説明

伝動用ベルトの製造方法

【課題】圧縮ゴム層におけるジョイント部を含むコグ山部を正確に成形し、このジョイント部の耐屈曲疲労性を改善してベルト寿命を向上させた伝動用ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】心線3を埋設した接着ゴム層6に隣接して圧縮ゴム層7と伸張ゴム層6を配し、圧縮ゴム層7がコグ山部9a、9bとコグ谷部8を交互に配したコグ部12を有している伝動用ベルトの製造方法であり、圧縮ゴム層7のジョイント部14a、35aをコグ山部9aの領域内に存在させるとともに、少なくともジョイント部14aを含むコグ山部9aの1つを硬質型20bで成形し、他のコグ山部9bをゴム製型20aで成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伝動用ベルトの製造方法に係り、スノーモービル、スクーター及び一般産業用のベルトとして使用される高負荷用の変速ベルトであって圧縮ゴム層のジョイント部の位置するコグ山部の形状を安定させてジョイント部の耐屈曲疲労性を有する伝動用ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スクーター、バギー、雪上車(スノーモービル)または一般産業用の機械分野の駆動系においては、駆動プーリと従動プーリに伝動用ベルトを懸架し、プーリの有効径を変化させて変速させるベルト式変速装置が用いられている。ここで使用されている伝動用ベルトは圧縮ゴム層と伸張ゴム層の両層もしくは圧縮ゴム層のゴム層にコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有し、心線を接着ゴム層内に埋設した構成からなり、ローエッジダブルコグドベルトあるいはローエッジシングルコグドベルトなどのローエッジコグドベルトとして知られている。
【0003】
上記のローエッジコグドベルトでは、長寿命化に対する要求が厳しさを増してきている。特に、溝幅可変プーリに掛架されてプーリへの巻き掛け径を無段階に変えながら動力を伝達する無段変速ベルトに使用する場合は、プーリから受ける過大な側圧のため、耐側圧性、耐屈曲性、耐磨耗性、そして耐熱性等が要求される。このために、上コグ部と下コグ部の形状、寸法なども検討されている。
【0004】
また、上記ローエッジコグドベルトの製造方法としては、予め用意したベルト周長よりも長い平面状の溝付母型の上に未加硫ゴムシートを設置し、プレスにより加熱加圧してコグ形状に型付けしたコグパッドを作製する。このコグパッドを成形ドラム上に装着した円筒状母型の凹条部と凸条部に嵌め込み、コグパッドのカット面を突き合わせてジョイントした後、心線を巻き付け、更に他のゴム層、補強布をこの上から巻き付けて成型を終え、加硫工程へ移行していた。(例えば、特許文献1)
【0005】
上記コグパッドは、1ないし数プライの補強布と未加硫ゴムシートとの積層体であって、長さ方向に一定ピッチでコグ山部とコグ谷部を交互に有している。
【特許文献1】特開2001−317596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、厚みの厚いシートを円筒状母型に嵌め込んで直線状に突き合わせてジョイントした場合には、ゴムシートの内周と外周の差が大きいために、ジョイントの成形作業性が悪くなり、またジョイント部の母型が加硫中に変形して、正確な形状のジョイント部を成形できず、ベルト走行中にジョイント部を含むコグ部が変形しやすくなって疲労し、早期にジョイント部から亀裂が発生することがあった。更には、補強布がジョイント部へ侵入してジョイント部の接着不良が発生してここから割れが発生するといった不良や、突き合わせ部に間隙が生じてボリューム割れが起こり、ジョイント部の接合に欠陥が発生し、その結果ベルト走行時の負荷変動や発熱現象によってジョイント部から亀裂が発生することがあった。
【0007】
本発明はかかる問題に着目し、鋭意研究した結果、圧縮ゴム層におけるジョイント部を含むコグ山部を正確に成形し、このジョイント部の耐屈曲疲労性を改善してベルト寿命を向上させた伝動用ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成すべく本願請求項記載の伝動用ベルトの製造方法では、心線を埋設した接着ゴム層に隣接して圧縮ゴム層と伸張ゴム層を配し、圧縮ゴム層がコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有している伝動用ベルトの製造方法であり、該圧縮ゴム層のジョイント部をコグ山部の領域内に存在させるとともに、少なくともジョイント部を含むコグ山部の1つを硬質型で成形し、他のコグ山部をゴム製型で成形するものであり、硬質型が金属製、ゴム製、そして樹脂製から選ばれた型である場合、硬質型で成形されるジョイント部を含むコグ山部の数が1〜4である場合、そして伸張ゴム層コグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有している場合を含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る伝動用ベルトの製造方法では、ジョイント部を含むコグ山部の形状を精度よく成形し、ベルト走行中にジョイント部を含むコグ山部の繰り返しの変形を阻止し、それによる疲労を回避することによって、ジョイント部からの亀裂を低減してベルト寿命を向上させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。図1は本発明に係る伝動用ベルトの部分正面図、そして図2は本発明に係る他の伝動用ベルトの部分正面図である。
【0011】
本発明の伝動用ベルト1は、接着ゴム層2内にポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等のコードからなる心線3が埋め込まれ、接着ゴム層2の上部、下部にはそれぞれ補強布4とゴム層5を積層した伸張ゴム層6と、また同様に補強布4とゴム層5を積層した圧縮ゴム層7がある。圧縮ゴム層7には、それぞれ一定ピッチでベルト長手方向に沿ってコグ谷部8とコグ山部9とを交互に配した下コグ部12が設けられている。
【0012】
本実施例では、伸張ゴム層6にはコグ部が存在せず、また両側面はコグ山部9の頂部からコグ谷部8の最底部にかけて逆V形に切断されたカット面にしてもよい。これによりプーリ内の側圧を心線3から圧縮ゴム層7に負担させることができ、心線3上部の伸張ゴム層6の剥離や欠損を遅延させることができる。
【0013】
また本実施例では、ベルトの厚みをHとし、心線3のピッチラインから圧縮ゴム層7のコグ谷部9の最深部までの間隔をDとしたとき、0.2≦D/H≦0.26を満足している。この値は、ベルトの厚みHに対して心線3のピッチラインから圧縮ゴム層7のコグ谷部9の最深部までの間隔Dの占める割合を示すものであり、0.20未満では間隔Dが小さくなり過ぎて、ベルトの耐側圧性が低下により早期寿命に至る。一方、0.26を越えると、ベルトの可撓性が低下して耐屈曲性に欠け、早期にコグ谷部の最深部から亀裂が入りやすくなる。
【0014】
更に、図1に示す圧縮ゴム層7では、ジョイント部14aがコグ山部9の領域内に存在し、ジョイント部14aを含むコグ山部9aの領域(本実施例では2山強で交差した斜線を有する領域)は、硬質型で成形されているために変形することなく、コグ形状が精度よく成形され、ベルト走行中にジョイント部を含むコグ山部の繰り返しの変形を阻止し、それによる疲労を回避することによって、ジョイント部からの亀裂を低減できる。硬質型で成形した領域のコグ山部の数は1〜4であり、特に4を超えると成形型のコストが高くなる。
【0015】
図2に示す他の伝動用ベルト1では、伸張ゴム層6がコグ山部9とコグ谷部8を交互に配した上コグ部11を有している。伸張ゴム層6に設けたジョイント部14bは上コグ部11のコグ山部9の領域(本実施例では2山強で交差した斜線を有する領域)に存在し、しかも心線3に対して直角にすることが好ましい。これは接着ゴム層6のゴムがジョイント部14bへ侵入しても表面まで侵入させないためである。ジョイント部14bの位置はジョイント部14aと相違させることが応力集中を避け亀裂を阻止する上で好ましい。
【0016】
上記圧縮ゴム層6および伸張ゴム層7になるゴムは、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アルキル化クロロスルファン化ポリエチレン、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー等のゴム材の単独、またはこれらの混合物が使用される。
【0017】
そして、上記圧縮ゴム層6および伸張ゴム層7には、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿等の繊維からなり繊維の長さは繊維の種類によって異なるが1〜10mm程度の短繊維が用いられ、例えばアラミド繊維であると3〜5mm程度、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿であると5〜10mm程度のものが用いられる。そして、上記ゴム層中の短繊維の方向はベルトの長手方向に対して直角方向を向いているのを90°としたときほとんどの短繊維が70〜110°の範囲内に配向されていることが望ましい。接着ゴム層2には、上記短繊維を含めてもよいが、好ましくは含めない。
【0018】
補強布4は綿、ポリエステル繊維、ナイロン等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布でもよい。補強布4はRFL処理した後、ゴム組成物をフィリクション・コーチングしてゴム付帆布とする。RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはクロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリル、NBRなどである。
【0019】
図3は図1に示す伝動用ベルト1(コグドベルト)の製造方法の一例であって型上で圧縮ゴム層、心線、そして伸張ゴム層からなる成形体の作製状態を示すところである。まず、歯部21と溝部22を交互に有する成形型20を真円型19上に装着する。この成形型20は加硫ゴム製のゴム製型20aと金属製、硬度の高いゴム製、そしてフェノール、ポリアセタールのような熱硬化性樹脂製から選ばれた硬質型20bとを接合して円筒状にしたものである。ゴム製型20aと硬質型20bの接合は、架橋型接着剤を界面に塗布し、加熱することによって行う。また、ゴム製型20aと硬質型20bの内面に跨って補強布を貼り付けることもできる。
【0020】
図4に示すように1〜数枚の補強布と圧縮ゴム層になる未加硫ゴムシートを積層し、これを別に準備した歯部と溝部とを交互に配した平坦な金型の上に設置し、加圧することによってコグ山部29とコグ谷部28を型付けしたコグパッド30に仕上げる。
【0021】
コグパッド30の一方の切断部32は、図4に示すようにコグ山部28の頂部31で角度αが0〜10°に切断され、更にコグパッド30を反転させて他方の切断部33も同様にコグ山部29で逆方向へ傾斜するように切断される。上記コグパッド30をエンドレスにするとき、切断面が良好に密着する。
【0022】
成形機(図示せず)に成形型20を装着し、モールドの溝部22にコグパッドのコグ山部29を嵌合しながら、所定長さのコグパッド30をモールド20に一周巻き付けてカット端部を面接触させてジョイント部35aを形成する。このジョイント部35aは成形型20の金属製の硬質型20bの溝部22に位置させる。そして、接着ゴム層になる未加硫ゴムシート40を巻き付けた後、心線41をスパイラルに巻き付け、その上に1〜数枚の補強布42と伸張ゴム層の未加硫ゴムシート43の積層物を巻き付けて該カット端部を面接触させてジョイント部35bを形成し、成形体25を作製する。
【0023】
本実施例では、成形機から取り出した溝付きモールド20を支持台上に設置し、加硫ゴム製の円筒状母型、そしてジャケット(図示せず)を嵌入する。
【0024】
最終工程として、成形体を加硫缶へ移して通常の方法で加硫を行う。加硫した後、ジャケット、母型、続いて円筒状のスリーブを成形型20から抜き取り、スリーブを所定幅に切断して図1に示すようなコグドベルト1に仕上げる。このようにして金属製の硬質型20bで成形したジョイント部35aを含むコグ山部は、コグ形状が精度よく成形され、ジョイント部35aを含むコグ山部を正確に成形し、このジョイント部35aの耐屈曲疲労性が改善する。
【実施例】
【0025】
以下、更に具体的な実験例により本発明の効果を確認する。
実施例1、比較例1
心線として1,500デニールのアラミド繊維(商品名:トワロン)を上撚り数19.7回/10cm、下撚り数15.8回/10cmで上下逆方向に撚糸して2×3の撚り構成とし、トータルデニール9,000の未処理コードを準備した。次いで、この未処理コードをイソシアネート系接着剤でプレディップした後、約170〜180°Cで乾燥し,RFL液に浸漬した後、200〜240°Cで延伸熱固定処理を行ない処理コードにした。
【0026】
補強布として、アラミド繊維(商品名:トワロン)とポリエチレンテレフタレート繊維を重量比で50:50の混撚糸を使用したワイドアングルの平織帆布を用いた。これらの帆布をRFL液に浸漬した後、150°Cで2分間熱処理して処理帆布とした。その後、これらの処理帆布にゴム組成物をフリクション・コーチングして、ゴム付帆布とした。
【0027】
圧縮ゴム層と伸張ゴム層はアラミドの短繊維を含んだクロロプレンゴムからなるゴム組成物を用い、また接着ゴム層は短繊維を含まないクロロプレンゴムからなるゴム組成物を用いた。
【0028】
コグパッドとして、1枚の補強布と所定厚みの圧縮ゴム層用シートとの積層物を、歯部と溝部を交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、75°Cで加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッドに形成した。上記コグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断した。
【0029】
成形型として、加硫ゴム製の軟質型とコグ山部の数2個のステンレス製の硬質型とを接合して円筒状に作製した。
【0030】
これらの材料と型を用意した後、上記成形型にコグパッドを巻き付けてジョイント部を硬質型の溝部に配置させた後、接着ゴム用シート、心線、平坦な伸張ゴム層、補強布を順次巻き付けて成形体を作製した。続いて、モールドを支持台の所定位置に設置した後、内周面に一定間隔で溝部と突部を有する加硫ゴム製の円筒状母型を挿入した。その後、ジャケットを被せてモールドを加硫缶に設置し、加硫してベルトスリーブを得た。このスリーブをカッターによってV状に切断してダブルコグドベルトである変速ベルト(サイズ:上幅29.8mm、厚さ16.4mm、外周長866mm)に仕上げた。
【0031】
得られたベルトのジョイント部を含み、かつこれを直角に位置し心線と平行する圧縮ゴム層のカットサンプル(長さ100mm×幅5mm×厚さ2mm)を採取し、このサンプルを100℃の高温度室に30分放置後、ストログラフにて引張試験を実施して引張り強さ(N=4)を測定し、破損位置を確認した。その結果、引張り強さは4.9MPaであり、ジョイント部の切断箇所は25%であった。
【0032】
比較例1
成形型として、加硫ゴム製の軟質型を使用し、成形型に巻付けたコグパッドのジョイント部を配置させた。それ以外は実施例1と同様にしてダブルコグドベルトを作製した。
得られたベルトのジョイント部を含むサンプルの引張り強さ(N=4)は3.5MPaであり、ジョイント部の切断箇所は100%であった。
この結果、実施例のジョイント部の強度は比較例に比べて確実に向上していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の伝動ベルトは、スノーモービル、スクーター及び一般産業用の変速ベルトに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明に係る伝動用ベルトの部分正面図である。
【図2】図2は本発明に係る他の伝動用ベルトの部分正面図である。
【図3】本発明に係る伝動用ベルトをモールド上で成形体を作製する状態を示す図である。
【図4】本発明に係る伝動用ベルトの使用するコグパッドの斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 伝動用ベルト
2 接着ゴム層
3 心線
4 補強布
5 ゴム層
6 伸張ゴム層
7 圧縮ゴム層
8 コグ谷部
9a コグ山部
9b コグ山部
11 上コグ部
12 下コグ部
14a ジョイント部
35a ジョイント部
20a ゴム製型
20b 硬質型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線を埋設した接着ゴム層に隣接して圧縮ゴム層と伸張ゴム層を配し、圧縮ゴム層がコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有している伝動用ベルトの製造方法であり、該圧縮ゴム層のジョイント部をコグ山部の領域内に存在させるとともに、少なくともジョイント部を含むコグ山部の1つを硬質型で成形し、他のコグ山部をゴム製型で成形したことを特徴とする伝動用ベルトの製造方法。
【請求項2】
硬質型が金属製、ゴム製、そして樹脂製から選ばれた型である請求項1記載の伝動用ベルトの製造方法。
【請求項3】
硬質型で成形されるジョイント部を含むコグ山部の数は1〜4である請求項1または2記載の伝動用ベルトの製造方法。
【請求項4】
伸張ゴム層はコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有している請求項1乃至3の何れかに記載の伝動用ベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−150612(P2006−150612A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340440(P2004−340440)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】