説明

伝動ベルト用ゴム組成物

【課題】無機質白色充填剤と軟化剤を含むゴム組成物を分散が良く、かつ生産性を損なうことなく製造する伝動ベルト用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤を事前に原料ゴム中に分散させ、軟化剤との直接接触を遮断し、凝集塊をなくした伝動ベルト用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト用ゴム組成物に関するもので、さらに詳しくは無機質白色充填剤と軟化剤の分散性が良好でしかも生産性の良好な伝動ベルト用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に無機質白色充填剤は、ゴム増量剤、ゴム補強剤、ゴム物性改良剤等として用いられているが、無機質白色充填剤は、カーボンブラックと比較してゴムへの分散性が困難なものが多い。通常、無機質白色充填剤を配合したゴム組成物の製造においては、混練り時間を短縮する為にゴムと充填剤、カーボンブラック、軟化剤とを同時に投入して混練りすることが行われるが、混練りミキサーでの混練り時には、ローターの回転によりゴムが流動化すると同時に充填剤自身を圧縮してしまう為、結果として練りゴム中に充填剤の大きな凝集塊が散在することになっていた。
【0003】
さらに、軟化剤と直接接触すると高度に粘着性を有した凝集塊と化し、ミキサー内部に付着し分散性と排出性が大きく損なわれて品質と生産性を大きく低下させる不具合となっていた。ミキサー内部に残存した凝集塊を多大の時間を要して掃除し、他のゴムへの混入を防止したり、分散性を改善するために混練り時間を長くしたり、或いは練り上がったゴム混練物を再度混練りする方法が採用されているが、一旦ゴム中に形成された凝集塊の再分散は容易ではなかった。この傾向は、特にゴムとしてムーニー粘度が低い場合に顕著であった。これは、ゴム混練り時の剪断作用が得られにくいためと考えられる。
【0004】
このように無機質白色充填剤と軟化剤のゴムへの分散性が充分でない場合には、ゴム物性に悪影響を与え、例えばジエン系ゴムを主成分とする伝動ベルト用ゴム組成物においては、耐屈曲クラック性の低下を招き易いという問題があった。
【0005】
又、特許文献1によると、一回目の予備混練り工程において、天然ゴムを50phrとカーボンブラックを30phrと活性剤を3phrを混練り機に入れ混練りする。2回目の本混練り工程では、予備混練り工程で練り上げられたゴムに、原材料のうちの残りの原材料を混練り機に入れ混練りする。このように、粘度のばらつきが大きい天然ゴムは、予備混練り工程で、予め充填剤を分散させておいて安定した状態を作り、然る後に、本混練り工程で、粘度のばらつきが小さいブタジエンゴムと残りの充填剤を入れて混練りすることによって、練られたゴムの粘度のばらつきを小さくできる、とある。
【0006】
【特許文献1】特開平7‐47543号
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法は、練られたゴムの粘度のばらつきを抑える為の手段であって、無機質白色充填剤のゴム組成物内での分散性を良くすることを目的としたものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、無機質白色充填剤と軟化物を含むゴム組成物を分散が良く、かつ生産性を損なうことなく製造できる伝動ベルト用ゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本願請求項1記載の発明は、ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤を事前に原料ゴム中に分散させ、軟化剤との直接接触を遮断し、凝集塊をなくした伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【0010】
請求項2に記載の発明は、ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤とゴムとを予備練りして第一混合物を製造し、該第一混合物に無機質白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする伝動ベルト用ゴム組成物である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記第一混合物を製造後、第一混合物の温度を室温迄低下させ、その後無機白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしてゴム組成物とした請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記第一混合物を製造後、引き続き無色白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記ゴムが硫黄変性クロロプレンゴムであって、前記第一混合物を製造する際に、ゴム温度が120°Cに達すると無機質白色充填剤とゴムとの混練りを停止する請求項2から4のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記ゴム組成物がその温度が90°C〜110°Cの範囲に達する迄混練りを行ったものである請求項2から5のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記無機白色充填剤が炭酸カルシウムである請求項1から6のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物にある。
【発明の効果】
【0016】
本願請求項1記載の発明では、ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤を事前に原料ゴム中に分散させ、軟化剤との直接接触を遮断し、凝集塊をなくした伝動ベルト用ゴム組成物であることから、耐屈曲クラック性を向上した伝動ベルト用ゴム組成物とすることができるという効果がある。
【0017】
請求項2に記載の発明では、ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤とゴムとを予備練りして第一混合物を製造し、該第一混合物に無機質白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする伝動ベルト用ゴム組成物であることから、無機質白色充填剤と軟化剤を含むゴム組成物を、分散性が良く、かつ生産性を損なうことなく製造できるという効果がある。
【0018】
請求項3に記載の発明では、前記第一混合物を製造後、第一混合物の温度を室温迄低下させ、その後無機白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしてゴム組成物とした請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物であることから、無機質白色充填剤の分散性がさらに良くなった伝動ベルト用ゴム組成物とすることができる効果がある。
【0019】
請求項4に記載の発明では、前記第一混合物を製造後、引き続き無色白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物であることから、分散性を低下することなく生産性を向上させた伝動ベルト用ゴム組成物とすることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、前記ゴムが硫黄変性クロロプレンゴムであって、前記第一混合物を製造する際に、ゴム温度が120°Cに達すると無機質白色充填剤とゴムとの混練りを停止する請求項2から4のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物であることから、第一混合物を製造時に硫黄変性クロロプレンゴムの過加硫を防ぐ効果がある。
【0021】
請求項6に記載の発明では、前記ゴム組成物がその温度が90°C〜110°Cの範囲に達する迄混練りを行ったものである請求項2から5のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物であることから、第二ゴム組成物が過加硫となることはないという効果がある。
【0022】
請求項7に記載の発明では、前記無機白色充填剤が炭酸カルシウムである請求項1から6のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物であることから、炭酸カルシウムを用いた場合が、事前に原料ゴム中に分散させることで凝集塊をなくすことができる効果が最も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者は、前記目的を達成する為に、鋭意研究を重ねた結果、無機質白色充填剤、カーボンブラック、軟化剤とゴムとを混練りすることにより、ミキサー内部に密着せず練りゴムの排出を妨げることもなく、更に凝集塊が形成されることもなく、無機質白色充填剤と軟化剤を混練りする場合の生産性と分散性の向上に有効であることを見出した。
【0024】
更には混練りミキサーにより、無機質白色充填剤を事前に原料ゴム中に分散させ、軟化剤との直接接触を遮断することで凝集塊の発生を防止するものと考えられる。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。すなわち本発明は、混練りミキサーにより、配合剤とゴムとを混練りするに際して、無機質白色充填剤と原料ゴムを先行して予備練りした後に、軟化剤を添加して本格的に混練りすることを特徴とするゴム組成物の製造方法を提供することにある。
【0025】
本発明においては、混練りミキサーで、先ず無機質白色充填剤と原料ゴムを予備練りした後、軟化剤を添加することが必要である。ここで、混練りミキサーには、バンバリーミキサー、混練り押し出し機等が用いられるが、通常は高能率の混練りが可能なバンバリーミキサーが用いられる。軟化剤の添加に先行して無機質白色充填剤と原料ゴムの予備練りを行うのは、無機質白色充填剤と軟化剤が直接接触して高粘度の凝集塊が一旦形成してしまうと、その後の再分散が困難となるからである。従って、混練りの初期段階において、高粘度の凝集塊を発生させない為に、先ず無機質白色充填剤と原料ゴムを予備練りして軟化剤と直接接触するのを防止し(第1工程)、その後に軟化剤と他の充填剤を投入することでスムーズに予備練りゴム中に取り込まれるという作用により、生産性(加工性)と分散性が良好な練りゴムが得られる。(第2工程)
【0026】
ここで、ゴムが硫黄変性クロロプレンゴムの場合は、第1工程で第1混合物の温度が上がり過ぎてしまうと、第1混合物の加硫が進行してしまい、加硫剤を投入したときに加硫しにくくなり、ゴム物性も低下することから、第1混合物の温度が120°Cに達すると無機質白色充填剤とゴムとの混練りを停止することが好ましい。
【0027】
又、前記第2工程で、ゴム組成物の温度が90°C〜110°Cの範囲に達する迄混練りを行うことが好ましい。そうすることによって、第2ゴム組成物が過加硫となることは無くなる。
【0028】
無機質白色充填剤と原料ゴムの予備練り段階においては、無機質白色充填剤と原料ゴムのみを予備練りする以外に他の配合剤を適宜添加して混練りしても良い。ここで、他の配合剤としては、例えばしゃく解剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。
【0029】
又、無機質白色充填剤としては、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の炭酸塩類、湿式及び乾式シリカ、クレー、タルク、ウォラストナイト等の各種珪酸塩類、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化金属類が用いられるが、炭酸カルシウムを用いた場合に本発明の方法の効果が最も高い。
【0030】
軟化剤としては、鉱物油系、植物油系、合成等の各種ゴム用、或いは樹脂用軟化剤が用いられ、鉱物油系としては、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系等のプロセス油等が用いられ、植物油としては、ひまし油、綿実油、あまに油、菜種油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油等が使用される。また、フタル酸エステル、フタル酸混基エステル、脂肪族二塩基酸エステル、グリコールエステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、ステアリン酸エステルの各種エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、その他プラスチック用可塑剤、又はフタレート系、アジペート系、セバケート系、フォスフェート系、ポリエーテル系、ポリエステル系等の可塑剤も使用される。
【0031】
又、ゴム成分としては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレン合成ゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、硫黄変性クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)やハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)等が挙げられるが、これらのゴムは一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせても用いても良い。本発明は、上記のゴムのうち、ジエン系ゴム及びエチレン−プロピレンゴムを用いた場合に効果が顕著であるので、特にこれらのゴムを主成分とする伝動ベルト用ゴム組成物に好適に用いられる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。尚、得られた各ゴム組成物の物性は下記の方法に従って求めた。
(1)分散性 無機質白色充填剤の分散性サンプルにて従来品との比較により、従来品のものを100として、指数表示した値である。この凝集塊率は充填剤の分散度を表し、数値が大きい程、分散が良好である。尚指数200は凝集塊が皆無を示す。
(2)ミキサー内部への付着性 ミキサーでゴム組成物を混練りしたときのミキサー内部への無機質白色充填剤と軟化剤の高粘度凝集塊の付着性を従来品との比較で示した。数値が小さいほど付着性が小さく、加工性が良好である。
【0033】
実施例
天然ゴム100質量部に、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製、MKS−C)30質量部、クレー(山陽クレー工業(株)製、オカライトR)25質量部、軟化剤(和歌山石油精製(株)製、フッコールMP−350)5質量部、亜鉛華5質量部、ステアリン酸1質量部、シャク解剤(大内新興工業(株)製、ノクセラーDM−P)0.6質量部及び硫黄3質量部を含有するゴム組成物を、以下に示す方法に従って製造した。
【0034】
図1に示すバンバリーミキサー1に、先ず、上記天然ゴム、炭酸カルシウム、亜鉛華、ステアリン酸、シャク解剤、クレーを原料投入口6より投入し、ラム2を下げ、5分間予備練りを行った後に、排出口7より排出し、一度室温迄冷却した後、再度投入口6より投入し、続けて前記の軟化剤と加硫促進剤、硫黄を全て投下しラム2を下げて、ケース4内で回転するローター3により2分間混練りを行い、ゴム温度が100°Cになる迄混練りし、排出口7より落下した。このようにして得られたゴム組成物の性状を表1に示す。
【0035】
従来例
従来例は実施例で行った天然ゴム、亜鉛華、ステアリン酸、シャク解剤に炭酸カルシウムを加えた予備練りは行わず、天然ゴム、亜鉛華、ステアリン酸、シャク解剤だけで5分間予備練りを行い、一度排出して室温迄冷却し、再度投入して炭酸カルシウム、軟化剤、クレー、加硫促進剤、硫黄の全量を投入して2分間混練りを行い、ゴム温度が100°Cになる迄混練し、排出口7より落下した。このようにして得られたゴム組成物の性状を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1からわかるように、実施例のゴム組成物は、従来例に比べて、無機質白色充填剤と軟化剤の分散が良く(凝集塊は認められず)、また、ミキサーに付着することなしに混練りできる為、生産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】バンバリーミキサーの概略断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 バンバリーミキサー
2 ラム
3 ローター
4 ケース
5 シール
6 原材料投入口
7 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤を事前に原料ゴム中に分散させ、軟化剤との直接接触を遮断し、凝集塊をなくしたことを特徴とする伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム中に無機質白色充填剤、カーボンブラック、及び軟化剤を含むベルト用ゴム組成物であって、無機質白色充填剤とゴムとを予備練りして第一混合物を製造し、該第一混合物に無機質白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項3】
前記第一混合物を製造後、第一混合物の温度を室温迄低下させ、その後無機白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしてゴム組成物とした請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項4】
前記第一混合物を製造後、引き続き無色白色充填剤以外の充填剤と軟化剤を添加して混練りしゴム組成物とする請求項2に記載の伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴムが硫黄変性クロロプレンゴムであって、前記第一混合物を製造する際に、ゴム温度が120°Cに達すると無機質白色充填剤とゴムとの混練りを停止する請求項2から4のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム組成物がその温度が90°C〜110°Cの範囲に達する迄混練りを行ったものである請求項2から5のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物。
【請求項7】
前記無機白色充填剤が炭酸カルシウムである請求項1から6のいずれかに記載の伝動ベルト用ゴム組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−125640(P2006−125640A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356058(P2005−356058)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【分割の表示】特願2003−14091(P2003−14091)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】