説明

仮締め判定方法

【課題】 サーボモータの機能を利用した締付装置の仮締め判定方法を提供する。
【解決手段】 現在値(A)のパルス数を取りみ、次いで0.02秒後の現在値(B)のパルス数を取り込み、B−A<50パルスか否かを計算する。B−A≧50パルスの場合は、上記を繰り返し、5回連続(0.1秒間)してB−A<50パルスとなった場合にはサーボモータ3が停止したと判断する。上記の如くして、サーボモータ3の現在値(パルス)を監視し、連続して5回パルス変化量が小さくなって、回転が止まったと判断したならば、そのときのパルス現在値(C)を取り込む。そして、パルス現在値(C)がC<20000(第1設定値)の場合には噛み込みと判定し、C≧100000(第2設定値)の場合には空回りと判定し、20000≦C<100000の場合には仮締めが正常になされたと判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付装置によってナット(ボルト)を仮締付けする際の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナットランナなどの締付装置によってナット(ボルト)を締付ける場合の締付け力の管理は、一般にトルクセンサを用いて行っている。
【0003】
例えば特許文献1には、第1基準トルク、第2基準トルクおよび第3基準トルクを設定し、正常状態でナットが座金などの被締付部材に当接したことを第1基準トルクで検出し、当接した時点から第2基準トルクに達するまでの時間、或いは第3基準トルクに達するまでの時間が設定値を超えた場合に停止信号を出すようにしている。
【0004】
特許文献2には、締付け角度当たりの締付けトルクであるトルクレートを算出し、このトルクレートが設定値を超えた場合に締付け不良と判定することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ナットの着座後に更に締付けるべき締付け量(回転角度)を設定しておき、この回転角度をサーボモータに付設したパルスジェネレータによって検出するようにし、また締付けの初期に発生する噛み込みを、所定時間が経過する前にトルクが設定値を超えたか否かで検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−237874号公報
【特許文献2】実開平2−23931号公報
【特許文献3】特開昭64−16379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
締付装置によってナットを締付ける場合のミスとして、ボルトの軸線とナットの軸線とが一致せずにナットがボルトに斜めに係合してしまう噛み込みと、空回り(ナットがボルトに食い付かないかソケット内にナットが無い)がある。
【0008】
特許文献1〜3に開示されるいずれの方法も、トルクセンサの出力を設定トルク値と比較し、設定トルク値を超えた場合にナットが着座したと判断しているが、噛み込みと空回りの両方を簡単に判別することが難しい。
【0009】
また、特許文献1〜3に開示された内容は、締付け開始から締付け終了まで、1つの締付装置によって行うことを前提としている。しかしながら、例えば自動車にタイヤを装着する場合などには、タイヤ装着のタクトタイムを短くしなければならず、従来のように1つの締付装置にナットの装着から締付けまでを行わせると、作業効率が悪くなる。この場合、仮締め用の締付装置と本締め用の締付装置を用意することになるが、仮締め用の締付装置における仮締め完了についての判断を上記の先行技術は示していない。
【0010】
ここで、仮締めとは、ナット等の締付部材が締付対象に対して着座する程度に締付けることをいい、言い換えれば、締付けた後に締付トルクを確認しない状態で締付作業を終了する締付動作のことで、正常に仮締めが行われた状態とは、ナット等の締付部材が締め付対象に対して着座した状態をいい、言い換えれば、締付部材の噛み込みや空回りが発生しない状態をいう。本締めとは、仮締めされた締付部材にさらに締付力を加えて、締付対象を固定することをいう。仮締め作業を行った後、本締め作業により、所定の締付トルクをかけることにより、締付作業を完了させる。
【0011】
特に、タイヤを取り付けるハブには通常4本または5本のボルトがあり、同時に4個または5個のナットを締付けることになるが、この場合、仮締めの判断をどのように行うかについては、先行技術には何ら示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく本発明は、サーボモータによって回転せしめられる締付装置による仮締め判定方法において、前記サーボモータの回転量をパルス数でカウントし、パルスの変化量が所定値以下になったことを条件としてサーボモータを停止し、このときまでのパルス数が第1設定値以下の場合を噛み込みと判定し、第1設定値と第2設定値との間の値の場合を正常な仮締めが行われたと判定し、サーボモータが停止することなくパルス数が第2設定値以上の場合を空回りと判定する。
【0013】
締付装置によって複数のナット(ボルト)を同時に仮締めする場合には、サーボモータが停止するまでのパルス数が前記第1設定値と第2設定値との間の値にあれば、複数個の締付部材の全てが着座しているか否かは判断せずに正常な仮締めが行われたと判定する。
【0014】
このようにすることで、無駄なく効率よく判定することができる。ただし、複数のナットの1つでも、噛み込み或いは空回りと判定された場合には、仮締め不良と判定し、締付装置を逆回転させてナットを取り外し、装置工程の外へタイヤを払い出す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高価なトルクセンサや回転角度検出器を用いることなく、パルスジェネレータを備えるサーボモータによって、締付装置による仮締めが正しく行われたか否かを確実に判断できる。
【0016】
本発明によれば、複数本のナットを同時に締付ける場合に、少なくとも1個のナットが噛み込みと空回りと判断された場合には、仮締めNGの判断を出し、また全てのナットに噛み込みまたは空回りがない判断された場合には、全てのナットが着座していなくとも仮締めOKの判断を出すことができるので、締付け効率が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る仮締付け判定方法を実施するロボットの全体図
【図2】本発明に係る仮締付け判定方法の詳細フロー図
【図3】サーボモータの分解能(パルス)と噛み込み、空回り及び正常締付けの判断との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
ロボット1は複数のアームからなる多関節ロボットであり、アームの先端にはタイヤ把持治具2を備え、このタイヤ把持治具2の背面側にはパルスジェネレータを備えたサーボモータ3が取り付けられている。
【0019】
前記サーボモータ3の軸4にはサンギヤ5が固着され、このサンギヤ5には複数の遊星ギヤ6が噛合し、この遊星ギヤ6によって締付装置のソケット7が回転せしめられる。
【0020】
前記ソケット7内にはナット8がマグネットによって保持され、タイヤ把持治具2で保持するタイヤ9をハブ10に対して移動し、タイヤホイールにハブボルト11を挿通せしめた状態で締付装置のソケット7を回転せしめて、ハブボルト11にナット8を仮締めする。
【0021】
尚、自動車の場合には、通常4本又は5本のハブボルト11があり、本実施例ではこれらハブボルト11に同時にナット8を仮締めする。
【0022】
次に、上記の多関節ロボット1を用いたナットの仮締めにおける判定方法について述べる。図2は本発明に係る仮締付け判定方法の詳細フロー図、図3はサーボモータの分解能(パルス)と噛み込み、空回り及び正常締付けの判断との関係を示すグラフである。
【0023】
本発明に係る判定方法は図2に示すように、サーボモータのパルス数によって着座したか否かを判定する。即ち、従来のトルクセンサや回転角センサを用いずにサーボモータの機能を利用して判定を行う。
【0024】
具体的には、図2および図3に示すように、仮締めスタートしてから現在値(A)のパルス数を取り込む。次いで0.02秒後の現在値(B)のパルス数を取り込み、B−A<50パルスか否かを計算する。
【0025】
B−A≧50パルスの場合は、上記を繰り返し、5回連続(0.1秒間)してB−A<50パルスとなった場合、つまり2500パルス/秒となった場合、換言すれば、サーボモータの分解能(パルス)が軸の回転につき4096パルスであるので、2500パルス/秒=0.61回転/秒(36.6rpm)となった場合にはサーボモータ3が停止したと判断する。
【0026】
上記の如くして、サーボモータ3の現在値(パルス)を監視し、連続して5回パルス変化量が小さくなって、回転が止まったと判断したならば、そのときのパルス現在値(C)を取り込む。
【0027】
そして、パルス現在値(C)がC<20000(第1設定値)の場合には噛み込みと判定し、C≧100000(第2設定値)の場合には空回りと判定し、
20000≦C<100000の場合には仮締めが正常になされたと判断する。
【0028】
上記第1設定値と第2設定値の数値の根拠は以下の通りである。即ち、サーボモータの分離能(パルス)を4096パルス/回転、締め込み長さ:18mm、ピッチ:1.5mmとすると、12回転で着座するが、タイヤオフセット面からの浮きを考慮して下限を5回転とすると、約20000パルスが下限値となる。また、締付け前の空回りを考慮して上限を24回転とすると、約100000パルスが上限値となる。
【0029】
したがって、締め込み長さ及びピッチに合せて、上記第1設定値と第2設定値は任意に変更することができる。
【0030】
実施例にあっては複数(4本)のハブボルト11に同時にナット8を仮締めする場合を示している。この例にあっては、サーボモータが停止するまでのパルス数が下限値を下回ったり、上限値を上回ったときには、締付け不良と判断して、締付装置を逆回転させて全てのナットを取り外し、装置工程の外へタイヤを払い出す。
【0031】
また、ナットの締付けについては仮締めと本締めに分け、それぞれを異なるロボットで行うことで、全体のタクトタイムを短縮することができるが、必ずしも工程を仮締めと本締めに分けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る仮締付け判定方法は、自動車の組立ラインのタイヤ装着工程などに効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…多関節ロボット、2…タイヤ把持治具、3…サーボモータ、4…サーボモータの軸、5…サンギヤ、6…遊星ギヤ、7…締付装置のソケット、8…ナット、9…タイヤ、10…ハブ、11…ハブボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータによって回転せしめられる締付装置による仮締め判定方法において、前記サーボモータの回転量をパルス数でカウントし、パルスの変化量が所定値以下になったことを条件としてサーボモータを停止し、このときまでのパルス数が第1設定値未満の場合を噛み込みと判定し、第1設定値と第2設定値との間の値の場合を正常な仮締めが行われたと判定し、サーボモータが停止することなくパルス数が第2設定値以上の場合を空回りと判定することを特徴とする仮締め判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の仮締め判定方法において、前記締付装置による締付部材の仮締めは同時に複数個行い、サーボモータが停止するときまでのパルス数が前記第1設定値と第2設定値との間の値の場合には、複数個の締付部材の全てが着座しているか否かは判断せずに正常な仮締めが行われたと判定することを特徴とする仮締め判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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