説明

代謝競合による汚染非ヒトシアル酸の除去

本開示は、細胞培養物またはヒト被験者におけるNeu5Gcを減少させるか、または除去する方法を提供する。前記方法は、それが初めて細胞に進入する時またはそれが前から存在する細胞分子の破壊から再循環する時に、Neu5Gcと代謝的に競合するのに十分な量の、グリコシド結合形態もしくは遊離形態のヒトシアル酸N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、またはその前駆体N-アセチルマンノサミン(ManNAc)で系を溢れさせることを含む。さらに、Neu5Acの供給は、Neu5Gcを産生することができるいくつかの動物細胞中でもNeu5Gc発現の減少をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記述
米国政府は、国立衛生研究所により授与された認可番号GM032373に準じて本発明における特定の権利を有する。
【0002】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2008年9月9日に出願された米国特許仮出願第61/095,414号から35 U.S.C.§119の下での優先権を主張し、当該開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
技術分野
本出願は、シアル酸化学、代謝、および抗原性の分野にある。より具体的には、本出願は、ヒトにおいて免疫原性の非ヒトシアル酸であるN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、研究室およびヒトでの使用のためのNeu5Gcを含まない哺乳動物産物の製造、ならびにヒト体内からのNeu5Gcの除去に関する。
【背景技術】
【0004】
全ての細胞は高密度かつ複雑な多くの糖鎖で覆われている。シアル酸(Sias)は、典型的には、これらの鎖の最も外側のユニットに存在する9炭糖のファミリーである。その末端位置のため、シアル酸は、インフルエンザウイルスおよびSiglecファミリーの内因性タンパク質などの多くの外因性および内因性受容体の結合部位として働く。かくして、そのような糖類は、感染の予防および治療のための有用な薬剤標的である。それらはまた、神経可塑性および癌転移などの様々な生物学的および病理学的プロセスに関与する。これらの例の多くにおいて、シアル酸の正確な構造およびそれが結合する残基が重要な役割を果たす。
【0005】
シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(CMAH)は、シアル酸N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)をN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に変換する。非ヒト哺乳動物においては、Neu5Gcはいくつかの内因性結合タンパク質ならびに細菌およびウイルスなどの病原性生物により認識される。ヒトは、そのCMAH遺伝子における進化的に不活化している突然変異のため、内因性Neu5Gcを産生することができない。
【0006】
さらに、Neu5Gcはヒトにおいて免疫原性であることが知られている。そのような免疫原性は、化粧品、食品、哺乳動物細胞および細胞生成物などの哺乳動物産物、ならびに非ヒト哺乳動物から誘導されるか、または非ヒト哺乳動物産物に曝露された治療剤と接触する状態になるヒトにおいて観察される免疫応答において役割を果たすと考えられている。RNAiを用いて細胞系を変化させて、CMAH遺伝子の発現を抑制することにより、細胞系における組換え産生されるヒト糖タンパク質のNeu5Gc含量を減少させようとする試みが行われてきた(Chenu S.ら、Biochim. Biophys. Acta., 1622(2):133-144, 2003)。
【発明の概要】
【0007】
非ヒトシアル酸N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)は、それぞれ、培養細胞およびヒト組織中に代謝的に組込まれるようになることにより、生物治療産物およびヒトの身体を両方とも汚染する。汚染は、第1の場合、用いられる培養培地および/もしくは動物細胞系中の動物由来成分から、第2の場合、赤身肉などの食品に由来する食事摂取から生じる。本開示の方法は、ヒト被験者、生物治療剤または細胞系中のNeu5Gcの量を除去または減少させる。前記方法は、系をヒトシアル酸N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、その誘導体、類似体または前駆体(例えば、N-アセチルマンノサミン(ManNAc))で溢れさせることを含む。用いられるNeu5Acを、モノマー形態で他の分子に、またはポリマー形態(ポリシアル酸)で結合させることもできる。これらの場合、結合したNeu5Acは細胞プロセスによって遊離した後、結合形態と同様の様式で働く。Neu5AcおよびNeu5Gcは共に、CMP-Siaシンテターゼ酵素による活性化について競合する。かくして、任意の起源に由来する過剰のNeu5Acは、それが初めて細胞に進入する時および/またはそれが前から存在する細胞分子の破壊から再循環する時に、Neu5Gcと代謝的に競合することによりNeu5Gc量を減少させるか、または除去するための単純かつ効率的な方法を提供する。さらに、本開示は、系を、Neu5Gcの内因性産生を抑制する、大きいボーラスもしくは高濃度のNeu5Acで溢れさせることを含む、CMAH陽性動物細胞中でのNeu5Gcの産生を減少させるための方法を提供する。
【0008】
本開示は、細胞もしくは細胞系中に存在するNeu5Gcまたは細胞もしくは細胞系により産生される産物を除去するか、もしくは実質的に減少させるのに十分な期間、十分な量で、有効量もしくは大量のN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)またはその誘導体、類似体もしくは前駆体と共に細胞系を培養することを含む方法を提供する。一実施形態においては、前記細胞系は治療用タンパク質産生に用いられる哺乳動物細胞系を含む。別の実施形態においては、前記細胞系は、hESC、誘導された幹細胞、胚様体細胞またはヒトにおける治療用途における使用もしくは治療用産物の産生における使用に適した任意の他の細胞を含む。
【0009】
本開示は、生物治療産物におけるNeu5Gcの量を減少させる方法であって、Neu5Acを含む培地中での生物治療産物の産生のための条件下で哺乳動物細胞培養物を培養することを含む前記方法を提供する。
【0010】
本開示はさらに、Neu5Gcを含まず、十分な量のN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)またはその前駆体であるN-アセチルマンノサミン(ManNAc)を含む培地に、Neu5Gcを含有する組織を曝露することを含む、移植のための前記組織を調製する方法を提供する。
【0011】
Neu5Ac(その誘導体もしくは類似体もしくは前駆体)は体内のあらゆる区画に拡散し、かくして体内のあらゆる細胞に影響し得る小分子であるため、Neu5Gcを除去するための方法および組成物はヒトに適用可能である。かくして、本開示は、Neu5Gcのレベルが減少するか、または被験者から除去されるまで、結合形態もしくは遊離形態の大量のN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、またはその前駆体であるN-アセチルマンノサミン(ManNAc)を被験者に投与することを含む、炎症性疾患または癌を治療する方法を提供する。例えば、本開示は、6ヶ月にわたって飲料水中の1 mM Neu5Acに曝露したマウスが、明らかな毒性を生じなかったことを証明し、このプロセスがヒトにおける長期間にわたる使用にとって安全であることを示している。
【0012】
本開示はまた、Neu5Gcのレベルと比較して上昇したNeu5Acまたはその前駆体を有する食品、飲料または細胞培地製品も提供する。一実施形態においては、前記食品、飲料または細胞培地は、結合形態または遊離形態の約0.1 mM〜20 mM以上のNeu5Acを含む。
【0013】
本開示はまた、Neu5Gc酵素経路を含む動物中のNeu5Gcの産生を減少させる方法であって、該動物におけるNeu5Gcの産生を減少させるか、または除去する有効量のNeu5Ac、その誘導体、類似体、もしくは前駆体を該動物に投与することを含む前記方法も提供する。
【0014】
動物に対する使用(ヒトへの使用を含む)のための全ての上記方法において、Neu5Acは、高レベルのNeu5Ac、合成Neu5Ac、モノマーもしくはポリマー形態、結合形態もしくは未結合形態のNeu5Acを含む自然栄養食品の一部としての、栄養補助食品の形態にあってもよい。培養方法については、合成方法もしくは他の製造方法に由来する結合形態、未結合形態でNeu5Acを培地に添加してもよい。Neu5Acは、投与または栄養消費のために実質的に精製された形態にあってもよい。
【0015】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面および以下の説明に記載する。本開示の他の特徴、課題、および利点は、説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Neu5Acを添加した、および添加しない2種の細胞系におけるNeu5Gc含量のグラフを示す。組換え可溶性Siglec 9-FcまたはSiglec 13-Fcタンパク質を発現する安定にトランスフェクトされたCHO-KI細胞を、5 mM Neu5Ac(Ac)の非存在下または存在下で増殖させた。CHOSig9細胞を、10%FCSおよび80μM MTXを含むMEMα中、70%の密集度まで増殖させた。CHOSig13細胞を、10%FCSおよび1.2 mg/ml G418を含むMEMα中、70%の密集度まで増殖させた。最初に、細胞をPBSで2回洗浄した後、2%低IgG FCSおよび5 mM Neu5Acを含むOptimem培地を3日間添加し、3日目に培地を回収し、Neu5Acを含む新鮮な培地を添加し、2日後(5日目)に回収し、Neu5Acを含む新鮮な培地を再度添加し、7日目に回収した。個々に回収された培地を遠心分離して、細胞破片を除去し、5 mM Tris-HCl pH 8に調整し、4℃で3日間、250μlのプロテインA Sepharoseと共にインキュベートして、キメラタンパク質を結合させた。各時点の樹脂と細胞型をPBSで洗浄し、0.1MグリシンpH 3で溶出させた。1M Tris-HCl pH 8でpH 7に中和した後、溶出したタンパク質をMillipore Ultrafree-15 30Kカットオフ装置を用いて濃縮した。タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイキットを用いて決定した。精製されたタンパク質のアリコートを、80℃で3時間、2M酢酸で加水分解して、シアル酸を遊離させた後、DMB試薬で誘導体化した。0.9 ml/分で85%の水、8%のアセトニトリルおよび7%のメタノールを用いるアイソクラチックモードでC18カラム上で逆相クロマトグラフィーを行うことによりHPLC分析を実施し、蛍光を検出した。各ピーク下面積を取得し、各サンプル中のNeu5Gcの割合(%)をNeu5Acに対して決定した。その結果は、両タンパク質に結合したNeu5Gcの量が、Neu5Acの添加により顕著に低下したことを示している。これは、CHO細胞中で産生された生物治療産物中のNeu5Gc汚染を減少させるための手法を提供する。
【図2】図2A-Eは、環境からNeu5Gcを蓄積したヒト細胞中で作られた生物治療産物中のNeu5Gc汚染を減少させるための手法を示す。(A-B)ヒト293T細胞に遊離Neu5Acを供給すると、複合糖質中の前から存在するNeu5Gc含量が減少する。ヒト293T細胞を、5 mM Neu5Gcの存在下で3日間、DME+ 10%FCS中で増殖させて、細胞にNeu5Gcを充填した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、2個の同一の培養物に分割し、一方に5 mM Neu5Acを添加したが、他方には添加しなかった。次いで、細胞をグラフに示されるように数日間培養し、収穫し、エタノール可溶性低分子量画分(A)とエタノール沈降性タンパク質(B)の両方のNeu5GcおよびNeu5Ac含量をHPLCにより分析した。示されるNeu5Gc(%)は、総シアル酸に対するNeu5Gcの量である。培地中のNeu5Acの存在が、細胞からのNeu5Gc除去の速度を顕著に加速したことが認められる。(C-E)CHO細胞に遊離Neu5Acを供給すると、内因性CMAHを含む動物細胞系の全細胞膜および分泌糖タンパク質中のNeu5Gcが減少した。組換え可溶性IgG-Fc融合タンパク質を発現する安定にトランスフェクトされたCHO-KI細胞を、5 mM Neu5Ac (Ac)の非存在下または存在下で増殖させた。最初に、細胞をPBSで2回洗浄した後、2%低IgG FCSおよび5 mM Neu5Acを含むOptimem培地を3日間添加し、培地を3日目に回収し、Neu5Acを含む新鮮な培地を添加し、2日後(5日目)に回収し、Neu5Acを含む新鮮な培地を再度添加し、7日目に回収した。個々に回収された培地を遠心分離して細胞破片を除去し、5 mM Tris-HCl pH 8に調整した。融合タンパク質をプロテインA Sepharoseを用いて精製した。(C)精製されたタンパク質のアリコートを、80℃で3時間、2M酢酸で加水分解して、シアル酸を遊離させた後、DMB試薬で誘導体化し、HPLC分析にかけた。各ピーク下面積を取得し、各サンプル中のNeu5Gcの割合(%)をNeu5Acに対して決定した。対照と比較して、Neu5Gc含量が顕著に低下したことが認められる。(D)同じCHO細胞に由来する全細胞膜を調製し、DMB-HPLC分析に用いた。再度、対照と比較して、Neu5Gc含量が顕著に低下したことが認められる。(E)上記実験に由来するCHO膜タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜上に移した。ポリクローナルアフィニティ精製ニワトリ抗Neu5Gc抗体と共にインキュベートすることにより、Neu5Gcの発現を検出した。対照と比較して、タンパク質上でのNeu5Gc発現が顕著に低下したことが認められる。
【図3】大量のグリコシド結合したNeu5Acを含む食品を摂取した4人のヒト被験者から得た尿中のNeu5Ac含量を示す。Neu5Acに富む食品の摂取直後の期間の尿のNeu5Ac含量が顕著に増加したことが認められる。細胞実験と同様に、この手法はヒトの身体をNeu5Acで溢れさせることが予想される。この手法を繰り返して適用すれば、最終的にはヒトの身体からNeu5Gcを除去することができるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「and」および「the」は、本文が別途明確に指摘しない限り、複数の指示対象を含むものとする。かくして、例えば、「Neu5Gc」に対する参照は、複数のそのような分子を含み、「the Neu5Ac」に対する参照は当業者には公知の1個以上のNeu5Acに対する参照などを含む。
【0018】
また、「または」の使用は別途記述しない限り「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含む(including)」は互換性であり、限定されることを意図しない。
【0019】
様々な実施形態の説明が用語「含む(comprising)」を用いる場合、当業者であれば、いくつかの特定例において、実施形態を用語「本質的にからなる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」を用いて代替的に説明することができることを理解するであろうことがさらに理解されるべきである。
【0020】
別途定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとする。本明細書に記載のものと類似するか、または同等の方法および材料を、開示される方法の実施および組成物において用いることができるが、例示的な方法、装置および材料を本明細書に記載する。
【0021】
上記および本文を通して考察される刊行物は、本出願の出願日以前のその開示について単に提供されたものである。本明細書の開示は、本発明者らが従来の開示の理由でそのような開示に先行する権利を与えられないという許諾として解釈されるべきではない。
【0022】
シアル酸(Sia)は、典型的には、脊椎動物細胞のグリコカリックスおよび分泌糖タンパク質上のグリカン鎖の最も外側の単位として認められる酸性の9炭糖の一員の一般名である。全ての脊椎動物細胞上でのその位置および広範な出現により、それらはリガンド-受容体相互作用、細胞間認識、細胞-病原体結合、炎症プロセス、免疫応答および腫瘍転移などのプロセスに関与することができる。
【0023】
自然界で公知の50種を超えるシアル酸が存在する。その多くはN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)と呼ばれるシアル酸の生合成改変に由来する。Neu5AcのN-アセチル基への1個の酸素原子の付加は、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)と呼ばれる非常に一般的な変形を生じる。現在まで研究された多くの霊長類細胞型の表面は、これらの2種の主要なシアル酸により支配されている。
【0024】
シアル酸分子が複合糖質に結合するようになるためには、まずはそれが糖ヌクレオチド誘導体であるシチジン一リン酸-シアル酸(CMP-Sia)への変換により活性化されなければならない。シアル酸は核においてCMP-Siaに変換され、次いで、それは細胞質ゾルに戻ってゴルジ装置中に輸送される。CMP-Siaは、細胞表面に向かう途中で新しく合成された複合糖質にシアル酸を結合させるための高エネルギー供与体として働く。Neu5AcからNeu5Gcへの生合成転換は、この糖ヌクレオチドレベルで起こり、CMP-Neu5Acヒドロキシラーゼ(CMAH)は酸素原子のCMP-Neu5Acへの導入を触媒し、CMP-Neu5Gcを生成する。次いで、CMP-Neu5Gcをゴルジ装置中に輸送し、CMP-Neu5Acと同じ様式で用いて、Neu5Gcを新しく合成された複合糖質に付加することができる。これらの2種のヌクレオチド糖は、シアル酸残基を細胞表面および分泌複合糖質に移動させる、ゴルジのCMP-Sia輸送因子および哺乳動物シアリルトランスフェラーゼによって互換的に用いられるようである。リソソーム分解プロセスの間に複合糖質から遊離するNeu5AcまたはNeu5Gc分子を、特異的輸送因子により細胞質ゾル区分に輸送し戻すこともできる。そこで、前記分子はその対応するCMP-Sia形態への変換のための基質として利用可能である。Neu5Gcを、ゴルジ体でのシアル化反応における反復使用のために「再循環」させることができる。
【0025】
非ヒトシアル酸N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)は、培養細胞およびヒト組織中に代謝的に取り込まれるようになることにより、生物治療産物およびヒトの身体の両方を汚染する。汚染は、第1の場合、用いられる培養培地および/または動物細胞系中の動物由来成分から、第2の場合、食事の摂取から生じる。培養培地または食事に必要とされる操作の程度がかなりのものであるため、このNeu5Gc取込みの防止は非常に困難である。
【0026】
Neu5Gcはおそらく、非ヒト哺乳動物細胞中で最も広く発現されるシアル酸である。ヒトはNeu5Gcの産生において遺伝的に欠損しているが、ヒト細胞中にも少量が存在する。食事起源がヒト健常者の研究により、および遊離Neu5Gcが未知の機構により培養ヒト細胞中に代謝的に取り込まれることを観察することにより提唱された。Neu5Gcの取込みは主に食事起源に由来することが研究により示された(Tangvoranuntakul, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)(2003) 100:12045-12050)。
【0027】
例えば、牛肉、豚肉およびラム肉などの起源に由来する赤身肉は、Neu5Gcが特に豊富であり、ヒトの食事におけるNeu5Gcの主要な起源であるらしい。また、乳製品はNeu5Gcを含むが、赤身肉よりもいくらか低いレベルである。
【0028】
さらに、遺伝子操作された哺乳動物細胞または異種(heterologous)もしくは異種(xenogenic)細胞(例えば、移植)により産生される生物治療剤は、Neu5Gcを含む場合がある。ヒト治療剤中での使用のための動物産物中で培養されたヒト細胞中のNeu5Gcの存在も潜在的な抗原性の起源である。より具体的には、ヒト細胞を動物由来血清中で培養する場合、それらはNeu5Gcを取込むことができ、そのような細胞を治療に用いる場合(例えば、ヒト胚性幹細胞由来移植片の移植)に免疫拒絶をもたらす可能性がある。例えば、形質転換された哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞)により産生される生物治療剤は、直接的に、またはNeu5Gcを含む培養材料を介してNeu5Gcを産生することができる。そのような培養物からのNeu5Gcの除去が重要である。
【0029】
遊離Neu5Gcの取込みは、分泌細胞、癌細胞、および血管などの様々な哺乳動物細胞および組織において起こることが証明されている。特定の非クラスリン媒介性(すなわち、受容体非依存的)エンドサイトーシス経路の阻害剤は、Neu5Gcの蓄積を減少させる。ヒト突然変異細胞に関する研究は、リソソームのシアル酸輸送因子が、遊離Neu5Gcの代謝的取込みにとって必要であることを示している。外因性複合糖質からのグリコシド結合したNeu5Gcの取込み(食事性Neu5Gcへのヒト消化管上皮曝露に関する)にはその輸送因子、ならびにおそらく遊離Neu5Gcを放出するように働くリソソームシアリダーゼが必要である。かくして、外因性Neu5Gcは、ピノサイトーシス/エンドサイトーシス経路を介してリソソームに到達し、細胞質ゾル中に遊離形態で輸送され、活性化および複合糖質への移動にとって利用可能になる。対照的に、N-グリコリルマンノサミン(ManNGc)は見かけ上、受動的拡散により非効率的に形質膜を横断し、細胞質ゾル中でNeu5Gcへの変換に利用可能となる。
【0030】
おそらく多くのヒトが高レベルのNeu5Gcを含む非ヒト動物に由来する食品起源または他の材料を摂取するという事実のため、多くの正常かつ健康なヒトは、特定量の循環抗Neu5Gc抗体を有する。例えば、被験者にNeu5Gcを接種することができる材料は、異種(すなわち、非ヒト)由来生物材料(例えば、幹細胞培養、バイオリアクター系などの培養方法に由来する)ならびに埋込み/移植材料を含む。そのような材料は、Neu5Gcを含む産物に曝露されたヒト細胞から生じた任意の組織の表面上でのNeu5Gcの取込みおよび発現に起因して、治療の成功を減少させる免疫応答を促進し得る。この問題はまた、組換え可溶性生物治療産物にも影響し得る。
【0031】
Neu5Gcは多くの哺乳動物細胞において主要なシアル酸であるが、それは健康なヒト組織には存在しないと長く考えられていた(Traving, C.ら、Cell. Mol. Life. Sci. 54: 1330-1349, 1998)。実際、ヒトCMAH遺伝子におけるエクソン欠失/フレームシフト突然変異に起因して、ヒトはNeu5Gcを遺伝的に合成することができない(Varki, A., Yearb. Phys. Anthropol. 44:54-69, 2002; Chou, H. H.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:11751-11756, 1998;およびIrie, A.ら、J. Biol. Chem. 273: 15866-15871, 1998)。この突然変異は、250〜300万年前にヒト科動物系列に生じたと見積もられている(Chou, H.H.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:11736-11741, 2002)。
【0032】
ヒトにおけるNeu5Gcの合成のための代替経路が公知でないにも関わらず、様々なグループがヒト腫瘍、特に、様々な癌腫におけるNeu5Gcの発現を研究するために抗体を用いてきた(Hirabayashi, Y.ら、Jpn. J. Cancer Res. 78:251-260, 1987; Miyoshi, I.ら、Mol. Immunol. 23:631-638, 1986; Marquina, G.ら、Cancer Res. 56:5165-5171, 1996; Carr, A.ら、Hybridoma 19:241-247, 2000; Devine, P.L.ら、Cancer Res. 51:5826-5836, 1991; Kawachi S.ら、Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 85:381-383, 1988;ならびにHigashi, H.ら、Jpn. J. Cancer Res. 79:952-956, 1998)。最近の研究は、これらの知見を再調査し、ヒトの癌におけるNeu5Gc発現の以前の報告を確認し、正常なヒトの上皮および内皮細胞中の少量のNeu5Gcを検出することなど、この知見を正常なヒト組織に拡張した。HPLCおよび質量分析により、蛍光誘導体化形態のNeu5Gcを用いてそのような組織からのシアル酸の遊離および精製が明確に確認された(Tangvoranuntakal, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:12045-12050, 2003)。外因的に添加された遊離Neu5Gcは、in vitroで培養されたヒト癌細胞中に取り込まれることが示された。さらに、ヒトボランティアにおけるNeu5Gcの経口摂取研究は、ヒト組織中に認められるNeu5Gcが、食事起源(Tangvoranuntakal, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:12045-12050, 2003)、特に、赤身肉および乳製品から生じ得るという証拠を提供している。
【0033】
Neu5Gcは、細胞増殖障害、癌、組織拒絶および炎症と関連してきた(「Neu5Gc関連障害」)。Neu5Gcは非ヒト動物産物であるため、食事成分、組織移植、生物治療剤および細胞に基づく治療は、抗体が反応し、炎症、組織拒絶などを引き起こし得る場合、そのような非ヒトNeu5Gc産物を体内に送達する。
【0034】
従って、ヒトおよびヒトにより消費される製品からのNeu5Gcの除去または減少を用いて、免疫応答および疾患の発生を低下させることができる。本開示は、ヒト被験者からの存在するNeu5Gcの除去もしくは減少、動物もしくは動物産物からの除去もしくは減少、食事消耗品からの除去もしくは減少、および治療剤からの除去もしくは減少のための方法を提供する。一実施形態においては、この方法を、動物またはヒトによるNeu5Gcの取込みを減少させる方法と結びつけることができる。
【0035】
本開示は、取り込まれたNeu5Gcを、系をヒトシアル酸N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、その誘導体、類似体または前駆体(例えば、ManNAc)で溢れさせることにより除去するか、または実質的に減少させることができることを証明する。そのような方法は、以前に取り込まれたNeu5Gcと代謝的に競合するか、またはCMAH遺伝子を含む生物または細胞中のNeu5Gcを減少もしくは除去することができる。本開示の方法を用いて、それが初めて細胞に進入する時またはそれが前から存在する細胞分子の破壊から再循環する場合にNeu5Gcを除去するか、または減少させることができる。この方法を、任意の哺乳動物系またはヒト細胞およびヒトなどの生物において用いることができる。例えば、Neu5Acは、長期間曝露した後でもマウスに対して非毒性的であることが示されており、従って、この手法は培養中の細胞および無傷の哺乳動物体(例えば、ヒト被験者)の両方に対して適用可能である。
【0036】
一実施形態においては、本開示は、Neu5Gcを含まない生物治療剤、細胞産物、細胞培養物およびそれらに由来する産物を製造する方法であって、細胞、培養物または被験者を、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、Neu5Ac前駆体であるN-アセチルマンノサミン(ManNAc)、またはNeu5AcもしくはManNAcの好適な誘導体で溢れさせる(例えば、洗い流す/追い出す)ことを含む前記方法を提供する。Neu5Ac、ManNAcまたはその誘導体の量は、それが初めて細胞に進入する時および/またはそれが前から存在する細胞分子の破壊から再循環する時に、Neu5Gcと代謝的に競合するのに十分な量を含む。かくして、本開示の方法および組成物を用いて、被験者、細胞もしくは動物中の存在するNeu5Gcを除去するか、もしくは減少させるか、またはこれを用いて、競合的置換を介してNeu5Gcの取込みもしくは合成を防止することができる。
【0037】
本明細書で用いられるNeu5Ac組成物は一般的には、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、Neu5Ac前駆体であるN-アセチルマンノサミン(ManNAc)、またはNeu5AcもしくはManNAcの誘導体を含む組成物を指す。N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、Neu5Ac前駆体N-アセチルマンノサミン(ManNAc)、またはNeu5AcもしくはManNAcの誘導体を、天然の起源から誘導するか、または標準的な化学的方法により合成するか、または組換えプロセスもしくは酵素的プロセスにより生成することができる。また、用いられるNeu5Acを、モノマー形態で他の分子に結合させるか、またはそれはポリマー形態にあってもよい(ポリシアル酸)。これらの場合、結合したNeu5Acは、細胞プロセスにより遊離した後、結合した形態と同様の様式で作用するであろう。
【0038】
本開示は、細胞、培養物または被験者を、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、その前駆体N-アセチルマンノサミン(ManNAc)、またはNeu5Acのモノマーおよびポリマー形態などのその誘導体で溢れさせることにより、Neu5Gcをそのような細胞中で除去するか、または実質的に減少させることができることを示す。Neu5Ac、ManNAcまたはその誘導体の量は、それが初めて細胞に進入する時および/またはそれが前から存在する細胞分子の破壊から再循環する時に、Neu5Gcを代謝的に除去するのに十分な量を含む。一実施形態においては、前記方法を用いて、被験者の細胞中の以前に取り込まれたNeu5Gcを置換する。さらに別の実施形態においては、前記方法を用いて、機能的CMAH遺伝子を含む細胞または生物中のNeu5Gcの合成を減少させる。
【0039】
細胞または被験者をNeu5Acで「溢れさせること」とは、Neu5Acが高く、Neu5Gcがほとんどないか、または検出不可能である組成物(例えば、Neu5Gcを少なくとも99%〜100%含まない)を提供することを意味する。それは、細胞または生物からNeu5Gcを洗い流すか、または追い出すプロセスを考慮するのに役立ち得る。細胞または被験者を溢れさせるのに用いられるNeu5Acは、Neu5Gcを減少させ、除去するのに十分な量であるが、被験者または細胞に対して毒性的ではない量である。その量は、大きさ、重量、生物の型、培養条件、被験者または細胞中のNeu5Gcの量、細胞または生物が機能的CMAH遺伝子もしくはその相同体を有するかどうかなどに応じて変化するであろう。この量を、当業界における技術を用いて容易に決定することができる。被験者の全身または培養系を溢れさせるのに用いられるNeu5Acは、天然のNeu5Ac(遊離形態もしくはグリコシド結合形態)または純粋に合成のNeu5Acまたはその組合せであってよい。食事調製物に由来するNeu5Acの起源は公知であり、例えば、燕の巣スープが挙げられる。Neu5Acまたはその誘導体を合成する方法は、当業界で公知である。
【0040】
一実施形態においては、細胞培養物を増殖させ、所望の生成物を産生する条件下で拡張または培養する。培養条件は、Neu5Gcを含まない培地、または細胞中に前から存在するNeu5Gcを除去するか、もしくはNeu5Gcの産生を減少させるのに十分な量のN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその誘導体もしくは類似体を含むNeu5Gcを含まない培地を含んでもよい。例えば、生物治療産物を製造するのに現在用いられているいくつかの細胞、例えば、CHO細胞は、Neu5Gcを既に含有、産生し、および/または培養培地からNeu5Gcを獲得する。いくつかの実施形態においては、目的の生物治療産物を産生する細胞系を、有効量もしくは大量のNeu5Acおよび/またはその前駆体もしくは誘導体もしくは類似体と共に培養して、培養物からNeu5Gcを除去する。図2Eに示されるように、CHO細胞の膜糖タンパク質中のNeu5Gcの存在は、これらの大量のNeu5Ac、その誘導体、類似体もしくは前駆体により大きく減少する。同様に、CHO細胞により分泌される精製された産物上のNeu5Gcの量は、それが検出不可能になるまで徐々に減少する(図1)。かくして、本開示は、培地にNeu5Acを添加することにより、確立された動物細胞系中で既に産生されている存在する生物治療産物からNeu5Gcを除去するのに用いることができる方法および組成物を提供する。
【0041】
さらに、本開示の方法は、無傷のCMAH遺伝子を有するそれから誘導された生物または細胞中のNeu5Gcの量を効率的に減少させることができる。この方法は、無傷のCMAH遺伝子を有さないヒト細胞中で動作する代謝的競合機構に加えて、そのような細胞中でのNeu5Gc産生の抑制をもたらす。
【0042】
本明細書で用いられる用語「培地」とは、細胞ならびに/またはそのような細胞により発現および/もしくは分泌された生成物を増殖および収穫するのに用いられる任意の培養培地を指す。そのような「培地」とは、限定されるものではないが、例えば、細菌宿主細胞、酵母宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真核宿主細胞、哺乳動物宿主細胞、CHO細胞、原核宿主細胞、大腸菌、またはシュードモナス宿主細胞、および細胞内容物などの任意の宿主細胞を支持もしくは含有してもよい溶液、固体、半固体、または剛性支持体が挙げられる。そのような「培地」としては、限定されるものではないが、増殖工程の前後の培地などの、ポリペプチドが分泌された宿主細胞を増殖させた培地が挙げられる。そのような「培地」としてはまた、限定されるものではないが、宿主細胞溶解物(例えば、細胞内で産生されたポリペプチドおよび宿主細胞を溶解もしくは破壊してポリペプチドを遊離させる)を含むバッファーまたは試薬が挙げられる。
【0043】
一実施形態においては、細胞または細胞系を、第1の培地中で増殖させ、洗浄した後、Neu5Gcを含まず、Neu5Acを含む第2の培地中で増殖させる。別の実施形態においては、前記培地は、培地中のNeu5Gc濃度よりも少なくとも1倍、2倍、3倍以上である濃度のNeu5Acを含む。
【0044】
ヒト胚性幹細胞(hESC)は、全ての体細胞型を潜在的に生成することができ、それらを細胞および組織置換療法の優れた候補にしている。典型的には、hESCを、マウスフィーダー層上で動物由来「血清置換物」と共に培養する。これらは両方とも、多くのヒトがそれに対する循環抗体を有する、非ヒトシアル酸Neu5Gcの起源である。hESCと誘導胚様体は共に、標準的な条件下で有意な量のNeu5Gcを代謝的に取り込む(Martin, M.J., Muotri, A., Gage, F.およびVarki, A., Human embryonic stem cells express an immunogenic non-human sialic acid. Nat Med. 11:228-232, 2005)。本開示の方法を用いて、Neu5Gcがないか、もしくは検出不可能であり、かつ細胞中のNeu5Gcを置換するのに有効な量のNeu5Ac(例えば、十分な、もしくは高いNeu5Ac濃度)の条件下で、hESC、誘導幹細胞もしくは胚様体もしくはそれから誘導された細胞を培養することにより、Neu5Gcのレベルを減少させるか、または除去することができる。そのような培地は、約0.1 mM〜20 mM以上のNeu5Acを含むであろう。この方法は、培地もしくはその成分を抗Neu5Gc抗体に曝露するか、または機能的CMAHポリペプチド/遺伝子を欠くトランスジェニック生物から調製もしくは誘導された血清もしくは培地を用いることにより、Neu5Gcを枯渇させた培地中で前記細胞を培養することを含んでもよい。
【0045】
本開示の様々な組成物および方法において用いられる血清または細胞を、CMAHトランスジェニック動物から誘導することができる。例えば、幹細胞の培養物中で用いられるフィーダー層細胞を、CMAHノックアウトトランスジェニック動物から誘導することができる。本開示の方法を、そのようなCMAHノックアウト細胞もしくは血清調製物と共に用いて、単離、継代などの間に取り込まれた培養系から任意のNeu5Gcをさらに「洗い流す」ことができる。CMAHトランスジェニック動物は、CMAH遺伝子中のノックアウトまたは突然変異CMAH遺伝子を有してもよい。そのようなCMAHトランスジェニック動物は、Neu5Gcを含まない生成物または野生型動物と比較してNeu5Gc量が減少した生成物を産生する。別の実施形態においては、血清置換物は、動物産物を全く欠く細胞および組織を培養するのに現在利用可能である。
【0046】
多くの一般的細胞培養技術を用いることができる。典型的な継代、無血清培地、血清含有培地、凍結保存および関連技術が当業界でよく知られている。培養のための方法は、生物および/または細胞型ならびにその増殖要件に依存するであろう。多くの例においては、hESCを、動物フィーダー層、最も一般的には、マウス線維芽細胞上で培養する。しかしながら、本明細書の他の場所で考察される理由から、これらのフィーダー層は、望ましくないNeu5Gcのさらなる供給源として働き、次いで培養される細胞中に取り込まれ得る。従って、用心し過ぎる試みにおいては、培養培地中のヒト血清をヒトフィーダー層と共に使用し、以前に取り込まれたNeu5Gcを置換するか、もしくはそれと競合するか、またはNeu5Gcの産生を減少させるのに有効な濃度のNeu5Acと共に細胞を培養することにより、Neu5Gcの任意の供給源をさらに除去することが望ましい場合がある。その培養条件は、約0.1 mM〜20 mM以上のNeu5Acを含んでもよい。
【0047】
本明細書で用いられる用語「Neu5Gcを欠く」または「Neu5Gcを含まない」とは、総シアル酸に対するNeu5Gcの比率が、5%未満、さらには1%未満または検出不可能であることを意図する。例えば、アフィニティカラム中で抗Neu5Gc抗体を用いて、生成物中に存在する任意のNeu5Gcを除去することにより、Neu5Gcの免疫原性を活用することができる。あるいは、様々な種類のヒト細胞、組織、胚様体、神経系列細胞、癌細胞、皮膚細胞、および器官(本明細書では集合的に「細胞」と呼ぶ)を、Neu5Acと共に培養し、それらがNeu5Gcを含まない限り、Neu5Ac環境中で保存することができる。上記で考察されたように、培養物または保存培地中に存在する任意のNeu5Gcは、細胞中に取り込まれ、かくして、Neu5Gcを除去し、有効量のNeu5Acを用いて、そのような細胞からNeu5Gcを除去することができる。
【0048】
hESC以外に、例えば、膵島細胞、内皮、肝細胞、腎臓細胞、心臓細胞、線維芽細胞などの他の細胞型も本開示の範囲内にある。しかしながら、最も注目すべきは、まだ完全に分化していない前駆細胞および多能性細胞が、細胞埋込みを含む治療的処理のための潜在的な供給源として科学的研究にとって大いに役立つということである。さらに、本明細書に記載の方法を用いて、抗Neu5Gc抗体上の通過またはさらなるNeu5Gcの取込みを回避する条件下で移植する前にヒト器官を保存することができる。
【0049】
本開示の方法を、Neu5Gcの取込みを防止する他の薬剤と共に用いることができる。一実施形態においては、本開示は、ヒト細胞系またはマウス細胞系への本開示の方法の適用を証明している。そのような細胞を、大量のヒトシアル酸Neu5Acを含む培地を用いて「追い出す」か、または「洗い流す」。細胞中のNeu5Gcのレベルは、Neu5Acを約5 mMのピークで培地に添加した場合により迅速に降下する。かくして、Neu5Acを、約1 mM〜15 mM以上の範囲(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15 mM以上)で用いることができる。
【0050】
生物治療産物を製造するのに現在用いられている細胞、例えば、CHO細胞は、Neu5Gcを既に含有し、産生し、および/または培地からNeu5Gcを獲得することができる。本開示の方法は、Neu5Gc再循環またはNeu5Gc産生の間に代謝的競合として一般的に説明することができるプロセスを介して生物治療産物からNeu5Gcを減少させるか、または除去する。この方法を、Neu5Gc取込みがNeu5Acにより競合的に置換される競合的「取込み」プロセスと区別することができる。むしろ、本開示の方法は、機能的CMAH遺伝子または相同体を含むこれらの細胞について、以前に取り込まれたNeu5Gcおよび/またはNeu5Gcの合成を置換する。一実施形態においては、前記細胞系は目的の生物治療産物を既に産生しており、次いで、これを大量のヒトシアル酸Neu5Acおよびその類似体もしくは誘導体ならびに/またはその前駆体と共に培養して、Neu5Gcを除去するか、または減少させる。Neu5Ac、その誘導体、類似体もしくは前駆体は、細胞培養物中に以前に取り込まれたNeu5Gcと置き換わる(代謝的に競合する)。時間と共に、Neu5Gcは培養物から置換されるか、または除去される。典型的には、このプロセスは、Neu5Acを受けていない同じ培養物と比較して、Neu5Gcを検出可能な量に減少させる。いくつかの例においては、この減少は1、2、3、4、5倍以上であってよい。
【0051】
本開示の方法はまた、Neu5Gcに関連する障害についてヒトを治療する方法またはそのような障害が発生するのを防止する方法も提供する。この方法は、大ボーラス、複数送達物または徐々に増加する送達物としてNeu5Acを被験者に投与する(食事消費または医学的介入による)ことを含む。前記方法は、体内からNeu5Gcを除去するのを補助する、Neu5Gcの代謝競合因子としてNeu5Acを送達する。典型的には、Neu5AcおよびNeu5Gcの量を、尿サンプル、組織サンプル、血液、血清または血漿サンプルによりモニターすることができる。
【0052】
前記方法は、Neu5Gc含量を減少させるのに有効な量の合成もしくは天然の遊離型もしくは結合型Neu5Ac、Neu5Ac類似体、Neu5Ac誘導体、前駆体またはその任意の組合せを含む組成物を被験者に投与することを含む。Neu5Acを合成する方法は当業界で公知である。組換え生物を介する酵素反応により、および標準的な化学反応を介して、Neu5Acを取得することができる。特定の食品および細菌多糖類も大量のNeu5Acを含む。
【0053】
さらに別の実施形態においては、約3日間、Neu5Gcを欠損する食事を個体に与えた後(消化管を綺麗にし、Neu5Gcの新しい供給源を除去するため)、ヒトの尿をNeu5Gc含量について試験する。この期間の後、24時間の尿採集物を用いて、尿中のNeu5Gcの基底レベルを決定する(例えば、体内の様々な細胞型から、最終的に尿中に排泄される)。そのような1回の測定または複数回の測定を行った後、大用量または増加するより大用量のNeu5Ac(例えば、天然起源から誘導されたもの)を個体に与える。そのようなNeu5Ac処理の反復周期は、最終的にはNeu5Gcの体内量の漸減をもたらし得る。
【0054】
Neu5Acの投与は任意の経路(例えば、静脈内、経口、腹腔内など)によるものであってよい。さらに、本開示の方法は、限定されるものではないが、(i)Neu5Gcを含まない食品の食事、(ii)少量のNeu5Gcを含む食品の食事、(iii)多量のNeu5Acを含む食品の食事または(i)もしくは(ii)と(iii)との任意の組合せなどのさらなる食事方法を用いることができる。前記組成物および方法は、被験者から取り込まれたNeu5Gcを除去するのに有用である。換言すれば、前記組成物は、被験者の細胞系から、存在するNeu5Gcを「洗い流す」。特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、被験者または細胞系中に既に取り込まれたNeu5Gcが再循環するにつれて、本開示の方法および組成物により提供される過剰のNeu5AcがNeu5Gcと置き換わる。これは、初期の接触時にNeu5Gcの取込みと競合する方法とは対照的である。しかしながら、以前に取り込まれたNeu5Gcを除去することに加えて、前記方法を用いて、食事または細胞培養系からNeu5Gcの取込みを防止することができることが認識されるであろう。
【0055】
食品起源からの体内へのNeu5Gcのさらなる取込みを防止するために、Neu5AcまたはManNAcを含む錠剤または飲料を、Neu5Gcを含むことが知られる食事と共に、またはNeu5Gcが減少した、またはNeu5Gcを含まない食品/飲料を含む食事と共に提供することができる。また、シアル酸が豊富であることが知られる特定の食品を用いることもできる。
【0056】
一実施形態においては、Neu5Gcに関連する障害を呈するか、またはNeu5Gcに関連する障害を有することが疑われる被験者に、Neu5Ac組成物を投与し、Neu5Ac食事に入れ、Neu5Ac組成物を投与し、少量のNeu5Gcを含むか、もしくはNeu5Gcを含まない食事に入れるか、またはNeu5Ac食事および少量のNeu5Gcを含むか、もしくはNeu5Gcを含まない食事に入れる。Neu5Gcは被験者において代謝的に置換されるため、例えば、尿のNeu5Gc含量が低下するであろう。
【0057】
以下の実施例は、例示することを意図するものであり、本開示を制限することを意図するものではない。それらは用いることができるものの典型であるが、当業者には公知の他の手順を代替的に用いてもよい。
【実施例】
【0058】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO-Kl)細胞およびCMAH遺伝子ノックアウトマウスに由来する自然発生癌から単離された上皮細胞を用いて実験を行った。しかしながら、非ヒト細胞は大量の内因性Neu5Gcを有するため、その結果はヒト細胞においてはより劇的である。
【0059】
遊離Neu5AcおよびNeu5Gcは同じ経路により取り込まれ、組込まれる。Neu5AcおよびNeu5Gcを、外来起源に由来する細胞により取り込ませ、内因性複合糖質に組込むことができる。Neu5GcおよびNeu5Acは、複合糖質への最終的な組込みを誘導する本質的に全ての工程によって互換的に用いられる。
【0060】
Caco-2およびヒト正常線維芽細胞中で競合実験を行うことにより、Neu5GcおよびNeu5Acが、同じ経路を介して取り込まれ、組込まれることが決定された。培地中のNeu5Acの非存在下または存在下(3 mMもしくは15 mM)で、3 mM Neu5Gcと共に3日間、供給を行った。両分子は同じ経路を用いてヒト細胞中に進入し、代謝的組込みに利用可能となる。勿論、その経路の様々な酵素および輸送因子によるNeu5GcおよびNeu5Acの利用において少しの差異がある可能性はある。
【0061】
遊離Neu5Acを含むヒト細胞の供給は、全細胞膜および分泌された糖タンパク質中での以前に充填されたNeu5Gcの除去を加速することができる。外来起源からのNeu5Gcの輸送および取込みが起こるため、本開示は、そのような取込みを減少させるか、または細胞もしくは被験者から存在するNeu5Gcを除去するための方法および組成物を提供する。上記のように、ヒト細胞系中で産生された生物治療産物は、培養培地中で用いられる動物由来材料から組込まれたNeu5Gcで汚染され得る。さらに、全ての生物製剤を、製造のために現在用いられている非常によく確立され、FDAに認可された細胞系(例えば、CHO、BHK、マウスミエローマ)から変化させることは非常に困難であろう。
【0062】
293-Tヒト腎臓細胞を、10%FCSを補給したDME中で増殖させた。PBS中の20 mM EDTAを用いて培養プレートから細胞を持ち上げ、50%密集度まで増殖させた。この点で、緩衝化された100 mM Neu5Gcを培養物に2回添加し、最終濃度5 mMにし、細胞をこの補給された培地中で3日間増殖させた。このNeu5Gcパルスの終わりに、PBS中の20 mM EDTAを用いて細胞を再度持ち上げ、ペレット化し、PBSで1回洗浄して、過剰のNeu5Gcを除去した後、30 mlの増殖培地中に懸濁した。5 mlのこの細胞懸濁液を、5個のP-100皿の各々に添加した。細胞懸濁液の最後のアリコート、時間「0」を、細胞をペレット化することによりすぐに収穫し、PBSで1回洗浄した後、細胞を1 mlのPBSに懸濁し、1.5 mlのマイクロ遠心管に移した。細胞を再度ペレット化し、全ての時点を回収するまで凍結した。緩衝化された100 mMのNeu5Acを、「Neu5Ac追い出し」のために他の5個のプレートの各々に添加し、等量の培地を「マイナス追い出し」サンプルに添加した。培養培地中に擦り付ける、ペレット化により回収し、PBSで1回洗浄し、1.5 mlのマイクロ遠心管に移し、ペレット化し、細胞ペレットを凍結させることにより、細胞を1日目、2日目、3日目、4日目および5日目に収穫した。追い出しの5日目の終わりに、全ての回収された細胞ペレットを、Fisher Sonicatorを用いる3〜20秒間のバーストを用いて、300μlの氷冷20 mM KPO4 pH 7中で均質化した。700μlの100%氷冷エタノール(最終的に70%エタノール)を添加し、-20℃で一晩インキュベートすることにより、複合糖質結合シアル酸を沈降させた。サンプルを20000 x gで15分間遠心分離し、上清を清潔なチューブに移し、減圧下で乾燥した。沈降した複合糖質および乾燥エタノール上清をそれぞれ100μlの20 mM KPO4 pH 7中に超音波処理しながら懸濁した。2M酢酸(最終濃度)を用いる酸加水分解および80℃で3時間のインキュベーションにより、シアル酸を両画分から遊離させた。サンプルをMicrocon-10フィルターに通過させ、HPLCによるシアル酸の分析のために、濾液をDMB試薬で誘導体化した。
【0063】
Neu5Gcパルスを省略し、分泌された糖タンパク質をプロテインA Sepharoseビーズ上に捕捉した以外は、同様の手法を、培地中にSiglec-Fcタンパク質を安定に発現しているCHO細胞にも取った。また、全細胞膜を遠心分離によってペレット化したこと以外は同様に細胞を処理した。分泌されたタンパク質および細胞膜のシアル酸含量を、酸加水分解、DMB誘導体化およびHPLCにより決定した。また、細胞膜を、ニワトリ抗Neu5Gc IgYを用いるウェスタンブロッティングにより研究した。
【0064】
細胞中のNeu5Gcはリソソーム中で「再循環」され、複合糖質の新規合成に再利用されるため、本開示は、そのような再循環を減少させ、それによって細胞からNeu5Gcを除去する方法を提供する。本開示は、細胞培地中の遊離Neu5Acが細胞により取り込まれ、前から存在するNeu5Gcと競合し、後者の再循環を防止することを証明する。また、過剰のNeu5Acは、培地からのNeu5Gcのさらなる組込みと競合するであろう。この可能性を研究するために、本発明者らは、ヒト293T細胞にNeu5Gcを予め充填した後、5 mM Neu5Acの存在下または非存在下で培地を用いて追い出した。図2Aおよび2Bに示されるように、培地中のNeu5Acの存在は実際に、細胞およびまた分泌された糖タンパク質からのエタノール沈降性(グリコシド結合した)Neu5Gcのより迅速な消失をもたらした。かくして、培地へのNeu5Acの添加は、ヒト細胞のNeu5Gc汚染を除去するか、または減少させるための単純かつ非毒性的な方法である。
【0065】
多くの組換え生物治療用糖タンパク質が現在非ヒト細胞中で産生されており、その最もポピュラーなものは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系である。CHO細胞中で産生される生物治療用糖タンパク質は少量のNeu5Gcを担持することが既に知られている。かくして、本開示は、培養CHO細胞中のNeu5Gc蓄積を減少させる方法を示す。図2C-Eに示されるように、膜糖タンパク質および分泌された組換えタンパク質の両方について、これは実際に成功した。CHO細胞が既にその自身の内因性Cmah酵素を発現することを考慮すれば、これらのデータは、再循環するNeu5Gcとの競合に加えて、新規機構が関与することを示唆している。その機構がどんなものであるかに関係なく、この手法は、組換え糖タンパク質のNeu5Gc含量の減少を、非ヒトCmah陽性細胞系においても達成することができることを示している。
【0066】
純粋な化学合成されたNeu5Acが、商業的に必要な量で入手可能である。しかしながら、研究は食品起源に由来するNeu5Acを使用することができる。
【0067】
ヒトを治療するための準備段階として、正常なWTマウスに18週間、その飲料水中に1 mg/ml Neu5Acを供給した。これらのマウスは、観察または完全血球算定および血液化学分析によれば、毒性の兆候を示さず、最終的な剖検によって組織学的異常性は示されなかった。
【0068】
ヒトボランティアは、典型的にはスープとして消費され、「極東のキャビア」とも呼ばれることが多いポピュラーな中国珍味である食用燕の巣(EBN)に由来する結合したNeu5Acを摂取した。EBNは、ベトナム、タイ、インドネシアおよびフィリピンの沿岸に棲む白巣ツバメ(Aerodramus fuciphogus)の唾液から生じる。EBNは非常に高いNeu5Ac含量(9%w/w)を有する自然食品であるため、食事性Neu5Acの理想的な供給源である。さらに、それは1000年以上にわたって中国料理および伝統医学の一部であった。摂取のために結合Neu5Acの調製のために、燕の巣を水に一晩浸した後、香り付けのために加えたブロスおよび/または砂糖と共に新鮮な水の中で茹でる、典型的かつ伝統的なスープレシピを行った。摂取のための遊離Neu5Acの調製のために、ブロスを軽度に酸性化し、Neu5Acの遊離を促進するために酢を添加してスープを上記のように作製した。酢は食料品店から購入したものである。そのような抽出は、スイートスープおよびサワースープの調製と同様である。各個人により摂取された遊離または結合Neu5Acの量は1〜3 gであり、これはEBNスープの典型的な一人前と同様である(例えば、www.chinesefood-recipes.comを参照)。
【0069】
Neu5Acを含むサンプルを、Neu5Gcを含む製品を3日間回避し、試験日の朝にフルーツジュースまたは野菜ジュース(シアル酸を含まない)のみを消費した最大10人の正常なヒトボランティアに摂取させた。満腹の胃はサンプルの小腸への通過および試験分子の取込みを有意に遅延させるため、固形食品の回避は重要である。試験サンプルの摂取後、被験者は次の6時間、約4 m/kg/時間のフルーツジュースまたは野菜ジュースのみを飲用した。全尿の採取を摂取の24時間前に開始して、摂取の48時間後まで採取を継続した(3つのプールx24時間=合計72時間)。口を塩水で完全に洗浄し、1片のパラフィルムを1分間噛んだ後、唾液サンプルを、摂取の0、6および24および48時間後に採取した。血液サンプル(約30 mlまたは大さじ約2杯)を、0、3および24時間で、合計約90 mlまたは大さじ6杯採取した。全てのサンプルを、遊離および結合Neu5AcおよびNeu5Gcについて、ならびにこれらのシアル酸の直接分解産物であるN-アセチルマンノサミン(ManNAc)およびN-グリコリルマンノサミン(ManNGc)について分析した。サンプルのアリコートを、3000ダルトンの分子量カットオフを有するMicroconフィルターに通過させた。結合したシアル酸について、保持物を酸加水分解した後、再度同様のMicrocon-3フィルターに通過させた。次いで、遊離シアル酸をDowex陰イオン交換カラムにより精製し、これらの陰イオン性糖類を、ManNAcおよびManNGcを含むであろう中性の糖画分から分離した。反応を行うために過剰のピルビン酸ナトリウムを添加して、ピルビン酸リアーゼ酵素を使用することにより、後者をシアル酸に酵素的に変換し戻した。シアル酸をDMB試薬(1,2-ジアミノ-4,5-メチレン-ジオキシベンゼン)で誘導体化して、高速液体クロマトグラフィー分離後に蛍光によりそれらを検出した。目的のピークを、化学組成の確認のために質量分析により直接分析した。定量化のために、他の類似する分子の内部標準を使用し、分析の前に尿サンプルに添加した。
【0070】
摂取前に採取された尿は、被験者の尿中Neu5AcおよびNeu5Gc排出の基底レベルに関する情報を提供した。採取の次の24時間の間に、摂取された食材の消化管吸収に起因してNeu5Ac排出の増加が観察され、3日目の24時間採取中に基底レベルに戻った。血液サンプル採取の目的は主に、血液学的および生化学的パラメーターに有意な変化がないことを確認することである。これらは中国人集団間では、特殊な事例で高度に通常でない消費量ではないことに留意されたい。各被験者は彼または彼女自身の制御下にあるため、問題は反復処理後に長時間にわたって尿中Neu5Gc排出が有意に低下するかどうかということである。性別または民族性に基づく結果の差異があり得るか否かを予測する従来データはない。かくして、初期のボランティア参加者は、調査者自身であり、欧州、南インドおよびメキシコ起源の女性および男性(31〜56歳)であった。現在は全員健康的に優れており、大きな医学的問題はなかった。全員、必須ではない医薬品、Neu5Gcを含む食品および任意の通常でない食品を試験前に72時間および試験中に72時間回避した。
【0071】
実験1セットにおいて、4人のヒト被験者が食用燕の巣スープ中の結合した約3GのNeu5Acを摂取した。全員健康状態は良好であり、大きな医学的問題はなかった。図3に示されるように、尿採取物(意図的に無作為であり、時限式でない)は、摂取後10〜30時間の間にNeu5Acの尿排出の増加を示した。後の時点は、2日目に基底レベルに戻ることを示していた。副作用は観察されなかった。反復処理の後、本発明者らは尿中の基底Neu5Gcの量が低下することを見ることを予想した。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明してきた。にもかかわらず、本発明の精神および範囲を逸脱することなく様々な改変を行うことができることが理解されるであろう。従って、他の実施形態も以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞、細胞系または細胞もしくは細胞系により産生される生成物中に存在するNeu5Gcを除去するか、もしくは実質的に減少させるのに十分な期間、有効量または大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体と共に、Neu5Gcを含む細胞系を培養することを含む方法。
【請求項2】
細胞系が治療用タンパク質製造に用いられる哺乳動物細胞系を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞系が、hESC、誘導幹細胞または胚様体細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体との培養を、Neu5Gcを含む培地成分との初期培養の後に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
生物治療産物中のNeu5Gcの量を減少させる方法であって、有効量もしくは大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を含む培地中での生物治療産物の産生のための条件下で、Neu5Gcを含む哺乳動物細胞系を培養することを含む、前記方法。
【請求項6】
細胞系が、治療用タンパク質製造に用いられる哺乳動物細胞系を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞系がhESC、誘導幹細胞または胚様体細胞を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体との培養を、Neu5Gcを含む培地成分との初期培養の後に行う、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
移植用の組織を調製する方法であって、Neu5Gcを欠き、且つ有効量もしくは大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を含む培地に前記組織を曝露することを含む、前記方法。
【請求項10】
炎症性疾患または癌を治療する方法であって、Neu5Gcを含む被験者に、Neu5Gcのレベルが被験者から減少するか、または除去されるまで、有効量もしくは大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を投与することを含む、前記方法。
【請求項11】
前記疾患または癌が、Neu5Gcまたは抗Neu5Gc抗体と関連する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Neu5Gcに関連する疾患もしくは障害を治療するか、または被験者の体内のNeu5Gc含量を減少させるのに使用するための、Neu5Gcのレベルと比較して、遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体が上昇した食品、飲料または細胞培地製品。
【請求項13】
約0.1 mM〜20 mM以上の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を含む、請求項12に記載の食品、飲料または細胞培地。
【請求項14】
Neu5Gcに関連する疾患または障害を有する被験者を治療する方法であって、Neu5Gc食事消費を減少させるかまたは除去すること、および有効量もしくは大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を投与して、前から存在するNeu5Gcを被験者から除去することを含む、前記方法。
【請求項15】
遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体が、食事起源に由来するものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体が、合成起源に由来するものである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
生物治療産物または生物治療産物の製造に用いられる細胞系からNeu5Gcを除去する方法であって、有効量もしくは大量の遊離もしくはグリコシド結合したN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)またはその類似体もしくは誘導体を含むNeu5Gcを含まない培地中で前記細胞を培養して、以前に組込まれたNeu5Gcを前記細胞系から除去することを含む、前記方法。
【請求項18】
Neu5Gc酵素経路を含む動物中のNeu5Gcの産生を減少させる方法であって、該動物中でのNeu5Gcの産生を減少させるか、または除去するのに有効な量のNeu5Ac、誘導体、類似体または前駆体を該動物に投与することを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501661(P2012−501661A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526302(P2011−526302)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/056361
【国際公開番号】WO2010/030666
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】