説明

仮被膜で被覆された撥水および/または撥油性外側被膜を有する光学物品

その主要面の一つの上に撥水および/または撥油性の外側被膜を有する光学物品であって、乾燥ポリウレタンラテックス仮コートを含む仮コートが撥水および/または撥油性外側被膜上に直接デポジットされている光学物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は概して光学物品に係わり、特に撥水特性および/または撥油特性を有する外側被膜(トップコート)を具えた眼科用レンズに係わる。
【背景技術】
【0002】
撥水および/または撥油性の外側被膜は当該技術分野で良く知られている。
典型的には反射防止被膜と共に設けられる上記撥水および/または撥油性外側被膜の用途は眼科用レンズの汚損防止である。外側被膜は大抵の場合フルオロシラン系材料から成り、この材料は表面エネルギーを低下させて油脂性汚れの付着を防止し、従ってそのような汚れの除去を容易にする。
【0003】
撥水および/または撥油性外側被膜の問題点の一つに、該被膜の性能が、エッジング時のレンズの取り付けにおいて必要とされる接着パッドと撥水および/または撥油性被膜表面との界面付着を低下させ、さらには損なうことになるということが有る。
【0004】
エッジングは眼科用レンズに最後に施される仕上げ工程であり、レンズの縁または周縁部を機械加工して該レンズの寸法および形状を、嵌め込まれる眼鏡フレームに適合するように調節する作業である。
エッジングは、上記のような機械加工を行なうダイヤモンド砥石車を具備した自動研削機において行なわれ、従ってエッジングされるレンズは研削機に固定されていなければならない。
【0005】
そのため、最初に締め付け装置がレンズ凸面の中央に両面接着パッドなどの接着パッドによって固定される。
接着パッドを介してレンズが付着した締め付け装置は研削機の取り付け軸線上に機械的に固定され、軸線方向に伸長するアームがレンズの、締め付け装置が位置するのとは反対の側に中心力を印加することによってレンズの移動を阻止する。
エッジングの際、レンズのオフセットは2°を越えてはならず、好ましくはせいぜい1°までであるべきであり、従ってレンズ表面へのパッドの付着は良好なエッジングのために重要である。
【0006】
撥水および/または撥油性外側被膜を具えたレンズのエッジングにおける上記のような問題を克服するべく、撥水および/または撥油性被膜上に有機または無機質の仮被膜を形成することが提案されている。例えばESSILOR名義の特許文献1および2は、表面エネルギーを高め、それによって眼鏡技術者がレンズのエッジングを確実に行なえるようにする有機または無機質の仮被膜の使用を記載している。エッジング後、仮被膜は撥水および/または撥油性外側被膜の表面特性を回復するために除去される。当然ながら、仮被膜が除去された後、撥水および/または撥油性外側被膜は可能な限りその初期特性と同様の表面特性を有するべきである。
特許文献1および2に記載された仮被膜はその除去後に、優れた表面特性と大きい静的水接触角(典型的には112°)とを有する撥水および/または撥油性外側被膜をもたらすが、前記接触角の値はさらに大きい方が好ましい。
【0007】
必要であれば、光学物品に主要なエッジングを施した後にエッジング作業を再開し、および/またはレンズへの穴開けを行なうことも可能であり、穴開けされた領域は眼鏡フレームのテンプルへの固定箇所として機能する。
これらの最終工程、特にレンズへの穴開けでは、締め付け装置−接着保持パッドアセンブリが物品表面で一箇所に留まることが重要であり、なぜなら該アセンブリは穴開けドリルの位置決めを可能にする目印となるからである。
【0008】
特許文献3に記載された膜は主要なエッジングを可能にはするが、主要エッジング後数秒以内に締め付け装置−接着保持パッドアセンブリが自然に分離することが一貫して観察されている。
また、エッジング開始当初から、エッジング作業の間中物品に吹き付けられる水が捲れ上がる仮膜の下側へ浸透すると考えられる。このような状況下では、後にエッジングを再開したりレンズへの穴開けを行なったりすることは不可能となる。
【0009】
特許文献4では有機材料をMgF層上にデポジットすることが検討されている。従って、有機材料の仮膜は撥水および/または撥油性外側被膜上に直接デポジットされない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1 392 613号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 633 684号
【特許文献3】国際公開第WO05/015 270号
【特許文献4】国際公開第WO03/05 7641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、仮コートで直接被覆された撥水および/または撥油性外側被膜を有する光学物品、特に眼科用レンズを提供することを目的とし、前記仮コートは
―仮コート除去後、撥水および/または撥油性外側被膜がその初期特性とほぼ同様の特性、特に初期のものとほぼ同様の静的水接触角を有して回復されることを可能にし、および/または
―必要であればエッジングの再開を可能にし、および/または
―レンズに穴を開け、眼鏡フレームのテンプルへの固定箇所となる穴開き領域を設けることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、その主要面の一つの上に表面エネルギーの低い撥水および/または撥油性外側被膜を有する光学物品であって、乾燥したポリウレタンラテックス主体の組成物から成る仮コートが撥水および/または撥油性外側被膜上に直接デポジットされている光学物品によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好ましくは可剥性である仮コートの厚みは通常10〜40μmで、好ましくは15〜30μm、さらに好ましくは15〜20μmであり、またその破断点伸びは好ましくは200%以下、さらに好ましくは150%以下である。
【0014】
仮コートをデポジットする方法次第では該コートの厚みが局所的に変動する場合も有る。特に、液状被覆組成物含有浴への浸漬によるディップコーティングでは、コート厚みはレンズの下方へゆくほど大きくなる(レンズ下方部分は仮被覆組成物液と最初に接触し、レンズが取り出される際には最後に浴を離れる)。
仮コートの平均厚みはレンズ面の3箇所、すなわちディップコーティングの場合であれば中心地点と、上方地点(レンズ周縁から5mm前後)および下方地点(レンズ周縁から5mm前後)の対向する2地点とで測定した三つの厚みから求められる。
平均厚みの範囲は上記厚みの範囲と同じである。
【0015】
好ましくは、仮コートの表面エネルギーは15mJ/m以上であり、さらに好ましくは20mJ/m以上、さらに好ましくは30mJ/m以上である。さらに好ましくは、仮コートの表面エネルギーの極性力成分は26mJ/m未満である。
【0016】
本明細書中に用いた「光学物品」という語は、光透過性の有機または無機ガラス支持体であって、処理されて様々な特性の被膜を一つ以上有するか、または処理されずに剥き出しのままであるものを意味するものとする。
【0017】
表面エネルギーは、“Estimation of a surface force energy of polymers(ポリマーの表面力エネルギーの推定)”, OWENS D.K., WENDT R.G.(1969), J. Appl. POLYM. SCI., 13, 1741−1747に記載されたOWENS−WENDT法に従って計算する。
【0018】
本発明の光学物品は撥水および/または撥油性外側被膜を有する光学物品、特に眼科用レンズであり、好ましくは、単層または多層反射防止被膜上にデポジットされた撥水および/または撥油性外側被膜である外側被膜を有する光学物品である。
【0019】
実際、撥水および/または撥油性外側被膜は通常、特に無機材料から成る反射防止被膜を有する光学物品の、例えば油脂性付着物によって汚れる傾向を減少させるべく該物品に適用される。
周知のごとく、撥水および/または撥油性外側被膜は、光学物品の表面エネルギーを低下させる化合物を反射防止被膜表面に適用することによって得られる。
そのような化合物は従来技術において広く開示されており、例えば米国特許第4,410,563号、欧州特許第0 203 730号、同第749 021号、同第844 265号、および同第933 377号に記載されている。
大抵の場合、フッ素化基、特にパーフルオロカーボンまたはパーフルオロポリエーテル基を有するシランを主体とする化合物が用いられる。
その好適例には、上記のようなフッ素化基を1個以上有するシラザン主体、ポリシラザン主体、またはシリコーン主体の化合物が含まれる。
【0020】
公知の一方法では、反射防止被膜上にフッ素化基およびSi−R基を有する化合物がデポジットされ、その際前記RはOH基かまたはその前駆体で、好ましくはアルコキシ基である。このような化合物はデポジットされると直ちに、または加水分解後に反射防止被膜表面において重合および/または架橋反応を生起させ得る。
光学物品の表面エネルギーを低下させる化合物の適用は通常、化合物を主体とする溶液への浸漬、スピンコーティング、あるいは特に化学蒸着によって行なわれる。
【0021】
通常、撥水および/または撥油性外側被膜の厚みは10nm未満であり、好ましくは5nm未満である。
通常、表面エネルギーの低い撥水および/または撥油性外側被膜は14mJ/m以下、好ましくは13mJ/m以下、さらに好ましくは12mJ/m以下の表面エネルギーを有する。
【0022】
先に述べたとおり、本発明の仮コートは、撥水および/または撥油性外側被膜上に直接デポジットして乾燥されたポリウレタンラテックス主体の組成物から成るコートである。
周知のように、ラテックスとは、ポリマーまたはコポリマー粒子が水性媒質中に分散した系である。水性媒質は水、例えば蒸留水または脱イオン水であっても、水と1種以上の溶媒、特に水とアルカノールとの組み合わせであってもよく、その際アルカノールは通常C1〜C6アルカノールで、好ましくはエタノールである。
【0023】
本明細書中に用いた「ポリウレタン」という語は、厳密な意味でのポリウレタン(コ)ポリマー、すなわち少なくとも1種のポリイソシアネートおよび少なくとも1種のポリオールを、場合によっては連鎖延長剤を加えて縮合させることにより得られるポリマーと、ポリウレタン−尿素、すなわち少なくとも1種のポリイソシアネートおよび1種のポリアミンを、場合によっては連鎖延長剤を加えて縮合させることにより得られる(コ)ポリマーとの両方、さらにはこれらの混合物も包含する。
【0024】
好ましくは、本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素はジイソシアネートと、ジオールおよび/またはジアミンとの縮合によってもたらされる。さらに好ましくは、本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素は脂肪族、線状または環状ポリウレタンおよびポリウレタン−尿素であり、すなわち脂肪族、線状または環状ポリイソシアネートと脂肪族、線状または環状ポリオールおよび/またはポリアミンとの縮合によって得られる。
【0025】
本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素の製造に好適に用いられるポリイソシアネート、特に、好ましいジイソシアネートには、例えばトルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、ビス(イソシアノエチル)フマレート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、エチレンジイソシアネート、ドデカン−1,12−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、パーヒドロジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、パーヒドロフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(もしくはビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)−メタン、もしくは4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0026】
好ましいポリイソシアネートは、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ドデカン−1,12−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)−メタン、およびこれらの組み合わせなどの脂肪族ジイソシアネートである。イソホロンジイソシアネートが最も好ましい。
本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素に好適に用いられる他のポリイソシアネートは、国際公開第WO98/37 115号に詳細に記載されている。
【0027】
本発明のポリウレタンに好適に用いられるポリオールの例には、ペンタエリトリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジ(トリエチロールプロパン)ジロチロールプロピオン酸、エチレングリコール、1,2−および1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,2−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、ビス(ヒドロキシプロピル)アラントイン、およびトリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが含まれる。
【0028】
好ましいポリオールは脂肪族ジオール、特にポリプロピレングリコールである。
本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素に好適に用いられるポリオール類としては、ポリオキシアルキレンポリオールなどのポリエーテルポリオール、ポリ(オキシテトラメチレン)ジオールなどのポリアルコキシル化ポリオール、およびこれらの組み合わせも挙げられる。
【0029】
最も好ましいポリアミンはジアミン、特に脂肪族、線状および環状ジアミンである。
好適なジアミンには、ジアミノメタン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、およびトリメチルアミンが含まれる。
本発明のポリウレタンおよびポリウレタン−尿素の製造には、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンなどのアミノアルコールも好適に用い得る。
【0030】
ポリウレタンとその製法は、特に米国特許第6,187,444号に記載されている。
好ましくは、本発明のポリウレタンはアクリル酸またはメタクリル酸官能基、特に重合可能なアクリル酸またはメタクリル酸官能基を有しない。
【0031】
本発明に好適に用いられるポリウレタンラテックスが市販されており、例えばBAXENDEN社から商品名W234およびW240の下に市販されているもの(ポリウレタン−尿素)や、SOCOMOR社から商品名Pellimer TCtmの下に市販されているもの(ポリウレタン−尿素)、およびSYNTRON社から商品名PROXR 910(R)(ポリウレタン)の下に市販されているものなどである。
後段でPellimer TCを水で稀釈して用いる(80重量%のPellimer TCと20重量%の水とから成る混合物を調製)。その際、得られる混合物をTC80Fと呼称する。
本発明のポリウレタンラテックス主体の組成物は、当然ながら、ポリウレタンラテックス、特に市販ポリウレタンラテックスの混合物であってもよい。
【0032】
本発明の特定の実施形態においてポリウレタンラテックス主体の組成物は、該組成物の10重量%までという少量の(メタ)アクリル型ラテックス、好ましくはアクリル型ラテックスも含有する。好ましくは、重量に基づく(メタ)アクリル型ラテックスの分量はラテックス組成物の総重量の0.1〜10重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。
アクリル型ラテックス乾燥物の、乾燥組成物の総重量に対する重量によって表わされる分量も好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。
【0033】
(メタ)アクリル型ラテックスの存在により、材料の親水性が低下すると共に、最終的な乾燥コートがより硬質となり、その破断点伸びは減少するという有利な結果が得られる。
このような(メタ)アクリル型ラテックスは市販されており、特にSYNTRON社から商品名PROXAM 185 RS(R)(アクリル樹脂)、PROXAM 157(R)(アクリルコポリマー)、PROXAM N 360(R)(アクリルコポリマー)の下に市販されている。
【0034】
好ましくは、本発明のPU型ラテックス主体の組成物は無機質もしくはマグネシウムのコロイド粒子を含有しない。
無機酸化物もしくは酸化マグネシウムのコロイドは本発明の有利な成果、特に接着パッドの付着の実現に必要でない。
【0035】
本発明のPU型ラテックス主体の組成物は通常、好ましくは1種以上の界面活性剤も含有し、その分量は通常ラテックス組成物の総重量の0.5〜10重量%で、好ましくは0.5〜6重量%である。
【0036】
通常、本発明のPU型ラテックス主体の組成物の固体含量(乾燥物として)は該ラテックス主体組成物の総重量の25〜55重量%であり、好ましくは25〜50重量%、さらに好ましくは25〜45重量%である。
本発明のラテックス組成物の室温における粘度は、好ましくは5〜50cp、さらに好ましくは7〜46cpである。
【0037】
本発明の仮コートは撥水および/または撥油性被膜上に任意の手段でデポジットすることができるが、好ましくはディップコーティング、スピンコーティング、吹き付け、またはブラシの使用(ブラシコーティング)によって、なかでもディップコーティングによってデポジットされ得る。
デポジションはレンズの、接着保持パッドが当てられる側の全面に行なってもよいし、その一部分、特にレンズ中央部に対して行なってもよい。
一実施形態では、仮コートは中央部に、ブラシによって設けられる。
【0038】
好ましくは仮コート表面上に付加的な被膜は存在せず、すなわち仮コートは好ましくは単層状であり、エッジング時、接着保持パッドはポリウレタンラテックス主体の仮コートの表面に直接接触する。
好ましくは、仮コートは光学的に不活性であり、すなわちフロントフォコメーター(frontofocometer)など従来の測定手段を用いてパワーを測定することを可能にする。
【0039】
本発明のラテックス組成物は適用後、通常加熱によって乾燥させ、この加熱は典型的には40℃〜80℃の温度で数分乃至数時間実施する。
化学線放射を要しない単純な乾燥によって、本発明の優れた成果が得られる。
組成物が光重合開始剤を含有する必要は無い。
好ましくは、ラテックス組成物は加熱するか、または室温に維持することにより単一工程で乾燥させる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例で、本発明を具体的に説明する。特に断らないかぎり、実施例中に示した部分およびパーセンテージは総て重量に基づく。
1.実施例で用いたラテックス組成物
実施例で用いたラテックス組成物の詳細を、次の表Iにまとめる。
【0041】
【表1】

【0042】
表I中、括弧に入れて示した数値は用いた液状成分(ラテックス液、界面活性剤、…)の分量に相当する。
得られた組成物、および原料物質の乾燥物の総量を表Iの右列に示す。
【0043】
2.ラテックス組成物7および8番の調製
PROX R 910(R)を計量してビーカーに入れ、これに、いずれも計量したPROX AM 185RS(R)、ACTIRON F 487(R)、場合によってはさらにMODAREZ PW 336(R)を逐次加え、得られた混合物をRAYNERIE(直径35mmの解膠タービン)を用いて攪拌する。攪拌は最初低速で行ない、次いで1800rpmまで徐々に加速した後約2時間半継続する。
混合物は一晩放置(微小気泡除去)後に使用する。
【0044】
3.乾燥ラテックス組成物仮コートの表面エネルギー特性測定
― 試料の調製
ジエチレングリコール−ビスアリルカーボネート(PPG社のCR 39(R)−ESSILOR社のORMA(R))コポリマーから成る2面型、ベース6(biplane, base 6)の剥き出しの支持体上にラテックス組成物を、脱湿潤速度1mm/sおよび待機時間10秒のディップコーティング装置を用いるディップコーティング法によってデポジットする。得られた被覆試料をオーブに入れ、50℃で2時間乾燥する。
【0045】
― 表面エネルギー特性の測定
表面エネルギー、総エネルギー、分散力成分、および極性力成分などの特性を、DIGIDROP GBX装置を用いるOWENS−WENDT法で測定する。
比較のため、2種の撥水および/または撥油性被膜、すなわちDAIKIN社のOPTOOL DSX(R)およびSHINETSU社のKY 130の表面エネルギー特性も示す。
結果を下記表IIに示す。
【0046】
【表2】

【0047】
― 実施例1〜10および比較例C1〜C6
欧州特許第1 392 613号の実施例1に述べられているように、耐摩耗性被膜、反射防止被膜、並びに撥水および/または撥油性外側被膜(OPTOOL DSX: 厚み2.6nm)をこの順序で設けることにより予め被覆した
− ORMA(R)支持体(球面−5.00; 円柱+2.00; 直径65mm; 中心厚み1.9mm)、
− ポリカーボネート支持体(球面−8.00; 円柱+2.00; 直径65mm; 中心厚み1.3mm)、
− ORMIX(R) 1.6支持体(球面−8.00; 円柱+2.00; 直径65mm; 中心厚み1.1mm)
の上に仮コートを、先に述べたようにして形成した。仮コートの形成具合を目視で検査し、試料に対してエッジング試験および穴開け試験を行なった。仮コートの特性および試験結果を表IIIに示す。
【0048】
エッジングを施したレンズにおけるオフセットの測定手順
I−試験方法
エッジング試験はEssilor Kappa研削機において行なう。
レンズを所定のフレーム型板の形状に合わせてエッジングする(下記参照)。
試験の実施に必要な機器類は次のとおりである:
Essilor CLE 60フロントフォコメーター(レンズへの印点および最終検査用);
Essilor Kappaデジタル装置(トレーサー−ブロッカー−研削機);
Charmant 8320番、モデル05、サイズ51タイプのフレーム型板;
検査用模擬フレーム。
3M社の接着ピースもしくは接着保持パッドLEAP II、直径24mm、GAM200。
接着ピースを受容するEssilor締め付け装置。
【0049】
II−試料作製および取り付けパラメーター
いずれの場合も、取り付けディメンションは次のとおりである。
高さ: ハーフハイト ボクシング、すなわち
PD(左右)=32mmおよび軸=90°
トリミングサイクルは材料に適合したものを用いる(低屈折率用のプラスチックサイクル、PC用のポリカーボネートサイクル、および中程度の屈折率を有する支持体MHI用のサイクル)。締め付け圧はいずれの場合も、研削機において脆弱なガラスを加工する際に選択される圧力とする。
【0050】
III−検査
エッジング後、エッジング作業が成功したかどうか判断するべく検査する。
検査はフロントフォコメーターCLE 60を用いて、模擬フレームに嵌め込んだレンズに印点することにより行なう。この段階で軸を記録する。
【0051】
エッジングしたレンズを模擬フレームに嵌め込むことができない場合や、模擬フレームに嵌め込むことはできてもオフセットが2°を上回る場合はレンズが不適合ということであり、そのようなレンズは合格としなかった。このことを、結果の表では「−」で示す。
オフセットが2°を下回るレンズは合格であり、このことは表中「×」で示してある。
【0052】
エッジング後の穴開け
エッジング後、レンズと、該レンズに強固に付着した締め付け装置/接着パッドとから成るレンズおよび締め付け装置/接着パッドアセンブリをOptodrillまたはMinima2穿孔機に取り付け、ブロック装置で固定する。
レンズへの穴開けを、
− 3500rpmで回転する2.2mm径ドリルを具備したMinima2穿孔機を用いて手動で行なうか、または
− 12000rpm回転する2.2mm径ドリルを具備したOptodrill Evo穿孔機を用いて自動で行なう。
穴開け後、ブロックシステムを解除し、穴の開いたレンズを締め付け装置/接着パッドアセンブリと共に回収する。
穴の開いたレンズから締め付け装置を取り外す。
穿孔機においてレンズを位置決めすることができ、従って穴開け作業を支障なく行なえる時、表III中に「×」を記す。そうでない場合は「−」を記す。
【0053】
実施例1〜8および比較例C1〜C6のレンズではエッジング後に接着パッドがその接着性を失い、穴開けができない。
実施例9および10のレンズでは、接着パッドはエッジング後もレンズに固着したままであり、穿孔機においてレンズを位置決めし、適正な穴開けを行なうことができる。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例8の試料から仮コートを除去した後、撥水および/または撥油性外側被膜の水接触角を測定し、仮コートデポジション前の同じ撥水および/または撥油性外側被膜の水接触角の値と比較した。HANDOK OPTEC社からの市販品Platinum(R)(屈折率1.56の支持体)の水接触角も比較のために測定した。
撥水および/または撥油性被膜を苛性ソーダで処理後、測定を繰り返した。
結果を表IVに示す。
【0056】
【表4】

【0057】
接触角の測定はKRUESS DSA 10ゴニオメーターを用いて行ない、その際清浄化し、かつ乾燥したレンズ表面に脱イオン水を5滴(1滴当たり4μl)、1滴はレンズ面の中心、他の4滴は該中心から20mm離れたところに滴下する。
撥水および/または撥油性被膜の耐性を調べるために行なう苛性ソーダ処理では、レンズを0.1Nソーダ溶液に1分間浸漬し、次いで水およびイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥して接触角を測定し、その後レンズを再び0.1Nソーダ溶液に、今度は29分間浸漬し、洗浄および乾燥後に接触角を測定する。これらの測定で得られた値の平均を接触角値とする。
苛性ソーダ処理を行なわない時および行なった時の接触角平均値が下記のように規定された目標値に近似する場合、レンズはソーダ処理によって損なわれなかったと見なされる。
【0058】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の仮被膜は、湿式デポジションを可能にし、仮コートの上からレンズにマーキングすることを可能にし、仮被膜除去後に撥水および/または撥油性被膜の表面エネルギーが低いままに保たれ、特に水接触角がより良く維持されることを可能にし、従って融通性が高く、すなわち様々な撥水および/または撥油性コート上にデポジットすることができるという利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その主要面の一つの上に撥水および/または撥油性の外側被膜を有する光学物品であって、乾燥したポリウレタンラテックス主体の組成物から成る仮コートが撥水および/または撥油性外側被膜上に直接デポジットされている光学物品。
【請求項2】
撥水および/または撥油性外側被膜の表面エネルギーが14mJ/m以下、好ましくは13mJ/m以下、さらに好ましくは12mJ/m以下である請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
仮コートの表面エネルギーが15mJ/m以上、好ましくは20mJ/m以上、さらに好ましくは30mJ/m以上であり、該表面エネルギーの極性力成分は好ましくは26mJ/m未満である請求項1または2に記載の光学物品。
【請求項4】
仮コートの厚みが10〜40μm、好ましくは15〜30μm、さらに好ましくは15〜20μmである請求項1から3のいずれかに記載の光学物品。
【請求項5】
仮コートの破断点伸びが200%以下、好ましくは150%以下である請求項1から4のいずれかに記載の光学物品。
【請求項6】
ポリウレタンラテックス主体の組成物が少なくとも1種のポリウレタンラテックスと、少なくとも1種のポリ(メタ)アクリルラテックス、好ましくはポリアクリルラテックスとの組み合わせである請求項1から5のいずれかに記載の光学物品。
【請求項7】
ポリウレタンラテックス主体の組成物が0.1〜10重量%、好ましくは2〜6重量%のポリアクリルラテックスを含む請求項6に記載の光学物品。
【請求項8】
ポリウレタンラテックス主体の組成物の固体含量が該ラテックス主体組成物の総重量の25〜55重量%、好ましくは25〜50重量%、さらに好ましくは25〜45重量%である請求項1から7のいずれかに記載の光学物品。
【請求項9】
ポリウレタンラテックス主体の組成物が少なくとも1種の界面活性剤を含む請求項1から8のいずれかに記載の光学物品。
【請求項10】
界面活性剤がポリウレタンラテックス主体の組成物の総重量の0.5〜10重量%、好ましくは0.5〜6重量%を占める請求項9に記載の光学物品。
【請求項11】
仮コートが可剥膜である請求項1から10のいずれかに記載の光学物品。
【請求項12】
撥水および/または撥油性外側被膜が単層または多層反射防止被膜上にデポジットされている請求項1から11のいずれかに記載の光学物品。
【請求項13】
眼科用レンズである請求項1から12のいずれかに記載の光学物品。

【公表番号】特表2009−538439(P2009−538439A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511558(P2009−511558)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051310
【国際公開番号】WO2007/138215
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】