴ糖シアリル化に関連する様々な経路において変異および/または欠損を有する任意の1つまたは複数の他の細胞株を用いてシアル酸欠損TSHRアゴニスト(たとえば、実質的に脱シアリル化されたCGHまたは実質的に脱シアリル化されたTSH糖タンパク質)を産生することができるであろうことを認識する。
【0057】
実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、たとえばオリゴ糖鎖をシアル酸残基で終結しない細胞において産生されてもよい。1つの例において、TSHRアゴニストはバキュロウイルス感染発現系を用いて昆虫細胞において産生されてもよい。これらの系において、特に高発現プロモーターによって産生された糖タンパク質は、高マンノース型オリゴ糖鎖と共に分泌される。Grossman, M. et al., (1997) Endocrinology 138, 92-100を参照されたい。もう1つの例において、TSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、当業者に周知の標準的な組み換え法によって酵母細胞において産生されてもよい。酵母細胞、たとえばピチア・パストリス(Picchia pastoris)または出芽酵母(Saccharomyces cerevisiaie)は、シアリル化されていない高マンノース型オリゴ糖鎖を有する糖タンパク質を分泌する。したがって、TSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、シアル酸終結型オリゴ糖を欠損する糖タンパク質(すなわち、本明細書において提供されるように実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト)を産生するために酵母細胞において発現されてもよい。
【0058】
もう1つの態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストグリコフォームは、細菌細胞培養において産生されてもよい。生物製剤を産生するための細菌細胞培養は、当業者に周知の技能である。細菌において産生されたタンパク質は、N-結合型オリゴ糖を含有せず、したがってシアリル化オリゴ糖を有しない。
【0059】
ヒト脂肪組織におけるTSHR
ヒト脂肪組織におけるTSH受容体の存在は、ヒト脂肪においてTSHRが存在しないおよび/または機能的ではないという示唆を含め、しばらくのあいだ議論の主題であった(たとえば、Davies et al., N. Engl. J. Med. 296:759-60 (1977);Grossman et al., 1997、前記を参照されたい)。最近の報告は、齧歯類の脂肪組織におけるTSHRの発現を報告した(たとえば、Endo, et al. (1995) J Biol Chem 270, 10833-10837を参照されたい)。齧歯類において、TSHまたはCGHによる脂肪組織におけるTSHR活性化によって、脂質生成遺伝子の発現の増加およびアジポネクチンのような脂肪特異的サイトカインの合成がもたらされる。このように、TSHまたはCGHによる脂肪分解の急性の刺激に加え、脂肪組織の代謝状態は明らかに変化する。しかし、当技術分野において現在用いられている、シアリル化されかつ硫酸化されたオリゴ糖を有するTSHRポリペプチドアゴニスト(本明細書において記述される実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト以外のアゴニストである)は、より低い内因性の脂肪分解活性を示す。したがって、そのようなシアリル化および/または硫酸化TSHRアゴニストの治療用量は、代謝症候群の処置のために治療的に有効なレベルで存在するためには、望ましくない副作用としてヒトにおいて慢性的な甲状腺機能亢進状態を生じる量で投与されなければならない。
【0060】
本明細書において提示される様々な態様とは顕著に対照的に、本開示の前までは、代謝症候群の状況において、ヒト脂肪組織において発現されるTSHRに好ましいリガンドグリコフォームは、グリコシル側鎖上の酸性末端基を欠くべきであるとは認識されていなかった。本明細書において記述されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(およびその調製物)のような非イオン性TSHRアゴニストグリコフォームは、脂肪分解を刺激するために有効な脂肪組織TSHRで高い内因性の活性を提供する可能性があり、このようにそのようなグリコフォームは代謝症候群および/または肥満、ならびに他の代謝疾患および障害を処置するために意外にも有用であると考えられる。したがって、実質的に脱シアリル化されたTSHまたは実質的に脱シアリル化されたCGHのような実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストへの急性の曝露は、代謝症候群ならびに他の代謝疾患および障害を処置するために十分である可能性がある。驚くべきことに、そのような脱シアリル化糖タンパク質の循環中からの急速なインビボクリアランスを考慮すると、脂肪組織TSHRでの実質的に脱シアリル化されたTSHRグリコフォームの高い内因性活性は、甲状腺中毒症のような過剰な甲状腺刺激の臨床的に有害な副作用がそれによって有益に回避されるように、甲状腺を過剰刺激しない期間および量で投与しながらも、脂肪分解を強力に刺激することができる。
【0061】
脱シアリル化THSRアゴニストと脂肪細胞および組織とのあいだの相互作用を記述する本明細書において提供された開示以前は、TSHグリコフォーム(すなわち、シアリル化、無シアリル化、硫酸化TSH、およびその混合物)のインビボ効力は通常、甲状腺ホルモンの循環中への放出または甲状腺機能の他の測定値によって決定された。理論に拘束されたくはないが、先行技術のTSHのインビトロおよびインビボ活性の直接的相関の欠如は、(i)別個のオリゴ糖イソ型と甲状腺TSHRとのインビトロ相互作用の単なる特徴付け、および(ii)糖タンパク質の循環半減期を決定する炭水化物依存的クリアランス機構のそのようなイソ型によるインビボでの差示的動員の差に関連する。非限定的な理論にさらに従って、TSHのシアリル化型は、非シアリル化グリコフォームより4〜20倍低い内因性の活性(すなわちインビトロ活性)を有するが、そのようなシアリル化型は、より低い血清クリアランス速度のために、有意に高いインビボ甲状腺機能の効力を有する。
【0062】
簡単な背景により、長い血清半減期により持続的な生物学的利用能を有するTSHを投与することによって甲状腺機能を有益に変化させる状況において、TSHRグリコシル化イソ型は、これまで血清半減期の差または代謝クリアランス率(MCR)に関して研究されてきた。研究により、末端のシアル酸を有するTSHのオリゴ糖イソ型は、有意に減少したMCRを示すことが判明した(たとえば、Szkudlinski et al., Endocrinology 133:1490-1053 (1993)を参照されたい)。アシアログリコフォーム(asTSH)を産生するために酵素的方法によってシアリル化イソ型からシアル酸部分を除去すると、MCRの顕著な増加が起こる(たとえば、Szkudlinski et al.、前記を参照されたい)。無シアリル化TSHは、シアリル化TSHより10〜100倍速く血清から消失した。他の研究は、糖タンパク質の硫酸化型が完全なシアリル化イソ型より短いが、脱シアリル化グリコフォームより長い血清半減期を有することを示した。Baenziger, J. et al. (1992) PNAS 89, 334-338を参照されたい。脱シアリル化型TSHグリコフォームの急速なクリアランスおよび短い半減期は、甲状腺機能を変化させるための治療的有用性を提供すると見なされなかった。対照的に、本開示の組成物ならびに代謝症候群ならびに関係するおよび/または関連する代謝疾患および障害を処置する方法によると、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストのより短い血清半減期およびより急速なクリアランスは、完全に予想外の治療的長所を提供する。
【0063】
このように、本開示に従って、甲状腺の持続的な過剰刺激を引き起こすことなく、急速で強力な脂肪分解反応が産生される。任意の特定の理論に拘束されたくはないが、したがって、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(たとえば、実質的に脱シアリル化されたTSHまたは実質的に脱シアリル化されたCGH)の脂肪分解用量の投与(注射によるなど)(すなわち、外因性のTSHRアゴニストの急性の曝露)により、TSHのような内因性の甲状腺ホルモンの放出が抑制されることから、被験体は、有害な甲状腺機能亢進状態(たとえば、甲状腺中毒症に至る)を少なくとも部分的に回避する可能性がある。
【0064】
代謝症候群ならびに他の代謝疾患および障害を処置する方法
本明細書において、被験体における代謝症候群を処置するための方法が提供される。そのような処置を必要とする被験体は、代謝症候群または関係する代謝疾患もしくは障害の症状を発症したか、あるいは代謝症候群または関係する代謝疾患もしくは障害を発症するリスクを有する、ヒトであってもよく、または非ヒト霊長類もしくは他の動物(すなわち、獣医学での使用)であってもよい。非ヒト霊長類および他の動物の例には、農場動物、ペット、および動物園の動物(たとえば、ウマ、ウシ、スイギュウ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ネコ、イヌ、チンパンジー、ヒヒ、オランウータン、ゴリラ、サル、ゾウ、クマ、大きいネコ科の動物等)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0065】
薬学的に許容される担体と、本明細書において記述される実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストとを含む組成物を、被験体において甲状腺中毒症を誘発することなく、1つまたは複数の脂肪細胞における脂肪分解を誘発するために十分な条件下および時間で、被験体に投与する。特定の態様において、組成物は、甲状腺中毒症(本明細書において記述され、当技術分野において公知のように、たとえばT4:T3比によって容易に検出することができる)を誘発または刺激するレベルでの甲状腺への曝露を回避する時間枠で循環中から消失されつつ、脂肪細胞における脂肪分解の誘発(本明細書において記述され、当技術分野において公知のように、たとえば循環中へのFFA放出によって容易に検出することができる)を可能にする、適当な薬物動態プロフィール(たとえば、血清半減期、MCR)を提供するために十分下な条件下および時間でである様式で、有効量で投与される。実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを、急性の脂肪分解刺激を提供するために投与した後、糖タンパク質ホルモンにとって適当な範囲内のベースラインレベルへのTSHRアゴニストの急速な回復が起こる。このように、本明細書に記述の方法は、甲状腺機能亢進状態に関係する有害な医学的続発症を有することなく、体重減量を促進および/または代謝症候群を処置する。
【0066】
本明細書において用いられる甲状腺中毒症は、甲状腺ホルモンチロキシン(T4)とトリヨードチロニン(T3)の過剰レベルによって示される慢性の甲状腺機能亢進状態を指す。正常なヒト血清におけるT3に対するT4の比率は、典型的に100:1である。正常なヒトにおける総甲状腺ホルモンレベルは5〜11μg/dl血清の範囲内である;この範囲は甲状腺機能正常状態であると定義される。より高レベルの甲状腺ホルモン(甲状腺中毒症)によって、甲状腺機能亢進状態が起こり、血清中のより低レベルの甲状腺ホルモンは甲状腺機能低下状態として定義される。本明細書において用いられるように、甲状腺中毒症または甲状腺機能亢進状態は、正常範囲より上の甲状腺ホルモンレベルの持続的な存在として定義される。甲状腺毒性(たとえば、甲状腺中毒症)は、T4のレベルを決定するために、またはT4とT3の双方のレベルを決定するために、当技術分野において公知の方法によってモニターおよび決定することができる。
【0067】
臨床的に明確な甲状腺中毒症は、頻脈および血圧の上昇が含まれる1つまたは複数の心血管症状を特徴とする。したがって、処置された被験体はまた、本明細書において詳しく記述されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを含む本発明において開示される組成物の投与前および後に、当業者によって生理的効果に関してモニターされてもよい。たとえば、甲状腺毒性は異常な心拍動および心拍数、異常に高い代謝率、血圧の増加、高体温、高熱不耐性、被刺激性、および指の振せんの1つまたは複数によって示される可能性がある。
【0068】
代謝症候群(症候群Xとも呼ばれる)は、典型的に肥満が含まれる1つまたは複数の代謝障害または異常に関連する。代謝症候群は、一群の代謝障害(代謝異常)、ならびに高血圧症、2型糖尿病、高脂血症、異脂肪血症(高トリグリセリド(高トリグリセリド血症)、および高コレステロール低密度リポタンパク質(高コレステロール血症))、インスリン抵抗性、肝臓脂肪症(脂肪性肝炎)、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、および他の代謝障害の1つまたは複数が含まれてもよい医学的続発症と共に現れる可能性がある。本明細書において用いられるように、代謝症候群に罹患している被験体は少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれより多い代謝障害を示す可能性がある。特定の態様において、本明細書に記述の組成物および方法を用いて代謝症候群に関して処置される被験体は、肥満であってもよく、または2型真性糖尿病であってもよく;他の態様において被験体は(i)肥満であって、かつ(ii)2型真性糖尿病を有してもよい。
【0069】
本明細書において用いられるように、「肥満」および「肥満関連」という用語は、その決定が臨床技術分野において訓練された当業者によってなされる、その身長および体格にとっての理想より無視しがたく大きい体重を有する被験体の状態を指すために用いられる。肥満指数(BMI)は過剰な体重を決定するために用いられる測定ツールであり、被験体の身長および体重から計算される。ヒトは、BMI 25〜29を有する場合、過剰体重であると見なされる;ヒトは、BMI 30〜39を有する場合、肥満であると見なされる;およびヒトはBMI≧40を有する場合重度の肥満であると見なされる。したがって、肥満および肥満関連という用語は、肥満指数の値が30より大きい、35より大きい、または40より大きいヒト被験体を指す。
【0070】
脂肪症は、肝臓における脂肪沈着物の蓄積である。いかなる病因の脂肪症も、線維症の発生に関連し得、これは脂肪性肝炎および/または肝硬変とも呼ばれる。疫学的証拠は、肥満が硬変のリスクを増加させることを示唆している。たとえば、一連の剖検において、肥満は硬変被験体の12%において疾患の唯一の危険因子であると同定された。Yang, S.Q. et al. (1997) Proc Natl Acad Sci U S A 94, 2557-2562を参照されたい。顕著に、硬変は一般集団より肥満個体において約6倍発生率が高い。米国において、一般集団における高い割合の体重過剰は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が最も一般的な肝疾患であるという事実を部分的に説明する。2型糖尿病は、これらの被験体の33%に存在する。肥満の程度は脂肪肝(脂肪症)の発生および重症度と正に相関して、次にこれは脂肪性肝炎に相関する。脂肪性肝炎の発病に関する現在の説明は「2-ヒット」仮説である。Day, C.P, and James, O., Gastroenterology 114, 842-845を参照されたい。第一の「ヒット」は、肝細胞における脂肪の沈着であり、これによって肝臓の脂肪変性または脂肪症に至る。この脂肪変性は、第二の「ヒット」に対する臓器の感受性を増加させ、これは糖尿病、薬物代謝による脂質過酸化、または過剰なアルコール摂取が含まれる多様な傷害の任意の1つとなりうる。特定の態様において、実質的に脱シアリル化されている(または糖タンパク質の調製物である)少なくとも1つのTSHRアゴニストの投与は、肝臓に貯蔵されたトリグリセリドの蓄積を逆行させる。被験体は、肝臓脂肪症の改善を提供するために、および/または脂肪性肝炎による損傷を低減するために、3、6、12週間またはそれより長く処置されてもよい。当業者は、肝臓の状態の改善を査定およびモニターするために超音波造影および/または循環中の肝酵素レベルの決定のような方法を用いてもよい。
【0071】
2型真性糖尿病(2型DM)は、代謝症候群の一般的な特色である。2型DMは典型的に、30歳より上の患者において診断されるが、小児および青年期にも起こる糖尿病のタイプを指す。臨床的に2型DMは、高血糖症とインスリン抵抗性とを特徴とする。2型DMは、一般的に、特に上体(内臓/腹部)の肥満に関連し、しばしば体重増加後に起こる。2型DMは、高血糖症が、グルコースに対するインスリン分泌反応障害、ならびに骨格筋によるグルコース取り込みの刺激および肝グルコース産生の制限(インスリン抵抗性)に対するインスリン有効性の減少の双方が原因で起こる不均一な障害群である。結果としての高血糖症は、肥満、高血圧症、高脂血症、および冠動脈疾患のような他の一般的状態をもたらす可能性がある。
【0072】
代謝症候群を処置するために、および2型DMのような代謝症候群に関係または関連する代謝障害を処置するために本明細書において記述された方法は、好ましくは血中グルコースおよびインスリンレベルを低減させて(たとえば、統計学的または生物学的に有意な減少)、インスリン感受性を増加させる(たとえば、インスリン抵抗性を減少させる)可能性がある。本明細書において記述されるように、処置には、血中グルコースおよび/またはインスリンのレベルの増加の予防または阻害、すなわちグルコースおよびインスリン血中レベルを正常範囲に維持することが含まれてもよい。そのような処置から恩恵が得られる被験体には、中心肥満(腰周囲の過剰な脂肪)を有する被験体が含まれる。特定の態様において、代謝症候群および/または2型DMを有する患者の処置には、たとえばトルブタミドおよびクロロプロパミドのような他の抗糖尿病化合物または薬物、および糖尿病を処置するために現在利用可能な他の薬物の投与が含まれてもよい。
【0073】
このように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(これには本明細書において記述されるTSHRアゴニスト糖タンパク質調製物が含まれる)を投与する段階を含む本明細書に記述の方法は、(i)脂肪分解を促進してそれによって体重減量を促進する;および/または(ii)肝臓脂肪症を低減させる(たとえば減少または阻害する);および/または(iii)インスリン抵抗性を増加させる可能性がある。本明細書に記述の方法はまた、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを被験体に投与する段階を含む、被験体における2型糖尿病または前糖尿病段階を処置するために有用である。さらに、本明細書に記述の実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸を維持しながら(すなわち破壊することなく)被験体におけるインスリン感受性を改善するために用いてもよい。もう1つの態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、脂肪症または脂肪性肝炎の逆行を促進または誘発するために、本明細書に記述の方法に従って投与されてもよい。
【0074】
本明細書に記述の方法はまた、肥満の処置にとって有用である可能性がある。本明細書において記述されるように、脂肪組織において脂肪分解を刺激できることは、肥満に関連する多数の病態への介入手段を提供する。特に、本明細書に記述の実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、インビボで投与した場合、甲状腺の慢性的な過剰刺激を行うことなく脂肪分解を強力に刺激する可能性がある。その結果として、代謝率は増加し、それによって体重減少、インスリン抵抗性の増加、および血清高脂血症の減少が起こるかまたはそれらがもたらされる可能性がある。この代謝の増加は、HPT軸の活性化とは無関係である。ある特定の態様において、本明細書に記述される、実質的に脱シアリル化された組成物によって処置される被験体は甲状腺機能低下ではない。
【0075】
脂肪分解を促進、誘発、刺激、または維持するために用いる場合、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、体重減量を促進または開始することができる。このように、本明細書に記述の方法は、甲状腺を過剰刺激することなく、肥満、肥満もしくは異脂肪血症に関連するアテローム性動脈硬化症、糖尿病、肥満もしくは糖尿病に関連する高血圧症、脂肪症もしくは脂肪性肝炎、またはより一般的に肥満に関連する様々な病態を含む、代謝障害および状態を処置するために有用である。肥満を処置するために、または体重減量を促進もしくは維持するために、被験体は、体重減量を誘発する他の作用物質、薬剤、または薬物によって処置されてもよい。
【0076】
本明細書に記述の組成物および方法はまた、非インスリン依存性糖尿病、特に肥満に関連する糖尿病を処置するために有用である。1つの態様において、非インスリン依存性糖尿病を処置するために実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを用いることは、非肥満個体において用いることが企図される。実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを投与する段階を含む方法はまた、高コレステロール血症または高トリグリセリド血症を含む異脂肪血症を処置するために用いてもよい。
【0077】
被験体における代謝活性を変化させる(統計学的に有意にまたは生物学的に有意な方法で増加または減少させる)方法も同様に本明細書において提供される。そのような方法は、薬学的に許容される担体と、実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストとが含まれる組成物を被験体に投与する段階を含む。組成物の投与は、甲状腺中毒症を誘発することなく、被験体における少なくとも1つの代謝活性を変化させるために十分な条件下および時間で行われる。特定の態様において、代謝活性を変化させることは、被験体における血糖レベルを減少させる(または低下もしくは低減させる)ことを含んでもよい。本明細書において記述されるように、2型DMを有する被験体は、インスリンの有効性の減少および/またはインスリンの産生の減少により高血糖症(高血糖)を示す。被験体の血液(または血清)中のグルコースレベルは、一般的に処方されるおよび/または市販のグルコースモニタリングキットのいずれか1つを用いて被験体によって、または当技術分野において入手可能な標準的な方法を用いて検査室において当業者によって容易に測定されうる。実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(脱シアリル化TSHまたは脱シアリル化CGH、または本明細書において詳しく記述される糖タンパク質調製物のような)を含む組成物を、それを必要とする被験体に投与することによって、インスリン感受性は改善されるかまたは増加する可能性があり、および/またはインスリン抵抗性が減少する(または低減、減損、もしくは阻害される)可能性がある。インスリン感作効果は抗肥満効果より容易に検出可能となる可能性がある。脂肪酸化の刺激はインスリンシグナル伝達を調節する代謝物の細胞内濃度を急速に低下させる可能性がある。対照的に、抗肥満効果は大量の貯蔵脂肪が酸化されるにつれて徐々に明らかとなる可能性がある。
【0078】
もう1つの態様において、変化される代謝活性は、被験体における血清トリグリセリドレベルである。特定の態様において、被験体における血清トリグリセリドレベルは低下または減少する(または低減される)。他の態様において、本明細書に記述の組成物は、被験体におけるトリグリセリドレベルの上昇または増加を防止するために投与される。そのような被験体は、たとえば代謝症候群を有する、または代謝症候群に関連する代謝障害の1つもしくは複数を有する被験体のような、心疾患を発症するリスクを有してもよい。上昇したトリグリセリドレベル(典型的に血液または血清中で測定される)は、臨床の当業者によって標準的な臨床の実践に従って決定される正常範囲より上であるレベルを指す。
【0079】
なおもう1つの態様において、変化される代謝活性は代謝率である。特定の態様において、脱シアリル化TSHRアゴニストを投与する段階を含む本明細書において記述される方法は、被験体における代謝率(特に、安静代謝率(RMR))を増加させ、このように被験体におけるエネルギー支出(または利用)を増加させる。エネルギー支出はエネルギーバランス等式の1つの項である。安定な体重を維持するために、エネルギー支出はエネルギー摂取と平衡でなければならない。毎日消費されるエネルギーの多くはRMRに由来し、これは1日の総エネルギー支出の50〜80%を含む。脂質代謝およびエネルギー支出をモニターする方法には、近-IR分光法による限局的皮下脂質組成(脂質代謝の指標)の熱量測定(直接(総熱産生量の測定)または間接(たとえば、酸素消費))検査および赤外線造影(すなわち表面体温を測定する)による表面エネルギー支出が含まれるがこれらに限定されるわけではない(たとえば、Buice et al., Cell. Mol. Biol. (Noisy-le-grand) 44:53-64 (1998);Mansell et al., Am. J. Physiol. 258 R1347-R1354 (1990)を参照されたい)。
【0080】
本明細書において記述されるように、慢性甲状腺機能亢進状態を誘発することなく、ヒトにおいて脂肪分解を誘発または産生するおよび代謝率を増加させるための方法が提供される。予想外にも、脂肪組織遺伝子発現の変化は、脂肪細胞に存在するTSHRを活性化させる実質的に脱シアリル化されたTSHRポリペプチドアゴニストによる脂肪分解刺激の後に起こり、したがって、脂肪組織の内分泌状態を変化させる。ペルオキシソーム増殖因子-活性化因子受容体γ(PPARγ)およびグルコース輸送体4(GLUT4)のような脂質生成の調節物質の発現の増加、ならびに変化した脂肪サイトカイン(アジポカイン(adipokine))発現は、脂肪分解刺激後に観察される。アジポカインのアジポネクチンの発現の増加は、肥満およびグルコース寛容減損のような代謝症候群の局面における改善に関連する。これらの作用は肝臓および筋肉へのアジポネクチン作用を通して起こる(たとえば、 Guan et al., Nat Med. 8:1122-28 (2002)を参照されたい)。アジポネクチン、および/または他の分泌型脂肪遺伝子、および/またはレプチンおよびレシスチンが含まれるアジポカインと呼ばれる遺伝子産物、ならびにサイトカインTNF-αおよびIL-6の発現レベルの決定は、本明細書において記述される脱シアリル化TSHRアゴニストによって処置した被験体における脂肪分解を特徴付けしてモニターするために有用となる可能性がある。他の遺伝子および遺伝子産物、たとえば脂質生成の調節物質である転写因子ステロール調節要素結合タンパク質(SREPB)、脂肪酸結合タンパク質-1(FABP-1)、脂肪酸シンターゼ(FASN)、サイトカインシグナル伝達抑制物質(SOCS)、およびインスリン受容体の発現レベルをまた決定してもよい。遺伝子発現(たとえば溶液ハイブリダイゼーション法(たとえばBADGE(beads array for the detection of gene expression))および遺伝子産物発現を決定するための方法は、当業者に公知であり日常的に実践される。
【0081】
治療的に誘発される脂肪分解のためにこれまでに実践された戦略は、一般的なβ-ARアゴニストを用いるように特異性を欠くか、または今日まで開発された最も特異的なβ3-ARアゴニストによって処置した場合に観察されるように、有効性を欠いた。β3-AR特異的アゴニストの開発が強調されているにもかかわらず、最近のヒト試験は、交感神経によって誘発された熱発生およびエネルギー支出の一次媒介物質としてのβ1-およびβ2-アドレナリン作動受容体に関わっている。ヒトの肥満集団における特定の試験は、これらの個体において観察された安静代謝率の減少が脂肪組織におけるβ2-アドレナリン作動受容体の機能障害の結果であることを示唆しているが(たとえば、Schiffelers, S. L., et al. (2001) J Clin Endocrinol Metab 86, 2191-2199;およびBlaak, E. E., et al. (1993) Am J Physiol 264, E11-17を参照されたい)、他の試験は、血漿FFAレベルの増加が、やせているおよび肥満のヒト被験体における脂質酸化およびエネルギー支出の増加に至ることから、肥満被験体における脂肪の蓄積は脂質利用の欠損よりむしろ脂肪組織脂肪分解の欠損による可能性があると結論している(たとえば、Schiffelers, S. L., et al. (2001) Int J Obes Relat Metab Disord 25, 33-38を参照されたい)。
【0082】
本明細書において記述されるように、脂肪分解はトリグリセリドの形で貯蔵された脂肪が個々の遊離の脂肪酸(FFA)として脂肪細胞から循環中に放出される生化学的プロセスである。脂肪分解は、生化学および臨床技術分野において周知であり日常的に実践される方法に従って、生物学的試料におけるグリセロールおよび/または遊離の脂肪酸(FFA)レベルを決定することによって分析および特徴付けされてもよい(たとえば、米国特許出願第2004/0176294号を参照されたい;同様にたとえばWako NEFA Cキット(Wako Chemicals GmbH, Neuss, Germany);Jebens et al., Scand. J. Clin. Lab. Invest. 52:717 (1992);Richieri et al., Mol. Cell. Biochem. 192:87-94(1999)およびその中で引用されている参考文献を参照されたい)。たとえば、グリセロールおよび/またはFFAレベルは、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニスト(またはその糖タンパク質調製物)が投与されている被験体から得た血清において決定されてもよい。
【0083】
1つの態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、0.5、1、5、または10 nM(または上記の濃度内での任意の濃度)のEC50で脂肪分解を刺激する。特定の他の態様において、脱シアリル化TSHRアゴニストは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.4 nM、または15、20、25、もしくは50 nM(または上記の濃度内での任意の濃度)のEC50で脂肪分解を刺激する。外因性の実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの用量範囲5〜50μg/kgでの被験体への投与は、脂肪組織TSHRに対して十分な曝露を生じ、脂肪分解を急性に刺激する(実施例2を参照されたい)。
【0084】
生物試料には、血液、血清、血漿、脂肪組織が含まれるがこれらに限定されるわけではない。生物試料は血液試料(そこから血清または血漿を調製してもよい)、生検標本(腹部内または皮下脂肪組織のような)、体液(たとえば、肺洗浄液、腹水、粘膜洗浄液、滑液)、組織外植体、臓器培養、骨髄、リンパ節、または被験体もしくは生物源の他の任意の組織もしくは細胞調製物であってもよい。試料はさらに、形態学的完全性または物理的状態が、たとえば解剖、分離、可溶化、分画化、ホモジナイゼーション、生化学もしくは化学的抽出、粉砕、凍結乾燥、超音波、または被験体もしくは生物源に由来する試料を処理するための任意の他の手段によって破壊されている組織または細胞調製物を指す。被験体または生物源は、ヒトまたは非ヒト動物、一次細胞培養物、または染色体に組み入れられたもしくはエピソーム組み換え型核酸配列を含有してもよい遺伝子操作細胞株、不死化もしくは不死化可能な細胞株、体細胞ハイブリッド細胞株、分化もしくは分化可能な細胞株、形質転換細胞株等が含まれるがこれらに限定されるわけではない、培養適合細胞株であってもよい。
【0085】
薬学的組成物および薬学的組成物の投与
本明細書において、本明細書において記述される少なくとも1つの実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを含む薬学的組成物が提供される。特定の態様において、薬学的組成物は実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む少なくとも1つのTSHRアゴニストを含む。たとえば、薬学的組成物は、実質的に脱シアリル化されているTSHを含んでもよく、実質的に脱シアリル化されているCGHを含んでもよく、またはそのそれぞれが実質的に脱シアリル化されているTSHとCGHの組み合わせもしくは混合物を含んでもよい。特定の他の態様において、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストは、そのそれぞれが少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有し、TSHRアゴニストが少なくとも85%、90%、95%または少なくとも98%脱シアリル化されている、または無シアリル化されている(85%〜100%のあいだの任意の割合)糖タンパク質調製物である(たとえば、TSH、CGH、またはその双方)、1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含む。
【0086】
本明細書において記述されるように、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを被験体に投与すると、被験体において強力な脂肪分解反応を誘発するが、被験体における脱シアリル化TSHRアゴニストレベル(たとえば、血清中のアゴニストレベルによって測定した場合)は、甲状腺が過剰に刺激されないように、特にアゴニストの高いMCRにより経時的に低減される。代謝症候群または関連もしくは関係する代謝疾患もしくは障害を処置もしくは予防するために有効な用量、または本明細書に記述の代謝活性を変化させるために有効な用量は、血液または血清のような生物試料における濃度によって決定した場合に、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの被験体への投与後4時間以内、6時間以内、または8時間以内に生理的正常レベルまでまたはそのようなレベルより下まで被験体から消失してもよい。被験体の血清におけるTSHRアゴニストの正常な生理的レベルは、約0.16〜1.2 ng/mlであるか、または0.1〜2.0 ng/mlの範囲内であってもよい。
【0087】
本明細書において詳しく記述されるように、糖タンパク質調製物を含む少なくとも1つの実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストを含む組成物の用量は、約0.001 mg〜約1 mg/kg体重/日の範囲であるか、または約0.01μg〜約1 μg、または約1 mg〜約10 mg/kg体重/日の範囲(これらの用量のあいだの任意の整数または整数の分数が含まれる)であってもよい。例示的な用量には、5、10、20、25、30、40、50、または75μg/kg/日が含まれる。しかし、用量は当業者の医師によって決定されうるように、これより高くても低くてもよい。組成物の用量は、患者(たとえば、ヒト)の状態、すなわち疾患のステージ、全身健康状態、年齢、および医学の当業者が用量を決定するために用いるであろう他の要因に応じて異なってもよい。当業者は、たとえば、被験体が絶食時に循環中のFFAおよびインスリンの急激な増加を有するか否かを決定することによって、好ましい担体または賦形剤における本明細書に記述のTSHRアゴニストの有効量または治療用量を決定および見積もることができる。さらに、有効な治療用量は、正常範囲より上への甲状腺ホルモンレベルの慢性的な上昇を最小限にする、阻害する、または防止する。用量のタイトレーションは、治療用量範囲内で治療レベルを得るために必要であるかも知れない。薬物製剤および用量範囲に関する完全な考察に関しては、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th Ed., (Mack Publishing Co., Easton, Penn., 1990)、およびGoodman and Gilman's: The Pharmacological Basis of Therapeutics, 9th Ed. (Pergamon Press 1996)を参照されたい。
【0088】
薬学的組成物は、医学の当業者によって決定されるように、処置される(または予防される)疾患または障害にとって適した様式で投与されてもよい。適当な用量および適した投与期間および投与回数は、患者の状態、患者の疾患のタイプおよび重症度、特定の活性成分の型、ならびに投与方法のような要因によって決定されると考えられる。一般的に、適当な用量および処置計画は、治療的および/または予防的有用性(たとえば、改善された臨床転帰(たとえば、インスリン感受性の増加、体重減量)、またはより長い無病期間および/または全生存、もしくは症状の重症度の軽減)を提供するために十分な量で組成物を提供する。臨床転帰の改善は、たとえば臨床検査の当業者に利用できる従来の方法および技術に従って、血中脂質レベル、グルコースレベル、およびインスリンレベルを査定することによって決定してもよい。循環中の甲状腺ホルモンレベルも同様に、処置された被験体が甲状腺中毒症を有さない、または発症していないことをモニターおよび決定するために、当技術分野において実践される方法に従って決定してもよい。予防的使用のために、用量は、代謝症候群に関連する疾患および/または代謝症候群に関連するもしくは関係する本明細書に記述の他の代謝疾患および障害を予防する、その発症を遅らせる、およびその重症度を減損するために十分でなければならない。最適な用量および用量送達回数は一般的に、実験モデルおよび/または臨床試験を用いて決定されてもよい。本明細書において記述されるように、最適な用量は、ボディマス、体重、または患者の血液量に依存してもよく、1 ng/ml〜10 mg/mlまで変化してもよく、毎日もしくは1日毎、または週に3日、4日、5日、もしくは6日投与してもよい。
【0089】
当業者に公知の任意の適した薬学的賦形剤または担体を、本明細書に記述の薬学的組成物において用いてもよい。治療的使用のための賦形剤は周知であり、たとえばRemingtons Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A.R. Gennaro ed. 1985)において記述されている。一般的に、賦形剤のタイプは投与様式に基づいて選択される。薬学的組成物は、局所、経口、鼻腔内、肺内、腹腔内、鞘内、直腸内、膣内、舌下、または皮下、静脈内、筋肉内、槽内、海綿体内、道内、もしくは尿道内注射もしくは注入を含む非経口投与が含まれる、任意の適当な投与様式のために製剤化されてもよい。非経口投与に関して、担体は好ましくは、水、生理食塩液、アルコール、脂肪、ロウ、または緩衝液を含む。経口投与の場合、上記の任意の賦形剤、またはマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、グルコース、ショ糖、および/または炭酸マグネシウムのような固体賦形剤もしくは担体を用いてもよい。
【0090】
薬学的組成物(たとえば、経口投与または注射による送達のため)は、液体の剤形であってもよい。液体薬学的組成物には、たとえば以下の1つまたは複数が含まれてもよい:注射用水、食塩液、好ましくは生理食塩液、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、溶媒もしくは懸濁媒として機能し得る固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒のような滅菌希釈液;抗菌剤;抗酸化剤;キレート剤、緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような等張性を調節するための作用物質。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは多用量バイアルに封入することができる。
【0091】
以下の実施例は説明のためであって制限するために提供されるのではない。
【0092】
実施例
実施例1
TSHRポリペプチドアゴニストの脱シアリル化
本実施例は、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの調製を記述する。組み換え型ヒトTSH(Thyrogen(登録商標)、rhTSH, Genzyme, Cambridge, MA)を、均一な脱シアリル化TSH(asTSH)を調製するための開始材料として用いる。rhTSH 300μgを、50 mM酢酸ナトリウム、pH 5.5、および1 mM CaCl2において、アガロースビーズ(Calbiochem, San Diego, CA)に共役させたビブリオコレラ(Vibrio cholerae)α2-3,6,8-ノイラミニダーゼ40 mUと共に37℃で2時間インキュベートする。これによって、残りの炭水化物構造またはペプチド骨格を変化させることなく、シアル酸の完全な除去が起こる。反応混合物を遠心して、酵素共役アガロースを沈降させて、上清を60 kDa Centricon membrane(Amicon(登録商標)、Millipore, Billerica, MA)を通して濾過して、いかなる遊離の90 kDaノイラミニダーゼも除去した。10 kDa Amicon濃縮器を用いて遊離のシアル酸を除去して、緩衝液をasTSHを滅菌生理食塩液に交換した。シアル酸は280 nmで吸収しないことから、産物のタンパク質濃度を開始材料と直接比較する。技法を通してタンパク質のポリペプチド骨格が無傷で残っていることを確認するために、標準的な技術に従って産物のSDSゲル電気泳動を行う。
【0093】
実施例2
TSHRポリペプチドアゴニストによる単離ヒト脂肪細胞の処置
本実施例は、実質的に脱シアリル化されたTSHRアゴニストの内因性の活性の定量を記述する。本実施例において、ヒト脂肪組織においてasTSHの内因性の活性を、rhTSHと比較する。培養ヒト脂肪細胞をアゴニストによって処置して、試験材料の脂肪分解活性を、遊離の脂肪酸(FFA)の条件培地への放出によって決定する。脂肪分解活性はこれらの実験における内因性活性の好ましい測定である。
【0094】
ヒト脂肪細胞は、予定手術を受けた女性患者から採取した皮下脂肪組織のコラゲナーゼ消化後の前脂肪細胞の単離に由来する。前脂肪細胞は、業者(Zen-Bio, Research Triangle Park, NC)が業者のプロトコールに従って成熟脂肪細胞に分化させて、96ウェルアッセイプレートで提供される。受領後、脂肪細胞を製造元によって提供された培地において5〜7日間維持して、分化プロセスを完了させ、貯蔵されたトリグリセリドを蓄積させる。
【0095】
脂肪細胞を0.1〜150 nMの用量範囲のasTSHおよびrhTSH、ならびに陽性対照として用いられる非特異的β-AR受容体アゴニストである1〜1,000 nMのイソプロテレノールによって処置する。脂肪細胞を37℃で4時間処置した後、条件培地をアッセイのために採取する。
【0096】
非エステル化(または遊離の)脂肪酸の定量的決定のために、Wako NEFA Cキット(Wako Chemicals USA, Richmond, VA)を用いて改変プロトコール(米国特許出願第2004/0176294を参照されたい)によって遊離の脂肪酸を測定する。脂肪分解誘発陽性対照であるイソプロテレノール(MP Biomedicals, Irvine, CA)を、アッセイ培地(Life Technologies、低グルコースDMEM、1mMピルビン酸ナトリウム、2 mM L-グルタミン、20 mM HEPES、および0.5%BSA)(Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)において開始濃度2μMに希釈する。イソプロテレノールを、半対数連続希釈でさらに希釈する。TSHRアゴニストを最低濃度として0.06 nMまで連続希釈する。培地を96ウェルプレートにおいてヒト脂肪細胞から採取する。アッセイ培地50 μlを各ウェルに加えた後、TSHRアゴニストまたはイソプロテレノール50μlを各ウェルに加える。プレートを37℃で4時間インキュベートする。条件培地40μlをグリセロールアッセイ分析のために採取して、条件培地40μlを遊離脂肪酸分析のために採取する。
【0097】
オレイン酸(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)をメタノールに溶解して、条件培地における遊離脂肪酸量を決定するための参照物質として用いる。試薬AおよびBを推奨濃度の4倍に溶解する。条件培地試料を96ウェルプレートにおいてアッセイする。Wako試薬A 50μlをオレイン酸標準物質5μl+アッセイ培地40μlに加える。Wako試薬A 50μlを、分化した脂肪細胞からの条件培地40μlおよびメタノール5μlに加える。96ウェルプレートを37℃で10分間インキュベートする。Wako試薬Bを各ウェルに加える。96ウェルプレートを37℃で10分間インキュベートする。次に、96ウェルプレートを室温で5分間放置する。96ウェルプレートをBeckman Coulter Allegra 6R遠心機において3250×gで5分間遠心して気泡を除去する。530 nmでの吸光度をWallac Victor2 Multilabelカウンターにおいて測定する。試験ウェルから放出されたFFAを、オレイン酸標準曲線に適合させることによって決定する。
【0098】
TSHRアゴニストによって産生された脂肪分解刺激の効力をイソプロテレノールと比較することによって決定する。3つの試験物質は全て、最大刺激でFFAのほぼ等量を条件培地に放出して、同等の脂肪分解物質である。TSHRアゴニストの内因性の活性を、それぞれの試験材料に関して生成された標準曲線から決定した脂肪分解のEC50によって決定する。
【0099】
実施例3
非ヒト霊長類におけるTSHRアゴニストグリコフォームの分析
実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストの治療用量を定義するパラメータの決定は、最低体重8 kgのアカゲザルにおける薬物動態試験から得る。内因性の活性を、アゴニストの脂肪分解効力によって決定して、外因性に投与された試験TSHRアゴニストの血清クリアランスを、筋肉内(i.m.)注射後に決定する。血清甲状腺ホルモンレベルの一過性の上昇の程度も同様に決定する。
【0100】
プロトコール
各群5匹の4群を終夜絶食させて、様々なパラメータのベースライン値を確立するために血液3.5 mlを採取する。(1)溶媒;(2)10μg/kg asTSH(実施例1を参照されたい);(3)50μg/kg asTSH;および(4)50μg/kg rhTSH群の動物に、ゼロ時間に筋肉内注射(i.m.)を行う。血液(3.5 ml)を1時間、3時間、6時間、8時間、12時間、および24時間の時点で採取する。脂肪分解活性を測定するために、血清中のグリセロールレベルを実施例1において記述されるように決定する。血清TSHおよび甲状腺ホルモンレベルを、製造元のプロトコール(Biocheck, Foster City, CA)に従って免疫測定法によって決定する。これまでの試験から、アカゲザルTSH(すなわち、内因性のTSH)がヒトTSHに関する免疫測定アッセイによって認識されないことが判明しており、このように全てのTSH測定は外因性に導入されたTSHに関するものである。
【0101】
前述から、本発明の特異的態様を説明目的のために本明細書において記述してきたが、様々な改変を行ってもよく、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれると認識されるであろう。本発明は特許請求の範囲によってさらに説明される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に脱シアリル化されている自己甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む組成物を、被験体において甲状腺中毒症を誘発せずに1つまたは複数の脂肪細胞において脂肪分解を誘発するために十分な条件下および期間で、被験体に投与する段階を含む、被験体における代謝症候群を処置する方法。
【請求項2】
TSHRアゴニストが、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
TSHRアゴニストが、検出可能なシアル酸を欠く糖タンパク質調製物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストが、実質的に脱シアリル化された甲状腺刺激ホルモン(TSH)および実質的に脱シアリル化されたコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
TSHRアゴニストが、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物から選択される糖タンパク質調製物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
代謝症候群が、肥満、2型真性糖尿病、高脂血症、インスリン抵抗性、脂肪性肝炎、高血圧症、異脂肪血症、およびアテローム性動脈硬化症から選択される少なくとも1つの代謝障害を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
被験体が(a)肥満であるか;(b)2型真性糖尿病を有するか;または(c)肥満であってかつ2型真性糖尿病を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
実質的に脱シアリル化されている甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む、代謝障害を処置するための薬学的組成物。
【請求項14】
TSHRアゴニストが、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項16】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項17】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項18】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項19】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項20】
TSHRアゴニストが、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物から選択される糖タンパク質調製物を含む、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項21】
実質的に脱シアリル化されている自己甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む組成物を、被験体において甲状腺中毒症を誘発せずに少なくとも1つの代謝活性を変化させるために十分な条件下および期間で、被験体に投与する段階を含む、被験体における代謝活性を変化させる方法。
【請求項22】
少なくとも1つの代謝活性を変化させることが、被験体の少なくとも1つの細胞において脂肪分解を誘発することを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの代謝活性を変化させることが、被験体における血清トリグリセリドレベルを減少させることを含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの代謝活性を変化させることが、被験体における代謝率を増加させることを含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つの代謝活性を変化させることが、血中グルコースレベルを減少させることを含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの代謝活性を変化させることが、血漿コレステロールレベルを減少させることを含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
TSHRアゴニストが、実質的に脱シアリル化されている少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する少なくとも1つの糖タンパク質を含む、請求項21記載の方法。
【請求項28】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも1つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項21記載の方法。
【請求項29】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも2つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項21記載の方法。
【請求項30】
TSHRアゴニストが、そのそれぞれが少なくとも3つのN-結合型オリゴ糖部分を有する1つまたは複数の糖タンパク質分子を含む糖タンパク質調製物を含み、該TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されている糖タンパク質調製物から選択される、請求項21記載の方法。
【請求項31】
TSHRアゴニストが、検出可能なシアル酸を欠く糖タンパク質調製物を含む、請求項21記載の方法。
【請求項32】
実質的に脱シアリル化されているTSHRアゴニストが、実質的に脱シアリル化された甲状腺刺激ホルモン(TSH)および実質的に脱シアリル化されたコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)から選択される、請求項21記載の方法。
【請求項33】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているTSH糖タンパク質調製物から選択される、甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物を含む、請求項21記載の方法。
【請求項34】
TSHRアゴニストが、少なくとも85%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも90%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、少なくとも95%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物、および少なくとも98%脱シアリル化されているCGH糖タンパク質調製物から選択される、コルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物を含む、請求項21記載の方法。
【請求項35】
TSHRアゴニストが、検出可能なシアル酸を欠く甲状腺刺激ホルモン(TSH)糖タンパク質調製物および検出可能なシアル酸を欠くコルチコトロフ由来糖タンパク質ホルモン(CGH)糖タンパク質調製物からなる群より選択される糖タンパク質調製物を含む、請求項21記載の方法。
【請求項36】
被験体がヒトである、請求項1または請求項21記載の方法。

【公表番号】特表2009−525264(P2009−525264A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547554(P2008−547554)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/048820
【国際公開番号】WO2007/075906
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508186543)
【Fターム(参考)】