説明

伝動ベルト

【課題】システム全体が振動に曝される歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて、歯付ベルトの耐久性を向上させる。
【解決手段】背部11と歯部12とを接着層である防水層13を介して接着する。背部11において、防水層13に接する位置に心線14を埋設する。歯部12と歯底部15の表面に歯布16を貼着する。歯ピッチPが7mm〜11mmのときPLDの値Hが0.07×P(mm)+(0.15(mm)+A(mm))で示されるベルトにおいて、(0.15(mm)+A(mm))が0.30mm以下とし、防水層13厚さを約0.06mm〜0.15mmの範囲に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力の伝達に用いられる伝動ベルトに関し、特に二輪車などの車両における車輪への動力伝達に用いられる歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルトを用いたベルト伝動システムは、自動車エンジンにおけるクランクシャフトとカムシャフトとの間の同期伝動や、一般産業用機器などの同期伝動に幅広く用いられる。歯付ベルトは、ゴムからなるベルト歯部とベルト背部との間に心線を埋設して構成され、歯部および歯底部の表面は歯布によって被覆される。また、心線は例えば歯部と背部の間に設けられる接着ゴム層内に埋設され、心線は歯部や歯底部と極薄い接着ゴム層(例えば0.01mm〜0.03mm)を隔てて配置される(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−193039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、例えば二輪車の駆動輪への動力伝達に歯付ベルトを使用する場合など、ベルト伝動システム全体が激しく振動される場合、歯付ベルトは自動車エンジン内や一般産業用機器で用いられる場合とは異なった挙動を示し、早期に破損に到る。特に二輪車において、歯付ベルトが後輪にエンジン動力を伝達する場合、ベルトスパンが長いために変動負荷による、スパン振動が大きくなる。これにより、ベルト歯底部がプーリ歯頂部に激しく叩き付けられ、歯底帆布は早期に摩耗する。また、負荷伝達の側面からもベルトスパン振動が加わるため、プーリ噛込部やプーリ噛出部においてベルト歯部をベルト本体から引き剥がそうとする力が働く。
【0004】
本発明は、システム全体が振動に曝される歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて、歯付ベルトの耐久性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の歯付ベルトは、背部と歯部と前記背部に埋設された心線とを備える歯ピッチPが7mm〜11mmの歯付ベルトであって、背部と歯部との間に接着ゴム層が設けられ、接着ゴム層の厚さAが0.06mm〜0.15mmの範囲にあることを特徴としている。
【0006】
歯付ベルトにおいて、ピッチライン高さHがH=0.07×P(mm)+(0.15(mm)+A(mm))で示され(0.15(mm)+A(mm))が0.30(mm)以下であることが好ましい。歯部および歯底部の表面に歯布が貼付され、歯布、歯部、接着ゴム層が予め一体的な歯付歯布として予成型されることが好ましい。
【0007】
また、本発明の車両駆動装置は、上記歯付ベルトを車輪へ駆動力を伝達するベルト伝動システムに用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、システム全体が振動に曝される歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて、歯付ベルトの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である歯付無端ベルトの一部を切断した斜視図である。
【0010】
本実施形態の歯付ベルト10は、例えば二輪車の後輪へのエンジンの動力伝達に用いられる。図1に示されるように、歯付ベルト10は、背部11と歯部12とから構成され、背部11と歯部12との間には接着ゴム層である厚み(A)0.06mm〜0.15mmの防水層13が設けられる。また背部11内において、防水層13に接する位置には、ベルト長手方向に沿って複数の心線14が埋設され、歯面、すなわち歯部12と歯底部15は、歯布16によって被覆される。
【0011】
また、本実施形態において、歯部12、防水層13、歯底部15、歯布16は、歯付ロール(図示せず)上で予め予成型され、所定ピッチP(約7mm〜11mm)の未加硫の歯付歯布(図示せず)として一体化される。すなわち、歯付ロール上に歯布16が載置され、その上に歯部12、歯底部15を形成するゴム材が、更にその上に防水層13を形成する所定の厚さの接着ゴムが載置され、これらの材料は歯付ロールの型に圧入され一体成型される。
【0012】
一体化された歯付歯布は、歯付ベルト10の歯数分を含む長さに裁断された後、裁断された両端を突き合わせてスリーブ状にされ、ベルト成型用の金型(図示せず)に装着される。金型に装着された歯付歯布の上には、所定の張力で心線14が巻き付けられ、心線14の上には更に背部11を形成するゴム材が巻き付けられる。金型に巻き付けられた各材料は、所定の圧力、温度の下で成型され加硫される。
【0013】
なお、本実施形態において、歯部12、歯底部15に用いられるゴム材としては、例えば水素添加ニトリルブタジエンゴムが用いられ、背部11のゴム材も同様に水素添加ニトリルブタジエンゴムが用いられる。また、防水層13を形成する接着ゴム材としても同様に水素添加ニトリルブタジエンゴムが用いられる。また、歯部12、歯底部15、背部11、防水層13を形成するゴム材として、水素添加ニトリルブタジエンゴム以外に使用される原料ゴムは、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンターポリマー(EPDM)等の機械強度および耐熱性が改善されたゴムが好ましい。
【0014】
次に図2〜図5を参照して本実施形態の歯付ベルト10において防水層13の厚みを0.06mm〜0.15mmに設定する意義について説明する。
【0015】
図2は、歯底接着力(N/19.1mm)と歯欠け耐久性(N・hr/mm)との間の関係を示すグラフであり、図3は、防水層13の厚さ(mm)と歯底接着力(N/19.1mm)との間の関係を示すグラフである。なお、歯底接着力は、所定幅(例えば19.1mm)の歯底部をベルトから引き剥がすのに必要な力(N)で示され、歯欠け耐久性はベルト走行試験において歯欠けが発生するまでの時間(hr)をベルト単位幅(mm)およびベルトに掛かるベルト張力(N)で評価した値である。
【0016】
図2に示されるように、歯欠け耐久性は歯底接着力が増大すると指数関数的に増大する。一方、図3に示されるように、歯底接着力は防水層13の厚さが厚くなるにしたがって増大するものの、その増大は対数関数的であり、接着力の増大は徐々に減少する。
【0017】
したがって、防水層厚さと歯欠け耐久性の関係は、図3の防水層厚さと歯底接着力の関係と、図2の歯底接着力と歯欠け耐久性との関係とから求められ、その関係は図4のグラフに示される。歯欠け耐久性は防水層厚さに対して、例えば1よりも小さい正の指数部を有する無理関数的に増大し、歯欠け耐久性は、防水層厚さが0.12mm付近を越えると厚みの効果が少なくなってくると考えられる。
【0018】
通常の接着層の厚さ(例えば0.01mm〜0.03mm)を備えたベルトにおいて、ベルト歯ピッチ(mm)とピッチライン高さPLD(ピッチラインと歯底面の間の距離;図1参照)の関係は、図5に示されるように比例関係にあり、PLDの値H(mm)は歯ピッチP(mm)に対して、概ねH=0.07×P(mm)+0.15(mm)の関係で示される。本実施形態では、防水層厚さA(mm)が増加した分PLDが厚くなりPLDの値Hは、概ねH=0.07×P(mm)+(0.15(mm)+A(mm))として示される。
【0019】
PLDの値は、歯付ベルトと歯付プーリの噛み合いに影響し、PLDの値Hが0.07×P(mm)+0.30(mm)を越えると、噛み合いに問題が発生することが経験上分かっている。特に二輪車の後輪駆動にベルトが用いられる場合など、ベルトスパン長さが長く、噛み合いが悪い場合、走行中のベルトスパン振動が非常に大きくなるため、異常摩耗が発生し早期破損に至る。
【0020】
本実施形態では、耐久性への厚み効果の減少、噛み合い不良の発生等を考慮して、PLDの値H=0.07×P(mm)+(0.15(mm)+A(mm))の(0.15(mm)+A(mm))が0.30mmを越えないように防水層厚さの上限を0.15mm以下に設定する。また、変動負荷によるベルトスパン振動の影響や、プーリの噛込、噛出部での耐久性を考慮して、クッション性、接着性を強化するために防水層厚さの下限を0.06mmに設定する。
【0021】
以上により、本実施形態によれば、防水層の厚さを約0.06mm〜0.15mmに設定することにより、歯底部の接着力を高め、歯欠け耐久性を向上することができるとともに、クッション効果を得ることにより、歯底部の耐摩耗性の向上も同時に図ることができ、システム全体が振動に曝される歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて、歯付ベルトの耐久性を、信頼性を飛躍的に高めることができる。
【0022】
なお、本実施形態では、二輪車の後輪駆動のためのベルト伝動システムを例に説明を行ったが、本実施形態の歯付ベルトはシステム全体が振動する環境においてその効果を発揮するもので、例えばバギーなど、他の小型車両のベルト伝動システムにおいても使用可能である。
【0023】
また、本実施形態では、ベルト成型に予成型を用いているため心線のピッチライン上での並びが安定し、長手方向に掛かるベルト張力を均一に心線に分散させることができ、歯欠け耐久性を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である歯付ベルトの部分切断斜視図である。
【図2】歯底接着力と歯欠け耐久性との関係を示すグラフである。
【図3】防水層厚さと歯底接着力との関係を示すグラフである。
【図4】防水層厚さと歯欠け耐久性との関係を示すグラフである。
【図5】ベルト歯ピッチとPLDとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
10 歯付ベルト
11 背部
12 歯部
13 防水層(接着ゴム層)
14 心線
15 歯底部
16 歯布


【特許請求の範囲】
【請求項1】
背部と歯部と前記背部に埋設された心線とを備える歯ピッチPが7mm〜11mmの歯付ベルトであって、前記背部と前記歯部との間に接着ゴム層が設けられ、前記接着ゴム層の厚さAが0.06mm〜0.15mmの範囲にあることを特徴とする歯付ベルト。
【請求項2】
ピッチライン高さHがH=0.07×P(mm)+(0.15(mm)+A(mm))で示され(0.15(mm)+A(mm))が0.30(mm)以下であることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記歯部および歯底部の表面に歯布が貼付され、前記歯布、前記歯部、前記接着ゴム層が予め一体的な歯付歯布として予成型されることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
請求項1に記載の歯付ベルトを車輪へ駆動力を伝達するベルト伝動システムに用いた車両駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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