伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品
【課題】 体積あたりの伝導ノイズ抑制効果が高く、省スペースで軽量であって、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズを抑制し、電子部品への対策作業が簡便で行いやすい伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品を提供する。
【解決手段】 絶縁性基体2と、この上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスター3を有する伝導ノイズ抑制層とを有する伝導ノイズ抑制体1;配線回路と、伝導ノイズ抑制体1とを具備し、伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体1が配置されている伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【解決手段】 絶縁性基体2と、この上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスター3を有する伝導ノイズ抑制層とを有する伝導ノイズ抑制体1;配線回路と、伝導ノイズ抑制体1とを具備し、伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体1が配置されている伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システム等、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPU、高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化および低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。
【0003】
しかしながら、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される電磁波がもたらす、自身または他の電子機器への誤作動、人体への影響等といった電磁波障害が問題とされてきている。そのため、これら機器には、自身または他の電子機器、人体に影響を与えないように、不要な電磁波をできるだけ放出しないこと、および外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められている。このような電磁波障害を防止する方法としては、電磁波遮蔽材、すなわち電磁波を反射する電磁波シールド材、空間を伝搬する電磁波ノイズを吸収する電磁波吸収材、配線回路中を流れる高周波ノイズ電流を抑制する伝導ノイズ抑制体を利用する方法がある。
【0004】
電磁波障害を防止するために、電子機器間においては、電子機器の筐体表面または電子機器間に電磁波遮蔽材を設けて電磁波を遮蔽する対策(inter−system EMC)が行われており、また、電子機器内においては、電子部品、配線回路が互いに影響を及ぼして誤作動を起こすことを抑制したり、処理スピードの遅れまたは信号波形の乱れを抑制したりするため、電子部品または配線回路を電磁波遮蔽材で覆う対策(intra−system EMC)が行われている。特に、電子機器内においては、電磁波ノイズ発生源である電子部品そのものに電磁波ノイズ抑制体による対策を施すことが、効率がよいことから、よく行われている(micro EMC)。
【0005】
最近特に、電子機器、電子部品には、高性能化、小型化、軽量化が求められており、これらに用いられる電磁波ノイズ抑制体、特には放射ノイズ化する前に伝導性ノイズを抑制する伝導ノイズ抑制体にも同様に、電磁波吸収効率がよく、省スペースで軽量であって、半導体チップの集積回路への対策作業または半導体パッケージのサブストレートへの対策作業が簡便で行いやすいものが求められている。
【0006】
配線回路に対し、その配線回路幅よりも狭い幅の電磁雑音抑制体をその近傍に配置して電磁雑音を抑制することが知られている(特許文献1参照)。該電磁雑音抑制体は、セラミックスとともに磁性金属を基体に蒸着した後、高温で熱処理をし、磁性金属微粒子をセラミックス中に再結晶分散させた2μm厚のナノグラニュラー構造の軟磁性薄膜である。該電磁雑音抑制体は大きな透磁率を持つため、これを配線回路幅よりも狭幅な形状で配置すると、反射なしで伝導性の電磁気雑音対策に有用であるとされている。
【0007】
しかしながら、半導体素子内部の配線回路幅は1μm以下と狭く、これ以下の幅のナノグラニュラー構造を有する電磁雑音抑制体を必要な膜厚でもって直上に配置することは困難であり、産業的な利用は不可能である。また、配線回路より放射される電気力線(磁力線はこれに垂直)は、放射状に配線回路幅より外に出るため、磁気的損失の効率を上げるためには、電磁雑音抑制体は配線回路幅より広いほうがよいことは言うまでもない。さらに、ナノグラニュラー化の再結晶に必要な温度は高く、半導体チップあるいは半導体パッケージのサブストレートへのダメージを与えるおそれがある。また、磁性金属を蒸着させる厚さはマイクロメートル単位であるため、蒸着に要する時間が長く生産性が劣り、多くの点で実用化は遠いものとなっている。
【特許文献1】特開2002−151916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明の目的は、体積あたりの伝導ノイズ抑制効果が高く、すなわちロス電力比が大きく、省スペースで軽量であって、電子部品の内部に設け、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズを抑制し、電子部品(例えば半導体素子の集積回路または半導体パッケージのサブストレート)への対策作業が簡便で行いやすい伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、絶縁性基体と、該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層とを有することを特徴とするものである。
ここで、伝導ノイズ抑制層は、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であってもよい。
また、物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率は、1×104 〜1×1010Paであることが望ましい。もしくは、絶縁性基体は、セラミックスであってよい。
本発明の伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比は、0.3〜0.9であることが望ましい。
【0010】
本発明の伝導ノイズ抑制体付電子部品は、配線回路と、本発明の伝導ノイズ抑制体とを具備し、伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体が配置されていることを特徴とするものである。
ここで、伝導ノイズ抑制層の幅は、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広いことが望ましい。
また、伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離は、0.1〜200μmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、体積あたりの伝導ノイズ抑制効果が高く、すなわちロス電力比が大きく、省スペースで軽量であって、電子部品の内部に設け、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズを抑制し、電子部品(例えば半導体素子の集積回路または半導体パッケージのサブストレート)への対策作業が簡便で行いやすい。よって、充分な伝導ノイズの抑制および放射ノイズの抑制を図ることができ、優れたEMC対策を施すことが可能になる。
【0012】
伝導ノイズ抑制層が、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であれば、金属軟磁性体クラスターが安定に分散するため、これらが凝集して結晶化し、微粒子に成長することを確実に抑えることができる。
また、物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率が、1×104 〜1×1010Paであれば、金属軟磁性体クラスターが安定に分散するため、これらが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜等に成長することを確実に抑えることができる。
本発明の伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比が、0.3〜0.9であれば、伝導ノイズ抑制効果が充分に発揮される。
【0013】
本発明の伝導ノイズ抑制体付電子部品は、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズが抑えられているため、放射される電磁波がもたらす、自身または他の電子機器への誤作動、人体への影響などが抑えられる。すなわち、充分な伝導ノイズおよび放射ノイズが抑制され、優れたEMC対策が施されたものとなる。
伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広ければ、効率よく伝導ノイズを抑制できる。
また、伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離が、0.1〜200μmであれば、効率よく伝導ノイズを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<伝導ノイズ抑制体>
本発明の伝導ノイズ抑制体は、絶縁性基体と、該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層とを有するものである。
【0015】
(伝導ノイズ抑制層)
伝導ノイズ抑制層は、比較的硬い絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成されたものと、比較的軟らかい絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成されたものとでは、形態が異なる。すなわち、絶縁性基体が比較的硬い場合は、絶縁性基体上に、独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスターと、これらの間に形成される金属軟磁性体の存在しない欠陥とからなる「金属軟磁性体層」が形成される。一方、絶縁性基体が比較的軟らかい場合は、絶縁性基体の表面に、独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスターと絶縁性基体の一部とが混ざり合って、複合化した「複合層」が形成される。
【0016】
(金属軟磁性体層)
図1は、金属軟磁性体層が形成された本発明の伝導ノイズ抑制体を、金属軟磁性体層(上面)側から見た模式図である。この伝導ノイズ抑制体1は、絶縁性基体2と、該絶縁性基体2上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスター3およびこれらの間に存在する欠陥からなる金属軟磁性体層4とを有するものである。
【0017】
金属軟磁性体クラスター3は、図2の模式図に示すように、絶縁性基体2上に金属軟磁性体が非常に薄く物理的蒸着されて形成されたものであり、充分な金属薄膜になっていない。図3は、金属軟磁性体の蒸着量をさらに増やした状態を示す。金属軟磁性体クラスター3が互いに接触して集団化し、クラスターサイズが大きくなっているものの、集団化した金属軟磁性体クラスター3の間には、金属軟磁性体の存在しない欠陥が多く存在しており、集団化した金属軟磁性体クラスター3はそれぞれ独立している。本発明においては、このように集団化した金属軟磁性体クラスター3についても、該クラスター間に欠陥が存在し、各クラスターが独立している限り、独立した金属軟磁性体クラスターとして扱う。
【0018】
ここで、金属軟磁性体クラスターとは、数十〜数百個の金属軟磁性体原子が集合して形成される集団である。該金属軟磁性体クラスターの凝集が進むと、超微粒子、微粒子、金属薄膜となるが、金属軟磁性体クラスターは、以下に説明するように、超微粒子、微粒子、金属薄膜とは明確に区別されるものである。
【0019】
図4は、絶縁性基体2上に形成された金属軟磁性体層4の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。図5は、金属軟磁性体層4の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。また、図6は、金属軟磁性体層4の電子線回折像である。図4〜図6から、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属軟磁性体原子が配列された結晶格子(金属軟磁性体クラスター)、および非常に小さい範囲で金属軟磁性体が存在しない欠陥が認められる。すなわち、金属軟磁性体クラスター同士の間隔が空いた状態であり、明確な粒界は認められない。各金属軟磁性体クラスターの結晶方位は、無秩序であると認められ、金属軟磁性からなる均質な金属薄膜、超微粒子、微粒子等には成長していない。
このように分散された金属軟磁性体クラスターは、理由は定かではないが、構造由来で磁気異方性が高まり、または反磁界による磁気的特性を発現することにより、薄層であっても充分な伝導ノイズ抑制効果を有するものと思われる。
【0020】
金属軟磁性体層4の厚さは、5〜100nmが好ましい。金属軟磁性体層4の厚さを5nm以上とすることにより、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、金属軟磁性体層4の厚さが100nmを超えると、金属軟磁性体クラスター3が凝集し、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属軟磁性体に戻ってしまい、金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。ここで、金属軟磁性体層4の厚さとは、欠陥を含めた金属軟磁性体層4全体の平均厚さである。
【0021】
(複合層)
絶縁性基体が比較的軟らかい、すなわち絶縁性基体のせん断弾性率が低い場合には、図7の高分解能透過型電子顕微鏡像および該電子顕微鏡像の模式図である図8に示すように、金属軟磁性体クラスターが絶縁性基体2の一部と混ぜ合わせられた状態になって、複合層5が形成される。
【0022】
複合層5は、非常に小さな結晶として数Å間隔の強磁性体原子が配列された結晶格子6(金属軟磁性体クラスター)が観察される部分と、非常に小さい範囲で金属軟磁性体が存在しない絶縁性基体2の一部のみが観察される部分と、金属軟磁性体原子7が結晶化せず絶縁性基体2に分散して観察される部分からなっている。すなわち、金属軟磁性体が明瞭な結晶構造を有する微粒子として存在を示す粒界は観察されず、ナノメーターレベルで金属軟磁性体と絶縁性基体の一部とが一体化した複雑なヘテロ構造(不均質・不斉構造)を有していて、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜、超微粒子、微粒子等には成長していない。
このように分散された金属軟磁性体クラスターは、理由は定かではないが、構造由来で磁気異方性が高まり、または反磁界による磁気的特性を発現することにより、薄層であっても充分な伝導性ノイズ抑制効果を有するものと思われる。
なお、複合層5は、金属軟磁性とこれとは別の材料とを同時に蒸着(以下、絶縁化蒸着という。)した場合にも形成される。絶縁化蒸着については、後述する。
【0023】
複合層5の厚さは、5〜100nmが好ましい。複合層5の厚さを5nm以上とすることにより、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、複合層5の厚さが100nmを超えると、結晶格子6(金属軟磁性体クラスター)が凝集し、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属軟磁性体に戻ってしまい、金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。
【0024】
複合層5の厚さは、絶縁性基体2の表面に金属軟磁性体原子が侵入した平均の深さであり、金属系軟磁性体の蒸着質量、結合剤材質、物理的蒸着の条件などに依存し、およそ金属軟磁性体の蒸着厚さの1.5〜3.0倍ほどとなる。ここで、金属系軟磁性体の蒸着厚さとは、金属軟磁性体原子が侵入することのない硬い基材上に金属軟磁性体を物理的蒸着させた際の膜厚を意味する。
【0025】
(絶縁性基体)
本発明における絶縁性基体とは、表面抵抗が106 Ω/cm2 以上の基体を意味する。
金属軟磁性体層4を形成させる場合の絶縁性基体2としては、酸化ケイ素(石英ガラス等)、窒化ケイ素、アルミナ等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。
【0026】
複合層5を形成させる場合の絶縁性基体2としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレンなどの樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム;ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等の有機高分子が挙げられる。これらは熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってよい。また、上記の樹脂、ゴムなど変性物、混合物、共重合体であってもよい。
絶縁性基体2の厚さは、絶縁性が保たれれば良く、0.1μm以上であればよい。
【0027】
中でも、絶縁性基体2としては、金属軟磁性体クラスターの凝集、成長を阻害し、金属軟磁性体クラスターの分散を安定化させるために、物理的蒸着に際し、そのせん断弾性率が低いものが好ましい。具体的には、せん断弾性率が1×1010Pa以下のものが好ましい。所望のせん断弾性率にするために、必要に応じて、例えば100〜300℃に絶縁性基体2を加熱することもできるが、分解、蒸発、低粘度化等が起きない温度に加熱することが必要である。常温で物理的蒸着を行う場合には、絶縁性基体2としては、ゴム硬度が約80°(JIS−A)以下の弾性体が好ましい。
【0028】
せん断弾性率の測定方法としては、以下のような方法が知られている。
(1)JIS K7113に規定されている引張応力と歪との関係から引張り弾性率を求め、これをもとに下記式からせん断弾性率を求める。
せん断弾性率=引張り弾性率/(2×(1+ポアソン比))
ここで2×(1+ポアソン比)の値は、剛直な高分子からゴム状の弾性体まで、おおよそ2.6〜3.0である。
(2)温度特性を把握できる粘弾性率測定装置を用い、試験モードをせん断モードにしてせん断弾性率を測定する。
(3)粘弾性率測定装置を用い、試験モードを引張りモードにして貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”を測定し、下記式から複素弾性率G* を求め、複素弾性率を引張り弾性率として、上記式からせん断弾性率を求める。
G* =√((G’)2 +(G”)2)
本発明におけるせん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した値とする。
【0029】
また、絶縁性基体2としては、熱的、機械的ストレスが加わっても、金属軟磁性体クラスターの凝集、すなわち均質化が抑えられるように、金属軟磁性体の物理的蒸着の後には、せん断弾性率が1×104 Paより高いものが好ましい。金属軟磁性体の物理的蒸着の後にせん断弾性率を高くすることにより、ナノメートルレベルの金属軟磁性体原子またはクラスターが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜に成長することを確実に抑えることができる。さらに好ましくは、伝導ノイズ抑制体が使用される温度範囲で、1×107 Pa以上のものが好ましい。
所望のせん断弾性率にするために、金属軟磁性体の物理的蒸着の後に絶縁性基体2を焼成固化または化学架橋することが好ましい。この点においては、蒸着時には低せん断弾性率であり、蒸着後に架橋してせん断弾性率を上げることができる有機高分子を用いることが特に好ましく、熱硬化性樹脂、エネルギー線(紫外線、電子線等)硬化性樹脂が好適である。
【0030】
絶縁性基体2が有機高分子の場合は、金属軟磁性体原子が入り込み、独立した金属軟磁性体クラスターを形成しやすい分子間空隙の広さを示す指標として、ガス透過率を用いることができる。本来であれば、金属軟磁性体原子の大きさと同等のアルゴンガス、クリプトンガスの透過率によって有機高分子の分子間空隙を確認することが好ましいが、これらガスはガス透過率の測定には一般的でないため、例えば炭酸ガスの透過率データで代用することができる。常温における炭酸ガス透過率の大きな有機高分子としては、炭酸ガス透過率が1×10-9[cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以上のポリフェニレンオキサイド、ポリメチルペンテン、ナイロン11、ハイインパクトポリスチレン等のゴム成分と他の成分との混合物または共重合物、1×10-8[cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以上のポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。中でも、せん断弾性率の点から、シリコーンゴム等のゴム類は特に好ましい。
【0031】
また、金属軟磁性体原子の酸化を防止する観点からは、酸素透過性の低い有機高分子が好ましい。このような有機高分子としては、酸素透過率が1×10-10 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレン、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、1×10-12 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。
ここで、炭酸ガス透過率および酸素透過率は、JIS K7126に準拠して測定され、求められる気体透過係数である。
【0032】
さらに、絶縁性基体2中にシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマー等を配合しておき、金属軟磁性体と反応させ、金属軟磁性体クラスターを安定化させてもよい。このような添加剤を配合することにより、均質な金属薄膜の形成を防止するほか、金属軟磁性体の酸化防止が図れ好都合である。このほか、絶縁性基体2には、補強性フィラー、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、チクソトロピー性向上剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤等を適宜添加して構わない。
【0033】
なお、絶縁性基体2が、セラミックス(例えば、石英ガラス)等の硬い基体の場合、金属軟磁性体原子が絶縁性基体2に入り込むことがなく、金属軟磁性体クラスター3が凝集し、均質な金属薄膜を形成しやすい状態にあるが、金属軟磁性体の蒸着質量を低く抑えることにより、独立した金属軟磁性体クラスター3が形成され、かつ金属軟磁性体クラスター3同士の間隔が広くなるため、凝集しにくい状態となる。絶縁性基体2がセラミックスの場合の金属軟磁性体の蒸着質量については、後述する。
【0034】
また、絶縁性基体2が、セラミックス等の硬い基体の場合であっても、金属軟磁性体とこれとは別の材料とを同時に絶縁化蒸着し、複合層5を形成するようにすれば、金属軟磁性体クラスターが安定して分散し、これらが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜等に成長することを確実に抑えることができる。具体的には、物理的蒸着時に反応性ガスを流入し、磁性効果を失わない程度に、金属軟磁性体クラスター表面等に一部反応させる化学的蒸着法(CVD)を採用することができる。ガスとしては、窒素ガス、メタンガス、アセチレンガス、シランガス、フルオロカーボンガス、パラキシリレン等が挙げられる。
【0035】
(物理的蒸着)
まず、物理的蒸着法(PVD)の一般的な説明を行う。
物理的蒸着法は、一般に、真空にした容器の中で蒸発材料を何らかの方法で気化させ、気化した蒸発材料を近傍に置いた基体上に堆積させて薄膜を形成する方法であり、蒸発材料の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタリング系に分けられる。蒸発系としては、EB蒸着、イオンプレーティングなどが挙げられ、スパッタリング系としては、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどが挙げられる。
【0036】
EB蒸着は蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、基板のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく膜強度が不足する傾向があるが、膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
【0037】
イオンプレーティングによれば、アルゴンガスおよび蒸発粒子のイオンは加速されて基板に衝突するため、EBよりエネルギーが大きく、粒子エネルギーは1KeVほどになり、付着力の強い膜を得ることはできるものの、ドロッププレットと呼んでいるミクロサイズの粒子の付着を避けることができず、放電が停止してしまうおそれがある。
【0038】
マグネトロンスパッタリングは、ターゲット(蒸発材料)の利用効率が低いものの、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速く、粒子エネルギーは数十eVと高いことが特徴となる。高周波スパッタリングでは絶縁性ターゲットを使用することもできる。
【0039】
マグネトロンスパッタリングのうち、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングは、対向するターゲット間でプラズマを発生させ、磁界によりプラズマを封じ込め、対向するターゲット間の外に基体を置き、プラズマダメージを受けることなく所望の薄膜を生成する方法である。そのため、基体上の薄膜を再スパッタリングすることなく、成長速度がさらに速く、スパッタリングされた原子が衝突緩和することなく、緻密なターゲット組成物と同じ組成のものを生成することができる。
【0040】
本発明においては、これら物理蒸着法を利用し、絶縁性基体2上に金属軟磁性体の金属薄膜を形成させることなく、独立した金属軟磁性体クラスターを形成させる。よって、以上の物理的蒸着法の中でも、本発明の伝導ノイズ抑制体の製造方法においては、次の理由から、イオンプレーティング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングが好ましく、特に対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングが好適である。
【0041】
有機高分子における共有結合エネルギーは約4eVであり、具体的にいえば、C−C、C−H、Si−O、Si−Cの結合エネルギーはそれぞれ3.6eV、4.3eV、4.6eV、3.3eVである。これに対して、イオンプレーティング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングでは、蒸発粒子は高いエネルギーを持っているので、絶縁性基体2が有機高分子からなる場合は、有機高分子の一部の化学結合を切断し、衝突することが考えられる。
【0042】
したがって、本発明においては、有機高分子からなる絶縁性基体2のせん断弾性率が充分小さいと、金属軟磁性体を蒸着させた際、有機高分子が振動、運動し、金属軟磁性体原子と有機高分子との局部的なミキシング作用が生じて、金属軟磁性体原子は絶縁性基体2表面から0.01〜0.3μm程度まで進入し、均質的な金属軟磁性体からなる金属薄膜ではなく、ナノメーターレベルのヘテロ構造を有した複合層5が形成される。
【0043】
蒸着工程において蒸発材料(ターゲット)として用いられる金属軟磁性体としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル、またはこれらの合金等が挙げられる。ニッケルは単独で用いた方が、酸化に対して抵抗力があるので好ましい。
なお、絶縁性基体2に金属軟磁性体を蒸着させる際には、金属軟磁性体はプラズマ化またはイオン化された金属軟磁性体原子として蒸着されるので、蒸着された金属軟磁性体の組成は、蒸着材料として用いた金属軟磁性体の組成比と必ずしも同一であるとは限らない。
【0044】
金属軟磁性体の蒸着質量は、絶縁性基体2が有機高分子の場合、金属軟磁性体単品の膜厚換算値で5〜100nmが好ましい。一方、絶縁性基体2がセラミックスの場合、金属軟磁性体クラスター3の凝集を抑えるため、金属軟磁性体の蒸着質量は、金属軟磁性体単品の膜厚換算値で5〜50nmが好ましい。
【0045】
蒸着質量が小さくなると、伝導ノイズ抑制効果が低減するものであるから、金属軟磁性体層4または複合層5を複数層積層する、または絶縁性基体2の両表面に金属軟磁性体を蒸着することにより、金属軟磁性体の総質量を増やすことができる。この総質量は要求される伝導ノイズ抑制効果のレベルにもよるが、おおよそ総合の膜厚換算値で10〜500nmが好ましい。積層は、絶縁性基体2上に金属軟磁性体を蒸着した後、さらにその上に同一または異なる絶縁性基体を設け、再度その上に金属軟磁性体を蒸着することにより行うことができる。
ここで、蒸着質量は、ガラス、シリコン等の硬質基体上に同条件で金属軟磁性体を蒸着し、堆積した厚さを測定し、平均することによって求められる。
【0046】
蒸着に用いられる絶縁性基体2としては、フィルムまたはシート状のものが、蒸着効率がよいことから好ましい。その厚さは、1〜100μmが好ましい。絶縁性基体2が薄い場合、または半導体ウェハー等の個別部品の場合は、絶縁性基体2をキャリヤーシートの上に設けて取り扱ってもよい。
【0047】
(ロス電力比)
伝導ノイズ抑制効果の目安となる反射減衰量S11および透過減衰量S21の測定については、IEC(International Electrotechnical Commission)のWorking Group 10、Technical Committee 51で規格化が検討されており、2005年に発行の予定である。
図9は、検討されている反射減衰量S11および透過減衰量S21の測定に用いられる装置を示す概略構成図である。テストフィクスチャー11に設けられた、規定の特性インピーダンス(50Ω等)を持つマイクロストリップ線路12上に、伝導ノイズ抑制体1(50mm×50mm)を密着して置き、伝導ノイズ抑制体1を装着する前後のSパラメータの変化(反射減衰量S11および透過減衰量S21)を、マイクロストリップ線路12に電気的に接続されたネットワークアナライザー13で測定する。
【0048】
本発明では、この方法を採用し、「工業材料」(2002年11月号、日刊工業新聞社)に記載されているロス電力比を下記式をもって求めた。
ロス電力比は、0〜1の値をとり、下記式で表される。
ロス電力比(Ploss/Pin)=1−(│Γ│2+│Τ│2)
ここで、S11=20log│Γ│、S21=20log│Τ│、Γは反射係数であり、Τは透過係数である。
【0049】
準マイクロ波帯で、伝導ノイズ抑制効果を充分に発揮するためには、1GHzでのロス電力比が0.3以上であることが好ましい。これより小さいと充分な伝導ノイズ抑制効果があるとは言えない。さらにはロス電力比が0.4以上であることが好ましい。ロス電力比が0.4以上であれば充分な伝導ノイズ抑制効果がある。現状の技術では1GHzにおいて、0.9を超えるロス電力比のものを得ることは達成できていない。
伝導ノイズ抑制体のロス電力比を0.3〜0.9にするためには、絶縁性基体2上に、金属軟磁性体を物理的蒸着し、金属軟磁性体クラスターを分散させる構造を有することを基本に、物理的蒸着の条件、絶縁性基体2の物性をコントロールすることにより達成される。
【0050】
<伝導ノイズ抑制体付電子部品>
本発明の伝導ノイズ抑制体は、その磁気的特性である磁気損失によって、電子部品、これが搭載された電子機器の配線回路の導体中を流れる高周波ノイズ電流を抑制することができる。また、高周波電流のインピーダンス不整箇所での反射に伴う共振等による放射ノイズも未然に抑制することできる。
【0051】
ここで、電子部品とは、配線回路を具備するものであり、例えば、電子素子、これが実装されたプリント板等が挙げられる。特に半導体素子においては、信号の高速化から高周波化し、ノイズ対策が求められている。
信号の配線回路としては、通常、マイクロストリップ線路が採用されている。図10は、伝導ノイズ抑制体付電子部品の一例を示す図である。この伝導ノイズ抑制体付電子部品は、グランド層20と、絶縁層21と、配線回路22と、絶縁層21に埋設された伝導ノイズ抑制体1とを具備するものである。
【0052】
この伝導ノイズ抑制体付電子部品においては、配線回路22から電気力線31が放射状に伸び、これに垂直に磁力線32が発生する。電磁気的に効率よくノイズ抑制を行うためには、磁力線32ができるだけ長く伝導ノイズ抑制体1に接することが好ましい。よって、伝導ノイズ抑制体1の伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路22から放射される電気力線31とが略直交するように(伝導ノイズ抑制層の面と、磁力線とが略平行になるように)、伝導ノイズ抑制体1が配置されている必要がある。ここで、略直交とは90゜±10゜の範囲を意味し、略平行とは0゜±10゜の範囲を意味する。
【0053】
また、電磁気的に効率よくノイズ抑制を行うためには、配線回路22の近傍で、広がっている電気力線31および磁力線32を多く横切るように、伝導ノイズ抑制体1を配置することが好ましい。よって、伝導ノイズ抑制体1の伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路22の幅よりも広いことが好ましい。また、配線回路22の幅方向だけでなく、長手方向についても伝導ノイズ抑制体1をできるだけ長くすることで、電気力線31および磁力線32との接触を広げることができ、伝導ノイズ抑制効果を高めることができる。
マイクロストリップ線路の場合は、図10に示すように配線回路22とグランド層20との間に密に電気力線が集中することとなるので、この間に伝導ノイズ抑制体1を配置することが特に好ましい。
【0054】
図11は、1GHzでのロス電力比が、マイクロストリップ線路から伝導ノイズ抑制体までの距離によってどのような影響を受けるかを確認したものである。具体的には、伝導ノイズ効果測定用マイクロストリップ線路と伝導ノイズ抑制体との間にポリエチレンテレフタレートのフィルムを介在させSパラメータを計測し、ロス電力比を求めたものである。これによると、隔置距離が大きくなるに従い、ロス電力比は小さくなり、200μm離れると3割ほど小さくなるため、隔置距離はこれよりも小さいことがよく、さらに好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0055】
図12は、伝導ノイズ抑制体付電子部品の他の例である、多層プリント板の一例を示す図である。この多層プリント板は、銅箔と、ガラス布等の補強材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させたプリプレグ(以下、単にプリプレグと記す)と、伝導ノイズ抑制体1とを順次積層し、プリプレグの樹脂を硬化させて得られた多層基板をもとに作製されたものである。
【0056】
多層基板は、銅箔にパターン加工を施した配線回路と、銅箔からなるグランド層と、銅箔からなる電源層と、プリプレグが硬化してなる絶縁層と、伝導ノイズ抑制体1とから構成される。多層基板の層構成は、上から順に、配線回路40、絶縁層41、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層42、グランド層43、絶縁層44、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層45、電源層46、絶縁層47、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層48、グランド層49、絶縁層50、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層51、電源層52、絶縁層53、配線回路54である。
【0057】
多層プリント板は、多層基板と、これに実装された電子素子55とを有して概略構成されるものである。電子素子55は、配線回路40に接続され、さらに、ビヤホール56を介して電源層46に接続され、ビヤホール57を介して電源層52に接続されている。
多層プリント板においては、電源層およびグランド層を構成する銅箔が多層プリント板のほぼ全面にわたって拡がり、これら銅箔が、周端部が開放した平行平板構造をとるため、電源層とグランド層との間の共振(電源−グランド層共振)によって大きな放射ノイズが発生する。よって、配線回路の近傍だけではなく、電源層とグランド層との間にも伝導ノイズ抑制体1を配置することにより、電源−グランド層共振が抑えられ、結果、この共振による放射ノイズが抑えられる。
【0058】
また、多層基板を作製する際には、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いてもよい。銅箔付きの伝導ノイズ抑制体は、銅箔が裏張りされたプリプレグを絶縁性基体としたものであり、プリプレグの樹脂表面に金属軟磁性体を物理的蒸着させて、独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する複合層(伝導ノイズ抑制層)を形成し、プリプレグの樹脂を硬化させたものである。この銅箔付きの伝導ノイズ抑制体と、単なるプリプレグとを交互に積層することにより、上から順に、配線回路、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、グランド層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、電源層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、グランド層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、電源層、絶縁層、配線回路の層構成を有する多層基板を作製できる。
【0059】
銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いることによって、銅箔、プリプレグ、伝導ノイズ抑制体が別々に用意された場合に比べ、積層枚数を減らすことができる、すなわち積層作業の手間を減らすことができる。また、プリプレグが、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体における絶縁性基体となっているので、図12に示す多層基板に比べ、伝導ノイズ抑制体1の絶縁性基体2の分だけ多層基板の厚さを減らすことができる。また、図12に示す多層基板では、伝導ノイズ抑制体1の絶縁性基体2が存在することにより、絶縁性基体2の厚さ分だけ、複合層5(伝導ノイズ抑制層)が電源層またはグランド層のどちらかに偏って配置されることになるが、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いることによって、伝導ノイズ抑制層を電源層とグランド層との間のほぼ中間に配置できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示す。
(評価)
表面観察:
日本電子(株)製、フィールドエミッション走査電子顕微鏡を用い、加速電圧3kV、作動距離3mmの条件で、倍率20万倍で伝導ノイズ抑制体の表面を観察した。
断面観察:
(株)日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いた。
せん断弾性率:
せん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した。
伝導ノイズ抑制効果:
キーコム(株)製、近傍界用電磁波吸収材料測定装置を用いて、Sパラメーター法によるS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を測定した。また、ロス電力比を評価した。ネットワークアナライザーとしては、アンリツ(株)製、ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用い、50Ωのインピーダンスを持つマイクロストリップラインのテストフィクスチャーとしては、キーコム(株)製、TF−3Aを用いた。
【0061】
(実施例1)
絶縁性基体として、500μm厚の石英ガラスを用意した。この石英ガラスの上面に、膜厚換算で10nmのNi金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的蒸着させ、独立した複数の金属軟磁性体クラスターからなる金属軟磁性体層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を50℃に保ち、蒸発粒子が100eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整した。得られた伝導ノイズ抑制体表面をフィールドエミッション走査電子顕微鏡により観察した。表面観察結果を図4に示す。また、得られた伝導ノイズ抑制体の一部を薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により金属軟磁性体層の断面を観察した。断面観察結果を図5に示す。また、金属軟磁性体層の電子線回折を行い、結晶状態を観察した。電子線回折像を図6に示す。
高分解能透過型電子顕微鏡観察および電子線回折より、部分的にナノメーターレベルのNi格子が認められるが、明確な粒界は認められず、金属軟磁性体クラスターが独立分散している様子が伺われた。図9に示す装置を用い、この伝導ノイズ抑制体をマイクロストリップ線路12の幅方向と平行になるように50mm□の伝導ノイズ抑制体を密着して載置させ、Sパラメーターを測定した。結果を図13示す。また、1GHzにおけるロス電力比を求めたところ、0.62であった。ついで、伝導ノイズ抑制体を150℃で240時間加熱させた後、同様にしてロス電力比を求めたところ、初期より13%ほど変動するものの、良好な値(0.54)となり、充分な伝導ノイズ抑制効果を示した。
【0062】
(実施例2)
実施例1で用いた石英ガラス上に、10μm厚のポリアクリロニトリル膜(常温(25℃)のせん断弾性率1.7×109 (Pa)、160℃のせん断弾性率1.5×106 (Pa)、常温(25℃)の炭酸ガス透過率5.3×10-8{cm3 (STP)cm/(cm2 ×sec×cmHg)}、常温(25℃)の酸素ガス透過率2.8×10-15 {cm3 (STP)cm/(cm2 ×sec×cmHg)}をキャスティングで形成した。このポリアクリルシート上に、膜厚換算で30nmのFe金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的に蒸着させ、複合層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を160℃に保ち、蒸発粒子が100eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整した。得られた伝導ノイズ抑制体の一部を薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により複合層の断面を観察した。断面観察結果を図7に示す。
複合層断面の状態は、ほぼ実施例1と同様の状態であった。また、実施例1と同様に、100℃で1000時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、それぞれ0.58、0.56と変化は小さく安定しており、高い伝導ノイズ抑制効果を維持していた。
【0063】
(実施例3)
ポリアクリロニトリル膜をエポキシ樹脂に変更した以外は、実施例2と同様の絶縁性基体を用い、この上に、膜厚換算で40nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的に蒸着させ、複合層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、同時に窒素ガスを50sccm流入さた。スパッタリング終了後、試料を毎分1℃の上昇レートで、250℃まで昇温させ、エポキシ樹脂を硬化させた。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、0.64、0.63と変わらず、充分な耐熱性と高い伝導ノイズ抑制効果を有していた。
【0064】
(実施例4)
絶縁性基体を500μm厚のアルミナ板(表面粗さRa=0.7μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして伝導ノイズ抑制体を得た。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、初期より7%ほど変動するものの、良好な値(0.55)となり、充分な伝導ノイズ抑制効果を示した。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様の石英ガラス上に、高周波スパッタリングにより金属軟磁性体としてFeを、マトリックス材としてアルミナを共スパッタリングし、蛍光X線分析によりFe72Al11O17の組成の2μm厚の磁性膜を形成した。ついで、Fe微粒子を析出させるため、300℃で2時間、真空中で熱処理を施し、グラニュラー構造の磁性体膜を得た。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、0.24、0.23と変わらなかったが、充分な伝導ノイズ抑制効果はなかった。
【0066】
(比較例2)
実施例3で得られた50mm□の伝導ノイズ抑制体を、図9の装置のマイクロストリップ線路12の幅方向に対して垂直になるように配置、すなわち、図8のテストフィクスチャー11上に伝導ノイズ抑制体1を立てて、マイクロストリップ線路12からの電気力線に平行になるように配置して、ロス電力比を求めたところ0.09と低い値であり、伝導ノイズ抑制効果はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、体積あたりの抑制効率が高く、安定しており、簡便な方法で電子部品に設けることができるため、利用価値は高く、コンパクトに設けられた伝導ノイズ抑制体付電子部品を有する電子機器は、伝導ノイズおよび放射ノイズが抑制される。このように、電子機器等の高性能化、小型化、軽量化を維持しつつ、電子機器等に対して高質なEMC対策を施すことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の伝導ノイズ抑制体の一例を示す上面模式図である。
【図2】図1の伝導ノイズ抑制体の断面斜視模式図である。
【図3】本発明の伝導ノイズ抑制体の他の例を示す上面模式図である。
【図4】金属軟磁性体層の表面のフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図5】金属軟磁性体層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図6】金属軟磁性体層の電子線回折像である。
【図7】複合層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡断面像である。
【図8】複合層の断面を示す模式図である。
【図9】伝導ノイズ抑制効果の測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】伝導ノイズ抑制体付電子部品の一例を示す概略断面図であり、電磁気力線を示す模式図である。
【図11】1GHzでのロス電力比が、マイクロストリップ線路から伝導ノイズ抑制体までの距離によってどのような影響を受けるか示すグラフである。
【図12】伝導ノイズ抑制体付電子部品の他の例(多層プリント板)を示す概略断面図である。
【図13】実施例1の伝導ノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 伝導ノイズ抑制体
2 絶縁性基体
3 金属軟磁性体クラスター
4 金属軟磁性体層
5 複合層
6 結晶格子(金属軟磁性体クラスター)
22 配線回路
40 配線回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システム等、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPU、高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化および低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。
【0003】
しかしながら、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される電磁波がもたらす、自身または他の電子機器への誤作動、人体への影響等といった電磁波障害が問題とされてきている。そのため、これら機器には、自身または他の電子機器、人体に影響を与えないように、不要な電磁波をできるだけ放出しないこと、および外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められている。このような電磁波障害を防止する方法としては、電磁波遮蔽材、すなわち電磁波を反射する電磁波シールド材、空間を伝搬する電磁波ノイズを吸収する電磁波吸収材、配線回路中を流れる高周波ノイズ電流を抑制する伝導ノイズ抑制体を利用する方法がある。
【0004】
電磁波障害を防止するために、電子機器間においては、電子機器の筐体表面または電子機器間に電磁波遮蔽材を設けて電磁波を遮蔽する対策(inter−system EMC)が行われており、また、電子機器内においては、電子部品、配線回路が互いに影響を及ぼして誤作動を起こすことを抑制したり、処理スピードの遅れまたは信号波形の乱れを抑制したりするため、電子部品または配線回路を電磁波遮蔽材で覆う対策(intra−system EMC)が行われている。特に、電子機器内においては、電磁波ノイズ発生源である電子部品そのものに電磁波ノイズ抑制体による対策を施すことが、効率がよいことから、よく行われている(micro EMC)。
【0005】
最近特に、電子機器、電子部品には、高性能化、小型化、軽量化が求められており、これらに用いられる電磁波ノイズ抑制体、特には放射ノイズ化する前に伝導性ノイズを抑制する伝導ノイズ抑制体にも同様に、電磁波吸収効率がよく、省スペースで軽量であって、半導体チップの集積回路への対策作業または半導体パッケージのサブストレートへの対策作業が簡便で行いやすいものが求められている。
【0006】
配線回路に対し、その配線回路幅よりも狭い幅の電磁雑音抑制体をその近傍に配置して電磁雑音を抑制することが知られている(特許文献1参照)。該電磁雑音抑制体は、セラミックスとともに磁性金属を基体に蒸着した後、高温で熱処理をし、磁性金属微粒子をセラミックス中に再結晶分散させた2μm厚のナノグラニュラー構造の軟磁性薄膜である。該電磁雑音抑制体は大きな透磁率を持つため、これを配線回路幅よりも狭幅な形状で配置すると、反射なしで伝導性の電磁気雑音対策に有用であるとされている。
【0007】
しかしながら、半導体素子内部の配線回路幅は1μm以下と狭く、これ以下の幅のナノグラニュラー構造を有する電磁雑音抑制体を必要な膜厚でもって直上に配置することは困難であり、産業的な利用は不可能である。また、配線回路より放射される電気力線(磁力線はこれに垂直)は、放射状に配線回路幅より外に出るため、磁気的損失の効率を上げるためには、電磁雑音抑制体は配線回路幅より広いほうがよいことは言うまでもない。さらに、ナノグラニュラー化の再結晶に必要な温度は高く、半導体チップあるいは半導体パッケージのサブストレートへのダメージを与えるおそれがある。また、磁性金属を蒸着させる厚さはマイクロメートル単位であるため、蒸着に要する時間が長く生産性が劣り、多くの点で実用化は遠いものとなっている。
【特許文献1】特開2002−151916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明の目的は、体積あたりの伝導ノイズ抑制効果が高く、すなわちロス電力比が大きく、省スペースで軽量であって、電子部品の内部に設け、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズを抑制し、電子部品(例えば半導体素子の集積回路または半導体パッケージのサブストレート)への対策作業が簡便で行いやすい伝導ノイズ抑制体および伝導ノイズ抑制体付電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、絶縁性基体と、該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層とを有することを特徴とするものである。
ここで、伝導ノイズ抑制層は、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であってもよい。
また、物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率は、1×104 〜1×1010Paであることが望ましい。もしくは、絶縁性基体は、セラミックスであってよい。
本発明の伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比は、0.3〜0.9であることが望ましい。
【0010】
本発明の伝導ノイズ抑制体付電子部品は、配線回路と、本発明の伝導ノイズ抑制体とを具備し、伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体が配置されていることを特徴とするものである。
ここで、伝導ノイズ抑制層の幅は、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広いことが望ましい。
また、伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離は、0.1〜200μmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、体積あたりの伝導ノイズ抑制効果が高く、すなわちロス電力比が大きく、省スペースで軽量であって、電子部品の内部に設け、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズを抑制し、電子部品(例えば半導体素子の集積回路または半導体パッケージのサブストレート)への対策作業が簡便で行いやすい。よって、充分な伝導ノイズの抑制および放射ノイズの抑制を図ることができ、優れたEMC対策を施すことが可能になる。
【0012】
伝導ノイズ抑制層が、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であれば、金属軟磁性体クラスターが安定に分散するため、これらが凝集して結晶化し、微粒子に成長することを確実に抑えることができる。
また、物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率が、1×104 〜1×1010Paであれば、金属軟磁性体クラスターが安定に分散するため、これらが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜等に成長することを確実に抑えることができる。
本発明の伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比が、0.3〜0.9であれば、伝導ノイズ抑制効果が充分に発揮される。
【0013】
本発明の伝導ノイズ抑制体付電子部品は、放射ノイズの元ともなる伝導ノイズが抑えられているため、放射される電磁波がもたらす、自身または他の電子機器への誤作動、人体への影響などが抑えられる。すなわち、充分な伝導ノイズおよび放射ノイズが抑制され、優れたEMC対策が施されたものとなる。
伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広ければ、効率よく伝導ノイズを抑制できる。
また、伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離が、0.1〜200μmであれば、効率よく伝導ノイズを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<伝導ノイズ抑制体>
本発明の伝導ノイズ抑制体は、絶縁性基体と、該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層とを有するものである。
【0015】
(伝導ノイズ抑制層)
伝導ノイズ抑制層は、比較的硬い絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成されたものと、比較的軟らかい絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成されたものとでは、形態が異なる。すなわち、絶縁性基体が比較的硬い場合は、絶縁性基体上に、独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスターと、これらの間に形成される金属軟磁性体の存在しない欠陥とからなる「金属軟磁性体層」が形成される。一方、絶縁性基体が比較的軟らかい場合は、絶縁性基体の表面に、独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスターと絶縁性基体の一部とが混ざり合って、複合化した「複合層」が形成される。
【0016】
(金属軟磁性体層)
図1は、金属軟磁性体層が形成された本発明の伝導ノイズ抑制体を、金属軟磁性体層(上面)側から見た模式図である。この伝導ノイズ抑制体1は、絶縁性基体2と、該絶縁性基体2上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数のナノメーターレベルの金属軟磁性体クラスター3およびこれらの間に存在する欠陥からなる金属軟磁性体層4とを有するものである。
【0017】
金属軟磁性体クラスター3は、図2の模式図に示すように、絶縁性基体2上に金属軟磁性体が非常に薄く物理的蒸着されて形成されたものであり、充分な金属薄膜になっていない。図3は、金属軟磁性体の蒸着量をさらに増やした状態を示す。金属軟磁性体クラスター3が互いに接触して集団化し、クラスターサイズが大きくなっているものの、集団化した金属軟磁性体クラスター3の間には、金属軟磁性体の存在しない欠陥が多く存在しており、集団化した金属軟磁性体クラスター3はそれぞれ独立している。本発明においては、このように集団化した金属軟磁性体クラスター3についても、該クラスター間に欠陥が存在し、各クラスターが独立している限り、独立した金属軟磁性体クラスターとして扱う。
【0018】
ここで、金属軟磁性体クラスターとは、数十〜数百個の金属軟磁性体原子が集合して形成される集団である。該金属軟磁性体クラスターの凝集が進むと、超微粒子、微粒子、金属薄膜となるが、金属軟磁性体クラスターは、以下に説明するように、超微粒子、微粒子、金属薄膜とは明確に区別されるものである。
【0019】
図4は、絶縁性基体2上に形成された金属軟磁性体層4の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。図5は、金属軟磁性体層4の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。また、図6は、金属軟磁性体層4の電子線回折像である。図4〜図6から、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属軟磁性体原子が配列された結晶格子(金属軟磁性体クラスター)、および非常に小さい範囲で金属軟磁性体が存在しない欠陥が認められる。すなわち、金属軟磁性体クラスター同士の間隔が空いた状態であり、明確な粒界は認められない。各金属軟磁性体クラスターの結晶方位は、無秩序であると認められ、金属軟磁性からなる均質な金属薄膜、超微粒子、微粒子等には成長していない。
このように分散された金属軟磁性体クラスターは、理由は定かではないが、構造由来で磁気異方性が高まり、または反磁界による磁気的特性を発現することにより、薄層であっても充分な伝導ノイズ抑制効果を有するものと思われる。
【0020】
金属軟磁性体層4の厚さは、5〜100nmが好ましい。金属軟磁性体層4の厚さを5nm以上とすることにより、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、金属軟磁性体層4の厚さが100nmを超えると、金属軟磁性体クラスター3が凝集し、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属軟磁性体に戻ってしまい、金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。ここで、金属軟磁性体層4の厚さとは、欠陥を含めた金属軟磁性体層4全体の平均厚さである。
【0021】
(複合層)
絶縁性基体が比較的軟らかい、すなわち絶縁性基体のせん断弾性率が低い場合には、図7の高分解能透過型電子顕微鏡像および該電子顕微鏡像の模式図である図8に示すように、金属軟磁性体クラスターが絶縁性基体2の一部と混ぜ合わせられた状態になって、複合層5が形成される。
【0022】
複合層5は、非常に小さな結晶として数Å間隔の強磁性体原子が配列された結晶格子6(金属軟磁性体クラスター)が観察される部分と、非常に小さい範囲で金属軟磁性体が存在しない絶縁性基体2の一部のみが観察される部分と、金属軟磁性体原子7が結晶化せず絶縁性基体2に分散して観察される部分からなっている。すなわち、金属軟磁性体が明瞭な結晶構造を有する微粒子として存在を示す粒界は観察されず、ナノメーターレベルで金属軟磁性体と絶縁性基体の一部とが一体化した複雑なヘテロ構造(不均質・不斉構造)を有していて、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜、超微粒子、微粒子等には成長していない。
このように分散された金属軟磁性体クラスターは、理由は定かではないが、構造由来で磁気異方性が高まり、または反磁界による磁気的特性を発現することにより、薄層であっても充分な伝導性ノイズ抑制効果を有するものと思われる。
なお、複合層5は、金属軟磁性とこれとは別の材料とを同時に蒸着(以下、絶縁化蒸着という。)した場合にも形成される。絶縁化蒸着については、後述する。
【0023】
複合層5の厚さは、5〜100nmが好ましい。複合層5の厚さを5nm以上とすることにより、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、複合層5の厚さが100nmを超えると、結晶格子6(金属軟磁性体クラスター)が凝集し、金属軟磁性体からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属軟磁性体に戻ってしまい、金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。
【0024】
複合層5の厚さは、絶縁性基体2の表面に金属軟磁性体原子が侵入した平均の深さであり、金属系軟磁性体の蒸着質量、結合剤材質、物理的蒸着の条件などに依存し、およそ金属軟磁性体の蒸着厚さの1.5〜3.0倍ほどとなる。ここで、金属系軟磁性体の蒸着厚さとは、金属軟磁性体原子が侵入することのない硬い基材上に金属軟磁性体を物理的蒸着させた際の膜厚を意味する。
【0025】
(絶縁性基体)
本発明における絶縁性基体とは、表面抵抗が106 Ω/cm2 以上の基体を意味する。
金属軟磁性体層4を形成させる場合の絶縁性基体2としては、酸化ケイ素(石英ガラス等)、窒化ケイ素、アルミナ等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。
【0026】
複合層5を形成させる場合の絶縁性基体2としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレンなどの樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム;ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等の有機高分子が挙げられる。これらは熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってよい。また、上記の樹脂、ゴムなど変性物、混合物、共重合体であってもよい。
絶縁性基体2の厚さは、絶縁性が保たれれば良く、0.1μm以上であればよい。
【0027】
中でも、絶縁性基体2としては、金属軟磁性体クラスターの凝集、成長を阻害し、金属軟磁性体クラスターの分散を安定化させるために、物理的蒸着に際し、そのせん断弾性率が低いものが好ましい。具体的には、せん断弾性率が1×1010Pa以下のものが好ましい。所望のせん断弾性率にするために、必要に応じて、例えば100〜300℃に絶縁性基体2を加熱することもできるが、分解、蒸発、低粘度化等が起きない温度に加熱することが必要である。常温で物理的蒸着を行う場合には、絶縁性基体2としては、ゴム硬度が約80°(JIS−A)以下の弾性体が好ましい。
【0028】
せん断弾性率の測定方法としては、以下のような方法が知られている。
(1)JIS K7113に規定されている引張応力と歪との関係から引張り弾性率を求め、これをもとに下記式からせん断弾性率を求める。
せん断弾性率=引張り弾性率/(2×(1+ポアソン比))
ここで2×(1+ポアソン比)の値は、剛直な高分子からゴム状の弾性体まで、おおよそ2.6〜3.0である。
(2)温度特性を把握できる粘弾性率測定装置を用い、試験モードをせん断モードにしてせん断弾性率を測定する。
(3)粘弾性率測定装置を用い、試験モードを引張りモードにして貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”を測定し、下記式から複素弾性率G* を求め、複素弾性率を引張り弾性率として、上記式からせん断弾性率を求める。
G* =√((G’)2 +(G”)2)
本発明におけるせん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した値とする。
【0029】
また、絶縁性基体2としては、熱的、機械的ストレスが加わっても、金属軟磁性体クラスターの凝集、すなわち均質化が抑えられるように、金属軟磁性体の物理的蒸着の後には、せん断弾性率が1×104 Paより高いものが好ましい。金属軟磁性体の物理的蒸着の後にせん断弾性率を高くすることにより、ナノメートルレベルの金属軟磁性体原子またはクラスターが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜に成長することを確実に抑えることができる。さらに好ましくは、伝導ノイズ抑制体が使用される温度範囲で、1×107 Pa以上のものが好ましい。
所望のせん断弾性率にするために、金属軟磁性体の物理的蒸着の後に絶縁性基体2を焼成固化または化学架橋することが好ましい。この点においては、蒸着時には低せん断弾性率であり、蒸着後に架橋してせん断弾性率を上げることができる有機高分子を用いることが特に好ましく、熱硬化性樹脂、エネルギー線(紫外線、電子線等)硬化性樹脂が好適である。
【0030】
絶縁性基体2が有機高分子の場合は、金属軟磁性体原子が入り込み、独立した金属軟磁性体クラスターを形成しやすい分子間空隙の広さを示す指標として、ガス透過率を用いることができる。本来であれば、金属軟磁性体原子の大きさと同等のアルゴンガス、クリプトンガスの透過率によって有機高分子の分子間空隙を確認することが好ましいが、これらガスはガス透過率の測定には一般的でないため、例えば炭酸ガスの透過率データで代用することができる。常温における炭酸ガス透過率の大きな有機高分子としては、炭酸ガス透過率が1×10-9[cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以上のポリフェニレンオキサイド、ポリメチルペンテン、ナイロン11、ハイインパクトポリスチレン等のゴム成分と他の成分との混合物または共重合物、1×10-8[cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以上のポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。中でも、せん断弾性率の点から、シリコーンゴム等のゴム類は特に好ましい。
【0031】
また、金属軟磁性体原子の酸化を防止する観点からは、酸素透過性の低い有機高分子が好ましい。このような有機高分子としては、酸素透過率が1×10-10 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレン、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、1×10-12 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。
ここで、炭酸ガス透過率および酸素透過率は、JIS K7126に準拠して測定され、求められる気体透過係数である。
【0032】
さらに、絶縁性基体2中にシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマー等を配合しておき、金属軟磁性体と反応させ、金属軟磁性体クラスターを安定化させてもよい。このような添加剤を配合することにより、均質な金属薄膜の形成を防止するほか、金属軟磁性体の酸化防止が図れ好都合である。このほか、絶縁性基体2には、補強性フィラー、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、チクソトロピー性向上剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤等を適宜添加して構わない。
【0033】
なお、絶縁性基体2が、セラミックス(例えば、石英ガラス)等の硬い基体の場合、金属軟磁性体原子が絶縁性基体2に入り込むことがなく、金属軟磁性体クラスター3が凝集し、均質な金属薄膜を形成しやすい状態にあるが、金属軟磁性体の蒸着質量を低く抑えることにより、独立した金属軟磁性体クラスター3が形成され、かつ金属軟磁性体クラスター3同士の間隔が広くなるため、凝集しにくい状態となる。絶縁性基体2がセラミックスの場合の金属軟磁性体の蒸着質量については、後述する。
【0034】
また、絶縁性基体2が、セラミックス等の硬い基体の場合であっても、金属軟磁性体とこれとは別の材料とを同時に絶縁化蒸着し、複合層5を形成するようにすれば、金属軟磁性体クラスターが安定して分散し、これらが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜等に成長することを確実に抑えることができる。具体的には、物理的蒸着時に反応性ガスを流入し、磁性効果を失わない程度に、金属軟磁性体クラスター表面等に一部反応させる化学的蒸着法(CVD)を採用することができる。ガスとしては、窒素ガス、メタンガス、アセチレンガス、シランガス、フルオロカーボンガス、パラキシリレン等が挙げられる。
【0035】
(物理的蒸着)
まず、物理的蒸着法(PVD)の一般的な説明を行う。
物理的蒸着法は、一般に、真空にした容器の中で蒸発材料を何らかの方法で気化させ、気化した蒸発材料を近傍に置いた基体上に堆積させて薄膜を形成する方法であり、蒸発材料の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタリング系に分けられる。蒸発系としては、EB蒸着、イオンプレーティングなどが挙げられ、スパッタリング系としては、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどが挙げられる。
【0036】
EB蒸着は蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、基板のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく膜強度が不足する傾向があるが、膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
【0037】
イオンプレーティングによれば、アルゴンガスおよび蒸発粒子のイオンは加速されて基板に衝突するため、EBよりエネルギーが大きく、粒子エネルギーは1KeVほどになり、付着力の強い膜を得ることはできるものの、ドロッププレットと呼んでいるミクロサイズの粒子の付着を避けることができず、放電が停止してしまうおそれがある。
【0038】
マグネトロンスパッタリングは、ターゲット(蒸発材料)の利用効率が低いものの、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速く、粒子エネルギーは数十eVと高いことが特徴となる。高周波スパッタリングでは絶縁性ターゲットを使用することもできる。
【0039】
マグネトロンスパッタリングのうち、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングは、対向するターゲット間でプラズマを発生させ、磁界によりプラズマを封じ込め、対向するターゲット間の外に基体を置き、プラズマダメージを受けることなく所望の薄膜を生成する方法である。そのため、基体上の薄膜を再スパッタリングすることなく、成長速度がさらに速く、スパッタリングされた原子が衝突緩和することなく、緻密なターゲット組成物と同じ組成のものを生成することができる。
【0040】
本発明においては、これら物理蒸着法を利用し、絶縁性基体2上に金属軟磁性体の金属薄膜を形成させることなく、独立した金属軟磁性体クラスターを形成させる。よって、以上の物理的蒸着法の中でも、本発明の伝導ノイズ抑制体の製造方法においては、次の理由から、イオンプレーティング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングが好ましく、特に対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングが好適である。
【0041】
有機高分子における共有結合エネルギーは約4eVであり、具体的にいえば、C−C、C−H、Si−O、Si−Cの結合エネルギーはそれぞれ3.6eV、4.3eV、4.6eV、3.3eVである。これに対して、イオンプレーティング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングでは、蒸発粒子は高いエネルギーを持っているので、絶縁性基体2が有機高分子からなる場合は、有機高分子の一部の化学結合を切断し、衝突することが考えられる。
【0042】
したがって、本発明においては、有機高分子からなる絶縁性基体2のせん断弾性率が充分小さいと、金属軟磁性体を蒸着させた際、有機高分子が振動、運動し、金属軟磁性体原子と有機高分子との局部的なミキシング作用が生じて、金属軟磁性体原子は絶縁性基体2表面から0.01〜0.3μm程度まで進入し、均質的な金属軟磁性体からなる金属薄膜ではなく、ナノメーターレベルのヘテロ構造を有した複合層5が形成される。
【0043】
蒸着工程において蒸発材料(ターゲット)として用いられる金属軟磁性体としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル、またはこれらの合金等が挙げられる。ニッケルは単独で用いた方が、酸化に対して抵抗力があるので好ましい。
なお、絶縁性基体2に金属軟磁性体を蒸着させる際には、金属軟磁性体はプラズマ化またはイオン化された金属軟磁性体原子として蒸着されるので、蒸着された金属軟磁性体の組成は、蒸着材料として用いた金属軟磁性体の組成比と必ずしも同一であるとは限らない。
【0044】
金属軟磁性体の蒸着質量は、絶縁性基体2が有機高分子の場合、金属軟磁性体単品の膜厚換算値で5〜100nmが好ましい。一方、絶縁性基体2がセラミックスの場合、金属軟磁性体クラスター3の凝集を抑えるため、金属軟磁性体の蒸着質量は、金属軟磁性体単品の膜厚換算値で5〜50nmが好ましい。
【0045】
蒸着質量が小さくなると、伝導ノイズ抑制効果が低減するものであるから、金属軟磁性体層4または複合層5を複数層積層する、または絶縁性基体2の両表面に金属軟磁性体を蒸着することにより、金属軟磁性体の総質量を増やすことができる。この総質量は要求される伝導ノイズ抑制効果のレベルにもよるが、おおよそ総合の膜厚換算値で10〜500nmが好ましい。積層は、絶縁性基体2上に金属軟磁性体を蒸着した後、さらにその上に同一または異なる絶縁性基体を設け、再度その上に金属軟磁性体を蒸着することにより行うことができる。
ここで、蒸着質量は、ガラス、シリコン等の硬質基体上に同条件で金属軟磁性体を蒸着し、堆積した厚さを測定し、平均することによって求められる。
【0046】
蒸着に用いられる絶縁性基体2としては、フィルムまたはシート状のものが、蒸着効率がよいことから好ましい。その厚さは、1〜100μmが好ましい。絶縁性基体2が薄い場合、または半導体ウェハー等の個別部品の場合は、絶縁性基体2をキャリヤーシートの上に設けて取り扱ってもよい。
【0047】
(ロス電力比)
伝導ノイズ抑制効果の目安となる反射減衰量S11および透過減衰量S21の測定については、IEC(International Electrotechnical Commission)のWorking Group 10、Technical Committee 51で規格化が検討されており、2005年に発行の予定である。
図9は、検討されている反射減衰量S11および透過減衰量S21の測定に用いられる装置を示す概略構成図である。テストフィクスチャー11に設けられた、規定の特性インピーダンス(50Ω等)を持つマイクロストリップ線路12上に、伝導ノイズ抑制体1(50mm×50mm)を密着して置き、伝導ノイズ抑制体1を装着する前後のSパラメータの変化(反射減衰量S11および透過減衰量S21)を、マイクロストリップ線路12に電気的に接続されたネットワークアナライザー13で測定する。
【0048】
本発明では、この方法を採用し、「工業材料」(2002年11月号、日刊工業新聞社)に記載されているロス電力比を下記式をもって求めた。
ロス電力比は、0〜1の値をとり、下記式で表される。
ロス電力比(Ploss/Pin)=1−(│Γ│2+│Τ│2)
ここで、S11=20log│Γ│、S21=20log│Τ│、Γは反射係数であり、Τは透過係数である。
【0049】
準マイクロ波帯で、伝導ノイズ抑制効果を充分に発揮するためには、1GHzでのロス電力比が0.3以上であることが好ましい。これより小さいと充分な伝導ノイズ抑制効果があるとは言えない。さらにはロス電力比が0.4以上であることが好ましい。ロス電力比が0.4以上であれば充分な伝導ノイズ抑制効果がある。現状の技術では1GHzにおいて、0.9を超えるロス電力比のものを得ることは達成できていない。
伝導ノイズ抑制体のロス電力比を0.3〜0.9にするためには、絶縁性基体2上に、金属軟磁性体を物理的蒸着し、金属軟磁性体クラスターを分散させる構造を有することを基本に、物理的蒸着の条件、絶縁性基体2の物性をコントロールすることにより達成される。
【0050】
<伝導ノイズ抑制体付電子部品>
本発明の伝導ノイズ抑制体は、その磁気的特性である磁気損失によって、電子部品、これが搭載された電子機器の配線回路の導体中を流れる高周波ノイズ電流を抑制することができる。また、高周波電流のインピーダンス不整箇所での反射に伴う共振等による放射ノイズも未然に抑制することできる。
【0051】
ここで、電子部品とは、配線回路を具備するものであり、例えば、電子素子、これが実装されたプリント板等が挙げられる。特に半導体素子においては、信号の高速化から高周波化し、ノイズ対策が求められている。
信号の配線回路としては、通常、マイクロストリップ線路が採用されている。図10は、伝導ノイズ抑制体付電子部品の一例を示す図である。この伝導ノイズ抑制体付電子部品は、グランド層20と、絶縁層21と、配線回路22と、絶縁層21に埋設された伝導ノイズ抑制体1とを具備するものである。
【0052】
この伝導ノイズ抑制体付電子部品においては、配線回路22から電気力線31が放射状に伸び、これに垂直に磁力線32が発生する。電磁気的に効率よくノイズ抑制を行うためには、磁力線32ができるだけ長く伝導ノイズ抑制体1に接することが好ましい。よって、伝導ノイズ抑制体1の伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路22から放射される電気力線31とが略直交するように(伝導ノイズ抑制層の面と、磁力線とが略平行になるように)、伝導ノイズ抑制体1が配置されている必要がある。ここで、略直交とは90゜±10゜の範囲を意味し、略平行とは0゜±10゜の範囲を意味する。
【0053】
また、電磁気的に効率よくノイズ抑制を行うためには、配線回路22の近傍で、広がっている電気力線31および磁力線32を多く横切るように、伝導ノイズ抑制体1を配置することが好ましい。よって、伝導ノイズ抑制体1の伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路22の幅よりも広いことが好ましい。また、配線回路22の幅方向だけでなく、長手方向についても伝導ノイズ抑制体1をできるだけ長くすることで、電気力線31および磁力線32との接触を広げることができ、伝導ノイズ抑制効果を高めることができる。
マイクロストリップ線路の場合は、図10に示すように配線回路22とグランド層20との間に密に電気力線が集中することとなるので、この間に伝導ノイズ抑制体1を配置することが特に好ましい。
【0054】
図11は、1GHzでのロス電力比が、マイクロストリップ線路から伝導ノイズ抑制体までの距離によってどのような影響を受けるかを確認したものである。具体的には、伝導ノイズ効果測定用マイクロストリップ線路と伝導ノイズ抑制体との間にポリエチレンテレフタレートのフィルムを介在させSパラメータを計測し、ロス電力比を求めたものである。これによると、隔置距離が大きくなるに従い、ロス電力比は小さくなり、200μm離れると3割ほど小さくなるため、隔置距離はこれよりも小さいことがよく、さらに好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0055】
図12は、伝導ノイズ抑制体付電子部品の他の例である、多層プリント板の一例を示す図である。この多層プリント板は、銅箔と、ガラス布等の補強材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させたプリプレグ(以下、単にプリプレグと記す)と、伝導ノイズ抑制体1とを順次積層し、プリプレグの樹脂を硬化させて得られた多層基板をもとに作製されたものである。
【0056】
多層基板は、銅箔にパターン加工を施した配線回路と、銅箔からなるグランド層と、銅箔からなる電源層と、プリプレグが硬化してなる絶縁層と、伝導ノイズ抑制体1とから構成される。多層基板の層構成は、上から順に、配線回路40、絶縁層41、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層42、グランド層43、絶縁層44、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層45、電源層46、絶縁層47、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層48、グランド層49、絶縁層50、伝導ノイズ抑制体1、絶縁層51、電源層52、絶縁層53、配線回路54である。
【0057】
多層プリント板は、多層基板と、これに実装された電子素子55とを有して概略構成されるものである。電子素子55は、配線回路40に接続され、さらに、ビヤホール56を介して電源層46に接続され、ビヤホール57を介して電源層52に接続されている。
多層プリント板においては、電源層およびグランド層を構成する銅箔が多層プリント板のほぼ全面にわたって拡がり、これら銅箔が、周端部が開放した平行平板構造をとるため、電源層とグランド層との間の共振(電源−グランド層共振)によって大きな放射ノイズが発生する。よって、配線回路の近傍だけではなく、電源層とグランド層との間にも伝導ノイズ抑制体1を配置することにより、電源−グランド層共振が抑えられ、結果、この共振による放射ノイズが抑えられる。
【0058】
また、多層基板を作製する際には、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いてもよい。銅箔付きの伝導ノイズ抑制体は、銅箔が裏張りされたプリプレグを絶縁性基体としたものであり、プリプレグの樹脂表面に金属軟磁性体を物理的蒸着させて、独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する複合層(伝導ノイズ抑制層)を形成し、プリプレグの樹脂を硬化させたものである。この銅箔付きの伝導ノイズ抑制体と、単なるプリプレグとを交互に積層することにより、上から順に、配線回路、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、グランド層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、電源層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、グランド層、絶縁層、伝導ノイズ抑制層、絶縁層、電源層、絶縁層、配線回路の層構成を有する多層基板を作製できる。
【0059】
銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いることによって、銅箔、プリプレグ、伝導ノイズ抑制体が別々に用意された場合に比べ、積層枚数を減らすことができる、すなわち積層作業の手間を減らすことができる。また、プリプレグが、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体における絶縁性基体となっているので、図12に示す多層基板に比べ、伝導ノイズ抑制体1の絶縁性基体2の分だけ多層基板の厚さを減らすことができる。また、図12に示す多層基板では、伝導ノイズ抑制体1の絶縁性基体2が存在することにより、絶縁性基体2の厚さ分だけ、複合層5(伝導ノイズ抑制層)が電源層またはグランド層のどちらかに偏って配置されることになるが、銅箔付きの伝導ノイズ抑制体を用いることによって、伝導ノイズ抑制層を電源層とグランド層との間のほぼ中間に配置できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示す。
(評価)
表面観察:
日本電子(株)製、フィールドエミッション走査電子顕微鏡を用い、加速電圧3kV、作動距離3mmの条件で、倍率20万倍で伝導ノイズ抑制体の表面を観察した。
断面観察:
(株)日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いた。
せん断弾性率:
せん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した。
伝導ノイズ抑制効果:
キーコム(株)製、近傍界用電磁波吸収材料測定装置を用いて、Sパラメーター法によるS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を測定した。また、ロス電力比を評価した。ネットワークアナライザーとしては、アンリツ(株)製、ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用い、50Ωのインピーダンスを持つマイクロストリップラインのテストフィクスチャーとしては、キーコム(株)製、TF−3Aを用いた。
【0061】
(実施例1)
絶縁性基体として、500μm厚の石英ガラスを用意した。この石英ガラスの上面に、膜厚換算で10nmのNi金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的蒸着させ、独立した複数の金属軟磁性体クラスターからなる金属軟磁性体層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を50℃に保ち、蒸発粒子が100eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整した。得られた伝導ノイズ抑制体表面をフィールドエミッション走査電子顕微鏡により観察した。表面観察結果を図4に示す。また、得られた伝導ノイズ抑制体の一部を薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により金属軟磁性体層の断面を観察した。断面観察結果を図5に示す。また、金属軟磁性体層の電子線回折を行い、結晶状態を観察した。電子線回折像を図6に示す。
高分解能透過型電子顕微鏡観察および電子線回折より、部分的にナノメーターレベルのNi格子が認められるが、明確な粒界は認められず、金属軟磁性体クラスターが独立分散している様子が伺われた。図9に示す装置を用い、この伝導ノイズ抑制体をマイクロストリップ線路12の幅方向と平行になるように50mm□の伝導ノイズ抑制体を密着して載置させ、Sパラメーターを測定した。結果を図13示す。また、1GHzにおけるロス電力比を求めたところ、0.62であった。ついで、伝導ノイズ抑制体を150℃で240時間加熱させた後、同様にしてロス電力比を求めたところ、初期より13%ほど変動するものの、良好な値(0.54)となり、充分な伝導ノイズ抑制効果を示した。
【0062】
(実施例2)
実施例1で用いた石英ガラス上に、10μm厚のポリアクリロニトリル膜(常温(25℃)のせん断弾性率1.7×109 (Pa)、160℃のせん断弾性率1.5×106 (Pa)、常温(25℃)の炭酸ガス透過率5.3×10-8{cm3 (STP)cm/(cm2 ×sec×cmHg)}、常温(25℃)の酸素ガス透過率2.8×10-15 {cm3 (STP)cm/(cm2 ×sec×cmHg)}をキャスティングで形成した。このポリアクリルシート上に、膜厚換算で30nmのFe金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的に蒸着させ、複合層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を160℃に保ち、蒸発粒子が100eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整した。得られた伝導ノイズ抑制体の一部を薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により複合層の断面を観察した。断面観察結果を図7に示す。
複合層断面の状態は、ほぼ実施例1と同様の状態であった。また、実施例1と同様に、100℃で1000時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、それぞれ0.58、0.56と変化は小さく安定しており、高い伝導ノイズ抑制効果を維持していた。
【0063】
(実施例3)
ポリアクリロニトリル膜をエポキシ樹脂に変更した以外は、実施例2と同様の絶縁性基体を用い、この上に、膜厚換算で40nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により物理的に蒸着させ、複合層を形成し、伝導ノイズ抑制体を得た。この際、基体温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、同時に窒素ガスを50sccm流入さた。スパッタリング終了後、試料を毎分1℃の上昇レートで、250℃まで昇温させ、エポキシ樹脂を硬化させた。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、0.64、0.63と変わらず、充分な耐熱性と高い伝導ノイズ抑制効果を有していた。
【0064】
(実施例4)
絶縁性基体を500μm厚のアルミナ板(表面粗さRa=0.7μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして伝導ノイズ抑制体を得た。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、初期より7%ほど変動するものの、良好な値(0.55)となり、充分な伝導ノイズ抑制効果を示した。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様の石英ガラス上に、高周波スパッタリングにより金属軟磁性体としてFeを、マトリックス材としてアルミナを共スパッタリングし、蛍光X線分析によりFe72Al11O17の組成の2μm厚の磁性膜を形成した。ついで、Fe微粒子を析出させるため、300℃で2時間、真空中で熱処理を施し、グラニュラー構造の磁性体膜を得た。
実施例1と同様に、150℃で240時間加熱する前後のロス電力比を求めたところ、0.24、0.23と変わらなかったが、充分な伝導ノイズ抑制効果はなかった。
【0066】
(比較例2)
実施例3で得られた50mm□の伝導ノイズ抑制体を、図9の装置のマイクロストリップ線路12の幅方向に対して垂直になるように配置、すなわち、図8のテストフィクスチャー11上に伝導ノイズ抑制体1を立てて、マイクロストリップ線路12からの電気力線に平行になるように配置して、ロス電力比を求めたところ0.09と低い値であり、伝導ノイズ抑制効果はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の伝導ノイズ抑制体は、体積あたりの抑制効率が高く、安定しており、簡便な方法で電子部品に設けることができるため、利用価値は高く、コンパクトに設けられた伝導ノイズ抑制体付電子部品を有する電子機器は、伝導ノイズおよび放射ノイズが抑制される。このように、電子機器等の高性能化、小型化、軽量化を維持しつつ、電子機器等に対して高質なEMC対策を施すことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の伝導ノイズ抑制体の一例を示す上面模式図である。
【図2】図1の伝導ノイズ抑制体の断面斜視模式図である。
【図3】本発明の伝導ノイズ抑制体の他の例を示す上面模式図である。
【図4】金属軟磁性体層の表面のフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図5】金属軟磁性体層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図6】金属軟磁性体層の電子線回折像である。
【図7】複合層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡断面像である。
【図8】複合層の断面を示す模式図である。
【図9】伝導ノイズ抑制効果の測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】伝導ノイズ抑制体付電子部品の一例を示す概略断面図であり、電磁気力線を示す模式図である。
【図11】1GHzでのロス電力比が、マイクロストリップ線路から伝導ノイズ抑制体までの距離によってどのような影響を受けるか示すグラフである。
【図12】伝導ノイズ抑制体付電子部品の他の例(多層プリント板)を示す概略断面図である。
【図13】実施例1の伝導ノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 伝導ノイズ抑制体
2 絶縁性基体
3 金属軟磁性体クラスター
4 金属軟磁性体層
5 複合層
6 結晶格子(金属軟磁性体クラスター)
22 配線回路
40 配線回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基体と、
該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層と
を有することを特徴とする伝導ノイズ抑制体。
【請求項2】
伝導ノイズ抑制層が、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であることを特徴とする請求項1記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項3】
物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率が、1×104 〜1×1010Paであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項4】
絶縁性基体が、セラミックスであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項5】
伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比が、0.3〜0.9であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項6】
配線回路と、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制体とを具備し、
伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体が配置されていることを特徴とする伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【請求項7】
伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広いことを特徴とする請求項6項記載の伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【請求項8】
伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離が、0.1〜200μmであることを特徴とする請求項6または請求項7記載の伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【請求項1】
絶縁性基体と、
該絶縁性基体上に金属軟磁性体を物理的蒸着させて形成された独立した複数の金属軟磁性体クラスターを有する伝導ノイズ抑制層と
を有することを特徴とする伝導ノイズ抑制体。
【請求項2】
伝導ノイズ抑制層が、金属軟磁性体と、これとは別の材料とを同時に蒸着させて形成された層であることを特徴とする請求項1記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項3】
物理的蒸着時における絶縁性基体のせん断弾性率が、1×104 〜1×1010Paであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項4】
絶縁性基体が、セラミックスであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項5】
伝導ノイズ抑制体の1GHzでのロス電力比が、0.3〜0.9であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制体。
【請求項6】
配線回路と、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の伝導ノイズ抑制体とを具備し、
伝導ノイズ抑制層の面と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路から放射される電気力線とが略直交するように、伝導ノイズ抑制体が配置されていることを特徴とする伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【請求項7】
伝導ノイズ抑制層の幅が、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路の幅よりも広いことを特徴とする請求項6項記載の伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【請求項8】
伝導ノイズ抑制層と、伝導ノイズ抑制層と電磁結合する配線回路との距離が、0.1〜200μmであることを特徴とする請求項6または請求項7記載の伝導ノイズ抑制体付電子部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−140430(P2006−140430A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10062(P2005−10062)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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